特許第5981765号(P5981765)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5981765固体潤滑剤及び固体潤滑剤を埋め込んだ摺動部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5981765
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】固体潤滑剤及び固体潤滑剤を埋め込んだ摺動部材
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20160818BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20160818BHJP
   C10M 107/02 20060101ALN20160818BHJP
   C10M 143/02 20060101ALN20160818BHJP
   C10M 147/02 20060101ALN20160818BHJP
   C10M 137/08 20060101ALN20160818BHJP
   C10M 129/40 20060101ALN20160818BHJP
   C10M 125/10 20060101ALN20160818BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20160818BHJP
   C10N 10/08 20060101ALN20160818BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20160818BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20160818BHJP
   C10N 50/08 20060101ALN20160818BHJP
【FI】
   C10M169/04
   !C10M101/02
   !C10M107/02
   !C10M143/02
   !C10M147/02
   !C10M137/08
   !C10M129/40
   !C10M125/10
   C10N10:04
   C10N10:08
   C10N30:06
   C10N40:02
   C10N50:08
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-107878(P2012-107878)
(22)【出願日】2012年5月9日
(65)【公開番号】特開2013-234270(P2013-234270A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2015年4月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104570
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 光弘
(72)【発明者】
【氏名】山本 義昭
(72)【発明者】
【氏名】大久保 健太郎
【審査官】 古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−179392(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/101718(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/029510(WO,A1)
【文献】 特開昭52−076342(JP,A)
【文献】 特開昭52−076574(JP,A)
【文献】 特開2005−171111(JP,A)
【文献】 特開2011−016888(JP,A)
【文献】 米国特許第5877128(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10N 50/08
C10M 107/38
C10M 147/02
C10N 10/04
c10N 10/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系ワックス及びポリエチレン樹脂を含有する連続相としての海相と、1万〜50万の分子量を有する四フッ化エチレン樹脂である低分子量四フッ化エチレン樹脂、金属せっけん、塩基性含窒素化合物のリン酸塩及び錫酸亜鉛を含有する分散相としての島相と、からなる海島構造を呈し、
前記低分子量四フッ化エチレン樹脂よりも高い分子量を有する四フッ化エチレン樹脂である高分子量四フッ化エチレン樹脂が、当該連続相の海相に繊維状化されて網目状に含有され、
前記炭化水素系ワックスの含有量が30〜60体積%であり、
前記ポリエチレン樹脂の含有量が3〜10体積%であり、
前記低分子量四フッ化エチレン樹脂の含有量が10〜30体積%であり、
前記金属せっけんの含有量が20〜40体積%であり、
前記塩基性含窒素化合物のリン酸塩の含有量が0.5〜5体積%であり、
