(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0015】
図1は、第1実施形態に係る空気調和機の冷媒回路を示す系統図である。
図1では、気液分離器10と、圧縮機20と、を断面図として拡大図示している。
【0016】
空気調和機S1は、熱源側であって室外(非空調空間)に設置される室外ユニットUoと、利用側であって室内(空調空間)に設置される室内ユニットUiと、を備えている。本実施形態の空気調和機S1は、冷媒としてR32を用いている。
【0017】
空気調和機S1の冷媒回路は、気液分離器10と、圧縮機20と、四方弁30と、室外熱交換器40と、膨張弁50と、室内熱交換器60と、が環状に配管aで接続されている。圧縮機20、四方弁30、室外熱交換器40、及び膨張弁50は室外ユニットUoに設置され、室内熱交換器60は室内ユニットUiに設置されている。
【0018】
四方弁30は、冷房運転と暖房運転とで室内熱交換器60を通流する冷媒の向きを切り替える。つまり、暖房運転時には、圧縮機20から吐出される高温高圧の冷媒が室内熱交換器60に流入するように切替手段(図示せず)が切り替わる(
図1の実線参照)。一方、冷房運転時には、膨張弁50から流入する低温低圧の冷媒が室内熱交換器60に流入するように切替手段(図示せず)が切り替わる(
図1の破線参照)。
【0019】
室外熱交換器40は、室外ファン40fから送られてくる空気(室外空気)と冷媒との熱交換を行う。膨張弁50は、冷媒を減圧する減圧装置として機能する。室内熱交換器60は、室内ファン60fから送られてくる空気(室内空気)と冷媒との熱交換を行う。
【0020】
なお、圧縮機20、四方弁30、室外ファン40f、室内ファン60f及び膨張弁50の各動作は、センサ類(図示せず)やリモコン(図示せず)から入力される信号に基づいて、制御装置(図示せず)により制御される。
【0021】
気液分離器10は、容器本体11と、吸入管12と、遮蔽板13と、液戻し管14と、を備え、流入管a1から流入する気液二相冷媒(又はガス冷媒)を気液に分離するとともに、冷媒回路内の余剰冷媒を一時的に貯留する機能を有している。
【0022】
容器本体11は、冷媒を一時的に貯留するための容器である。容器本体11は、例えば鉄製であり、中空の円筒状部材の両端に半球状部材を溶接することにより形成される。
【0023】
また、容器本体11は、その軸線方向が略鉛直となるように設置される。このように設置することにより、吸入管12の開口部12pへ流入せず、容器本体11内に貯溜できる液冷媒の体積を最大にすることができる。
【0024】
圧縮機20は、気液分離器10の吸入管12及び液戻し管14を介して吸入した冷媒を圧縮し、高温高圧のガス冷媒を吐出する。圧縮機20は、外殻21(密閉容器)内の上部に配置された圧縮機構部22と、下部に配置されたモータ部23と、を備えている。また、圧縮機20の吸入側は、吸入管12を介して容器本体11に接続され、圧縮機20の吐出側は、吐出管a2を介して四方弁30に接続されている。
【0025】
なお、圧縮機20として、例えば、スクロール式、ロータリ式、スイング式、レシプロ式の圧縮機を用いることができる。
【0026】
流入管a1は容器本体11の上部を貫通し、流入管a1の開口部p1が容器本体11の内部に臨んでいる。
【0027】
吸入管12は、圧縮機20に向けてガス冷媒を供給するためのS字状の配管であり、容器本体11と圧縮機20とを接続している。吸入管12の一端は容器本体11の下部を貫通し、吸入管12の開口部12pが容器本体11の内部に臨んでおり、容器本体11内に蓄えられたガス冷媒が流入する流入口となっている。吸入管12の開口部12pは、容器本体11の内部の上部域に位置している。
【0028】
吸入管12の他端は圧縮機20の外殻21の上部を貫通し、圧縮機構部22に接続されている。つまり、吸入管12の開口部12qは、ガス冷媒が圧縮機構部22に流入する流入口となっている。
【0029】
吸入管12は、一端が圧縮機構部22に接続される直管部12aと、この直管部12aの他端から延びる曲管部12bと、を有している。
【0030】
なお、
