特許第5981858号(P5981858)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5981858
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】平衡機能検査装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/113 20060101AFI20160818BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20160818BHJP
   A61B 5/11 20060101ALN20160818BHJP
【FI】
   A61B3/10 B
   A61B10/00 W
   !A61B5/10 310B
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-26744(P2013-26744)
(22)【出願日】2013年2月14日
(65)【公開番号】特開2014-155534(P2014-155534A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2015年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000138185
【氏名又は名称】株式会社モリタ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】船曳 和雄
(72)【発明者】
【氏名】村田 浩也
(72)【発明者】
【氏名】桐村 晋
【審査官】 増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−319907(JP,A)
【文献】 特開平05−049627(JP,A)
【文献】 特開2003−164425(JP,A)
【文献】 再公表特許第2005/115299(JP,A1)
【文献】 特開平07−108038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00−3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平衡機能検査における眼球の運動データを取得する平衡機能検査装置であって、
眼球の運動を撮像する撮像装置と、
前記撮像装置で撮像した画像を予め定められた間隔で取込む画像取込部と、
被検者が視認するための視標を生成する視標生成部と、
前記視標生成部が生成する前記視標を前記被検者に提示し、および前記視標の位置を変更する視標提示部と、
前記画像取込部における前記画像を取込み、前記視標提示部における前記視標の提示または位置の変更、および前記視標の位置を制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、前記画像取込部において前記画像を取込む第1タイミングと、前記視標提示部において前記視標の提示または位置の変更を開始させる第2タイミングとを同期させる平衡機能検査装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記撮像装置から前記画像取込部に前記画像を取込むための画像取込信号を与えたタイミングに基づいて、前記視標提示部に前記視標の提示または位置の変更を開始させる開始信号を生成することで、前記画像取込部の前記第1タイミングに、前記視標提示部の前記第2タイミングを同期させる、請求項1に記載の平衡機能検査装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記視標提示部に前記視標の提示または位置の変更を開始させる開始信号に基づいて、前記撮像装置から前記画像取込部に前記画像の取込みを開始させることで、前記視標提示部の前記第2タイミングに、前記画像取込部の前記第1タイミングを同期させる、請求項1に記載の平衡機能検査装置。
【請求項4】
前記制御部は、内部で生成した内部クロック信号に基づき、前記撮像装置から前記画像取込部に前記画像を取込むための画像取込信号、および前記視標提示部に前記視標の提示または位置の変更を開始させる開始信号を生成し、前記画像取込部の前記第1タイミングと、前記視標提示部の前記第2タイミングとを同期させる、請求項1に記載の平衡機能検査装置。
【請求項5】
前記制御部は、外部から入力した外部クロック信号に基づき、前記撮像装置から前記画像取込部に前記画像を取込むための画像取込信号、および前記視標提示部に前記視標の提示または位置の変更を開始させる開始信号を生成し、前記画像取込部の前記第1タイミングと、前記視標提示部の前記第2タイミングとを同期させる、請求項1に記載の平衡機能検査装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記視標提示部に前記開始信号が入力されてから、前記被検者に前記視標の提示または位置の変更が開始されるまでの調整時間を設定する調整時間設定部を含み、
前記制御部は、前記画像取込部の前記第1タイミングを、前記調整時間設定部に設定した前記調整時間だけ遅らせて前記視標提示部の前記第2タイミングに同期させる、請求項2〜請求項5のいずれか1項に記載の平衡機能検査装置。
【請求項7】
前記視標提示部は、
前記視標生成部が生成した前記視標を反射する反射部と、
前記反射部の位置を変更する位置変更部と
を含み、
前記制御部は、前記位置変更部で変更する前記反射部の位置を制御することで、前記視標提示部における前記視標の提示または位置の変更を制御する、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の平衡機能検査装置。
【請求項8】
前記制御部は、
前記画像取込部に取込んだ前記画像から、眼球の位置を解析する解析部と、
前記解析部で解析した眼球の位置を時系列に並べた眼球の運動データのサンプリング間を補間するデータ補間部とを含む、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の平衡機能検査装置。
【請求項9】
前記データ補間部は、スプライン補間により眼球の運動データのサンプリング間を補間する、請求項8に記載の平衡機能検査装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平衡機能検査装置に関し、特に、平衡機能検査における眼球の運動を撮像する平衡機能検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
耳鼻科、神経内科、脳神経外科などで、めまいや平衡機能障害などの診療においては、目への刺激、頭部への刺激、あるいは耳への刺激に対して、眼球がどのような運動をするかを調べる平衡機能検査が広く行なわれている。この平衡機能検査は、たとえば、頭部を水平に回転させる刺激、より具体的には首を左右に振る刺激に対する眼球運動を健常者と比較することによって、人体がうける種々の加速度を検知している前庭や三半規管などの平衡機能系の異常を検査する。