前記錫酸亜鉛の含有量が0.5〜5体積%であり、
前記高分子量四フッ化エチレン樹脂の含有量が1〜10体積%であり、
前記塩基性含窒素化合物のリン酸塩は、ポリリン酸メラミン塩、ポリリン酸メラム塩、ポリリン酸メレム塩及びポリリン酸メラミン・メラム・メレム複塩のうちの少なくとも一つから選択されたものであ
ことを特徴とする固体潤滑剤。
【請求項2】
前記炭化水素系ワックスは、炭素数が24以上のパラフィン系ワックス、炭素数が26以上のオレフィン系ワックス、炭素数が28以上のアルキルベンゼン及びマイクロクリスタリンワックスのうちの少なくとも一つから選択されたものである
ことを特徴する請求項1に記載の固体潤滑剤。
【請求項3】
前記ポリエチレン樹脂は、低密度ポリエチレン樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂、超低密度ポリエチレン樹脂、中密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、高分子量ポリエチレン樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂及びエチレン−酢酸ビニル共重合体のうちの少なくとも一つから選択されたものである
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の固体潤滑剤。
【請求項4】
前記錫酸亜鉛は、三酸化錫亜鉛及び六水酸化錫亜鉛(ヒドロキシ錫酸亜鉛)の少なくとも一つから選択されたものである
ことを特徴とする請求項1ないしのいずれか一項に記載の固体潤滑剤。
【請求項5】
孔又は溝が形成された摺動面を備えた摺動部材基体と、
前記孔又は溝に埋め込まれた請求項1ないしのいずれか一項に記載の固体潤滑剤と、を有する
ことを特徴とする摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅合金等からなる摺動部材基体の摺動面に形成された孔もしくは溝に埋め込まれる固体潤滑剤及び固体潤滑剤を埋め込んだ摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
銅合金等の摺動部材基体の摺動面に埋め込まれて使用される固体潤滑剤は、摺動面に固体潤滑被膜として形成されて摺動効果を発揮する。それ故、その固体潤滑被膜の巧拙が、摩擦係数、耐摩耗性及び被膜の寿命に大きな影響を及ぼす。
【0003】
この種の固体潤滑剤としては、層状構造をもつもの、特に黒鉛を主成分とするものが挙げられる。黒鉛は、その層状構造に起因して、荷重方向に対しては大きな抵抗力を示す反面、すべり方向に対しては抵抗力が小さく、しかも軟質であり、常温から高温までの広い範囲で潤滑性能を保つことができるという特性を有している。
【0004】
しかしながら、黒鉛を主成分とする固体潤滑剤は、被膜の形成能がやや不足するとともに繰り返し摩擦に対する被膜の寿命の点でも充分でないため、摺動部材の使用条件が制約され、例えば高荷重用途には不向きで、使用に耐え難いという問題がある。
【0005】
高荷重用途に使用可能な固体潤滑剤としては、四フッ化エチレン樹脂、インジウム、鉛、錫などの軟質金属及びワックスを配合した固体潤滑剤が挙げられる。例えば、四フッ化エチレン樹脂、鉛、ポリオレフィン樹脂及びワックス類からなる固体潤滑剤がある。この固体潤滑剤は、高荷重条件下において摩擦係数が極めて小さく、また、被膜の形成能に優れ、被膜の寿命もながく、更に、被膜の自己補修性にも優れている。
【0006】
四フッ化エチレン樹脂、鉛、ポリオレフィン樹脂及びワックス類からなる固体潤滑剤は、上述のとおり優れた摺動性能を発揮するが、環境負荷物質である鉛を含有しており、好ましくない。
【0007】
一方、構成成分に鉛を含有しない固体潤滑剤としては、メラミンとイソシアヌル酸との付加物を含有する合成樹脂を成形してなる固体潤滑剤(特許文献1参照)、及びポリエチレン樹脂と炭化水素系ワックスとメラミンシアヌレートとからなる固体潤滑剤(特許文献2参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭55−108427号公報
【特許文献2】特開2004−339259公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載のメラミンとイソシアヌル酸との付加物を含有する合成樹脂を成形してなる固体潤滑剤は、銅合金等からなる摺動部材基体の摺動面に埋め込まれて使用された場合、固体潤滑剤としての展延性が乏しく、摺動面への潤滑被膜の造膜性に劣り、摩擦係数や耐摩耗性等の摺動特性が充分でなく、高荷重条件下での使用には到底耐えられない。また、特許文献2に記載のポリエチレン樹脂と炭化水素系ワックスとメラミンシアヌレートとからなる固体潤滑剤も、銅合金等からなる摺動部材基体の摺動面に埋め込んで使用された場合、固体潤滑剤としての展延性が充分でなく、摺動面への潤滑被膜の造膜性に劣り、例えば、相手材(軸)の微小揺動運動に対しては、潤滑被膜を介しての摺動が望めず、結果として摩擦係数が高く、耐摩耗性に劣る。