特許第5981925号(P5981925)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5981925
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】化学強化ガラス積層板
(51)【国際特許分類】
   B32B 17/10 20060101AFI20160818BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20160818BHJP
   C03C 27/12 20060101ALI20160818BHJP
   C03C 3/083 20060101ALN20160818BHJP
【FI】
   B32B17/10
   B60J1/00 H
   C03C27/12 Z
   !C03C3/083
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-533887(P2013-533887)
(86)(22)【出願日】2011年10月6日
(65)【公表番号】特表2013-540621(P2013-540621A)
(43)【公表日】2013年11月7日
(86)【国際出願番号】US2011055065
(87)【国際公開番号】WO2012051038
(87)【国際公開日】20120419
【審査請求日】2014年10月3日
(31)【優先権主張番号】13/247,215
(32)【優先日】2011年9月28日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/393,546
(32)【優先日】2010年10月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー,ウィリアム ケイス
(72)【発明者】
【氏名】ムーア,マイケル ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ローゼンブルム,スティーヴン エス
(72)【発明者】
【氏名】シー,ヂーチアン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス,ジョン クリストファー
【審査官】 佐藤 玲奈
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第03558415(US,A)
【文献】 特開2008−094712(JP,A)
【文献】 特開2010−116276(JP,A)
【文献】 特開2010−168233(JP,A)
【文献】 特開2011−136895(JP,A)
【文献】 特開2008−308400(JP,A)
【文献】 特表2010−527892(JP,A)
【文献】 特公昭47−827(JP,B1)
【文献】 米国特許第3357876(US,A)
【文献】 国際公開第2007/032961(WO,A1)
【文献】 特開平11−60294(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/090695(WO,A1)
【文献】 特開昭60−125662(JP,A)
【文献】 米国特許第03473997(US,A)
【文献】 特開昭61−047248(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0202808(US,A1)
【文献】 特開平10−230568(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0311497(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0151210(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0286548(US,A1)
【文献】 米国特許第05796055(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 − 43/00
C03C 1/00 − 14/00
C03C 27/00 − 29/00
B60J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の化学強化ガラス板の第1の主面に形成されたポリマー中間層と、前記ポリマー中間層によって前記第1の化学強化ガラス板から隔てられた第2の強化ガラス板とを備えたガラス積層板において、前記第1のガラス板および前記第2のガラス板の各々が、
2.0mm未満の厚さ、および
圧縮応力下にある表面近くの領域、
を有し、
前記第1のガラス板の表面での圧縮応力(CS)が300MPaより大きく、前記表面近くの領域が、前記第1のガラス板の表面から、少なくとも65−0.06(CS)の値を有するマイクロメートルで表される層の深さまで延在し、式中、CSはMPaで表される表面圧縮応力であり、
250Hzから5000Hzの周波数範囲に亘り、いずれの100Hz間隔においても、1dB超は減少しない透過損失を有する、ガラス積層板。
【請求項2】
前記第1のガラス板の厚さが1.4mm未満である、請求項1記載のガラス積層板。
【請求項3】
前記第1のガラス板の表面での圧縮応力(CS)が400MPaより大きい、請求項1記載のガラス積層板。
【請求項4】
前記第1のガラス板の表面での圧縮応力(CS)が600MPaより大きい、請求項1記載のガラス積層板。
【請求項5】
前記第1のガラス板が引張応力(CT)下にある中央領域を有し、40MPa<CT<100MPaである、請求項1記載のガラス積層板。
【請求項6】