【0003】
平衡機能検査には、前庭眼反射(VOR:VESTIBULO-OCULAR REFLEX)、自然視前庭眼反射(Vis−VOR:VISUAL-VESTIBULO-OCULAR REFLEX)、固視前庭眼反射(VOR−FIX:FIXATION SUPPRESSION OF THE VESTIBULO-OCULAR REFLEX)を検査するものがある。
【0004】
このような平衡機能検査に用いられる眼球運動の記録観察法として肉眼観察、フレンツェル眼鏡下観察、キモグラフィー、映画撮影、ビデオ記録、電気的あるいは光学的記録方法、電磁的記録法などがある。近年では、主に、電気的記録法である電気眼振計(ENG:ELECTRO-NYSTAGMOGRAPHY)、電磁的記録法であるサーチコイル法、あるいは眼球をビデオカメラで撮像し、その動画像を観察、記録する方法などが注目されている。これらの方法を用いることで、客観的な眼球運動のデータを得ることができる。具体的な平衡機能検査装置の構成としては、たとえば特許文献1に開示してある。
【0005】
平衡機能検査装置から得られたデータから眼球運動を解析する方法の一つとして、前庭動眼反射を用いた解析手法がある。前庭動眼反射とは、頭部を回転した場合に、その回転とは反対方向に眼球が動く反射のことであり、一定方向の加速度刺激が持続すると、眼球は逆方向に徐々に変位し、急速に元に戻るという規則的な運動を反復する。反復する眼球運動のうち、眼球位置が徐々に変位する部分が緩徐相、急速に元の位置に戻る変位の部分が急速相と呼ばれている。これら2つの相が交互に現れる現象は眼振として知られ、この眼振の時系列データが眼振データ(眼球の振動データ)と呼ばれている。
【0006】
眼振データから前庭動眼反射を解析し、めまいの診断に用いる場合には、小脳等の中枢の働きによって引き起こされる急速相の部分と、前庭動眼反射によって引き起こされる緩徐相の部分とに眼振データを適切に分離する必要があった。
【0007】
特許文献1に開示してある平衡機能検査装置では、眼球の運動を撮像するための赤外線CCDカメラを備えている。この赤外線CCDカメラは、撮像によって発生した電荷をアナログ信号の撮像信号として画像処理装置に出力する。画像処理装置は、赤外線CCDカメラからの撮像信号をデジタル化して、眼球の運動を記録する。また、特許文献2に開示してある平衡機能検査装置では、レーザーポインタなどで視標をスクリーンに提示または当該視標の位置を変更し、当該視標で眼球に視刺激を与えて眼球の運動を診る平衡機能検査を行なうことが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−285468号公報
【特許文献2】特開平11−225968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の平衡機能検査装置では、視標の提示または位置の変更による視刺激を与えてから眼球が反応するまでの遅延時間を測定するために、画像を取込む間隔を短くして(たとえば、サンプリングレートを240Hz程度の高速にする)、CCDカメラからの撮像信号をデジタル化する必要があり、高価な画像処理装置を採用しなければならなかった。そのため、従来の平衡機能検査装置では、低廉な装置を提供することができなかった。
【0010】
さらに、従来の平衡機能検査装置では、画像を取込む間隔を短くしても視刺激を与えた時点の眼球の画像を必ず取得することができる訳ではなく、画像を取込む間隔程度の誤差を含むことになり、視刺激を与えてから眼球が反応するまでの遅延時間を常に正確に測定することができなかった。
【0011】
それゆえに、本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、視刺激を与えてから眼球が反応するまでの遅延時間を常に正確に測定することができる平衡機能検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る平衡機能検査装置は、平衡機能検査における眼球の運動データを取得する平衡機能検査装置であって、眼球の運動を撮像する撮像装置と、撮像装置で撮像した画像を予め定められた間隔で取込む画像取込部と、被検者が視認するための視標を生成する視標生成部と、視標生成部が生成する視標を被検者に提示し、および視標の位置を変更する視標提示部と、画像取込部における画像を取込み、視標提示部における視標の提示または位置の変更、および視標の位置を制御する制御部とを備え、制御部は、画像取込部において画像を取込む第1タイミングと、視標提示部において視標の提示または位置の変更を開始させる第2タイミングとを同期させる。
【0013】
好ましくは、制御部は、撮像装置から画像取込部に画像を取込むための画像取込信号を与えたタイミングに基づいて、視標提示部に視標の提示または位置の変更を開始させる開始信号を生成することで、画像取込部の第1タイミングに、視標提示部の第2タイミングを同期させる。
【0014】
好ましくは、制御部は、視標提示部に視標の提示または位置の変更を開始させる開始信号に基づいて、撮像装置から画像取込部に画像の取込みを開始させることで、視標提示部の第2タイミングに、画像取込部の第1タイミングを同期させる。
【0015】
好ましくは、制御部は、内部で生成した内部クロック信号に基づき、撮像装置から画像取込部に画像を取込むための画像取込信号、および視標提示部に視標の提示または位置の変更を開始させる開始信号を生成し、画像取込部の第1タイミングと、視標提示部の第2タイミングとを同期させる。
【0016】
好ましくは、制御部は、外部から入力した外部クロック信号に基づき、撮像装置から画像取込部に画像を取込むための画像取込信号、および視標提示部に視標の提示または位置の変更を開始させる開始信号を生成し、画像取込部の第1タイミングと、視標提示部の第2タイミングとを同期させる。
【0017】
好ましくは、制御部は、視標提示部に開始信号が入力されてから、被検者に視標の提示または位置の変更が開始されるまでの調整時間を設定する調整時間設定部を含み、制御部は、画像取込部の第1タイミングを、調整時間設定部に設定した調整時間だけ遅らせて視標提示部の第2タイミングに同期させる。
【0018】
好ましくは、視標提示部は、視標生成部が生成した視標を反射する反射部と、反射部の位置を変更する位置変更部とを含み、制御部は、位置変更部で変更する反射部の位置を制御することで、視標提示部における視標の提示または位置の変更を制御する。
【0019】
好ましくは、制御部は、画像取込部に取込んだ画像から、眼球の位置を解析する解析部と、解析部で解析した眼球の位置を時系列に並べた眼球の運動データのサンプリング間を補間するデータ補間部とを含む。
【0020】
