【実施例1】
【0038】
本発明を適用してなるさらに効果的な実施例を説明する。本実施例は
参照例1のガスセンサにおいてさらに汚損による誤差を低減しした構成である。
【0039】
図6は、多結晶シリコンなどのSi材料や、白金(Pt)などの金属材料で形成した発熱体5の抵抗劣化を評価した結果である。Si材料では200℃以上において劣化の進行が加速し抵抗値の変動が大きくなる。Ptなどの金属材料では、300℃以上において劣化の進行が加速し抵抗値の変動が大きくなる。したがって、Si材料では劣化の進行を遅らせるために加熱温度を200℃以下に下げる期間を設けることで効果がえられる。Ptなどの金属材料においては300℃以下に下げる期間を設けることによって効果が得られる。一方、汚損物となる粒子の付着を低減するためには発熱体5が高温であるほどより低減効果が得られる。
参照例1では
図5における期間d3での発熱体5の温度Th2の設定値としてTh3より低い100℃以下としたが、さらに高温でも発熱体5の抵抗劣化の抑制効果が得られる。したがって、単結晶シリコンの場合は100℃〜200℃、Ptの場合は100℃から300℃の範囲であればよい。
参照例1にくらべ劣化が加速しない範囲で発熱体5を高温化することができ汚損をより低減することができる。
【0040】
上記のように汚損を低減するには、劣化の進行が加速しない範囲で加熱温度を高めることが必要である。従来の構成で第1の温度Th1と第3の温度Th3の2温度で制御し、Th3の期間を長く設定することも可能であるが、Th3の温度は湿度による空気の熱伝導率の変化が小さい条件であることが必要である。そのため、Th3が100℃〜150℃の範囲から外れた高温度に設定されると高精度な湿度計測ができなくなる。そこで、本実施例ではTh1、Th3に加えてTh3より高温でTh1よりも低温となる第2の温度Th2の期間を設定することでさらに耐汚損性を高めている。
【0041】
図7は本実施例におけるスイッチSW1〜SW3の動作タイミングと発熱体5の温度変化を示したものである。
【0042】
スイッチSW3が「閉」(tsw3がON)のとき、発熱体5は100℃〜150℃の範囲の第3の温度Th3に保持される。スイッチSW1が「閉」(tsw1がON)のとき、発熱体5は300℃以上の範囲の第1の温度Th1に保持される。スイッチSW2が「閉」(tsw2がON)のとき、発熱体5は100℃〜200℃の範囲の第2の温度Th2に保持される。湿度の計測には発熱体5の温度がTh1の期間d2とTh3の期間d1を設けこの2温度の状態における発熱体5の加熱電圧のデータを用いる。したがって、期間d2及び期間d1は湿度計測のための期間(検出動作期間)である。発熱体5の温度がTh2の期間d3は湿度計測のための動作を停止している期間(待機期間)である。これらの期間d1、d2、d3の内d3の期間がもっとも長い。
【0043】
第3の温度Th3を100℃〜150℃の範囲とし、第2の温度Th2をTh3と一致させてもよい。この場合、第2の温度Th2を第3の温度Th3よりも高くする場合と比べて、耐汚損性は劣ることになるが、
参照例1に比べて耐汚損性は向上する。尚、この場合、第3の温度Th3(すなわち第2の温度Th2)に加熱制御される期間は第1の温度Th1に加熱制御される期間よりも長く設定される。
【0044】
本実施例では、
参照例1に対して、第2の温度Th2に加熱制御するときに閉じられるスイッチと第3の温度Th3に加熱制御するときに閉じられるスイッチとが入れ替わっている。また、第2の温度Th2も
参照例1に対して異なる温度に設定されている。このため、ブリッジ回路23を構成する感温抵抗体6、7、8の抵抗値は
参照例1に対して変更されている。
【0045】
本構成における効果を説明する。上記のd3の状態を設けることによって、発熱体5の温度を劣化を抑制或いは劣化に影響しない温度まで下げる期間を設けることができ、劣化を低減することができる。また、d3の状態は
