特許第5981321号(P5981321)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5981321
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】電動工具
(51)【国際特許分類】
   B25F 5/00 20060101AFI20160818BHJP
【FI】
   B25F5/00 C
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-258632(P2012-258632)
(22)【出願日】2012年11月27日
(65)【公開番号】特開2014-104536(P2014-104536A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年6月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】河合 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】松永 隆
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼原 健也
【審査官】 亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−005588(JP,A)
【文献】 特開2011−217579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25F 5/00
B25B 21/00
H02P 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動工具の動力源となる誘導電動機と、
外部操作によって前記誘導電動機の駆動・停止を指令するための操作スイッチと、
前記誘導電動機の各相巻線と、直流電源からの正負の電源ラインと、の間にそれぞれ接続された複数のスイッチング素子を備えたスイッチング回路と、
前記操作スイッチがオン状態になると、前記スイッチング回路を制御して前記誘導電動機に駆動トルクを発生させ、前記操作スイッチがオフ状態になると、前記スイッチング回路を制御して前記誘導電動機に制動トルクを発生させる第1制御手段と、
前記操作スイッチがオン状態からオフ状態に変化してから所定時間経過後に、前記直流電源から前記スイッチング回路に至る正負の電源ラインの少なくとも一方を遮断する第2制御手段と、
を備え、
前記第2制御手段が、前記操作スイッチがオン状態からオフ状態に変化してから前記電源ラインを遮断するまでの前記所定時間は、
前記第1制御手段が前記誘導電動機に制動トルクを発生させてから前記誘導電動機が停止するのに要する停止時間に基づき、当該停止時間よりも長い時間に設定されていることを特徴とする電動工具。
【請求項2】
前記第1制御手段及び前記第2制御手段には、それぞれ、前記操作スイッチが接続されており、前記操作スイッチのオン・オフ状態を表す信号が前記操作スイッチから直接入力されることを特徴とする請求項1に記載の電動工具。
【請求項3】
前記第2制御手段は、
前記電源ラインに直列に設けられて、前記電源ラインを導通・遮断する電源スイッチと、
前記操作スイッチがオン状態になると、前記電源スイッチをオンさせ、前記操作スイッチがオフ状態になると、前記所定時間経過後に、前記電源スイッチをオフさせる遅延回路と、
を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電動工具。
【請求項4】
電動工具の動力源となるモータと、
外部操作によって前記モータの駆動・停止を指令するための操作スイッチと、
前記モータの各相巻線と、直流電源からの正負の電源ラインと、の間にそれぞれ接続された複数のスイッチング素子を備えたスイッチング回路と、
前記操作スイッチがオン状態になると、前記スイッチング回路を制御して前記モータに駆動トルクを発生させ、前記操作スイッチがオフ状態になると、前記スイッチング回路を制御して前記モータに制動トルクを発生させる第1制御手段と、
前記操作スイッチがオン状態からオフ状態に変化してから所定時間経過後に、前記直流電源から前記スイッチング回路に至る正負の電源ラインの少なくとも一方を遮断する第2制御手段と、
を備え、
前記第2制御手段が、前記操作スイッチがオン状態からオフ状態に変化してから前記電源ラインを遮断するまでの前記所定時間は、
