特許第5981854号(P5981854)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5981854
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】ハニカムフィルタ、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/20 20060101AFI20160818BHJP
   B01D 46/00 20060101ALI20160818BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20160818BHJP
   C04B 35/195 20060101ALI20160818BHJP
   F01N 3/022 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   B01D39/20 D
   B01D46/00 302
   C04B38/00 303Z
   C04B38/00 304Z
   C04B35/16 A
   F01N3/022 B
【請求項の数】4
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2012-555229(P2012-555229)
(86)(22)【出願日】2012年9月28日
(86)【国際出願番号】JP2012075876
(87)【国際公開番号】WO2013047908
(87)【国際公開日】20130404
【審査請求日】2015年3月19日
(31)【優先権主張番号】特願2011-214741(P2011-214741)
(32)【優先日】2011年9月29日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】元木 浩二
(72)【発明者】
【氏名】末信 宏之
(72)【発明者】
【氏名】小玉 絵梨子
【審査官】 関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−221153(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/030811(WO,A1)
【文献】 特表2011−504869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/20
B01D 46/00
C04B 35/195
C04B 38/00
F01N 3/022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有する筒状のハニカム構造体と、
所定の前記セルの一方の開口端部及び残余の前記セルの他方の開口端部に配設された目封止部と、を備え、
前記隔壁の気孔率が、36%以上、46%以下であり、
細孔径が40μm以上の細孔の細孔容積率が、7.5%以下であり、且つ、細孔径が10μm以下の細孔の細孔容積率が、25%以下であり、
前記ハニカム構造体のパーミアビリティーが、0.8μm以上であり、
前記ハニカム構造体の40℃から800℃における熱膨張係数が、1.0×10−6/℃以下であるハニカムフィルタ。
【請求項2】
前記隔壁が、コージェライトを主成分とする多孔質体からなり、
前記隔壁が、前記隔壁中に、リチウムをLiO換算で0.40質量%以下含む請求項1に記載のハニカムフィルタ。
【請求項3】
前記隔壁が、前記隔壁中に、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、及び酸化イットリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含み、前記酸化セリウムの含有率が3.0質量%以下であり、前記酸化ジルコニウムの含有率が2.5質量%以下であり、前記酸化イットリウムの含有率が2.0質量%以下である請求項1又は2に記載のハニカムフィルタ。
【請求項4】
コージェライト化原料を含む坏土を調製する坏土調製工程と、
前記坏土を成形してハニカム成形体を得るハニカム成形体作製工程と、
前記ハニカム成形体を焼成してハニカム構造体を得るハニカム構造体作製工程と、
前記ハニカム構造体の所定のセルの一方の開口端部及び残余のセルの他方の開口端部に目封止部を配設する目封止工程と、を備え、
前記坏土調製工程が、前記コージェライト化原料100質量部に対して、炭酸リチウムを0.2質量部以上、1.0質量部以下添加する操作、前記コージェライト化原料100質量部に対して、酸化セリウムを3.0質量部以下添加する操作、前記コージェライト化原料100質量部に対して、酸化ジルコニウムを2.5質量部以下添加する操作、前記コージェライト化原料100質量部に対して、酸化イットリウムを2.0質量部以下添加する操作、及び前記コージェライト化原料のアルミナ源としてベーマイトを2質量%以上、8質量%以下用いる操作のうちの少なくとも一の操作を含むハニカムフィルタの製造方法であって、
得られる前記ハニカム構造体の隔壁の気孔率が、36%以上、46%以下であり、細孔径が40μm以上の細孔の細孔容積率が、7.5%以下であり、且つ、細孔径が10μm以下の細孔の細孔容積率が、25%以下であり、前記ハニカム構造体のパーミアビリティーが、0.8μm以上であり、前記ハニカム構造体の40℃から800℃における熱膨張係数が、1.0×10−6/℃以下であるハニカムフィルタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカムフィルタ、及びその製造方法に関する。更に詳しくは、圧力損失の増加を抑制しつつ、最大スス堆積量が多く、高い耐久性を実現することが可能なハニカムフィルタ、及びこのようなハニカムフィルタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンから排出される排ガスには、スス等の粒子状物質が含まれていることがある。この粒子状物質がそのまま大気中に放出されると、環境汚染を引き起こすことがある。排ガス中の粒子状物質を取り除くために、排ガス浄化用のフィルタが用いられている。例えば、ディーゼルエンジンから排出される排ガス中の粒子状物質を除去するためのフィルタとして、ディーゼルパティキュレートフィルタを挙げることができる。本明細書においては、粒子状物質を、「PM」ということがある。PMは、「Particulate Matter」の略である。また、ディーゼルパティキュレートフィルタを、「DPF」ということがある。
【0003】
このようなDPFとしては、例えば、複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有するハニカム構造体を備えたものを挙げることができる。ハニカム構造体に形成されたセルが、流体(例えば、排ガス、浄化ガス)の流路となる。このようなハニカム構造体の製造方法として、特許文献1及び2を挙げることができる。
【0004】
ハニカム構造体をDPF等のフィルタとして用いる際には、ハニカム構造体に形成されたセルのいずれか一方の端部に、セルの開口部分を封止する目封止部が配設される。このようなフィルタの一方の端部から排ガスが導入されると、排ガス中の粒子状物質が隔壁によって捕捉される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−260787号公報
【特許文献2】国際公開第2006/030811号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在、このようなDPFにおいては、従来のものと比較して、更なる耐久性の向上が求められている。具体的には、従来のDPFと比較して、「最大スス堆積量」がより高いDPFが要求されている。最大スス堆積量は、「スートマスリミット」、又は「SML」とも称される。最大スス堆積量は、ハニカムフィルタの耐久性の指標となるものである。
【0007】
ハニカムフィルタを上記DPFとして用いた場合には、ハニカムフィルタの隔壁に、排ガス中のススが堆積する。ハニカムフィルタの隔壁にススが堆積すると、ハニカムフィルタの圧力損失が増大する。このため、ハニカムフィルタの隔壁に堆積したススを燃焼させて、ハニカムフィルタを再生することが行われている。
【0008】
例えば、ハニカムフィルタの再生の効率の観点からいえば、上記再生が、隔壁上により多くのススが堆積した段階で行われることが好ましい。一方で、隔壁に堆積するススの量が多くなると、多量のススが一度に燃焼することとなり、再生時におけるハニカムフィルタの温度上昇が大きくなる。再生時におけるハニカムフィルタの温度上昇が大きくなると、ハニカムフィルタにクラック等の破損が生じてしまうことがある。最大スス堆積量とは、上記再生を行った場合に、ハニカムフィルタにクラック等の破損が生じないススの最大の堆積量のことである。即ち、ハニカムフィルタにおいて、最大スス堆積量が高いということは、熱衝撃性等の耐久性が優れていることとなる。
【0009】
