【文献】
MIDGLEY S M,PHYSICS IN MEDICINE AND BIOLOGY,英国,INSTITUTE OF PHYSICS PUBLISHING,2005年 9月 7日,V50 N17,P4139-4157
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
材料減衰係数を、前記複数のエネルギーバンドのセットにわたるエネルギー依存係数のセットを有する複数のエネルギー依存の多項式のセットとみなす前記工程が、前記多項式について少なくとも2つの次数を分解する工程を含む、請求項2または3に記載の方法。
材料減衰係数を、前記複数のエネルギーバンドのセットにわたるエネルギー依存係数のセットを有する複数のエネルギー依存の多項式のセットとみなす前記工程が、数値的関係を規定する工程を含み、該数値的関係は、前記複数のエネルギーバンドのセットにわたるエネルギー依存係数のセットを有するこのような複数のエネルギー依存の多項式のセットをそなえる、請求項2〜4のいずれか一に記載の方法。
1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度、例えば前記複合陽子数セットを、様々な既知の材料の1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度、例えば複合陽子数セットのデータセットのデータベースとの比較に使用可能にする、請求項2〜7のいずれか一に記載の方法。
前記検査対象から生じる放射線の強度データを検出器システムで収集する工程が、透過強度データを収集する工程を含み、前記数値的処理工程が、強度データから、透過強度の減衰に関する減衰係数を特定する工程を含む、請求項1〜8のいずれか一に記載の方法。
入射スペクトルの少なくとも一部にわたって分光的に可変の応答を示す検出器システムが設けられ、これにより分光情報を読み出すことができ、かつ複数の差異化されたエネルギーバンドで強度情報を同時に検出することができる、請求項1〜10のいずれか一に記載の方法。
コンピュータ可読記録媒体または読み取り専用メモリ上で実施され、コンピュータのメモリに格納され、例えば分散型ネットワークを介してコンピュータからアクセス可能なリモートメモリに格納され、または適当な搬送波信号で伝送される、請求項13に記載の少なくとも1つのコンピュータプログラム。
【背景技術】
【0005】
手荷物検査および税関検問所において、物体の内容物をスキャンし、内容物についての情報を取得すること、例えば物体の内容物が安全に対する脅威または関税法規の違反とならないという指標を得ることが望ましい。また、品質管理、内容物検査、劣化監視などの他の目的のために物体の内容物をスキャンすることも望ましい。
【0006】
この点において有用な情報を、検査における物体との相互作用の後に検出器で受信される放射線のスペクトル分析により、例えば、適当な高エネルギー電磁放射線源から物体をスキャンし、物体との相互作用の後に適当な検出器で発生した放射線を収集し、発生した放射線を、例えば参照データに対し分光処理することにより、物体の組成についての結論を導き出しうることが知られている。
【0007】
ランベルト・ベールの法則によると、エネルギーE、強度I
0で厚さt(cm)の物質に入射する光子ビームについて、生じる強度は以下のとおりとなる。
【数1】
式中、μは線減衰係数であり、単位伝搬距離当たりの相互作用の確率とする。単位はcm
−1である。多くの場合、線減衰係数(μ)を材料密度(ρ)で除した質量減衰係数とともに用いることが好ましい。したがって、質量減衰係数(μ/ρ)の単位はg
−1cm
2である。質量減衰係数は、X線物理学においては一般的に記号αでも表されるが、同じくこの記号で表される微細構造定数と混同しないようにされたい。本明細書で使用するとき、αは特に指定がない限り、質量減衰係数を指す。したがって、質量減衰係数に関してランベルト・ベールの法則は以下のように表される。
【数2】
(ここで、密度と距離の積(ρt)を、質量厚さxとする。)
【0008】
X線は物質と様々な形で相互作用し、ビームを減衰させうる。相互作用の最も重要な3つの方法は、以下のとおりである。
・コンプトン散乱
・光電効果
・電子対生成
他の効果、例えばトムソン散乱の果たす役割は小さいものである。しかし、そのプロセスのいずれが影響を及ぼすかは、媒体の質量吸収特性に依存し、また同様に光子のエネルギーに依存する。
【0009】
これらのプロセスのいずれが影響を及ぼすかは、標的の質量吸収特性(原子番号Zに直接関係する)およびX線のエネルギーに依存する。
【0010】
低エネルギーでは、光電効果が線吸収係数(μ
