(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
野菜、果物またはこれらの組合せを供給源とする、選択的に分離されたアントシアニンの混合物を含む天然青色アントシアニン含有着色料であって、前記着色料の水溶液がpH8.0において615nm〜635nmに吸収極大を示す、天然青色アントシアニン含有着色料。
前記着色料の1ppm〜1000ppmの範囲の濃度の水溶液のpH8.0におけるh°値が209〜290である、請求項1に記載の天然青色アントシアニン含有着色料。
前記アントシアニンの前記供給源が、紫キャベツ、紫イモ、紫ジャガイモ、黒ニンジン、紫ニンジンおよびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の天然青色アントシアニン含有着色料。
野菜、果物またはこれらの組合せを供給源とする、選択的に分離されたアントシアニンの混合物を含む天然青色アントシアニン含有着色料であって、前記着色料の少なくとも1つの濃度の水溶液がpH8.0において呈する色特性が、L*a*b*色空間において異なる濃度の一連のFD&C Blue No.1水溶液に基づき定められるFD&C Blue No.1線分と整合し、ここで整合するとは、pH8.0における前記着色料の少なくとも1つの濃度の水溶液の、前記FD&C Blue No.1線分に対し測定されたΔE値が、同じL*a*b*色空間において、異なる濃度の一連のSpirulina Blue水溶液に基づき定められるSpirulina Blue線分の、前記FD&C Blue No.1線分に対し測定されたΔE値と比較して、少なくとも1単位小さいことを意味する、請求項1に記載の天然青色アントシアニン含有着色料。
【背景技術】
【0002】
食品業界においては、食品の着色に用いられている人工の物質に替えて天然の着色料を使用することへの関心が高まっている。
【0003】
合成着色料に替えて天然着色料を使用する場合、合成着色料に似た色特性を呈する天然着色料を探し出すことが難題である。合成青色着色料であるFD&C Blue No.1と同じ色特性を呈する天然の着色料は現時点においては見付かっていない。シアンブルーの色相を呈する適切な天然着色料が存在しなかったため、天然の青色および黄色の着色料をブレンドすることによって得られる所望の緑色の色相を呈する天然の着色料を製造することも同様に困難であった。
【0004】
藍藻に由来する物質であるSpirulina Blueが天然の青色着色料として使用されているが、これはFD&C Blue No.1とは色特性が異なっている。
【0005】
アントシアニンは、果物、野菜および花弁ならびに一部の植物の根、葉、茎および苞葉の細胞の液胞に含まれる水溶性の化合物である。アントシアニンを含有する野菜および果物の汁および抽出物は、天然の可食性着色料として、特に天然の赤色、紫色および青色の色相を呈する着色料の製造にも使用されており、その理由の少なくとも一部は、幅広い入手性にある。
【0006】
アントシアニンは、アントシアニジン(アグリコン部)が1つまたは複数の糖分子(グリコン部)とエステル化することにより形成された配糖体を含んでいる。糖分子はC−3、C−5、C−7、C−3’、C−4’および/またはC−5’位に結合することができる。アントシアニン構造に含まれる糖分子は、例えば、アラビノース、ガラクトース、グルコース、ラムノース、ルチノース、サンブビオース、ソホロースおよびキシロースである。
【0007】
アントシアニンはアシル化することもできる、すなわち、糖分子(通常は単糖の6位であるが、2位、3位または4位も可能である)とエステル化した1つまたは複数の分子を有することができる。最も一般的なアシル単位としては、クマリン酸、フェルラ酸、コーヒー酸、シナピン酸、没食子酸、マロン酸、酢酸、リンゴ酸、コハク酸、バニリン酸およびシュウ酸から誘導されるものが挙げられる。
【0008】
フラビリウムカチオン形態にあるアントシアニジンの構造を次に示す。フラビリウムカチオン形態は、酸性条件下における主たる形態である。アントシアニジンの様々な位置を、水素、ヒドロキシルおよび/またはメトキシル基で置換することができる:
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、R
3はHまたはOHであり、
R
5は、H、OH、またはOCH
3であり、
R
6は、HまたはOHであり、
R
7は、OHまたはOCH
3であり、
R
3’は、H、OH、またはOCH
3であり、
R
4’は、OHまたはOCH
3であり、
R
5’は、H、OH、またはOCH
3である)。
【0011】
自然界に存在する最も一般的なアントシアニジンは、次に示す構造を有するものである。
【0012】
【化2】
【0013】
したがって、アントシアニンとして分類される化合物には、その主たる構造、グリコシル化様式およびアシル化様式の違いに基づく多種多様な構造を有する膨大な数の化合物が包含される。
【0014】
アントシアニンの公知の植物供給源としては:(1)野菜、例えば、紫キャベツ(red cabbage)、紫イモ、紫ジャガイモ(blue potato)、赤ジャガイモ(red potato)、ラディッシュ(red radish)、黒ニンジン、紫ニンジン、紫トウモロコシ、赤トウモロコシ、赤タマネギ、紫ブロッコリー(purple broccoli)、赤ブロッコリー(red broccoli)、紫カリフラワー(purple cauliflower)、大黄、黒豆、サニーレタス、黒米、茄子および(2)果物、例えば、イチゴ、ラズベリー、クランベリー、コケモモ、赤ブドウ(red grape)、リンゴ、ブラックカラント、レッドカラント、サクランボ、ブルーベリー、エルダーベリー、ビルベリー、クロウベリー(crowberry)、ブラックベリー、チョークベリー、グースベリー、アサイー、ネクタリン、モモ、プラム、ブラッドオレンジ、紫トマト(blue tomato)が挙げられる。各アントシアニン供給源は、複数種の異なるアントシアニン種を様々な量で含む。ある植物供給源には15〜30種類の構造が異なるアントシアニン分子が含まれることが知られている。
【0015】
アントシアニンを含有する野菜および果物の汁および抽出物の色特性はpHの変化に伴い変化する。一般に、アントシアニンを含有する汁および抽出物は、低pHで赤い色相を呈し、pHが上昇するに従い紫の色相に移行する。さらにpHが上昇すると青い色相を呈する汁および抽出物もごく僅かに存在する。
【0016】
