【文献】
MIDGLEY S M,PHYSICS IN MEDICINE AND BIOLOGY,英国,INSTITUTE OF PHYSICS PUBLISHING,2005年 9月 7日,V50 N17,P4139-4157
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
材料減衰係数を、前記複数のエネルギーバンドのセットにわたるエネルギー依存係数のセットを有する複数のエネルギー依存の多項式のセットとみなす前記工程が、数値的関係を規定する工程を含み、該数値的関係は、前記複数のエネルギーバンドのセットにわたるエネルギー依存係数のセットを有するこのような複数のエネルギー依存の多項式のセットをそなえる、請求項1に記載の方法。
入射スペクトルの少なくとも一部にわたって分光的に可変の応答を示す検出器システムが設けられ、これにより分光情報を読み出すことができ、かつ複数の差異化されたエネルギーバンドで強度情報を同時に検出することができる、請求項1〜5のいずれか一に記載の方法。
入射スペクトル内の2つを超えるエネルギーレベルを区別するために、異なるエネルギーに合わせて校正された複数のデュアルエネルギー検出器を備える検出器システムが設けられた、請求項7に記載の方法。
入射スペクトル内の3つ以上のエネルギーレベルを区別するよう本質的に適合させた、少なくとも1つのマルチスペクトル検出器を備える検出器システムが設けられた、請求項7または請求項8に記載の方法。
前記検査対象から生じる放射線についての強度データが、少なくとも透過強度データを含み、前記数値的処理工程が、前記強度データから透過強度の減衰に関する減衰係数を特定する工程を含む、請求項1〜9のいずれか一に記載の方法。
コンピュータ可読記録媒体または読み取り専用メモリ上で実施され、コンピュータのメモリに格納され、例えば分散型ネットワークを介してコンピュータからアクセス可能なリモートメモリに格納され、または適当な搬送波信号で伝送される、請求項14に記載の少なくとも1つのコンピュータプログラム。
【背景技術】
【0005】
手荷物検査および税関検問所において、物体の内容物をスキャンし、内容物についての情報を取得すること、例えば物体の内容物が安全に対する脅威または関税法規の違反とならないという指標を得ることが望ましい。また、品質管理、内容物検査、劣化監視などの他の目的のために物体の内容物をスキャンすることも望ましい。
【0006】
この点において有用な情報を、検査における物体との相互作用の後に検出器で受信される放射線のスペクトル分析により、例えば、適当な高エネルギー電磁放射線源から物体をスキャンし、物体との相互作用の後に適当な検出器で発生した放射線を収集し、発生した放射線を、例えば参照データに対し分光処理することにより、物体の組成についての結論を導き出しうることが知られている。
【0007】
ランベルト・ベールの法則によると、エネルギーE、強度I
0で厚さt(cm)の物質に入射する光子ビームについて、生じる強度は以下のとおりとなる。
【数1】
式中、μは線減衰係数であり、単位伝搬距離当たりの相互作用の確率とする。単位はcm
−1である。多くの場合、線減衰係数(μ)を材料密度(ρ)で除した質量減衰係数とともに用いることが好ましい。したがって、質量減衰係数(μ/ρ)の単位はg
−1cm
2である。質量減衰係数は、X線物理学においては一般的に記号αでも表されるが、同じくこの記号で表される微細構造定数と混同しないようにされたい。本明細書で使用するとき、αは特に指定がない限り、質量減衰係数を指す。したがって、質量減衰係数に関してランベルト・ベールの法則は以下のように表される。
【数2】
(ここで、密度と距離の積(ρt)を、質量厚さxとする。)
【0008】
X線は物質と様々な形で相互作用し、ビームを減衰させうる。相互作用の最も重要な3つの方法は、以下のとおりである。
・コンプトン散乱
・光電効果
・電子対生成
他の効果、例えばトムソン散乱の果たす役割は小さいものである。しかし、そのプロセスのいずれが影響を及ぼすかは、媒体の質量吸収特性に依存し、また同様に光子のエネルギーに依存する。
【0009】
これらのプロセスのいずれが影響を及ぼすかは、標的の質量吸収特性(原子番号Zに直接関係する)およびX線のエネルギーに依存する。
【0010】
低エネルギーでは、光電効果が線吸収係数(μ
λ)に影響を及ぼす傾向があり、光子エネルギーが上昇すると、1022keVを超えるエネルギーで影響を及ぼす電子対生成が起こるまでは、コンプトン効果が優位になる。X線用途は一般的に数百keVまでのX線を使用するため、電子対生成は起こらず、ビームの減衰は主に他の2つの効果の組み合わせにより生ずる。
【0011】