図1に示すように吸入管12をS字状に形成することで、圧縮機20と気液分離器10とを近接させ、室外ユニットUo内での設置スペースを小さくすることができる。
【0031】
遮蔽板13は、流入管a1の開口部p1と、吸入管12の開口部12pとの間に介在している。なお、
図1では省略しているが、遮蔽板13は、その位置を固定するための支持部を複数有し、それぞれの支持部が容器本体11の内壁面に溶接されている。
【0032】
図1に示すように、流入管a1の開口部p1と、吸入管12の開口部12pとの間に介在するように遮蔽板13を設置することによって、流入管a1から容器本体11内に流入する冷媒が、吸入管12に直接入らないようにしている。つまり、流入管a1から気液二相冷媒が容器本体11に流入した場合でも容器本体11内で気液分離し、ガス冷媒のみが開口部12pから吸入管12に流入するようになっている。これによって、圧縮機20での液圧縮を防止することができる。なお、液圧縮とは、圧縮機に液冷媒のかたまり(つまり、大域的に連続した状態の液冷媒)が流入し、当該液冷媒の非圧縮性により圧縮機に過大な負荷がかかることを意味する。
【0033】
空気調和機S1の冷媒回路は、気液分離器10内の液冷媒を圧縮機20に供給するための液戻し管14を備えている。液戻し管14は、容器本体11底部の半球状部材を貫通し、その一端である開口部14pが容器本体11底部の内部に臨んでいる。ここで、液戻し管14の開口部14pは、吸入管12の開口部12pよりも低い場所に位置している。これによって、容器本体11内部の底部から貯溜していく液冷媒を開口部14pから流出させることができる。
【0034】
また、液戻し管14は、一端14pから他端14qに向かって、大径部14c、絞り部14b、ノズル部14a(小径部)からなる。液戻し管14のノズル部14aは、吸入管12の曲管部12bを貫通し、吸入管12の直管部12aと略同軸となるように下方に延びている。そして、液戻し管14の他端である開口部14qは、吸入管12の内部に臨んでいる。
【0035】
次に、空気調和機S1の暖房運転時での動作について説明する。
図1に示す実線矢印は、暖房運転時において冷媒が通流する向きを示している。
【0036】
圧縮機20の吐出温度は外部環境によって変化する。例えば、室外空気が低温であって圧縮機20の圧縮比が高い場合、圧縮機20の吐出温度が高くなる。この場合、吐出温度の上昇を抑制するために、圧縮機20への液戻しが必要となる。一方、室外空気が低温ではなく、圧縮機20の圧縮比が低い場合、圧縮機20の吐出温度は相対的に低くなる。この場合、吐出温度の上昇を抑制する必要がないため、圧縮機20への液戻しは不要である。以下、液戻しが必要である場合と、液戻しが不要である場合に分けて、説明する。
【0037】
まず、暖房運転を行う際に圧縮機20への液戻しが不要である場合について説明する。室外空気の温度が高い場合、圧縮機20の圧縮比が小さく、圧縮機20の吐出温度はさほど上昇しないため、圧縮機20への液戻しは不要である。かかる場合、気液分離器10には液冷媒が無い状態とし、圧縮機20にはガス冷媒が流れる。圧縮機20で圧縮されて高温高圧となったガス冷媒は、四方弁30を介して、凝縮器として機能する室内熱交換器60に流れる。室内熱交換器60を通流する高温高圧のガス冷媒は、室内ファン60fにより送られてくる室内空気と熱交換し、凝縮する。
【0038】
蒸発器として機能する室外熱交換器40には、膨張弁50で減圧された低温低圧の気液二相冷媒が流入する。室外熱交換器40を通流する気液二相冷媒は、室外ファン40fにより送られてくる室外空気と熱交換して蒸発し、低温低圧のガス冷媒となる。
【0039】
室外熱交換器40から流出した低温低圧のガス冷媒は、四方弁30及び流入管a1を介して気液分離器10に流入する。気液分離器10に流入したガス冷媒は、開口部12pから吸入管12に流入するとともに、開口部14pから液戻し管14にも流入し、圧縮機20に還流する。
【0040】
次に、暖房運転を行う際に、圧縮機20への液戻しが必要である場合について説明する。室外空気の温度が低い場合、圧縮機20の圧縮比が大きく、圧縮機20の吐出温度が上昇するため、圧縮機20への液戻しが必要となる。
【0041】
