(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記無機化合物(B)は、六方晶窒化ホウ素、タルク、酸化亜鉛、黒鉛、アルミナ、酸化チタン及び酸化マグネシウムのうち少なくとも1つである請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂成形体をパソコンやディスプレーの筐体、電子デバイス材料、自動車の内外装、照明器具部材、携帯電話等の携帯型電子機器等種々の用途に適用する際、樹脂は金属材料等の無機物と比較して熱伝導性が低いため、発生した熱を逃がし難いことが問題になることがある。
このような課題を解決するため、高熱伝導性無機化合物を大量に熱可塑性樹脂中に配合することで、高熱伝導性樹脂組成物を得ようとする試みが広くなされている。高熱伝導性無機化合物としては、グラファイト、炭素繊維、低融点金属、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素等が用いられ、通常は30体積%以上、更には50体積%以上もの高含有量で樹脂中に配合されている。
【0003】
従来、高熱伝導性を発現させるフィラーを高充填した熱可塑性樹脂組成物としては、ポリエステル系樹脂やポリアミド系樹脂、またポリアリーレンサルファイド樹脂等種々の熱可塑性樹脂に、高熱伝導性のグラファイト、炭素繊維、低融点金属、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素等が練り込まれたものが知られている。
【0004】
このような熱可塑性樹脂組成物の製造方法としては、熱可塑性樹脂に導電性フィラーを混練させる方法(特許文献1、2)や熱可塑性樹脂に補強用長繊維を混練させる方法(特許文献3、4)が知られている。
【0005】
特許文献1には、二軸押出機を用いて、結晶性ポリオレフィン系樹脂および低結晶性熱可塑性樹脂に導電性カーボンを混練する方法が開示されており、ここでは、二軸押出機の設定温度を130〜200℃とし、SIE値を1.0〜2.0kW・h/kgとし、L/D=32とする方法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、二軸押出機の条件について「設定温度を樹脂のガラス転移点+160℃以下」、「先端部樹脂圧力を50kgf/cm
2以上」、「SIE値を2.5kW・h/kg以上」とすることで、樹脂の劣化を防止し、混練中の樹脂の粘度低下を抑制し、導電フィラーを均一に分散できることが開示されている。
【0007】
しかしながら、これらの方法では、無機フィラーとガラス繊維を高充填する場合においては、樹脂粘度が高すぎるため、無機フィラーが均一分散しにくく、成形品の強度低下の原因となることがあった。
【0008】
特許文献3には、押出機において、ダイスオリフィスを円錐形とし、かつ、シリンダ内径面積の90%以上を覆うようなダイス内径とすることで、ダイホールでの樹脂滞留部を無くし、補強用長繊維の破損を防止する技術が開示されている。
また、特許文献4は、シリンダ内のスクリュ先端とダイス間に板状プレートを設置し、流路を分けることで、滞留抑制し表面性良好なストランドが得られる方法を開示している。
【0009】
これらの方法は、補強用長繊維のみを熱可塑性樹脂に混練する場合には、ある程度の効果を奏するものの、無機フィラー及び補強用長繊維の両者を熱可塑性樹脂に混練する場合には、滞留部が無いことで混練不足となり、強度や熱伝導性といった成形品の物性が低下する原因となることがあった。
【0010】
特許文献5は、押出混練機において、押出/正面方向からスクリュをみた時、スクリュの外周上にダイスオリフィスを設置し、かつ、スクリュ軸の先端とダイス内壁の距離をスクリュ直径よりも短くすることで、ダイス内樹脂滞留をなくし、フィラーを高充填化した樹脂組成物を均一分散させることが可能であり、ダイスオリフィスの目詰まりが無く、ダイス部樹脂温度を抑制し樹脂劣化を防止することが可能となることを開示している。
しかしながら、この方法を用いても、無機フィラー及び補強用長繊維の両者を熱可塑性樹脂に混練する場合には、樹脂滞留部が無いことで混練不足となり、成形品の物性低下を招くこととなる。
【0011】
さらに、特許文献6には、ポリアミド樹脂にリン酸メラミン系難燃剤及び無機質強化材を混練する方法が開示されており、難燃剤を全バレル中の1/3下流からフィードし、無機質強化材のサイドフィードを難燃剤フィードからさらに下流側で行うことで、難燃剤の分解や無機質強化材の破損を防止できることが開示されている。
しかしながら、本文献には、無機フィラーと補強繊維を同時に充填する方法については開示されていない。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法では、熱可塑性ポリエステル系樹脂(A)、無機化合物(B)及び強化材(C)を含有する熱可塑性樹脂組成物を押出機により製造する。
以下、まず、熱可塑性樹脂組成物の原料(各含有成分)について説明する。
【0020】
(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂
上記熱可塑性ポリエステル系樹脂(A)としては、例えば、非晶性脂肪族ポリエステル、非晶性半芳香族ポリエステル、非晶性全芳香族ポリエステルなどの非晶性熱可塑性ポリエステル系樹脂、結晶性脂肪族ポリエステル、結晶性半芳香族ポリエステル、結晶性全芳香族ポリエステルなどの結晶性熱可塑性ポリエステル系樹脂、液晶性脂肪族ポリエステル、液晶性半芳香族ポリエステル、液晶性全芳香族ポリエステルなどの液晶性熱可塑性ポリエステル系樹脂、などを用いることができる。
【0021】
上記熱可塑性ポリエステル系樹脂(A)のうち、液晶性熱可塑性ポリエステル系樹脂の好ましい構造の具体例としては、
−O−Ph−CO− 構造単位(I)、
−O−R
3−O− 構造単位(II)、
−O−CH
2CH
2−O− 構造単位(III)
−CO−R
4−CO− 構造単位(IV)および
−O−R
5−CO− 構造単位(V)
のうちの一種以上の構造単位からなる液晶性熱可塑性ポリエステル系樹脂が挙げられる。
(ただし式中のR
3は
【0023】
から選ばれた1種以上の基を示し、R
4は
【0025】
から選ばれた1種以上の基を示し(ただし、式中Xは、互いに独立して、水素原子または塩素原子を示す)、R
5は
【0026】
【化3】
