特許第5981930号(P5981930)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5981930特別に設計されたマグネシウム‐アルミニウム合金、および血液動態環境における医療でのその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5981930
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】特別に設計されたマグネシウム‐アルミニウム合金、および血液動態環境における医療でのその使用
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/00 20060101AFI20160818BHJP
   A61B 17/12 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   A61B17/00 500
   A61B17/12
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-538865(P2013-538865)
(86)(22)【出願日】2011年11月9日
(65)【公表番号】特表2013-543761(P2013-543761A)
(43)【公表日】2013年12月9日
(86)【国際出願番号】US2011060053
(87)【国際公開番号】WO2012064888
(87)【国際公開日】20120518
【審査請求日】2013年7月8日
【審判番号】不服2015-4205(P2015-4205/J1)
【審判請求日】2015年3月3日
(31)【優先権主張番号】61/411,698
(32)【優先日】2010年11月9日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513113736
【氏名又は名称】トランスルミナル テクノロジーズ リミテッド ライアビリティー カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100064012
【弁理士】
【氏名又は名称】浜田 治雄
(72)【発明者】
【氏名】グリーン,スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】ブックハイト,ルドルフ
【合議体】
【審判長】 西村 泰英
【審判官】 落合 弘之
【審判官】 平岩 正一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/035921(WO,A2)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0052825(US,A1)
【文献】 特表2009−522067(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/116799(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B17/00
A61B17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管で形成された開口を封止するための閉鎖デバイスインプラントであって、該閉鎖デバイスインプラントは、
使用時に、少なくとも部分的に血管の内腔に接触するフットプレート部分を備え、
該フットプレート部分が、マグネシウム合金を含む生体腐食性金属から形成され、該フットプレート部分のマグネシウム合金がMg−Al−Feの三元組成のみから成り、該アルミニウムが合金全量に対して3〜8.25重量%含まれ、該鉄が合金全量に対して0.01〜0.05重量%含まれ、且つ
該鉄は、腐食活性化剤であり、該腐食活性化剤により形成された該マグネシウム合金は、血液動態環境において、AZ31の腐食速度よりも速い腐食速度を有するよう形成されることを特徴とする閉鎖デバイスインプラント。
【請求項2】
前記フットプレート部分に接続されたプラグ部分をさらに備える請求項1記載の閉鎖デバイスインプラント。
【請求項3】
前記プラグ部分が、マグネシウム合金を含む生体腐食性金属から形成され、前記プラグ部分のマグネシウム合金がMg−Al−Feの三元組成のみから成り、該アルミニウムが合金全量に対して3〜8.25重量%含まれ、該鉄が合金全量に対して0.01〜0.05重量%含まれ、且つ