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、優れた展延性を有するとともに摺動面への潤滑被膜の造膜性に優れ、相手材の微小揺動運動に対しても潤滑被膜を介しての摺動を行わせ、摩擦係数が低く、耐摩耗性に優れた摺動特性を発揮する固体潤滑剤及び該固体潤滑剤を埋め込んだ摺動部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の固体潤滑剤は、炭化水素系ワックス及びポリエチレン樹脂を含有する連続相としての海相と、1万〜50万の分子量を有する四フッ化エチレン樹脂である低分子量四フッ化エチレン樹脂、金属せっけん、塩基性含窒素化合物のリン酸塩及び錫酸亜鉛を含有する分散相としての島相と、からなる海島構造を呈し、前記低分子量四フッ化エチレン樹脂よりも高い分子量を有する四フッ化エチレン樹脂である高分子量四フッ化エチレン樹脂が、当該連続相の海相に繊維状化されて網目状に含有され、前記炭化水素系ワックスの含有量が30〜60体積%であり、前記ポリエチレン樹脂の含有量が3〜10体積%であり、前記低分子量四フッ化エチレン樹脂の含有量が10〜30体積%であり、前記金属せっけんの含有量が20〜40体積%であり、前記塩基性含窒素化合物のリン酸塩の含有量が0.5〜5体積%であり、前記錫酸亜鉛の含有量が0.5〜5体積%であり、前記高分子量四フッ化エチレン樹脂の含有量が1〜10体積%であり、前記塩基性含窒素化合物のリン酸塩は、ポリリン酸メラミン塩、ポリリン酸メラム塩、ポリリン酸メレム塩及びポリリン酸メラミン・メラム・メレム複塩のうちの少なくとも一つから選択されたものであることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の摺動部材は、孔又は溝が形成された摺動面を備えた摺動部材基体と、前記孔又は溝に埋め込まれた上述の固体潤滑剤と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた展延性を有するとともに摺動面への潤滑被膜の造膜性に優れ、相手材の微小揺動運動に対しても潤滑被膜を介しての摺動を行わせることができ、摩擦係数が低く、かつ耐摩耗性に優れた固体潤滑剤及び該固体潤滑剤を埋め込んだ摺動部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施の形態に係る固体潤滑剤を埋め込んだスラスト滑り軸受の平面図である。
図2図2は、本発明の一実施の形態に係る固体潤滑剤を埋め込んだジャーナル滑り軸受の断面図である。
図3図3は、本発明の一実施の形態に係る固体潤滑剤を埋め込んだジャーナル滑り軸受の他の形態の断面図である。
図4図4は、スラスト試験方法を説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態を詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施の形態に何等限定されず、その要旨の範囲内において様々な変形が可能である。
【0016】
本実施の形態に係る固体潤滑剤は、炭化水素系ワックス及びポリエチレン樹脂を含有する連続相としての海相と、低分子量四フッ化エチレン樹脂、高級脂肪酸塩、塩基性含窒素化合物のリン酸塩及び錫酸亜鉛を含有する分散相としての島相と、からなる海島構造を呈し、高分子量四フッ化エチレン樹脂がこの連続相の海相に繊維状化されて網目状に含有され、炭化水素系ワックスの含有量が30〜60体積%であり、ポリエチレン樹脂の含有量が3〜10体積%であり、低分子量四フッ化エチレン樹脂の含有量が10〜30体積%であり、高級脂肪酸塩の含有量が20〜40体積%であり、塩基性含窒素化合物のリン酸塩の含有量が0.5〜5体積%であり、錫酸亜鉛の含有量が0.5〜5体積%であり、そして、高分子量四フッ化エチレン樹脂の含有量が1〜10体積%であることを特徴とする。
【0017】
連続相としての海相を形成する炭化水素系ワックスは、主として固体潤滑剤のすべり方向への展延性を容易にして潤滑被膜の造膜性に寄与するとともに低摩擦性を付与するものであり、炭素数が24以上のパラフィン系ワックス、炭素数が26以上のオレフィン系ワックス、炭素数が28以上のアルキルベンゼン及びマイクロクリスタリンワックスのうちの少なくとも一つから選択される。
【0018】
炭化水素系ワックスの含有量は、30〜60体積%、好ましくは35〜50体積%である。この炭化水素系ワックスの含有量が30体積%未満では、固体潤滑剤としての展延性が充分でなく、摺動部材基体の摺動面に良好な潤滑被膜が形成され難く、また60体積%を超えると、固体潤滑剤としての強度低下を来たすばかりでなく、成形性を悪化させる可能性がある。
【0019】
炭化水素系ワックスの具体例としては、日本精蝋(株)製のパラフィンワックス「150」、クラリアントジャパン(株)製のポリエチレンワックス「リコワックス(登録商標)PE520」、日本精蝋(株)製のマイクロクリスタリンワックス「Hi−Mic(登録商標)−1080」、「Hi−Mic(登録商標)−2045」、「Hi−Mic(登録商標)−2095」、「Luvax(登録商標)2191」、日興リカ(株)製のポリエチレンワックスとパラフィンワックスとの混合物「ゴデスワックス」等が挙げられる。
