(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を、添付図面に示す実施形態に基づいて説明する。
図1には、本発明の一実施形態の車両整備システム200を示している。
図2〜
図5には、この車両整備システム200に用いる車両昇降装置100を示している。
【0019】
本実施形態の車両整備システム200は、複数の車両2で編成された列車4を整備するためのシステムである。このシステム全体の敷地内において、車両昇降装置100が設置される車体保持エリア110と、解体前作業エリア112と、台車解体エリア114とが、構内レール116を介して順につながれている。車体保持エリア110と解体前作業エリア112との間には、さらに平面式の台車搬送エリア118が形成されている。
【0020】
まず、車両整備システム200のうち、車体保持エリア110及びここに設置される車両昇降装置100について詳述する。
【0021】
車体保持エリア110には、列車4が走行可能な第一構内レール116aが一対敷設されている。列車4は、この第一構内レール116aの所定位置にまで搬入される。
【0022】
列車4が有する各車両2は、車体8の下面に前後一対の台車6が結合されたものである。車体保持エリア110に設置される車両昇降装置100は、搬入された列車4の各車両2の台車6の下方に一対一で配置される昇降機構12と、各車両2の左右両側に配置される保持機構14とを有する。なお、
図1中では、昇降機構12や保持機構14の具体的な記載は省略している。
【0023】
図2〜
図5に示すように、昇降機構12は、昇降自在な昇降テーブル16を有し、この昇降テーブル16上に載置される台車6を個別に昇降させるものである。台車6が車体8に結合された状態においては、前後一対の昇降機構12が前後一対の台車6を介して車両2全体を昇降させる。この昇降動作を、複数の車両2に同時に行わせることで、列車4全体を一体に昇降させることができる。
【0024】
昇降機構12は、敷地面Sを掘り下げた溝部18内に配置される。この溝部18は、車体保持エリア110の敷地面Sのうち、台車6と対応する箇所を2100mm程度掘り下げたものである。昇降機構12は、昇降モータ20や、この昇降モータ20の回転動力を分配する減速機、連結軸、ベベルギアボックス等の動力伝達機構22を有する。さらに昇降機構12は、平面視略矩形状である溝部18底面の四隅部分に、それぞれ二段テレスコピック型のアクチュエータ28を有し、各アクチュエータ28の先端部で昇降テーブル16を強固に支持している。昇降モータ20の回転動力は動力伝達機構22を介して分配され、分配された回転駆動力によってアクチュエータ28が上下方向に伸縮駆動され、昇降テーブル16が下降位置と上昇位置との間で昇降される。
【0025】
下降位置にある昇降テーブル16は、そのテーブル上面30が溝部18周囲の敷地面Sと面一となるように設けている(
図2、
図3参照)。昇降テーブル16の上昇位置は、下降位置つまり周囲の敷地面Sよりも、例えば1420mm程度高く設定される(
図4、
図5参照)。昇降テーブル16のテーブル上面30には、下降位置にあるときに前後の第一構内レール116aと一直線状に連続するように左右一対の軌道31を設けている。
【0026】
各車両2を保持する保持機構14は、敷地面S上に設置される左右の地上式車体昇降装置34からなる。この地上式車体昇降装置34は、車両2のうち車体8部分に対して側方から差し込まれるフック部32を有している。フック部32の敷地面Sからの高さは、地上式車体昇降装置34に内蔵される昇降駆動モータや伝達機構によって、1625mm程度のストロークで変更自在である。同じく、フック部32の車体8側への突出量も、地上式車体昇降装置34に内蔵される横移動モータや伝達機構によって、415mm程度のストロークで変更自在である。図中の符号36は、地上式車体昇降装置34の上部に設置される昇降用のロータリーエンコーダである。
【0027】
本実施形態では、フック部32を有する地上式車体昇降装置34を、一つの車両2に対して、その車両2の前側部分の左右両側方と、その車両2の後側部分の左右両側方の、都合四箇所に配置している(
図1参照)。そのため、各車両2が有する車体8は、前後左右の四箇所から差し込まれたフック部32により係止され、その高さで車体8が保持される。
【0028】
昇降機構12や保持機構14の駆動制御は、図示略の総括制御盤によって総括的に行われる。ここで具体的な駆動制御については後述する。
【0029】
次に、車両整備システム200の他のエリアについて説明する。
【0030】
台車搬送エリア118には、平面式台車トラバーサー120が設置されている。平面式台車トラバーサー120は、構内レール116をなす第一構内レール116aと第二構内レール116bをつなぐ装置であり、互いに平行である両構内レール116a,116bに対して直交する方向にスライド移動し、台車6を搬送する。
