(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記検出部の受光面が、前記集光レンズにより前記第1方向において前記対象物のフレネル回折像が形成される面であって、前記第2方向において前記対象物のフランフォーファー回折像が形成される面に配置され、
前記演算部が、前記時刻変数に関する1次元フーリエ変換を行う第1フーリエ変換部と、前記第1方向に関する1次元フーリエ変換を行う第2フーリエ変換部と、ドップラー効果に基づいて前記対象物に対する入射角が同一のデータを抽出する抽出部と、前記検出部が配置される位置により定まる値である2次位相で除する2次位相除算部とを含む、請求項3に記載の観察装置。
前記検出部の受光面が、前記集光レンズにより前記第1方向において前記対象物のフランフォーファー回折像が形成される面であって、前記第2方向において前記対象物のフランフォーファー回折像が形成される面に配置され、
前記演算部が、前記時刻変数に関する1次元フーリエ変換を行う第1フーリエ変換部と、ドップラー効果に基づいて前記対象物に対する入射角が同一のデータを抽出する抽出部とを含む、請求項3に記載の観察装置。
前記検出部の受光面が、前記集光レンズにより前記第1方向において前記対象物の像が形成される結像面であって、前記第2方向において前記対象物のフランフォーファー回折像が形成される面に配置され、
前記演算部が、前記時刻変数に関する1次元フーリエ変換を行う第1フーリエ変換部と、前記第1方向に関する1次元フーリエ変換を行う第2フーリエ変換部と、ドップラー効果に基づいて前記対象物に対する入射角が同一のデータを抽出する抽出部とを含む、請求項3に記載の観察装置。
前記光源部と前記対象物との間に配置され、前記光源部から照射される光を受光して、前記第2方向に収束又は発散する光を前記対象物に照射する照明レンズを更に備える、請求項1〜10の何れか一項に記載の観察装置。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は類似する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0022】
本実施形態の観察装置は、移動している対象物に光が照射された際に生じるドップラーシフト効果を利用し、特に、対象物に入射する入射光の入射方向とドップラーシフト量との間に一定の関係が存在することを利用して、対象物の像を取得するものである。初めに、
図1を用いて、本実施形態の観察装置による対象物の像の取得について原理的な事項について説明する。
【0023】
図1は、本実施形態の観察装置による対象物の像の取得の原理を説明する図である。この図には、ξη座標系,xy座標系及びuv座標系が示されている。ξ軸,η軸,x軸,y軸,u軸及びv軸は、何れも集光レンズ30の光軸に垂直である。ξ軸及びx軸は、互いに平行である。η軸及びy軸は、互いに平行である。観察対象である対象物2はξη平面上に存在する。集光レンズ30はxy平面上に存在する。また、集光レンズ30の後焦点面はuv平面と一致する。ξη平面とxy平面との間の距離はdである。xy平面とuv平面との間の距離は集光レンズ30の焦点距離fと一致する。本明細書において、ξ軸方向、x軸方向、X軸方向、第1方向は互いに平行な向きであり、η軸方向、y軸方向、Y軸方向、第2方向は、互いに平行な向きである。
【0024】
対象物2はξη平面上で−η方向に移動しており、様々な入射角を有する光L
0が対象物2に照射されることとする。対象物2に光L
0が照射されることにより生じる散乱光L
1〜L
3は、様々な方向に進み、また、対象物2の移動によりドップラーシフトを受ける。対象物2の移動方向と同じ方向に散乱方向ベクトル成分を有する散乱光L
1は、光周波数が高くなる。対象物2の移動方向に散乱方向ベクトル成分を有しない散乱光L
2は、光周波数が変化しない。対象物2の移動方向と逆の方向に散乱方向ベクトル成分を有する散乱光L3は、光周波数が低くなる。これらの散乱光L
1〜L
3は、集光レンズ30を経てuv平面に到達する。
【0025】
図2(a)は、入射光L
0の入射角を説明する図であり、
図2(b)は対象物2で生じる散乱光Lの散乱角を説明する図である。
図2(a)に示すように、入射光L
0の入射角を表現するには、それぞれ仰角θ
0及び方位角φ
0の2つの変数で記述する必要がある。対象物2内に仮想的に配置した点光源をξηζ座標系の原点とする。その原点に対して、入射する入射光L
0の入射方向ベクトルとζ軸とがなす角度を仰角θ
0とし、その入射方向ベクトルのξη平面への投影ベクトルとξ軸とがなす角度を方位角φ
0とする。また、入射光L
0のηζ平面への投影ベクトルとζ軸とがなす角度をθ
0’とする。同様に、
図2(b)に示すように、点光源からの散乱光Lの方向ベクトルとζ軸とがなす角度を仰角θとし、その散乱方向ベクトルのξη平面への投影ベクトルとξ軸とがなす角度を方位角φとする。また、散乱光Lのηζ平面への投影ベクトルとζ軸となす角度をθ’とする。
【0026】
図3は、入射光L
0が対象物2により散乱する様子をξ軸方向から見た図である。
図3では、入射光L
0の入射単位ベクトルをs
0とし、散乱光Lの散乱単位ベクトルをsと表している。
【0027】
速度ベクトルVで移動する対象物2に周波数ω
0をもつ光を照射すると、対象物2で生じる散乱波の周波数は、ドップラー効果により下記式(4)で表されるドップラーシフト周波数ω
dだけ変化する。式(4)では、対象物2に対する入射光の入射単位ベクトルをs
0とし、対象物2で生じた散乱波の散乱方向を示す散乱単位ベクトルをsとしている。式(4)において、λは光の波長である。式(4)はドップラーシフト量ω
dは、(s−s
0)と移動物体の速度ベクトルVの内積に比例することを表している。式(4)において、入射単位ベクトルs
0と速度ベクトルVとの内積の項(ω
d1=−(2π/λ)s