前記第1制御手段が前記モータに制動トルクを発生させてから前記モータが停止するのに要する停止時間に基づき、当該停止時間よりも長い時間に設定されていることを特徴とする電動工具。
【請求項5】
電動工具の動力源となるモータと、
外部操作によって前記モータの駆動・停止を指令するための操作スイッチと、
前記モータの各相巻線と、直流電源からの正負の電源ラインと、の間にそれぞれ接続された複数のスイッチング素子を備えたスイッチング回路と、
前記操作スイッチがオン状態になると、前記スイッチング回路を制御して前記モータに駆動トルクを発生させ、前記操作スイッチがオフ状態になると、前記スイッチング回路を制御して前記モータに制動トルクを発生させる第1制御手段と、
前記操作スイッチがオン状態からオフ状態に変化してから所定時間経過後に、前記直流電源から前記スイッチング回路に至る正負の電源ラインの少なくとも一方を遮断する第2制御手段と、
を備え、
前記第2制御手段が、前記操作スイッチがオン状態からオフ状態に変化してから前記電源ラインを遮断するまでの前記所定時間は、
前記第1制御手段が前記モータに制動トルクを発生させてから前記モータを停止させるのに要する停止時間よりも長くなるように設定されていることを特徴とする電動工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者により操作される操作スイッチがオフ状態になったときに電動機に制動トルクを発生させる、ブレーキ機能を有する電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
電動工具には、通常、使用者によりオン・オフ状態が切り換えられる操作スイッチ(例えば、トリガスイッチ)が備えられている。
そして、この種の電動工具には、操作スイッチがオン状態であるとき、動力源である電動機を駆動する駆動制御を実行し、操作スイッチがオフ状態に切り換えられると、電動機が停止するまで、電動機に制動トルクを発生させる制動制御を実行するよう構成されたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−179378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記電動工具において、電動機の駆動・制動制御は、マイコン等からなる制御回路により実行されることから、制御回路の誤動作(例えば、マイコンの暴走)により、操作スイッチがオフ状態であるにもかかわらず、電動機が駆動されることがある。
【0005】
このため、上記電動工具においては、操作スイッチがオフ状態であるときには、電動機の駆動系への電源供給経路を遮断することで、制御回路の誤動作により電動機が駆動されるのを防止することが考えられている。
【0006】
しかしながら、操作スイッチがオフ状態になったときに、電動機駆動系への電源供給経路を遮断するようにすると、制御回路の制動制御によって電動機に制動トルクを発生させることができなくなり、電動工具を速やかに停止させることができない、という問題が発生する。
【0007】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、電動機を動力源とする電動工具において、操作スイッチがオフ状態になったとき、制御回路によりモータに制動トルクを発生させることができ、しかも、操作スイッチがオフ状態であるときに制御回路の誤動作によりモータが駆動されるのを防止できるようにすること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、請求項1に記載の電動工具においては、その動力源として誘導電動機を備える。そして、誘導電動機の各相巻線は、スイッチング回路を構成する複数のスイッチング素子(所謂ハイサイドスイッチ、ローサイドスイッチ)を介して、直流電源からの正・負の電源ラインに接続されている。
【0009】
また、電動工具には、外部操作によって誘導電動機の駆動・停止を指令するための操作スイッチと、この操作スイッチのオン・オフ状態に応じて動作する第1制御手段及び第2制御手段が備えられている。
【0010】
そして、第1制御手段は、操作スイッチがオン状態になると、スイッチング回路を制御して誘導電動機に駆動トルクを発生させ、操作スイッチがオフ状態になると、スイッチング回路を制御して誘導電動機に制動トルクを発生させる。
【0011】
また、第2制御手段は、操作スイッチがオン状態からオフ状態に変化してから所定時間経過後に、直流電源からスイッチング回路に至る正負の電源ラインの少なくとも一方を遮断する。
【0012】
