特許第5981763号(P5981763)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許59817634−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5981763
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/03 20060101AFI20160818BHJP
   C07C 69/54 20060101ALI20160818BHJP
   C07C 67/58 20060101ALI20160818BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20160818BHJP
【FI】
   C07C67/03
   C07C69/54 Z
   C07C67/58
   !C07B61/00 300
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-107166(P2012-107166)
(22)【出願日】2012年5月9日
(65)【公開番号】特開2013-234144(P2013-234144A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2015年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000205638
【氏名又は名称】大阪有機化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141472
【弁理士】
【氏名又は名称】赤松 善弘
(72)【発明者】
【氏名】伊東 啓祐
(72)【発明者】
【氏名】岡村 康平
(72)【発明者】
【氏名】川上 直彦
【審査官】 石井 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−194201(JP,A)
【文献】 特開2007−254384(JP,A)
【文献】 特開2003−155263(JP,A)
【文献】 特開2010−172839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させることによって4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを製造する方法であって、エステル交換触媒として式(I):
【化1】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基または炭素数7〜12のアラルキル基、Xはアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子、nはXの原子価を表わす数を示す)
で表されるエステル交換触媒を用い、当該エステル交換触媒の存在下で1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させ、当該エステル交換反応によって得られた反応混合物と水およびシクロヘキサンを含有する抽出溶媒とを混合し、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを水層に抽出させた後、当該水層と芳香族炭化水素化合物を含有する抽出溶媒とを混合し、当該水層に含まれている4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを芳香族炭化水素化合物に抽出させることにより、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを回収することを特徴とする4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項2】
(メタ)アクリル酸1モルあたりの式(I)で表わされるエステル交換触媒の量が0.00001〜0.01モルである請求項1に記載の4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項3】
1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させることによって得られた4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを含有する反応混合物から式(I)で表わされるエステル交換触媒を回収し、当該回収された式(I)で表わされるエステル交換触媒を1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させる際にエステル交換触媒として再利用する請求項1または2に記載の4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項4】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルが式(II):
【化2】
(式中、R3は水素原子またはメチル基、R4は炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表わされる(メタ)アクリル酸アルキルエステルである請求項1〜のいずれかに記載の4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、自動車用塗料、建材用塗料、電子材料用コーティング剤、感光性樹脂組成物などの原料として有用な4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの製造方法に関する。
【0002】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、(メタ)アクリル酸および/またはメタクリル酸を意味する。また、(メタ)アクリレートは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味する。
【背景技術】
【0003】
4−ヒドロキシブチルアクリレートを製造する方法として、硫酸、パラトルエンスルホン酸などの触媒を用いて1,4−ブタンジオールとアクリル酸とを脱水エステル化反応させることによって4−ヒドロキシブチルアクリレートを製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、前記方法には、副反応生成物の生成量が多く、さらに触媒として酸が使用されているため、煩雑な中和工程を必要とするとともに、中和によって生成した多量の塩が廃棄物となるという欠点がある。
【0004】
そこで、前記方法が有する技術的課題を解決する方法として、触媒としてジスタノキサンまたはスタノキサンを用いて1,4−ブタンジオールとアクリル酸メチルとをエステル交換反応させることによって4−ヒドロキシブチルアクリレートを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献2〜5参照)。しかし、触媒として用いられるジスタノキサンおよびスタノキサンは、いずれも高価であるとともに工業的に入手が困難である。
【0005】
