(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
正極、亜鉛合金粉末を含有するゲル状負極、セパレータおよびアルカリ水溶液からなる電解液を、外装缶、負極端子板および封口体からなる電池容器内に収容してなる筒形のアルカリ電池であって、
前記封口体には、ナイロン製であり、かつ水分量が1.5質量%以下のものを使用し、
前記負極端子板には、金属製の負極集電棒の一端が電気的に接続されており、
前記負極集電棒は、前記封口体に形成された透孔を通じて、その他端が前記ゲル状負極内に挿入されており、
前記負極集電棒における前記封口体の透孔の内面と接触する部分、および前記封口体から前記ゲル状負極側へ向けて突出した部分のうち、前記封口体の透孔と接触する部分の端部から少なくとも1mmまでの部分の表面が、ゴム製のシール剤で被覆されていることを特徴とするアルカリ電池。
ゲル状負極が含有する亜鉛合金粉末を構成する亜鉛合金は、Alを100〜2000ppm、Biを50〜125ppm、並びにCaおよびMgの少なくとも一方を合計で1〜50ppm含有している請求項1に記載のアルカリ電池。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に本発明のアルカリ電池の一例を模式的に表す断面図を示している。
図1に示すアルカリ電池は、筒形(円筒形または角筒形)の外装缶1内に、リング状に成形された正極2(正極合剤成形体)が配置されており、その内側にコップ状のセパレータ3が配置され、アルカリ電解液(図示しない)がセパレータ3の内側から注入されている。更にセパレータ3の内側には負極4(負極合剤)が充填されている。外装缶1における1bは正極端子である。
【0013】
外装缶1の開口端部1aには、金属製(Niメッキを施した鉄、ステンレス鋼など)の負極端子板7が配されており、封口体6の外周縁部62を介して開口端部1aが内側に折り曲げられて封口されている。負極端子板7には、金属製(Snメッキなどを施した真鍮など)の負極集電棒5が、その一端が溶接されるなどして電気的に接続されており、負極集電棒5の他端側は、封口体6の中央部61に設けられた透孔64を通じて負極4内に挿入されている。また、封口時の負極端子板7の変形を防ぎ、かつ封口体6を内側から支える支持手段として、金属ワッシャ9(円板状の金属板)が配置されている。
【0014】
そして、封口体6には、防爆用の薄肉部63が形成されている。短絡時に電池内においてガスが発生した場合、封口体6の薄肉部63が優先的に開裂し、生じた裂孔からガスが金属ワッシャ9側に移動する。金属ワッシャ9および負極端子板7にはガス抜き孔が設けられており(図示しない)、電池内のガスは、これらのガス抜き孔を通じて電池外に排出される。
【0015】
図2に、本発明のアルカリ電池の他の例の断面図を示す。
図2中、
図1と同じ作用を有する要素は同じ符号を付して、重複説明を避ける。
図2に示すアルカリ電池は、外装缶1と負極端子板7とを絶縁するための絶縁板8を有している。
【0016】
図1に示すアルカリ電池では、金属ワッシャ9を使用している関係上、封口部分(
図1中、10)の占める体積が大きくなってしまう。これに対し、この
図2の電池のように金属ワッシャをなくし、封口体6を内側から支える支持手段として負極端子板7を利用することで、封口部分10の占める体積を減少させて発電要素を収容できる胴部分20の体積を大きくすることができ、正極2および負極4の各合剤の充填量を、
図1の電池よりも高めることができる。
【0017】
以下、本発明のアルカリ電池を詳細に説明する。
【0018】
<封口体>
本発明のアルカリ電池では、封口体にナイロン製のものを使用する。
【0019】
また、本発明のアルカリ電池では、封口体に、水分量が1.5質量%以下、好ましくは1.0質量%以下のものを使用する。これにより、後述する負極集電棒の表面の特定箇所を被覆するシール剤の作用と相俟って、電池内において、封口体におけるクラックの発生などを抑制し、長期にわたって優れた耐漏液性を維持し得る電池とすることができる。
【0020】
本明細書でいう封口体の水分量は、赤外線乾燥減量測定装置を使用し、160℃10分間の条件で求められる乾燥減量から算出される値である。
【0021】
ナイロン製の封口体は、通常、水分管理した状況下で成形され、包装されるため、開封前の状態での水分量が0.5質量%程度に調整されている。よって、水分量が1.5質量%以下の封口体を使用するには、開封後、封口体が吸湿するなどして水分量が1.5質量%を超える前の段階で、アルカリ電池内に導入すればよい。
【0022】
