(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5981745
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】ルームシューズ
(51)【国際特許分類】
A43B 3/10 20060101AFI20160818BHJP
A43B 23/02 20060101ALI20160818BHJP
A43B 23/07 20060101ALI20160818BHJP
A43B 7/34 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
A43B3/10 Z
A43B23/02 A
A43B23/07
A43B23/02 101A
A43B7/34
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-65692(P2012-65692)
(22)【出願日】2012年3月22日
(65)【公開番号】特開2013-192870(P2013-192870A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2015年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100061745
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100120341
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 朋哉
【審査官】
山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−196303(JP,A)
【文献】
特開2011−069004(JP,A)
【文献】
特開2008−303480(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3160049(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0038098(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 3/10
A43B 7/34
A43B 23/02
A43B 23/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内で足に履く左右一対のルームシューズであって、
足甲、足裏および踵を覆うように、布帛で形成された足部と、
前記足部に連続して形成され、足首を覆うように、布帛で形成された筒部と、
前記足部における足甲および踵に対向する位置ならびに前記筒部における足首に対向する位置に、前記布帛に内包された中綿とを含み、
前記布帛は、表側生地と肌側生地と前記表側生地および前記肌側生地の間に設けられた内生地とを含み、
前記中綿は、前記内生地と前記肌側生地との間に内包され、
前記布帛の少なくとも一部は2本針で縫製され、前記布帛の中の少なくとも表側生地は前記中綿が吹き出すことを防止するようにコーティング加工され、前記布帛の中の少なくとも内生地は210番手の生地で高密度織りされていることを特徴とするルームシューズ。
【請求項2】
前記中綿は、ダウンを含むことを特徴とする、請求項1に記載のルームシューズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として室内で使用される室内履きであるルームシューズに関し、特に、高い防寒性能を有し、その防寒性能のために設けられた中綿がルームシューズ外に出ることなく、その防寒性能が経時的に低下しないブーツタイプのルームシューズに関する。
【背景技術】
【0002】
室内で使用される室内履きの代表的なものとして、スリッパとサンダルとがある。近年では、スリッパよりも足から抜け難い靴の形状に近いルームシューズの需要が高まっている。このルームシューズには、歩きやすさ、および、快適な履き心地が求められる。このような機能に加えて、冬季の防寒対策を施した、ブーツタイプ(足の全体をすっぽりと覆うタイプ)のルームシューズも見られる。このようなルームシューズは、軽くて、暖かくて、重宝されており、さまざまなタイプのルームシューズが開発されている。防寒対策としては、ルームシューズの内面に中綿を含ませている。
【0003】
たとえば、特開2008−86559号公報(特許文献1)は、防寒対策ではないものの中綿を内面に含む室内履きを開示する。この室内履きは、足裏が接触する接足面を有する履物台と、この履物台の上面側で足首より下の足全体を覆うアッパー部とを一体に有した形状を備え、アッパー部は、中綿とこれを被覆する布帛製の被覆材とで構成されている。
【0004】
また、このような構成を備え、専ら防寒用として中綿にダウン、フェザー等の羽毛を採用したブーツタイプ(ショートブーツタイプ、ロングブーツタイプ)のルームシューズが販売されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−86559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された室内履きや公知のルームシューズでは、以下の問題点がある。
このようなルームシューズの中綿として採用されるダウンは、真ん中の核から手のひらのように羽枝がたくさん広がったダウンボールと呼ばれる構造を持っている。羽枝を広げた羽毛同士が集まると多くの空気を保持することができ、それが保温層となって高い防寒性能を発現する。その一方で、ダウンボールは、極めて軽く、1個1個が独立しており、羽軸がなくフワフワとしたタンポポの種子のような形をしているので、生地の隙間からでも、縫製の小さな穴からでもダウンが被覆材の中から飛び出して、ルームシューズの外部へ吹き出して(飛び出して)しまう。吹き出したダウンは被覆材に戻すことができず、ダウンが室内に浮遊したり、ダウンが減少して防寒性能が低下する可能性が高い。