アントシアニンを含有する汁および抽出物のpH変化に伴う色の変化には、水溶液中におけるアントシアニンの主たる構造であるフラビリウムカチオンとの平衡において存在し得る様々な第2の構造が関与している。pHが変化すると、平衡状態にある異なる複数の構造の相対的な量が変化することになる。所与のpHにおいては、1つまたは複数の構造形態が優勢となることができ、一方、他の構造形態は少量で存在するかまたは存在しなくなる。例えば、非常に低いpHではフラビリウムカチオン形態が優勢である。pHが上昇するに従い、フラビリウムカチオン形態にある分子からプロトンが脱離して、カルビノール疑似塩基形態に転化することができ、これはさらに水分子およびプロトンを失うことによって、それぞれ、中性およびイオン化したキノノイド型塩基に転化し、さらにカルコン形態に転化することができる。これらの変換によって、フラビリウムカチオン形態にある分子の量が減少し、平衡状態にある他の形態の量が様々な程度で増加する。したがって、低pHと比較すると、より高いpHにおいては、平衡状態にある異なる構造が異なる相対量で存在する。アントシアニンの各構造形態は異なる形で光を吸収することができ、その結果として、認識される色が異なる(無色を含む)。したがって、溶液のpHが変化するに従い、異なる構造形態の相対量が変化し、その結果として溶液の色を変化させることができる。
【0017】
異なるアントシアニン分子は、それぞれ、自身と平衡状態にある複数の分子構造からなる組と、ある構造から他の構造に変化する反応の平衡定数とによって特徴付けられる。例えば、平衡状態にある、ある構造を有するアントシアニンが他の構造に変換される反応は、この反応に対応する特定の酸解離定数K
aを有することができる。この反応は、−log
10K
aとして定義される対数表記される定数すなわちpK
aという観点でも議論することができる。
【0018】
フラビリウムカチオンおよびキノノイド型塩基構造は、アントシアニン分子の3つの環を全て連結する共役結合を有している。広範囲に非局在化したπ結合により、フラビリウムカチオンおよびキノノイド型塩基は可視光を吸収することができ、それによって、フラビリウムカチオンは低pHにおいて赤色の色相が知覚され、それよりも高いpHにおいては、イオン化したキノノイド型の紫または青色の色相が知覚される。これに対し、カルビノール疑似塩基およびカルコン構造は3つの環全てを連結する非局在化したπ結合が存在しないので、無色または淡黄色である。
【0019】
アントシアニンの置換様式も色に影響を及ぼす。例えば、一般には、水素原子をヒドロキシル基に置き換えると色相が桃色から紫色へと移行することが観測されている。同様に、グリコシル(糖)単位の数ならびにアシル単位の数および種類が色に影響を及ぼすことも観測されている。しかしながら、これらの現象は十分に解明されていないかまたは予測することができない。
【0020】
さらに、分子間および分子内の相互作用もアントシアニンの色に影響を及ぼす。同一のアントシアニンであっても存在する他の分子に応じて異なる色相を呈する可能性がある。例えば、アントシアニン糖上のアシル基は、フラビリウムカチオンの上に折り重なる(fold in)ことによって、フラビリウムカチオンのC−2位を求核攻撃から保護することができる。したがって、この分子内相互作用によって無色のカルビノール疑似塩基構造の形成が阻止される。同様に、アントシアニン分子は自己会合すると考えられており、このことは、アントシアニン濃度を2倍に増加することによって彩度を300倍に増加させることができ、色相および明度も同様に変化させることができることから実証されている。この自己会合は分子内スタッキングに類似しており、求核攻撃およびカルビノール疑似塩基構造の形成を阻止するという仮説が立てられている。
【0021】
pH、アントシアニンの化学構造、置換様式、分子間および分子内相互作用等の要素は全て、アントシアニンを含有する野菜および果物の汁および抽出物において観察される色に影響を与えることが知られているが、これらの要素がどのように相互作用して色を変化させるかは十分に解明されていない、すなわち、原因およびその結果を具体的に予測することはできない。
【0022】
例えば、単体のアントシアニン分子がHPLCにより分離されているが、分離は常に低pHで行われており、単体のアントシアニンの色特性は低pHで分析されていた。同様に、アントシアニンを含有する野菜および果物の汁および抽出物の色特性にpHが及ぼす影響も研究されてきたが、これらの研究は、汁および抽出物中に含まれる天然のアントシアニンの複雑な混合物を分析するものであった。天然の供給源から分離された個々のアントシアニン分子またはアントシアニン画分の色特性にpHの変化がどのように影響を与えるかは十分に解明されていないかまたは予測することができない。先行技術には、置換基の数および種類、例えば、糖およびアシル基が色に影響を与えることが開示されているが、これらの置換基がpH変化に伴いどのように色に影響を及ぼすかについては開示されておらず、分かっていない。最後に、先行技術においては、様々な分子間および分子内相互作用が色に影響を及ぼすという仮説が立てられているが、pHの変化がどのようにこれらの分子間および分子内相互作用に、そして最終的に観察されるアントシアニンの色に影響を及ぼすかについては開示されていない。
【0023】
特許文献1には、アントシアニンを含有する果汁および野菜汁に含まれる他のフェノール性分子からアントシアニンを分離する方法が開示されている。特許文献1には、分子の電荷および極性の差に基づきアントシアニン分子の画分を選択的に分離することによって、アントシアニンを含有する汁の色とは異なる所望の色を有する画分を生成することは開示されていない。
【0024】
単体のアントシアニンを分析スケールで分離することが非特許文献1に記載されている。この分離は、個々のアントシアニンの同定を容易にするために、低pH、すなわち2未満のpHでHPLCを用いて行われている。この方法は、アントシアニンの混合物を含む画分を製造するためではなく、アントシアニン分子を検出するために分離を行うものである。
【0025】
特許文献2には、紫キャベツアントシアニンのpH7.9の青色着色料溶液が開示されており、これは、菓子の内核(core)を被覆するための糖シロップに使用されている。紫キャベツアントシアニンの画分は分離されていない。
【0026】
アントシアニンを含有する野菜および果物の汁および抽出物から、選択されたpHにおいて、分子の電荷および極性の差に基づき分離されたアントシアニン分子の画分を含む、アントシアニン含有着色料の例は先行技術には見あたらない。さらに、供給源である汁および抽出物が呈するものとは異なる色特性を呈するアントシアニン画分は開示されていない。特に、合成青色着色料であるFD&C Blue No.1の色特性に類似した色特性を呈する天然の青色アントシアニンを含有する着色料は先行技術には記載されていない。
