特許第5981435号(P5981435)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5981435
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】角速度センサ
(51)【国際特許分類】
   G01C 19/56 20120101AFI20160818BHJP
   H01L 41/113 20060101ALI20160818BHJP
   H01L 41/047 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   G01C19/56
   H01L41/113
   H01L41/047
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-531450(P2013-531450)
(86)(22)【出願日】2012年9月3日
(86)【国際出願番号】JP2012072308
(87)【国際公開番号】WO2013032003
(87)【国際公開日】20130307
【審査請求日】2015年3月16日
(31)【優先権主張番号】特願2011-192127(P2011-192127)
(32)【優先日】2011年9月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000242633
【氏名又は名称】北陸電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【弁理士】
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100130720
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼見 良貴
(74)【代理人】
【識別番号】100130432
【弁理士】
【氏名又は名称】出山 匡
(74)【代理人】
【識別番号】100186819
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 俊尚
(72)【発明者】
【氏名】田村 雅英
(72)【発明者】
【氏名】川崎 修
(72)【発明者】
【氏名】中野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】新川 翔平
(72)【発明者】
【氏名】矢野 秀和
(72)【発明者】
【氏名】今村 徹治
【審査官】 岸 智史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−160095(JP,A)
【文献】 特開2010−122141(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0032307(US,A1)
【文献】 特開平08−327657(JP,A)
【文献】 特開2010−043929(JP,A)
【文献】 特開2000−304544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 19/56−19/5783
G01P 15/00−15/18
H01L 41/08−41/09
H01L 29/84
B81B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状のダイアフラムと、
前記ダイアフラムの中央部に配置された重錘と、
前記ダイアフラムの外周部を支持する支持部と、
前記重錘に対して、所定の振動軸の方向の運動成分をもった振動を誘起する振動励起部と、
コリオリ力に基づいて前記重錘に生じる変位軸の方向の変位を検出する変位検出部とを備え、
前記ダイアフラムの中心位置に原点Oをもち、前記ダイアフラムの表面がXY平面に含まれるようなXYZ三次元直交座標系を定義したときに、前記X軸及びZ軸のうちの一方を前記振動軸、他方を前記変位軸とし、前記変位検出部からの検出値に基づいてY軸まわりの角速度を検出する角速度センサであって、
前記重錘が円柱状または円錐状を有しており、