【0007】
特に、ルームシューズは、羽毛布団等と異なり、歩く度に形状が繰り返し変化したり、体重が被覆袋に付与されたりする。このため、ダウンが室内に浮遊したり、時間の経過とともに防寒性能が低下したりすることが、羽毛布団等よりも大きな問題になりやすい。なお、このような問題は、ダウンに限定して発生するものではなく、ダウンに加えてフェザー等を含む羽毛一般に言えることである。
【0008】
本発明は、従来技術の上述の問題点に鑑みて開発されたものであり、その目的とするところは、高い防寒性能を有し、その防寒性能のために設けられた中綿がルームシューズ外に出ることなく、その防寒性能が経時的に低下しないブーツタイプのルームシューズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係るルームシューズは以下の技術的手段を講じている。
すなわち、本発明に係るルームシューズは、室内で足に履く左右一対のルームシューズ
であって、足甲、足裏および踵を覆うように、布帛で形成された足部と、前記足部に連続して形成され、足首を覆うように、布帛で形成された筒部と、前記足部および前記筒部における足に対向する位置に、前記布帛に内包された中綿とを含む。前記布帛は、表側生地と肌側生地と前記表側生地および前記肌側生地の間に設けられた内生地とを含み、前記中綿は、前記内生地と前記肌側生地との間に内包されている。前記布帛の少なくとも一部は2本針で縫製され、前記布帛の中の少なくとも表側生地は前記中綿が吹き出すことを防止するようにコーティング加工され、前記布帛の中の少なくとも内生地は高密度織りされていることを特徴とする。
【0010】
好ましくは、前記中綿は、ダウンを含むように構成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のルームシューズによれば、高い防寒性能を有し、その防寒性能のために設けられた中綿がルームシューズ外に出ることなく、その防寒性能が経時的に低下しないようにできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係るルームシューズの全体斜視図である。
【
図2】(a)は
図1のルームシューズの外観側面図、(b)はその断面図、(c)はその裏面図である。
【
図4】肌側生地の縫着状態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係るルームシューズ100を、図面に基づき詳しく説明する。なお、ルームシューズの構造には様々なものがあり、本発明は特定の構造に限定されるものではなく、後述する3つの特徴(第1〜第3の特徴)を備えたものであれば、どのようなルームシューズの構造であっても、ルームシューズを構成する布帛の型紙およびその縫製がどのようなものであっても構わない。そのため、以下に示すこのルームシューズ100の構造自体は単なる例示でしかない。
【0014】
図1に、本実施の形態に係るルームシューズ100の全体斜視図を、
図2(a)にその外観側面図、
図2(b)にその外観側面の断面図、
図2(c)にその裏面図を、それぞれ示す。
これらの図に示すように、このルームシューズ100は、大きくは、ユーザの足の甲、足の裏および踵を覆うように、布帛(後述する表側生地(表地)10、内生地12および肌側生地(裏地)16)で形成された足部120と、その足部120に連続して形成され、足首を覆うように、同じように布帛で形成された筒部130と、足部120の裏面に設けられ床面に接地する足底部110とで構成される。
【0015】
足底部110は、足裏の形状に対応する形状を備え、足底部110の形状を保持するための芯材114と、芯材114の裏面側に設けられ床面に接地する底布112と、底布112の少なくとも土踏まず部分および踵部に、接着剤で貼着した滑り防止部116で構成される。芯材114は、ユーザの体重が付与されても足底部110の形状を保持することにより、このルームシューズ100の全体の形状を保持する。しかしながら、このルームシューズ100の全体の形状または足底部110の形状を保持することができれば、芯材114を含まない構造であっても構わない。滑り防止部116は、微少なゴム等の突起が表面に多数形成されて滑り止め加工が施された合成皮革等のシートである。
【0016】
足部120は、ユーザの足の甲、足の裏および踵を覆うように布帛で形成され、防寒のために、足部120におけるユーザの足に対向する位置に、生地に内包された中綿14が設けられている。なお、本実施の形態に係るルームシューズ100は、底の部分に中綿14を備えないが、底の部分に中綿14を備えるようにしても構わない。
筒部130は、足首を覆うように布帛で形成され、防寒のために、筒部130におけるユーザの足に対向する位置に、生地に内包された中綿14が設けられている。筒部130には、ユーザがこのルームシューズ100に足を挿入するための開口部132と、その挿入および離脱を容易にすべく開口面積を広げるためのV字開口部134とを備えている。
【0017】
上述したように、このルームシューズ100は、防寒のために、足部120および筒部130におけるユーザの足に対向する位置に、生地に内包された中綿14が設けられている。
図2(b)における円部分を拡大した
