(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5981821
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】錫の回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 25/00 20060101AFI20160818BHJP
C22B 3/12 20060101ALI20160818BHJP
C22B 3/46 20060101ALI20160818BHJP
C25C 1/14 20060101ALI20160818BHJP
C25C 7/06 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
C22B25/00 101
C22B3/12
C22B3/46
C25C1/14
C25C7/06 301A
【請求項の数】10
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-211634(P2012-211634)
(22)【出願日】2012年9月26日
(65)【公開番号】特開2014-65941(P2014-65941A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2015年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】306039131
【氏名又は名称】DOWAメタルマイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107548
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】井野口 康祐
【審査官】
池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−074128(JP,A)
【文献】
特開2006−322031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
錫と鉛を含む錫含有物の粉末または粒状物を、苛性ソーダ水溶液中で酸化しながら浸出して錫を含む浸出液を得た後、この浸出液を電解液として使用して電解採取により錫を回収する方法において、苛性ソーダ水溶液中に酸素を吹き込むことによって酸化しながら浸出して錫を含む浸出液を得る際に、苛性ソーダ水溶液の温度の上昇が停滞または温度が低下し始めたときに、酸素の吹き込みを停止することを特徴とする、錫の回収方法。
【請求項2】
前記錫と鉛を含む錫含有物の粉末または粒状物が、錫と鉛を含む合金塊から得られた粉末または粒状物であることを特徴とする、請求項1に記載の錫の回収方法。
【請求項3】
前記錫と鉛を含む錫含有物の粉末または粒状物が、前記錫と鉛を含む合金塊をアトマイズまたは粉砕することによって得られることを特徴とする、請求項2に記載の錫の回収方法。
【請求項4】
前記錫と鉛を含む錫含有物の粉末または粒状物の粒径が3mm以下であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の錫の回収方法。
【請求項5】
前記錫と鉛を含む錫含有物の粉末または粒状物の粒径が1mm以下であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の錫の回収方法。
【請求項6】
前記浸出が終了した際の前記苛性ソーダ水溶液中のNaOH濃度が0.1〜150g/Lであることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の錫の回収方法。
【請求項7】
前記浸出が終了した際の前記苛性ソーダ水溶液中のNaOH濃度が4〜80g/Lであることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の錫の回収方法。
【請求項8】
前記浸出が終了した際の前記苛性ソーダ水溶液中のNaOH濃度が4〜35g/Lであることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の錫の回収方法。
【請求項9】
前記電解採取の際の前記電解液の温度が50〜100℃であることを特徴とする、請求項1乃至8のいずれかに記載の錫の回収方法。
【請求項10】