参照例1よりも高温に保持されているため、発熱体5の周辺は加熱による空気の分子運動の増加により、汚損物質となる粒子に反発させることができ、付着をより低減することができる。また、湿度が高い環境である場合、結露による水滴の付着を防止することができる。また、待機期間d3における発熱体5の温度を検出動作期間d1における温度よりも高くしたことにより、
参照例1と比べてさらに、期間d1、d2、d3を通じて上下する発熱体5の温度差が低減し、温度サイクルによる膨張収縮を繰り返すストレスによる疲労を低減することができる。これらの期間d1、d2、d3の内d3の期間がもっとも長くなるようにデューティ比を設定することにより温度差によるストレスを受ける回数を低減することができるとともに、高温になる期間d2を相対的に短くすることができ、より劣化の進行を低減することができる。
[参照例2]
【0046】
図8は、本発明の第
二の
参照例を示す熱式ガスセンサ31の平面図である。
図9は、
図8のセンサ素子31のIX−IX矢視断面図である。
【0047】
本
参照例の熱式ガスセンサのセンサ素子31は、単結晶シリコンで形成された基板2を有している。基板2には、空洞部4が形成されており、この空洞部4は絶縁膜3aで覆われ、空洞部4上の絶縁膜3a上に第1の発熱体35と第2の発熱体36が形成されている。さらに、第1の発熱体35や第2の発熱体36を保護するために表面は絶縁膜3bで覆われる。また、第1の発熱体35、第2の発熱体36に電圧、電流の供給、取り出しのための電極40a〜40dが形成される。さらに、電極40a〜40dは加熱制御装置42に金線ボンディングワイヤー41a〜41dなどにより電気的に接続される。
【0048】
図8に示すように、第1の発熱体35の周辺を取り囲むように第2の発熱体36を配置することにより、第1の発熱体35の周囲温度が第2の発熱体36の温度(Th2)で維持され、周囲温度T3への依存性(影響)を低減することが可能である。また本
参照例では、
参照例1
及び実施例1のように湿度計測のためにTh1とTh3との二温度条件での発熱体の電圧・電流を測定する必要がなく、Th1の一温度条件での測定で発熱体35の電圧または電流に基づいて絶対湿度を計測することが可能な構成である。
【0049】
図10は、本
参照例におけるセンサ素子31の加熱制御装置42の構成図である。以下、
図10を用いて、本
参照例における熱式ガスセンサの動作について説明する。
【0050】
本
参照例では、第一の発熱体35が組み込まれたブリッジ回路49と第二の発熱抵抗体36が組み込まれたブリッジ回路53が設けられている。ブリッジ回路49はブリッジ回路49のバランスを維持するように第一の発熱体35の加熱電流を制御する。ブリッジ回路53はブリッジ回路53のバランスを維持するように第二の発熱体36の加熱電流を制御する。ブリッジ回路49とブリッジ回路53とは加熱制御装置42の一部を構成している。
【0051】
センサ素子31の駆動回路は、第一の発熱体35の加熱電流を制御する駆動回路部分50と、第二の発熱体36の加熱電流を制御する駆動回路部分51とによって構成され、第一の発熱体35と第2の発熱体36とに対して加熱電流を供給する。この場合、第一の発熱体35は第一の温度Th1に制御され、第二の発熱体36は第一の温度Th1よりも低温である第二の温度Th2に制御される。
【0052】
センサ素子31の駆動回路のうち駆動回路部分50は、発熱体35と固定抵抗39とが直列接続された直列回路49aと、固定抵抗37と固定抵抗38とが直列接続された直列回路49bとを並列に接続して構成されたブリッジ回路49を有する。発熱体35と固定抵抗39との接続端電位が差動増幅器15に入力される。固定抵抗37と固定抵抗38との接続端電位はスイッチ回路46のスイッチSW1を介して差動増幅器15に入力される。スイッチ回路46にはスイッチSW2が設けられ所定の基準電位を持つ基準電圧源47を差動増幅器15の入力に接続している。
【0053】