かかる場合、気液分離器10に液冷媒が在る状態とし、圧縮機20に二相冷媒を流す。圧縮機20で圧縮されて高温高圧となったガス冷媒は、四方弁30を介して、凝縮器とし機能する室内熱交換器60に流入する。室内熱交換器60を通流するガス冷媒は、室内ファン60fにより送られてくる室内空気と熱交換し、凝縮する。
【0042】
蒸発器として機能する室外熱交換器40には、膨張弁50で減圧された低温低圧の気液二相冷媒が流入する。室外熱交換器40を通流する気液二相冷媒は、室外ファン40fにより送られてくる室外空気と熱交換して一部が蒸発しきらない、気液二相冷媒となる。
【0043】
室外熱交換器40から流出した気液二相冷媒は、四方弁30及び流入管a1を介して気液分離器10の容器本体11に流入する。容器本体11に流入した気液二相冷媒は、ガス冷媒と液冷媒との重力差によって気液分離される。
【0044】
さらに、ガス冷媒は、開口部12pから吸入管12に流れ、開口部12qから圧縮機20の吸入側に流入する。一方、液冷媒は、開口部14pから液戻し管14に流れ、開口部14qから噴霧流として圧縮機20の吸入側(吸入空間79)に流入する。
【0045】
次に、冷房運転時の動作を説明する。
図1に示す破線矢印は、冷房運転時において冷媒が通流する向きを示している。
【0046】
冷房運転時は、暖房運転時と比較して室内空気と室外空気との温度差が小さい。つまり、圧縮機20の圧縮比も小さく、圧縮機20の吐出温度が暖房運転時ほど上昇しない。したがって、冷房運転時には、吐出温度上昇を抑制する必要はなく、圧縮機20への液戻しも必要ない。
【0047】
圧縮機20で圧縮されて高温高圧となったガス冷媒は、四方弁30を介して凝縮器として機能する室外熱交換器40に流入する。室外熱交換器40を通流するガス冷媒は、室外ファン40fにより送られてくる室外空気と熱交換し、凝縮する。
【0048】
室外熱交換器40から流出した中温高圧の冷媒は、膨張弁50で減圧され、低温低圧の気液二相冷媒となり、蒸発器として機能する室内熱交換器60に流入する。室内熱交換器60を通流する気液二相冷媒は、室内ファン60fにより送られてくる室内空気と熱交換して蒸発し、低温低圧のガス冷媒となる。
【0049】
室内熱交換器60から流出した低温低圧のガス冷媒は、四方弁30及び流入管a1を介して気液分離器10に流入する。気液分離器10に流入したガス冷媒は、開口部12pから吸入管12に流入するとともに、開口部14pから液戻し管14にも流入し、圧縮機20に還流する。
【0050】
次に、
図2乃至
図4を用いて、スクロール式圧縮機を対象として、圧縮機構部22に形成される圧縮室について説明する。
【0051】
図2は、スクロール式圧縮機の縦断面図である。スクロール式圧縮機20は、固定スクロール70と、旋回スクロール72と、旋回スクロール72を回転するクランク軸74と、クランク軸を軸支するフレーム75と、旋回スクロール72の公転運動は許容し自転を防止するオルダムリング76と、クランク軸74を駆動するモータ77からなる。
【0052】
図3は、スクロール式圧縮機の横断面図であり、渦巻体の外側に形成される圧縮室を説明する図である。
図3は、旋回スクロール72の渦巻体72aの外側に形成される密閉空間が吸入を完了した状態であり、固定スクロール70の渦巻体70aと旋回スクロール72aは接点80aで吸入空間79を閉じて、圧縮室最大密閉空間81a(吸入完了密閉空間)を形成する。
【0053】
図4は、スクロール式圧縮機の横断面図であり、渦巻体の外側に形成される圧縮室を説明する図である。
図4は、旋回スクロール72の渦巻体72aの内側に形成される密閉空間が吸入を完了した状態であり、固定スクロール70の渦巻体70aと旋回スクロール72aは接点80bで吸入空間79を閉じて、圧縮室最大密閉空間81b(吸入完了密閉空間)を形成する。
【0054】
液戻し管14の開口部14qは、
図3及び
図4に示す圧縮機構部22の接点80a及び接点80bの近傍に配置され、圧縮機構部22の圧縮室空間に向けて液冷媒を噴霧流として供給するためのノズルとして機能する。
【0055】
液戻し管14は、大径部14cと、大径部よりも他端14q側に位置するノズル部14aと、大径部14cとノズル部14aとの間に位置する絞り部14bと、を有し、大径部14cの内径は、ノズル部14aの内径より大きい。このような液戻し管14により、液冷媒を噴霧させることができる。
