【実施例】
【0011】
図1は、本実施例に係る空気調和機の構成を示す図である。
本実施例の空気調和機1は、室外機10、室内機20、および制御装置1aを含んで構成される。室外機10は、室外熱交換器11(熱源側熱交換器)、室外ファン12、室外膨張弁13、圧縮機14、アキュムレータ15、および四方弁16を含んで構成される。一方、室内機20は、室内熱交換器21(利用側熱交換器)、室内ファン22、室内膨張弁23を含んで構成される。
そして、室外機10と室内機20は、配管30,31で接続される。
また、本実施例の空気調和機1は、圧縮機14、室外熱交換器11(熱源側熱交換器)、室外膨張弁13、室内熱交換器21(利用側熱交換器)、室内膨張弁23で冷凍サイクルが構成され、この冷凍サイクルを循環する冷媒としてR32(ジフルオロメタン)が使用される。
【0012】
なお、例えば前記した特許文献1には、R32を少なくとも70%(70重量%)以上含んだ冷媒であれば、R32が100%含まれる冷媒と同様のメリットを発揮できる旨が記載されている。したがって、本実施例の空気調和機1に使用される冷媒は、R32が100%含まれるものに限定されず、R32が70重量%以上含まれる冷媒(混合冷媒)であってもよい。
【0013】
制御装置1aは、室外機10の室外ファン12の起動や停止、室外膨張弁13の弁開度の調節、圧縮機14の回転速度Frの調節、四方弁16の制御、などによって室外機10を制御する。また、制御装置1aは、室内ファン22の起動や停止、室内膨張弁23の弁開度の調節、などによって室内機20を制御する。
【0014】
冷房運転時、制御装置1aは四方弁16を制御して、圧縮機14の出口側と室外熱交換器11を接続するとともに、アキュムレータ15と配管31を接続する。そして、制御装置1aは圧縮機14、室外ファン12、室内ファン22を駆動する。
圧縮機14で圧縮された冷媒(気体)は、四方弁16を経由して室外熱交換器11に流入し、室外ファン12で送風される外気との熱交換で冷却されて凝縮する。室外熱交換器11で凝縮した冷媒(液体)は、室外膨張弁13を経由し配管30を流通して室内機20に導入される。
【0015】
室内機20に導入された冷媒(液体)は室内膨張弁23で減圧されて室内熱交換器21に流入する。室内熱交換器21に流入した冷媒(液体、または気液二相状態)は、室内ファン22で送風される室内空気との熱交換で気化する。このとき、室内熱交換器21で気化する冷媒(液体)が室内空気から気化熱を奪って室内空気を冷却する。
室内熱交換器21で気化した冷媒(気体)は、配管31を流通して室外機10に導入され、四方弁16を流通してアキュムレータ15に流入する。アキュムレータ15は、過渡的に液冷媒が過剰に流入した際に冷媒(液体)を貯留するバッファタンクとして機能し、これによって圧縮機14での液圧縮が防止される。したがって、アキュムレータ15において冷媒の乾き度が高まり、圧縮機14には乾き度の高い冷媒が流入する。
【0016】
暖房運転時、制御装置1aは四方弁16を制御して、圧縮機14の出口側と配管31を接続するとともに、室外熱交換器11とアキュムレータ15を接続する。そして、制御装置1aは圧縮機14、室外ファン12、室内ファン22を駆動する。
圧縮機14で圧縮された冷媒(気体)は、四方弁16を経由して配管31を流通し、室内機20に導入される。室内機20に導入された冷媒(気体)は室内熱交換器21に流入し、室内ファン22で送風される室内空気との熱交換で冷却されて凝縮する。このとき、室内熱交換器21で凝縮する冷媒(気体)が凝縮熱を室内空気に与えて室内空気を加熱する。室内熱交換器21で凝縮した冷媒(液体)は室内膨張弁23を経由して配管30を流通し、室外機10に導入される。室外機10に導入された冷媒(液体)は、室外膨張弁13で減圧されて室外熱交換器11に流入する。室外熱交換器11に流入した冷媒(液体)は、室外ファン12で送風される外気との熱交換で気化し、四方弁16を経由してアキュムレータ15に流入する。そして、アキュムレータ15で乾き度が高まった冷媒(気体、または気液二相状態)が圧縮機14に流入する。