発熱体35の加熱温度はスイッチ回路46のスイッチSW1、SW2のうちどれを閉じるかによって変更することができる。SW1を閉じた場合、所定の温度Th1に加熱制御され、SW2が閉じた場合、加熱制御が停止する。基準電圧源47の電圧は発熱抵抗体35と固定抵抗39との間の電圧よりも十分高い電圧である。こうすることによって、SW2が選択された場合、差動増幅器15の出力がほぼゼロになり加熱制御を停止することができる。すなわち、差動増幅器15の負側の入力電圧を大きくして出力がほぼゼロになるようにしている。これにより、差動増幅器15からブリッジ回路49への電流供給が停止する。
【0054】
差動増幅器15からブリッジ回路49への電流供給を完全に停止するだけであれば、差動増幅器15の出力側とブリッジ回路49とを接続する配線52に接続を開閉するスイッチを設けても良い。この場合、基準電圧源47とスイッチSW1とスイッチSW2とが不要になり、スイッチSW1の部分は常時電気的に接続されていればよい。
【0055】
発熱体36の加熱制御を行う駆動回路部分51は、発熱体36と固定抵抗45とが直列接続された直列回路53aと、固定抵抗43と固定抵抗44とが直列接続された直列回路53bとを並列に接続して構成されるブリッジ回路53を有する。発熱体36と固定抵抗45との接続端の電位と、固定抵抗43と固定抵抗44との接続端の電位とが差動増幅器48に入力される。差動増幅器48の出力端子は発熱体36と固定抵抗43との間に接続され、入力電圧の差に応じた電圧を印加することにより加熱制御される。この構成により、発熱体36の温度が100℃以上の一定温度である第二の温度Th2になるようにフィードバック制御される。
【0056】
このような加熱制御装置42の場合、湿度が変化すると発熱抵抗体35を所定の温度に加熱するための電力が変化する。したがって、差動増幅器15の加熱電圧Vh1の変化を取り出すことにより湿度計測が可能である。加熱電圧Vh1は、差動増幅器17により増幅され、サンプルホールド回路18、AD変換器19により高精度な湿度データHoutを得ることができる。また、スイッチ回路46およびサンプルホールド回路18は、スイッチ制御回路21により制御される。スイッチ制御回路21は発振器22のクロック信号CLKに基づいてスイッチ回路14の開閉タイミングやサンプルホールド回路18の動作信号を生成する。また、スイッチ制御回路21は加熱制御装置12の外部からの信号STBに基づいて動作させることもできる。
【0057】
図11は、本
参照例における熱式ガスセンサのセンサ素子31の加熱制御装置42の動作を示すタイミングチャートである。以下、
図10、
図11を用いて、本
参照例における熱式ガスセンサの加熱制御装置の動作を説明する。
【0058】
図11におけるCLKは発振器22により生成したクロック波形である。tswはスイッチ回路46のスイッチSW1、SW2の開閉を指示する信号であり。ハイレベルでSW1が「閉」、ローレベルでSW2が「閉」になる。スイッチSW1、SW2の開閉タイミングとしては、まずCLKのタイミングt1においてtswがハイレベルになり、スイッチ回路14のスイッチSW1が「閉」になる。つぎにCLKのタイミングt4においてtswがローレベルになり、スイッチ回路14のスイッチSW2が「閉」になる。これらのスイッチSW1、SW2の「閉」となる期間としては、SW2が“閉”となる期間がもっとも長い。
【0059】
図11におけるVh1は
図10おける差動増幅器15の出力電圧値の変動、すなわち発熱体35を加熱する電圧を示している。Vh1が大きいと発熱体35の加熱温度が高くなる。Vh1はSW1、SW2のうちどのスイッチを閉じているかによって変化する。tswがハイレベルのとき発熱体35の温度が400℃〜500℃の範囲の一定温度に加熱するために必要なVh1となる。tswがローレベルのとき発熱体35の加熱が停止する。このとき発熱体35の温度は発熱体36の温度とほぼ同程度になる。
【0060】
図11におけるVh2は