ハニカムフィルタの最大スス堆積量は、ハニカムフィルタの熱容量と相関がある。また、ハニカムフィルタの熱容量は、ハニカムフィルタの気孔率と相関がある。例えば、ハニカムフィルタの気孔率が低いほど、ハニカムフィルタの質量が増加し、ハニカムフィルタの熱容量も増加する。但し、ハニカムフィルタの気孔率を低くすると、ハニカムフィルタの圧力損失が高くなる。特に、ハニカムフィルタの気孔率が46%以下になると、圧力損失の増加が顕著になる。ハニカムフィルタの圧力損失が高くなると、フィルタ性能が低下してしまう。
【0010】
従来は、圧力損失の増加を抑制することと、耐久性を向上することとは、二律背反の関係にあるとされ、両者を同時に解決することは極めて困難であるとされていた。このため、圧力損失と耐久性とのいずれか一方を犠牲にして、使用形態に適したハニカムフィルタが作製されていた。
【0011】
例えば、上記特許文献1では、コージェライト原料中のタルクとシリカの粒度分布を制御することが行われている。特許文献1によって製造される多孔質ハニカム構造体では、捕集効率が高く、圧力損失の増大を防止することができるとされているが、実際には、原料の粒度制御が極めて困難である。特に、微小粒子径原料の低減が難しいため、低気孔率のハニカムフィルタにおいては、圧力損失について問題となっている。
【0012】
また、上記特許文献2には、細孔径15μm以下の細孔容積が0.07cc/cc以下、細孔径40μm以上の細孔容積が0.07cc/cc以下の多孔質材料が開示されている。この多孔質材料は、気孔率が40〜75%であり、パーミアビリディーが1.5μm以上である。しかしながら、多孔質材料が、非酸化物系セラミックスであり、熱膨張係数が高いという問題があった。即ち、熱膨張係数の低い原料においては、圧力損失の増加を抑制しつつ、高い耐久性を実現することはできていなかった。
【0013】
また、従来、隔壁の低気孔率化の方法として、コージェライト化原料における、シリカ源としてのカオリンの量を増加し、相対的にシリカの量を減少させることが行われている。これにより、得られるハニカム構造体の隔壁の気孔率を低下させることができる。但し、このような方法では、シリカの量の減少に伴い、隔壁の一方の表面から他方の表面まで繋がる細孔が減少してしまい、ハニカム構造体の圧力損失が増大してしまうという問題があった。
【0014】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものである。本発明は、圧力損失の増加を抑制しつつ、最大スス堆積量が多く、高い耐久性を実現することが可能なハニカムフィルタ、及びこのようなハニカムフィルタの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、以下に示す、ハニカムフィルタ、及びその製造方法が提供される。
【0016】
[1] 流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有する筒状のハニカム構造体と、所定の前記セルの一方の開口端部及び残余の前記セルの他方の開口端部に配設された目封止部と、を備え、前記隔壁の気孔率が、36%以上、46%以下であり、細孔径が40μm以上の細孔の細孔容積率が、7.5%以下であり、且つ、細孔径が10μm以下の細孔の細孔容積率が、25%以下であり、前記ハニカム構造体のパーミアビリティーが、0.8μm以上であり、前記ハニカム構造体の40℃から800℃における熱膨張係数が、1.0×10−6/℃以下であるハニカムフィルタ。
【0017】
[2] 前記隔壁が、コージェライトを主成分とする多孔質体からなり、前記隔壁が、前記隔壁中に、リチウムをLiO換算で0.40質量%以下含む前記[1]に記載のハニカムフィルタ。
【0018】
[3] 前記隔壁が、前記隔壁中に、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、及び酸化イットリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含み、前記酸化セリウムの含有率が3.0質量%以下であり、前記酸化ジルコニウムの含有率が2.5質量%以下であり、前記酸化イットリウムの含有率が2.0質量%以下である前記[1]又は[2]に記載のハニカムフィルタ。
【0022】
[4] コージェライト化原料を含む坏土を調製する坏土調製工程と、前記坏土を成形してハニカム成形体を得るハニカム成形体作製工程と、前記ハニカム成形体を焼成してハニカム構造体を得るハニカム構造体作製工程と、前記ハニカム構造体の所定のセルの一方の開口端部及び残余のセルの他方の開口端部に目封止部を配設する目封止工程と、を備え、前記坏土調製工程が、前記コージェライト化原料100質量部に対して、炭酸リチウムを0.2質量部以上、1.0質量部以下添加する操作、前記コージェライト化原料100質量部に対して、酸化セリウムを3.0質量部以下添加する操作、前記コージェライト化原料100質量部に対して、酸化ジルコニウムを2.5質量部以下添加する操作、前記コージェライト化原料100質量部に対して、酸化イットリウムを2.0質量部以下添加する操作、及び前記コージェライト化原料のアルミナ源としてベーマイトを2質量%以上、8質量%以下用いる操作のうちの少なくとも一の操作を含むハニカムフィルタの製造方法であって、得られる前記ハニカム構造体の隔壁の気孔率が、36%以上、46%以下であり、細孔径が40μm以上の細孔の細孔容積率が、7.5%以下であり、且つ、細孔径が10μm以下の細孔の細孔容積率が、25%以下であり、前記ハニカム構造体のパーミアビリティーが、0.8μm以上であり、前記ハニカム構造体の40℃から800℃における熱膨張係数が、1.0×10−6/℃以下であるハニカムフィルタの製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明のハニカムフィルタは、ハニカム構造体と、目封止部とを備えたものである。ハニカム構造体は、流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有する筒状のものである。また、このハニカム構造体の所定のセルの一方の開口端部及び残余のセルの他方の開口端部に、上記目封止部が配設されている。本発明のハニカムフィルタにおいては、隔壁の気孔率が、46%以下である。また、本発明のハニカムフィルタにおいては、ハニカム構造体のパーミアビリティーが、0.8μm以上である。また、本発明のハニカムフィルタにおいては、細孔径が40μm以上の細孔の細孔容積率が、7.5%以下であり、且つ、細孔径が10μm以下の細孔の細孔容積率が、25%以下である。更に、本発明のハニカムフィルタにおいては、ハニカム構造体の40℃から800℃における熱膨張係数が、1.0×10−6/℃以下である。
【0025】
本発明のハニカムフィルタは、圧力損失の増加を抑制しつつ、高い耐久性を実現することができる。即ち、本発明のハニカムフィルタにおいては、隔壁の気孔率を46%以下とすることで、高い耐久性を実現する。そして、本発明のハニカムフィルタにおいては、パーミアビリティーを0.8μm以上とし、細孔径が40μm以上の細孔の細孔容積率及び細孔径が10μm以下の細孔の細孔容積率を、上述した値とすることで、従来のハニカムフィルタと同程度の圧力損失とすることができる。
【0026】
より具体的には、本発明のハニカムフィルタにおいては、隔壁に形成される細孔のうち、ガス透過性に関係しない細孔を選択的に塞ぐことにより、圧力損失の上昇に対する影響を最小限にしている。更に、ガス透過性に関係しない細孔を選択的に塞ぐことにより、ハニカムフィルタに用いられるハニカム構造体の気孔率が低くなり、ハニカムフィルタの熱容量が増大する。これにより、ハニカムフィルタの耐久性が高くなり、最大スス堆積量を向上させることができる。
【0027】
本発明のハニカムフィルタの製造方法においては、上述した本発明のハニカムフィルタを簡便に製造することができる。本発明のハニカムフィルタの製造方法においては、ハニカム構造体を作製するための坏土を調製する工程において、下記に記載された5つの操作のうちの少なくとも一の操作を行う。これにより、隔壁に形成される細孔のうち、ガス透過性に関係しない細孔を選択的に塞ぐことができる。1つ目の操作は、コージェライト化原料100質量部に対して、炭酸リチウムを0.2質量部以上、1.0質量部以下添加する操作である。2つ目の操作は、コージェライト化原料100質量部に対して、酸化セリウムを3.0質量部以下添加する操作である。3つ目の操作は、コージェライト化原料100質量部に対して、酸化ジルコニウムを2.5質量部以下添加する操作である。4つ目の操作は、コージェライト化原料100質量部に対して、酸化イットリウムを2.0質量部以下添加する操作である。5つ目の操作は、コージェライト化原料のアルミナ源としてベーマイトを2質量%以上、8質量%以下用いる操作である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明のハニカムフィルタの一の実施形態を模式的に示す斜視図である。
図2】本発明のハニカムフィルタの一の実施形態の、セルの延びる方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。