ある元素からの減衰を正確に表す試みがいくつかなされてきたが、そのすべては多くの仮定を含みうる実データの近似である。JacksonおよびHawkesによる最も広く受け入れられている文献の1つ(DF JacksonおよびDJ Hawkes、「X-ray attenuation coefficients of elements and mixtures」、Physics Reports 70 (3)、pp169-233 (1981))は、線減衰係数を推定する以下の方法を提示している。
【数3】
【0012】
Jackson Hawkesの方法は、元素の原子番号を特定することについては正確であることが証明されているが、この手法は調査される混合物の組成の定量的情報に直接的には結びつかないため、限界がある。さらに、Z
effと呼ばれることが多い、物質を特徴付ける1つだけの実効原子番号の定義は、広いエネルギー範囲にわたって、または異なる原子番号の元素を含む混合物または集合体に対しては有効ではない。このため、複合物質を測定する際には不正確となり、この1つの特性において同様のものとして処理されうる化合物を区別することができない。この方法は、いくつかの放射線研究に有用な近似をもたらすが、その機能性は限られている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の第1の態様によると、不明な物体の放射線検査の方法は、適当な放射線源による照射後に検査対象から生じる放射線の画像データセットを処理する方法の形をとり、この方法は、
検査対象から生じる放射線から、空間的に分解された、強度データの項目のマップを含む画像データセットを生成する工程と、
さらに、線源のスペクトルにわたる少なくとも2つのエネルギーバンド間で、強度データ項目をスペクトル分解する工程と、
スペクトル分解された強度データ項目を数値的に処理して、1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度を含むデータ項目の少なくとも1つのさらに空間的に分解されたデータセットを特定する工程と、
1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度の前記データセットを用いて、セグメント化された画像データセットを生成する工程とを含む。
【0016】
スペクトル分解された強度データ項目を数値的に処理して、1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度を含むデータ項目の、さらに空間的に分解されたデータセットを特定する工程は、例えば、
スペクトル分解された強度データを数値的に処理する工程を含み、この工程は、
材料減衰係数を、複数のエネルギーバンドのセットにわたるエネルギー依存係数のセットを有する複数のエネルギー依存の多項式のセットとみなす工程と、
前記各エネルギーバンドにおいて測定される減衰係数を特定する工程と、
1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度、例えば、複数の次数の重み付けされた複合原子番号のべき乗、好ましくは複数のより高次の重み付けされた複合原子番号のべき乗を含む複合陽子数セットを、前記減衰係数から計算する工程とを含む。
【0017】
好ましくは、この方法は、1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度のうち少なくとも2つ、例えば複合陽子数セットとしての少なくとも2つの次数の複合陽子数、を計算する工程を含む。
【0018】
本明細書中に定義されるように、複合陽子数セットは複数の次数の重み付けされた複合原子番号を含む。不定形では、このような番号は化合物の組成を特定し、また化合物の組成に依存する。本発明は、物質識別方法として、複数のエネルギーで測定されるX線測定を用いて、多次元、好ましくは高次元の複合陽子数セットを計算する方法を含む。
【0019】
本発明は、1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度を計算する工程を含み、好ましい場合においては、定義されたような複合陽子数セットを計算する工程と、このようなデータを、物体の含有物質を識別する目的に使用可能にする工程とを含む。本明細書においてこうしたデータの使用を取り上げる場合、事情がそうではないことを必要とする場合を除いて、本発明は、一般的な場合における1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度の使用に、また上述の好ましい場合においては、定義された少なくとも1つの複合陽子数セットの使用に適用可能であると考えられたい。
