(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
当該少なくとも1つの成長因子は、EGF、PDGF、FGF、TGF−β、TGF−α、NGF、Epo、IGF−I、IGF−II、IL−1−α、IL−1−β、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、INF−α、INF−β、INF−γ、TNF−α、TNF−β、GM−CSFおよびM−CSF、またはそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の製造方法。
当該組合せは、TGF β−1、TGF β−2、TGF β−3、IL−3、IL−6、IL−7およびIL−8を含み、前記馴化培地は、少なくとも約5〜20%(wt%)の濃度で存在する、請求項5に記載の製造方法。
当該組合せは、1〜3ng/mLのTGF β−1、100〜160pg/mLのTGF β−2、50〜100pg/mLのTGF β−3、60pg/mLのIL−3、11pg/mLのIL−6、50pg/mLのIL−7および4〜10pg/mLのIL−8を含む、請求項6に記載の製造方法。
前記植物ベースの脂肪アルコールは、デシルアルコール、オクチル−デシルアルコール、ラウリルアルコール、ラウリル−ミリスチルアルコール、ミリスチルアルコール、セトステアリルアルコール、セチルアルコールおよびステアリルアルコールからなる群から選択される、請求項9に記載の製造方法。
前記少なくとも1つの防腐剤は、メチルパラベン、プロピルパラベン、ジアゾリジニル尿素、フェノキシエタノール、DMDMヒダントイン、ソルビン酸、ベンジルアルコール、ホルムアルデヒドおよびトリクロサンからなる群から選択される、請求項16に記載の製造方法。
前記少なくとも1つの防腐剤は、メチルイソチアゾリノン、メチルクロロイソチアゾリノンおよびカフェインからなる群から選択される複素環化合物である、請求項16に記載の製造方法。
PEG−150、デシルアルコール、SMDI共重合体、PCAナトリウム、アラントイン、精製水、メチルイソチアゾリノンおよびメチルパラベンをさらに含む、請求項2に記載の製造方法。
当該皮膚欠損は、皮膚の老化、皮膚のしわ、アンドロゲン性脱毛症(AGA)、まつげの喪失、日焼け、火傷、手術瘢痕、裂傷、ストレッチマーク、座瘡瘢痕、糖尿病性潰瘍、創傷および膣乾燥からなる群から選択される、請求項1に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
本発明の組成物、方法および方法論を説明する前に、記載の特定の組成物、方法および実験条件は変動し得るので本発明はこのような組成物、方法および条件に限定されないということを理解すべきである。また、本発明の範囲が添付の特許請求の範囲のみに限定されるので、本明細書において使用される用語が特定の実施の形態のみを説明することを目的としており、限定的であることを意図したものではないということも理解すべきである。
【0025】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用されるように、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上そうでないとする明確な指示がない限り、複数の参照を含む。したがって、例えば、「ある細胞」への言及は、本開示などを読むことで当業者に明らかになる1つ以上の細胞および/または本明細書に記載されている種類の組成物を含む。
【0026】
特段の規定のない限り、本明細書において使用される技術用語および科学用語はすべて、本発明が属している分野の当業者が一般に理解しているものと同一の意味を有する。本明細書に記載されているものと類似または等価のいかなる方法および材料も本発明の実施または試験に用いることができ、変形例および変更例が本開示の精神および範囲内に包含されることが理解される。
【0027】
いくつかの実施の形態においては、本発明は、二次元細胞培養物からの馴化培地を含む、皮膚用の局所治療および/または予防製剤に関する。細胞は、従来の基質、ローラーボトル、ビードまたはその他の二次元培養系上に単一層状態で培養されてもよく、それによって、細胞内微小環境の正確な制御を含むこのようなスケーラブルな培養系の多くの公知の利点のうちの少なくともいくつかを提供する。細胞は、好ましくは免疫反応のリスクを減らすためにヒトの細胞であり、とりわけ間質細胞、ケラチン生成細胞、メラニン細胞、実質細胞、間充織幹細胞、神経幹細胞、膵臓幹細胞および/または胚性幹細胞を含む。本発明のいくつかの実施の形態においては、初代ヒト包皮線維芽細胞の単一層培養物を用いて、それらを浸す栄養培地を調整する。このような細胞培養物によって調整された培地は、細胞外マトリックスタンパク質および生物活性成長因子を含むさまざまな天然に分泌されるタンパク質を含む。
【0028】
成長因子および皮膚の老化の原因
皮膚の皮層は、皮膚厚み、弾力性および活力を維持するのに必要な構造要素を含む。加齢に伴って、これらのタンパク質の生成速度が遅くなり、皮膚のたるみおよびしわが生じる。成長因子、サイトカイン、ペプチド、構造的および細胞外マトリックスタンパク質および前駆体などを含む馴化培地への細胞外タンパク質の分泌は、加齢に関連した皮膚活力の喪失の治療および/または予防を含む多種多様な分野で用いられる生成物の調製に新たな可能性をもたらす。成長因子は、成長を促進させ、組織の構造および機能を維持するための自己分泌経路を高め、創傷治癒を促進させる重要な役割を果たすことが知られている。細胞サイトカインおよび成長因子は、細胞増殖、接着、形態的外観、分化、移動、炎症反応、血管形成および細胞死を含むいくつかの不可欠な細胞過程に関与する。調査によって、細胞に対する低酸素ストレスおよび外傷が、とりわけ血小板由来成長因子(PDGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子1および2(FGF)、インスリン様成長因子1および2(IGF)および形質転換成長因子‐β(TGF‐β)を含む成長因子に対応するmRNAおよびタンパク質のレベルの増加を含む反応を引起すことが実証された。
【0029】
上述のように、TGF‐βなどのいくつかの成長因子は、創傷治癒中にストレスタンパク質によって引起される。2つの公知のストレスタンパク質は、GRP78およびHSP90である。これらのタンパク質は、細胞構造を安定させ、細胞が悪条件に対して耐性を有するようにする。二量体タンパク質のTGF‐βファミリーとしては、TGF‐β1、TGF‐β2およびTGF‐β3があり、これらは多くの細胞型の成長および分化を調節する。さらに、このタンパク質のファミリーは、さまざまな生物学的効果を示し、ある細胞型の成長を刺激し(Noda et al., 1989, Endocrinology 124:2991-2995)、他の細胞型の成長を抑制する(Goey et al., 1989, J. Immunol. 143:877-880; Pietenpol et al., 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:3758-3762)。TGF‐βは、また、コラーゲンおよびフィブロネクチンを含む細胞外マトリックスタンパク質の発現を増大させ(Ignotz et al., 1986, J. Biol. Chem. 261:4337-4345)、創傷の治癒を加速させる(Mustoe et al., 1987, Science 237:1333-1335)ことも分かった。
【0030】
