特許第5981939号(P5981939)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5981939
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】振動絶縁装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/03 20060101AFI20160818BHJP
【FI】
   F16F15/03 B
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-546677(P2013-546677)
(86)(22)【出願日】2011年12月22日
(65)【公表番号】特表2014-503057(P2014-503057A)
(43)【公表日】2014年2月6日
(86)【国際出願番号】EP2011073785
(87)【国際公開番号】WO2012093038
(87)【国際公開日】20120712
【審査請求日】2014年12月17日
(31)【優先権主張番号】11150034.4
(32)【優先日】2011年1月3日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510018753
【氏名又は名称】テヒニーセ・ユニベルシタイト・エイントホーヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤンセン,イエルーン・ローデフイクス・ヘラルドス
(72)【発明者】
【氏名】パウリデス,ヨハンネス・ヤコブス・フーベルトウス
(72)【発明者】
【氏名】ロモノフア,エレナ・アンドレーナ
【審査官】 岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−042109(JP,A)
【文献】 特開2003−343559(JP,A)
【文献】 特開昭53−064143(JP,A)
【文献】 特開平06−294444(JP,A)
【文献】 特開2004−363606(JP,A)
【文献】 特開平10−306823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動絶縁装置であって、
基部構造と、
装着構造と、
基部構造と装着構造の向い合う、事実上平行の壁によって形成される少なくとも1つの垂直空隙とを備え、
向い合う壁は、永久磁石のそれぞれの配列によって少なくとも部分的にカバーされ、配列の隣接する磁石は交互の磁化方向を有しており、装着構造の重力が装着構造にかかる基部構造の正味の磁力によって実質的に相殺されるように、装着構造の永久磁石の配列が、左から右にへ極性形成された相対する永久磁石が1つの永久磁石のほぼ半分の高さだけ、垂直に変位されるように、基部構造の永久磁石の配列に対して配置されている、振動絶縁装置。
【請求項2】
基部構造が受承容積を持つボックスで、装着構造がブロックからなり、受承容積とブロックの形状および寸法は、垂直空隙を提供するために、ブロックが受承容積に適合するようなものであり、永久磁石のそれぞれの配列が受承容積の少なくとも1つの内壁およびブロックの少なくとも1つの外壁に配置されている、請求項1に記載の振動絶縁装置。
【請求項3】
装着構造が受承容積を持つボックスで、基部構造がブロックからなり、受承容積とブロックの形状および寸法は、垂直空隙を提供するために、ブロックが受承容積に適合するようなものであり、永久磁石のそれぞれの配列が受承容積の少なくとも1つの内壁およびブロックの少なくとも1つの外壁に配置されている、請求項1に記載の振動絶縁装置。
【請求項4】
受承容積の水平横断面が長方形、三角形、または円形の形状を有する、請求項2または3に記載の振動絶縁装置。
【請求項5】
受承容積の水平横断面が十字形である、請求項2または3に記載の振動絶縁装置。
【請求項6】
基部構造および/または装着構造が、基部構造に対し、装着構造の相対移動をアクティブに制御するための少なくとも1つの電磁気相殺ユニットを備える、請求項1に記載の振動絶縁装置。
【請求項7】
交互の磁化方向を持つ永久磁石がチェッカーボードパターンを形成する、請求項1に記載の振動絶縁装置。
【請求項8】
交互の磁化方向を持つ永久磁石がHalbach構成を形成する、請求項1に記載の振動絶縁装置。
【請求項9】