該鉄は、腐食活性化剤であり、該腐食活性化剤により形成された該マグネシウム合金は、血液動態環境において、AZ31の腐食速度よりも速い腐食速度を有するよう形成されることを特徴とする請求項2記載の閉鎖デバイスインプラント。
【請求項4】
前記フットプレート部分のマグネシウム合金、および前記プラグ部分のマグネシウム合金が、異なる割合のアルミニウムを含む請求項3記載の閉鎖デバイスインプラント。
【請求項5】
前記フットプレート部分のマグネシウム合金、および前記プラグ部分のマグネシウム合金が、同じ割合のアルミニウムを含む請求項3記載の閉鎖デバイスインプラント。
【請求項6】
血管で形成された開口を封止するための閉鎖デバイスインプラントであって、該閉鎖デバイスインプラントは、
近位端部および遠位端部を備えるプラグと、
該プラグの遠位端部に対して遠位にある位置から該プラグに延びるワイヤーと、
該ワイヤーに取り付けられ、かつ該プラグの該遠位端部に対して遠位に位置するフットプレートと、を備え、
該ワイヤー、該プラグ、および該フットプレートのうちの少なくとも1つが、マグネシウム合金を含む生体腐食性金属から少なくとも部分的に形成され、該マグネシウム合金がMg−Al−Feの三元組成のみから成り、該アルミニウムが合金全量に対して3〜8.25重量%含まれ、該鉄が合金全量に対して0.01〜0.05重量%含まれ、且つ
該鉄は、腐食活性化剤であり、該腐食活性化剤により形成された該マグネシウム合金は、血液動態環境において、AZ31の腐食速度よりも速い腐食速度を有するよう形成されることを特徴とする閉鎖デバイスインプラント。
【請求項7】
前記フットプレートおよび前記ワイヤーが、同じ割合のアルミニウムを含む請求項記載の閉鎖デバイスインプラント。
【請求項8】
前記フットプレートおよび前記プラグが、異なる割合のアルミニウムを含む請求項記載の閉鎖デバイスインプラント。
【請求項9】
前記プラグと比較して、前記フットプレートが大きな割合のアルミニウムを含む請求項記載の閉鎖デバイスインプラント
【請求項10】
前記フットプレートの表面積と容積の比が、前記プラグの表面積と容積の比よりも大きい請求項記載の閉鎖デバイスインプラント
【発明の詳細な説明】
【関連出願データ】
【0001】
本出願は、2010年11月9日に出願された、米国仮特許出願第61/411,698号に対する優先権を主張し、前述の特許関係書類はすべて、引用によりそれぞれの全体が本明細書中に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、概して、特別に設計されたマグネシウム‐アルミニウム(「Mg‐Al」)合金、および血液動態環境における医療でのその使用に関し、特に、かかる特別に設計されたマグネシウム‐アルミニウム合金から製造された、生体組織(血管など)で形成された開口を封止するためのデバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
特定のMg合金は公知であり、生体組織(血管など)で形成された開口を封止するデバイスを形成するのに使用されている。たとえば、米国特許出願公開第2011/0046665号明細書の段落番号[0015]、[0018]、[0025]および[0038]を参照されたい(フットプレート(footplate)、プラグおよびワイヤーを備える生体組織で形成された、開口を封止するための閉鎖デバイスについて記載し、フットプレート、ワイヤー、および/またはプラグ部分が、特定のマグネシウム合金を含む生体適合性で生体腐食性(biocorrodible)の金属から製造される)。
【0004】
Mgへのアルミニウムの添加は、腐食速度に対して重要な影響があるが、種々の傾向を見出すことができる。Pardoは、Mg合金AZ31への3% Alの添加が、3.5% NaCl溶液の腐食速度をわずかに減少させ、また、AM80およびAZ91でみられる8〜9重量%のAlの添加が、3.5% NaCl溶液での電気化学試験において、腐食速度を強く減少させることを報告する(A. Pardo, M.C. Merino, A.E. Coy, F. Viejo, R. Arrabal, S. Feliu, Jr., Electrochim. Acta, 53, 7890−7902 (2008)参照)。Abadyと共同研究者は、塩化物を含まない緩衝液に暴露させた0〜15重量%Mgの合金に関する電気化学試験において、腐食速度が5重量%Alで最大になり、また、10%および15%Alの合金において顕著に減少することを発見した(G. M. Abady, N.H. Hilal, M. El−Rabiee, W.A. Badawy, Electrochim. Acta, 55, 6651−6658 (2010)参照)。Kitaらは、電気化学試験から、腐食速度が、1〜9質量%の範囲にわたるAl含量の増加に伴って、希釈塩化物環境で増加することを発見した(H. Kita, M. Kimoto, T. Kudo, J. Japan Inst. Of Metals, 69, 805−809 (2005)参照)。
