【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(ロボット・新技術イノベーションプログラム)「異分野融合型次世代デバイス製造技術開発プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記熱電半導体層が、前記ナノ構造の内底部と、前記ナノ構造の頂部に存在し、かつ該ナノ構造の内底部と、該ナノ構造の頂部とは絶縁性を維持していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱電変換材料。
前記熱電半導体層の前記ナノ構造の頂部における膜厚が、10〜500nm、前記ナノ構造の内底部における膜厚が、5〜200nmである請求項4に記載の熱電変換材料。
前記基板作製工程が、前記ブロックコポリマーによりブロックコポリマー層を形成する工程、該ブロックコポリマー層を溶媒雰囲気下でアニーリングし、ミクロ相分離させる工程、及び該ミクロ相分離したブロックコポリマー層のポリメチルメタクリレート相の一部又はすべてを除去して、ナノレベルの微細孔状であるナノ構造を形成する工程を含む請求項9に記載の熱電変換材料の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記実情を鑑み、熱伝導率が低く、熱電性能指数が向上した熱電変換材料及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ナノレベルの微細孔状であるナノ構造を有する、ポリメチルメタクリレート(PMMA)とポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン含有ポリメタクリレート(PMAPOSS)から構成されるブロックコポリマー(PMMA−b−PMAPOSS。ここで、bは、PMMAとPMAPOSSがブロックコポリマーを形成していることを意味する。)基板に、p型ビスマステルライド又はn型ビスマステルライドを成膜してなる熱電半導体層を形成することにより、熱電性能指数が大幅に向上する熱電変換材料が得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(13)を提供するものである。
(1)ナノレベルの微細孔状であるナノ構造を有する基板に、熱電半導体材料を成膜してなる熱電半導体層が形成された熱電変換材料において、前記基板が、ポリメチルメタクリレートとポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン含有ポリメタクリレートから構成されるブロックコポリマー基板であって、前記熱電半導体材料が、p型ビスマステルライド又はn型ビスマステルライドであることを特徴とする熱電変換材料。
(2)前記ブロックコポリマー基板の厚さが、10〜1000nmである上記(1)に記載の熱電変換材料。
(3)前記ナノ構造の前記ナノレベルの微細孔状の深さが、5〜1000nm、平均直径が、5〜1000nmである上記(1)又は(2)に記載の熱電変換材料。
(4)前記熱電半導体層が、前記ナノ構造の内底部と、前記ナノ構造の頂部に存在し、かつ該ナノ構造の内底部と、該ナノ構造の頂部とは絶縁性を維持していることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の熱電変換材料。
(5)前記熱電半導体層の前記ナノ構造の頂部における膜厚が、10〜500nm、前記ナノ構造の内底部における膜厚が、5〜200nmである上記(4)に記載の熱電変換材料。
(6)前記p型ビスマステルライドが、Bi
XTe
3Sb
2-Xであって、0<X≦0.6である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の熱電変換材料。
(7)前記n型ビスマステルライドが、Bi
2.0Te
3-YSe
Yであって、0<Y≦3である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の熱電変換材料。
(8)前記ブロックコポリマー基板上に立てた法線に対し、前記ナノ構造を貫通する中心線が、±15°以内の角度である上記(1)〜(7)のいずれかに記載の熱電変換材料。