【0020】
材料減衰係数を、複数のエネルギー依存の多項式のセットとみなす工程が、前記複数のエネルギーバンドのセットにわたるエネルギー依存係数のセットを有するこのような複数のエネルギー依存の多項式のセットを含む数値的関係を規定する工程、例えば、以下の一般形の式を用いる工程を含む。
【数4】
ここで、この数式は、特には、複数のより高次のべき乗についてのものであり、例えば、少なくとも2次および3次のべき乗についてのものである。この一般形の複数のべき乗、特に複数のより高次のべき乗が好ましい。この一般形の複数のべき乗、特に複数のより高次のべき乗が好ましいが、本発明は単一の次数のZを用いることを排除しない。
【0021】
スペクトル分解された強度データ項目を数値的に処理して、質量厚さを表すデータ項目のさらに空間的に分解されたデータセットを特定する工程が、複合陽子数セットを収集するプロセス中に含まれてもよい。
【0022】
1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度を表すデータ項目の前記データセットを用いて、セグメント化された画像データセットを生成する工程において、1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度でセグメント化された画像を生成する。画像は、複合的な方法でセグメント化されてもよく、例えば異なる次数の複合陽子数を含む1つまたは複数の複合陽子数セット、有効質量厚さおよび密度から選択された少なくとも2つによるセグメント化を適用してもよい。
【0023】
したがって、この方法の成果はセグメント化された画像データセットである。しかし、画像データセットは、複合陽子数セットおよび/または有効質量厚さおよび/または密度として計算されるデータ項目により決定されるパラメータによってセグメント化され、透過強度のみに基づくものではない。このような画像データセットは、透過強度のみによってセグメント化された空間マップに基づくものに代わり、あるいはこれに加え、特に、先に考慮された1つまたはそれ以上の特定の場合における、画像の識別を改善することが可能である。例えば、湾曲したまたは不規則な形状の物体、重なり合った物体等の識別を改善することが可能である。
【0024】
セグメント化された画像は、1つまたは複数の次数の複合陽子数、有効質量厚さおよび密度から選択された少なくとも2つでのセグメント化を適用することによる複合的な方法でセグメント化されてもよい。例えば、画像を、1つの次数の複合陽子数(CPN)および質量厚さでセグメント化してもよい。あるいは、例えば、CPN(Compound Proton Number)および質量厚さでのセグメント化に代えて、異なる次数のCPNでセグメント化することが可能である。複数の次数、例えば2次/3次のCPNで導出されたパラメータでセグメント化してもよい。
【0025】
1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または質量厚さ、および強度によってセグメント化された画像を同時に解析することにより、均一な元素組成、均一な質量厚さおよび透過強度特性をもつ、連続する領域の範囲の、より総合的な評価が可能になる。これらのコントラストモードのそれぞれのセグメント化における論理的不整合は、操作者によるさらなる調査のために強調表示することができる。各領域のセグメント化されたデータの特徴的な傾向を用いて、一般的な物体を識別することができる。さらに、かかるより具体的な情報を得られることにより、より複雑で強力な解析を行うことが可能になる。
【0026】
例えば、均一な複合陽子数および1軸に沿った質量厚さにおける正曲率を示す、連続する領域は、円筒状の物体として識別することができ、その直径は、質量厚さデータおよびすべてのセグメント領域を平均することにより戻され、より正確な複合陽子数の値から導出することができる。セグメント化された領域を囲む、異なる複合陽子数をもつ境界線の存在は、容器の存在を示す。ここで、形状、次元、および前記容器内の物質の解析により、含まれるセグメントの材料解析を補助することが可能である。特徴的な要素の画像ライブラリおよびデータベースを、一般的な、脅威となる物体および無害な物体用に構築することができ、透過強度の推定に加えて、物体の複合陽子数および質量厚さの両方の推定が可能になる。質量厚さが、材料の密度と厚さの積であることを考慮すれば、物体の厚さの情報を他の技術によって得ることによって、密度を計算することができることは、当業者にとって明らかである。このデータから物質または脅威の識別アルゴリズムを発展させることもでき、それにより、例えば、脅威となる物質および無害な物質の複合陽子数と密度または質量厚さとの特徴的な関係を利用して、脅威が存在する可能性が高いことが検出されたら警報を発するかあるいは画像の領域を強調することができる。