【0005】
シミュレートされた生体環境において、腐食速度依存性は、Al含量の増加によって速度が減少することを示すと考えられる。36.5℃における静止改良シミュレート体液(SBF)に暴露させたMg‐xAl‐3Zn合金の電気化学腐食速度測定から、腐食速度は、Al含量の増加に伴って、非常に減少することが分かった(Z. Wen, C. Wu, C. Dai, F. Yang, J. Alloys and Compounds, 488, 392−399 (2009)参照)。Kirklandは、37℃における最小必須培地(MEM)での腐食速度が、0〜9重量%の範囲にわたるAl濃度の増加に伴って、非常に減少することを報告した(N.T. Kirkland, J. Lespagnol, N. Birbilis, M.P. Staiger, Corrosion Sci., 52, 287−291 (2010)参照)。
【0006】
関連技術の説明の節の否認:特定の特許/刊行物が、この関連技術の説明の節、または本出願の他の箇所において上で論じられる程度まで、これらの議論は、論じられる特許/刊行物が特許法の目的で先行技術であるという容認として採用されるものではない。たとえば、論じられる特許/刊行物のうちの一部またはすべては、本出願日よりも十分に早くなくてもよく、本出願日よりも十分早く開発された主題を表さなくてもよく、および/または、特許法の目的で先行技術と等しくなることを十分可能にしなくてもよい。特定の特許/刊行物が、この関連技術の説明の節、および/または本出願全体において上で論じられる程度まで、該特許/刊行物はすべて、引用によりそれぞれの全体が本明細書中に組み込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2011/0046665号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】A. Pardo, M.C. Merino, A.E. Coy, F. Viejo, R. Arrabal, S. Feliu, Jr., Electrochim. Acta, 53, 7890−7902 (2008)
【非特許文献2】G. M. Abady, N.H. Hilal, M. El−Rabiee, W.A. Badawy, Electrochim. Acta, 55, 6651−6658 (2010)
【非特許文献3】H. Kita, M. Kimoto, T. Kudo, J. Japan Inst. Of Metals, 69, 805−809 (2005)
【非特許文献4】Z. Wen, C. Wu, C. Dai, F. Yang, J. Alloys and Compounds, 488, 392−399 (2009)
【非特許文献5】N.T. Kirkland, J. Lespagnol, N. Birbilis, M.P. Staiger, Corrosion Sci., 52, 287−291 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来のMg‐Al合金による潜在的な問題および/または不都合、ならびに、上述の関連技術の説明の節で参照されたこれらの合金に関して行われた研究とは異なる有用でない結果があることを認識する。図1を参照されたい(この図および他の図で引用されたSinghの参考文献は、R.K. Singh Raman, N. Birbilis, J. Efthimiadis, Corrosion Engineering Science and Technology, Vol. 39, no. 4, p. 346 (2004)であり、この図および他の図で引用された残りの参考文献は、本出願で既に参照されている)。明らかに異なる知見は、Mg‐Al合金の腐食速度が、おそらくAl含量だけでなく、他の合金化元素の存在および合金微構造などの他の要因に依存するというものである。また、環境構成、pH、温度、および、特定の事例において、接触する液体媒体の流速にも依存する可能性がある。SBFおよびMEM環境が、血管内部の機械的動態生理環境を十分に模倣するか否か判断する必要がある。また、特定の閉鎖デバイス用途の目的に適する、血液動態環境において特定の予測可能な速度で腐食を調整できる、Mg‐Al合金を開発する必要もある。本発明の種々の実施態様は、この段落において上に論じられた、潜在的な問題および/または不都合のうちの1以上を解決するか、または低減することができるという点で有利であり得る。