また、エステル交換触媒としてジブチル錫オキシド、ジn−ブチル錫酸化物などのジアルキル錫酸化物を用いることが知られている(例えば、特許文献3の段落[0004]、特許文献6の特許請求の範囲第1項参照)。当該ジアルキル錫酸化物は、その使用量が少量であっても触媒活性に優れており、比較的安価であることから、魅力のある触媒である。しかし、1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸メチルとをエステル交換反応させることによって4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを調製する際に、触媒としてジアルキル錫酸化物を用いた場合には、抽出操作によってジアルキル錫酸化物を分離することが困難であるため、当該ジアルキル錫酸化物を触媒として使用することが困難とされている(例えば、特許文献2の段落[0079]および特許文献3の段落[0007]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許第1518572号明細書
【特許文献2】特開平11−43466号公報
【特許文献3】特開2000−128831号公報
【特許文献4】特開2003−155263号公報
【特許文献5】特開2007−161636号公報
【特許文献6】特公昭46−39848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させることにより、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを効率よく製造することができ、しかも当該エステル交換反応の際に使用されるエステル交換触媒を効率よく回収し、再利用することができる4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させることによって4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを製造する方法であって、エステル交換触媒として式(I):
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基または炭素数7〜12のアラルキル基、Xはアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子、nはXの原子価を表わす数を示す)
で表されるエステル交換触媒を用い、当該エステル交換触媒の存在下で1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させ、当該エステル交換反応によって得られた反応混合物と水およびシクロヘキサンを含有する抽出溶媒とを混合し、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを水層に抽出させた後、当該水層と芳香族炭化水素化合物を含有する抽出溶媒とを混合し、当該水層に含まれている4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを芳香族炭化水素化合物に抽出させることにより、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを回収することを特徴とする4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの製造方法、
(2) (メタ)アクリル酸1モルあたりの式(I)で表わされるエステル交換触媒の量が0.00001〜0.01モルである前記(1)に記載の4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの製造方法、
(3) 1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させることによって得られた4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを含有する反応混合物から式(I)で表わされるエステル交換触媒を回収し、当該回収された式(I)で表わされるエステル交換触媒を1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させる際にエステル交換触媒として再利用する前記(1)または2)に記載の4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの製造方法、および
) (メタ)アクリル酸アルキルエステルが式(II):
【0011】
【化2】
【0012】
(式中、R3は水素原子またはメチル基、R4は炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表わされる(メタ)アクリル酸アルキルエステルである前記(1)〜()のいずれかに記載の4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの製造方法によれば、1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させることにより、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを効率よく製造することができ、しかも当該エステル交換反応の際に使用されるエステル交換触媒を効率よく回収し、再利用することができるという優れた効果が奏される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの製造方法は、前記したように、1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させることによって4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを製造する方法であり、式(I):
【0015】
【化3】
【0016】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基または炭素数7〜12のアラルキル基、Xはアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子、nはXの原子価を表わす数を示す)
で表されるエステル交換触媒の存在下で1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させることを特徴とする。
【0017】
本発明においては、まず、1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させる。
【0018】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチルなどが挙げられ、これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルのなかでは、生成する4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを効率よく分離する観点から、式(II):
【0019】
【化4】
【0020】
(式中、R3は水素原子またはメチル基、R4は炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表わされる(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、式(II)において、R3が水素原子またはメチル基であり、R4が炭素数1〜3のアルキル基である(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましく、(メタ)アクリル酸メチルがさらに好ましい。
【0021】