【発明を実施するための形態】
【0035】
アントシアニンを含有する野菜および果物の汁および抽出物は、現在、天然の可食性着色料として、特に赤色、紫色、および青色の色相を呈する天然着色料の製造に使用されている。この汁および抽出物は、野菜および果物供給源中に天然に存在するあらゆるアントシアニン分子の混合物を、他の多くの種類の化合物と一緒に含んでいる。したがって、現在入手可能なアントシアニン含有着色料は、野菜および果物供給源中に天然に存在するアントシアニン混合物に付随する色の着色料に限られる。本発明は、天然に存在するそのままの状態の混合物から、合成青色着色料であるFD&C Blue No.1が呈する色特性に類似した色特性を呈するように選択的に分離されたアントシアニンを含む、天然の青色アントシアニン含有着色料を含む。
【0036】
本発明の一態様は、アントシアニンを含有する野菜および果物の汁および抽出物から、具体的な標的の色特性である、合成青色着色料であるFD&C Blue No.1の色特性に類似した色特性を呈する着色料を得るためにアントシアニン分子の画分を単離することを含む。本明細書において用いられる、FD&C Blue No.1に「類似した」色特性を呈するとは、その色が、他のいかなる天然着色料(例えば、Spirulina Blue等)よりも色特性が近似していることを意味する。
【0037】
本出願人らは、選択されたpHの溶媒を用いてアントシアニンを分離することにより、アントシアニン分子の極性の差に応じて、合成青色着色料であるFD&C Blue No.1に類似した色特性を呈するアントシアニン混合物を含む画分が得られるであろうことを見出した。各アントシアニン供給源は複数の異なるアントシアニン分子を異なる量で含んでおり、それぞれの分子は、1つまたは複数の第2の構造と平衡状態で存在することができる。異なるアントシアニン分子およびこれらと平衡状態にある分子構造の間で電荷および/または極性が異なる場合がある。本出願人らは、選択されたpHにおいて、アントシアニン分子の電荷および極性の差に基づき分離を行うことにより、明確に異なる分光特性を有するアントシアニンの画分をアントシアニンの複雑な混合物から単離することができた。これらの画分の分光特性は異なっており、この分光特性は、汁や抽出物に見出されるアントシアニンの複雑な混合物の分光特性からは分からなかった。本出願人らは、Spirulina Blue等の任意の公知の天然青色着色料よりも合成FD&C Blue No.1が呈する色特性に近い色特性を呈することができるアントシアニン画分を確認した。
【0038】
アントシアニンを含有する野菜または果物の汁は、果物または野菜を圧搾して液体を搾ることによって得ることができる。アントシアニンを含有する野菜または果物の抽出物は、溶剤(例えば、水、アルコール)でふやかした果物または野菜を洗うことによって得ることができる。汁および抽出物は、アントシアニン以外にも、他の天然の化合物、例えば、炭水化物、酸、フラボノイド類、金属イオン、フェノール性酸、フェノール性酸のエステルおよびビタミン類を多く含んでいる。「野菜または果物の汁または抽出物」という語は、「野菜汁、果汁、野菜抽出物または果物抽出物」という語を列挙したことに相当し、加工された汁および抽出物(例えば、濃縮還元された汁および抽出物、脱臭処理された汁および抽出物ならびに特定の種類または幅広い種類の化合物を除去するための他の処理を施した汁および抽出物)を含む。
【0039】
「分画」は、アントシアニンを含有する野菜または果物の汁または抽出物中のアントシアニンの複雑な混合物から一部のアントシアニンを選択および分離するプロセスである。本発明の青色アントシアニン含有着色料は、高いpH値で青色の色相を呈するアントシアニンを含有する野菜または果物の汁または抽出物を供給源とすることができる。幾つかの実施形態においては、青色アントシアニン含有着色料は、紫キャベツ、紫イモ、紫ジャガイモ、紫ニンジン、黒ニンジンまたはこれらの組合せを供給源とすることができる。
【0040】
「画分」は、分画による生成物である。「アントシアニン画分」は、この画分が分離されるアントシアニン含有汁または抽出物中のアントシアニン混合物とは異なるアントシアニン混合物を含む。アントシアニン画分は、選択されたpHにおいて、存在する異なるアントシアニン分子の電荷および極性の差に基づき汁または抽出物から分離される。
【0041】
「選択されたpH」は、2以上のpH、例えば、アントシアニンの分離においても測色においても、約2〜約9の範囲にあるpHである。他の実施形態においては、pHは、pH3以上、4以上、5以上、6以上、7以上であり、例えば、pHは、次に示す各範囲、すなわち約3〜約9、約4〜約9、約5〜約9、約6〜約9または約7〜約9のいずれかにある。
【0042】
本発明の一実施形態は、野菜、果物またはこれらの組合せを供給源とし、選択的に分離されたアントシアニンの混合物を含む天然の青色アントシアニン含有着色料であって、この着色料のpH8.0の水溶液が615nm〜635nmに吸収極大を示す着色料を対象とする。天然の青色アントシアニン含有着色料は、イオン交換カラム上で、アントシアニン分子の電荷および極性の差に基づき選択的に分離されたアントシアニンを含むことができる。
【0043】
「吸収極大」「ラムダ極大」または「λ
max」は、ある物質が吸収する光量が最大になる波長(ナノメートル単位)である。一般に、吸収極大は、UV/可視分光器または測色計を用いて測定を行う場合に物質を比較するための特性値として用いることができる。
【0044】
「FD&C Blue No.1」に言及する場合、同一の合成青色着色料に命名された異なる名称であるBrilliant Blue FCFおよびEuropean Commission E133も包含する。FD&C Blue No.1のラムダ極大は630nmである。
【0045】
「着色料」とは、異なる波長の光を吸収または散乱することによって色を付与する任意の物質である。「天然の着色料」は、自然界に存在するかまたは天然に産生されるかまたは天然産物を供給源とする着色料である。「青色着色料」は、450〜495ナノメートルの領域の波長の光を反射し、吸収極大が615〜635ナノメートルの範囲にある着色料である。「天然アントシアニン含有着色料」は、植物を供給源とするアントシアニンを含む天然の着色料である。
【0046】
天然のアントシアニン含有着色料は、選択的に分離されたアントシアニンのみ(例えば、単離された混合物)を含むものであってもよいし、または着色料と一緒に使用されることが知られている他の植物成分、担体(例えば、水)および/または賦形剤も含んでいてもよい組成物である。この組成物は、固体(例えば、粉末)または溶液(例えば、水性液体)の形態とすることができる。