図3】実施例1〜4、6〜13、16、17、参考例15及び比較例1、4、7、8のハニカムフィルタにおける、平均細孔径(μm)と気孔率(%)との関係を示すグラフである。
図4】ハニカムフィルタに用いられるハニカム構造体の隔壁の細孔径分布を示すグラフである。
図5】ハニカムフィルタを、セルの延びる方向に垂直に切断した断面を拡大した顕微鏡写真である。
図6】ハニカムフィルタを、セルの延びる方向に垂直に切断した断面を拡大した顕微鏡写真である。
図7】ハニカムフィルタを、セルの延びる方向に垂直に切断した断面を拡大した顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0030】
(1)ハニカムフィルタ:
本発明のハニカムフィルタの一の実施形態について説明する。図1及び図2に示すように、本実施形態のハニカムフィルタ100は、ハニカム構造体4と、目封止部5とを備えたものである。ハニカム構造体4は、流体の流路となる一方の端面11から他方の端面12まで延びる複数のセル2を区画形成する多孔質の隔壁1を有する筒状のものである。また、このハニカム構造体4の所定のセル2の一方の開口端部及び残余のセル2の他方の開口端部に、上記目封止部5が配設されている。本実施形態のハニカムフィルタ100の一方の端部から排ガスが導入されると、排ガス中の粒子状物質が、ハニカム構造体4の隔壁1によって捕捉される。
【0031】
ここで、図1は、本発明のハニカムフィルタの一の実施形態を模式的に示す斜視図である。図2は、本発明のハニカムフィルタの一の実施形態の、セルの延びる方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。
【0032】
本実施形態のハニカムフィルタ100においては、隔壁1の気孔率が、46%以下である。また、本実施形態のハニカムフィルタ100においては、細孔径が40μm以上の細孔の細孔容積率が、7.5%以下であり、且つ、細孔径が10μm以下の細孔の細孔容積率が、25%以下である。また、本実施形態のハニカムフィルタ100においては、ハニカム構造体4のパーミアビリティーが、0.8μm以上である。更に、本実施形態のハニカムフィルタ100においては、ハニカム構造体4の40℃から800℃における熱膨張係数が、1.0×10−6/℃以下である。
【0033】
上述した構成を満足するハニカムフィルタ100とすることで、圧力損失の増加を抑制しつつ、最大スス堆積量が多く、高い耐久性を実現したハニカムフィルタとすることができる。より具体的には、本実施形態のハニカムフィルタ100においては、隔壁1に形成される細孔のうち、ガス透過性に関係しない細孔を選択的に塞ぐことにより、圧力損失の上昇に対する影響を最小限にしている。更に、ガス透過性に関係しない細孔を選択的に塞ぐことにより、ハニカム構造体4の気孔率が低くなり、ハニカムフィルタ100の熱容量が増大する。これにより、ハニカムフィルタ100の耐久性が高くなり、最大スス堆積量を向上させることができる。
【0034】
従来のハニカムフィルタにおいても、ハニカム構造体の気孔率を低くして、耐久性を向上させるという試みは行われていた。しかしながら、ハニカム構造体の気孔率を単純に低くすると、ハニカムフィルタの圧力損失が増大してしまう。また、従来、ハニカム構造体の気孔率を低くする際に、隔壁に形成される細孔の細孔径を大きくすることも行われている。細孔径を大きくすることにより、圧力損失の増大を抑制することはできるものの、ハニカムフィルタの捕集効率が著しく低下してしまう。
【0035】
ハニカム構造体の隔壁には、多数の細孔が形成されている。従来のハニカムフィルタに用いられているハニカム構造体においても、隔壁には多数の細孔が形成されている。このような細孔には、以下のような2種類の細孔がある。1つ目の細孔は、隔壁の一方の表面から他方の表面まで繋がっており、排ガスを通過させることができる細孔である。2つ目の細孔は、隔壁の一方の表面から他方の表面まで繋がっておらず、隔壁の途中で連続性が途切れている細孔である。
【0036】
上記1つ目の細孔の多寡により、ハニカムフィルタの圧力損失が決まるといえる。一方、上記2つ目の細孔においては、ハニカムフィルタの圧力損失には影響を与えない。この2つ目の細孔は、1つ目の細孔と比較的して、細孔径が小さい細孔であることが多い。ハニカムフィルタの耐久性を向上させるためには、ハニカム構造体の気孔率を低下させ、ハニカム構造体の重量を増大させることが有効である。即ち、上記2つ目の細孔を選択的に塞ぐことができれば、圧力損失の増加を抑制しつつ、高い耐久性を実現することができる。本実施形態のハニカムフィルタにおいては、上記2つ目の細孔が選択的に塞がれている構成を、気孔率、パーミアビリティー、細孔径が40μm以上の細孔の細孔容積率、及び細孔径が10μm以下の細孔の細孔容積率によって規定している。以下、上記2つ目の細孔が選択的に塞がれていることについて、更に詳細に説明する。
【0037】
本実施形態のハニカムフィルタにおいては、気孔率が、46%以下であり、且つパーミアビリティーが、0.8μm以上である。なお、「気孔率」は、水銀ポロシメータにより測定した値である。また、「パーミアビリティー」とは、下記式(1)により算出される物性値のことを意味する。このパーミアビリティーは、所定のガスが隔壁等を通過する際の通過抵抗を表す指標となる値である。
【0038】
【数1】
【0039】
ここで、上記式(1)中、Cはパーミアビリティー(μm)、Fはガス流量(cm/s)、Tは試料厚み(cm)、Vはガス粘性(dynes・sec/cm)、Dは試料直径(cm)、Pはガス圧力(PSI)をそれぞれ示す。また、上記式(1)中の数値は、13.839(PSI)=1(atm)であり、68947.6(dynes/cm)=1(PSI)である。
【0040】
上述したように、パーミアビリティーは、隔壁の通過抵抗を表す指標となる値である。隔壁の気孔率を46%以下とし、細孔径が40μm以上の細孔の細孔容積率を7.5%以下とし、細孔径が10μm以下の細孔の細孔容積率を25%以下とした場合に、ハニカム構造体のパーミアビリティーが、0.8μm以上であるならば、上記2つ目の細孔が選択的に塞がれていることといえる。即ち、本実施形態のハニカムフィルタにおいては、隔壁の途中で連続性が途切れている細孔径が小さな細孔が、選択的に塞がれていることといえる。
【0041】
例えば、通常のコージェライト質のハニカム構造体において、気孔率を46%以下とした場合に、パーミアビリティーを0.8μm以上とすることは極めて困難である。なお、隔壁に形成される細孔の細孔径を大きくして、特異的にパーミアビリティーを大きくすることは可能である。但し、このような場合には、細孔径が40μm以上の細孔の細孔容積率が大きくなる。細孔径が40μm以上の細孔の細孔容積率が大きくなると、ハニカムフィルタの捕集効率が大きく低下してしまう。例えば、細孔径が40μm以上の細孔の細孔容積率が大きくなると、捕集対象である粒子状物質が、隔壁の細孔を通過してしまうこととなる。
【0042】
本実施形態のハニカムフィルタは、細孔径が40μm以上の細孔の細孔容積率が、7.5%以下であるため、隔壁に形成される細孔の細孔径を大きくして、特異的にパーミアビリティーを大きくしたものではない。即ち、「気孔率」、「パーミアビリティー」、「細孔径が40μm以上の細孔の細孔容積率」、及び「細孔径が10μm以下の細孔の細孔容積率」の全てが、上述した数値範囲を満足することで、隔壁の途中で連続性が途切れている細孔が良好に塞がれているといえる。
【0043】
本実施形態のハニカムフィルタにおいては、隔壁の気孔率が46%以下である。隔壁の気孔率が46%超であると、隔壁の熱容量が低くなり、ハニカムフィルタの耐久性を高く維持することが困難である。従って、最大スス堆積量も低くなってしまう。このように、本実施形態のハニカムフィルタにおいては、隔壁の気孔率が46%以下とすることにより、最大スス堆積量を高くすることができる。
【0044】
なお、隔壁の気孔率が、42%以下であることが好ましく、40%以下であることが更に好ましい。このように構成することによって、最大スス堆積量を更に高くすることができる。
【0045】
隔壁の気孔率の下限値については、特に制限はないが、隔壁の気孔率が30%以上であることが好ましい。隔壁の気孔率が低すぎると、ハニカムフィルタの圧力損失が増加してしまうことがある。なお、隔壁の気孔率が、34%以上であることが更に好ましい。
【0046】
更に、本実施形態のハニカムフィルタにおいては、ハニカム構造体のパーミアビリティーが、0.8μm以上である。このように構成することによって、気孔率を低くしても、隔壁の通過抵抗を良好なものとすることができる。ハニカム構造体のパーミアビリティーが、1.0μm以上であることが好ましく、1.2μm以上であることが更に好ましい。このように構成することによって、気孔率の低減に比して、圧力損失の増加を有効に抑制することができる。
【0047】
