特許第5981510号(P5981510)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5981510航空機設計方法、航空機設計プログラム及び航空機設計装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5981510
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】航空機設計方法、航空機設計プログラム及び航空機設計装置
(51)【国際特許分類】
   G06F 17/50 20060101AFI20160818BHJP
   B64F 5/00 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   G06F17/50 604A
   G06F17/50 612A
   G06F17/50 680Z
   B64F5/00 Z
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-200622(P2014-200622)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-71646(P2016-71646A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2015年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】富士重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一成
(72)【発明者】
【氏名】村上 千景
(72)【発明者】
【氏名】磯 英雄
【審査官】 松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05839692(US,A)
【文献】 実開平03−093960(JP,U)
【文献】 特開2005−181153(JP,A)
【文献】 特開2011−048768(JP,A)
【文献】 特開2003−108618(JP,A)
【文献】 特開平01−285494(JP,A)
【文献】 大林茂,進化計算による多目的最適化と工学設計,計測と制御,社団法人計測自動制御学会,2008年 6月10日,第47巻,第6号,pp.480−486
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/50
B64C 1/00 − B64F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機のうち所定の設計対象の形状を設計する航空機設計方法であって、
航空機設計装置が、
ユーザ操作に基づいて前記設計対象の形状に関する設計パラメータの値を設定する設計パラメータ設定工程と、
前記設計パラメータの値を用いて空力特性解析及びRCS解析用の各解析モデルを作成し、前記設計対象の空力特性及びRCS特性を計算する解析工程と、
前記解析工程での解析結果が、予め設定された設計条件であって空力特性及びRCS特性に関する最適化条件を含む設計条件を満たすか否かを判定する判定工程と、
前記判定工程において前記解析工程での解析結果が前記設計条件を満たしていないと判定された場合に、前記設計パラメータの値を最適化しつつ更新する設計パラメータ更新工程と、
実行し、
前記判定工程において前記解析工程での解析結果が前記設計条件を満たしていると判定されるまで、前記解析工程、前記判定工程及び前記設計パラメータ更新工程を繰り返し、
前記判定工程では、前記最適化条件が満たされるか否かの判定を、空力特性を表す項とRCS特性を表す項とを有する目的関数を用いて行うことを特徴とする航空機設計方法。
【請求項2】
航空機のうち所定の設計対象の形状を設計する航空機設計方法であって、
航空機設計装置が、
ユーザ操作に基づいて前記設計対象の形状に関する設計パラメータに複数の値を設定する設計パラメータ設定工程と、
前記設計パラメータ設定工程で設定された前記設計パラメータの各値について、空力特性解析及びRCS解析用の各解析モデルを作成して、前記設計対象の空力特性及びRCS特性を計算し、前記設計パラメータの複数の値に対応する複数のサンプリング解析結果を得る解析工程と、
前記解析工程で得られた複数のサンプリング解析結果から、前記設計パラメータに対する空力特性及びRCS特性の各応答曲面を生成する応答曲面生成工程と、
前記応答曲面生成工程で生成された空力特性及びRCS特性の各応答曲面に基づいて、予め設定された設計条件であって空力特性及びRCS特性に関する最適化条件を含む設計条件を満たす前記設計パラメータの最適解を探索する解探索工程と、
実行し、
前記解探索工程では、前記最適化条件が満たされるか否かの判定を、空力特性を表す項とRCS特性を表す項とを有する目的関数を用いて行うことを特徴とする航空機設計方法。