から選ばれた1種以上の基を示す(ただし、式中Xは、互いに独立して、水素原子または塩素原子を示す)。
【0027】
上記構造単位(I)はp−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位であり、構造単位(II)は4,4′−ジヒドロキシビフェニル、3,3′,5,5′−テトラメチル−4,4′−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、メチルハイドロキノン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよび4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテルから選ばれた一種以上の芳香族ジヒドロキシ化合物から生成した構造単位であり、構造単位(III)はエチレングリコールから生成した構造単位であり、構造単位(IV)はテレフタル酸、イソフタル酸、4,4′−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4′−ジカルボン酸、1,2−ビス(2−クロルフェノキシ)エタン−4,4′−ジカルボン酸および4,4′−ジフェニルエーテルジカルボン酸から選ばれた一種以上の芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位であり、構造単位(V)は、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成した構造単位であることが好ましい。
【0028】
これらのなかでは、p−ヒドロキシ安息香酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成した構造単位からなる液晶性熱可塑性ポリエステル系樹脂、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物から生成した構造単位およびテレフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性熱可塑性ポリエステル系樹脂、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位およびテレフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性熱可塑性ポリエステル系樹脂を特に好ましく用いることができる。
【0029】
上記熱可塑性ポリエステル系樹脂(A)のうち、結晶性熱可塑性ポリエステル系樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレートおよびポリエチレン−1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4′−ジカルボキシレートなどのほか、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレートおよびポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート/イソフタレートなどの結晶性共重合ポリエステル系樹脂等が挙げられる。
【0030】
これらのなかでは、入手が容易であるという点からは、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、等を用いることが好ましい。
また、結晶化速度が最適である点などからは、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、等のポリアルキレンテレフタレート熱可塑性ポリエステル系樹脂を用いることが好ましい。
【0031】
本発明で製造する熱可塑性樹脂組成物において、上記熱可塑性ポリエステル系樹脂(A)は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
2種以上を組み合わせて使用する場合には、その組み合わせは特に限定されず、化学構造、分子量、結晶形態、などが異なる2種以上の成分を任意に組み合わせることができる。
【0032】
本発明で製造する熱可塑性樹脂組成物は、上記熱可塑性ポリエステル系樹脂(A)以外の各種熱可塑性樹脂をさらに含有していてもよい。
上記熱可塑性ポリエステル系樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂(以下、単に(A)以外の熱可塑性樹脂ともいう)は、合成樹脂であっても自然界に存在する樹脂であっても良い。
上記(A)以外の熱可塑性樹脂を用いる場合、その使用量は、成形性と機械的特性とのバランスを考慮すると、上記熱可塑性ポリエステル系樹脂(A)100重量部に対して、0重量部を超え100重量部以下であることが好ましく、0重量部を超え50重量部以下であることがより好ましい。
【0033】
上記(A)以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスチレンなどの芳香族ビニル系樹脂、ポリアクリロニトリルなどのシアン化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニルなどの塩素系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のポリメタアクリル酸エステル系樹脂やポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンや環状ポリオレフィン樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニルなどのポリビニルエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂及びこれらの誘導体樹脂、ポリメタクリル酸系樹脂やポリアクリル酸系樹脂及びこれらの金属塩系樹脂、ポリ共役ジエン系樹脂、マレイン酸やフマル酸及びこれらの誘導体を重合して得られるポリマー、マレイミド系化合物を重合して得られるポリマー、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアルキレンオキシド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂、フェノキシ系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、液晶ポリマー、及びこれら例示されたポリマーのランダム・ブロック・グラフト共重合体、等が挙げられる。