λ)に影響を及ぼす傾向があり、光子エネルギーが上昇すると、1022keVを超えるエネルギーで影響を及ぼす電子対生成が起こるまでは、コンプトン効果が優位になる。X線用途は一般的に数百keVまでのX線を使用するため、電子対生成は起こらず、ビームの減衰は主に他の2つの効果の組み合わせにより生ずる。
【0011】
ある元素からの減衰を正確に表す試みがいくつかなされてきたが、そのすべては多くの仮定を含みうる実データの近似である。JacksonおよびHawkesによる最も広く受け入れられている文献の1つ(DF JacksonおよびDJ Hawkes、「X-ray attenuation coefficients of elements and mixtures」、Physics Reports 70 (3)、pp169-233 (1981))は、線減衰係数を推定する以下の方法を提示している。
【数3】
【0012】
Jackson Hawkesの方法は、元素の原子番号を特定することについては正確であることが証明されているが、この手法は調査される混合物の組成の定量的情報に直接的には結びつかないため、限界がある。さらに、Z
effと呼ばれることが多い、物質を特徴付ける1つだけの実効原子番号の定義は、広いエネルギー範囲にわたって、または異なる原子番号の元素を含む混合物または集合体に対しては有効ではない。このため、複合物質を測定する際には不正確となり、この1つの特性において同様のものとして処理されうる化合物を区別することができない。この方法は、いくつかの放射線研究に有用な近似をもたらすが、その機能性は限られている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による第1の最も完全な態様において、物体の監視、例えば物体の識別および/または認証を容易にする方法は、
第1の記録段階において、
物体を適当な放射線源で照射し、物体から生じる放射線の強度情報を収集し、少なくとも2つのエネルギーバンド間で強度情報をスペクトル分解し、得られたデータセットを参照データセットとして保存する工程を含み、
第2の検証段階において、
物体を適当な放射線源で照射し、物体から生じる放射線の強度情報を収集し、少なくとも2つのエネルギーバンド間で強度情報をスペクトル分解し、得られたデータセットを検査データセットとして使用する工程と、
物体を識別し、対応する参照データセットを読み出す工程と、
所定の公差限界の範囲内で検査データセットと参照データセットを比較する工程と、
所定の公差限界の範囲内で参照データセットと検査データセットが対応する場合には、物体を検証済みとみなし、あるいは
所定の公差限界を超えて参照データセットと検査データセットが相違する場合には、第3の識別段階において、
検査データセットから、分解された強度情報を数値的に処理することにより、物体の組成を特徴付ける情報のデータセットを導出し、この情報を用いて物体の組成を識別する工程とを含む。
【0015】
このように、本発明の原理は、初期の基準状態で後に検査される必要があることが分かっている物体の参照データセットを取得することにあり、このデータセットを用いて物体が初期の基準状態から変化していないことを後の検査において確認し、物体がその初期の基準状態から変化した場合に限り、より完全な数値的処理工程を行ってそのような物体の組成を識別する。これは、基準に対する単純な検証または各検査対象に単独で行われる完全な数値解析と比較し、より強力だがより効率的な処理である可能性がある。
【0016】
好都合なことに、参照データベースは、例えば、手荷物検査を繰り返し受ける必要がありうる、多数の物体用に構築することができ、初期の基準状態との一致の確認または未承認の状態変化の検出の迅速な手段をもたらす。
【0017】
本発明は、少なくとも2つのエネルギーバンド、より好ましくは少なくとも3つのエネルギーバンド間で、発生強度データが同時および/または連続的にスペクトル分解されるデュアル/マルチスペクトルの技術ならびにシステムに適している。好ましくは、データ収集工程において、線源のスペクトルにわたる少なくとも2つのエネルギーバンド、さらに好ましくは少なくとも3つのエネルギーバンド間で、強度データ項目を同時および/または連続的にスペクトル分解する。デュアル/マルチスペクトル技術は、特に数値的処理工程が物体の組成の識別に作用する上で、より詳細な情報をもたらす。本発明によると、検証段階に先立ち、少なくとも2つのエネルギーバンド、より好ましくは少なくとも3つのエネルギーバンド間で発生強度データがスペクトル分解される。また、この分解を用いて、特に数値的処理工程が識別段階において物体の組成の識別に作用する上で、より詳細な情報をもたらす。