別のこのような成長因子はPDGFである。PDGFは、元々、間葉由来細胞のための強力なマイトジェンであることが分かっていた(Ross R. et al., 1974, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 71(4);1207-1210; Kohler N. et al., 1974, Exp. Cell Res. 87:297-301)。PDGFは、間充織幹細胞のための強力なマイトジェンであることが知られており、線維芽細胞機能の増大によって組織形成の際の細胞性および肉芽化の速度を上昇させる。PDGFで治療された創傷は、創傷部位における好中球およびマクロファージ細胞型の増加を含む初期段階の炎症反応を見せる。これらの創傷は、また、線維芽細胞機能の向上も示す(Pierce, G. F. et al., 1988, J. Exp. Med. 167:974-987)。PDGFもTGF‐βも動物実験ではコラーゲン形成、DNA含量およびタンパク質レベルを増大させることが分かった(Grotendorst, G. R. et al., 1985, J. Clin. Invest. 76:2323-2329; Sporn, M. B. et al., 1983, Science (Wash DC) 219:1329)。PDGFは、ヒトの創傷の治療に効果的であることが分かった。ヒトの創傷では、治癒段階の床擦れにおいてPDGF‐AA発現が増大する。PDGF‐AAの増大は、活性線維芽細胞の増加、細胞外マトリックスの堆積および創傷のアクティブな血管新生に対応する。さらに、このようなPDGF‐AAの増大は、慢性的な治癒しない創傷では見られない(Principles of Tissue Engineering, R. Lanza et al.. (eds.), pp. 133-141 (R.G. Landes Co. Texas 1997)。血管形成および創傷治癒を引起す能力を有するいくつかの他の成長因子としては、VEGF、KGFおよび塩基性FGFがある。
【0031】
一般に、成長因子を直接添加することによってこれらの因子の供給を高めることが、創傷および皮膚の老化の治療において望ましいと考えられている。同様に老化プロセスを遅らせる合成ペプチドも薬用化粧調製品に添加されてもよい。実際、場合によっては、細胞を刺激して特定の分泌タンパク質を生成するために、合成ペプチドおよび成長因子が培地に添加されてもよい。したがって、馴化培地は、細胞によって合成されて馴化培地に分泌される成長因子に加えて、細胞によって代謝されなかったいくつかの合成成長因子を含み得る。
【0032】
細胞培養物
予め調整された細胞培地は、培養されている細胞の栄養必要量に十分に対処するいかなる細胞培地であってもよい。細胞培地の例としては、Methods For Preparation of Media, Supplements and Substrate For Serum-Free Animal Cell Culture Alan R. Liss, New York (1984)およびCell & Tissue Culture: Laboratory Procedures, John Wiley & Sons Ltd., Chichester, England 1996(両方とも引用によって全文が本明細書に援用される)に見られるものを含む、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、ハムのF12、RPMI1640、イスコブ培地、マッコイ培地、および当業者にとって容易に明らかな他の培地製剤があるが、それらに限定されない。一実施の形態においては、フェノールレッドを持たないDMEMが細胞培地として用いられる。培地は、所望の細胞または組織培養物をサポートするのに必要な任意の成分が補充されてもよい。関連の局面においては、培地は、抗生物質‐抗真菌剤およびL‐グルタミン酸が補充される。一実施の形態においては、抗生物質‐抗真菌剤およびL‐グルタミン酸は各々培地の1%を構成し、抗生物質‐抗真菌剤はペニシリン、硫酸ストレプトマイシンおよびアムホテリシンBを含む。さらに、アルブミン、グロブリンの複合溶液であるウシ血清などの血清、成長促進剤および成長阻害剤が必要に応じて添加されてもよい。血清は、病原体フリーであるべきであり、マイコプラズマ細菌汚染、真菌汚染およびウイルス汚染を注意深くスクリーニングすべきである。また、血清は、一般に、アメリカ合衆国から得るべきであり、土着の家畜が伝染性物質を媒介する国々からは得るべきでない。培地へのホルモン添加は、望ましい場合もあればそうでない場合もある。一実施の形態においては、ウシ胎仔血清が細胞培地に添加される。関連の局面においては、ウシ胎仔血清は培地の約5〜20%を構成する。
【0033】
予め調整された培地の成分は、グルタミン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、シスチン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシンおよびバリンならびにそれらの誘導体などのアミノ酸(D‐アミノ酸および/またはL‐アミノ酸);チアミン、アスコルビン酸、第二鉄化合物、第一鉄化合物、プリン、グルタチオンおよびリン酸二水素ナトリウムなどの酸可溶性サブグループを含み得る。
【0034】
さらなる成分は、糖類、デオキシリボース、リボース、ヌクレオシド、水溶性ビタミン、リボフラビン、塩類、微量金属、脂質、酢酸塩、リン酸塩、HEPES、フェノールレッド、ピルビン酸塩および緩衝剤(例えばオーストラリアのメルボルン・ダーマトロジー社から入手可能なNouricel-MDを参照)を含む。
【0035】
培地製剤で多くの場合用いられる他の成分は、脂溶性ビタミン(A、D、EおよびKを含む)、ステロイドおよびそれらの誘導体、コレステロール、脂肪酸および脂質Tween 80、2‐メルカプトエタノールピリミジン(pyramidines)、ならびに、血清(胎児、ウマ、子ウシなど)、タンパク質(インスリン、トランスフェリン、成長因子、ホルモンなど)、抗生物質(ゲンタマイシン、ペニシリン、ストレプトマイシン、アムホテリシンBなど)、全卵超濾過液、および接着因子(フィブロネクチン、ビトロネクチン、コラーゲン、ラミニン、テネイシンなど)を含むさまざまな補助剤を含む。一実施の形態においては、用いられるアムホテリシンBはフンギゾンである。
【0036】
当然のことながら、培地は、成長因子、ペプチド、および接着因子などの他のタンパク質を補充する必要がある場合もあればない場合もある。なぜなら、多くの細胞構造物はそれ自体がこのような成長因子、接着因子および他の生成物を培地に生成するためである。
【0037】
ビタミン、成長因子および接着因子、ペプチド、タンパク質などの予め調整された培地の他の成分は、特定のニーズに従って当業者によって選択されることができる。本発明の実施の形態では、所望の馴化培地を達成するのに適した任意の細胞型が用いられてもよい。
【0038】
培地を調整するために、遺伝子組み換え細胞が用いられてもよい。このような細胞は、例えば培地における発現タンパク質の濃度が特定の所望の用途に最適なものになるように所望のタンパク質を発現させるように改質されることができる。本発明の局面によれば、培地を調整するために用いられる細胞および組織培養物は、生理的反応に似たタンパク質を発現させる際の特性の向上、創傷治癒などの特定の用途に有用な特定のタンパク質の発現の増大、またはプロテアーゼ、乳酸などの特定のタンパク質の抑制を含むがそれらに限定されない多岐にわたる機能を伝え得る標的遺伝子産物を発現させるように操作されてもよい。
【0039】
培地は、間質細胞、ケラチン生成細胞、メラニン細胞、実質細胞、間充織幹細胞(細胞系統関連または細胞系統非関連前駆細胞)、肝臓貯蔵細胞、神経幹細胞、膵臓幹細胞および/または胚性幹細胞によって調整されてもよい。細胞は、ほんの数例を挙げれば、骨髄、皮膚、肝臓、膵臓、腎臓、神経組織、副腎、粘膜上皮および平滑筋を含み得るが、それらに限定されない。間質を含む線維芽細胞および線維芽細胞様細胞ならびに他の細胞および/または要素は、胎児または成人由来のものであってもよく、皮膚、肝臓、膵臓、粘膜、動脈、静脈、臍帯および胎盤組織などの便利な供給源から得られてもよい。このような組織および/または臓器は、適切な生検によってまたは検視の際に得られることができる。実際には、間質細胞および成分を大量に供給する目的で死体の臓器が用いられてもよい。
【0040】