これら(A)以外の熱可塑性樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上の樹脂を組み合わせて用いる場合には、必要に応じて相溶化剤などを添加して用いることもできる。これら(A)以外の熱可塑性樹脂は、目的に応じて適宜使い分ければよい。
【0034】
これら(A)以外の熱可塑性樹脂の中でも、樹脂の一部あるいは全部が結晶性あるいは液晶性を有する熱可塑性樹脂であることが、無機化合物(B)を樹脂中に含有させることが容易である点から好ましい。また、一部あるいは全部が結晶性あるいは液晶性を有する熱可塑性樹脂は、無機化合物(B)として高熱伝導性無機化合物を配合することにより、得られた熱可塑性樹脂組成物の熱伝導率を高くできる傾向がある点でも好ましい。
これら結晶性あるいは液晶性を有する熱可塑性樹脂は、樹脂全体が結晶性であっても、ブロックあるいはグラフト共重合体樹脂の分子中における特定ブロックのみが結晶性や液晶性であるなど樹脂の一部のみが結晶性あるいは液晶性であっても良い。樹脂の結晶化度には特に制限はない。
また上記(A)以外の熱可塑性樹脂として、非晶性樹脂と結晶性あるいは液晶性樹脂とのポリマーアロイを用いることもできる。この場合も樹脂の結晶化度には特に制限はない。
【0035】
樹脂の一部あるいは全部が結晶性あるいは液晶性を有する(A)以外の熱可塑性樹脂の中には、結晶化させることが可能であっても、単独で用いたり特定の成形加工条件で成形したりすることにより、場合によっては非晶性を示す樹脂もある。このような樹脂を用いる場合には、無機化合物(B)の添加量や添加方法を調整したり、延伸処理や後結晶化処理をするなど成形加工方法を工夫したりすることにより、樹脂の一部あるいは全体を結晶化させることができる場合もある。
【0036】
また、上記(A)以外の熱可塑性樹脂として、弾性を有する樹脂(弾性樹脂)を用いてもよい。弾性樹脂を用いることで、熱可塑性樹脂組成物の衝撃強度を改善しうる。
上記弾性樹脂としては、得られる樹脂組成物の衝撃強度改良効果に優れていることから、その少なくとも1つのガラス転移点が0℃以下であるものが好ましく、−20℃以下であるものがより好ましい。
【0037】
上記弾性樹脂としては特に限定されず、例えば、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、(メタ)アクリル酸アルキルエステル−ブタジエンゴム等のジエン系ゴム;アクリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、シロキサンゴム等のゴム状重合体;ジエン系ゴム及び/又はゴム状重合体10〜90重量部に対して、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される少なくとも1つのモノマー10〜90重量部、並びに、これらと共重合可能な他のビニル系化合物10重量部以下を重合してなるゴム状共重合体;ポリエチレン、ポリプロピレン等の各種ポリオレフィン系樹脂;エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体などのエチレン−αオレフィン共重合体;プロピレン−ブテン共重合体等のオレフィン共重合体;エチレン−エチルアクリレート共重合体等の、各種共重合成分により変性された共重合ポリオレフィン系樹脂;エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−プロピレン−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−プロピレン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−ブテン−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−ブテン−無水マレイン酸共重合体、プロピレン−ブテン−グリシジルメタクリレート共重合体、プロピレン−ブテン−無水マレイン酸共重合体等の各種官能成分により変性された変性ポリオレフィン系樹脂;スチレン−エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−エチレン−ブテン共重合体、スチレン−イソブチレン共重合体等のスチレン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0038】
上記弾性樹脂を添加する場合、その添加量は、上記熱可塑性ポリエステル系樹脂(A)の合計100重量部に対して、通常150重量部以下であり、好ましくは0.1〜100重量部であり、より好ましくは0.2〜50重量部である。150重量部を超えると、剛性、耐熱性、熱伝導性等が低下する傾向がある。
【0039】
(B)無機化合物
上記無機化合物(B)としては特に限定されず、熱可塑性樹脂組成物に配合しうる公知の無機化合物であればよいが、本発明で製造する熱可塑性樹脂組成物が、高熱伝導率の成形品を得るための樹脂組成物である場合には、上記無機化合物(B)は、高熱伝導性無機化合物であることが好ましい。
なお、本発明において、無機化合物(B)とは、単体での熱伝導率が1.5W/m・Kよりも大きいものをいう。
【0040】
上記無機化合物(B)は、産地、不純物の種類に関して特に制限はなく、よく知られた種々の無機化合物(B)を用いることが可能である。
具体的には、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、鉄、マグネシウム、ニッケル等の金属およびこれら金属の合金、アルミナ(酸化アルミニウム)、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化ベリリウム、酸化銅、亜酸化銅等の金属酸化物、窒化ホウ素(特に六方晶窒化ホウ素)、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の金属窒化物、炭化ケイ素等の金属炭化物、黒鉛、カーボン、グラファイト、ダイヤモンド等の炭素材料、タルク等が挙げられる。
上記無機化合物(B)は、六方晶窒化ホウ素、タルク、酸化亜鉛、黒鉛、アルミナ、酸化チタン及び酸化マグネシウムのうち少なくとも1つであることが好ましい。