1,4−ブタンジオール1モルあたりの(メタ)アクリル酸アルキルエステルの量は、反応速度を高める観点から、好ましくは0.5モル以上であり、未反応の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの量を低減させる観点から、好ましくは5モル以下、より好ましくは3モル以下である。
【0022】
1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させる際に、式(I)で表わされるエステル交換触媒が用いられる。本発明においては、このように式(I)で表わされるエステル交換触媒が用いられる点に1つの大きな特徴がある。
【0023】
式(I)で表わされるエステル交換触媒を用いた場合には、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを効率よく製造することができ、しかも当該エステル交換反応の際に使用されるエステル交換触媒を効率よく回収し、再利用することができるという優れた効果が発現される。
【0024】
式(I)で表わされるエステル交換触媒において、R1およびR2は、触媒活性を持続させる観点およびエステル交換反応によって得られる4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの収率を高める観点から、それぞれ独立して、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基または炭素数7〜12のアラルキル基である。なお、式(I)で表わされるエステル交換触媒の製造の容易さの観点から、R1およびR2は、それぞれ同一であることが好ましい。
【0025】
炭素数1〜18のアルキル基のなかでは、触媒活性を持続させる観点および4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの収率を高める観点から、炭素数1〜12のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましく、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを製造した後に水洗によって当該エステル交換触媒を容易に除去することができる観点から、炭素数1〜4のアルキル基がさらに好ましい。炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基およびtert−ブチル基が挙げられる。
【0026】
炭素数6〜12のアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0027】
炭素数7〜12のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、メチルベンジル基、ナフチルメチル基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0028】
式(I)において、Xは、アルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子である。アルカリ金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属原子としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、バリウムなどが挙げられる。Xのなかでは、触媒活性を持続させる観点および4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの収率を高める観点から、ナトリウム、カリウム、マグネシウムおよびカルシウムが好ましく、ナトリウム、カリウムおよびマグネシウムがより好ましく、ナトリウムおよびカリウムがさらに好ましい。
【0029】
式(I)において、nは、Xの原子価を表わす数である。したがって、Xがアルカリ金属である場合、nは1であり、Xがアルカリ土類金属原子である場合、nは2である。
【0030】
式(I)で表わされるエステル交換触媒の具体例としては、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジプロピルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸カリウム、ジエチルジチオカルバミン酸カリウム、ジプロピルジチオカルバミン酸カリウム、ジブチルジチオカルバミン酸カリウム、メチルエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、メチルプロピルジチオカルバミン酸ナトリウム、エチルプロピルジチオカルバミン酸ナトリウム、メチルブチルジチオカルバミン酸ナトリウム、メチルエチルジチオカルバミン酸カリウム、メチルプロピルジチオカルバミン酸カリウム、エチルプロピルジチオカルバミン酸カリウム、メチルブチルジチオカルバミン酸カリウム、ジフェニルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジトリルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジキシリルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジビフェニルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジナフチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジアントリルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジフェナントリルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジフェニルジチオカルバミン酸カリウム、ジトリルジチオカルバミン酸カリウム、ジキシリルジチオカルバミン酸カリウム、ジビフェニルジチオカルバミン酸カリウム、ジナフチルジチオカルバミン酸カリウム、ジアントリルジチオカルバミン酸カリウム、ジフェナントリルジチオカルバミン酸カリウム、ジベンジルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジフェニルエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルベンジルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジナフチルメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジベンジルジチオカルバミン酸カリウム、ジフェニルエチルジチオカルバミン酸カリウム、ジメチルベンジルジチオカルバミン酸カリウム、ジナフチルメチルジチオカルバミン酸カリウムなどのジチオカルバミン酸アルカリ金属塩;およびジメチルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジエチルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジプロピルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジブチルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジメチルジチオカルバミン酸カルシウム、ジエチルジチオカルバミン酸カルシウム、ジプロピルジチオカルバミン酸カルシウム、ジブチルジチオカルバミン酸カルシウム、メチルエチルジチオカルバミン酸マグネシウム、メチルプロピルジチオカルバミン