【0017】
なお、室外機10には、圧縮機14で吐出される冷媒の温度(吐出温度Td)を計測する吐出温度センサ10taと、圧縮機14の出口側での冷媒の圧力(吐出圧力Pd)を計測する吐出圧力センサ10paと、圧縮機14の入口側での冷媒の圧力(吸入圧力Ps)を計測する吸入圧力センサ10pbと、が備わっている。
また、室外機10には、室外熱交換器11での冷媒の凝縮温度Tc(冷房運転時)、または蒸発温度Te(暖房運転時)を計測するための温度センサ10tbが備わり、室内機20には、室内熱交換器21での冷媒の蒸発温度Te(冷房運転時)、または凝縮温度Tc(暖房運転時)を計測するための温度センサ20taが備わっている。
なお、吐出温度Tdに替えて、圧縮機14のチャンバー上部温度を計測して使用する構成としてもよい。
【0018】
図2はR32を冷媒に使用する空気調和機のモリエル線図(P−H線図)である。
例えば、空気調和機1(
図1参照)が暖房運転されるとき、点A1の状態にある冷媒(気体)は、圧縮機14で圧縮されて温度(比エンタルピ)と圧力が上昇して点A2の状態になり室内機20に導入される。室内機20に導入された冷媒(気体)は、室内熱交換器21においてほぼ等圧で凝縮して点A3の状態(液体)になり、室外機10に導入される。点A3の状態で室外機10に導入された冷媒(液体)は室外膨張弁13で減圧されて点A4の状態になり、室外熱交換器11で気化して点A1の状態(気体)になる。このように、暖房運転する空気調和機1では、冷媒(R32)が点A1〜A4の状態を遷移しながら循環する。つまり、圧縮機14で圧縮(点A1→A2)された冷媒(気体)が室内機20の室内熱交換器21で凝縮(点A2→A3)するときに室内空気を加熱する。
【0019】
このとき、R32はR410Aに比べて比熱比が大きいため、圧縮機14で圧縮されるときに(点A1→A2)、圧縮機14の出口側における冷媒の温度(吐出温度Td)が高くなる(Td1)。例えば、吐出温度TdはR410Aに比べて、10〜15℃程度高くなる。このことによって、圧縮された冷媒の吐出温度Tdが圧縮機14の許容上限温度を超えて、圧縮機14に過大な負荷がかかってしまう場合がある。そこで、冷媒にR32を使用するときには、圧縮機14の出口側での吐出温度Tdを低くすることが要求される(例えば、Td1→Td2)。
【0020】
例えば、室外膨張弁13の弁開度が大きくなると、室外膨張弁13における温度低下が促進され、
図2に破線で示すように、圧縮機14の入口側での冷媒の温度または乾き度を低くすることができる(点A1’)。これによって、圧縮機14の出口側における冷媒の吐出温度Tdが低くなる(点A2→A2’)。
しかしながら、圧縮機14の入口側における冷媒の状態(点A1’)が飽和線C100よりも低い温度(または比エンタルピ)になると圧縮機14の入口側における冷媒の乾き度が1.00よりも低くなる。
【0021】
乾き度が低い冷媒は液体成分の含有率が多く、乾き度の低い冷媒が圧縮機14に流入すると、この冷媒に含まれる液体成分によって圧縮機14の冷凍機油が希釈され、機構部の磨耗が促進されるなどの影響が生じる。つまり、乾き度の低い冷媒が圧縮機14に流入すると、圧縮機14に対する負荷が大きくなる。よって、圧縮機14の入口側における冷媒の乾き度が過剰に低い状態は好ましくない。
【0022】