ハニカム構造体のパーミアビリティーの上限値については、特に制限はない。ハニカム構造体のパーミアビリティーの上限値は、隔壁の気孔率と、細孔径が40μm以上の細孔の細孔容積率とも相関を有している。即ち、隔壁に形成された細孔の全てが、隔壁の一方の表面から他方の表面まで繋がっているもののみの場合に、ハニカム構造体のパーミアビリティーの実質的な上限となる。ハニカム構造体のパーミアビリティーの上限値は、6.0μm程度である。
【0048】
更に、本実施形態のハニカムフィルタにおいては、細孔径が40μm以上の細孔の細孔容積率が、7.5%以下である。細孔径が40μm以上の細孔の細孔容積率は、水銀ポロシメータでの測定結果より計算した値である。この「細孔径が40μm以上の細孔の細孔容積率」とは、全細孔の容積に対する、40μm以上の細孔の容積の比率を意味する。即ち、「細孔径が40μm以上の細孔の細孔容積率」は、全細孔の容積を100%とした場合の、40μm以上の細孔の容積の比率である。
【0049】
細孔径が40μm以上の細孔の細孔容積率が、7.5%超であると、細孔径が過剰に大きな細孔が多くなり、ハニカムフィルタの捕集効率が低下してしまう。即ち、排ガス中の粒子状物質が、細孔径が大きな細孔を通過してしまい、粒子状物質の捕集が困難になる。
【0050】
細孔径が40μm以上の細孔の細孔容積率が、6.0%以下であることが好ましく、4.0%以下であることが更に好ましい。このように構成することによって、良好な捕集効率のハニカムフィルタとすることができる。
【0051】
細孔径が40μm以上の細孔の細孔容積率の下限値については特に制限はない。細孔径が40μm以上の細孔の細孔容積率の実質的な下限値は、0%である。即ち、本実施形態のハニカムフィルタにおいては、細孔径が40μm以上の細孔が、実質的に形成されていないことが好ましい。
【0052】
本実施形態のハニカムフィルタにおいては、細孔径が10μm以下の細孔の細孔容積率が、25%以下である。細孔径が10μm以下の細孔の細孔容積率は、水銀ポロシメータでの測定結果より計算した値である。この「細孔径が10μm以下の細孔の細孔容積率」とは、全細孔の容積に対する、10μm以下の細孔の容積の比率を意味する。即ち、「細孔径が10μm以下の細孔の細孔容積率」は、全細孔の容積を100%とした場合の、10μm以下の細孔の容積の比率である。上述したように、細孔径が小さい細孔は、ハニカムフィルタの圧力損失の上昇に影響を与えることが考えられ、本実施形態のハニカムフィルタにおいては、この細孔径が小さい細孔の比率を、「細孔径が10μm以下の細孔の細孔容積率」によって規定している。細孔径が10μm以下の細孔の細孔容積率を25%以下とすることで、隔壁の途中で連続性が途切れている細孔の比率を、気孔率が同じで且つ細孔径が10μm以下の細孔の細孔容積率を25%超のハニカムフィルタと比較して、相対的に少なくすることができる。従って、本実施形態のハニカムフィルタは、圧力損失の増加を抑制しつつ、高い耐久性を実現することができる。
【0053】
本実施形態のハニカムフィルタにおいては、細孔径が10μm以下の細孔の細孔容積率が7.0%以下であることが好ましく、6.0%以下であることが更に好ましい。このように構成することによって、ハニカムフィルタの気孔率への影響を小さくしつつ、ハニカムフィルタの熱容量を増大させることができる。これにより、ハニカムフィルタの耐久性が高くなり、最大スス堆積量を向上させることができる。更に、細孔径が10μm以下の細孔容積率が減少することで圧力損失を低下させることができる。
【0054】
また、本実施形態のハニカムフィルタにおいては、ハニカム構造体の40℃から800℃における熱膨張係数が、1.0×10−6/℃以下である。このように構成することによって、耐熱性に優れたハニカムフィルタとすることができる。ハニカム構造体の40℃から800℃における熱膨張係数について、単に「ハニカム構造体の熱膨張係数」ということがある。本明細書において、「ハニカム構造体の熱膨張係数」というときは、ハニカム構造体を構成する隔壁の、セルの延びる方向における熱膨張係数のことをいう。
【0055】
ハニカム構造体の熱膨張係数が、0.7×10−6/℃以下であることが好ましく、0.4×10−6/℃以下であることが更に好ましい。このように構成することによって、本実施形態のハニカムフィルタを、ディーゼルエンジン等から排出される高温の排ガスを浄化するためのフィルタとして好適に用いることができる。
【0056】
ハニカム構造体の熱膨張係数の下限値については特に制限はない。即ち、熱膨張係数に関しては、好ましい下限値はなく、ハニカムフィルタの材質等に応じて、適宜より低い値であることが好ましい。ハニカム構造体の熱膨張係数の下限値としては、例えば、0.1×10−6/℃である。
【0057】
本実施形態のハニカムフィルタにおいては、隔壁が、コージェライトを主成分とする多孔質体からなることが好ましい。本明細書において、「主成分」とは、その構成材料中に含まれる成分が70質量%以上の成分のことを意味する。即ち、本実施形態のハニカムフィルタにおいては、ハニカム構造体の隔壁が、コージェライトを70質量%以上含む多孔質体からなることが好ましい。また、ハニカム構造体の隔壁が、コージェライトを、75質量%以上含む材料からなることが更に好ましく、80質量%以上含む材料からなることが更により好ましく、85質量%以上含む材料からなることが特に好ましい。コージェライトは、これまでに説明した、「気孔率」、「パーミアビリティー」、「細孔径が40μm以上の細孔の細孔容積率」、及び「細孔径が10μm以下の細孔の細孔容積率」の数値範囲を満足するハニカム構造体を作製するのに好適な材料である。
【0058】
更に、本実施形態のハニカムフィルタにおいては、ハニカム構造体の隔壁が、隔壁中に、リチウムをLiO換算で0.40質量%以下含むことが好ましい。隔壁中にリチウムをLiO換算で0.40質量%以下含むことにより、この隔壁に細孔径が小さい細孔が形成され難くなる。これにより、パーミアビリティーの値を維持したまま、隔壁の途中で連続性が途切れている細孔を少なくすることができる。隔壁中に含まれるリチウムのLiO換算量が、0.40質量%を超えると、成形原料が焼結せずに、ハニカムフィルタとして必要な構造強度を確保できなくなることがある。隔壁中に含まれるリチウムのLiO換算量は、0.32質量%以下であることが更に好ましい。
【0059】
隔壁中に含まれるリチウムのLiO換算量は、0.08質量%以上であることが好ましい。LiO換算量が少なすぎると、隔壁の途中で連続性が途切れている細孔を少なくする効果が発現し難くなる。上述した細孔を少なくする効果をより発現させるためには、隔壁中に含まれるリチウムのLiO換算量が、0.16質量%以上であることが更に好ましい。
【0060】
本実施形態のハニカムフィルタにおいては、コージェライト化原料100質量部に対して、炭酸リチウムを1.0質量部以下添加して得られた坏土を用いて作製されたハニカム構造体を用いることが好ましい。このようなハニカム構造体は、隔壁中にリチウムをLiO換算で0.40質量%以下含むものとなる。炭酸リチウムの添加量は、コージェライト化原料100質量部に対して、0.8質量部以下であることが更に好ましい。また、炭酸リチウムの添加量は、コージェライト化原料100質量部に対して、0.2質量部以上であることが好ましく、0.4質量部以上であることが更に好ましい。
【0061】
また、本実施形態のハニカムフィルタにおいては、コージェライト化原料のアルミナ源としてベーマイトを2質量%以上、8質量%以下使用した坏土を用いて作製されたハニカム構造体を用いてもよい。このようなハニカム構造体も、隔壁の途中で連続性が途切れている細孔が少なくなる。
【0062】
炭酸リチウムの添加と、ベーマイトの使用を併用した坏土を用いて作製されたハニカム構造体を用いてもよい。このように構成することによって、隔壁の途中で連続性が途切れている細孔をより少なくすることができる。
【0063】
なお、コージェライト化原料とは、シリカが42〜56質量%、アルミナが30〜45質量%、マグネシアが12〜16質量%の範囲に入る化学組成となるように配合されたセラミック原料である。コージェライト化原料は、焼成されてコージェライトになるものである。
【0064】
また、本実施形態のハニカムフィルタにおいては、ハニカム構造体の隔壁が、この隔壁中に、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、及び酸化イットリウムからなる群より選択される少なくとも1種を、下記の含有率で含むことも、好適な態様の1つである。なお、上記群より選択される少なくとも1種の含む場合の含有率は、酸化セリウム(CeO)の含有率が3.0質量%以下であり、酸化ジルコニウム(ZrO)の含有率が2.5質量%以下であり、酸化イットリウム(Y)の含有率が2.0質量%以下である。このようなハニカムフィルタは、例えば、コージェライト化原料に、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、及び酸化イットリウムからなる群より選択される少なくとも1種を添加して得られた坏土を用いて作製されたものであることが好ましい。なお、コージェライト化原料に対する、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、及び酸化イットリウムの各添加量は、以下の通りである。コージェライト化原料100質量部に対して、酸化セリウムの添加量が3.0質量部以下である。コージェライト化原料100質量部に対して、酸化ジルコニウムの添加量が2.5質量部以下である。コージェライト化原料100質量部に対して、酸化イットリウムの添加量が2.0質量部以下である。