酸マグネシウム、エチルプロピルジチオカルバミン酸マグネシウム、メチルブチルジチオカルバミン酸マグネシウム、メチルエチルジチオカルバミン酸カルシウム、メチルプロピルジチオカルバミン酸カルシウム、エチルプロピルジチオカルバミン酸カルシウム、メチルブチルジチオカルバミン酸カルシウム、ジフェニルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジトリルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジキシリルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジビフェニルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジナフチルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジアントリルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジフェナントリルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジフェニルジチオカルバミン酸カルシウム、ジトリルジチオカルバミン酸カルシウム、ジキシリルジチオカルバミン酸カルシウム、ジビフェニルジチオカルバミン酸カルシウム、ジナフチルジチオカルバミン酸カルシウム、ジアントリルジチオカルバミン酸カルシウム、ジフェナントリルジチオカルバミン酸カルシウム、ジベンジルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジフェニルエチルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジメチルベンジルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジナフチルメチルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジベンジルジチオカルバミン酸カルシウム、ジフェニルエチルジチオカルバミン酸カルシウム、ジメチルベンジルジチオカルバミン酸カルシウム、ジナフチルメチルジチオカルバミン酸カルシウムなどのジチオカルバミン酸アルカリ土類金属塩が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0031】
式(I)で表わされるエステル交換触媒のなかでは、エステル交換反応後に水洗によって分離させて回収し、再利用することができることから、アルキル基の炭素数が1〜4のジアルキルジチオカルバミン酸塩が好ましく、アルキル基の炭素数が1〜4のジアルキルジチオカルバミン酸アルカリ金属塩がより好ましく、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジプロピルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸カリウム、ジエチルジチオカルバミン酸カリウム、ジプロピルジチオカルバミン酸カリウムおよびジブチルジチオカルバミン酸カリウムがさらに好ましい。
【0032】
式(I)で表わされるエステル交換触媒は、その1種類だけで用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0033】
本発明において、式(I)で表わされるエステル交換触媒が用いられるが、本発明の目的が阻害されない範囲内であれば、他のエステル交換触媒が併用されていてもよい。他のエステル交換触媒としては、例えば、特開2002−326973号公報の段落[0043]に記載のものなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0034】
式(I)で表わされるエステル交換触媒の量は、エステル交換に供される原料の(メタ)アクリル酸エステルの種類などによって異なるので一概には決定することができない。通常、式(I)で表わされるエステル交換触媒の量は、1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとのエステル交換反応を促進させる観点から、原料の(メタ)アクリル酸エステル1モルあたり、好ましくは0.00001〜0.01モル、より好ましくは0.0001〜0.005モルである。
【0035】
1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを反応させる際には、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが重合することを抑制する観点から、重合防止剤の存在下で1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを反応させることが好ましい。
【0036】
重合防止剤としては、例えば、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−アセトアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルなどのN−オキシラジカル系化合物;パラメトキシフェノール、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−N,N−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、4−tert−ブチルカテコール、4,4’−チオ−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)などのフェノール系化合物;メトキノン、ハイドロキノン、2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−tert−ブチルハイドロキノン、ベンゾキノンなどのキノン系化合物;塩化第一銅;ジメチルジチオカルバミン酸銅などのジアルキルジチオカルバミン酸銅;フェノチアジン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、フェニル−β−ナフチルアミン,N,N’−ジ−β−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミンなどのアミノ化合物;1,4−ジヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどのヒドロキシアミン系化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの重合禁止剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0037】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル100質量部あたりの重合防止剤の量は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合を抑制する観点から、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.005質量部以上、さらに好ましくは0.01質量部以上であり、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの純度を高める観点から、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは1質量部以下である。
