【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様では、本発明はプロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)に結合する抗体および抗原結合分子を提供する。いくつかの実施形態では、この抗体は、
a)PCSK9が低密度リポタンパク質受容体(LDLR)に結合するのを阻止せず、
b)LDLRのPCSK9の媒介による分解を阻害する。
【0006】
いくつかの実施形態では、この抗体または抗原結合分子はヒトPCSK9の680〜692位の残基内の少なくとも1個のアミノ酸に結合する。例えば、いくつかの実施形態では、抗体または抗原結合分子は、アミノ酸配列RSRHLAQASQELQ(配列番号49)内のPCSK9のエピトープに結合する。
【0007】
いくつかの実施形態では、抗体または抗原結合分子はヒトPCSK9に平衡解離定数(KD)約500pM以下で結合する。例えば、いくつかの実施形態では、抗体または抗原結合分子はヒトPCSK9に平衡解離定数(KD)約400pM、300pM、250pM、200pM、190pM、180pM、170pM、160pM、150pM、140pMまたはそれ以下で結合する。
【0008】
いくつかの実施形態では、抗体抗原結合分子は、インビボ(in vivo)における半減期が少なくとも約7日である。いくつかの実施形態では、抗体抗原結合分子は、インビボにおける半減期が少なくとも約3、4、5、6、7、8、9、10日である。いくつかの実施形態では、抗体抗原結合分子は、インビボにおけるコレステロール低下効果が少なくとも約2週間、例えば、2、3、4週間またはそれ以上である。好ましくは、インビボにおける半減期はヒト対象において測定する。
【0009】
いくつかの実施形態では、抗体は、
(a)ヒト重鎖Vセグメント、重鎖相補性決定領域3(CDR3)および重鎖フレームワーク領域4(FR4)を含む重鎖可変領域と、
(b)ヒト軽鎖Vセグメント、軽鎖CDR3、および軽鎖FR4を含む軽鎖可変領域と
を含み、
i)重鎖CDR3がアミノ酸配列SYYYY(A/N)MD(A/F/S/V/Y)(配列番号14)を含み、
ii)軽鎖CDR3可変領域がアミノ酸配列LQWSSDPPT(配列番号26)を含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、抗体は、
(a)ヒト重鎖Vセグメント、重鎖相補性決定領域3(CDR3)および重鎖フレームワーク領域4(FR4)を含む重鎖可変領域と、
(b)ヒト軽鎖Vセグメント、軽鎖CDR3、および軽鎖FR4を含む軽鎖可変領域と
を含み、
i)重鎖CDR3がアミノ酸配列SYYYYNMDY(配列番号12)を含み、
ii)軽鎖CDR3可変領域がアミノ酸配列LQWSSDPPT(配列番号26)を含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、抗体は、
(a)ヒト重鎖Vセグメント、重鎖相補性決定領域3(CDR3)および重鎖フレームワーク領域4(FR4)を含む重鎖可変領域と、
(b)ヒト軽鎖Vセグメント、軽鎖CDR3、および軽鎖FR4を含む軽鎖可変領域と
を含み、
i)重鎖CDR3がアミノ酸配列SYYYYAMDY(配列番号13)を含み、
ii)軽鎖CDR3可変領域がアミノ酸配列LQWSSDPPT(配列番号26)を含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、重鎖CDR3が配列番号12および配列番号13からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、軽鎖CDR3が配列番号26のアミノ酸配列を含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、重鎖Vセグメントは、配列番号28と少なくとも85%、88%、89%、90%91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、軽鎖Vセグメントは、配列番号31と少なくとも85%、88%、89%、90%91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する。
【0014】
いくつかの実施形態では、重鎖Vセグメントは、配列番号27と少なくとも85%、88%、89%、90%91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、軽鎖Vセグメントは、配列番号29および配列番号30からなる群から選択されるアミノ酸と少なくとも85%、88%、89%、90%91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する。
【0015】
いくつかの実施形態では、重鎖FR4がヒト生殖系列FR4である。いくつかの実施形態では、重鎖FR4が配列番号35である。
【0016】
いくつかの実施形態では、軽鎖FR4がヒト生殖系列FR4である。いくつかの実施形態では、軽鎖FR4が配列番号39である。
【0017】
いくつかの実施形態では、重鎖Vセグメントおよび軽鎖Vセグメントがそれぞれ、相補性決定領域1(CDR1)および相補性決定領域2(CDR2)を含み、
i)重鎖VセグメントのCDR1が配列番号8のアミノ酸配列を含み、
ii)重鎖VセグメントのCDR2が配列番号11のアミノ酸配列を含み、
iii)軽鎖VセグメントのCDR1が配列番号22のアミノ酸配列を含み、
iv)軽鎖VセグメントのCDR2が配列番号25のアミノ酸配列を含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、重鎖Vセグメントおよび軽鎖Vセグメントがそれぞれ、相補性決定領域1(CDR1)および相補性決定領域2(CDR2)を含み、
i)重鎖VセグメントのCDR1が配列番号7のアミノ酸配列を含み、
ii)重鎖VセグメントのCDR2が配列番号10のアミノ酸配列を含み、
iii)軽鎖VセグメントのCDR1が配列番号21のアミノ酸配列を含み、
iv)軽鎖VセグメントのCDR2が配列番号24のアミノ酸配列を含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、
i)重鎖VセグメントのCDR1が配列番号7を含み、
ii)重鎖VセグメントのCDR2が配列番号10を含み、
iii)重鎖CDR3が、配列番号12および配列番号13からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、
iv)軽鎖VセグメントのCDR1が配列番号21を含み、
v)軽鎖VセグメントのCDR2が配列番号24を含み、
vi)軽鎖CDR3が配列番号26を含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、重鎖可変領域が配列番号40の可変領域と少なくとも85%、88%、89%、90%91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%のアミノ酸配列同一性を有し、軽鎖可変領域が配列番号41の可変領域と少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0021】
いくつかの実施形態では、抗体が配列番号40を含む重鎖および配列番号41を含む軽鎖を含む。
【0022】
いくつかの実施形態では、重鎖可変領域が配列番号2および配列番号4からなる群から選択される可変領域と少なくとも85%、88%、89%、90%91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%のアミノ酸配列同一性を有し、軽鎖可変領域が配列番号16および配列番号18からなる群から選択される可変領域と少なくとも85%、88%、89%、90%91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0023】