前記ダイアフラムの前記外周部の輪郭形状が、四角形の四隅に直線部または湾曲部を有する形状であることを特徴とする角速度センサ。
【請求項2】
前記四角形が略正方形である請求項1に記載の角速度センサ。
【請求項3】
前記ダイアフラムの表面に形成された下部電極と、
前記下部電極の上に形成された圧電膜と、
前記圧電膜の上に形成されて前記振動励起部を構成する4つの振動励起用電極と、
前記4つの振動励起用電極の内側に位置するように、前記圧電膜の上に形成されて前記変位検出部を構成する4つの角速度検出用電極とを備えており、
前記ダイアフラムの対向する2辺と直交し且つ該2辺を二分する第1の仮想線と、前記ダイアフラムの対向する残りの2辺と直交し且つ該2辺を二分する第2の仮想線と、前記ダイアフラムの対向する2つの隅部の中心を通る第1の仮想対角線と、前記ダイアフラムの対向する残りの2つの隅部の中心を通る第2の仮想対角線とを仮定したときに、
前記ダイアフラムの外周部の前記輪郭形状は、前記第1の仮想線または第2の仮想線に対して線対称となる形状を有しており、
前記4つの振動励起用電極は、前記第1及び第2の仮想線によって仕切られた4つの領域内にそれぞれ形成されているか、または前記第1の仮想対角線と前記第2の仮想対角線によって仕切られた4つの領域内にそれぞれ形成されており、
前記4つの角速度検出用電極は、前記第1及び第2の仮想線によって仕切られた4つの領域内にそれぞれ形成されているか、または前記第1の仮想対角線と前記第2の仮想対角線によって仕切られた4つの領域内にそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項1に記載の角速度センサ。
【請求項4】
前記4つの振動励起用電極及び前記4つの角速度検出用電極は、前記第1の仮想線及び第2の仮想線に対して線対称形状となるように配置されている請求項3に記載の角速度センサ。
【請求項5】
前記ダイアフラム、前記重錘及び前記支持部は、半導体基板にエッチングを施して一体に形成されており、
前記4つの振動励起用電極は、前記第1の仮想対角線と前記第2の仮想対角線によって仕切られた4つの領域内にそれぞれ形成されており、
前記4つの角速度検出用電極は、前記第1の仮想対角線と前記第2の仮想対角線によって仕切られた4つの領域内にそれぞれ形成されており、
前記第1の仮想線及び前記第2の仮想線が前記X軸の軸線及び前記Y軸の軸線とそれぞれ一致しており、
前記輪郭の前記第1の仮想線に添う長さ寸法R1と、前記輪郭の前記第2の仮想線に添う長さ寸法R2と、前記第1の仮想対角線及び第2の仮想対角線に添う長さ寸法R3とが、R1:R2:R3=(0.95±0.02の範囲の値):1:(0.85±0.02の範囲の値)の関係を満たす請求項3に記載の角速度センサ。
【請求項6】
前記4つの振動励起用電極及び前記4つの角速度検出用電極は、前記ダイアフラムと前記重錘との境界及び前記ダイアフラムと前記支持部との境界に跨がらないように形成されている請求項5に記載の角速度センサ。
【請求項7】
前記4つの振動励起用電極の輪郭形状は、前記重錘の径方向外側に位置する外辺と、前記外辺と径方向に対向する内辺と、前記外辺と前記内辺とを連結する一対の連結辺とからなり、
前記外辺の形状が前記ダイアフラムの外周部の一部の形状と相似形になっている請求項3に記載の角速度センサ。
【請求項8】
前記内辺の形状が前記外辺の形状の相似形である請求項7に記載の角速度センサ。
【請求項9】
前記内辺の形状が円弧形状である請求項7に記載の角速度センサ。
【請求項10】
前記4つの角速度検出用電極の輪郭形状は、前記重錘の径方向外側に位置する外辺と、前記外辺と径方向に対向する内辺と、前記外辺と前記内辺とを連結する一対の連結辺とからなり、前記外辺及び内辺はそれぞれ同心の円弧形状を有している請求項3に記載の角速度センサ。
【請求項11】
前記ダイアフラムの前記輪郭の前記辺と前記隅部との連結部は湾曲している請求項3に記載の角速度センサ。
【請求項12】
前記4つの振動励起用電極の輪郭形状の角部はそれぞれ湾曲している請求項7に記載の角速度センサ。
【請求項13】
