(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明において判定される口腔状態とは、口腔疾患リスクおよび/または口腔衛生状態をいう。本発明において判定される口腔疾患リスクとは、例えば、う蝕リスク及び歯周病リスクをいう。また、本発明において判定される口腔衛生状態とは、例えば、口腔清潔度をいう。なお、これらのうち口腔清潔度は、特定の疾患のリスクを意味するものではないが、本発明においては、う蝕リスク、歯周病リスク、及び口腔清潔度を総称して「リスク」という場合がある。また、同様に、本発明においては、う蝕リスクのレベル、歯周病リスクのレベル、及び口腔清潔度のレベルを総称して「リスクレベル」という場合がある。なお、説明の便宜上、本明細書においては「レベル」と称するが、数値である必要はなく、任意の段階に区分されていればよい。
【0024】
う蝕リスクとは、虫歯への罹患しやすさ、及び虫歯の進行しやすさを示すリスクである。なお、本発明において、う蝕リスクには潜在的な虫歯の発症の危険性だけでなく、既に発症している状態を含む。う蝕リスクを反映するパラメータとしては、例えば、ミュータンス菌数、pH、酸緩衝能、グルコシルトランスフェラーゼ活性、スクロース濃度、グルコース濃度、有機酸濃度、乳酸濃度、及びミュータンス菌抗体との反応性が挙げられる。本発明においては、これらのパラメータから選択される1若しくは2、またはそれ以上のパラメータが測定されるのが好ましい。本発明において、う蝕リスクを反映するパラメータとしては、ミュータンス菌数、pH、及び酸緩衝能からなる群から選ばれる1若しくは2、またはそれ以上のパラメータを測定するのが好ましく、ミュータンス菌数、pH、及び酸緩衝能の3パラメータを測定するのがより好ましい。また、う蝕リスクを反映するパラメータとしては、少なくともミュータンス菌数を測定するのが好ましい。複数のパラメータを測定すれば、う蝕リスクのレベルを判定する際の信頼性が向上する。
【0025】
ミュータンス菌とはいわゆる虫歯菌であり、う蝕の原因菌である。ミュータンス菌としては、具体的には、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)及びストレプトコッカス・ソブリヌス(S. sobrinus)等が挙げられる。ミュータンス菌数が多い程、う蝕リスクが高まると考えられる。
【0026】
唾液のpHは、ミュータンス菌により生成される酸によって低下する。酸が大量に生成すると、歯の表面のエナメル質が溶け、う蝕が進行する。すなわち、唾液のpHが低いほど、う蝕リスクが高まると考えられる。
【0027】
酸緩衝能は、ミュータンス菌の生成する酸に対する抵抗力を示し、よって、酸緩衝能が低いほど、う蝕リスクが高まると考えられる。
【0028】
歯周病リスクとは、歯周病への罹患しやすさ、及び歯周病の進行しやすさを示すリスクである。なお、本発明において、歯周病リスクには潜在的な歯周病の発症の危険性だけでなく、既に発症している状態を含む。歯周病リスクを反映するパラメータとしては、例えば、カルシウム濃度、総タンパク質濃度、潜血量、白血球数、アルカリフォスファターゼ活性、亜硝酸濃度、乳酸脱水素酵素活性、リポ多糖濃度、歯周病菌抗体との反応性、γ−GTP濃度、アルブミン濃度、抗酸化度、及びα1−アンチトリプシン濃度が挙げられる。本発明においては、これらのパラメータから選択される1若しくは2、またはそれ以上のパラメータが測定されるのが好ましい。本発明において、歯周病リスクを反映するパラメータとしては、カルシウム濃度、総タンパク質濃度、潜血量、白血球数、アルカリフォスファターゼ活性、及び乳酸脱水素酵素活性からなる群から選ばれる1若しくは2、またはそれ以上のパラメータを測定するのが好ましく、カルシウム濃度、総タンパク質濃度、潜血量、及び白血球数からなる群から選ばれる1若しくは2、またはそれ以上のパラメータを測定するのがより好ましく、総タンパク質濃度、潜血量、及び白血球数からなる群から選ばれる1若しくは2、またはそれ以上のパラメータを測定するのがさらに好ましく、総タンパク質濃度、潜血量、及び白血球数の3パラメータを測定するのが特に好ましい。複数のパラメータを測定すれば、歯周病リスクのレベルを判定する際の信頼性が向上する。
【0029】
唾液中の総タンパク質濃度が高いほど、歯周病リスクが高いと考えられる。
【0030】
また、歯周病に伴い歯茎の組織が破壊されると唾液中に潜血が検出されることから、潜血の程度を測定することにより、歯周組織の破壊度を測定することができる。潜血が多いほど、歯周組織の破壊度が高く、歯周病リスクが高いと考えられる。
【0031】
また、歯周病の罹患部位には白血球が集まることから、白血球を測定することにより、歯周組織の炎症度を測定することができる。白血球数が多いほど、歯周組織の炎症度が高く、歯周病リスクが高いと考えられる。
【0032】
口腔清潔度とは、疾患を問わず、口腔衛生状態を反映するリスクである。口腔清潔度を反映するパラメータとしては、例えば、アンモニア濃度、総タンパク質濃度、総菌数、濁度、粘度、及び分泌量が挙げられる。本発明においては、これらのパラメータから選択される1若しくは2、またはそれ以上のパラメータが測定されるのが好ましい。本発明において、口腔清潔度を反映するパラメータとしては、アンモニア及び総タンパク質濃度からなる群から選ばれる少なくとも1のパラメータを測定するのが好ましく、アンモニア及び総タンパク質濃度の両パラメータを測定するのがより好ましい。複数のパラメータを測定すれば、口腔清潔度のレベルを判定する際の信頼性が向上する。
【0033】
高いアンモニア濃度は、口腔で菌が活発に繁殖している状態を示す。また、菌数が多い程、総タンパク質濃度も高くなる。よって、アンモニア濃度が高い程、及び総タンパク質濃度が高い程、口腔清潔度が低い、すなわちリスクが高いと考えられる。
【0034】
なお、歯周病リスクを反映するパラメータとして少なくとも総タンパク質濃度が選択され、且つ、口腔清潔度を反映するパラメータとして少なくとも総タンパク質濃度が選択されている場合、総タンパク質濃度は少なくとも1回測定されればよい。すなわち、総タンパク質濃度の測定結果は、歯周病リスクを反映するパラメータの測定結果および口腔清潔度を反映するパラメータの測定結果として共通に利用できる。
【0035】
また、本発明においては、あるリスクに対応するパラメータと、別のリスクに対応するパラメータとを組み合わせてリスクレベルの判定を行うことにより、当該あるリスクのリスクレベルの判定精度の向上が期待される。例えば、う蝕リスクを反映する1またはそれ以上のパラメータと、歯周病リスクおよび/または口腔清潔度を反映する1またはそれ以上のパラメータを組み合わせてう蝕リスクレベルの判定を行うことにより、う蝕リスクレベルの判定精度の向上が期待される。具体的には、例えば、ミュータンス菌数、pH、酸緩衝能、潜血量、白血球数、アンモニア濃度、および総タンパク質濃度を組み合わせてう蝕リスクレベルの判定を行ってもよい。以上の記載は歯周病リスクや口腔清潔度のレベルの判定を行う場合にも準用できる。
【0036】
また、本発明においては、上述したようなパラメータの測定結果と、被検者の個人データを組み合わせることにより、う蝕リスクのレベル、歯周病リスクのレベル、および/または口腔清潔度のレベルの判定精度の向上が期待される。被検者の個人データとして、具体的には、例えば、年齢、性別、喫煙の有無が挙げられる。
【0037】
なお、本発明において、「パラメータを測定する」とは、任意のパラメータを算出するためのデータを取得する工程を含んでいればよく、当該パラメータの値自体を算出する工程は含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。すなわち、各パラメータの値は、後述する各測定法により定量することができるが、パラメータの値自体を定量することは本発明の必須の構成要件ではない。例えば、本発明において、「ミュータンス菌数を測定する」とは、ミュータンス菌数の算出に用いられるデータ、例えばミュータンス菌数を反映する呈色反応の結果を示す任意の波長における反射率データを取得すればよく、そこからミュータンス菌数自体を算出する必要はない。
【0038】
測定されたパラメータは、リスクレベルの判定に用いることができる。なお、本発明において、「判定」とは、測定されたパラメータを指標として、閾値との比較によりリスクレベル等を決定することをいう。また、判定されたリスクレベルに基づき、医師等は被検者の口腔疾患リスクおよび/または口腔衛生状態を診断することができる。なお、「診断」とは、医師等による総合的な判断のことをいう。また、「ケア指導」とは、例えば、医師等が行う、診断結果に基づく指導のことをいう。
【0039】
(1)本発明の分析用具
本発明は、口腔状態を反映するパラメータを測定するために好適に用いることができる分析用具を提供する。本発明の分析用具の第1の態様は、以下の(A)、(B)、および(C)を備える分析用具である。
(A)口腔から得られる被検試料について、う蝕リスクを反映する1またはそれ以上のパラメータを測定するための試薬、
(B)口腔から得られる被検試料について、歯周病リスクを反映する1またはそれ以上のパラメータを測定するための試薬、及び
(C)口腔から得られる被検試料について、口腔清潔度を反映する1またはそれ以上のパラメータを測定するための試薬。
【0040】
以下、本発明の分析用具について、図面を参照して説明する。
【0041】
本発明の分析用具の一実施形態は、試験片である。本発明の分析用具の一実施形態である試験片を、本発明の試験片とも称する。
図1には、う蝕リスク、歯周病リスク、および口腔清潔度の3つ全てを測定できるよう構成された、本発明の分析用具の第1の態様の一実施形態である試験片1を例示する。
図1(A)は、試験片1の平面図であり、
図1(B)は、試験片1の正面図である。
図2は、本発明の分析用具の一実施形態における、試験片の吸収性担体部分の構造を示す正面図である。
【0042】
試験片1は、支持担体10と、支持担体10に担持されるう蝕リスク測定部11、歯周病リスク測定部12、及び口腔清潔度測定部13を備える。なお、測定部11、12、13の位置関係は任意である。
【0043】
う蝕リスク測定部11は、被検者のう蝕リスクを反映するパラメータを測定するための部位であり、吸収性担体11A、11B、11Cを備える。吸収性担体11A、11B、11Cは、う蝕リスクを反映するパラメータを測定するための試薬を保持する吸収性担体である。吸収性担体11Aは、例えば、被検試料について、ミュータンス菌数を測定するための試薬を保持する。吸収性担体11Bは、例えば、被検試料について、pHを測定するための試薬を保持する。吸収性担体11Cは、例えば、被検試料について、酸緩衝能を測定するための試薬を保持する。
【0044】
なお、
図1に示す実施形態では、う蝕リスク測定部11は3つの吸収性担体11A、11B、11Cを備えるが、う蝕リスク測定部11が備える吸収性担体の数は、測定すべきう蝕リスクを反映するパラメータの数に応じて増減され、通常、測定すべきパラメータ1種につき少なくとも1つの吸収性担体が備えられる。
【0045】