線維芽細胞は、線維芽細胞の供給源の役割を果たす適切な臓器または組織を分解することによって容易に単離され得る。これは、当業者に公知の技術を用いて達成され得る。例えば、当該組織または臓器は、機械的に分解されることができ、および/または、周囲の細胞同士の接続を弱めて相当な細胞破砕なしに個々の細胞の懸濁液に組織を分散させることができる消化酵素および/またはキレート剤で処理されることができる。酵素による解離は、組織を切り刻んで、いくつかの消化酵素のうちのいずれかを単独でまたは組合わせて用いて当該切り刻んだ組織を処理することによって達成され得る。これらは、トリプシン、キモトリプシン、コラゲナーゼ、エラスターゼおよび/またはヒアルロニダーゼ、DNase、プロナーゼ、ディスパーゼなどを含むが、それらに限定されない。機械的破砕は、ほんの数例を挙げれば、グラインダ、ブレンダ、ふるい、ホモジナイザ、圧力細胞または超音波破砕機(insonator)の使用を含むがそれらに限定されないいくつかの方法によっても達成され得る。組織分解技術の検討のために、Freshney, Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique, 2d Ed., A. R. Liss, Inc., New York, 1987, Ch. 9, pp. 107-126を参照されたい。
【0041】
一旦組織を個々の細胞の懸濁液に還元する(reduced)と、当該懸濁液は亜集団に分留され、そこから線維芽細胞ならびに/または他の間質細胞および/もしくは成分を得ることができる。これはまた、特定の細胞型のクローニングおよび選択、不要な細胞の選択的破壊(負の選択)、混合群における示差細胞凝集能に基づく分離、凍結融解手法、混合群における細胞の示差接着特性、濾過、従来のゾーン遠心分離法、遠心分離洗浄(逆流遠心分離)、単位重力分離、向流分配、電気泳動および蛍光活性化細胞分類を含むがそれらに限定されない標準的な細胞分離技術を用いて達成され得る。クローン選択および細胞分離技術の検討のために、Freshney, Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Techniques, 2d Ed., A. R. Liss, Inc., New York, 1987, Ch. 11 and 12, pp. 137-168を参照されたい。
【0042】
線維芽細胞の単離は、例えば以下のように行われてもよい。血清を得るために、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)中で、未使用の組織試料(例えばヒトの包皮)を徹底的に洗浄して切り刻んだ。当該切り刻んだ組織を、新たに調製されたトリプシンなどの分散酵素の溶液中で1〜12時間にわたって培養する。このような培養の後、当該解離した細胞を懸濁させ、遠心分離によってペレット化し、培養皿上に配置する。他の細胞の前にすべての線維芽細胞が接着し、したがって、適切な間質細胞を選択的に単離および成長させることができる。次いで、当該単離した線維芽細胞は、ある培養密度まで成長させることができる。一局面においては、2011年2月14日付けで、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(「ATCC」)(10801 University Blvd., Manassas, Va.)に対して、ATCC受入番号PTA‐11681を有する、AQHFF‐0と呼ばれる生存ヒト線維芽細胞の寄託が行われた。
【0043】
別の局面においては、長期不死化培養物を構築するために、線維芽細胞はSV40ラージT抗原で形質転換される。関連の局面においては、2011年2月14日付けで、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(「ATCC」)(10801 University Blvd., Manassas, Va.)に対して、ATCC受入番号PTA‐11680を有する、AQHFF‐SV40と呼ばれる生存形質転換ヒト線維芽細胞の寄託が行われた。
【0044】
寄託は、ブダペスト条約の条項および規定に従って行われた。このように寄託された材料の、公衆の利用可能性に対する制限はすべて、特許が付与されると取消不能の形で解除されることになる。細胞は、少なくとも30年間、寄託物の試料の供給を求める最も最近の要求が寄託機関によって受取られてから少なくとも5年間、および寄託が行われた法的強制力のある特許権の存続期間を少なくとも越える期間のうちのいずれか長い方の期間にわたって維持される。
【0045】
間質を含む胚性幹細胞および/または他の要素は、当該技術分野において公知の方法を用いて単離されてもよい。例えば、ヒト胚性幹細胞群およびこれらの細胞を単離して用いる方法は、Keller et al., Nature Med., 5:151-152 (1999), Smith Curr. Biol. 8:R802-804 (1998)に報告されており、始原生殖細胞から単離され(Shamblatt et al., PNAS 95:13726-1373 (1998))、未分化胚芽細胞から単離される(Thomason et al., Science 282:1145-1147 (1988))。間充織幹細胞の単離および培養は当該技術分野において公知である。Mackay et al., Tissue Eng. 4:415-428 (1988); William et al., Am Surg. 65:22-26 (1999)を参照されたい。同様に、神経幹細胞は、Flax et al., Nature Biotechnol., 16:1033-1039 (1998)および Frisen et al., Cell. Mol. Life Sci., 54:935-945 (1998)に記載の態様で単離されてもよい。
【0046】
細胞は、単一層およびビードの中でおよび任意の手段(すなわち培養皿、ローラボトル、連続流システムなど)によるものを含む、当該技術分野において公知の任意の手段によって、開示されている実施の形態に従って培養されることができる。一局面においては、細胞は、無菌処理および取扱いを可能にする環境において培養される。細胞および組織培養の従来の手段は、人間による培地の監督および制御の必要性によって制限されてきた。これは、一回に培養できる細胞および組織の量を制限し、結果として一回に得ることができる馴化細胞培地の体積を制限する。このような理由から、培地は、大規模な成長を可能にする(大規模な馴化培地をもたらす)態様で調整されてもよい。別の局面においては、人間による監督の必要性を減らすために、照射またはマイトマイシン(mytomycin)‐c処理によって細胞を成長期に拘束してもよい。
【0047】
いくつかの実施の形態においては、培養すべき細胞は、まず皿上に配置され、次いでフラスコ上に配置され、次いで2リットルローラボトルシステム上に配置されてもよい。一旦十分な数の細胞を成長させると、細胞は二次元の平坦な六角形状のポリスチレンマイクロキャリアに移動されてもよい。一実施の形態においては、ポリスチレン(polysterene)マイクロキャリアはNunc 2D MicroHexキャリアである。一局面においては、マイクロキャリアは、接着された細胞とともに、ロッカシステムの上に配置された使い捨ての滅菌ビニール袋からなる10リットルの容量のバイオリアクタ内で懸濁されてもよい。各袋は、細胞が使用される前の約3ヶ月の間に培地を生成することが期待される。その後培地は収集され、存在し得るいかなる細胞も除去するために濾過されてもよい。培地はまた、成長因子の濃度を変更するためにPBSまたはdH
2Oで濃縮または希釈されてもよい。コーニング75cm
2組織培養フラスコが用いられてもよい。バッチは、ルミネックス技術を用いてアップステート・ラボ・ビードライト・ヒューマン・サイトカイン・プロファイラ試験サービスにより成長因子/サイトカイン含量について試験されてもよい。
【0048】
"What is preferred method for cell culture?": The Wave Bioreactor (System 20/50, Wave Biotech, New Jersey)も参照されたい。そこでは、予め滅菌した使い捨てのビニール袋内で細胞培養(0.1〜25Lの量)が行われ得る。袋は、気体不透過性の剛性チャンバを形成するように、培地、細胞およびNuncマイクロキャリアで充填されて膨らませられてもよい。次いで、袋はロッキングプラットフォーム上に配置され、誘導波に合わせて揺動されてもよい。穏やかな波動により、最小のせん断力による培地の酸素化および混合が行われる。
【0049】
細胞の培養は、実験室規模で、または産業生産準備もしくは生産規模で行われてもよい。小さな単一ウェルからCell Factory40(CF40)に至る範囲にわたってNunclon(登録商標)A表面を含む市販の製品および技術、例えばNuncブランド製品を用いて拡大が達成され得る。分泌された生成物の採取および洗浄は、従来の技術を用いて行われてもよい。