(9)ナノレベルの微細孔状であるナノ構造を有する基板に、熱電半導体層が形成された熱電変換材料の製造方法であって、前記ナノ構造を有するポリメチルメタクリレートとポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン含有ポリメタクリレートから構成されるブロックコポリマー基板を作製する基板作製工程、p型ビスマステルライド又はn型ビスマステルライドを成膜して熱電半導体層を形成する成膜工程とを含むことを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
(10)前記基板作製工程が、前記ブロックコポリマーによりブロックコポリマー層を形成する工程、該ブロックコポリマー層を溶媒雰囲気下でアニーリングし、ミクロ相分離させる工程、及び該ミクロ相分離したブロックコポリマー層のポリメチルメタクリレート相の一部又はすべてを除去して、ナノレベルの微細孔状であるナノ構造を形成する工程を含む上記(9)に記載の熱電変換材料の製造方法。
(11)前記溶媒雰囲気下で使用する溶媒が、二硫化炭素である上記(9)又は(10)に記載の熱電変換材料の製造方法。
(12)前記ブロックコポリマー層の除去が、酸素プラズマ処理で行われる上記(9)〜(11)のいずれかに記載の熱電変換材料の製造方法。
(13)前記成膜工程が、フラッシュ蒸着法による上記(9)〜(12)のいずれかに記載の熱電変換材料の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、熱伝導率が低く、トータルとして熱電性能指数が向上した熱電変換材料が得られ、高い変換効率を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[熱電変換材料]
本発明の熱電変換材料は、ナノレベルの微細孔状であるナノ構造を有する基板に、熱電半導体材料を成膜してなる熱電半導体層が形成され、前記基板がポリメチルメタクリレートとポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン含有ポリメタクリレートから構成されるブロックコポリマー基板であって、前記熱電半導体材料がp型ビスマステルライド又はn型ビスマステルライドであることを特徴とする。
【0011】
(ブロックコポリマー基板)
本発明で使用されるブロックコポリマー基板は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)ユニットとポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン含有ポリメタクリレート(PMAPOSS)ユニットから構成されるブロックコポリマー(PMMA−b−PMAPOSS。ここで、bは、PMMAとPMAPOSSがブロックコポリマーを形成していることを意味する。)であって、ミクロ相分離処理及びエッチング処理によりナノ構造を有するものである。
なお、前記ブロックコポリマーを製造する方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができるが、例えば、高分子論文集(Vol.66,No.8,pp.321−330,Aug.,2009)に沿い、sec−ブチルリチウムを開始剤に用いたリビングアニオン重合により合成することができる。
【0012】
ブロックコポリマーのミクロ相分離について説明する。
ブロックコポリマーにおいて、異種のブロックがお互いに混ざり合うことなく、相分離する場合は、所定の秩序をもった特徴のあるミクロドメイン構造をとる。これをミクロ相分離構造と呼び、例えば、ブロックコポリマーを構成する2種のポリマーを分子鎖長程度のスケール、すなわち数10ナノメートルオーダーで相分離した構造をとる。
前記ミクロ相分離構造は、基本的には、前記ブロックコポリマーの組成に応じて変わり、ラメラ構造、シリンダー構造、球構造、ジャイロイド構造等に分類することができる。さらに詳しくは、ミクロ相分離構造は、ブロックコポリマーを構成するモノマーの種類、それらの組み合わせ、体積分率、及び成膜時に使用する異種ポリマーを溶解させる溶媒の種類によって異なる。本発明では、前記種々のミクロ相分離構造の中で、PMMAユニットからなる円柱(シリンダー)が、PMAPOSSユニットからなるマトリックス中に存在するような、シリンダー構造を有するミクロ相分離構造を用いる。