前記4つの角速度検出用電極の輪郭形状の角部はそれぞれ湾曲している請求項10に記載の角速度センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角速度センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1(A)〜(C)は、特開2010−160095号公報(特許文献1)に示されている従来の角速度センサの平面図、断面図及び底面図である。この角速度センサでは、平板状のダイアフラム101と、ダイアフラム101の中央部に配置された重錘103と、ダイアフラムの外周部を支持する支持部105と、ダイアフラムの表面に絶縁膜106を介して形成された下部電極107と、下部電極の上に形成された圧電薄膜109と、圧電薄膜の上に形成された4つの振動励起用電極111及び4つの角速度検出用電極113とを備えている。重錘103に対して、所定の振動軸の方向の運動成分をもった振動を誘起するためには、4つの振動励起用電極111からなる振動励起部を駆動する。そしてコリオリ力に基づいて重錘103に生じる変位軸の方向の変位を4つの角速度検出用電極113から検出して、角速度を求める。この角速度センサでは、ダイアフラム101の中心位置に原点Oをもち、ダイアフラム101の表面がXY平面に含まれるようなXYZ三次元直交座標系を定義したときに、X軸及びZ軸のうちの一方を振動軸、他方を変位軸とし、変位検出部を構成する角速度検出用電極113からの検出値に基づいてY軸まわりの角速度を検出する。またX軸周り及びY軸周りの角速度を検出するためには、重錘103をZ方向に振動させることになる。また、Z軸周りの角速度を検出するためには、重錘103をX軸方向またはY軸方向に振動させることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−160095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら従来の角速度センサでは、重錘103の断面形状が円形でダイアフラム部101の外周部の輪郭形状もそれぞれ円形になっている。このような構成では、実際にZ軸周りの角速度を検出するためにX軸方向またはY軸方向に重錘103を振動させようとしても、重錘103を十分に振動させることができない。すなわち実際には、ダイアフラム101表面の電極の形状、重錘103及び支持部105の加工精度によって、重錘103が斜めに振動してしまい、高精度なZ軸周りの角速度検出が難しい問題があった。すなわち特許文献1に記載の振動型の角速度センサでは、Z軸周りの角速度検出時の駆動振動と検出振動の分離が充分に行えておらず、充分な角速度検出感度精度を実現することが困難であった。
【0005】
本発明の目的は、Z軸方向の軸周りに発生する検出感度精度を向上させ、尚且つX軸方向・Y軸方向の軸周りに発生する検出感度精度を劣化させない振動型の角速度センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の角速度センサは、平板状のダイアフラムと、ダイアフラムの中央部に配置された重錘と、ダイアフラムの外周部を支持する支持部と、ダイアフラムに設けられた振動励起部と角速度検出部とを備えている。振動励起部は、重錘に対して、所定の振動軸の方向の運動成分をもった振動を誘起する。変位検出部は、コリオリ力に基づいて重錘に生じる変位軸の方向の変位を検出する。そしてダイアフラムの中心位置に原点Oをもち、ダイアフラムの表面がXY平面に含まれるようなXYZ三次元直交座標系を定義したときに、X軸及びZ軸のうちの一方を振動軸、他方を変位軸とし、変位検出部からの検出値に基づいてY軸まわりの角速度を検出する。
【0007】
特に、本発明では、重錘が円柱状または円錐状を有している。そしてダイアフラムの外周部の輪郭形状を、正方形の四隅に直線部または湾曲部を有する形状とする。ここで重錘の形状を特定する円柱状または円錐状とは、幾何学的に完全な円柱または円錐だけを意味するものではなく、製造上発生する歪みの存在や、製造上発生する表面の凹凸の存在、重錘とダイアフラムとの境界部(隅部)に生じる拡径部分等の存在は許容されるものである。またダイアフラムの外周部の輪郭形状に含まれる直線部及び湾曲部も、幾何学的に完全な直線形状及び湾曲形状に限定されるものではない。