【0050】
幅広い範囲の入手可能な表面および表面積構成に加えて、撹拌懸濁液において細胞の成長をサポートする発酵槽内でも粒子が用いられてもよい。二次元マイクロキャリア(例えばNunc社のMICROHEXTM)は、必要な撹拌が最小限であるために細胞が受けるストレスが最小限である六角形の二次元低密度粒子である。
【0051】
ここで、大規模な哺乳類培養に対する従来の障壁は、最適な産業技術のうちの1つとして台頭してきた撹拌槽型反応器により対処されてきた。細胞を懸濁培養に適合させること、せん断感度および酸素供給といった問題は、大半が解決された。しかし、多くの低容積の特殊な用途では、反応器技術が多様化したままであり、反応器の種類はローラボトルから積層板および中空繊維までさまざまである。
【0052】
一般に、初代培養物とは対照的に細胞株が利用される場合には、細胞株は好ましくはヒトおよび動物の病原体をスクリーニングされる。用途によっては、このようなスクリーニングがある程度重要であり得て、例えば病原体フリーの細胞が望ましい創傷治癒または食品添加物の用途では、重要であり得る。病原体のスクリーニング方法は、当該技術分野において周知である。細胞型は、馴化培地の特性に影響を及ぼす。
【0053】
数人の研究者が、基底膜成分に関連する天然基質の使用を研究した。基底膜は、インビボで大部分の細胞を取り囲む糖タンパク質およびプロテオグリカンの混合物を含む。例えば、Reid and Rojkund, 1979, In, Methods in Enzymology, Vol. 57, Cell Culture, Jakoby & Pasten, eds., New York, Acad. Press, pp. 263-278; Vlodaysky et al., 1980, Cell 19:607-617; Yang et al., 1979, Proc. Natl. Acad. Sci.。USA76:3401では、肝細胞、上皮細胞および内皮組織を培養するためにコラーゲンが用いられた。末端分化を促進させようとして、浮遊コラーゲン(Michalopoulos and Pitot, 1975, Fed. Proc. 34:826)および硝酸セルロース膜(Savage and Bonney, 1978, Exp. Cell Res. 1 14:307-315)上での細胞の成長が用いられた。
【0054】
特に低密度で細胞の成長を促すためにマウス胚線維芽細胞の培養が用いられた。この効果は、一部には培地の補充に起因すると考えられるが、細胞生成物による基質の調整にも起因し得る。これらの系においては、表面を他の細胞の接着に適したものにする融合性単一層として線維芽細胞の支持細胞層を成長させる。例えば、正常な胎児の腸の融合性支持細胞層上に神経膠腫を成長させることが報告された(Lindsay, 1979, Nature 228:80)。
【0055】
培地に分泌されるタンパク質生成物のレベルを調整して、馴化培地から得られる回収生成物の濃度を高めるために、間質細胞は遺伝子組み換えが行われてもよい。例えば、抗炎症因子、例えば抗GM‐CSF、抗TNF、抗IL‐1、抗IL‐2などである。代替的には、拒絶反応のリスクを下げる目的で、例えばGM‐CSF、TNF、IL‐1、IL‐2といった炎症を促進させる天然の遺伝子産物の発現を「不活性化する」ように、または、MHCの発現を「不活性化する」ように、間質細胞は遺伝子組み換えが行われてもよい。培地を調整するために用いられる細胞は、培地に見られるタンパク質の濃度を変更するために遺伝子操作されてもよい。馴化細胞培地は、老化、しわの治療および/または予防ならびに創傷治癒のための局所製剤に関連する化粧品添加物およびいかなる薬学的用途も含む用途のために処理される。一実施の形態においては、頭部およびまつげでの毛髪成長の刺激を含む毛髪成長を刺激するための組成物および方法が開示される。いくつかの実施の形態においては、本発明は、馴化培地から得られる細胞外マトリックスタンパク質および/または他の精製タンパク質を含む組成物にも関する。
【0056】
細胞は、生物学的に活性でありかつ選択された生物学的機能を提供するか、選択された生理的状態のレポータの役割を果たすか、遺伝子産物の不十分な発現もしくは欠陥のある発現を増大させるか、または抗ウイルス活性、抗菌活性、抗微生物活性もしくは抗がん活性を提供する標的遺伝子産物を発現させるように操作されてもよい。本発明によれば、標的遺伝子産物は、酵素、ホルモン、サイトカイン、抗原もしくは抗体などのペプチドまたはタンパク質、転写因子もしくはDNA結合タンパク質などの調節タンパク質、細胞表面タンパク質などの構造タンパク質であってもよく、標的遺伝子産物は、リボソームまたはアンチセンス分子などの核酸であってもよい。標的遺伝子産物としては、細胞成長を促す遺伝子産物があるが、それに限定されない。例えば、遺伝子操作は、異種のイオンチャネルを発現させることによってまたは内在性のイオンチャネル機能を変更することによって、内因性タンパク質を上方制御したり、新たなタンパク質を導入したり、イオン濃度を調整してもよい。例としては、全身に送達される遺伝子産物(例えば、成長因子、ホルモン、第VIII因子、第IX因子、神経伝達物質およびエンケファリン(enkaphalins)を含むタンパク質などの分泌遺伝子産物)を発現させる操作された組織があるが、それに限定されない。
【0057】
対象の遺伝子を含むDNA構造物を調製し、細胞を形質転換または核酸導入し、対象の遺伝子を搬送して発現させる細胞を選択するための方法は、当該技術分野において周知である。例えば、Maniatis et al., 1989, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.; Ausubel et al., 1989, Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates & Wiley Interscience, N.Y.およびSambrook et al., 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.に記載される技術を参照されたい。
【0058】
細胞は、例えばレトロウイルスベクターもしくはアデノ随伴ウイルスベクターといった組込みウイルスベクター、または、例えばパピローマウイルスベクター、HSVベクター、SV40ベクター、アデノウイルスベクターもしくは複製欠損ウイルスベクターといった非組込み複製ベクターを含むがそれに限定されないさまざまなベクターのうちのいずれかを用いて操作され得る。一時的な発現が望ましい場合には、非組込みベクターおよび複製欠損ベクターが好ましいであろう。なぜなら、対象の遺伝子の発現を制御するためにこれらの系においては誘導プロモータまたは構成的プロモータを用いることができるためである。代替的には、対象の遺伝子が誘導プロモータによって制御される場合には、一時的な発現を得るために組込みベクターを用いることができる。DNAを細胞に導入する他の方法としては、リポソーム、リポフェクション、エレクトロポレーション、粒子ガンの使用、または、DNAの直接注入によるものがある。本発明の一局面においては、細胞は、SV40ラージT抗原含有ベクターで形質転換されて不死化細胞を構築する。関連の局面においては、当該ベクターはSV40ラージT(SVLT)抗原哺乳類発現ベクターであり、このようなベクターは、SVラージT抗原コード化配列の側面に位置する近位SVLTプロモータおよび遠位SVLT要素、1つ以上のバクテリオファージプロモータ、1つ以上の多重クローニング部位、1つ以上の細菌細胞選択遺伝子、1つ以上の哺乳類細胞選択遺伝子、哺乳類宿主への組込みのための1つ以上の部位、もしくは細菌宿主内でのプラスミド増殖/複製のための1つ以上の要素、またはそれらの組合せを含む。例えば、ベクターはpBsSVD2005(アッドジーン(マサチューセッツ州、ケンブリッジ)であってもよい。例えば
図1を参照されたい。
【0059】