0・V)による周波数遷移を第1のドップラー効果と呼ぶこととする。また、散乱単位ベクトルsと速度ベクトルVとの内積の項(ω
d2=(2π/λ)s・V)による周波数遷移を第2のドップラー効果と呼ぶこととする。この場合、対象物2で生ずる散乱光の光周波数は、入射ベクトル成分及び散乱方向ベクトル成分により、以下のような影響を受ける。すなわち、対象物2の移動方向と同じ方向に入射ベクトル成分を有する入射光は、第1のドップラー効果により、対象物2で生ずる散乱光の光周波数は低くなる。対象物2の移動方向と逆の方向に入射ベクトル成分を有する入射光は、第1のドップラー効果により、対象物2で生ずる散乱光の光周波数は高くなる。対象物2の移動方向と平行な方向に入射ベクトル成分を有しない入射光は、第1のドップラー効果は起きず、対象物2で生ずる散乱光の光周波数は変わらない。対象物2の移動方向と同じ方向に散乱方向ベクトル成分を有する散乱光は、第2のドップラー効果により、その散乱光の光周波数は高くなる。対象物2の移動方向と逆の方向に散乱方向ベクトル成分を有する散乱光は、第2のドップラー効果により、その散乱光の光周波数が低くなる。対象物2の移動方向と平行な方向に散乱方向ベクトル成分を有しない散乱光は、第2のドップラー効果は起きず、その散乱光の光周波数は変わらない。
【0029】
式(4)より、速度Vと散乱単位ベクトルsが一定である場合、ある位置で観測される回折波のドップラーシフト周波数ω
dは、入射単位ベクトルs
0と一対一で対応することが分かる。このように、そのドップラーシフト周波数ω
dでの波の複素振幅像は、入射波の入射角θ
0に依存するものである。
【0030】
入射角θ
0を変数とする複素振幅像(以下、「入射角依存複素振幅像」ともいう。)からX線CTアルゴリズムや回折トモグラフィーアルゴリズムを用いて3次元振幅像及び3次元位相像を得られることが知られている。したがって、入射角依存複素振幅像を得ることができれば、対象物の3次元振幅像及び3次元位相を得ることができる。以下では、本発明の理解を容易にするために、本発明の一実施形態に係る観察装置における、入射角依存複素振幅像の取得の手順を、位相シフト法による入射角依存複素振幅像の取得の手順と比較して説明する。
【0031】
図4は、従来技術である位相シフト法によって入射角依存複素振幅像を取得する手順を示す図である。
図4上段のグラフの縦軸は対象物の位置を示し、横軸は時間を示している。
図4上段に示す矢印は、撮像タイミングを示している。対象物は所定の方向に、一定速度で移動しているものとする。位相シフト法では、時刻t
1において移動する対象物に対し、対象物が移動していないと見做し得る時間内に対象物の像を複数枚撮像して、複数枚の干渉強度像を取得する。このとき、位相シフト法では、干渉強度像を光路長がλ/4ずつ異ならせた参照光と干渉させて、対象物の位置を変数とする複素振幅像を取得する(以下、「位置依存複素振幅像」ともいう。)。なお、対象物は一定速度で移動しているため、位置依存複素振幅像は、時間を変数とする複素振幅像でもある。このような位置依存複素振幅像は、所定の時間間隔で複数回取得される(
図4のt
1,t
2,t
3)。合成開口トモグラフィーでは、各時刻で得られた位置依存複素振幅像に対して時刻変数tに関する1次元フーリエ変換を行うことにより、周波数を変数とする複素振幅像(以下、「周波数依存複素振幅像」ともいう。)を得る。その後、周波数ωと入射角θ
0との間に所定の関係があることを利用して、入射角依存複素振幅像を得ている。
【0032】
上記のように、位相シフト法では、移動する対象物に対し、対象物が移動していないと見做し得る時間内に対象物を複数枚撮像して、複数枚の干渉強度像を取得する必要がある。フローサイトメーターで細胞等の対象物を流す場合、細胞は数m/秒で移動する。仮に、1m/秒で移動する直径10μmの細胞に波長633nmのレーザー光を照射し、NA=0.45(20倍相当)の対物レンズで撮影を行う場合、本対物レンズによる回折限界は約0.9μmと試算される。そのため、移動によるボケも0.9μmに抑える必要がある。したがって、対象物の強度像だけを得るのであれば、0.9μm/1m/s=0.9μs時間内に撮影を完了する必要がある。一方、4枚の干渉像から1枚の複素振幅像を求める場合、その複素振幅像が持つ位相精度を100分の1程度に抑える必要がある。したがって、4枚の連続する干渉像の時間間隔は、0.633μm/1m/s/0.45/100〜10
−8秒と試算される。このことから、この条件の下では、位相シフト法では、約100MHzのフレームレートを有する2次元検出器を用いて干渉強度像を得る必要がある。しかし、このような超高速でかつ画素数を有している2次元光検出器は入手困難である。
【0033】
これに対し、
図5は、本発明の一実施形態に係る観察装置における、入射角依存複素振幅像の取得の手順を示す図である。
図4と同様に、
図5上段のグラフの縦軸は対象物の位置を示し、横軸は時間を示している。
図5上段に示す矢印は、撮像タイミングを示している。対象物は所定の方向に、一定速度で移動しているものとする。本実施形態に係る観察装置では、時刻t
1において移動する対象物に対し、対象物が移動していないと見做し得る時間内に対象物を1枚だけ撮像して、1枚の干渉強度像を取得する。このような干渉強度像は、所定の時間間隔で複数回取得される(
図5のt
1,t
2,t
3)。その後、位置依存干渉強度像から位置依存複素振幅像を算出する操作を行うことなく、各時刻で得られた干渉強度像を時間変数tに関して1次元フーリエ変換し、周波数依存複素数振幅像を得る。その後、ドップラーシフト周波数ωと入射角θ
0に所定の関係があることを利用して周波数依存複素数振幅像から入射角依存複素振幅像を得る。このように、本実施形態に係る観察装置では、対象物が移動していないと見做し得る時間内に対象物を1枚だけ撮像すればよいので、高いフレームレートを有する2次元光検出器でなくても精度よく入射角依存複素振幅像を得ることができる。以下に、本実施形態に係る観察装置の構成について説明する。
【0034】
