(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5981730
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】電磁波シールド樹脂成型品の製造方法および電磁波シールド樹脂成型品
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20160818BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
H05K9/00 D
B29C45/14
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-45462(P2012-45462)
(22)【出願日】2012年3月1日
(65)【公開番号】特開2013-182999(P2013-182999A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2015年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】片岡 久尚
【審査官】
遠藤 秀明
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭64−022098(JP,A)
【文献】
特開平03−234094(JP,A)
【文献】
特開平05−347493(JP,A)
【文献】
特開昭61−240698(JP,A)
【文献】
特開昭61−063445(JP,A)
【文献】
特開2002−319790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B29C 45/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維からなる布帛の表面に金属被膜を形成して導電性布帛とする工程と、
前記導電性布帛に絶縁性シートを積層し貼り合わせて導電性シートとなす工程と、
前記導電性シートをその絶縁性シート側が外側となるように第一の成型金型の側に配置した後に、第二の成型金型を型締めする工程と、
型締めされた第一および第二の成型金型のキャビティに、導電性シートの導電性布帛の側から射出樹脂を射出する工程と、
を備え、前記第一の成型金型または前記第二の成型金型に穿孔形成部が設けられていることを特徴とする電磁波シールド樹脂成型品の製造方法。
【請求項2】
前記絶縁性シートが熱可塑性合成樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1に記載の電磁波シールド樹脂成型品の製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性合成樹脂フィルムが前記射出樹脂に対し親和性を有することを特徴とする請求項2に記載の電磁波シールド樹脂成型品の製造方法。
【請求項4】
前記絶縁性シートが熱可塑性合成繊維からなる布帛であることを特徴とする請求項1に記載の電磁波シールド樹脂成型品の製造方法。
【請求項5】
絶縁性シート、合成繊維からなる布帛の表面に金属被膜を形成した導電性布帛および射出樹脂がこの順に積層され成型された電磁波シールド樹脂成型品であって、前記射出樹脂の一部に穿孔が設けられ導電性布帛が露出していることを特徴とする電磁波シールド樹脂成型品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電磁波シールド性能を有する樹脂成型品の製造方法に関する。また、電磁波シールド性能を有する樹脂成型品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器のデジタル化・高速化が進み、その電子回路は電磁波ノイズに対して脆弱になってきた。また、回路が高集積・高速動作となり、回路基板のいたるところが電磁波ノイズの発生源となっている。電子回路から発生する電磁波ノイズを機器外部に漏らさないために、また、外部からの電磁波ノイズに対して電子回路を保護するために、電子回路基板は電磁波を遮蔽する能力を有する筐体の中に収められている。
【0003】
電磁波を遮蔽する能力に優れた材料として、電気伝導性の高い材料、つまり金属材料が知られている。金属材料に照射された電磁波は、その殆どが金属材料の表面で反射されて、金属材料を透過することはない。従って、電子回路を収める電磁波遮蔽性の筐体には、金属材料が用いられることが多い。例えば、プラズマディスプレイパネルおよびその制御回路基板や自動車のECU(電子制御ユニット)などは、金属材料からなる筐体の中に収められている。このような筐体は、亜鉛メッキ鋼板の曲げ・プレス加工や、アルミニウム鋳造などによって製造される。