前記電解採取前に前記浸出液に錫を添加して浸出液中の鉛を除去することを特徴とする、請求項1乃至9のいずれかに記載の錫の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錫の回収方法に関し、特に、錫の他に鉛などを含む錫含有物から錫を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、錫の他に鉛などを含む錫含有物から錫を回収する方法として、錫と鉛を含む合金を300〜500℃程度の温度で溶融し、この溶融体に苛性ソーダを添加し、溶融体中の錫を錫酸ナトリウムとして苛性ソーダ中に抽出して鉛と分離した後、錫を抽出した苛性ソーダを水で溶解して、錫酸ナトリウムを含むアルカリ性溶液とし、電解などにより錫を回収する方法が知られている。
【0003】
また、鉛精錬において鉛中の錫を分離回収する方法として、錫を含む鉛を溶融し、この溶融体をソーダ化合物と反応させて溶融体中の錫を錫酸ソーダとし、この錫酸ソーダと副生する錫酸鉛とを含む滓を溶融鉛から分離し、この鉛精製滓に硫黄を添加して水で浸出処理した後にCa
2+で錫を錫酸カルシウムとして沈澱させる方法も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム及び水酸化リチウムのいずれかの水酸化アルカリ水溶液中に金属錫や錫を含む合金などの原料錫を投入し、水酸化アルカリ水溶液を撹拌または循環により原料錫の表面上に常時流動させながら所定の反応温度に維持し、且つ反応液中に反応促進剤として過酸化水素を滴下しながら反応を行って不溶解分を含む錫酸塩水溶液を得た後、不溶解分を濾別し、錫酸塩水溶液から減圧濃縮、蒸発、晶析又は遠心分離等により、錫酸カリウム、錫酸ナトリウム及び錫酸リチウムのいずれかの錫酸アルカリ化合物の結晶を得る方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらに、錫を主成分とする半田などから金属錫を回収する方法として、錫含有物に酸を添加して錫含有物を溶解した酸溶液とした後、この酸溶液にアルカリ剤を添加してpH12以上に調整することにより、錫含有物中の錫を溶解したアルカリ溶液とし、このアルカリ溶液を電解して錫を得る方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
しかし、上述した錫と鉛を含む合金の溶融体に苛性ソーダを添加する従来の方法では、錫の量に対して10倍等量程度の苛性ソーダを使用するため、苛性ソーダの使用量が非常に多くなる。また、錫を抽出した苛性ソーダを水で溶解した際に得られる苛性ソーダ水溶液を350℃以上で煮詰めて、水分を完全に蒸発させ、苛性ソーダを再利用することも可能であるが、多量の水分を蒸発させなければならないので、エネルギーコストが多大になる。同様に、特許文献1の方法の場合も、ソーダ化合物の使用量が非常に多くなり、ソーダ化合物を再利用しようとすると、エネルギーコストが多大になる。
【0007】
また、特許文献2の方法は、錫酸アルカリ化合物を得る方法であり、錫を回収する方法ではないが、この方法によって得られた錫酸塩水溶液を利用して錫を回収しても、錫酸塩水溶液を得るまでに長時間を要する。さらに、特許文献2の方法では、過酸化水素水を使用する必要があり、特許文献3の方法では、錫含有物に酸を添加して得られた酸溶液にアルカリ剤を添加する必要があるので、さらに薬品コストを下げることができる方法が望まれている。
【0008】
このような従来の課題を解決するため、錫の他に鉛などを含む錫含有物から安価且つ効率的に錫を回収する方法として、錫と鉛を含む錫含有物の粉末または粒状物を、苛性ソーダ水溶液中で酸化しながら浸出して錫を含む浸出液を得た後、この浸出液を電解液として使用して電解採取により錫を回収する方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭63−19576号公報(第1頁)
【特許文献2】特開2000−226214号公報(段落番号0008)
【特許文献3】特開2004−315865号公報(段落番号0007−0008)