そこで、圧縮機14の機械的性能の変化(磨耗の促進状態など)と、圧縮機14の入口側における冷媒の乾き度(以下、「吸入乾き度Xs」と称する)と、圧縮機14における冷凍機油の粘度低下と、の相関関係を調べる実験により、圧縮機14の機械的性能を劣化させない(あるいは、劣化が許容範囲になる)吸入乾き度Xsの境界値を0.85とした。換言すると、吸入乾き度Xsが0.85より高ければ(Xs>0.85)、圧縮機14に与える影響が許容できる範囲になり、圧縮機14に対する負荷を小さくできることが分かった。
そこで、本実施例の空気調和機1は、吸入乾き度Xsが0.85より高い状態で運転される構成とする。なお、
図2に示す二点鎖線は、乾き度が0.85になる「等乾き度線C85」を示す。
【0023】
図3は、圧縮機の入口側での冷媒の圧力(吸入圧力Ps)と出口側での冷媒の圧力(吐出圧力Pd)と、が変化する場合のモリエル線図である。
例えば、
図3に示すように、圧縮機14の出口側における冷媒の吐出温度Tdを圧縮機14の許容上限温度以下の上限温度(Tdmax)に維持する場合、圧縮機14の出口側における冷媒の状態を示す点(点A2−n:n=1,2,3,・・・)が、吐出温度Tdが上限温度(Tdmax)を示す等温線上(一点鎖線)になるように状態変化させる。
例えば、圧縮機14の許容上限温度が120℃の場合、冷媒の吐出温度Tdの上限温度を100℃程度に設定する(「Tdmax=100[℃]」とする)。
【0024】
また、飽和線C100は乾き度が1.00になる線であり、乾き度0.85を示す「等乾き度線C85」は飽和線C100よりも比エンタルピが低くなる(二点鎖線で図示)。そして、吸入乾き度Xsを0.85とするには、圧縮機14の入口における冷媒の温度(比エンタルピ)が、乾き度0.85を示す等乾き度線C85上で吸入圧力Psとなる点(点A1−n:n=1,2,3,・・・)が示す温度になるようにすればよい。
このようにして決定される点A1−nと、点A2−nから圧縮機14の圧力比ε(吐出圧力Pd/吸入圧力Ps)が決定される。つまり、吸入圧力Psに対する圧力比εが決定される。
図3に示すように、吸入圧力Psが高いほど(Ps1→Ps2→Ps3)、吐出圧力Pdを高くすることができるが(Pd1→Pd2→Pd3)、吸入圧力Psが上昇する割合よりも吐出圧力Pdが上昇する割合が小さくなる。つまり、吸入圧力Psが高いほど圧力比εを小さくする必要がある。
【0025】
図4は、吸入乾き度が0.85となる吸入圧力と圧力比の関係を示すグラフであり、横軸が吸入圧力Ps、縦軸が圧力比ε(吐出圧力Pd/吸入圧力Ps)を示す。
なお、
図4に示される「εU」は圧力比εの最大値である。また、実線は、吸入乾き度Xsが0.85より高くなる圧力比εの上限値(圧力比上限εmax)を示している。圧力比上限εmaxは、吸入乾き度Xsが0.85より高くなるように圧力比εを規制する上限値であり、圧力比εが圧力比上限εmax以下となるように冷媒の圧縮(圧縮機14の回転速度Fr)が制限されることによって、吸入乾き度Xsが0.85より高くなる。
そして「PsL」は、吸入乾き度Xsを0.85にする圧力比εが最大値「εU」となる吸入圧力Psである。つまり、吸入圧力Psが「PsL」以下の領域は、吸入乾き度Xsを0.85にするための圧力比εが最大値「εU」を超える領域である。
また、「PsU」は空気調和機1における吸入圧力Psの上限値である。そして、
図4に示す吸入圧力Psの下限値「PsL」および上限値「PsU」、圧力比εの最大値「εU」は空気調和機1の特性値であり、空気調和機1ごとに決定されている設計値である。
【0026】
図4に示すように、圧力比上限εmaxは、吸入圧力Psが下限値「PsL」以下の領域(Ps≦PsL)では圧力比の最大値「εU」となり(εmax=εU)、吸入圧力Psが下限値「PsL」より高い領域(Ps>PsL)では次式(1)で示される。