いくつかの実施形態では、重鎖可変領域が配列番号2および配列番号4からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域が配列番号16および配列番号18からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0024】
いくつかの実施形態では、抗体はIgGである。いくつかの実施形態では、抗体はIgG1である。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号3および配列番号5からなる群から選択されるアミノ酸と少なくとも85%、88%、89%、90%91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を共有する重鎖を有する。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号17および配列番号19からなる群から選択されるアミノ酸と少なくとも85%、88%、89%、90%91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を共有する軽鎖を有する。
【0025】
いくつかの実施形態では、抗体はFab’断片である。いくつかの実施形態では、抗体は1本鎖抗体(scFv)である。いくつかの実施形態では、抗体はヒト定常領域を含む。いくつかの実施形態では、抗体はヒトIgG1定常領域を含む。いくつかの実施形態では、ヒトIgG1定常領域は、細胞または補体のC1成分上のFc受容体(FcR)、例えば、FcガンマR1などのエフェクターリガンドに対する結合親和性が低下するように変異させる。例えば、米国特許第5,624,821号参照。いくつかの実施形態では、IgG1定常領域のアミノ酸残基L234およびL235をAla234およびAla235に置換させる。重鎖定常領域中の残基の番号は、EUインデックスの番号である(Kabat, et al., (1983) “Sequences of Proteins of Immunological Interest,” U.S. Dept. Health and Human Servicesを参照のこと)。
【0026】
いくつかの実施形態では、抗体は担体タンパク質、例えば、アルブミンに連結させる。
【0027】
いくつかの実施形態では、抗体はペグ化する。
【0028】
関連する態様では、本発明はPCSK9に結合する抗体であって、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、重鎖可変領域および軽鎖可変領域がそれぞれ以下の3種類の相補性決定領域(CDR):CDR1、CDR2およびCDR3を含み、
i)重鎖可変領域のCDR1が配列番号8のアミノ酸配列を含み、
ii)重鎖可変領域のCDR2が配列番号11のアミノ酸配列を含み、
iii)重鎖可変領域のCDR3が配列番号14のアミノ酸配列を含み、
iv)軽鎖可変領域のCDR1が配列番号22のアミノ酸配列を含み、
v)軽鎖可変領域のCDR2が配列番号25のアミノ酸配列を含み、
vi)軽鎖可変領域のCDR3が配列番号26のアミノ酸配列を含む
抗体を提供する。
【0029】
いくつかの実施形態では、
i)重鎖可変領域のCDR1が、配列番号6および配列番号7からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、
ii)重鎖可変領域のCDR2が、配列番号9および配列番号10からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、
iii)重鎖可変領域のCDR3が、配列番号12および配列番号13からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、
iv)軽鎖可変領域のCDR1が、配列番号20および配列番号21からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、
v)軽鎖可変領域のCDR2が、配列番号23および配列番号24からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、
vi)軽鎖可変領域のCDR3が配列番号26のアミノ酸配列を含む。
【0030】
関連する態様では、本発明はPCSK9に結合する抗体であって、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、重鎖可変領域および軽鎖可変領域がそれぞれ以下の3種類の相補性決定領域(CDR):CDR1、CDR2およびCDR3を含み、
i)重鎖可変領域のCDR1が配列番号6のアミノ酸配列を含み、
ii)重鎖可変領域のCDR2が配列番号9のアミノ酸配列を含み、
iii)重鎖可変領域のCDR3が配列番号13のアミノ酸配列を含み、
iv)軽鎖可変領域のCDR1が配列番号20のアミノ酸配列を含み、
v)軽鎖可変領域のCDR2が配列番号23のアミノ酸配列を含み、
vi)軽鎖可変領域のCDR3が配列番号26のアミノ酸配列を含む
抗体を提供する。
【0031】
関連する態様では、本発明はPCSK9に結合する抗体であって、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、重鎖可変領域および軽鎖可変領域がそれぞれ以下の3種類の相補性決定領域(CDR):CDR1、CDR2およびCDR3を含み、
i)重鎖可変領域のCDR1が配列番号7のアミノ酸配列を含み、
ii)重鎖可変領域のCDR2が配列番号10のアミノ酸配列を含み、
iii)重鎖可変領域のCDR3が配列番号12のアミノ酸配列を含み、
iv)軽鎖可変領域のCDR1が配列番号21のアミノ酸配列を含み、
v)軽鎖可変領域のCDR2が配列番号24のアミノ酸配列を含み、
vi)軽鎖可変領域のCDR3が配列番号26のアミノ酸配列を含む
抗体を提供する。
【0032】
関連する態様では、本発明はPCSK9に結合する抗体であって、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、重鎖可変領域および軽鎖可変領域がそれぞれ以下の3種類の相補性決定領域(CDR):CDR1、CDR2およびCDR3を含み、
i)重鎖可変領域のCDR1が配列番号7のアミノ酸配列を含み、
ii)重鎖可変領域のCDR2が配列番号10のアミノ酸配列を含み、
iii)重鎖可変領域のCDR3が配列番号13のアミノ酸配列を含み、
iv)軽鎖可変領域のCDR1が配列番号21のアミノ酸配列を含み、
v)軽鎖可変領域のCDR2が配列番号24のアミノ酸配列を含み、
vi)軽鎖可変領域のCDR3が配列番号26のアミノ酸配列を含む
抗体を提供する。
【0033】
他の態様では、本発明は本明細書で記載したような抗体または抗原結合分子および生理学的に適合できる賦形剤を含む組成物を提供する。
【0034】
いくつかの実施形態では、この組成物はさらに、個体において低密度リポタンパク質コレステロール(LDL−C)レベルを低下させる第2の薬剤を含む。
【0035】
いくつかの実施形態では、この第2の薬剤はスタチンである。例えば、スタチンは、アトルバスタチン、セリバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、メバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチンおよびシンバスタチンからなる群から選択することができる。
【0036】