その理由は、熱伝導率が高く、取り扱いが容易だからである。
【0041】
また、本発明において、上記無機化合物(B)としては、種々の形状のものを適応可能である。
上記無機化合物(B)の具体的な形状としては、例えば、粒子状、微粒子状、ナノ粒子、凝集粒子状、チューブ状、ナノチューブ状、ワイヤ状、ロッド状、針状、板状、不定形、ラグビーボール状、六面体状、大粒子と微小粒子とが複合化した複合粒子状、液体等の種々の形状を例示することができる。
【0042】
上記無機化合物(B)は、上記熱可塑性ポリエステル系樹脂(A)と無機化合物(B)との界面での接着性を高めたり、作業性を容易にしたりするために、シラン処理剤等の各種表面処理剤で表面処理がなされたものであってもよい。
上記表面処理剤としては特に限定されず、例えば、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等従来公知のものを使用することができる。なかでもエポキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤、及び、アミノシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤、ポリオキシエチレンシラン等が熱可塑性樹脂組成物の物性を低下させることが少ないため好ましい。
また、上記無機化合物(B)の表面処理方法としては特に限定されず、通常の処理方法を利用できる。
【0043】
上記無機化合物(B)は、上述した無機化合物(B)のなかから、種類、形状、粒子径、表面処理の有無等を考慮して適宜選択すればよい。上記無機化合物(B)は、1種類のみを用いても良いし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
勿論、高熱伝導性無機化合物とそれ以外の無機化合物とを組み合わせて用いてもよい。
【0044】
上記無機化合物(B)として、高熱伝導性無機化合物を用いる場合、熱伝導性の観点から、その形状は、板状形状であることが好ましい。
詳しくは、アスペクト比が2〜30の板状形状であることが好ましい。
ここで、アスペクト比とは、
図1に示す板状形状において短辺の長さ(短径)をd1、長辺の長さ(長径)をd2としたときに、d2/d1で表される値である。
【0045】
上記板状形状を有する高熱伝導性無機化合物のアスペクト比は、熱拡散異方性付与の観点から5〜20であることがより好ましい。
上記範囲のアスペクト比を有する高熱伝導性無機化合物を使用した場合、熱可塑性樹脂組成物を射出成形して作製した成形体が肉厚の薄い部分を有すると、高熱伝導性無機化合物が面方向に配列され、この箇所における熱拡散異方性が発現しやすくなる。
一方、上記アスペクト比が2未満では、アスペクト比が小さいがゆえに、高熱伝導性無機化合物が薄肉部でも面方向への配向がされにくく、異方性が発現しにくくなり、上記アスペクト比が30よりも大きいと、長手方向に長い形状を有してしまうために、熱可塑性樹脂組成物の流動性を阻害して、その結果、成形性が悪化してしまうおそれがある。
【0046】
上記無機化合物(B)は、タップ密度が0.6g/cm
3以上であることが好ましい。タップ密度が大きい値であるほど、樹脂への充填が容易となるからである。より好ましくは0.7g/cm
3以上、さらに好ましくは0.8g/cm
3以上である。
【0047】
上記タップ密度は、一般的な粉末タップ密度測定装置を用い、該粉末を密度測定用100cc容器に入れタッピングさせ衝撃で固めた後、容器上部の余分な粉末をブレードで擦りきる方法により算出される値である。
【0048】
本発明の製造方法により製造される熱可塑性樹脂組成物において、上記無機化合物(B)の含有量は、樹脂組成物全量に対して10〜60体積%である。
上記無機化合物(B)の含有量が10体積%よりも少なくなると、総無機化合物量が少なく、本発明の製造方法により得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて成形体を作製した場合に、得られた成形体において無機化合物(B)の分布量が少なくなる。そのため、無機化合物として高熱伝導性無機化合物を使用した場合に、熱伝導性が発生しにくくなることがある。
一方、上記無機化合物(B)の含有量が60体積%よりも多くなると、総無機化合物量が多すぎるため、本発明の製造方法により得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて成形体を作製した場合、得られた成形体は機械特性が大幅に低下してしまう。
上記無機化合物(B)の含有量は、樹脂組成物全量に対して、好ましくは10〜55体積%、より好ましくは15〜55体積%である。
【0049】
(C)強化材
本発明で用いる上記強化材(C)は、熱伝導率が0.1〜1.5W/m・Kの範囲にあるものである。
上記強化材(C)の形状は特に制限されないが、繊維状の強化材であることが好ましい。上記強化材(C)はクロス状などに二次加工されたものであってもよい。
【0050】
本発明の製造方法では、特定の方法により強化材(C)を配合するため、本発明の製造方法により得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて成形体を製造した場合、得られた成形体は機械特性に優れたものとなる。
【0051】
上記強化材(C)としては、例えば、ガラス繊維、炭化ケイ素繊維、シリカアルミナ繊維、チタニア繊維、窒化ケイ素繊維などの無機質繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、セルロース繊維などの有機質繊維を用いることができる。さらに、これら繊維は必要に応じて2種以上組み合わせて用いることができる。これら繊維は、連続トウ、短繊維、織布、不織布などの形態で使用でき、ぬれ性を高めるために表面処理が施されてあってもよい。
【0052】
上記強化材(C)の平均長は、0.1〜20mmの範囲にあることが好ましい。
0.1mmよりも短いと、上述したような製造した成形体に優れた機械特性を付与するとの効果を享受することができない場合があり、一方、20mmよりも長いと本発明の製造方法での成形性が悪くなることがある。
【0053】
このような強化材(C)は、単独で、又は、2種以上組み合わせて用いることができる。
また、上記強化材(C)は、各種シランカップラーやチタンカップラーなどで処理されていても良い。
【0054】
