(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5981431
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】セロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤
(51)【国際特許分類】
A61K 9/70 20060101AFI20160818BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20160818BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20160818BHJP
A61K 47/14 20060101ALI20160818BHJP
A61K 31/4184 20060101ALI20160818BHJP
A61K 31/439 20060101ALI20160818BHJP
A61K 31/473 20060101ALI20160818BHJP
A61K 31/4178 20060101ALI20160818BHJP
A61K 31/46 20060101ALI20160818BHJP
A61K 31/437 20060101ALI20160818BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20160818BHJP
A61P 1/08 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
A61K9/70 401
A61K47/32
A61K47/18
A61K47/14
A61K31/4184
A61K31/439
A61K31/473
A61K31/4178
A61K31/46
A61K31/437
A61P43/00 114
A61P1/08
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-523030(P2013-523030)
(86)(22)【出願日】2012年7月4日
(86)【国際出願番号】JP2012067052
(87)【国際公開番号】WO2013005760
(87)【国際公開日】20130110
【審査請求日】2015年4月15日
(31)【優先権主張番号】特願2011-150778(P2011-150778)
(32)【優先日】2011年7月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000215958
【氏名又は名称】帝國製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100138900
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 昌宏
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【弁理士】
【氏名又は名称】呉 英燦
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】鎌倉 高志
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 大樹
【審査官】
高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−137925(JP,A)
【文献】
特開平09−278651(JP,A)
【文献】
特開平09−169636(JP,A)
【文献】
特表2008−540662(JP,A)
【文献】
特開平02−255612(JP,A)
【文献】
特表2008−512471(JP,A)
【文献】
特開2002−332228(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非官能性のアクリル系粘着剤、1〜10重量%の水溶性有機アミン及び2〜20重量%の脂肪酸エステルを配合してなる粘着剤層に、薬効成分としてセロトニン受容体拮抗薬を配合し、ラウリル酸ジエタノールアミドを含有しないセロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤。
【請求項2】
セロトニン受容体拮抗薬がラモセトロン、グラニセトロン、パロノセトロン、オンダンセトロン、アザセトロン、トロピセトロン、アロセトロン、及びイタセトロン、並びにそれらのいずれかの塩、並びにそれらの混合物からなる群より選ばれたものである、請求項1に記載のセロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤。
【請求項3】