【0018】
放射線源は、電離放射線などの高エネルギー放射線、例えばX線などの高エネルギー電磁放射線および/またはガンマ線、または亜原子粒子線を放出する、1つまたは複数の線源を備えることが好ましく、検出システムは、このスペクトルの放射線の検出に対応するよう適合させる。放射線源は、例えば、広範なエネルギー領域にわたる広域スペクトル放射線を発生させることが可能な広帯域X線源またはガンマ線源などの広帯域線源である。さらに、またはあるいは、複合線源を用いて、このような広範なエネルギー領域にわたる広域スペクトル放射線を発生させてもよい。線源は、検査中の物体を十分広いスペクトルにわたり照射することが可能であり、これにより発生強度データを、後のデータ処理工程に必要な複数の強度ビンに分解しやすくする。
【0019】
本発明は、デュアルおよび/またはマルチスペクトルの技術ならびにシステムに適用され、少なくとも2つのエネルギーバンド、より好ましくは少なくとも3つのエネルギーバンド間で、発生強度データが同時および/または連続的にスペクトル分解される。
【0020】
考えられ得る実施形態においては、空間的に分解されたデータを、例えば画像データセットの形で収集する。好ましくは、各データ収集工程では、強度データ項目を空間的に分解して、例えば参照画像データセットおよび検査画像データセットのそれぞれを生成する。
【0021】
この技術には、すべてのノート型パソコンおよびパーソナル電子機器がデータベースに読み込まれ、認証タグを付される可能性のある、軍事基地または官庁などの厳重に警備される施設における特殊な用途がある。これらの物品は、後に出入り口において再検査される。他の考えられ得る用途として、缶や瓶などの標準的なバーコード付の物品がデータベースに追加される、空港などのオープンファシリティが挙げられる。
【0022】
製造業において、この技術は、品質管理限界を満たさない製品、例えば欠損部品、配置不良の部品、腐敗した食品等を識別するために用いてもよい。
【0023】
各照射およびデータ収集工程は、
所望の放射線の検査放射線源および該線源から離間された、所望の放射線のための検出器システムを設ける工程であって、該検出器システムは、検出器に入射する線源から生じる放射線についてのスペクトル分解可能な情報を検出および収集することができる工程と、
線源からの放射線が物体、少なくとも標識材料の領域に入射するようにする工程と、
物体との相互作用の後に、検出器システムで受けた放射線についての強度情報を収集する工程と、
線源のスペクトル範囲内の複数の、好ましくは少なくとも3つのエネルギーバンドにわたって収集された強度情報をスペクトル分解する工程とを含みうる。
【0024】
本発明による第1の完全な態様の総合的な方法論は、空間的、時間的に互いに隔絶され独立して実行される傾向にある、記録段階を含む参照段階、検証を含む検査段階および適切な場合には識別段階を有することが理解されるだろう。
【0025】
したがって、本発明のさらなる態様では、記録段階を、例えば多数の物体に対して実行することにより参照データベースを生成する工程を有する。
【0026】
同様に、本発明のさらなる態様では、事前に生成した参照データベースを参照して、検証段階を含む検査段階および適切な場合には、その後に識別段階を検査対象に行って、検査対象が基準状態を留めていることを確認し、もしそうでない場合には、その内容または組成を識別する。同様の分解データに対し、すべての場合に検証段階を含む検査段階を行い、必要な場合には識別段階を行い、したがって場合によっては同様の事前に生成した参照データベースのデータにアクセスすることにより、個別に実行されるいずれの段階においても効率的となる。
【0027】
サンプルの単独のX線測定を用いるかまたは完全な画像を生成するために多くの検出器を用いることにより、検査される物体とデータベース項目との相違を識別する方法について、例としてここに概略を述べる。
【0028】
ここで想定した例は、携帯型DVDプレーヤー内の想定外の物質の検出に関する。DVDプレーヤーの検査および当該DVDプレーヤーの各点のX線スペクトル情報の保存がその手順に含まれる。その検査結果が後にデータベース項目となる。この具体例で用いられる検出器はマルチスペクトル検出器であるため、X線強度情報は、様々なエネルギーで収集することができ、ここでは、任意のエネルギーEに対しI(E)
Databaseと呼ぶ。
【0029】
DVDプレーヤーは、その後、後の任意の時に再検査することができ、新たな検査結果I(E)
Scanをデータベース項目と比較する。
【0030】
検査対象が複雑であるために、隠された脅威が存在するかは直ちに明らかにならない場合がある。画像比較の数値処理法が好適であろう。