垂直空隙が垂直軸に対して少し傾斜している、請求項1に記載の振動絶縁装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基部構造、装着構造、および装着構造上で重力を相殺するための手段を備える振動絶縁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リソグラフィ業界、電子ビーム顕微鏡、宇宙応用分野などの多くの生産技術者は、正確な位置決めシステムを取り扱う。そのような機器の振動および他のタイプの機械的障害は、容易に、達成可能な精度を制限する点で主な要因となって表れ、そのために、大幅な低減化が必要とされる。より小型化し続ける機能の正確な復元には環境からの優れた絶縁が必要であると同時に、市場の要求により推進される生産性の関心事はより高速な動作も求めている。そのような要求は、振動絶縁設計に特別な制約を課すものである。多くの場合、絶縁質量塊の構造的設計では固有の振動絶縁がほとんど行われず、パッシブな手段により、必要なすべての帯域幅に不十分な絶縁しか提供しないので、振動制御を提供するために通常、アクティブな手段が活用される。そのような適用分野では、高質量を伴う大きなペイロードの高精度振動絶縁には、多くの場合、真空適合性、非接触構造、高い力密度、および低い剛性が必要とされる。
【0003】
振動および他のタイプの機械障害のアクティブな絶縁と制御にはよく、空気ベースの解決策が使用される。リソグラフィの適用分野のほとんどでは、いわゆるエアーマウントが使用され、それは安定制御を提供する電気機械ローレンツアクチュエータにより補われる。制御バルブで、空気ばねとして機能する大きなエアータンクへの圧縮空気の流れが調整される。鋼鉄製のコイルばねとは異なり、このシステムの共振周波数はペイロードの質量とはほとんど無関係で、高さ制御バルブで作動高さが調整される。これによって重力補正とばね剛性が提供され、ここで、ローレンツアクチュエータはすべての自由度で安定性と正確な位置決めを確保することになる。
【0004】
現在よく使用される空気絶縁装置の絶縁帯域幅は、通常、限定されている。その結果、高い周波数での振動は適切に除き去られず、絶縁される機器の性能は制限される。さらに、空気ベアリングは、性能に不利な影響のあり得る大幅な構造的変更が加えられる場合には、真空状態にのみ適している。
【0005】
磁石ベースの振動絶縁システムは、ますますパッシブまたは空気式振動絶縁システムの実現可能な代替方法と見なされている。その方法には、クリーンで、ノイズがなく、振動もなく、保守不要などの明確な特徴がある。これらの理由により、その方法はますます、振動絶縁の応用分野での使用が考慮されている。磁石ベースの振動絶縁装置の例については、米国特許第6307285号明細書などに記載されている。
【0006】
ロバートソンらによる、アクティブ振動絶縁のための剛性ゼロの磁気ばねでは、低剛性振動隔離システムを得るために、永久磁石システムが使用されている。この非接触磁気ばねでは、装着構造上部の磁石からの引き付ける磁力(負のばね、垂直方向に不安定)と底部側から反発する磁力(正のばね、垂直方向に安定)を使用する。これらの磁力は、主に、永久磁石の磁化の軸に沿って方向付けられている。その結果、垂直の磁力が装着構造を引き下ろしている重力を相殺する。上部の負のばねと底部の正のばねが並列配置で置かれているので、それぞれのばねの剛性が合計され、その結果、剛性はほとんどゼロになる。これによって、固有振動周波数の少ない振動絶縁システムが備えられ、強化された振動絶縁が提供される。しかしながら、ばねの剛性が低いのが非常に局部的であるのがこの磁気ばねタイプの欠点で、結果として、ばねの剛性は位置によってかなり変動する。これによって、低いおよび一定のばねの剛性が必要される場合にのみわずかな運動が可能であるか、またはより大きな運動範囲での安定化および絶縁のためにかなりの制御作用が必要とされる。さらに、そのような両側トポロジーでは、そのような磁気ばねによって及ぼされた垂直ばねの力が機械的手段によってばね周囲に導かれる必要がある場合、欠点になることが証明される場合のある「サンドイッチ」構造が必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6307285号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
剛性が低く、運動のより広い範囲で良好に動作する振動絶縁装置を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様によると、この目的は、基部構造、装着構造、および基部構造と装着構造の向い合う、事実上平行の壁によって形成される少なくとも1つの垂直空隙を備える振動絶縁装置を提供することによって達成される。向い合う壁は少なくとも、永久磁石のそれぞれの配列によって部分的にカバーされ、配列の隣接する磁石は交互の磁化方向を有しており、配列の永久磁石の配置は、装着構造の重力が装着構造にかかる基部構造の正味の磁力によって実質的に相殺されるようになっている。
【0010】