歯周病リスク測定部12は、被検者の歯周病リスクを反映するパラメータを測定するための部位であり、吸収性担体12A、12B、12Cを備える。吸収性担体12A、12B、12Cは、歯周病リスクを反映するパラメータを測定するための試薬を保持する吸収性担体である。吸収性担体12Aは、例えば、被検試料について、総タンパク質濃度を測定するための試薬を保持する。吸収性担体12Bは、例えば、被検試料について、潜血を測定するための試薬を保持する。吸収性担体12Cは、例えば、被検試料について、白血球数を測定するための試薬を保持する。
【0046】
なお、
図1に示す実施形態では、歯周病リスク測定部12は3つの吸収性担体12A、12B、12Cを備えるが、歯周病リスク測定部12が備える吸収性担体の数は、測定すべき歯周病リスクを反映するパラメータの数に応じて増減され、通常、測定すべきパラメータ1種につき少なくとも1つの吸収性担体が備えられる。
【0047】
口腔清潔度測定部13は、被検者の口腔清潔度を反映するパラメータを測定するための部位であり、吸収性担体13A、13Bを備える。吸収性担体13A、13Bは、口腔清潔度を反映するパラメータを測定するための試薬を保持する吸収性担体である。吸収性担体13Aは、例えば、被検試料について、アンモニア濃度を測定するための試薬を保持する。吸収性担体13Bは、例えば、被検試料について、総タンパク質濃度を測定するための試薬を保持する。
【0048】
なお、
図1に示す実施形態では、口腔清潔度測定部13は2つの吸収性担体13A、13Bを備えるが、口腔清潔度測定部13が備える吸収性担体の数は、測定すべき口腔清潔度を反映するパラメータの数に応じて増減され、通常、測定すべきパラメータ1種につき少なくとも1つの吸収性担体が備えられる。
【0049】
なお、う蝕リスクを反映するパラメータ、歯周病リスクを反映するパラメータ、及び口腔清潔度を反映するパラメータとして上に挙げたパラメータは単なる例示であり、上記のパラメータに限定されるものではない。各パラメータの詳細については後述する。
【0050】
また、
図1には、う蝕リスク測定部11、歯周病リスク測定部12、及び口腔清潔度測定部13に区分けして、各パラメータ測定用の吸収性担体を整列させた実施形態を記載したが、各パラメータ測定用の吸収性担体の位置関係は任意である。すなわち、各パラメータ測定用の吸収性担体は、各リスク測定部に区分けして整列していなくともよい。また各パラメータ測定用の吸収性担体は直線状に整列していてもよく、それ以外の任意の配列で整列していてもよい。各パラメータ測定用の吸収性担体の位置関係は、例えば、検出を肉眼で行うのか、あるいは検出機器を用いるのか、及び用いられる検出機器の種類等に応じて適宜設定できる。例えば、検出機器としては種々の反射率測定機器を好適に使用することができるが、検出機器としてポケットケムUA PU−4010(アークレイ株式会社製)を使用する場合には、各パラメータ測定用の吸収性担体は直線状に整列しているのが好ましい。また、本発明の試験片は、各パラメータの測定用試薬を保持する吸収性担体に加えて、任意の吸収性担体、例えば測定には用いられないダミーの吸収性担体を備えていてもよい。
【0051】
なお、歯周病リスクを反映するパラメータとして少なくとも総タンパク質濃度が選択され、且つ、口腔清潔度を反映するパラメータとして少なくとも総タンパク質濃度が選択されている場合、本発明の分析用具は、少なくとも1つの総タンパク質濃度測定用の吸収性担体を備えていればよい。すなわち、総タンパク質濃度の測定用担体は、歯周病リスクを反映するパラメータの測定用担体および口腔清潔度を反映するパラメータの測定用担体として共通に利用できる。
【0052】
吸収性担体としては、各パラメータを測定するための試薬を保持でき、且つ測定を妨害しない限りにおいて、いかなる担体でも使用できる。すなわち、吸収性担体としては、例えば、紙、セルロース、多孔質セラミック、化学繊維、合成樹脂製織布及び不織布を用いることができ、濾紙またはガラス繊維濾紙であるのが好ましい。濾紙やガラス繊維濾紙としては、例えば、市販のものを好適に用いることができる。
【0053】
支持担体としては、フィルム、シート、またはプレート状担体を好ましく用いることができる。支持担体は、プラスチック製であることが好ましく、プラスチックとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、及びポリ塩化ビニルなど種々のプラスチックを用いることができる。支持担体としては、特に、ポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルムが好ましい。また、支持担体は複合材であってもよく、ポリエステルとポリエチレンの複合材やポリエチレンとアルミを積層した複合材、その他種々の複合材が利用できる。支持担体の厚さは、10〜500μmであるのが好ましく、50〜300μmであるのがより好ましい。
【0054】
試薬を保持する吸収性担体は、被検試料を点着する吸収性担体を兼ねていてもよい。また、試薬を保持する吸収性担体とは別に、被検試料を点着する吸収性担体が備えられていてもよい。
図2には、試薬を保持する吸収性担体とは別に、被検試料を点着する吸収性担体が備えられている例として、試薬を保持する吸収性担体14Aと、被検試料を点着する吸収性担体14Bとが層状構造を構成する例を示す。試薬を保持する吸収性担体とは別に、被検試料を点着する吸収性担体が備えられる場合には、試薬を保持する吸収性担体と被検試料を点着する吸収性担体とは原則として接触しているが、例えば被検試料と試薬とを直接接触させずに測定することが要求される場合には、両吸収性担体を互いに接触させずに設置することもできる。互いに接触させずに設置する態様としては、例えば、両吸収性担体が隙間をあけて設置されている態様、あるいは両吸収性担体間に別の層を挟む態様、例えば細かい穴を設けたPET製フィルム等を挟む態様等が挙げられる。
図2には、試薬を保持する吸収性担体15Aと、被検試料を点着する吸収性担体15Bとを、スペーサー15Cを挟むことにより、互いに接触させずに設置した例を示す。また、本発明の試験片は、試薬を保持する吸収性担体と支持担体との間に、任意の部材、例えばPET製のフィルム等を備えていてもよい。
【0055】
本発明の試験片を製造する方法は、特に限定されず、本発明の試験片は、各パラメータの測定用試薬を予め保持させた各吸収性担体を支持担体に担持させることにより製造することができる。各パラメータを測定するための試薬を吸収性担体に保持させる手法は特に限定されず、例えば、吸収性担体を試薬溶液に浸漬してもよく、吸収性担体に試薬溶液を点着または塗布してもよい。上記のうち、吸収性担体を試薬溶液に浸漬するのが好ましい。なお、試薬溶液とは、任意のパラメータを測定するための試薬を含む溶液である。試薬を吸収性担体に保持させる工程は、複数回の浸漬ないし点着または塗布等の工程を含んでいてもよい。各試薬を保持させた吸収性担体は、乾燥させて以降の工程に用いることができる。各試薬を保持させた吸収性担体を、必要に応じて切断し、支持担体に担持させることにより、本発明の試験片を製造できる。また、本発明の試験片は、支持担体に予め担持させた各吸収性担体に各パラメータの測定用試薬を保持させることにより製造されてもよい。この場合には、吸収性担体に試薬溶液を点着または塗布することにより、各パラメータを測定するための試薬を吸収性担体に保持させ、その後乾燥させるのが好ましい。本発明の試験片において、吸収性担体を支持担体に担持させる方法は、特に制限されず、例えば、通常用いられる接着手法を好適に用いることができる。例えば、粘着テープにより貼付してもよく、接着剤により貼付してもよい。
【0056】
本発明の試験片に備わる各吸収性担体としては、各パラメータの測定手法に応じて設計した吸収性担体を用いることができる。また、本発明の試験片に備わる各吸収性担体としては、う蝕リスク、歯周病リスク、又は口腔清潔度を反映するパラメータを定量的に測定するための既知の試験片、例えば、尿一般試験などで用いられる乾式試験片、あるいは血液生化学一般試験などで用いられる乾式試験片等を、必要に応じて適宜改良して転用してもよい。
【0057】
また、本発明の試験片の一実施形態において、各測定用試薬は吸収性担体ではなく試験片上に直接保持されていてもよい。試験片上に直接保持される態様としては、例えば、試薬が支持担体上に直接保持されている態様が挙げられる。そのような試験片は、例えば、試薬を支持担体上に直接点着または塗布することにより製造できる。なお、測定すべき複数のパラメータについて、吸収性担体に測定用試薬が保持される態様と、試験片上に直接保持される態様が混在していてもよい。
【0058】
本発明の分析用具の他の実施形態は、各パラメータ測定用の試薬を備える分析用具を含むキットである。各パラメータ測定用の試薬を備える分析用具としては、例えば、各パラメータ測定用の試験紙が挙げられる。すなわち、測定すべきパラメータのそれぞれを測定するための試験紙を含むキットを以って本発明の分析用具としてもよい。例えば、う蝕リスクを反映するパラメータ測定用の試験紙、歯周病リスクを反映するパラメータ測定用の試験紙、及び口腔清潔度を反映するパラメータ測定用の試験紙を含む測定用キットは、本発明の分析用具の範囲に含まれる。測定用キットに含まれる分析用具は、例えば、各パラメータを任意の組み合わせで測定できるように構成された分析用具であってもよい。例えば、う蝕リスクを反映するパラメータ測定用の分析用具は、う蝕リスクを反映する2またはそれ以上のパラメータ測定用の分析用具であってもよい。また、例えば、歯周病リスクを反映するパラメータ測定用の分析用具は、歯周病リスクを反映する2またはそれ以上のパラメータ測定用の分析用具であってもよい。また、例えば、口腔清潔度を反映するパラメータ測定用の分析用具は、口腔清潔度を反映する2またはそれ以上のパラメータ測定用の分析用具であってもよい。また、例えば、測定用キットには、う蝕リスクを反映する1またはそれ以上のパラメータと歯周病リスクを反映する1またはそれ以上のパラメータを測定するための分析用具が含まれていてもよく、う蝕リスクを反映する1またはそれ以上のパラメータと口腔清潔度を反映する1またはそれ以上のパラメータを測定するための分析用具が含まれていてもよく、口腔清潔度を反映する1またはそれ以上のパラメータと歯周病リスクを反映する1またはそれ以上のパラメータを測定するための分析用具が含まれていてもよい。
【0059】
また、各パラメータ測定用の試薬を備える分析用具としては、例えば、各パラメータ測定用の任意の反応系が挙げられる。すなわち、例えば、試薬との反応をチューブ等の容器内で行うのであれば、各パラメータ測定用の試薬を含む反応用チューブ等の反応用容器を含むキットを以って本発明の分析用具としてもよい。例えば、う蝕リスクを反映するパラメータ測定用の試薬を含む反応用チューブ、歯周病リスクを反映するパラメータ測定用の試薬を含む反応用チューブ、及び口腔清潔度を反映するパラメータ測定用の試薬を含む反応用チューブを含む測定用キットは、本発明の分析用具の範囲に含まれる。
【0060】
本発明において、各パラメータを測定する方法は特に制限されず、当業者が適宜設定することができる。例えば、新たに開発された方法を用いてもよく、公知の方法を用いてもよい。以下、本発明において測定されうるパラメータの測定方法について例示する。