セロトニン受容体拮抗薬がグラニセトロン、ラモセトロン、パロノセトロン及びオンダンセトロン、並びにそれらのいずれかの塩、並びにそれらの混合物からなる群より選ばれたものである、請求項1又は請求項2に記載のセロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤。
【請求項4】
セロトニン受容体拮抗薬がグラニセトロン又はその塩であり、かつ経皮吸収遅延時間(ラグタイム)が5時間以内である、請求項1〜3のいずれかに記載のセロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤。
【請求項5】
セロトニン受容体拮抗薬がラモセトロン又はその塩であり、かつ経皮吸収遅延時間(ラグタイム)が6時間以内である、請求項1〜3のいずれかに記載のセロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤。
【請求項6】
セロトニン受容体拮抗薬がパロノセトロン又はその塩であり、かつ経皮吸収遅延時間(ラグタイム)が5時間以内である、請求項1〜3のいずれかに記載のセロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤。
【請求項7】
セロトニン受容体拮抗薬がグラニセトロン又はその塩であり、かつ最大皮膚透過速度到達時間が12時間以内である、請求項1〜4のいずれかに記載のセロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤。
【請求項8】
セロトニン受容体拮抗薬がラモセトロン又はその塩であり、かつ最大皮膚透過速度到達時間が15時間以内である、請求項1〜3又は請求項5のいずれかに記載のセロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤。
【請求項9】
セロトニン受容体拮抗薬がパロノセトロン又はその塩であり、かつ最大皮膚透過速度到達時間が10時間以内である、請求項1〜3又は請求項6のいずれかに記載のセロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤。
【請求項10】
貼付後24時間目の皮膚透過速度(μg/cm2/hr)/最大皮膚透過速度(μg/cm2/hr)が0.6以下である、請求項4又は請求項7に記載のセロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤。
【請求項11】
貼付後24時間目の皮膚透過速度(μg/cm2/hr)/最大皮膚透過速度(μg/cm2/hr)が0.5以下である、請求項6又は請求項9に記載のセロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤。
【請求項12】
非官能性のアクリル系粘着剤の配合量が50〜95重量%であり、かつセロトニン受容体拮抗薬の配合量が1〜20重量%である、請求項1〜11のいずれかに記載のセロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤。
【請求項13】
非官能性のアクリル系粘着剤がアクリル酸2−エチルヘキシル・メタクリル酸2−エチルヘキシル・メタクリル酸ドデシル共重合体、アクリル酸2−エチルヘキシル・ビニルピロリドン共重合体、アクリル酸2−エチルヘキシル・酢酸ビニル共重合体、及びアクリル酸メチル・アクリル酸2−エチルヘキシル共重合体からなる群より選ばれたものである、請求項1〜12のいずれかに記載のセロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪心及び嘔吐治療薬として用いられているセロトニン受容体拮抗薬を有効成分として経皮から効率よく持続的に吸収させ、がん化学療法時の悪心・嘔吐の予防及び治療を行う、1日1回の投与が可能な経皮吸収型貼付剤に関する。
【背景技術】
【0002】
悪心・嘔吐は、がん化学療法時の約70〜80%に出現する症状と言われている。持続する悪心・嘔吐は、脱水、電解質異常や低栄養を引き起こすため、生理的・心理的不快が強く、患者にとっては大きな苦痛となっており、悪心・嘔吐を最小限にくい止めることが治療現場での最優先課題となっている。
【0003】
この悪心・嘔吐等の症状を抑える治療薬として、セロトニン受容体拮抗薬であるグラニセトロン塩酸塩、ラモセトロン塩酸塩、オンダンセトロン塩酸塩が広く一般的に臨床現場で用いられている。
【0004】
これらのセロトニン受容体拮抗薬の投与方法としては、一般的に経口投与或いは静脈内投与が行われている。しかしながら、悪心・嘔吐を訴える患者や嚥下困難な状態である患者に経口剤を服用させることは容易ではなく、服用できても吐く虞があり、患者のQOL(Quality of Life)という観点から好ましいものではなかった。
【0005】
また、静脈注射の場合は、患者の苦痛を伴うこと、及び医者や看護婦による処置が必要であり、在宅治療を行っている患者には適用できないなどの制限があり、こちらも患者のQOL(Quality of Life)という観点から好ましいものではなかった。