ロバートソンらによる磁気ばねとの主な相違は、垂直空隙が水平のものの代わりに使用されていることである。ロバートソンらによるものの場合、装着構造は装着構造の上または下の磁石表面から引き付けられたり、押し出されたりされる。こうして、磁力は相対する磁石表面に垂直に作用する。永久磁石は、装着構造を引き下ろす重力の力の方向に対して平行な方向に磁化されている。本発明によると、永久磁石のマトリックス配列は、基部構造の個々の磁石が装着構造の個々の磁石を引き付けたり、引き戻したりすること、そしてその逆も同様にできるようになされているが、その結果の正味の磁力により、装着構造は、上向き、すなわち、重力の反対方向に押されるようになる。磁石表面が2つで1組である場合、発生する可能性のある何らかの水平の力は帳消しになる。装着構造は磁石配列の相対する表面に平行な方向に押し上げられる。垂直空隙によって、低い剛性で高い磁力が得られる。本発明による振動絶縁装置の大きな利点は、垂直方向の正味磁力がより広い範囲で一定であることである。
【0011】
振動絶縁装置は、単に振動から保護するだけではなく、他の機械的障害に対する保護にもなることに留意していただきたい。しかしながら、振動絶縁装置という用語が使用されるその理由は、本発明によるシステムが対処しようとする機械的障害の最も一般的タイプが振動だからである。
【0012】
本発明による振動絶縁装置の一実施形態では、基部構造が受承容積を持つボックスで、装着構造はブロックからなっている。受承容積とブロックの形状と寸法は、垂直空隙を提供するために、ブロックが受承容積に適合するようになっている。永久磁石のそれぞれの配列は、受承容積の少なくとも1つの内壁とブロックの少なくとも1つの外壁に配置されている。あるいは、装着構造が受承容積からなり、基部構造がブロックからなっている。
【0013】
好適な実施形態では、永久磁石の配列を保持するために、受承容積と装着構造の複数の壁が使用される。その結果、装着構造の1つの壁での正味磁力で可能な水平分力は、装着構造の他の壁の正味磁力の水平分力によって相殺されることが可能になる。あるいは、円形などの平面ではない受承容積により、そのような相殺が可能になる。
【0014】
振動絶縁装置は、基部構造に対し、装着構造の相対運動をアクティブに制御するための少なくとも1つの電磁気相殺ユニットを備えることができる。相殺ユニットは、基部構造および/または装着構造の一部とすることができる。そのような相殺ユニットは2つの機能を実行することができる。第1に、中立位置からの装着構造の空間偏差が大きすぎるような傾向になる場合、装着構造をこの中立位置に戻すことができる。第2に、パッシブな永久磁石構造の安定性を向上させるために、装着構造の安定化を行うことができる。
【0015】
本発明のこれらおよび他の態様については、本明細書の以後に記述されている実施形態を参照することによって明らかになり、明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1a】本発明による振動絶縁装置により支持されるプラットフォームを示す図である。
図1b】本発明による振動絶縁装置の拡大図である。
図2a図1bで示された振動絶縁装置の装着構造を示す図である。
図2b図1bで示された振動絶縁装置の基部構造を示す図である。
図3a】永久磁石の2つの相対配列が上向きの正味磁力を引き起こすことができる方法を概略的に示す図である。
図3b】装着構造の垂直変位に応じた、正味磁力の水平および垂直分力の図式表示である。
図4】本発明による振動絶縁装置で使用される配列での永久磁石の例示的配置を示す図である。
図5a】上向きの正味磁力を引き起こすための2つの相対配列の配置の代替方法を示す図である。
図5b】少し傾斜させた2つの垂直空隙を示す図である。
図6a】正方形の受承容積を持つ振動絶縁装置の水平横断面を示す図である。
図6b】十字形の受承容積を持つ振動絶縁装置の水平横断面を示す図である。
図7】十字形の装着構造の斜視図である。
図8a】本発明による装着構造の可能なトポロジーを示す図である。
図8b】本発明による装着構造の可能なトポロジーを示す図である。
図8c】本発明による装着構造の可能なトポロジーを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1aは、本発明による振動絶縁装置10により支持されるプラットフォーム14を示す図である。プラットフォーム14は、非常に正確な位置決めと振動絶縁が必要なペイロード15を支える。リソグラフィ業界、電子ビーム顕微鏡、宇宙応用分野などの多くの技術分野で、位置決めシステムの精度について振動の影響を低減化することが非常に重要である。例示プラットフォーム14はリソグラフィ機器で使用され、プラットフォーム14の真下に配置されるシリコンウエハー上にレーザー束を正確に合焦するためのレンズシステム15を支えている。振動絶縁装置10は機器のこの部分の振動を低減化し、ウエハーに位置合わせされたレンズシステム15を保持する。