【0010】
したがって、本発明は、先行技術の問題および異なる知見を克服する、特別に設計されたMg‐Al合金、および血液動態環境における医療でのその使用を提供することを主な目的および利点とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の目的および利点によれば、本発明の実施態様は、かかる特別に設計されたMg‐Al合金から製造された閉鎖デバイスを含む、医療デバイスを提供する。生体組織で形成された開口を封止するための閉鎖デバイス、または閉鎖デバイスインプラントは、血管(大腿動脈など)の内腔に位置する(または、少なくとも部分的に該内腔に接触する)部分(「フットプレート」部分)と、開口を塞ぎ、さらに、部分的に血管の内腔に接触することができる部分(「プラグ」部分)と、フットプレートをプラグに接続し、さらに、少なくとも部分的に血管の内腔に接触することができる部分(「ワイヤー」部分)とを備え得る。本発明の実施態様のMg‐Al合金から製造された閉鎖デバイスは、これらの特定部分の1つ1つを有さない場合があることが考慮される。たとえば、閉鎖デバイスには、ワイヤー部分およびプラグ部分のみ、フットプレート部分およびプラグ部分のみ、フットプレート部分およびワイヤー部分のみ、またはフットプレート部分のみが含まれる場合がある。
【0012】
本発明の実施態様によれば、特別に設計されたMg‐Al合金には、Mg‐Al合金の特定目的のための「調整」から生じ得る範囲(好ましくは、本明細書に開示された目的のための1〜10%の範囲内)のAl合金含量を有するMg‐Al合金組成物が含まれ得る。また、Feも、腐食活性化剤としてMg‐Al合金組成物に加えることができる。
【0013】
本発明の実施態様によれば、Mg‐Al合金のAl合金含量の調整によって、本発明の実施態様のMg‐Al合金から製造された閉鎖デバイス部分のインビボ腐食速度の調整能が提供される。
【0014】
本発明の実施態様によれば、閉鎖デバイスの少なくとも1つの部分は、本発明の実施態様のMg‐Al合金から製造することができる。本発明の実施態様のMg‐Al合金から閉鎖デバイスの部分のすべてを製造する必要があるとは限らない。閉鎖デバイスの部分の少なくとも2つは、本発明の実施態様の同じMg‐Al合金から製造することができる。または、閉鎖デバイスの特定の部分の腐食速度を調整するために、閉鎖デバイスの部分は、本発明の実施態様の異なるMg‐Al合金から製造することができる。たとえば、プラグよりも大きな割合で腐食するフットプレートを調整するために、フットプレートは、プラグよりも大きなAl含量割合のMg‐Al合金から製造することができる。また、当業者によって理解されるように、金属腐食は表面現象である。種々の閉鎖デバイス部分/構成要素の表面積と容積の比の調整によって、部分/構成要素の腐食に要する全時間を変更するかまたは「調整」して、種々の滞留時間を提供することができる。材料の腐食速度は一定を維持する(たとえば、構成要素が同じ合金から製造される場合)が、個々の構成要素のトポグラフィーは変化し、腐食が生じ得る大きいまたは小さい表面積を提供することができ、このため、それぞれ、速い構成要素の全体的な腐食(したがって、インビボで短い滞留時間)、または、遅い構成要素の全体的な腐食(したがって、インビボで比較的長い滞留時間)を提供することができる。好ましい実施態様において、フットプレートの表面積と容積の比は、プラグよりも大きくなるように設計され、これによって、プラグと比較して、インビボで短い滞留時間となる。
【0015】
以下の詳細な説明の節でさらに十分論じるように、1重量%から8.25重量%に及ぶAl含量を有する特別に設計されたマグネシウム合金の腐食速度および生体適合性を、インビボ暴露を用いて評価し、新規経皮的血管閉鎖デバイスインプラントの開発をサポートした。閉鎖デバイスインプラントは、創傷に挿入した、特別に設計されたツールを使用して送達された小さい移植可能な閉鎖デバイスインプラントを配置することによって、動脈切開に関連する創傷の出血を迅速かつ完全に止めることを意図する。この用途では、自然治癒が起こるので、閉鎖デバイスインプラントが、時間の経過に伴って徐々に吸収されることを目的とする。この性能目的は、材料腐食速度(生体移植金属の全体の文脈において高い)と創傷治癒速度の間でバランスをとる必要がある。これは、高い耐食性設計目的と対照的であり、これは、インプラント材料においてより一般的である。