封口体を構成するナイロンとしては、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612などの各種ナイロンが挙げられる。ナイロン610やナイロン612は、ナイロン66に比べて分子内のアミド基の量が少なく、吸湿し難いことから、電池の耐漏液性向上の観点からは好ましく使用されるが、本発明においては、後述する負極集電棒に係るシール剤の作用によって、ナイロン66製の封口体を使用しても、良好に耐漏液性を高めることができる。
【0023】
封口体における負極および正極側の表面(
図1および
図2中、下側の表面)には、ピッチ(コールタールピッチ)などの撥水剤を塗布することが好ましい。これにより、電池内での封口体の水分吸収を更に抑えて、電池の耐漏液性をより高めることができる。
【0024】
<負極集電棒>
本発明のアルカリ電池に係る負極集電棒は、その表面の特定箇所がシール剤によって被覆されている。
【0025】
図1および
図2では、負極集電棒5におけるシール剤51による被覆箇所をハッチングで示している。これらに図示しているように、負極集電棒5は、封口体6の透孔64の内面と接触する部分、および封口体6から負極4側へ向けて突出した部分のうち、封口体6の透孔64と接触する部分の端部から少なくとも1mmまでの部分の表面が、ゴム製のシール剤で被覆されている。
【0026】
前記の「封口体6の透孔64と接触する部分の端部から少なくとも1mm」とは、負極集電棒5におけるシール剤51で被覆された部分において、
図1および
図2中「a」の長さが、少なくとも1mm(1mm以上)という意味である。
【0027】
アルカリ電池内では、電解液中の水分が、負極内に挿入された負極集電棒を伝って封口体まで到達して吸収されることで、封口体の強度を低下させ、クラックを発生させるなどして電池の耐漏液性を低下させる虞がある。
【0028】
従来では、封口体表面に塗布されているコールタールピッチなどの撥水剤を負極集電棒に塗布して、電池内での封口体の水分吸収を抑制することも試みられていたが、こうした撥水剤は、例えば封口体から剥離しやすく、良好な効果を確保することは困難であった。
【0029】
そこで、本発明のアルカリ電池では、ゴム製のシール剤を使用することで、負極集電棒からの剥離を抑制するなどして、水分量が低く強度が大きな状態で使用される封口体の、電池内において負極集電棒を経由した電解液中の水分の吸収を抑え、封口体の強度が長期にわたって維持されるようにして、高い耐漏液性の確保を可能としている。
【0030】
負極集電棒においては、封口体の透孔の内面と接触する部分、および封口体から負極側へ向けて突出した部分のうち、封口体の透孔と接触する部分の端部から少なくとも1mmまでの部分の表面を、ゴム製のシール剤で被覆する。これにより、前記シール剤による封口体の電池内での水分吸収を抑制する作用が良好に発揮される。負極集電棒における封口体から負極側へ向けて突出した部分のうち、ゴム製のシール剤で被覆されている部分の、封口体の透孔と接触する部分の端部からの長さ(
図1および
図2中「a」の長さ)は、2mm以上であることがより好ましい。
【0031】
ただし、負極集電棒の表面のうち、ゴム製のシール剤で被覆される部分が多くなりすぎると、負極集電棒による集電機能が損なわれる虞がある。よって、負極集電棒における封口体から負極側へ向けて突出した部分のうち、ゴム製のシール剤で被覆されている部分の、封口体の透孔と接触する部分の端部からの長さ(
図1および
図2中「a」の長さ)は、5mm以下であることがより好ましい。
【0032】
本発明のアルカリ電池に使用し得るゴム製のシール剤としては、例えば、クロロスルホン化ポリエチレン、ブチルゴム、ニトリルゴム、シリコーン系ゴム、ポリブタジエンゴムなどが挙げられる。
【0033】
負極集電棒の表面において、ゴム製のシール剤で被覆する部分の被覆厚みは、小さすぎると、強度が小さくなってシール剤が剥がれやすくなるなど、その効果が小さくなる虞があることから、0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましい。ただし、ゴム製のシール剤による被覆厚みが大きすぎると、例えば、負極集電棒を封口体の透孔に挿入する際の作業性が低下する虞がある。よって、負極集電棒の表面において、ゴム製のシール剤で被覆する部分の被覆厚みは、20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
【0034】
