特許第5981921号(P5981921)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5981921小胞体シャペロンプロモータを用いた外来遺伝子を発現するトランスジェニック鳥類
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5981921
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】小胞体シャペロンプロモータを用いた外来遺伝子を発現するトランスジェニック鳥類
(51)【国際特許分類】
   A01K 67/027 20060101AFI20160818BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20160818BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   A01K67/027ZNA
   C12N15/00 A
   C12P21/02 C
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-531306(P2013-531306)
(86)(22)【出願日】2012年8月27日
(86)【国際出願番号】JP2012071609
(87)【国際公開番号】WO2013031734
(87)【国際公開日】20130307
【審査請求日】2015年7月31日
(31)【優先権主張番号】特願2011-191926(P2011-191926)
(32)【優先日】2011年9月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】京極 健司
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 裕幸
【審査官】 上條 肇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−54391(JP,A)
【文献】 特開平11−243959(JP,A)
【文献】 LILLICO S.G. et al.,Oviduct-specific expression of two therapeutic proteins in transgenic hens.,Proc Natl Acad Sci USA.,2007年,Vol.104, No.6,p.1771-1776
【文献】 WANG A.P. et al.,Recombinant avian adeno-associated virus-mediated oviduct-specific expression of recombinant human t,Poult Sci.,2008年,Vol.87, No.4,p.777-782
【文献】 BYUN S.J. et al.,Oviduct-specific enhanced green fluorescent protein expression in transgenic chickens.,Biosci.Biotechnol.Biochem.,2011年 4月,Vol.75, No.4,p.646-649
【文献】 KALERI H.A. et al.,Oviduct-specific expression of tissue plasminogen activator in laying hens.,Genet.Mol.Biol.,2011年 4月,Vol.34, No.2,p.231-236
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 67/027
C12N 15/09 − 15/90
C12P 21/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CiNii
BIOSIS(DIALOG)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
輸卵管を構成する細胞の染色体上に、
(a)鳥類の小胞体シャペロンプロモータ、及び
(b)外来有用タンパク質をコードする核酸塩基配列
が機能的に連結した核酸塩基配列を含むトランスジェニック鳥類。
【請求項2】
小胞体シャペロンプロモータがニワトリ由来である請求項1に記載のトランスジェニック鳥類。
【請求項3】
小胞体シャペロンプロモータが、ER stress response elementモチーフを有する、請求項1又は2に記載のトランスジェニック鳥類。
【請求項4】
ER stress response elementモチーフを有する小胞体シャペロンプロモータが、glucose−regulated protein78プロモータ、又はタンパク質ジスルフィドイソメラーゼプロモータである、請求項3に記載のトランスジェニック鳥類。
【請求項5】
宿主が家禽である請求項1〜4のいずれかに記載のトランスジェニック鳥類。
【請求項6】
家禽がニワトリである請求項5に記載のトランスジェニック鳥類。
【請求項7】
外来有用タンパク質がネコ由来タンパク質である請求項1〜6のいずれかに記載のトランスジェニック鳥類。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のトランスジェニック鳥類から外来有用タンパク質を回収する工程を含む、外来有用タンパク質の製造方法。
【請求項9】
輸卵管を構成する細胞の染色体上に、
(a)鳥類の小胞体シャペロンプロモータ、及び
(b)外来有用タンパク質をコードする核酸塩基配列
が機能的に連結した核酸塩基配列を導入する工程を含む、トランスジェニック鳥類の作製方法。
【請求項10】
更に、性成熟前に、血中の外来有用タンパク質の発現量を指標として、トランスジェニック鳥類の選別を行う工程を含む、請求項9に記載のトランスジェニック鳥類の作製方法。
【請求項11】
宿主が家禽である請求項9又は10に記載のトランスジェニック鳥類の作製方法。
【請求項12】
家禽がニワトリである請求項11に記載のトランスジェニック鳥類の作製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスジェニック鳥類、外来有用タンパク質の製造方法、及びトランスジェニック鳥類の作製方法の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