【0008】
本発明によれば、Z軸周りの角速度検出に必要なX軸方向及びY軸方向の振動が明確になる。またX軸回り及びY軸回りの角速度検出に必要なZ軸向の振動も損なわれない。したがって本発明によれば、Z軸周りの角速度を検出するためにX軸方向またはY軸方向に重錘を十分に振動させることができる角速度センサを提供することができる。またZ軸方向の軸周りに発生する検出感度精度を向上させ、尚且つX軸方向・Y軸方向の軸周りに発生する検出感度精度を劣化させない振動型の角速度センサを提供することができる。
【0009】
発明者は、重錘の形状を円柱状または円錐状に特定した場合において、ダイアフラムの外周部の輪郭形状を変えた場合におけるX、Y、Zの3軸方向の振動を研究した。その結果、以下の関係が成り立つことを見出した。
【0010】
・ダイアフラムの外周部の輪郭形状が円形の場合:Z軸方向の振動は良好だが、X軸方向の振動とY軸方向の振動の分離が難しい。
【0011】
・ダイアフラムの外周部の輪郭形状が四角形の場合:X軸方向の振動とY軸方向の振動を分離し易いがZ軸方向の振動に歪が生じやすい。
【0012】
そこで発明者は、ダイアフラムの外周部の輪郭形状について、上述の円形の場合と四角形の場合の中間形状として本発明の形状を考えて、種々の試験をした結果、本発明の中間形状であれば、X軸方向の振動とY軸方向の振動の区分がし易く、尚且つZ軸方向の振動時のダイアフラムの変位が同心円形状になって、安定した駆動振動となることを見出した。
【0013】
上記振動励起部と角速度検出部は、それぞれ複数の電極によって構成されることになる。電極の形状や配置位置によって、検出性能に差が出ることはよく知られている。そのためより好ましい電極の形状や配置位置については、目標とする性能に応じて適宜に定めることになる。具体的な角速度センサは、ダイアフラムの表面に形成された下部電極と、下部電極の上に形成された圧電膜と、圧電膜の上に形成されて振動励起部を構成する4つの振動励起用電極と、4つの振動励起用電極の内側に位置するように、圧電膜の上に形成されて変位検出部を構成する4つの角速度検出用電極とを備えている。この場合において、ダイアフラムの対向する2辺と直交し且つ該2辺を二分する第1の仮想線と、ダイアフラムの対向する残りの2辺と直交し且つ該辺2を二分する第2の仮想線と、ダイアフラムの対向する2つの隅部の中心を通る第1の仮想対角線と、ダイアフラムの対向する残りの2つの隅部の中心を通る第2の仮想対角線とを仮定する。そしてダイアフラムの外周部の輪郭形状を、第1の仮想線または第2の仮想線に対して線対称となる形状とする。この場合、4つの振動励起用電極には、第1及び第2の仮想線によって仕切られた4つの領域内にそれぞれ形成するか、または第1の仮想対角線と第2の仮想対角線によって仕切られた4つの領域内にそれぞれ形成する。そして4つの角速度検出用電極は、第1及び第2の仮想線によって仕切られた4つの領域内にそれぞれ形成するか、または第1の仮想対角線と第2の仮想対角線によって仕切られた4つの領域内形成する。このようにするとX軸方向の振動とY軸方向の振動の区分ができる信号を4つの角速度検出用電極から確実に得ることができる。
【0014】
なおダイアフラム、重錘及び支持部を、半導体基板にエッチングを施して一体に形成させる場合において、X軸方向の振動とY軸方向の振動の区分をさらに明確にできる信号を得るためには、4つの振動励起用電極を、第1及び第2の仮想線によって仕切られた4つの領域内にそれぞれ形成し、4つの角速度検出用電極も、第1及び第2の仮想線によって仕切られた4つの領域にそれぞれ形成する。この場合、第1の仮想対角線及び第2の仮想対角線がX軸の軸線及びY軸の軸線とそれぞれ一致するように形成するのが好ましい。
【0015】