【0061】
<ミュータンス菌数>
ミュータンス菌数の測定は、特に制限されないが、例えば、レサズリンの還元反応を利用する方法やミュータンス菌に対する抗体を用いる方法により行うことができる。ミュータンス菌数の測定は、レサズリンの還元反応を利用する方法により行うのが好ましい。なお、このレサズリンの還元反応を利用する方法をレサズリン法とする。レサズリンは酸化還元指示薬であり、通常は酸化型の青色色素であるレサズリン(極大吸収波長605nm)として存在するが、ミュータンス菌を含むグラム陽性細菌の代謝により生じるNADHにより還元され、赤紫色色素(極大吸収波長573nm)であるレゾルフィンへと変換される。すなわち、ミュータンス菌の生菌数に応じてレサズリンの還元が進行する。また、レサズリン法を利用する場合の測定試薬は、レサズリンに加えて、さらに1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチルサルフェート(メトキシPMS)を含有するのが好ましい。メトキシPMSを含有する場合には、含有しない場合と比較して、室温で短時間の反応条件で測定するのに有効である。試薬の濃度は適宜設定することが可能であるが、吸収性担体を浸漬する試薬溶液におけるメトキシPMSの濃度は、好ましくは0.1〜1mMであり、より好ましくは0.1〜0.5mMである。
【0062】
レサズリン法によるミュータンス菌数測定用の吸収性担体としては、例えば、以下の手順で作製した試験紙を支持担体に設置して用いることができる。
(1)濾紙を、試薬溶液に浸漬する。当該試薬溶液は、30mMスクロース、0.2%ポリビニルアルコール、100mMリン酸緩衝液(pH6)、0.1mMメトキシPMS、及び0.12mMレサズリンを含有する。
(2)濾紙を、50℃で15分間乾燥させる。
(3)濾紙を5mm幅に切断する。
(4)断片をPETフィルムに貼付する。
(5)5mm幅に切断し、試験紙とする。
なお、上記手順において、試薬溶液の構成を他のパラメータ測定用の試薬構成に代えることにより、他のパラメータの測定用の吸収性担体を製造できることは言うまでもない。
【0063】
反応時間は適宜設定することが可能であるが、1−10分であるのが好ましい。また、検出機器により検出する際の検出条件は適宜設定することができる。例えば、上記手順で作製した試験紙を用い、検出機器としてポケットケムUA PU−4010(アークレイ株式会社製)を使用する場合には、5分の反応時間で、測定波長を635nm、参照波長を760nmとして測定を行うことができる。この条件では、レサズリンの還元反応の進行は、635nmの吸光度の減少として、すなわち635nmの光を照射した際の反射率の増加として検出される。測定結果を元に、レサズリンの消費量を算出でき、レサズリンの消費量からミュータンス菌数を算出することができる。なお、本発明において、レサズリンの還元反応を示すのは全てミュータンス菌であるとしてもよい。
【0064】
<唾液のpH>
唾液のpHは、特に制限されないが、例えば、pH指示薬により測定するのが好ましい。pH指示薬としては、既知の任意のpH指示薬を用いることができ、pH2〜9の範囲に変色域を有するpH指示薬を用いるのが好ましく、pH3〜8の範囲に変色域を有するpH指示薬を用いるのがより好ましい。また、pH指示薬としては、必要に応じて、複数のpH指示薬を混合して用いてもよく、例えば、ブロモクレゾールグリーンとブロモキシレノールブルーの複合試薬を好適に用いることができる。pH指示薬の濃度は適宜設定することが可能であるが、例えば、吸収性担体を浸漬する試薬溶液におけるブロモクレゾールグリーンの濃度は好ましくは0.1〜0.6mM、より好ましくは0.1〜0.4mMであり、ブロモキシレノールブルーの濃度は好ましくは0.6〜2mM、より好ましくは0.8〜1.8mMである。
【0065】
pH指示薬によるpH測定用の吸収性担体としては、例えば、オーションスティックス(アークレイ株式会社製)のpH測定用試験紙を用いることができる。当該試験紙は、100枚当たり、ブロモクレゾールグリーン0.07mgとブロモキシレノールブルー0.72mgを含有する。
【0066】
反応時間は適宜設定することが可能であるが、30秒〜5分であるのが好ましい。また、検出機器により検出する際の検出条件は適宜設定することができる。例えば、pH測定用の吸収性担体としてオーションスティックス(アークレイ株式会社製)のpH測定用試験紙を用い、検出機器としてポケットケムUA PU−4010(アークレイ株式会社製)を使用する場合には、60秒の反応時間で、測定波長を635nm、参照波長を760nmとして測定を行うことができる。測定結果を元に、pHを算出することができる。
【0067】
<唾液の酸緩衝能>
唾液の酸緩衝能は、特に制限されないが、例えば、pH指示薬を用いて測定するのが好ましい。測定原理としては、あらかじめ酸性緩衝剤及びpH指示薬を含有させた吸収性担体に、被検試料を接触させることで、指示薬の指示pHが、酸緩衝能が高いほど唾液の本来のpHに近づき、低いほど唾液の本来のpHより酸性域に近づくことを利用する。pH指示薬としては、既知の任意のpH指示薬を用いることができ、pH2〜9の範囲に変色域を有するpH指示薬を用いるのが好ましく、pH3〜8の範囲に変色域を有するpH指示薬を用いるのがより好ましい。また、pH指示薬としては、必要に応じて、複数のpH指示薬を混合して用いてもよく、例えば、ブロモクレゾールグリーンとブロモキシレノールブルーの複合試薬を好適に用いることができる。酸性緩衝剤としては、例えば、不揮発性の有機酸を好ましく用いることができる。不揮発性の有機酸としては、例えばクエン酸、リンゴ酸、酒石酸、マロン酸、シュウ酸、スルホサリチル酸、スルフアニル酸、安息香酸、トリカルバリル酸が挙げられる。この中では、酒石酸がより好ましい。また、酸性緩衝剤としては、メタリン酸等の無機酸を用いることもできる。また、酸性緩衝剤としては、例えばフタル酸水素カリウムとリン酸カリウムの混合物等の緩衝剤であってもよい。試薬の濃度は適宜設定することが可能であるが、例えば、吸収性担体を浸漬する試薬溶液におけるブロモクレゾールグリーンの濃度は好ましくは0.1〜0.6mM、より好ましくは0.1〜0.4mMであり、ブロモキシレノールブルーの濃度は好ましくは0.6〜2mM、より好ましくは0.8〜1.8mMであり、酒石酸の濃度は好ましくは0.1〜10mM、より好ましくは1〜6mMである。
【0068】
pH指示薬による酸緩衝能測定用の吸収性担体としては、例えば、以下の手順で作製した試験紙を支持担体に設置して用いることができる。
(1)濾紙を、試薬溶液に浸漬する。当該試薬溶液は、0.2mMブロモクレゾールグリーン、1.2mMブロモキシレノールブルー、0.05%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート、0.5%ヒドロキシプロピルセルロース、2mM酒石酸を含有する。
(2)濾紙を、50℃で15分間乾燥させる。
(3)濾紙を5mm幅に切断する。
(4)断片をPETフィルムに貼付する。
(5)5mm幅に切断し、試験紙とする。
なお、上記手順において、試薬溶液の構成を他のパラメータ測定用の試薬構成に代えることにより、他のパラメータの測定用の吸収性担体を製造できることは言うまでもない。
【0069】
反応時間は適宜設定することが可能であるが、30秒〜5分であるのが好ましい。また、検出機器により検出する際の検出条件は適宜設定することができる。例えば、酸緩衝能測定用の吸収性担体としてオーションスティックス(アークレイ株式会社製)のpH測定用試験紙を上記の通り改良して用い、検出機器としてポケットケムUA PU−4010(アークレイ株式会社製)を使用する場合には、60秒の反応時間で、測定波長を635nm、参照波長を760nmとして測定を行うことができる。測定結果を元に、pHを算出することができ、また、酸緩衝能を算出することができる。
【0070】
<カルシウム濃度>
カルシウム濃度の測定は、特に制限されないが、例えば、キレート法により行うのが好ましい。キレート法とは、カルシウムがキレート発色剤と結合すると色調が変化することを利用したカルシウム測定法である。キレート法としては、O−CPC法を用いるのが好ましい。O−CPC法とは、キレート発色剤としてオルト・クレゾールフタレイン・コンプレクソン(O−CPC)を用いた測定法であり、O−CPCは、アルカリ条件下でカルシウムと反応し深紅色のキレート化合物を生成する。
【0071】
キレート法によるカルシウム濃度測定用の吸収性担体としては、例えば、カルシウム濃度測定用キットであるスポットケム II カルシウム(アークレイ株式会社製)に含まれる試験紙を用いることができる。当該試験紙は、100枚当たり、O−CPC2.6mgを含有する。
【0072】
反応時間は適宜設定することが可能であるが、1〜5分であるのが好ましい。また、検出機器により検出する際の検出条件は適宜設定することができる。例えば、カルシウム濃度測定用の吸収性担体としてスポットケム II カルシウム(アークレイ株式会社製)に含まれる試験紙を用い、検出機器としてポケットケムUA PU−4010(アークレイ株式会社製)を使用する場合には、90秒の反応時間で、測定波長を565nm、参照波長を760nmとして測定を行うことができる。測定結果を元に、キレート化合物の量を算出することができ、また、キレート化合物の量からカルシウム濃度を算出することができる。
【0073】
<潜血>
潜血の測定は、特に制限されないが、例えば、ヘモグロビン接触活性法により行うのが好ましい。ヘモグロビン接触活性法とは、血液成分であるヘモグロビン、ミオグロビン、又はそれらの分解産物が、過酸化物(ペルオキシド)等の酸素供与体から、酸素受容体に酸素の移動を触媒する能力(ペルオキシダーゼ様活性)を有することを利用したものである。酸素受容体として、酸化により色調の変化する指示薬を用いることで、その呈色反応を測定することによりヘモグロビン等の検出を通して潜血の検出が可能となる。
【0074】
指示薬としては、血液成分であるヘモグロビン、ミオグロビン、又はそれらの分解産物により呈色反応を示す限り特に制限されず、例えば、アニリン類、フェノール類、o−トルイジン、p−トルイジン、o−フェニレンジアミン、N,N′−ジメチル−p−フェニレンジアミン、N,N′−ジエチル−p−フェニレンジアミン、p−アニシジン、ジアニシジン、o−トリジン、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、α−ナフトール、β−ナフトール、カテコール、グアヤコール、ピロガロール等を用いることができる。フェノール類としては、例えば、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMBZ)を好適に用いることができる。
【0075】
また、酸素供与体としては、ペルオキシド類が好ましく、ペルオキシド類としては、例えば、クメンハイドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンペルオキシド、パラメンタンハイドロペルオキシド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロペルオキシド等が好ましく用いられる。酸素供与体としては、例えば、クメンハイドロペルオキシドを好適に用いることができる。