近年、トランスジェニック動物による医薬品タンパク質の生産研究が盛んに行われている。ヤギ、ヒツジでは乳中に外来有用タンパク質の蓄積による生産が試みられ、すでに実用段階である。しかし、ヤギ、ヒツジなどの哺乳動物は広い飼育スペースが必要であり、性成熟して生産ラインが確立するまでに長い期間がかかるという欠点がある。これに対しニワトリなどの鳥類では卵白中に外来有用タンパク質を蓄積することによる生産が試みられている。ニワトリは広い飼育スペースを必要とせず、産卵まで6ヶ月と短く、長年の食経験から安全性が確認されている点が有用である。卵白中への外来有用タンパク質の蓄積には、オボアルブミンプロモータ(特許文献1)やオボムコイドプロモータ(特許文献2)など、卵白に局在するタンパク質の部位特異的プロモータが用いられることが多い。このほかにも全身で発現させるアクチンプロモータを使用している場合もある(特許文献3)。
【0003】
元来、卵白中に蓄積されるタンパク質のプロモータは輸卵管特異的な遺伝子発現を誘導し、卵白中に外来有用タンパク質を蓄積させるためには非常に有効なプロモータである。しかし、遺伝子組換え技術により外来有用タンパク質を卵白中に発現させる場合、輸卵管特異的発現であるがゆえに、ニワトリが産卵するまで、外来有用タンパク質の発現量を確認することは不可能である。なお、輸卵管以外の血液などでは、外来有用タンパク質の発現量を確認できない(非特許文献1、Fig3)。これは、性成熟するまでニワトリの動物工場としての生産能力が把握できず、遺伝子導入したニワトリ全てを性成熟するまで飼育する必要があることを意味する。したがって、生産性の低いニワトリを性成熟するまで飼育するという手間とコストがかかり大きな問題となる。
【0004】
一方、アクチンプロモータを用いた場合は、ニワトリの全身の細胞で発現するため、血中濃度を測定することである程度の生産量が予想できる。このため、性成熟する前に高発現個体を選抜することが可能である。しかし、全身発現の場合は、外来有用タンパク質やその生理機能により、ニワトリに大きな負荷がかかることが問題となる。ニワトリに対する大きな負荷として、孵化率の低下、孵化した個体の生存率の低下、生殖能力の低下、産卵能力の低下などの健康影響が知られている。ニワトリに健康影響がある場合、生産コストに大きな影響を与えると予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−236626号公報
【特許文献2】特表2005−536984号公報
【特許文献3】特開2007−89578号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Proc. Natl. Acad. Sci. USA; 104 20071771-1776
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
トランスジェニック鳥類でのタンパク質生産において輸卵管特異的発現では性成熟する前に卵白中の発現量の予測は不可能であり、発現量の低い個体も性成熟まで飼育する必要がある。また、アクチンプロモータでは全身での外来有用タンパク質の発現が高いことからニワトリに大きな負担がかかり、治療する必要が生じ、死亡することもある。これらの事情によりコストがかかることは生産にとって大きな問題である。上記の問題点等に鑑みて、本発明の目的は、トランスジェニック鳥類において、卵白中の外来有用タンパク質の生産量を、オボアルブミンプロモータやアクチンプロモータを用いた場合と同等以上の発現量とし、かつ性成熟する前に発現量を予測できる程度の発現量を達成しながら、輸卵管以外での発現量を低く抑えて鳥類への大きな負荷を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、小胞体シャペロンタンパク質のプロモータが、鳥類の卵白中に外来有用タンパク質を発現させることができ、更に、オボアルブミンまたはアクチンプロモータと同等量以上の外来有用タンパク質の卵白中の発現が可能で、しかも、鳥類が性成熟する前に卵白中の発現量が予測できる程度に輸卵管以外の発現量が低く抑えられ、かつ鳥類への大きな負荷を低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、輸卵管を構成する細胞の染色体上に、(a)鳥類の小胞体シャペロンプロモータ、及び(b)外来有用タンパク質をコードする核酸塩基配列が機能的に連結した核酸塩基配列を含むトランスジェニック鳥類に関する。小胞体シャペロンプロモータはニワトリ由来であることが好ましく、ER stress response elementモチーフを有することがより好ましく、glucose−regulated protein78プロモータ、又はタンパク質ジスルフィドイソメラーゼプロモータであることが更に好ましい。宿主は家禽であることが好ましく、ニワトリであることがより好ましい。外来有用タンパク質はネコ由来タンパク質であることが好ましい。
【0010】
本発明は、また、前記のトランスジェニック鳥類から外来有用タンパク質を回収する工程を含む、外来有用タンパク質の製造方法に関する。
【0011】
本発明は、また、輸卵管を構成する細胞の染色体上に、(a)鳥類の小胞体シャペロンプロモータ、及び(b)外来有用タンパク質をコードする核酸塩基配列が機能的に連結した核酸塩基配列を導入する工程を含む、トランスジェニック鳥類の作製方法に関する。前記作製方法において、更に、性成熟前に、血中の外来有用タンパク質の発現量を指標として、トランスジェニック鳥類の選別を行う工程を含むことが好ましい。宿主は家禽であることが好ましく、ニワトリであることがより好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のトランスジェニック鳥類は、有用タンパク質をコードする外来遺伝子の発現のために小胞体シャペロンプロモータを使用することにより、産卵する前に発現量が予想でき、全身発現量が低く抑えられ、オボアルブミンプロモータ、アクチンプロモータを使用した場合と同程度の、外来有用タンパク質の卵白中への蓄積量を達成できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のトランスジェニック鳥類は、輸卵管を構成する細胞の染色体上に、(a)鳥類の小胞体シャペロンプロモータ、及び(b)外来有用タンパク質をコードする核酸塩基配列が機能的に連結した核酸塩基配列を含む。
【0014】
トランスジェニック鳥類の宿主とする鳥類は限定されないが、家畜として利用可能な家禽鳥類であることが好ましい。家禽鳥類としては、ニワトリ、ウズラ、七面鳥、カモ、ダチョウ、アヒル等をあげることができる。ニワトリやウズラは入手が容易で、産卵種としても多産であり、卵も大きく、安全に大量飼育を行う方法が確立している点で特に好ましい。なかでも、ニワトリであることが最も好ましい。
【0015】
トランスジェニック鳥類として、G0トランスジェニックキメラ鳥類、G1トランスジェニック鳥類、及びG2以降世代のトランスジェニック鳥類が挙げられる。
【0016】
小胞体シャペロンプロモータとは小胞体シャペロンタンパク質を発現させる機能を持つプロモータ配列であれば特に限定されないが、好ましくは鳥類の小胞体シャペロンプロモータであり、より好ましくは宿主由来の小胞体シャペロンプロモータであり、最も好ましくはニワトリ由来の小胞体シャペロンプロモータである。