前記第2のガラス板が化学強化ガラス板であり、該第2のガラス板の表面での圧縮応力(CS)が300MPaより大きく、前記表面近くの領域が、前記第2のガラス板の表面から、少なくとも65−0.06(CS)の値を有するマイクロメートルで表される層の深さまで延在し、式中、CSはMPaで表される表面圧縮応力である、請求項記載のガラス積層板。
【請求項7】
前記第2のガラス板の厚さが1.4mm未満である、請求項記載のガラス積層板。
【請求項8】
前記第2のガラス板の厚さが前記第1のガラス板の厚さと実質的に均しい請求項記載のガラス積層板。
【請求項9】
請求項1記載のガラス積層板を備えた自動車用板ガラス。
【請求項10】
3000Hz超の一致周波数を有する、請求項1記載のガラス積層板。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、2010年10月15日に出願された米国仮特許出願第61/393546号の米国法典第35編第119条の下での優先権の恩恵と、その内容が依拠され、ここに全てが引用される、2011年9月28日に出願された米国特許出願第13/247215号の米国法典第35編第120条の下での優先権の恩恵を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本開示は、広く、ガラス積層板(laminates)に関し、より詳しくは、低質量、高い耐衝撃性、および音減衰(sound-damping)特性を有する化学強化ガラス積層板に関する。
【背景技術】
【0003】
ガラス積層板は、自動車、鉄道車両および飛行機を含む、輸送用途および建築用途において、窓および板ガラス(glazing)として使用することができる。ここに用いたように、板ガラスは、壁や他の構造の透明、半透明または不透明な部分である。建築用途および自動車用途に使用される一般的な種類の板ガラスとしては、積層ガラスなどの透明で薄い色の付いたガラスが挙げられる。可塑化ポリビニルブチラール(PVB)を備えたガラス積層板は、例えば、自動車、飛行機、鉄道車両などの車両に、窓、フロントガラス、またはサンルーフとして組み込むことができる。ある用途において、外部の音源からの音響透過を低減しつつ、安全なバリアを提供するために、機械的強度および音減衰(sound-attenuating)特性が高いガラス積層板が望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多くの車両用途において、燃料の経済性は車両の質量の関数である。したがって、強度特性と音減衰特性を損なわずに、そのような用途のための板ガラスの質量を減少させることが望ましい。前述のことに鑑みて、より厚くより重い板ガラスに関連する耐久性および音減衰特性を有する、より薄い経済的な板ガラスが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の1つの態様によれば、ガラス積層板は、化学強化ガラス板の一方の主面に形成されたポリマー中間層を備えている。実施の形態において、ガラス板は、2.0mm未満の厚さ、および圧縮応力の状況下にある表面近くの領域を有する。このガラス板の表面での圧縮応力は、300MPaより大きくあり得、この表面近くの領域は、ガラス板の表面から、マイクロメートルで表して、65−0.06(CS)の値より大きい層の深さまで延在し得、ここで、CSは、MPaで表された、ガラス板の表面での圧縮応力である。さらに別の実施の形態によるガラス積層板は、第2の化学強化ガラス板などの、少なくとも第2のガラス板を含み得る。
【0006】
本発明の追加の特徴および利点は、以下の詳細な説明に述べられており、その説明から当業者には容易に明白になるか、または以下の詳細な説明、特許請求の範囲、並びに添付図面を含む、ここに記載された本発明を実施することによって、認識されるであろう。
【0007】
先の一般的な説明および以下の詳細な説明は、本発明の実施の形態を提示しており、特許請求の範囲に記載された本発明の性質および特徴を理解するための概要または骨子を提供することが意図されている。添付図面は、本発明の理解をさらに深めるために含まれ、本明細書に包含され、その一部を構成する。これらの図面は、本発明の様々な実施の形態を図解しており、説明と共に、本発明の原理および動作を説明するように働く。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】1つの実施の形態による様々なガラス板に関する層の深さ対圧縮応力を示すグラフ
図2】別の実施の形態による様々なガラス板に関する層の深さ対圧縮応力を示すグラフ
図3】さらに別の実施の形態による様々なガラス板に関する層の深さ対圧縮応力を示すグラフ
図4】異なる減衰係数を有する6mm厚のガラス板に関する透過損失対周波数をプロットしたグラフ
図5】一致周波数対積層板の厚さをプロットしたグラフ
図6】比較のガラス積層板に関する透過損失対周波数をプロットしたグラフ
図7】比較のガラス板と実施の形態によるガラス積層板に関する透過損失対周波数をプロットしたグラフ
図8】比較のガラス板と別の実施の形態によるガラス積層板に関する透過損失対周波数をプロットしたグラフ
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここに開示されたガラス積層板は、1枚以上の化学強化ガラス板を備えている。適切なガラス板は、イオン交換プロセスによって化学強化されていてよい。このプロセスにおいて、概して、ガラス板を溶融塩浴中に所定の時間に亘り浸漬することによって、ガラス板の表面でまたは表面近くでガラス板内のイオンが、例えば、塩浴からの、より大きい金属イオンと交換される。1つの実施の形態において、溶融塩浴の温度は約430℃であり、所定の時間は約8時間である。ガラスにより大きいイオンが含まれると、表面に近い領域に圧縮応力が生じることによって、板が強化される。その圧縮応力を釣り合わせるために、ガラス板の中央領域内に、対応する引張応力が誘発される。