【0076】
ヘモグロビン接触活性法による潜血測定用の吸収性担体としては、例えば、オーションスティックス(アークレイ株式会社製)の潜血測定用試験紙を用いることができる。当該試験紙は、100枚当たり、クメンハイドロペルオキシド30.0mgとTMBZ15.0mgを含有する。
【0077】
反応時間は適宜設定することが可能であるが、30秒〜5分であるのが好ましい。また、検出機器により検出する際の検出条件は適宜設定することができる。例えば、潜血測定用の吸収性担体としてオーションスティックス(アークレイ株式会社製)の潜血測定用試験紙を用い、検出機器としてポケットケムUA PU−4010(アークレイ株式会社製)を使用する場合には、60秒の反応時間で、測定波長を635nmとして測定を行うことができる。測定結果を元に、ヘモグロビン濃度を算出することができ、ヘモグロビン濃度から潜血量を算出することができる。
【0078】
<白血球数>
白血球数の測定は、特に制限されないが、例えば、白血球エステラーゼ法により行うのが好ましい。組織が炎症を起こした際には、白血球が増加するが、それに伴い白血球によるエステラーゼ産生もまた増大するためエステラーゼ活性を測定することで白血球数を算出できる。白血球エステラーゼ法とは、基質として用いたエステル化合物が白血球により産生されたエステラ−ゼ(白血球エステラーゼ)により加水分解されることで生じたアルコ−ル(フェノ−ル)成分を直接呈色させる、あるいは、ジアゾニウム塩とカップリングして呈色させることにより白血球数を測定する手法である。
【0079】
基質として用いるエステル化合物としては、直接呈色させる場合にはスルホンフタレインエステル類、またはアゾ染料エステル類等を用いることができ、他の指示薬とカップリングして呈色させる場合にはフェノキシ−アミノ酸エステル類、インドキシルエステル類、またはフェニルピロキシルエステル類等を用いることができる。インドキシルエステル類としては、例えば3−(N−トルエンスルホニル−L−アラニロキシ)インドール(TAI)を好適に用いることができる。カップリングして呈色させる場合の指示薬としては、ジアゾニウム塩を用いることができ、例えば、2−メトキシ−4−(N−モルホリノ)ベンゼンジアゾニウム塩を好適に用いることができる。エステル化合物として3−(N−トルエンスルホニル−L−アラニロキシ)インドールを用いた場合には、反応により生じるインドキシルを、例えば2−メトキシ−4−(N−モルホリノ)ベンゼンジアゾニウム塩(MMB)とカップリングさせることにより呈色させることができる。
【0080】
白血球エステラーゼ法による白血球測定用の吸収性担体としては、例えば、オーションスティックス(アークレイ株式会社製)の白血球測定用試験紙を用いることができる。当該試験紙は、100枚当たり、TAI0.49mgとMMB0.17mgを含有する。
【0081】
反応時間は適宜設定することが可能であるが、30秒〜5分であるのが好ましい。また、検出機器により検出する際の検出条件は適宜設定することができる。例えば、白血球測定用の吸収性担体としてオーションスティックス(アークレイ株式会社製)の白血球測定用試験紙を用い、検出機器としてポケットケムUA PU−4010(アークレイ株式会社製)を使用する場合には、60秒の反応時間で、測定波長を565nm、参照波長を760nmとして測定を行うことができる。測定結果を元に、エステラーゼ活性を算出することができ、エステラーゼ活性から白血球数を算出することができる。
【0082】
<タンパク質濃度>
総タンパク質濃度の測定は、特に制限されないが、例えば、タンパク誤差法により行うのが好ましい。タンパク誤差法とは、pH指示薬が、タンパク質の濃度に比例して、溶液の真のpHよりも高いpHを示すことを利用するタンパク質の測定法である。
【0083】
タンパク誤差法に利用できるpH指示薬としては、テトラブロモフェノールブルー(TBPB)、テトラブロモフェノールフタレーン、5’,5’’−ジニトロ−3’,3’’−ジヨード−3,4,5,6−テトラブロモフェノールスルフォフタレーン(DIDNTB)、クマシーブリリアントブルー、ファーストグリーンFCF、ライトグリーンSF等が挙げられ(例えば、米国特許4013416号等参照)、テトラブロムフェノールブルーが好適に用いられる。また、指示薬が水に不溶な場合は、アセトン、エタノール、メチルセロソルブ等の有機溶剤を用いて、試薬溶液を調整してもよい。また、呈色はpHの変動によっても生ずるため、pH緩衝剤を共存させるのが好ましい。また、反応は酸性条件下で行うのが好ましいため、pH緩衝剤としては酸性緩衝剤を用いるのが好ましい。酸性緩衝剤としては、不揮発性の有機酸を好ましく用いることができ、不揮発性の有機酸としては、例えばクエン酸、リンゴ酸、酒石酸、マロン酸、シュウ酸、スルホサリチル酸、スルフアニル酸、安息香酸、トリカルバリル酸が挙げられる。また、酸性緩衝剤としては、メタリン酸等の無機酸を用いることもできる。また、酸性緩衝剤としては、例えばフタル酸水素カリウムとリン酸カリウムの混合物等の緩衝剤であってもよい。酸性緩衝剤の濃度は、試料と接触すると、試料中に有意量のタンパク質が存在しなくてもタンパク質誤差指示薬が変色するのを防ぐのに十分な濃度であるのが好ましく、例えば浸漬、点着、又は塗布するための試薬溶液中に50〜1500mMで含まれるのが好ましく、1000〜1200mMで含まれるのがより好ましい。
【0084】
タンパク誤差法によるタンパク質測定用の吸収性担体としては、例えば、オーションスティックス(アークレイ株式会社製)のタンパク質測定用試験紙を用いることができる。当該試験紙は、100枚当たり、TBPB0.35mgを含有する。
【0085】
反応時間は適宜設定することが可能であるが、30秒〜5分であるのが好ましい。また、検出機器により検出する際の検出条件は適宜設定することができる。例えば、タンパク質測定用の吸収性担体としてオーションスティックス(アークレイ株式会社製)のタンパク質測定用試験紙を用い、検出機器としてポケットケムUA PU−4010(アークレイ株式会社製)を使用する場合には、60秒の反応時間で、測定波長を635nm、参照波長を760nmとして測定を行うことができる。測定結果を元に、総タンパク質濃度を算出することができる。
【0086】
<アンモニア>
アンモニアの定量は、特に制限されないが、例えば、好ましくは微量拡散法(コンウェイ法)により行われる。微量拡散法とは、アンモニア態窒素の定量に用いられる手法であり、試料から揮発する成分を吸収用溶液等にトラップし、それを比色等の手法により定量する手法である。アンモニア濃度の測定が微量拡散法により行われる場合には、本発明の試験片におけるアンモニア定量部位には、試薬を保持する吸収性担体(試薬層)とは別に、被検試料を点着する吸収性担体(試料層)が備えられ、両吸収性担体は互いに接触しないよう設置される。両吸収性担体は、例えば、細かい穴を設けたPET製フィルムを両吸収性担体間に挟むことで、互いに接触しないよう設置される。また、試料層はアルカリ緩衝剤、例えばホウ酸緩衝剤を保持する。試験片の試料層に被検試料を点着すると、試料層中のアルカリ緩衝剤が溶解して、試料はアルカリ性になる。試料中のアンモニウムイオンは、アルカリ条件下でアンモニア分子となり、アンモニアガスとして揮発し、例えばスペーサーの穴を通過して試薬層に移行する。試薬層中の指示薬がアンモニアガスと反応して発色する。
【0087】
pH指示薬としては、既知の任意のpH指示薬を用いることができる。pH指示薬としては、例えばブロムクレゾールグリーン、ブロムクレゾールパープル、クロルフェノールレッド等が用いられ、ブロムクレゾールグリーンが好適に用いられる。また、pH指示薬としては、必要に応じて、複数のpH指示薬を混合して用いてもよい。
【0088】
微量拡散法によるアンモニア測定用の吸収性担体としては、例えば、アンモニア測定用キットであるアミチェック(アークレイ株式会社製)に含まれる試験紙を用いることができる。当該試験紙は、100枚当たり、試料層にホウ酸42.6mgと水酸化ナトリウム18.7mgを含有し、試薬層にブロムクレゾールグリーン4.0mgを含有する。
【0089】
反応時間は適宜設定することが可能であるが、10秒〜5分であるのが好ましい。また、検出機器により検出する際の検出条件は適宜設定することができる。例えば、アンモニア測定用の吸収性担体としてアミチェック(アークレイ株式会社製)に含まれる試験紙を用い、検出機器としてポケットケムUA PU−4010(アークレイ株式会社製)を使用する場合には、被検試料を試料層に点着して20秒後に試料層とスペーサーを試薬層から剥離し、60秒後に測定波長を635nmとして試薬層の測定を行うことができる。測定結果を元に、アンモニア濃度を算出することができる。
【0090】
<乳酸脱水素酵素活性>
乳酸脱水素酵素活性の測定は、特に制限されないが、例えば、ホルマザン法により行われる。ホルマザン法とは、乳酸脱水素酵素がNADを補酵素とし、乳酸を酸化して生成されたNADHにより、ジアホラーゼを解してテトラゾリウム塩を呈色物質であるホルマザンに還元させる手法である。テトラゾリウム塩としては例えば、テトラゾリウムバイオレットを好適に用いることができる。
【0091】
<アルカリフォスファターゼ活性>
アルカリフォスファターゼ活性の測定は、特に限定されないが、例えば、p-ニトロフェニルリン酸法により行われる。p-ニトロフェニルリン酸法とは、アルカリフォスファターゼが基質であるp-ニトロフェニルリン酸を加水分解して生成される、呈色物質であるp-ニトロフェノールを定量する手法である。
【0092】
上記各測定法は、本発明の試験片上に設けられた吸収性担体において好適に利用することができる。また、上記各測定法は、吸収性担体を備える試験片を用いる場合に限られず、例えば、吸収性担体を備えない試験片を用いる場合や、チューブ等の容器内で試料と反応させる場合にも、試薬濃度や反応時間等を適宜設定して利用することができる。よって、本発明の分析用具は、う蝕リスク、歯周病リスク、及び口腔清潔度を反映するパラメータをそれぞれ短時間かつ一度の検査で測定するために好適に用いられる。また、本発明の分析用具を利用すれば、検査技師や医師等の検査技術に依存することなく、客観的且つ再現性及び信頼性のある測定を行うことができる。
【0093】
本発明の分析用具は、上述したようなう蝕リスク、歯周病リスク、及び口腔清潔度を反映するパラメータを測定できるよう構成される。すなわち、例えば、本発明の分析用具は、う蝕リスクを反映するパラメータとしてミュータンス菌数、pH、及び酸緩衝能からなる群から選ばれる1またはそれ以上のパラメータを測定でき、歯周病リスクを反映するパラメータとしてカルシウム濃度、総タンパク質濃度、潜血量、及び白血球数からなる群から選ばれる1またはそれ以上のパラメータを測定でき、かつ、口腔清潔度を反映するパラメータとしてアンモニア濃度及び総タンパク質濃度からなる群から選ばれる1またはそれ以上のパラメータを測定できるよう構成されるのが好ましい。また、本発明の分析用具は、う蝕リスクを反映するパラメータとしてミュータンス菌数、pH、及び酸緩衝能を測定でき、歯周病リスクを反映するパラメータとしてカルシウム濃度、総タンパク質濃度、潜血量、及び白血球数を測定でき、かつ、口腔清潔度を反映するパラメータとしてアンモニア濃度及び総タンパク質濃度を測定できるよう構成されるのも好ましい。また、本発明の分析用具は、ミュータンス菌数、pH、酸緩衝能、潜血量、白血球数、アンモニア濃度及び総タンパク質濃度からなる7つのパラメータ全てを測定できるよう構成されるのが特に好ましい。