εmax=εU−(εU−εL)/(PsU−PsL)×(Ps−PsL)
・・・(1)
図3に示すように、吸入圧力Psが高いほど圧力比εは小さくなるため、
図4に示すように、圧力比上限εmaxも吸入圧力Psが高いほど低くなる。
【0027】
そして、本実施例の空気調和機1(
図1参照)において、制御装置1a(
図1参照)は、圧力比εが式(1)で示される圧力比上限εmaxよりも小さくなるように冷媒(R32)を圧縮する回転速度Frで圧縮機14(
図1参照)を運転する。つまり、制御装置1aは、圧力比εが圧力比上限εmaxよりも小さくなるように圧縮機14の回転速度Frを調節する。これによって、空気調和機1の吸入乾き度Xsが0.85より高く維持される。
【0028】
また、制御装置1a(
図1参照)は、圧力比εが圧力比上限εmaxに近づくように圧縮機14の回転速度Frを調節する構成であってもよい。例えば、圧力比εが圧力比上限εmaxより小さく、かつ、空調能力の増加を要求されるとき、制御装置1aは圧縮機14の回転速度Frを上昇して圧力比εを高める構成であってもよい。制御装置1aがこのように構成される場合、空気調和機1(
図1参照)は、吸入乾き度Xsが0.85に近い状態で運転される。
【0029】
図1に示す空気調和機1では、吐出圧力センサ10paが吐出圧力Pdを計測するとともに、吸入圧力センサ10pbが吸入圧力Psを計測する。そして、制御装置1aは、吸入圧力センサ10pbが計測する吸入圧力Psの計測値と、吐出圧力センサ10paが計測する吐出圧力Pdの計測値から演算する圧力比ε(吐出圧力Pd(計測値)/吸入圧力Ps(計測値))が、式(1)で演算される圧力比上限εmaxとなるように、圧縮機14の回転速度Frを調節して空気調和機1を暖房運転する。
【0030】
ここで、吐出圧力センサ10paおよび吸入圧力センサ10pbの一方あるいは双方に替えて、凝縮温度Tcおよび蒸発温度Teを計測するセンサ(温度センサ)が備わる構成であってもよい。
暖房運転時に凝縮温度Tcは、室内熱交換器21に備わる温度センサ20ta(
図1参照)で計測可能であり、蒸発温度Teは、室外熱交換器11に備わる温度センサ10tb(
図1参照)で計測可能である。
一般的に、温度センサは圧力センサよりも安価であり、圧力センサ(吐出圧力センサ10pa,吸入圧力センサ10pb)に替えて温度センサ(温度センサ10tb,温度センサ20ta)を用いることで安価な空気調和機1とすることができる。
【0031】
また、本実施例の空気調和機1(
図1参照)は、制御装置1a(
図1参照)が吸入乾き度Xsを演算によって推定するように構成されていてもよい。そして、制御装置1aは、推定した吸入乾き度Xsが0.85より高くなるように圧縮機14(
図1参照)を制御する構成であってもよい。
図5は吸入乾き度の推定に使用される変数を示す図、
図6は制御装置が演算によって吸入乾き度を推定する手順を示すフローチャートである。
【0032】
本実施例の空気調和機1に備わる制御装置1aは吸入乾き度Xsを推定する場合、
図6に示す手順で、吐出温度Tdと、吐出圧力Pdと、吸入圧力Psと、圧縮機14の回転速度Frと、冷媒(R32)の物性値と、に基づいた演算によって吸入乾き度Xsを推定する。そして、制御装置1aは、推定した吸入乾き度Xsが0.85より高くなるように空気調和機1を運転(例えば暖房運転)する。なお、制御装置1aは、空気調和機1を運転するときに、所定のサイクルで吸入乾き度Xsを推定(演算)するように構成される。
【0033】
図6を参照して、制御装置1aが演算によって吸入乾き度Xsを推定する手順を説明する(適宜、
図1〜5参照)。
