(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5981551
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】放電プラズマ加工装置および放電プラズマ加工品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H05H 1/00 20060101AFI20160818BHJP
H05H 1/24 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
H05H1/00 A
H05H1/24
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-528012(P2014-528012)
(86)(22)【出願日】2013年3月19日
(86)【国際出願番号】JP2013057822
(87)【国際公開番号】WO2014020935
(87)【国際公開日】20140206
【審査請求日】2015年1月23日
(31)【優先権主張番号】特願2012-169791(P2012-169791)
(32)【優先日】2012年7月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八戸 啓
(72)【発明者】
【氏名】酒井 道
【審査官】
鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/089971(WO,A1)
【文献】
特開2008−235337(JP,A)
【文献】
特開2003−315159(JP,A)
【文献】
特開2007−100131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00
B22F 3/14
C04B 35/64
H05H 1/24
B23K 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を加圧する加圧部と、
前記被加工物にパルス電流を印加するパルス電流印加部と、
前記パルス電流の印加によって発生するプラズマの光のスペクトルを検出する検出部と、
前記検出部の検出結果であるスペクトルによって前記パルス電流を制御する制御部とを備える、放電プラズマ加工装置。
【請求項2】
前記加圧部は、前記被加工物を挟み込む2つのパンチと、前記2つのパンチおよび前記被加工物を取り囲むダイとを含み、
前記パルス電流印加部は前記2つのパンチの間に前記パルス電流を印加する、請求項1に記載の放電プラズマ加工装置。
【請求項3】
前記ダイは、一部が前記被加工物に対向する内側の面と、前記内側の面に対向する外側の面とを有し、前記ダイには、前記内側の面における被加工物に対向する部分と前記外側の面とを接続し、前記プラズマの光を前記検出部へと通過させるための貫通孔が設けられている、請求項2に記載の放電プラズマ加工装置。
【請求項4】
前記ダイは、赤外線を透過する材料からなる、請求項2に記載の放電プラズマ加工装置。
【請求項5】
前記検出部は、光ファイバと分光器とを含む、請求項1から4のいずれかに記載の放電プラズマ加工装置。
【請求項6】
前記検出部は、CCD素子とレンズフィルタとを含む、請求項1から4のいずれかに記載の放電プラズマ加工装置。
【請求項7】
前記被加工物の近傍の温度を測定する熱検出部を備える、請求項1から6のいずれかに記載の放電プラズマ加工装置。
【請求項8】
被加工物に対する加圧を開始する工程と、
前記被加工物に対してパルス電流の印加を開始する工程と、
前記パルス電流の印加によって発生するプラズマの光のスペクトルを検出する工程と、
前記検出する工程による検出結果であるスペクトルによって前記パルス電流を制御する工程とを含む、放電プラズマ加工品の製造方法。
【請求項9】
前記パルス電流の印加を開始する工程の前に、前記被加工物を2つのパンチで挟み込むようにして、前記2つのパンチおよび前記被加工物をダイの内部に配置する工程を含み、
前記パルス電流の印加を開始する工程では、前記2つのパンチの間に前記パルス電流を印加する、請求項8に記載の放電プラズマ加工品の製造方法。
【請求項10】
前記ダイは、一部が前記被加工物に対向する内側の面と、前記内側の面に対向する外側の面とを有し、前記ダイには、前記内側の面における前記被加工物に対向する部分と前記外側の面とを接続し、前記プラズマの光を通過させるための貫通孔が設けられている、請求項9に記載の放電プラズマ加工品の製造方法。