【0047】
本発明のさらなる他の実施形態は、野菜、果物またはこれらの組合せを供給源とし、選択的に分離されたアントシアニンの混合物を含む、天然の青色アントシアニン含有着色料であって、濃度が1ppm〜1000ppmの範囲にあるpH8.0の水溶液のh°値が209〜290となる着色料を対象とする。他の実施形態においては、h°値を約225〜250とすることができる。
【0048】
「色相」は、色にその名称、例えば、赤、橙赤、青、紫等を与える色特性を指す。
【0049】
「彩度」は、色の純度を示す色特性であり、彩度が高いことには、色相の純度が高いことと、白、灰色または黒との混色の度合いが低いこととが関与している。
【0050】
「明度」は、色の明暗を表す色特性であり、明度が高いことはより明るいことに対応している。
【0051】
「色」および「色特性」は互換的に使用され、これらの特性を表すために用いられる、色相、彩度、明度等の色の性質ならびに国際照明委員会のCIE表色系1976年CIELAB色空間のL
*a
*b
*値やCIELCH色空間のL
*C
*h°値等のカラーモデル体系のパラメータを包含する。CIELABおよびCIELCHカラーモデルは、初期のカラーモデルよりも知覚的均等性が高い色空間を提供する。着色料を、分光光度計を用いて分析し、スペクトルデータからCIELAB L
*a
*b
*値およびCIELCH L
*C
*h°値を求める。L
*a
*b
*値およびL
*C
*h°値は、色特性を表す手段および2色の差の大きさを評価する手段を提供するものである。本明細書に示すCIELAB L
*a
*b
*値およびCIELCH L
*C
*h°値は、全ての例において、別段の定めがない限り、Konica Minolta Spectrophotometer CM−3500dを透過モードで操作し、(CIE)標準の光D65を使用し、観察者の視線の角度を10°として観察したスペクトルデータから算出したものである。
【0052】
L
*a
*b
*値は、3次元デカルト座標系上に定められる座標値の組からなる。L
*は明度、すなわち明るさの座標である。L
*は、縦軸上で黒(0L
*単位)から白(100L
*単位)まで変化する明るさの尺度を与える。a
*およびb
*は、色相および彩度の両方に関連する座標である。a
*は、緑味が強い側(−a
*単位)から赤味が強い側(+a
*単位)まで変化する尺度を与え、その中間である中点(0a
*単位)が横軸上にある。b
*は、青味が強い側(−b
*単位)から黄味が強い側(+b
*単位)まで変化する尺度を与え、その中間である中点(0b
*単位)は、第1の横軸と垂直な第2の横軸上にある。この3本の軸は、L
*の値が50となり、a
*およびb
*が両方共ゼロとなる位置で交差する。
【0053】
L
*C
*h°値は、3次元円柱座標系上に定められる座標値の組からなる。L
*は明度、すなわち明るさの座標である。L
*は、縦軸上で黒(0L
*単位)から白(100L
*単位)まで変化する尺度を与える。h°は色相座標である。h°は、L
*軸に対し半時計方向に回転する0°〜360°の角度で指定される。純粋な赤色は色相角が0°であり、純粋な黄色は色相角が90°であり、純粋な緑色は色相角が180°であり、純粋な青色は色相角が270°である。C
*座標は彩度を表し、L
*軸からの半径方向の距離として指定される。C
*は、L
*軸上(0C
*単位)にある無彩色(achromatic)、すなわち無色(neutral)である白、灰色または黒から、より純度の高い色相まで変化する尺度を与える(座標がL
*軸から離れるほど(100まで、またはC
*単位がより高いほど)色相の純度が高くなる)。C
*およびh°は、a
*およびb
*から式1および式2を用いて求めることができる:
【0056】
「デルタE」「ΔE
ab*」または「ΔE」は、CIELAB L
*a
*b
*色空間上に表される2つの色の総合的な色差の大きさの指標である。2色間のΔEが約2.3以下になると、熟練した色観察者がこの2色を区別できなくなると報告されている。L
*a
*b
*値がL
*1a
*1b
*1およびL
*2a
*2b
*2である異なる2色のΔEは式3を用いて求められる:
【0058】
FD&C Blue No.1の7つの異なる濃度の水溶液のCIELAB L
*a
*b
*値およびCIELCH L
*C
*h°値を表1に示す。
【0060】
FD&C Blue No.1に関するこれらのL
*a
*b
*値およびL
*C
*h°値は、FD&C Blue No.1の代替品となる天然の青色着色料が標的とする理想的な値を示している。天然の青色着色料が、これらの標的値に対するΔEが2.3以内にあるL
*a
*b
*値を有する場合、この着色料が呈する色特性は、FD&C Blue No.1が呈する色特性と十分に類似しており、肉眼では天然着色料および合成着色料が呈する色の差を区別することができないと期待されるであろう。天然の青色着色料のL
*a
*b
*値が合成着色料の標的値に近くなるほど(すなわち、ΔEの値が小さくなるほど)、その天然の青色着色料はFD&C Blue No.1の可食性代替品として適したものになることは明白である。
【0061】
図1は、表1に記載した7つの濃度のFD&C Blue No.1の水溶液のL
*a
*b
*値を線分で結んだ3次元表色系の2つの透視図を示すものである。
図2は、表1に記載した7つの濃度のFD&C Blue No.1の水溶液のL
*C
*h°値を線分で結んだ3次元表色系の2つの透視図を示すものである。
【0062】
数学モデルを作成することによって、L
*a
*b
*およびL
*C
*h°色空間における任意の濃度のFD&C Blue No.1が呈する色特性を表すことができる。例えば、色特性を、表1に示すL
*a
*b
*またはL
*C
*h°のデータ点を結ぶ線分モデル(segmented line model)で表すことができる。L
*a
*b
*空間におけるFD&C Blue No.1の2つの異なる濃度を表す2点(P
1およびP
2)間を結ぶ線(L)は、次式4から求めることができる:
【0064】
(式中、P
1は(L
*1、a
*1、b
*1)であり;P2は(L
*2、a
*2、b
*2)であり;tは任意の実数である)。
【0065】
したがって、L
*a
*b
*色空間におけるFD&C Blue No.1の線分モデルは、7つの異なる濃度の点に対応するL
*a
*b
*値に基づき、次に示すように式4を用いて内挿することができる:
500〜1000ppmの間の濃度においては(0<t<1):
L
*=10.49+13.58
*t
a