従って、操作スイッチがオン状態からオフ状態に変化した直後は、第1制御手段による制御(つまり制動制御)によって、誘導電動機に制動トルクが発生して、誘導電動機の回転(換言すれば、電動工具の動作)を速やかに減速させることができる。
【0013】
また、操作スイッチがオフ状態であるとき、第1制御手段が誤動作したとしても、操作スイッチがオフ状態になってから所定時間経過後には、第2制御手段によって、スイッチング回路の電源ラインが遮断されるので、電動工具が駆動されるのを防止できる。
【0014】
ここで、第2制御手段が、操作スイッチがオン状態からオフ状態に変化してから電源ラインを遮断するまでの所定時間は、請求項2に記載のように、第1制御手段が誘導電動機に制動トルクを発生させてから誘導電動機が停止するのに要する停止時間よりも長い時間に設定するとよい。
【0015】
つまり、このようにすれば、第1制御手段が正常動作している通常時には、第1制御手段による制動制御によって、誘導電動機を確実に停止させることができる。
一方、第1制御手段及び第2制御手段には、操作スイッチのオン・オフ状態を表す信号を入力する必要がある。
【0016】
そして、そのためには、請求項3に記載のように、第1制御手段及び第2制御手段に、それぞれ、操作スイッチを接続し、操作スイッチのオン・オフ状態を表す信号が操作スイッチから直接入力されるようにするとよい。
【0017】
つまり、操作スイッチのオン・オフ状態を表す信号は、信号入力用の入力回路を介して入力するようにしてもよいが、このようにすると、入力回路の誤動作により、第1制御手段若しくは第2制御手段に、操作スイッチのオン・オフ状態を表す信号が正常に入力されないことが考えられる。
【0018】
このため第1制御手段及び第2制御手段には、それぞれ、操作スイッチから直接、操作スイッチのオン・オフ状態を表す信号が入力されるようにするとよい。
次に、第2制御手段は、請求項4に記載のように、直流電源からスイッチング回路に至る電源ラインに直列に設けられて、その電源ラインを導通・遮断するための電源スイッチと、遅延回路とを用いて構成するとよい。
【0019】
そして、請求項4に記載の電動工具において、遅延回路は、操作スイッチがオン状態になると、電源スイッチをオンさせ、操作スイッチがオフ状態になると、所定時間経過後に電源スイッチをオフさせる。
【0020】
従って、請求項4に記載の電動工具によれば、操作スイッチがオフ状態になってから所定時間経過後に、直流電源からスイッチング回路に至る電源ラインを遮断することができるだけでなく、操作スイッチがオン状態になったときには、その電源ラインを速やかに導通させることができる。
【0021】
よって、請求項4に記載の電動工具によれば、操作スイッチがオン状態になったときに、第1制御手段による誘導電動機の駆動を速やかに開始させることができ、誘導電動機の駆動開始が遅れるのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態のグラインダの構成を表す断面図である。
図2】グラインダの電源部及びインバータ部の回路構成を表すブロック図である。
図3】制御回路にて実行されるモータ制御を表すフローチャートである。
図4】遅延回路の回路構成を表す電気回路図である。
図5】遅延回路の動作を説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1に示すように、本実施形態の電動工具は、グラインダ2であり、モータハウジング4とギヤハウジング6とからなるハウジング内に、各種機能部品を組み込むことにより構成されている。
【0024】
モータハウジング4は、使用者が把持できるように筒状に形成されており、その内部には、グラインダ2の動力源となる3相の誘導電動機(以下、単にモータという)10が収納されている。
【0025】
モータ10は、所謂高周波モータであり、その回転軸12がモータハウジング4の中心軸と一致し、且つ、回転軸12の先端がギヤハウジング6内に突出した状態で、モータハウジング4内に固定されている。
【0026】
また、回転軸12の先端側及び後端側は、それぞれ、ギヤハウジング6及びモータハウジング4に設けられた軸受14、16を介して、回転可能に支持されている。そして、回転軸12において、モータ10と軸受14との間に位置する部分には、モータ10に向けて冷却用の風を送るためのファン18が設けられている。
【0027】
一方、ギヤハウジング6には、軸受22、24を介して、スピンドル20が回転自在に固定されている。スピンドル20は、その中心軸が、モータハウジング4の中心軸(延いてはモータ10の回転軸)と直交する方向に固定されている。
