特許第5981645号(P5981645)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5981645
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 1/00 20060101AFI20160818BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20160818BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   B60C1/00 A
   B60C1/00 B
   C08L21/00
   C08K3/22
【請求項の数】3
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-514828(P2015-514828)
(86)(22)【出願日】2014年4月25日
(86)【国際出願番号】JP2014061655
(87)【国際公開番号】WO2014178336
(87)【国際公開日】20141106
【審査請求日】2015年12月28日
(31)【優先権主張番号】特願2013-95530(P2013-95530)
(32)【優先日】2013年4月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 達也
(72)【発明者】
【氏名】時宗 隆一
【審査官】 小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/083765(WO,A1)
【文献】 特開2008−174638(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/027690(WO,A1)
【文献】 特開2012−92242(JP,A)
【文献】 特開2003−253044(JP,A)
【文献】 特開2000−159935(JP,A)
【文献】 特開2012−116982(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00−19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッドと、該トレッドに隣接するウイング又はサイドウォールとを有する空気入りタイヤであって、
前記トレッドは、ゴム成分100質量部に対する、平均粒子径0.69μm以下、窒素吸着比表面積10〜50m/gの水酸化アルミニウム配合量が1〜60質量部、架橋剤由来の純硫黄成分配合量が0.56〜1.15質量部であるトレッド用ゴム組成物からなり、
前記ウイング、サイドウォールは、ゴム成分100質量部に対する架橋剤由来の純硫黄成分配合量が1.3〜2.5質量部であるウイング、サイドウォール用ゴム組成物からなり、
前記トレッド用ゴム組成物と、前記ウイング、サイドウォール用ゴム組成物との前記架橋剤由来の純硫黄成分配合量が、下記式を満たす空気入りタイヤ。
(前記ウイング、サイドウォール用ゴム組成物の前記架橋剤由来の純硫黄成分配合量/前記トレッド用ゴム組成物の前記架橋剤由来の純硫黄成分配合量)≦2.5
【請求項2】
前記トレッドは、ゴム成分100質量部に対する窒素吸着比表面積40〜350m/gの湿式法シリカの配合量が20〜130質量部である請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記トレッドは、ゴム成分100質量%中の希土類元素系触媒を用いて合成されたブタジエンゴムの配合量が20〜70質量%である請求項1又は2記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤは、トレッド、ウイング、サイドウォール等、様々な部材により構成され、各部材に応じて諸性能が付与されている。路面と接触するトレッドには、安全性等の観点でウェットグリップ性能などの性能が要求され、水酸化アルミニウムの添加により当該性能を改善する方法が提案されているが、耐摩耗性が悪化するという欠点があるため、一般公道用のタイヤに用いられることは少ない。
【0003】
また、溶液重合スチレンブタジエンゴムのスチレン量及びビニル量の増加や変性溶液重合スチレンブタジエンゴムによるtanδカーブの制御、シリカの増量によりtanδピークを高くすること、液状レジンの添加、などの方法も挙げられるが、他の諸物性を維持しながら、ウェットグリップ性能を改善するのは難しいのが現状である。
【0004】
一方、一般に空気入りタイヤは、各部材ごとにラボ試験を用いて性能に優れたゴム組成物を配合設計した後、それぞれの部材を組み合わせて作製されているが(特許文献1〜3参照)、ラボ試験で耐摩耗性などの性能に優れたトレッド用ゴム組成物を使用して作製しても、加硫後のトレッドとそれに隣接するウイングやサイドウォールとの接着面の仕上がり状態(ウイングやサイドウォールの薄皮状の捲れ、剥離、脱落など)が悪いケースがある。
【0005】
具体的には、架橋時にトレッド上にウイングやサイドウォールが薄皮状に延びる薄皮現象が生じ、トレッド接地面内に薄皮が生じるケースがあり、その場合、実車試験での初期グリップ性能が極端に低下したり、その薄皮がうろこ状に剥離する、などの問題がある。Jatma準拠のWetグレーディングなどの試験では、慣らし走行初期の走行試験結果が採用されるため、初期グリップ性能が悪いと、製品価値が大きく低下する。
【0006】
このように、トレッドのウェットグリップ性能や耐摩耗性、更にはウイング、サイドウォールなどの他の部材の要求性能を確保しながら、トレッドとウイングやサイドウォールとの接着面の仕上がり状態も良好な空気入りタイヤを提供することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4308289号公報
【特許文献2】特開2008−24913号公報