【0027】
放射線源は、電離放射線などの高エネルギー放射線、例えばX線などの高エネルギー電磁放射線および/またはガンマ線、または亜原子粒子線を放出する、1つまたは複数の線源を備えることが好ましく、検出システムは、このスペクトルの放射線の検出に対応するよう適合させる。放射線源は、例えば、広範なエネルギー領域にわたる広域スペクトル放射線を発生させることが可能な広帯域X線源またはガンマ線源などの広帯域線源である。さらに、またはあるいは、複合線源を用いて、このような広範なエネルギー領域にわたる広域スペクトル放射線を発生させてもよい。線源は、検査中の物体を十分広いスペクトルにわたり照射することが可能であり、これにより発生強度データを、後のデータ処理工程に必要な複数の強度ビンに分解しやすくする。
【0028】
本発明は、デュアルおよび/またはマルチスペクトルの技術ならびにシステムに適用され、少なくとも2つのエネルギーバンド、より好ましくは少なくとも3つのエネルギーバンド間で、発生強度データが同時および/または連続的にスペクトル分解される。好ましくは、データ収集工程において、線源のスペクトルにわたる少なくとも2つのエネルギーバンド、さらに好ましくは少なくとも3つのエネルギーバンド間で、強度データ項目を同時および/または連続的にスペクトル分解する。デュアル/マルチスペクトル技術は、特に本方法の数値的処理工程が作用することができ、物体の組成に特有のデータを提供する上で、より詳細な情報をもたらす。マルチスペクトル技術は、このような解析技術に適合することが理想的であるが、このような技術を変更して、例えばデュアルエネルギー検出システムに適用可能であることは当業者にとって明白である。
【0029】
好適な実施形態では、少なくとも上述のとおり定義された複合陽子数セットが生成され、これを画像セグメント化の手段として用いる。複合陽子数セットは、複数の次数の複合陽子数からなってもよい。本実施形態は、複雑な、多元素化合物に特有の減衰に対応し、減衰係数を、エネルギー依存係数のセットを有するエネルギー依存の高次多項式のセットとして扱う。エネルギーレベルの数を測定するため、より高次の原子番号を数式に含むことが可能である。係数を正確に測定することができると、原子番号の複数のべき乗、特により高次のべき乗(本明細書において複合陽子数と呼んできた)に対するこれらの係数のフィッティングを計算することができ、物質の識別を可能にする複合陽子数セットを生成することができる。フィッティング技術と同様、フィッティングの正確性は、独立した評価基準の数とともに高くなる。デュアルエネルギー技術の場合、広いエネルギーバンドにわたる2つの測定のみが、フィッティングに使用可能である。このため、マルチスペクトル検出法を用いてより多くのデータ点を収集することによりこの方法の正確性が高くなる。
【0030】
元素における吸収によって、各元素について原子番号の関数、すなわち単一値の複合陽子数セットを計算することができる。複数元素の化合物は、重み付けされた原子番号の、より高次の多項式に依存する、より複雑な減衰を示し、また化合物はそれぞれ、複合陽子数セットを有する。複合陽子数のある範囲でのべき乗(または次数)の解を計算すると、複合陽子数の値は、各べき乗で異なり(以下に式13〜15で示されるように)、これは元素の場合と相違する。デュアルエネルギー技術の場合と異なり、マルチスペクトル技術により複数のフィッティングパラメータが許容されることで、複合陽子数を様々な次数について計算することが可能となる。このため、複合陽子数セット全体についてより多くの情報が得られ、それ故、よりよく物質を識別可能になる。
【0031】
好適な場合には、材料減衰係数を、前記複数のエネルギーバンドのセットにわたるエネルギー依存係数のセットを有する複数のエネルギー依存の多項式のセットとみなす工程において、多項式について少なくとも2つの次数、例えば少なくとも2つのより高い次数を分解する。
【0032】
この好適な場合において、そこから複数の次数の原子番号のべき乗を計算する工程において、少なくとも2つのより高次のべき乗、例えば少なくとも2次および3次のべき乗を計算する。
【0033】
本発明は、少なくとも2つのエネルギーバンド、より好ましくは少なくとも3つのエネルギーバンド間で発生強度データが同時および/または連続的にスペクトル分解されるデュアルおよび/またはマルチスペクトルの技術およびシステムに適用される。
【0034】