好ましくは、データ補間部は、スプライン補間により眼球の運動データのサンプリング間を補間する。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る平衡機能検査装置は、画像取込部において画像を取込む第1タイミングと、視標提示部において視標の提示または位置の変更を開始させる第2タイミングとを同期させることで、視標の提示または位置の変更による視刺激を与えてから眼球が反応するまでの遅延時間を計測する際に、計測開始点を常に一定にすることができる。そのため、本発明に係る平衡機能検査装置は、視刺激を眼球に与えて反応を診る平衡機能検査において、視標が急速に移動する場合であっても、緩やかに移動する場合であっても、視刺激を与えてから眼球が反応するまでの遅延時間を常に正確に測定することができる。さらに、本発明に係る平衡機能検査装置は、画像を取込む間隔が長い低廉な撮像装置および画像取込部を採用しても、視刺激を与えてから眼球が反応するまでの遅延時間を常に正確に計測することができるので、低廉な装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施の形態に係る平衡機能検査装置の基本構成を示す概略図である。
図2】本発明の実施の形態に係る平衡機能検査装置で被検者に提示する視標を説明するための概略図である。
図3】眼球位置を説明するための図である。
図4】眼球位置データを時系列に並べ、緩徐相と急速相との2つの相が交互に現れる眼振データの一例を示す図である。
図5図4に示す眼振データから算出した眼球の角速度を説明するための図である。
図6】画像取込信号と開始信号とを同期させる同期タイミングを説明する図である。
図7】本発明の実施の形態に係る平衡機能検査装置で検出した眼球の位置の変化の一例を示す図である。
図8】本発明の実施の形態に係る平衡機能検査装置で検出した眼球の角速度の変化の一例を示す図である。
図9】平衡機能検査装置で検出した眼球の位置の変化において、画像を取込む画像取込タイミングと、視標の提示または位置の変更を開始させる開始タイミングとを同期させていない一例を示す図である。
図10】平衡機能検査装置で検出した眼球の位置の変化において、画像を取込む画像取込タイミングと、視標の提示または位置の変更を開始させる開始タイミングとを同期させている一例を示す図である。
図11】眼球の各位置における、視刺激を与えてから眼球が反応するまでの遅延時間を示す図である。
図12】本発明の変形例1に係る平衡機能検査装置の基本構成を示す概略図である。
図13】本発明の変形例2に係る平衡機能検査装置の基本構成を示す概略図である。
図14】本発明の変形例3に係る平衡機能検査装置の基本構成を示す概略図である。
図15】本発明の変形例4に係る平衡機能検査装置の同期タイミングを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施の形態について図面を参照して説明する。
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る平衡機能検査装置の基本構成を示す概略図である。図1に示す平衡機能検査装置100は、眼球Eの運動を記録し、眼球Eの眼振を測定すること、または視刺激を与えてから眼球Eが反応するまでの遅延時間を測定することを行なう。平衡機能検査装置100は、CCD(Charge Coupled Device)カメラなどで構成された撮像カメラ1、パソコンなどで構成されたコンピュータ2、視刺激を眼球Eに与えるための視標を生成するレーザーポインタ3、および視標の位置を変更する視標提示部4を含んでいる。なお、図示していないが、平衡機能検査装置100には、被検者の頭部の動きを測定する頭部運動センサを含めてもよい。
【0024】
平衡機能検査装置100は、被検者の頭部に所定の刺激を与えて、前庭眼反射、自然視前庭眼反射、固視前庭眼反射を観察し、このときの眼球Eの運動を撮像カメラ1によって撮像する。さらに、平衡機能検査装置100は、レーザーポインタ3で生成した視標を被検者に提示または位置を変更して、眼球Eに視刺激を与えて、このときの眼球Eの運動を撮像カメラ1によって撮像する。眼球Eの運動を撮像するための構成としては、たとえば特開平9−285468号(特許第3455638号)公報に開示してある平衡機能検査装置がある。当該平衡機能検査装置で提案されている構成は、ゴーグルタイプの眼球観察用装着具であり、このゴーグルを被検者が装着して、頭部を回転させるなどして眼球の運動を撮像カメラで撮像する。また、たとえば特開平11−225968号(特許第3821259号)公報に開示してある平衡機能検査装置では、眼球運動観察用装着具や検査用椅子にレーザーポインタを設けてあり、当該レーザーポインタで生成した視標を被検者に提示または位置を変更して、眼球の運動を撮像カメラで撮像する。
【0025】
平衡機能検査装置100では、レーザーポインタ3で生成した視標を、ハーフミラー1aを介して眼球Eに直接提示して、眼球Eに視刺激を与えている。そして、撮像カメラ1は、ハーフミラー1aを介して、視刺激を与えた眼球Eの運動を撮像する。撮像カメラ1で撮像した動画像は、ビデオ信号の形でコンピュータ2に出力され、当該コンピュータ2のビデオ入力ボード21から取込まれる。ビデオ入力ボード21は、取込んだ眼球Eの動画像をフレーム毎あるいはフィールド毎にサンプリングし、サンプリングした画像を2値化して、楕円近似法によって眼球Eの運動中心O(図4参照)を検出する。さらに、コンピュータ2は、所定の演算処理を施し、眼球Eの運動中心Oに対する瞳孔中心の角度位置を眼球の位置データとして算出する。なお、眼球Eの画像から楕円近似法を用いて、眼球Eの運動中心Oを求める手法は、特開平8−145644号において詳しく開示されている。
【0026】
視標提示部4は、レーザーポインタ3で生成した視標を反射するガルバノミラー41と、ガルバノミラー41の位置を変更するガルバノコントローラ42とを含んでいる。そして、ガルバノコントローラ42がガルバノミラー41の位置を変更することで、眼球Eに提示する視標の位置を変更することができる。つまり、コンピュータ2は、アナログ/デジタル変換ボード(以下、ADボードという)22からガルバノ制御信号をガルバノコントローラ42に出力し、ガルバノミラー41の位置を変更して、眼球Eに提示する視標を制御している。なお、ここでいう「ガルバノミラーの位置を変更する」とは、「ガルバノミラーの向きを変更する」ことを含む概念である。
【0027】
コンピュータ2は、算出した眼球位置データを時系列に並べたデータを記憶部(図示せず)に記憶する。記憶部に記憶したデータは、ファイルとして外部の記憶媒体に保存すること、LANを介して外部に送信すること、後述する解析部で解析処理を行なうことが可能である。
【0028】
頭部運動センサは、角速度センサ、角度センサ、角加速度センサなどが使用され、被検者の頭部の運動に応じた測定信号を出力する。コンピュータ2は、ADボード22を介して測定信号を取込み、眼球位置データと同期させて記憶部(図示せず)に記憶する。コンピュータ2は、たとえば特開平11−225967号(特許第3730005号)公報に開示されているように、記憶部に記憶した眼球位置データと、測定信号に基づく頭部運動の角速度などのデータとを組合せて解析することで、より信頼性の高い診断データとして解析したデータを利用することもできる。
【0029】