【0010】
ガラス積層板を形成するのに適した例示のイオン交換可能なガラスは、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスまたはアルカリアルミノホウケイ酸塩ガラスであるが、他のガラス組成物も考えられる。ここに用いたように、「イオン交換可能な」とは、ガラスが、ガラスの表面に位置するまたは表面近くに位置する陽イオンを、それよりサイズが大きいか小さい同じ価数の陽イオンと交換できることを意味する。
【0011】
1つの例示のガラス組成物は、SiO2、B23およびNa2Oを含み、ここで、(SiO2+B23)≧66モル%、Na2O≧9モル%。実施の形態において、ガラス板は少なくとも6質量%の酸化アルミニウムを含む。さらに別の実施の形態において、ガラス板は、アルカリ土類酸化物の含有量が少なくとも5質量%となるように、1種類以上のアルカリ土類酸化物を含む。適切なガラス組成物は、いくつかの実施の形態において、K2O、MgO、およびCaOの内の少なくとも1種類をさらに含む。特別な実施の形態において、ガラスは、61〜75モル%のSiO2、7〜15モル%のAl23、0〜12モル%のB23、9〜21モル%のNa2O、0〜4モル%のK2O、0〜7モル%のMgO、および0〜3モル%のCaOを含む。
【0012】
ガラス積層板を形成するのに適したさらに別の例示のガラス組成物は、60〜70モル%のSiO2、6〜14モル%のAl23、0〜15モル%のB23、0〜15モル%のLi2O、0〜20モル%のNa2O、0〜10モル%のK2O、0〜8モル%のMgO、0〜10モル%のCaO、0〜5モル%のZrO2、0〜1モル%のSnO2、0〜1モル%のCeO2、50ppm未満のAs23、および50ppm未満のSb23を含み、ここで、12モル%≦(Li2O+Na2O+K2O)≦20モル%、および0モル%≦(MgO+CaO)≦10モル%。
【0013】
さらに別の例示のガラス組成物は、63.5〜66.5モル%のSiO2、8〜12モル%のAl23、0〜3モル%のB23、0〜5モル%のLi2O、8〜18モル%のNa2O、0〜5モル%のK2O、1〜7モル%のMgO、0〜2.5モル%のCaO、0〜3モル%のZrO2、0.05〜0.25モル%のSnO2、0.05〜0.5モル%のCeO2、50ppm未満のAs23、および50ppm未満のSb23を含み、ここで、14モル%≦(Li2O+Na2O+K2O)≦18モル%、および2モル%≦(MgO+CaO)≦7モル%。
【0014】
特定の実施の形態において、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、アルミナ、少なくとも1種類のアルカリ金属、およびいくつかの実施の形態において、50モル%超のSiO2、他の実施の形態において、少なくとも58モル%のSiO2、およびさらに他の実施の形態において、少なくとも60モル%のSiO2を含み、ここで、
式中、成分はモル%で表され、改質剤はアルカリ金属酸化物から選択される。このガラスは、特定の実施の形態において、58〜72モル%のSiO2、9〜17モル%のAl23、2〜12モル%のB23、8〜16%のNa2O、および0〜4モル%のK2Oを含み、から実質的になり、またはからなり、ここで、
別の実施の形態において、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、61〜75モル%のSiO2、7〜15モル%のAl23、0〜12モル%のB23、9〜21モル%のNa2O、0〜4モル%のK2O、0〜7モル%のMgO、および0〜3モル%CaOを含む、から実質的になる、またはからなる。
【0015】
さらに別の実施の形態において、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、60〜70モル%のSiO2、6〜14モル%のAl23、0〜15モル%のB23、0〜15モル%のLi2O、0〜20モル%のNa2O、0〜10モル%のK2O、0〜8モル%のMgO、0〜10モル%のCaO、0〜5モル%のZrO2、0〜1モル%のSnO2、0〜1モル%のCeO2、50ppm未満のAs23、および50ppm未満のSb23を含み、から実質的になり、またはからなり、ここで、12モル%≦Li2O+Na2O+K2O≦20モル%、および0モル%≦MgO+CaO≦10モル%。
【0016】
さらに他の実施の形態において、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、64〜68モル%のSiO2、12〜16モル%のNa2O、8〜12モル%のAl23、0〜3モル%のB23、2〜5モル%のK2O、4〜6モル%のMgO、および0〜5モル%のCaOを含み、から実質的になり、またはからなり、ここで、66モル%≦SiO2+B23+CaO≦69モル%、Na2O+K2O+B23+MgO+CaO+SrO>10モル%、5モル%≦MgO+CaO+SrO≦8モル%、(Na2O+B23)−Al23≦2モル%、2モル%≦Na2O−Al23≦6モル%、および4モル%≦(Na2O+K2O)−Al23≦10モル%。
【0017】
ガラスには、いくつかの実施の形態において、Na2SO4、NaCl、NaF、NaBr、K2SO4、KCl、KF、KBr、およびSnO2を含む群から選択され清澄剤を少なくとも1種類が0〜2モル%、配合されている。
【0018】
1つの例示の実施の形態において、ガラス中のナトリウムイオンは、溶融浴からのカリウムイオンにより置換され得るが、ルビジウムまたはセシウムなどの、原子半径がより大きい他のアルカリ金属イオンで、ガラス中のより小さいアルカリ金属イオンを置換しても差し支えない。特定の実施の形態によれば、ガラス中のより小さいアルカリ金属イオンは、Ag+イオンにより置換しても差し支えない。同様に、以下に限られないが、硫酸塩、ハロゲン化物などの他のアルカリ金属塩をイオン交換プロセスに使用してもよい。