【特許文献4】特開2009−35778号公報(段落番号0010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献4の方法では、SnとPb含むSn含有物の粉末または粒状物を、苛性ソーダ水溶液中で酸化しながら浸出してSnを含む浸出液を得る際に、アルカリ領域においてSnとPbの酸化還元電位の相違からSnが優先して浸出されるが、過剰に酸化浸出が行われるとPbの溶出量が増加したり、さらに過剰に酸化が進むとSnがPbと共沈してしまうため、Snの浸出が終了した段階で速やかに酸化浸出を終了する必要がある。また、必要以上に酸化浸出を続けると、時間や酸素のロスにもなるため、酸化浸出の終点を見極めることは非常に重要である。
【0011】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、錫と鉛を含む錫含有物の粉末または粒状物を、苛性ソーダ水溶液中で酸化しながら浸出して錫を含む浸出液を得た後、この浸出液を電解液として使用して電解採取により錫を回収する方法において、錫の浸出が終了した段階で速やかに酸化浸出を終了することができる、錫の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、錫と鉛を含む錫含有物の粉末または粒状物を、苛性ソーダ水溶液中で酸化しながら浸出して錫を含む浸出液を得た後、この浸出液を電解液として使用して電解採取により錫を回収する方法において、錫を含む浸出液を得る際に、苛性ソーダ水溶液の温度の上昇が停滞または温度が低下し始めたときに、酸化を停止することにより、錫の浸出が終了した段階で速やかに酸化浸出を終了することができる、錫の回収方法を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明による錫の回収方法は、錫と鉛を含む錫含有物の粉末または粒状物を、苛性ソーダ水溶液中で酸化しながら浸出して錫を含む浸出液を得た後、この浸出液を電解液として使用して電解採取により錫を回収する方法において、錫を含む浸出液を得る際に、苛性ソーダ水溶液の温度の上昇が停滞または温度が低下し始めたときに、酸化を停止することを特徴とする。この錫の回収方法において、苛性ソーダ水溶液中に酸素を吹き込むことによって酸化を行うのが好ましく、酸素の吹き込みを停止することによって酸化を停止するのが好ましい。また、錫と鉛を含む錫含有物の粉末または粒状物が、錫と鉛を含む合金塊から得られた粉末または粒状物であるのが好ましく、この錫と鉛を含む合金塊をアトマイズまたは粉砕することによって粉末または粒状物を得るのが好ましい。また、錫と鉛を含む錫含有物の粉末または粒状物の粒径が3mm以下であるのが好ましく、1mm以下であるのがさらに好ましい。また、浸出が終了した際の苛性ソーダ水溶液中のNaOH濃度が0.1〜150g/Lであるのが好ましく、4〜80g/Lであるのがさらに好ましく、4〜35g/Lであるのが最も好ましい。また、浸出の際の苛性ソーダ水溶液の温度が50〜100℃であるのが好ましく、電解採取の際の電解液の温度が50〜100℃であるのが好ましい。さらに、電解採取前に浸出液に錫を添加して浸出液中の鉛を除去するのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、錫と鉛を含む錫含有物の粉末または粒状物を、苛性ソーダ水溶液中で酸化しながら浸出して錫を含む浸出液を得た後、この浸出液を電解液として使用して電解採取により錫を回収する方法において、錫の浸出が終了した段階で速やかに酸化浸出を終了することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明による錫の回収方法の実施の形態を示す工程図である。
【
図2】実施例1における酸化浸出時間に対する溶液中のSn、Pb、Sbの濃度と溶液の温度の関係を示す図である。
【
図3】実施例2における酸化浸出時間に対する溶液中のSn、Pb、Sbの濃度と溶液の温度の関係を示す図である。
【
図4】実施例3における酸化浸出時間に対する溶液中のSn、Pb、Sbの濃度と溶液の温度の関係を示す図である。
【
図5】実施例4における酸化浸出時間に対する溶液中のSn、Pb、Sbの濃度と溶液の温度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、
図1を参照して本発明による錫の回収方法の実施の形態について説明する。
【0017】
まず、錫(Sn)と鉛(Pb)を含む錫含有物が塊状の場合には、微細化して錫含有物の粉末または粒状物を得る。錫含有物が錫と鉛を含有する合金塊の場合には、アトマイズや粉砕などによって粉末にして金属粉を得る。この錫含有物の粉末または粒状物の粒径は3mm以下であるのが好ましく、1mm以下であるのがさらに好ましい。