(第1実施形態)
(第1配置例)
本実施形態の観察装置1は、以上で説明した原理に基づいて、対象物2の入射角依存複素振幅像を取得するものである。
図6は、第1実施形態の観察装置1の構成を示す図である。本実施形態の観察装置1は、
図6に示すように、光源部10、照明レンズ20、ビームスプリッタHM1、集光レンズ30、ビームスプリッタHM2、変調部40、ミラーM1、ミラーM2、検出部50及び演算部60を備えている。
【0035】
光源部10は、照明レンズ20を介して移動している対象物へドップラー効果が起こるように光を多方向から照射する。光源部10は、例えばHeNeレーザ光源であり、対象物2に照射されるべき光(光周波数ω
0)を平行光として出力する。ビームスプリッタHM1は、光源部10から出力された光を対象物2の前段で入力し、この光を2分割して第1の光及び第2の光とし、そのうちの第1の光を照明レンズ20に出力し、第2の光を変調部40に出力する。
【0036】
照明レンズ20は、ビームスプリッタHM1から出力された光を受光し、Y軸方向に種々の方向を持ち、X軸方向に一定の方向を持つ光を対象物2に照射する。照明レンズ20としては、シリンドリカルレンズが用いられる。
図7は、照明レンズ20の一例を示す図であり、
図7(a)は照明レンズ20をY軸方向から見た側面図であり、
図7(b)は照明レンズ20をX軸方向から見た側面図である。
図7に示す点線は、照明レンズ20における光の結像の様子を表している。
図7のf
LS2は、照明レンズ20の焦点距離を示している。
図7に示すように、照明レンズ20は、曲率を有する面がY軸方向と平行に配置され、曲率を有さない面がX軸方向と平行に配置される。このような照明レンズ20により、対象物2にはX軸方向が平行光であって、Y軸方向が収束光である光が照射される。つまり、対象物2には、Y軸方向において多方向から光が照射される。なお、
図7では、照明レンズ20として、凸レンズのシリンドリカルレンズを示したが、凹レンズのシリンドリカルレンズを用いてもよい。この場合、対象物2にはX軸方向が平行光であって、Y軸方向が発散光である光が照射される。上記の照明レンズ20により出力される収束光または発散光のそれぞれの入射ベクトルs
0は、同一平面S
0内に存在することが好ましい。平面S
0は、光軸ζと対象物2の移動方向により形成される面である。なお、本実施形態の観察装置1が照明レンズ20を備えず、光源部10からX軸方向が平行光であって、Y軸方向が収束光又は発散光である光が照射されてもよい。
【0037】
変調部40は、第1変調器41及び第2変調器42を備えている。第1変調器41及び第2変調器42は、例えば音響光学素子である。第1変調器41は、第1変調信号により、光源部10から出力された光を回折させ、その回折光を第2変調器42へ出力する。第2変調器42は、第2変調信号により、第1変調器41から出力された光を回折させ、その回折光をミラーM1へ出力する。第2変調器42から出力された光は、ミラーM1、M2により順次に反射され、ビームスプリッタHM2へ出力される。なお、変調部40は、第1の光の光路上に配置されてもよい。
【0038】
第1変調器41に与えられる第1変調信号の周波数と、第2変調器42に与えられると第2変調信号の周波数とは僅かに異なる。例えば、第1変調周波数は40MHzであり、第2変調周波数は40.000010MHzであり、両者の差Ωは10Hzである。第1変調信号及び第2変調信号それぞれは正弦波である。なお、変調部40は必ずしも第1変調器41と第2変調器42の2つから構成される必要はない。すなわち、変調器40は、光の周波数を所定の周波数Ω(以後、変調周波数Ωと呼ぶ)だけ周波数遷移する役割を有するものであればよく、変調部40は1つの変調器から構成されてもよいし、3つ以上の変調器を備えてもよい。
【0039】
集光レンズ30は、照明レンズ20から出力された光の照射により対象物2で生じた散乱波を入力し、検出部50の受光面においてX軸方向がフレネル回折像であって、Y軸方向がフランフォーファー回折像である像を形成する。集光レンズ30は、このような光をビームスプリッタHM2に出力する。集光レンズ30の構成を
図8に示す。
図8(a)は集光レンズ30をY軸方向から見た側面図であり、
図8(b)は集光レンズ30をX軸方向から見た側面図である。
図8に示す点線は、集光レンズ30における光の結像の様子を表している。
図8に示すように、集光レンズ30は、レンズOB、レンズLS1、レンズLS2、及びレンズLS3の4つのレンズにより構成される。
【0040】
レンズOBは、20倍相当の開口数NA=0.45である対物レンズである。レンズOBの後焦点面をFPとする。レンズLS1は、X軸方向に曲率を持たず、Y軸方向に曲率を持つレンズである。レンズLS2は、X軸方向に曲率を持ち、Y軸方向に曲率を持たないレンズである。レンズLS3は、X軸方向に曲率を持たず、Y軸方向に曲率を持つレンズである。レンズLS1とレンズLS3のY方向は,4f光学系を成している。4f光学系とは、レンズLS1の後焦点面とレンズLS3の前焦点面が一致し、レンズLS1の前焦点面の像がレンズLS3の後焦点面に結像される光学系のことである。レンズLS2は、レンズLS1の後焦点面とは異なる面であって、レンズLS3の前焦点面とは異なる面に配置される。集光レンズ30は、
図8(a)に示すように、X軸方向において、レンズOBから出力された光をレンズLS2により、検出部50の受光面に、フランフォーファー回折像面でなく、結像面でもないフレネル回折像面を形成する。また、集光レンズ30は、
図8(b)に示すように、Y軸方向において、レンズOBの後焦点面FPから出力された光をレンズLS1により平行光とさせ、レンズLS3により収束させることで、検出部50の受光面にフランフォーファー回折像面を形成させる。このような集光レンズ30を対象物2と検出部50の間に備えることで、対象物2からの散乱光のうち、入射角θ
0が異なり、散乱角θ’が同一である光が検出部50の受光面の1点に集光される。