【請求項11】
前記ダイは、赤外線を透過する材料からなる、請求項9に記載の放電プラズマ加工品の製造方法。
【請求項12】
前記検出する工程には、光ファイバと分光器とを用いる、請求項8から11のいずれかに記載の放電プラズマ加工品の製造方法。
【請求項13】
前記検出する工程には、CCD素子とフィルタレンズとを用いる、請求項8から11のいずれかに記載の放電プラズマ加工品の製造方法。
【請求項14】
前記被加工物の近傍の温度を測定する工程を含み、
前記温度を測定する工程による測定結果は、前記被加工物の近傍の温度の異常な変化を検出するために利用される、請求項8から13のいずれかに記載の放電プラズマ加工品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電プラズマ加工装置および放電プラズマ加工品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、「放電プラズマ加工法」が知られている。放電プラズマ加工法とは、2つのパンチの間に被加工物を配置した状態で、2つのパンチの間にパルス電流を印加して被加工物の温度を高くし、加圧することにより、被加工物を加工する方法である。
【0003】
特許第4301761号(特許文献1)には、放電プラズマ加工法により、2つの部材を接合することが開示されている。特開2000−128648号公報(特許文献2)には、放電プラズマ加工法により、セラミックス粉体を焼結して焼結体を得ることが開示されている。国際公開公報WO2011/089971号(特許文献3)には、放電プラズマ加工法により、半導体結晶体を所望の形状に変形させることが開示されている。
【0004】
従来技術に基づく放電プラズマ加工法では、放電プラズマ加工装置において、通常、被加工物が配置されているダイに設けられた熱電対によって温度を測定し、その測定結果に基づいてパルス電流の制御が行われている。具体的には、熱電対で測定された被加工物の温度が放電プラズマ加工装置に搭載されているプログラム制御器に設定された温度プロファイルに合致するようにパルス電流を制御している。被加工物の温度を測定する方法としては、ダイに設けられた熱電対によって温度を測定する以外に、パンチに設けられた熱電対によって温度を測定する方法、放射温度計によって温度を測定する方法がある。また、パルス電流を制御する方法として、放電プラズマ加工装置に搭載されているプログラム制御器に設定された温度プロファイルに合致するようにパルス電流を制御する以外に、パルス電流プロファイルを設定する方法もある。
【0005】
従来技術に基づく放電プラズマ加工法を実施した例について説明する。ここでは、直径15mmで厚み3mmの単結晶ゲルマニウムの試料を所望の形状に変形させる加工を例に説明する。
図7は、従来技術に基づく放電プラズマ加工装置901の概念図である。
【0006】
図7に示すように、放電プラズマ加工装置901は、真空容器1と、上下方向に互いに対向する2つのパンチ2a,2bと、パンチ2a,2bを取り囲む円筒形のダイ3と、熱電対4と、パルス電流発生器6と、配線7a,7bと、変位部8a,8bとを備えている。パンチ2a,2bは、それぞれ導電性を有する。パンチ2a,2bとダイ3とは、真空容器1の内部に配置されている。被加工物5は、ダイ3の内部で2つのパンチ2a,2bに挟まれるように配置される。熱電対4は、被加工物5の加工中の温度を測定するために、一方の端部がダイ3の内部に至るように配置されている。変位部8a,8bにはそれぞれパンチ2a,2bが固定されており、変位部8a,8bはパンチ2a,2bをそれぞれ上下方向に変位させる。パルス電流発生器6は、配線7a,7bにより、パンチ2a,2bとそれぞれ電気的に接続されている。放電プラズマ加工装置901は、変位部8a,8bによるパンチ2a,2bの変位によって被加工物5を加圧するとともに、パルス電流発生器6からパンチ2a,2b間にパルス電流を印加することにより、被加工物5を加工する。
【0007】
被加工物5である単結晶ゲルマニウムの試料を放電プラズマ加工装置901にセットし、パンチ2a,2bによって被加工物5を0.6kNで加圧しながら、熱電対4による測定温度が1分間当たり50℃ずつ上昇するようにパルス電流発生器6からパンチ2a,2b間にパルス電流を印加した。その際の熱電対4で検出された温度と被加工物5である単結晶ゲルマニウムの試料の変形量との関係を
図8に示す。試料の変形量はパンチ2a,2bの「変位量」として示されている。
【0008】