【0013】
本発明の熱電変換材料に用いるブロックコポリマー基板を図により説明する。
図1は、本発明の熱電変換材料におけるブロックコポリマー基板の断面を模式的に示し、(a)はPMMA相を一部エッチング除去した一例であり、(b)はPMMA相を一部エッチング除去した他の一例であり、(c)はPMMA相をオーバーエッチングしてすべて除去した図である。
図1において、ナノレベルの微細孔状であるナノ構造5を有するブロックコポリマー基板2は、ガラス、シリコン等からなる支持体1上に形成されている。ここで、ナノ構造5は、個々のナノ構造が隣接する他のナノ構造と物理的に繋がることなく、適度の間隔を保ち、分布している。
【0014】
ブロックコポリマー基板2の膜厚は、好ましくは10〜1000nm、より好ましくは50〜250nmである。膜厚が上記範囲内であると、成膜が容易で、かつ熱伝導率が十分低下するため、好ましい。
ナノ構造5の平均直径は、好ましくは5〜1000nm、より好ましくは30〜150nmである。平均直径が5nm以上であると、例えば、熱電半導体材料を蒸着等によって成膜した後も、熱電半導体層によりナノ構造5が塞がれてしまうこともなく、独立したナノ構造が維持されるので好ましく、1000nm以下であると、熱電変換材料の機械的強度が確保でき、さらに熱伝導率の十分な低減が期待されるため好ましい。なお、ナノ構造5の平均直径は、例えば、測定倍率2万倍でのSEM写真(ブロックコポリマー基板ナノ構造表面)から、視野内に存在する独立したナノ構造5の個々の孔径の最大径、最小径を読み取り平均径を求め、次いで、測定した全数にわたり単純平均することにより算出すればよい。
ナノ構造5の深さは、好ましくは5〜1000nm、より好ましくは50〜300nmである。深さが5nm以上であると、独立したナノ構造5が維持されるという観点から好ましい。1000nm以下であると蒸着する熱電変換材料のゼーベック係数の厚み依存の観点から、ゼーベック係数が十分発現するので、好ましい。
また、ナノ構造5の配列する平均間隔(隣接する孔と孔との中心間距離)は、好ましくは、15〜1500nmであり、15〜300nmであり、より好ましくは30〜150nmである。平均間隔が15nm以上であると、電子の平均自由行程より長くなり、電子の散乱因子となりにくくなるため、電気伝導率が維持され好ましい。1500nm以下であると、フォノンの平均自由行程より短くなり、フォノンの散乱因子となりやすくなるため、熱伝導率が低減でき好ましい。ナノ構造5の個数は、平均間隔を30〜150nmとした場合、1mm
2当たり0.44×10
8〜11.1×10
8個程度となる。
【0015】
ナノ構造5の形状は、特に限定されず、例えば、
図1(a)に示すように、ナノ構造の内底部6は、平坦であってもよく、
図1(b)に示すように、平坦でなくてもよい。
【0016】
また、ナノ構造5は、
図1(a)、(b)のように、ナノ構造の内底部6がPMMA相4となっていてもよく、
図1(c)のように、貫通孔となっていてもよい。
【0017】
ナノ構造5内を基板の厚み方向に貫通する中心線7とブロックコポリマー基板2上に立てた法線8とのなす角度9は、好ましくは±15°以内、より好ましくは±10°以内である。法線8とのなす角度9が±15°以内であると、例えば、p型ビスマステルライド等の熱電半導体材料を成膜した時、ナノ構造5内部の壁面にp型ビスマステルライドが付着しにくくなるため、絶縁性を維持することができると点で好ましい。なお、前記ナノ構造5内を基板の厚み方向に貫通する中心線7とブロックコポリマー基板2上に立てた法線8とのなす角度9は、測定範囲3μm四方での原子間力顕微鏡(AFM)による画像(ブロックコポリマー基板2の断面プロファイル)から読み取ることができる。なお、
図1において、支持体1内にある点線は、ブロックコポリマー基板に対して平行に引いた仮想線10をあらわす。
前記ブロックコポリマー基板2は、公知の方法を用いて得ることができるが、後述の本発明の熱電変換材料の製造方法で形成することが好ましい。詳しくは後述の本発明の熱電変換材料の製造方法で説明するが、例えば、支持体1上に、公知の方法で製造したブロックコポリマーからなる層を形成し、このブロックコポリマー層をミクロ相分離させた後に、PMMA相の一部またはすべてを除去してナノ構造5を形成することで得ることができる。