図1に示す平衡機能検査装置100では、レーザーポインタ3で生成した視標を、ハーフミラー1aを介して眼球Eに直接提示する構成について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、たとえばレーザーポインタ3で生成した視標をスクリーンに投影して眼球Eに提示する構成でもよい。図2は、本発明の実施の形態に係る平衡機能検査装置で被検者に提示する視標を説明するための概略図である。図2には、レーザーポインタ3で生成した視標Sを投影するためのスクリーン5が図示してあり、ガルバノミラー41の位置を変更することで視標Sの位置が左右に移動する様子を示してある。指標Sの位置は、左右ではなく上下、あるいは上下左右に移動してもよい。
【0030】
コンピュータ2は、ビデオ入力ボード21およびADボード22を含む他、解析部23、データ補間部24、および調整時間設定部25を含んでいる。解析部23、データ補間部24、および調整時間設定部25は、コンピュータ2により実行されるソフトウェアで実現される構成であるが、本発明はこれに限定されず、専用のハードウェアとして各部を構成してもよい。
【0031】
次に、解析部23は、眼球位置データを時系列に並べたデータを解析し、緩徐相と急速相とに分離すること、視刺激を与えてから眼球Eが反応するまでの遅延時間を測定することなどを行なう。まず、眼球位置、および眼球位置データを時系列に並べた眼振データについて説明する。図3は、眼球位置を説明するための図である。また、図4は、眼球位置データを時系列に並べ、緩徐相と急速相との2つの相が交互に現れる眼振データの一例を示す図である。
【0032】
図3では、x−y平面またはy−z平面で見た眼球Eが示してある。そして、y軸方向が正面であり、眼球Eが正面を向いている位置が基準位置e0である。この基準位置e0に対して、運動中心Oを中心に眼球Eが移動した位置e1とのなす角が眼球位置θである。眼球位置θは、x−y平面での角度θxyの成分と、y−z平面での角度θyzの成分とを有している。そのため、本実施の形態では、眼球位置θを、角度θxyと角度θyzとの二乗平均平方根(RMS(Root Mean Square)や平均二乗偏差ともいう)の値として表わす。なお、角度θxyと角度θyzとの二乗平均平方根を眼球位置θとしているが、それぞれの角度を別々に眼球位置として解析を行なってもよい。
【0033】
図4に示す眼振データは、眼球位置θの時間変化を示しており、緩徐相と急速相との2つの相が交互に現れるデータである。図4に示す眼振データでは、緩徐相において、眼球位置θが徐々に大きくなり、急速相になると、眼球位置θが急激に小さくなる変化を繰返している。
【0034】
解析部23は、眼振データを緩徐相と急速相とに分離するために、隣接する眼球位置θのデータの差分をとって眼球Eの角速度(角度/秒)を算出する。図5は、図4に示す眼振データから算出した眼球Eの角速度を説明するための図である。図5に示す眼球Eの角速度のグラフには、緩徐相の期間において遅い角速度であった眼球Eの運動が、急速相の期間になると急激に速い角速度に変化する様子が示されている。そのため、図5から分かるように緩徐相の角速度と急速相の角速度との間に閾値を設定すれば、眼振データを緩徐相と急速相とに分離することができる。
【0035】
次に、解析部23は、視刺激を与えてから眼球Eが反応するまでの遅延時間を測定するために、視標Sの提示または位置の変更による視刺激を与えた時の眼球Eの位置を取得する必要がある。そのためには、ビデオ入力ボード21が視標Sの提示または位置の変更による視刺激を与えた時の眼球Eの画像を取込む必要がある。そこで、コンピュータ2は、視標Sの提示または位置の変更による視刺激を与えた時の眼球Eの画像をビデオ入力ボード21から取込むため、ビデオ入力ボード21の画像取込信号をADボード22に出力している。そして、ADボード22は、当該画像取込信号を与えたタイミングに基づいて、ガルバノコントローラ42に視標Sの提示または位置の変更を開始させるガルバノ制御信号を生成している。なお、本実施の形態において、ガルバノコントローラ42に視標Sの提示または位置の変更を開始させるためのガルバノ制御信号を、開始信号という。
【0036】
コンピュータ2は、画像取込信号を与えたタイミングに基づいて、視標Sの提示または位置の変更を開始させる開始信号をADボード22に生成させることで、ビデオ入力ボード21の画像取込タイミングに、ガルバノコントローラ42の開始タイミングを同期させる。図6は、画像取込信号と開始信号とを同期させる同期タイミングを説明する図である。ADボード22は、図6に示すように、ビデオ入力ボード21から出力された画像取込信号のある立上がりタイミングに、開始信号の立上がりタイミングを一致させる。これにより、開始信号の立上がりタイミング(開始タイミング)と、画像取込信号のある立上がりタイミング(画像取込タイミング)とが同期する。このタイミングを同期タイミングとよぶ。なお、図6では、開始信号を単発のパルス信号と表現しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、ガルバノ制御信号のうち視標Sの提示または位置の変更を開始させるために最初に入力される信号であればどのような信号であってもよい。
【0037】
ガルバノコントローラ42は、開始信号が入力されると、ガルバノミラー41の位置を変更して、レーザーポインタ3で生成した視標Sを眼球Eに提示する、または提示していた視標Sの位置を変更する。同期タイミングに合わせて、ビデオ入力ボード21は、撮像カメラ1で撮像した眼球Eの画像を取込む。よって、コンピュータ2は、視標Sの提示または位置の変更による視刺激を与えた時の眼球Eの画像をビデオ入力ボード21から常に取得することができ、視標Sの提示または位置の変更による視刺激を与えた時の眼球Eの位置を取得することができる。そのため、解析部23は、視刺激を与えてから眼球Eが反応するまでの遅延時間を常に正確に測定することができる。
【0038】
本発明の実施の形態に係る平衡機能検査装置100が、視刺激を与えてから眼球Eが反応するまでの遅延時間を常に正確に測定することを、具体例を用いて説明する。図7は、本発明の実施の形態に係る平衡機能検査装置で検出した眼球Eの位置の変化の一例を示す図である。また、図8は、本発明の実施の形態に係る平衡機能検査装置で検出した眼球Eの角速度の変化の一例を示す図である。
【0039】
図7および図8に示すグラフは、被検者の眼球Eが視標Sに対して、どのように追従するかを検査する追従性眼球運動検査(あるいは、視刺激検査)の結果取得されたデータをグラフ化したものである。図7に示すグラフは、横軸を時間(秒)、縦軸を眼球Eの位置(角度)として、測定時間の116.3秒目から117.0秒目までの眼球Eの位置の変化をプロットしてある。なお、眼球Eの位置のプロットは、ビデオ入力ボード21によってサンプリングした画像によって決まる。そして、図7に示すグラフは、ビデオ入力ボード21が240Hzの高速のサンプリングレート(画像を取込む間隔が短い)で画像を取得した場合のプロット(黒四角)と、ビデオ入力ボード21が60Hzの低速のサンプリングレート(画像を取込む間隔が長い)で画像を取得した場合のプロット(白丸)とが図示してある。さらに、図7に示すグラフには、測定時間に対する視標S(レーザー)の位置(角度)も図示してある。