【0094】
また、本発明の分析用具の第2の態様は、口腔から得られる被検試料について、う蝕リスクを反映する2またはそれ以上のパラメータを測定するための試薬を備える分析用具である。
【0095】
また、本発明の分析用具の第3の態様は、例えば、口腔から得られる被検試料について、歯周病リスクを反映する2またはそれ以上のパラメータを測定するための試薬を備える分析用具である。
【0096】
また、本発明の分析用具の第4の態様は、例えば、口腔から得られる被検試料について、口腔清潔度を反映する2またはそれ以上のパラメータを測定するための試薬を備える分析用具である。
【0097】
先述した本発明の分析用具の第1の態様に関する記載は、変更すべきところは変更して、本発明の分析用具の第2〜4の態様にも同様に適用できる。
【0098】
(2)本発明の測定装置
本発明の測定装置の第1の態様は、(A)口腔から得られる被検試料について、う蝕リスクを反映する1またはそれ以上のパラメータ、歯周病リスクを反映する1またはそれ以上のパラメータ、及び口腔清潔度を反映する1またはそれ以上のパラメータを測定する測定部、(B)測定部で測定された結果から、う蝕リスク、歯周病リスク、及び口腔清潔度のレベルを判定するリスクレベル判定部、(C)リスクレベル判定部で判定されたリスクレベルを文字、図形、記号、色彩又はこれらの結合として表示する表示部を備える測定装置である。本発明の測定装置は、さらに(D)リスクレベル判定部で判定されたリスクレベルに基づき、コメントを表示する表示部、を備える測定装置である。以下、本発明の測定装置について、図面を参照して説明する。
図3は、本発明の測定装置の一実施形態である測定装置2の機能を示すブロック図である。
【0099】
測定装置2は、測定部21を備える。測定部21は、各パラメータの測定データを取得する部位である。例えば、本発明の試験片を用いて各パラメータの測定を行う場合、測定部21は、本発明の試験片に備わる各吸収性担体における呈色反応の進行を測定する。
【0100】
呈色反応の進行は、特定の波長における吸光度に基づいて測定することができる。
【0101】
例えば、本発明の試験片を用いて各パラメータの測定を行う場合、呈色反応の進行と相関する反射率データを取得すればよい。
【0102】
反射率データは、例えば、被験試料を各パラメータの測定用試薬と接触させてから一定時間経過後の、特定の波長における反射率の値であってよい。反射率の値は、具体的には、特定の波長の光を呈色部位、例えば被検試料を点着した吸収性担体部分に照射し、その反射光を測定することにより取得できる。また、反射率データは、例えば、上記のようにして得られる反射率の値を100%から除算した値であってもよい。なお、特定の波長における吸光度が高いほど当該特定の波長における反射率の値は低く、特定の波長における吸光度が低いほど当該特定の波長における反射率の値は高いと言える。一定時間とは、例えば、上述したような各パラメータ測定法における反応時間であってよく、測定するパラメータの種類や測定方法に応じて適宜設定すればよい。
【0103】
また、反射率データは、例えば、特定の波長における一定時間の経過による反射率の変化値であってもよい。反射率の変化値は、具体的には、特定の波長の光を呈色部位、例えば被検試料を点着した吸収性担体部分に照射し、その反射光の増減を測定することにより取得できる。なお、特定の波長における吸光度の増加は、当該特定の波長における反射率の減少として測定できる。特定の波長における吸光度の減少は、当該特定の波長における反射率の増加として測定できる。一定時間とは、被検試料の点着直後から任意の時間が経過するまでであってもよく、被検試料の点着後のある時点からさらに任意の時間が経過するまでであってもよい。一定時間の長さや、被検試料の点着後のある時点は、測定するパラメータの種類や測定方法に応じて適宜設定すればよい。反射率の変化値は、反射率を少なくとも2回測定し、測定値の差として算出できる。また、一定時間の経過による反射率の変化値は、複数回測定された反射率に基づき、反射率の変化速度として算出されてもよい。なお、被検試料の点着直後または被検試料の点着後のある時点での反射率を一定と仮定する場合等の、被検試料の点着直後または被検試料の点着後のある時点での反射率を測定する必要がない場合には、反射率の測定回数を減らしてもよい。
【0104】
反射率データとして、上記いずれの値を採用するかは、測定するパラメータの種類や測定方法に応じて適宜設定すればよい。例えば、レサズリン法によりミュータンス菌数を測定する場合、反射率の変化値を測定するのが好ましい。具体的には、例えば、レサズリン法によりミュータンス菌数を測定する場合、反応時間が5分であれば、反応開始後1分〜5分までの4分間における反射率変化を測定してもよい。また、例えば、特定の波長において、パラメータが悪化するほど反射率が低くなるパラメータを測定する場合には反射率の値を用い、パラメータが悪化するほど反射率が高くなるパラメータを測定する場合には反射率の値を100%から除算した値を用いる等の使い分けをしてもよい。例えば、ブロモクレゾールグリーンとブロモキシレノールブルーを含有する測定試薬でpHの測定を行う場合、pHが悪化する、すなわち酸性になるほど測定波長635nmでの反射率は高くなる。反射率データを取得するために用いる光源の波長は、各パラメータの測定法や用いる検出機器に基づき適宜設定できる。また、測定用の波長と、バックグラウンドの影響を除くための参照用の波長を個別に設定し利用してもよい。また、各パラメータは順次測定されてもよく、複数の測光部位を備える装置により複数のパラメータが同時に測定されてもよい。
【0105】
測定装置2は、制御部23を備える。制御部23は、CPU及びRAMを備え、CPUがRAMに展開されたプログラムを解釈及び実行することで、後述するランク判定部231Aと2つのリスクレベル判定部231Bおよび231Cとを含むリスクレベル判定部231、及びコメント判定部232として機能する。上記プログラムは、後述する記憶部24のプログラム記憶部241に格納されている。
【0106】
リスクレベル判定部231は、制御部23に含まれ、ランク判定部231Aと、さらに2つのリスクレベル判定部231Bと231Cとを含む。
【0107】
ランク判定部231Aは、後述する記憶部24に記憶されているう蝕リスク、歯周病リスク、または口腔清潔度を反映するパラメータのランクと反射率データとの相関を設定したテーブルに基づいて、被検試料について各パラメータのランクを判定する。例えば、ミュータンス菌数のランクと反射率データとの相関を設定したテーブルに基づいて、被検試料についてミュータンス菌数のランクを判定する。判定されるランクは2段階以上であり、3〜8段階であるのが好ましい。
【0108】
リスクレベル判定部231Bは、後述する記憶部24に記憶されている各パラメータのランクと当該パラメータが反映するリスクのレベルとの相関を設定したテーブルに基づいて、ランク判定部231Aで判定されたパラメータの判定ランクが、当該パラメータが反映するリスクにおいてどのリスクレベルに対応するか判定する。例えば、ミュータンス菌数のランクとう蝕リスクのレベルとの相関を示すテーブルに基づいて、ランク判定部231Aで判定されたミュータンス菌数の判定ランクが、う蝕リスクにおいてどのリスクレベルに対応するか判定する。
【0109】
リスクレベル判定部231Cは、各リスクについて、リスクレベル判定部231Bで判定された当該リスクを反映するパラメータの当該リスクにおけるリスクレベルを元に、当該リスクのレベルを算出する。例えば、リスクレベル判定部231Bで判定されたミュータンス菌数、pH、酸緩衝能のう蝕リスクにおけるリスクレベルを元に、被検者のう蝕リスクレベルを判定する。リスクレベルは2段階以上であり、3〜6段階であるのが好ましい。
【0110】
なお、本実施形態では、リスクレベル判定部231が、ランク判定部231Aと、さらに2つのリスクレベル判定部231Bと231Cとを含む態様として示しているが、各リスクについて、測定部21で得られた当該リスクを反映するパラメータの測定結果を元にリスクレベルが判定される限り、いかなる態様であってもよく、例えば、ランクを判定せずに、各々の反射率データから直接リスクレベルを判定してもよい。
【0111】
また、リスクレベル判定部231は、あるリスクに対応するパラメータと、別のリスクに対応するパラメータとを組み合わせて、当該あるリスクのリスクレベルの判定を行ってもよい。例えば、リスクレベル判定部231は、う蝕リスクを反映する1またはそれ以上のパラメータと、歯周病リスクおよび/または口腔清潔度を反映する1またはそれ以上のパラメータを組み合わせてう蝕リスクレベルの判定を行ってもよい。また、リスクレベル判定部231は、各リスクに対応するパラメータと、被検者の個人データを組み合わせることにより、各リスクのリスクレベルの判定を行ってもよい。
【0112】
コメント判定部232は、制御部23に含まれ、後述する記憶部24に記憶されている各リスクにおけるリスクレベルとコメントとの相関を示すテーブルに基づき、リスクレベル判定部231Cで判定されたリスクレベルに対応するコメントを選択する。
【0113】
測定装置2は、表示部22を備える。表示部22は、本発明における出力の一態様であり、測定部21で得られた測定値、ランク判定部231Aで判定されたランク、リスクレベル判定部231Cで判定されたリスクレベル、コメント判定部232で選択されたコメント等を表示する部位である。表示部22は、文字や画像等の情報を表示できるものである限り、特に限定されず、例えばLEDバックライトを備えた液晶ディスプレイが好適に用いられる。表示部22による表示は、文字、図形、記号、色彩又はこれらの結合等の任意の形式により行われる。表示部22は必要に応じて、各パラメータの測定結果、判定ランク、各リスクレベル、それらに対応するコメント等の情報を個別に表示できるが、医師等が被検者の口腔衛生状態を総合的に診断する助けとなるよう、さらに、それらの情報をまとめて文字、図形、記号、色彩又はこれらの結合等の任意の形式により表示してもよい。本実施形態では、本発明における出力の一態様として表示部22を採用しているが、出力は、医師、歯科衛生士、又は被検者が認識できる出力態様であればよく、例えば、印刷して出力してもよく、音声によって出力してもよい。また、表示部における視覚的な表示、印刷による出力、及び音声による出力等を任意に組み合わせて情報の出力を行ってもよいことは言うまでもない。
【0114】
また、本発明の測定装置において、測定部21で得られた各パラメータの反射率データから、パラメータと反射率データとの相関を示す検量線データ(図示しない)に基づいて、パラメータの値を算出してもよい。すなわち、例えば、ミュータンス菌数と反射率データの相関を示す検量線データ(図示しない)に基づいて、被検試料中のミュータンス菌数を算出してもよい。