なお、前記ブロックコポリマー基板2は、支持体1上に形成されていてもよく、支持体1は無くても構わない。ブロックコポリマー基板2を機械的に維持することができるため、
図1のようにブロックコポリマー2は、支持体1上に形成されていることが好ましい。
支持体1としては、電気伝導率や熱伝導率に影響を及ぼさないものであれば、特に制限されず、例えば、ガラス、シリコン、プラスチック基板等が挙げられる。
【0018】
(熱電半導体層)
本発明の熱電変換材料に用いる熱電半導体層は、熱電半導体材料を成膜してなる層であり、上記のブロックコポリマー基板2に、形成される。本発明において、熱電半導体材料は、p型ビスマステルライド又はn型ビスマステルライドであることを特徴とする。熱電半導体材料を成膜する方法は、特に限定されない。例えば、ブロックコポリマー基板2に、p型ビスマステルライド等の熱電半導体材料をフラッシュ蒸着法等により成膜することにより、熱電半導体層を形成し、本発明の熱電変換材料を得ることができる。
熱電半導体層は、ブロックコポリマー基板2に熱電半導体材料を成膜することにより形成される。熱電変換材料の熱伝導率を低下させるため、熱電半導体層は、ナノ構造5の内底部6とブロックコポリマー基板2の頂部3との絶縁性が維持されていれば、ブロックコポリマー基板2の頂部3とナノ構造5の内底部6に存在していてもよく、又ナノ構造5の内底部6に存在せず、ブロックコポリマー基板2の頂部3にのみに存在していてもよい。なかでも、熱電半導体層は、ブロックコポリマー基板2の頂部3とナノ構造5の内底部6に存在していることが好ましい。
前記熱電半導体層の、前記ブロックコポリマー基板2の頂部3における膜厚は、好ましくは、10〜500nmであり、より好ましくは10〜300nm、更に好ましくは50〜250nmである。頂部3における膜厚が上記範囲内であれば、内底部6と頂部3とが連続した層とならず絶縁性を維持でき、熱電半導体層を形成でき、かつ材料コストを削減でき生産性が向上するという点で好ましい。
また、前記ナノ構造5の内底部6における、熱電半導体層の膜厚は、好ましくは、5〜200nmであり、より好ましくは、5〜100nm以下である。内底部6における膜厚が上記範囲内であれば、ナノ構造5が熱電半導体層で埋まらず、ナノ構造5が維持され好ましい。
また、熱電半導体材料を成膜する方法は、特に限定されず、例えば、フラッシュ蒸着、真空アーク蒸着法等が挙げられる。
【0019】
(p型ビスマステルライド)
本発明の熱変換材料に使用されているp型ビスマステルライドは、キャリアが正孔であり、ゼーベック係数が正値であるものであり、Bi
XTe
3Sb
2-Xが好ましいが、この場合、Xは、好ましくは0<X≦0.6であり、より好ましくは0.4<X≦0.6である。Xが0より大きく0.6以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、p型熱電変換材料としての特性が維持されるので好ましい。
【0020】
(n型ビスマステルライド)
本発明の熱変換材料に使用されているn型ビスマステルライドは、キャリアが電子であり、ゼーベック係数が負値であるものであり、Bi
2Te
3-ySe
yが好ましいが、この場合、Yは、好ましくは0<Y≦3であり、より好ましくは0.1<Y≦2.7である。Yが0より大きく3.0以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、n型熱電変換材料としての特性が維持されるので好ましい。
【0021】
本発明において、p型ビスマステルライド又はn型ビスマステルライドは、単独で用いることもできるが、一対にし、使用することが好ましい。例えば、複数対を、電気的には電極を介して直列に、熱的にはセラミックス等の絶縁体を介して並列に接続して、熱電変換素子として、発電用及び冷却用として使用することができる。
【0022】
[熱電変換材料の製造方法]
本発明の熱電変換材料の製造方法は、ナノレベルの微細孔状であるナノ構造を有する基板に、熱電半導体層が形成された熱電変換材料の製造方法であって、ナノ構造を有するブロックコポリマー基板を作製する基板作製工程と、p型ビスマステルライド又はn型ビスマステルライドを成膜して熱電半導体層を形成する成膜工程とを有することを特徴とする。