本発明のアルカリ電池は、前記の封口体および前記の負極集電棒を有していればよく、その他の構成および構造については特に制限は無く、従来から知られているアルカリ電池(アルカリ一次電池)で採用されている各構成および構造を適用することができる。
【0035】
<負極>
本発明のアルカリ電池に係る負極には、亜鉛合金粉末と、電解液と、ゲル化剤とを有するゲル状の負極合剤(ゲル状負極)が使用される。亜鉛合金の粉末中のZn成分が、負極活物質として作用する。
【0036】
亜鉛合金粉末は、合金元素として、Alを100ppm以上2000ppm以下、Biを50ppm以上125ppm以下、CaおよびMgの少なくとも一方を1ppm以上50ppm以下で、それぞれ含有する亜鉛合金により構成されていることが好ましい。前記の組成を有する亜鉛合金の粉末を負極に用いることで、未放電時および過放電時における内部でのガス発生を抑制可能となるため、電池の耐漏液性を更に高めることができる。
【0037】
亜鉛合金粉末に係る亜鉛合金の合金元素としてAlを用いることによって、未放電時および過放電時におけるガス発生抑制を達成し得るのは、以下の理由によるものと推測される。亜鉛合金粉末に係る亜鉛合金がAlを含有することによって粉末表面の平滑性が向上する。そのため、未反応時における亜鉛合金粉末に係る亜鉛合金中のZn成分の腐食反応が生じ難くなってガス発生が抑制されると考えられる。また、亜鉛合金がAlを含有することで、放電に伴って生成する酸化亜鉛の結晶中に存在するZnが、Znよりも一つ価数の高いAlで部分的に置換され、前記結晶内に多くの伝導電子が生成し得るようになる。これにより、酸化亜鉛の導電性が高まることから、亜鉛合金粉末に係るZnの利用率が向上し、過放電時におけるガス発生の要因となる未反応のZn量を低減することができるため、過放電時におけるガス発生が抑制されると考えられる。
【0038】
亜鉛合金粉末に係る亜鉛合金中のAlの含有量は、Alを含有させることによる前記の効果(未放電時および過放電時におけるガス発生抑制効果)を確保する観点から、100ppm以上であることが好ましく、200ppm以上であることがより好ましく、500ppm以上であることが更に好ましい。ただし、亜鉛合金中のAl量が多すぎると、効果が飽和し、また、亜鉛合金粉末の製造が困難になる傾向にあることから、亜鉛合金粉末に係る亜鉛合金中のAlの含有量は、2000ppm以下であることが好ましく、1500ppm以下であることがより好ましく、1200ppm以下であることが更に好ましい。
【0039】
亜鉛合金粉末を構成する亜鉛合金は、合金成分としてBiを含有していることが好ましい。亜鉛合金粉末を構成する亜鉛合金に、合金元素としてBiを含有させることで、未放電時における亜鉛合金粉末に係るZnの腐食を抑えて、電池内でのガス発生を抑制することができる。なお、亜鉛合金中のBi量が多いと、前記の通り、電池が放電終了後に過放電状態となった際に、亜鉛合金粉末において、放電反応に関与せず残存しているZn成分とBiの反応によって、ガス発生が促される虞がある。よって、亜鉛合金粉末を構成する亜鉛合金中のBi量は、125ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがより好ましい。
【0040】
一方、亜鉛合金にBiを含有させることによる前記の効果を良好に確保する観点から、亜鉛合金粉末を構成する亜鉛合金中のBiの含有量は、50ppm以上であることが好ましく、75ppm以上であることがより好ましい。
【0041】
更に、亜鉛合金粉末を構成する亜鉛合金は、合金元素として、CaおよびMgの少なくとも一方を含有していることが好ましく、これによっても未放電時および過放電時の電池内でのガス発生を抑制することができる。
【0042】
亜鉛合金粉末に係る亜鉛合金にCaおよびMgの少なくとも一方を含有させることによって、未放電時および過放電時におけるガス発生抑制を達成し得るのは、以下の理由によるものと推測される。前記の通り、亜鉛合金粉末に係る亜鉛合金がAlを含有していると、粉末表面の平滑性が向上し、未放電時におけるガス発生が抑制できると考えられるが、亜鉛合金がAlと共にCaおよび/またはMgを含有していると、粉末表面の平滑性がより向上しやすくなり、未放電時におけるガス発生が更に良好に抑制できると推測される。また、CaおよびMgは、Alと同様の機構によって放電に伴って生成する酸化亜鉛の導電性を高め得るため、亜鉛合金粉末に係るZnの利用率が向上し、過放電時におけるガス発生が抑制されると考えられる。
【0043】