【特許文献3】特許第4246245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記課題を解決し、ウェットグリップ性能、耐摩耗性、経時劣化抑制などのタイヤの要求性能を確保しつつ、トレッド及びそれに隣接するウイング又はサイドウォールの接着面の仕上がり状態にも優れた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、トレッドと、該トレッドに隣接するウイング又はサイドウォールとを有する空気入りタイヤであって、前記トレッドは、ゴム成分100質量部に対する、平均粒子径0.69μm以下、窒素吸着比表面積10〜50m/gの水酸化アルミニウム配合量が1〜60質量部、架橋剤由来の純硫黄成分配合量が0.56〜1.25質量部であるトレッド用ゴム組成物からなり、前記ウイング、サイドウォールは、ゴム成分100質量部に対する架橋剤由来の純硫黄成分配合量が1.3〜2.5質量部であるウイング、サイドウォール用ゴム組成物からなり、前記トレッド用ゴム組成物と、前記ウイング、サイドウォール用ゴム組成物との前記架橋剤由来の純硫黄成分配合量が、下記式を満たす空気入りタイヤに関する。
(前記ウイング、サイドウォール用ゴム組成物の前記架橋剤由来の純硫黄成分配合量/前記トレッド用ゴム組成物の前記架橋剤由来の純硫黄成分配合量)≦2.5
【0010】
前記トレッドは、ゴム成分100質量部に対する窒素吸着比表面積40〜350m/gの湿式法シリカの配合量が20〜130質量部であることが好ましい。
【0011】
前記トレッドは、ゴム成分100質量%中の希土類元素系触媒を用いて合成されたブタジエンゴムの配合量が20〜70質量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、トレッドと、該トレッドに隣接するウイング又はサイドウォールとを有する空気入りタイヤに関する。トレッド配合において、特定の水酸化アルミニウム配合量や架橋剤由来の純硫黄成分配合量、ウイング及びサイドウォール内の架橋剤由来の純硫黄成分配合量が特定条件に調整されているので、ウェットグリップ性能、耐摩耗性、経時劣化抑制などのタイヤの要求性能を確保しつつ、トレッド及びそれに隣接するウイング又はサイドウォールの接着面の仕上がり状態にも優れた空気入りタイヤを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】タイヤ表面の水酸化アルミニウムと路面上のシリカとの間に生じる瞬間的な反応、又は混練中にシリカと水酸化アルミニウムとの間で生じる結合を示す概略図
図2】TOS構造の乗用車用タイヤの加硫後のショルダー部周辺における断面模式図の一例
図3】SOT構造の重荷重用、ライトトラック用、大型SUV用、大型乗用車用タイヤの加硫後のショルダー部周辺における断面模式図の一例
図4】加硫後のトレッドと隣接するウイング又はサイドウォールの接着部における断面模式図の一例
図5】純硫黄成分移行現象の断面模式図及び加硫後のウイング断面(1)及び(2)における純硫黄成分量の分布図の一例
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の空気入りタイヤは、トレッドと、該トレッドに隣接するウイング又はサイドウォールとを有し、前記トレッドが特定の水酸化アルミニウム配合量及び架橋剤由来の純硫黄成分配合量が特定量であるトレッド用ゴム組成物からなるとともに、前記ウイング、サイドウォールが架橋剤由来の純硫黄成分配合量が特定量であるウイング、サイドウォール用ゴム組成物からなり、かつ、前記トレッド用ゴム組成物及び前記ウイング、サイドウォール用ゴム組成物の前記架橋剤由来の純硫黄成分配合量の配合比率が特定の関係式を満たしている。
【0015】
なお、本明細書において、トレッド用、ウイング用、サイドウォール用ゴム組成物に配合される架橋剤、水酸化アルミニウムなどの薬品の配合量は、全て架橋前のゴム組成物における配合量(添加量)を意味する。すなわち、トレッド用、ウイング用、サイドウォール用ゴム組成物に含まれる薬品の配合量は、トレッド用、ウイング用、サイドウォール用未加硫ゴム組成物に含まれる薬品の理論配合量を意味する。ここで、理論配合量とは、未加硫ゴム組成物を調製する際に、投入した薬品の量を意味する。
【0016】
トレッドに特定の窒素吸着比表面積及び平均粒子径を持つ水酸化アルミニウムを添加することでウェットグリップ性能を改善できるが、これは、以下の(1)〜(3)の作用が発揮されることによる効果であると推察される。
【0017】
(1)配合した水酸化アルミニウムが混練り中に一部がシリカ以上のモース硬度を持つアルミナに転化したり、水酸化アルミニウムがシリカと結合し、固定化されることにより、アルミナ塊や水酸化アルミニウムがアンカー効果を発現し、それにより、ウェットグリップ性能が高まると考えられる。
(2)路面上の二酸化ケイ素とタイヤ表面上の水酸化アルミニウムが走行中に接触する(擦れる)ことに伴って、図1で示されるような瞬間的な共有結合が形成され、ウェットグリップ性能が向上すると考えられる。
【0018】
(3)ウェット路面では、タイヤ表面が水膜を介して路面に接触する部位が存在し、通常、この水膜はタイヤと路面が直接接触する部位で発生する摩擦熱により蒸発すると考えられるが、水酸化アルミニウムが添加されていると、当該摩擦熱は、タイヤ表面の水酸化アルミニウムにおいて「Al(OH)→1/2Al+3/2HO」で示される吸熱反応が進行することに寄与し、水膜(水分)の蒸発が抑制されると考えられる。仮に水膜が蒸発した場合はタイヤ表面と路面間に空間が形成されるため、路面とタイヤ接触面積が減少し、ウェットグリップ性能が低下する。
【0019】
このような水酸化アルミニウムの添加による作用効果でウェットグリップ性能が改善されるものの、通常は耐摩耗性が悪化するため、これらの両立は難しい。本発明は、トレッドに特定の水酸化アルミニウムを所定量添加するとともに、トレッド、ウイング及びサイドウォールの架橋剤由来の純硫黄成分配合量や配合比率を調整した空気入りタイヤであるため、耐摩耗性の低下が抑制され、耐摩耗性とウェットグリップ性能をバランス良く改善できる。更に、トレッドのゴム成分として希土類系ブタジエンゴムを用いると、耐摩耗性が顕著に改善され、性能バランスをより改善できる。
【0020】
また、トレッド配合の純硫黄成分配合量を調整することで、ウイング、サイドウォールなどの他の部材の要求性能を確保しながら、トレッドと隣接するウイング又はサイドウォールとの接着力や接着面の仕上がり状態も良好にできる。
【0021】