*=15.82+−6.02
*t
b
*=−44.99+−13.19
*t
100〜500ppmの間の濃度においては(0<t<1):
L
*=24.07+28.36
*t
a
*=9.80+−39.37
*t
b
*=−58.18+0.80
*t
50〜100ppmの間の濃度においては(0<t<1):
L
*=52.43+11.21
*t
a
*=−29.57+−14.14
*t
b
*=−57.38+9.07
*t
10〜50ppmの間の濃度においては(0<t<1):
L
*=63.64+20.61
*t
a
*=−43.71+6.48
*t
b
*=−48.31+24.89
*t
5〜10ppmの間の濃度においては(0<t<1):
L
*=84.25+6.40
*t
a
*=−37.23+12.83
*t
b
*=−23.42+9.14
*t
1〜5ppmの間の濃度においては(0<t<1):
L
*=90.65+7.04
*t
a
*=−24.40+17.97
*t
b
*=−14.28+10.71
*t
図1に、L
*a
*b
*空間におけるFD&C Blue No.1の線分モデルを示す。
【0066】
さらに、FD&C Blue No.1モデルに対するΔEが特定の範囲内にあるL
*a
*b
*値を有する色をL
*a
*b
*色空間内で数学的にモデル化することができる。FD&C Blue No.1に対する特定のΔE値、例えば3を選択し、L
*a
*b
*色空間においてこのΔEをプロットすることにより、
図3に示すように、FD&C Blue No.1モデルの周囲に円筒状の構造が生成する。このモデル上の任意の点からのΔE値が約2.3以下である色は全て、FD&C Blue No.1が呈する色と区別できなくなることに注目されたい。
【0067】
L
*a
*b
*色空間内の点(X
0)がFD&C Blue No.1モデルから特定のΔE値の範囲内にあるか否かを確認するためには、この点およびモデル(X
1からX
2への線分で表される)間の最短距離d
minを求めることが必要である。
【0068】
d
minは式5を用いて求めることができる:
【0070】
(式中、×は、2つのベクトルのクロス積を表し、縦棒はベクトルの絶対値を表す)。d
minの値が選択されたΔE値以下であった場合、そのL
*a
*b
*色空間の点は、FD&C Blue No.1モデルに対し特定のΔE値の範囲内にある。
【0071】
例えば、Spirulina Blueが呈する色が、FD&C Blue No.1が呈する色と比較してΔEが12以下であるか否かを判断することができる。表2に、公知の天然青色着色料であるSpirulina Blueの2つの異なる濃度の水溶液が呈する色特性を示す:
【0073】
Spirulina Blueを404.8mg/L含む溶液のL
*a
*b
*色空間におけるX
0は:
X
0=(69.97,−29.69,−43.56)
である。Spirulina Blueを206mg/L含む溶液のL
*a
*b
*色空間におけるX
0は:
X
0=(80.3,−23.97,−29.39)
である。
【0074】
X
1およびX
2は、FD&C Blue No.1モデルからの、濃度がそれぞれ10ppmおよび50ppmの水溶液の2点である:
X
1=(63.64,−43.71,−48.31)
X
2=(84.25,−37.23,−23.24)
式5から求められるd
minは、404.8mg/LのSpirulina Blue溶液については12.4であり、206mg/LのSpirulina Blue溶液については14.4である。したがって、FD&C Blue No.1を10ppmおよび50ppmを含む水溶液のL
*a
*b
*値により定められる線分に対し測定を行った場合、Spirulina Blue溶液の呈する色は、FD&C Blue No.1の水溶液が呈する色と比較してΔEが12以下にはならない。
【0075】
表3に、Spirulina Blueの複数の異なる溶液について求めた分光特性を示す。
【0077】
Spirulina BlueおよびFD&C Blue No.1の呈する色特性の差を
図5に示す。
図5は、L
*a
*b
*色空間におけるFD&C Blue No.1の水溶液(濃度1ppm〜1000ppm)の色特性の線分モデルを示しており、このモデルが、Blue No.1が呈する色との差ΔEが3以下である色の範囲を表す円筒で囲まれている。比較のため、
図5には、L
*a
*b
*色空間におけるSpirulina Blueの水溶液(濃度50ppm〜400ppm)が呈する色特性の線分モデルも示す。Spirulina Blueモデルは、L
*a
*b
*色空間において、Blue No.1モデルとも、これに付随する円筒とも、いかなる点でも交差しない。
【0078】
本発明は、野菜、果物またはこれらの組合せを供給源とする天然の青色アントシアニン含有着色料であって、この着色料は、選択的に分離されたアントシアニンの混合物を含み、この着色料を少なくとも1つの濃度で含むpH8.0の水溶液が示す色特性と、FD&C Blue No.1を5ppmおよび10ppmで含む水溶液のL
*a
*b
*値により定められる線分により定められる色特性とを比較すると、ΔE値が12以下である、着色料を含む。他の実施形態においては、ΔE値は11未満、10未満、9未満、8未満、7未満、6未満、5未満、4未満または3未満とすることができる。所望により、少なくとも1つの濃度の着色料について、FD&C Blue No.1を異なる複数の濃度で含む水溶液により定められる複数の線分(例えば、1および5ppm、10ppmおよび50ppm、50ppmおよび100ppm、100ppmおよび500ppm、500ppmおよび1000ppmまたはこれらから選択される任意の組合せ)に対する測定を行うこともできる。例えば、必要というわけではないが、少なくとも1つの濃度の着色料を、5ppm〜10ppmの第1線分に対しΔE値が12以下であり、1〜5ppmの線分に対しΔE値が8以下であり、10ppm〜50ppmの線分に対しΔE値が12以下であると定めることができる。しかしながら、本発明の着色料を表すためにΔE値を用いる場合、本発明の着色料を定めるために必要な線分は1本のみである。
【0079】
Spirulina Blueは、FD&C Blue No.1との色の整合性(color match)が高い天然の着色料と見なされているが、野菜、果物またはこれらの組合せを供給源とし、選択的に分離されたアントシアニンの混合物を含む天然青色アントシアニン含有着色料は、Spirulina Blueよりも色の整合性が高い。具体的には、本発明の着色料の少なくとも1つの濃度のpH8.0の水溶液が呈する色特性は、L