【0004】
一方、ラップトップ型パーソナルコンピュータや携帯電話などの筐体は、その複雑なデザインを実現するために、合成樹脂の射出成型品を採用することが多い。このような合成樹脂の射出成型品についても電磁波遮蔽の目的で、その内部に金属がコーティングされていたり、金属箔が貼り付けられたりしている。(特許文献1)
【0005】
また、特許文献2では、射出成型時に電磁波シールド繊維からなる軟質性メッシュ状物を配置した後に射出樹脂を射出して成型品を得る製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−291777号公報
【特許文献2】特開平11−292050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の金属材料で作成された筐体は、電磁波遮蔽性に優れているが重量が重くなるという欠点があった。薄型テレビであっても、プラズマディスプレイパネルやその制御回路基板が金属材料からなる筐体に収められていると、大画面化に伴ってその重量は増大してしまう。また、電気自動車やハイブリッドカーの普及により、車載用途においても金属筐体に変わるものとして、軽量で電磁波遮蔽性を有した樹脂成型品が期待されている。
【0008】
一方、合成樹脂の射出成型品に無電解メッキなどの手法により金属層がコーティングされた筐体は、複雑な形状を実現可能であり、金属材料に比べて軽量化ができる。しかしながら、合成樹脂の表面に薄い金属層が設けられているだけであるために、電磁波遮蔽性に劣り、しかも、この薄い金属層は磨耗、衝撃などにより容易に剥がれてしまうという欠点があった。また、成型後の筐体ひとつひとつに金属層をコーティングするという工程が必要であり、高い電磁波遮蔽性を与える為には金属層の厚塗りが必要となるなど、生産性の低いものであった。
【0009】
更に、合成樹脂の射出成型品の内面に金属箔を貼り付けた筐体の場合は、筐体内面の隅々にまで金属箔を貼り付けることが困難であり、シワや破れによって電磁波の漏れる隙間が出来てしまうという欠点があった。しかも、複雑な形状の筐体となればなるほど、金属箔を貼り付ける工程が煩雑となり、自動化も困難となるので非常に生産性の低いものであった。
【0010】
特許文献2に開示される製造方法によれば、簡単な工程で電磁波シールドされた樹脂成型品を得ることができるが、成型品の形状が複雑な場合、電磁波シールド繊維が形状に追従できず破れてしまうという問題があった。また電磁波シールド繊維が成型品の一方の面に完全に露出している場合、内部の電気回路との短絡、更には耐摩耗性、耐衝撃性、耐水性などの耐久性に劣るといった問題も懸念される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、予め導電性布帛と絶縁性シートとを積層し、一定形状に裁断されたシートの状態とし、ここに導電性布帛の側から射出樹脂を射出させて成型し、絶縁性シートと射出樹脂とで導電性布帛をサンドイッチすることにより、軽量で、高い形状安定性を有し、導電性布帛の保護もなされた電磁波シールド樹脂成型品を高効率で安価に製造すること得ることができることを見出した。
【0012】
すなわち本発明は、合成繊維からなる布帛の表面に金属被膜を形成して導電性布帛とする工程と、前記導電性布帛に絶縁性シートを積層し貼り合わせて導電性シートとなす工程と、前記導電性シートをその絶縁性シート側が外側となるように第一の成型金型の側に配置した後に、第二の成型金型を型締めする工程と、型締めされた第一および第二の成型金型のキャビティに、導電性シートの導電性布帛の側から射出樹脂を射出する工程と、を備えることを特徴とする電磁波シールド樹脂成型品の製造方法である。
【0013】
前記第一の成型金型または前記第二の成型金型に
は穿孔形成部が
設けられている。これによれば、射出樹脂側に穿孔が形成され、導電性布帛が露出した部分が設けられるため、グラウンドを取ることが容易な電磁波シールド樹脂成型品を得ることができる。
【0014】
本発明において、前記絶縁性シートは熱可塑性合成樹脂フィルムであってもよいし、熱可塑性合成繊維からなる布帛であってもよい。また、前記熱可塑性合成樹脂フィルムが前記射出樹脂に対して親和性を有するものであってもよい。これによれば、絶縁シートと射出樹脂とが強固に密着し、形状安定性の高い電磁波シールド樹脂成型品を得ることができる。
【0015】
本発明の電磁波シールド樹脂成型品は