図8に示すように、被加工物5である単結晶ゲルマニウムの試料は、温度が上昇するにつれて膨張するが、460℃〜480℃で加圧によって変形を開始することが分かる。しかしながら、被加工物が変形を開始する温度は、被加工物の大きさ、パンチの大きさ(径)、ダイの大きさ、装置の予熱状態などによって変動する。このため、従来技術に基づく放電プラズマ加工法を実施した例では、上記の実験で得られた試料が変形を開始する温度から100℃〜150℃高い温度である、560℃〜630℃を、被加工物が単結晶ゲルマニウムである場合の標準加工条件として設定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4301761号
【特許文献2】特開2000−128648号公報
【特許文献3】国際公開公報WO2011/089971号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来技術に基づく放電プラズマ加工法を用いた加工においては、何度も加工の試験を行なって、接合、焼結、変形などの開始温度や高温状態を保持する時間を調査することによって、加工条件、すなわち、加工を行なう温度を設定している。そして、試験結果に基づいて設定された加工条件で加工を行なうが、被加工物の大きさ、パンチの大きさ(径)、ダイの大きさ、装置の予熱状態などにより、設定された加工条件が加工に最適な条件とはならない可能性がある。このため、加工条件の設定においては、被加工物の大きさ、パンチの大きさ(径)、ダイの大きさ、装置の予熱状態等を考慮し、加工を行なう温度をあえて高くまたは低く設定する場合がある。
【0011】
しかし、設定された加工条件の加工温度が加工に最適な温度よりも高過ぎる場合には、被加工物が過剰な高温で加工されることになり、被加工物の品質劣化などが発生するともに、加工時に使用するエネルギーの損失が多くなるため使用される電力量も多くなる。また、パンチやダイも被加工物の加工に最適な温度より高い温度にさらされるため、熱負荷によってパンチやダイがダメージを受けやすくなり、パンチやダイの製品寿命が短くなる。さらに、大きな真空チャンバが必要となるため、装置が大きなものになり、熱損失が大きくなったり、装置のコストが上がったりする。
【0012】
一方、設定された加工条件の加工温度が加工に最適な温度よりも低過ぎる場合には、被加工物が適切に加工されないことがある。
【0013】
そこで、本発明は、被加工物を加工する際に過剰な高温となることを避け、かつ、被加工物の加工が適切になされるような放電プラズマ加工装置および放電プラズマ加工品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明に基づく放電プラズマ加工装置は、被加工物を加圧する加圧部と、上記被加工物にパルス電流を印加するパルス電流印加部と、上記パルス電流の印加によって発生するプラズマの光のスペクトルを検出する検出部と、上記検出部の検出結果によって上記パルス電流を制御する制御部とを備える。
【0015】
また、本発明に基づく放電プラズマ加工品の製造方法は、被加工物に対する加圧を開始する工程と、上記被加工物に対してパルス電流の印加を開始する工程と、上記パルス電流の印加によって発生するプラズマの光のスペクトルを検出する工程と、上記検出する工程による検出結果によって上記パルス電流を制御する工程とを含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、加工中に発生するプラズマの光のスペクトルを検出することによって、パルス電流の制御が行なわれるので、加工に最適な温度で被加工物の加工を行なうことができる。すなわち、被加工物を加工する際に過剰な高温となることを避け、かつ、被加工物の加工が適切になされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に基づく実施の形態1における放電プラズマ加工装置の概念図である。
【
図2】本発明に基づく実施の形態1における放電プラズマ加工装置の被加工物近傍の拡大断面図である。
【
図3】比較例1における圧力、温度、電流、および変位量の変化を示すグラフである。
【
図4】本発明に基づく実施の形態1の実施例1における圧力、温度、電流、および変位量の変化を示すグラフである。
【
図5】比較例2における温度、電流、および変位量の変化を示すグラフである。
【
図6】本発明に基づく実施の形態1の実施例2における温度、電流、および変位量の変化を示すグラフである。
【
図7】従来技術に基づく放電プラズマ加工装置の概念図である。
【