【0019】
ガラスの網目構造が緩和できる温度より低い温度で、より小さいイオンをより大きいイオンで置換すると、ガラスの表面に亘り、応力プロファイルを生じるイオン分布が生成される。入ってくるイオンのより大きい容積により、ガラスの表面に圧縮応力(CS)が、ガラスの中央領域に張力(中央張力、またはCT)が生じる。圧縮応力は、以下の関係式:
【数1】
【0020】
により中央張力に関係付けられ、式中、tはガラス板の全厚であり、DOLは、層の深さとも称される、交換の深さである。
【0021】
様々な実施の形態によれば、イオン交換されたガラスの1枚以上の板を含み、特定の層の深さ対圧縮応力のプロファイルを有する薄いガラス積層板は、低質量、高い耐衝撃性、および改善された音減衰を含む、たくさんの所望の性質を有する。
【0022】
1つの実施の形態において、化学強化ガラス板は、少なくとも300MPa、例えば、少なくとも400、500、または600MPaの表面圧縮応力、少なくとも約20μm(例えば、少なくとも約20、25、30、35、40、45、または50μm)の深さ、および/または40MPa超(例えば、40、45、または50MPa超)かつ100MPa未満(例えば、100、95、90、85、80、75、70、65、60、または55MPa未満)の中央張力を有し得る。
【0023】
例示の実施の形態が、様々なガラス板に関する層の深さ対圧縮応力を示す図1に図解されている。図1において、比較のソーダ石灰ガラスからのデータが菱形「SL」により示されているのに対し、化学強化アルミノケイ酸塩ガラスからのデータが三角形「GG」により示されている。図解された実施の形態に示されているように、化学強化板に関する層の深さ対表面圧縮応力のデータは、約600MPa超の圧縮応力、および約20マイクロメートル超の層の深さにより定義できる。
【0024】
図2図1のデータを示しており、ここで、領域200は約600MP超の表面圧縮応力、約40マイクロメートル超の層の深さ、および約40と65MPaの間の引張応力により定義されている。
【0025】
前述の関係とは関係なく、またはその関係と関連して、化学強化ガラスは、対応する表面圧縮応力に関して表される層の深さを有し得る。一例において、表面近くの領域は、第1のガラス板の表面から、少なくとも65−0.06(CS)の層の深さ(マイクロメートルで表される)まで延在し、CSは、表面圧縮応力であり、少なくとも300MPaの値を有する。この直線関係が、図1のデータを示す図3に描写されている。
【0026】
さらに別の例において、表面近くの領域は、第1のガラス板の表面から、少なくともB−M(CS)の値の層の深さ(マイクロメートルで表される)まで延在し、CSは、表面圧縮応力であり、少なくとも300MPaである。上述した式において、Bは、約50から180(例えば、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160±5)に及び得、Mは、独立して、約−0.2から−0.02(例えば、−0.18、−0.16、−0.14、−0.12、−0.10、−0.08、−0.06、−0.04±−0.01)に及び得る。
【0027】
化学強化ガラス板の弾性率は、約60GPaから85GPa(例えば、60、65、70、75、80または85GPa)に及び得る。ガラス板とポリマー中間層の弾性率は、結果として得られたガラス積層板の機械的性質(例えば、撓みおよび強度)および音響性能(例えば、透過損失)の両方に影響を与え得る。
【0028】
例示のガラス板を形成する方法としては、ダウンドロー法の例であるフュージョン・ドロー法およびスロット・ドロー法、並びにフロート法が挙げられる。フュージョン・ドロー法では、溶融ガラス原料を受け入れるためのチャンネルを有する延伸タンクを使用する。このチャンネルは、チャンネルの両側でチャンネルの長手方向に沿って上部で開いた堰を有する。溶融ガラスは、重力のために、延伸タンクの外面を流下する。これらの外面は、延伸タンクの下の縁で接合するように、下方かつ内方に延在する。2つの流動するガラス表面は、この縁で接合して、融合し、1つの流れる板を形成する。フュージョン・ドロー法は、チャンネルを超えて流れる2つのガラス膜が互いに融合するので、結果として得られたガラス板のどちらの外面も装置のどの部分にも接触しないという利点を提示する。それゆえ、フュージョン・ドロー法により製造されたガラス板の表面特性は、そのような接触により影響を受けない。
【0029】
スロット・ドロー法はフュージョン・ドロー法とは全く異なる。この方法では、溶融原料ガラスは延伸タンクに供給される。延伸タンクの底にはスロットが開けられており、そのスロットには、長手方向に延在するノズルを有する。溶融ガラスは、スロット/ノズルを通って流れ、連続板として下方に、焼き鈍し領域へと延伸される。このスロット・ドロー法は、2枚の板が互いに融合されるのではなく、1枚の板のみがスロットを通して延伸されるので、より薄い板を提供できる。
【0030】
ダウンドロー法では、比較的無垢な(pristine)表面を有する均一な厚さを持つガラス板が製造される。ガラス表面の強度は、表面傷の量とサイズにより制御されるので、接触が最小の無垢表面がより大きい初期強度を有する。次いで、高強度のカラスが化学強化されると、得られた強度は、ラップ仕上げされ研磨された表面の強度よりも高くなり得る。ダウンドロー法により製造されたガラスは、約2mm未満の厚さまで延伸されるであろう。その上、ダウンドロー法により製造されたガラスは、非常に平らで滑らかな表面を有し、この表面は、費用のかかる研削と研磨を用いずに、最終用途に使用することができる。