【0031】
特定の実施態様は、検査データとデータベース項目の比較を行うために以下の正規化を用いるが、他の方法を用いてもよい。
【数4】
データベース項目に対し正規化を行うことにより、その差が明らかになるのみならず、さらなる数値処理を用いて組成の識別が可能となる。好適な場合において、数値処理法を用いて、1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度を示すものとして計算され、透過強度のみに基づくものではないデータ項目を生成する。この技術は例えば、層除去、セグメント化等による画像の処理に用いてもよい。特に好適な場合においては、本明細書において複合陽子数セットと定義するものを用いる。質量厚さを表すデータ項目のさらなるデータセットが、複合陽子数セットを収集するプロセスに含まれてもよい。
【0032】
したがって、好適な場合において、物体の組成を特徴付ける情報のデータセットは、1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度、特に複合陽子数セット、特に好ましくは本明細書において定義された複合陽子数セットを含み、スペクトル分解された強度データを数値的に処理する工程は、以下の、
材料減衰係数を、前記複数のエネルギーバンドのセットにわたるエネルギー依存係数のセットを有する複数のエネルギー依存の多項式のセットとみなす工程と、
各エネルギーバンドにおいて測定される減衰係数を特定する工程と、
減衰係数から、1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度、特に複合陽子数セットを計算する工程と、
1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度、好適な場合においては複合陽子数セットを、物体の含有物質を識別する目的に使用可能にする工程とを含む。
【0033】
好ましくは、この方法は、1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度のうち少なくとも2つ、例えば複合陽子数セットとしての少なくとも2つの次数の複合陽子数、を計算する工程を含む。
【0034】
本明細書中に定義されるように、複合陽子数セットは複数の次数の重み付けされた複合原子番号を含む。不定形では、このような番号は化合物の組成を特定し、また化合物の組成に依存する。本発明は、物質識別方法として、複数のエネルギーで測定されるX線測定を用いて、多次元、好ましくは高次元の複合陽子数セットを計算する方法を含む。
【0035】
本発明は本実施形態において、1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度を計算する工程を含み、好ましい場合においては、定義されたような複合陽子数セットを計算する工程と、このようなデータを、物体の含有物質を識別する目的に使用可能にする工程とを含む。本明細書においてこうしたデータの使用を取り上げる場合、事情がそうではないことを必要とする場合を除いて、本発明は、一般的な場合における1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度の使用に、また上述の好ましい場合においては、定義された少なくとも1つの複合陽子数セットの使用に適用可能であると考えられたい。
【0036】
材料減衰係数を、複数のエネルギー依存の多項式のセットとみなす工程が、複数のエネルギーバンドのセットにわたるエネルギー依存係数のセットを有するこのような複数のエネルギー依存の多項式のセットを含む数値的関係を規定する工程、例えば以下の一般形の式を用いる工程を含む。
【数5】
ここで、この数式は、特には、複数のより高次のべき乗についてのものであり、例えば、少なくとも2次および3次のべき乗についてのものである。この一般形の複数のべき乗、特に複数のより高次のべき乗が好ましい。この一般形の複数のべき乗、特に複数のより高次のべき乗が好ましいが、本発明は単一の次数のZを用いることを排除しない。
【0037】
スペクトル分解された強度データ項目を数値的に処理して、質量厚さを表すデータ項目のさらに空間的に分解されたデータセットを特定する工程が、複合陽子数セットを収集するプロセス中に含まれてもよい。
【0038】