見方を変えた具体的な構造では、4つの振動励起用電極を、第1の仮想対角線と第2の仮想対角線によって仕切られた4つの領域内にそれぞれ形成することができる。そして4つの角速度検出用電極は、第1の仮想対角線と第2の仮想対角線によって仕切られた4つの領域内にそれぞれ形成する。この場合には、第1の仮想線及び第2の仮想線がX軸の軸線及びY軸の軸線とそれぞれ一致させる。このような配置では、ダイアフラムの輪郭の第1の仮想線に添う長さ寸法をR1とし、ダイアフラムの輪郭の第2の仮想線に添う長さ寸法をR2とし、第1の仮想対角線及び第2の仮想対角線に添う長さ寸法をR3とした場合に、R1:R2:R3=(0.95±0.02の範囲の値):1:(0.85±0.02の範囲の値)の関係を満たすようにすると、主軸感度及び他軸感度を共にバランスさせることができる。
【0016】
4つの振動励起用電極及び4つの角速度検出用電極は、ダイアフラムと重錘との境界及びダイアフラムと支持部との境界に跨がらないように形成されていのが好ましい。このようにすると効率良く振動を生じさせることができて、しかもX軸方向の振動とY軸方向の振動を増大させることができる。
【0017】
4つの振動励起用電極及び4つの角速度検出用電極は、第1の仮想線及び第2の仮想線に対して線対称形状となるように配置されているのが好ましい。このようにするとX軸方向の振動とY軸方向の振動の区分をさらに明確にできる信号を得ることができる。
【0018】
電極の形状であるが、4つの振動励起用電極の輪郭形状は、重錘の径方向外側に位置する外辺と、この外辺と径方向に対向する内辺と、外辺と内辺とを連結する一対の連結辺とからなる場合、外辺の形状がダイアフラムの外周部の一部の形状と相似形になっているのが好ましい。このようにすることにより効率良く振動を生じさせることができる。
【0019】
この場合、振動励起用電極の輪郭形状の内辺の形状を外辺の形状の相似形とするのが好ましい。このようにすると最も効率良く振動を生じさせることができる。
【0020】
また4つの角速度検出用電極の輪郭形状は、重錘の径方向外側に位置する外辺と、外辺と径方向に対向する内辺と、外辺と内辺とを連結する一対の連結辺とからなる場合、外辺及び内辺はそれぞれ同心の円弧形状を有しているのが好ましい。このような角速度検出用電極を用いると、X軸方向の振動とY軸方向の振動の区分ができる信号を可能な範囲で大きくして4つの角速度検出用電極から得ることができる。
【0021】
なおダイアフラムの輪郭の辺と隅部との連結部は湾曲しているのが好ましい。このようにするとダイアフラムの機械的強度を高めることができる。また4つの振動励起用電極の輪郭形状4つの角速度検出用電極の輪郭形状の角部はそれぞれ湾曲しているのが好ましい。このようにすると電極が剥がれることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】(A)〜(C)は、従来の角速度センサの平面図、断面図及び底面図である。
図2】(A)及び(B)は、本発明の角速度センサの実施の形態の一例の平面図及び底面図である。
図3】実施の形態の角速度センサを、重錘をX軸方向に振動させるように振動励起用電極を駆動したときに得られる4つの角速度検出用電極から得られる所定の周波数範囲における出力の一部を示す図である。
図4】(A)及び(B)は、半導体基板をドライエッチングして形成される裾引き部(未エッチング部)を説明するために用いる図である。
図5】本発明の他の実施の形態の平面図を示している。
図6図5の実施の形態の角速度センサを、重錘をX軸方向に振動させるように振動励起用電極を駆動したときに得られる4つの角速度検出用電極から得られる所定の周波数範囲における出力の一部を示す図である。
図7】(A)及び(B)は、本発明の第3の実施の形態の角速度センサの平面図及び背面図である。
図8】(A)〜(D)は、異なる電極形状と電極配置の例を示す図である。