図3に示すように、このルームシューズ100を構成する生地は、表側生地10と、肌側生地16と、表側生地10および肌側生地16の間に設けられた内生地12とで構成される。中綿14は、内生地12と肌側生地16との間に内包される。中綿14は、防寒性に優れたダウンやフェザー等である。なお、
図3では、ユーザの足に符号Fを付している。
【0018】
なお、生地(表側生地10、内生地12および肌側生地16)および中綿14の素材は、特に限定されるものではないが、たとえば、表側生地10および肌側生地16は、ポリエステル100%、中綿14はダウン50%およびフェザー50%、底布112は、ポリエステル70%、綿25%およびレーヨン5%である。
ところで、このような中綿14として採用されるダウンやフェザー等の羽毛は、上述したように、生地の織り目の隙間からでも、縫製の小さな穴からでも、羽毛がこのルームシューズ100の外部へ吹き出して(飛び出して)しまう。その結果、羽毛が室内に浮遊したり、羽毛が減少してルームシューズの防寒性能が低下する。このような問題に対して、本実施の形態に係るルームシューズ100においては、以下のような特徴を備える。このルームシューズ100においては、
第1の特徴:生地と生地、生地と他の部材とを2本針により縫製し、
第2の特徴:少なくとも表側生地10は中綿14が吹き出すことを防止するようにコーティング加工し、
第3の特徴:少なくとも内生地12は高密度織りしている。
【0019】
以下に、このような特徴について詳しく説明する。
第1の特徴については、
図2(b)の矢示A部分に示すように、表側生地10(および内生地12)と肌側生地16とを2本針で縫製したり、
図2(b)の矢示B部分に示すように、表側生地10(および内生地12)と他の部材(底布112、芯材114)とを2本針により縫製したり、
図2(b)の矢示C部分に示すように、肌側生地16と他の部材(底布112、芯材114)とを2本針により縫製したりしている。
【0020】
筒部130を足部120から切り離し肌側生地16を切断して、足底部110を上方から見た図(
図2(b)の矢示X方向から見た図)を
図4に示す。この
図4に示すように、肌側生地16と他の部材(底布112、芯材114)とが2本針により縫製しているため、2本針縫い目118が形成されている。比較品(従来品)が4針/inchで1本針構成であるミシンで縫製したのに対して、このルームシューズ100である実施品(発明品)は5針/inchで2本針構成であるミシンで縫製した。
【0021】
第2の特徴については、少なくとも表側生地10は中綿14が吹き出すことを防止するように表面をコーティング加工している。このルームシューズ100においては、表側生地10および肌側生地16をコーティング加工している。特に、このコーティング加工するにあたり、比較品(従来品)よりも実施品(発明品)は、加工ムラのないコーティング剤を採用している。
【0022】
第3の特徴については、少なくとも内生地12は高密度織りしている。比較品(従来品)が190番手の生地であるのに対して、このルームシューズ100である実施品(発明品)は210番手の生地を採用した。なお、番手とは、840ヤード(768.1メートル)で1ポンド(453.6グラム)あれば1番手といい、同じ重さで2倍の長さがあると2番手となる。この番手の数字が大きくなればなるほど、糸が細くなり生地の目が詰まって、より高密度に織られた生地になる。
【0023】
以下の表1に、比較品(従来品)および実施品(発明品)の3つの特徴の違いをまとめて示す。
【0025】
このような比較品(従来品)および実施品(発明品)について、実際にルームシューズを1日間着用して羽毛の吹き出し状態(飛び出し状態)を評価した。なお、羽毛の吹き出し態様は、生地からの吹き出し、縫い目からの吹き出し、家庭用タンブル乾燥機における脱落がある。以下の表2に、比較品(従来品)および実施品(発明品)の評価結果を示す。
【0027】
表2に示すように、比較品(従来品)が76箇所(100%)に対して、実施品(発明品)は15箇所(20%)にとどまり、約80%改善された。このように、このルームシューズ100は、上述した第1〜第3の特徴を備えることにより、羽毛の吹き出しが大幅に改善できた。
なお、実施品(発明品)において、コーティング剤の変更により均一にコーティングされるとともに、(一様に)通気性が低下した(通気性が悪くなった)。しかしながら、着用時において、表側生地10および肌側生地16が破裂して中綿14が飛び出すことも、ムレ感を感じることについても、問題にならなかった。
【0028】
以上のようにして、本実施の形態に係るルームシューズ100によると、足部120と、足部120に連続して形成された筒部130と、足底部110とで構成され、足部120および筒部130におけるユーザの足に対向する位置に、生地に内包された中綿14が設けられている。生地と生地および生地と他の部材とを2本針により縫製し、少なくとも表側生地10は中綿14が吹き出すことを防止するようにコーティング加工し、少なくとも内生地12は高密度織りしているので、羽毛の吹き出しを抑制できる。その結果、高い防寒性能を有し、その防寒性能のために設けられた中綿がルームシューズ外に出ることなく、その防寒性能が経時的に低下しないルームシューズを提供することができる。
【0029】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、室内で履くルームシューズ(室内履き)に好適であり、冬季の防寒機能に優れたルームシューズに特に好ましい。
【符号の説明】
【0031】
10 表側生地(表地)
12 内生地
14 中綿
16 肌側生地(裏地)
50 腹巻き部
100 ルームシューズ
110 足底部
112 底布
114 芯材
116 滑り防止部
118 2本針縫い目
120 足部
130 筒部
132 開口部
134 V字開口部