【0041】
ビームスプリッタHM2は、集光レンズ30から到達した光(物体光)と、ミラーM1,M2を介して変調部40から到達した光(参照光)とを検出部50の受光面へ入射させて、両光を検出部50の受光面上でヘテロダイン干渉させる。変調部40から出力されて検出部50の受光面に入射される光の周波数は、ω
0+Ωとなる。Ωは、第1変調周波数と第2変調周波数との差周波数である。物体光と参照光とが検出部50の受光面上でヘテロダイン干渉されることで、検出部50では物体光と参照光との干渉ビート信号が観測される。
【0042】
検出部50は、同一の散乱角を有する散乱光が同一の位置に入射する所定平面に配置され、所定平面上の各位置に到達した光のドップラーシフト量に応じた周波数で時間的に変化するデータを、第1方向及び第2方向の各位置について各時刻に出力する。検出部50は、X軸方向及びY軸方向に並設される画素構造により、検出部50の受光面に到達した光を検出し、検出された光に応じた信号を出力する2次元光検出器である。検出部50の受光面は、集光レンズ30により第1方向において対象物2のフレネル回折像が形成される面であって、第2方向において対象物2のフランフォーファー回折像が形成される面に配置される。ここで、平面S
0内に平行であって、Z軸に垂直な方向をu方向とし、平面S
0内に平行であって、u方向に垂直な方向をv方向と定める。なお、X軸及びY軸に垂直な軸をZ軸とする。
【0043】
図9は、集光レンズ30を介して検出部50に入射される光を模式的に示した図である。
図9では、Y軸方向において、集光レンズ30の前焦点面に対象物2が配置され、集光レンズ30の後焦点面に検出部50の受光面が配置されている。
【0044】
図9(a)は、入射角θ
0が−ψである入射光に着目し、この入射光により対象物2で生じた散乱光L
1〜L
3が、検出部50に入射している様子を示している。対象物2が−Y軸方向に移動しているとすると、対象物2の移動方向と逆の方向に入射ベクトル成分を有する入射光L
0は、第1のドップラー効果により、対象物2で生ずる散乱光の光周波数は高くなる(ω
d1=δ)。対象物2は、第1のドップラー効果を受けた光を散乱させる。対象物2の移動方向と平行な方向に散乱方向ベクトル成分を有しない散乱光L
1は、第2のドップラー効果は起きない(ω
d2=0)。したがって、散乱光L
1の光周波数は、第1のドップラー効果による周波数遷移のみが観測される(ω
d=δ+0=δ)。対象物2の移動方向と逆の方向に散乱方向ベクトル成分を有する散乱光L
2は第2のドップラー効果により光周波数が低くなる(ω
d2=−δ)。したがって、散乱光L
2の光周波数は、第1のドップラー効果と第2のドップラー効果により光周波数が変化しない(ω
d=δ−δ=0)。対象物2の移動方向と逆の方向に散乱方向ベクトル成分を有する散乱光L
3は、ドップラーシフトにより周波数変調を受け、光周波数が低くなる(ω
d2=−2δ)。したがって散乱光L3の光周波数は、第1のドップラー効果と第2のドップラー効果により光周波数が低くなる(ω
d=δ−2δ=−δ)。これらの散乱光L
1〜L
3は、集光レンズ30を経て、それぞれ検出部50の位置P
1〜P
3に到達する。
【0045】
図9(b)は、入射角θ
0が0である入射光に着目し、この入射光により対象物2で生じた散乱光L
1〜L
3が、検出部50に入射している様子を示している。対象物2が−Y軸方向に移動しているとすると、対象物2の移動方向と平行な方向に入射ベクトル成分を有しない入射光L
0は、第1のドップラー効果は起きず、対象物2で生ずる散乱光の光周波数は入射光と同じである(ω
d1=0)。対象物2は、第1のドップラー効果がない光を散乱させる。対象物2の移動方向と同じ方向に散乱方向ベクトル成分を有する散乱光L
1は、ドップラー効果による周波数変調を受け、光周波数が高くなる(ω
d2=+δ)。したがって、散乱光L
1の光周波数は、第1のドップラー効果と第2のドップラー効果により光周波数が高くなる(ω
d=0+δ=+δ)。対象物2の移動方向と平行な方向に散乱方向ベクトル成分を有しない散乱光L
2は、光周波数が変化しない(ω
d2=0)。したがって散乱光L
2の光周波数は、第1のドップラー効果と第2のドップラー効果により光周波数は変化しない(ω
d=0−0=0)。対象物2の移動方向と逆の方向に散乱方向ベクトル成分を有する散乱光L
3は、ドップラーシフトにより周波数変調を受け、光周波数が低くなる(ω
d2=−δ)。したがって、散乱光L
3の光周波数は、第1のドップラー効果と第2のドップラー効果により光周波数が低くなる(ω
d=0−δ=−δ)。これらの散乱光L
1〜L
3は、集光レンズ30を経て、それぞれ検出部50の位置P
2〜P
4に到達する。
【0046】
図9(c)は、入射角θ
0がψである入射光に着目し、この入射光により対象物2で生じた散乱光L
1〜L
3が、検出部50に入射している様子を示している。対象物2が−Y軸方向に移動しているとすると、対象物2の移動方向と同じ方向に入射ベクトル成分を有する入射光L
0は、第1のドップラー効果により、対象物2で生ずる散乱光の光周波数は入射光より低くなる(ω
d1=−δ)。対象物2は、第1のドップラー効果を受けた光を散乱させる。対象物2の移動方向と同じ方向に散乱方向ベクトル成分を有する散乱光L
1は、ドップラー効果による周波数変調を受け、光周波数が高くなる(ω
d2=2δ)。したがって、散乱光L
1の光周波数は、第1のドップラー効果と第2のドップラー効果により光周波数が高くなる(ω
d=−δ+2δ=δ)。対象物2の移動方向と同じ方向に散乱方向ベクトル成分を有する散乱光L
2は、ドップラー効果による周波数変調を受け、光周波数が高くなる(ω
d2=δ)。したがって散乱光L
2の光周波数は,第1のドップラー効果と第2のドップラー効果により光周波数は変化しない(ω
d=−δ+δ=0)。対象物2の移動方向と平行な方向に散乱方向ベクトル成分を有しない散乱光L