本発明の要点は、収集される強度データが、入射スペクトルにわたる複数の、好ましくは少なくとも3つ、さらに好ましくはより多くのエネルギーバンド間でスペクトル分解されることである。この分解を用いて、1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度、例えば上述の複合陽子数セットを特定する。
【0035】
これを実現するためには、発生強度データを後のデータ処理工程に必要な複数の強度バンドに分解しやすくするのに十分なスペクトル幅/エネルギー範囲にわたり、所定の入射放射線スペクトルが必要である。この一般的な必要条件で、これらのようなエネルギーバンドは、広くてもよいし、単一エネルギーとなるほど狭くてもよいし、近接していても離間していてもよく、1つまたは複数の適当な線源のスペクトルの一部または全部を合わせて包含してもよい。
【0036】
線源と検出器の適切な組合せによって、スペクトル分解された強度データセットがどのようにして生成されるかは、本発明に特に関係しない。
【0037】
1つまたは複数の放射線源を用いて、所望の幅の所定の入射放射線スペクトルを、全幅同時にまたは部分毎に順次生成してもよい。
【0038】
得られた所望幅の所定の入射放射線スペクトルは、同時に複数のエネルギーバンドに分解してもよい。というのは、例えば、検出器システムが好ましくは、分光情報を読み出すことができ、かつ線源のスペクトルにわたる複数の、例えば少なくとも3つの、差異化されたエネルギーバンドにて強度情報を同時に検出することができる、線源スペクトルの少なくとも一部にわたって分光的に可変の応答を示すからである。
【0039】
検出器システムは、異なるエネルギーに校正された複数の検出器を設けるか、または目的の分光応答を示すという点において本質的にスペクトル分解を生ずるよう適合させた少なくとも1つの検出器を設けることにより、適合させてもよい。特に、このような検出器は、目的の材料特性として、本質的に、線源スペクトルの異なる部分に対し、目的の電気的、例えば光電的に可変の応答を示すよう選択された材料から作製される。このような検出器は、入射スペクトル内の2つのエネルギーレベルを区別するよう適合されたデュアルエネルギー検出器であってもよく、または入射スペクトル内の3つ以上のエネルギーレベルを区別するよう適合された純粋にマルチスペクトル用の検出器であってもよい。
【0040】
これらの原理を組み合わせてより多くのエネルギーバンドを区別してもよい。例えば、入射スペクトルの少なくとも一部にわたり分光的に可変な応答を示す複数の検出器を備える検出器システムを用いてもよく、検出器はさらに異なるエネルギーに合わせて校正されているものとする。このようなコンセプトの具体的な場合として、入射スペクトル内の2つを超えるエネルギーレベルを区別するために、異なるエネルギーに合わせて校正された複数のデュアルエネルギー検出器を用いてもよい。
【0041】
さらに、またはあるいは、例えば、複数の検出器を順次用い、および/またはフィルターを用い、および/または入射放射線周波数を切り替えることにより、所望の幅を有する、得られた所定の入射放射線スペクトルを複数のエネルギーバンドに順次分解してもよい。
【0042】
好適な場合において、発生強度データが、少なくとも3つのエネルギーバンド間で同時にスペクトル分解される、マルチスペクトルX線技術を採用する。複数のエネルギービンを利用することにより、特に複合陽子数のより高い次数を分解する際に、デュアルエネルギーシステムでは利用不可能な情報がもたらされる。上述のとおり、これは、異なるエネルギーに合わせて校正された複数のデュアルエネルギー検出器および/または入射スペクトル内の3つ以上のエネルギーレベルを区別するよう適合させた1つ以上のマルチスペクトル検出器を用いることにより実現してもよい。
【0043】
純粋にマルチスペクトル用の検出器、例えばCdTe型検出器を用いるか、または異なるエネルギーに校正された複数のデュアルエネルギー検出器を用いたマルチスペクトルX線技術により、従来のデュアルエネルギーシステムを超える多くの利益がもたらされる。デュアルエネルギーシステムでは、低エネルギー検出器において高エネルギーX線が検出される可能性がゼロではなく、その逆もまた然りであるため、2つのエネルギー領域が完全には分離していない。さらに、高・低エネルギービン間の遮断が厳密でないため、2つのエネルギー領域が重なってしまう。このようなシステムに用いられる検出器は、一般的に、相互作用当たりの相互作用率と電荷の積を記録する電流モードで通常動作するシンチレーション検出器である。こうしたシステムは光子計数機能をもたらさず、単に合計蓄積エネルギーを測定する。また、シンチレータは反応時間が非常に遅いため、画像にブレが生じ、残像効果によって空間分解能が損なわれる。