いくつかの実施形態では、第2の薬剤が、フィブラート、ナイアシンおよびそれらの類似体、コレステロール吸収阻害剤、胆汁酸捕捉剤、甲状腺ホルモン様物質、ミクロソームトリグリセリド輸送タンパク質(MTP)阻害剤、ジアシルグリセロールアセチルトランスフェラーゼ(acyltransferase)(DGAT)阻害剤、PCSK9を標的とする阻害性核酸およびapoB100を標的とする阻害性核酸からなる群から選択される。
【0037】
他の態様では、本発明は、LDL−C、非HDL−Cおよび/または全コレステロールの低下を必要とする個体におけるLDL−C、非HDL−Cおよび/または全コレステロールの低下方法であって、個体に本明細書で記載したような抗体または抗原結合分子の治療有効量を投与することを含む方法を提供する。
【0038】
いくつかの実施形態では、個体は、スタチン治療に低応答性または耐性である。いくつかの実施形態では、個体はスタチン治療に不耐性である。いくつかの実施形態では、個体のベースラインLDL−Cレベルは、少なくとも約100mg/dL、例えば、少なくとも約110、120、130、140、150、160、170、180、190mg/dLであるかまたはそれを上回る。いくつかの実施形態では、個体は家族性高コレステロール血症を有する。いくつかの実施形態では、個体はトリグリセリド血症を有する。いくつかの実施形態では、個体は機能獲得型PCSK9遺伝子変異を有する。いくつかの実施形態では、薬剤誘導性脂質代謝異常を有する。
【0039】
いくつかの実施形態では、全コレステロールがLDL−Cと共に低下する。
【0040】
いくつかの実施形態では、方法がLDL−Cの低下に有効な第2の薬剤の治療有効量を個体に投与することをさらに含む。
【0041】
いくつかの実施形態では、第2の薬剤はスタチンである。例えば、スタチンは、アトルバスタチン、セリバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、メバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチンおよびシンバスタチンからなる群から選択することができる。
【0042】
いくつかの実施形態では、第2の薬剤が、フィブラート、ナイアシンおよびそれらの類似体、コレステロール吸収阻害剤、胆汁酸捕捉剤、甲状腺ホルモン様物質、ミクロソームトリグリセリド輸送タンパク質(MTP)阻害剤、ジアシルグリセロールアセチルトランスフェラーゼ(DGAT)阻害剤、PCSK9を標的とする阻害性核酸およびapoB100を標的とする阻害性核酸からなる群から選択される。
【0043】
いくつかの実施形態では、抗体または抗原結合分子および第2の薬剤は混合物として同時投与される。
【0044】
いくつかの実施形態では、抗体または抗原結合分子および第2の薬剤は別々に同時投与される。
【0045】
いくつかの実施形態では、抗体は静脈内投与される。いくつかの実施形態では、抗体は皮下投与される。
【0046】
定義
「抗体」とは、イムノグロブリンファミリーのポリペプチドまたは非共有的、可逆的、かつ特異的な様式で対応する抗原に結合することができるイムノグロブリンの断片を含むポリペプチドを意味する。抗体構造単位の一例には、テトラマーが含まれる。各テトラマーは、2つの同一なポリペプチド鎖対から構成され、各対は、ジスルフィド結合によって連結した1本の「軽」鎖(約25kD)および1本の「重」鎖(約50〜70kD)を有する。確認されたイムノグロブリン遺伝子には、κ、λ、α、γ、δ、εおよびμ定常領域遺伝子ならびに無数のイムノグロブリン可変領域遺伝子が含まれる。軽鎖は、κまたはλのいずれかとして分類される。重鎖は、γ、μ、α、δまたはεとして分類され、次に、それぞれイムノグロブリンクラスIgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEを決定する。各鎖のN末端は、抗原認識に主に関与する約100個から110個以上のアミノ酸の可変領域を決定する。可変軽鎖(V
L)および可変重鎖(V
H)という用語はそれぞれ、軽鎖および重鎖のこれらの領域を意味する。本出願で使用したように、「抗体」は、特に、例えばPCSK9に対して、特定の結合性を有する抗体およびその断片の変種全てを包含する。したがって、この概念の範囲内には、完全長抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、1本鎖抗体(ScFv)、Fab、Fab’および同じ結合特異性を有するこれらの断片の多量体変種(例えば、F(ab’)
2)が存在する。
【0047】
「相補性決定ドメイン」または「相補性決定領域(「CDR」)は同義で、V
LおよびV
Hの超可変領域を意味する。CDRとは、このような標的タンパク質に特異性を有する抗体鎖の標的タンパク質結合部位である。ヒトV
LまたはV
Hそれぞれには3つのCDR(CDR1〜3、N末端から順番に番号付け)があり、可変ドメインの約15〜20%を構成する。CDRは、標的タンパク質のエピトープに対して構造的に相補的であり、したがって、結合特異性に直接関与する。V
LまたはV
Hの残りの連続部分、いわゆるフレームワーク領域は、アミノ酸配列の変動が少ないことが示された(Kuby, Immunology, 4th ed., Chapter 4. W.H. Freeman & Co., New York, 2000)。
【0048】
CDRおよびフレームワーク領域の位置は、当業界で周知の様々な定義法、例えば、Kabat,Chothia,international ImMunoGeneTicsデータベース(IMGT)(ワールドワイドウェブimgt.cines.fr/)およびAbM(例えば、Johnson et al., Nucleic Acids Res., 29:205-206 (2001);Chothia and Lesk, J. Mol. Biol., 196:901-917 (1987);Chothia et al., Nature, 342:877-883 (1989);Chothia et al., J. Mol. Biol., 227:799-817 (1992);Al-Lazikani et al., J.Mol.Biol., 273:927-748 (1997)を参照のこと)を使用して決定する。抗原結合(combining)部位の定義はまた、以下に記載されている:Ruiz et al., Nucleic Acids Res., 28:219?221 (2000)およびLefranc, M.P., Nucleic Acids Res., 29:207-209 (2001);MacCallum et al., J. Mol. Biol., 262:732-745 (1996)およびMartin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86:9268?9272 (1989);Martin et al., Methods Enzymol., 203:121?153 (1991)およびRees et al., In Sternberg M.J.E. (ed.), Protein Structure Prediction, Oxford University Press, Oxford, 141?172 (1996)。
【0049】
「結合特異性決定基」または「BSD」という用語は同義で、抗体の結合特異性を決定するために必要な相補性決定領域内の最小限の連続または非連続アミノ酸配列を意味する。最小限の結合特異性決定基は、1個または複数のCDR配列内にあってもよい。いくつかの実施形態では、最小限の結合特異性決定基は、抗体の重鎖および軽鎖のCDR3配列の一部または完全長内に存在する(すなわち、それによってのみ決定される)。
【0050】