細胞は、好ましくは、特にプロモータまたはエンハンサ配列、転写ターミネータ、ポリアデニル化部位および選択可能なマーカなどの1つ以上の適切な発現制御要素によって、すなわち1つ以上の適切な発現制御要素と作用的に関連して制御される核酸、例えばDNAで形質転換または核酸導入される。外来DNAの導入後、操作された細胞は富栄養培地内で成長し、次いで選択的培地に切り替えられる。外来DNAにおける選択可能なマーカは、選択に対する耐性を付与し、細胞が例えばプラスミド上の外来DNAをそれらの染色体に安定的に組込んで成長して巣(foci)を形成することを可能にし、次いで当該巣はクローン化されて細胞株に拡張され得る。この方法は、遺伝子産物を培地に発現させる細胞株を操作するために有利に用いられ得る。
【0060】
挿入遺伝子の発現を駆動するためにいかなるプロモータが用いられてもよい。例えば、ウイルスプロモータとしては、CMVプロモータ/エンハンサ、SV40、パピローマウイルス、エプスタイン・バーウイルス、エラスチン遺伝子プロモータおよびB‐グロビンがあるが、それらに限定されない。好ましくは、対象の遺伝子の発現を制御するために用いられる制御要素は、インビボで必要とされる場合にのみ生成物が合成されるように遺伝子の発現を調整することを可能にするべきである。一時的な発現が望ましい場合には、非組込みおよび/または複製欠損ベクターにおいて構成的プロモータが好ましくは用いられる。代替的には、必要な場合に挿入遺伝子の発現を駆動するために誘導プロモータが用いられてもよい。誘導プロモータは、組込みおよび/または複製ベクターに内蔵されていてもよい。例えば、誘導プロモータとしては、メタロチオネインおよび熱ショックタンパク質があるが、それらに限定されない。
【0061】
一実施の形態によれば、対象の外来遺伝子を発現させるために用いられる誘導プロモータは、冷凍保存(cyropreservation)およびその後の解凍の結果として誘導される、本明細書に開示されているそれらの調節タンパク質の天然のプロモータであるプロモータである。例えば、TGF‐B、VEGFまたはさまざまな公知の熱ショックタンパク質のプロモータが発現制御要素として用いられてもよく、すなわちそれらは、細胞培地を調整する組織構造物において所望の遺伝子産物を発現させるために対象の外来遺伝子に作用的に結合されてもよい。
【0062】
細胞に操作される遺伝子産物の構成的または一時的な発現を得るために、さまざまな方法が用いられてもよい。例えば、Seldon et al., 1987, Science 236:714-718によって記載されるトランスカリオティック(transkaryotic)移植技術が用いられてもよい。本明細書において用いられる「トランスカリオティック」は、移植細胞の核が安定なまたは一時的なトランスフェクションによるDNA配列の添加によって変更されたことを示唆している。一局面においては、細胞は、術後の回復期間中に一時的におよび/または誘導制御下で、または間質細胞に固定されたキメラ融合タンパク質として、例えば細胞外領域として遺伝子産物に用いられる受容体または受容体様分子の細胞内および/または膜貫通領域からなるキメラ分子として、このような遺伝子産物を発現させるように操作されてもよい。
【0063】
本発明の他の局面においては、細胞培地を調整する二次元組織培養物は、骨髄、皮膚、肝臓、膵臓、腎臓、副腎および神経組織、消化管および尿生殖路の組織、ならびに循環系を含むがそれらに限定されない多くの組織型に見られる線維芽細胞、ケラチン生成細胞、メラニン細胞、間充織幹細胞、肝臓貯蔵細胞、神経幹細胞、膵臓幹細胞および/または胚性幹細胞および/または実質細胞および/または実質幹細胞を含み得る。例えば米国特許第4,721,096号、第4,963,489号、第5,032,508号、第5,266,480号、第5,160,490号および第5,559,022号(各々が引用によって全文が本明細書に援用される)を参照されたい。
【0064】
他の実施の形態においては、異なる細胞型が別々に培養されてもよく、異なる細胞型に特有の因子で強化された馴化培地は、これらの異なる細胞型によって調整された培地を所望の比率で混合することによって構築されてもよい。このような個々の二次元培養は、遺伝子組み換え細胞および細胞株を含む上述の細胞型のうちのいずれかを利用してもよい。
【0065】
馴化培地
皮膚の老化の影響を低減して顔のしわを無くすための新規なアプローチが、米国特許第6,372,494号(引用によって全文が本明細書に援用される)においてノートン等によって提案された。ここで、出願人は、ノートンの方法を改良して、不可欠な構造タンパク質および関連の成長因子を皮膚に直接送達することによって発生期の皮膚の自然環境を再構築する。これは、高度に制御された単一層(二次元)培養条件下で独立して成長させた1つ以上の細胞型からの成長因子強化馴化培地を、例えばクリーム、軟膏、ゲル、ローション、スプレー、セラムなどといった調合薬用化粧調製品と組合わせることによって達成され得る。馴化培地に加えて、薬用化粧調製品は、好ましくは当該技術分野において有効に用いられるさまざまな他の有用な活性成分および不活性成分のうちの1つ以上を含む。
【0066】
一実施の形態においては、単一の細胞型からの均質な成長因子強化馴化培地がスキンクリーム製剤において利用される。他の変形例においては、さまざまな細胞型からの馴化培地を混合して、最適な成長因子および分泌構造タンパク質成分を提供する。
【0067】
いくつかの実施の形態においては、成長因子強化馴化培地は、フェイシャルセラム、アイクリーム、皮膚修復クリーム、セルフタンニングローションなどのさまざまな局所塗布用のさまざまな製剤と組合わせられる前に、希釈、濃縮および/または保存加工されてもよい。濃度は、例えばフリーズドライ、真空乾燥、蒸発などを含む当該技術分野において公知の任意の従来の方法によって達成され得る。さらに、特定の成長因子は、タンパク質/ペプチド精製のために親和性クロマトグラフィまたは他の従来の方法によって濃縮されてもよい。希釈方法は、脱イオン水の添加を含み得る。保存加工方法は、とりわけフリーズドライ、噴霧乾燥、泡沫乾燥などを含み得る。一実施の形態においては、培地は、7ミクロンフィルタを用いて濾過され、次いで防腐剤ならびに他の成分および/または補助剤が培地に添加され、培地は冷蔵庫内で保管される。また、馴化培地は、後述のように特定の培地成分を差別的に濃縮または除去するために、例えば親和性クロマトグラフィといったさらなる処理を受けてもよい。
【0068】
細胞馴化培地の除去後、結果として生じる上澄みをさらに処理する必要がある場合がある。このような処理は、水流束濾過装置またはCell & Tissue Culture: Laboratory Procedures, supra, pp 29 D:0.1-29D:0.4に記載の方法を用いたデフィルトレーション(defiltration)による、遠心分離、生成物の単離および精製、培地の希釈または培地の濃縮を含み得るが、それらに限定されない。
【0069】
馴化培地は、例えば不要なプロテアーゼを除去するための生成物の単離および精製のためにさらに処理されてもよい。最適な生物活性が維持されるように生成物を単離および精製するために用いられる方法は、当業者に容易に明らかである。例えば、成長因子、調節因子、ペプチドホルモン、抗体などを精製することが望ましいであろう。このような方法としては、(Sephadexなどのマトリックスを用いた)ゲルクロマトグラフィイオン交換、架橋アガロースなどの不溶性マトリックスによる金属キレート親和性クロマトグラフィ、HPLC精製、および馴化培地の疎水性相互作用クロマトグラフィがあるが、それらに限定されない。このような技術は、Cell & Tissue Culture; Laboratory Procedures, supraにより詳細に記載されている。当然のことながら、馴化培地および/またはそれに由来する生成物の所望の用途によっては、無菌状態を維持するために適切な対策をとらなければならない。代替的には、滅菌は必要であり得て、例えば所望の生物活性を保つように注意する熱滅菌および/または濾過滅菌などの当業者に公知の方法によって達成され得る。
【0070】
一実施の形態においては、培地は、濾過または遠心分離されて細胞封入を防止する。次いで、成長因子濃度が高すぎる場合には、培地は例えばPBSまたは脱イオン水で希釈されてもよい。代替的に、成長因子レベルが十分に高くない場合には、馴化培地は濃縮されてもよい。次いで、希釈または濃縮された培地は、クリーム/ゲル製剤と組合わせられてもよい。
【0071】