図9】輪郭形状が異なるダイアフラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図2(A)及び(B)は、本発明の角速度センサの実施の形態の一例の平面図及び底面図である。なお断面構造は、図1(B)の従来の角速度センサと同じであるため省略する。また図2(A)には、配線パターンは図示していない。本実施の形態の角速度センサでは、平板状のダイアフラム1と、ダイアフラム1の裏面中央部に配置された重錘3と、ダイアフラム1の外周部を支持する支持部5と、ダイアフラム1の表面に図示しない絶縁膜を介して形成された図示しない下部電極と、下部電極の上に形成された圧電薄膜9と、圧電薄膜の上9に形成された4つの振動励起用電極11及び4つの角速度検出用電極13とを備えている。ダイアフラム1と、重錘3と支持部5とは、結晶方位が(100)の半導体基板の一方の面上に重錘3の端面と支持部5の端面に対応する形状を有するマスクを配置し、このマスク側からドライエッチングを施すことにより、一体に形成されている。本実施の形態では、4つの振動励起用電極11により、重錘に対して、所定の振動軸の方向の運動成分をもった振動を誘起する振動励起部が構成されている。また角速度検出用電極13により、コリオリ力に基づいて重錘3に生じる変位軸の方向の変位を検出する変位検出部が構成されている。
【0024】
重錘3は、円柱状または円錐状を有している。そしてダイアフラムの外周部の輪郭形状は、四角形(本実施の形態では略正方形)の四隅に直線部STを有する形状になっている。本実施の形態では、正方形の各辺S1〜S4と直線部STとの交点部には、小さいアール部が形成されている。
【0025】
本実施の形態では、ダイアフラム1の中心位置に原点Oをもち、ダイアフラム1の表面がXY平面に含まれるようなXYZ三次元直交座標系を定義したときに、図2(A)に示すようにX軸とY軸とを定義している。ダイアフラム1の対向する2辺S1及びS3と直交し且つ該2辺S1及びS3を二分する第1の仮想線L1と、ダイアフラム1の対向する残りの2辺S2及びS4と直交し且つ該2辺を二分する第2の仮想線L2と、ダイアフラム1の対向する2つの隅部C1及びC3の中心を通る第1の仮想対角線CL2と、ダイアフラム1の対向する残りの2つの隅部C2及びC4の中心を通る第2の仮想対角線CL2とを仮定する。そしてダイアフラム1の外周部の輪郭形状を、第1の仮想線L1または第2の仮想線L2に対して線対称となる形状とする。本実施の形態では、4つの振動励起用電極11を、第1及び第2の仮想線L1及びL2によって仕切られた4つの領域内にそれぞれ形成している。そして4つの角速度検出用電極13は、第1の仮想対角線CL1と第2の仮想対角線CL2によって仕切られた4つの領域にそれぞれ形成されている。
【0026】
4つの振動励起用電極11の輪郭形状は、重錘3の径方向外側に位置する外辺12Aと、この外辺12Aと径方向に対向する内辺12Bと、外辺12Aと内辺12Bとを連結する一対の連結辺12C及び12Dとからなる。外辺12Aの形状は、ダイアフラム1の外周部の一部(隣合う2つの辺の一部と直線部に亘る部分)の形状と相似形になっている。また振動励起用電極11の輪郭形状の内辺12Bの形状も外辺の形状の相似形となっている。4つの振動励起用電極11をこのような形状にすると効率良く振動を生じさせることができる。
【0027】
また4つの角速度検出用電極13の輪郭形状は、重錘3の径方向外側に位置する外辺14Aと、外辺14Aと径方向に対向する内辺14Bと、外辺14Aと内辺14Bとを連結する一対の連結辺14C及び14Dとからなる。本実施の形態では、外辺14A及び内辺14Bはそれぞれ同心の円弧形状を有している。4つの振動励起用電極11と4つの角速度検出用電極13をこのように定めると、X軸方向の振動とY軸方向の振動の区分ができる信号を4つの角速度検出用電極13から確実に得ることができる。
【0028】
本実施の形態では、4つの振動励起用電極11及び4つの角速度検出用電極13は、ダイアフラム1と重錘3との境界及びダイアフラム1と支持部5との境界に跨がらないように形成されている。このように4つの振動励起用電極11及び4つの角速度検出用電極13を形成すると、4つの角速度検出用電極13からの出力信号の振幅をより大きなものとすることができる。
【0029】