図10における差動増幅器17により湿度によるVh1の変化を増幅した電圧である。具体的にはVh1と基準電圧源16の差電圧を増幅した値となる。
【0061】
図11におけるtshは
図10に示すスイッチ制御回路により生成した信号であり、サンプルホールド回路18の動作を制御する信号である。tshがONのときサンプルホールド回路18は入力電圧Vh2を読み込む。tshがOFFのときは読み込んだVh2を保持する。サンプルホールド回路18がVh2を読み込むタイミングとしては、スイッチSW1が「閉」の期間(t1〜t4)である。このときに読み込んだ値Vh3は、
図10のAD変換器19により読み込まれデジタルデータとなる。本
参照例では発熱体36により発熱体35の環境温度(周囲温度)の変化を低減した構成であるため、このデジタルデータが絶対湿度Houtとなる。
【0062】
図12はスイッチSW1、SW2の動作タイミングと発熱体35の温度変化を示したものである。スイッチSW1が「閉」(tswがハイレベル)のとき、発熱体5は400℃〜500℃の範囲の第一の温度Th1に保持される。スイッチSW2が「閉」(tswがローレベル)のとき、発熱体35は200℃から300℃の範囲の第二の温度Th2(発熱体36の温度)に保持される。
【0063】
湿度の計測には発熱体35の温度がTh1の期間d1を設けこの状態における発熱体35の加熱電圧のデータが必要である。したがって、期間d1は湿度計測のための期間(検出動作期間)である。発熱体35の温度がTh2の期間d2は湿度計測のための動作を停止している期間(待機期間)である。これらの期間d1、d2の内d2の期間がもっとも長い。
【0064】
発熱体35が第二の温度Th2に保持されるd2の期間は発熱体35への通電は停止されている。このd2の期間は発熱体36の通電(加熱制御)により発熱体35の温度が第二の温度Th2に保持されることになる。
【0065】
本構成における効果を説明する。上記のd2の状態を設けることによって、発熱体35の温度を下げる期間を設けることができ劣化を低減することができる。発熱体35の温度が下がると劣化の進行を低減することができるためである。また、d2の状態では発熱体35の周辺の温度が発熱体36の加熱により基板2の温度Tbよりも高温に保持されているため、空気の分子運動の増加により、汚損物質となる粒子に反発させることができ、発熱体35に対する汚損物質の付着を低減することができる。また、湿度が高い環境である場合、結露による水滴の付着を防止することができる。また、期間d1から期間d2に切り替わることにより発熱体35に生じる温度差が低減し、温度サイクルによる膨張収縮を繰り返すストレスによる疲労を低減することができる。これらの期間d1、d2の内d2の期間がもっとも長くなるようにデューティ比を設定することにより温度差によるストレスを受ける回数を低減することができるとともに、高温になる期間d1を相対的に短くすることができ、より劣化の進行を低減することができる。
【0066】
また、本構成によれば発熱体35の加熱制御を停止しても、発熱体36により加熱されている。したがって発熱体36の加熱制御を停止することにより発熱体35に流れる電流をほぼゼロにすることできる。これにより、電流が流れることによる発熱体35の劣化(エレクトロマイグレーション)を低減することができる。とくに発熱体35の劣化を低減することは、湿度計測が発熱体35に基づいて検出されるため重要である。
【0067】
上記各
参照例
及び実施例において、発熱体として熱線や板状のものを用いてセンサ素子部分を構成することも可能である。ただし、上記各
参照例
及び実施例で説明した単結晶シリコンで形成された基板に空洞部を形成してセンサ素子を構成する実施例では、センサ素子部の熱容量を小さくすることができる。このため、上記各
参照例
及び実施例例で説明したセンサ素子は、応答性に優れており、待機期間における待機温度から検出動作期間における検出動作温度まですぐに回復することができ、本発明の課題を解決するための形態としてより好適である。