さらに詳述すると、基板作製工程は、ブロックコポリマー層を形成する工程、該ブロックコポリマー層を溶媒雰囲気下でアニーリングしミクロ相分離させる、相分離工程、及びミクロ相分離したブロックコポリマー層のPMMA相の一部又はすべてを除去してナノ構造を形成する、ナノ構造形成工程を含むことが好ましい。
【0023】
(1)基板作製工程
(1)−1 ブロックコポリマー層を形成する工程
ブロックコポリマー層を形成する工程は、例えば、有機溶媒に溶解させたブロックコポリマー溶液を、支持体1上に塗布して、ブロックコポリマー層を形成する工程である。
前記支持体1は、ブロックコポリマー層が均一に形成され、かつ熱電変換材料の電気伝導率の低下、熱伝導率の増加に影響を及ぼさないものであれば、特に制限されない。支持体1としては、例えば、ガラス、シリコン、プラスチック基板等が挙げられる。なお、支持体1は、基板作製工程又は後述する成膜工程の後に剥離されてもよいが、ナノ構造を有する基板を機械的に維持することができるという点から、
図1のように、ブロックコポリマー基板に積層されていることが好ましい。
ブロックコポリマー層の形成方法としては、例えば、スピンコート、ロールコート、ディップコート、ダイコート、グラビアコート等が挙げられ、特に制限されない。なお、数nmのオーダーの薄膜層を均一に形成する場合は、スピンコートが特に好ましく用いられる。
本発明で使用される、ブロックコポリマー(PMMA−b−PMAPOSS)を溶解する有機溶媒としては、シクロペンタノン、トルエン、クロロホルム、THF、ベンゼン、シクロヘキサノン等が挙げられ、特にシクロペンタノンが好ましい。
また、前記ブロックコポリマー溶液中のブロックコポリマーの濃度は、特に限定されないが、数nmのオーダーの薄膜層を均一に形成するという点から、好ましくは0.1〜20質量%であり、さらに好ましくは0.5〜10質量%である。
【0024】
(1)−2 ミクロ相分離工程
ミクロ相分離工程は、上記で得られたブロックコポリマー層を、溶媒雰囲気下でアニーリング(以下、溶媒アニーリングと記す)し、ブロックコポリマー層をミクロ相分離させる工程である。
前記溶媒アニーリングは、ブロックコポリマー層を溶媒の雰囲気下にさらし、一定時間保持することにより、ブロックコポリマー層を相分離させる方法である。
溶媒アニーリングに使用する溶媒としては、ブロックコポリマーを構成する2種のポリマー成分と親和性が高い溶媒であればよく、例えば、二硫化炭素、アセトン、トルエン等が挙げられる。なかでも、ドメイン間隔の短いミクロ相分離構造が得られるという点から、二硫化炭素であることがより好ましい。
【0025】
ミクロ相分離構造におけるドメイン間隔の制御は、例えば、ブロックコポリマーを構成する2種のポリマーの分子量を、各ユニット毎に、変化させることで可能となる。例えば、各ポリマーユニットの分子量を大きくすると、各ポリマーユニットの鎖長が長くなるため、ドメイン間隔の長い相分離構造を得ることができる。また、各ポリマーユニットの分子量を小さくすると、各ポリマーユニットの鎖長が短くなるため、ドメイン間隔の短い相分離構造を得ることができる。
また、相分離構造におけるドメイン間隔の制御は、溶媒アニーリングにおける溶解する溶媒の種類やアニール時間を適宜選択することで可能となる。例えば、ドメイン間隔の短い相分離構造を得るためには、ブロックコポリマーを構成する2種のポリマーに対して、次の条件を満たす溶媒が好ましい。すなわち、ポリマー鎖同士の斥力が2種のポリマー鎖の溶解度パラメーターの差の2乗に比例することから、2種のポリマー鎖の溶解度パラメーターの差を小さくするような溶媒を選択する。これにより、系の自由エネルギーがより小さくなるため、よりドメイン間隔の短い相分離構造が得られる。
【0026】
本発明で用いた溶媒アニーリングによるミクロ相分離構造の形成メカニズムは必ずしも明確ではないが、以下のように考えられている。まず、使用した溶媒の雰囲気下にブロックコポリマーがさらされることにより、両ポリマー相に該溶媒が浸透し、薄膜層が膨潤する。次に、ブロックコポリマー層形成時に固定化されていたポリマー鎖が再び動き易くなり、異種ポリマー間の斥力による相互作用により再自己組織化が生じ、明瞭なミクロ相分離構造となってくる。また、同時に、両ポリマー成分は前溶媒蒸気と親和して、薄膜層表面にそれぞれドメインを形成する。ただし、この際、どちらか一方のポリマーでは表面偏析は生じない。さらに、溶媒蒸気と接する薄膜表面がトリガーとなり基板の膜厚方向に自己組織化が進み、最終的にはミクロ分離構造が基板表面に対し垂直方向に配向した薄膜層となる。