乗用車用空気入りタイヤとして、図2で示される構造、すなわち、トレッド・オーバー・サイドウォール(TOS)構造のものが汎用され、該構造はトレッドとウイングが隣接しているため、その構造の未加硫タイヤの加硫時には、図2(c)に示されているとおり、加硫後にウイング上端が図2(d)に示すトレッドショルダーエッジ(基準)±10mm程度の範囲内に位置することが望ましいが、図2(b)に示されている加硫後にトレッド接地部がウイングに大きく被覆される薄皮現象(−10mm超)や、逆に図2(a)に示されているウイング先端が団子状に仕上がる現象(+10mm未満)が生じるケースがある。薄皮現象が生じると、前述のような初期グリップ性能の低下やウイング先端仕上がり及びバラツキの悪化、更には図4(b)に示されているトレッド接地部での剥離などの問題が発生する。また、ウイング先端のゴム流れが悪いと、図4(a)に示されているウイングの先端位置に凹凸が生じることや、ウイング先端が団子状に仕上がること(目安θ>45°となる)による仕上がり状態の悪化(ウイングエッジでの割れ)、色相の違い、オゾン割れ性の違いなどの問題が発生するが、本発明では、トレッドとウイングに添加する架橋剤由来の純硫黄量を特定量とし、かつ特定の関係式を満たすように調整することで、前述の問題を改善できる。
【0022】
一方、トラック、バスなどどの重荷重用空気入りタイヤ、ライトトラック用空気入りタイヤ、大型SUV用空気入りタイヤ、大型乗用車用空気入りタイヤなどでは、図3で示される構造、すなわち、サイドウォール・オーバー・トレッド(SOT)構造のものが汎用され、該構造はトレッドとサイドウォールが隣接しているため、図3(c)に示されているとおり、加硫後にサイドウォール上端が図3(d)に示すトレッドショルダーエッジ(基準)±10mm程度の範囲内に位置することが望ましいが、乗用車用空気入りタイヤと同様、図3(b)のサイドウォールがトレッドを被覆する現象や、図3(a)のサイドウォールが正しく巻き上がらず、サイドウォールの先端が団子状に仕上がることがある。そしてこの場合も前記と同様の問題が生じるが、トレッドとサイドウォールに添加する架橋剤由来の純硫黄量を特定量とし、かつ特定の関係式を満たすように調整することにより、同様に改善できる。
【0023】
前述の図2(b)の薄皮現象は、加硫時におけるウイングからトレッドへの純硫黄成分移行の結果、ウイングの薄い部分と厚い部分に含まれる純硫黄成分量に違いが生じることで助長される。つまり、加硫時において、図5(a)の純硫黄成分移行現象の断面模式図で示されるウイングからトレッドへの純硫黄成分の移行により、図5(b)の加硫後のウイングの比較的厚い部分の断面(1)及び比較的薄い部分の断面(2)における純硫黄成分量の分布図で示されているように、部位によっては、ウイング内に純硫黄成分量に分布が生じる。そして、図5(b)に示されているとおり、ウイングの厚みが薄い断面(2)では、モールド表面から1.0mm位置などでのトレッドへの硫黄流出が多く、厚みの薄い部分の純硫黄成分量が設計値より低くなる。そのため、当該部分の加硫が遅延して硬化が進行せず、柔らかい状態が長く続き、その間に硫黄流入で硬化が早められるトレッドに押されて、更にウイングが薄く延ばされるという悪循環によりウイング薄膜化が発生する。これに対し、本発明では、隣接する部材の純硫黄配合量を調整することにより、ウイングやサイドウォールの初期加硫の遅延現象が緩和され、タイヤ加硫時のこれらの部材からトレッドへの架橋剤の移行が抑制されるため、薄皮現象などを防止できるとともに、初期グリップ性能、耐摩耗性などのタイヤの要求性能の確保も可能になる。
【0024】
本発明の空気入りタイヤは、トレッドと、該トレッドに隣接するウイング又はサイドウォールとを有する。
トレッドとは、路面と直接接する部材、ウイングとは、ショルダー部において、トレッドとサイドウォールの間に位置する部材であり、具体的には、特開2007−176267号公報の図1、3等に示される部材である。サイドウォールとは、ショルダー部からビード部にかけてケースの外側に配された部材であり、具体的には、特開2005−280612号公報の図1、特開2000−185529号公報の図1等に示される部材である。
【0025】
本発明において、トレッド、ウイング、サイドウォールは、それぞれ架橋剤が配合されたトレッド用ゴム組成物、ウイング用ゴム組成物、サイドウォール用ゴム組成物からなる。
【0026】
架橋剤としては、架橋作用を有する硫黄含有化合物が挙げられ、例えば、硫黄架橋剤、硫黄含有ハイブリッド架橋剤、仕上げ練り工程で添加されるシランカップリング剤などが挙げられる。
【0027】
硫黄架橋剤としては、ゴム分野の加硫で汎用される硫黄が挙げられ、具体的には、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などが例示される。
【0028】
硫黄含有ハイブリッド架橋剤としては、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、1,6−ヘキサメチレンジチオ硫酸ナトリウム・二水和物、1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンなどのアルキルスルフィド架橋剤、ジチオ燐酸スルフェート(Dithiophosphate)などが挙げられる。具体的には、田岡化学工業(株)製のタッキロールV200、フレキシス社製のDURALINK HTS、ランクセス社製のVulcuren VP KA9188、RheinChemie社製のRhenogran SDT−50(Dithiophosphoryl polysulfide)などが市販されている。
【0029】
また、仕上げ練り工程で配合(添加)されるシランカップリング剤も本発明の架橋剤に該当し、ベース練り工程で配合されたシランカップリング剤はシリカと優先して反応するため、該当しない。
シランカップリング剤としては、ゴム工業において、従来からシリカと併用される硫黄(スルフィド結合)を含む化合物などが挙げられ、例えば、スルフィド系、メルカプト系、ビニル系、アミノ系、グリシドキシ系、ニトロ系、クロロ系シランカップリング剤などが挙げられる。具体的には、Evonik社製のSi69、Si75などが市販されている。
【0030】