【0006】
そこで、患者にとって投与方法が簡便で、かつ苦痛も伴わないことにより、患者のQOL(Quality of Life)向上が見込める経皮吸収型貼付剤の開発が種々検討されている。
【0007】
上記経皮吸収型製剤としては、非酸性ヒドロキシル部分を含むアクリル接着剤に生理学的有効量のグラニセトロンが充填されている接着性パッチ(特許文献1)や制吐作用に有効な量のセロトニン受容体拮抗薬、吸収促進剤を接着剤に含有させ24時間以上皮膚に適用させることが可能な貼付剤(特許文献2)が開発されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1では、長時間(24時間以上)皮膚に適用できるようにアクリル系粘着剤の官能基としてヒドロキシル基を用いた製剤設計がされているため、初期の粘着力及び保持力が強すぎて、製剤を剥離するときに角質層も一緒に剥離されてくるため、皮膚刺激が強くなる等の問題があった。また粘着剤に官能基が存在するために、経皮吸収性についても不十分なものであった。
【0009】
また、特許文献3にはアクリル酸−2−エチルヘキシルとビニルピロリドンの共重合体、ミリスチン酸イソプロピル、及びラウリル酸ジエタノールアミドからなる粘着基剤にグラニセトロンを配合した経皮吸収テープ剤が開示されている。この製剤は、持続的に薬物の放出が可能という特徴を備えているが、1日1回投与製剤に必要な、速やかな薬効の発現という観点においては改良の余地があった。また非イオン性界面活性剤であるラウリル酸ジエタノールアミドを配合しているために、皮膚に対する刺激性が高い製剤でもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2006−516601号公報
【特許文献2】特表2008−540662号公報
【特許文献3】特開2009−137925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
患者にとって投与方法が簡便で苦痛もないことにより、患者のQOL(Quality of Life)向上が見込めるセロトニン受容体拮抗薬含有の経皮吸収型貼付剤は、上記の通り従来から検討はされているものの、1日1回投与製剤の条件である、薬効の発現が速く、薬物の十分な経皮吸収性を示し、さらに薬物の循環血液中からの消失が速い経皮吸収型貼付剤は未だ開発されていない。
【0012】
従って、本発明の目的は経皮吸収遅延時間(ラグタイム)が短く、かつ、薬物の最大皮膚透過速度(maximum flux:μg/cm
2/hr)まで短時間で到達が可能な、すなわち最大薬効の発現が速い経皮吸収型のセロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤を提供することにある。
【0013】
また、本発明の更なる目的としては、1日1回貼付に適した循環血液中からの速やかな薬物の消失を示す経皮吸収型のセロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意研究の結果、非官能性のアクリル系粘着剤、水溶性有機アミン、および脂肪酸エステルを配合した粘着剤層に、セロトニン受容体拮抗薬を配合することによって、従来のセロトニン受容体拮抗薬を配合した経皮吸収型貼付剤と比較して、大幅に経皮吸収遅延時間(ラグタイム)が短くなり、かつ短時間で薬物の最大皮膚透過速度に到達し、速やかな薬効発現とともに、十分な経皮吸収性を示し、かつ循環血液中からの薬物の消失の速い新規セロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤を提供できることを見出し、本発明を完成したものである。
【0015】
本発明は以下の態様で示される。
1.非官能性のアクリル系粘着剤、水溶性有機アミン及び脂肪酸エステルを配合してなる粘着剤層に、薬効成分としてセロトニン受容体拮抗薬を配合したセロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤。
2.水溶性有機アミンの配合量が1〜10重量%であり、かつ脂肪酸エステルの配合量が2〜20重量%である、上記1に記載のセロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤。
3.セロトニン受容体拮抗薬がグラニセトロン、ラモセトロン、パロノセトロン及びオンダンセトロンからなる群より選ばれたものである、上記1又は2に記載のセロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤。
4.セロトニン受容体拮抗薬がグラニセトロンであり、かつ経皮吸収遅延時間(ラグタイム)が5時間以内である、上記1〜3のいずれかに記載のセロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤。