上記強化材(C)の配合量は、熱可塑性樹脂組成物の全量に対して、5〜35体積%であることが好ましい。
上記範囲にあると、ダイス部樹脂圧力を50kgf/cm
2以上まで加圧し、多量に無機化合物を含有した状態の組成物を均一に混練することができるからである。
【0055】
これに対して、上記強化材(C)の配合量が5体積%未満では、強化材(C)の絶対量が少なすぎるために、ダイス部樹脂圧力が上がりきらず、混練不足となることがある。
また、上記強化材(C)の配合量が35体積%よりも多いと、ダイス部樹脂圧力が上がりすぎて、ストランド孔の根詰まりが発生し、生産性が低下することがある。
また、樹脂組成物中の総フィラー量(無機化合物(B)及び強化材(C)の合計量)が過剰になり、本発明の製造方法により得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて成形体を作製した場合、成形体が脆くなってしまう恐れがある。
【0056】
本発明の製造方法では、熱可塑性ポリエステル系樹脂(A)、無機化合物(B)及び強化材(C)に加えて、更に必要に応じ、造核剤などの結晶化促進剤を配合してもよい。これにより製造された熱可塑性樹脂組成物の成形性をさらに向上させることができる。
【0057】
上記結晶化促進剤としては、例えば、高級脂肪酸アミド、尿素誘導体、ソルビトール系化合物、高級脂肪酸塩、芳香族脂肪酸塩等が挙げられ、これらは1種又は2種以上用いることができる。
なかでも結晶化促進剤としての効果が高いことから、高級脂肪酸アミド、尿素誘導体、ソルビトール系化合物が好ましい。
【0058】
上記高級脂肪酸アミドとしては、例えば、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、N−ステアリルベヘン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド、エチレンジアミンとステアリン酸とセバシン酸の重縮合物等が挙げられ、特にベヘン酸アミドが好ましい。
【0059】
上記尿素誘導体としては、例えば、ビス(ステアリルウレイド)ヘキサン、4,4′−ビス(3−メチルウレイド)ジフェニルメタン、4,4′−ビス(3−シクロヘキシルウレイド)ジフェニルメタン、4,4′−ビス(3−シクロヘキシルウレイド)ジシクロヘキシルメタン、4,4′−ビス(3−フェニルウレイド)ジシクロヘキシルメタン、ビス(3−メチルシクロヘキシルウレイド)ヘキサン、4,4′−ビス(3−デシルウレイド)ジフェニルメタン、N−オクチル−N′−フェニルウレア、N,N′−ジフェニルウレア、N−トリル−N′−シクロヘキシルウレア、N,N′−ジシクロヘキシルウレア、N−フェニル−N′−トリブロモフェニルウレア、N−フェニル−N′−トリルウレア、N−シクロヘキシル−N′−フェニルウレア等が例示され、特にビス(ステアリルウレイド)ヘキサンが好ましい。
【0060】
上記ソルビトール系化合物としては、例えば、1,3,2,4−ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジベンジリデンソルビトール、1,3−ベンジリデン−2,4−p−メチルベンジリデンソルビトール 、1,3−ベンジリデン−2,4−p−エチルベンジリデンソルビトール、1,3−p−メチルベンジリデン−2,4−ベンジリデンソルビトール、1,3−p−エチルベンジリデン−2,4−ベンジリデンソルビトール、1,3−p−メチルベンジリデン−2,4−p−エチルベンジリデンソルビトール、1,3−p−エチルベンジリデン−2,4−p−メチルベンジリデンソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−エチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−n−プロピルベンジリデン)ソルビトール 、1,3,2,4−ジ(p−i−プロピルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−n−ブチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−s−ブチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−t−ブチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−メトキシベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−エトキシベンジリデン)ソルビトール 、1,3−ベンジリデン−2,4−p−クロルベンジリデンソルビトール、1,3−p−クロルベンジリデン−2,4−ベンジリデンソルビトール、1,3−p−クロルベンジリデン−2,4−p−メチルベンジリデンソルビトール、1,3−p−クロルベンジリデン−2,4−p−エチルベンジリデンソルビトール、1,3−p−メチルベンジリデン−2,4−p−クロルベンジリデンソルビトール、1,3−p−エチルベンジリデン−2,4−p−クロルベンジリデンソルビトール、及び1,3,2,4−ジ(p−クロルベンジリデン)ソルビトール 等が挙げられる。
これらの中では、1,3,2,4−ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジベンジリデンソルビトールが好ましい。
【0061】
上記結晶化促進剤の配合量は、製造される熱可塑性樹脂組成物の成形性の点から、熱可塑性ポリエステル系樹脂(A)100重量部に対し、0.01〜5重量部が好ましく、0.03〜4重量部がより好ましく、0.05〜3重量部がさらに好ましい。
0.01重量部未満では、結晶化促進剤を配合した効果が発現しない可能性があり、一方、5重量部を超えると、効果が飽和する可能性があることから経済的に好ましくなく、場合によっては、得られた成形体の外観や物性が損なわれる可能性がある。
【0062】
また、本発明の製造方法では、得られる熱可塑性樹脂組成物をより高性能なものにするため、フェノール系安定剤、イオウ系安定剤、リン系安定剤等の熱安定剤等を単独又は2種類以上を組み合わせて添加することが好ましい。さらに、必要に応じて、一般に良く知られている、安定剤、滑剤、離型剤、可塑剤、リン系以外の難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、光安定剤、染料、帯電防止剤、導電性付与剤、分散剤、相溶化剤、抗菌剤等を、単独又は2種類以上を組み合わせて添加してもよい。