本発明において、トレッド用ゴム組成物及びそれに隣接するウイング用ゴム組成物、トレッド用ゴム組成物及びそれに隣接するサイドウォール用ゴム組成物に配合される架橋剤由来の純硫黄成分配合量は、下記式を満たす。
(ウイング、サイドウォール用ゴム組成物の架橋剤由来の純硫黄成分配合量/トレッド用ゴム組成物の架橋剤由来の純硫黄成分配合量)≦2.5
2.5を超えると、ウイング、サイドウォールの初期加硫速度t10が遅延して薄皮現象が起きたり、剥離損傷が起きやすくなる。
【0031】
前記純硫黄成分配合量の配合比率(添加比率)は、2.5以下であれば特に限定されないが、好ましくは0.75〜2.4、より好ましくは1.0〜2.3の範囲内である。なお、本発明において、架橋剤由来の純硫黄成分配合量とは、配合(添加)した全架橋剤中に含まれる全硫黄分の合計量を意味する。
【0032】
また、本発明において、トレッド用ゴム組成物と、ウイング用ゴム組成物、サイドウォール用ゴム組成物との初期加硫速度(t10)は、下記関係式を満たすことが好ましい。
0.4≦(ウイング、サイドウォール用ゴム組成物のt10)/(トレッド用ゴム組成物のt10)≦2.5
これにより、薄皮現象を抑制できる。前記t10の比率(0.4〜2.5)は、より好ましくは0.5〜2.3の範囲内である。
【0033】
次に、本発明において使用されるトレッド用ゴム組成物と、ウイング用ゴム組成物又はサイドウォール用ゴム組成物について説明する。
【0034】
(トレッド用ゴム組成物)
トレッド用ゴム組成物は、特定の平均粒子径及び窒素吸着比表面積を有する水酸化アルミニウムを含む。
【0035】
上記水酸化アルミニウムの平均粒子径は、0.69μm以下、好ましくは0.20〜0.65μm、より好ましくは0.25〜0.60μmである。0.69μmを超えると、耐摩耗性及びウェットグリップ性能が低下するおそれがある。なお、水酸化アルミニウムの平均粒子径は、数平均粒子径であり、透過型電子顕微鏡により測定される。
【0036】
上記水酸化アルミニウムの窒素吸着比表面積(NSA)は、10〜50m/gである。上記範囲外では、耐摩耗性及びウェットグリップ性能が悪化するおそれがある。該NSAの下限は、好ましくは12m/g以上、より好ましくは14m/g以上であり、また、上限は、好ましくは45m/g以下、より好ましくは40m/g以下、更に好ましくは29m/g以下、特に好ましくは19m/g以下である。なお、水酸化アルミニウムのNSAは、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
【0037】
上記水酸化アルミニウムのモース硬度は、タイヤの耐摩耗性やウェットグリップ性能の確保や、バンバリーミキサーや押出機の金属摩耗を抑える観点から、1〜8であることが好ましく、2〜7であることがより好ましい。モース硬度は、材料の機械的性質の一つで古くから鉱物関係で汎用されている測定法であり、硬さを計りたい物質(水酸化アルミニウム等)を標準物質でこすり、ひっかき傷の有無でモース硬度を測定する。なお、水酸化アルミニウムのモース硬度は、アルミナに転化することで上昇し、シリカ以上の値となる。
【0038】
上記水酸化アルミニウムとしては、上記平均粒子径及びNSAの特性を有する市販品を使用でき、また、水酸化アルミニウムに粉砕などの処理を施して前記特性を有する粒子に調整した処理品、なども使用可能である。粉砕処理を施す場合、湿式粉砕、乾式粉砕(ジェットミル、カレントジェットミル、カウンタージェットミル、コントラプレックスなど)等、従来公知の方法を適用できる。
【0039】
上記水酸化アルミニウムの配合量は、ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上、好ましくは2質量部以上、より好ましくは3質量部以上である。1質量部未満であると、充分なウェットグリップ性能が得られないおそれがある。また、該配合量は、60質量部以下、好ましくは55質量部以下、より好ましくは50質量部以下である。60質量部を超えると、耐摩耗性が他の配合剤の調整で補えないほど悪化するおそれがある。
【0040】
トレッド用ゴム組成物において、架橋剤由来の純硫黄成分合計配合量は、ゴム成分100質量部に対して0.56〜1.25質量部である。0.56質量部未満では、ウイング、サイドウォールからトレッドへの硫黄の移行量が多く、ウイング、サイドウォールゴムのt10が遅延するため、接着面の仕上がりが悪化する傾向がある。1.25質量部を超えると、トレッドゴムの耐摩耗性及び経年変化が悪化する傾向がある。該純硫黄成分合計配合量は、好ましくは0.56〜1.15質量部、より好ましくは0.6〜1.10質量部である。
【0041】
トレッド用ゴム組成物に使用できるゴム成分としては特に限定されず、天然ゴム(NR)やイソプレンゴム(IR)などのイソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のジエン系ゴムが挙げられる。なかでも、良好な操縦安定性、低燃費性、破断時伸びを確保しつつ、良好な耐久性が得られるという理由から、イソプレン系ゴム、BR、SBRが好ましい。特にサマータイヤでは、BRとSBRを併用することが好ましく、スタッドレスタイヤでは氷上性能も重要であることから、BRとイソプレン系ゴムを併用することが好ましい。
【0042】
BRとしては、特に限定されず、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR150B等の高シス配合量のBR、宇部興産(株)製のVCR412、VCR617等の1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶(SPB)を含むBR、Polimeri Europa社製のEuroprene BR HV80等の高ビニル含量のBR、希土類元素系触媒を用いて合成されたBR(希土類系BR)等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。また、スズ化合物により変性されたスズ変性ブタジエンゴム(スズ変性BR)も使用できる。なかでも、良好な操縦安定性、低燃費性、破断時伸びを確保しつつ、良好な耐久性が得られるという理由から、希土類系BRが好ましい。
【0043】