【請求項3】
前記航空機設計装置が、
前記解探索工程で求めた前記設計パラメータの解を用いて空力特性解析及びRCS解析用の各解析モデルを作成し、前記設計対象の空力特性及びRCS特性を再計算する第二解析工程と、
前記第二解析工程での解析結果を、前記応答曲面生成工程で生成された応答曲面から求めた空力特性及びRCS特性と比較し、この比較結果に基づいて当該応答曲面が所要の精度を有しているか否かを判定する判定工程と、
をさらに実行し、
前記判定工程において前記応答曲面が所要の精度を有していないと判定された場合に、前記設計パラメータに新たな値を追加して前記解析工程及び前記応答曲面生成工程の処理を実行し、前記応答曲面を更新することを特徴とする請求項2に記載の航空機設計方法。
【請求項4】
前記設計対象がインテークダクトであることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の航空機設計方法。
【請求項5】
航空機のうち所定の設計対象の形状を設計する航空機設計プログラムであって、
コンピュータに、
ユーザ操作に基づいて前記設計対象の形状に関する設計パラメータの値の設定を受け付ける設計パラメータ設定機能と、
前記設計パラメータの値を用いて空力特性解析及びRCS解析用の各解析モデルを作成し、前記設計対象の空力特性及びRCS特性を計算する解析機能と、
前記解析機能での解析結果が、予め設定された設計条件であって空力特性及びRCS特性に関する最適化条件を含む設計条件を満たすか否かを判定する判定機能と、
前記判定機能により前記解析機能での解析結果が前記設計条件を満たしていないと判定された場合に、前記設計パラメータの値を最適化しつつ更新する設計パラメータ更新機能と、
を実現させ、
前記判定機能により前記解析機能での解析結果が前記設計条件を満たしていると判定されるまで、前記解析機能、前記判定機能及び前記設計パラメータ更新機能を繰り返す処理を実行し、
前記判定機能は、前記最適化条件が満たされるか否かの判定を、空力特性を表す項とRCS特性を表す項とを有する目的関数を用いて行うことを特徴とする航空機設計プログラム。
【請求項6】
航空機のうち所定の設計対象の形状を設計する航空機設計プログラムであって、
コンピュータに、
ユーザ操作に基づいて前記設計対象の形状に関する設計パラメータに対する複数の値の設定を受け付ける設計パラメータ設定機能と、
前記設計パラメータ設定機能で設定された前記設計パラメータの各値について、空力特性解析及びRCS解析用の各解析モデルを作成して、前記設計対象の空力特性及びRCS特性を計算し、前記設計パラメータの複数の値に対応する複数のサンプリング解析結果を得る解析機能と、
前記解析機能で得られた複数のサンプリング解析結果から、前記設計パラメータに対する空力特性及びRCS特性の各応答曲面を生成する応答曲面生成機能と、
前記応答曲面生成機能で生成された空力特性及びRCS特性の各応答曲面に基づいて、予め設定された設計条件であって空力特性及びRCS特性に関する最適化条件を含む設計条件を満たす前記設計パラメータの最適解を探索する解探索機能と、
を実現させ、
前記解探索機能は、前記最適化条件が満たされるか否かの判定を、空力特性を表す項とRCS特性を表す項とを有する目的関数を用いて行うことを特徴とする航空機設計プログラム。
【請求項7】
航空機のうち所定の設計対象の形状を設計する航空機設計装置であって、
ユーザ操作に基づいて前記設計対象の形状に関する設計パラメータの値を設定する設計パラメータ設定手段と、
前記設計パラメータの値を用いて空力特性解析及びRCS解析用の各解析モデルを作成し、前記設計対象の空力特性及びRCS特性を計算する解析手段と、
前記解析手段での解析結果が、予め設定された設計条件であって空力特性及びRCS特性に関する最適化条件を含む設計条件を満たすか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段により前記解析手段での解析結果が前記設計条件を満たしていないと判定された場合に、前記設計パラメータの値を最適化しつつ更新する設計パラメータ更新手段と、
を備え、
前記判定手段により前記解析手段での解析結果が前記設計条件を満たしていると判定されるまで、前記解析手段、前記判定手段及び前記設計パラメータ更新手段での処理を繰り返し、
前記判定手段は、前記最適化条件が満たされるか否かの判定を、空力特性を表す項とRCS特性を表す項とを有する目的関数を用いて行うことを特徴とする航空機設計装置。
【請求項8】
航空機のうち所定の設計対象の形状を設計する航空機設計装置であって、
ユーザ操作に基づいて前記設計対象の形状に関する設計パラメータに複数の値を設定する設計パラメータ設定手段と、