【0027】
(1)−3 ナノ構造形成工程
ナノレベルの微細孔状であるナノ構造形成工程は、上記によりミクロ相分離したブロックコポリマー層のPMMA相又はPMAPOSS相のいずれかの相を選択的に一部又はすべてを除去してナノ構造を形成する工程である。
ブロックコポリマー層を除去する方法は、ミクロ相分離したブロックコポリマー層のPMAPOSS相又はPMMA相のいずれかの相を選択的に除去できるエッチング法であれば、特に制限されないが、ナノ構造の深さ、平均直径、形状等の制御が容易であるという点から、酸素プラズマ処理が好ましい。
ミクロ相分離したブロックコポリマー層において、酸素プラズマに対する耐エッチング性は、PMMA相に比べ、PMAPOSS相が高く、エッチング速度比が1オーダーほど異なる。このため、酸素プラズマ処理により、耐エッチング性の低い、つまり、エッチング速度が大きいPMMA相が、選択的にエッチングされ除去されることにより、ナノ構造が形成される。
酸素プラズマ処理は、例えば、RIE(反応性イオンエッチング)装置を使用し、真空下で、所定の流量を有する酸素ガスを導入しプラズマ化し、対象となる有機物質を水と二酸化炭素に化学変化させることにより除去する処理であり、酸素ガス流量、処理時間等により、エッチング量(深さ)を制御することができる。本発明に用いたブロックコポリマー層を構成するPMMA、PMAPOSSに関しては、エッチング速度の大きいPMMAを選択的に除去する。酸素プラズマ処理の時間は、ナノ構造の深さ、平均直径、形状等に合わせて適宜選択することができる。
エッチングによるPMMA相の除去は、
図1(c)に示したように、貫通孔が形成されるまでPMMA相をオーバーエッチングして除去してもよいし、
図1(a)、(b)に示したように、エッチング除去を途中でやめ、ナノ構造の内底部6がPMMA相4となるように、PMMA相の一部を残してもよい。ナノ構造5の深さは熱電変換素子としての性能を制御する一つのパラメーターとなるため、エッチング除去量は、適宜選択することが好ましい。
【0028】
このような基板作製工程によって、深さ、平均直径、形状等が制御されたナノ構造を有する基板が作製される。
【0029】
(2)成膜工程
成膜工程は、前記基板作製工程の後に、得られたナノ構造を有する基板に、p型ビスマステルライド又はn型ビスマステルライドを成膜して熱電半導体層を形成する工程である。ここで、成膜方法としては、特に限定されないが、フラッシュ蒸着法もしくは真空アーク蒸着法が好ましく用いられる。なかでも、精度よく成膜できると言う点からフラッシュ蒸着法がより好ましい。
【0030】
(フラッシュ蒸着法による成膜)
フラッシュ蒸着法とは、粒子状にした成膜材料を、例えば、材料の沸点以上に予め加熱したるつぼ、又はボート型ヒータに、連続的に少量ずつ供給して、瞬間的に材料を蒸発させ、成膜する方法である。このようなプロセスで蒸着すると、瞬時に材料が蒸発するため、特に蒸気圧の異なる2種類以上の元素からなる合金を蒸着する場合、蒸発材料である蒸発源をヒータ上に固定し、加熱蒸着する蒸着法に比べ、組成比をより一定に保つことができる。
また、材料の飛散、未蒸発物の残留等がなく、材料を効率良く利用でき、製造コスト的にも好ましい。また、フラッシュ蒸着法では、蒸着時の材料の直進性が高く、ナノ構造内の壁面に材料が蒸着されにくくなるためより好ましい。
【0031】
フラッシュ蒸着法に使用できる装置の例を説明する。
図2は、実施例及び比較例で使用されたフラッシュ蒸着装置の概略図である。
図2において、11はフラッシュ蒸着装置、12は真空チャンバー、13は蒸着材料、14はヒータである。
真空チャンバー12において、蒸着材料13を加熱蒸発させるヒータ14として、例えば、ボート型を有したヒータ14を使用するが、ボート材料としては、通常、タングステン、モリブデン、タンタル、ニオブ等に代表される高融点金属が使用され、蒸着材料13の融点、沸点、昇華温度等の物性に合わせ、適宜選択される。ブロックコポリマー基板15は、通常ヒータ14に対向する位置に設置する。