重錘3に対して、所定の振動軸の方向の運動成分をもった振動を誘起するためには、4つの振動励起用電極11からなる振動励起部を駆動する。そしてコリオリ力に基づいて重錘3に生じる変位軸の方向の変位を4つの角速度検出用電極13から検出して、角速度を求める。この角速度センサでは、X軸及びZ軸のうちの一方を振動軸、他方を変位軸とし、変位検出部を構成する角速度検出用電極13からの検出値に基づいてY軸まわりの角速度を検出する。またX軸周り及びY軸周りの角速度を検出するためには、重錘3をZ方向に振動させることになる。本実施の形態によれば、Z軸周りの角速度検出に必要なX軸方向及びY軸方向の振動が明確になる。またX軸回り及びY軸回りの角速度検出に必要なZ軸向の振動も損なわれない。したがって本実施の形態によれば、コリオリ力の検出ができて、しかもZ軸周りの角速度を検出するためにX軸方向またはY軸方向に重錘を十分に振動させることができる角速度センサを得ることができる。また、Z軸周りの角速度を検出するためには、重錘3をX軸方向またはY軸方向に振動させることになる。
【0030】
図3は、本実施の形態の角速度センサを、重錘3をX軸方向に24.2kHzで振動させるように振動励起用電極11を駆動したときに得られる4つの角速度検出用電極13から得られる所定の周波数範囲における出力の一部を示している。なお図中のX1,X2,Y1及びY2は、図2(A)中の電極を区別すために付した符号X1,X2,Y1及びY2と同じである。図3から、X軸方向とY軸方向の振動が明確に区別できる出力が得られることが判る。
【0031】
図4(A)及び(B)に示すように、結晶方位が(100)の半導体基板をドライエッチングしてダイアフラム1、重錘3及び支持部5を一体に形成すると、支持部5とダイアフラム1との境界部及び重錘3とダイアフラム1の境界部には、僅かな裾引き部(未エッチング部)4A〜4Cが残る。特に、重錘3とダイアフラム1との間に形成される裾引き部(未エッチング部)は、方向性を持っている。図4(A)に示すように、第1及び第2の仮想線L1及びL2に沿う裾引き部(未エッチング部)4Aの最長長さは、第1及び第2の仮想対角線CL1及びCL2に沿う裾引き部(未エッチング部)4Bの最長長さよりも長くなることが判った。長い裾引き部(未エッチング部)4Bの存在は、振動特性に少なからず影響を与える。
【0032】
図5は、このような状況に対処するための本発明の第2の実施の形態の平面図を示している。本実施の形態では、4つの振動励起用電極11´を、第1及び第2の仮想線L1及びL2によって仕切られた4つの領域内にそれぞれ形成し、4つの角速度検出用電極13´も、第1及び第2の仮想線L1及びL2によって仕切られた4つの領域内にそれぞれ形成する。この場合、第1の仮想対角線CL1及び第2の仮想対角線CL2がY軸の軸線及びX軸の軸線とそれぞれ一致する。本実施の形態では、長さが短い裾引き部(未エッチング部)4Bが形成される方向にX軸及びY軸の座標を取ることにより、裾引き部(未エッチング部)の存在の影響を低減している。
【0033】
図6は、図5の実施の形態の角速度センサを、重錘3をX軸方向に24.0kHzで振動させるように振動励起用電極11´を駆動したときに得られる4つの角速度検出用電極13´から得られる所定の周波数範囲における出力の一部を示している。なお図中のX1,X2,Y1及びY2は、図5中の電極を区別すために付した符号X1,X2,Y1及びY2と同じである。図6図3を対比すると判るように、X軸方向の出力(X1,X2)とY軸方向の出力(Y1,Y2)との間の差が、本実施の形態の場合のほうが、図3の実施の形態の場合よりも大きくなっている。したがって図2の実施の形態と比べて、図5の実施の形態の構成のほうが、X軸方向の振動とY軸方向の振動の区分がより明確になる。なお使用するダイアフラム材料の特性によって、本実施の形態とは異なる電極形状で異なる電極配置を採用できるのは勿論である。
【0034】