【0031】
フロート法において、滑らかな表面および均一な厚さにより特徴付けられるであろうガラスの板が、溶融金属、一般にはスズの浴上に溶融ガラスを浮かせることによって製造される。例示の方法において、溶融スズ浴の表面に供給される溶融ガラスは、浮遊リボンを形成する。ガラスリボンがスズ浴に沿って流れながら、固体のガラス板をスズからローラに載せることができるまで、温度が徐々に低下する。一度、浴から降ろされたら、ガラス板をさらに冷却し、焼き鈍して、内部応力を減少させることができる。
【0032】
ガラス板を使用して、ガラス積層板を形成することができる。ここに定義するように、ガラス積層板は、その主面に形成されたポリマー中間層を有する少なくとも1枚の化学強化ガラス板からなる。このポリマー中間層は、モノリスポリマーシート、多層ポリマーシート、または複合ポリマーシートを構成することができる。ポリマー中間層は、例えば、可塑化ポリビニルブチラール(PVB)板であって差し支えない。
【0033】
ガラス積層板は、建築の開口および自動車の開口における光学的に透明なバリア、例えば、自動車の板ガラスを提供するように適合させることができる。ガラス積層板は、様々なプロセスを使用して形成することができる。例示のプロセスにおいて、化学強化ガラス板の1枚以上の板を、ポリマー中間層と共にプリプレス内で組み立て、予備積層板へと組み付け、光学的に透明なガラス積層板に仕上げる。
【0034】
このアセンブリは、2枚のガラス板を備えた例示の実施の形態において、第1のガラス板を下に置き、PVBシートなどのポリマー中間層を被せ、第2のガラス板をその上に置き、次いで、過剰のPVBをガラス板の縁に合わせて切り取る各工程を含む。組み付ける工程は、界面から空気のほとんどを抜き、PVBをガラス板に部分的に接着する各工程を含み得る。典型的に高温・高圧で行われる仕上げ工程は、ガラスの各々のポリマー中間層への結合を完了する。
【0035】
PVBなどの熱可塑性材料を、予備成形したポリマー中間層として施してもよい。この熱可塑性層は、ある実施の形態において、少なくとも0.125mm(例えば、0.125、0.25、0.375、0.5、0.75、または1mm)の厚さを有し得る。熱可塑性層は、ガラスの2つの対向する主面のほとんど、または好ましくは実質的に全てを覆うことができる。熱可塑性層は、ガラスの縁の面も覆ってもよい。熱可塑性層と接触したガラス板は、熱可塑性層のガラスへの接着を促進するために、例えば、軟化点よりも少なくとも5℃または10℃高いなどの、熱可塑性物質の軟化点より高く加熱してもよい。加熱は、加圧下で熱可塑性層と接触したガラス層に行うことができる。
【0036】
選り抜きの市販のポリマー中間層材料が表1に要約されており、この表は、各製品サンプルに関するガラス転移温度および弾性率も提供する。ガラス転移温度および弾性率のデータは、供給メーカーから入手できる技術データシートから決定したか、またはガラス転移温度および弾性率について、それぞれ、DSC200示差走査熱量計(日本国、セイコーインスツル社)またはASTM D638の方法を使用して、決定した。ISD樹脂に使用したアクリル/シリコーン樹脂材料のさらなる詳細は、米国特許第5624763号明細書に開示されており、音響改質PVB樹脂の詳細は、特開平5−138840号公報に開示されており、それらの内容の全てがここに引用される。
【表1】
【0037】
ポリマー中間層の弾性率は約1MPaから75MPa(例えば、約1、2、5、10、15、20、25、50または75MPa)に及び得る。1Hzの荷重速度で、標準的なPVB中間層の弾性率は約15MPaであり得、遮音グレードのPVB中間層の弾性率は約2MPaであり得る。
【0038】
1つ以上のポリマー中間層をガラス積層板に組み込んでよい。複数の中間層は、接着促進、音響制御、UV透過制御、および/またはIR透過制御を含む、補完的な機能性または明白な機能性を与えるであろう。
【0039】
積層プロセス中、中間層は一般に、中間層を軟化させるのに効果的な温度まで加熱され、これにより、中間層をガラス板のそれぞれの表面に一致して合わることが容易になる。PVBについて、積層温度は約140℃であり得る。中間層材料内の移動性ポリマー鎖は、ガラス表面との結合を生じ、これにより接着が促進される。高温によって、ガラスとポリマーとの界面からの残留空気および/または水分の拡散も促進される。
【0040】
圧力の随意的な印加は、中間層材料の流れを促進させ、界面に捕捉された水と空気の複合蒸気圧によりそうしなければ誘発され得る気泡の形成を抑制する。気泡の形成を抑制するために、オートクレーブ内のアセンブリに熱と圧力を同時に印加することができる。
【0041】
ガラス積層板は、実質的に同一のガラス板を使用して形成して差し支えなく、または代わりの実施の形態において、組成、イオン交換プロファイルおよび/または厚さなどの個々のガラス板の特徴を独立して変更して、非対称ガラス積層板を形成しても差し支えない。
【0042】
騒音の減衰、UV光および/またはIR光透過の減少、および/または窓開口の審美的魅力の向上を含む、有益な効果を提供するために、ガラス積層板を使用できる。開示されたガラス積層板を構成する個々のガラス板、並びに形成された積層板は、組成、密度、厚さ、表面測定学、並びに機械的性質、光学的性質、および音減衰特性を含む様々な性質を含む、1つ以上の特性により特徴付けることができる。開示されたガラス積層板の様々な態様がここに記載されている。
【0043】
より薄いガラス板の使用に関連する質量の節約が、表2を参照すれば分かる。この表は、110cm×50cmの面積寸法および1.069g/cm3の密度を有するPVBの0.76mm厚のシートからなるポリマー中間層を有する例示のガラス積層板に関する、ガラスの質量、中間層の質量、およびガラス積層板の質量を示している。
【表2】