【0044】
対照的に、CdTeマルチスペクトル検出器は、エネルギーおよび個別の事象のタイミングを維持するパルスモードで動作する。したがって、このシステムは、基本的に検出器の分解能のみによって制限される、正確に測定可能な検出された各X線のエネルギーを、同時に測定することが可能である。このようなシステムは、すべてのエネルギーの測定に単一の検出器のみを用いるため、各エネルギービンは本来ビン間で重ならず、分離しているものである。
【0045】
本発明の実施に適した検出器は、高エネルギー物理学用途に適応させた半導体材料の1つまたは複数の検出素子、例えば高エネルギー放射線、例えばX線またはガンマ線などの高エネルギー電磁放射線、または亜原子粒子放射線の検出器として作用しうる材料を含む。得られる装置は、このような材料からなる少なくとも1つの層を含むため、高エネルギー物理学用途に適合させた装置、例えば、X線またはガンマ線などの高エネルギー放射線、または亜原子粒子放射線のための検出器となる。本方法では、このような装置を使用する。
【0046】
半導体装置は、使用する所期した放射線スペクトルの少なくとも実質的に一部分にわたり、分光的に可変の応答を示すよう適合させた検出器装置であることが好ましい。特に、目的の材料特性として、使用する放射線スペクトルの異なる部分に対し、目的の電気的、例えば光電的に可変の応答を本質的に示す半導体材料を用いる。
【0047】
好適な実施形態において、半導体材料は、バルク結晶、例えばバルク単結晶(この文脈において、バルク結晶は厚さが少なくとも500μm、好ましくは少なくとも1mmであることを示す)として形成される。
【0048】
好適な実施形態において、半導体材料はII−VI族半導体から選択してもよく、特に、テルル化カドミウム、テルル化カドミウム亜鉛(CZT)、テルル化カドミウムマンガン(CMT)、および例えば、不可避不純物を除けば、実質的に結晶Cd
1−(a+b)Mn
aZn
bTe(a+b<1かつ/あるいはbは0でもよい)からなるこれらの合金から選択してもよい。また、複合装置は、追加機能のための他の材料の他の検出器素子を有してもよい。
【0049】
好適な場合において、例えば、この方法を、検査対象中の特定の標的物質、例えば、安全に対する脅威、関税法規の違反等を示しうる物質の存在の検知、および/またはかかる物質の分類または識別を容易にするために適用しうる。
【0050】
この好適な場合において、検査対象から生じた放射線の強度データが少なくとも透過強度データを含み、数値的処理工程が、そのデータから、透過強度の減衰に関する減衰係数を特定する工程を含んでもよい。
【0051】
本発明は、内容物質の容器を備える物体のスキャンに関して特に有用な用途を見いだす。ここで、このような内容物質としては、例えば、混合物、溶液、乳剤、もしくはゲル、ペースト、クリーム、微粉末等の流動性組成物等の懸濁液等を含む、液体などの流体組成物、またはエアロゾルなどのような、元来、単独の一般的には均一な組成を有するものが予期される。ただし、本発明はこのような液体用途に限定されず、本発明の多くの一般原則は、固体および/または液体内容物を含む不均質な物体に等しく適用可能であることを理解されたい。
【0052】
ある、より包括的な実施形態においては、本方法は、物体の放射線検査の方法として適用され、この方法は、
X線またはガンマ線源などの放射線源、および線源から離間されたX線またはガンマ線検出システムなどの放射線検出器システムを設けて、その間に走査領域を画定する工程であって、検出器システムは入射放射線についてのスペクトル分解可能な情報を検出および収集することができる工程と、
物体を走査領域に配置し、放射線源からの放射線で照射する工程と、
物体との相互作用、例えば物体の透過の後に、物体から生じ、検出器システムに入射した放射線についての強度情報の少なくとも1つの空間的に分解されたデータセットを収集する工程と、
線源のスペクトルにわたる少なくとも2つの、好ましくは少なくとも3つのエネルギーバンドにわたる空間的に分解された強度データセットを分解して各バンドの強度データ項目を生成する工程と、
得られたデータセットを、上記方法にしたがって処理し、測定された各強度データ項目に対して、1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度を表すデータ項目をさらに生成する工程と、
1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度を表すデータ項目の前記データセットを用いて、セグメント化された画像データセットを生成する工程とを含む。
【0053】