【0020】
ポリエチレン樹脂は、上述の炭化水素系ワックスと相溶して連続相としての海相を形成し、固体潤滑剤から炭化水素系ワックス成分のみが過度に摺動面に供給され、加温時に固体潤滑剤の機械的強度の低下を防止する結合剤としての役割を果たす。
【0021】
ポリエチレン樹脂の含有量は、3〜10体積%、好ましくは3〜7体積%である。このポリエチレン樹脂の含有量が3体積%未満では、結合剤としての役割が充分発揮されず、また10体積%を超えると、良好な摺動特性を得ることが困難となる。
【0022】
ポリエチレン樹脂として、密度0.910〜0.940g/cmの低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、密度0.910〜0.940g/cmの直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)、密度0.880〜0.910g/cmの超低密度ポリエチレン樹脂(VLDPE)、密度0.925〜0.940g/cmの中密度ポリエチレン樹脂(MDPE)、密度0.940〜0.970g/cmの高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)、高分子量ポリエチレン樹脂(HMWPE)、密度0.930〜0.940、分子量150万以上の超高分子量ポリエチレン樹脂(UHMWPE)及び密度0.920〜0.950g/cmのエチレン−酢酸ビニル共重合体のいずれも使用することができる。
【0023】
ポリエチレン樹脂の具体例としては、三井化学(株)製の高密度ポリエチレン樹脂「ハイゼックス(登録商標)」、超高分子量ポリエチレン樹脂「ハイゼックスミリオン(登録商標)」及び高分子量ポリエチレン樹脂「リュブマー(登録商標)」、住友精化(株)製の低密度ポリエチレン樹脂「フローセン(登録商標)」、ヘキスト社製の超高分子量ポリエチレン樹脂「ホスタレン(登録商標)」、三井・デュポンポリケミカル(株)製のエチレン−酢酸ビニル共重合体「エバフレックス(登録商標)」等が挙げられる。これらのポリエチレン樹脂は、単独もしくは二種以上の混合物として使用することができる。
【0024】
連続相としての海相に対し、分散相としての島相に含有される低分子量四フッ化エチレン樹脂(以下「低分子量PTFE」と略称する)は、約1万〜50万程度の分子量を有し、粉砕し易く、分散性がよいという性状を示し、特に摩擦係数の低下、耐摩耗性の向上など摺動特性の向上に寄与する。
【0025】
低分子量PTFEの含有量は、10〜30体積%、好ましくは10〜20体積%である。この低分子量PTFEの含有量が10体積%未満では、摩擦係数の低下に寄与せず、また30体積%を超えると、固体潤滑剤としての強度低下を来たす可能性がある。
【0026】
低分子量PTFEの具体例としては、三井・デュポンフロロケミカル(株)製の「TLP−10F−1」、ダイキン工業(株)製の「ルブロン(登録商標)L−5」、旭硝子(株)製の「フルオン(登録商標)L150J」、「フルオン(登録商標)L169J」、(株)喜多村製の「KTL−8N」等が挙げられる。
【0027】
分散相としての島相に含有される高級脂肪酸塩(金属せっけん)は、おおむね炭素数が12以上の、例えばラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)、ステアリン酸(C18)、アラキン酸(C20)、ベヘン酸(C22)、セロチン酸(C26)、モンタン酸(C28)、メリシン酸(C30)等の飽和脂肪酸、あるいはおおむね炭素数が12以上の、例えばラウロレイン酸(C12)、ミリストレイン酸(C14)、オレイン酸(C18)、エライジン酸(C18)、ガドレイン酸(C20)、エルカ酸(C22)、リノール酸(C18)、リノレン酸(C18)、アラキドン酸(C20)等の不飽和脂肪酸と、アルカリ金属(周期律表第1族元素)又はアルカリ土類金属(周期律表第2族元素)との塩である。具体的には、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム等が挙げられる。
【0028】
この高級脂肪酸塩は、摩擦係数の低下及び熱安定性の向上に寄与する。そして、高級脂肪酸塩の含有量は、20〜40体積%、好ましくは25〜35体積%である。この高級脂肪酸塩の含有量が20体積%未満では、摩擦係数の低下及び熱安定性の向上に充分寄与せず、また40体積%を超えると、固体潤滑剤としての強度低下を来たすばかりでなく成形性を悪化させる可能性がある。
【0029】