【0040】
まず、測定時間の116.3秒目から約116.45秒目まで、視標Sは10度の位置に固定されており、眼球Eは当該視標Sに追従して同じ10度の位置にある。その後、視標Sは、測定時間の約116.45秒目に、−10度の位置に変化する。このとき、ビデオ入力ボード21の画像取込タイミングに、ガルバノコントローラ42の開始タイミングを同期させてあるので、ガルバノコントローラ42によりガルバノミラー41の位置が変更され−10度の位置に視標Sが変更された時点の画像をビデオ入力ボード21が取得することができる。つまり、図7に示すように、10度の位置から−10度の位置へ視標Sが変更を開始する点に、眼球Eの位置のプロット(黒四角および白丸)が重なることになる。
【0041】
さらに、−10度の位置に視標Sが変更された後、測定時間の約116.45秒目から約116.65秒目まで、視標Sの変化に追従することができず眼球Eは10度の位置にある。その後、測定時間の約116.65秒目から約116.73秒目までの間で、眼球Eが10度の位置から−10度の位置へ移動する。そして、測定時間の約116.73秒目以降、眼球Eは、視標Sに追従して同じ−10度の位置にある。
【0042】
解析部23は、図7に示すグラフの結果から、視刺激を与えてから眼球Eが反応するまでの遅延時間を測定する。具体的に、解析部23は、10度の位置から−10度の位置へ視標Sが変更を開始する点にプロットされた眼球Eの位置の画像から、−10度の位置となる眼球Eの位置の画像までの時間を、視刺激を与えてから眼球Eが反応するまでの遅延時間と測定する。具体的に、解析部23は、測定時間の約116.45秒目から約116.73秒目までの0.29秒を、視刺激を与えてから眼球Eが反応するまでの遅延時間と測定する。
【0043】
また、平衡機能検査装置100では、ビデオ入力ボード21の画像取込タイミングに、ガルバノコントローラ42の開始タイミングを同期させてあるので、60Hzの低速のサンプリングレートで画像を取得した場合のプロット(白丸)であっても、10度の位置から−10度の位置へ視標Sが変更を開始する点と重なっている。そのため、平衡機能検査装置100では、240Hzの高速のサンプリングレートで画像を取得できるような高価なビデオ入力ボード21および撮像カメラ1を採用する必要はなく、60Hzの低速のサンプリングレートで画像を取得できるような低廉なビデオ入力ボード21および撮像カメラ1を採用することができる。その結果、低廉な平衡機能検査装置100を提供することができる。
【0044】
さらに、コンピュータ2は、データ補間部24を含んでいる。図7に示すグラフのように、60Hzの低速のサンプリングレートで画像を取得した場合、眼球Eの位置の変化が大きい期間(たとえば、測定時間の約116.65秒目から約116.73秒目までの間)において、240Hzの高速のサンプリングレートで画像を取得した場合に比べ、プロットの間隔が広がる。つまり、当該期間において、60Hzの低速のサンプリングレートで画像を取得した場合、コンピュータ2は、眼球Eの位置の変化を細かく測定することができない。
【0045】
そこで、データ補間部24は、60Hzの低速のサンプリングレートで画像を取得した場合の眼球Eの位置データ(運動データ)のサンプリング間を、スプライン補間する。スプライン補間された眼球Eの位置データは、図7に示すグラフのプロット(白四角)のように、240Hzの高速のサンプリングレートで画像を取得した場合の眼球Eの位置データのプロット間隔に近くなる。そのため、スプライン補間された眼球Eの位置データは、眼球Eの位置の変化が大きい期間においても、240Hzの高速のサンプリングレートで画像を取得した場合と同等のプロットの間隔となる。よって、コンピュータ2は、データ補間部24により眼球Eの位置データをスプライン補間することで、高速のサンプリングレートで画像を取得したときと同様、眼球Eの位置の変化を細かく測定することができる。
【0046】
なお、データ補間部24では、眼球Eの位置データをスプライン補間しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、ラグランジュ補間、多項式補間などの他の補間の方法を用いてもよい。
【0047】
次に、図8に示すグラフは、横軸を時間(秒)、縦軸を眼球Eの角速度(角度/秒)として、図7に示すグラフと同じく測定時間の116.3秒目から117.0秒目までの眼球Eの角速度の変化をプロットしてある。なお、眼球Eの角速度のプロットは、ビデオ入力ボード21によってサンプリングした画像によって決まる眼球Eの位置の差分から求められる。そして、図8に示すグラフは、ビデオ入力ボード21が240Hzの高速のサンプリングレート(画像を取込む間隔が短い)で画像を取得した場合のプロット(黒四角)と、ビデオ入力ボード21が60Hzの低速のサンプリングレート(画像を取込む間隔が長い)で画像を取得した場合のプロット(白丸)とが図示してある。さらに、図8に示すグラフには、測定時間に対する視標S(レーザー)の角速度(角度/秒)も図示してある。
【0048】
まず、測定時間の116.3秒目から約116.45秒目まで、視標Sは10度の位置に固定されているので視標Sの角速度は0(ゼロ)角度/秒となり、当該視標Sに追従する眼球Eの角速度も0(ゼロ)角度/秒である。その後、視標Sは、測定時間の約116.45秒目に、−10度の位置に変化するので、視標Sの角速度は−800角度/秒となる。このとき、−10度の位置に視標Sが変更された時点の画像をビデオ入力ボード21が取得するため、ビデオ入力ボード21の画像取込タイミングに、ガルバノコントローラ42の開始タイミングを同期させてある。つまり、図8のグラフに示すように、視標Sの角速度が−800角度/秒となる直前の点に、眼球Eの角速度のプロットが重なることになる。
【0049】
さらに、−10度の位置に視標Sが変更された後、視標Sはその位置に固定されるので、視標Sの角速度は0(ゼロ)角度/秒となる。また、測定時間の約116.45秒目から約116.65秒目まで、視標Sの変化に追従することができず眼球Eの角速度は0(ゼロ)角度/秒のままである。その後、測定時間の約116.65秒目から約116.73秒目までの間で、眼球Eが10度の位置から−10度の位置へ移動するので、眼球Eの角速度も0(ゼロ)角度/秒から約−400角度/秒までの間で変化する。そして、測定時間の約116.73秒目以降、眼球Eは、視標Sに追従して同じ−10度の位置にあるので、眼球Eの角速度も0(ゼロ)角度/秒となる。
【0050】
解析部23は、図8に示すグラフの結果からも、視刺激を与えてから眼球Eが反応するまでの遅延時間も測定することができる。具体的に、解析部23は、視標Sの角速度が−800角度/秒となる直前の点にプロットされた眼球Eの角速度の測定時間から、眼球Eの角速度が変化を開始する点の測定時間までの時間を、視刺激を与えてから眼球Eが反応するまでの遅延時間と測定する。
【0051】