前記設計パラメータ設定手段で設定された前記設計パラメータの各値について、空力特性解析及びRCS解析用の各解析モデルを作成して、前記設計対象の空力特性及びRCS特性を計算し、前記設計パラメータの複数の値に対応する複数のサンプリング解析結果を得る解析手段と、
前記解析手段で得られた複数のサンプリング解析結果から、前記設計パラメータに対する空力特性及びRCS特性の各応答曲面を生成する応答曲面生成手段と、
前記応答曲面生成手段で生成された空力特性及びRCS特性の各応答曲面に基づいて、予め設定された設計条件であって空力特性及びRCS特性に関する最適化条件を含む設計条件を満たす前記設計パラメータの最適解を探索する解探索手段と、
を備え、
前記解探索手段は、前記最適化条件が満たされるか否かの判定を、空力特性を表す項とRCS特性を表す項とを有する目的関数を用いて行うことを特徴とする航空機設計装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機のうち空力特性とステルス性の両立が要求される形状の設計に好適な航空機設計方法、航空機設計プログラム及び航空機設計装置に関する。
【背景技術】
【0002】
戦闘機などの航空機においては、所望の空力特性のほかにステルス性(レーダー等からの探知されにくさ)も求められる場合があり、このような場合にはこれらの特性を両立させる設計が必要となる。
【0003】
例えば、この種の航空機におけるインテークダクトの設計では、ダクト形状を湾曲させつつ内壁に電波吸収材を設けることで、エンジンから機体前方への電波反射が抑制されてステルス性が向上することが知られている(例えば、特許文献1参照)。一方で、このような曲りダクトでは内部気流の剥離等による圧力損失が生じやすく、空力特性(エンジン性能)の低下を招くおそれがある。
このように、インテークダクトなどにおいては、空力特性とステルス性とがトレードオフの関係にあるため、これらの特性がそれぞれ所要の条件を満足するように設計を行わなければならない。
【0004】
実際に、従来のインテークダクトの設計では、まず、風洞試験を行ったり公知データや他機例を参照したりして空力特性のデータベースを作成し、空力特性のクライテリアを設定する。また同様にして、ステルス性のパラメータであるレーダー反射断面積について、試験や他機例によりデータベースを作成してクライテリアを設定する。そして、これらのクライテリアを満足するようにインテークダクトの形状を決定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−285494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の設計手法では、以下のような問題があった。
まず、ステルス機は一般にデータが開示されないため、写真等の開示情報からの形状判別が限界であり、クライテリアの設定が困難であった。
また、クライテリアの設定に必要な基礎データを試験から得ようとする場合には、膨大なコストや労力が必要となってしまう。
【0007】
そこで、本発明の目的は、空力特性とステルス性との両立が要求される航空機の形状について、従来に比べてコストや労力を低減させつつ好適に設計を行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、
航空機のうち所定の設計対象の形状を設計する航空機設計方法であって、
航空機設計装置が、
ユーザ操作に基づいて前記設計対象の形状に関する設計パラメータの値を設定する設計パラメータ設定工程と、
前記設計パラメータの値を用いて空力特性解析及びRCS解析用の各解析モデルを作成し、前記設計対象の空力特性及びRCS特性を計算する解析工程と、
前記解析工程での解析結果が、予め設定された設計条件であって空力特性及びRCS特性に関する最適化条件を含む設計条件を満たすか否かを判定する判定工程と、
前記判定工程において前記解析工程での解析結果が前記設計条件を満たしていないと判定された場合に、前記設計パラメータの値を最適化しつつ更新する設計パラメータ更新工程と、
実行し、
前記判定工程において前記解析工程での解析結果が前記設計条件を満たしていると判定されるまで、前記解析工程、前記判定工程及び前記設計パラメータ更新工程を繰り返し、
前記判定工程では、前記最適化条件が満たされるか否かの判定を、空力特性を表す項とRCS特性を表す項とを有する目的関数を用いて行うことを特徴とする。
ここで、「RCS」とは、ステルス性のパラメータであるレーダー反射断面積を意味しており、すなわち、「RCS特性」とは、電波的なステルス性を意味する。
【0009】
請求項2に記載の発明は、
航空機のうち所定の設計対象の形状を設計する航空機設計方法であって、
航空機設計装置が、
ユーザ操作に基づいて前記設計対象の形状に関する設計パラメータに複数の値を設定する設計パラメータ設定工程と、