亜鉛合金粉末に係る亜鉛合金は、CaおよびMgのいずれか一方のみを含有していてもよく、両方を含有していてもよい。亜鉛合金粉末に係る亜鉛合金中のCaおよびMgの含有量は、これらを含有させることによる前記の効果(未放電時および過放電時におけるガス発生抑制効果)を確保する観点から、両者の合計(CaおよびMgのいずれか一方のみを含有する場合は、その一方の量。CaおよびMgの含有量について、以下同じ。)で、1ppm以上であることが好ましく、4ppm以上であることがより好ましい。ただし、亜鉛合金中のCaおよびMgの量が多すぎると、効果が飽和するばかりか、CaまたはMgが偏析することにより電池の放電特性が低下する虞があることから、亜鉛合金粉末に係る亜鉛合金中のCaおよびMgの含有量は、両者の合計で、50ppm以下であることが好ましく、20ppm以下であることがより好ましい。
【0044】
なお、亜鉛合金粉末に係る亜鉛合金は、例えば、前記合金元素以外の部分が、Znおよび不可避不純物であるが、本発明の効果を損なわない範囲で、更に他の合金元素を含有していてもよい。
【0045】
亜鉛合金に係る前記合金元素以外の合金元素としては、例えばInが挙げられる。Inを含有させることで、亜鉛合金の水素過電圧をより高め、未放電時におけるガス発生抑制作用を更に向上させることができる。亜鉛合金粉末に係る亜鉛合金中のInの含有量は、100〜1000ppmであることが好ましい。
【0046】
また、亜鉛合金粉末に係る亜鉛合金中の亜鉛合金は、98質量%以上であることが好ましい。
【0047】
負極に係る亜鉛合金粉末は、粒径が75μm以下の粒子の割合が、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。亜鉛合金粉末が、このように微細な形態を有する場合には、亜鉛合金粉末全体の比表面積が大きくなり、負極での反応を効率よく進めることができるため、電池の負荷特性がより良好となる。また、亜鉛合金粉末の表面から中心までの距離が小さくなるため、比較的負荷の小さな放電(軽負荷放電)時においても、Znの利用率が向上する。そのため、放電終了時において、未反応のZn量(亜鉛合金粉末中のZn成分量)を低減して、過放電時におけるガス発生を更に抑制することができるようになる。
【0048】
なお、亜鉛合金粉末における粒径が75μm以下の粒子の割合が増加するに従って、亜鉛合金粉末全体の比表面積が増大するが、これにより亜鉛合金粉末と電解液との反応性がより高まるため、亜鉛表面からのガス発生量が増大し、未放電時における内部でのガス発生が大きくなる。また、亜鉛合金粉末中に占める微細な粉末の割合が大きくなると、亜鉛合金粉末全体が嵩高くなって電池製造時の亜鉛合金粉末の取り扱いが困難となる。よって、電池において、前記の未放電時における内部でのガス発生を抑え、更に、電池製造時の亜鉛合金粉末の取り扱い性を高める観点から、亜鉛合金粉末における粒径が75μm以下の粒子の割合は、80質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。
【0049】
更に、粒径が75μm以下の粒子の割合が、前記好適値を満足する亜鉛合金粉末を用いることで、未放電時の電解液との反応による腐食に伴うガス発生量をより少なくすることができ、また、均質で流動性が良好な負極合剤を調製することもできる。なお、亜鉛系粒子中における粒径が75μm以下の粒子の割合は、75μmの目開きの篩い目(200メッシュの篩い目)を通過し得るものの割合を測定することで求めることができる。
【0050】
なお、電池製造時の取り扱い性を考慮すると、負極が有する亜鉛合金粉末は、その最小粒径が7μm程度であることが望ましい。また、亜鉛合金粉末は、例えば、その全体が80メッシュの篩い目を通過し得るものであることが好ましい。
【0051】
更に、本発明に係る負極は、インジウム化合物を含有していることが好ましい。Al含有量が高い亜鉛合金で構成される亜鉛合金粉末を負極に用いた電池では、放電途中に導電性の反応生成物(デンドライト)が異常析出し、これが電池缶体と接触して内部短絡を引き起こし、電池の放電時間、すなわち電池の寿命が異常に短くなることがある。
【0052】
しかしながら、負極にインジウム化合物を含有させておくと、インジウム化合物のイオン交換反応により、亜鉛合金粉末の表面にInが偏析し、前記の内部短絡による放電特性の低下を防止することが可能となる。これは、亜鉛合金粉末の表面に偏析したInが、亜鉛合金粉末からのデンドライト生成を抑制するためであると推測される。また、インジウム化合物を負極に含有させておくことで、電池内でのガス発生を更に抑えることもできる。
【0053】
前記のインジウム化合物としては、例えば、酸化インジウム、水酸化インジウムなどが挙げられる。