【0017】
小胞体は真核生物の細胞にあるオルガネラの一つであり、分泌タンパク質及び膜タンパク質のほとんどはここで合成される。また、合成されたタンパク質のフォールディングの場としても重要である。小胞体内にはこれら分泌タンパク質や膜タンパク質のフォールディングに関与するシャペロンが存在する。小胞体シャペロンタンパク質の例としてはGlucose−Regulated Protein 78(GRP78/BiP)、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)などが挙げられる。
【0018】
GRP78は小胞体におけるタンパク質輸送や小胞体品質管理機構において中心的な役割を担っている。その機能の一部として新生タンパク質に結合し凝集を抑制してフォールディングを促進するというシャペロンの役割も持つ。
【0019】
PDIは小胞体に存在する酸化還元酵素である。タンパク質のジスルフィド結合の形成と掛け替えを行うことによってタンパク質のフォールディングを触媒する。また、非天然型のジスルフィド結合を形成した変性タンパク質だけでなく、ジスルフィド結合を持たないタンパク質の高次構造形成というシャペロンとしての役割も有する。PDIはラットにおける研究で肝臓、甲状腺、胃などの臓器で高発現しており、筋肉や心臓ではほとんど発現していないという報告がある(J.Histochemistry and Cytochemistry 1996 44 751)。しかし、小胞体シャペロンタンパク質が、卵白タンパク質を生産する鳥類輸卵管細胞において発現するという示唆や記載はなかった。以上のように小胞体シャペロンは細胞内で重要な役割を担っている。
【0020】
GRP78、及びPDIの小胞体シャペロンのプロモータは、ERSE(ER stress response element)と呼ばれるモチーフを持つ。なお、ここでいうプロモータとは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節するDNA上の領域のことである。また、プロモータにはプロモータからの転写を促進するエンハンサーも含む。ERSEモチーフはCCAATとCCACG配列の間に9個の任意の塩基配列を含み、CCAATNCCACGと表される。この配列が1塩基異なるだけで転写活性が落ちることから、これらのプロモータにとって重要なモチーフであると考えられている(J.Biological Chemistry 1998 273 33741)。上記二つの小胞体シャペロンプロモータ以外にERSEモチーフを持つことが知られている小胞体シャペロンプロモータとしては、カルレティキュリンなどが挙げられる。このようなERSEモチーフを有する小胞体シャペロンプロモータであれば、GRP78やPDIと同様な機能を有し得ることは、当業者に周知の事項である。
【0021】
GRP78の小胞体シャペロンプロモータとしては、配列表における配列番号3の塩基配列からなるプライマー、及び配列表における配列番号4の塩基配列からなるプライマーを利用し、ホワイトレグホンのゲノムを鋳型としてPCRにより増幅される塩基配列に含まれる配列が挙げられる。具体的には、例えば配列表における配列番号1の塩基配列が挙げられる。
【0022】
PDIの小胞体シャペロンプロモータとしては、配列表における配列番号5の塩基配列からなるプライマー、及び配列表における配列番号6の塩基配列からなるプライマーを利用し、ホワイトレグホンのゲノムを鋳型としてPCRにより増幅される塩基配列に含まれる配列が挙げられる。具体的には、例えば配列表における配列番号2の塩基配列が挙げられる。
【0023】
また、鳥類の小胞体シャペロンプロモータは、配列表の配列番号1または2に記載のDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであってもよい。
【0024】
また、鳥類の小胞体シャペロンプロモータは、配列表の配列番号1または2に記載の塩基配列と85%以上の配列同一性を有するDNAであってもよい。
【0025】
ここで、「配列表の配列番号1または2に記載のDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA」とは、配列表の配列番号1または2に示した塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAをプローブとして、ストリンジェントな条件下にコロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法、あるいはサザンハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAを意味する。
【0026】
ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning,A laboratory manual,second edition(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)等に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、「ストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA」とは、例えば、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウムよりなる)を用い、65℃の条件下でフィルターを洗浄することにより取得できるDNAが挙げられる。好ましくは65℃で0.5倍濃度のSSC溶液で洗浄、より好ましくは65℃で0.2倍濃度のSSC溶液で洗浄、更に好ましくは65℃で0.1倍濃度のSSC溶液で洗浄することにより取得できるDNAである。
【0027】
以上のようにハイブリダイゼーション条件を記載したが、これらの条件に特に制限されない。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで最適なストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0028】
上記の条件にてハイブリダイズ可能なDNAとしては、配列番号1または2に示されるDNAと、配列同一性が70%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、更により好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上のDNAを挙げることができる。
【0029】
ここで、「配列同一性(%)」とは、対比される2つのDNAを最適に整列させ、核酸塩基(例えば、A、T、C、G、U、またはI)が両方の配列で一致した位置の数を比較塩基総数で除し、そして、この結果に100を乗じた数値で表される。
【0030】