5.セロトニン受容体拮抗薬がラモセトロンであり、かつ経皮吸収遅延時間(ラグタイム)が6時間以内である、上記1〜3のいずれかに記載のセロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤。
6.セロトニン受容体拮抗薬がパロノセトロンであり、かつ経皮吸収遅延時間(ラグタイム)が5時間以内である、上記1〜3のいずれかに記載のセロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤。
7.セロトニン受容体拮抗薬がグラニセトロンであり、かつ最大皮膚透過速度到達時間が12時間以内である、上記1〜4のいずれかに記載のセロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤。
8.セロトニン受容体拮抗薬がラモセトロンであり、かつ最大皮膚透過速度到達時間が15時間以内である、上記1〜3又は5のいずれかに記載のセロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤。
9.セロトニン受容体拮抗薬がパロノセトロンであり、かつ最大皮膚透過速度到達時間が10時間以内である、上記1〜3又は6のいずれかに記載のセロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤。
10.貼付後24時間目の皮膚透過速度(μg/cm
2/hr)/最大皮膚透過速度(μg/cm
2/hr)が0.6以下である、上記4又は7に記載のセロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤。
11.貼付後24時間目の皮膚透過速度(μg/cm
2/hr)/最大皮膚透過速度(μg/cm
2/hr)が0.5以下である、上記6又は9に記載のセロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、非官能性のアクリル系粘着剤、水溶性有機アミン、及び脂肪酸エステルを配合した粘着剤層に、セロトニン受容体拮抗薬を配合した経皮吸収型貼付剤とすることによって、1日1回の繰り返し投与が可能な、セロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤を提供することができる。この経皮吸収型貼付剤は、セロトニン受容体拮抗薬をより効率よく経皮吸収させることができ、経皮吸収遅延時間(ラグタイム)が短くなり、短時間で薬物の最大皮膚透過速度に到達することで、薬効の発現が速く、かつ、循環血液中からの薬物の消失が速いため、簡便で苦痛を伴わない投与が可能となり、患者のQOLの向上をもたらすことができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】試験例1のIn vitroラット皮膚透過性試験結果を示したものである。
【
図2】試験例2のIn vitroヒト皮膚透過性試験結果を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、非官能性のアクリル系粘着剤に、吸収促進剤として水溶性有機アミンと脂肪酸エステルとを組み合わせて配合することを1つの特徴としている。
本発明の貼付剤の粘着剤層に配合するアクリル系粘着剤は、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基等の官能基を含まない非官能性の粘着剤であることが望ましい。粘着剤中にカルボキシル基、ヒドロキシル基等の官能基が存在すると、薬物放出性の低下等の問題が生じる。また該粘着剤層においては、吸収促進剤として水溶性有機アミンを使用するため、これらの官能基が粘着剤中に存在していると経時的に貼付剤の物性低下等の変化がおこり、好ましくない。
本発明の貼付剤の粘着剤層に配合するアクリル系粘着剤においては、主モノマーとして、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸ドデシル等を含有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体が例示でき、中でもアクリル酸2−エチルヘキシルを含む共重合体が好ましい。
【0019】
また、主モノマー以外にも酢酸ビニル、N−ビニルピロリドン、アクリルニトリル、スチレン等を含有したアクリル酸エステル共重合体を使用することができる。
すなわち本発明の貼付剤に適したアクリル系粘着剤としては、アクリル酸2−エチルヘキシル・メタクリル酸2−エチルヘキシル・メタクリル酸ドデシル共重合体、アクリル酸2−エチルヘキシル・ビニルピロリドン共重合体、アクリル酸2−エチルヘキシル・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸メチル・アクリル酸2−エチルヘキシル共重合体等のアクリル系粘着剤が挙げられる。特にアクリル酸2−エチルヘキシル・ビニルピロリドン共重合体、アクリル酸2−エチルヘキシル・メタクリル酸2−エチルヘキシル・メタクリル酸ドデシル共重合体及びアクリル酸2−エチルヘキシル・酢酸ビニル共重合体が好ましい。アクリル系粘着剤の配合量は50重量%〜95重量%であり、好ましくは60重量%〜90重量%である。