分散相としての島相に含有される塩基性含窒素化合物のリン酸塩は、固体潤滑剤としての耐摩耗性の向上に寄与する。この塩基性含窒素化合物のリン酸塩は、通常、リン酸源となるオルトリン酸アンモニウム、オルトリン酸、縮合リン酸、無水リン酸、リン酸尿素、リン酸一水素アンモニウムあるいはこれらの混合物と、窒素源となるメラミン、ジシアンシアナミド、グアニジン、グアニル尿素あるいはこれらの混合物とを、縮合剤としての尿素、リン酸尿素(これはリン酸源にもなる。)あるいはこれらの混合物の存在下で加熱縮合反応させ、ついで焼成することによって得られる。塩基性含窒素化合物のリン酸塩として好ましい化合物としては、例えば、ポリリン酸メラミン塩、ポリリン酸メラム塩、ポリリン酸メレム塩、ポリリン酸メアラミン・メラム・メレム複塩等が挙げられ、特にポリリン酸メアラミン・メラム・メレム複塩が好ましく使用される。
【0030】
塩基性含窒素化合物のリン酸塩の含有量は、0.5〜5体積%、好ましくは1〜3体積%である。この塩基性含窒素化合物のリン酸塩の含有量が0.5体積%未満では、固体潤滑剤に充分な耐摩耗性を付与できず、また5体積%を超えると、却って耐摩耗性を悪化させる可能性がある。
【0031】
分散相としての島相に含有される錫酸亜鉛は、上述の塩基性含窒素化合物のリン酸塩と同様、固体潤滑剤としての耐摩耗性の向上に寄与する。錫酸亜鉛としては、錫酸亜鉛(化学名:三酸化錫亜鉛、化学式:ZnSnO)及びヒドロキシ錫亜鉛(化学名:六水酸化錫亜鉛、化学式:ZnSn(OH))が挙げられ、これらのうちの少なくとも一方が使用される。錫酸亜鉛の含有量は、0.5〜5体積%、好ましくは0.5〜3体積%である。この錫酸亜鉛の含有量が0.5体積%未満では、固体潤滑剤の耐摩耗性の向上に寄与せず、また含有量が5体積%を超えると、却って耐摩耗性を悪化させる可能性がある。
【0032】
上述の炭化水素系ワックス及びポリエチレン樹脂からなる連続相としての海相に微細に繊維状化されて網目状に含有される高分子量四フッ化エチレン樹脂(以下「高分子量PTFE」と略称する)は、主として固体潤滑剤に低摩擦性を付与するとともに固体潤滑剤の靭性の向上に寄与する。高分子量PTFEは、モールディングパウダー又はファインパウダーとして主として成形用に使用されているもので、剪断力を加えることによって繊維状化する性状を有している。この高分子量PTFEは、未焼成の粉末の形態で、あるいは融点以上の温度で焼成したのち、粉砕した粉砕粉の形態で使用される。
【0033】
高分子量PTFEの具体例としては、三井・デュポンフロロケミカル(株)製の「テフロン(登録商標)7−J」、「テフロン(登録商標)7A−J」、「テフロン(登録商標)6−J」、「テフロン(登録商標)6C−J」、ダイキン工業(株)製の「ポリフロン(登録商標)M−12)」、「ポリフロン(登録商標)F−201」、旭硝子(株)製の「フルオン(登録商標)G163」、「フルオン(登録商標)G190」、「フルオン(登録商標)CD076」、「フルオン(登録商標)CD090」、(株)喜多村製の「KT−300M」等が挙げられる。また、これらの高分子量PTFE以外に、例えば、スチレン系、アクリル酸エステル系、メタクリル酸エステル系、アクリロニトリル系重合体などで変性されたPTFEも使用することができる。具体的には、三菱レイヨン(株)製の「メタブレン(登録商標)A−300」等である。
【0034】
高分子量PTFEの含有量は、1〜10体積%、好ましくは1〜5体積%である。この高分子量PTFEの含有量が1体積%未満では、固体潤滑剤への低摩擦性の付与及び靭性の付与が充分でなく、また10体積%を超えると、耐摩耗性を損なうばかりでなく、成形性の低下を招く可能性がある。
【0035】
本実施の形態に係る固体潤滑剤は、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、ボールミル、タンブラー等の混合機によって、上述の各成分(炭化水素系ワックス、ポリエチレン樹脂、低分子量PTFE、高級脂肪酸塩、塩基性含窒素化合物のリン酸塩、錫酸亜鉛、高分子量PTFE)を、上述したそれぞれの体積%に応じた含有量となるように配合して混合し、得られた混合物を成形することによって作製される。成形方法は、特には限定されないが、好ましくは、以下の方法が採用される。混合物を押出成形機に供給して炭化水素系ワックスが溶融する温度で溶融混練し、押出成形機から押し出された紐状の成形物を冷却するとともに切断してペレット状の原料を作製する。この原料を射出成形機に供給して、結合剤であるポリエチレン樹脂の融点以上の温度で成形する。
【0036】
つぎに、本実施の形態に係る固体潤滑剤を用いた摺動部材について説明する。
【0037】
図1は、本実施の形態に係る固体潤滑剤を埋め込んだスラスト滑り軸受の平面図であり、図2は、本実施の形態に係る固体潤滑剤を埋め込んだジャーナル滑り軸受の断面図であり、図3は、本実施の形態に係る固体潤滑剤を埋め込んだジャーナル滑り軸受の他の形態の断面図である。
【0038】