【0044】
図2を参照して分かるように、個々のガラス板の厚さを減少させることによって、積層板の総質量を劇的に減少させることができる。いくつかの用途において、より低い総質量は、より大きな燃料の経済性へと直接つながる。
【0045】
ガラス積層板は、例えば、窓または板ガラスとしての使用に適用でき、任意の適切なサイズと寸法に構成することができる。実施の形態において、ガラス積層板は、独立して、10cmから1m以上(例えば、0.1、0.2、0.5、1、2、5m)まで様々である長さと幅を有する。これとは無関係に、ガラス積層板は、0.1m2超、例えば、0.1、0.2、0.5、1、2、5、10、または25m2超の面積を有することができる。
【0046】
ガラス積層板は、ある用途のために、実質的に平らであっても、成形加工されていても差し支えない。例えば、ガラス積層板は、フロントガラスまたはカバープレートとして使用するために、曲げられた部品または成形加工された部品として形成することができる。成形加工されたガラス積層板の構造は、単純であっても、複雑であってもよい。ある実施の形態において、成形加工されたガラス積層板は、ガラス板が、2つの独立した方向に別個の曲率半径を有する複雑な曲率を有してもよい。それゆえ、そのような成形加工されたガラス板は、「クロス曲率(cross curvature)」を有すると特徴付けてよく、ここで、ガラスは、所定の寸法に対して平行な軸に沿って曲げられ、かつ同じ方向に対して垂直な軸に沿っても曲げられている。例えば、自動車のサンルーフは、一般に、約0.5m×1.0mの寸法を有し、短軸に沿って2から2.5mの曲率半径を有し、長軸に沿って4から5mの曲率半径を有する。
【0047】
ある実施の形態による成形加工されたガラス積層板は、曲げ係数(bend factor)により定義することができ、ここで、所定の部品に関する曲げ係数は、所定の軸に沿った曲率半径をその軸の長さで割ったものと等しい。それゆえ、0.5mと1.0mのそれぞれの軸に沿った2mと4mの曲率半径を有する例示の自動車のサンルーフについて、各軸に沿った曲げ係数は4である。成形加工されたガラス積層板は、2から8(例えば、2、3、4、5、6、7、または8)の及ぶ曲げ係数を有し得る。
【0048】
ガラス積層板を曲げるおよび/または成形加工する方法としては、重力曲げ、プレス曲げおよびそれらの複合である方法が挙げられる。
【0049】
薄く平らなガラス板を、自動車のフロントガラスなどの湾曲形状に重力曲げする従来の方法において、曲げ設備の予め形成された剛性の周囲支持表面上に、予め切断された低温の1枚または多数のガラス板を配置する。曲げ設備は、金属または耐火性材料を使用して製造されるであろう。例示の方法において、連接型曲げ設備を使用してもよい。曲げの前に、ガラスは、一般に、いくつかの接点でしか支持されていない。通常、ガラスは、ガラス焼き鈍し炉内での高温への曝露により加熱され、これによりガラスが軟化し、重力によって、ガラスが周囲支持表面に一致するように垂れ下がるかまたは沈み込む。次いで、実質的に全ての支持表面が概ね、ガラスの周囲と接触する。
【0050】
関連技法は、平らなガラス板が、ガラスの軟化点に実質的に対応する温度まで加熱される、プレス曲げである。次いで、加熱された板は、相補的な成形表面を有する雄と雌の成形部材の間で所望の曲率に加圧または成形加工される。実施の形態において、重力曲げとプレス曲げの技法の組合せを使用しても差し支えない。
【0051】
ガラス積層板の全厚は約2mmから4mmに及んで差し支えなく、ここで、個々のガラス板(例えば、1枚以上の化学強化ガラス板)は、0.5から2mm(例えば、0.1、0.2、0.3、0.5、0.7、1、1.4、1.7、または2mm)の厚さを有し得る。実施の形態において、化学強化ガラス板は、1.4mm未満または1.0mm未満の厚さを有し得る。さらに別の実施の形態において、化学強化ガラス板の厚さは、第2のガラス板の厚さと実質的に等しくて差し支えなく、よって、それぞれの厚さは、5%以下、例えば、5、4、3、2または1%未満しかばらつかない。実施の形態によれば、第2の(例えば、内側の)ガラス板は、2.0mm未満(例えば、1.4mm未満)の厚さを有し得る。理論により拘束することを意図するものではないが、本出願の出願人等は、実質的に同一の厚さを有する対向するガラス板を備えたガラス積層板は、最大の一致周波数およびコインシデンス下落時の音響透過損失における対応する最大値を提供できると考える。そのような設計は、例えば、自動車用途において、ガラス積層板に有益な音響性能を提供できる。
【0052】
例示のガラス積層板構造が表3に示されており、ここで、省略形のGGは、化学強化アルミノケイ酸塩ガラス板を称し、「ソーダ石灰」という用語は、非化学強化ガラス板を称する。ここに用いたように、省略形の「SP」、「S−PVB」または単に「PVB」は、標準グレードのPVBに使用されている。省略形の「AP」または「A−PVB」は、遮音グレードのPVBに使用されている。
【表3】
【0053】
出願人は、ここに開示されたガラス積層板構造が、優れた耐久性、耐衝撃性、靭性、および耐引掻き性を有することを示してきた。ガラス板または積層板の強度および機械的衝撃性能は、表面欠陥および内部欠陥を含む、ガラス中の欠陥により制限され得ることが、当業者によく知られている。ガラス積層板に衝撃を与えた場合、衝撃点が圧縮状態にされる一方で、衝撃点の周りの環または「輪(hoop)」、並びに衝撃の与えられた板の反対面が、張力状態にされる。一般に、破損の起源は、通常はガラス表面上の、最高張力の点またはその点の近くでのひびである。これは、反対の面に生じるかもしれないが、前記環の内側で生じ得る。ガラスのひびが、衝撃事象中に張力状態にされた場合、ひびは伝搬するようであり、ガラスは一般に破損する。それゆえ、圧縮応力の大きさと深さ(層の深さ)が大きいことが好ましい。