【0056】
吸入過程では、吸入管直管部12a、吸入口78及び吸入口凹部78aを通って、ガス冷媒または噴霧流冷媒が流路を曲がりながら吸入空間79に流入する。液戻し管ノズル開口部14qは、圧縮室への噴霧流のスムーズな流入を図るため、吸入管直管部12aの軸心から吸入口中心への方向を示す図中矢印の方向に開口するように先端が斜めカットされている。つまり、液戻し管ノズル開口部14qは圧縮室の入口(圧縮室最大密閉空間81a及び圧縮室最大密閉空間81b)の方向に開口している。
【0057】
噴霧流の液冷媒は、液体の表面積が大きいために蒸発速度が速い。その結果、圧縮機構部22に形成される圧縮室に流入する手前側で液冷媒が蒸発してガス冷媒になる。したがって、液冷媒が蒸発する際の蒸発潜熱によって、圧縮機20の温度を下げることができる。
【0058】
図5は、液戻し管を用いない場合における吸入管内の写真である。吸入管内の冷媒の流動様式を観察するため、内径が11.2mmである吸入管をガラス管で製作し、圧縮機吐出温度が高くなる室外温度−15℃の暖房条件での冷媒の流動を撮影した。流動様式の遷移を観察するため、吸入管直管部を長くとっている。
【0059】
液戻し管14を有しない気液分離器10を用い、二相状態の冷媒を圧縮機20に吸入させる場合、吸入管12に直接、二相状態の冷媒を流入させなければならない。
【0060】
吸入管12に液冷媒を含む二相状態の冷媒が流入すると、吸入管12の下流に向かうにつれて内壁面に波状の液膜(気泡を含む)が形成され、径方向中心付近には液滴を含むガスが通流する流動様式(つまり、環状噴霧流)となる。
【0061】
つまり、液戻し管を用いない場合、環状噴霧流のうち環状の液冷媒がかたまりとして圧縮機20に流入することになる。すると、圧縮機20での圧縮過程(容積の縮小過程)において液圧縮を起こしたり、圧縮機構部22の摺動部の潤滑油を洗い流したりして、圧縮機20の信頼性を低下させる。
【0062】
図6は、第1実施形態に係る液戻し管を用いた場合における吸入管内の写真である。気液分離器10の容器本体11内部の底部に貯溜している液冷媒が液戻し管14の開口部14pから流入する。
【0063】
液冷媒に比べ、ガス冷媒は管内流れの圧力損失が大きい。そのため、吸入管12におけるガス冷媒の圧力損失による負圧が、液戻し管14のノズル開口部14qに発生し、液戻し管14に液冷媒が吸入される。本実施形態では、液冷媒を吸入する液戻し管14の開口部14qを吸入管12内に設けて、液戻し管14の液冷媒を吸入管12内に流出させている。
【0064】
図6は、液戻し管14の液冷媒を吸入管12内に流出させたときの状態を示している。
図6に示すように、吸入管12内を通流するガス冷媒中に開口部14qから流出した液冷媒は、液柱を形成した後、分裂してガス冷媒中に浮遊し、噴霧流となる。噴霧流は、ノズル開口部14qから、吸入管内径(11.2mm)の5倍(56mm)程度まで維持され、その下流では
図5と同じ環状噴霧流に遷移している。
【0065】
圧縮機構部22の圧縮室で圧縮される場合、液冷媒が噴霧流の状態である場合、液体の表面積が大きく圧縮過程での噴霧流の液状態からガス状態への変化が速いため(蒸発速度が速いため)、信頼性を損なう液圧縮を防止することができる。また、液冷媒がかたまりとして圧縮機20に流入し、圧縮機構部22の摺動部の潤滑油を洗い流すことも防止できる。従って、液冷媒を噴霧流の状態で圧縮機構部22の圧縮室に流入させることが望ましい。
【0066】
上記観察結果から、噴霧流を維持するためには、液戻し管ノズル開口部14qと、形成される圧縮室最大密閉空間81a及び81bの境界である接点80a及び接点80bとの流路長さ(流路断面の略中心を通る線に沿う長さ)は、液戻し管ノズル開口部14qが臨む吸入管直管部12aの内径の略5倍以内にする必要があることがわかった。
【0067】