前記設計パラメータ設定工程で設定された前記設計パラメータの各値について、空力特性解析及びRCS解析用の各解析モデルを作成して、前記設計対象の空力特性及びRCS特性を計算し、前記設計パラメータの複数の値に対応する複数のサンプリング解析結果を得る解析工程と、
前記解析工程で得られた複数のサンプリング解析結果から、前記設計パラメータに対する空力特性及びRCS特性の各応答曲面を生成する応答曲面生成工程と、
前記応答曲面生成工程で生成された空力特性及びRCS特性の各応答曲面に基づいて、予め設定された設計条件であって空力特性及びRCS特性に関する最適化条件を含む設計条件を満たす前記設計パラメータの最適解を探索する解探索工程と、
実行し、
前記解探索工程では、前記最適化条件が満たされるか否かの判定を、空力特性を表す項とRCS特性を表す項とを有する目的関数を用いて行うことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の航空機設計方法において、
前記航空機設計装置が、
前記解探索工程で求めた前記設計パラメータの解を用いて空力特性解析及びRCS解析用の各解析モデルを作成し、前記設計対象の空力特性及びRCS特性を再計算する第二解析工程と、
前記第二解析工程での解析結果を、前記応答曲面生成工程で生成された応答曲面から求めた空力特性及びRCS特性と比較し、この比較結果に基づいて当該応答曲面が所要の精度を有しているか否かを判定する判定工程と、
をさらに実行し、
前記判定工程において前記応答曲面が所要の精度を有していないと判定された場合に、前記設計パラメータに新たな値を追加して前記解析工程及び前記応答曲面生成工程の処理を実行し、前記応答曲面を更新することを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の航空機設計方法において、
前記設計対象がインテークダクトであることを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の航空機設計方法と同様の特徴を具備する航空機設計プログラムであり、
請求項6に記載の発明は、請求項2に記載の航空機設計方法と同様の特徴を具備する航空機設計プログラムである。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項1に記載の航空機設計方法と同様の特徴を具備する航空機設計装置であり、
請求項8に記載の発明は、請求項2に記載の航空機設計方法と同様の特徴を具備する航空機設計装置である。
【発明の効果】
【0017】
請求項1,5,7に記載の発明によれば、設計対象の空力特性及びRCS特性(ステルス性)が所定の設計条件を満足するまで、設計パラメータが随時更新されながら空力特性及びRCS特性の解析が繰り返される。
これにより、不十分な他機の開示情報からのデータ取得や試験のための膨大なコストと労力が必要であった従来と異なり、設計作業を自動化しつつ、好適に設計パラメータ値を求めることができる。
したがって、空力特性とステルス性との両立が要求される航空機の形状について、従来に比べてコストや労力を低減させつつ好適に設計を行うことができる。
【0018】
請求項2,6,8に記載の発明によれば、設計パラメータを振ったときの解析結果から当該設計パラメータに対する空力特性及びRCS特性の各応答曲面が生成され、この応答曲面に基づいて、所定の設計条件を満たす設計パラメータの解が求められる。
これにより、不十分な他機の開示情報からのデータ取得や試験のための膨大なコストや労力が必要であった従来と異なり、設計作業を自動化しつつ、好適に設計パラメータ値を求めることができる。
したがって、空力特性とステルス性との両立が要求される航空機の形状について、従来に比べてコストや労力を低減させつつ好適に設計を行うことができる。
また、設計パラメータを決定した後に形状変更の必要性が生じた場合でも、改めて解析を行う必要なく、応答曲面を用いるだけで、この場合の性能変化を容易に把握することができる。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、設計パラメータの解を用いて再計算した空力特性及びRCS特性を、応答曲面から直接求めた空力特性及びRCS特性と比較することで応答曲面の精度を確認し、応答曲面が所要の精度を有していない場合には、設計パラメータに新たな値を追加してサンプリング解析結果を増やすことで応答曲面が更新される。
したがって、応答曲面の精度を向上させて、好適に設計パラメータ値を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第一の実施形態における航空機設計装置の機能構成を示すブロック図である。
図2】第一の実施形態における形状設計処理の流れを示すフローチャートである。
図3】第一の実施形態におけるインテークダクトの設計モデル図である。
図4】第二の実施形態における航空機設計装置の機能構成を示すブロック図である。