本発明の好適な実施形態は、複雑な、多元素化合物に特有の減衰に対応し、減衰係数を、エネルギー依存係数のセットを有するエネルギー依存の高次多項式のセットとして扱う。エネルギーレベルの数を測定するため、より高次の原子番号を数式に含むことが可能である。係数を正確に測定することができると、原子番号の複数のべき乗、特により高次のべき乗(本明細書において複合陽子数と呼んできた)に対するこれらの係数のフィッティングを計算することができ、物質の識別を可能にする複合陽子数セットを生成することができる。フィッティング技術と同様、フィッティングの正確性は、独立した評価基準の数とともに高くなる。デュアルエネルギー技術の場合、広いエネルギーバンドにわたる2つの測定のみが、フィッティングに使用可能である。このため、マルチスペクトル検出法を用いてより多くのデータ点を収集することによりこの方法の正確性が高くなる。
【0039】
元素における吸収によって、各元素について原子番号の関数、すなわち単一値の複合陽子数セットを計算することができる。複数元素の化合物は、重み付けされた原子番号の、より高次の多項式に依存する、より複雑な減衰を示し、また化合物はそれぞれ、複合陽子数セットを有する。複合陽子数のある範囲でのべき乗(または次数)の解を計算すると、複合陽子数の値は、各べき乗で異なり(以下に式13〜15で示されるように)、これは元素の場合と相違する。デュアルエネルギー技術の場合と異なり、マルチスペクトル技術により複数のフィッティングパラメータが許容されることで、複合陽子数を様々な次数について計算することが可能となる。このため、複合陽子数セット全体についてより多くの情報が得られ、それ故、よりよく物質を識別可能になる。
【0040】
本発明の好適な場合には、材料減衰係数を、前記複数のエネルギーバンドのセットにわたるエネルギー依存係数のセットを有する複数のエネルギー依存の多項式のセットとみなす工程において、多項式について少なくとも2つの次数、例えば少なくとも2つのより高い次数を分解する。
【0041】
本発明の好適な場合において、そこから複数の次数の原子番号におけるべき乗を計算する工程において、少なくとも2つのより高次のべき乗、例えば少なくとも2次および3次のべき乗を計算する。
【0042】
本発明は、少なくとも2つのエネルギーバンド、より好ましくは少なくとも3つのエネルギーバンド間で、発生強度データが同時および/または連続的にスペクトル分解されるデュアルおよび/またはマルチスペクトルの技術ならびにシステムに適用される。
【0043】
本発明の好適な場合の要点は、収集される強度データが、入射スペクトルにわたる複数の、好ましくは少なくとも3つ、さらに好ましくはより多くのエネルギーバンド間でスペクトル分解されることである。この分解を用いて、1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度、例えば上述の複合陽子数セットを特定する。
【0044】
これを実現するためには、発生強度データを後のデータ処理工程に必要な複数の強度バンドに分解しやすくするのに十分なスペクトル幅/エネルギー範囲にわたり、所定の入射放射線スペクトルが必要である。この一般的な必要条件で、これらのようなエネルギーバンドは、広くてもよいし、単一エネルギーとなるほど狭くてもよいし、近接していても離間していてもよく、1つまたは複数の適当な線源のスペクトルの一部または全部を合わせて包含してもよい。
【0045】
線源と検出器の適切な組合せによって、スペクトル分解された強度データセットがどのようにして生成されるかは、本発明に特に関係しない。
【0046】
1つまたは複数の放射線源を用いて、所望の幅の所定の入射放射線スペクトルを、全幅同時にまたは部分毎に順次生成してもよい。
【0047】
得られた所望幅の所定の入射放射線スペクトルは、同時に複数のエネルギーバンドに分解してもよい。というのは、例えば、検出器システムが好ましくは、分光情報を読み出すことができ、かつ線源のスペクトルにわたる複数の、例えば少なくとも3つの、差異化されたエネルギーバンドにて強度情報を同時に検出することができる、線源スペクトルの少なくとも一部にわたって分光的に可変の応答を示すからである。
【0048】
検出器システムは、異なるエネルギーに校正された複数の検出器を設けるか、または目的の分光応答を示すという点において本質的にスペクトル分解を生ずるよう適合させた少なくとも1つの検出器を設けることにより、適合させてもよい。特に、このような検出器は、目的の材料特性として、本質的に、線源スペクトルの異なる部分に対し、目的の電気的、例えば光電的に可変の応答を示すよう選択された材料から作製される。このような検出器は、入射スペクトル内の2つのエネルギーレベルを区別するよう適合されたデュアルエネルギー検出器であってもよく、または入射スペクトル内の3つ以上のエネルギーレベルを区別するよう適合された純粋にマルチスペクトル用の検出器であってもよい。
【0049】