【0016】
本発明は、添付の図面と共に次に示す詳細な説明を理解することによって、十分に理解され、認識される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、明らかに異なる結果であるにもかかわらず、生体刺激環境中のMgの腐食速度がAlの添加によって影響を受けたことを示すグラフである。
図2図2は、本発明の実施態様の特別に設計されたMg‐Al合金から製造することができる、配置後の動脈切開封止位置および形態における、閉鎖デバイスの実施態様の透視図である。
図3図3(a)〜(b)は、腐食されていない試験試料に対する15日間の外植片、ヒツジ大動脈(後腹膜到達法)の結果の写真を示す。
図4図4は、本発明の実施態様による、ヒツジ大腿動脈への移植前のインプラント試験試料のうちの1つの写真を示す。
図5図5は、本発明の実施態様による、ヒツジ大腿動脈への移植後の前方暴露の写真を示す。
図6図6(a)〜(d)は、(a)移植4時間後の左大腿動脈、(b)移植8時間後の左大腿動脈、(c)移植4時間後の右大腿動脈、および(d)移植8時間後の右大腿動脈のエクスビボの全体組織構造を示す。
図7図7(a)〜(d)は、本発明の実施態様による、炎症反応をほとんど示さない、ヒツジ(動物G3918)の大腿動脈の一部の病理組織を示す。
図8図8は、本発明の実施態様による、腐食減量によって試験されたMg‐Al‐Fe合金のAl含量に対するインビボの腐食速度を示すグラフである。
図9図9は、構成する試験合金によって均一に分散した遷移金属を多く含む金属間粒子(Mgのバックグラウンドおよび微量のFeを有するAl)を示すSEM像である。
図10図10(a)〜(b)は、既存の文献と、本発明の実施態様による血液動態暴露における、生体環境刺激物での腐食速度の比較を示す。
図11図11は、本発明の実施態様による、腐食の範囲を示す、外植されたMg合金試料の光学顕微鏡写真である。8時間暴露後のAZ31を上に示し、4時間暴露後のMg‐8.25Alを真ん中に示し、また、8時間暴露後のMg‐8.25Alを下に示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ここで、本発明の好ましい実施態様の詳細を言及し、これらの例を添付の図面に示す。
【0019】
本発明の実施態様によれば、米国特許出願公開第2011/0046665号明細書(引用によりその全体が本明細書中に組み込まれる)に示され、記載されている閉鎖デバイスインプラントなどの閉鎖デバイスインプラントは、本発明の実施態様の特別に設計されたMg‐Al合金から製造することができる。米国特許出願公開第2011/0046665号明細書の閉鎖デバイスインプラントの実施態様は、その完全に配置された形態でおよび図42の位置に示される。米国特許出願公開第2011/0046665号明細書の図42に示す閉鎖デバイスインプラントには、フットプレート110’、プラグ111およびワイヤー120が含まれる。また、図42は、血管400を覆う皮下組織409、血管400の血管壁401の外面402と内面403も示す。開口/動脈切開405を封止している閉鎖デバイスインプラントを示す。閉鎖デバイスインプラントおよび閉鎖デバイス配置デバイス(たとえば、参照符号200、図53(a)参照)の他の多くの実施態様は、米国特許出願公開第2011/0046665号明細書に示され、記載され、本発明の特定の実施態様の一部である。
【0020】
本発明の実施態様の特別に設計されたMg‐Al合金から製造することができる、閉鎖デバイスインプラントの別の実施態様には、図2に示す閉鎖デバイスインプラント100が含まれる。図2は、次に示す構成要素の1以上を含む閉鎖デバイスインプラントを示す。血管45(血管45は、内腔55を示すために、その縦方向軸に沿って切断して示す)の血管壁15の内面5に固定されるフットプレート10、動脈切開25内に封止して位置するプラグ30、および、フットプレート10をプラグ30に接続するワイヤー20、ワイヤー20には、その遠位端部に、フットプレートによるボールとソケットの接続、および、その近位端部に、フットプレートとプラグを固定する、可塑性により変形したベッドが含まれる。図2は、本発明の実施態様による、プラグ30とフットプレート10の間の動脈切開25の締付け、好ましくは、安定した構成物および即時の止血の提供を示す。