図5】第二の実施形態における形状設計処理の流れを示すフローチャートである。
図6】(a)空力特性の応答曲面の一例を示す三次元グラフであり、(b)RCS特性の応答曲面の一例を示す三次元グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0022】
[第一の実施形態]
まず、本発明の第一の実施形態について説明する。
【0023】
<航空機設計装置1の構成>
図1は、本発明の第一の実施形態における航空機設計装置1の機能構成を示すブロック図である。
航空機設計装置1は、航空機の各部形状を設計するための情報処理装置であり、図1に示すように、入力部11、表示部12、記憶部13、CPU(Central Processing Unit)14を備えている。
【0024】
入力部11は、図示しない各種入力キーを備えており、押下されたキーの位置に対応する入力信号をCPU14に出力する。
表示部12は、図示しないディスプレイを備えており、CPU14から入力される表示信号に基づいて各種情報をディスプレイに表示する。
【0025】
記憶部13は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等により構成されるメモリであり、各種のプログラム及びデータを記憶するとともに、CPU14の作業領域としても機能する。本実施形態では、記憶部13は、形状設計プログラム130と、CFD解析プログラム131と、RCS解析プログラム132とを記憶している。
【0026】
形状設計プログラム130は、本発明に係る航空機設計プログラムであり、後述の形状設計処理(図2参照)をCPU14に実行させるためのプログラムである。
CFD解析プログラム131は、設計対象の空力特性を計算するためのCFD(Computational Fluid Dynamics)解析ソフトである。
RCS解析プログラム132は、設計対象のRCS(Radar Cross Section:レーダー反射断面積)特性を計算するための電磁界解析ソフトである。レーダー反射断面積とは、ステルス性(レーダー等からの探知されにくさ)を定量的に表すパラメータであり、値が小さいほどステルス性が高いことを示す。すなわち、RCS特性とは、電波的なステルス性を意味する。
なお、図示は省略するが、記憶部13には、CFD解析プログラム131及びRCS解析プログラム132用の解析モデルを作成するための三次元CADソフトも記憶されている。
【0027】
また、記憶部13は、設計条件記憶領域133と、設計パラメータ記憶領域134とを有している。
設計条件記憶領域133は、後述の形状設計処理における設計条件(本実施形態では、後述の最適化条件及び制約条件)を格納するメモリ領域である。
設計パラメータ記憶領域134は、後述の形状設計処理における設計パラメータを格納するメモリ領域である。
【0028】
CPU14は、入力される指示に応じて所定のプログラムに基づいた処理を実行し、各
機能部への指示やデータの転送等を行い、航空機設計装置1を統括的に制御する。具体的には、CPU14は、入力部11から入力される操作信号等に応じて記憶部13から各種プログラムを読み出し、当該プログラムに従って処理を実行する。そして、CPU14は、処理結果を記憶部13に一時保存するとともに、当該処理結果を表示部12に適宜出力させる。
【0029】
<航空機設計装置1の動作>
続いて、航空機設計装置1が形状設計処理を実行する際の動作について説明する。ここでは、航空機の胴体部に設けられてエンジン部へ空気を取り込むインテークダクト(曲りダクト)を設計対象とした場合について説明する。
図2は、第一の実施形態における形状設計処理の流れを示すフローチャートであり、図3は、インテークダクトの設計モデル図である。
【0030】
形状設計処理は、航空機のうち、空力特性とRCS特性(ステルス性)とに影響する形状(本実施形態ではインテークダクト)の設計を行う処理である。この形状設計処理は、ユーザにより当該形状設計処理の実行指示が入力されたときに、CPU14が記憶部13から形状設計プログラム130を読み出して展開することで実行される。
【0031】
図2に示すように、形状設計処理が実行されると、まずCPU14は、ユーザによる設計条件の設定(入力)を受け付ける(ステップS1)。本実施形態では、設計条件として、以下のような最適化条件及び制約条件を設定する。
最適化条件は、形状設計処理の結果を最適化するための条件であり、本実施形態では、例えばダクト内部での総圧回復率を最大化させ(空力特性:良)、且つ、レーダー反射断面積を最小化させる(ステルス性:良)ものとなっている。また、ここでのレーダー反射断面積は、例えば機首方向を基準に、アジマス方向やエレベーション方向に所定の範囲で評価した中央値等とすることができる。
制約条件は、本実施形態では、ダクト長さが一定であることと等としている。