これらの原理を組み合わせてより多くのエネルギーバンドを区別してもよい。例えば、入射スペクトルの少なくとも一部にわたり分光的に可変な応答を示す複数の検出器を備える検出器システムを用いてもよく、検出器はさらに異なるエネルギーに合わせて校正されているものとする。このようなコンセプトの具体的な場合として、入射スペクトル内の2つを超えるエネルギーレベルを区別するために、異なるエネルギーに合わせて校正された複数のデュアルエネルギー検出器を用いてもよい。
【0050】
さらに、またはあるいは、例えば、複数の検出器を順次用い、および/またはフィルターを用い、および/または入射放射線周波数を切り替えることにより、所望の幅を有する、得られた所定の入射放射線スペクトルを複数のエネルギーバンドに順次分解してもよい。
【0051】
好適な場合において、発生強度データが、少なくとも3つのエネルギーバンド間で同時にスペクトル分解される、マルチスペクトルX線技術を採用する。複数のエネルギービンを利用することにより、特により高い次数の複合陽子数を分解する際に、デュアルエネルギーシステムでは利用不可能な情報がもたらされる。上述のとおり、これは、異なるエネルギーに合わせて校正された複数のデュアルエネルギー検出器および/または入射スペクトル内の3つ以上のエネルギーレベルを区別するよう適合させた1つ以上のマルチスペクトル検出器を用いることにより実現してもよい。
【0052】
純粋にマルチスペクトル用の検出器、例えばCdTe型検出器を用いるか、または異なるエネルギーに校正された複数のデュアルエネルギー検出器を用いたマルチスペクトルX線技術により、従来のデュアルエネルギーシステムを超える多くの利益がもたらされる。デュアルエネルギーシステムでは、低エネルギー検出器において高エネルギーX線が検出される可能性がゼロではなく、その逆もまた然りであるため、2つのエネルギー領域が完全には分離していない。さらに、高・低エネルギービン間の遮断が厳密でないため、2つのエネルギー領域が重なってしまう。このようなシステムに用いられる検出器は、一般的に、相互作用当たりの相互作用率と電荷の積を記録する電流モードで通常動作するシンチレーション検出器である。こうしたシステムは光子計数機能をもたらさず、単に合計蓄積エネルギーを測定する。また、シンチレータは反応時間が非常に遅いため、画像にブレが生じ、残像効果によって空間分解能が損なわれる。
【0053】
対照的に、CdTeマルチスペクトル検出器は、エネルギーおよび個別の事象のタイミングを維持するパルスモードで動作する。したがって、このシステムは、基本的に検出器の分解能のみによって制限される、正確に測定可能な検出された各X線のエネルギーを、同時に測定することが可能である。このようなシステムは、すべてのエネルギーの測定に単一の検出器のみを用いるため、各エネルギービンは本来ビン間で重ならず、分離しているものである。
【0054】
本発明の実施に適した検出器は、高エネルギー物理学用途に適応させた半導体材料の1つまたは複数の検出素子、例えば高エネルギー放射線、例えばX線またはガンマ線などの高エネルギー電磁放射線、または亜原子粒子放射線の検出器として作用しうる材料を含む。得られる装置は、このような材料からなる少なくとも1つの層を含むため、高エネルギー物理学用途に適合させた装置、例えば、X線またはガンマ線などの高エネルギー放射線、または亜原子粒子放射線のための検出器となる。本方法は、このような装置を使用する。
【0055】
半導体装置は、使用する所期した放射線スペクトルの少なくとも実質的に一部分にわたり、分光的に可変の応答を示すよう適合させた検出器装置であることが好ましい。特に、目的の材料特性として、使用する放射線スペクトルの異なる部分に対し、目的の電気的、例えば光電的に可変の応答を本質的に示す半導体材料を用いる。
【0056】
好適な実施形態において、半導体材料は、バルク結晶、例えばバルク単結晶(この文脈において、バルク結晶は厚さが少なくとも500μm、好ましくは少なくとも1mmであることを示す)として形成される。
【0057】
好適な実施形態において、半導体材料はII−VI族半導体から選択してもよく、特に、テルル化カドミウム、テルル化カドミウム亜鉛(CZT)、テルル化カドミウムマンガン(CMT)、および例えば、不可避不純物を除けば、実質的に結晶Cd
1−(a+b)Mn
aZn
bTe(a+b<1かつ/あるいはbは0でもよい)からなるこれらの合金から選択してもよい。また、複合装置は、追加機能のための他の材料の他の検出器素子を有してもよい。
【0058】
本発明は好適な実施形態において、原子番号の複数べき乗、特に複数のより高次のべき乗(本明細書において、複合陽子数セットと呼ぶ)を分解し、この複合陽子数セットを、物体の含有物質を識別する目的に使用可能にする工程を含む。