本実施の形態に係る固定潤滑剤を用いた摺動部材としては、例えば、図1に示すような構成のスラスト滑り軸受5、図2に示すような構成のジャーナル滑り軸受8、図3に示すような構成のジャーナル滑り軸受11等がある。図1に示すスラスト滑り軸受5は、銅合金等の金属材料からなる四角柱状の摺動部材基体1aと、摺動部材基体1aの一方の面(摺動面)2から厚さ方向に貫通して形成された複数個の円孔3に充填された固体潤滑剤4aと、を備えて構成される。図2に示すジャーナル滑り軸受8は、銅合金等の金属材料からなる円筒状の摺動部材基体1bと、摺動部材基体1bの内周面(摺動面)2bに摺動部材基体1bの軸方向に沿って配列された複数本のリング状の凹溝7に充填された固体潤滑剤4bと、を備えて構成される。図3に示すジャーナル滑り軸受11は、銅合金等の金属材料からなる円筒状の摺動部材基体1cと、摺動部材基体1cの内周面(摺動面)2cと外周面9とを貫通して形成された複数個の円孔10に充填された固体潤滑剤4cと、を備えて構成される。ここで、固体潤滑剤4a〜4cは、摺動部材基体1aの摺動面2aに形成された円孔3、摺動部材基体1bの摺動面2bに形成された凹溝7、あるいは摺動部材基体1cの摺動面2cに形成された円孔10に、例えば、接着剤を使用して固定される。
【0039】
図1図2及び図3に示すスラスト滑り軸受5、ジャーナル滑り軸受8及びジャーナル滑り軸受11において、摺動部材基体1aの摺動面2aに占める円孔3の開口面の総面積の割合、摺動部材基体1bの摺動面2bに占める凹溝7の開口面の総面積の割合、及び摺動部材基体1cの摺動面2cに占める円孔10の開口面の総面積の割合は、10〜40%、好ましくは20〜35%となるように形成されている。なお、円孔3、10は、ドリル、エンドミル等を用いた穴明け加工あるいは切削加工によって、また、リング状の凹溝7は、バイト等を用いた切削加工によって夫々形成されるが、その他の手段で形成してもよい。
【0040】
本実施の形態に係る固体潤滑剤は展延性に優れている。このため、本実施の形態に係る固体潤滑剤を摺動面に埋め込んだ摺動部材と相手材(軸)との摺動においては、摺動面に固体潤滑剤の潤滑被膜が容易に形成される。したがって、相手材とはこの潤滑被膜を介しての摺動となり、例えば、相手材の微小揺動に対しても優れた摺動特性を発揮する。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の各実施例を詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する各実施例に何等限定されず、その要旨の範囲内において様々な変形が可能である。
【0042】
<実施例1>
炭化水素系ワックスとして日本精蝋(株)製のパラフィンワックス「150」約45体積%と、ポリエチレン樹脂として住友精化(株)製の低密度ポリエチレン樹脂「MA1003N」約5体積%と、(株)喜多村製の低分子量PTFE「KTL−8N」約15体積%と、高級脂肪酸塩として堺化学工業(株)製のステアリン酸リチウム「S−7000」約30体積%と、塩基性含窒素化合物のリン酸塩として日産化学工業(株)製のポリリン酸メラミン・メラム・メレム複塩「PHOSMEL−200」約2体積%と、錫酸亜鉛として水澤化学工業(株)製のヒドロキシ錫酸亜鉛「ALCANEX(登録商標)−ZHS」約1体積%と、旭硝子(株)製の高分子量PTFE「フルオン(登録商標)G163」約2体積%と、をヘンシェルミキサーに投入して混合し、得られた混合物を押出成形機に供給して炭化水素系ワックスが溶融する温度で溶融混練し、押出成形機から押し出された紐状の成形物を冷却するとともに切断してペレットを作製した。ついで、このペレットを射出成形機に供給し、成分中のポリエチレン樹脂が溶融する温度で成形し、直径6mm、長さ5mmの円柱状固体潤滑剤を作製した。
【0043】
<実施例2>
炭化水素系ワックスとして日興リカ(株)製のポリエチレンワックスとパラフィンワックスとの混合物「ゴデスワックス」約40体積%(ポリエチレンワックス及びパラフィンワックスをそれぞれ約20体積%として)と、ポリエチレン樹脂として住友精化(株)製の直鎖状低密度ポリエチレン樹脂「フローセン(登録商標)F13142N」約5体積%と、(株)喜多村製の低分子量PTFE「KTL−8N」約20体積%と、高級脂肪酸塩としてステアリン酸アルミニウム約30体積%と、塩基性含窒素化合物のリン酸塩としてポリリン酸メラミン塩約2体積%と、錫酸亜鉛として水澤化学工業(株)製のヒドロキシ錫酸亜鉛「ALCANEX(登録商標)−ZHS」約1体積%と、旭硝子(株)製の高分子量PTFE「フルオン(登録商標)G163」約2体積%と、を用いて、実施例1と同様の要領により、直径6mm、長さ5mmの円柱状固体潤滑剤を作製した。
【0044】
<実施例3>
炭化水素系ワックスとして日興リカ(株)製のポリエチレンワックスとパラフィンワックスとの混合物「ゴデスワックス」約30体積%(ポリエチレンワックス及びパラフィンワックスをそれぞれ約15体積%として)及び日本精蝋(株)製のマイクロクリスタリンワックス「LUVAX(登録商標)2191」約10体積%と、ポリエチレン樹脂として三井化学(株)製の高密度ポリエチレン樹脂「ハイゼックス(登録商標)」約5体積%と、(株)喜多村製の低分子量PTFE「KTL−8N」約20体積%と、高級脂肪酸塩として堺化学工業(株)製のステアリン酸リチウム「S−7000」約30体積%と、塩基性含窒素化合物のリン酸塩として日産化学工業(株)製のポリリン酸メラミン・メラム・メレム複塩「PHOSMEL−200」約2体積%と、錫酸亜鉛として水澤化学工業(株)製のヒドロキシ錫酸亜鉛「ALCANEX(登録商標)−ZHS」約1体積%と、旭硝子(株)製の高分子量PTFE「フルオン(登録商標)G163」約2体積%と、を用いて、実施例1と同様の要領により、直径6mm、長さ5mmの円柱状固体潤滑剤を作製した。