【0065】
以下、本実施形態のハニカムフィルタの各構成要素について、更に詳細に説明する。
【0066】
(1−1)ハニカム構造体:
図1及び図2に示すように、ハニカム構造体4は、流体の流路となる一方の端面11から他方の端面12まで延びる複数のセル2を区画形成する多孔質の隔壁1を有する筒状のものである。図1及び図2に示すハニカム構造体4は、最外周に位置する外周壁3を更に備えたものである。ハニカム構造体4における、気孔率、パーミアビリティー、細孔径が40μm以上の細孔の細孔容積率、及び熱膨張係数は、これまでに説明した通りである。
【0067】
ハニカム構造体の隔壁には、細孔が形成されている。排ガスが隔壁の細孔を通過する際に、排ガス中の粒子状物質が、この隔壁によって捕集される。即ち、細孔が形成された隔壁が、ハニカムフィルタにおける濾過体となる。
【0068】
ハニカム構造体の形状については特に制限はない。例えば、ハニカム構造体の端面が円形の筒状、上記端面がオーバル形状の筒状、上記端面が多角形の筒状の形状を挙げることができる。多角形としては、四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等を挙げることができる。図1及び図2においては、ハニカム構造体の形状が、端面が円形の筒状である場合の例を示す。
【0069】
セルの延びる方向に直交する断面におけるセルの形状としては、四角形、六角形、八角形、円形、又はこれらの組み合わせを挙げることができる。四角形の中でも、正方形、長方形が好ましい。
【0070】
(1−2)目封止部:
図1及び図2に示すように、本実施形態のハニカムフィルタ100においては、ハニカム構造体4のセル2の開口端部に、目封止部5が配設されている。このように、本実施形態のハニカムフィルタ100においては、目封止部5によって、セル2のいずれか一方の開口端部が封止されている。以下、一方の開口端部に目封止部5が配設されたセル2のことを、「流出セル2b」ということがある。他方の開口端部に目封止部5が配設されたセル2のことを、「流入セル2a」ということがある。また、セルの一方の開口端部とは、ハニカム構造体4の一方の端面11側のセルの端部のことをいう。セルの他方の開口端部とは、ハニカム構造体4の他方の端面12側のセルの端部のことをいう。
【0071】
この目封止部5については、従来公知のハニカムフィルタと同様に構成されたものを好適に用いることができる。また、目封止部5の配設位置については、特に制限はない。但し、本実施形態のハニカムフィルタ100においては、流入セル2aと流出セル2bとが、隔壁1を隔てて交互に配置されていることが好ましい。このように構成することによって、排ガス中の粒子状物質を隔壁によって良好に捕集することができる。
【0072】
目封止部の材質についても特に制限はない。目封止部の材質は、ハニカム構造体の隔壁の材質と同じ材質であってもよいし、ハニカム構造体の隔壁の材質と異なる材質であってもよい。
【0073】
(2)ハニカムフィルタの製造方法:
次に、本発明のハニカムフィルタの製造方法の一の実施形態について説明する。本実施形態のハニカムフィルタの製造方法は、これまでに説明した、本発明のハニカムフィルタの一の実施形態を得るための製造方法である。
【0074】
本実施形態のハニカムフィルタの製造方法は、坏土調製工程と、ハニカム成形体作製工程と、ハニカム構造体作製工程と、目封止工程と、を備える。特に、坏土調製工程において、最終的に得られるハニカム構造体の下記の物性値が、所定の数値範囲となるように、坏土の調製を行うことが重要である。得られるハニカム構造体の物性値としては、ハニカム構造体の隔壁の気孔率、パーミアビリティー、細孔径が40μm以上の細孔の細孔容積率、細孔径が10μm以下の細孔の細孔容積率、及び熱膨張係数を挙げることができる。
【0075】
坏土調製工程は、コージェライト化原料を含む坏土を調製する工程である。ハニカム成形体作製工程は、坏土調製工程にて得られた坏土を成形してハニカム成形体を得る工程である。ハニカム構造体作製工程は、ハニカム成形体作製工程にて得られたハニカム成形体を焼成してハニカム構造体を得る工程である。目封止工程は、ハニカム構造体作製工程にて得られたハニカム構造体の所定のセルの一方の開口端部及び残余のセルの他方の開口端部に目封止部を配設する工程である。以上の工程により、これまでに説明した本発明のハニカムフィルタの一の実施形態を良好に製造することができる。
【0076】
本実施形態のハニカムフィルタの製造方法においては、坏土調製工程が、以下の5つの操作のうち、少なくとも一の操作を含む。1つ目の操作は、コージェライト化原料100質量部に対して、炭酸リチウムを0.2質量部以上、1.0質量部以下添加する操作である。2つ目の操作は、コージェライト化原料100質量部に対して、酸化セリウムを3.0質量部以下添加する操作である。3つ目の操作は、コージェライト化原料100質量部に対して、酸化ジルコニウムを2.5質量部以下添加する操作である。4つ目の操作は、コージェライト化原料100質量部に対して、酸化イットリウムを2.0質量部以下添加する操作である。5つ目の操作は、コージェライト化原料のアルミナ源としてベーマイトを2質量%以上、8質量%以下用いる操作である。上記5つの操作は、坏土調製工程において、併用して行われてもよい。例えば、コージェライト化原料に、所定量の炭酸リチウムを添加し、且つ、コージェライト化原料のアルミナ源として所定量のベーマイトを用いてもよい。
【0077】
坏土調製工程において、上記5つの操作のうち、少なくとも一の操作を含むことにより、隔壁の途中で連続性が途切れている細孔の形成を抑制することができる。別言すれば、細孔径が小さな細孔の形成を抑制することができる。これにより、ガス透過性に関係しない細孔の形成を抑制し、パーミアビリティーを維持したまま、低気孔率のハニカム構造体を作製することができる。以下、本実施形態のハニカムフィルタの製造方法を、各工程毎に説明する。
【0078】
(2−1)坏土調製工程:
まず、本実施形態のハニカムフィルタの製造方法においては、コージェライト化原料を含む坏土を調製する。具体的には、コージェライト化原料を含む成形原料を混合し混練して坏土を得る。コージェライト化原料とは、シリカが42〜56質量%、アルミナが30〜45質量%、マグネシアが12〜16質量%の範囲に入る化学組成となるように配合されたセラミック原料である。コージェライト化原料は、焼成されてコージェライトになるものである。
【0079】
ここで、本実施形態のハニカムフィルタの製造方法においては、コージェライト化原料100質量部に対して、炭酸リチウムを1.0質量部以下添加して坏土を調製することが好ましい。このよう構成することによって、ガス透過性に関係しない細孔の形成を抑制し、パーミアビリティーを維持したまま、低気孔率のハニカム構造体を作製することができる。なお、炭酸リチウムの添加量が、1.0質量部を超えると、ハニカム成形体の焼成時において成形原料が焼結せずに、ハニカムフィルタとして必要な構造強度を確保できなくなることがある。
【0080】
炭酸リチウムの添加量については、コージェライト化原料100質量部に対して、0.2質量部以上であることが好ましい。0.2質量部未満では、連続性が途切れている細孔の形成を抑制する効果が十分に発現しないことがある。炭酸リチウムの添加量については、コージェライト化原料100質量部に対して、0.2質量部以上、1.0質量部以下であることが好ましく、0.2質量部以上、0.8質量部以下であることが更に好ましく、0.4質量部以上、0.8質量部以下であることが更に好ましい。
【0081】
また、本実施形態のハニカムフィルタの製造方法においては、コージェライト化原料100質量部に対して、酸化セリウムを3.0質量部以下添加して坏土を調製してもよい。また、コージェライト化原料100質量部に対して、酸化ジルコニウムを2.5質量部以下添加して坏土を調製してもよい。更に、コージェライト化原料100質量部に対して、酸化イットリウムを2.0質量部以下添加して坏土を調製してもよい。このよう構成することによって、ガス透過性に関係しない細孔の形成を抑制し、パーミアビリティーを維持したまま、低気孔率のハニカム構造体を作製することができる。
【0082】
なお、酸化セリウムの添加量が、3.0質量部を超えると、ハニカム成形体の焼成時において、溶けが発生し、ハニカムフィルタとして必要な構造強度を保つことができないことがある。また、酸化ジルコニウムの添加量が、2.5質量部を超える、或いは、酸化イットリウムの添加量が、2.0質量部を超えると、酸化セリウムの場合と同様に、ハニカム成形体の焼成時において、溶けが発生し、ハニカムフィルタとして必要な構造強度を保つことができないことがある。