【0018】
図1bは、本発明による振動絶縁装置10を拡大したものを示している。振動絶縁装置は、基部構造11と装着構造12から構成されている。装着構造12は基部構造11の受承容積に適合し、垂直空隙13が受承容積の内壁と装着構造12の向い合う外壁の間に形成されるようになる。「空隙」13は必ずしも空気で満たされるとは限らず、さらに別の気体または気体混合物で満たされる場合もあることを留意していただきたい。真空環境では、垂直空隙13は単に空の空間から構成される場合がある。ペイロード15は装着構造12の上部表面上に直接配置される場合も、1つ以上の振動絶縁装置10がペイロード15を支えるためのプラットフォーム14を支持するために使用される場合もある。基部構造11と装着構造12のそれぞれの機能は置き換えられることが可能であることも留意していただきたい。裏返しにすると、装着構造12が基部構造11を支える。次いで、基部構造11の受承容積は装着容積12に適合し、ペイロード15またはプラットフォームを支える。しかしながら、次の部分では、振動絶縁装置10は図1bで示されているような方向で使用され、プラットフォーム14は装着構造12により支持されているものとする。同様に、装着物は振動絶縁装置10の上部に配置されるものとすることになる。しかしながら、本発明による振動絶縁装置10は、さらに振動絶縁装置10の真下に吊り下げられる装着物とともに使用される場合もある。
【0019】
図2aは、図1bで示された振動絶縁装置10の装着構造12を示している。装着構造12は、何らかの物質の塊状または中空ブロックで、例えば、アルミニウムなどの非磁性金属または鉄などの磁性金属である。後ほど説明されるとおり、装着構造12の重量は、振動絶縁装置10の上向き磁力が装着構造12、プラットフォーム14、およびペイロード15での重力の引力を相殺するようなものであるべきである。装着構造12の外壁は永久磁石22の配列とともに供給される。配列22の隣接する磁石は、交互の磁化方向を有している。配列22の磁石の少なくとも一部は、配列22が貼り付けられる外壁に垂直な方向に磁化される。
【0020】
図2bは、図1bで示された振動絶縁装置10の基部構造11を示している。基部構造11は、この例では、長方形の形状の受承容積のあるボックスである。受承容積の形状と寸法は、図1bで示されている垂直空隙31を形成するために、基部構造11が装着構造12を受承できるようなものである。基部構造11の内壁も永久磁石21の配列とともに供給される。配列21の隣接する磁石は、交互の磁化方向を有している。配列21の磁石の少なくとも一部は、配列21が貼り付けられる内壁に垂直な方向に磁化される。
【0021】
図2aと図2bの実施形態では、配列の隣接する磁石間で一部の空間が空いたままであるが、磁石はそのような隙間がなくても配置されることも可能である。
【0022】
装着構造12が基部構造の受承容積に挿入される場合(図1bで示されている)、基部構造11と装着構造12の相対する配列21、22の磁石により、装着構造11、プラットフォーム14、およびペイロード15の重量を相殺する正味磁力が引き起こされる。装着構造11、プラットフォーム14、およびペイロード15の合計負荷重量がこの正味磁力と釣り合いがとれている場合、装着構造11は、内壁のいずれか、または受承容積の底部に接触することなく、受承容積内の準安定位置で浮いている。基部構造12が、振動などが原因で、装着構造11に対して移動する場合、変化する正味磁力によって、装着構造はこの安定位置に戻される。
【0023】
相対する磁石配列21、22が互いに接触しないようにするため、機械的停止装置が基部構造11および/または装着構造12に追加される場合がある。
【0024】
図3aは、永久磁石31、32の2つの相対配列21、22が上向きの正味磁力33を引き起こすことができる方法を概略的に示している。図3aは基部構造の磁石配列21および取り付けられる基部構造11の一部を示している。基部構造の磁石配列21は、水平に磁化された3つの永久磁石から構成される。上側と下側の磁石31は左から右への磁化を有している。中央の磁石32は右から左への磁化を有している。示されている装着構造の磁石配列22のみが、水平に磁化された2つの永久磁石を有している。上側の磁石31は左から右への磁化を有している。下側の磁石32は右から左への磁化を有している。垂直空隙13が相対する配列21、22間に形成される。
【0025】