さらに、データ補間部24は、60Hzの低速のサンプリングレートで画像を取得した場合の眼球Eの角速度データ(運動データ)のサンプリング間を、スプライン補間する。スプライン補間された眼球Eの角速度データは、図8に示すグラフのプロット(白四角)のように、240Hzの高速のサンプリングレートで画像を取得した場合の眼球Eの角速度データのプロット間隔に近くなる。そのため、スプライン補間された眼球Eの角速度データは、眼球Eの角速度の変化が大きい期間においても、240Hzの高速のサンプリングレートで画像を取得した場合と同等のプロットの間隔となる。よって、コンピュータ2は、データ補間部24により眼球Eの角速度データをスプライン補間することで、高速のサンプリングレートで画像を取得したときと同様、眼球Eの角速度の変化を細かく測定することができる。
【0052】
さらに、平衡機能検査装置100で検出した眼球Eの位置の変化において、画像を取込む画像取込タイミングと、視標Sの提示または位置の変更を開始させる開始タイミングとを同期させていない場合と、同期させている場合とを説明する。図9は、平衡機能検査装置100で検出した眼球Eの位置の変化において、画像を取込む画像取込タイミングと、視標Sの提示または位置の変更を開始させる開始タイミングとを同期させていない一例を示す図である。図10は、平衡機能検査装置100で検出した眼球Eの位置の変化において、画像を取込む画像取込タイミングと、視標Sの提示または位置の変更を開始させる開始タイミングとを同期させている一例を示す図である。
【0053】
図9および図10に示すグラフは、横軸を時間(秒)、縦軸を眼球Eの位置(角度)として、測定時間の122.35秒目から122.67秒目までの眼球Eの位置(角度)の変化をプロットしてある。そして、図9および図10に示すグラフは、ビデオ入力ボード21が240Hzの高速のサンプリングレート(画像を取込む間隔が短い)で画像を取得した場合のプロット(黒四角)と、ビデオ入力ボード21が60Hzの低速のサンプリングレート(画像を取込む間隔が長い)で画像を取得した場合のプロット(白丸)とが図示してある。さらに、図9および図10に示すグラフには、測定時間に対する視標S(レーザー)の位置(角度)も図示してある。
【0054】
図9に示すグラフでは、ビデオ入力ボード21のサンプリングレートを60Hzとした場合の画像取込タイミングと、開始タイミングとを同期させていない。そのため、図9に示すように、0度の位置から15度の位置へ視標Sが変更を開始する点(測定時間の約122.38秒目)に、眼球Eの位置のプロット(白丸)が重なっていない。しかし、ビデオ入力ボード21のサンプリングレートを240Hzとした場合、画像取込タイミングと、開始タイミングとを同期させていなくとも、画像を取込む間隔が短いので、開始する点に眼球Eの位置のプロット(黒四角)が重なっている。
【0055】
一方、図10に示すグラフでは、ビデオ入力ボード21のサンプリングレートを60Hzとした場合の画像取込タイミングと、開始タイミングとを同期させている。そのため、図10に示すように、0度の位置から15度の位置へ視標Sが変更を開始する点(測定時間の約122.38秒目)に、眼球Eの位置のプロット(白丸)が重なっている。もちろん、ビデオ入力ボード21のサンプリングレートを240Hzとした場合も、開始する点に眼球Eの位置のプロット(黒四角)が重なっている。
【0056】
また、図11は、眼球Eの各位置における、視刺激を与えてから眼球が反応するまでの遅延時間を示す図である。図11に示すグラフは、横軸を眼球Eの位置(角度)、縦軸を遅延時間(秒)として、−30度から30度までの眼球Eの位置に対する遅延時間をプロットしてある。そして、図11に示すグラフは、ビデオ入力ボード21が240Hzの高速のサンプリングレート(画像を取込む間隔が短い)で画像を取得した場合のプロット(黒四角)と、ビデオ入力ボード21が60Hzの低速のサンプリングレート(画像を取込む間隔が長い)であり、開始タイミングと同期させたタイミング(以下「同期タイミング」という)で画像を取得した場合のプロット(白丸)とが図示してある。さらに、図11に示すグラフには、ビデオ入力ボード21が60Hzの低速のサンプリングレートであるが開始タイミングと同期していない(非同期の)タイミング(以下「非同期タイミング」という)で画像を取得した場合のプロット(X)も図示してある。
【0057】
図11から分かるように、ビデオ入力ボード21が60Hzの低速のサンプリングレート且つ同期タイミングで画像を取得した場合のプロットと、ビデオ入力ボード21が240Hzの高速のサンプリングレートで画像を取得した場合のプロットとは、ほぼ重なっている。そのため、平衡機能検査装置100では、低廉なビデオ入力ボード21および撮像カメラ1を採用しても、高速のサンプリングレートで画像を取得できるような高価なビデオ入力ボード21および撮像カメラ1と同等の正確な遅延時間を測定することができる。なお、ビデオ入力ボード21が60Hzの低速のサンプリングレートで且つ非同期タイミングで画像を取得した場合のプロットと、ビデオ入力ボード21が240Hzの高速のサンプリングレートで画像を取得した場合のプロットとは、ずれが大きい。
【0058】
以上のように、本発明の実施の形態に係る平衡機能検査装置100は、ビデオ入力ボード21において画像を取込む画像取込タイミング(第1タイミング)と、ガルバノコントローラ42において視標Sの提示または位置の変更を開始させる開始タイミング(第2タイミング)とを同期させることで、視標Sの提示または位置の変更による視刺激を与えて、眼球が反応する時までの遅延時間を計測する際に、計測開始点を常に一定にすることができる。そのため、本発明の実施の形態に係る平衡機能検査装置100は、視刺激を眼球Eに与えて反応を診る平衡機能検査において、視標Sが急速に移動する場合であっても、緩やかに移動する場合であっても視刺激を与えてから眼球Eが反応するまでの遅延時間を常に正確に測定することができる。さらに、本発明の実施の形態に係る平衡機能検査装置100は、画像を取込む間隔が長い低廉な撮像カメラ1およびビデオ入力ボード21を採用しても視刺激を与えて眼球Eが反応するまでの遅延時間を常に正確に計測することができるので、低廉な装置を提供することができる。
【0059】
また、本発明の実施の形態に係る平衡機能検査装置100は、ビデオ入力ボード21の画像取込信号を用いて画像取込タイミングに、開始タイミングを同期させることで、別途同期のための信号を生成する必要がなく、信号生成のための別機構を追加する必要がない。撮像カメラ1およびビデオ入力ボード21は外部から信号を入力する必要がないので、外部同期機能を備えていない低廉な撮像カメラ1およびビデオ入力ボード21でもよい。なお、ビデオ入力ボード21の画像取込信号としては、たとえば撮像カメラ1の水平あるいは垂直同期信号などの信号を用いることができる。
【0060】
さらに、本発明の実施の形態に係る平衡機能検査装置100は、ガルバノミラー41の位置をガルバノコントローラ42で変更することで、視標Sの位置を精度よく制御することが可能となる。なお、視標提示部4は、ガルバノミラー41およびガルバノコントローラ42の構成に限定されるものではなく、視標Sを被検者に提示するか否かを切換え、および視標Sの位置を変更することが可能であれば、たとえばレーザーポインタ3の位置又は向きを直接移動させる構成であってもよい。