【0115】
また、本発明の測定装置において、各パラメータについて、各パラメータのランクとコメントとの相関を示すテーブルに基づき、ランク判定部231Aで判定された各パラメータのランクに対応するコメントを選択してもよく、さらに選択されたコメントが出力されてもよい。
【0116】
測定装置2は、記憶部24を備える。記憶部24は、プログラム記憶部241、測定データ記憶部242を有する。プログラム記憶部241は、制御部23のRAMに展開され、CPUにより実行されるプログラムを記憶する。測定データ記憶部242は、上記測定部21で得られた測定値のデータを、記憶する。記憶部24は、さらに、ランク判定部231A、リスクレベル判定部231Bおよび231Cで判定された結果を記憶するのも好ましい。また記憶部24は、被検者の氏名、連絡先等の被検者情報等の従来の測定装置に記憶されているような基礎情報を記憶してもよい。
【0117】
本発明の測定装置としては、例えば、尿試験紙用あるいは血液試験紙用の反射率測定機器を、本発明の分析用具及びその測定項目に合わせてカスタマイズして使用することができる。尿試験紙用の反射率測定機器としては、例えばポケットケムUA PU−4010(アークレイ株式会社製)を使用することができる。ポケットケムUA PU−4010を用いる場合には、二波長反射測光法による測定を行うことができる。ポケットケムUA PU−4010において、測光部では、マルチLEDより波長の異なる2種類の光、すなわち測定波長の光、及び参照波長の光を呈色部位に照射し、その反射率に基づき分析用具の発色を測定することができる。
【0118】
なお、本発明の測定装置はスタンドアローンな機器であってもよく、そうでなくてもよい。すなわち、各部は互いにデータの送受信ができる限り、物理的に独立したものであってもよい。例えば、測定データを電気通信回線等を利用して他の装置に送信し、他の装置でリスクレベルの判定を行ってもよい。また、判定されたリスクレベルを電気通信回線等を利用して他の装置に送信し、他の装置で判定されたリスクレベルやそれに基づくコメント等の情報を表示してもよい。
【0119】
なお、本実施形態では、本発明の分析用具の一実施形態である各パラメータを測定するための試薬を保持する吸収性担体を備える試験片を利用して各パラメータを測定するための反射率データを取得する態様を記載したが、各パラメータの測定法は、吸収性担体を備える試験片を用いる場合に限られず、例えば、吸収性担体を備えない試験片を用いる場合やチューブ等の容器内で試料と反応させる場合にも利用することができることは既に述べた通りである。すなわち、本発明の試験片を用いずとも、例えば、任意のパラメータ測定用の試薬を含む反応用チューブ内に被検試料を添加することで呈色反応を進行させ、反射率データを取得することも可能である。よって、本発明において、「パラメータを測定する」工程は、本発明の分析用具を用いて行うことができる。
【0120】
また、本発明の測定装置の第2の態様は、以下の(A)〜(C)を備える測定装置である。
(A)口腔から得られる被検試料について、う蝕リスクを反映する2またはそれ以上のパラメータを測定する測定部、
(B)測定部で測定された結果から、う蝕リスクのレベルを判定するリスクレベル判定部、
(C)リスクレベル判定部で判定されたう蝕リスクレベルを表示する表示部。
【0121】
また、本発明の測定装置の第3の態様は、例えば、以下の(A)〜(C)を備える測定装置である。
(A)口腔から得られる被検試料について、歯周病リスクを反映する2またはそれ以上のパラメータを測定する測定部、
(B)測定部で測定された結果から、歯周病リスクのレベルを判定するリスクレベル判定部、
(C)リスクレベル判定部で判定された歯周病リスクレベルを表示する表示部。
【0122】
また、本発明の測定装置の第4の態様は、例えば、以下の(A)〜(C)を備える測定装置である。
(A)口腔から得られる被検試料について、口腔清潔度を反映する2またはそれ以上のパラメータを測定する測定部、
(B)測定部で測定された結果から、口腔清潔度のレベルを判定するリスクレベル判定部、
(C)リスクレベル判定部で判定された口腔清潔度のレベルを表示する表示部。
【0123】
先述した本発明の測定装置の第1の態様に関する記載は、変更すべきところは変更して、本発明の測定装置の第2〜4の態様にも同様に適用できる。
【0124】
(3)本発明のプログラム
本発明のプログラムの第1の態様は、以下のステップ(A)および(B)をコンピュータに実行させるプログラムである。
(A)口腔から得られる被検試料について、う蝕リスクを反映する1またはそれ以上のパラメータ、歯周病リスクを反映する1またはそれ以上のパラメータ、及び口腔清潔度を反映する1またはそれ以上のパラメータの測定結果に基づき、う蝕リスク、歯周病リスク、及び口腔清潔度のレベルをレベル判定部に判定させるステップ、
(B)ステップ(A)で判定されたレベルを表示部に表示させるステップ。
【0125】
本発明のプログラムは、さらに、以下のステップ(C)をコンピュータに実行させてもよい。
(C)ステップ(A)で判定されたレベルに基づき、コメントを表示部に表示させるステップ。
【0126】
本発明のプログラムは、例えば、本発明の測定装置に上記ステップを実行させることができる。
【0127】
以下、
図4のフローチャートを参照し、本発明のプログラムについて説明する。
図4は、本発明のプログラムの一実施形態において、本発明のプログラムがコンピュータに実行させるステップを示す。
【0128】
まず、本発明の分析用具が装置2にセットされ、測定部21で各吸収性担体の反射率データが測定される。測定された反射率データは、測定データ記憶部242に記憶される。
【0129】
ステップS1では、測定部21で取得されたデータに基づき、各リスクレベルが判定される。ステップS1は、ステップS11、S12、S13を含む。
【0130】
ステップS11では、ランク判定部231Aが、記憶部24に記憶されているう蝕リスク、歯周病リスク、または口腔清潔度を反映するパラメータのランクと反射率データとの相関を設定したテーブルに基づいて、被検試料について各パラメータのランクを判定する。判定されるランクは2段階以上であり、3〜8段階であることが好ましい。具体的には、測定部21で取得された任意のパラメータの反射率データ値がxであり、ランクがn段階(nは任意の整数)に分かれており、該パラメータについてm段階目(mは、n≧mである任意の整数)での反射率データ値の閾値がt
mであるとすると、
t
m ≧ x > t
m+1 ・・・(i)
を満たすmが算出され(ただし、t
n ≧ x の時、x = n)、該パラメータのランクはn段階中のm段階目であると判定される。
【0131】
ステップS11が終了したらステップS12に進み、ステップ12では、リスクレベル判定部231Bが、ステップ11で判定されたパラメータのランクについて、予め設定されたテーブルに基づき、該パラメータが対応するリスクレベルを判定する。
【0132】
ステップS12が終了したらステップS13に進み、ステップS13では、リスクレベル判定部231Cが、ステップS12で判定されたパラメータのリスクレベルに基づき、該パラメータが反映するリスクのリスクレベルを判定する。リスクレベルは2段階以上であり、3〜6段階であることが好ましい。具体的には、任意のリスクについて、該リスクを反映するy個のパラメータについてステップS12で判定されたリスクレベルがp
1、・・・、p
yである場合、該リスクのリスクレベルzは、p
1、・・・、p
yの内の最大値をp
maxとして、
z = p
max + 1 ・・・(ii)
で算出される(ただし、p
max = nの場合、z=nとする)。なお、任意のパラメータについて判定されたランクが、複数の段階のリスクレベルに対応している場合、対応するリスクレベルの内、最大の値をpとして用いる。例えば、リスクレベルが6段階で、ミュータンス菌数のランクが対応するリスクレベルが4、pHのランクが対応するリスクレベルが2、酸緩衝能のランクが対応するリスクレベルが3であった場合、3つの内で最大であるミュータンス菌数のランクが対応するリスクレベルを用いて、う蝕リスクのリスクレベルは4+1=5であると算出される。
【0133】
なお、本実施形態においては、任意のリスクを反映する1またはそれ以上のパラメータについて、対応するリスクレベルが最大のパラメータに基づき、当該リスクのリスクレベルを判定しているが、リスクレベルの判定方法は、任意のリスクを反映するパラメータに基づきリスクレベルが判定される限り特に制限されず、例えば、当該1またはそれ以上のパラメータのランクが対応するリスクレベルの平均値を算出し、それに基づきリスクレベルを判定してもよい。また、任意のリスクのレベルが複数のパラメータの測定結果に基づいて判定される場合に、当該複数のパラメータの測定結果は、等しい重みで扱われてもよく、重み付けがなされて扱われてもよい。重み付けは、例えば、任意のリスクに対するパラメータの重要度に基づいて設定することができる。例えば、う蝕リスクのレベルをミュータンス菌数、pH、及び酸緩衝能に基づいて判定する場合に、ミュータンス菌数の測定結果を他の2つのパラメータの測定結果よりも強く反映させてう蝕リスクのレベルを判定してもよい。また、あるリスクレベルの判定を、当該リスクに対応するパラメータと、別のリスクに対応するパラメータおよび/または被検者の個人データ等と組み合わせて行う場合も、判定ステップの内容を適宜設定すればよい。
【0134】
ステップS1が終了したらステップS2に進み、ステップS2では、表示部22が、ステップS13で判定されたリスクレベルを、任意の形式で表示する。リスクレベルが表示される形式としては、数値、図形、表等が挙げられる。図形としては、特に限定されず、棒グラフやレーダーチャート等の任意の形式の図形として表示できる。
【0135】
ステップS1が終了したらステップS3に進み、ステップS3では、コメント判定部232が、ステップS13で判定されたリスクレベルに対応するコメントを選択し、表示部22が、選択されたコメントを表示する。コメントとは、例えば、各リスクについて、臨床上どのような対応をとるべきであるかを示すものである。コメントの例としては、う蝕リスクに関して「ムシ歯菌が高いレベルで検出され、唾液の酸緩衝能も弱く、ムシ歯リスクが高いといえます。食後には必ず口腔清掃を行なってください。殺菌剤配合の洗口剤の使用も効果的です。」や歯周病リスクに関して「潜血、白血球が高いレベルで検出され、歯周病リスクが高いといえます。歯間ブラシ・デンタルフロスでプラークを除去し、歯周病(歯肉炎症の)の原因を取り除きましょう。」等が挙げられる。
【0136】
図4に示すフローチャートにおいては、ステップS1が、ステップS11、ステップS12、ステップS3を含む態様が示されているが、各リスクについて、測定部21で得られた当該リスクを反映するパラメータの測定結果を元にリスクレベル判定部231がリスクレベルを判定する限り、ステップS1はいかなる態様であってもよく、例えば、ランクを判定せずに、反射率データからリスクレベルを判定してもよい。