【0020】
本発明の貼付剤の粘着剤層に配合する水溶性有機アミンは、薬物に対して吸収促進剤として機能する。水溶性有機アミンとしてはモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン及びジイソプロパノールアミンが挙げられるが、中でもジイソプロパノールアミンが好ましい。水溶性有機アミンの配合量は1重量%〜10重量%であり、好ましくは1.5重量%〜7重量%である。水溶性有機アミンの配合量が10重量%を超えると、粘着基剤の物性低下が起こり、1重量%未満であると高い吸収促進効果を得ることができない。
【0021】
本発明の貼付剤の粘着剤層に配合する脂肪酸エステルは、水溶性有機アミンと組み合わせて、薬物の経皮吸収性を向上させる効果を示す。脂肪酸エステルとしては、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、セバシン酸ジエチル、アジピン酸ジイソプロピル、2−エチルヘキサン酸セチル、セバシン酸ジイソプロピル、オレイン酸エチル、イソステアリン酸2−ヘキシルデシル、ミリスチン酸ミリスチル、パルミチン酸セチル、リノール酸イソプロピル等が挙げられるが、粘着剤との相溶性及び皮膚に対する刺激性を考慮に入れた場合、ミリスチン酸イソプロピルが好ましく用いられる。脂肪酸エステルの配合量は2重量%〜20重量%であり、好ましくは4重量%〜16重量%である。脂肪酸エステルの配合量が20重量%を超えると、粘着基剤の物性低下が起こり、2重量%未満であると高い吸収促進効果を得ることができない。
【0022】
また、上記吸収促進剤に加えて高級脂肪酸を粘着剤層に配合してもよい。高級脂肪酸としてはミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、ラウリン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられるがオレイン酸が好ましい。高級脂肪酸の配合量は1重量%〜10重量%であり、好ましくは3重量%〜7重量%である。
【0023】
本発明の貼付剤の粘着剤層に薬効成分として配合されるセロトニン受容体拮抗薬としては、ラモセトロン、グラニセトロン、パロノセトロン、オンダンセトロン、アザセトロン、トロピセトロン、アロセトロン、イタセトロン等が挙げられ、遊離塩基の形をとるものであっても塩形態のものでもよく、その混合物であってもよい。好ましい薬物はオンダンセトロン、グラニセトロン、パロノセトロン及びラモセトロンであり、特に好ましくはグラニセトロン、パロノセトロン及びラモセトロンである。本発明の経皮吸収貼付剤へのセロトニン受容体拮抗薬の配合量は1重量%〜20重量%であり、好ましくは1重量%〜10重量%である。薬物の配合量が1重量%未満であると、所望の薬効を得ることができず、20重量%より多く配合しても、それ以上経皮吸収性を向上させることができず、逆に薬物の利用率の低下を招くことになる。
【0024】
また、必要に応じて粘着剤層中に例えば、その他の吸収促進剤、抗酸化剤、可塑剤、界面活性剤などの成分を適宜適量配合することができる。
吸収促進剤としては、上述の成分のほか、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、オレイルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール等のアルコール類、1−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等のピロリドン誘導体、ヒマシ油、オリーブ油、ダイズ油、ハッカ油、ゴマ油等の植物油、クロタミトン、ジメチルスルホキシド、L−メントール等も配合することができる。
【0025】
抗酸化剤としては、トコフェロール及びこれらの誘導体、アスコルビン酸、アスコルビン酸ステアリン酸エステル、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール等を配合することができる。
【0026】
可塑剤としては、流動パラフィン、スクワラン、スクワレン、シリコーン油、オリーブ油、ヒマシ油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、クロタミトン、ジメチルスルホキシド、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、クエン酸トリエチル、イソステアリン酸、多価アルコール脂肪酸エステル等を配合することができる。
【0027】