図8】従来技術に基づく放電プラズマ加工装置において検出された温度と試料の変形量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
従来技術に基づく放電プラズマ加工法を用いた加工では、放電プラズマ加工装置において、被加工物が配置されているダイに設けられた熱電対によって温度を測定し、その測定結果に基づいてパルス電流の制御が行なわれている。
【0019】
発明者らは、放電プラズマ加工中に、ある条件下で固有の波長をもつプラズマが発生し、被加工物の物性が変化していること、プラズマの光のスペクトルの発生温度と被加工物の変形開始温度とが近接していることを確認した。この原理を利用し、プラズマの光のスペクトルを検出してパルス電流の制御を行なえば、被加工物の大きさ、パンチの大きさ(径)、ダイの大きさ、装置の予熱状態などの変動要因に左右されない加工が可能になる。
【0020】
そこで、本発明では、パルス電流の印加によって発生するプラズマの光のスペクトルを検出することによって、パルス電流の制御を行なう。
【0021】
(実施の形態1)
図1および
図2を参照して、本発明に基づく実施の形態1における放電プラズマ加工装置101について説明する。
図1は、本実施の形態における放電プラズマ加工装置101の概念図である。
図1に示すように、本実施の形態における放電プラズマ加工装置101は、真空容器1と、上下方向に互いに対向する2つのパンチ2a,2bと、円筒形のダイ3と、パルス電流発生器6と、配線7a,7b,7c,7dと、変位部8a,8bと、光ファイバ9と、分光器10と、制御部12とを備える。
【0022】
図2は、本実施の形態における放電プラズマ加工装置101の被加工物5近傍の拡大断面図である。パンチ2a,2bは、それぞれ導電性を有し、円柱形である。パンチ2a,2bとダイ3とは、真空容器1の内部に配置されている。被加工物5は、ダイ3の内部で2つのパンチ2a,2bに挟まれるように配置される。
【0023】
ダイ3は、パンチ2a,2bの間に配置されている被加工物5を取り囲むように設けられている。ダイ3には、ダイ3の内周面のうち被加工物5に対向する部分と外周面とを接続する貫通孔13が設けられている。言い換えれば、ダイ3は、一部が被加工物5に対向する内側の面と該内側の面と対向する外側の面とを有しており、ダイ3には内側の面における被加工物5に対向する部分と外側の面とを接続する貫通孔13が設けられている。このため、被加工物5の一部は、貫通孔13によって外部に露出している。貫通孔13の直径は、たとえば2mm程度である。
【0024】
変位部8a,8bにはそれぞれパンチ2a,2bが固定されており、変位部8a,8bがパンチ2a,2bをそれぞれ上下方向に変位させる。放電プラズマ加工装置101では、変位部8a,8bによってパンチ2a,2bが変位し、パンチ2a,2bが被加工物5を加圧する。すなわち、パンチ2a,2bは被加工物5を加圧するための「加圧部」である。
【0025】
パルス電流発生器6は、真空容器1の外部に配置されており、配線7a,7bによりパンチ2a,2bと電気的に接続されている。放電プラズマ加工装置101においては、パルス電流発生器6からパンチ2a,2b間にパルス電流を印加する。すなわち、パルス電流発生器6は、被加工物5に対してパルス電流を印加するための「パルス電流印加部」である。
【0026】
光ファイバ9と分光器10とは、真空容器1の外部に配置されている。光ファイバ9は、分光器10に接続されている。分光器10は、配線7cにより制御部12と電気的に接続されている。制御部12は、配線7dによりパルス電流発生器6と電気的に接続されている。
【0027】
真空容器1には、ダイ3の貫通孔13と対向する部分に窓11が設けられている。光ファイバ9は、窓11に対向するように配置されている。具体的には、光ファイバ9は、ダイ3の貫通孔13の延長線上に配置されている。このため、放電プラズマ加工装置101を用いた被加工物5の加工において、パルス電流発生器6からパンチ2a,2b間にパルス電流を印加することにより被加工物5近傍で発生するプラズマの光は、貫通孔13および窓11を通過し、光ファイバ9によって受光される。光ファイバ9によって受光されたプラズマの光のスペクトルは、分光器10によって検出される。すなわち、分光器10は、プラズマの光のスペクトルを検出するための「検出部」である。そして、分光器10の検出結果は、制御部12に入力される。制御部12は、分光器10の検出結果に基づき、パルス電流発生器6からのパルス電流を制御する。
【0028】