【0063】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法では、これらの原料を押出機で混練することにより、熱可塑性樹脂組成物を製造する。
上記押出機は特に限定されず、単軸押出機でもあってもよいし、多軸押出機であってもよいが、二軸押出機が好ましい。
【0064】
図2は、本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法で使用する二軸押出機の一例を模式的に示す断面図である。
二軸押出機10は、スクリュ12及びシリンダ11と、シリンダ11の根元に配設された第一供給口13と、シリンダ11の先端15付近に配設された第二供給口(サイドフィーダー)14とを備える。
本発明の製造方法では、第一供給口13から、熱可塑性ポリエステル系樹脂(A)及び無機化合物(B)をシリンダ11内に投入し、スクリュ12の回転に伴って、これらを搬送、溶融、混練する。これにともに、第二供給口14から、強化材(C)を投入し、熱可塑性ポリエステル系樹脂(A)及び無機化合物(B)の混合物に混練する。そして、充分に混練された混合物は、ダイス18を介してストランド孔16より押出される。これにより、熱可塑性樹脂組成物のストランドを得ることができる。なお、
図2中、17は駆動モーターである。
【0065】
本発明の製造方法では、上記強化材(C)をシリンダ11の先端付近からサイドフィードすることが重要である。
ここで、シリンダの先端付近とは、シリンダ長さをL
1、第二供給口からシリンダの先端までの距離をL
2とした際に、L
1/L
2が2.0以上3.0以下となる位置をいう。
L
1/L
2が2.0よりも小さいと、第二供給口からサイドフィードされた強化材(C)が破砕され、得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて作製した成形体の強度低下等を招く恐れがある。
また、L
1/L
2が3.0よりも大きいと、第二供給口からサイドフィードされた強化材(C)が、ダイス部に到達するまでに、熱可塑性ポリエステル系樹脂(A)及び無機化合物(B)と十分に混練されない可能性がある。
【0066】
本発明の製造方法では、第二供給口をL
1/L
2が2.2以上2.8以下となる位置に配設することが好ましい。
【0067】
また、本発明の製造方法では、ダイス部樹脂圧力を50kgf/cm
2以上とする。上記ダイス部樹脂圧力が50kgf/cm
2未満では、強化材(C)が樹脂組成物中に均一に混練されないからである。
上記ダイス部樹脂圧力の好ましい上限は、200kgf/cm
2である。200kgf/cm
2を超えると、ダイス部樹脂圧力が高すぎることによって、熱可塑性樹脂組成物による根詰まりが発生する場合がある。また、押出機のトルクオーバーとなり、生産性が低下することもある。
本発明の製造方法において、上記ダイス部樹脂圧力は、スクリュ回転数により制御することができる。スクリュ回転数を上げることによって、熱可塑性樹脂組成物の粘度を下げ、ダイス部樹脂圧力を低減させることができる。
スクリュ回転数の好ましい下限は50rpmである。スクリュ回転数が50rpm未満であると、ダイス部樹脂圧力が高くなり、吐出量が落ちて生産性が低下してしまうことがあり、また、ダイス部に目詰まりが発生する原因となり、目詰まりが発生した場合も生産性が低下してしまうことがある。
スクリュ回転数の好ましい上限は300rpmである。スクリュ回転数が300rpmを超えると、熱可塑性樹脂組成物中の無機化合物(B)が破砕され、熱伝導性や機械特性が低下してしまうことがある。
なお、上記ダイス部樹脂圧力は、シリンダの先端15に配設したセンサ(図示せず)により測定することができる。
【0068】
本発明の製造方法で使用する押出機は、L
1/D(シリンダ長さ/スクリュ径)が、40以上であることが好ましい。
また、上記押出機には、ベント部が設けられていることが好ましく、また、上記押出機のスクリュには、ニーディングディスクが一箇所以上設けられていることが好ましい。
【0069】
また、本発明の製造方法において、シリンダ内の搬送部、溶融部及び混練部の温度は通常設定される温度であればよく、例えば、上記熱可塑性ポリエステル系樹脂(A)の溶融温度に対して、供給ゾーンで+30℃以内、溶融ゾーンで+30℃以内、混練ゾーンで+30℃以内であることが好ましい。
各ゾーンにおいて+30℃を超えて温度を設定すると、ダイス部より押し出される熱可塑性樹脂の温度が300℃を超えてしまうことがあり、それにより熱可塑性樹脂が劣化してしまうことがある。
【0070】
また、本発明の製造方法では、第一供給口から熱可塑性ポリエステル系樹脂(A)及び無機化合物(B)を投入する場合、両者を低い位置から投入することが好ましく、特に3m以下の高さから投入することが好ましい。これにより、熱可塑性ポリエステル系樹脂(A)及び無機化合物(B)がより均一に混練されることとなるからである。
【0071】
また、ここまで説明した製造方法では、熱可塑性ポリエステル系樹脂(A)及び無機化合物(B)をシリンダの根元に配設された第一供給口から供給しているが、本発明の製造方法において、上記無機化合物(B)は、必ずしもシリンダの根元から供給する必要はなく、強化材(C)より上流側で供給するのであれば、熱可塑性ポリエステル系樹脂(A)の供給位置より下流側の任意の位置から供給すればよい。
【0072】
また、本発明の製造方法において、熱可塑性ポリエステル系樹脂(A)、無機化合物(B)及び強化材(C)に加えて、結晶化促進剤や熱安定剤等の他の成分を配合する場合、これらの他の成分のシリンダへの供給位置は、熱可塑性ポリエステル系樹脂(A)又は無機化合物(B)と同じ位置であることが好ましく、無機化合物(B)と同じ位置であることがより好ましい。
【0073】
このように、本発明の製造方法では、強化材(C)を除く、全ての配合物が強化材(C)より上流側で投入されることが好ましく、特に、強化材(C)の投入位置まで搬送されてきた配合物は、強化材(C)を除く全ての配合物が充分に混練されていることが好ましい。
【0074】
熱可塑性ポリエステル系樹脂(A)及び無機化合物(B)や他の配合物が充分に混練された状態にあるシリンダの先端付近から強化材(C)をサイドフィードせず、強化材(C)を熱可塑性ポリエステル系樹脂(A)又は無機化合物(B)と同じ位置からフィードすると、強化材(C)は、ダイスに搬送されるまでに破損してしまい、その結果、充分なダイス部樹脂圧力を保持することができないこととなる。