【0061】
また、本発明の実施の形態に係る平衡機能検査装置100は、データ補間部24が眼球Eの運動データのサンプリング間を補間することで、画像を取込む間隔が長い低廉な撮像カメラ1およびビデオ入力ボード21を採用しても、画像を取込む間隔が短い撮像カメラ1およびビデオ入力ボード21で取得した眼球Eの運動データと同等の結果を得ることを可能とする。特に、データ補間部24は、スプライン補間により眼球Eの運動データのサンプリング間を補間することで、眼球Eの運動データの精度がより高いものと同等のデータを得ることが可能となる。
【0062】
(変形例)
本発明の実施の形態に係る平衡機能検査装置100の変形例について、以下に説明する。
【0063】
(1)図1に示した平衡機能検査装置100では、ビデオ入力ボード21の画像取込信号をADボード22に出力し、当該画像取込信号を用いて画像取込タイミングに、開始タイミングを同期させる構成について説明した。しかし、本発明はこれに限定されず、ADボード22の開始信号をビデオ入力ボード21に出力し、当該開始信号を用いて、開始タイミングに画像取込タイミングを同期させる構成の平衡機能検査装置であってもよい。
【0064】
図12は、本発明の変形例1に係る平衡機能検査装置の基本構成を示す概略図である。図12に示す平衡機能検査装置100aは、眼球Eの運動を記録し、眼球Eの眼振を測定すること、視刺激を与えてから眼球Eが反応するまでの遅延時間を測定することを行なう。平衡機能検査装置100aは、CCDカメラなどで構成された撮像カメラ1、パソコンなどで構成されたコンピュータ2、視刺激を眼球Eに与えるための視標Sを生成するレーザーポインタ3、および視標Sの位置を変更する視標提示部4を含んでいる。なお、図12に示す平衡機能検査装置100aにおいて、図1に示す平衡機能検査装置100と同じ構成については、同じ構成については同じ符号を付して、詳細な説明を繰返さない。
【0065】
コンピュータ2は、視標Sの提示または位置の変更による視刺激を与えた時点の眼球Eの画像をビデオ入力ボード21から取込むため、ガルバノコントローラ42に視標Sの提示または位置の変更を開始させる開始信号(ガルバノ制御信号)をビデオ入力ボード21へ出力させる。そして、ビデオ入力ボード21は、当該開始信号に基づいて、撮像カメラ1から画像の取込みを開始する。つまり、ビデオ入力ボード21は、図6に示すように、ADボード22から出力された開始信号の立上がりタイミングに、画像取込信号のある立上がりタイミングを一致させる。これにより、開始信号の立上がりタイミングと、画像取込信号のある立上がりタイミングとが同期する。
【0066】
以上のように、本変形例1に係る平衡機能検査装置100aは、ADボード22の開始信号を用いて、開始タイミングに画像取込タイミングを同期させることで、別途同期のための信号を生成することや、信号生成のための別機構を追加する必要がなく、視標Sの提示または位置の変更による視刺激を与えて眼球Eが反応するまでの遅延時間の計測開始点を視刺激ごとに統一することができる。
【0067】
(2)図12に示した平衡機能検査装置100aでは、ADボード22の開始信号をビデオ入力ボード21に出力し、当該開始信号を用いて、開始タイミングに画像取込タイミングを同期させる構成について説明した。しかし、本発明はこれに限定されず、ビデオ入力ボード21およびADボード22とは別に、コンピュータ2内に設けられた内部クロック生成部の内部クロック信号を用いて、開始タイミングと画像取込タイミングとを同期させる構成の平衡機能検査装置であってもよい。
【0068】
図13は、本発明の変形例2に係る平衡機能検査装置の基本構成を示す概略図である。図13に示す平衡機能検査装置100bは、眼球Eの運動を記録し、眼球Eの眼振を測定すること、視刺激を与えてから眼球Eが反応するまでの遅延時間を測定することを行なう。平衡機能検査装置100bは、CCDカメラなどで構成された撮像カメラ1、パソコンなどで構成されたコンピュータ2、視刺激を眼球Eに与えるための視標Sを生成するレーザーポインタ3、および視標Sの位置を変更する視標提示部4を含んでいる。さらに、コンピュータ2は、ビデオ入力ボード21、ADボード22、解析部23、データ補間部24、調整時間設定部25、および内部クロック生成部26を含んでいる。なお、図13に示す平衡機能検査装置100bにおいて、図1に示す平衡機能検査装置100と同じ構成については、同じ構成については同じ符号を付して、詳細な説明を繰返さない。
【0069】
内部クロック生成部26は、コンピュータ2内に設けられたクロック生成部で、コンピュータ2内での処理に用いるクロック信号を生成している。たとえば、内部クロック生成部26は、コンピュータ2内の通信を同期させるためや、複数のデータ処理部での処理タイミングを同期するために、内部クロック信号を生成させる。
【0070】
コンピュータ2は、視標Sの提示または位置の変更による視刺激を与えた時点の眼球Eの画像をビデオ入力ボード21から取込むため、内部クロック生成部26に内部クロック信号をビデオ入力ボード21およびADボード22へ出力させる。そして、ビデオ入力ボード21は、当該内部クロック信号に基づいて、撮像カメラ1から画像の取込みを開始する。つまり、ビデオ入力ボード21は、内部クロック信号の立上がりタイミングに、画像取込信号のある立上がりタイミングを一致させる。一方、ADボード22は、当該内部クロック信号に基づいて、ガルバノコントローラ42に視標Sの提示または位置の変更を開始させる開始信号(ガルバノ制御信号)を生成する。つまり、ADボード22は、内部クロック信号の立上がりタイミングに、立上がりタイミングが一致する開始信号を生成する。これにより、開始信号の立上がりタイミングと、画像取込信号のある立上がりタイミングとが同期する。
【0071】
以上のように、本変形例2に係る平衡機能検査装置100bは、内部クロック生成部26で生成した内部クロック信号に基づき、撮像カメラ1からビデオ入力ボード21に画像を取込むための画像取込信号、およびガルバノコントローラ42に視標Sの提示または位置の変更を開始させる開始信号を生成し、開始タイミングと画像取込タイミングとを同期させることで、別途同期のための信号を生成することなく、視標Sの提示または位置の変更による視刺激を与えて眼球Eが反応するまでの遅延時間の計測開始点を視刺激ごとに統一することができる。さらに、本変形例2に係る平衡機能検査装置100bは、内部クロック信号を用いているので、コンピュータ2で制御される他の構成との通信や処理を同期させることが容易になる。
【0072】
(3)図13に示した平衡機能検査装置100bでは、ビデオ入力ボード21およびADボード22とは別に、コンピュータ2内に設けられた内部クロック生成部の内部クロック信号を用いて、開始タイミングと画像取込タイミングとを同期させる構成について説明した。しかし、本発明はこれに限定されず、コンピュータ2外に設けられた外部クロック生成部の外部クロック信号を用いて開始タイミングと画像取込タイミングとを同期させる構成の平衡機能検査装置であってもよい。