【0021】
他の既存の(または、まだ存在していない)閉鎖デバイス型インプラントは、本発明の実施態様の特別に設計されたMg‐Al合金から製造できることが考慮される。血管で形成された開口を封止するのに使用されるデバイスの一部が、血管の内腔および生体適合性で血液に接触し、特定の腐食速度が所望される場合、デバイスは、本発明の実施態様の特別に設計されたMg‐Al合金から製造することができる。かかるデバイスは、たとえば、米国特許第4,744,364号、同第5,222,974号、同第5,282,827号、同第5,441,517号、同第5,676,689号、同第5,861,004号、同第6,045,569号、同第6,007,563号、同第6,090,130号、同第5,545,178号、同第5,531,759号、同第5,593,422号、同第5,916,236号、同第6,890,343号、および同第6,969,397号明細書に示され、記載されており、引用によりそれぞれの全体が本明細書中に組み込まれる。
【0022】
本発明の利点を実施例の節によって示す。しかしながら、他の条件および詳細と同様に、これらの実施例に詳述された特定の材料および量は、当該技術分野に広く適用されるものと解釈され、いずれかの方法で過度に発明を制限または限定するものと解釈されない。
【0023】
実施例の節は、血液動態環境における腐食速度、腐食形式、およびMg‐Al合金の生体適合性のインビボ評価について説明する。説明された試験の目的は、完全に生体適合性で、迅速に生体に吸収される閉鎖デバイスインプラントのために、Mg‐Al合金を選択することである。短期目標には、配置次第で即時の止血を容易にする閉鎖デバイスインプラントの創作によって、たとえあったとしても最小の急性炎症反応、塞栓症の回避をもたらし、また、患者の歩行を促進することができることが含まれる。長期目標には、少なくとも腔内のフットプレート構成要素の迅速で完全な生体吸収(およそ1〜2日)、創傷治癒、血管性能の無喪失、および化学暴露からの有害な組織の影響(たとえば、腐食副産物および水素発生)がないことが含まれる。
【実施例】
【0024】
実施例1
AZ31インプラント材料
本実施例は、かかるマグネシウム合金に対するこの血液動態環境中の腐食作用を検討するために、ヒツジ大動脈へのAZ31から製造されたフットプレートの移植について説明する。
【0025】
図3(a)〜(b)は、腐食されていない試験試料に対する15日間の外植片、ヒツジ大動脈(後腹膜到達法)の結果の写真を示す。図3(a)は、それぞれのフットプレートの底部を示し、図3(b)は、それぞれのフットプレートの上部を示し、腐食されていないフットプレート試験試料は、図3(a)および図3(b)のそれぞれの左手側にある。吸収に要する時間はおよそ150日になるものと推定される。
【0026】
次に示す実施例の目的は、生理血液動態環境中の合金溶解速度に対するAl含量の影響について特性評価することである。Mgの生体適合性は公知であるが、より迅速な生体吸収速度が、閉鎖デバイスインプラントの実施態様のための目的である。
【0027】
実施例2
本実施例は、特定のMg‐Al合金の腐食によって、生体吸収動力学を決定することを試みたインビボ試験について説明する。該試験を、ヒツジ大腿動脈(ヒト大腿部モデルと同様の血流条件、同様の血液化学物質、同様の内腔および動脈壁生理、ならびに同様の内皮生理を有する、ヒト大腿部モデルの類似物)においてインビボで行った。また、インプラントに対する病理組織の反応も、ヒトの反応と類似している。本研究に使用する動物(動物G3924(8時間で屠殺)、動物G3918(4時間で屠殺))は、2歳以上および200ポンド以上であった。
【0028】
簡潔には、0.74mmの径および5.1mmの長さの小さい円筒状Mg合金試料を、18ゲージアクセス針を使用して、ヒツジの大腿動脈に移植し(切開法)、単一の縫合によって血管壁に固定した。このようにして、該試料を、血管閉鎖デバイスの操作と一致する方法で、実際の血流および化学物質、血管拘縮、血管壁テクスチャー、ならびに内皮成長に関連する環境上の影響に暴露させた。
【0029】