この場合、製造された熱可塑性樹脂組成物において、無機化合物(B)や強化材(C)等が均一に分散されず、ストランド切れが発生したり、ストランドの外観が羽毛状等の不良な外観を有したりすることとなる。そして、このような熱可塑性樹脂組成物を用いて成形体を作製した場合には、その成形体は機械的強度に劣るものとなる。
また、強化材(C)を熱可塑性ポリエステル系樹脂(A)と同じ位置でシリンダ内にフィードすると、押出機にかかる負荷トルクが高くなりすぎてしまい、吐出量が上がらず生産性が低下してしまう原因となる。
【0075】
本発明の製造方法で製造した熱可塑性樹脂組成物は、樹脂フィルム、樹脂シート、樹脂成形体などさまざまな形態で、電子材料、磁性材料、触媒材料、構造体材料、光学材料、医療材料、自動車材料、建築材料等の各種の用途に幅広く用いることが可能である。
【0076】
また、本発明の製造方法で製造した熱可塑性樹脂組成物は、現在広く用いられている一般的なプラスチック用射出成形機が使用可能であるため、複雑な形状を有する成形体の取得も容易である。
【0077】
特に、本発明の製造方法で製造した熱可塑性樹脂組成物が高熱伝導性無機化合物を含有する場合、成形加工性及び熱伝導性に極めて優れるとの特性を併せ持つことから、発熱源を内部に有する携帯電話、ディスプレー、コンピューターなどの筐体用樹脂として、非常に有用である。
【0078】
また、本発明の製造方法において、熱可塑性樹脂組成物の形状をペレット状にすることで、家電、OA機器部品、AV機器部品、自動車内外装部品等の射出成形体等に好適に使用することができ、特に多くの熱を発する家電製品やOA機器の外装材料として好適に用いることができる。
さらには、発熱源を内部に有するがファン等による強制冷却が困難な電子機器において、内部で発生する熱を外部へ放熱するために、これらの機器の外装材として好適に用いられる。
【0079】
これらの中でも特に好ましい用途としては、ノートパソコンなどの携帯型コンピューター、PDA、携帯電話、携帯ゲーム機、携帯型音楽プレーヤー、携帯型TV/ビデオ機器、携帯型ビデオカメラ等の小型あるいは携帯型電子機器類の筐体、ハウジング、外装材用樹脂等が挙げられる。また、自動車や電車等におけるバッテリー周辺用樹脂、家電機器の携帯バッテリー用樹脂、ブレーカー等の配電部品用樹脂、モーター等の封止用材料等も挙げられる。
【0080】
本発明の製造方法では、無機化合物(B)として高熱伝導性無機化合物を用いることで、高熱伝導性を有する高熱伝導性樹脂組成物のペレットを得ることができ、該ペレットから得られる成形体は従来良く知られている成形体に比べて、表面性、熱伝導性が良好であり、上記の用途における部品あるいは筐体用として有用な特性を有するものである。
【実施例】
【0081】
以下に、本発明の具体的な実施例を比較例と併せて説明するが、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0082】
(実施例1)
熱可塑性ポリエステル系樹脂(A−1):ポリエチレンテレフタレート樹脂(三菱化学(株)製 ノバペックス PBKII/溶融温度260℃)に、フェノール系安定剤であるAO−60((株)ADEKA製)、高熱伝導性無機化合物(B−1):燐片形状六方晶窒化ホウ素粉末(モメンティブパフォーマンスマテリアルズ製 PT110)を混合したものを準備した(配合原料1)。
別途、強化材(C):ガラスチョップドストランド(日本電気硝子(株)製 ECS03T−187HPL)を準備した(配合原料2)。
【0083】
配合原料1と配合原料2を別々の重量式フィーダーにセットし、(A−1)/(B−1)/(C)の体積比が55/30/15となるようにフィーダー吐出量をセットした後、同方向噛み合い型二軸押出機(日本製鋼所製、TEX44XCT)のスクリュ根元を投入位置として配合原料1を、シリンダの先端付近を投入位置として配合原料2を投入し、ダイスを介して押し出すことで熱可塑性樹脂組成物のストランドを成形し、これをシャワーミストで冷却した後、切断することにより、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
なお、配合原料2の投入位置は、L
1/L
2(シリンダ長さ/配合原料1の供給口からシリンダの先端までの距離)が2.5となる位置である。
設定温度は供給口近傍が250℃で、順次設定温度を上昇させ、押出機スクリュ先端部温度を280℃に設定した。よって、本実施例では、供給ゾーンの温度が250〜260℃、溶融ゾーンの温度が260〜280℃、混練ゾーンの温度が270〜280℃である。
また、本実施例におけるダイス部樹脂圧は、120kgf/cm
2である。
また、本実施例では、製造時にストランド切れもなく、生産安定性も良好であった。
【0084】
(実施例2)
配合原料の種類や量を下記表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にしてペレットを得た。
本実施例における製造時のダイス部樹脂圧力は60kgf/cm
2であった。
また、本実施例では、製造時にストランド切れもなく、生産安定性も良好であった。
【0085】
(実施例3)
配合原料の種類や量を下記表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にしてペレットを得た。
本実施例における製造時のダイス部樹脂圧力は90kgf/cm
2であった。
また、本実施例では、製造時にストランド切れもなく、生産安定性も良好であった。
【0086】
(実施例4)
配合原料の種類や量を下記表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にしてペレットを得た。
本実施例における製造時のダイス部樹脂圧力は130kgf/cm
2であった。
また、本実施例では、製造時にストランド切れもなく、生産安定性も良好であった。
【0087】
(実施例5)
配合原料の種類や量を下記表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にしてペレットを得た。
本実施例における製造時のダイス部樹脂圧力は125kgf/cm
2であった。
また、本実施例では、製造時にストランド切れもなく、生産安定性も良好であった。
【0088】
(実施例6)