【0028】
そして、スピンドル20において、軸受22と軸受24との間の部分には、ベベルギヤ25が固定されている。ベベルギヤ25は、モータ10の回転軸12の先端に固定されたベベルギヤ19と噛合することにより、モータ10の回転をスピンドル20に伝達し、スピンドル20を回転させるためのものである。
【0029】
また、スピンドル20の先端は、軸受24からギヤハウジング6の外側へと突出し、円盤状の砥石26を装着できるようになっている。そして、軸受24の外周には、スピンドル20に装着された砥石26のモータハウジング4側を囲むカバー28が取り付けられている。
【0030】
次に、モータハウジング4において、モータ10の後端側の軸受16よりも後方には、モータ10を駆動するための電源部30及びインバータ部40が収納されている。そして、モータハウジング4の後端は閉塞されており、その閉塞部分には、電源ケーブル33を接続するためのコネクタ34、及び、操作部42が設けられている。
【0031】
ここで、コネクタ34は、外部の交流電源32から電源ケーブル33を介して交流電圧を取り込み、電源部30に供給するためのものである。
また、操作部42は、使用者が手動操作によってグラインダ2(換言すればモータ10)の駆動・停止指令を入力するためのものである。
【0032】
そして、操作部42は、図2に示すように、使用者の操作によってオン・オフ状態が切り換えられる操作スイッチSW1と、使用者による操作量に応じて抵抗値が変化する可変抵抗VR1とから構成されている。
【0033】
次に、電源部30及びインバータ部40の回路構成を、図2を用いて説明する。
図2に示すように、電源部30は、4つの整流用ダイオード36、37、38、39からなる全波整流回路と、コンデンサC1とで構成されている。
【0034】
このため、電源部30からインバータ部40には、交流電源32から入力される交流電圧を全波整流することにより生成される直流の電源電圧(以下、バス電圧という)が入力される。
【0035】
一方、インバータ部40には、モータ10の各相巻線への通電状態を切り換えるスイッチング回路50と、このスイッチング回路50を構成するスイッチング素子Q1〜Q6のオン・オフ状態を制御することで、モータ10を駆動制御する制御回路60と、が備えられている。
【0036】
また、スイッチング回路50は、電源部30からのバス電圧の入力ラインとモータ10の各相巻線との間に設けられた3つのスイッチング素子(所謂ハイサイドスイッチ)Q1、Q2、Q3と、モータ10の各相巻線とグランドラインとの間に設けられた3つのスイッチング素子(所謂ローサイドスイッチ)Q4、Q5、Q6と、から構成されている。
【0037】
そして、このスイッチング回路50からグランドラインに至る経路上には、モータ10の各相巻線に流れた全電流(以下、バス電流という)を検出するための抵抗R1が設けられている。
【0038】
この抵抗R1の両端には、抵抗R1の両端電圧からバス電流を検出するバス電流検出回路48が接続されており、バス電流検出回路48からの検出信号は、制御回路60に入力される。
【0039】
また、インバータ部40には、外部の交流電源32から電源部30に入力された交流電圧のゼロクロス点を検出するゼロクロス検出回路44、及び、電源部30からのバス電圧の入力ラインに接続されて、バス電圧を検出するバス電圧検出回路46が設けられている。
【0040】
そして、これらゼロクロス検出回路44及びバス電圧検出回路46からの検出信号も、制御回路60に入力される。
一方、操作部42を構成する可変抵抗VR1の両端には、定電圧回路(図示せず)にて生成された制御回路60駆動用の電源電圧(定電圧)Vcが印加されている。そして、制御回路60には、可変抵抗VR1の可動接点から、可変抵抗VR1の抵抗値(換言すれば操作量)に対応した検出信号(電圧))が入力される。
【0041】
また、操作部42を構成する操作スイッチSW1の一端には、抵抗R2を介して電源電圧Vcが印加され、他端はグランドラインに接地されている。そして、制御回路60には、操作スイッチSW1と抵抗R2との接続点から、操作スイッチSW1のオン・オフ状態を表す信号が入力される。
【0042】
また、インバータ部40において、電源部30からスイッチング回路50に至るバス電圧の正極側の供給経路(以下、単に電源ラインという)には、この電源ラインを導通・遮断するための電源スイッチ52が設けられている。
【0043】