【0073】
図14は、本発明の変形例3に係る平衡機能検査装置の基本構成を示す概略図である。図14に示す平衡機能検査装置100cは、眼球Eの運動を記録し、眼球Eの眼振を測定すること、視刺激を与えてから眼球Eが反応するまでの遅延時間を測定することを行なう。平衡機能検査装置100cは、CCDカメラなどで構成された撮像カメラ1、パソコンなどで構成されたコンピュータ2、視刺激を眼球Eに与えるための視標Sを生成するレーザーポインタ3、視標Sの位置を変更する視標提示部4、および外部クロック生成部6を含んでいる。さらに、コンピュータ2は、ビデオ入力ボード21、ADボード22、解析部23、データ補間部24、および調整時間設定部25を含んでいる。なお、図14に示す平衡機能検査装置100cにおいて、図1に示す平衡機能検査装置100と同じ構成については、同じ構成については同じ符号を付して、詳細な説明を繰返さない。
【0074】
外部クロック生成部6は、コンピュータ2の外部に設けられたクロック生成部で、たとえばコンピュータ2に接続する外部機器内に設けられており、当該外部機器での処理と同期させるためなどに外部クロック信号を生成する。
【0075】
コンピュータ2は、視標Sの提示または位置の変更による視刺激を与えた時点の眼球Eの画像をビデオ入力ボード21から取込むため、外部クロック生成部6から外部クロック信号をビデオ入力ボード21およびADボード22に入力する。そして、ビデオ入力ボード21は、当該外部クロック信号に基づいて、撮像カメラ1から画像の取込みを開始する。つまり、ビデオ入力ボード21は、外部クロック信号の立上がりタイミングに、画像取込信号のある立上がりタイミングを一致させる。一方、ADボード22は、当該外部クロック信号に基づいて、ガルバノコントローラ42に視標Sの提示または位置の変更を開始させる開始信号(ガルバノ制御信号)を生成する。つまり、ADボード22は、外部クロック信号の立上がりタイミングに、立上がりタイミングが一致する開始信号を生成する。これにより、開始信号の立上がりタイミングと、画像取込信号のある立上がりタイミングとが同期する。
【0076】
以上のように、本変形例3に係る平衡機能検査装置100cは、外部クロック生成部6で生成した外部クロック信号に基づき、撮像カメラ1からビデオ入力ボード21に画像を取込むための画像取込信号、およびガルバノコントローラ42に視標Sの提示または位置の変更を開始させる開始信号を生成し、開始タイミングと画像取込タイミングとを同期させることで、視標Sの提示または位置の変更による視刺激を与えた時点の眼球Eの画像を常に取得することができる。また、本変形例3に係る平衡機能検査装置100cは、外部クロック信号を用いているので、コンピュータ2に接続される外部機器での処理と同期させることが容易になる。
【0077】
(4)本発明の実施の形態、および変形例1〜3に示した平衡機能検査装置100、100a〜100cでは、コンピュータ2に調整時間設定部25が含まれているが、特に調整時間を設定しない場合について説明した。しかし、本発明はこれに限定されず、たとえば、ガルバノコントローラ42に開始信号が入力されてからガルバノミラー41の位置が変更されるまでに時間差がある場合、調整時間設定部25が調整時間を設定する構成の平衡機能検査装置であってもよい。
【0078】
図15は、本発明の変形例4に係る平衡機能検査装置の同期タイミングを説明する図である。なお、変形例4に係る平衡機能検査装置は、図示していないが図1に示す平衡機能検査装置100と同じ構成であり、同じ構成については同じ符号を付して、詳細な説明を繰返さない。
【0079】
調整時間設定部25は、図15に示すように、ガルバノコントローラ42に開始信号が入力されてからガルバノミラー41の位置が変更され視標提示が開始されるまでに時間差があり、当該時間差を調整時間として設定する。具体的に、調整時間は、開始信号の立上がりタイミングから視標提示が開始されるタイミングまでの時間である。なお、図15に示すグラフでは、ガルバノミラー41の位置が変更され視標提示が開始されるタイミングを模式的にステップ信号として表現したが、これに限定されず、視標提示が開始されるタイミングが分かれば何れの信号であってもよい。
【0080】
ADボード22は、ビデオ入力ボード21から出力された画像取込信号を与えたタイミングに基づいて、ガルバノコントローラ42に視標Sの提示または位置の変更を開始させる開始信号(ガルバノ制御信号)を生成する。しかし、ADボード22が、ビデオ入力ボード21から出力された画像取込信号のある立上がりタイミングに、立上がりタイミングが一致する開始信号を生成しただけでは、調整時間だけ視標提示の開始が遅れるので、視刺激を与えた時点の眼球Eの画像を取得することができない。
【0081】
そこで、本変形例4に係るコンピュータ2は、ビデオ入力ボード21から出力された画像取込信号のある立上がりタイミングを、調整時間設定部25に設定した調整時間だけ遅らせて開始信号のタイミングと同期させる。これにより、画像取込信号のある立上がりタイミングは、図15に示すように、開始信号の立上がりタイミングではなく、視標提示開始の立上がりタイミングと同期することになる。よって、本変形例4に係る平衡機能検査装置は、視刺激を与えた時点である視標提示開始の立上がりタイミングにおける眼球Eの画像を常に取得することができる。
【0082】
なお、調整時間設定部25は、ビデオ入力ボード21に対して画像取込信号を与えるタイミングを調整時間だけ遅らせる構成を説明したが、ADボード22に対して開始信号のタイミングを調整時間だけ早める構成でもよい。つまり、調整時間設定部25は、画像取込信号を与えるタイミングと、開始信号のタイミングとを相対的に調整時間だけ遅らせることができればよい。
【0083】
以上のように、本変形例4に係る平衡機能検査装置は、ビデオ入力ボード21の画像取込タイミングを、調整時間設定部25に設定した調整時間だけ遅らせてガルバノミラー41の開始タイミングに同期させることで、視標提示部4固有の処理のずれを考慮することができ、視標Sの提示または位置の変更による視刺激を与えた時点の眼球の画像を常に取得することができる。なお、調整時間設定部25は、視標提示部4の構成(たとえばガルバノミラー41およびガルバノコントローラ42の構成や、レーザーポインタ3を直接移動させる構成)ごとに調整時間を設定しても、同じ構成でも製品ごとに調整時間を設定してもよい。
【0084】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0085】
1 撮像カメラ、2 コンピュータ、3 レーザーポインタ、4 視標提示部、5 スクリーン、6 外部クロック生成部、21 ビデオ入力ボード、22 A/Dボード、23 解析部、24 データ補間部、25 調整時間設定部、26 内部クロック生成部、41 ガルバノミラー、42 ガルバノコントローラ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15