本明細書で使用した「抗体軽鎖」または「抗体重鎖」はそれぞれ、V
LまたはV
Hを含むポリペプチドを意味する。内在性V
Lは、遺伝子セグメントV(可変)およびJ(連結)によってコードされ、内在性V
HはV、D(多様性)およびJによってコードされる。V
LまたはV
Hのそれぞれは、CDRおよびフレームワーク領域を含む。本出願では、抗体軽鎖および/または抗体重鎖は、時々、集合的に「抗体鎖」を意味することもある。これらの用語には、当業者であれば容易に理解するように、V
LまたはV
Hの基本構造を破壊しない変異を含有する抗体鎖が包含される。
【0051】
抗体は、完全なイムノグロブリンとして、または様々なペプチダーゼで消化することによって生成したいくつかの良く特徴付けられた断片として存在する。したがって、例えば、ペプシンはヒンジ領域のジスルフィド結合より下で抗体を消化して、それ自体がFab’の二量体、F(ab)’
2を生じ、Fab’はV
H−C
H1にジスルフィド結合によって連結した軽鎖である。F(ab)’
2は、穏和な条件下で還元され、ヒンジ領域のジスルフィド結合が切断し、それによってF(ab)’
2二量体はFab’単量体に変換される。Fab’単量体はヒンジ領域の一部を含むが、本質的にはFabである。Paul, Fundamental Immunology 3d ed. (1993)。様々な抗体断片が完全な抗体の消化に関して定義されているが、当業者であれば、このような断片は化学的に、または組換えDNA法を使用することによって、新たに合成できることを理解するであろう。したがって、本明細書で使用したように、「抗体」という用語はまた、抗体全体の改変によって生成した抗体断片、または組換えDNA法を使用して新たに合成された抗体断片(例えば、1本鎖Fv)またはファージディスプレーライブラリーを使用して同定された抗体断片を含む(例えば、McCafferty et al., Nature 348:552-554 (1990)を参照のこと)。
【0052】
モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体の調製では、当業界で公知の任意の技術を使用することができる(例えば、Kohler & Milstein, Nature 256:495-497 (1975);Kozbor et al., Immunology Today 4:72 (1983);Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, pp. 77-96. Alan R. Liss, Inc. 1985を参照のこと)。1本鎖抗体を生成するための技術(米国特許第4,946,778号)は、本発明のポリペプチドに対する抗体の生成に適合させることができる。また、トランスジェニックマウス、またはその他の生物、例えば、その他の哺乳類を、ヒト化抗体の発現のために使用することができる。あるいは、ファージディスプレー技術は、選択した抗原に特異的に結合する抗体およびヘテロマーFab断片を同定するために使用することができる(例えば、McCafferty et al.、前述; Marks et al., Biotechnology, 10:779-783, (1992)を参照のこと)。
【0053】
非ヒト抗体のヒト化または霊長類化の方法は、当業界では周知である。一般的に、ヒト化抗体は、非ヒトである原料からヒト化抗体に導入された1個または複数のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基は、移入残基(import residue)と呼ばれることが多く、通常は移入可変ドメインから得られる。ヒト化は、齧歯類のCDR(複数)配列またはCDR配列をヒト抗体の対応する配列と置換することによって、Winterおよび共同研究者の方法(例えば、Jones et al., Nature 321:522-525 (1986);Riechmann et al., Nature 332:323-327 (1988);Verhoeyen et al., Science 239:1534-1536 (1988)およびPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596 (1992)を参照のこと)にしたがって本質的に実施することができる。したがって、このようなヒト化抗体は、キメラ抗体(米国特許第4,816,567号)であり、完全なヒト可変ドメインよりも実質的に少ない部分が非ヒト種の対応する配列によって置換されている。実際に、ヒト化抗体は通常、いくつかの相補性決定領域(CDR)残基およびおそらくいくつかのフレームワーク(「FR」)残基が齧歯類抗体の類似部位の残基によって置換されているヒト抗体である。
【0054】
「キメラ抗体」とは、(a)抗原結合部位(可変領域)が、異なるかまたは変化したクラス、エフェクター機能および/または種類の定常領域、またはキメラ抗体に新たな特性を与える全く異なる分子、例えば、酵素、毒素、ホルモン、成長因子および薬剤に結合するように定常領域またはその一部が変化、置換または交換しているか、あるいは(b)可変領域、またはその一部が、異なるかまたは変化した抗原特異性を有する可変領域で変化しているか、置換または交換している抗体分子である。
【0055】
本発明の抗体または抗原結合分子はさらに、化学的に結合した、またはその他のタンパク質との融合タンパク質として発現した、1個または複数のイムノグロブリン鎖を含む。二特異性抗体も含む。二特異性または二機能性抗体は、2個の異なる重鎖/軽鎖対および2個の異なる結合部位を有する人工的なハイブリッド抗体である。本発明のその他の抗原結合断片または抗体部分には、2価scFv(二重特異性抗体(diabody))、抗体分子が2個の異なるエピトープを認識する二特異性scFv抗体、単一の結合ドメイン(dAb)および小型抗体(minibody)が含まれる。
【0056】
本明細書で記載した様々な抗体または抗原結合断片は、完全な抗体の酵素的もしくは化学的改変によって生成することができるか、または組換えDNA法を使用して新たに合成することができ(例えば、1本鎖Fv)、またはファージディスプレーライブラリーを使用して同定することができる(例えば、McCafferty et al., Nature 348:552-554, 1990を参照のこと)。例えば、小型抗体は、当業界で記載された方法、例えば、Vaughan and Sollazzo, Comb Chem High Throughput Screen. 4:417-30 2001を使用して作製することができる。二特異性抗体は、ハイブリドーマの融合またはFab’断片の結合を含む様々な方法によって生成することができる。例えば、Songsivilai & Lachmann, Clin. Exp. Immunol. 79:315-321 (1990); Kostelny et al., J. Immunol. 148, 1547-1553 (1992))を参照のこと。1本鎖抗体は、ファージディスプレーライブラリーまたはリボソームディスプレーライブラリー、遺伝子シャッフルライブラリーを使用して同定することができる。このようなライブラリーは、合成、半合成または天然および免疫適格性材料から構築することができる。
【0057】
「キメラ抗体」とは、(a)抗原結合部位(可変領域)が、異なるかまたは変化したクラス、エフェクター機能および/または種類の定常領域、またはキメラ抗体に新たな特性を与える全く異なる分子、例えば、酵素、毒素、ホルモン、成長因子および薬剤等に結合するように定常領域またはその一部が変化、置換または交換しているか、あるいは(b)可変領域、またはその一部が、異なるかまたは変化した抗原特異性を有する可変領域で変化しているか、置換または交換している抗体分子である。例えば、以下の実施例で示したように、マウス抗PCSK9抗体は、その定常領域をヒトイムノグロブリンの定常領域と置換することによって改変することができる。ヒト定常領域と置換することによって、キメラ抗体はヒトPCSK9の認識においてその特異性を保持することができる一方、元のマウス抗体と比較してヒトにおける抗原性が低下する。