【0018】
次に、得られた錫含有物の粉末または粒状物を苛性ソーダ水溶液に添加して、この水溶液中に酸素を吹き込みながら撹拌して酸化浸出によりSnを選択的に浸出する。なお、この水溶液中に空気を吹き込んでSnの浸出を行うこともできるが、NaOHの炭酸化を防ぐために酸素を吹き込むのが好ましい。
【0019】
なお、錫含有物の粉末または粒状物の粒径が数mm以上であると、酸化浸出の際に水溶液中に酸素を吹き込んでもSnの浸出速度が遅く、酸化浸出に長時間を要し、また、Snの浸出率が50%を超える前にPbの浸出が起こる。このような場合、十分な浸出速度を得るために、過酸化水素などの酸化剤を添加する必要がある。
【0020】
この浸出に使用する苛性ソーダ水溶液中の遊離NaOH濃度(初期濃度)は、10〜200g/Lであるのが好ましく、50〜100g/Lであるのがさらに好ましい。苛性ソーダ水溶液中の遊離NaOH濃度が低いと、浸出途中でSnが酸化物として沈澱して浸出率が低下し、苛性ソーダ水溶液中の遊離NaOH濃度が高いと、Pbの溶解度が上がってPbの溶出量が増大することにより浄液コストが増大するとともに、Snの溶解度が低下し、電解採取時の電流効率も悪くなる。
【0021】
初期の適正な遊離NaOHの濃度(初期濃度)は、錫含有物の粉末または粒状物を苛性ソーダ水溶液に添加した後のパルプ濃度(g/L)や、錫含有物の粉末または粒状物中のSn品位によって異なるので、浸出終了時の遊離NaOH濃度を規定する方がよい。この浸出終了時の遊離NaOH濃度は、0.1g/L(pH13)〜150g/Lであるのが好ましい。また、浸出中には、遊離NaOH濃度が高くても、Pbの溶出が抑えられているが、浸出終了後には、遊離NaOH濃度に対応した溶解度までPbの溶出が進むので、浸出終了時のPbの溶解度の上昇を抑えるためには、浸出終了時の遊離NaOH濃度は、4〜80g/Lであるのが好ましく、4〜35g/Lであるのがさらに好ましく、4〜20g/Lであるのが最も好ましい。
【0022】
なお、初期の遊離NaOH濃度と浸出終了時の遊離NaOH濃度は、[初期の遊離NaOH濃度(g/L)]=[錫含有物をNaOH水溶液に添加した後のパルプ濃度(g/L)]×[錫含有物中のSn品位(%)/100]×[(実績により得られた想定の)浸出率(%)/100]÷(Snの原子量118.7)×(NaOHの分子量40)×(Sn1モルに対するNaOHの消費モル数2)+[浸出終了時の遊離NaOH濃度(g/L)]により調整することができる。
【0023】
また、この浸出の際の水溶液の温度は、50〜100℃であるのが好ましく、70〜90℃であるのがさらに好ましい。この温度が低いとSnの浸出終了前にPbの溶出が開始し、温度が高いとエネルギーコストが増大する。
【0024】
この酸化浸出では、Snの浸出に伴う酸化熱により溶液の温度が上昇するが、Snの浸出が終了して溶液中のSn濃度の上昇が止まると、反応熱が急激に減少して、溶液の温度の上昇が停滞または溶液の温度が下降に転ずる。そのため、この酸化浸出の溶液の温度を測定し、溶液の温度の上昇が停滞し始めたとき、または溶液の温度が低下し始めたときに、酸素の吹き込みを停止する。このときに酸素の吹き込みを停止すれば、過剰な酸化浸出によるPbの溶出を最小限に抑えることができ且つSnを十分に浸出することができるタイミングで反応を停止することができる。
【0025】
なお、この酸化浸出後にPbメタルが残渣として残り、このPbメタルを鉛製錬原料として利用することができる。
【0026】
次に、この浸出により得られたSnを含む浸出液に(粉末、ショット、板などの)Snを投入して、セメンテーションにより浸出液中のPbを除去する。
【0027】
次に、得られた液を用いて電解採取によりSnメタルを回収する。なお、この電解採取の際の液の温度は、50〜100℃であるのが好ましく、70〜90℃であるのがさらに好ましい。50℃より低いと殆ど電着せず、また、70℃より低いと電流効率が悪くなる。また、Snを電解採取した後の電解后液は、以下の反応によって苛性ソーダ水溶液を再生するため、Snの浸出に繰り返し使用することができる。
【0028】
Na
2[Sn(OH)
4]→Sn+2NaOH+H
2O+0.5O
2
【実施例】
【0029】
以下、本発明による錫の回収方法の実施例について詳細に説明する。
【0030】
[実施例1]