この電源スイッチ52は、トランジスタからなる半導体スイッチにて構成されており、その制御端子であるゲートには、ゲート駆動回路54が接続され、更に、このゲート駆動回路54には、遅延回路56が接続されている。
【0044】
また、遅延回路56には、操作スイッチSW1と抵抗R2との接続点が接続されており、遅延回路56は、操作スイッチSW1のオン・オフ状態に応じて、ゲート駆動回路54に、電源スイッチ52の駆動信号を出力する。
【0045】
なお、この遅延回路56については、本発明に関わる主要部であるので、後で詳しく説明する。
次に、制御回路60は、CPU、ROM、RAM、入出力ポート等からなる周知のマイクロコンピュータにて構成されている。
【0046】
そして、制御回路60においては、CPUがROMに記憶された制御プログラムに従い各種制御処理を実行することにより、図2に示す駆動制御部62、ゲート駆動信号生成部66、過電流検出部68、及び、ブレーキ制御部70として機能する。
【0047】
なお、図2に示す正弦波テーブル64は、モータ10の駆動制御を実行する際に用いられるデータであり、ROM若しくは不揮発性のRAMに格納される。
ここで、駆動制御部62は、操作部42の操作スイッチSW1がオン状態であるとき、可変抵抗VR1から入力される駆動指令(詳しくは、操作部42の操作量)に基づいて、モータ10をその駆動指令に対応した目標速度で回転させるための制御量(駆動周波数及び駆動波形の振幅)を算出するためのものである。
【0048】
そして、ゲート駆動信号生成部66は、駆動制御部62にて制御量が算出されると、正弦波テーブル64から正弦波データを読み出し、その正弦波データと駆動制御部62で算出された制御量とに基づき、モータ10の各相に所定の駆動電流を供給するのに必要な、各スイッチング素子Q1〜Q6のゲート駆動信号(PWM信号)を生成する。
【0049】
また、過電流検出部68は、駆動制御部62によるモータ10の駆動時に、バス電流検出回路48からの検出信号に基づき、モータ10に過電流が流れたことを検出して、ゲート駆動信号生成部66による各スイッチング素子Q1〜Q6の駆動(換言すればモータ10への通電)を停止する。つまり、過電流検出部68は、モータ10を過電流から保護するためのものである。
【0050】
また、ブレーキ制御部70は、操作部42の操作スイッチSW1がオン状態からオフ状態に切り換えられたとき(つまり、モータ10の停止指令が入力されたとき)に、ゲート駆動信号生成部66から、モータ10に制動トルクを発生させるためのゲート駆動信号を出力させる。
【0051】
なお、モータ制動時のゲート駆動信号(PWM信号)は、スイッチング回路50を介してモータ10に直流電流を流し、モータ10の回転軸に制動トルクを発生させるためのものであり、各スイッチング素子Q1〜Q6の駆動パターンや駆動デューティ比は予め設定されている。
【0052】
そして、駆動制御部62、ゲート駆動信号生成部66、及び、ブレーキ制御部70としての機能は、CPUが、図3に示すモータ制御処理を実行することにより実現される。
すなわち、このモータ制御処理では、CPUは、まずS110(Sはステップを表す)にて、操作スイッチSW1がオン状態であるか否かを判断する。
【0053】
そして、操作スイッチSW1がオン状態でなければ、再度S110の処理を実行することで、操作スイッチSW1がオン状態になるのを待ち、操作スイッチSW1がオン状態になると、S120に移行して、モータ10の駆動制御を実行する。
【0054】
なお、この駆動制御は、駆動制御部62及びゲート駆動信号生成部66としての機能を実現するための処理であり、操作部42の操作量に基づいてモータ10の制御量(駆動周波数及び駆動波形の振幅)を算出し、ゲート駆動信号(PWM信号)を生成して、スイッチング回路50に出力する。
【0055】
次に、続くS130では、操作スイッチSW1がオフ状態になったか否かを判断し、操作スイッチSW1がオフ状態になっていなければ、再度S120に移行することにより、モータ駆動制御を継続する。
【0056】
一方、S130にて、操作スイッチSW1がオフ状態になったと判断されると、S140に移行する。そして、S140では、モータに制動トルクを発生させるためのゲート駆動信号を生成して、スイッチング回路50に出力することで、モータ10にブレーキをかける、ブレーキ制御を実行する。
【0057】
このブレーキ制御は、ブレーキ制御部70及びゲート駆動信号生成部66としての機能を実現するための処理であり、続くS150にて、モータ10が停止したと判断されるまで継続される。