*a
*b
*色空間において異なる複数の濃度のFD&C Blue No.1の水溶液の組に基づき定められるFD&C Blue No.1の線分と整合する。ここで整合するとは、FD&C Blue No.1線分に対し測定された、本発明の着色料の少なくとも1つの濃度のpH8.0の水溶液のΔE値が、同じL
*a
*b
*色空間においてFD&C Blue No.1線分に対し測定された、異なる複数の濃度のSpirulina Blue水溶液の組に基づき定められるSpirulina Blue線分のΔE値と比較して、少なくとも1単位小さいことを意味する。他の実施形態においては、FD&C Blue No.1の線分に対し測定された、本発明の着色料の少なくとも1つの濃度のpH8.0の水溶液のΔE値は、Spirulina Blueの線分の、FD&C Blue No.1の線分に対し測定されたΔE値と比較して、少なくとも2、3、4、5または6単位小さい。さらなる他の実施形態においては、FD&C Blue No.1の線分に対し測定された、本発明の着色料の少なくとも1つの濃度のpH8.0の水溶液のΔE値は、Spirulina Blueの線分の、FD&C Blue No.1の線分に対し測定されたΔE値と比較して、少なくとも7、8、9、10または11単位小さい。
【0080】
合成青色着色料であるFD&C Blue No.1が呈する色特性に最も近い色特性を呈するであろうアントシアニンの供給源を確認するために、アントシアニンを含有する様々な果物および野菜の抽出物を分析した。
図4は、紫キャベツ、紫イモ、黒ニンジン、ラディッシュ、紫トウモロコシおよびブドウの6つの異なる市販の抽出物の、5つの異なるpH値の水溶液を比較したものである。視覚的には、ラディッシュ、紫トウモロコシおよびブドウに由来するアントシアニンはpH6〜pH8の範囲のどのpHにおいても水溶液中で青色の色相を呈しなかったことがわかる。紫キャベツ、紫イモおよび黒ニンジン由来のアントシアニンは、上記pH範囲の高pH側の水溶液では青色の色相を呈した。
【0081】
4以上のpH値で青色の色相を呈するあらゆるアントシアニン含有果物または野菜の汁または抽出物をアントシアニン供給源として使用することができる。幾つかの実施形態においては、アントシアニン画分は、紫キャベツ、紫イモ、紫ジャガイモ、紫ニンジンもしくは黒ニンジンまたはこれらの組合せの抽出物から単離される。紫キャベツは高い効果を現す上に、入手が容易である。
【0082】
アントシアニンを含有する果物および野菜の汁および抽出物の選択された画分は、イオン交換カラムまたはセミ分取HPLCカラムを用いて単離することができる。好適なイオン交換媒体は、陽イオン交換媒体および陰イオン交換媒体を含む。好適なセミ分取HPLCカラムとしては、C18カラムが挙げられる。一実施形態においては、イオン交換カラムは、野菜または果物の汁または抽出物を投入する前に、イオン交換媒体が適切な溶媒で活性化される。
【0083】
アントシアニン含有画分は、アントシアニンを含有する野菜または果物の汁または抽出物から、pHが少なくとも約2、好ましくは少なくとも約4の溶媒を用いて分離される。幾つかの実施形態においては、アントシアニン画分は、pHが約2〜約9の溶媒を用いて分離される。他の実施形態においては、アントシアニン画分は、pHが約3〜約9の溶媒を用いて分離される。他の実施形態においては、アントシアニン画分はpHが約4〜約9の溶媒を用いて分離される。他の実施形態においては、アントシアニン画分は、pHが約5〜約9の溶媒を用いて分離される。他の実施形態においては、アントシアニン画分は、pHが約6〜約9の溶媒を用いて分離される。他の実施形態においては、アントシアニン画分は、pHが約7〜約9の溶媒を用いて分離される。
【0084】
選択された画分を溶出するために好適な溶媒は、カラム媒体の極性およびアントシアニンを含有する汁または抽出物の溶解性に依存し、メタノール、アセトニトリル、水およびこれらの混合物が挙げられる。幾つかの実施形態においては、溶媒は、メタノール水溶液である。
【0085】
pHを調整するために溶媒に添加することができる好適な試剤としては、リン酸カリウムや水酸化ナトリウム等が挙げられる。
【0086】
イオン交換カラムまたはセミ分取HPLCカラムを用いてアントシアニン画分をさらに分画することによって、さらなるアントシアニン画分を単離することができる。好適なセミ分取HPLCカラムとしては、C18カラムが挙げられる。
【0087】
一実施形態においては、単離された画分またはその組合せは、アントシアニンを含有する野菜、果物またはその抽出物を供給源とし、アントシアニン分子の極性の差に基づきイオン交換カラム上で選択的に分離されたアントシアニンを含む天然青色アントシアニン含有着色料を提供する。
【0088】
他の実施形態においては、本発明の天然の青色アントシアニン含有着色料は、アントシアニンの天然の野菜または果物供給源から、イオン交換カラム上で選択的に分離することによって単離され、この天然の青色アントシアニン含有着色料は:
a)活性化されたイオン交換カラムにアントシアニンを含有する野菜または果物の汁もしくは抽出物またはこれらの組合せを投入するステップと;
b)投入されたカラムをpH8の水溶液で洗浄するステップと;
c)第1画分をpH8のメタノール溶液(25%v/v)で溶出するステップと;
d)天然の青色アントシアニン含有着色料をpH8のメタノール溶液(70%v/v)で溶出し、場合により、天然の青色アントシアニン含有着色料を精製および濃縮するステップと
を含むプロセスにより製造される。
【0089】
他の実施形態においては、本発明の天然の青色アントシアニン含有着色料は、アントシアニンの天然の供給源からイオン交換カラム上で選択的に分離することによって単離され、この天然のアントシアニン含有着色料は:
a)活性化されたイオン交換カラムにアントシアニンを含有する野菜または果物の汁もしくは抽出物またはこれらの組合せを投入するステップと;
b)投入されたカラムをpH6の水溶液で洗浄するステップと;
c)第1画分をpH6のメタノール溶液(25%v/v)で溶出するステップと;
d)投入されたカラムをpH7の水溶液で洗浄するステップと;
e)第2画分をpH7のメタノール溶液(25%v/v)で溶出するステップと;
f)投入されたカラムをpH8の水溶液で洗浄するステップと;
g)第3画分をpH8のメタノール溶液(25%v/v)で溶出するステップと;
h)天然青色アントシアニン含有着色料をpH8のメタノール溶液(70%v/v)で溶出し、場合により、天然青色アントシアニン含有着色料を精製および濃縮するステップと
を含むプロセスによって製造される。
【0090】