液戻し管14のノズル部14aを吸入管12の内部に設けると、吸入管12の流路断面積と液戻し管ノズル部14aの流路断面積の和が減少し、圧力損失は増加する。本実施形態では、液戻し管14に大径部14cを設けることにより、この液戻し管14の大径部14cと吸入管12の流路断面積の和を吸入管12単独よりも大きくし、気液分離器10と圧縮機20の間の配管の圧力損失を、液戻し管14を用いない場合よりも低減させている。
【0068】
容器本体11内の冷媒液面wの高さは、ガス冷媒側の開口部12pでの入口損失と、吸入管12での摩擦損失と、液冷媒側の開口部14pでの入口損失と、液戻し管14での摩擦損失と、冷媒液面wと液戻し管14の開口部14qとの位置ヘッド差と、の圧力バランス式から決まる。たとえば、液冷媒側の開口部14pでの入口損失と、液戻し管14での摩擦損失との和が、ガス冷媒側の開口部12pでの入口損失と、吸入管12での摩擦損失との和より、大きい場合、冷媒液面wの高さは高くなる。
【0069】
また、前記したように、吸入管12と略同軸に液戻し管ノズル部14aを設けることにより、液戻し管ノズル部14aと吸入管12の内周面との距離を径方向において均等にしている。これによって、液戻し管14の内壁面に液膜が形成されるタイミングを遅らせ、噴霧流の流動様式を維持することができる。
【0070】
気液分離器10内の底部に、空気調和機S1の冷媒回路を冷媒と共に循環する油(潤滑油)が溜まった場合、ガス冷媒と共に、液戻し管14の開口部14pから流入し、圧縮機20の圧縮機構部22に戻される。
【0071】
以上説明したとおり、本実施形態によれば、二相状態の冷媒を圧縮機20に流入させることで、断熱指数が大きく、圧縮された場合に温度が上昇しやすいR32を冷媒として用いた場合でも、圧縮機20の吐出温度を適切に下げることができる。つまり、圧縮機20に使用する樹脂材料や軸受などを、耐熱性に優れた特別な仕様とすることなく、環境負荷が極めて小さい冷媒であるR32を用いることができる。また、圧縮機20のモータ部23に希土類磁石(例えば、ネオジム磁石)を用いた場合でも、圧縮機20の吐出温度を適切に抑制することで、高温減磁を抑制することができる。
【0072】
そして、噴霧流の状態の液冷媒を圧縮機20に流入させることで、液冷媒のかたまりが圧縮室に流入しないため、圧縮機20で液圧縮が起こったり、圧縮機20の摺動部の潤滑油を洗い流したりすることを防止することができる。
【0073】
第2実施形態に係る空気調和機は、圧縮機として、ロータリ式圧縮機を用いている。なお、第1実施形態と異なる部分について説明し、第1実施形態と重複する部分については説明を省略する。
図7は、第2実施形態に係る空気調和機S2の冷媒回路を示す系統図である。
【0074】
圧縮機200は、外殻21(密閉容器)に収められた下部に配置された圧縮機構部220と、上部に配置されたモータ部23と、を備えている。第1実施形態とは圧縮機構部220とモータ部23の配置が上下逆であり、気液分離器100の吸入管120と液戻し管140の形状が第1実施形態と異なる。
【0075】
吸入管120はL字状に形成され、開口部120qは圧縮機200の外殻21の側面を貫通し、圧縮機構部220の側面から、吸入通路120rに接続されている。
【0076】
液戻し管140もL字状に形成され、噴霧流の液冷媒を圧縮機200に供給することによって、圧縮機200での液圧縮を防止しつつ、液冷媒の蒸発潜熱で圧縮機200内の温度(つまり、圧縮機200の吐出温度)を下げることができる。
【0077】
液戻し管140は、容器本体11底部の半球状部材を貫通し、その一端である開口部140pが容器本体11底部の内部に臨んでいる。これによって、容器本体11内部の底部から貯溜していく液冷媒を開口部140pから流入させることができる。
【0078】
また、液戻し管140は、一端140pから他端140qに向かって、大径部140c(直管部と曲がり部)、絞り部140b、ノズル部140a(小径部)からなる。その液戻し管ノズル部140aは、吸入管120の曲管部120bを横から貫通し、直管部120aと略同軸となるように横方向に延びている。そして、液戻し管140の他端である開口部140qは、吸入通路120rの内部に臨んでいる。
【0079】
液戻し管140の開口部140qは、後述する圧縮機構部220に形成される接点95の近傍に配置され、圧縮機構部220の圧縮室空間に向けて液冷媒を噴霧流として供給するためのノズルとして機能する。