【0054】
ここに開示されたガラス積層板の一方または両方の外面は、化学強化のために、圧縮下にある。ひびが伝搬し、破損が生じるためには、衝撃からの引張応力が、ひびの先端で表面の圧縮応力を超えなければならない。実施の形態において、化学強化ガラス板の高い圧縮応力および大きい層の深さにより、非化学強化ガラスの場合よりも薄いガラスを使用することができる。
【0055】
実施の形態において、ガラス積層板は、化学強化ガラス板などの内側と外側のガラス板を備えることができ、ここで、外向きの化学強化ガラス板は、少なくとも300MPa、例えば、少なくとも400、450、500、550、600、650、700、750または800MPaの表面圧縮応力、少なくとも約20μm(例えば、少なくとも約20、25、30、35、40、45、または50μm)の深さおよび/または40MPa超(例えば、40、45、50MPa超)かつ100MPa未満(例えば、100、95、90、85、80、75、70、65、60、または55MPa未満)の中央張力を有し、内向きのガラス板(例えば、内側の化学強化ガラス板)は、外側の化学強化ガラス板の表面圧縮応力の三分の一から半分までの表面圧縮応力を有する。
【0056】
外面での引張応力の大きさが内面での引張応力よりも大きいので、この構成において、内面のより穏やかな引張応力が、内向きのガラス板を破損させるのに十分であるのに対し、外面のより高い引張応力が、同様に化学強化ガラス板を破損させるのに十分である。ガラス板が破損するときに、PVB中間層は変形するが、衝撃を受けた物品がガラス積層板を貫通するのが防がれる。これが、ECE R43ヘッドフォーム(人頭模型)要件での満足な応答である。
【0057】
開示された化学強化ガラス積層板の場合には、積層板構造は、より厚い1枚の非化学強化ガラス、またはより厚い非化学強化ガラス積層板よりもさらに、機械衝撃に対して破損せずに、歪むことができる。この追加の歪みによって、積層板の中間層により多くのエネルギーを伝達することができ、これにより、ガラスの反対側に到達するエネルギーを減少させることができる。その結果、ここに開示された化学強化ガラス積層板は、1枚の非化学強化ガラスまたは同程度の厚さの非化学強化ガラス積層板よりも、高い内部衝撃エネルギーに耐えることができる。
【0058】
一組の落下試験を使用して、表3からのサンプル4の耐衝撃性を評価した。衝撃試験は、(a)約200gの重さの3.18mmの直径のダーツを用いる9.14メートルのダーツ落下試験、(b)227gのボールを用いる9.14メートルのボール落下試験、および(c)2.3kgのボールを用いる3.66メートルの貫入抵抗試験を含んだ。試験したサンプルは、100%の残存率を有し、ここで、残存は、ダーツまたはボールが、ガラス板の表面を破壊したり損傷したりせずに、ガラス積層板の表面から跳ね返るが、ガラス積層板全体には貫入しなかったことを意味する。試験したサンプルの全てが、試験ANSI Z26.1において米国規格協会により発布された積層された非フロントガラス用板ガラス(例えば、サンルーフ)の要件を超えた。
【0059】
機械的性質に加え、開示されたガラス積層板の音響減衰特性も評価した。音波を減衰させるために、積層構造を使用できることが当業者に認識されている。ここに開示された化学強化ガラス積層板は、多くの板ガラス用途にとって必須の機械的性質を持つより薄い(より軽い)構造を使用しながら、音響透過を劇的に減少させることができる。
【0060】
積層板および板ガラスの音響性能は、板ガラス構造の曲げ振動により一般に影響を受ける。理論に拘束することを意図するものではないが、ヒトの音響応答は、一般に、500Hzと5000Hzの間で最高になり、これは、空気中で約0.1〜1m、ガラス中で1〜10mの波長に相当する。0.01m未満(<10mm)の厚さを有する板ガラス構造について、透過は主に、振動と音波の、板ガラスの曲げ振動への結合により生じる。積層板ガラス構造は、板ガラスの曲げモードからのエネルギーを、ポリマー中間層内の剪断歪みに変換するように設計することができる。より薄いガラス板を使用したガラス積層板において、より薄いガラスのより大きいコンプライアンスにより、振幅をより大きくすることができ、これは転じて、中間層により大きい剪断歪みを与えることができる。最も粘弾性であるポリマー中間層材料の低い剪断抵抗は、その中間層が、分子鎖の滑りと緩和の影響下で熱に転換される高い剪断歪みによって、減衰を促進することを意味する。
【0061】
ガラス積層板の音性能を記述する1つの性能指数は一致周波数である。この一致周波数は、カラス板の曲げ振動波長が、空気中の音波の波長と等しい周波数と定義される。この波長の一致条件は、周囲音響モードと曲げ音響モードの間の改善された結合、および対応する周波数での少ない減衰をもたらす。
【0062】
モデル化された結果に基づいて、6mm厚の板ガラスパネルに関する透過損失が、様々な異なる減衰係数につい、図4に示されている。符号の付いた曲線は、0.01、0.05、および0.1の減衰係数を表し、それらは、30、32、および不特定の対応する重み付け透過損失(Rw)を有し、実線の曲線は、音透過クラス(STC)曲線(ヒトの応答)を示す。透過損失は、周波数の増加と共に増加し、約3500Hzの一致周波数で極小を示す。
【0063】
実施の形態において、ガラス積層板は、3000Hz超、例えば、3000、3500、4000、4500、または5000Hz超の一致周波数を有し得る。そのような実施の形態において、透過損失は、250Hzから3000、3500、4000、4500、または5000Hzまで実質的に直線状に、すなわち、特定の周波数範囲内で極小を通過せずに、増加する。さらに別の実施の形態によれば、ガラス積層板は、250Hzから3000、3500、4000、4500、または5000Hzの周波数範囲に亘り、100Hz間隔で、1dB超(例えば、1、2、4または10dB超)は減少しない透過損失を示し得る。