【0054】
本発明のアルカリ電池に係る負極はゲル状負極であり、前記亜鉛合金粉末やインジウム化合物以外に、ゲル化剤および電解液を含有している。
【0055】
ゲル化剤については特に制限はなく、従来から知られているアルカリ電池に使用されているゲル化剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸などの各種高分子ゲル化剤が使用できる。ゲル状負極中のゲル化剤の含有量は、例えば、1.5〜3質量%であることが好ましい。
【0056】
また、負極に係る電解液としては、特に制限は無く、従来から知られているゲル状負極を有するアルカリ電池に使用されている電解液と同様のもの(例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物の水溶液などのアルカリ水溶液)が使用できるが、電池の放電特性を高める観点からは、水酸化カリウム水溶液を使用することがより好ましい。
【0057】
電解液中のアルカリ濃度も特に制限は無く、従来から知られているアルカリ電池と同程度とすればよいが、例えば、電解液に水酸化カリウム水溶液を用いる場合、その水酸化カリウム濃度を、28〜38質量%とすることが好ましい。
【0058】
ゲル状負極は、例えば、亜鉛合金粉末と、予め前記のゲル化剤を用いてゲル状にしておいた電解液とを混合する方法などにより調製できる。前記のインジウム化合物を使用する場合には、例えば、予め亜鉛合金粉末と混合しておき、その後、ゲル状の電解液と混合してもよく、また、亜鉛合金粉末とゲル状の電解液との混合の際に添加しても構わない。更に、これら以外の方法で、ゲル状負極を調製しても構わない。
【0059】
なお、ゲル状負極における前記亜鉛合金粉末の含有量は、例えば、60質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましく、また、75質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。また、負極にインジウム化合物を含有させる場合には、その含有量は、0.003〜0.05質量%であることが好ましい。
【0060】
<正極>
本発明のアルカリ電池に係る正極は、例えば、活物質である二酸化マンガン、オキシ水酸化ニッケル、および導電助剤、更には成形のための電解液およびバインダを混合して正極合剤とし、この正極合剤をリング状などに加圧成形することにより形成される。
【0061】
正極活物質は、そのBET比表面積が、40m
2/g以上100m
2/g以下であることが好ましい。正極活物質のBET比表面積が小さすぎると、成形性は良好であるものの、反応面積が小さくなるために反応効率が悪くなり、電池の負荷特性が低下する虞がある。また、正極活物質のBET比表面積が大きすぎると、反応効率は向上するが、かさ密度が低下するために成形性が悪化することがある。正極活物質の成形性を高めて、正極合剤の成形体の強度をより向上させるには、正極活物質のBET比表面積は60m
2/g以下であることがより好ましく、また、45m
2/g以上であることがより好ましい。
【0062】
ここでいう正極活物質のBET比表面積は、多分子層吸着の理論式であるBET式を用いて、表面積を測定、計算したもので、活物質の表面と微細孔の比表面積である。具体的には、窒素吸着法による比表面積測定装置(Mountech社製 Macsorb HM modele−1201)を用いて、BET比表面積として得た値である。
【0063】
また、正極活物質として二酸化マンガンを用いる場合、二酸化マンガンはチタンを0.01〜3.0質量%含有していることが望ましい。この程度の量のチタンを含有する二酸化マンガンでは、比表面積が大きくなって反応効率が向上するため、アルカリ電池の負荷特性をより高めることができる。
【0064】
正極に係る導電助剤としては、例えば、黒鉛、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどを用いることができる。正極合剤中の導電助剤量は、例えば、正極活物質100質量部に対して、3〜8.5質量部とすることが好ましい。
【0065】
正極に係るバインダとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴムなどを用いることができる。正極合剤中のバインダ量は、例えば、0.1〜1質量%とすることが好ましい。
【0066】