本実施の形態では、パルス電流の印加によって発生するプラズマの光のスペクトルを検出することによって、パルス電流の制御が行なわれるので、被加工物が加工に最適な温度となった状態で加工を行なうことができる。
【0029】
これにより、被加工物が過剰な高温で加工されることがないため、被加工物の品質劣化の発生が防止される。また、加工時に使用するエネルギーの損失が少なくなるので、使用される電力量を少なくすることができる。パンチやダイが高温にさらされることがないため、パンチやダイが熱負荷によるダメージを受けにくくなり、パンチやダイの製品寿命が長くなる。
【0030】
従来の放電プラズマ加工装置では、ダイに設けられた熱電対によって温度を測定し、その測定結果に基づいてパルス電流を制御することでダイの温度を管理することとなっていたため、一般的な加熱装置の概念で使用されていたが、本発明では被加工物の状態をプラズマの光のスペクトルによって観察することができるので、ダイの温度に依存せずに加工を制御することができる。被加工物に必要なエネルギを短時間に集中的に与えることで加工の目的を達成できるので、ダイのサイズを小さくして無駄な熱の発生を抑えることで、遮熱、断熱のための空間は少なく済むようになり、真空容器の小型化が可能となる。
【0031】
本発明によれば、真空容器のサイズを小さくすることができるため、放電プラズマ加工装置全体が小さなものになり、熱損失を小さくすることができる。また、小型化により、放電プラズマ加工装置のコストを下げることができる。
【0032】
本実施の形態で示したように、加圧部は、被加工物5を挟み込む2つのパンチ2a,2bと、2つのパンチ2a,2bおよび被加工物5を取り囲むダイ3とを含み、パルス電流印加部は2つのパンチ2a,2bの間にパルス電流を印加することが好ましい。この構成であれば、加圧とパルス電流の印加とを同じ部材によって行なうことができるので、装置の部品点数を抑えることができる。
【0033】
本実施の形態で示したように、ダイ3は、一部が被加工物5に対向する内側の面と、この内側の面に対向する外側の面とを有し、ダイ3には、内側の面における被加工物5に対向する部分と外側の面とを接続する貫通孔13が設けられていることが好ましい。この構成であれば、光の直進性を利用して、受光する部材すなわち光ファイバ9などを容易に配置することができる。
【0034】
なお、被加工物5が粉体である場合には、ダイ3は単結晶シリコン、石英、サファイアなどの赤外線を透過する材料からなり、貫通孔が設けられていないことが好ましい。被加工物5が粉体である場合にダイに貫通孔が設けられていると、加工時における真空容器1の内部の真空引きによって粉体である被加工物5の一部が貫通孔からダイの外部に出てしまうことになる。そのため、被加工物5が粉体である場合には、ダイ3は、パルス電流の印加によって発生するプラズマの光を透過する材料、すなわち、単結晶シリコン、石英、サファイアなどの赤外線を透過する材料からなり、貫通孔が設けられていないことが好ましい。この構成であれば、被加工物5が粉体であっても問題なく加工することができる。
【0035】
本実施の形態で示したように、検出部は、光ファイバ9と分光器10とを含むことが好ましい。この構成であれば、貫通孔13の開口部の面積が小さいなどの理由により光が通過する部分が狭くても、パルス電流を印加することにより発生するプラズマの光は、光ファイバ9によって受光され、分光器10によって検出される。
【0036】
なお、検出部は、光ファイバ9と分光器10とを含むものに代えて、CCD(Charge Coupled Device)素子とレンズフィルタとを含むものであってもよい。検出されるべきプラズマの光は、900nm前後に波長のピークを有するものである。一般使用されているCCD素子では広範囲の波長域の光を信号として取り込むため、特定波長の検出ができないが、たとえば900〜1100nmの波長域の光だけを透過するレンズフィルタとCCD素子とを組み合わせることによって、分光器の代用とすることができる。分光器は一般的に高価であるが、CCD素子およびレンズフィルタによって代用すれば設備費用を抑えることができる。
【0037】
なお、本発明の放電プラズマ加工装置は、被加工物の近傍の温度を測定するために、熱電対などの熱検出部を備えていてもよい。熱検出部による温度測定結果は、被加工物の近傍の温度の異常な変化を検出するために利用されることが好ましい。従来技術に基づく放電プラズマ加工装置には、通常、被加工物の近傍の温度を測定するためにダイに熱電対が設けられているが、そのような熱電対などの熱検出部は、本発明においても備えることが好ましい。熱検出部を備えていることによって、温度の異常な変化があった場合、早期に発見し、必要な措置を採ることができる。