希土類系BRとしては、従来公知のものを使用でき、例えば、希土類元素系触媒(ランタン系列希土類元素化合物、有機アルミニウム化合物、アルミノキサン、ハロゲン含有化合物、必要に応じてルイス塩基を含む触媒)などを用いて合成したものが挙げられる。なかでも、ネオジム系触媒を用いて合成したNd系BRが好ましい。
【0044】
ゴム成分100質量%中のBRの配合量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは30質量%以上である。該BRの配合量は、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。BRの配合量が上記範囲内であると、良好な耐摩耗性、操縦安定性、低燃費性、破断時伸び、スノー性能を確保できる。なお、希土類系BRの好ましい配合量も同量である。
【0045】
イソプレン系ゴムのNRとしては、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用でき、IRとしても、IR2200等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。SBRとしては、特に限定されず、乳化重合SBR(E−SBR)、溶液重合SBR(S−SBR)、シリカとの相互作用を有する化合物により変性されたシリカ用変性SBR等が挙げられる。なかでも、E−SBR、シリカ用変性SBRが好ましい。E−SBRは、高分子量成分が多く、耐摩耗性、破断時伸びに優れる。また、シリカ用変性SBRは、シリカとの相互作用が強いため、シリカを良好に分散でき、低燃費性、耐摩耗性を向上できる。
【0046】
シリカ用変性SBRとしては、各種変性剤でポリマーの末端や主鎖が変性されたSBRなど、従来公知のものが挙げられる。例えば、特開2010−077412号公報、特開2006−274010号公報、特開2009−227858号公報、特開2006−306962号公報、特開2009−275178号公報などに記載の変性SBRなどが挙げられ、具体的には、下記一般式(1)で表される変性剤を反応させて得られるMwが1.0×10〜2.5×10の変性SBRを好適に使用できる。
【化1】
(式中、nは1〜10の整数を表し、Rは2価の炭化水素基を表し(−CH−など)、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素原子数が1〜4のヒドロカルビル基又は炭素原子数が1〜4のヒドロカルビルオキシ基を表し、R、R及びRの少なくとも1つがヒドロカルビルオキシ基であり、Aは窒素原子を有する官能基を表す。)
【0047】
本発明において、シリカ用変性SBRの結合スチレン量は、好ましくは25質量%以上、より好ましくは27質量%以上である。25質量%未満であると、ウェットグリップ性能が劣る傾向がある。また、該結合スチレン量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。50質量%を超えると、低燃費性が悪化するおそれがある。
なお、スチレン量は、H−NMR測定により算出される。
【0048】
トレッド用ゴム組成物において、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴム及びSBRの合計配合量は、好ましくは25〜100質量%であり、サマータイヤでは前記範囲のSBRを配合すること、スタッドレスタイヤでは前記範囲のイソプレン系ゴムを配合することが好ましい。
【0049】
トレッド用ゴム組成物には、カーボンブラック及び/又はシリカを配合しても良く、特にウェットグリップ性能と耐摩耗性の性能バランスの点で、シリカを配合することが好ましい。シリカとしては、特に限定されないが、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)などが挙げられ、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0050】
シリカの窒素吸着比表面積は、好ましくは40m/g以上、より好ましくは80m/g以上、更に好ましくは110m/g以上である。また、該窒素吸着比表面積は、好ましくは350m/g以下、より好ましくは250m/g以下である。上記範囲内であると、本発明の効果を充分に発揮できる。なお、シリカの窒素吸着比表面積は、前記水酸化アルミニウムと同様の方法で測定される。
【0051】
シリカの配合量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは20質量部以上、より好ましくは30質量部以上、更に好ましくは40質量部以上である。20質量部未満であると、充分な耐摩耗性及びウェットグリップ性能が得られないおそれがある。また、該配合量は好ましくは130質量部以下、より好ましくは125質量部以下、更に好ましくは120質量部以下である。130質量部を超えると、低燃費性が低下するおそれがある。
【0052】
カーボンブラック、シリカを配合する場合、配合量は、ウェットグリップ性能、耐摩耗性のなどのトレッドの要求性能に応じて適宜設定すれば良いが、これらの合計配合量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは30〜180質量部、より好ましくは45〜135質量部である。
【0053】
本発明のトレッド用ゴム組成物には、軟化剤としてレジンを配合してもよく、レジンとしては、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂、テルペン系樹脂、クマロンインデン樹脂、芳香族ビニル重合体等のレジンを使用できる。なかでも、テルペン系樹脂、クマロンインデン樹脂、芳香族ビニル重合体などが好適であり、サマータイヤの場合、芳香族ビニル重合体が特に好適に用いられ、スタッドレスタイヤの場合、テルペン系樹脂が特に好適に用いられる。
【0054】
テルペン系樹脂としては、テルペン樹脂及びテルペンフェノール樹脂等を用いることができる。テルペン系樹脂の軟化点は、好ましくは51〜140℃、より好ましくは90〜130℃である。
【0055】