制御装置1aは、吐出温度センサ10taが計測する吐出温度Tdの計測値と、吐出圧力センサ10paが計測する吐出圧力Pdの計測値と、吸入圧力センサ10pbが計測する吸入圧力Psの計測値と、圧縮機14に備わる図示しない回転速度計が計測する回転速度Frの計測値と、に基づいて、吐出温度Tdと、吐出圧力Pdと、吸入圧力Psと、圧縮機14の回転速度Frと、を取得する(ステップS1)。
そして、制御装置1aは取得した吐出温度Tdと、吐出圧力Pdに基づいて、吐出ガス比エンタルピhdを演算する(ステップS2)。
図5に示すように、吐出ガス比エンタルピhdは、圧縮機14の出口側における冷媒の比エンタルピを示す。
【0034】
また、制御装置1aは、吸入乾き度Xsを仮定し(ステップS3)、さらに、吸入圧力Psと冷媒の物性値(R32の物性値)に基づいて、吸入圧力Psにおける飽和液比エンタルピhsL、および吸入圧力Psにおける飽和ガス比エンタルピhsGを演算する(ステップS4)。
例えばステップS3で、制御装置1aは、前のサイクルで演算した吸入乾き度Xsの推定値を吸入乾き度Xsの仮定値とする。
また、制御装置1aは、あらかじめ設定されている近似式に基づいて、吸入圧力Psにおける飽和液比エンタルピhsL、および飽和ガス比エンタルピhsGを算出する(ステップS4)。この近似式は、R32の特性式として予め設定されているものであることが好ましい。
【0035】
そして、制御装置1aは、仮定した吸入乾き度Xsと、演算した飽和液比エンタルピhsLと、演算した飽和ガス比エンタルピhsGと、を使用して、下式(2)に基づいて、吸入比エンタルピhsを演算する(ステップS5)。
Xs=(hs−hsL)/(hsG−hsL) ・・・(2)
【0036】
また、制御装置1aは、吸入圧力Psと、演算した吸入比エンタルピhsと、R32の物性値と、に基づいて吸入比エントロピSsを演算し(ステップS6)、さらに、演算した吸入比エントロピSsと、吐出圧力Pdと、R32の物性値と、に基づいて、断熱圧縮吐出ガス比エンタルピhd’を演算する(ステップS7)。
ステップS6で制御装置1aは、予め設定されている近似式に基づいて、吸入圧力Psと吸入比エンタルピhsにおける吸入比エントロピSsを演算するように構成される。この近似式は、R32の特性式として予め設定されているものであることが好ましい。
【0037】
また、制御装置1aがステップS7で演算する断熱圧縮吐出ガス比エンタルピhd’は、
図5に示すように、制御装置1aがステップS3で仮定した吸入乾き度Xsの冷媒を、圧縮機14の効率(圧縮機効率ηt)を「1」とする等エントロピ圧縮(ηt=1)した場合の、吐出圧力Pdにおける比エンタルピを示す。
図5には、等エントロピ圧縮を破線で示している。
【0038】
この場合、制御装置1aがステップS3で仮定した吸入乾き度Xsに対する、圧縮機14の圧縮機効率(仮効率)ηt
real’は次式(3)で示される。
ηt
real’=(hd’−hs)/(hd−hs) ・・・(3)
制御装置1aは、ステップS2で演算した吐出ガス比エンタルピhd、ステップS5で演算した吸入比エンタルピhs、およびステップS7で演算した断熱圧縮吐出ガス比エンタルピhd’に基づいて式(3)から、仮効率ηt
real’を演算する(ステップS8)。
【0039】
また、圧縮機14の実際の効率(実効率)ηt
realは、次式(4)で示される。
ηt
real=f(Xs,Pd,Ps,Fr) ・・・(4)
なお、「f(Xs,Pd,Ps,Fr)」は、吸入乾き度Xs、吐出圧力Pd、吸入圧力Ps、および圧縮機14の回転速度Frを変数として圧縮機14の特性を表す関数であり、圧縮機14の形式ごとに予め設定されている関数である。