配列同一性は、例えば、以下の配列分析用ツールを用いて算出し得る:
GCG Wisconsin Package(Program Manual for The Wisconsin Package,Version8,1994年9月,Genetics Computer Group,575 Science Drive Medison,Wisconsin,USA 53711;
Rice,P.(1996)Program Manual for EGCG Package,Peter Rice,The Sanger Centre,Hinxton Hall,Cambridge,CB10 1RQ,England)、及び、
the ExPASy World Wide Web分子生物学用サーバー(Geneva University Hospital and University of Geneva,Geneva,Switzerland)。
【0031】
外来有用タンパク質は特に限定されないが、分泌系タンパク質、タンパク産業上有用な抗体、生理活性タンパク質、酵素などを用いることができる。例えば、エリスロポエチン、G−CSF、トロンボポエチン、インターフェロンなどの分泌系タンパク質、ヒトモノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖化等の修飾を施した人工抗体が挙げられる。タンパク質の由来としては、家畜、家禽、ペット、及び実験動物が挙げられる。家畜としては、ウシ、馬、豚、ヤギ、羊、イノシシ、イノブタ、トナカイ、鹿、ラクダ、ロバ、ラマ、ウサギ、ミンク、アルパカ、水牛、ヤクが挙げられる。家禽としては、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、ダチョウ、ウズラ、七面鳥、ハト、キジが挙げられる。ペットとしては、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ラット、マウス、ハムスター、フェレット、インコ、オウム、キツネ、タヌキ、サル、九官鳥、ジュウシマツ、文鳥、ハトが挙げられる。実験動物としては、ラット、マウス、ウサギ、イヌ、ネコ、豚、モルモット、サル、マーモセット、スナネズミ、フェレット、ウシ、ヤギ、羊、ニワトリ、ウズラが挙げられる。具体的な外来有用タンパク質として、例えばネコ由来のエリスロポエチンが挙げられる。
【0032】
外来有用タンパク質は、作製するトランスジェニック鳥類以外のタンパク質はもちろん、トランスジェニック鳥類作製に用いる個体が本来有するタンパク質であっても、その個体のゲノムに新たな塩基配列を導入することになるため、外来有用タンパク質に該当する。
【0033】
外来有用タンパク質の発現を可能とするために、前記プロモータの下流に、外来有用タンパク質をコードする核酸塩基配列が機能的に連結されることが好ましい。機能的に連結とは、遺伝子の発現を調節するプロモータの種々の調節エレメントとタンパク質をコードする核酸塩基配列が、宿主細胞中で作動し得る状態で連結されることをいう。発現させる外来有用タンパク質のコード配列の境界は、5’末端の開始コドン、及び開始コドンに対応する3’末端の終始コドンにより決定される。5’末端の開始コドン近傍はコザックのコンセンサス配列を含むことが好ましい。
【0034】
トランスジェニック鳥類が、G1トランスジェニック鳥類、及びG2以降世代のトランスジェニック鳥類である場合には、鳥類の小胞体シャペロンプロモータ及び外来有用タンパク質をコードする核酸塩基配列が機能的に連結した核酸塩基配列は、全身の細胞の染色体上に含まれる。
【0035】
一方、トランスジェニック鳥類がG0トランスジェニックキメラ鳥類である場合には、前記核酸塩基配列は、輸卵管を構成する一部の細胞の染色体上に含まれ、かつ全身の一部の細胞の染色体上に含まれる。これにより、外来有用タンパク質が、トランスジェニック鳥類が産む卵の中に蓄積され、かつ血中において検出できる程度に発現され得る。
【0036】
本発明は、また、輸卵管を構成する細胞の染色体上に、鳥類の小胞体シャペロンプロモータ、及び外来有用タンパク質をコードする核酸塩基配列が機能的に連結した核酸塩基配列を導入する工程を含む、トランスジェニック鳥類の作製方法に関する。
【0037】
染色体上へ外来遺伝子を導入してトランスジェニック鳥類を作製するためには、レトロウイルスベクターを用いることが好ましい。レトロウイルスベクターは、プラスミド、ウイルス粒子、パッケージング細胞の異なる形態を含む。パッケージング細胞とはウイルス粒子の複製に必要なタンパク質の少なくとも一つをコードする遺伝子を導入した細胞である。
【0038】
トランスジェニック鳥類の作製で使用するレトロウイルスベクターは安全性を考慮して、複製能を欠失していることが好ましい。複製能の欠失方法としては、ウイルス粒子の複製に必要な内部コアに含まれるタンパク質(group specific Antigen、gag)、逆転写酵素(polymerase、pol)及びエンベロープ糖タンパク質(envelope、env)のうちいずれか又はその組み合わせが発現しないように、コード配列または発現に必要な配列の少なくとも一部または全部を欠失するか、それらが発現不能になるように置換、挿入変異を含むことが好ましい。レトロウイルスベクターはウイルス毎に挿入可能な遺伝子の長さに限定を受けるため、変異は欠失変異が好ましく、安全性や挿入断片の長さを増やす観点から、gag、pol、envの複製を欠失させる変異であることが好ましい。レトロウイルスベクターはウイルス粒子にパッケージされる目印として機能するウイルスパッケージングシグナル(phi)を含んでいることが好ましい。gag領域の一部はウイルスパッケージングシグナルとして機能することもあるため、ウイルス力価向上の観点から、ウイルスベクターは発現不能としたgag領域のすくなくとも一部を含んでいることが好ましい(J Virol.1987 61(5):1639)。
【0039】
レトロウイルスとしては特に限定されないが、モロニーマウス白血病ウイルス、モロニーマウス肉腫ウイルス、トリ白血病ウイルス(ALV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来のウイルス等が挙げられる。鳥類胚へ感染させるにはマウス幹細胞ウイルスやマウス胚性幹細胞ウイルス(MSCV)等、胚細胞や幹細胞への感染性の高いウイルスを用いることが好ましい。より好ましくは、MSCVである。複製能欠失型レトロウイルスベクターは、これらのウイルスに由来する配列を含むものが好ましい。鳥類細胞にこのウイルスベクターを効率的に感染させるため、外皮タンパク質を人為的にウシ水疱性口内炎ウイルス由来のVSV−Gエンベロープタンパク質とすることが好ましいが、このウイルスタイプに限定されるものではない。
【0040】