図7(A)及び(B)は、本発明の第3の実施の形態の角速度センサの平面図及び背面図を示している。この例では、4つの振動励起用電極11″を、第1の仮想対角線CL1と第2の仮想対角線CL2によって仕切られた4つの領域内にそれぞれ形成している。そして4つの角速度検出用電極13″も、第1の仮想対角線CL1と第2の仮想対角線CL2によって仕切られた4つの領域内にそれぞれ形成されている。本実施の形態では、第1の仮想線L1及び第2の仮想線L2がX軸の軸線及びY軸の軸線とそれぞれ一致している。このような配置では、ダイアフラムの輪郭の第1の仮想線に添う長さ寸法をR1とし、ダイアフラムの輪郭の第2の仮想線に添う長さ寸法をR2とし、第1の仮想対角線及び第2の仮想対角線に添う長さ寸法をR3とした場合に、R1:R2:R3=(0.95±0.02の範囲の値):1:(0.85±0.02の範囲の値)の関係を満たすようにすると、主軸感度及び他軸感度を共にバランスさせることができることが実験により確認された。なお本実施の形態では、4つの振動励起用電極11″は、重錘3″の径方向外側に位置する外辺12″Aと、この外辺12″Aと径方向に対向する内辺12″Bと、外辺12″Aと内辺12″Bとを連結する一対の連結辺12″C及び12″Dとからなる。外辺12″Aの形状は、ダイアフラム1″の外周部の一部(隣合う2つの辺SL″の一部と直線部S1″に亘る部分)の形状と相似形になっている。また振動励起用電極11″の輪郭形状の内辺12″Bの形状は、円弧形状を有している。4つの振動励起用電極11″をこのような形状にすると最も効率良く振動を生じさせることができる。また4つの角速度検出用電極13″の輪郭形状は、重錘3の径方向外側に位置する外辺14″Aと、外辺14″Aと径方向に対向する内辺14″Bと、外辺14″Aと内辺14″Bとを連結する一対の連結辺14″C及び14″Dとからなる。本実施の形態では、外辺14″A及び内辺14″Bはそれぞれ同心の円弧形状を有している。4つの振動励起用電極11″と4つの角速度検出用電極13″をこのように定めると、X軸方向の振動とY軸方向の振動の区分ができる信号を4つの角速度検出用電極13″から確実に得ることができる。なお本実施の形態では[図7(A)のrで示した部分]、4つの振動励起用電極11″及び4つの角速度検出用電極13″の角部を湾曲させているので、電極が剥離することを有効に防止することができる。また本実施の形態ではダイアフラム1″の輪郭の辺と隅部との連結部[図7(B)のrで示した部分]は湾曲しているので、ダイアフラム1″の機械的強度が高い。
【0035】
図8(A)の例では、4つの振動励起用電極11´が第1の仮想対角線CL1と第2の仮想対角線CL2によって仕切られた4つの領域に形成されている。そして4つの角速度検出用電極13は、第1及び第2の仮想線L1及びL2によって仕切られた4つの領域にそれぞれ形成されている。図8(B)の例では、図8(A)の例と同じ電極配置を有しているが、振動励起用電極11´の内辺12´Bが円弧形状を有している。図8(C)の例では、図8(B)の例と同様に振動励起用電極11´の内辺12´Bが円弧形状を有しており、電極配置は図2(A)の例と同じになっている。さらに図8(D)の例では、図8(B)の例と同様に振動励起用電極11´の内辺12´Bが円弧形状を有しており、電極配置は図5の例と同じになっている。
【0036】
また上記実施の形態では、ダイアフラムの外周部の輪郭形状を、四角形(具体的には略正方形)の四隅に直線部を有する形状としたが、ダイアフラムの外周部の輪郭形状を図9に示すように正方形の四隅に湾曲部Cを有する形状としてもよい。このようにした場合でもダイアフラムの外周部の輪郭形状を、正方形の四隅に直線部を有する形状とした場合と同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、Z軸周りの角速度検出に必要なX軸方向及びY軸方向の振動が明確になる。またX軸回り及びY軸回りの角速度検出に必要なZ軸方向の振動も損なわれない。したがって本発明によれば、Z軸方向の軸周りに発生する検出感度精度を向上させ、尚且つX軸方向・Y軸方向の軸周りに発生する検出感度精度を劣化させない角速度センサを提供することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 ダイアフラム
3 重錘
5 支持部
9 圧電薄膜
11 振動励起用電極
12A 外辺
12B 内辺
12C 連結辺
13 角速度検出用電極
14A 外辺
14B 内辺
14C 連結辺
L1 第1の仮想線
L2 第2の仮想線
CL2 第2の仮想対角線
CL1 第2の仮想対角線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9