【0059】
測定データは、既知の物質のライブラリデータと比較してもよい。例えば、1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度、例えば複合陽子数セットを、様々な既知の材料の1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度、例えば複合陽子数セットのデータセットのデータベースとの比較に使用可能にし、好適な実施形態の方法は、測定された複合陽子数セットをこうした既知の対応データのライブラリデータベースと比較する工程を含む。
【0060】
好適な場合において、例えば、この方法を、検査対象中の特定の標的物質、例えば、安全に対する脅威、関税法規の違反等を示しうる物質の存在の検知、および/またはかかる物質の分類または識別を容易にするために適用しうる。
【0061】
このような場合、このようなデータ、例えば少なくとも、様々なこうした脅威となる物質についての複合陽子数セットを含むライブラリデータベースを用意し、比較工程において、検査中の物体について測定および導出されたデータ、例えば複合陽子数セットを、このようなデータベースと比較する。
【0062】
本発明によると、検査対象から生じた放射線は、線源のスペクトルにわたる複数のエネルギーバンドのセット間で少なくとも分光的に処理される。本発明は、例えば、空間分解能、深さ分解能を目的とした、または画像化情報を生成するための、または他の所望の目的のためのさらなるデータの処理および細分化を排除しない。
【0063】
この好適な場合において、検査対象から生じる放射線の強度データを検出器システムで収集する工程は、透過強度データを収集する工程を少なくとも含み、例えば透過強度データのみを収集する工程を含み、数値的処理工程は、そのデータから、透過強度の減衰に関する減衰係数を特定する工程を含む。
【0064】
考えられ得る実施形態において、数値処理法を用いて、1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度を示すものとして計算されるデータ項目を生成し、このデータを用いて層除去により画像を処理する。このような方法を、少なくとも1つの不明な組成の層を含む、異なる材料組成をもつ複数の層を有する不明な物体の放射線検査に適用することにより、例えば、標的の、禁制の、または脅威となる物質からなる隠された層を検出することができる。
【0065】
本実施形態において、方法は特に、
検査対象を照射し、当該検査対象から生じた、例えば検査対象を透過した放射線から強度データのデータセットを、検出器システムで収集する工程と、
前記線源のスペクトルにわたる少なくとも2つのエネルギーバンド間で、強度データ項目をスペクトル分解する工程と、
スペクトル分解されたデータ項目から、1つまたは複数の次数の複合陽子数および/または有効質量厚さおよび/または密度、最も好ましくは上記で定義した複合陽子数セットを表すデータ項目のさらなるデータセットを特定する工程と、
前記さらなるデータセットを用いて、少なくとも不明な組成物の層、例えば異なる材料組成物の複数の層のそれぞれの、デコンボリューションされたデータを生成する工程とを含む。
【0066】
よって、このように生成された複合陽子数セットを、例えば参照データに対して用いて、不明な組成をもつ層の組成についての結果を導き出し、例えば脅威となる、または禁制の物質として分類または識別することができる。
【0067】
機械可読の命令またはコードの適切なセットによって、本発明の方法の各数値的工程を実施することが可能であることが、概ね理解されるだろう。これらの機械可読の命令を、汎用コンピュータ、特殊目的用コンピュータ、または他のプログラム可能なデータ処理装置に格納することにより、特定の機能を実施するための手段を製造してもよい。
【0068】
これらの機械可読の命令は、コンピュータで読み取り可能な媒体に保存されてもよく、当該媒体は、コンピュータで読み取り可能な媒体に保存された命令が本発明の方法の工程の一部またはすべてを実施する指示手段を含む製品を作成するように、コンピュータまたは他のプログラム可能なデータ処理装置に対し、特定の方法で機能するように指示することができる。コンピュータプログラム命令を、コンピュータまたは他のプログラム可能な装置に格納し、コンピュータ実行プロセスを実施することができる機械を製造してもよい。そのようにすることで、その命令は、本発明の方法における工程の一部またはすべてを実施するための工程を与えるコンピュータまたは他のプログラム可能な装置上で、実行される。ある工程は、特殊目的用ハードウェアおよび/またはコンピュータ命令の任意の適切な組み合わせによって、実施することが可能であり、また、そのような組み合わせを組み込んだ工程を実行するための装置手段により実施することが可能であることが、理解されるであろう。