異なる5つの合金について検討した。Mg合金試料には、市販の合金対照としてAZ31が含まれていた。残る合金は、Mg‐Al‐Feの三元組成を有していた。合金化学作用および表面処理を用いて、腐食速度を調節した。Al合金内容物を含む遷移金属は、下の表1に示すように、1重量%から8.25重量%まで及んだ。少量のFeを腐食活性化剤として合金に加えた。Feを含む遷移金属は、Mg腐食の強力な腐食活性化剤である。AlおよびZnの添加によって、機械的性質を変化させることができる。MgへのAlおよびZnの添加は、希釈塩化物溶液におけるMgの腐食速度に顕著な影響を与えない。Joseph R. Davis, Metals Handbookの図1(3% NaCl溶液中への代替的浸漬によって決定されるマグネシウムの腐食速度に対する合金化および汚染金属の影響のグラフを示す)を参照されたい。
【0030】
【表1】
【0031】
その後、試料を、硫酸鉄改良硫酸または酢酸溶液のいずれかで化学処理した。試料を、たとえば、1gの98%硫酸HSOと10mL蒸留水中0.04gのFeSOの水溶液中で処理して、Feおよび遷移金属不純物を有する表面を富化した。この表面処理を行って、腐食をさらに刺激することを試みた。
【0032】
図9は、本発明の実施態様による、Mg‐Al‐Fe合金の研磨された断面を示す走査型電子顕微鏡(SEM)の像である。不純物元素およびFeおよびMnなどの遷移元素(不純物自体である場合がある)を、これらの粒子に濃縮する。この種の粒子は、Mg合金の腐食のための重要な開始部位であり、腐食のための活性化部位であると考えることができる。腐食開始部位の分散は、高い腐食速度の達成、および、腐食が構成要素の表面にわたって幾分均一を維持するのを保証することにとって重要である。示された遷移金属を多く含む金属間粒子は、試験合金によって、基本的に一貫性があり、均等で、均一な分散を有する。下の結果の節で論ずるように、この分散によって、基本的に均等な腐食速度、均一な腐食挙動が生じる。
【0033】
6つのインプラントを1つの大腿動脈ごとに1cm間隔で加えた(それぞれの4つのMg‐Al‐Feのうちの1つと、対照としての2つのAZ31)。
【0034】
図4は、本発明の実施態様による、ヒツジ大腿動脈への移植前のインプラント試験試料のうちの1つの写真を示す。
【0035】
図5は、本発明の実施態様による、ヒツジ大腿動脈への移植後の前方暴露の写真を示す。
【0036】
図6(a)〜(d)は、(a)移植4時間後の左大腿動脈、(b)移植8時間後の左大腿動脈、(c)移植4時間後の右大腿動脈、および(d)移植8時間後の右大腿動脈のエクスビボの全体組織構造を示す。
【0037】
図7(a)〜(d)は、本発明の実施態様による、炎症反応をほとんど示さない、ヒツジ(動物G3918)の大腿動脈の一部の病理組織を示す。
【0038】
下の表2および3は、表1に示す合金から製造されたヒツジインプラントの腐食減量分析を示す。
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
結果は、試験Mg‐Al合金がすべて5日以内の暴露で完全に溶解したことを示し、このことは、短期間の暴露でほとんど腐食しなかったMg合金AZ31よりも劇的に速い腐食速度であることを指し示している。腐食速度は、Al含量の増加に伴って、増加することが分かった。これは、SBFおよびMEMにおけるMg‐Al合金について報告された腐食速度データのうちの一部と一致しない傾向であった。Wenらによって行われた研究において、AZ91は、約0.01mg/cm2‐hrの速度で腐食することが分かった(Z. Wen, C. Wu, C. Dai, F. Yang, J. Alloys and Compounds, 488, 392−399 (2009)参照)。一方、Kirklandらは、Mg‐9A1で0.004mg/cm2‐hrの腐食速度を見出した(N.T. Kirkland, J. Lespagnol, N. Birbilis, M.P. Staiger, Corrosion Sci., 52, 287−291 (2010)参照)。
【0042】
図8は、インビボで暴露した表面処理Mg‐8.25A1の腐食速度が、0.6mg/cm2‐hrから1.3mg/cm2‐hrに及ぶ速度で腐食することを示し、これは、静止シミュレートインビトロ環境よりも約2桁速い。結果は、Al含量への腐食速度の強い依存、および、閉鎖デバイス用途に適した腐食速度を示す。
【0043】
図10(a)〜(b)は、一部の参照された既存の文献で論じられたものと、本発明の実施態様による血液動態暴露における、生体環境刺激物での腐食速度の比較を示す。
【0044】
腐食形態の点では、観察された腐食は、本質的に、本来均一である(均一の局所的腐食)。試験Mg‐Al‐Fe合金の腐食は、AZ31に対して速かった。図11は、腐食の範囲を示す、外植されたMg合金試料の光学顕微鏡写真である。8時間暴露後のAZ31を上に示し、4時間暴露後のMg‐8.25Alを真ん中に示し、また、8時間暴露後のMg‐8.25Alを下に示す。