他の実施形態においては、本発明の天然の青色アントシアニン含有着色料は、セミ分取HPLCで選択的に分離された紫キャベツアントシアニンを含み、この着色料のpH8.0の水溶液の吸収極大は620nm〜635nmにある。
【0091】
単離されたアントシアニン含有画分は着色料として使用することができ、あるいは、例えば、精製、濃縮、脱臭または色調安定化によりさらに処理することもできる。
【0092】
天然の青色アントシアニン含有着色料は、人間および動物用食品、飲料および医薬品を含むあらゆる種類の可食製品に適用または添加することができる。可食製品の例としては、ペットフードおよびペットのおやつ、乾物(例えば、米、穀粒(grains)およびシリアル(cereals))、スープおよびソース、菓子製品(例えば、チョコレート,あらゆる種類のシュガーキャンディおよびシュガーレスキャンディ、スナックバー(candybar)、チューイングガムならびにドラジェ)、デザート製品(例えば、プディング、フロスティング(frosting)、アイシング(icing)およびトッピング)、焼成品(例えば、ケーキ、クッキー,ウエハースおよびビスケット)、乳製品(例えば、ヨーグルト、ホイップクリームおよびチーズ)、飲料(例えば、乳製品をベースとする飲料(dairy−based drink)、水、果汁/野菜汁、紅茶および炭酸水)、スナック製品(例えば、クラッカー、シリアルバー(snack bar)、プレッツェルおよびポテトチップ)および医薬品剤型(例えば、錠剤、懸濁剤、チュアブル錠およびシロップ剤)が挙げられる。天然の青色アントシアニン含有着色料はまた、食用着色組成物、食用着色被覆および食用着色インクに添加することもできる。一実施形態においては、青色アントシアニン含有着色料は、菓子製品の表面に適用される被覆またはインクに含まれる。他の実施形態においては、青色アントシアニン含有着色料は、菓子製品の表面に適用される被覆またはインク中に含まれ、菓子製品は、砂糖ベースのコーティングでソフトパンコーティング(soft panned)またはハードパンコーティング(hard panned)される菓子製品の芯である。他の実施形態においては、青色アントシアニン含有着色料は、菓子製品の表面に適用される被覆またはインク中に含まれ、菓子製品は、シュガーレスコーティングでソフトパンコーティングまたはハードパンコーティングされる菓子製品の芯である。
【0093】
一実施形態において、天然の青色アントシアニン含有着色料は、紫キャベツ抽出物を、強陽イオン交換カラムを用いて分画することによって調製される。第1画分は、pH8の0.1M水性リン酸カリウム緩衝液(75%v/v)およびメタノール(25%v/v)の混合物である第1溶出溶媒溶液を用いて溶出される。第2画分は、pH8の0.1Mリン酸カリウム緩衝液(30%v/v)およびメタノール(70%v/v)の混合物である第2溶出溶媒溶液で溶出される。
【0094】
他の実施形態においては、天然の青色アントシアニン含有着色料は、強陽イオン交換カラムを用いて紫キャベツ抽出物を分画することによって調製される。第1画分は、pH6の0.1Mリン酸カリウム緩衝液(75%v/v)およびメタノール(25%v/v)を用いて溶出される。第2画分は、pH7の0.1Mリン酸カリウム緩衝液(75%v/v)およびメタノール(25%v/v)を用いて溶出される。第3画分は、pH8の0.1Mリン酸カリウム緩衝液(75%v/v)およびメタノール(25%v/v)を用いて溶出される。第4画分は、pH8の0.1Mリン酸カリウム緩衝液(30%v/v)およびメタノール(70%v/v)を用いて溶出される。
【0095】
他の実施形態において、天然の青色アントシアニン含有着色料は、紫キャベツ抽出物からC18セミ分取HPLCカラムを用いて分離される。
【0096】
本発明のアントシアニン含有着色料は、合成青色着色料であるFD&C Blue No.1が呈する色特性に類似した色特性を呈する天然の青色着色料を求める長年に亘る要求に応えるものである。
【0097】
ここで以下の実施例を参照しながら本発明の具体的な実施形態を示す。これらの実施例は本発明を例示することのみを目的として開示されるものであり、本発明の範囲に包含される変形形態も同じである。
【実施例】
【0098】
実施例1
強陽イオン交換カートリッジを用いた紫キャベツ抽出物の分画
Phenomenex(登録商標)(Torrance,CA)からのSCX(強陽イオン交換)固相抽出カートリッジを純粋なメタノールを用いて活性化した。このカートリッジを酸性化した水(0.01%v/v)を用いて洗浄した。紫キャベツ抽出物の水溶液をカートリッジに投入し、酸性化した水(0.01%v/v)で洗浄した。カートリッジにpH8のリン酸カリウム緩衝液(0.1M)を通過させた。画分1をpH8のメタノール溶液(25%v/v)で溶出し、回収した。画分2をpH8のメタノール溶液(70%v/v)で溶出し、回収した。
【0099】
画分1および2をギ酸(88%v/v)2〜5mlで酸性化した。ロータリーエバポレータを用いてメタノールを除去した。
【0100】
塩を除去するために、画分1をC18カートリッジに投入し、酸性化水(0.01%v/v)で溶出した。溶出液を酸性化水(0.01%v/v)中に回収し、残留メタノールを蒸発させた。画分2も、画分1に関し略述したプロセスと同様にしてC18カートリッジを通過させた。
【0101】
紫キャベツ抽出物溶液(RCE)ならびに画分1および2が呈するUV/VIS極大吸収波長および色特性を、下の表
4に示す異なるpH値で分析した。スペクトルデータはKonica Minolta Spectrophotometer CM−3500dを使用し、透過モードで取得した。(CIE)標準の光D65を使用し、観察者の視線の角度を10°として取得した。
【0102】
【表4】
【0103】
合成FD&C Blue No.1(λ
max=630nm)に最も近かったのは、pH7.6およびpH8.0における画分2のλ
max値であった、すなわちλ
max値はそれぞれ616.40および619.40であった。
【0104】
画分2がpH7.6およびpH8.0で呈する色特性を合成FD&C Blue No.1が呈する色特性と比較するためにΔE値を算出することもできる。ΔE値は、L
*a
*b
*色空間における画分2の色の位置とFD&C Blue No.1モデルとの最短距離に相当する。したがって、次に示すデータから、式5を用いて、d
minすなわちΔE値を求めることができる:
L
*a
*b
*色空間におけるpH7.6の画分2のX
0:
X
0=(91.62,−4.17,−5.68)
L
*a
*b
*色空間におけるpH8.0の画分2のX
0は:
X
0=(91.56,−5.80,−5.81)
X
1およびX