界面活性剤としては、経皮吸収製剤で一般的に使用されているソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等を配合することができる。
【0028】
本発明の貼付剤における支持体は、薬物の放出性に影響せず粘着剤層を支持するのに適した材料であれば特に限定されず、伸縮性又は非伸縮性のものを用いることができる。例えば、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂や綿素材から形成されたフィルムや織布、不織布又はそれらの複合素材を使用することができる。
【0029】
本発明の貼付剤を被覆する剥離ライナーとしては、通常の貼付剤に用いられているプラスチックフィルムを使用することができ、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニルなどからなる厚さ20〜100μmのフィルムを用いることができる。また、剥離性を良くするために、粘着剤層と接触する面にシリコーン樹脂やフッ素樹脂等を塗布したプラスチックフィルムを使用することができる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
〔実施例1〕
ジイソプロパノールアミン、ブチルヒドロキシトルエンをメタノール中に溶解し、これにミリスチン酸イソプロピル、グラニセトロン塩酸塩を添加して均一になるまで混合撹拌した。さらに、この混合液にアクリル系粘着剤と酢酸エチル溶液を添加して均一になるまで混合撹拌した。次に剥離ライナーである75μmポリエステルフィルムのシリコーン処理面に、厚さが一定になるようにこの混合液を塗工した。この塗工フィルムを80℃で約10分間乾燥させて溶媒を除去し、厚さ75μmの粘着剤層を形成させた。続いてポリエチレンテレフタレート支持体を粘着剤層に貼り合わせて本発明の貼付剤を得た。なお、各成分の配合量は表1に示す。
【0032】
〔実施例2〜13、並びに比較例1〜7及び比較例11〜12〕
表1及び表2に示す各基剤成分の配合量に従い、実施例1と同様の製法により各実施例及び各比較例の貼付剤を製造した。また、基剤成分のうち、使用した粘着剤の詳細は表3に示す。なお、表中の各成分の配合量は、重量%で示している。
【0033】
〔比較例8〕
特許文献1〔特表2006−516601号公報〕の実施例1の製剤を参考に、表2に示す各基剤成分の配合量に従い比較例8の製剤を製造した。
〔比較例9〕
特許文献2〔特表2008−540662号公報〕の実施例1(製剤A)を参考に、表2に示す各基剤成分の配合量に従い比較例9の製剤を製造した。
〔比較例10〕
特許文献3〔特開2009−137925号公報〕の実施例1の製剤を参考に、表2に示す各基剤成分の配合量に従い比較例10の製剤を製造した。
【表1】
【表2】
【0034】
上記処方一覧表に示したアクリル系粘着剤A〜Fの構成成分とその官能基は下記表3に示す通りである。
【表3】
【0035】
〔試験例1〕ラット皮膚透過性試験
各実施例及び各比較例の製剤の薬効成分放出性を検討するために、ヘアレスラットを使用したIn vitroラット皮膚透過性試験を実施した。
8〜10週齢のヘアレスラット(体重200g〜300g)の腹部皮膚を剥離し、真皮側をレセプター層側として、37℃の温水を外周部に循環させたFranz型セル(開口面積:1.77cm
2)に装着した。次に皮膚の角質層側に各貼付剤を貼付し、レセプター液としてPBS(pH7.4)溶液を用いて3ml/hrの速さで90分毎にレセプター液をサンプリングし、高速液体クロマトグラフ法により、採取液中の薬物濃度を測定した。又、その結果より、ラグタイム(hr)、皮膚透過速度(flux:μg/cm
2/hr)、最大皮膚透過速度等のパラメータを算出した。加えて、貼付後24時間目の皮膚透過速度値から、「貼付後24時間目の皮膚透過速度(μg/cm
2/hr)/最大皮膚透過速度(μg/cm
2/hr)」のパラメータを算出した。本パラメータは循環血液中からの薬物の消失の速さの指標となるものである。このパラメータが小さな製剤は、循環血液中からより速やかに薬物を消失できる製剤であり、本発明の製剤として望ましい。
試験結果から算出した各パラメータを表1及び表2に示す。又、実施例9〜10及び比較例6〜7の製剤の皮膚透過速度(μg/cm
2/hr)のグラフを
図1に示す。
【0036】
〔試験例2〕ヒト皮膚透過性試験
実施例1及び実施例2の製剤につき、In vitroヒト皮膚透過性試験を実施した。
凍結保存されたヒト皮膚を解凍し、約750μmにダーマトームした後、真皮側をレセプター層側として、37℃の温水を外周部に循環させたFranz型セル(開口面積:1.77cm
2)に装着した。次に皮膚の角質層側に各貼付剤を貼付し、レセプター液としてPBS(pH7.4)溶液を用いて3ml/hrの速さで90分毎にレセプター液をサンプリングし、高速液体クロマトグラフ法により、採取液中の薬物濃度を測定した。また、その結果より、単位時間かつ単位面積当たりの皮膚透過速度(μg/cm