【0058】
そして、S150にて、モータ10が停止したと判断されると、S160にてブレーキ制御を解除して、再度S110に移行する。
このように、制御回路60においては、操作スイッチSW1がオン状態になると、操作部42の操作量(可変抵抗VR1の抵抗値)に応じて、モータ10を駆動する駆動制御を実行する。また、操作スイッチSW1がオン状態からオフ状態になると、モータ10が停止するまで、モータ10に制動トルクを発生させる、制動制御を実行する。
【0059】
ところで、操作スイッチSW1がオフ状態であるとき、制御回路60を構成するマイクロコンピュータの暴走等によって、制御回路60が誤動作すると、ゲート駆動信号生成部66からモータ10を駆動させるゲート駆動信号が出力されて、モータ10が駆動されることが考えられる。
【0060】
そこで、本実施形態では、電源部30からスイッチング回路50に至る電源ラインに電源スイッチ52を設け、操作スイッチSW1がオフ状態になると、遅延回路56を介して、電源スイッチ52をオフすることで、電源ラインを遮断するようにしている。
【0061】
この遅延回路56には、図4に示すように、操作スイッチSW1からの信号入力素子として、抵抗R2と操作スイッチSW1との接続点に対し、ベースが抵抗70を介して接続されたトランジスタ74が備えられている。
【0062】
このトランジスタ74は、PNP型であり、エミッタには、抵抗72を介して電源電圧Vcが印加され、コレクタは、グランドラインに接地されている。また、トランジスタ74のエミッタとグランドラインとの間には、充電用のコンデンサ76が設けられており、このコンデンサ76の両端電圧は、コンパレータ78に入力される。
【0063】
コンパレータ78は、コンデンサ76の両端電圧(充電電圧)が所定のしきい値電圧Vth以上か否かを判断して、コンデンサ76の両端電圧がしきい値電圧Vth未満であるとき、ゲート駆動回路54に対し、電源スイッチ52をオンさせるための駆動信号を出力する。
【0064】
このように構成された遅延回路56においては、図5に示すように、操作スイッチSW1がオン状態であるときには、トランジスタ74がオン状態となって、コンデンサ76に蓄積された電荷がトランジスタ74を介して放電される。
【0065】
このため、コンデンサ76の両端電圧は、しきい値電圧Vthよりも低くなり、遅延回路56からゲート駆動回路54には、電源スイッチ52をオンするための駆動信号(ハイレベル)が出力される。
【0066】
また、操作スイッチSW1がオフ状態になる(時点t1)と、トランジスタ74がオフ状態になり、コンデンサ76には、抵抗72を介して電荷が充電される。そして、この充電により、コンデンサ76の両端電圧は、抵抗72の抵抗値Rとコンデンサ76の容量Cとで決まる時定数CRにて上昇する。
【0067】
従って、操作スイッチSW1がオン状態からオフ状態に変化すると(時点t1)、この時定数CRにて決まる遅延時間ΔTが経過したとき(時点t2)に、コンデンサ76の両端電圧がしきい値電圧Vthに達し、コンパレータ78の出力がローレベルに変化する。
【0068】
このため、操作スイッチSW1がオフ状態になったときには、遅延時間ΔTが経過した後、遅延回路56からゲート駆動回路54への駆動信号の出力が停止され、電源スイッチ52がオフされる。
【0069】
なお、遅延時間ΔT(換言すれば抵抗72とコンデンサ76とによる時定数CR)は、制御回路60にて実行されるブレーキ制御(S140)によって、モータ10を停止させるのに要する停止時間よりも長くなるように設定されている。
【0070】
また、その後、操作スイッチSW1がオン状態なったとき(時点t3)には、コンデンサ76に蓄積された電荷が、トランジスタ74を介して速やかに放電されることから、コンパレータ78からの出力が速やかにハイレベルに変化する。
【0071】
従って、操作スイッチSW1がオフ状態からオン状態に変化したときには、遅延回路56からゲート駆動回路54へ、応答遅れなく駆動信号が出力され、電源スイッチ52がオンされる。
【0072】
以上説明したように、本実施形態のグラインダ2においては、操作スイッチSW1がオン状態になると、制御回路60が、操作部42の操作量に応じてモータ10を駆動する駆動制御を開始し、操作スイッチSW1がオフ状態になると、モータ10に制動トルクを発生させて、その回転を停止させる制動制御を実行する。
【0073】
また、この制御回路60とは別に遅延回路56が設けられており、遅延回路56は、操作スイッチSW1がオン状態になると、ゲート駆動回路54に駆動信号を出力することで、電源スイッチ52を応答遅れなく速やかにオンさせる。