2は、FD&C Blue No.1モデルからの2点である:
X
1=(90.65,−24.40,−14.28)
X
2=(97.69,−6.43,−3.57)
d
minすなわちΔE値の計算値は、pH7.6の画分2が6.7であり、pH8.0の画分2が6.0である。
【0105】
図6に、紫キャベツ抽出物溶液(RCE)ならびに画分1および2のHPLCクロマトグラム(検出波長520nm)を示す。
図6から、紫キャベツ抽出物溶液由来の画分2の後半に溶出するピークがより濃度が高いことが分かる。
【0106】
実施例2
強陽イオン交換カートリッジおよび異なる高pH値の溶媒を用いた紫キャベツ抽出物の分画
Phenomenex(登録商標)(Torrance,CA)からのSCX(強陽イオン交換)固相抽出カートリッジを使用した。酸性化水(0.01%v/v)(10〜15ml)で希釈した紫キャベツ抽出物をカートリッジに投入し、酸性化水(0.01%v/v)で洗浄した。カートリッジにpH6のリン酸カリウム緩衝液(0.1M)を通過させた。pH6のメタノール溶液(25%v/v)を用いて画分1を溶出し、回収した。カートリッジにpH7のリン酸カリウム緩衝液(0.1M)を通過させた。画分2をpH7のメタノール溶液(25%v/v)を用いて溶出し、回収した。カートリッジにpH8のリン酸カリウム緩衝液(0.1M)を通過させた。画分3をpH8のメタノール溶液(25%v/v)を用いて溶出し、回収した。画分4をpH8のメタノール溶液(70%v/v)を用いて溶出し、回収した。
【0107】
画分1〜4をギ酸(20%v/v)で酸性化した。メタノールをロータリーエバポレータで除去した。
【0108】
塩を洗浄するために、画分1をC18カートリッジに投入し、酸性化水(0.01%v/v)で洗浄した。溶出液を酸性化水(0.01%v/v)で回収し、残留メタノールを蒸発させた。画分2〜4も画分1に関し略述した手順と同様にしてC18カートリッジを通過させた。
【0109】
紫キャベツ抽出物溶液(RCE)ならびに画分1〜4が呈するUV/VIS極大吸収波長および色特性を次の表
5に示す異なるpH値で分析した。
【0110】
【表5】
【0111】
合成FD&C Blue No.1(λ
max=630nm)に最も近かったのは、画分4のpH8.0のλ
max値であった、すなわちλ
max値は622.2であった。
【0112】
画分4がpH8.0で呈する色特性を合成FD&C Blue No.1の色特性と比較するためにΔE値を算出することもできる。ΔE値は、L
*a
*b
*色空間における画分4の色の位置とFD&C Blue No.1モデルとの最短距離に相当する。したがって、次に示すデータから、式5を用いて、d
minすなわちΔE値が求められる:
L
*a
*b
*色空間におけるpH8.0の画分4のX
0:
X
0=(90.08,−7.87,−7.20)
X
1およびX
2はFD&C Blue No.1モデルからの2点である:
X
1=(90.65,−24.40,−14.28)
X
2=(97.69,−6.43,−3.57)
d
minすなわちΔE値の計算値は、pH8.0の画分4が6.7である。
【0113】
図7に、紫キャベツ抽出物溶液(RCE)および画分1〜4のHPLCクロマトグラム(検出波長520nm)を示す。
図7は、紫キャベツ抽出物溶液の画分4の後半に溶出するピークの濃度がより高いことを示している。
【0114】
実施例3
セミ分取HPLCを用いた紫キャベツ抽出物ピーク群の分離
図8のクロマトグラムに示す2つの特定のピーク群に付随する画分を、セミ分取HPLCを用いて紫キャベツ抽出物溶液から分離し、回収することができる。紫キャベツ抽出物溶液をC18セミ分取HPLCカートリッジに投入し、2つの画分すなわち520nm画分(λ
max=524nm)および530nm画分(λ
max=532nm)を酸性アセトニトリルおよび水のグラジエント溶出によって溶出した。ロータリーエバポレータを用いて各画分から残留アセトニトリルを蒸発させた。
【0115】
色の特性評価を行った。画分の濃度を調整し、別々の画分の分取液を緩衝液と混合して、pH6、6.6、7、7.6および8の5つの分取液を作製した。520nmおよび530nm画分の分取液のUV/VIS極大吸収波長および色特性を分析した。結果を表
6に示す。
【0116】
【表6】
【0117】
530nm画分はpH7.6およびpH8.0で約621nmに極大吸収を示し、そのλ
maxは、合成FD&C Blue No.1の極大吸収(λ
max=630nm)に最も近かった。
【0118】
pH7.6およびpH8.0の530nm画分が呈する色特性を合成FD&C Blue No.1と比較するためにΔE値を求めることができる。ΔE値は、530nm画分のL
*a
*b
*色空間における色の位置とFD&C Blue No.1モデルとの最短距離に相当する。したがって、次に示すデータから、式5を用いて、d
minすなわちΔE値が求められる:
L
*a
*b
*色空間におけるpH7.6の530nm画分のX
0:
X
0=(87.67,−5.44,−9.90)
L
*a
*b
*色空間におけるpH8.0の530nm画分のX
0:
X
0=(86.39,−11.79,−11.98)
X
1およびX
2はFD&C Blue No.1モデルからの2点である:
X
1=(84.25,−37.23,−23.42)
X
2=(90.65,−24.40,−14.28)
d
minすなわちΔE値の計算値は、pH7.6の530nm画分が12.1、pH8.0の530nm画分が9.9である。
【0119】
図9は、異なるpH値の520nmおよび530nm画分を視覚的に比較するものである。520nm画分の濃度は107.7mg/L(Cyn−3−glu)であり、530nm画分の濃度は55.6mg/Lである(Cyn−3−glu)。中性およびより高いpHにおいては、530nm画分の彩度は、着色料の濃度が半分でも520nm画分の2〜4倍(C
*により測定)となることが分かる。
【0120】
図10に、紫キャベツ抽出物溶液ならびに520nmおよび530nm画分のHPLCクロマトグラム(検出波長520nm)を示す。
図10は、各画分が3種類の明らかに異なるアントシアニン化合物を含むことを示している。
【0121】
比較例1
国際公開第2004/012526号の実施例に開示されている幾つかの異なる濃度の紫キャベツアントシアニン溶液をpH8.0で調製した。分離されたアントシアニン含有着色料を分離および回収するための分画は行われていなかった。結果として得られた溶液の極大吸収は610nmであった。この色は、FD&C Blue No.1との整合性という観点では、許容されるものとは見なされなかった。