、絶縁性シート、合成繊維からなる布帛の表面に金属被膜を形成した導電性布帛および射出樹脂の順に積層され成型された電磁波シールド樹脂成型品であって、前記射出樹脂の一部に穿孔が設けられ導電性布帛が露出していることを特徴とする電磁波シールド樹脂成型品である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電磁波シールド樹脂成型品の製造方法によれば、軽量で電磁波シールド性能の高い電磁波シールド樹脂成型品を得ることができる。更に本発明の電磁波シールド樹脂成型品は、表面が絶縁層で保護され、導電性布帛が剥がれることがない、形状安定性の優れたものである。また、本発明の別の製造方法によれば、導電性布帛の一部のみが露出しているために、グラウンドを取ることが容易な電磁波シールド樹脂成型品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は本発明を構成する導電性シートの一例を示す図である。
【
図2】
図2は本発明を構成する導電性シートの別の例を示す図である。
【
図3】
図3は射出成型による本発明の電磁波シールド樹脂成型品の製造方法を説明する図である。
【
図4】
図4は本発明の電磁波シールド樹脂成型品の一例を示す図である。
【
図5】
図5は各評価試験を実施する際の試験片を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
導電性布帛を構成する合成繊維としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、液晶ポリエステル繊維などを使用することができる。これらの繊維を単独で、あるいは複合して織物、編物、不織布などとし、布帛を形成することができる。絶縁性シートや射出樹脂との密着性を高める目的で、布帛は適度な間隙を有することが好ましい。更にこの間隙は、布帛の一方の面から他方の面に貫通するような開口部を形成していることが好ましい。このような開口部には射出樹脂が浸透して強固に密着し、各種耐久性が向上するという効果が得られる。こうして得られた合成繊維からなる布帛に金属被膜を形成する方法としては、蒸着法、めっき法、スパッタリング法などが挙げられる。布帛に間隙や開口部が形成されている場合であっても、金属被膜が全体に均一に形成されるため、なかでもめっき法が好ましく採用される。金属被膜を構成する金属種としては、銅、ニッケル、銀、鉄、コバルト、金が挙げられ、原料コストと電磁波遮蔽性の両立という観点から、銅、ニッケルが好ましい。
【0019】
本発明で用いられる絶縁性シートはフィルムまたは布帛であることができる。また絶縁性シートは熱可塑性合成樹脂フィルムまたは熱可塑性合成繊維からなる布帛であってもよい。絶縁性シートが熱可塑性を有すると導電性布帛と積層して貼り合わせる際に加熱することで強固に密着させることが可能となる。また、射出樹脂の熱によって可塑性を発揮し、より精密な形状の成型品を得ることができる。更に製造された成型品の形状が安定するという効果も得られる。熱可塑性合成樹脂フィルムの材質としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリウレタン樹脂が挙げられる。また、熱可塑性合成繊維としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維が挙げられる。
【0020】
導電性布帛と絶縁性シートとを積層して貼り合わせる方法としては、ホットメルトや接着剤を用いて接着する方法がある。また熱可塑性合成樹脂フィルムや熱可塑性合成繊維からなる布帛からなる絶縁性シートを用いた場合には、加熱、加圧をすることにより可塑化した絶縁性シートを導電性布帛に密着させる方法も採用できる。更に絶縁性シートとして熱可塑性合成樹脂フィルムを用いる場合には、熱可塑性樹脂をTダイにて押出しながら導電性布帛に対してフィルムラミネートを施す手段を用いることもできる。
【0021】
射出樹脂としては、射出成型が可能な熱可塑性樹脂であれば特に限定はされないが、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ナイロン樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。また、これらの熱可塑性樹脂に繊維を分散させた繊維強化熱可塑性プラスチック(FRTP)も好適に用いられる。
【0022】