上記芳香族ビニル重合体の軟化点(Softening Point)は、好ましくは100℃以下、より好ましくは92℃以下、更に好ましくは88℃以下であり、また、好ましくは30℃以上、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは75℃以上である。上記範囲内であると、良好なウェットグリップ性能が得られ、前記性能バランスを改善できる。なお、本明細書において、軟化点とは、JIS K 6220に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0056】
上記芳香族ビニル重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは400以上、より好ましくは500以上、更に好ましくは800以上であり、また、好ましくは10000以下、より好ましくは3000以下、更に好ましくは2000以下である。上記範囲内であると、本発明の効果が良好に得られる。なお、本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めたものである。
【0057】
上記レジンの配合量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは5質量部以上である。2質量部未満であると、添加による効果が充分に得られないおそれがある。また、該配合量は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは25質量部以下である。50質量部を超えると、耐摩耗性が悪化する傾向がある。
【0058】
トレッド用ゴム組成物には、前記成分の他に、従来ゴム工業で使用される配合剤、例えば、他の補強用充填剤、ワックス、酸化防止剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛等を配合してもよい。また、グアニジン系、アルデヒド−アミン系、アルデヒド−アンモニア系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チオ尿素系、ジチオカルバメート系、ザンデート系などの加硫促進剤を配合してもよい。
【0059】
(ウイング用ゴム組成物、サイドウォール用ゴム組成物)
ウイング用、サイドウォール用ゴム組成物において、架橋剤由来の純硫黄成分合計配合量は、ゴム成分100質量部に対して1.3〜2.5質量部である。1.3質量部未満では、加硫促進剤を多く配合する必要が生じ、破断時伸びが低下する傾向がある。2.5質量部を超えると、酸化劣化後、弾性率Eが上昇し、破断時伸びEBが低下し、かえって耐久性が悪化する傾向がある。また、特にトラック・バス用タイヤにおいては、隣接するサイドウォールやプライとの濃度差も大きくなり、更に耐久性が低下する傾向がある。該純硫黄成分合計配合量は、好ましくは1.4〜2.0質量部である。
【0060】
ウイング用、サイドウォール用ゴム組成物に使用できるゴム成分としては特に限定されず、トレッド用ゴム組成物と同様のジエン系ゴムを使用できる。なかでも、良好な操縦安定性、低燃費性、破断時伸びを確保しつつ、良好な耐久性が得られるという理由から、BR、イソプレン系ゴム、SBRが好ましく、BRとイソプレン系ゴムを併用することがより好ましい。BRとしては、高シス配合量のBR(Co系BR、Nd系BRなど)、SPBを含むBR、スズ変性BRが好適で、イソプレン系ゴム、SBRは、前記と同様のものを使用できる。
【0061】
ゴム成分100質量%中のBRの配合量は、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。該BRの配合量は、好ましくは75質量%以下、より好ましくは65質量%以下である。BRの配合量が上記範囲内であると、良好な操縦安定性、低燃費性、破断時伸びを確保しつつ、良好な耐屈曲亀裂成長性及び耐久性が得られる。
【0062】
ウイング用、サイドウォール用ゴム組成物において、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの配合量は、好ましくは25〜65質量%、より好ましくは35〜55質量%である。また、SBRを配合する場合、その配合量は、好ましくは15〜40質量%、より好ましくは20〜35質量%である。
【0063】
ウイング用、サイドウォール用ゴム組成物には、カーボンブラックを配合しても良い。カーボンブラックを配合する場合、その配合量は、耐屈曲亀裂成長性などのサイドウォールやウイングの要求性能に応じて適宜設定すれば良いが、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは20〜80質量部、より好ましくは30〜60質量部である。
【0064】
ウイング用、サイドウォール用ゴム組成物には、上記ゴム成分、カーボンブラック以外に、トレッド用ゴム組成物と同様の配合材料を添加してもよい。
【0065】
(空気入りタイヤ)
本発明の空気入りタイヤは、以下の方法など、従来公知の方法で製造できる。
先ず、バンバリーミキサー、オープンロールなどのゴム混練装置に前記架橋剤及び加硫促進剤以外の成分を配合(添加)して混練りした後(ベース練り工程)、得られた混練物に、更に前記架橋剤及び加硫促進剤を配合(添加)して混練することにより、トレッド用、ウイング用、サイドウォール用未加硫ゴム組成物をそれぞれ作製する。
【0066】
次いで、それぞれの未加硫ゴム組成物をトレッド、ウイング、サイドウォールの形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて成形し、更に他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを作製した後、その未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することで、空気入りタイヤを製造できる。
【0067】
本発明の空気入りタイヤは、乗用車用タイヤ、大型乗用車用、大型SUV用タイヤ、トラック、バスなどの重荷重用タイヤ、ライトトラック用タイヤに好適であり、それぞれのサマータイヤ、スタッドレスタイヤとして使用可能である。
【実施例】
【0068】
乗用車用のTOS構造タイヤの実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0069】
<末端変性剤の作製>