【0083】
酸化セリウムの添加量については、コージェライト化原料100質量部に対して、1.0質量部以上、3.0質量部以下であることが好ましく、1.5質量部以上、2.8質量部以下であることが更に好ましく、1.8質量部以上、2.5質量部以下であることが更に好ましい。また、酸化ジルコニウムの添加量については、コージェライト化原料100質量部に対して、0.5質量部以上、2.4質量部以下であることが好ましく、0.7質量部以上、2.3質量部以下であることが更に好ましく、1.0質量部以上、2.0質量部以下であることが更に好ましい。更に、酸化イットリウムの添加量については、コージェライト化原料100質量部に対して、0.3質量部以上、1.8質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上、1.6質量部以下であることが更に好ましく、0.8質量部以上、1.3質量部以下であることが更に好ましい。
【0084】
また、本実施形態のハニカムフィルタの製造方法においては、コージェライト化原料のアルミナ源として、ベーマイトを2質量%以上、8質量%以下用いてもよい。即ち、コージェライトは、シリカ、アルミナ、及びマグネシアを所定量含むセラミックであり、コージェライト化原料には、シリカ源、アルミナ源、及びマグネシア源となるものが用いられている。坏土調製工程においては、コージェライト化原料のアルミナ源として、ベーマイトを用いる。この際、そのベーマイトの量を、コージェライト化原料全体に対して、2質量%以上、8質量%以下とする。このよう構成することによって、ガス透過性に関係しない細孔の形成を抑制し、パーミアビリティーを維持したまま、低気孔率のハニカム構造体を作製することができる。ベーマイトの量が、2質量%未満、又は8質量%超であると、ベーマイトを添加することによる、連続性が途切れている細孔の形成を抑制する効果が発現しない。
【0085】
ベーマイトの量は、2質量%以上、8質量%以下であれは特に制限はない。
【0086】
上記コージェライト化原料に、分散媒を加えて坏土を調製してもよい。分散媒としては、水を用いることができる。分散媒の添加量は、コージェライト化原料100質量部に対して、20〜50質量部であることが好ましい。
【0087】
コージェライト化原料には、有機バインダを加えてもよい。有機バインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、又はこれらを組み合わせたものとすることが好ましい。また、有機バインダの添加量は、コージェライト化原料100質量部に対して、1〜10質量部が好ましい。また、コージェライト化原料には、無機バインダを加えてもよい。無機バインダとしては、無機繊維、コロイド酸化物、粘土などを用いることができる。
【0088】
また、コージェライト化原料には、界面活性剤を加えてもよい。界面活性剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。界面活性剤の添加量は、コージェライト化原料100質量部に対して、0〜5.0質量部が好ましい。
【0089】
コージェライト化原料として使用する原料のうち、タルクとシリカの原料粒子の平均粒子径は、5μm以上、35μm以下であることが好ましい。タルクとシリカの原料粒子の平均粒子径が小さすぎると、ガス透過性に関係しない細孔が増加することがある。一方、原料粒子の平均粒子径が大きすぎると、細孔径が40μm以上の細孔が多数形成されてしまうことがある。タルクとシリカの原料粒子の平均粒子径は、5μm以上、30μm以下であることが更に好ましく、10μm以上、30μm以下であることが特に好ましい。上記平均粒子径は、各原料粒子の粒子径分布におけるメジアン径(d50)のことである。
【0090】
成形原料を混練して坏土を形成する方法としては特に制限はなく、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。
【0091】
(2−2)ハニカム成形体作製工程:
次に、得られた坏土をハニカム形状に成形してハニカム成形体を得る。坏土を成形してハニカム成形体を形成する方法としては特に制限はない。ハニカム成形体を形成する方法として、押出成形、射出成形等の公知の成形方法を挙げることができる。例えば、所望のセル形状、隔壁厚さ、セル密度を有する口金を用いて押出成形してハニカム成形体を形成する方法等を好適例として挙げることができる。口金の材質としては、摩耗し難い超硬合金が好ましい。
【0092】
ハニカム成形体の形状は、特に限定されず、円筒形状、端面が楕円形の筒形状、端面が「正方形、長方形、三角形、五角形、六角形、八角形等」の多角形の筒形状等が好ましい。
【0093】
(2−3)ハニカム構造体作製工程:
次に、得られたハニカム成形体を焼成して、流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を備えたハニカム構造体を得る。ハニカム成形体を焼成する前に、ハニカム成形体を乾燥してもよい。
【0094】
乾燥方法については特に制限はない。乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等を挙げることができる。なかでも、誘電乾燥、マイクロ波乾燥又は熱風乾燥を単独で又は組み合わせて行うことが好ましい。
【0095】
ハニカム成形体を焼成する前には、このハニカム成形体を仮焼することが好ましい。仮焼は、脱脂のために行うものである。仮焼は、ハニカム成形体中の有機物の少なくとも一部を除去することができるものであればよい。一般に、有機バインダの燃焼温度は100〜300℃程度である。このため、仮焼の条件としては、酸化雰囲気において、200〜1000℃程度の温度で、10〜100時間程度加熱することが好ましい。
【0096】
ハニカム成形体の焼成は、仮焼した成形体を構成する成形原料を焼結させて緻密化するためのものである。このような焼成により、隔壁が所定の強度を有するものとなる。焼成条件については、成形原料の種類により適宜選択することができる。即ち、焼成温度、焼成時間、焼成雰囲気等は、成形原料の種類に応じて適当な条件を選択すればよい。本実施形態のハニカムフィルタの製造方法においては、コージェライト化原料を使用しているため、焼成温度が1350〜1440℃であることが好ましい。また、焼成時間としては、最高温度でのキープ時間が3〜10時間であることが好ましい。仮焼、本焼成を行う装置については、特に制限はない。仮焼、本焼成を行う装置としては、例えば、電気炉、ガス炉等を挙げることができる。
【0097】
焼成を行うことにより、坏土中に含まれている炭酸リチウムやベーマイトが作用して、ガス透過性に関係しない細孔の形成が抑制される。これにより、本発明のハニカムフィルタの一の実施形態に用いることが可能なハニカム構造体を作製することができる。
【0098】
(2−4)目封止工程:
次に、ハニカム構造体の所定のセルの一方の開口端部及び残余のセルの他方の開口端部に目封止部を配設する。目封止工程については、従来公知のハニカムフィルタの製造方法の目封止工程と同様の工程に準じて行うことができる。
【0099】
目封止部を配設する方法としては、ハニカム構造体の所定のセルの一方の開口端部及び残余のセルの他方の開口端部に、スラリー状の目封止材料を充填する方法を挙げることができる。ハニカム構造体のセルの開口端部に目封止材料を充填する際には、まず、一方の開口端部に目封止材料を充填し、その後、他方の開口端部に目封止材料を充填する。
【0100】
一方の開口端部に目封止材料を充填する方法としては、以下の方法を挙げることができる。まず、ハニカム構造体の一方の端面にシートを貼り付ける。次に、このシートに、目封止材料を充填するための孔を開ける。目封止材料を充填するための孔は、目封止部を形成しようとするセルが存在する位置とする。シートが貼り付けられたハニカム構造体を、目封止材料が貯留された容器内に圧入する。即ち、シートが貼り付けられたハニカム構造体の端部を、上記容器内に圧入する。これにより、シートの孔を通じて、所定のセル内に、目封止材料が充填される。
【0101】
セルの一方の開口端部に目封止材料を充填した後、セルの他方の開口端部についても、これまでに説明した方法と同様の方法で、目封止材料を充填する。即ち、ハニカム構造体の他方の端面についても、一方の端面と同様にシートを貼り付け、上記と同様の方法で、目封止材料を充填する。
【0102】
ハニカム構造体のセルに充填された目封止材料を乾燥させることにより、目封止部を形成することができる。なお、目封止材料の乾燥は、一方の開口端部毎に行ってもよい。
【実施例】
【0103】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0104】
(実施例1)
まず、ハニカムフィルタに用いるハニカム構造体を作製した。ハニカム構造体を作製するセラミック原料としては、コージェライト化原料を用いた。コージェライト化原料に、分散媒、無機バインダ、有機バインダ、及び分散剤を添加して、成形用の坏土を調製した。分散媒の添加量は、コージェライト化原料100質量部に対して、35質量部とした。無機バインダの添加量は、コージェライト化原料100質量部に対して、2質量部とした。有機バインダの添加量は、コージェライト化原料100質量部に対して、4質量部とした。