正極に用いる電解液としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属の水酸化物を水に溶解させたアルカリ水溶液や、それに酸化亜鉛などを添加したものなどが用いられるが、後述するように、電池の放電特性を高める観点からは、水酸化カリウム水溶液がより好ましい。電解液中のアルカリ金属の水酸化物の濃度としては、例えば水酸化カリウムの場合、40〜60質量%であることが好ましく、また、酸化亜鉛を使用する場合、その濃度は、1.0〜4.0質量%であることが好ましい。
【0067】
<正極容量に対する負極容量の比>
前記の通り、過放電時における電池内でのガス発生は、電池の放電が終了した後の負極において、放電反応に関与していない未反応のZn(亜鉛合金粉末に係る亜鉛合金中のZn成分)が存在する場合に起こる。よって、本発明の電池においては、正極容量に対する負極容量の比(負極容量/正極容量)が、1.25以下であることが好ましく、1.20以下であることがより好ましく、1.10以下であることが更に好ましい。このように正極容量に対する負極容量の比を小さくすることで、放電終了時における未反応のZn量を可及的に低減し、過放電時におけるガス発生を、更に抑制することができる。
【0068】
なお、正極容量に対する負極容量の比が小さすぎると、正極容量と負極容量とのバランスが悪くなって電池の放電容量が低下することがあるため、本発明の電池においては、正極容量に対する負極容量の比が、1.00以上であることが好ましく、1.05以上であることがより好ましい。
【0069】
本発明の電池における正極容量に対する負極容量の比は、以下のようにして求められる値である。電池組み立て後の正極および負極の活物質の含有量を、正極活物質(二酸化マンガンまたはオキシ水酸化ニッケル)については、その質量と、その中のMn含有率やNi含有率の分析値とから算出し、負極活物質(亜鉛合金中のZn成分)については、ゲル状の負極合剤を回収し、水洗した上で、Zn含有率を分析して算出する。正極活物質中のMn含有率やNi含有率、負極活物質中のZn含有率は、誘導結合プラズマ(ICP)分析により求める。そして、二酸化マンガンの容量を308mAh/gとし、オキシ水酸化ニッケルの容量を292mAh/gとして、前記の正極活物質含有量(二酸化マンガン量やオキシ水酸化ニッケル量)から正極容量を算出し、亜鉛の容量を820mAh/gとして、前記の負極活物質含有量(Zn量)から負極容量を算出し、正極容量に対する負極容量の比を求める。
【0070】
なお、前記の二酸化マンガン、オキシ水酸化ニッケルおよび亜鉛の容量は、「電池便覧 第3版(丸善株式会社)」の第27頁に記載の表1・4・1「種々の電池活物質の単位電気量当たりの質量および体積」におけるZn、MnO
2およびNiOOHの単位電気量当たりの質量(1.220、3.244、および3.422)の逆数を取り、単位を整えた数値を用いた。
【0071】
<電解液>
正極および負極に使用する以外に電池内に注入するための電解液としては、前記の正極や負極に係る電解液と同様に、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属の水酸化物の水溶液からなるアルカリ水溶液や、それに酸化亜鉛を添加したものなどを用いることができる。電解液中のアルカリ金属の水酸化物の濃度としては、例えば水酸化カリウムの場合、28〜38質量%であることが好ましく、また、酸化亜鉛を使用する場合、その濃度は、1.0〜4.0質量%であることが好ましい。
【0072】
なお、電池の放電特性を高める観点からは、正極用の電解液、負極用の電解液、正極および負極に使用する以外に電池内に注入するための電解液のいずれにおいても、水酸化カリウム水溶液を使用し、電池系内の電解液中における水酸化カリウム濃度が、平均して、好ましくは38質量%以下、より好ましくは35質量%以下となるように、前記の各電解液の濃度を調整することが望ましい。
【0073】
電池系内の電解液中における水酸化カリウム濃度が高い場合には電解液のイオン伝導性が低く、このような電解液を、例えば前記のように微細な形態の亜鉛合金粉末を有する負極と併用すると、亜鉛合金粉末表面に形成される放電生成物の電気抵抗が高くなると推測される。そのため、電池の短絡時における温度が非常に高くなり、安全性を損なう虞があると共に、亜鉛合金粉末中のZn成分の利用率も低下し、放電終了時において未反応のZn成分量が増大し、過放電時におけるガス発生抑制効果が小さくなる虞がある。
【0074】
そこで、電池系内の電解液中における水酸化カリウム濃度の平均値を前記のように低く設定すれば、電解液の電気抵抗を低くして、抵抗の低い放電生成物を亜鉛合金粉末表面に生成させることが可能となり、電池の短絡時における温度上昇を低減して安全性を高めることができ、また、亜鉛合金粉末に係る亜鉛合金中のZn成分の利用率を更に向上させて、放電終了時における未反応のZn成分量を更に低減することも可能となる。