上述のように、馴化培地は、濃縮され得る多数の生成物を含んでいる。例えば、ヒト皮膚線維芽細胞はコラーゲン前駆体を合成および分泌し、これらの前駆体のうちの一部が細胞外マトリックスに組み入れられる。この組み入れでは、コラーゲン分子の溶解度を大幅に低下させる末端ペプチド(N‐ペプチドおよびC‐ペプチド)の除去が必要である(タンパク質分解がないために、分泌されたコラーゲンの残りは溶液に残ったままである)。一般に、可溶性コラーゲンは、高塩濃度状態で、中性pH条件下で得ることができる。Kielty, C. M., I. Hopkinson, et al. (1993), Collagen: The Collagen Family: Structure, Assembly, and Organization in the Extracellular Matrix, Connective Tissue and Its Heritable Disorders: molecular, genetic and medical aspects. P. M. Royce and B. Steinmann. New York, Wiley-Liss, Inc.: 103-149を参照されたい。
【0072】
以下のプロトコルが一例として提供され、当業者に公知の方法を用いて修正されてもよいことが理解されるべきである。コラーゲンを精製するために、線維芽細胞で調整された240mlの培地を、240mlの5M NaClに添加し(塩に対する培地の割合は1:1)、4℃で16時間にわたって析出させる。4000×gで20分程度にわたって懸濁液を遠心分離する。上澄みを廃棄する。50mM Tris‐HCl(pH7.5)と2.4M NaClとの溶液を10ml用いてペレットを洗浄する。4000×gで20分間にわたって遠心分離し、上澄みを廃棄する。10mlの0.5M酢酸にペレットを再懸濁させる。プロペプチドを除去するために、0.1mlのペプシン(100mg/mL)(シグマ・ケミカル社(ミズーリ州セントルイス))を添加し、4℃で16時間にわたって消化する(これは、プロペプチドを除去するが、トリプルヘリックスはそのままにする)。4000×gで20分間にわたって懸濁液を遠心分離する。上澄みを回収し、ペレットを廃棄する。2.1mlの5M NaClおよび0.5M酢酸を15mlの最終体積(0.7Mの最終NaCl濃度)に添加する。4℃で16時間程度にわたって析出させる。4000×gで20分間にわたって懸濁液を遠心分離し、上澄みを廃棄する。ペレットを0.5mlの0.5M酢酸溶液に溶解させる。コラーゲンの純度は、少なくとも90%であるべきであり、例えばSDS‐PAGEなどの当該技術分野において公知の標準的な方法によって分析されてもよい。
【0073】
馴化培地組成物は、任意の公知の定義されたまたは未定義の培地からなっていてもよく、任意の真核細胞型を用いて調整されてもよい。培地は、間質細胞、ケラチン生成細胞、メラニン細胞、実質細胞、間充織幹細胞、肝臓貯蔵細胞、神経幹細胞、膵臓幹細胞および/または胚性幹細胞によって調整されてもよい。細胞型は、馴化培地の特性に影響を及ぼす。例えば、星状膠細胞および神経細胞で調整された培地は、特定の特徴的な代謝物およびタンパク質を生成し、その結果、このような馴化培地は特定の神経修復用途では好ましい。細胞培養物はさらに、皮膚、骨、肝臓、神経、膵臓などの細胞などの実質細胞を用いて培養されてもよく、その組織型の特徴的な細胞外タンパク質および他の代謝物を含む馴化培地がもたらされる。したがって、本発明の一実施の形態によれば、さまざまな細胞型によって調整された培地は、細胞または組織に特有の調整特徴の組合せをもたらすように適合された製剤を提供するようにさまざまな比率で混合されてもよい。例えば、スキンクリームの一実施の形態においては、(健康な皮膚微小環境の維持に用いられるペプチド成長因子および細胞外タンパク質に富んだ)線維芽細胞培養物からの馴化培地は、(ケラチン形成表皮組織に特有の細胞外タンパク質および他の代謝物に富んだ)ケラチン生成細胞培養物からのある量の馴化培地と組合わせられてもよい。実際、いくつかの実施の形態においては、さまざまな異なる組織を表わす細胞培養物からの馴化培地は、特定の薬用化粧品用途(例えば老化に関連した結合マトリックスおよび弾性マトリックスの減少、しみだらけの色素沈着および顔面筋緊張)に対処するように構築されてもよい。
【0074】
さらに、各細胞型は、これまで詳述したように遺伝子操作されてもよい。遺伝子操作は、例えばタンパク質を上方制御したり、新たなタンパク質を導入したり、イオン濃度を調整したりすることなどを目的として、培地内の1つ以上の成分の濃度を変更するために用いられてもよい。さらに、異種の初代細胞培養物および/または細胞株を含む細胞は、所望の表現型、遺伝子型、培養条件(例えば温度、pH、薬剤など)に対する反応性、タンパク質分泌特性などのために、クローン化、変異および/または選択されてもよい。
【0075】
商業的用途
特定の実施の形態においては、成長因子強化馴化培地は、しわ、眉間のしわ、瘢痕を減少または無くし、他の皮膚状態を修復するために、クリーム、ローション、セラムまたはヒドロゲルなどの局所製剤(以下に詳述)の形態で用いられてもよい。他の実施の形態においては、ボトックス(登録商標)の用途と類似の化粧品用途において、成長因子強化馴化培地を含む注射用製剤が用いられてもよい。実際、成長因子強化馴化培地は、皮膚の老化の治療を向上させるために、他の注射用薬剤と組合わせて用いられてもよい。他の実施の形態においては、馴化培地は、また、アイシャドー、ケーキ状おしろい、コンパクトまたは他の化粧品に添加されてもよい。他の好ましい実施の形態においては、本発明の組成物は、頭部およびまつげの毛髪成長を刺激するための局所塗布用に調合されてもよい。
【0076】
他の実施の形態においては、成長因子強化馴化培地は、食品添加物および栄養補助剤として用いられてもよい。好ましくは、馴化培地は、細胞にさらされる前の未使用の培地に存在していて相当かつ有用なレベルで存在したままである必須アミノ酸、ビタミンおよびミネラルを含むさまざまな栄養素を含んでいる。本発明の馴化培地は、例えば濃縮および/または凍結乾燥されてもよく、摂取用にカプセルまたは錠剤の形態で栄養補助剤として投与されてもよい。さらに、当該組成物は、また、液体または粉末の形態の栄養素含量を増大させるために食品に直接添加されてもよい。これらの実施の形態のうちのいくつかにおいては、馴化培地製剤は、例えばビタミン、ミネラル、アミノ酸、多糖、酸化防止剤、抗生物質などといった従来の栄養補助剤が補充されてもよい。
【0077】
本発明のさらに別の実施の形態においては、成長因子強化馴化培地は、培養時に他の細胞を成長させるための細胞培地を補充するために用いられてもよい。本発明の馴化培地は、細胞接着および成長を促進させるのに有用な因子を含む。さらに、細胞培地は、遺伝子組み換えが行われ、かつ、例えば骨格または培養物表面への細胞接着を促進させるのに有用な、濃度が上昇したフィブロネクチンまたはコラーゲン濃縮物を含み得る細胞によって調整されてもよい。
【0078】
本発明のさらなる実施の形態においては、成長因子強化馴化培地は、薬学的用途で、例えば薬学的有用性を有する特定の成長因子または他のタンパク質の供給源として用いられてもよい。上述のように、対象の特定の因子は、親和性クロマトグラフィなどの従来の方法によって差別的に濃縮および/または精製されてもよい。したがって、本発明の馴化培地は、さまざまな薬学的用途に有用であり得る。
【0079】
さらに他の実施の形態においては、本発明の馴化培地は、創傷および/または火傷の治癒において用いられてもよい。実際、創傷を負った皮膚、日焼けにより損傷した皮膚、火傷を負った皮膚および老化した皮膚は、多くの病理学的特徴を共有し得る。したがって、創傷治癒における成長因子強化馴化培地の使用についての以下の説明は、日焼けにより損傷した皮膚、火傷を負った皮膚および老化した皮膚にも適用可能であり得る。成長因子強化馴化培地の使用の例としては、創傷治癒を促進および/または加速させるために局所適用されるガーゼの包帯(接着性または非接着性)への馴化培地の適用があるが、それに限定されない。馴化培地は、1つ以上の成分を濃縮または還元して創傷治癒を促すように処理されてもよい。組成物は、創傷治癒を加速させるために、凍結乾燥および/またはフリーズドライされて、創傷充填剤として添加されるか、または既存の創傷充填組成物に添加されてもよい。代替的には、培地は、ヒドロゲル組成物に添加されて、局所的な創傷治療および抗接着用途のためのフィルムとして用いられてもよい。成長因子強化馴化培地は、創傷治癒特性が向上した遺伝子産物を発現させる細胞、すなわち抗瘢痕特性を有する遺伝子産物を発現させる操作された細胞によって生成されてもよい。