【0074】
また、操作スイッチSW1がオフ状態になると、遅延回路56は、その後、所定の遅延時間ΔT1が経過した時点で、ゲート駆動回路54への駆動信号の出力を停止することで、電源スイッチ52をオフさせる。
【0075】
そして、この遅延時間ΔT1は、制御回路60が制動制御によってモータ10を停止させるのに要する時間よりも長く設定されている。
このため、本実施形態のグラインダ2によれば、制御回路60が正常動作しているときには、制御回路60による制動制御によって、モータ10に制動トルクを発生させて、モータ10(換言すれば、グラインダ2)を速やかに停止させることができる。
【0076】
また、操作スイッチSW1がオフ状態になってから所定の遅延時間ΔT1が経過すると、電源スイッチ52がオフされることから、操作スイッチSW1がオフ状態であるとき、制御回路60がマイクロコンピュータの暴走等によって誤動作したとしても、その誤動作によりモータ10が駆動されるのを防止することができる。
【0077】
また、制御回路60及び遅延回路56には、操作スイッチSW1が接続されており、操作スイッチSW1のオン・オフ状態を表す信号が、操作スイッチSW1から直接入力されることから、その信号の入力回路の故障によって、制御回路60及び遅延回路56が誤動作するのを防止することもできる。
【0078】
よって、本実施形態によれば、グラインダ2の信頼性を高めることができる。
なお、本実施形態においては、制御回路60が、本発明の第1制御手段に相当し、電源スイッチ52、ゲート駆動回路54及び遅延回路56が、本発明の第2制御手段に相当する。
【0079】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内にて種々の態様をとることができる。
例えば、上記実施形態では、電源スイッチ52は、トランジスタからなる半導体スイッチにて構成されるものとして説明したが、電源スイッチ52は、電源部30からスイッチング回路50に電源電圧を供給するための電源ラインを導通・遮断することができればよく、例えば、リレー等を用いて構成してもよい。
【0080】
また、電源スイッチ52は、上記実施形態のように、電源部30からスイッチング回路50に電源電圧を供給するための正の電源ラインに設けるのではなく、負の電源ライン(グランドライン)に設けるようにしてもよく、或いは、これら両方に設けるようにしてもよい。
【0081】
また、上記実施形態では、電源部30からスイッチング回路50に至る電源ラインに、電源スイッチ52が設けられており、この電源スイッチ52のオン・オフ状態を、ゲート駆動回路54を介して切り換えることができる。
【0082】
このため、図2に点線で示すように、遅延回路56とは別に、異常検出回路80を設け、異常検出回路80にてモータ10の駆動系の異常を検出したときには、ゲート駆動回路54を介して、電源スイッチ52を強制的にオフするようにしてもよい。
【0083】
なお、図2において、異常検出回路80は、バス電流検出回路48からの検出信号に基づき、バス電流に異常が生じたときに、ゲート駆動回路54を介して電源スイッチ52をオフするようになっているが、例えば、モータ10やインバータ部40の異常な温度上昇を検出したときに、電源スイッチ52をオフするようにしてもよい。
【0084】
また、上記実施形態では、本発明を、グラインダ2に適用した場合について説明したが、本発明は、誘導電動機を動力源とする電動工具であれば、上記実施形態と同様に適用して、同様の効果を得ることができる。
【0085】
また、誘導電動機は、上記実施形態のような3相モータであっても、単相モータであってもよい。なお、単相モータの場合、スイッチング回路は4つのスイッチング素子による所謂Hブリッジにて構成すればよい。
【符号の説明】
【0086】
2…グラインダ、10…モータ、30…電源部、32…交流電源、34…コネクタ、36〜39…整流用ダイオード、C1…コンデンサ、40…インバータ部、42…操作部、SW1…操作スイッチ、VR1…可変抵抗、44…ゼロクロス検出回路、46…バス電圧検出回路、48…バス電流検出回路、50…スイッチング回路、Q1〜Q6…スイッチング素子、52…電源スイッチ、54…ゲート駆動回路、56…遅延回路、60…制御回路、62…駆動制御部、64…正弦波テーブル、66…ゲート駆動信号生成部、68…過電流検出部、70…ブレーキ制御部、80…異常検出回路。
図1
図2
図3
図4
図5