【0064】
一致周波数について積層板の厚さへの依存性が、図5に示されており、この図は、1から10mmの厚さに及ぶ積層板に関する極小の位置を示している。図5から分かるように、一致周波数の、最大感度の領域(500Hzと5000Hz)を外れたシフトは、3mm未満の厚さを有する積層板に一致する。
【0065】
図6は、5mmの公称総厚、すなわち、2.1mmのSL/0.76mmのPVB/2.1mmのSLを有するソーダ石灰(SL)積層板の測定した音透過損失(TL)を示している。コインシデンス下落周波数範囲は、標準グレードのPVB積層板については3〜4Hzであり、遮音グレードのPVB積層板については4〜6Hzである。比較において、1枚のソーダ石灰ガラス板に関する音透過損失は2〜3Hzである。
【0066】
図7は、薄い化学強化(GG)積層板の測定した音透過損失(TL)を示している。化学強化積層板は、2.76mmの公称総厚(1.0mmのGG/0.76mmのPVB/1.0mmのGG)を有する。5mm厚のソーダ石灰の1枚板の測定した音透過損失が、比較のために示されている。コインシデンス下落周波数範囲は、1枚板に関する2〜3Hzと比べて、標準グレードのPVB(SP)積層板については〜6Hzであり、遮音グレードのPVB(AP)積層板については>8Hzである。
【0067】
図8は、薄い化学強化(GG)積層板と極薄の化学強化(GG)積層板の測定した音透過損失(TL)を示している。図8において、比較の1枚のソーダ石灰のデータと、本発明の1.0mmのGG/0.76mmのA−PVB/1.0mmのGGのデータは、図7のそれぞれのデータに対応する。0.7mmの厚さを有する一対の化学強化ガラス板を有する音響グレートのPVBを備えたガラス積層板に関するデータも、図8に示されている。1.0mmのGG/0.76mmのA−PVB/1.0mmのGGのガラス積層板と、0.7mmのGG/0.76mmのA−PVB/0.7mmのGGのガラス積層板の両方について、透過損失は、音響グレートのPVBを備えた両方のガラス積層板が8000Hz超のコインシデンス下落を示すように、試験した周波数の領域に亘り単調に増加している。
【0068】
より薄い化学強化ガラス積層板の有益な音響減衰性能を説明できる仮説がいくつか存在する。あるモデルにおいて、一致周波数における予測されたシフトにより、全体的に良好な音響採点がもたらされる。より薄い積層板は、1kHz未満の質量制御領域において損失を有し、増加した一致周波数が、2〜5kHz領域において減衰を増加させるであろうし、それゆえ、STC採点において正味の利益をもたらすであろう。第2のモデルによれば、より薄い板とより薄いガラス積層板のより小さいアスペクト比により、積層板構造がよりコンプライアントになり、これにより、ポリマー中間層の剪断歪みがより大きくなり、それにより、より高い減衰性能をもたらすことができる。
【0069】
ガラス積層板の厚さに加え、積層板を構成するガラス板の性質も、音減衰特性に影響するであろう。例えば、化学強化ガラス板と非化学強化ガラス板との間に、ポリマー層の高い剪断歪みに寄与する、ガラスとポリマー中間層との界面に小さいが重大な差があるであろう。また、明らかな組成の違いに加え、アルミノケイ酸塩ガラスとソーダ石灰ガラスは、弾性率、ポアソン比、密度などを含む、物理的性質と機械的性質が異なり、これにより、音響応答の差が生じるであろう。
【0070】
ここに用いたように、単数形は、内容が明らかにそうではないと示していない限り、複数の対象を含む。それゆえ、例えば、「金属」の言及は、内容が明らかにそうではないと示していない限り、そのような「金属」を2種類以上有する例を含む。
【0071】
範囲は、「約」ある特定の値から、および/または「約」別の特定の値まで、としてここに表すことができる。そのような範囲が表される場合、例は、そのある特定の値から、および/または他の特定の値まで、を含む。同様に、値が、先行詞「約」の使用により、近似として表されている場合、特定の値は別の態様を形成することが理解されよう。範囲の各々の端点は、他の端点に関してと、他の端点とは関係なくの両方で有意であることも理解されよう。
【0072】
別記しない限り、ここに述べられたどの方法も、その工程が特定の順序で行われることを必要とするものとは、決して意図されていない。したがって、方法の請求項が、その工程が従うべき順序を実際に列挙していない場合、または工程を特定の順序に制限すべきであることが、請求項または説明に他の様式で具体的に述べられていない場合、特定の順序が推測されることは、決して意図されていない。
【0073】
ここでの記述は、特定の様式で機能するように「構成され」または「適用され」ているものと本発明の構成要素を称することも留意されよう。この点に関して、そのような構成要素は、特定の性質を具体化するように、または特定の様式で機能するように「構成され」または「適用され」ており、ここで、そのような記述は、意図する使用の記述ではなく、構造的記述である。より詳しくは、構成要素が「構成され」または「適用され」ている様式のここでの記述は、その構成要素の既存の物理的条件を意味し、それゆえ、その構成要素の構造的特徴の明確な記述として解釈すべきである。
【0074】
本発明の精神および範囲から逸脱せずに、本発明の様々な改変および変更を行えることが当業者には明白である。本発明の精神および本質を含む開示の実施の形態のそのような改変、組合せ、下位の組合せおよび変種は、当業者に想起されるであろうし、本発明は、付随する特許請求の範囲およびその等価物の範囲に全てを含むように構成されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8