【0080】
皮膚組織が物理的に隔離される(insulted)場合、一連の生物活性を示すポリペプチド成長因子が当該隔離された領域に放出されて治癒を促進させる。創傷治癒は、いくつかの段階を伴って、制御された態様で外皮の裂け目を封止して機能的に有能な組織を形成することができる複雑なプロセスである。当該プロセスは、止血に始まり、好中球およびマクロファージを伴う炎症期が続く。当該プロセスでは、肉芽組織の成長および再上皮形成が行われて、創傷を閉じる。その後、瘢痕組織が形成され、その後数ヶ月かけて元の解剖学的構造の近似物に作り変えられる。理想的には、健康な組織、すなわち組織学的および生理学的に元の正常な組織に似た機能的に有能な組織が形成されるように、瘢痕組織は最小限である。治癒プロセスの各段階は、サイトカイン、成長因子および炎症性メディエータなどの調節タンパク質ならびに細胞接触メカニズムによる細胞間相互作用によって制御される。例えば、IL‐6、IL‐8およびG‐CSFなどの炎症性メディエータは、リンパ球分化および急性期タンパク質、ならびに創傷治癒の炎症段階において重要な好中球浸潤、成熟および活性化プロセスを引起す。創傷治癒プロセスに関わる調節タンパク質の他の例は、炎症および肉芽組織形成中に血管形成を引起すVEGF、骨形成を引起す骨形成タンパク質(BMP)、ケラチン生成細胞を活性化させるケラチン生成細胞成長因子(KGF)、および細胞外マトリックスの堆積を引起すTGF‐βである。
【0081】
慢性的創傷では、治癒プロセスは、止血後であって再上皮形成前の時点で中断され、一見再開することができない。創傷床に見られる炎症の大半は感染症に関連しているが、当該炎症は、調節タンパク質を劣化させて創傷治癒プロセスと干渉するプロテアーゼに富んだ環境を生じさせる。同様に、糖尿病などのいくつかの医学的条件においては、創傷治癒に必要な調節タンパク質のうちのいくつかは供給不足状態である。例えば、正常なマウスの創傷におけるレベルと比較して、VEGFおよびPDGFの分泌およびPDGF受容体の発現がすべて創傷において低下することが、インスリン非依存性糖尿病のマウスモデル(例えばdb/dbマウス)で分かった。
【0082】
したがって、本発明の成長因子強化馴化培地は、創傷治癒に重要であると考えられ、かつ、創傷治癒のインビボモデルにおいては欠乏していることが分かった調節タンパク質のうちの多くを含んでいる。同様に、馴化培地は、組織欠損または損傷の修復および/または再生が望ましい例えば外傷性損傷または先天性損傷といった他の種類の組織損傷の治療にも有用であり得る。なぜなら、例えばFGF、PDGF、EGF、BMP、VEGF、KGFおよびTGFを含む培地を調整するために用いられる細胞型によっては、馴化細胞培地にこれらの成長因子のうちの多くが存在し得るためである。GR78およびMSP90などのストレスタンパク質は、TGF‐βなどの成長因子の局所分泌を引起す。(馴化培地内のこれらのTGFのレベルを上方制御するために培地において用いられてもよい)TGF β‐1、TGF β‐2、TGF β‐3、TGF β‐4およびTGF β‐5を含むTGF‐βは、成長および分化を調整し、創傷治癒を加速させる(Noda et al. 1989, Endocrin. 124: 2991-2995; Goey et al. 1989, J. Immunol. 143: 877-980, Mutoe et al. 1987, Science 237: 1313-1335)。PDGFなどのマイトジェンは、組織形成の際の細胞性および肉芽組織の割合を増大させる(Kohler et al. 1974, Exp. Cell. Res. 87: 297-301)。上述のように、細胞は好ましくは、免疫原性問題を最小限に抑えるためにヒトの細胞である。
【0083】
一局面においては、成長因子および馴化培地の組合せは、TGF β‐1、TGF β‐2、TGF β‐3、IL‐3、IL‐6、IL‐7およびIL‐8を含み、馴化培地は少なくとも20%(wt%)の濃度で存在する。関連の局面においては、当該組合せは、約1〜3ng/mLのTGF β‐1、約100〜160pg/mLのTGF β‐2、約50〜100pg/mLのTGF β‐3、約60pg/mLのIL‐3、約11pg/mLのIL‐6、約50pg/mLのIL‐7および約4〜10pg/mLのIL‐8を含み、馴化培地は約30〜42%(wt%)で存在する。
【0084】
馴化培地がこのような一連の創傷治癒因子を含んでいるので、馴化培地は、皮膚の創傷、骨折、胃潰瘍、膵臓損傷、肝臓損傷、腎臓損傷、脾臓損傷、血管損傷および他の内部創傷を含む創傷の治療および火傷の治癒に有利に利用可能である。さらに、馴化培地は、抗生物質および鎮痛薬などの他の活性薬剤と組合わせられてもよい。実施の形態は、局所塗布用の膏薬または軟膏を用いた馴化培地の製剤を含む。
【0085】
代替的には、上述のように、馴化培地は、創傷治癒を促進および/または加速させるために包帯(接着性または非接着性)と組合わせられてもよい。馴化培地は、いかなる状態でも、すなわち液体状態または固体状態、凍結乾燥もしくは乾燥させて粉末になった状態で、局所的創傷治療および抗接着用途のためのフィルムとして、または注射剤として用いられてもよい。PCT WO96/39101(引用によって全文が本明細書に援用される)を参照されたい。
【0086】
代替的には、馴化細胞培地は、米国特許第5,709,854号、第5,516,532号、第5,654,381号およびWO98/52543(各々が引用によって全文が本明細書に援用される)に記載の重合性ヒドロゲルまたは架橋ヒドロゲルと調合されてもよい。ヒドロゲルを形成するために用いられ得る材料の例としては、修飾アルギン酸塩がある。アルギン酸塩は、海藻から単離された炭水化物重合体であり、例えばWO94125080(開示が引用によって本明細書に援用される)に記載のカルシウムなどの二価陽イオンにさらされることによってヒドロゲルを形成するように架橋されることができる。アルギン酸塩は、二価陽イオンの存在下で、水中で、室温でイオンにより架橋されて、ヒドロゲルマトリックスを形成する。本明細書において用いられるように、「修飾アルギン酸塩」という用語は、修飾ヒドロゲル特性を有する化学的に修飾されたアルギン酸塩を指す。
【0087】
さらに、ジェランガムなどの細菌性多糖類、カラギナンなどの植物性多糖類を含む一価陽イオンにさらされることによってゲル化する多糖類は、上述のアルギン酸塩の架橋に利用可能な方法と類似の方法を用いてヒドロゲルを形成するように架橋されてもよい。
【0088】
修飾ヒアルロン酸誘導体も有用であり得る。本明細書において用いられるように、「ヒアルロン酸」という用語は、天然の、化学的に修飾されたヒアルロン酸を指す。修飾ヒアルロン酸は、架橋および生物分解の速度および程度を調整するように設計され、予め選択された化学修飾物と合成されてもよい。
【0089】
共有結合的に架橋可能なヒドロゲル前駆体も有用である。例えば、キトサンなどの水溶性ポリアミンは、ポリエチレングリコールジイソチオシアネートなどの水溶性ジイソチオシアネートと架橋されることができる。
【0090】
代替的には、ノートン等の米国特許第6,372,494号(引用によって全文が本明細書に援用される)に開示されているような、ラジカル開始剤と接触するとラジカル反応によって架橋される置換基を含む重合体が利用されてもよい。
【0091】
さらに別の実施の形態においては、馴化培地および/または特定の馴化培地濃縮物、例えば培地に生成された細胞外マトリックスタンパク質が、縫合部を被覆するために用いられてもよい。天然に分泌された細胞外マトリックスは、I型コラーゲンおよびIII型コラーゲン、フィブロネクチン、テラシン(terascin)、グリコサミノロジカン、ベルシカン、デコリンおよびさまざまな他の分泌されたヒト皮膚マトリックスタンパク質、ならびに細胞外マトリックスからの皮膚組織および細胞構成要素のアセンブリの結集に関与する上述のさまざまな成長因子を馴化培地に提供し得る。同様に、身体の欠損を修正するための外科的アプローチにおいて人工血管を含む従来の移植装置を被覆して優れた移植装置を得るために、馴化細胞培地または馴化培地から得られる細胞外マトリックスタンパク質が用いられてもよい。移植片は、欠損機能に取って代わるまたは欠損機能の代わりになる、生分解性でないかまたは生分解性の、生体適合性のある不活性材料でできているべきである。移植装置をこれらの細胞外タンパク質および成長因子を含む培地で被覆することによって、移植片は適切な細胞接着を引起し、移植部位に優れた組織がもたらされる。したがって、馴化細胞培地で被覆された縫合糸、包帯および移植片、または培地から得られるタンパク質は、損傷領域への白血球および線維芽細胞などの細胞の補充を促し、細胞増殖および分化を引起し、その結果、創傷治癒を向上させる。