【0031】
解体前作業エリア112は、ピット122内にて作業者が台車6に対して解体前作業を行うエリアである。ピット122は、第二構内レール116bが敷設される敷地面Sの一部を掘り下げることで形成される。台車解体エリア114は、解体前作業の施された台車6が解体されるエリアであり、搬送用の天井クレーン123が設置されている。
【0032】
第一構内レール116a上での台車6の搬送は、ベルト式台車移動装置124を用いて行われる。ベルト式台車移動装置124は、軌陸両用であって小回りがよいという利点がある。第二構内レール116b上での台車6の搬送は、ローラー式台車移動装置126を用いて行われる。ローラー式台車移動装置126は、無線による遠隔操作が可能であるという利点がある。
【0033】
次に、前記構成の車両整備システム200を用いて行う本実施形態の車両整備方法について述べる。
【0034】
まず、複数の車両2で編成された列車4を、第一構内レール116aを走行させて車体保持エリア110にまで搬入し、各車両2の台車6を、それぞれ昇降機構12の昇降テーブル16上にセットする。このとき、各台車6が有する車輪7は、昇降テーブル16の軌道31上にある。軌道31上の車輪7は、昇降テーブル16に設けたレールストッパ17(
図3参照)によってロックされる。
【0035】
そして、台車6の位置する全ての昇降機構12において、昇降テーブル16を、敷地面Sと面一な下降位置から徐々に上昇させてゆく。これにより、複数の車両2で編成された列車4全体が一体に上昇する。列車4全体が所定の上昇位置にまで到達すれば、この位置にて全ての昇降テーブル16を停止させる。
【0036】
次いで、各車両2の両側に位置する地上式車体昇降装置34を用い、上方に移動させておいたフック部32を車体8の左右両側から差し込み、車体8全体をフック部32で保持する。作業者は、上昇位置にまで持ち上げられた車両2に対して、台車6の分離作業を行う。
【0037】
分離された台車6は、その台車6を載置する昇降テーブル16を下降位置にまで降ろすことで、個別に降下される。このとき、車両2の車体8側は、フック部32により上昇位置で保持されたままである。個別に分離及び降下された台車6は、作業者の運転するベルト式台車移動装置124によって、
図1に示すように第一構内レール116a上を順次搬送されていく。
【0038】
列車4から分離して個別に引き出された台車6は、台車搬送エリア118の始端において平面式台車トラバーサー120に載せられ、車輪7を抱え上げられた状態で終端にまで搬送される。終端に搬送された台車6は、無線操作されるローラー式台車移動装置126によって、第二構内レール116b上を搬送されてゆき、その途中の解体前作業エリア112で作業者によって解体前作業を施された後、更に第二構内レール116b上を搬送されて台車解体エリア114に至る。台車6は台車解体エリア114にて解体され、各部品は天井クレーン123を用いて所定の整備エリアに搬送され、各種整備が施される。整備後の各部品は組み立てられ、整備済みの台車6として再び車体保持エリア110に搬入される。
【0039】
台車6の整備には数日の期間を要するが、その期間中の車体保持エリア110では、台車6の分離された車体8が、リフトアップされた状態で保持される。この車体8に対して、作業者が各種の整備を行う。車体8の高さは、地上式車体昇降装置34のフック部32の高さを変更することにより変更自在であり、そのときの作業に適した高さに適宜変更しつつ整備作業を進めることができる。
【0040】
そして、整備が完了した車体8に対して、整備済みの台車6が結合される。このとき、各車体8はフック部32で上方位置に保持したまま、昇降テーブル16は敷地面Sと面一の下降位置に降ろしておく。この下降位置にある昇降テーブル16の軌道31上に、台車6を搬入させる。次いで、台車6の車輪7をレールストッパ17でロックしたうえで、昇降テーブル16と台車6を一体に上昇させ、上方で保持される車体8に対して台車6を結合させる。
【0041】
全ての車両2で台車6の結合作業が完了すれば、車体8からフック部32を引き抜いて保持力を解除し、全ての昇降テーブル16を同時に降下させることで、列車4全体が一体に降下される。降下後の列車4は、車体保持エリア110から搬出する。その後に、別の列車4を車体保持エリア110に搬入し、同様の整備工程を実行することで、列車4の整備が順次行われていく。
【0042】
以上、図面に基づいて詳述したように、本発明の一実施形態の車両昇降装置100は、複数の車両2で編成された列車4を、下降位置と上昇位置との間で昇降させるものである。車両昇降装置100は、列車4全体を一体に昇降させる車両昇降手段と、各車両2が有する台車6を個別に昇降させる台車昇降手段と、各車両2が有する車体8を上昇位置で保持させる保持手段とを具備する。
【0043】