そして、制御装置1aは、ステップS3で仮定した吸入乾き度Xs、ステップS1で取得した、吐出圧力Pd、吸入圧力Ps、および圧縮機14の回転速度Frに基づいて式(4)から、実効率ηt
realを演算する(ステップS9)。
【0040】
制御装置1aは、ステップS8で演算した仮効率ηt
real’を、ステップS9で演算した実効率ηt
realで除した比(ηt
real’/ηt
real)を演算し(ステップS10)、この値が所定の下限値以上、かつ、所定の上限値以下であれば(ステップS10→Yes)、ステップS3で仮定した吸入乾き度Xsを吸入乾き度Xsの推定値に決定する。
【0041】
一方、ステップS10で演算した比(ηt
real’/ηt
real)の値が所定の下限値未満であるか、所定の上限値より大きい場合(ステップS10→No)、制御装置1aは、手順をステップS3に戻し、新たに吸入乾き度Xsを仮定してステップS3〜ステップS10の手順を実行する。
例えば、ステップS10で演算した比(ηt
real’/ηt
real)の値が所定の下限値未満の場合、制御装置1aは、仮効率ηt
real’が大きくなる方向に吸入乾き度Xsを変化させた値を、新たな吸入乾き度Xsの仮定値とする。
【0042】
なお、ステップS10で制御装置1aが「ηt
real’/ηt
real」と比較する所定の下限値および上限値は、要求される吸入乾き度Xsの演算精度等に基づいて適宜設定されることが好ましい。例えば、下限値を「0.999」、上限値を「1.001」とすれば、制御装置1aは、「±0.1%」の誤差で吸入乾き度Xsを推定(演算)可能になる。
【0043】
そして、制御装置1a(
図1参照)は、
図6に示す手順で吸入乾き度Xsを推定(演算)しながら空気調和機1(
図1参照)を運転する(例えば暖房運転する)。このとき、制御装置1aは、推定した吸入乾き度Xsが0.85より高くなるように空気調和機1を制御する。具体的に制御装置1aは、演算によって推定した吸入乾き度Xsが0.85より高くなるように圧縮機14の回転速度Frを調節して圧力比εを調節する。
制御装置1aは、演算によって推定した吸入乾き度Xsが下がって0.85に近づいたときには、圧縮機14の回転速度Frを低下して圧力比εを低くする。例えば、制御装置1aは、圧力比上限εmaxとなる回転速度Frで運転されている圧縮機14の回転速度Frを低下するように圧縮機14を制御する。これによって吐出圧力Pdが低下し、圧縮機14の入口側における冷媒は湿りにくくなって吸入乾き度Xsが上昇する。
【0044】
このように制御装置1a(
図1参照)が吸入乾き度Xsを推定するとともに、推定した吸入乾き度Xsが0.85より高くなるように空気調和機1(
図1参照)を運転することによって、より確実に吸入乾き度Xsを0.85より高く維持できる。
【0045】
また、本実施例の制御装置1a(
図1参照)は、凝縮温度Tcと吐出温度Tdの差である吐出過熱度TdSH(=Td−Tc)が、予め設定される目標値を超えないように空気調和機1(
図1参照)を暖房運転する構成であってもよい。
【0046】
図7は、吐出温度と凝縮温度と吐出過熱度の関係を示すグラフであり、縦軸を温度(吐出温度Td,凝縮温度Tc,吐出過熱度TdSH)、横軸を吐出圧力Pdとする。
また、
図7の実線は凝縮温度Tcを示し、一点鎖線は吐出温度Tdを示す。そして、破線は、吐出圧力Pdごとの吐出過熱度TdSHの目標値(目標過熱度SHtgt)を示す。前記したように、吐出過熱度TdSHは、同じ吐出圧力Pdにおける吐出温度Tdと凝縮温度Tcの差(Td−Tc)であり、その目標過熱度SHtgtは、例えば、
図7に破線で示すように設定される。
【0047】
凝縮温度Tcは吐出圧力Pdに対応して決定される冷媒固有の値(物性値)であり、制御装置1aは吐出圧力センサ10pa(