そして、CPU14は、ユーザによるこれら最適化条件及び制約条件の入力を受け付けて、設計条件として設計条件記憶領域133に記憶させる。
なお、設計条件は、求める設計対象の形状を限定する条件であれば、上述のような最適化条件を含むものでなくともよい。
【0032】
次に、CPU14は、ユーザによる設計パラメータの初期値設定(入力)を受け付ける(ステップS2)。
本実施形態では、空力特性及びRCS特性(ステルス性)への影響が大きいと考えられる長さ比、中心線形状、断面形状、断面積分布を考慮した変数が設計パラメータとなっており、具体的には、図3に示すように、以下の設計パラメータP1〜P11を用いる。
設計パラメータP1 : Lsub/D、
設計パラメータP2,P3 : 長さ位置30%,100%でのΔy/Dを制御する
制御パラメータ、
設計パラメータP4,P5 : 長さ位置30%,100%でのΔz/Dを制御する
制御パラメータ、
設計パラメータP6,P7 : 断面積の拡大が開始,終了する長さ位置を制御する
制御パラメータ、
設計パラメータP8〜P11: 長さ位置50%での断面形状制御点(座標)、
ここで、x、y、zは航空機の前後、左右、上下に沿った各方向であり、「長さ位置」とは吸気口を始点としてx方向に沿った位置である。また、Lsubはx方向の全長、Dは吐出口の直径、Δyは中心線のy方向へのオフセット量、Δzは中心線のz方向へのオフセット量である。
【0033】
このステップS2では、これらの設計パラメータP1〜P11に対し、例えば所定の基準形状(例えば他機例を参考に設定したものなど)の値が初期値として入力される。そして、CPU14は、ユーザにより入力された設計パラメータP1〜P11の初期値を受け付けて、設計パラメータ記憶領域134に記憶させる。
【0034】
次に、CPU14は、図2に示すように、ユーザ操作に基づいて、設計パラメータ記憶領域134に記憶された設計パラメータP1〜P11を用いて設計対象(本実施形態ではインテークダクト)の三次元CADデータを作成する(ステップS3)。より詳しくは、設計パラメータP1〜P11を制御点としたNURBS(Non-Uniform Rational Basis Spline)関数により、設計対象の三次元形状が作成される。
【0035】
次に、CPU14は、ステップS3で作成されたCADデータを用いてCFD解析及びRCS解析を実行する。
具体的には、CPU14は、CFD解析プログラム131により、CADデータをベースに解析格子を生成してCFD解析モデルを作成した後に(ステップS4a)、CFD解析を実行する(ステップS4b)。また併せて、CPU14は、RCS解析プログラム132により、CADデータをベースに解析格子を生成してRCS解析モデルを作成した後に(ステップS5a)、RCS解析を実行する(ステップS5b)。
本実施形態では、CFD解析により総圧回復率を含む空力特性が算出され、RCS解析によりレーダー反射断面積が算出される。
【0036】
次に、CPU14は、CFD解析及びRCS解析から得られた解析結果が、ステップS1で設定された設計条件(本実施形態では、最適化条件及び制約条件)を満たしているか否かを判定する(ステップS6)。
ここで、最適化条件の判定にあたっては、CPU14は、得られた解析結果から、個別に重み付けされた空力特性(総圧回復率)及びRCS特性(レーダー反射断面積)の和として表される目的関数を算出し、この目的関数を用いて最適化条件が満たされるか否かを判定する。
【0037】
このステップS6において、CFD解析及びRCS解析から得られた解析結果が設計条件を1つでも満たしていないと判定した場合には(ステップS6;No)、CPU14は、設計パラメータ記憶領域134に記憶された設計パラメータP1〜P11を更新し(ステップS7)、上述のステップS3へ移行する。
このとき、CPU14は、CFD解析及びRCS解析の解析結果が設計条件を満たす方向に向かうように、設計パラメータP1〜P11を更新すればよい。但し、例えば勾配法や遺伝的アルゴリズムなどの最適化手法、またはこれらを組み合わせたものを活用して、最適化条件及び制約条件をともに満たす解が得られるように、設計パラメータP1〜P11を最適化しつつ更新することが好ましい。
【0038】
したがって、CPU14は、CFD解析及びRCS解析の結果が設計条件を満たすまで、CFD解析及びRCS解析と、設計条件を満たすか否かの判定と、設計パラメータP1〜P11の更新(ステップS3〜S7)を繰り返す。
【0039】
そして、ステップS7において、CFD解析及びRCS解析から得られた解析結果が設計条件を満たしていると判定した場合には(ステップS6;Yes)、CPU14は、処理結果を表示部12に出力し(ステップS8)、形状設計処理を終了する。
【0040】
以上のように、第一の実施形態によれば、インテークダクトの空力特性及びRCS特性(ステルス性)が所定の設計条件を満足するまで、設計パラメータP1〜P11が随時更新されながら空力特性及びRCS特性の解析が繰り返される。