【0058】
「抗体結合分子」または「非抗体リガンド」という用語は、非イムノグロブリンタンパク質骨格を使用する抗体様物質を意味しており、アドネクチン、アビマー、1本鎖ポリペプチド結合分子および抗体様結合ペプチド様物質が含まれる。
【0059】
「可変領域」または「V領域」という用語は同義で、FR1−CDR1−FR2−CDR2−FR3−CDR3−FR4を含む重鎖または軽鎖を意味する。
図1参照のこと。内在性可変領域は、イムノグロブリン重鎖V−D−J遺伝子または軽鎖V−J遺伝子によってコードされる。V領域は、天然に生じるか、組換えられているか、または合成されていてもよい。
【0060】
本明細書で使用したように、「可変セグメント」または「Vセグメント」という用語は同義で、FR1−CDR1−FR2−CDR2−FR3を含む可変領域の部分配列である。
図1参照のこと。内在性Vセグメントは、イムノグロブリンV遺伝子によってコードされる。Vセグメントは、天然に生じるか、組換えられているか、または合成されていてもよい。
【0061】
本明細書で使用したように、「Jセグメント」という用語は、CDR3およびFR4のC末端部分を含む、コードされた可変領域の部分配列を意味する。内在性Jセグメントは、イムノグロブリンJ遺伝子によってコードされる。
図1参照のこと。Jセグメントは、天然に生じるか、組換えられているか、または合成されていてもよい。
【0062】
「ヒト化」抗体は、非ヒト抗体の反応性を保持する一方、ヒトにおける免疫原性が少ない抗体である。これは、例えば、非ヒトCDR領域を保持し、抗体の残存する部分をヒトの対応部分と置換することによって実現することができる。例えば、Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851-6855 (1984); Morrison and Oi, Adv. Immunol., 44:65-92 (1988); Verhoeyen et al., Science, 239:1534-1536 (1988); Padlan, Molec. Immun., 28:489-498 (1991); Padlan, Molec. Immun., 31(3):169-217 (1994)を参照のこと。
【0063】
「対応するヒト生殖系列配列」という用語は、ヒト生殖系列イムノグロブリン可変領域配列によってコードされた公知のその他の可変領域アミノ酸配列全てと比較して、参照可変領域アミノ酸配列または部分配列との決定されたアミノ酸配列同一性が最高であるヒト可変領域アミノ酸配列または部分配列をコードする核酸配列を意味する。対応するヒト生殖系列配列はまた、その他の評価された可変領域アミノ酸配列全てと比較して、参照可変領域アミノ酸配列または部分配列とのアミノ酸配列同一性が最高であるヒト可変領域アミノ酸配列または部分配列を意味することができる。対応するヒト生殖系列配列は、フレームワーク領域のみ、相補性決定領域のみ、フレームワークおよび相補性決定領域、可変セグメント(上記で定義)または可変領域を含む配列もしくは部分配列のその他の組み合わせであってもよい。配列同一性は、本明細書で記載した方法、例えば、BLAST、ALIGNまたは当業界で公知の別の配列比較アルゴリズムを使用して、2つの配列をアラインメントさせることによって決定することができる。対応するヒト生殖系列核酸配列またはアミノ酸配列は、参照可変領域核酸配列またはアミノ酸配列と少なくとも約90%、92%、94%、96%、98%、99%の配列同一性を有することができる。対応するヒト生殖系列配列は、例えば、公式に利用可能な国際的ImMunoGeneTicsデータベース(IMGT)(ワールドワイドウェブimgt.cines.fr/)およびV−base(ワールドワイドウェブvbase.mrc−cpe.cam.ac.uk)によって決定することができる。
【0064】
抗原、例えば、タンパク質と抗体または抗体由来の結合物質との間の相互作用を述べる場合に使用したときの「特異的に(または選択的に)結合する」という表現は、タンパク質およびその他の生物学的物質の不均一な集団、例えば、生物学的試料、例えば、血液、血清、血漿または組織試料中における抗原の存在を決定する結合反応を意味する。したがって、指定した免疫アッセイ条件下では、特定の結合特異性を有する抗体または結合物質は、背景の少なくとも2倍で特定の抗原と結合し、試料中に存在するその他の抗原とは有意な量では実質的に結合しない。このような条件下での抗体または結合物質の特異的結合には、抗体または物質が特定のタンパク質に対する特異性で選択されることが必要であり得る。所望であれば、または適切であれば、この選択は、例えば、その他の種(例えば、マウス)のPCSK9分子またはその他のPCSK亜型と交差反応する抗体を差し引くことによって実現することができる。様々なイムノアッセイ形式を、特定のタンパク質と特異的に免疫反応する抗体を選択するために使用してもよい。例えば、固相ELISAイムノアッセイは、タンパク質と特異的に免疫反応する抗体を選択するために日常的に使用される(例えば、イムノアッセイ形式および特異的免疫反応を測定するために使用できる条件についての説明は、Harlow & Lane, Using Antibodies, A Laboratory Manual (1998)を参照のこと)。典型的は、特異的または選択的結合反応は、背景シグナルの少なくとも2倍のシグナルを生成し、より典型的には背景の少なくとも10から100倍のシグナルを生成する。
【0065】
「平衡解離定数(K
D、M)」という用語は、結合速度定数(k
a、時間
−1、M
−1)によって除した解離速度定数(K
d、時間
−1)を意味する。平衡解離定数は、当業界で公知の任意の方法を使用して測定することができる。本発明の抗体の平衡解離定数は一般的に、約10
−7または10
−8M未満、例えば、約10
−9Mまたは10
−10M未満、いくつかの実施形態では、約10
−11M、10
−12Mまたは10
−13M未満である。
【0066】
本明細書で使用したように、「抗原結合領域」という用語は、分子とPCSK9の特異的結合に関与する本発明のPCSK9結合分子のドメインを意味する。抗原結合領域には、少なくとも1個の抗体重鎖可変領域および少なくとも1個の抗体軽鎖可変領域が含まれる。本発明の各PCSK9結合分子にはこのような抗原結合領域が少なくとも1個存在し、抗原結合領域はそれぞれその他のものと同一であるかまたは異なっていてもよい。いくつかの実施形態では、本発明のPCSK9結合分子の抗原結合領域の少なくとも1個はPCSK9のアンタゴニストとして作用する。
【0067】
本明細書で使用した「アンタゴニスト」という用語は、標的分子に特異的に結合して標的分子の活性を阻害することができる薬剤を意味する。例えば、PCSK9のアンタゴニストは、PCSK9に特異的に結合し、PCSK9媒介によるLDLRの分解を完全に、または部分的に阻害する。PCSK9媒介によるLDLRの分解の阻害は、PCSK9のLDLRへの結合を妨害してもよく、または妨害しなくてもよい。いくつかの場合において、PCSK9アンタゴニストは、PCSK9に結合しPCSK9のLDLRへの結合を阻害する能力によって同定することができる。PCSK9媒介によるLDLRの分解が、本発明のアンタゴニストに曝露したときに生じる阻害は、対照の存在下またはアンタゴニストなしでのPCSK9媒介による分解と比較して、少なくとも約10%低下している、例えば、少なくとも約25%、50%、75%低下しているか、または完全な阻害である。対照は、抗体もしくは抗原結合分子に曝露しないか、または別の抗原に特異的に結合する抗体もしくは抗原結合分子、またはアンタゴニストとしての機能を果たすことが知られていない抗PCSK9抗体もしくは抗原結合分子であってもよい。「抗体アンタゴニスト」とは、アンタゴニストが阻害抗体である場合を意味する。