【0045】
<実施例4>
炭化水素系ワックスとして日興リカ(株)製のポリエチレンワックスとパラフィンワックスとの混合物「ゴデスワックス」約20体積%(ポリエチレンワックス及びパラフィンワックスをそれぞれ約10体積%として)及び日本精蝋(株)製のマイクロクリスタリンワックス「LUVAX(登録商標)2191」約10体積%と、ポリエチレン樹脂として住友精化(株)製の低密度ポリエチレン樹脂「MA1003N」約5体積%と、(株)喜多村製の低分子量PTFE「KTL−8N」約20体積%と、高級脂肪酸塩として堺化学工業(株)製のステアリン酸リチウム「S−7000」約35体積%と、塩基性含窒素化合物のリン酸塩として日産化学工業(株)製のポリリン酸メラミン・メラム・メレム複塩「PHOSMEL−200」約2体積%と、錫酸亜鉛として水澤化学工業(株)製のヒドロキシ錫酸亜鉛「ALCANEX(登録商標)−ZHS」約1体積%と、旭硝子(株)製の高分子量PTFE「フルオン(登録商標)G163」約2体積%と、を用いて、実施例1と同様の要領により、直径6mm、長さ5mmの円柱状固体潤滑剤を作製した。
【0046】
<実施例5>
炭化水素系ワックスとして日興リカ(株)製のポリエチレンワックスとパラフィンワックスとの混合物「ゴデスワックス」約30体積%(ポリエチレンワックス及びパラフィンワックスをそれぞれ約15体積%として)及び日本精蝋(株)製のマイクロクリスタリンワックス「LUVAX(登録商標)2191」約10体積%と、ポリエチレン樹脂として三井化学(株)製の超高分子量ポリエチレン樹脂「ハイゼックスミリオン(登録商標)」約5体積%と、(株)喜多村製の低分子量PTFE「KTL−8N」約20体積%と、高級脂肪酸塩として堺化学工業(株)製のステアリン酸リチウム「S−7000」約30体積%と、塩基性含窒素化合物のリン酸塩として日産化学工業(株)製のポリリン酸メラミン・メラム・メレム複塩「PHOSMEL−200」約2体積%と、錫酸亜鉛として水澤化学工業(株)製のヒドロキシ錫酸亜鉛「ALCANEX(登録商標)−ZHS」約1体積%と、旭硝子(株)製の高分子量PTFE「フルオン(登録商標)G163」約2体積%と、を用いて、実施例1と同様の要領により、直径6mm、長さ5mmの円柱状固体潤滑剤を作製した。
【0047】
<実施例6>
炭化水素系ワックスとして日興リカ(株)製のポリエチレンワックスとパラフィンワックスとの混合物「ゴデスワックス」約35体積%(ポリエチレンワックス及びパラフィンワックスをそれぞれ約17.5体積%として)及び日本精蝋(株)製のマイクロクリスタリンワックス「LUVAX(登録商標)2191」約10体積%と、ポリエチレン樹脂として住友精化(株)製の低密度ポリエチレン樹脂「MA1003N」約5体積%と、(株)喜多村製の低分子量PTFE「KTL−8N」約15体積%と、高級脂肪酸塩として堺化学工業(株)製のステアリン酸リチウム「S−7000」約30体積%と、塩基性含窒素化合物のリン酸塩として日産化学工業(株)製のポリリン酸メラミン・メラム・メレム複塩「PHOSMEL−200」約2体積%と、錫酸亜鉛として水澤化学工業(株)製のヒドロキシ錫酸亜鉛「ALCANEX(登録商標)−ZHS」約1体積%と、旭硝子(株)製の高分子量PTFE「フルオン(登録商標)G163」約2体積%と、を用いて、実施例1と同様の要領により、直径6mm、長さ5mmの円柱状固体潤滑剤を作製した。
【0048】
<実施例7>
炭化水素系ワックスとして日興リカ(株)製のポリエチレンワックスとパラフィンワックスとの混合物「ゴデスワックス」約40体積%(ポリエチレンワックス及びパラフィンワックスをそれぞれ約20体積%として)及び日本精蝋(株)製のマイクロクリスタリンワックス「LUVAX(登録商標)2191」約10体積%と、ポリエチレン樹脂として住友精化(株)製の低密度ポリエチレン樹脂「MA1003N」約5体積%と、(株)喜多村製の低分子量PTFE「KTL−8N」約15体積%と、高級脂肪酸塩として堺化学工業(株)製のステアリン酸リチウム「S−7000」約35体積%と、塩基性含窒素化合物のリン酸塩として日産化学工業(株)製のポリリン酸メラミン・メラム・メレム複塩「PHOSMEL−200」約2体積%と、錫酸亜鉛として水澤化学工業(株)製のヒドロキシ錫酸亜鉛「ALCANEX(登録商標)−ZHS」約1体積%と、旭硝子(株)製の高分子量PTFE「フルオン(登録商標)G163」約2体積%と、を用いて、実施例1と同様の要領により、直径6mm、長さ5mmの円柱状固体潤滑剤を作製した。
【0049】
<比較例1>