複製能欠失型レトロウイルスベクターは転写エンハンサー及び/又は調節エレメントを含んでいてもよい。転写エンハンサーはプロモータ遺伝子からの転写を促進する配列であり、単独では転写を起こせない遺伝子配列のことである。エンハンサーとしては特に限定されないが、シミアンウイルス40(SV40)、サイトメガロウイルス(CMV)、チミジンキナーゼ、ステロイド応答エレメントやリゾチームのエンハンサーが挙げられる。調節エレメントは、転写調節や、転写後のRNAの安定化に寄与する、単独では転写を起こせない遺伝子配列のことである。調節エレメントとしては特に限定されないが、ウッドチャック肝炎ウイルス由来調節エレメント(woodchuck post−transcriptional regulatory element:WPRE、米国特許6136597)等が挙げられる。
【0041】
レトロウイルスベクターは、5’末端、3’末端に長い反復配列(long terminal repeat、LTR)の少なくとも一部を含む。LTRは転写プロモータ遺伝子やpolyA付加シグナルを持つことからプロモータやターミネーター遺伝子として利用し得る。レトロウイルスベクターにおいて、外来有用タンパク質のコード遺伝子、プロモータ、転写エンハンサー及び/又は調節エレメントは、5’LTRと3’LTRの間に含まれ、プロモータの下流に外来有用タンパク質の遺伝子が機能的に連結した核酸配列にすることが好ましい。機能的に連結とは、遺伝子の発現を調節するプロモータの種々の調節エレメントと遺伝子が、宿主細胞中で作動し得る状態で連結されることをいう。制御因子のタイプおよび種類が、宿主に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。
【0042】
レトロウイルスベクターが転写され、ウイルス粒子が作製されるためには、5’LTRから3’LTRの間にターミネーターやpolyA付加シグナルが含まれないことが好ましい。
【0043】
レトロウイルスベクターにはマーカー遺伝子が含まれていてもよい。マーカー遺伝子は、正しく遺伝子導入された細胞の同定及び単離の目印となるタンパク質をコードする遺伝子である。マーカー遺伝子としては特に限定されないが、グリーン・フルオレッセント・プロテイン(GFP)、シアン・フルオレッセント・プロテイン(CFP)、ルシフェラーゼ等の蛍光タンパク質をコードする遺伝子、ネオマイシン耐性(neo)、ハイグロマイシン耐性(Hyg)、ピューロマイシン耐性(Puro)等の薬剤耐性遺伝子、チミジンキナーゼ、β−ガラクトシダーゼなどをコードする遺伝子が挙げられる。マーカー遺伝子は一般的なプロモータや発現に必要な要素を伴うことが好ましい。
【0044】
複製能欠失型レトロウイルスベクターは複製に必要とされるgag、polおよびenv遺伝子を欠失している。複製能欠失型レトロウイルスベクターは以下の方法で調製できる。すなわち、gag、pol遺伝子を保有するパッケージング細胞に目的タンパク質を発現可能な複製能欠失型レトロウイルスプラスミドとVSV−G発現プラスミドを同時に導入し、培養上清をウイルス液とする。あるいは、望ましくは、上記ウイルス液を感染させたパッケージング細胞にVSV−G発現プラスミドを導入し、培養上清をウイルス液として取得できるが、ウイルス液の取得方法は、これらの方法に限定されるものではない。
【0045】
上記ウイルス液において複製能欠失レトロウイルスベクターの力価(タイター)は、感染能力を保持していれば特に限定されないが、遠心濃縮後1×10〜1×1014cfu/mlが好ましく、1×10〜1×1014cfu/mlがより好ましい。
【0046】
上記ウイルス液の力価はNIH3T3細胞(アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション CRL−1658)にウイルス液を添加したとき、感染した細胞の数によって定義する。具体的には、ウイルス液1μlを2ml培地に希釈しこの希釈液を10から10倍に希釈した。これらの希釈液を、6ウェル培養プレートの各ウェルに存在する1.5×10個のNIH3T3細胞に加え、マーカー遺伝子であるネオマイシン耐性遺伝子を発現している細胞の割合をG418に対する耐性から調べることによりウイルス液の力価を測定する。
【0047】
トランスジェニック鳥類は、プロモータと外来遺伝子を含む複製能欠失型レトロウイルスベクターを鳥類胚に感染させ、その胚を孵化させることを含む方法によって好適に得られる。胚とは多細胞生物の個体発生初期のものであり、卵殻または卵膜に包まれているが、母体内にあって独立して食物をとる以前のものである。孵化とは、卵殻または卵膜から出ること及び独立して食物をとるようになることである。
【0048】
複製能欠失型レトロウイルスベクターを感染させる鳥類胚は、特に限定されないが、孵卵開始から24時間以上経過していることが好ましい。より好ましくは孵卵開始から32時間以後72時間以前の胚である。更に好ましくは48時間以後64時間以前の胚である。ウイルスに感染させる場所、つまりウイルス液を導入する場所としては、特に限定されないが、胚に形成されている心臓内あるいは血管内が好ましい。遺伝子導入効率の高いG0トランスジェニックキメラ鳥類を作製する上で、心臓の拍動を観察することができる初期の段階に、遺伝子導入することが好ましい。このような段階として、心臓が拍動を開始してから6時間以内という段階が挙げられる。この段階が好ましいのは、血流に乗せて全身に遺伝子を運ぶという観点と、細胞数が少ないという観点による。
【0049】
孵卵とは、産卵直後の受精卵、及び産卵直後に発生可能でない環境で保管された鳥類受精卵を、発生可能な環境に保つことである。例えばニワトリでは孵卵のために最適な温度は立体孵卵器で37.2から37.8℃(平面孵卵器等では卵の上端で38.9〜39.4℃)、最適な湿度は40〜70%程度の環境であるが、この環境に限定されない。また、孵卵の際には転卵を行う。転卵角度は30°以上で1日2回以上行うのが好ましいが、その限りではない。
【0050】
ウイルスの鳥類胚への感染は、心臓や血管という特定の場所にウイルス液を導入するために、マイクロインジェクションにより行われることが好ましい。マイクロインジェクションとは、顕微鏡下で先端を細くした微小ガラス管等を用い、特定の場所に直接ウイルス液を導入する方法である。
【0051】
トランスジェニック鳥類は、性成熟前に、血中の外来有用タンパク質の発現量を指標として、選別されることが好ましい。
【0052】
鳥類の胚へ、小胞体シャペロンプロモータで発現できる外来遺伝子を含む複製能欠失型レトロウイルスベクターを感染させ、その胚を孵化させることによりG0トランスジェニックキメラ鳥類が得られる。生殖細胞に外来遺伝子を保有するG0トランスジェニックキメラ鳥類を、野生型鳥類やG0トランスジェニックキメラ鳥類と交配させ、孵化したヒナを選別することによりG1トランスジェニック鳥類を得ることができる。
【0053】