これにより、不十分な他機の開示情報からのデータ取得や試験のための膨大なコストと労力が必要であった従来と異なり、設計作業を自動化しつつ、好適に設計パラメータ値を求めることができる。
したがって、空力特性とステルス性との両立が要求されるインテークダクトについて、従来に比べてコストや労力を低減させつつ好適に設計を行うことができる。
【0041】
[第二の実施形態]
続いて、本発明の第二の実施形態について説明する。なお、上記第一の実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0042】
<航空機設計装置2の構成>
図4は、本発明の第二の実施形態における航空機設計装置2の機能構成を示すブロック図である。
航空機設計装置2は、上記第一の実施形態における航空機設計装置1と異なり、所定の設計パラメータに対する空力特性及びRCS特性の各応答曲面を予め生成しておき、この応答曲面に基づいて設計対象の形状を決定するものである。
具体的に、航空機設計装置2は、図4に示すように、上記第一の実施形態における記憶部13に代えて、記憶部23を備えている。
【0043】
記憶部23は、形状設計プログラム230を記憶しているほかに、上記第一の実施形態と同様のCFD解析プログラム131及びRCS解析プログラム132を記憶している。
形状設計プログラム230は、本発明に係る航空機設計プログラムであり、本第二の実施形態における後述の形状設計処理(図5参照)をCPU14に実行させるためのプログラムである。
【0044】
また、記憶部23は、上記第一の実施形態と同様の設計条件記憶領域133及び設計パラメータ記憶領域134を有しているほかに、応答曲面記憶領域235を有している。
応答曲面記憶領域235は、後述の形状設計処理において応答曲面を格納するメモリ領域である。
【0045】
<航空機設計装置2の動作>
続いて、航空機設計装置2が形状設計処理を実行する際の動作について説明する。ここでは、上記第一の実施形態と同様に、設計対象をインテークダクトとした場合について説明する。
図5は、第二の実施形態における形状設計処理の流れを示すフローチャートである。
【0046】
形状設計処理は、上記第一の実施形態のものと同様に、空力特性とRCS特性(ステルス性)とに影響する航空機の形状(本実施形態ではインテークダクト)の設計を行う処理であり、ユーザにより当該形状設計処理の実行指示が入力されたときに、CPU14が記憶部23から形状設計プログラム230を読み出して展開することで実行される。
【0047】
図5に示すように、形状設計処理が実行されると、まずCPU14は、ユーザによる設計条件(本実施形態では、最適化条件及び制約条件)の設定(入力)を受け付けて、設計条件記憶領域133に記憶させる(ステップT1)。このステップT1は、上記第一の実施形態におけるステップS1と同様に実行される。
【0048】
次に、CPU14は、ユーザ操作に基づいて、応答曲面を生成するための初期サンプリング用の設計パラメータ値の設定(入力)を受け付ける(ステップT2)。
本実施形態では、上記第一の実施形態と同様の設計パラメータP1〜P11が用いられる。そして、CPU14は、例えば実験計画法などを用い、効率的に応答曲面を得るため
の複数組(例えば50組)の設計パラメータP1〜P11の値を求め、この複数組の設計パラメータP1〜P11の値を初期サンプリング用の設計パラメータ値として設計パラメータ記憶領域134に記憶させる。
【0049】
次に、CPU14は、設計パラメータ記憶領域134に記憶された複数組の設計パラメータP1〜P11について、サンプリング解析を行う。
具体的には、CPU14は、各組の設計パラメータP1〜P11ごとに、三次元CADデータを作成し(ステップT3)、CFD解析モデルの作成及びCFD解析の実行(ステップT4a,T4b)と、RCS解析モデルの作成及びRCS解析の実行(ステップT5a,T5b)とを行う。これらのステップT3,T4a,T4b,T5a,T5bは、上記第一の実施形態におけるステップS3,S4a,S4b,S5a,S5bと同様に実行される。
【0050】
次に、CPU14は、CFD解析及びRCS解析で得られた複数のサンプリング解析結果から、空力特性及びRCS特性の各応答曲面を生成する(ステップT6)。
より詳しくは、CPU14は、CFD解析及びRCS解析の各サンプリング解析結果に対し、不連続な複数のサンプルデータを連続的な関数により近似・補完して応答曲面を生成する。これにより、例えば図6(a),(b)に示すように、所定の設計パラメータA,Bに対する空力特性(総圧回復率)及びRCS特性(レーダー反射断面積)の各応答曲面を得ることができる。
【0051】
次に、CPU14は、図5に示すように、生成した空力特性及びRCS特性の各応答曲面から、設計条件(本実施形態では、最適化条件及び制約条件)を満たす設計パラメータP1〜P11の解を探索する(ステップT7)。