【0038】
なお、1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させる際には、有機溶媒を用いることができる。
【0039】
有機溶媒は、エステル交換反応の反応系内で不活性な有機溶媒であることが好ましい。好適な有機溶媒としては、例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタンなどの脂肪族炭化水素化合物、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素化合物、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物、テトラヒドロフランなどのエーテル化合物、ジクロロメタン、1,1−ジクロロエタンなどの有機塩素化合物、ニトロベンゼンなどの芳香族ニトロ化合物、トリエチルホスフェートなどの有機リン化合物、ジメチルスルホキシドなどの有機硫黄化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0040】
有機溶媒の量は、特に限定されないが、通常、1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの合計量100質量部あたり5〜200質量部程度であればよい。
【0041】
1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとのエステル交換反応を行なう際の反応温度は、反応速度を高める観点から、好ましくは30℃以上、より好ましくは50℃以上であり、生成する4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの重合を防止する観点から、好ましくは150℃以下である。
【0042】
1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとのエステル交換反応を行なう際の雰囲気は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合を防止する観点から、好ましくは酸素を含有する雰囲気であり、安全性を高める観点から、より好ましくは酸素濃度が5体積%〜大気濃度のガスである。また、その雰囲気の圧力は、通常、大気圧であればよいが、加圧または減圧であってもよい。例えば、その雰囲気の圧力を減圧させた場合には、反応温度を低下させることができるので、副反応を抑制することができるという利点がある。
【0043】
1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとのエステル交換反応を行なう際の反応時間は、1,4−ブタンジオールおよび(メタ)アクリル酸アルキルエステルの量、反応温度などによって異なるので一概には決定することができないことから、通常、エステル交換反応が完了するまでの時間が選択される。エステル交換反応の終点は、例えば、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーなどによって確認することができる。
【0044】
1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとのエステル交換反応は、例えば、精留塔、流動床、固定床、反応蒸留塔などを用いて行なうことかできるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。また、1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとのエステル交換反応は、流通式および回分式のいずれの方式によって行なってもよい。
【0045】
1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとのエステル交換反応の進行とともにアルコールが副生する。副生するアルコールは、通常、反応を進行させるために反応系外に除去することが好ましい。副生するアルコールは、例えば、(メタ)アクリル酸エステルまたは適当な溶媒との共沸混合物として反応系外に除去することができる。
【0046】
式(I)で表わされるエステル交換触媒の存在下で1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとのエステル交換反応を行なった後、エステル交換触媒として使用された式(I)で表わされるエステル交換触媒は、例えば、濾過などの手段により、生成した反応混合物から回収することができる。
【0047】
また、目的化合物である4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートは、生成した反応混合物から有機溶媒、未反応の(メタ)アクリル酸エステルおよびアルコールを留去することにより、回収することができる。反応混合物からの未反応の(メタ)アクリル酸エステルおよびアルコールの除去は、例えば、蒸留、抽出処理などによって行なうことができる。
【0048】
より具体的には、生成した4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートは、例えば、1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させることによって得られた反応混合物と水および脂肪族炭化水素化合物を含有する抽出溶媒とを混合し、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを水層に抽出させた後、当該水層と芳香族炭化水素化合物を含有する抽出溶媒とを混合し、当該水層に含まれている4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを芳香族炭化水素化合物に抽出させることにより、回収することができる。
【0049】
反応混合物と水および脂肪族炭化水素化合物を含有する抽出溶媒とを混合した場合には、反応混合物に含まれている4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを水層に抽出させ、副生した1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレートなどを脂肪族炭化水素化合物層に抽出させることができるので、当該水層を脂肪族炭化水素化合物層と分離することにより、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを含有する水層を回収することができる。
【0050】
脂肪族炭化水素化合物としては、例えば、シクロヘキサン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−デカン、イソヘキサン、イソオクタン、イソデカンなどの炭素数が6〜12の脂肪族炭化水素化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。なお、本願明細書において、脂肪族炭化水素化合物は、例えば、シクロヘキサンなどの脂環構造を有するものを含む概念のものである。水および脂肪族炭化水素化合物を含有する抽出溶媒には、本発明の目的を阻害しない範囲内で芳香族炭化水素化合物が含まれていてもよい。
【0051】