3は、光周波数が変化しない(ω
d2=0)。したがって散乱光L
3の光周波数は,第1のドップラー効果と第2のドップラー効果により光周波数が低くなる(ω
d=−δ+0=−δ)。これらの散乱光L
1〜L
3は、集光レンズ30を経て、それぞれ検出部50の位置P
3〜P
5に到達する。
【0047】
検出部50の位置P
n(n=1〜5)では、周波数Ωを基準として、散乱光L
1〜L
3のドップラー効果により、周波数ω
dだけ周波数遷移した信号が干渉ビート信号として観測される。この干渉ビート信号を所定期間にわたり記録し、その干渉ビート信号の振幅及び位相を計算することにより各散乱角の振幅及び位相(すなわち、複素振幅値)が得られる。
【0048】
図10は、3つの入射角θ
0=−ψ,0,ψを持つ入射光による散乱光が検出部50に入射される様子を模式的に示した図である。各入射角θ
0に対して、様々な散乱角θ’を有する散乱光が生じるが、
図10では、特定の散乱角θ’を有する散乱光L
1〜L
3を図示している。同一の散乱角θ’を持つ散乱光L
1〜L
3は、集光レンズ30を介して同一の位置P
2に到達する。これらの散乱光L
1〜L
3は、入射角θ
0が異なるため、ドップラー効果により、それぞれが異なる周波数遷移を受けている。つまり、散乱光L
1〜L
3の周波数は互いに異なっている。したがって、異なる入射角θ
0を有する入射光による散乱光は、検出部50の同一画素に到達するが、散乱光の周波数遷移からフーリエ変換等の手法により周波数弁別することで、入射角毎の信号を抽出することができる。
【0049】
上記のように、集光レンズ30により、対象物2からの散乱光のうち、入射角θ
0が異なり、散乱角θ’が同一である光が検出部50の受光面の1点(x,y)に集まる。ここで、点(x,y)は、2次元に並設された検出部50の画素の座標である。すなわち、点(x,y)で観測される散乱光の散乱角θは固定値である。また、対象物2で生じた散乱光は、式(4)により周波数ω
dの周波数遷移を起こすことから、光ヘテロダイン干渉計測により、点(x,y)において検出される干渉強度は、周波数ω
dで変動することとなる。種々の入射角θ
0により生じる散乱光が点(x,y)に到達するために、点(x,y)においては、入射角θ
0に応じた周波数遷移を受けた種々の周波数の重ね合わせたビート信号が観測される。これらのビート信号に対し時刻変数tに関するフーリエ変換をすると、このビート信号に含まれるドップラーシフト周波数ω
dが分かる。さらに点(x,y)では、式(4)の散乱角θは固定値であることから、ドップラーシフト周波数ω
dと入射角θ
0の間に式(5)に示すように一定の関係にある。よって、簡単な変換により入射角における複素振幅像を得ることができる。尚、V
Yは対象物の速度のY軸成分であり、説明を簡単にするために変調周波数Ωを0とした。
【0051】
なお、最大入射角をθ
0maxとし、最大受光散乱角をθ
maxとすれば、最大ドップラーシフト周波数B
Wは、式(6)で表すことができる。式(6)において、λは入射光の波長であり、Vは対象物の速度である。したがって、ドップラーシフト周波数帯域は2B
Wとなる。
【0053】
本実施形態では、入射単位ベクトルs
0はX軸成分を持たないとしたため、Y−Z平面への投影入射角θ
0’は入射角θ
0と一致する。もし、入射単位ベクトルs
0がX軸成分を持つ場合には、式(5)のθ
0を投影入射角θ
0’に置き換えればよい。
【0054】
演算部60は、検出部50が取得した所定平面上の第1方向の位置、第2方向の位置、及び時刻を変数とするデータについて、時刻変数に関する1次元フーリエ変換し、このフーリエ変換後のデータからドップラー効果に基づいて入射角が同一のデータを抽出する。
【0055】
図11に示すように、演算部60は、第1フーリエ変換部61、斜め切り部62(抽出部)、第2フーリエ変換部64、及び2次位相除算部63を備えている。第1フーリエ変換部61は、検出部50により取得された干渉強度像について時刻変数に関する1次元フーリエ変換を行う。斜め切り部62は、第1フーリエ変換部61により1次元フーリエ変換されたデータからドップラー効果に基づいて入射角が同一のデータを抽出する。第2フーリエ変換部64は、斜め切り部62から出力されたデータについて変数xに関する1次元フーリエ変換を行う。2次位相除算部63は、第2フーリエ変換部64から出力されたデータを2次位相H(x)で除する。なお、第1フーリエ変換部61、斜め切り部62、第2フーリエ変換部64、及び2次位相除算部63は、2次位相除算部63が第2フーリエ変換部64の後段に配置されている限り、互いに入れ替えて任意の順序で配置されてもよい。
【0056】
検出部50により取得された干渉強度像をi(x,y;η)と表す。
図12に、検出部50によって取得された干渉強度像i(x,y;η)の例を示す。
図12の例では、速度10μm/秒で移動させた直径25μmの円形開口を対象物2として用いた。また、検出部50としては、1画素サイズ7.4×7.4μmで、640×128画素を持つ画像を毎秒180枚出力するCCDカメラを用いた。
図12に示す干渉強度像i(x,y;η)では、干渉縞の間隔が番号1から7に向かって変化していることが分かる。
【0057】
対象物2が速度Vで移動しているとすると、対象物2の位置η=Vtと表すことができる。ここで、tは時刻である。対象物2は一定速度で移動するため、干渉強度像i(x,y;η)は、i(t,x,y)と表すことができる。第1フーリエ変換部61は、干渉強度像i(t,x,y)に対して時刻変数tに関するフーリエ変換を行うことで、周波数依存複素振幅像a(ω,x,y)を得る。ここで、ωは時間周波数である。
図13は、フーリエ変換により得られる周波数依存複素振幅像a(ω,x,y)を模式的に示したものである。
図14は、
図13をX軸方向から見た図である。周波数依存複素振幅像aは、
図13及び