このとき、CPU14は、例えば勾配法や遺伝的アルゴリズムなどの最適化手法、またはこれらを組み合わせたものを活用して、設計パラメータP1〜P11の最適解を探索することが好ましい。
【0052】
次に、CPU14は、応答曲面の精度確認のための解析を行う。
つまり、CPU14は、求めた設計パラメータP1〜P11の解を用いて三次元CADデータを作成し(ステップT8)、CFD解析モデルの作成及びCFD解析の実行(ステップT9a,T9b)と、RCS解析モデルの作成及びRCS解析の実行(ステップT10a,T10b)とを行う。これらのステップT8,T9a,T9b,T10a,T10bは、上記第一の実施形態におけるステップS3,S4a,S4b,S5a,S5bと同様に実行される。
【0053】
次に、CPU14は、得られた解析結果(空力特性及びRCS特性)を、応答曲面から求めた値と比較する(ステップT11)。
【0054】
次に、CPU14は、ステップT11での比較結果に基づいて、応答曲面が所要の精度を有しているか否かを判定する(ステップT12)。
【0055】
このステップT12において、解析結果と応答曲面から求めた値とが良い一致をみず、応答曲面の精度が十分ではないと判定した場合には(ステップT12;No)、CPU14は、応答曲面の精度を向上させるための追加サンプリング用の設計パラメータ値を新たに設定し(ステップT13)、上述のステップT3へ移行する。
【0056】
したがって、CPU14は、ステップT4b,T5bでの解析結果と応答曲面から求めた値とが良い一致をみるまで、サンプリング点の追加と応答曲面の生成(更新)及び精度確認(ステップT3〜T13)を繰り返す。
【0057】
そして、ステップT12において、ステップT4b,T5bでの解析結果と応答曲面から求めた値とが良く一致し、応答曲面の精度は十分であると判定した場合には(ステップT12;Yes)、CPU14は、処理結果を表示部12に出力し(ステップT14)、形状設計処理を終了する。
【0058】
以上のように、第二の実施形態によれば、設計パラメータP1〜P11を振ったときの解析結果から当該設計パラメータP1〜P11に対する空力特性及びRCS特性(ステルス性)の各応答曲面が生成され、この応答曲面に基づいて、所定の設計条件を満たす設計パラメータP1〜P11の解が求められる。
これにより、不十分な他機の開示情報からのデータ取得や試験のための膨大なコストや労力が必要であった従来と異なり、設計作業を自動化しつつ、好適に設計パラメータ値を求めることができる。
したがって、空力特性とステルス性との両立が要求されるインテークダクトについて、従来に比べてコストや労力を低減させつつ好適に設計を行うことができる。
【0059】
また、設計パラメータP1〜P11を決定した後に形状変更の必要性が生じた場合でも、改めて解析を行う必要なく、応答曲面を用いるだけで、この場合の性能変化を容易に把握することができる。
【0060】
また、設計パラメータP1〜P11の解を用いて再計算した空力特性及びRCS特性を、応答曲面から直接求めた空力特性及びRCS特性と比較することで応答曲面の精度を確認し、応答曲面が所要の精度を有していない場合には、設計パラメータP1〜P11に新たな値を追加してサンプリング解析結果を増やすことで応答曲面が更新される。
したがって、応答曲面の精度を向上させて、好適に設計パラメータ値を求めることができる。
【0061】
なお、本発明を適用可能な実施形態は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0062】
例えば、上記実施形態では、設計対象としてインテークダクトを例に挙げて説明したが、本発明を適用可能な航空機の設計対象は、空力特性とステルス性との両立が要求される部分であればインテークダクトでなくともよい。但し、本発明は、比較的に複雑な曲面形状への適用効果が特に高いことから、主翼や尾翼は勿論のこと、航空機の胴体(機首部等)や機外搭載物(ミサイル、燃料タンク等)の設計に、特に好適に適用することができる。また、航空機等の機体全体を設計する場合に本発明を適用する場合には、その機体全体が設計対象となる。
【0063】
また、目的関数や制約条件は、空力特性やRCS特性(ステルス性)のほかに、重量等の航空機の性能に影響する指標を加えたものとし、これらを組み合わせて用いてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1,2 航空機設計装置
13,23 記憶部
130,230 形状設計プログラム
131 CFD解析プログラム
132 RCS解析プログラム
14 CPU
P1−P11 設計パラメータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6