装着構造の磁石配列22は、左から右へ極性形成された相対磁石31が1つの磁石31のほぼ半分の高さだけ、垂直に変位されるように配置される。結果的に、装着構造の磁石配列22の上側磁石は、同時に、基部構造の磁石配列21の上側磁石により引き付けられ、基部構造の磁石配列21の中央磁石により反発される。これら2つの磁力の水平分力は少なくとも部分的に互いに打ち消され、一方、垂直分力は加算される。したがって、装着構造の磁石配列22の上側磁石上の正味磁力は上向きに方向付けられる。同様な仕方で、装着構造の磁石配列22の下側磁石も、基部構造の磁石配列21の磁石により上向きに押される。装着構造12上の正味磁力は比較的大きな垂直分力33と、この例では、小さな水平分力を有する。装着構造の磁石配列22の垂直位置が変化すると、正味磁力の垂直および水平分力33、34も変化する。
【0026】
図3bは、装着構造12の垂直変位に応じた、正味磁力の水平および垂直分力34、33の図式表示を示している。この図は、正味磁力の水平および垂直分力33、34が装着構造12の垂直変位によりどのように変化するかを示している。x軸とy軸が交わる図の中心で、垂直変位はゼロである。このことは、装着構造が、同じ極性形成の相対する磁石が1つの磁石の正確に半分の高さだけ垂直に変位するように配置される状態であることを表している。この状態では、水平方向34では正味磁力がなく、正味磁力の垂直分力33が最大となる。装着構造上で作用する垂直重力が垂直磁力に等しく、反対方向である場合、システムは準安定平衡である。正のx軸は上向きの垂直変位を表している。負のx軸は下方の垂直変位を表している。y軸は正味磁力の水平および垂直分力34、33の大きさと方向を表している。
【0027】
装着構造12の上向きの垂直変位で、わずかに垂直分力が減少し、右から左(負)方向の水平分力34が増大する。下方の垂直変位で、わずかに垂直分力が減少し、左から右(正)方向の水平分力34が増大する。そのような水平分力34は、振動絶縁装置10の他の壁の垂直空隙13(例えば、図1bを参照)および/またはアクティブな電磁気アクチュエータによって相殺されることが可能である。点線35は、図3aの状態の垂直変位および対応する正味磁気分力33、34を示している。
【0028】
右に水平変位すると(空隙の拡大)、水平と垂直の分力の両方が低減化する。空隙の大きさが減少する水平変位では、垂直と水平の分力の両方が増大する。
【0029】
本発明による垂直空隙13を使用することの大きな利点は、装着構造12が垂直に変位する場合、正味磁力の垂直分力33があまり変化しない点にある。追加の空隙を使用すると、装置が平衡点で動作していない場合、特に、水平分力が互いに帳消しになったり、少なくとも低減化したりするので、不安定度を最小限化することができる。こうして得られた振動絶縁装置10は、移動の全範囲で剛性が少なくなる。
【0030】
図4は、本発明による振動絶縁装置10で使用される配列21、22での永久磁石41、42の例示的配置を示している。5×5配列で13個の永久磁石41が図で示されている表面を指す方向に磁化されている。5×5配列で残りの12個の永久磁石42は図で示されている表面からの方向に磁化されている。他の寸法を有する配列も使用することができる。使用可能な最小の配列は1×2配列である。パターンを使用することも可能で、その場合、異なる磁石が異なる寸法を有したり、3つ以上異なる磁化方向が使用されたりする。配列の一部を「空」にしたり、非磁化物質で埋めたりすることもできる。
【0031】
図5aは、上向きの正味磁力を引き起こすための2つの相対配列54、55の配置の代替方法を示している。さらに、永久磁石31、32のほとんどは水平方向に磁化されている。水平磁化された磁石の間に、小さい何らかの永久磁石53が垂直方向に磁化されている。こうして得られた構成は、Halbachまたはquasi−Halbach構成である。そのような構成は、この場合には空隙側であるが、磁場が磁石の片側のみに集中する特性で知られている。
【0032】
図5bは、少し傾斜させた2つの垂直空隙13を示している。この例では、基部構造51が装着構造の受承容積に位置している。基部構造と装着構造の壁は、重力方向に対して少し傾斜している。装着構造の磁石配列52上の正味磁力の水平分力は互いに帳消しなる。装着構造は正味磁力で上向きに押され、重力で引き下ろされる。両方の水平分力が互いに帳消しになると、装着構造は準安定の位置になる。磁石の異なる配列の磁化方向の示されている配置は、この準安定位置になることができる可能性のある多くの配置の中の一例に過ぎない。
【0033】
図6aは、正方形の受承容積を持つ振動絶縁装置10の水平横断面を示している。ここで、受承容積は基部構造11の一部であるが、振動絶縁装置10が裏返しの場合、受承容積は装着構造12の一部であるものとする。相対する磁石配列21、22は、方向が異なる4つの水平空隙13を形成する。配列21、22の永久磁石の磁化は、正味磁力のすべての水平分力がほとんどすべて互いに帳消しになることが好適である。この図で示される配置の欠点は、装着構造12の水平変位がこの装着構造12上で比較的大きなトルクになることである。基部構造11の磁石配列21に最も近い磁石配列22は、より広い垂直空隙13の磁石配列22より大きな力で上向きへ押されることになる。装着構造12の上向きの磁力の合計は同じであるが、装着構造は水平移動の方向に垂直な水平軸を中心に回転する傾向になる。