したがって、本実施形態の車両昇降装置100によれば、まずは列車4全体を一体に上昇させ、上方位置で車体8を保持させたうえで台車6を分離して個別に降下させ、他のエリアにまで搬送したうえで台車6を整備することができる。車体8は、この車両昇降装置100で上方に保持したまま整備作業を行うことができる。整備完了後は、この車両昇降装置100に保持される車体8に対して台車6を結合させればよい。そのため、本実施形態の車両昇降装置100を用いることで、従来の整備にて行われる面倒な作業が不要となる。つまり、従来のように列車4の車両2を一両ごとに分割させる作業や、分割後の車両2を作業場にまで搬送する作業や、各車両2から分離させた車体8をさらに搬送する作業が不要となり、作業者の数や整備時間が削減される。また、列車4から台車6を個別に引き出すことができるので、特に整備時間を要する台車6(例えば主電動機を装備している台車6等)を先行して整備にまわすことで、全体の整備時間がより削減される。加えて、車体8を上方に保持したまま、台車6を分離又は結合する作業や、車体8の整備作業を行うことができるので、作業者にとっては中腰などの負担のかかる作業が削減されるという利点もある。
【0044】
また、本実施形態の車両昇降装置100において、車両昇降手段と台車昇降手段は共に、台車6を個別に昇降させる昇降機構12からなる。この昇降機構12によって、台車6と車体8が結合された車両2により編成された列車4全体を一体に昇降させ、且つ、車体8から分離された台車6を個別に昇降させる。
【0045】
このようにすることで、共通の昇降機構12を用いて、列車4全体の昇降作業と、台車6個別の昇降作業とが実現される。
【0046】
この昇降機構12は、台車6が個別に載置される昇降テーブル16を有し、この昇降テーブル16が下降位置にあるときのテーブル上面30を、周囲の敷地面Sと面一に設けている。
【0047】
このようにすることで、昇降テーブル16を下降位置にセットしたときには、車両昇降装置100の設置されるエリア全体がフラットとなり、作業の安全性が一層確保される。
【0048】
本実施形態の車両昇降装置100において、保持機構14は、車体8を係止する複数のフック部32を有し、車体8に対して複数のフック部32を両側方から出し入れするものである。
【0049】
このようにすることで、フック部32の出し入れによって、車体8の係止と係止解除を自在に選択することができる。また、フック部32の高さを変更すれば、これに係止される車体8の高さも、作業に応じて自在に変更することができる。
【0050】
本発明の一実施形態の車両整備システム200は、車体保持エリア110と台車解体エリア114との間を、構内レール116を介してつないだものである。車両整備システム200では、前記構成の車両昇降装置100が車体保持エリア110に設置され、この車両昇降装置100で上昇させた列車4のうち任意の車両2から台車6を分離させ、分離後の台車6を個別に降下させ、降下された台車6を構内レール116に沿って台車解体エリア114にまで搬送するように設けている。
【0051】
したがって、本実施形態の車両整備システム200によれば、まずは車体保持エリア110において車両昇降装置100で列車4全体を一体に上昇させ、上方位置で車体8を保持させたうえで任意の台車6を分離して個別に降下させ、構内レール116を利用してそのまま台車解体エリア114にまで搬送し、解体したうえで整備にまわすことができる。車体8は、車体保持エリア110の車両昇降装置100で上方に保持したまま整備作業を行うことができる。整備完了後は、車体保持エリア110の車両昇降装置100に保持される車体8に対して、台車6を結合させればよい。そのため、本実施形態の車両整備システム200によれば、従来の整備にて行われる面倒な作業が不要となる。
【0052】
本発明の一実施形態の車両整備方法は、複数の車両2で編成された列車4全体を一体に上昇させる工程と、上昇された列車4の任意の車両2から台車6を分離させる工程と、分離された台車6を個別に降下させる工程と、降下された台車6を搬送して整備する工程と、上昇された列車4の各車両2の車体8を整備する工程と、上昇された整備完了後の車体8に対して整備完了後の台車6を結合させる工程と、を具備する。
【0053】
したがって、本実施形態の車両整備方法によれば、従来のように列車4の車両2を一両ごとに分割させる作業や、分割後の車両2を作業場にまで搬送する作業や、各車両2から分離させた車体8をさらに搬送する作業が不要となり、作業者の数や整備時間が削減される。また、特に整備時間を要する台車6があるときにはこれを先行して整備にまわすことで、全体の整備時間がより削減される。加えて、車体8を上昇させたまま、台車6を分離又は結合させる作業や、車体8の整備作業を行うことができるので、作業者にとっては中腰などの負担のかかる作業が削減される。
【0054】
以上、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の意図する範囲内であれば、適宜の設計変更を行うことが可能である。