【0075】
ただし、電解液中における水酸化カリウム濃度を低くしすぎると、却って電解液のイオン伝導性が低下する傾向にあるため、電池系内の電解液中における水酸化カリウム濃度は、平均して、好ましくは28質量%以上、より好ましくは30質量%以上となるように、正極用の電解液、負極用の電解液、正極および負極に使用する以外に電池内に注入するための電解液の各水酸化カリウム濃度を調整することが望ましい。
【0076】
<セパレータ>
本発明のアルカリ電池に係るセパレータについては特に制限は無く、例えば、ビニロンとレーヨンを主体とする不織布、ビニロン・レーヨン不織布(ビニロン・レーヨン混抄紙)、ポリアミド不織布、ポリオレフィン・レーヨン不織布、ビニロン紙、ビニロン・リンターパルプ紙、ビニロン・マーセル化パルプ紙などを用いることができる。また、親水処理された微孔性ポリオレフィンフィルム(微孔性ポリエチレンフィルムや微孔性ポリプロピレンフィルムなど)とセロファンフィルムとビニロン・レーヨン混抄紙のような吸液層とを積み重ねたものをセパレータとしてもよい。
【0077】
本発明のアルカリ電池は、従来から知られているアルカリ電池が用いられている各種用途と同じ用途に適用することができる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではない。
【0079】
<参考実験 アルカリ電池に使用する封口体の水分量の影響の確認>
実験例1
水分を1.6質量%含有する二酸化マンガン、黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン粉末および正極合剤調製用のアルカリ電解液(酸化亜鉛を2.9質量%含有する56質量%水酸化カリウム水溶液)を87.6:6.7:0.2:5.5の質量比で、50℃の温度下で混合して正極合剤を調製した。なお、この正極合剤中、二酸化マンガン100質量部に対して、黒鉛は7.6質量部であった。また、正極合剤が含有する電解液の水酸化カリウム濃度は、二酸化マンガンの含有水分を考慮すると44.6質量%となった。
【0080】
次に、Alを1000ppm、Biを100ppm、Inを500ppm、Mgを5ppmの割合で含有する亜鉛合金からなる粉末、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリル酸および負極合剤調製用のアルカリ電解液(酸化亜鉛を2.2質量%含有する33.5質量%水酸化カリウム水溶液)を39:0.2:0.2:18の質量比で混合し、ゲル状の負極合剤を調製した。なお、前記亜鉛合金粉末は、平均粒径が109μmで、80メッシュの篩い目を全て通過し、かつ200メッシュの篩い目を通過する亜鉛合金粉末の割合(すなわち、前記の方法により求めた粒径が75μm以下の粒子の割合)が、全亜鉛合金粉末量に対して25質量%であって、そのかさ密度は2.63g/cm
3であった。
【0081】
更に、外装缶として、表面に無光沢Niメッキを施したキルド鋼板製で、
図2に示す形状の単3形アルカリ電池用外装缶1を用意した。この外装缶1は、封口部分10の厚みが0.25mmで、胴部分20の厚みが0.16mmに加工され、また、電池を落下させたときに正極端子1bのへこみを防ぐために、正極端子部分の缶厚を胴部分20より多少厚くしている。この外装缶1を用いて、以下のようにしてアルカリ電池を作製した。
【0082】
前記正極合剤:約11gを、前記外装缶1に挿入してボビン状(中空円筒状)に加圧成形し、内径:9.1mm、外径:13.7mm、高さ:13.9mmの3個の正極合剤成形体(密度:3.21g/cm
3)が積み重なった状態とした。次に、外装缶1の開口端から高さ方向において3.5mmの位置にグルーブを施し、外装缶1と封口体6との密着性を向上させるために、このグルーブ位置まで外装缶1の内側にピッチを塗布した。
【0083】
次に、厚みが100μmで目付が30g/m
2のアセタール化ビニロンとテンセルからなる不織布を三重に重ねて筒状に巻き、底部になる部分を折り曲げてこの部分を熱融着し、一端が閉じられたコップ状のセパレータ3とした。このセパレータ3を、外装缶1内に挿入された正極1の内側に装填し、注入用のアルカリ電解液(酸化亜鉛を2.2質量%含有する33.5質量%水酸化カリウム水溶液)1.35gをセパレータの内側に注入し、さらに、前記負極合剤:5.74gをセパレータ3の内側に充填して負極4とした。このとき、電池系内の水分量は、電池系内の水分量の合計は正極活物質1g当たり0.261gで、正極容量に対する負極容量の比は1.10であった。また、電池系内における電解液の水酸化カリウム濃度は、34.5質量%となるように調整した。