【0045】
MgとAlの水酸化物が混合したものと推測される、黒ずんだ腐食物は、外植された動脈部分の組織検査で明らかである。負の免疫反応の徴候はない。別の長期研究であっても、何十日も不変である。実際、閉鎖デバイスインプラントとその構成要素に関する別の研究は、Mg合金構成要素の内皮化、ならびに十分な創傷閉鎖および治癒を示す。
【0046】
これらの結果は、特別に設計されたMg‐Al合金が、血液動態環境において、用途に適切な時間枠(好ましくは、およそ1〜2日、最大5日以内)で閉鎖デバイスインプラントの実施態様のMg系成分の生体吸収が生じる、腐食速度を実証することを示す。また、結果は、Mg‐Al‐Fe合金のAl合金含量の調整によって、インビボの腐食速度を顕著に調整する性能も示唆する。この調整は、必要に応じて行うことができる。
【0047】
実施例3
腐食速度を調整するためのマグネシウムおよびマグネシウム合金の表面前処理
本実施例は、一時的にまたは恒久的にインビボ環境での溶解速度を増加させるマグネシウムおよびマグネシウム合金の表面の改質について説明する。
【0048】
簡潔には、処理は、浸漬、噴霧またはブラシ研摩をし、その後、清浄な水で洗浄し、乾燥させることによって、特別に調製した水溶液と合金とを接触させることを含む。溶液組成は、適切な酸を添加して、合金を活性化し、溶液のpHを改善すること、および、腐食の増加を達成するために具体的に選択される促進剤を添加することによって定義される。この処理を通じて、合金の表面組成を、(1)Mg構成要素が選択的に腐食するので、合金に既に含まれていた不純物を濃縮し、(2)酸および促進剤の添加に関係する溶液から生成物を堆積させることによって、改良する。
【0049】
適切な無機酸には、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸、およびホスホン酸が含まれる。酸の濃度は、溶液1リットル当たり1mg〜10gの範囲であり得る。適切な有機酸には、クエン酸、酒石酸、酢酸、およびシュウ酸が含まれる。適切な促進剤は、一般に、可溶性遷移金属塩であるが、通常、もっぱら、鉄、マンガンおよびコバルトではない。促進剤の濃度は通常、酸の濃度よりもはるかに少なく、溶液1リットル当たり0.01mg〜1gの範囲である。
【0050】
溶液と処理表面の間の接触時間を、さらに腐食速度を調整するために変更してもよい。接触時間は、前処理溶液の化学作用および所望の腐食速度に基づいて、5秒〜10分の範囲であり得る。前処理後、表面を蒸留水または脱イオン水で十分に洗浄して、前処理溶液と合金の間の相互作用を停止させる。使用前の表面処理はこれ以上必要ではない。次に示すものは処理の例である。
【0051】
Mg合金試料を、1gの98%硫酸HSOと10mL蒸留水中0.04gの硫酸鉄FeSOの水溶液中で浸漬することによって、前処理した。試料を、最低90秒間および120秒未満、合金型によって25のバッチで処理した。前処理溶液中における浸漬後に、試料を洗浄し、風乾させた。試料バッチを前処理前後に秤量した。次の表4に示すように、腐食減量を計算し、試料ごとの腐食減量を評価した。
【0052】
【表4】
【0053】
結果は、試料ごとに0.14mgから0.46mgまで、Mg‐3Al、Mg‐6Al、およびMg‐8Al試料の腐食減量が規則的に増加することを示す。この反応は、Mg‐Al合金の溶解速度が、Al含量の増加に伴って増加するという予想と一致している。AZ31およびMg‐1Al試料の腐食減量は、試料ごとに0.24mgおよび0.28mgであり、他の試料によって示された傾向を外れて現われる。試料のこれらの2つのバッチは、非常に小さい試料の除去および洗浄の困難さにより、90秒よりも長い時間、前処理溶液に接触させた。Mg‐3Al、Mg‐6Al、およびMg‐8Al試料の前処理プロトコールを改良し、これらの浸漬時間は、90秒の標的に非常に近かった。AZ31B試料以外の試料はすべて、前処理後に鮮明な光沢のある表面を示した。AZ31B試料はわずかに黒くなった。
【0054】
本発明が種々の変更および代替の形態を許容する一方で、その具体例を、図面に示し、本明細書に詳述した。しかしながら、本発明は、開示された特定の形態または方法に限定されず、反対に、本発明は、添付の特許請求の範囲の趣旨および範囲にある変更、同等物、および変形例のすべてを網羅するものと理解される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11