好ましくは、この方法は、1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度のうち少なくとも2つ、例えば複合陽子数セットとしての少なくとも2つの次数の複合陽子数を生成する工程を含む。
【0054】
この方法は、画像データセットを視覚画像として適当な表示手段上に表示する工程を任意で含んでもよい。さらに、またはあるいは、例えば何らかの適当な画像処理方法で画像をさらに数値的に処理してもよい。
【0055】
本発明による第2の態様において、適当な放射線源による照射後に、検査対象から発生する放射線の画像データセットを処理することにより、不明な物体を放射線検査するための装置が与えられ、この装置は、
放射線源および放射線源から離間された放射線検出器システムであって、その間に走査領域を画定し、かつ使用に際して該走査領域内の物体との相互作用の後に検出器システムに入射する放射線についての情報の、空間的に分解されたデータセットを収集する、放射線源および放射線検出システムと、
放射線源のスペクトル内の少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つのエネルギーバンドにわたるデータセットを処理およびスペクトル分解する第1のデータ処理モジュールと、
測定された各強度データ項目に対し、1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度を表すさらなるデータ項目を生成し、それにより1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度を表すデータ項目の空間的に分解されたデータセットを生成するよう適合させた第2のデータ処理モジュールと、
1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度を表すデータ項目の前記データセットを用いてセグメント化された画像データセットを生成するよう適合させた画像生成モジュールとを備える。
【0056】
好ましくは、第2のデータ処理モジュールは、1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度のうち少なくとも2つ、例えば複合陽子数セットとしての少なくとも2つの次数の複合陽子数を生成するように適合させ、画像生成モジュールは、このような生成データセットを用いてセグメント化された画像データセットを生成するように適合させる。
【0057】
この装置は、セグメント化された画像データセットから生成される画像を表示するための適切な画像表示モジュールを任意で含んでもよい。
【0058】
好適な装置の機構は、この方法の記載から類推して理解されるだろう。
【0059】
特に、第2のデータ処理モジュールが、1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度の生成に関するデータ処理工程を行う手段であることが理解され、ひいては好適な実施形態が理解されるだろう。
【0060】
適切なハードウェアおよびソフトウェアを組み合わせた適切な形式のデータ処理モジュール、例えば、適切にプログラム化された汎用または特殊目的用コンピュータなどの適切にプログラム化されたデータ処理装置を想定することができる。
【0061】
機械可読の命令またはコードの適切なセットによって、本発明の方法の各数値的工程を実施することが可能であり、また本発明の方法におけるデータ処理モジュールの役割を促進することが可能であることが、概ね理解されるだろう。これらの機械可読の命令を、汎用コンピュータ、特殊目的用コンピュータ、または他のプログラム可能なデータ処理装置に格納することにより、特定の機能を実施するための手段を製造、特に本明細書に記載したようなデータ処理モジュールを製造してもよい。
【0062】
これらの機械可読の命令は、コンピュータで読み取り可能な媒体に保存されてもよく、当該媒体は、コンピュータで読み取り可能な媒体に保存された命令が本発明の方法の工程の一部またはすべてを実施する指示手段を含む製品を作成するように、コンピュータまたは他のプログラム可能なデータ処理装置に対し、特定の方法で機能するように指示することができる。コンピュータプログラム命令を、コンピュータまたは他のプログラム可能な装置に格納し、コンピュータ実行プロセスを実施することができる機械を製造してもよい。そのようにすることで、その命令は、本発明の方法における工程の一部またはすべてを実施するための工程を与えるコンピュータまたは他のプログラム可能な装置上で、実行される。ある工程は、特殊目的用ハードウェアおよび/またはコンピュータ命令の任意の適切な組み合わせによって、実施することが可能であり、また、そのような組み合わせを組み込んだ工程を実行するための装置手段により実施することが可能であることが、理解されるであろう。