窒素雰囲気下、100mlメスフラスコに3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン(アヅマックス(株)製)を23.6g入れ、さらに無水ヘキサン(関東化学(株)製)を加え、全量を100mlにして作製した。
【0070】
<共重合体製造例1>
充分に窒素置換した30L耐圧容器にn−ヘキサンを18L、スチレン(関東化学(株)製)を740g、ブタジエンを1260g、テトラメチルエチレンジアミンを10mmolを加え、40℃に昇温した。次に、ブチルリチウムを10mL加えた後、50℃に昇温させ3時間撹拌した。次に、上記末端変性剤を11mL追加し30分間撹拌を行った。反応溶液にメタノール15mL及び2,6−tert−ブチル−p−クレゾール0.1gを添加後、反応溶液を18Lのメタノールが入ったステンレス容器に入れて凝集体を回収した。得られた凝集体を24時間減圧乾燥させ、変性SBRを得た。Mwは270,000であり、ビニル含量は56%、スチレン含有量は37質量%であった。
【0071】
得られた変性SBRのMw、ビニル含量及びスチレン含有量については以下の方法により分析した。
【0072】
<重量平均分子量Mwの測定>
変性SBRの重量平均分子量Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC−8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ−M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めた。
【0073】
<ビニル含量及びスチレン含有量の測定>
日本電子(株)製JNM−ECAシリーズの装置を用いて、変性SBRの構造同定を行った。測定結果から、変性SBR中のビニル含量及びスチレン含有量を算出した。
【0074】
以下に、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:TSR20
BR(1):ランクセス(株)製のCB25(Nd系触媒を用いて合成したハイシスBR、Tg:−110℃)
BR(2):宇部興産(株)製のBR150B(Co系触媒を用いて合成したハイシスBR、Tg:−108℃)
BR(3):宇部興産(株)製のVCR617
BR(4):日本ゼオン(株)製のNipol BR1250H
SBR(1):共重合体製造例1で作製した変性SBR
SBR(2):JSR(株)製のSBR1502(E−SBR)
カーボンブラック(1):コロンビアカーボン(株)製のHP160(NSA:165m/g)
カーボンブラック(2):キャボットジャパン製のショウブラックN550
シリカ:Evonik社製のULTRASIL VN3(NSA:175m/g)
水酸化アルミニウム(1):住友化学(株)製のC−301N(平均粒子径:1.0μm、窒素吸着比表面積:4.0m/g、モース硬度:3)
水酸化アルミニウム(2):住友化学(株)製のATH#C(平均粒子径:0.8μm、窒素吸着比表面積:7.0m/g、モース硬度:3)
水酸化アルミニウム(3):住友化学(株)製のATH#B(平均粒子径:0.6μm、窒素吸着比表面積:15m/g、モース硬度:3)
水酸化アルミニウム(4):ATH#Bの乾式粉砕品(平均粒子径:0.4μm、窒素吸着比表面積:34m/g、モース硬度:3)
水酸化アルミニウム(5):ATH#Bの乾式粉砕品(平均粒子径:0.23μm、窒素吸着比表面積:55m/g、モース硬度:3)
レジン1(グリップレジン1):Arizona chemical社製のSYLVARES SA85(α−メチルスチレンとスチレンとの共重合体、軟化点:85℃、Mw:1000)
レジン2(グリップレジン2):ヤスハラケミカル(株)製のYSレジンPX1150N(テルペン樹脂(ピネン重合体)、軟化点:115℃)
レジン3(グリップレジン3):Arizona chemical社製のSYLVARES TP115(テルペンフェノール樹脂、軟化点:115℃)
オイル:H&R社製のVivatec500(TDAE)
ワックス:日本精鑞(株)製のOzoace0355
老化防止剤(1):住友化学(株)製のアンチゲン6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
老化防止剤(2):大内新興化学(株)製のノクラック224(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
酸化亜鉛:東邦亜鉛(株)製の銀嶺R
シランカップリング剤(1):Momentive社製のNXTZ45
シランカップリング剤(2):Evonik社製のSi75
架橋剤(1):ランクセス社製のVulcuren VP KA9188(1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン、硫黄配合量:20.6質量%)
架橋剤(2):フレキシス社製のDURALINK HTS(1,6−ヘキサメチレン−ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物(有機チオサルフェート化合物)、硫黄配合量:56質量%)
架橋剤(3):田岡化学工業(株)製のタッキロールV200(アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、硫黄配合量:24質量%)
架橋剤(4):細井化学工業(株)製のHK−200−5(5質量%オイル含有粉末硫黄)
加硫促進剤(1):大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS−G(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤(2):大内新興化学工業(株)製のノクセラーDZ(N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤(3):大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(1,3−ジフェニルグアニジン)
【0075】
<実施例及び比較例>
(トレッド用ゴム組成物)