【0068】
「PCSK9」または「プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9a型」という用語は同義で、分泌型サブチラーゼファミリーのプロテイナーゼKサブファミリーに属する天然に生じるヒトプロタンパク質転換酵素を意味する。PCSK9は、小胞体において自己触媒的細胞内プロセシングを受ける可溶性酵素前駆体として合成され、プロタンパク質転換酵素として機能を果たすと考えられている。PCSK9は、コレステロール恒常性維持において役割を果たし、皮質ニューロンの分化において役割を担う可能性がある。このPCSK9遺伝子における変異は、常染色体優性家族性高コレステロール血症の形態に関連づけられている。例えば、Burnett and Hooper, Clin Biochem Rev (2008) 29(1):11-26を参照のこと。PCSK9の核酸配列およびアミノ酸配列は公知で、それぞれジェンバンク受入番号NM_174936.2およびNP_777596.2として発表された。本明細書で使用したように、PCSK9ポリペプチドは、LDLRに機能的に結合し、LDLRの分解を促進する。構造的に、PCSK9アミノ酸配列は、ジェンバンク受入番号NP_777596.2のアミノ酸配列と少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有する。構造的に、PCSK9核酸配列は、ジェンバンク受入番号NM_174936.2の核酸配列と少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有する。
【0069】
「PCSK9機能獲得型突然変異」という表現は、例えば、LDLR分解の増加およびLDLRレベルの低下による家族性高コレステロール血症表現型、加速化アテローム硬化症および早期冠状動脈心疾患(premature coronary heart disease)に関連した、かつ/または原因となる、PCSK9遺伝子中に生じる天然の突然変異を意味する。PCSK9機能獲得型突然変異の対立遺伝子出現頻度は稀である。Burnett and Hooper, Clin Biochem Rev. (2008) 29(1):11-26を参照のこと。PCSK9機能獲得型突然変異の例には、D129N、D374H、N425SおよびR496Wが含まれる。Fasano, et al., Atherosclerosis (2009) 203(1):166-71を参照のこと。PCSK9機能獲得型突然変異は、例えば、Burnett and Hooper、前述;Fasano, et al、前述;Abifadel, et al., J Med Genet (2008) 45(12):780-6;Abifadel, et al., Hum Mutat (2009) 30(4):520-9およびLi, et al., Recent Pat DNA Gene Seq (2009) Nov. 1 (PMID 19601924)に概説されている。
【0070】
本発明のポリペプチドの「活性」とは、天然の細胞または組織におけるポリペプチドの構造的、調節的または生化学的機能を意味する。ポリペプチドの活性の例には、直接的活性および間接的活性の両方が含まれる。PCSK9の直接的活性の例は、LDLRへの結合およびPCSK9媒介によるLDLRの分解を含む、ポリペプチドとの直接的相互作用の結果である。PCSK9の場合の間接的活性の例は、ポリペプチドの直接的活性に対する細胞、組織、臓器または対象における表現型の変化または応答、例えば、増加した肝臓LDLRの低下、血漿HDL−Cの低下、血漿コレステロールの減少、スタチンに対する感受性の増加として観察される。
【0071】
核酸またはタンパク質に適用したときの「単離した」という用語は、核酸またはタンパク質が、天然の状態で関連しているその他の細胞成分を本質的に含まないことを意味する。好ましくは均一な状態である。乾燥しているか、または水溶液であってもよい。純度および均一性は通常、ポリアクリルアミドゲル電気泳動または高速液体クロマトグラフィーなどの化学分析技術を使用して測定する。調製物中に存在する主な種がタンパク質であれば、実質的に精製されている。特に、単離された遺伝子は、遺伝子に隣接し、関心のある遺伝以外のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームから分離されている。「精製した」という用語は、核酸またはタンパク質が電気泳動ゲルにおいて本質的に1本のバンドを生じることを意味する。特に、核酸またはタンパク質は少なくとも85%純粋、より好ましくは少なくとも95%純粋、最も好ましくは少なくとも99%純粋であることを意味する。
【0072】
「核酸」または「ポリヌクレオチド」という用語は、1本鎖または2本鎖の形態のデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)およびそれらのポリマーを意味する。特に限定はしないが、この用語は、参照核酸と類似の結合特性を有し、天然に生じるヌクレオチドと類似の方法で代謝される天然のヌクレオチドの公知の類似体を含有する核酸を包含する。特に指示がなければ、特定の核酸配列は、保存的に改変されたそれらの変異体(例えば、縮重コドン置換体)、対立遺伝子、オルソログ、SNPおよび相補的配列ならびに明瞭に指示された配列も非明示的に包含する。具体的には、縮重コドン置換は、1個または複数の選択される(または全ての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作製することによって実現することができる(Batzer et al., Nucleic Acid Res. 19:5081 (1991);Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260:2605-2608 (1985)およびRossolini et al., Mol. Cell. Probes 8:91-98 (1994))。
【0073】
「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」という用語は本明細書では同義で、アミノ酸残基のポリマーを意味する。この用語は、1個または複数のアミノ酸残基が対応する天然に生じるアミノ酸の人工的な化学模倣体であるアミノ酸ポリマー、ならびに天然に生じるアミノ酸ポリマーおよび天然には生じないアミノ酸ポリマーに適用される。
【0074】
「アミノ酸」という用語は、天然に生じるアミノ酸および合成アミノ酸ならびに天然に生じるアミノ酸と類似の方法で機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体を意味する。天然に生じるアミノ酸とは、遺伝子コードによってコードされるアミノ酸ならびに後で改変されるアミノ酸、例えば、ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン酸およびO−ホスホセリンである。アミノ酸類似体とは、天然に生じるアミノ酸と同じ基本化学構造、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基およびR基に結合したα炭素を有する化合物、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムを意味する。このような類似体は、改変されたR基(例えば、ノルロイシン)または改変されたペプチド主鎖を有するが、天然に生じるアミノ酸と同じ基本化学構造を保持する。アミノ酸模倣体とは、アミノ酸の一般的化学構造とは異なる構造を有するが、天然に生じるアミノ酸と類似の方法で機能する化合物を意味する。