【0137】
ランクを判定するためのパラメータのランクと反射率データとの相関、ランクからリスクレベルを判定するためのランクとリスクレベルとの相関等の、各処理に用いる相関データは、口腔健診や歯科診療などにおいて、多数の被検者から得た口腔被検試料の各パラメータの測定値と、各リスクを歯科医師の診断と比較して統計的処理を行い、各リスクレベルの数値と被検試料中の各パラメータの測定値とを関連付けることにより作成される。各パラメータについてリスクの程度を3段階に区分する際の、各パラメータの値と、対応するリスクの程度の一例を表1に示す。なお、表1中、酸緩衝能の値は、一定量の酸を保持させた試験紙に口腔から得られる試料を点着した際の最終的なpHの値を示す。
【0139】
また、本発明のプログラムは、各リスクを反映するそれぞれのパラメータについても、判定されたランクに基づき、数値、図、又は表として表示するステップをコンピュータに実行させてもよい。また、本発明のプログラムは、各リスクを反映するそれぞれのパラメータについても、判定されたランクに基づき、コメントを表示するステップをコンピュータに実行させてもよい。パラメータについてのコメントとは、例えば、各パラメータの測定結果を説明するものである。パラメータについてのコメントの例としては「唾液中のムシ歯菌は少なく、良好な状態です。」、「唾液の酸性度は中性付近です。日々のケアにより、この状態を保ちましょう。」、「唾液中に潜血が見られます。歯肉から出血している可能性があり、ケアが必要です。」、及び「唾液のアンモニア濃度が高く、活発に菌が繁殖している状態です。積極的なケアが必要です。」等が挙げられる。
【0140】
なお、本実施形態においては、測定部21において反射率データが測定され、測定された反射率データが測定データ記憶部242に記憶される態様を記載したが、測定部21における測定に代えて、例えば、本発明の分析用具における呈色反応の結果を肉眼で観察し、その結果を反射率データとして用いて以降の処理が行われてもよい。すなわち、本発明の分析用具における呈色反応の進行を、任意の光源下において目視し、各パラメータを測定するためのデータを取得することができる。任意の光源とは、例えば、自然光、蛍光灯、白熱電球等でよく、また特定の波長に制限された光源であってもよい。よって、本発明において、「パラメータを測定する」工程は、検出機器を用いずに行うことも可能である。
【0141】
本発明のプログラムは、各ステップを単一のコンピュータに実行させてもよく、物理的に独立した複数のコンピュータに実行させてもよい。例えば、測定データを電気通信回線等を利用して他の装置に送信し、他の装置でリスクレベルの判定を行ってもよい。また、判定されたリスクレベルを電気通信回線等を利用して他の装置に送信し、他の装置で判定されたリスクレベルやそれに基づくコメント等の情報を表示してもよい。そのような様態としては、例えば、WEB上で測定データを入力して、リスクレベル判定用のサーバーに測定データを送信し、当該判定用サーバーでリスクレベルを判定するステップを実行し、さらに判定結果をWEB上で表示する様態が例示できる。また、電気通信回線等を利用したデータの送受信に基づく課金システムを採用してもよい。そのような課金システムとしては、例えば、利用者がWEBブラウザ上でリスクレベルの判定結果を表示させた時点で、あるいは、リスクレベルの判定結果を含むファイルのダウンロードを完了した時点で課金するシステムが挙げられる。課金は、表示・ダウンロード従量制、及び日、週、または月など期間に応じて課金する定額制等の任意の方式で実施することができる。
【0142】
また、本発明のプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体に記録され、提供されてもよい。ここで、コンピュータが読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報が電気的、磁気的、光学的、機械的、又は化学的作用等により蓄積され、さらに蓄積された情報をコンピュータから読み取ることのできる記録媒体を言う。このような記録媒体としては、例えばフロッピー(登録商標)ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R/W、DVD−ROM、DVD−R/W、DVD−RAM、DAT、8mmテープ、メモリカード、ハードディスク、ROM(リードオンリーメモリ)、及びSSD等がある。また、本発明のプログラムは、コンピュータにより実行される各ステップ毎に別個のプログラムとして記録されていてもよい。
【0143】
また、本発明のプログラムの第2の態様は、以下のステップ(A)および(B)をコンピュータに実行させるプログラムである。
(A)口腔から得られる被検試料について、う蝕リスクを反映する2またはそれ以上のパラメータの測定結果に基づき、う蝕リスクのレベルをリスクレベル判定部に判定させるステップ、
(B)ステップ(A)で判定されたレベルを表示部に表示させるステップ。
【0144】
また、本発明のプログラムの第3の態様は、例えば、以下のステップ(A)および(B)をコンピュータに実行させるプログラムである。
(A)口腔から得られる被検試料について、歯周病リスクを反映する2またはそれ以上のパラメータの測定結果に基づき、歯周病リスクのレベルをリスクレベル判定部に判定させるステップ、
(B)ステップ(A)で判定されたレベルを表示部に表示させるステップ。
【0145】
また、本発明のプログラムの第4の態様は、例えば、以下のステップ(A)および(B)をコンピュータに実行させるプログラムである。
(A)口腔から得られる被検試料について、口腔清潔度を反映する2またはそれ以上のパラメータの測定結果に基づき、口腔清潔度のレベルをリスクレベル判定部に判定させるステップ、
(B)ステップ(A)で判定されたレベルを表示部に表示させるステップ。
【0146】
先述した本発明のプログラムの第1の態様に関する記載は、変更すべきところは変更して、本発明のプログラムの第2〜4の態様にも同様に適用できる。
【0147】
(4)本発明の方法
本発明においては、例えば上記に示すように、被検者の口腔状態を反映するパラメータを測定し、測定結果に基づき口腔状態、すなわち口腔疾患リスクおよび/または口腔衛生状態を判定することができる。すなわち、本発明は、被検者の口腔状態を判定する方法を提供する。
【0148】
本発明の方法の第1の態様(以下、第1の態様ともいう)は、被検者の口腔状態を判定する方法であって、以下の(A)、(B)、および(C)を含む方法である。
(A)口腔から得られる被検試料について、う蝕リスクを反映する1またはそれ以上のパラメータを測定し、測定されたパラメータを指標として、う蝕リスクのレベルを判定する工程。
(B)口腔から得られる被検試料について、歯周病リスクを反映する1またはそれ以上のパラメータを測定し、測定されたパラメータを指標として、歯周病リスクのレベルを判定する工程。
(C)口腔から得られる被検試料について、口腔清潔度を反映する1またはそれ以上のパラメータを測定し、測定されたパラメータを指標として、口腔清潔度のレベルを判定する工程。
【0149】
本発明の方法において、工程(A)〜(C)は、同時に実行されてもよく、個別に実行されてもよい。
【0150】
また、本発明の方法の第2の態様は、口腔から得られる被検試料について、う蝕リスクを反映する2またはそれ以上のパラメータを測定し、測定されたパラメータを指標として、う蝕リスクのレベルを判定する工程を含む、被検者のう蝕リスクを判定する方法である。
【0151】
また、本発明の方法の第3の態様は、例えば、口腔から得られる被検試料について、歯周病リスクを反映する2またはそれ以上のパラメータを測定し、測定されたパラメータを指標として、歯周病リスクのレベルを判定する工程を含む、歯周病リスクを判定する方法である。
【0152】
また、本発明の方法の第4の態様は、例えば、口腔から得られる被検試料について、口腔清潔度を反映する2またはそれ以上のパラメータを測定し、測定されたパラメータを指標として、口腔清潔度のレベルを判定する工程を含む、口腔清潔度を判定する方法である。
【0153】
本発明の方法は、特に制限されないが、例えば、先述した本発明の分析用具、分析装置、プログラム等を用いて好適に実施できる。また、先述した本発明の分析用具、分析装置、プログラム等の記載は、変更すべきところは変更して、本発明の方法にも適用できる。例えば、本発明の方法は、さらに、判定されたレベルを表示する工程を含んでいてもよく、判定されたレベルに基づきコメントを表示する工程を含んでいてもよく、パラメータの測定結果に基づきコメントを表示する工程を含んでいてもよい。
【0154】
本発明において、口腔から得られる被検試料としては、目的とするパラメータを測定できる限り特に制限されず、例えば、安静時唾液、精製水によるうがい液、又はガムで刺激して採取したガム唾液を用いることができる。中でも、精製水によるうがい液が好ましい。精製水によるうがい液は、例えば3mlの精製水を10秒間口に含み、容器に吐き出すことにより得られる。精製水の容量や、口に含む時間は、必要により適宜変更することができる。得られた被検試料は特段の前処理なく以降の操作に利用できる。
【0155】
被検試料は、試験片に備えられた各測定用試薬を保持する吸収性担体に点着することにより、または各測定用試薬を保持する吸収性担体に接触して設けられた試料を点着するための吸収性担体に点着することにより、直接各測定用試薬と反応させることができる。ただし、アンモニアの定量を微量拡散法によって行う場合には、測定用試薬を保持する吸収性担体と、被検試料を点着する吸収性担体とは、互いに接触させずに設置されており、被検試料は測定試薬とは直接は接触しない。また、試験片を用いずに各パラメータを測定する場合には、例えば、任意のパラメータ測定用の試薬を含む液体反応系に被検試料を添加することで呈色反応を進行させることができる。
【0156】
以下の手順は、本発明の試験片、本発明の測定装置、及び本発明のプログラムを利用して被検試料を測定し、医師等が診断を行う手順の一例を示す。
1.口腔から得られる被検試料として、3mlの精製水によるうがい液を採取する。
2.被検試料を、本発明の試験片の各吸収性担体に、あるいは試料を点着するための吸収性担体が備えられている場合には当該担体に点着して、所定の時間で変化した色調を本発明の測定装置で測定する。
3.測定結果に基づき、各リスクレベルを判定し、表示する。さらに、各リスクレベルに基づき、う蝕リスク、歯周病リスク、及び口腔清潔度のそれぞれについてコメントを表示する。
4.表示された情報に基づき、医師等が被検者の口腔疾患リスク、及び口腔衛生状態を診断する。
【実施例】
【0157】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0158】
〔試験例〕レサズリン法の検討
レサズリンの還元を指標としたミュータンス菌の定量キットとしては、昭和薬品化工株式会社のRDテスト「昭和」(商品名)が知られているが、37℃、15分の培養操作が必要であった。そこで、本試験例においては、室温5分間でのミュータンス菌の測定を目指し、レサズリン法によるミュータンス菌の検出条件について検討した。