【0069】
本発明によるさらなる態様においては、少なくとも1つのコンピュータプログラムが与えられる。ここで、当該コンピュータプログラムは、適当なコンピュータに格納されるとき、本発明の第1の態様の方法の数値的処理工程の1つまたは複数、例えばすべての工程をコンピュータに行わせるプログラム命令を含む。
【0070】
この、少なくとも1つのコンピュータプログラムは、コンピュータ可読記録媒体または読み取り専用メモリ上で実行され、コンピュータのメモリに保存され、例えば分散型ネットワークを介してコンピュータからアクセス可能なリモートメモリに保存され、または適当な搬送波信号で伝送されてもよいが、これに限定されない。
【0071】
単なる例示として、複合陽子数セットを生成するための、本発明による実行可能な数値解析方法の実施形態を以下に説明する。
【0072】
複合陽子数セットから数値的に表し、次数nの複合陽子数を
として定義する。好適な複合陽子数セットは少なくともn=2、n=3を含む。
【0073】
物質の識別に用いた、この方法の単純な一実施形態は、3つのエネルギービンを用いるものであり、すべての元素の質量減衰係数に対し以下の近似を用いる。
【数6】
複合物質について、質量減衰係数は、その質量分率w
iにより重み付けされた個々の減衰係数(α
i)の合計により与えられるため、以下のとおりとなる。
【数7】
したがって、以下の式が成り立つ。
【数8】
式中、w
jは、検査する物質内の元素jの質量分率である。
式6を再構成すると、以下のとおりとなる。
【数9】
したがって、以下の式が成り立つ。
【数10】
【0074】
a(E)、c(E)およびd(E)の成分は、実験またはGeant4でのシミュレーションによって経験的に求めることができる。これは、既知の原子質量および質量厚さのある範囲の校正項目において、IおよびI
0の測定を実行することにより行われる。その結果、エネルギービンにわたる係数a(E)、c(E)およびd(E)に関して、式8を解くことができる。
【0075】
【数11】
【数12】
これにより、質量厚さxとともに本実施形態の2次および3次の複合陽子数セットを得ることができる。行列Mは、エネルギービンの選択のみに依存する。Mが求まると、式4の当初の仮定が有効である限り、任意の物質に用いることができる。
【0076】
Mは、例えばNISTデータベースから取得することが可能である。しかし、実際には、自身で行った既知の組成物の物質の測定に基づいているほうがよい。こうして、本測定システムの偏りが(少なくとも部分的に)行列に吸収されることが予想され、これを不明な物質に対する測定に適用する場合、測定の偏りが減少するであろう。Mの測定を校正と呼ぶことにする。校正は、純元素を用いる場合、特に単純である。例えば、3つの異なる元素の原子番号Z
A、Z
B、およびZ
Cならびに質量厚さx
A、x
B、およびx
Cのサンプルのエネルギービン1における吸収を測定する。結果は同様に以下の3つの連立方程式となる。
【数13】
に、測定されたR/xの値のベクトルにX
−1を乗じることにより、(a
1,c
1,d
1)を求める。ここで、
【数14】
である。そして、他の2つのエネルギービンについても同じことを繰り返して行列Mの全体を得る。
【0077】
校正用元素は、解析でよく見られる原子番号の範囲を網羅する元素、例えば炭素、アルミニウム、および銅であればよく、これらは検査対象に予期される原子番号の範囲を網羅する。こうした解析方法を用いることにより、直接スペクトルのマッチングと比較しより先進的な技術が可能になると考えられる。
【0078】
2次および3次の複合陽子数が、どのように化合物中では異なり、一方で元素中では等しいかを示す単純な例として、原子番号2の要素および原子番号5の第2の要素を50:50の質量で組み合わせた2つの要素からなる化合物を考える。よって、2次の複合陽子数は以下のとおりとなる。
【数15】
【0079】
さらに、3次の複合陽子数は以下のとおりとなる。
【数16】
ただし、原子番号5の単一の元素については、2次および3次の複合陽子数が同一となる(何次の複合陽子数においても同様である)。
【数17】
【0080】
各物質は異なる複合陽子数のセットを有し、計算可能な複合陽子数の次元が高いほど、物質についての情報をより多く収集でき、物質をよりよく識別することができる。さらに、次数は、本発明と同様の基本原則および十分な数の放射線データのエネルギービンを用いて、容易に導出される。