また、フラッシュ蒸着装置11にはフラッシュ蒸着の特徴の一つである、蒸発材料13を連続的に少量ずつ供給する機構を備えている。具体的には、例えば、フラッシュ蒸着装置11の上部に、電磁フィーダ16を設け、電磁フィーダ16から蒸着材料13の粒子を漏斗17へ供給し、所定量の蒸着材料13が漏斗17を介して連続的にヒータ14上に落下するように設計されている。
【0032】
実際の蒸着は、以下のようにして行われる。フラッシュ蒸着装置11の真空排気口18より排気をし、真空チャンバー12を所定の真空度まで到達させ一定時間保持した後、ヒータ14を加熱させる。
ブロックコポリマー基板15を所定温度まで加熱し、一定時間保持した後、蒸着材料13として、p型ビスマステルライド又はn型ビスマステルライドを使用し、蒸着材料13をヒータ14上に落下させることで、蒸着を開始する。蒸着材料13が瞬時に蒸発して、対向するブロックコポリマー基板15に付着し、蒸着が行われる。
蒸着終了後、ヒータ14への電流供給を停止し、基板温度を所定温度以下まで冷却し、真空チャンバー18を開放することでフラッシュ蒸着工程が完了する。
【実施例】
【0033】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0034】
実施例、比較例で作製した熱電変換材料の熱電性能評価は、以下の方法で、熱伝導率、ゼーベック係数及び電気伝導率を算出することにより行った。
(a)熱伝導率
熱伝導率の測定には3ω法を用いた。
図3は実施例及び比較例で作製した熱電変換材料の熱伝導率を測定するために作製した、アルミニウムからなる3ωパターン(金属細線、電極部パターン)の一例を示す斜視図である。
支持体19上に、実施例及び比較例で作製した熱電変換材料20を配置し、(ビスマステルライド合金薄膜側)表面の所定の位置に、金属細線(2mm×20μm幅)21、交流電流印加用電極22、3ω信号検出用電極23を設けた。次に、交流電流印加用電極22に、ファンクションジェネレーターを用いて、交流電流を印加することで、金属細線21を周期的に加熱した。加熱された前記金属細線21の温度を前記3ω信号検出用電極23からの信号出力を測定し、加熱量と加熱された熱電変換材料20の温度応答を調べ、薄膜を蒸着していない基板のみの測定結果と比較し、薄膜の熱抵抗を測定し、その結果と膜厚を用いて熱伝導率を算出した。
(b)ゼーベック係数
作製した試料の一端を加熱して、試料の両端に生じる温度差をクロメル−アルメル熱電対を使用し測定し、熱電対設置位置に隣接した電極から熱起電力を測定した。具体的には、温度差と起電力を測定する試料の両端間距離を25mmとし、一端を20℃に保ち、他端を25℃から50℃まで1℃刻みで加熱し、その際の熱起電力を測定して、傾きからゼーベック係数を算出した。なお、熱電対及び電極の設置位置は、薄膜の中心線に対し、互いに対称の位置にあり、熱電対と電極の距離は1mmである。
(c)電気伝導率
実施例及び比較例で作製した熱電変換材料を、表面抵抗測定装置(三菱化学社製、商品名:ロレスタGP MCP−T600、)により、四端子法で試料の表面抵抗値を測定し、電気伝導率を算出した。
【0035】
(実施例1)
(1)ブロックコポリマー基板の作製
ブロックコポリマー基板15を、以下のようにして、ブロックコポリマー層の形成、溶媒雰囲気下でのミクロ相分離工程、続く酸素プラズマ処理によるナノ構造形成工程により作製した。
PMMA−b−PMAPOSSの分子量が13000−b−42000のブロックコポリマーをシクロペンタノン(東京化成工業株式会社製)に溶解し、溶液濃度3wt%のポリマー溶液を調製した。調製したポリマー溶液を使用し、スピンコート法により支持体1であるガラス基板上に塗布し、厚さが200nmのブロックコポリマー層を作製した。作製した該ブロックコポリマー層を、二硫化炭素溶媒雰囲気下で20時間かけ、ミクロ相分離処理を行った。得られた該ミクロ相分離後のブロックコポリマー層の構造評価をAFMで行った。その後、該ブロックコポリマー層に反応性イオンエッチング装置(Samco社製、UV-Ozone dry stripper、)を用いて、酸素プラズマエッチングを出力250W、真空圧5Pa、酸素流量10ccmの条件下で、7分間処理することで、ナノ構造を形成し、ブロックコポリマー基板2を作製した。得られたブロックコポリマー基板2の評価をSEM観察により行った。