ポリエチレン樹脂として住友精化(株)製の直鎖状低密度ポリエチレン樹脂「フローセン(登録商標)F13142N」約50体積%と、メラミンシアヌレート約50体積%と、をヘンシェルミキサーに投入して混合し、得られた混合物を押出成形機に供給して溶融混練し、押出成形機から押出成形された紐状の成形物を冷却するとともに切断してペレットを作製した。ついで、このペレットを射出成形機に供給して成形し、直径6mm、長さ5mmの円柱状固体潤滑剤を作製した。
【0050】
<比較例2>
炭化水素系ワックスとして日本精蝋(株)製のパラフィンワックス「150」約13体積%と、ポリエチレン樹脂として住友精化(株)製の低密度ポリエチレン樹脂「MA1003N」約10体積%と、(株)喜多村製の低分子量PTFE「KTL−8N」約30体積%と、高級脂肪酸塩として堺化学工業(株)製のステアリン酸リチウム「S−7000」約7体積%と、鉛約40体積%と、を用いて、比較例1と同様の要領により、直径6mm、長さ5mmの円柱状固体潤滑剤を作製した。
【0051】
<比較例3>
炭化水素系ワックスとして日興リカ(株)製のポリエチレンワックスとパラフィンワックスとの混合物「ゴデスワックス」約28体積%(ポリエチレンワックス及びパラフィンワックスをそれぞれ約14体積%として)と、ポリエチレン樹脂として三井化学(株)製の高密度ポリエチレン樹脂「ハイゼックス(登録商標)」約13体積%と、メラミンシアヌレート約33体積%と、高級脂肪酸としてステアリン酸約15体積%と、旭硝子(株)製の高分子量PTFE「フルオン(登録商標)G163」約11体積%と、を用いて、実施例1と同様の要領により、直径6mm、長さ5mmの円柱状固体潤滑剤を作製した。
【0052】
上述の実施例1ないし実施例7及び比較例1ないし比較例3で得られた円柱状固体潤滑剤毎に、銅合金からなる平板状の摺動部材基体に形成された円孔に対象の円柱状固体潤滑剤を埋め込んでスラスト滑り軸受試験片12を作製した。そして、各スラスト滑り軸受試験片12についてスラスト試験を行い、摩擦係数及び摩耗量を測定した。
【0053】
<スラスト試験方法>
図4は、スラスト試験方法を説明するための斜視図である。図示するように、スラスト試験方法は、上述の実施例1ないし実施例7及び比較例1ないし比較例3で得られたスラスト滑り軸受試験片12を固定しておき、相手材となる金属製の円筒体13に、スラスト滑り軸受試験片12の上からその摺動面(表面)14に向かう方向に所定の荷重Aを負荷しながら、この円筒体13を矢印B方向に回転させ、スラスト滑り軸受試験片12と円筒体13との摩擦係数及びスラスト滑り軸受試験片12の摩耗量を測定する方法である。
【0054】
スラスト試験の試験条件は、表1のとおりである。
【0055】
【表1】
【0056】
この試験条件により、試験時間8時間経過時点及び試験時間16時間終了時点での摩擦係数及び摩耗量を測定した。その試験結果を表2ないし表4に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
表4中の*印は、スラスト試験の途中で摩擦係数が0.2を超えたため試験を中止したことを示している。
【0061】
表2ないし表4に示すように、本発明の実施例1ないし実施例7に係る固体潤滑剤を摺動面14に埋め込んでなるスラスト滑り軸受試験片12は、摺動初期から低摩擦性を発揮し、摩耗量も極めて少ないものであった。一方、比較例2及び比較例3の固体潤滑剤を摺動面14に埋め込んでなるスラスト滑り軸受試験片12は、試験時間8時間経過時点では、本発明の実施例1ないし実施例7に係る固体潤滑剤を摺動面14に埋め込んでなるスラスト滑り軸受試験片12と同等の性能を示したが、試験時間の経過とともに摩擦係数が上昇し、試験時間終了時点では摩耗量が大きな値を示した。また、比較例1については、スラスト試験の途中で摩擦係数が0.2を超えたため試験を中止した。
【0062】
本発明の実施例1ないし実施例7に係る固体潤滑剤を埋め込んでなるスラスト滑り軸受試験片12においては、摺動面14において、固体潤滑剤被膜が固体潤滑剤の露出面の周縁に形成されているのが観察された。これは、固体潤滑剤の優れた展延性に起因するものと推察される。したがって、本発明の実施例1ないし実施例7に係る固体潤滑剤を埋め込んでなるスラスト滑り軸受試験片12が優れた摺動特性を発揮したのは、摺動初期から摺動面14に形成された固体潤滑被膜を介しての摺動に移行したためと考えられる。
【0063】
以上のように、本発明の固体潤滑剤によれば、優れた展延性を有するとともに摺動面への潤滑被膜の造膜性に優れているので、本発明の固体潤滑剤を埋め込んだ摺動部材においては、摺動面に潤滑被膜が容易に形成され、相手材の微小揺動運動に対しても潤滑被膜を介しての摺動を行わせることができる。このため、本発明によれば、摩擦係数が低く、かつ耐摩耗性に優れた固体潤滑剤及びこの固体潤滑剤を埋め込んだ摺動部材を提供することができる。
【符号の説明】
【0064】
1a〜1c:摺動部材基体、 2a〜2c:摺動面、 3:円孔、 4a〜4c:固体潤滑剤、 5:スラスト滑り軸受、 7:凹溝、 8:ジャーナル滑り軸受、 9:外周面、 10:円孔、 11:ジャーナル滑り軸受
図1
図2
図3
図4