図1参照)が計測する吐出圧力Pdの計測値に基づいて凝縮温度Tcを演算可能である。
例えば、制御装置1aは、吐出圧力センサ10paが計測する吐出圧力Pdに基づいて、吐出圧力Pdと凝縮温度Tcの関係を示す近似式から凝縮温度Tcを演算できる。この近似式は、R32の特性式として予め設定されているものであることが好ましい。
【0048】
また、
図7に示す一例では、吐出圧力Pdが所定値(境界吐出圧:Pda)のときに吐出温度Tdが圧縮機14の上限温度(Tdmax)となるため、吐出圧力Pdが境界吐出圧(Pda)より高い領域では、吐出温度Tdが上限温度(Tdmax)となるように、目標過熱度SHtgtが設定されている。
【0049】
制御装置1a(
図1参照)は吐出温度センサ10ta(
図1参照)が計測する吐出温度Tdと、吐出圧力Pdの計測値に基づいて演算する凝縮温度Tcと、から吐出過熱度TdSHを演算する。そして、制御装置1aは、演算する吐出過熱度TdSHが、
図7に破線で示す目標過熱度SHtgtに近づくように空気調和機1(
図1参照)を暖房運転する。
例えば、演算する吐出過熱度TdSHが目標過熱度SHtgtより低くなった場合、制御装置1aは、室外膨張弁13の弁開度を小さくする。室外膨張弁13における冷媒の温度低下が抑制されて吐出温度Tdは上昇する。一方、吸入圧力Psおよび吐出圧力Pdはそれほど変化しないため凝縮温度Tcの変化は小さい。よって、吐出過熱度TdSH(Td−Tc)は上昇して目標過熱度SHtgtに近づく。
このように、制御装置1aは、演算する吐出過熱度TdSHが目標過熱度SHtgtの近傍に維持されるように室外膨張弁13を制御して、その弁開度を調節する。
【0050】
例えば、吐出温度Tdの上限(上限温度)が設定され、吐出温度Tdが上限温度になるように圧縮機14(
図1参照)の回転速度Frが調節される場合、圧縮機14の回転速度Frの変化にともなって吐出圧力Pdと吐出温度Tdが変化する。そして、吸入乾き度Xsは、吐出圧力Pdと吐出温度Tdの両方に対応して変化する。よって、吸入乾き度Xsを0.85より高く維持するために、制御装置1a(
図1参照)は、吐出圧力Pdと吐出温度Tdを統合的に調整することになり空気調和機1(
図1参照)の制御が複雑になる。
【0051】
これに対し、目標過熱度SHtgtが設定されて、吐出過熱度TdSHが目標過熱度SHtgtに近づくように室外膨張弁13(
図1参照)の弁開度が調節される場合、吐出圧力Pdはそれほど変化せずに吐出温度Tdが変化する。したがって、吸入乾き度Xsは吐出圧力Pdに対応して変化する。
よって、制御装置1a(
図1参照)は、吸入乾き度Xsを0.85より高く維持するように室外膨張弁13の弁開度を調節すればよく、空気調和機1(
図1参照)の制御が簡単になる。
【0052】
なお、前記したように、圧力比εが圧力比上限εmaxに近づくように制御装置1a(
図1参照)が圧縮機14の回転速度Frを調節する構成とし、さらに、吐出過熱度TdSHが目標過熱度SHtgtに近づくように、制御装置1aが室外膨張弁13の弁開度を調節する構成であってもよい。
例えば、圧力比εが圧力比上限εmaxより小さく、演算する吐出過熱度TdSHが目標過熱度SHtgtより小さいとき、制御装置1aは圧縮機14の回転速度Frを上昇して圧力比εを高めるとともに、室外膨張弁13の弁開度を小さくして吐出過熱度TdSHを上昇させる。
この構成によると、圧力比εは圧力比上限εmaxの近傍に維持され、吐出過熱度TdSHは目標過熱度SHtgtの近傍に維持される。このことによって、制御装置1a(
図1参照)は、空気調和機1(
図1参照)の吸入乾き度Xsを0.85に近い状態で維持することができ、吐出温度Tdを高く設定できる。これによって、空気調和機1は、吐出温度Tdが可能な限り高い状態で運転されることになり、蒸発潜熱が最大限に活用され、効率の高い運転状態を実現できる。