図4は、本発明の実施例1で得られたナノ構造の平面を示し、(a)はミクロ相分離後のブロックコポリマー層のAFM写真であり、(b)は酸素プラズマエッチング後のブロックコポリマー基板2のSEM写真である。
【0036】
(2)p型ビスマステルライドの成膜
熱電変換材料は、前記(1)で作製したブロックコポリマー基板15を使用し、フラッシュ蒸着法でp型ビスマステルライドを成膜することにより熱電半導体層を形成し、作製した。
図2に示したフラッシュ蒸着装置11の真空チャンバー12において、蒸着材料13を加熱蒸発させるヒータ14としてボート型のタングステンヒータを使用し、ヒータ14に対向する位置(15cm)に(1)で作製したブロックコポリマー基板15を配置した。
次いで、フラッシュ蒸着装置11の真空排気口18より排気をし、1.4×10
-3Paの真空度まで到達させ、真空度を安定させた後、80Aの電流をタングステンヒータ14に供給し、加熱させた。基板温度に関しては、200℃で一定時間保持した。蒸着材料13であるp型ビスマステルライド(Bi
0.4Te
3Sb
1.6)合金をボート上に連続的に少量ずつ落下させ、平均蒸着速度0.17(nm/秒)、蒸着時間600(秒)で成膜を行い、熱電変換材料を作製した。
図5は、本発明の実施例1で得られた、p型ビスマステルライドを用いた熱電変換材料の平面を示すSEM写真である。
図5に示すように、p型ビスマステルライドが成膜されたブロックコポリマー基板は、ナノ構造を有していることがわかる。成膜したp型ビスマステルライドの熱電半導体層の基板の頂部における膜厚は100nm、ナノ構造5の内底部における膜厚は20nmであった。
また、
図6は、本発明の実施例1で得られた、p型ビスマステルライドを用いた熱電変換材料の断面状態を示すAFMによる表面プロファイルである。
図6から、ナノ構造の深さ、平均直径を算出した。結果を表1に示す。また、
図6から、ナノ構造の断面は、ブロックコポリマー基板の厚み方向にやや傾きを有している場合があるが、各ナノ構造内を貫通する中心線7が、ブロックコポリマー基板1上に立てた法線に対し、±15°内に十分収まっていることがわかる。
熱電性能評価結果を表1に示す。
【0037】
(実施例2)
酸素プラズマエッチング処理を9分間行った以外は、実施例1と同様にして、熱電変換材料を作製した。
【0038】
(実施例3)
酸素プラズマエッチング処理を5分間行った以外は、実施例1と同様にして、熱電変換材料を作製した。
【0039】
(実施例4)
熱電半導体材料として、蒸着材料をp型ビスマステルライドであるBi
0.4Te
3Sb
1.6合金から、n型ビスマステルライドであるBi
2.0Te
2.7Se
0.3合金に替えて、成膜した以外は、実施例1と同様にして、熱電変換材料を作製した。
【0040】
(実施例5)
熱電半導体材料として、酸素プラズマエッチング処理を9分間行った以外は、実施例4と同様にして、熱電変換材料を作製した。
【0041】
(実施例6)
熱電半導体材料として、酸素プラズマエッチング処理を5分間行った以外は、実施例4と同様にして、熱電変換材料を作製した。
【0042】
(比較例1)
ブロックコポリマー基板のミクロ相分離処理及び酸素プラズマ処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、熱電変換材料を作製した。
【0043】
(比較例2)
ブロックコポリマー基板のミクロ相分離処理及び酸素プラズマ処理を行わなかったこと以外は、実施例4と同様にして、熱電変換材料を作製した。
熱電性能評価結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
実施例1〜3の熱電変換材料は、ミクロ相分離処理及び酸素プラズマ処理を行なわず、ナノ構造が形成されていないブロックコポリマー基板を使用した比較例1の熱電変換材料と比べて、熱伝導率が大幅に低下し、かつ電気伝導率が高く、無次元熱電性能指数ZTは高い値が得られた。
また、実施例4,5の熱電変換材料は、ミクロ相分離処理及び酸素プラズマ処理を行なわず、ナノ構造が形成されていないブロックコポリマー基板を使用した比較例2の熱電変換材料と比べて、熱伝導率が大幅に低下し、かつ電気伝導率が高く、無次元熱電性能指数ZTは高い値が得られた。