【0080】
また、液戻し管140の開口部140qは圧縮室への噴霧流のスムーズな流入を図るため、流入方向に向けて開口するように先端が斜めにカットされている。
【0081】
次に、
図8、
図9を用いて、ロータリ式圧縮機を対象として、圧縮機構部220に形成される圧縮室について説明する。
図8は、ロータリ式圧縮機の縦断面図である。
図9は、ロータリ式圧縮機の横断面図である。ロータリ式圧縮機200は、シリンダ85と、ローラ86と、ベーン87(
図9参照)と、主軸受88と、副軸受89と、ローラ86を回転するクランク軸90と、クランク軸を駆動するモータ91からなる。
【0082】
図9は、シリンダ85、ローラ86、ベーン87で形成される密閉空間が吸入を完了した状態を示す。この時、ローラ86とシリンダ85の吸入通路12r0の口との接点95において、吸入空間を閉じて、圧縮室最大密閉空間96(吸入完了密閉空間)を形成する。
【0083】
前述したように、液戻し管ノズル開口部140qは、圧縮室への噴霧流のスムーズな流入を図るため、接点95の方向に開口するように先端が斜めカットされている。
【0084】
また、液戻し管ノズル開口部140qと、形成される圧縮室最大密閉空間96の接点95との流路長さは、液戻し管ノズル開口部140qが臨む吸入通路120rの内径の略5倍以内である。この理由については第1実施形態で述べたとおりである。
【0085】
吸入管120内を通流するガス冷媒中に開口部140qから流出した液冷媒は、液柱を形成した後、分裂してガス冷媒中に浮遊し、噴霧流となる。
【0086】
噴霧流の液冷媒は、液体の表面積が大きいために蒸発速度が速い。その結果、圧縮機構部220に形成される圧縮室に流入する手前側で液冷媒が蒸発してガス冷媒になる。したがって、液冷媒が蒸発する際の蒸発潜熱によって、圧縮機200の冷媒温度(つまり、吐出温度)を下げることができる。また、噴霧流の液冷媒が蒸発しきらず、圧縮機構部220の圧縮室で圧縮される場合でも、圧縮過程での噴霧流の液状態からガス状態への変化が速いため(蒸発速度が速いため)、信頼性を損なう液圧縮を防止できる。
【0087】
つまり、冷媒としてR32を使用した場合であっても、圧縮機200の吐出温度を抑えつつ、圧縮機200での液圧縮を防止することができる。また、液冷媒がかたまりとして圧縮機200に流入し、圧縮機構部22の摺動部の潤滑油を洗い流すことも防止できる。
【0088】
第1実施形態のスクロール式圧縮機は、その機構上、圧縮室の容積が一定の容積を残すのに対して、本実施形態であるロータリ式圧縮機は、その機構上、圧縮機の容積がゼロとなる。したがって、圧縮機への液戻りに対して、ロータリ式圧縮機の方が、液圧縮の可能性が高い。本実施形態の空気調和機によれば、噴霧流の液冷媒を戻すことによる液圧縮を抑え、信頼性を向上させることができる。
【0089】
以上、本発明に係る空気調和機について各実施形態により説明したが、本発明の実施態様はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変更などを行うことができる。
【0090】
気液分離器10に遮蔽板13を設置する場合について説明したが、これに限らない。すなわち、気液分離器10の容器本体11内における流入管a1の軸線と、吸入管12の軸線とをずらすことによって、遮蔽板13を省略することができる。なお、流入管a1の開口部p1と、吸入管12の開口部12pとをそれぞれ気液分離器10の内壁面に対向させ、互いに反対向きとなるように配置することが好ましい。これによって、流入管a1の開口部p1から気液二相冷媒が流入した場合でも、気液分離されていない冷媒が開口部12pから吸入管12に流入することを防止できる。
【0091】
また、吸入管12が容器本体11の下部を貫通する場合について説明したが、これに限らない。すなわち、吸入管12(の一部)をU字状の配管にして、その一端側が容器本体11の側部又は上部を貫通する構成としてもよい。
【0092】
また、冷媒としてR32を用いる場合について説明したが、これに限らない。例えば、冷媒として、R32を50重量%以上含む混合冷媒や、吐出温度対策が必要となる他の冷媒を用いてもよい。