配合原料の種類や量を下記表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にしてペレットを得た。
本実施例における製造時のダイス部樹脂圧力は130kgf/cm
2であった。
また、本実施例では、製造時にストランド切れもなく、生産安定性も良好であった。
【0089】
(実施例7)
配合原料の種類や量を下記表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にしてペレットを得た。
本実施例における製造時のダイス部樹脂圧力は100kgf/cm
2であった。
また、本実施例では、製造時にストランド切れもなく、生産安定性も良好であった。
【0090】
(実施例8)
配合原料の種類や量を下記表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にしてペレットを得た。
本実施例における製造時のダイス部樹脂圧力は110kgf/cm
2であった。
また、本実施例では、製造時にストランド切れもなく、生産安定性も良好であった。
【0091】
(実施例9)
配合原料の種類や量を下記表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にしてペレットを得た。
本実施例における製造時のダイス部樹脂圧力は120kgf/cm
2であった。
また、本実施例では、製造時にストランド切れもなく、生産安定性も良好であった。
【0092】
(実施例10)
配合原料の種類や量を下記表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にしてペレットを得た。
本実施例における製造時のダイス部樹脂圧力は125kgf/cm
2であった。
また、本実施例では、製造時にストランド切れもなく、生産安定性も良好であった。
【0093】
(比較例1)
配合原料の種類や量を下記表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にしたが、ダイスのストランド孔に根詰まりが発生し、熱可塑性樹脂組成物を押し出すことができなかった。
本比較例における製造時のダイス部樹脂圧力は、根詰まりにより押出機のトルクオーバーとなり、計測不可能であった。
【0094】
(比較例2)
配合原料の種類や量を下記表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にしたが、ダイスのストランド孔に根詰まりが発生し、熱可塑性樹脂組成物を押し出すことができなかった。
本比較例における製造時のダイス部樹脂圧力は、根詰まりにより押出機のトルクオーバーとなり、計測不可能であった。
【0095】
(比較例3)
配合原料の種類や量を下記表1に示すように変更し、かつ、強化材(C)の投入位置を配合原料1と同一(スクリュ根元)とした以外は実施例1と同様にしたが、ダイスのストランド孔に根詰まりが発生し、熱可塑性樹脂組成物を押し出すことができなかった。
本比較例における製造時のダイス部樹脂圧力は、根詰まりにより押出機のトルクオーバーとなり、計測不可能であった。
【0096】
(比較例4)
配合原料の種類や量を下記表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にしたが、ダイスのストランド孔に根詰まりが発生し、熱可塑性樹脂組成物を押し出すことができなかった。
本比較例における製造時のダイス部樹脂圧力は、根詰まりにより押出機のトルクオーバーとなり、計測不可能であった。
【0097】
(比較例5)
配合原料の種類や量を下記表1に示すように変更し、強化材(C)を投入しないこととした以外は実施例1と同様にしたが、ダイス部樹脂圧力が20kgf/cm
2と低く、ストランドが波打ちペレットサイズが安定せず、外観不良が見られた。また、強化材(C)を含有していないため、充分に混練されていなかった。
【0098】
なお、実施例及び比較例に用いた原料は、下記の通りである。
【0099】
熱可塑性ポリエステル系樹脂(A):
(A−1):ポリエチレンテレフタレート樹脂(三菱化学(株)製 ノバペックス PBKII)
【0100】
非ポリエステル系熱可塑性樹脂:
(A−2):ポリフェニレンスルファイド樹脂(DIC(株)製 C−201)
【0101】
高熱伝導性無機化合物(B):
(B−1):鱗片形状六方晶窒化ホウ素粉末(モメンティブパフォーマンスマテリアルズ製 PT110 数平均粒子径50μm)
(B−2):板状タルク(日本タルク(株)製 MS−KY 数平均粒子径23μm)
(B−3):テトラポッド形状酸化亜鉛((株)アムテック製 パナテトラWZ−0501L)
【0102】
強化材(C):
(C−1):ガラス繊維(日本電気硝子(株)製 ECS03T−187H/PL)
【0103】
その他添加剤(D):
(D−1):リン系難燃剤(クラリアントジャパン(株)製 OP−935)
(D−2):臭素系難燃剤(アルべマール日本(株)製 BT−93W)
(D−3):難燃助剤(日本精鉱(株)製 三酸化アンチモン PATOX−P)
【0104】
(評価)
(1)ストランド外観(ペレット外観)
実施例及び比較例で得られたペレットを目視にて観察し、表面に羽毛状があったものを「外観不良」、羽毛状がなかったものを「外観良好」とした。結果を表1に示した。
なお、比較例1〜4は、押出不可であったため、外観を評価できなかった。
【0105】
(2)熱伝導率
実施例及び比較例で得られたペレットを140℃で4時間乾燥後、75t射出成形機にて、平板の面中心部分にゲートサイズ0.8mmφで設置されたピンゲートを通じて、150mm×80mm×厚み1.0mmの平板形状試験片に成形し、高熱伝導性樹脂組成物の成形体を得た。
【0106】
得られた厚み1.0mmの成形体を切り出し、12.7mmφの円板状サンプルを作成した。
サンプル表面にレーザー光吸収用スプレー(ファインケミカルジャパン(株)製、ブラックガードスプレーFC−153)を塗布し乾燥させた後、XeフラッシュアナライザーであるNETZSCH製、LFA447Nanoflashを用い、厚み方向及び面方向の熱拡散率を測定した。
【0107】
また、熱拡散率測定で使用した円板状サンプルから、DSC(JIS K 7123に準拠)にて比熱容量を測定した。
そして、測定した熱拡散率及び比熱容量の値から面方向熱伝導率(W/m・k)を算出した。結果を表1に示した。
【0108】
【表1】