まず、Sn品位43.44%、Pb品位49.12%、Sb(アンチモン)品位2.68%、Cu(銅)品位1.01%、As(砒素)0.46%の合金塊をエアアトマイズ法により微粉化した後、開き目150μmの篩で分級して金属粉を得た。
【0031】
次に、この金属粉13.5kgを遊離NaOH濃度55.4g/Lの苛性ソーダ水溶液90Lに添加し、水溶液中に15L/分の流量で酸素を吹き込みながら2段タービン羽根により280rpm(52.5Hz)で撹拌してSnの酸化浸出を140分間行った。なお、このSnの酸化浸出の開始時の水溶液の温度は43.6℃であった。
【0032】
このSnの酸化浸出の開始後、20分毎に水溶液の温度を測定するとともに、20分毎に水溶液の一部を抽出してSn、PbおよびSbの濃度を測定した。これらの結果を
図2に示す。なお、Snの酸化浸出の開始から140分経過後の遊離NaOH濃度は、Snの酸化浸出により消費されて16.8g/Lまで低下していた。
【0033】
図2に示すように、Snの酸化浸出の開始から80分経過後までは温度が上昇しているが、その後に温度が低下している。また、80分経過後にはSnの濃度も殆ど上昇しておらず、PbとSbの濃度も低かった。これらの結果からわかるように、温度の上昇が停滞または低下し始めた段階で酸素の吹き込みを止めれば、浸出液中のPbの濃度を低く抑えることができる。
【0034】
[実施例2]
金属粉の重量を14.4kg、遊離NaOH濃度を58.2g/L、酸素の流量を20L/分とした以外は、実施例1と同様の方法により、Snの酸化浸出を160分間行い、水溶液の温度とSn、PbおよびSbの濃度を測定した。なお、水溶液の温度が80℃前後に保たれるように、82℃以上になると反応槽に冷却水を流し、78℃以下になると冷却水の供給を停止するようにした。これらの結果を
図3に示す。なお、Snの酸化浸出の開始から140分経過後の遊離NaOH濃度は、Snの酸化浸出により消費されて13.8g/Lまで低下していた。
【0035】
図3に示すように、Snの酸化浸出の開始から100分経過後には、冷却水の供給を停止しても、温度が上昇しなくなって下降に転じている。また、100分経過後にはSnの濃度も上昇しておらず、Snの酸化浸出反応が終了していたと考えられ、また、PbとSbの濃度も低かった。これらの結果からわかるように、温度の上昇が停滞または低下し始めた段階で酸素の吹き込みを止めれば、浸出液中のPbの濃度を低く抑えることができる。
【0036】
[実施例3]
金属粉の重量を11.7kg、遊離NaOH濃度を72.4g/L、酸素の流量を20L/分とした以外は、実施例1と同様の方法により、Snの酸化浸出を100分間行い、水溶液の温度とSn、PbおよびSbの濃度を測定した。これらの結果を
図4に示す。なお、Snの酸化浸出の開始から140分経過後の遊離NaOH濃度は、Snの酸化浸出により消費されて37.6g/Lまで低下していた。
【0037】
図4に示すように、Snの酸化浸出の開始から70分経過後までは温度が上昇しているが、その後に温度が低下している。また、70分経過後にはSnの濃度も殆ど上昇しておらず、Snの酸化浸出反応が終了していたと考えられ、また、PbとSbの濃度も低かった。これらの結果からわかるように、温度の上昇が停滞または低下し始めた段階で酸素の吹き込みを止めれば、浸出液中のPbの濃度を低く抑えることができる。但し、本実施例では、遊離NaOH濃度が高過ぎたため、浸出液中のPbの濃度が若干上がってしまった。
【0038】
[実施例4]
遊離NaOH濃度を34.0g/Lとした以外は、実施例1と同様の方法により、Snの酸化浸出を100分間行い、水溶液の温度とSn、PbおよびSbの濃度を測定した。これらの結果を
図5に示す。なお、Snの酸化浸出の開始から140分経過後の遊離NaOH濃度は、Snの酸化浸出により消費されて3.2g/Lまで低下していた。
【0039】
図5に示すように、Snの酸化浸出の開始から40分経過後までは温度が上昇しているが、その後に温度が低下している。また、40分経過後にはSn濃度も殆ど上昇しておらず、Snの酸化浸出反応が終了していたと考えられ、また、PbとSbの濃度も低かった。これらの結果からわかるように、温度の上昇が停滞または低下し始めた段階で酸素の吹き込みを止めれば、浸出液中のPbの濃度を低く抑えることができる。但し、本実施例では、遊離NaOH濃度が低過ぎたため、浸出液中のSnの濃度が低いままその濃度の上昇が停滞し、十分なSnを浸出することができなかった。また、酸化浸出を続けると、コロイド状の白濁した沈殿物が発生してろ過性が悪かった。