前記抽出溶媒において、脂肪族炭化水素化合物および水の量は、反応混合物の量などによって異なるので一概には決定することができないことから、反応混合物に含まれている4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを水層に抽出させ、脂肪族炭化水素化合物層と水層とを分離するのに適した量を適宜調整することが好ましい。また、前記抽出操作を行なう際の温度は、特に限定されないが、通常、5〜50℃程度であることが好ましい。
【0052】
次に、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが抽出された水層と、芳香族炭化水素化合物を含有する抽出溶媒とを混合することにより、当該水層に含まれている4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを芳香族炭化水素化合物層に抽出させ、当該芳香族炭化水素化合物層を水層と分離することにより、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを含有する芳香族炭化水素化合物層を回収することができる。
【0053】
芳香族炭化水素化合物としては、例えば、ベンゼン、エチルベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。なお、芳香族炭化水素化合物を含有する抽出溶媒には、本発明の目的を阻害しない範囲内で脂肪族炭化水素化合物、水などが含まれていてもよい。
【0054】
芳香族炭化水素化合物の量は、前記脂肪族炭化水素化合物層と分離された水層の量などによって異なるので一概には決定することができないことから、当該水層に含まれている4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを芳香族炭化水素化合物層に抽出させ、芳香族炭化水素化合物層と水層とを分離するのに適した量を適宜調整することが好ましい。前記抽出操作を行なう際の温度は、特に限定されないが、通常、5〜50℃程度であることが好ましい。
【0055】
前記芳香族炭化水素化合物層に含まれている4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートは、例えば、芳香族炭化水素化合物を蒸発させるなどの方法によって除去することにより、回収することができる。芳香族炭化水素化合物層に含まれている芳香族炭化水素化合物を除去する際の温度は、特に限定されないが、通常、20〜150℃程度であることが好ましい。以上のようにして回収された4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートは、必要により、蒸留精製、洗浄などにより、高純度化させてもよい。
【0056】
一方、脂肪族炭化水素化合物層には、副生した1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレートが含まれているが、当該1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート以外にも式(I)で表わされるエステル交換触媒が含まれている。したがって、式(I)で表わされるエステル交換触媒の有効活用を図る観点から、蒸留、濃縮、洗浄などの方法により、脂肪族炭化水素化合物層から式(I)で表わされるエステル交換触媒を回収してもよい。
【0057】
本発明においては、回収された式(I)で表わされるエステル交換触媒は、触媒活性があまり失活せずに維持されているので、1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させる際にエステル交換触媒として再利用することができる。したがって、回収された式(I)で表わされるエステル交換触媒は、1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させる際にエステル交換触媒として再利用し、当該回収された式(I)で表わされるエステル交換触媒の存在下で1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させることができる。その際、回収された式(I)で表わされるエステル交換触媒は、触媒活性を維持する観点から、1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させる際の反応系内における含水率が1000ppm以下となるように乾燥させた後に、再利用することが好ましい。
【0058】
このように本発明の4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの製造方法によれば、回収された式(I)で表わされるエステル交換触媒は、その触媒活性が失活するまで繰り返して使用することができるので、本発明の4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの製造方法は、工業的生産性に優れている。
【0059】
以上のようにして本発明の製造方法によって得られた4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートは、例えば、自動車用塗料、建材用塗料、電子材料用コーティング剤、感光性樹脂組成物などの原料として有用である。
【実施例】
【0060】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0061】
実施例1
2L容のガラス製の4口フラスコ内にオールダショウ20段、還流冷却器および気体導入管を取り付け、1,4−ブタンジオール675g(7.5モル)、メタクリル酸メチル500.6g(5.0モル)、シクロヘキサン101.39gおよび重合防止剤としてフェノチアジン0.72gを仕込んだ後、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム0.563g(0.0025モル)をフラスコ内に添加し、酸素ガスを7体積%含有する窒素ガスを20mL/minの流量で吹き込みながら1,4−ブタンジオールとメタクリル酸メチルとを87℃の温度で5時間反応させた。
【0062】
生成したメタノールとシクロヘキサンとの共沸混合物をデカンター内に入れた後、水50mLをデカンター内に連続添加し、分離したメタノール水溶液をデカンターから除去しながらメタノールの留出がほとんどなくなるまで1,4−ブタンジオールとメタクリル酸メチルとを87℃の温度で反応させた。
【0063】
1,4−ブタンジオールとメタクリル酸メチルとの反応終了後、得られた反応液を減圧下で80℃に加熱し、シクロヘキサンおよび未反応のメタクリル酸メチルを留去することにより、反応混合物1015gを得た。
【0064】
前記で得られた反応混合物から溶媒を除く成分をガスクロマトグラフィーで分析したところ、当該成分中に4−ヒドロキシブチルメタクリレート49.65質量%、1,4−ブタンジオール37.37質量%および1,4−ブタンジオールジメタクリレート12.45質量%が含まれていた。
【0065】
以上の結果から、エステル交換触媒としてジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムを用いることにより、4−ヒドロキシブチルメタクリレートを効率よく製造することができることがわかる。
【0066】
実施例2
2L容のガラス製の4口フラスコ内にオールダショウ20段、還流冷却器および気体導入管を取り付け、1,4−ブタンジオール675g(7.5モル)、メタクリル酸メチル500.6g(5.0モル)、シクロヘキサン101.39gおよび重合防止剤としてフェノチアジン0.72gを仕込んだ後、ジエチルジチオカルバミン酸カリウム0.500g(0.0025モル)をフラスコ内に添加し、酸素ガスを7体積%含有する窒素ガスを20mL/minの流量で吹き込みながら1,4−ブタンジオールとメタクリル酸メチルとを85℃の温度で10時間反応させた。