【0105】
コージェライト化原料としては、タルクを43.0質量%、カオリンを17.0質量%、シリカを12.0質量%、アルミナを24.0質量%、ベーマイトを2.0質量%、含むものを用いた。タルクの平均粒子径は20μmであった。シリカの平均粒子径は20μmであった。ベーマイトの平均粒子径は0.1μmであった。上記平均粒子径は、各原料粒子の粒子径分布におけるメジアン径(d50)のことである。コージェライト化原料の配合処方を表1及び表2に示す。また、実施例1において坏土の調製に用いた原料を、「原料バッチ1」とする。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
坏土を調製する際の分散媒としては、水を用いた。また、無機バインダとしては、粘土を用いた。なお、無機バインダは、上述した粘土以外に、コロイド酸化物や無機繊維などを用いることもできる。有機バインダとしては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロースを用いた。分散剤としては、ラウリン酸カリ石鹸を用いた。
【0109】
次に、得られた坏土を、ハニカム成形体を成形するための金型を用いて押出成形した。このようにして、ハニカム成形体を作製した。そして、ハニカム成形体をマイクロ波乾燥機で乾燥した。乾燥したハニカム成形体の両端面を切断して、所定の寸法に整えた。その後、熱風乾燥機で更にハニカム成形体を乾燥した。
【0110】
乾燥したハニカム成形体を、1425℃で、7時間焼成した。このようにしてハニカム構造体を作製した。得られたハニカム構造体は、端面が円形の円筒状であった。ハニカム構造体の端面の直径は、144mmであった。ハニカム構造体のセルの延びる方向の長さは、152mmであった。ハニカム構造体の隔壁厚さは、304.8μmであった。ハニカム構造体のセル密度は、46.5個/cmであった。
【0111】
ハニカム構造体の気孔率は、45%であった。気孔率は、マイクロメリティクス社(Micromeritics社)製の「オートポアIV 9500(商品名)」によって測定した値である。
【0112】
次に、得られたハニカム構造体を用いて、ハニカムフィルタを製造した。具体的には、ハニカム構造体のセルに対して、一方の開口端部と他方の開口端部とが、隣接するセルにて交互に封止されるように目封止部を配設した。
【0113】
また、得られたハニカムフィルタにおいて、ハニカム構造体のパーミアビリティーは、1.1μmであった。また、ハニカム構造体において、細孔径が40μm以上の細孔の細孔容積率は、5.8%であった。また、ハニカム構造体において、細孔径が10μm以下の細孔の細孔容積率は、18.5%であった。細孔径が40μm以上の細孔の細孔容積率、及び細孔径が10μm以下の細孔の細孔容積率は、マイクロメリティクス社(Micromeritics社)製の「オートポアIV 9500(商品名)」によって測定した細孔容積から計算した値である。また、ハニカム構造体の40℃から800℃における熱膨張係数は、0.5×10−6/℃であった。各測定結果を表3に示す。上記熱膨張係数は、ハニカム構造体を構成する隔壁の、セルの延びる方向における熱膨張係数を測定した値である。
【0114】
【表3】
【0115】
次に、得られたハニカムフィルタについて、以下の方法で、「最大スス堆積量」、「圧力損失」、及び「捕集効率」の評価を行った。結果を表3に示す。
【0116】
[最大スス堆積量]
各実施例、参考例及び比較例のハニカムフィルタを用いて、粒子状物質としてススを含む排ガスの浄化を行った。ハニカムフィルタの再生として、ハニカム構造体の隔壁上に堆積したススの燃焼を行った。順次、ススの堆積量を増加させて、ハニカムフィルタにクラックが発生する限界のススの堆積量を確認した。最大スス堆積量の評価においては、5.0g/L以上を合格とした。
【0117】
具体的な最大スス堆積量の測定方法としては、以下の通りである。まず、ハニカムフィルタの外周に、保持材としてセラミック製非熱膨張性マットを巻き付けた。この状態で、ハニカムフィルタをステンレス鋼製のキャニング用缶体に押し込み、固定した。その後、ディーゼル燃料の燃焼により発生させた、ススを含む燃焼ガスを、ハニカムフィルタの一方の端面より流入させ、他方の端面より流出させた。これにより、排ガス中のススを、ハニカムフィルタ内に堆積させた。そして、ハニカムフィルタを、一旦、25℃まで冷却した後、ハニカムフィルタの一方の端面より、680℃の燃焼ガスを流入させて、ススを燃焼させた。上記燃焼により、ハニカムフィルタの圧力損失が低下した際に、燃焼ガスの流量を減少させた。これにより、隔壁上に堆積したススを急燃焼させた。その後、ハニカムフィルタにおけるクラックの発生の有無を確認した。クラックの発生が認められるまで、ススの堆積量を増加して、繰り返し上記試験を行った。クラック発生時におけるススの堆積量(g/L)を、最大スス堆積量の値とした。
【0118】
[圧力損失]
まず、測定対象となるハニカムフィルタに、4g/Lのススを捕集させた。この状態で、2.27Nm/minの流速でガスを流し、ハニカムフィルタの入口側と、出口側とで圧力を測定した。入口側における圧力と、出口側における圧力との圧力差を、圧力損失(kPa)とした。圧力損失の評価においては、9.0kPa未満を合格とした。
【0119】
[捕集効率]
ディーゼルエンジンの排気系から排出される粒子状物質の個数を、上記排気系に各実施例、参考例又は比較例のハニカムフィルタを設置した場合と、ハニカムフィルタを設置しない場合とで測定した。得られた測定値から、各実施例、参考例及び比較例のハニカムフィルタの捕集効率(%)を求めた。捕集効率の評価においては、90%以上を合格とした。
【0120】
(実施例2)
坏土の調製に用いた原料を、表1及び表2に示すような「原料バッチ2」に変更した以外は、実施例1と同様の方法でハニカム構造体を作製した。得られたハニカム構造体を用いて、ハニカムフィルタを製造した。実施例2では、タルクの量を43.0質量%とし、カオリンの量を9.0質量%とし、シリカの量を17.0質量%とし、アルミナの量を23.0質量%とし、ベーマイトの量を6.0質量%とした。
【0121】
(実施例3)
坏土の調製に用いた原料を、表1及び表2に示すような「原料バッチ3」に変更した以外は、実施例1と同様の方法でハニカム構造体を作製した。得られたハニカム構造体を用いて、ハニカムフィルタを製造した。実施例3では、タルクの量を43.0質量%とし、カオリンの量を9.0質量%とし、シリカの量を17.0質量%とし、アルミナの量を21.0質量%とし、ベーマイトの量を8.0質量%とした。
【0122】
(実施例4)
坏土の調製に用いた原料を、表1及び表2に示すような「原料バッチ4」に変更した以外は、実施例1と同様の方法でハニカム構造体を作製した。得られたハニカム構造体を用いて、ハニカムフィルタを製造した。実施例4では、タルクの量を43.0質量%とし、カオリンの量を17.0質量%とし、シリカの量を12.0質量%とし、アルミナの量を26.0質量%とした。また、実施例4では、コージェライト化原料にベーマイトを用いず、且つコージェライト化原料100質量部に対して、炭酸リチウム(LiCO)を0.2質量部添加した。
【0123】
(実施例5)
コージェライト化原料100質量部に対して、炭酸リチウムを0.4質量部添加して坏土(原料バッチ5)を調製した以外は、実施例4と同様の方法でハニカム構造体を作製した。得られたハニカム構造体を用いて、ハニカムフィルタを製造した。
【0124】
(実施例6)
コージェライト化原料100質量部に対して、炭酸リチウムを0.8質量部添加して坏土(原料バッチ6)を調製した以外は、実施例4と同様の方法でハニカム構造体を作製した。得られたハニカム構造体を用いて、ハニカムフィルタを製造した。
【0125】
(実施例7)
坏土の調製に用いた原料を、表1及び表2に示すような「原料バッチ7」に変更した以外は、実施例1と同様の方法でハニカム構造体を作製した。得られたハニカム構造体を用いて、ハニカムフィルタを製造した。実施例7では、タルクの量を43.0質量%とし、カオリンの量を9.0質量%とし、シリカの量を17.0質量%とし、アルミナの量を29.0質量%とした。また、実施例7では、コージェライト化原料にベーマイトを用いず、且つコージェライト化原料100質量部に対して、炭酸リチウムを0.4質量部添加した。
【0126】
(実施例8)
坏土の調製に用いた原料を、表1及び表2に示すような「原料バッチ8」に変更した以外は、実施例1と同様の方法でハニカム構造体を作製した。得られたハニカム構造体を用いて、ハニカムフィルタを製造した。実施例8では、タルクの量を43.0質量%とし、カオリンの量を9.0質量%とし、シリカの量を17.0質量%とし、アルミナの量を29.0質量%とした。また、実施例8では、コージェライト化原料にベーマイトを用いず、且つコージェライト化原料100質量部に対して、炭酸リチウムを0.8質量部添加した。