【0063】
本発明による第3の態様においては、少なくとも1つのコンピュータプログラムが与えられる。ここで、当該コンピュータプログラムは、適当なコンピュータに格納されるとき、本発明の第1の態様の方法の数値的処理工程の1つまたは複数、例えばすべての工程をコンピュータに行わせ、かつ/あるいはコンピュータを本発明の第2の態様によるデータ処理モジュールとして機能させるプログラム命令を有する。
【0064】
この、少なくとも1つのコンピュータプログラムは、コンピュータ可読記録媒体または読み取り専用メモリ上で実行され、コンピュータのメモリに保存され、例えば分散型ネットワークを介してコンピュータからアクセス可能なリモートメモリに保存され、または適当な搬送波信号で伝送されてもよいが、これに限定されない。
【0065】
単なる例示として、複合陽子数セットを生成するための、本発明による実行可能な数値解析方法の実施形態を以下に説明する。
【0066】
複合陽子数セットから数値的に表し、次数nの複合陽子数を
として定義する。好適な複合陽子数セットは少なくともn=2、n=3を含む。
【0067】
物質の識別に用いた、この方法の単純な一実施形態は、3つのエネルギービンを用いるものであり、すべての元素の質量減衰係数に対し以下の近似を用いる。
【数5】
複合物質について、質量減衰係数は、その質量分率w
iにより重み付けされた個々の減衰係数(α
i)の合計により与えられるため、以下のとおりとなる。
【数6】
したがって、以下の式が成り立つ。
【数7】
式中、w
jは、検査する物質内の元素jの質量分率である。
式6を再構成すると、以下のとおりとなる。
【数8】
したがって、以下の式が成り立つ。
【数9】
【0068】
a(E)、c(E)およびd(E)の成分は、実験またはGeant4でのシミュレーションによって経験的に求めることができる。これは、既知の原子質量および質量厚さのある範囲の校正項目において、IおよびI
0の測定を実行することにより行われる。その結果、エネルギービンにわたる係数a(E)、c(E)およびd(E)に関して、式8を解くことができる。
【0069】
【数10】
【数11】
これにより、質量厚さxとともに本実施形態の2次および3次の複合陽子数セットを得ることができる。行列Mは、エネルギービンの選択のみに依存する。Mが求まると、式4の当初の仮定が有効である限り、任意の物質に用いることができる。
【0070】
Mは、例えばNISTデータベースから取得することが可能である。しかし、実際には、自身で行った既知の組成物の物質の測定に基づいているほうがよい。こうして、本測定システムの偏りが(少なくとも部分的に)行列に吸収されることが予想され、これを不明な物質に対する測定に適用する場合、測定の偏りが減少するであろう。Mの測定を校正と呼ぶことにする。校正は、純元素を用いる場合、特に単純である。例えば、3つの異なる元素の原子番号Z
A、Z
BおよびZ
Cならびに質量厚さx
A、x
B、およびx
Cのサンプルのエネルギービン1における吸収を測定する。結果は同様に以下の3つの連立方程式となる。
【数12】
同様に、測定されたR/xの値のベクトルにX
−1を乗じることにより、(a
1,c
1,d
1)を求める。ここで、
【数13】
である。そして、他の2つのエネルギービンについても同じことを繰り返して行列Mの全体を得る。
【0071】
校正用元素は、解析でよく見られる原子番号の範囲を網羅する元素、例えば炭素、アルミニウム、および銅であればよく、これらは検査対象に予期される原子番号の範囲を網羅する。こうした解析方法を用いることにより、直接スペクトルのマッチングと比較しより先進的な技術が可能になると考えられる。
【0072】
2次および3次の複合陽子数が、どのように化合物中では異なり、一方で元素中では等しいかを示す単純な例として、原子番号2の要素および原子番号5の第2の要素を50:50の質量で組み合わせた2つの要素からなる化合物を考える。よって、2次の複合陽子数は以下のとおりとなる。
【数14】
【0073】
さらに、3次の複合陽子数は以下のとおりとなる。
【数15】
ただし、原子番号5の単一の元素については、2次および3次の複合陽子数が同一となる(何次の複合陽子数においても同様である)。
【数16】
【0074】
各物質は異なる複合陽子数のセットを有し、計算可能な複合陽子数の次元が高いほど物質についての情報をより多く収集でき、物質をよりよく識別することができる。さらに、次数は、本発明と同様の基本原則および十分な数の放射線データのエネルギービンを用いて、容易に導出される。