G0トランスジェニック鳥類において、全ての細胞に外来遺伝子が導入されている確率は低く、ほとんどの場合、外来遺伝子が導入された細胞と、外来遺伝子が導入されておらず野生型の細胞という、異なる遺伝子型の細胞が同一個体内に共存しているG0トランスジェニックキメラ鳥類である。なお、トランスジェニック鳥類がG0トランスジェニックキメラ鳥類である場合には、輸卵管を構成する細胞に外来遺伝子が導入されている。一方、G1トランスジェニック鳥類は全ての細胞に外来遺伝子を保有している。
【0054】
体細胞や生殖細胞への外来遺伝子導入は、血液、体細胞、精子などからDNAやRNAを回収しPCR法等の操作を行うことで確認できる。また、目的タンパク質の発現量は、血漿や臓器の破砕物をELISA法、電気泳動法、ウエスタンブロット法、目的タンパク質の活性測定等によって調べることができる。
【0055】
G2以降の世代のトランスジェニック鳥類は、G1トランスジェニック鳥類を、野生型鳥類、G0トランスジェニックキメラ鳥類、又はG1トランスジェニック鳥類と交配させることにより作製できる。交配型は、G1トランスジェニック雄に対し前記雌を交配させることが、効率の点から好ましい。
【0056】
本発明は、また、トランスジェニック鳥類から外来有用タンパク質を回収する工程を含む、外来有用タンパク質の製造方法に関する。外来有用タンパク質は、トランスジェニック鳥類から回収することにより得られるが、より詳細には、作製されたトランスジェニック鳥類の血液、体細胞、又は卵から、目的タンパク質を抽出、精製、活性化のすることのいずれか又はその組み合わせを行うことにより回収することにより得られる。抽出や精製に用いる方法としては特に限定されず、例えば、分別沈殿、遠心分離、二相分離、限外濾過、膜分離、クロマトグラフィー、免疫化学的方法、結晶化などの方法のいずれか及び/又はその組み合わせを含む方法が挙げられる。
【0057】
外来タンパク質の血中発現量/卵白中発現量の比は、生産性の観点から、1/1000以上であることが好ましく、1/500以上であることがより好ましく、1/120以上であることが最も好ましい。また、外来タンパク質を発現している個体を、宿主に負担をかけることなく識別することができるという理由で、1/6以下であることが好ましく、1/15以下であることがより好ましく、1/31以下であることが最も好ましい。
【0058】
血中の外来タンパク質の発現量は、血中から外来タンパク質が検出できるという理由で700pg/ml以上であることが好ましく、0.3μg/ml以上であることが最も好ましい。また、宿主への負担を低減させるという理由で、10μg/ml以下であることが好ましく、7μg/ml以下であることがより好ましく、3.7μg/ml以下であることが最も好ましい。
【0059】
卵白中の外来タンパク質の発現量の条件は特に制限されないが、通常1mg/ml以下である。
【0060】
後述する実施例に示すように、本発明者らは小胞体シャペロンタンパク質プロモータにより、ネコ由来エリスロポエチンを発現するトランスジェニックニワトリの作製に成功した。このトランスジェニックニワトリを詳細に調べた結果、孵化後1ヶ月以内に採取した血液からネコ由来エリスロポエチンの濃度が1.5μg/mlでありアクチンプロモータで発現するトランスジェニックニワトリ(特開2007−89578号公報)での血中発現量の1/10以下に低く抑えられていることを確認した。また、卵白中の生産量は193μg/mlであり、オボアルブミンプロモータ(Proc.Natl.Acad.Sci.USA; 104 2007 1771−1776)やアクチンプロモータ(特開2007−89578号公報)で報告されている発現量と同程度であることを確認した。また、血中の発現量と卵白での発現量にはある程度の相関があることも確認した。このことにより、血中の発現量を測定することで、性成熟前に卵白中の発現量が予測できる。本明細書における性成熟とは、動物が生殖可能な状態になることを示す。ニワトリの場合、孵化後6ヶ月程度で性成熟に達し産卵し始める。
【0061】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。遺伝子操作について特に記述の無いものに関しては代表的な方法に従った(J.Sambrook、 E.F.Eritsch,T.Maniatis;Molecular Cloning,A Laboratory Manual 2nd Ed,Cold Spring Harbor Laboratory)。細胞培養について特に記述のないものに関しては代表的な方法に従った(小山秀機編集「細胞培養ラボマニュアル」シュプリンガー・フェアラーク東京 第1版)。商品名を記載している場合は特に記載のない限り添付の説明書の指示に従った。アクチンプロモータでのネコEPO発現トランスジェニックニワトリの作製方法は特開2007−89578号公報記載の方法で作製した。
【0062】
(実施例1)
(工程1)GRP78プロモータで発現するネコエリスロポエチン遺伝子発現ベクターコンストラクトの作製
ホワイトレグホンの翼下静脈より血液を採取し、MagExtractor Genome(東洋紡績(株)製)を用いてゲノムを調製した。GRP78プロモータ領域をPCRで増幅させるため、GRP78プロモータの増幅用合成プライマー(配列表の配列番号3に示すdnaK3KD:5’−ATTGAATTCACACGGAACCCGTAAACCCG−3’、及び配列表の配列番号4に示すdnaK3KR:5’−ATTGGATCCTCGCCGCTCTGCCAAAAGA−3’)を用い、調製したゲノムをテンプレートとしてPCR酵素であるKOD FX(東洋紡績(株)製)を用いてPCRを行った。増幅した約3.4kbのフラグメントをEcoRI(タカラバイオ(株)製)とBamHI(タカラバイオ(株)製)で切断した。プロモータを挿入するベクターコンストラクトは以前作製したpMSCVneobactfEPOwpre(特開2007−89578号公報)のアクチンプロモータ部をEcoRIとBamHIで切断することで取り除きこのサイトにPCRで増幅し、制限酵素で切断したフラグメントをつないで、pMSCVneoGRPfEPOwpreを作製した。PCRでクローニングしたDNA配列の決定も行った。決定したDNA配列を配列表の配列番号1に示す。
【0063】
(工程2)PDIプロモータで発現するネコエリスロポエチン遺伝子発現ベクターコンストラクトの作製