【0067】
生成したメタノールとシクロヘキサンとの共沸混合物をデカンター内に入れ、水50mLをデカンター内に連続添加し、分離したメタノール水溶液をデカンターから除去しながらメタノールの留出がほとんどなくなるまで1,4−ブタンジオールとメタクリル酸メチルとを85℃の温度で反応させた。
【0068】
1,4−ブタンジオールとメタクリル酸メチルとの反応終了後、得られた反応液を減圧下で80℃に加熱し、シクロヘキサンおよび未反応のメタクリル酸メチルを留去することにより、反応混合物1010gを得た。
【0069】
前記で得られた反応混合物から溶媒を除く成分をガスクロマトグラフィーで分析したところ、当該成分中に4−ヒドロキシブチルメタクリレート49.15質量%、1,4−ブタンジオール38.37質量%および1,4−ブタンジオールジメタクリレート11.95質量%が含まれていた。
【0070】
以上の結果から、エステル交換触媒としてジエチルジチオカルバミン酸カリウムを用いることにより、4−ヒドロキシブチルメタクリレートを効率よく製造することができることがわかる。
【0071】
実施例3
3L容の分液ロートに実施例1で得られた反応混合物1000gおよびシクロヘキサン500gを仕込み、撹拌した後、純水500gで水洗し、静置することにより、反応混合物をシクロヘキサン層1064gと水層934gとに分離させた。
【0072】
次に、第1抽出操作として、脈動型連続抽出塔(直径25mm、長さ1.4mの充填塔)の上部から純水を50mL/hrの流量で供給し、連続抽出塔の下部から前記シクロヘキサン層1064gを50mL/hrの流量で20時間かけて供給し、塔内を30〜35℃に加熱し、連続抽出することにより、副生した1,4−ブタンジオールジメタクリレートを含むシクロヘキサン層と、生成した4−ヒドロキシブチルメタクリレートおよび未反応の1,4−ブタンジオールを含む水層とを得た。なお、シクロヘキサン層および水層には、不溶物は存在していなかった。
【0073】
第2抽出操作として、前記で得られた水層と第1抽出操作で得られた水層とを混合し、得られた混合物1200mLを連続抽出塔の上部から50mL/hrの流量で供給し、連続抽出塔の下部から抽出溶媒としてトルエンを87.5mL/hrの流量で24時間かけて供給した。塔内を35〜40℃に加熱し、連続抽出することにより、4−ヒドロキシブチルメタクリレートを含むトルエン層と1,4−ブタンジオールを含む水層とを得た。
【0074】
前記トルエン層に含まれているトルエン以外の成分をガスクロマトグラフィーで分析したところ、当該成分中に1,4−ブタンジオールジメタクリレート0.08質量%が含まれていた。
【0075】
次に、第2抽出操作で得られたトルエン層1400gを2L容のガラス製の3口フラスコ内に仕込み、重合防止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.008gを当該フラスコ内に添加し、このフラスコ内の底部における温度を74〜85℃に調節し、280〜20hPaの減圧下で14時間トルエンを留去することにより、4−ヒドロキシブチルメタクリレートを濃縮した。
【0076】
前記で得られた濃縮物に含まれている成分をガスクロマトグラフィーで分析したところ、当該成分中に4−ヒドロキシブチルメタクリレート98.57質量%、1,4−ブタンジオールジメタクリレート0.09質量%および1,4−ブタンジオール1.08質量%が含まれていた。
【0077】
以上の結果から、エステル交換触媒としてジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムを用い、前記抽出操作を行なうことにより、4−ヒドロキシブチルメタクリレートを効率よく回収することができることがわかる。
【0078】
実施例4
2L容のガラス製の4口フラスコ内にオールダショウ20段、還流冷却器および気体導入管を取り付け、1,4−ブタンジオール675g(7.5モル)、アクリル酸メチル430g(5.0モル)、シクロヘキサン101.39gおよび重合防止剤としてフェノチアジン0.72gを仕込んだ後、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム0.563g(0.0025モル)をフラスコ内に添加し、酸素ガスを7体積%含有する窒素ガスを20mL/minの流量で吹き込みながら1,4−ブタンジオールとアクリル酸メチルとを85℃の温度で5時間反応させた。
【0079】
生成したメタノールとシクロヘキサンとの共沸混合物をデカンター内に入れ、水50mLをデカンター内に連続添加し、分離したメタノール水溶液をデカンターから除去しながらメタノールの留出がほとんどなくなるまで1,4−ブタンジオールとアクリル酸メチルとを85℃の温度で反応させた。
【0080】
1,4−ブタンジオールとアクリル酸メチルとの反応終了後、得られた反応液を88℃に加熱し、未反応のアクリル酸メチルをシクロヘキサンとの共沸によって留去することにより、反応混合物1109gを得た。
【0081】
前記で得られた反応混合物から溶媒を除く成分をガスクロマトグラフィーで分析したところ、当該成分中に4−ヒドロキシブチルアクリレート39.25質量%、1,4−ブタンジオール52.37質量%および1,4−ブタンジオールジアクリレート7.35質量%が含まれていた。
【0082】
以上の結果から、エステル交換触媒としてジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムを用いることにより、4−ヒドロキシブチルアクリレートを効率よく製造することができることがわかる。
【0083】
次に、第1抽出操作として、脈動型連続抽出塔(直径25mm、長さ1.4mの充填塔)の上部から前記で得られた反応混合物1088gを50mL/hrの流量で、また純水を29.5mL/hrの流量で供給し、連続抽出塔の下部からシクロヘキサンを87.8mL/hrの流量で22時間かけて供給し、塔内を30〜35℃に加熱し、連続抽出することにより、副生した1,4−ブタンジオールジアクリレートを含むシクロヘキサン層と、生成した4−ヒドロキシブチルアクリレートおよび未反応の1,4−ブタンジオールを含む水層とを得た。
【0084】
第2抽出操作として、前記で得られた水層1200mLを連続抽出塔の上部から50mL/hrの流量で供給し、連続抽出塔の下部から抽出溶媒としてトルエンを87.5mL/hrの流量で24時間かけて供給した。塔内を35〜40℃に加熱し、連続抽出することにより、4−ヒドロキシブチルアクリレートを含むトルエン層と1,4−ブタンジオールを含む水層とを得た。前記トルエン層に含まれているトルエン以外の成分における1,4−ブタンジオールジアクリレートの含有率をガスクロマトグラフィーによって調べたところ、その含有率は0.11質量%であった。
【0085】
次に、第2抽出操作で得られたトルエン層1400gを2L容のガラス製の3口フラスコ内に仕込み、重合防止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.008gを当該フラスコ内に添加し、このフラスコ内の底部における温度を74〜85℃に調節し、280〜20hPaの減圧下で14時間トルエンを留去することにより、4−ヒドロキシブチルアクリレートを濃縮した。
【0086】