【0038】
以下に、発明者が実際に加工を行なったいくつかの例について説明する。
(実施例1)
図1に示した放電プラズマ加工装置101にさらに熱検出部を設けた放電プラズマ加工装置を用いて、パンチ2a,2b間に被加工物を配置し、パンチ2a,2bで加圧しながらパルス電流を印加して、被加工物を加工した。ただし、ここでいう熱検出部は、ダイ3に設けられた熱電対である。
【0039】
本実施例における被加工物は、直径14.5mm、厚み3mmの単結晶ゲルマニウム(Ge)であり、これを所望の形状に変形させるものとする。パルス電流は、電流値を0からスタートして一定のペースで増していくものとした。パルス電流の印加を開始しても即座にプラズマが発生するわけではないが、パルス電流の電流値を増していくと、いずれかの時点からプラズマが発生する。発生するプラズマの光のスペクトルを、光ファイバ9および分光器10によって検出する。パルス電流の電流値を増していく途中で、初めてプラズマの光のスペクトルが検出された時点で、その時点のパルス電流の電流値を保持し、以降は、一定の電流値のパルス電流を印加する。被加工物の加圧に関しては、パルス電流の電流値の保持開始2分後から毎分0.2kNの昇圧速度で3kNまで行なった。なお、ダイ3に設けられた熱電対は、被加工物の近傍の温度の異常上昇やプログラム制御器との異常差異などの検出用に使用した。
【0040】
比較のため、同じ条件の被加工物に対して、
図7に示す従来技術に基づく放電プラズマ加工装置901を用いて加工を行なった例を比較例1とする。
図3は、比較例1における圧力、温度、電流、および変位量の変化を示すグラフである。一方、
図4は、実施例1における圧力、温度、電流、および変位量の変化を示すグラフである。
【0041】
比較例1は、熱電対によって被加工物の加工中の温度を測定しながらパルス電流を制御する方法であり、600℃で15分間保持していた。比較例1に対応する
図3と実施例1に対応する
図4とを比較すると、実施例1では最高到達温度が530℃であり、比較例1よりも低い温度で加工を行なっているにもかかわらず、被加工物の変形量は実施例1と比較例1とで同じであることが分かる。
【0042】
従来技術では、被加工物の変形開始の要件を雰囲気温度と考え、ダイに設けられた熱電対によって測定された温度を雰囲気温度とみなすため、昇温のためのパルス電流と設定温度到達後の放熱を補うためのパルス電流を必要とする。一方、本発明では、被加工物の変形開始の要件を、パルス電流を印加することにより発生するプラズマの光のスペクトルの発生と考えるため、パルス電流は一定値でよい。本発明に基づく実施例1は、従来技術に基づく比較例1に比べて消費電力を23.7%削減できた。
【0043】
本発明に基づく実施例1では、470℃〜530℃で被加工物が変形しており、従来技術に基づく比較例1の加工温度である600℃に比べて70℃〜130℃低い温度で被加工物を加工することができた。これは、プラズマの光のスペクトルを検出するという新しい判断指標によって実現されている。
【0044】
(実施例2)
実施例1と同様に、
図1に示した放電プラズマ加工装置101にさらに熱検出部を設けた放電プラズマ加工装置を用いて、被加工物を加工した。本実施例における被加工物は、チタン酸バリウムの粉末である。これを直径15mm、厚み3mmの円板形状に焼結するように加工した。
【0045】
パンチ2a,2bの間に被加工物であるチタン酸バリウムの粉末を充填し、パンチ2a,2bで40MPaの圧力で加圧しながらパルス電流を印加した。パルス電流は、実施例1と同様に、電流値を0からスタートして一定のペースで増していくものとした。実施例1と同様に、パルス電流の印加によっていずれかの時点で発生するプラズマの光のスペクトルを光ファイバ9および分光器10によって検出し、その時点のパルス電流の電流値を以後3分間保持した。なお、ダイ3に設けられた熱電対は、被加工物の近傍の温度の異常上昇やプログラム制御器との異常差異などの検出用に使用した。
【0046】
比較のため、同じ条件の被加工物に対して、
図7に示す従来技術に基づく放電プラズマ加工装置901を用いて加工を行なった例を比較例2とする。
図5は、比較例2における圧力、温度、電流、および変位量の変化を示すグラフである。一方、
図6は、実施例2における圧力、温度、電流、および変位量の変化を示すグラフである。
【0047】