PDIプロモータ領域をPCRで増幅させるため、PDIプロモータの増幅用合成プライマー(配列表の配列番号5に示すPDI3−5KD:5’−AATGAATTCCCAGGCCAGACCCCATAAC−3’、及び配列表の配列番号6に示すPDI3−5KR:5’−AATATCGATGAGAGCTGCGCTCCCTCTTCG−3’)を用い、上記の方法で調製したホワイトレグホンのゲノムをテンプレートにしてKOD FX(東洋紡績(株)製)を用いてPCRを行った。増幅した約3.5kbのフラグメントをEcoRI(タカラバイオ(株)製)とClaI(タカラバイオ(株)製)で切断し、pBluescriptKS−(ストラタジーン社製)のEcoRI,ClaIサイトに挿入しpBluPDIを作製した。作製したpBluPDIをEcoRIとSalI(タカラバイオ(株)製)で切断し、約3.5kbのフラグメントを精製した。PDIプロモータを挿入するベクターコンストラクトはpMSCVneobactfEPOwpreを用いた。このベクターコンストラクトのアクチンプロモータ部をEcoRIとXhoIで切断することで取り除きこのサイトにEcoRIとSalIで切断した3.5kbのフラグメントを挿入して、pMSCVneoPDIfEPOwpreを作製した。PCRでクローニングしたDNA配列の決定も行った。決定したDNA配列を配列表の配列番号2に示す。
【0064】
(工程3)pMSCVneoGRPfEPOwpre及びpMSCVneoPDIfEPOwpreとpVSV−Gを用いたレトロウイルスベクターの調製
以後特に記述のない限り培地は10%ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum,FBS)と50unit/mlのペニシリンストレプトマイシンを含むダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium、DMEM)を用いた(ギブコ社製)。培養は37℃、CO5%で行った。レトロウイルスベクターに用いるベクターコンストラクトの精製はEndo Free Plasmid Maxi Kit(キアゲン社製)を用いた。
【0065】
pMSCVneoGRPfEPOwpreのレトロウイルスベクターの調製は、次の手順で行った。工程1で構築したベクターコンストラクト(pMSCVneoGRPfEPOwpre)よりレトロウイルスベクターを調製するため、gag、pol遺伝子を持つパッケージング細胞GP293を、コラーゲンコートされた直径100mmの培養ディッシュに細胞数5×10個/ディッシュ(70%コンフレント)となるように播種した。次の日、培地を取り除き、7.2mlの培地に培地交換した。56μlのLipofectamin.2000(インビトロジェン社製)を1.4mlのOpti−MEMI培地(ギブコ社製)に懸濁し、室温で5分間おいた。12μgのpMSCVneoGRPfEPOwpreと12μgのpVSV−Gを1.4mlのOpti−MEMI培地に懸濁した。Lipofectamin.2000とDNA溶液を混合し、室温で20分おいた。これを、培地交換したディッシュに全量加え、6時間培養した。培養後培地を取り除き8mlの培地を加え更に24時間培養した。
【0066】
培養上清を0.45μmのセルロースアセテートフィルター((株)アドバンテック製)に通し、遠心管に集めた。超遠心機CS100GXL(日立工機(株)製)を用い、28,000rpm(5,000g)で1.5時間遠心分離した。上清を取り除き、沈殿に20μlのTNE緩衝液(50mM Tris−HCl(pH7.8)、130mM NaCl、1mM EDTA)を加え、よく懸濁して小型高速遠心分離機で12,000rpmで1分間遠心分離し、上清を0.45μmデュラポアウルトラフリーフィルター((株)アドバンテック製)に通しウイルス液とした。
pMSCVneoPDIfEPOwpreのレトロウイルスベクターの調製は上記の方法に準じて行った。
【0067】
(工程4)ウイルス力価の測定
ウイルス液の力価は、NIH3T3細胞(アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション CRL−1658)にウイルス液を添加したときに感染した細胞の数を測定することによって定義した。ウイルス液1μlを2ml培地に希釈しこの希釈液を10から10倍に希釈した。これらの希釈液を、6ウェル培養プレートの各ウェルに存在する1.5×10個のNIH3T3細胞に加え、マーカー遺伝子であるネオマイシン耐性遺伝子を発現している細胞の割合をG418に対する耐性から調べることによりウイルス液の力価を測定した。10希釈で1コロニー現れた場合、ウイルス力価は1×10cfu/2ml×2000=1×10cfu/mlとなる。
【0068】
具体的には、力価測定開始の前日に、6ウェル培養プレートにNIH3T3細胞を1.5×10個/ウェルとなるよう播種し培養した。翌日、調製したウイルス液1μlを2mlのポリブレン(最終濃度8μg/ml)入り培地に懸濁した。このウイルス希釈液をポリブレン入り培地で10から10倍希釈し、細胞を培養している培地をウイルス希釈培地に交換して、NIH3T3細胞にウイルスを感染させた。感染させた翌日に1mg/mlのG418(シグマ社製)を含む培地に培地交換した。その後G418入り培地で1日おきに培地交換を1週間行った。1週間後プレートを0.5%クリスタルバイオレット(ナカライテスク(株)製)エタノール液で染色し、得られたコロニー数を測定し力価を求めた。
【0069】
(工程5)安定パッケージング細胞の選択
ウイルス感染の前日に24ウェル培養プレートにGP293細胞を1×10個/ウェルとなるよう播種し、培養した。ウイルス感染当日8μg/mlのポリブレンを含有する培地1mlと培地交換した。これに、工程3で調製したウイルス液を感染させた。以後、細胞を限界希釈法によりクローン化した。具体的には、次の日、細胞をトリプシン処理し、1mg/mlのG418入り培地で13.3個/mlとなるように細胞懸濁液を希釈し、96ウェル培養プレートに150μlずつ分注した。これを1〜2週間程度培養し、1ウェルに1コロニー生育し、増殖の速いものをパッケージング細胞のクローンとして選択した。
【0070】
(工程6)安定パッケージング細胞でのpVSV−Gを用いたレトロウイルスベクターの調製
直径100mmのコラーゲンコートされた培養ディッシュに工程5で得られた安定パッケージング細胞を6〜7×10個となるように播種した。次の日、培地を除き7.2mlの培地を加えた。56μlのLipofectamine.2000を1.4mlのOpti−MEMI培地に懸濁し、室温で5分間おいた。24μgのpVSV−Gを1.4mlのOpti−MEMI培地に懸濁した。Lipofectamine.2000溶液とDNA溶液を混合し、室温で20分間おいた。この後、培養ディッシュに全量加え6時間培養した。6時間培養後培地を除き8mlの培地を加えた。その後48時間培養した。培養上清を0.45μmのセルロースアセテートフィルターに通し、遠心管に集めた。超遠心機CS100GXLを用い、28,000rpm(5,000g)で1.5時間遠心分離した。上清を取り除き、沈殿に20μlのTNE緩衝液を加え、よく懸濁して小型高速遠心分離機12,000rpmで1分間遠心分離し、上清を0.45μmデュラポアウルトラフリーフィルターに通しウイルス液とした。このようにして1×10以上の力価を持つウイルス液が得られた。
【0071】
(工程7)ニワトリ胚へのレトロウイルスベクターのマイクロインジェクションと人工孵化