図14に示すように、X軸方向については、X−Y平面が紙面方向に並列して並んでいることから、説明を簡単にするため、以降、ω−Y平面の2次元で説明する。
【0058】
式(5)中の散乱角θ’は、対象物2、集光レンズ30、及び検出部50の物理的配置に基づき定まる値であり測定中は一定となる値である。集光レンズ30のY軸方向の焦点距離をf
Yとすると、集光レンズ30のY軸方向の後焦点面と検出部50の受光面とが一致している場合には、散乱角θ’は、集光レンズ30の焦点距離f
Y及び受光面座標(x,y)を用いて式(7)で表される。
【0059】
【数7】
ここで、f
Yは既知の値であるため、散乱角θ’は、変数yのみで決定される投影散乱角である。式(7)の散乱角θ’を式(5)に代入し、ヘテロダイン周波数Ωを加味すると、第1フーリエ変換部61が出力する時間周波数ωは以下の式(8)となる。
【0061】
式(8)において、α=2πV
y/(λf
Y)、β=−2πV
y/λと置くと、式(8)は以下の式(1)のように表すことができる。つまり、式(1)は、y及びωの線形一次関数である。なお、式(1)において、βsinθ
0の項を一定とした場合の複素振幅値は、一定の入射角θ
0で対象物に照射したときの受光面での複素振幅値である。
【0063】
斜め切り部62は、周波数依存複素振幅像a(ω,x,y)から、式(1)を満たす平面を抽出する。このように斜め切り部62により抽出された像は、入射角依存複素振幅像A(θ
0,x,y)である。
図13及び
図14は、この数学的な操作を模式的に表している。
図13及び
図14において、破線で描かれた斜めの面が、斜め切り部62により、抽出された入射角依存複素振幅像A(θ
0,x,y)である。この入射角依存複素振幅像A(θ
0,x,y)は、複数枚の複素振幅像a(ω,x,y)に対し、周波数ω方向及びY軸方向を横切るように抽出されている。
図14に示すように、入射角依存複素振幅像A(θ
0,x,y)の要素データは、式(1)のようにω−Y平面において線形一次関数上の要素データとなっている。
【0064】
式(5)と(7)から導いた式(1)及び式(8)は、sinθ’をθ’と近似し、θ’をy/f
Yと近似している。このような近似を用いることにより、入射角依存複素振幅像A(θ
0,x,y)は平面となる。上記のような近似を用いない場合には、入射角依存複素振幅像A(θ
0,x,y)の面は、曲面となる。
【0065】
なお、θ’をy/f
Yとする近似に関しては、集光レンズ30のY軸方向にfθレンズを用いることにより、この近似値を真の値に近づけることができる。通常のレンズは、その焦点距離がfのとき、前焦点から角度θをもつ入射光がレンズ後焦点面の位置yに到達するとき、入射角θと位置yとの関係がy=ftanθで表せるが、fθレンズはその関係がy=fθと表せるレンズのことである。この場合には、斜め切り部62は、周波数依存複素振幅像a(ω,x,y)から、式(3)を満たす平面を抽出する。
【0067】
本配置例では、検出部50の受光面が、X軸方向が対象物2のフレネル回折像であって、Y軸方向が対象物2のフランフォーファー回折像が形成される面に配置されている。検出部50がフレネル回折像面に配置されると、像のボケとして2次位相H(x)が現れる。したがって、本配置例では、X軸方向に2次位相H(x)が現れる。
【0068】
2次位相除算部63は、斜め切り部62において得た入射角依存複素振幅像A(θ
0,x,y)を変数xに関する1次元フーリエ変換後、2次位相H(x)で除することで、本配置例により得られた複素振幅像から、検出部50の受光面が、X軸方向が対象物2のフランフォーファー回折像であって、Y軸方向が対象物2のフランフォーファー回折像が形成される面に配置された場合と同じ複素振幅像を得る。2次位相H(x)は、検出部50が配置される位置により決まる値である。2次位相H(x)は、式(9)で表される。式(9)において、γは定数である。
【0070】
2次位相除算部63は、式(1)により得られた入射角依存複素振幅像A(θ
0,x,y)を変数xに関する1次元フーリエ変換後、式(9)の2次位相H(x)で除することで、ボケのない入射角依存複素振幅像Aを得る。以上のように、本配置例の観察装置1は、入射角依存複素振幅像Aを得る。
【0071】
(第2配置例)
次に、本実施形態の第2配置例について説明する。第2配置例では、検出部50の受光面が、X軸方向が対象物2のフランフォーファー回折像であって、Y軸方向が対象物2のフランフォーファー回折像が形成される面に配置される。このため、本配置例では、第1配置例の集光レンズ30に代えて、集光レンズ30Aを備えている。また、本配置例では、第1配置例の演算部60に代えて、演算部60Aを備えている。その他の構成は第1配置例と同じである。以下では、第1配置例との相違点についてのみ説明し、第1配置例と同一と見做し得る点については説明を省略する。
【0072】
図15は、本配置例で採用される集光レンズ30Aを示している。集光レンズ30Aは、照明レンズ20から出力された光の照射により対象物2で生じた散乱波を入力し、検出部50の受光面においてX軸方向がフランフォーファー回折像であって、Y軸方向がフランフォーファー回折像である像を形成する。
図15(a)は集光レンズ30AをY軸方向から見た側面図であり、
図15(b)は集光レンズ30AをX軸方向から見た側面図である。
図15に示す点線は、集光レンズ30Aにおける光の結像の様子を表している。
図15に示すように、集光レンズ30Aは、レンズOB、レンズLS1及びレンズLS3の3つのレンズにより構成される。
【0073】
レンズOBは、20倍相当の開口数NA=0.45である対物レンズである。レンズOBの後焦点面をFPとする。レンズLS1は、X軸方向及びY軸方向に曲率を持つレンズである。レンズLS3は、X軸方向及びY軸方向に曲率を持つレンズである。集光レンズ30Aは、
図15(a)に示すように、X軸方向において、レンズOBの後焦点面から出力された光をレンズLS1により平行光とし、レンズLS3により収束させることで、検出部50の受光面にフランフォーファー回折像を形成する。また、集光レンズ30Aは、