【0127】
(実施例9)
坏土の調製に用いた原料を、表1及び表2に示すような「原料バッチ9」に変更した以外は、実施例1と同様の方法でハニカム構造体を作製した。得られたハニカム構造体を用いて、ハニカムフィルタを製造した。実施例9では、タルクの量を43.0質量%とし、カオリンの量を9.0質量%とし、シリカの量を17.0質量%とし、アルミナの量を29.0質量%とした。また、実施例9では、コージェライト化原料にベーマイトを用いず、且つコージェライト化原料100質量部に対して、炭酸リチウムを1.0質量部添加した。
【0128】
(実施例10)
坏土の調製に用いた原料を、表1及び表2に示すような「原料バッチ10」に変更した以外は、実施例1と同様の方法でハニカム構造体を作製した。得られたハニカム構造体を用いて、ハニカムフィルタを製造した。実施例10では、タルクの量を43.0質量%とし、カオリンの量を9.0質量%とし、シリカの量を17.0質量%とし、アルミナの量を26.0質量%とし、ベーマイトを3.0質量%とした。また、実施例10では、コージェライト化原料100質量部に対して、炭酸リチウムを0.4質量部添加した。
【0129】
(実施例11〜14、16、17、参考例15
坏土の調製に用いた原料を、表1及び表2に示すような「原料バッチ11〜17」に変更した以外は、実施例1と同様の方法でハニカム構造体を作製した。得られたハニカム構造体を用いて、ハニカムフィルタを製造した。実施例11〜14、16、17、参考例15では、タルクの量を43.0質量%とし、カオリンの量を17.0質量%とし、シリカの量を12.0質量%とし、アルミナの量を26.0質量%とした。また、実施例11では、コージェライト化原料100質量部に対して、酸化セリウム(CeO)を1.0質量部添加した。実施例12では、コージェライト化原料100質量部に対して、酸化セリウム(CeO)を3.0質量部添加した。実施例13では、コージェライト化原料100質量部に対して、酸化ジルコニウム(ZrO)を1.0質量部添加した。実施例14では、コージェライト化原料100質量部に対して、酸化ジルコニウム(ZrO)を2.0質量部添加した。参考例15では、コージェライト化原料100質量部に対して、酸化ジルコニウム(ZrO)を2.5質量部添加した。実施例16では、コージェライト化原料100質量部に対して、酸化イットリウム(Y)を1.0質量部添加した。実施例17では、コージェライト化原料100質量部に対して、酸化イットリウム(Y)を2.0質量部添加した。
【0130】
(比較例1〜13)
坏土の調製に用いた原料を、表4及び表5に示すような「原料バッチ18〜30」に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、ハニカム構造体を作製した。得られたハニカム構造体を用いて、ハニカムフィルタを製造した。
【0131】
実施例2〜14、16、17、参考例15、比較例1〜13のハニカムフィルタについても、実施例1と同様の方法で、「最大スス堆積量」、「圧力損失」、及び「捕集効率」の評価を行った。結果を表3及び表6に示す。なお、比較例9においては、焼成時にハニカム成形体の形状を維持することができなかった。このため、「最大スス堆積量」、「圧力損失」、及び「捕集効率」の評価について行っていない。
【0132】
【表4】
【0133】
【表5】
【0134】
【表6】
【0135】
(結果)
表3に示すように、実施例1〜14、16、17、参考例15のハニカムフィルタは、最大スス堆積量、圧力損失、及び捕集効率の評価において、全て良好な結果であった。一方、表6に示すように、比較例1〜13のハニカムフィルタにおいては、最大スス堆積量、圧力損失、及び捕集効率の評価において、いずれかの評価が合格基準を満たさないものであった。
【0136】
ここで、図3に、実施例1〜4、6〜13、16、17、参考例15及び比較例1、4、7、8のハニカムフィルタにおける、平均細孔径(μm)と気孔率(%)との関係を示す。図3は、実施例1〜4、6〜13、15〜17及び比較例1、4、7、8のハニカムフィルタにおける、平均細孔径(μm)と気孔率(%)との関係を示すグラフである。図3においては、横軸が、平均細孔径(μm)を示す。図3においては、縦軸が、気孔率(%)を示す。
【0137】
図3に示すグラフにおいては、ハニカムフィルタのパーミアビリティーが同等と推定される位置に対して、「パーミアビリティー同等ライン(推定)」を引いている。即ち、このパーミアビリティー同等ライン上に存在するハニカムフィルタについては、気孔率、及び平均細孔径が異なっていても、パーミアビリティーが同等の値を示すと考えられる。
【0138】
また、図3に示すグラフにおいては、シリカ減による気孔率低下ライン、ベーマイト添加による気孔率低下ライン、炭酸リチウム添加による気孔率低下ライン、及びその他の添加物による気孔率低下ラインについて、矢印付きのラインを引いている。各ラインの示す方向に、隔壁の気孔率が低下していることが分かる。その他の添加物による気孔率低下ラインにおける「添加物」とは、酸化セリウム(CeO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、及び酸化イットリウム(Y)のことである。実施例11及び12上に引かれたラインが、酸化セリウム添加による気孔率低下ラインである。実施例13及び参考例15上に引かれたラインが、酸化ジルコニウム添加による気孔率低下ラインである。実施例16及び17上に引かれたラインが、酸化ジルコニウム添加による気孔率低下ラインである。
【0139】
更に、図3に示すグラフにおいては、気孔率及びパーミアビリティーの目標範囲を、斜線を付した領域として示している。気孔率及びパーミアビリティーの目標範囲とは、本発明のハニカムフィルタにおける、気孔率及びパーミアビリティーの値を満足する範囲のことを意味する。
【0140】
また、図4に、炭酸リチウムを成形原料に添加した場合の、隔壁の細孔径分布の推移を示す。図4は、ハニカムフィルタに用いられるハニカム構造体の隔壁の細孔径分布を示すグラフである。図4において、横軸が、細孔径(μm)を示す。図4において、縦軸が、log微分細孔容積(cc/g)を示す。図4に示すグラフにおいては、炭酸リチウムの添加率が、0質量部、0.4質量部、0.8質量部の場合を示す。炭酸リチウムの添加率とは、成形原料として用いられるコージェライト化原料を100質量部とした場合の、炭酸リチウムの添加量の質量比率である。
【0141】
図4に示すグラフから、炭酸リチウムをコージェライト化原料に添加することにより、隔壁の細孔径分布における、細孔径が小さい側の分布が減少していることが分かる。一方、細孔径が大きい側の分布については、炭酸リチウムの添加率の差異により、特別な変化は確認されない。図4に示すグラフから、炭酸リチウムを添加することにより、隔壁に形成される細孔のうち、細孔径が小さな細孔の量が減少していることが分かる。このような細孔径が小さな細孔は、隔壁の一方の表面から他方の表面まで繋がっていないものであることが多く、細孔径が小さな細孔が減少しても、ハニカムフィルタの圧力損失の増加に大きな影響を与えない。但し、細孔径が小さい側の分布が減少することにより、隔壁の密実部分の量が増大するため、ハニカム構造体の熱容量が増大しているといえる。
【0142】
また、図5図7に、ハニカムフィルタを、セルの延びる方向に垂直に切断した断面を拡大した顕微鏡写真を示す。図5は、炭酸リチウムの添加率が、0質量部の場合のハニカムフィルタを撮像したものである。図6は、炭酸リチウムの添加率が、0.4質量部の場合のハニカムフィルタを撮像したものである。図7は、炭酸リチウムの添加率が、0.8質量部の場合のハニカムフィルタを撮像したものである。図5図7の顕微鏡写真からも、炭酸リチウムをコージェライト化原料に添加することにより、細孔径が小さい細孔が減少していることが確認される。
【0143】
このように、本発明のハニカムフィルタにおいては、ガス透過性に関係しない細孔径が小さな細孔を選択的に塞ぐことにより、圧力損失の上昇を抑制することができる。更に、ガス透過性に関係しない細孔を選択的に塞ぐことにより、ハニカムフィルタに用いられるハニカム構造体の気孔率が低くなり、ハニカムフィルタの熱容量が増大する。これにより、ハニカムフィルタの耐久性が高くなり、最大スス堆積量を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明のハニカムフィルタは、内燃機関から排出される排ガスの浄化に利用することができる。特に、ディーゼルエンジンから排出される排ガスの浄化に好適に利用することができる。本発明のハニカムフィルタの製造方法は、本発明のハニカムフィルタの製造方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0145】
1:隔壁、2:セル、2a:流入セル、2b:流出セル、3:外周壁、4:ハニカム構造体、5:目封止部、11:一方の端面、12:他方の端面、100:ハニカムフィルタ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7