【0075】
「保存的に改変された変異体」は、アミノ酸配列および核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された変異体とは、同一または本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸、または核酸がアミノ酸配列をコードしない場合は、本質的に同一な配列を意味する。遺伝子コードの縮重のため、多数の機能的に同一な核酸が任意の所与のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUは全てアミノ酸、アラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンによって特定される全ての位置において、コードするポリペプチドを変化させることなく、記載した対応するコドンのいずれかにコドンを変化させることができる。このような核酸の変動は、「サイレント変動」であり、保存的に改変された変動の一種である。ポリペプチドをコードする本明細書の全核酸配列はまた、核酸の可能な全サイレント変動を記載する。当業者であれば、核酸の各コドン(通常はメチオニンの唯一のコドンであるAUG、および通常はトリプトファンの唯一のコドンであるTGGを除く)は、機能的に同一の分子を生じるために改変することができることを認識するだろう。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変動は、記載した各配列に事実上含まれる。
【0076】
アミノ酸配列については、当業者であれば、コードされた配列の1個のアミノ酸またはごく少数のアミノ酸を変化させるか、付加するか、または欠失させる核酸、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質配列への個々の置換、欠失または付加は、その変化が化学的に類似したアミノ酸によるアミノ酸の置換を引き起こす場合、「保存的に改変された変異体」であることを認識するであろう。機能的に類似のアミノ酸をもたらす保存的置換の一覧は、当業界では周知である。このような保存的に改変された変異体はさらに、本発明の多形変異体、種間相同体および対立遺伝子を排除しない。
【0077】
以下の8群はそれぞれ、互いに保存的な置換であるアミノ酸を含む:1)アラニン(A)、グリシン(G)、2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q)4)アルギニン(R)、リシン(K)、5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V)、6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)、7)セリン(S)、トレオニン(T)および8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton, Proteins (1984)を参照のこと)。
【0078】
「配列同一性のパーセント」は、比較窓にわたって2種類の最適にアラインメントさせた配列を比較することによって決定され、比較窓中のポリヌクレオチド配列の一部は、2種類の配列の最適なアラインメントのために付加または欠失を含まない参照配列(例えば、本発明のポリペプチド)と比較して、付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含んでいてもよい。パーセントは、同一の核酸塩基またはアミノ酸残基が両配列内に生じる位置の数を測定して、一致した位置の数を出し、一致した位置の数を比較窓中の位置の全数によって除し、その結果に100を乗じて配列同一性のパーセントを出すことによって算出する。
【0079】
2種以上の核酸またはポリペプチド配列の場合、「同一な」またはパーセント「同一性」という用語は、配列が同じ2種以上の配列または部分配列を意味する。以下の配列比較アルゴリズムの1つを使用して、または手動のアラインメントおよび目視検査によって測定したときに、比較窓または指定した領域にわたって最大限対応するように比較し、アラインメントさせたとき、2種類の配列が特定のパーセントの同じアミノ酸残基またはヌクレオチドを有する場合(すなわち、特定の領域にわたって、または特定していないときは、参照配列の全配列にわたって、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%配列同一性を有する場合)、2種類の配列は「実質的に同一」である。本発明は、本明細書で例示したポリペプチドまたはポリヌクレオチドそれぞれに実質的に同一なポリペプチドまたはポリヌクレオチドを提供する(例えば、配列番号1〜5、15〜19および40〜41のいずれか1つに例示した可変領域、配列番号27〜31のいずれか1つに例示した可変セグメント、配列番号6〜14、20〜26のいずれか1つに例示したCDR、配列番号32〜39のいずれか1つに例示したFR、配列番号42〜45のいずれか1つに例示した核酸配列)。所望により、同一性は長さが少なくとも約15、25または50ヌクレオチドの領域にわたって、より好ましくは、長さが100から500または1000以上のヌクレオチドである領域にわたって、あるいは参照配列の全長にわたって存在する。アミノ酸配列に関して、同一性または実質的同一性は、長さが少なくとも5、10、15または20個のアミノ酸の領域にわたって、所望により長さが少なくとも約25、30、35、40、50、75または100個のアミノ酸にわたって、所望により少なくとも約150、200または250個のアミノ酸にわたって、あるいは参照配列の全長にわたって存在し得る。より短いアミノ酸配列、例えば、アミノ酸20個以下のアミノ酸配列に関して、本明細書で定義した保存的置換によって、1個または2個のアミノ酸残基が保存的に置換されているとき、実質的同一性が存在する。
【0080】
配列比較のため、通常、1配列は、試験配列を比較する参照配列とする。配列比較アルゴリズムを使用するとき、試験配列および参照配列をコンピュータに入力し、その後の位置を指定し、必要であれば、配列アルゴリズムプログラムパラメータを指定する。初期設定のプログラムパラメータを使用することができ、または代わりのパラメータを指定することもできる。次に、配列比較アルゴリズムによって、プログラムパラメータをベースにして、参照配列に対する試験配列のパーセント配列同一性を算出する。
【0081】
本明細書で使用した「比較窓」には、2種類の配列を最適にアラインメントさせた後、1配列を同数の連続した位置の参照配列と比較することができる20から600、通常約50から約200、より通常は約100から約150からなる群から選択される連続した位置の数のいずれか1個のセグメントに対する参照が含まれる。比較のための配列のアラインメント方法は、当業界では周知である。比較のための配列の最適なアラインメントは、例えば、Smith and Waterman (1970) Adv. Appl. Math. 2:482cの局所的相同性アルゴリズム、Needleman and Wunsch (1970) J. Mol. Biol. 48:443の相同性アラインメントアルゴリズム、Pearson and Lipman (1988) Proc. Nat’l. Acad. Sci. USA 85:2444の類似性検索方法、これらのアルゴリズムのコンピュータによる手法(GAP, BESTFIT, FASTA, and TFASTA in the Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WI)または手動のアラインメントおよび目視検査(例えば、Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology (1995 supplement)を参照のこと)によって実施することができる。