2/hr)などを算出した。その結果を表1及び
図2に示す。
【0037】
〔試験例3〕安定性試験(性状及び結晶析出の観察)
実施例8及び比較例3〜5の製剤につき、室温で1年間保存した試料において製剤の安定性を検討した。各製剤について、保存前と保存後の性状(色)及び結晶析出の有無を目視で観察した。その結果を表4に示す。
【0038】
【表4】
【0039】
〔考察〕
・グラニセトロン(塩酸塩)配合貼付剤
表1及び表2に示すIn vitroラット皮膚透過性試験の結果より、薬物としてグラニセトロン(塩酸塩)を配合した本発明の実施例1〜10の各製剤は、ラグタイムが5時間以内と短く、最大皮膚透過速度到達時間が12時間以内で、かつ最大皮膚透過速度も高い値を示しているため、速やかに薬物を放出することができ、かつ治療に十分な薬物放出性を示すことが可能な貼付剤であることが判明した。一方、比較例1〜10の製剤は、薬物配合濃度が等しい実施例の製剤と比較して、最大皮膚透過速度が著しく劣ることが判明した。また、比較例1及び6〜7の製剤については、ラグタイムが5時間を超えており、実施例の各製剤より長く、また比較例2、5〜6及び8〜9の製剤に関しては、最大皮膚透過速度への到達時間が12時間をはるかに超えており、実施例の各製剤より顕著に長いため、これら比較例の製剤は速やかに薬物を放出する能力が実施例の各製剤よりも劣ることが判明した。さらに比較例3及び比較例4の製剤は、表4に示したように長期保存条件において薬物結晶化の可能性があり、実施例の製剤と比較して安定性が非常に劣った製剤であることが判明した。
また、循環血液中からの薬物の消失の速さを示すパラメータである、24時間目の皮膚透過速度(μg/cm
2/hr)/最大皮膚透過速度(μg/cm
2/hr)に着目した場合、特に実施例1〜2、4、7〜8及び10の製剤に関しては、その値が0.6以下であり、循環血液中から速やかに薬物を消失できる製剤であることが確認された。
一方、各比較例の製剤に関しては、ラグタイム及び最大皮膚透過速度が著しく劣る比較例1の製剤、並びに薬物の保存安定性の悪い比較例3及び比較例4の製剤を除いて、24時間目の皮膚透過速度(μg/cm
2/hr)/最大皮膚透過速度(μg/cm
2/hr)が0.7以上であり、薬物の循環血液中からの消失が遅い製剤であることが判明した。
また、本発明のグラニセトロン(塩酸塩)含有貼付剤を供試製剤とした、In vitroヒト皮膚透過性試験の結果からも、本発明のグラニセトロン配合製剤のラグタイムは5時間以内で、かつ最大皮膚透過速度到達時間が12時間以内であることから、薬効発現の速やかな貼付剤であることが実証された。
【0040】
・ラモセトロン塩酸塩配合貼付剤
表2に示すIn vitroラット皮膚透過性試験の結果より、薬物としてラモセトロン塩酸塩を配合した実施例11の製剤はラグタイムが6時間以内と短く、最大皮膚透過速度到達時間が15時間以内で、かつ最大皮膚透過速度も高い値を示しているため、速やかに薬物を放出することができ、かつ治療に十分な薬物放出性を示すことが可能な貼付剤であることが判明した。一方、ラモセトロン塩酸塩の配合量が実施例11の製剤と等しい比較例11の製剤は、ラグタイムが10時間を超え、かつ最大皮膚透過速度が低いため、実施例11の製剤よりも著しく劣る製剤であることが判明した。
【0041】
・パロノセトロン塩酸塩配合貼付剤
表2に示すIn vitroラット皮膚透過性試験の結果より、薬物としてパロノセトロン塩酸塩を配合した実施例12及び13の製剤はラグタイムが5時間以内と短く、最大皮膚透過速度到達時間が10時間以内で、かつ最大皮膚透過速度も高い値を示しているため、速やかに薬物を放出することができ、かつ治療に十分な薬物放出性を示すことが可能な貼付剤であることが判明した。
また、循環血液中からの薬物の消失の速さを示すパラメータである24時間目の皮膚透過速度(μg/cm
2/hr)/最大皮膚透過速度(μg/cm
2/hr)に着目した場合、各製剤とも、その値が0.5以下であり、循環血液中から速やかに薬物を消失できる製剤であることが確認された。
一方、比較例12の製剤は、最大皮膚透過速度が非常に低く、かつ最大皮膚透過速度到達時間が10時間をはるかに超えているため、薬物濃度の等しい実施例12の製剤と比較して著しく劣った製剤であることが判明した。
【0042】
本発明の貼付剤の更なる具体的処方例を下記表5に示す。
なお、表中の各成分の配合量は、重量%で示している。
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明により、セロトニン受容体拮抗薬をより効率良く持続的に経皮吸収させることができ、経皮吸収遅延時間(ラグタイム)及び最大皮膚透過速度への到達時間が短くなることで薬効の発現が速くなり、さらに循環血液中からの速やかな薬物の消失も実現することができるため、1日1回の繰り返し投与が可能な新規セロトニン受容体拮抗薬含有貼付剤を提供することができる。