【0034】
図6bは、十字形の受承容積を持つ振動絶縁装置60の水平横断面を示している。この構成の利点は、トルクが非常に小さいので、安定性を向上させることである。振動絶縁装置60の安定性をさらに向上させるために、アクティブな電磁気アクチュエータ65が装着構造61および/または基部構造63に含まれている。装着構造61が安定な位置からあまりにも変位する傾向にあったり、回転を開始したりする場合、目的の位置と方向に戻すために、アクティブな電磁気アクチュエータ65が使用されることが可能である。電磁気アクチュエータ65は、振動絶縁装置60を組み立て、基部構造63を受承容積に挿入して、装着構造61に対して適切な位置に戻すためにも使用されることができる。
【0035】
図7は、十字形の基部構造63の斜視図を示している。基部構造63は、十字形の配列キャリア73を取り付けるための支持ブロック71を備えている。永久磁石64の配列は十字形の配列キャリア73の表面に貼り付けられる。この例では、磁石の4つの列が備えられている。例えば、第1と第3の列は配列キャリア73を指す方向に磁化されており、第2と第4の列は配列キャリア73からの方向に磁化されている。さらに、チェッカーボードパターンや他の代替パターンも使用されることが可能である。
【0036】
この実施形態では、コイル65を持つアクティブな電磁気アクチュエータが基部構造63の支持ブロック71に付けられている。電磁気アクチュエータは、永久磁石配列64によるパッシブ制御が十分ではない場合、基部構造63に対する装着構造61の位置をアクティブに制御するために、装着構造61の永久磁石と相互作用を行う。このアクティブな制御の場合、コイル65は装着構造の永久磁石配列64の磁石またはコイルにより近い個別および専用制御磁石(図示せず)と相互作用を行うことができる。振動絶縁装置の温度変動を最低限にするため、冷却ダクト72が、例えば、支持ブロック71に装備されることができる。もちろん、コイル65を装着構造61に置き、基部構造63の磁石と相互作用させることも可能である。
【0037】
電磁気アクチュエータの代わりに、またはそれに追加して、振動絶縁装置の安定性を向上させ、基部構造63と装着構造61の永久磁石間の接触を防止するために、機械停止装置、ばねなどが使用されることが可能である。
【0038】
取り外し可能な末端停止装置74は、正味磁力が重力を超過し、例えば、ペイロード15がプラットフォーム14から取られる場合などに、装着構造61が基部構造63から分離するのを防止する。振動絶縁装置を組み立てる際、末端停止装置74は取り外され、十字形の配列キャリア61が基部構造の対応するスロット(=受承容積)に挿入される。それから、基部構造のもう一方の側から、末端停止装置74が、再度、装着構造63に付けられる。端末停止装置74が最初に取り外される場合、装着構造63は基部構造からのみ分離可能である。
【0039】
図8a、図8b、および図8cは本発明による基部または装着構造の可能な3つのトポロジーを示している。図8aは、図6bおよび図7で既に示されているように十字形を示している。図8bは6つのアームのある十字を示し、図8cは8つのアームのある十字を示している。装着構造でトルクの低い実施形態を得るには、細いアームを使用することが好適である。
【0040】
上述の実施形態は、本発明を制限するものではなく例証するもので、当業者であるならば添付請求項の範囲を逸脱することなく、多くの代替実施形態を設計することが可能であることに留意すべきである。請求項で、丸括弧間に配置されたあらゆる参照記号は請求項を制限するものとして解釈されるべきではない。動詞「comprise」とその活用の使用は、請求項で述べられている以外の要素またはステップの存在を除外するものではない。要素の前の冠詞「a」または「an」は、そのような要素の複数の存在を除外するものではない。本発明は、複数の異なる要素を備えるハードウェアによって、または適切にプログラムされたコンピュータによって実装されることができる。いくつかの手段を列挙するする装置の請求項において、これらの手段のいくつかは、ハードウェアの1つおよび同じ製品で具現化されることができる。特定の手段が相互に異なる従属請求項で列挙されているということは、これらの手段の組み合わせが利点を得るために使用されることができないことを示すものではない。
図1a
図1b
図2a
図2b
図3a
図3b
図4
図5a
図5b
図6a
図6b
図7
図8a
図8b
図8c