マイクロインジェクションと人工孵化は無菌条件下で行った。ニワトリ受精卵(城山種鶏場)の外側を消毒液((株)昭和フランキ製)または70%エタノールで除菌した。孵卵器P−008(B)型((株)昭和フランキ製)を温度38℃、湿度50〜60%の環境になるようにセットし、電源を入れた時刻を孵卵開始時刻とし、以後15分毎に90°転卵しながら孵卵を行った。
【0072】
孵卵開始から約55時間経過後孵卵器から卵を取り出し、鈍端部に1mm程度の穴を開けた。続いて卵の側面の中央よりやや上部に直径7〜10mm程度の穴を開けた。実体顕微鏡システムSZX12(オリンパス(株)製)下で、フェムトチップII(エッペンドルフ社製)に工程6で調製したウイルス液を注入し、フェムトジェット(エッペンドルフ社製)を用いてウイルス液約2μlを7〜10mm程度の穴からニワトリ胚の心臓に注入した。
【0073】
ウイルス液を注入後スコッチテープBK−15(住友スリーエム(株)製)で穴をふさぎ、孵卵器に戻して孵卵を続けた。孵卵器の転卵を30分毎に30°転卵に変更した。孵卵開始から1週間後に孵卵器に60cc/minで酸素を供給し孵卵を行った。孵卵開始から19日目に転卵をとめ、自然に孵化するのを待った。
【0074】
(比較例1)アクチンプロモータでネコEPOを発現するトランスジェニックニワトリの作製
pMSCVneobactfEPOwpre(特開2007−89578号公報)を使用した以外は、上記実施例1の工程3〜7と同様の操作を行い、アクチンプロモータでネコEPOを発現するトランスジェニックニワトリを作製した。
【0075】
(測定例1)ネコ由来エリスロポエチン発現トランスジェニックニワトリの血中、卵白中の発現確認
上記実施例1の工程7により誕生したヒナを飼育して成長させた。飼料として幼雛SXセーフティー及びネオセーフティー17(豊橋飼料(株)製)を用いた。トランスジェニックニワトリからの採血は翼下静脈より行った。採血した血液はエッペンドルフチューブにいれ、室温で30分以上放置した後、小型高速遠心分離機で4℃、3000rpmで5分間遠心分離を行い、血清と血餅を分離し上清を血清とした。卵白は超音波により全体が均一となるように調製した。
【0076】
ネコ由来エリスロポエチンの活性は、EPO依存性細胞株であるBaf/EPORによる細胞増殖アッセイ(特開平10−94393号公報)により行った。細胞増殖アッセイはエポジン(中外製薬(株)製)を標準エリスロポエチンとして、増殖の検量線を描きそれを元に未知サンプルのエリスロポエチン活性を測定した。Baf/EPOR細胞用培地として5%のウシ胎児血清(FBS)と50unit/mlのペニシリン、ストレプトマイシンを含むRPMI1640リキッド培地(日水製薬(株)製)を用いた。通常のBaf/EPOR細胞の培養の際には最終濃度1U/mlとなるようにエポジンを加えた。細胞増殖アッセイには対数増殖期にある細胞を用いた。
【0077】
Baf/EPOR細胞での細胞増殖アッセイを行うため、まず、培地中のエポジンを除去した。培養した10mlのBaf/EPOR細胞を1000rpmで5分間遠心分離した。上清を取り除き、沈殿にエポジンを含まない培地10mlを加え懸濁した。同様の操作を3度行い培地中のエポジンを除去した。細胞数を測定し、エポジンを含まない培地で55555個/mlの濃度になるように希釈した。96ウェルマイクロプレートの各ウェルに90μlずつ播種した。これに、培地で25,16,10,6.4,4.0,2.5,1.6,1.0U/mlとなるよう希釈したエポジンを10μlずつ加え、一様になるように懸濁した(エポジンの最終濃度はそれぞれ、2.5,1.6,1.0,0.64,0.4,0.25,0.16,0.1U/mlとなる)。アッセイに用いるサンプルは培地で10倍ずつ段階希釈し、検量線の測定範囲内に入るようにし、播種した細胞中に10μlずつ加え、一様になるように懸濁した。標準サンプル、未知サンプル共に同じものを3点測定した。2日間培養し、Cell Counting Kit−8((株)同仁化学研究所製)溶液を各ウェルに10μlずつ添加した。1〜4時間呈色反応を行った後、0.1mol/lの塩酸を10μl加え反応を停止し、マイクロプレートリーダーを用い、450nmの吸光度を測定した。標準サンプルの測定結果を対数近似し、近似式を求めた。求めた近似式より未知サンプルの活性を換算し算出した。ネコEPOタンパク重量は130000IUを1mgとして換算した。
【0078】
実施例の小胞体シャペロンプロモータでネコEPOを発現するトランスジェニックニワトリの、血中及び卵白中のネコEPO濃度を測定した。その結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
比較例のトランスジェニックニワトリを用いた以外は同様の操作を行い、アクチンプロモータでネコEPOを発現するトランスジェニックニワトリの、血中及び卵白中のネコEPO濃度を測定した。その結果を表2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
表1、2に示した通り、小胞体シャペロンプロモータによる血中のネコEPOの発現量はアクチンプロモータによる血中発現量の約1/10以下であった。また、小胞体シャペロンプロモータでネコEPOを発現するトランスジェニックニワトリの卵白中の発現量はアクチンプロモータでネコEPOを発現するトランスジェニックニワトリと同等以上の発現量であった。
【0083】
(測定例2)作製したトランスジェニックニワトリの性成熟までの生存率の測定
上記実施例1の工程1から7、及び比較例1に記載の方法で孵化させた小胞体シャペロンプロモータによるネコEPO発現トランスジェニックニワトリ、およびアクチンプロモータによるネコEPO発現トランスジェニックニワトリを、孵化から6ヶ月まで飼育し、この期間中に死亡したトランスジェニックニワトリの数を測定し生存率を求めた。測定した性成熟までの生存率の結果を表3に示す。
【0084】
【表3】
【0085】
表3に示した通り、性成熟までの生存率は小胞体シャペロンプロモータで100%であったのに対し、アクチンプロモータでは83%と低い値であり、ネコEPOを全身で高発現すると生存率が低下することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明により、トランスジェニック鳥類において、オボアルブミンまたはアクチンプロモータによる外来有用タンパク質発現トランスジェニック鳥類と同等量以上の、外来有用タンパク質の卵白中での発現が可能となり、しかも、鳥類が性成熟する前に卵白中の発現量が予測できる程度の発現量を達成しながら、輸卵管以外の発現量が低く抑えられ、鳥類への大きな負荷を低減させることができるようになった。これにより、従来技術と比較して産業上非常に有用なトランスジェニック鳥類を提供することができる。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]