前記で得られた濃縮物に含まれている成分をガスクロマトグラフィーで分析したところ、4−ヒドロキシブチルアクリレートの含有率が97.75質量%、1,4−ブタンジオールジアクリレートの含有率が0.14質量%、1,4−ブタンジオールの含有率が1.98質量%であった。
【0087】
以上の結果から、エステル交換触媒としてジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムを用い、前記抽出操作を行なうことにより、4−ヒドロキシブチルアクリレートを効率よく回収することができることがわかる。
【0088】
実施例5(回収触媒の1回目の再利用)
実施例3の第2抽出操作で得られた水層を濃縮することにより、1,4−ブタンジオールとジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムとの混合物367gを回収した。
【0089】
次に、実施例1で用いられた1,4−ブタンジオールの代わりに、前記で回収された混合物367gを仕込み、さらに実施例1で用いられた1,4−ブタンジオールと同量となるように、新たな1,4−ブタンジオールを仕込んだ。その際、前記混合物にジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムが含まれていることから、エステル交換触媒を新たに添加しなかった。
【0090】
その後、実施例1と同様にして1,4−ブタンジオールとメタクリル酸メチルとを87℃の温度で5時間反応させた。
【0091】
1,4−ブタンジオールとメタクリル酸メチルとの反応終了後、得られた反応液を減圧下で80℃に加熱し、未反応のメタクリル酸メチルを留去することにより、反応混合物1012gを得た。
【0092】
前記で得られた反応混合物から溶媒を除く成分をガスクロマトグラフィーで分析したところ、当該成分中に4−ヒドロキシブチルメタクリレート49.35質量%、1,4−ブタンジオール37.97質量%および1,4−ブタンジオールジメタクリレート12.32質量%が含まれていた。
【0093】
3L容の分液ロートに実施例5で得られた反応混合物1000gおよびシクロヘキサン500gを仕込み、撹拌した後、純水500gで水洗し、静置することにより、反応混合物をシクロヘキサン層1062gと水層936gとに分離させた。
【0094】
次に、第1抽出操作として、脈動型連続抽出塔(直径25mm、長さ1.4mの充填塔)の上部から純水を50mL/hrの流量で供給し、連続抽出塔の下部から前記シクロヘキサン層1062gを50mL/hrの流量で20時間かけて供給し、塔内を30〜35℃に加熱し、連続抽出することにより、副生した1,4−ブタンジオールジメタクリレートを含むシクロヘキサン層と、生成した4−ヒドロキシブチルメタクリレートおよび未反応の1,4−ブタンジオールを含む水層とを得た。なお、シクロヘキサン層および水層には、不溶物は存在していなかった。
【0095】
第2抽出操作として、前記で得られた水層と第1抽出操作で得られた水層とを混合し、得られた混合物1200mLを連続抽出塔の上部から50mL/hrの流量で供給し、連続抽出塔の下部から抽出溶媒としてトルエンを87.5mL/hrの流量で24時間かけて供給した。塔内を35〜40℃に加熱し、連続抽出することにより、4−ヒドロキシブチルメタクリレートを含むトルエン層と、1,4−ブタンジオールおよびジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムを含む水層とを得た。
【0096】
前記トルエン層に含まれているトルエン以外の成分をガスクロマトグラフィーで分析したところ、当該成分中に1,4−ブタンジオールジメタクリレート0.08質量%が含まれていた。
【0097】
次に、第2抽出操作で得られたトルエン層1400gを2L容のガラス製の3口フラスコ内に仕込み、重合防止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.008gを当該フラスコ内に添加し、このフラスコ内の底部における温度を74〜85℃に調節し、280〜20hPaの減圧下で14時間トルエンを留去することにより、4−ヒドロキシブチルメタクリレートを濃縮した。
【0098】
前記で得られた濃縮物に含まれている成分をガスクロマトグラフィーで分析したところ、当該成分中に4−ヒドロキシブチルメタクリレート98.42質量%、1,4−ブタンジオールジメタクリレート0.08質量%および1,4−ブタンジオール1.25質量%が含まれていた。
【0099】
以上の結果から、エステル交換触媒としてジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムを再利用し、前記抽出操作を行なった場合であっても、4−ヒドロキシブチルアクリレートを効率よく回収することができることがわかる。
【0100】
実施例6(回収触媒の2回目の再利用)
実施例5の抽出操作で得られた第2抽出操作によって得られた水層を濃縮することにより、1,4−ブタンジオールとジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムとの混合物353gを回収した。
【0101】
次に、実施例1において、実施例1で用いた1,4−ブタンジオールの代わりに、前記で回収された混合物353gを用い、さらに実施例1で用いた1,4−ブタンジオールと同量の新たな1,4−ブタンジオールを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行なった。なお、前記混合物にはジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムが含まれていることから、新たなエステル交換触媒を添加しなかった。
【0102】
その後、実施例1と同様にして1,4−ブタンジオールとメタクリル酸メチルとを87℃の温度で6時間反応させた。
【0103】
1,4−ブタンジオールとメタクリル酸メチルとの反応終了後、得られた反応液を減圧下で80℃に加熱し、未反応のメタクリル酸メチルを留去することにより、反応混合物1018gを得た。
【0104】
前記で得られた反応混合物から溶媒を除く成分をガスクロマトグラフィーで分析したところ、当該成分中に4−ヒドロキシブチルメタクリレート48.13質量%、1,4−ブタンジオール39.71質量%および1,4−ブタンジオールジメタクリレート11.82質量%が含まれていた。
【0105】
以上の結果から、エステル交換触媒としてジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムを2回再利用し、前記抽出操作を行なった場合であっても、4−ヒドロキシブチルアクリレートを効率よく回収することができることがわかる。
【0106】
したがって、各実施例で1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとのエステル交換反応の際に使用されたエステル交換触媒は、エステル交換反応後に抽出操作によって未反応の1,4−ブタンジオールとともに回収し、1,4−ブタンジオールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとのエステル交換反応の際に繰り返して再利用しても触媒活性を維持するものであることがわかる。
【0107】
このことから、本発明の4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの製造方法は、エステル交換触媒を繰り返して使用することができるので、エステル交換触媒の有効活用を図ることができることから、工業的生産性に優れた方法であることがわかる。