【0082】
パーセント配列同一性および類似性を決定するために適切なアルゴリズムの2つの例は、BLASTおよびBLAST2.0アルゴリズムで、それぞれAltschul et al. (1977) Nuc. Acids Res. 25:3389-3402およびAltschul et al. (1990) J. Mol. Biol. 215:403-410に記載されている。BLAST分析を実施するためのソフトウェアは、国立バイオテクノロジー情報センターから公式に利用可能である。このアルゴリズムは、まず、問い合わせ配列内の長さがWの短いワードであって、データベース配列内の同じ長さのワードとアライメントしたときに、ある正の値の閾値スコアTと一致するか、またはそれを満たすワードを同定することにより高スコア配列ペア(HSP)を同定することを含む。Tは、近傍ワードスコア閾値と呼ばれる(Altschul et al.、前述)。これら最初の近傍ワードヒットは、それらを含有するより長いHSPを見出す検索を開始するためのシードとして作用する。このワードヒットは、累積アライメントスコアを増加することができる限り、各配列に沿って両方向に伸長される。累積スコアは、ヌクレオチド配列については、パラメータM(一対の一致残基に対するリワードスコア;常に>0)およびN(不一致残基に対するペナルティスコア;常に<0)を用いて算出する。アミノ酸配列については、スコアリングマトリクスを用いて累積スコアを算出する。累積アライメントスコアが最高到達値から数量Xだけ低下した場合;負のスコアを有する残基アライメントが1個または複数累積したことにより累積スコアが0以下になった場合;またはいずれかの配列の末端に達した場合には、各方向におけるワードヒットの伸長が停止する。BLASTアルゴリズムパラメータW、T、およびXにより、アライメントの感度および速度が決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列用)は、既定値として、ワード長(W)11、期待値(E)10、M=5、N=−4、および両鎖の比較を用いる。アミノ酸配列については、BLASTPプログラムは、規定値として、ワード長3および期待値(E)10を用い、BLOSUM62スコアリングマトリクス(Henikoff and Henikoff (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915を参照のこと)は、アライメント(B)50、期待値(E)10、M=5、N=−4、および両鎖の比較を用いる。
【0083】
BLASTアルゴリズムはまた、2種類の配列の類似性の統計学的分析を実施する(例えば、Karlin and Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5787を参照のこと)。BLASTアルゴリズムによってもたらされた類似性の1測定値は、最小合計確率(P(N))であり、2種類のヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の一致が偶然生じる可能性の指標となる。例えば、試験核酸と参照核酸との比較において最小合計確率が約0.2未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満であるならば、その核酸は、参照配列と類似であると考えられる。
【0084】
2種類の核酸配列またはポリペプチドが実質的に同一であることの指標は、第1の核酸によってコードされたポリペプチドが、以下に説明したように、第2の核酸によってコードされたポリペプチドに対して生じた抗体と免疫学的に交差反応することである。したがって、ポリペプチドは通常、第2のポリペプチドと実質的に同一で、例えば、2種類のペプチドは保存的置換のみが異なる。2種類の核酸配列が実質的に同一である別の指標は、以下に説明したように、2種類の分子またはそれらの相補体がストリンジェントな条件下で互いにハイブリダイズすることである。2種類の核酸配列が実質的に同一であるさらに別の指標は、同じプライマーを使用して配列を増幅することができることである。
【0085】
本発明のPCSK9結合分子内で抗原結合領域がどのように連結するかを説明する場合に使用される「結合(link)」という用語は、物理的に領域を結合するために可能な手段全てを包含する。多数の抗原結合領域は、共有結合(例えば、ペプチド結合またはジスルフィド結合)または非共有結合などの化学的結合によって結合することが多く、直接的結合(すなわち、2種類の抗原結合領域の間にリンカーがない)であってもよく、または間接的結合(すなわち、2種類以上の抗原結合領域の間の少なくとも1個のリンカー分子による)であってもよい。
【0086】
「対象」、「患者」および「個体」という用語は同義で、哺乳類、例えば、ヒトまたは非ヒト霊長類哺乳類を意味する。哺乳類はまた、実験動物、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ハムスターであってもよい。いくつかの実施形態では、哺乳類は農業用哺乳類(例えば、ウマ、ヒツジ、ウシ、ブタ、ラクダ)または家畜哺乳類(例えば、イヌ、ネコ)であってもよい。
【0087】
「治療上許容される量」または「治療有効用量」は同義で、所望する結果を達成するために(すなわち、血漿非HDL−C、高コレステロール血症、アテローム性動脈硬化、冠動脈心疾患の減少)十分な量を意味する。いくつかの実施形態では、治療上許容される量は、所望しない副作用を誘導しないか、または引き起こさない。治療上許容される量は、まず低用量を投与し、次に、所望する効果が実現するまで、その用量を徐々に増加させることによって決定することができる。本発明のPCSK9拮抗抗体の「予防的有効用量」は、PCSK9の存在に関連した疾患症状(例えば、高コレステロール血症)の発症を防御するができ、「治療有効用量」は疾患症状の重症度の減少を引き起こすことができる。前記用語はまた、疾患症状のない期間の頻度を高め、持続期間を延長させることができる。「予防有効用量」および「治療有効用量」はまた、PCSK9の活性から生じた障害および疾患による機能障害または能力障害を予防するかまたは回復させることができる。
【0088】
「同時投与」という用語は、個体の血液における2種類の活性薬剤の同時存在を意味する。同時投与された活性薬剤は、同時に、または順次送達され得る。
【0089】
本明細書で使用したように、「本質的に構成される」という表現は、方法または組成物に含まれた活性のある医薬品の部類または種類ならびに方法または組成物の企図した目的のために不活性な任意の賦形剤を意味する。いくつかの実施形態では、「本質的に構成される」という表現は、本発明のアンタゴニスト抗PCSK9抗体以外の1種または複数の追加的活性薬剤の包含を明白に除外する。いくつかの実施形態では、「本質的に構成される」という表現は、本発明のアンタゴニスト抗PCSK9抗体以外の1種または複数の追加的活性薬剤および第2の同時投与された薬剤の包含を明白に除外する。
【0090】
「スタチン」という用語は、3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイムA(HMG−CoA)還元酵素の競合的阻害剤である薬理学的作用物質の種類を意味する。