ここで絶縁性シートに用いられる樹脂と射出樹脂とは、互いに親和性を有することが好ましい。ここで言う親和性とは、加熱して可塑性を示した状態で両者を接触させた場合に、互いに混合し合い、その後冷却した状態でも良好に接着された状態を保つ性質を言うこととする。特に絶縁性シートと射出樹脂とが同じ系統の樹脂の組み合わせである場合、高い親和性を示すので好ましい。磨耗性、衝撃性に優れた絶縁性シートと射出樹脂とが高い親和性を有する組み合わせである場合、磨耗や衝撃に対して優れた樹脂成型品を得ることができる。
【0023】
次に図を参照して射出成型の手順を説明する。
図1は本発明を構成する導電性シートの一例を示す図である。導電性布帛1と絶縁性シート(熱可塑性合成樹脂フィルム)2が積層されて貼り合わされている状態である。同様に
図2は本発明を構成する導電性シートの別の例を示す図であって、絶縁性シート(熱可塑性合成繊維からなる布帛)4が導電性布帛1に積層され貼り合わされている。
【0024】
図3は本発明の射出成型による電磁波シールド樹脂成型品の製造方法を示す図である。
図3に示すように
図1あるいは
図2のように構成された導電性シート31(32)を第一の成型金型7の側に配置する。このとき、導電性シート31(32)を構成している絶縁性シートが外側になるように、つまり第一の成型金型7に絶縁シート側の面が接触するように配置する。このとき、導電性シート31(32)を固定する方法としては、粘着テープなどによって仮固定してもよい。絶縁性シートがフィルム状であって不通気である場合には、第一の成型金型7に設けられた貫通孔10をとおして吸引し、固定することもできる。
【0025】
その後、第一の成型金型7に第二の成型金型8を合わせて型締めし、その内部に、射出樹脂11を流し込む隙間となるキャビティ5を形成する。このキャビティ5に、第二の成型金型8に設けられた樹脂注入口9をとおして射出樹脂を流し込み、本発明の電磁波シールド樹脂成型品を得ることができる。この時、第一の成型金型7または第二の成型金型8に穿孔形成部6を設けることができる。
図3の例では第一の成型金型7に穿孔形成部6が設けられている。この場合、導電性シート31(32)も第一の成型金型7の側に固定されるので、導電性シート31(32)には穿孔形成部6が貫通する貫通孔が設けられる。ここで穿孔形成部6は、貫通孔部分で細く、第二の成型金型8側では太くなる形状であると、導電性シート31(32)の導電性布帛1側の表面を覆うこととなり、ここに射出樹脂11が流れこむのを防ぐことができる。穿孔形成部6は取り外し可能になっていて、導電性シート31を第一の成型金型7に固定した後に取り付けるようにすることができる。
このようにして導電性布帛1が露出した状態を形成することができる。
【0026】
あるいは、この穿孔形成部6は、第一の成型金型7と第二の成型金型8とを型締めした際に、その先端部分が導電性シート31の表面に接触するように、第二の成型金型8に設けられていてもよい。この場合、導電性シート31の導電性布帛1側に接触するだけでよく、導電性シート31に貫通孔を設ける必要がない。このような構造の穿孔形成部6を設けておくとこにより、樹脂成型品の射出樹脂側の一部に穿孔を形成することができる。この穿孔部分においては、導電性布帛1が露出している。この導電性布帛1の露出部分は、グラウンドを取るなどの電気的な接続ポイントとして利用することができる。
【0027】
図4に、穿孔が形成され、導電性布帛1の露出部分が形成された本発明による電磁波シールド樹脂成型品20の一例を示す。また
図5には、本発明の電磁波シールド樹脂成型品20を評価する際に準備した試験片21の例を示す。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。本発明によって得られた電磁波シールド樹脂成型品を評価する項目とその評価方法を以下に示す。
【0029】
(1)導電性評価:
図5のように電磁波シールド樹脂成型品に形成された二箇所のアース部(間隔50mm)にボルトを固定し、水の浸入を防止するためにボルトまわりにシリコーン樹脂にてシール(不図示)を施した試験片を用いた。この二箇所のアース部間の抵抗値をミリオームハイテスター 3540(日置電機株式会社製)を用いて測定した。
【0030】
(2)耐水性試験:電磁波シールド樹脂成型品を40±2℃に調節された恒温水槽内に240時間浸漬した後に取り出してエアブローによって水分を除去した。標準状態(23±2℃、50±5%RH)にて1時間静置した後、目視にて外観(変色、錆、クラック、膨れ)を評価し、前記(1)と同様に抵抗値を測定した。
【0031】
(3)塩水噴霧試験:塩化ナトリウム濃度5±0.5wt%、pH6.5〜7.2の試験用塩溶液を調整し、JIS Z 2371に規定された噴霧室に、温度35±2℃にて96時間静置した。その後取り出した試験片を常温で水洗し、水分を取り除いた後に標準状態にて1時間静置した。外観(変色、錆、クラック、膨れ)を目視にて評価し、加えて前記(1)の方法で抵抗値を測定した。