図15(b)に示すように、Y軸方向において、レンズOBの後焦点面から出力された光をレンズLS1により平行光とし、レンズLS3により収束させることで、検出部50の受光面にフランフォーファー回折像を形成する。このような集光レンズ30Aを対象物2と検出部50の間に備えることで、対象物2からの散乱光のうち、入射角θ
0が異なり、散乱角θ’が同一である光が検出部50の受光面の1点に集光される。
【0074】
検出部50は、集光レンズ30Aにより同一の散乱角θ’を有する散乱光が同一の位置に入射される所定平面に配置され、所定平面上の各位置に到達した光のドップラーシフト量に応じた周波数で時間的に変化するデータを、第1方向及び第2方向の各位置について各時刻に出力する。
【0075】
図16に示すように、本配置例の演算部60Aは、第1フーリエ変換部61、斜め切り部62を備えているが、第2フーリエ変換部64、及び2次位相除算部63を備えていない。本配置例では、検出部50の受光面が、X軸方向が対象物2のフランフォーファー回折像であって、Y軸方向が対象物2のフランフォーファー回折像が形成される面に配置されている。検出部50がフランフォーファー回折像に配置されている場合、レンズ30Aを構成するレンズLS1とLS3が備えるX方向に曲率を持つレンズ作用により変数xに関する1次元フーリエ変換が光学的に行われ、さらに2次位相H(x)は1となる。したがって、本配置例では、第2フーリエ変換部64により変数xに関する1次元フーリエ変換をする必要がない。更に2次位相除算部63により2次位相H(x)を除する必要もない。
【0076】
本配置例において得られる入射角依存複素振幅像A(θ
0,x,y)は、第1配置例で式(1)により得られた入射角依存複素振幅像A(θ
0,x,y)を式(9)の2次位相H(x)で除したボケのない入射角依存複素振幅像Aと同じ像である。つまり、第2配置例では、集光レンズ30Aの光学的作用により2次位相除算部63と同様な効果が得られている。逆にいえば、第1配置例において、2次位相除算部63は、第2配置例のレンズ30Aの光学的作用を、演算によって実現しているともいえる。
【0077】
(第3配置例)
次に、本実施形態の第3配置例について説明する。第3配置例では、検出部50の受光面が、X軸方向が対象物2の結像面であって、Y軸方向が対象物2のフランフォーファー回折像が形成される面に配置される。このため、本配置例では、第1配置例の集光レンズ30、第2配置例の集光レンズ30Aに代えて、集光レンズ30Bを備えている。また、本配置例では、第1配置例の演算部60、第2配置例の演算部60Aに代えて、演算部60Bを備えている。その他の構成は第1配置例及び第2配置例と同じである。以下では、第1配置例及び第2配置例との相違点についてのみ説明し、第1配置例及び第2配置例と同一と見做し得る点については説明を省略する。
【0078】
図17は、本配置例で採用される集光レンズ30Bを示している。集光レンズ30Bは、照明レンズ20から出力された光の照射により対象物2で生じた散乱波を入力し、検出部50の受光面においてX軸方向に対象物2の物体像であって、Y軸方向に対象物2のフランフォーファー回折像を形成する。
図17(a)は集光レンズ30BをY軸方向から見た側面図であり、
図17(b)は集光レンズ30BをX軸方向から見た側面図である。
図17に示す点線は、集光レンズ30Bにおける光の結像の様子を表している。
図17に示すように、集光レンズ30Bは、レンズOB、レンズLS1、レンズLS2、及びレンズLS3の4つのレンズにより構成される。
【0079】
レンズOBは、20倍相当の開口数NAが0.45である対物レンズである。レンズOBの後焦点面をFPとする。レンズLS1は、X軸方向に曲率を持たず、Y軸方向に曲率を持つレンズである。レンズLS2は、X軸方向に曲率を持ち、Y軸方向に曲率を持たないレンズである。レンズLS3は、X軸方向に曲率を持たず、Y軸方向に曲率を持つレンズである。レンズLS2は、レンズLS1の後焦点面であって、レンズLS3の前焦点面に配置される。集光レンズ30Bは、
図17(a)に示すように、X軸方向において、レンズOBの後焦点面から出力された光をレンズLS2により平行光として、検出部50の受光面に、物体像を形成する。また、集光レンズ30Bは、
図17(b)に示すように、Y軸方向において、レンズOBの後焦点面から出力された光をレンズLS1により平行光とさせ、レンズLS3により収束させることで、検出部50の受光面にフランフォーファー回折像面を形成させる。このような集光レンズ30Bを対象物2と検出部50の間に備えることで、対象物2からの散乱光のうち、入射角θ
0が異なり、散乱角θ’が同一である光が検出部50の受光面の1点に集光される。
【0080】
図18に示すように、本配置例の演算部60Bは、第1フーリエ変換部61、斜め切り部62に加えて、第2フーリエ変換部64を更に備えている。第2フーリエ変換部64は、第1フーリエ変換部から出力されたデータについて変数xに関する1次元フーリエ変換を行う。第1フーリエ変換部61及び斜め切り部62の機能は第1配置例と同じである。なお、第1フーリエ変換部61、第2フーリエ変換部64は、互いに入れ替えて任意の順序で配置されてもよい。つまり、第3配置例では、演算部60Bの第2フーリエ変換部64の作用により、第2配置例における集光レンズ30AのX方向に関する光学的な作用を、演算によって実現しているともいえる。
【0081】
図19〜21に、本配置例の観察装置によって取得された複素振幅像を示す。
図19〜21では、対象物2として速度10μm/秒で移動させた直径25μmの円形開口を用いた。また、検出部50としては、1画素サイズ7.4×7.4μmで、640×128画素を持つ画像を毎秒180枚出力するCCDカメラを用いた。
図19は、演算部60Bにより算出された周波数依存複素振幅像a(ω,x,y)の振幅像を周波数毎(番号1〜6)に示したものである。