【0084】
前記発電要素の充填の後、表面がスズメッキされた真鍮製の負極集電棒5を封口体6と組み合わせ、前記負極集電棒5を負極4の中央部に差し込み、外装缶1の開口端部1aの外側からスピニング方式によりかしめることにより、
図2に示す単3形アルカリ電池を作製した。
【0085】
なお、封口体6には、ナイロン66製で、水分量が0.50質量%のものを使用し、電池の組み立てに先立って、電池内側の面(
図2中下側の面)にピッチを塗布した。また、負極集電棒5は、表面をゴム製のシール剤で被覆しておらず、打ち抜き・プレス加工により形成された厚みが0.4mmのニッケルメッキ鋼板製の負極端子板7に、あらかじめ溶接により取り付けられたものである。更に、外装缶1の開口端と負極端子板7との間には、短絡防止のために絶縁板8を装着した。以上のようにして実験例1の筒形アルカリ電池を作製した。
【0086】
実験例2〜7
封口体に、表1に示す水分量のものを用いた以外は、実験例1と同様にして筒形アルカリ電池を作製した。
【0087】
実験例1〜7のアルカリ電池各100個を、70℃、相対湿度90%の環境下で100日保管し、その後に各電池を分解して封口体を顕微鏡によって20倍の倍率で観察し、クラックの発生の有無を調べた。その結果を表1に併記する。なお、前記の保管条件は、アルカリ電池を通常の温度および湿度環境下(例えば、25℃、相対湿度50%)での20年の保管に相当する。
【0088】
【表1】
【0089】
表1に示す通り、アルカリ電池に使用した封口体の水分量が多いほど、電池を高温高湿環境下で保管した後において、封口体のクラックの発生率が増大しているが、封口体の水分量が1.5質量%以下の場合には、この発生率が比較的抑えられている。しかしながら、この場合でも、僅かではあるがクラックの発生は認められており、アルカリ電池の耐漏液性には、未だ改善の余地があるといえる。
【0090】
<実施例および比較例のアルカリ電池の耐漏液性の評価>
実施例1
負極集電棒の表面における封口体の透孔と接する部分、および封口体から負極側へ向けて突出する部分のうち、封口体の透孔と接触する部分の端部から1mmまでの部分を、シール剤(クロロスルホン化ポリエチレン)で被覆した(すなわち、
図2中、aの長さが1mm)以外は、実験例2と同様にして筒形アルカリ電池を作製した。なお、負極集電棒表面の前記箇所におけるシール剤の被覆厚みは2μmとした。
【0091】
実施例2
負極集電棒の表面におけるシール剤での被覆箇所を、封口体の透孔と接する部分、および封口体から負極側へ向けて突出する部分のうち、封口体の透孔と接触する部分の端部から5mmまでの部分とした(すなわち、
図2中、aの長さが5mm)以外は、実施例1と同様にして筒形アルカリ電池を作製した。
【0092】
比較例1
負極集電棒の表面におけるシール剤での被覆箇所を、封口体の透孔と接する部分のうちの
図2中上半分までとした以外は、実施例1と同様にして筒形アルカリ電池を作製した。
【0093】
比較例2
負極集電棒の表面におけるシール剤での被覆箇所を、封口体の透孔と接する部分のうち、
図2中下端から1mmのまでの部分を除く箇所とした以外は、実施例1と同様にして筒形アルカリ電池を作製した。
【0094】
実施例1、2および比較例1、2のアルカリ電池各100個を、70℃、相対湿度90%の環境下で100日保管し、その間の漏液の有無を確認すると共に、保管後に各電池を分解して封口体を顕微鏡によって20倍の倍率で観察し、クラックの発生の有無を調べた。これらの結果を表2に示す。なお、前記の実験例2の電池(負極集電棒の表面をシール剤で被覆していない以外は、実施例1と同様にして得られた電池)を比較例3とし、その結果も表2に併記する。
【0095】
【表2】
【0096】
表2に示す通り、水分量が特定値にある封口体を使用することに加えて、負極集電棒の表面の適正箇所をゴム製のシール剤で被覆している実施例1、2のアルカリ電池は、前記の高温高湿環境下での保管によっても、漏液および封口体のクラック発生が認められず、高い耐漏液性を有している。
【0097】
これに対し、水分量を特定値とした封口体を使用していても、負極集電棒の表面の適正箇所をゴム製のシール剤で被覆していない比較例1〜3の電池では、前記の高温高湿環境下での保管によって、漏液が生じたり、封口体にクラックが発生したりしたものが生じており、実施例の電池に比べて耐漏液性が劣っている。