【0032】
目視による外観評価については、初期に対して変化が認められない場合は「○」、初期に対して変化が認められた場合は「×」とする。例えば変色については、初期に対して変色が認められない場合は「○」、変色が認められれば「×」である。
【0033】
(4)テーバ磨耗試験:JIS L 1096 C法(テーバ形法)に準じて電磁波シールド樹脂成型品の磨耗試験を行った。磨耗面は導電性シート側の面であり、磨耗輪No.CS−10、荷重は500gf、磨耗回数は1,000回である。テーバ磨耗試験後の導電性シート側表面(磨耗面)の状態を観察した。
【0034】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレート繊維(22dtex/1f)を用いて54コース/2.54cm、30ウェル/2.54cmのトリコット編物を作製した。これを常法にて無電解めっき処理(銅+ニッケル)し、導電性布帛を得た。この導電性布帛に、125μm厚のポリプロピレンフィルム(プライムポリプロ F329RA、株式会社プライムポリマー製)を積層し、3.5kg/cm
2の圧力をかけてラミネートした。その後所定の形状に裁断をして導電性シートを得た。ポリプロピレンフィルム側が成型金型に接するように導電性シートを固定し、もう一方の成型金型を型締めした後、キャビティ内にポリプロピレン樹脂(プライムポリプロ J106G、株式会社プライムポリマー製)を射出圧力50MPaにて射出して電磁波シールド樹脂成型品を得た。
【0035】
(実施例2)
実施例1で得られた導電性布帛に、ポリエチレンテレフタレートのモノフィラメント糸(33dtex/1f)をタテ糸密度、ヨコ糸密度ともに100本/2.54cmで平織りしたメッシュ織物を絶縁性シートとして2枚重ねて積層し、導電性布帛とこれら絶縁性シートとを同時にレーザーにて裁断して導電性シートを得た。レーザーにて裁断しているため、裁断部が溶融し導電性布帛と絶縁性シートとは仮接着されている。この導電性シートを、絶縁性シート(メッシュ織物)側が成型金型に接するように固定し、もう一方の成型金型を型締めした後、実施例1と同様にポリプロピレン樹脂を射出して電磁波シールド樹脂成型品を得た。
【0036】
(実施例3)
タテ糸としてポリエチレンテレフタレートの生糸(56dtex/24f)、ヨコ糸としてポリエチレンテレフタレートのウーリー糸(83dtex/36f)を用いて、タテ糸密度117本/2.54cm、ヨコ糸密度92本/2.54cmの平織りタフタを作成した。これを常法にて無電解めっき処理(銅+ニッケル)し、導電性布帛を得た。この導電性布帛に100μm厚のポリエチレンフィルム(PE203、東ソー株式会社製)を圧力3.5kg/cm
2にて加圧積層してラミネートし、所定の形状に裁断して導電性シートを得た。この導電性シートをポリエチレンフィルム側が成型金型と接するように固定してもう一方の成型金型を型締めし、キャビティ内にABS樹脂(テクノABS、テクノポリマー株式会社製)を射出圧力50MPaにて射出して、電磁波シールド樹脂成型品を得た。
【0037】
(比較例1)
ポリプロピレンフィルムのラミネートを施さなかったこと以外は実施例1と同様にして電磁波シールド樹脂成型品を得た。
【0038】
(比較例2)
タテ糸、ヨコ糸にポリエチレンテレフタレートのモノフィラメント糸(8dtex/1f)を用いてタテ糸密度、ヨコ糸密度ともに132本/2.54cmにて平織りしたメッシュ織物を作製した。これを常法にて無電解めっき処理(銅+ニッケル)し、導電性布帛を得た。この導電性布帛を用いたこと以外は比較例1と同様に電磁波シールド樹脂成型品を得た。
【0039】
【表1】
【0040】
表1に各評価結果を示す。実施例1〜3はいずれの試験においても外観、抵抗値に変化はなく安定していた。一方、比較例1および2は、初期の抵抗値は良いが、耐水性試験後および塩水噴霧試験後に変色と錆が発生している。同時に抵抗値も増大しており、つまり導電性が低下している。比較例1および2は、テーバ磨耗試験後には導電性布帛の金属被膜が剥がれてしまっており、実使用に耐えないものであった。
【符号の説明】
【0041】
1 導電性布帛
2 絶縁性シート(熱可塑性合成樹脂フィルム)
31、32 導電性シート
4 絶縁性シート(熱可塑性合成繊維からなる布帛)
5 キャビティ
6 穿孔形成部
7 第一の成型金型
8 第二の成型金型
9 樹脂注入口
10 貫通孔
11 射出樹脂
12 ボルト
13 ナット
14 ワッシャー
20 電磁波シールド樹脂成型品
21 試験片