図20は、演算部60Bにより取得された周波数依存複素振幅像a(ω,x,y)の位相像を周波数毎(番号1〜6)に示したものである。
図19及び20では、横軸をX軸とし、縦軸をY軸としている。
【0082】
図21は、
図19及び20の周波数依存複素振幅像a(ω,x,y)を、斜め切り部62により式(1)を満たす平面で抽出されることで得られた入射角依存複素振幅像A(θ
0,x,y)である。同図(a)は、入射角θ
0=0.7mradの場合の入射角依存複素振幅像Aであり、同図(b)は、入射角θ
0=0mradの場合の入射角依存複素振幅像Aであり、同図(c)は、入射角θ
0=−0.7mradの場合の入射角依存複素振幅像Aである。同図左は、入射角依存複素振幅像Aの振幅像であり、同図右は入射角依存複素振幅像Aの位相像である。
図21では、横軸をX軸とし、縦軸をY軸としている。
【0083】
本実施形態の観察装置1では、移動している対象物2は、光源部10及び照明レンズ20により光が多方向から照射されて、散乱光を発生させる。その散乱光は、散乱角θ’に応じた量のドップラーシフトを受ける。散乱光のうち、同一の散乱角θ’を有する散乱光が検出部50上の同一の位置で受光される。検出部50から、受光面の各位置に到達した光のドップラーシフト周波数ω
dで時間的に変化するデータが、第1方向及び第2方向の各位置について各時刻に出力される。演算部60により、所定平面上の第1方向の位置、第2方向の位置、及び時刻を変数とするデータについて時刻変数に関する1次元フーリエ変換を行い、このフーリエ変換後のデータからドップラー効果に基づいて対象物に対する入射角θ
0が同一のデータが抽出される。この構成によれば、ドップラー効果を用いて対象物に対する入射角θ
0が同一のデータを抽出することできるため、対象物2が静止していると見做し得る期間内に複数回対象物2の撮像をする必要がない。よって、1画素当りの読出し速度が低速である検出部50を用いる場合であっても移動している対象物2の像を得ることができる。
【0084】
(第2実施形態)
第1実施形態では、斜め切り部62が、式(1)を満たす平面を抽出して入射角依存複素振幅像A(θ
0,x,y)を得た。第2実施形態では、斜め切り部62が抽出する面が異なり、それ以外の点は同じである。以下では、主に第1実施形態と異なる点について説明し、第1実施形態と同一である点については説明を省略する。
【0085】
式(5)と(7)から導いた式(1)及び式(8)は、sinθ’をθ’と近似し、θ’をy/f
Yと近似している。このような近似を用いることにより、入射角依存複素振幅像A(θ
0,x,y)は平面となる。なお、式(1)及び式(8)は、Y軸方向に関して正弦条件(Abbe sine condition)を満たす集光レンズ30、30A、30Bに対して成り立つ式である。このため、上記の近似を行う代わりに、正弦条件を満たす集光レンズ30、30A、30Bを用いた場合にも、入射角依存複素振幅像A(θ
0,x,y)は平面となる。本実施形態の斜め切り部62では、上記2つの近似を適用せず、式(1)及び式(8)の厳密式である下記式(2)を用いて入射角依存複素振幅像a(θ
0,x,y)を得る。
【0087】
厳密式である式(2)は、近似式である式(1)及び式(8)とは異なり、線形一次関数ではない。ただし、式(2)を満たす面Sにて入射角依存複素振幅像A(θ
0,x,y)を抽出することにより、精度の高い入射角依存複素振幅像Aを得ることができる。
【0088】
(変形例)
本実施形態の観察装置1では、対象物2の速度が変化するとドップラー信号に周波数変調が生じて、最終的に得られる対象物2の像が流れ方向に伸縮する。このような伸縮を補正するために、本実施形態の観察装置1は、対象物2の移動速度を検出する速度検出部を更に備えるのが好適である。そして、演算部60は、速度検出部により検出された対象物2の速度に基づいて、時間方向の1次元フーリエ変換の際に対象物2の速度変化に関する補正を行うのが好適である。または、速度検出部より検出された対象物2の速度に基づいて、検出部50の撮影タイミングを図ってもよい。
【0089】
この速度検出部は、任意のものが用いられ得るが、移動速度とドップラーシフト量との間の関係を利用して、集光レンズ30の後焦点面の散乱光到達位置における信号の周波数を検出することでも対象物2の移動速度を求めることができる。この場合、速度検出部は、ビームスプリッタHM2から検出部50へ向う光の一部が分岐されたものをフーリエ面上で検出してもよいし、或いは、検出部50の受光面の一部に独立に設けられた画素を含むものであってもよい。その画素の大きさは、対象物2の移動速度Vとドップラー周波数ω
dとの関係から導かれる移動速度の分解能を有する面積を持つことが好ましい。
【0090】
本実施形態の観察装置1において、第2実施形態では、対象物2に照射される光L0のうち対象物2により散乱されなかった光(0次光)は、検出部50の1点に集光される。この0次光が検出部50の受光面に到達すると、検出部50により得られる信号の質が劣化する。そこで、このような0次光が検出部50の受光面にすべてが到達しないように0次光を減衰させるための減光フィルタが設けられてもよい。或いは、0次光の発生が少ないようなビーム断面を有する光を対象物2に照射してもよい。そして、光源部10と検出部50との間に対象物2が存在しないときに、検出部50に到達する光強度を加味させ、強度ムラを補正することが好ましい。
【0091】
以上の説明では、光源の対象物の像を透過照明で取得する実施例を主に示したが、反射(落射)照明、または限外照明で取得してもよいことは、明らかである。光源として、単一縦モードの光の利用が好適であるが、これに限定されない。例えば、広帯域の光を用いることで、位相物体の深さに関する情報も取得可能となる。その他、広帯域の光として、波長成分間の位相関係が一定であるものを用いるのが好適である。このような光源として、例えばモードロックレーザーを用いることができる。