比較例2は、熱電対によって被加工物の加工中の温度を測定しながらパルス電流を制御する方法であり、1100℃で3分間保持していた。変位量のプロファイルは、膨張収縮曲線にほぼ近いものである。比較例2と実施例2との間で、変位量のプロファイルに大差はなく、焼成物の相対密度は比較例2では95.4%、実施例2では95.2%であった。すなわち、本発明によっても従来技術と同レベルの製品が得られることがわかった。
【0048】
一般的にセラミック材料の焼成においては、粉体を保持するもの、たとえば匣鉢などの炉材も一体と考えて均一温度に保持することが常識とされてきたが、本発明ではそのような常識に捉われず、パルス電流を印加することにより発生するプラズマの光のスペクトルを検出した時点の電流値を保持することで従来技術と同レベルの焼結状態が得られる。本発明に基づく実施例2では、従来技術に基づく比較例2に比べて消費電力を26.6%削減できた。実施例2の結果は、必要以上に粉体を保持するもの、たとえば匣鉢などの炉材を昇温する必要がないことを示している。
【0049】
(実施の形態2)
本発明に基づく実施の形態2における放電プラズマ加工品の製造方法について説明する。本実施の形態における放電プラズマ加工品の製造方法は、被加工物に対する加圧を開始する工程と、被加工物に対してパルス電流の印加を開始する工程と、パルス電流の印加によって発生するプラズマの光のスペクトルを検出する工程と、検出する工程による検出結果によってパルス電流を制御する工程とを含む。
【0050】
本実施の形態では、パルス電流を印加することにより発生するプラズマの光のスペクトルを検出することによって、パルス電流の制御が行なわれるので、被加工物を加工する際に過剰な高温とすることなく、加工に最適な温度となった状態で被加工物の加工を行なうことができる。この製造方法は、実施の形態1で説明した放電プラズマ加工装置によって実施することができる。
【0051】
パルス電流の印加を開始する工程の前に、被加工物を2つのパンチで挟み込むようにして、2つのパンチおよび被加工物をダイの内部に配置する工程を含み、パルス電流の印加を開始する工程では、2つのパンチの間にパルス電流を印加することが好ましい。この方法であれば、加圧とパルス電流の印加とを同じ部材によって行なうことができるので、使用する部品点数を抑えることができる。
【0052】
ダイは、一部が被加工物に対向する内側の面と、この内側の面に対向する外側の面とを有し、ダイには内側の面における被加工物に対向する部分と外側の面とを接続する貫通孔が設けられていることが好ましい。この方法であれば、光の直進性を利用して、受光する部材すなわち光ファイバなどを容易に配置することができる。
【0053】
ダイは、赤外線を透過する材料からなることが好ましい。
検出する工程には、光ファイバと分光器とを用いることが好ましい。この方法であれば、光が通過する部分が狭くても、パルス電流を印加することにより発生するプラズマの光は、光ファイバによって受光され、分光器によって検出される。
【0054】
検出する工程には、CCD素子とフィルタレンズとを用いることが好ましい。この方法を採用することにより、安価な設備のみで特定波長の検出を行なうことができる。
【0055】
本実施の形態における放電プラズマ加工品の製造方法は、被加工物の近傍の温度を測定する工程を含み、温度を測定する工程による測定結果は、被加工物の近傍の温度の異常な変化を検出するために利用されることが好ましい。この方法であれば、被加工物の近傍の温度の異常な変化があった場合、早期に発見し、必要な措置を採ることができる。
【0056】
なお、上記各実施の形態では、被加工物が円柱形状や円板形状である例を示したが、被加工物は円柱形状や円板形状以外の形状であってもよい。
【0057】
加圧部としてのパンチ2a,2bの先端の被加工物に当接する面は平面であるものとして示したが、加圧部の先端は平面とは限らない。加圧部の先端は、所望の凹凸を含む形状であってもよい。
【0058】
なお、今回開示した上記実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、放電プラズマ加工装置および放電プラズマ加工品の製造方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 真空容器、2a,2b パンチ、3 ダイ、4 熱電対、5 被加工物、6 パルス電流発生器、7a,7b 配線、8a,8b 変位部、9 光ファイバ、10 分光器、11 窓、12 制御部、13 貫通孔、101 放電プラズマ加工装置、901 (従来技術に基づく)放電プラズマ加工装置。