【0053】
以上のように、
図1に示す本実施例の制御装置1aは、空気調和機1を暖房運転するとき、圧縮機14および室外膨張弁13を制御して、吐出温度Td、吐出圧力Pd、吸入圧力Ps、圧縮機14の回転速度frを調節し、吸入乾き度Xsを0.85より高く維持する。これによって、冷媒としてR32が使用される場合においても吐出温度Tdを圧縮機14の上限温度(Tdmax)以下に維持することができる。また、冷媒に含まれる液体成分が圧縮機14に与える負荷を小さくできる。
【0054】
なお、本発明は前記した実施例に限定されるものではない。例えば、前記した実施例は本発明をわかりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。
【0055】
例えば、以上の説明は、空気調和機1(
図1参照)が暖房運転される場合であるが、空気調和機1が冷房運転される場合も、制御装置1a(
図1参照)は空気調和機1を同様に制御する。
制御装置1aは、空気調和機1を冷房運転する場合、圧縮機14の回転速度Frおよび室内膨張弁23の弁開度を調節して、吸入乾き度Xsを0.85より高く維持し、さらに、吐出過熱度TdSHを上限値近傍に維持する。
つまり、制御装置1aは、圧力比εが、式(1)に基づいて算出する圧力比上限εmaxとなるように圧縮機14の回転速度Frを調節する。
また、制御装置1aは、
図6に示す手順で吸入乾き度Xsを演算して推定し、推定した吸入乾き度Xsが0.85より高くなるように空気調和機1を制御する。
さらに制御装置1aは、吐出過熱度TdSHが予め設定される目標過熱度SHtgtに近づくように室内膨張弁23の弁開度を調節する。
このように制御装置1aは、圧縮機14および室内膨張弁23を制御して空気調和機1を冷房運転する。
【0056】
また、本実施例の制御装置1a(
図1参照)は、
図6に示すステップS4で、予め設定されている近似式によって飽和液比エンタルピhsLを演算する構成であるが、例えば、吸入圧力Psと飽和液比エンタルピhsLとの関係を示すマップが図示しない記憶部に記憶されている構成であってもよい。
このような構成にすると、制御装置1aは
図6に示すステップS4で、吸入圧力Psに基づいて当該マップを参照して飽和液比エンタルピhsLを演算できる。これによって、制御装置1aが飽和液比エンタルピhsLを演算するときの負荷を軽減できる。
【0057】
同様に、吸入圧力Psと飽和ガス比エンタルピhsGの関係を示すマップが図示しない記憶部に記憶されている構成であってもよいし、吸入圧力Psと吸入比エントロピSsの関係を示すマップが図示しない記憶部に記憶されている構成であってもよい。
また、吐出圧力Pdと凝縮温度Tcの関係を示すマップが図示しない記憶部に記憶されている構成であってもよい。
【0058】
この他、本発明は、前記した実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。
例えば、
図1に示すように、本実施例の空気調和機1は圧縮機14が室外機10に配設されているが、圧縮機14が室内機20に配設される構成であってもよい。
また、四方弁16に替えて、複数の開閉弁(図示せず)が備わる構成であってもよい。複数の開閉弁が備わる構成の場合、圧縮機14の出口側と室外熱交換器11を接続する配管を開閉する開閉弁と、アキュムレータ15と配管31を接続する配管を開閉する開閉弁と、圧縮機14の出口側と配管31を接続する配管を開閉する開閉弁と、室外熱交換器11とアキュムレータ15を接続する配管を開閉する開閉弁と、の少なくとも4つの開閉弁が備わる構成とすればよい。