【0159】
ミュータンス菌測定用の吸収性担体として、ミュータンス菌測定用試薬溶液に浸漬して作製した吸収性担体を設置した試験片を試験群として用いた。当該試薬溶液は、30mMスクロース、0.2%ポリビニルアルコール、100mMリン酸緩衝液(pH6)、0.1mMメトキシPMS、及び0.12mMレサズリンを含有する。また、当該組成において、メトキシPMSを添加しない試薬溶液に浸漬して作製した吸収性担体を設置した試験片を対照群として用いた。
【0160】
被検者として、既存のミュータンス菌培養判定キットであるデントカルトSM(株式会社オーラルケア製)において、それぞれ、口腔内のミュータンス菌レベルが多い、中程度、又は低いと判定された被検者を採用した。被検試料としては、3mlの精製水を10秒間口に含み、容器に吐き出すことにより各被検者より得られたうがい液を用いた。
【0161】
それぞれの試験片の吸収性担体に、それぞれの被検者から得られた被検試料を10μLずつ点着させた。室温を想定した25℃で5分間試験片を放置した後、反射率測定装置を用い、試験片の反射率を測定した。
【0162】
結果を
図5に示す。メトキシPMSを添加しない対照群では、室温5分間経過時点において、ミュータンス菌数レベルが低い被検者と中程度の被検者の反射率の差が2%と小さく有効に区別できないのに対し、メトキシPMSを添加した試験群では、3段階それぞれの反射率が9〜13%の差を持っており、室温5分間での測定が可能であった。以上より、ミュータンス菌測定用の試薬としてメトキシPMSを添加することで、室温5分間での測定が可能となった。
【0163】
〔実施例1〕試験片作製例
<試験片の作成>
ミュータンス菌の測定用試薬を含む吸収性担体としては、試験例1で作製したメトキシPMSを含む担体を利用した。pH、潜血、白血球数、総タンパク質濃度の測定用担体としては、市販されているオーションスティックス(商品名、アークレイ株式会社製)のpH、潜血、白血球数、総タンパク質濃度を測定対象とする試験紙を転用した。酸緩衝能測定用担体としては、オーションスティックス(商品名、アークレイ株式会社製)のpH測定用試験紙1片に1mM酒石酸を7μl点着し、乾燥させたものを用いた。アンモニア測定用担体としては、市販されているアミチェック(商品名、アークレイ株式会社製)の担体を転用した。カルシウム濃度測定用担体としては、市販されているスポットケム II カルシウム(商品名、アークレイ株式会社製)の試薬パッドを転用した。上記の各担体を、PET製支持担体に貼り付け、ミュータンス菌数、pH、酸緩衝能、潜血量、白血球数、アンモニア濃度、総タンパク質濃度、およびカルシウム濃度測定用の試薬を備える試験片を製造した。なお、総タンパク質濃度の測定用担体は、歯周病リスクの判定および口腔清潔度の判定に共通に利用できる。
【0164】
〔実施例2〕唾液検査システムによる口腔疾患リスクおよび口腔清潔度予測(1)
本実施例では、本発明の判定方法に用いられるパラメータの測定結果に基づき、歯科医による口腔疾患リスクおよび口腔清清潔度の診断結果を予測できるかを検討した。
【0165】
<方法>
(口腔指標評価)
う蝕リスク、歯周病リスク、口腔清潔度に関する口腔指標として、以下の項目を用いた。
・う蝕状態リスク:DMFT
・歯周病状態リスク:CPI
・口腔清潔度:OHI-DI
【0166】
各口腔指標については常法に従って歯科医が診断した。DMFTはう蝕経験を示す指数で、永久歯における、未処置う蝕歯数、う蝕による喪失歯数、およびう蝕を処置された歯数の合計値で表される。CPIは歯周病の処置必要度を示す指数で、WHO歯周プローブを用いた歯周組織の検査結果をスコア化した基準に基づき算出される。CPIについては、上下顎を右側臼歯部、前歯部、左側臼歯部の6部位に分け、各部位の最大値の平均値を評価に用いた。OHI-DIは歯口清掃状態を示す指数であり、歯面への歯垢の沈着状態をスコア化した基準に基づき算出される。OHI-DIについては、CPIと同様に6部位に分け、各部位の最大値の平均値を評価に用いた。
【0167】
(試験片を用いた唾液検査)
蒸留水(日本薬局方注射用水)3mLを口に含み、約10秒間洗口後、吐出したものを被検試料とした。実施例1で作成した試験片に備えられた各吸収性担体に被検試料を10uLずつ点着後、唾液成分を測定した。測定は、検出機器としてポケットケムUA PU−4010(アークレイ株式会社製)を用い、室温下、表2の条件で行った。なお、ミュータンス菌数の測定は、被検試料を点着してから1分後と5分後に反射率を測定し、4分間での反射率変化を算出することにより行った。また、それ以外の測定項目は、被検試料を点着してから表2に記載の測定時間経過後に反射率を測定することにより行った。なお、アンモニア濃度の測定は、被検試料を点着して10秒後に試料層とスペーサーを試薬層から剥離させ、60秒後に試薬層の反射率を測定することにより行った。
【0168】
【表2】
【0169】
(統計解析)
協力者231名のデータを用いて解析を実施した。解析は、各口腔指標を目的変数とし、唾液成分測定値(反射率データ)を説明変数として単回帰分析を実施した(表3)。さらに、説明変数として、複数の唾液成分測定値を組み合わせた場合と、年齢や性別や喫煙有無の個人データを組み合わせた場合について、重回帰分析を実施した(表4、5、6)。尚、性別や喫煙有無といった質的変数についてはダミー変数として扱った。それぞれの回帰分析を実施後、重相関係数を求め、これを予測精度として評価した。解析は、解析ソフトJMP5.0(SAS Institute, Japan)を用いて実施した。
【0170】
(結果)
各唾液成分測定値を説明変数とした単回帰分析の結果、いずれの測定値についても対応する口腔状態との相関が認められ(表3)、唾液成分測定値(反射率データ)から各口腔状態を予測することが可能であることが明らかとなった。よって、う蝕リスク、歯周病リスク、および口腔清潔度のそれぞれを反映する少なくとも1つのパラメータを測定することで、う蝕リスク、歯周病リスク、口腔清潔度をまとめて簡便に判定することが可能である。
【0171】
また、ある口腔状態に対応する複数の唾液成分測定値を組み合わせることにより、予測精度(重相関係数)が向上することが明らかとなった(表4)。また、個人データを組み合わせることにより、予測精度(重相関係数)がさらに向上することが明らかとなった(表5)。また、ある口腔状態に対応する唾液成分測定値と、別の口腔状態に対応する唾液成分測定値とを組み合わせることによっても、予測精度(重相関係数)がさらに向上することが明らかとなった(表6)。よって、唾液成分測定値等の組み合わせにより予測精度が向上し、確度の高いう蝕リスク、歯周病リスク、口腔清潔度の判定が可能である。
【0172】
【表3】
【0173】
【表4】
【0174】
【表5】
【0175】
【表6】
【0176】
〔実施例3〕唾液検査システムによる口腔疾患リスクおよび口腔清潔度予測(2)
【0177】
本実施例では、本発明の判定方法に用いられるパラメータの測定結果に基づき、口腔疾患リスクである菌数を予測できるかを検討した。
<方法>
(口腔指標評価)
う蝕、歯周病、口腔清潔度に関する口腔指標として、以下の項目を用いた。
・う蝕リスク:唾液中う蝕菌数
・歯周病リスク:唾液中歯周病菌数
・口腔清潔度:唾液中総菌数
【0178】
歯周病菌数については、DNA抽出キット(Nexttec)を用いて唾液からゲノムを抽出し、歯周病代表菌として知られる3菌種、すなわちPorphyromonas gingivalis(P.g.)、Tannerella forsythensis(T.f.)、およびTreponema denticola(T.d.)の菌数をリアルタイムPCRにて測定し、合計値を評価に用いた。リアルタイムPCRの反応組成及び反応条件は、いずれの菌種においても表7、8に示す条件で実施した。また、使用したプライマーとTaqManプローブの配列を表9、10に示す。
【0179】
【表7】
【0180】
【表8】
【0181】
【表9】
【0182】
【表10】
【0183】
う蝕菌数については、MSB平板培地にて100〜10000倍希釈した唾液を塗布して3日間、37℃、嫌気性条件下にて培養後、コロニー数を計測した。総菌数については、血液平板培地にて10000〜100000倍希釈した唾液を塗布して1週間、37℃、嫌気性条件下にて培養後、コロニー数を計測した。それぞれの培地組成は表11、12に示す。
【0184】
【表11】
【0185】
【表12】
【0186】
(本発明の試験片を用いた唾液検査)
蒸留水(日本薬局方注射用水)3mLを口に含み、約10秒間洗口後、吐出したものを被検試料とした。試験片に備えられた各吸収性担体に被検試料を10uLずつ点着後、唾液成分を測定した。測定は、検出機器としてポケットケムUA PU−4010(アークレイ株式会社製)を用い、室温下、表2の条件で行った。なお、ミュータンス菌数の測定は、被検試料を点着してから1分後と5分後に反射率を測定し、4分間での反射率変化を算出することにより行った。また、それ以外の測定項目は、被検試料を点着してから表2に記載の測定時間経過後に反射率を測定することにより行った。なお、アンモニア濃度の測定は、被検試料を点着して10秒後に試料層とスペーサーを試薬層から剥離させ、60秒後に試薬層の反射率を測定することにより行った。
(統計解析)
協力者231名のデータを用いて解析を実施した。解析は、各口腔指標を目的変数とし、唾液成分測定値(反射率データ)を説明変数として単回帰分析を実施した(表13)。さらに、説明変数として、複数の唾液成分測定値を組み合わせた場合と、年齢や性別や喫煙有無の個人データを組み合わせた場合について、重回帰分析を実施した(表14、15、16)。尚、性別や喫煙有無といった質的変数についてはダミー変数として扱った。それぞれの回帰分析を実施後、重相関係数を求め、これを予測精度として評価した。解析は、解析ソフトJMP5.0(SAS Institute, Japan)を用いて実施した。
【0187】
(結果)
各唾液成分測定値を説明変数とした単回帰分析の結果、いずれの測定値についても対応する口腔状態との相関が認められ(表13)、唾液成分測定値(反射率データ)から各口腔状態を予測することが可能であることが明らかとなった。よって、う蝕リスク、歯周病リスク、および口腔清潔度のそれぞれを反映する少なくとも1つのパラメータを測定することで、う蝕リスク、歯周病リスク、口腔清潔度をまとめて簡便に判定することが可能である。
【0188】
また、ある口腔状態に対応する複数の唾液成分測定値を組み合わせることにより、予測精度(重相関係数)が向上することが明らかとなった(表14)。また、個人データを組み合わせることにより、予測精度(重相関係数)がさらに向上することが明らかとなった(表15)。また、ある口腔状態に対応する唾液成分測定値と、別の口腔状態に対応する唾液成分測定値とを組み合わせることによっても、予測精度(重相関係数)がさらに向上することが明らかとなった(表16)。よって、唾液成分測定値等の組み合わせにより予測精度が向上し、確度の高いう蝕リスク、歯周病リスク、口腔清潔度の判定が可能である。
【0189】
【表13】
【0190】
【表14】
【0191】
【表15】
【0192】
【表16】