表1のサマータイヤ、表2のスタッドレスタイヤに示す配合内容に従い、バンバリーミキサーを用いて、まず、ゴム成分とカーボンブラックの全量と、シリカとシランカップリング剤の1/2量ずつを150℃の条件下で5分間混練りし、次に架橋剤及び加硫促進剤以外の残りの材料を150℃の条件下で4分間混練りし、混練り物を得た(ベース練り工程)。次に、得られた混練り物に架橋剤及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、105℃の条件下で4分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た(仕上げ練り工程)。
得られた未加硫ゴム組成物を170℃の条件下で12分間プレス加硫し、トレッド用加硫ゴム組成物を得た。
【0076】
(ウイング用ゴム組成物)
表3に示す配合内容に従い、バンバリーミキサーを用いて、架橋剤及び加硫促進剤以外の材料を170℃の条件下で5分間混練りし、混練り物を得た(ベース練り工程)。次に、得られた混練り物に架橋剤及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、105℃の条件下で4分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た(仕上げ練り工程)。
得られた未加硫ゴム組成物を170℃の条件下で12分間プレス加硫し、ウイング用加硫ゴム組成物を得た。
【0077】
(空気入りタイヤ)
また、得られた未加硫の各トレッド用ゴム組成物、各ウイング用ゴム組成物を用いて、それぞれの部材の形状に押出し成形し、タイヤ成形機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせた後、所定の金型に挿入し、170℃の条件下で12分間加硫し、各試験用タイヤ(タイヤサイズ:245/40R18、乗用車用)を得た(架橋工程)。なお、表4に、各試験用タイヤの純硫黄成分配合比率「ウイング用ゴム組成物中の純硫黄成分配合量/トレッド用ゴム組成物中の純硫黄成分配合量」の値を示している。
【0078】
得られたトレッド用、ウイング用未加硫及び加硫ゴム組成物、試験用タイヤを使用して、下記の評価を行った。評価結果を表1〜3、5に示す。
【0079】
(加硫速度)
各未加硫ゴム組成物について、JIS K6300に記載されている振動式加硫試験機(キュラストメーター)を用い、測定温度160℃で加硫試験を行って、時間とトルクとをプロットした加硫速度曲線を得た。加硫速度曲線のトルクの最小値をML、最大値をMH、その差(MH−ML)をMEとしたとき、ML+0.1MEに到達する時間t10(分)を算出した。
【0080】
(粘弾性試験)
(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメータVESを用いて、温度40℃、周波数10Hz、初期歪10%及び動歪2%の条件下で、上記加硫ゴム組成物の複素弾性率E(MPa)及び損失正接tanδを測定した。なお、Eが大きいほど剛性が高く、操縦安定性に優れることを示し、tanδが小さいほど発熱性が低く、低燃費性に優れることを示す。
【0081】
(引張試験)
加硫ゴム組成物からなる3号ダンベル型試験片を用いて、JIS K6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に準じて、室温にて引張試験を実施し、破断時伸びEB(%)を測定した。EBが大きいほど、破断時伸び(耐久性)に優れることを示す。
【0082】
(耐摩耗性)
上記試験用タイヤを排気量2000ccの国産FR車に装着し、ドライアスファルト路面のテストコースにて実車走行を行った。その際におけるタイヤトレッドゴムの残溝量を計測し(新品時8.0mm)、耐摩耗性として評価した。残溝量が多いほど、耐摩耗性に優れる。表1のサマータイヤ配合では、トレッド用ゴム組成物16の残溝量を100、表2のスタッドレスタイヤ配合では、トレッド用ゴム組成物24の残溝量を100として指数表示した(耐摩耗指数)。指数が大きいほど、耐摩耗性に優れることを示す。なお、指数が95以上であれば、良好な耐摩耗性が確保されている。
【0083】
(ウェットグリップ性能)
上記試験用タイヤを排気量2000ccの国産FR車に装着し、ウェットアスファルト路面のテストコースにて10周の実車走行を行い、その際における操舵時のコントロールの安定性をテストドライバーが評価した。表1のサマータイヤ配合では、トレッド用ゴム組成物16のウェットグリップ性能を100、表2のスタッドレスタイヤ配合では、トレッド用ゴム組成物24のウェットグリップ性能を100として指数表示した(ウェットグリップ指数)。指数が大きいほどウェットグリップ性能に優れることを示す。なお、指数が110以上であれば、良好なウェットグリップ性能が確保されている。
【0084】
(トレッド部とウイング部の接着面の仕上がり状態)
試験用タイヤにおいて、トレッド接着面付近でのウイングゴムの押し出し性、薄皮状の捲れ、剥離、脱落及びベアー(=ケロイド状)により仕上がり状態を指数化した。押し出し性が良好であると、発熱が少なく、所定の寸法に、真っ直ぐに(凹凸なく)、均一な厚みで、形状を保つことができる。なお、10本製造したタイヤの仕上がり状態を指数化し、仕上がり指数100は工程適合、110は仕上がり寸法の安定性、ユニフォミティーにも優れ、90は不具合が頻繁に発生し、仕上がり寸法が1つのタイヤ内でも安定せず、工程不適合を示す。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】
【0089】
【表5】
【0090】
表5の仕上がり指数と表1〜2の耐摩耗性、ウェットグリップ性能の評価結果から、トレッドに特定の水酸化アルミニウムを所定量添加するとともに、トレッド及びウイングの純硫黄成分配合量を特定量とし、かつこれらの配合比率が特定の関係式を具備する場合、良好な耐摩耗性を確保しつつ、ウェットグリップ性能及び仕上がり状態を改善できることが明らかとなった。また、実施例では、操縦安定性(E)、低燃費性(tanδ)、耐久性(EB)も良好であった。
【0091】
更に上記では、トレッド及びウイングに適用した乗用車用タイヤ(TOS構造)の例を示したが、トレッド及びサイドウォールに適用したタイヤ(SOT構造のトラック・バス用タイヤなど)でも、同様の効果が得られた。
図1
図2
図3
図4
図5