【0092】
さらに別の実施の形態においては、培地は、内部投与のための媒体(vehicle)としての薬学的に許容可能なキャリアと調合されてもよい。また、培地は、培地内に含まれる1つ以上の因子または成分を濃縮または還元するようにさらに処理されてもよく、例えば本明細書に記載される任意の所与の出願では、免疫親和性クロマトグラフィを用いた成長因子の強化、または逆に、それほど望ましくない成分の除去が行われる。
【0093】
当然のことながら、特殊組織における創傷は、当該特殊組織によって調整された培地を必要とし得る。例えば、神経組織に対する外傷は、神経細胞培養物によって調整された培地に含まれるタンパク質を必要とし得る。特定の生成物が得られてもよく、または代替的には、馴化培地が免疫親和性クロマトグラフィもしくは例えばNGFなどの特定の培地からの所望のタンパク質の発現の促進によって強化されてもよい。NGFによる制御の特徴としては、コリン作動性神経伝達機能(アセチルコリンエステラーゼ(AChE)およびアセチルコリン合成酵素(ChAT))、神経細胞サイズおよびII型NGF受容体の発現があるが、それらに限定されない。NGFは、グリア細胞および他の神経細胞によって調整された馴化培地に分泌されて、神経治癒のための組成物において用いられることができる。
【0094】
内在性NGFの不足は特定のヒト神経変性疾患を悪化させる恐れがあり、外傷を負った成人のCNSニューロンは明らかに再生できない。具体的には、神経に対する外傷が起こると、当該外傷の遠位の神経線維の変性が起こり、その結果、軸索が細胞体から単離される。中枢神経系においては、一般的には損傷したニューロンの死につながる外傷の部位では大幅な成長はない。NGFは、細胞体レベル(例えば隔膜)、介在する組織空間(例えば神経ブリッジ)および再神経分布(reinervation)領域(例えば海馬体)における成人のCNSコリン作動性ニューロンの再生機能に極めて重要な役割を果たす。さらに、NGFは、認知障害の改善に有用であり得る。例えばグリア細胞で調整された培地は、外来NGFおよび他の神経成長因子を供給することができ、そのため外傷を負った神経の切断端から新たな軸索が成長でき(例えば成長円錐を成長させ)、元の接続部位まで伸びていく。
【0095】
さらに、脳および脊髄に対する外傷は、多くの場合、付随する軸索変性に対するグリア反応を伴い、瘢痕組織をもたらす。この瘢痕組織は、神経成長に対する物理的障壁であると最初は考えられていたが、特別なニューロン環境においては神経栄養(neuronotropic)因子の有無が非常に重要である。星状膠細胞は外傷に反応してラミニンを合成することができるようである(ラミニンは馴化培地にも見ることができる)。コラーゲンおよびフィブロネクチン、特にラミニンは、インビトロでの培養されたニューロンまたはニューロン外植片からの神経突起(neurities)の成長を促進させることが分かった。これらの細胞外マトリックスタンパク質は、成長円錐の前進および軸索の伸長を容易にする接着基質を提供するようである。したがって、神経再生の成功には神経栄養因子および支持基質の存在が必要であり得る。その理由は、再生は、神経細胞体が適切な生合成反応を搭載できること、ならびに、外傷部位の周囲の環境が軸索の伸長および最終的な機能的再接続をサポートできることを必要とするようである、というものである。星状膠細胞およびグリア細胞などの神経細胞によって調整された培地は、脳および脊髄に対する外傷における神経再生に必要な神経栄養成長因子および細胞外マトリックスタンパク質を含む。
【0096】
同様に、皮膚、骨、肝臓、膵臓、軟骨および他の特殊組織の治療は、それらのそれぞれの特殊細胞型によって調整された培地で治療されてもよく、当該それぞれの組織型に対する創傷の治療に有用な、当該組織型の特徴的な細胞外タンパク質および他の代謝物を含む馴化培地がもたらされる。
【0097】
馴化細胞培地は、また、均一な組織修復を促進させる目的で歯根膜手術に用いられる装置に添加されてもよく、生分解性のコンタクトレンズ、角膜シールド(corneal shield)または骨移植片を提供するため、外科的空間充填剤を提供するため、皮膚のしわを減らす目的で特に皮膚において軟組織の増加を促進させ、失禁を制御する目的で尿道括約筋の増加を促進させるために添加されてもよい。
【0098】
別の実施の形態においては、組成物は、創傷治癒を加速させるために、凍結乾燥/フリーズドライされて、創傷充填剤(例えば移植用ヘアプラグから残った穴を充填する)としてまたは既存の創傷充填組成物に添加されてもよい。別の実施の形態においては、培地は、培地内の創傷治癒タンパク質の濃度を上げるために、遺伝子組み換え細胞で調整される。例えば、細胞は、上述の成長因子のうちのいずれかなどの遺伝子産物を発現させるように操作されてもよい。
【0099】
さらに別の実施の形態においては、成長因子強化馴化培地は、頭部およびまつげの毛髪成長を刺激するための局所治療において構築されてもよい。例えば、培地は、ヒトの毛乳頭細胞を用いて調整されてもよい。毛乳頭細胞は、毛髪の形成、成長および回復に極めて重要な役割を果たす間充織幹細胞の一種である(Matsuzaki et al., Wound Repair Regen, 6:524-530 (1998))。馴化培地は、好ましくは濃縮されて局所製剤として塗布される。馴化培地組成物は、例えばDMSO、またはリポソームの使用を含む他の脂溶性キャリアといった皮膚への化合物の浸透を容易にする薬剤を用いて局所塗布用に調合され、毛髪成長を刺激するための局所薬剤として塗布されてもよい。代替的にまたは加えて、角質層への馴化培地成分の浸透および透過を促すために超音波が用いられてもよい。当該組成物は、毛包への上皮細胞の移動を増大させる成長因子および他の因子を与えることによって、局所的に塗布された時に毛髪成長を促進または回復させることが期待される。馴化培地に見られる成長因子に加えて、ミノキシジルなどの他の活性薬剤を用いることができる。
【0100】
抜け毛の原因には、退行期(成長期と停止期との間の毛包の移行期)および休止期(停止期)における血液供給の減少がある。馴化細胞培地から得られる生物活性分子は、男性型脱毛症のためのベニガオザルモデルを含む当該技術分野において公知の分析を用いて、これらの時期に使用できるように突き止められ、最適化されることができる。例えば、Brigham, P. a., A. Cappas, and H. Uno, The Stumptailed Macaque as a Model for Androgenetic Alopecia Effect; of Topical Minoxidil Analyzed by Use of the Folliculogram, Clin Dermatol, 1988, 6(4): p. 177-87; Diani, A. R. and C. J. Mills, Immunocytochemical Localization of Androgen Receptors in the Scalp of the Stumptail Macaque Monley, a Model of Androgenetic Alopecia, J. Invest Dermatol, 1994, 102(4): p. 511-4; Holland, J. M., Animal Models of Alopecia, Clin Dermatol, 1988, 6(4): p. 159-162; Pan, H. J., et al., Evaluation of RU58841 as an Anti-Androgen in Prostate PC3 Cells and a Topical Anti-Alopecia Agent in the Bald Scalp of Stumptailed Macaques, Endocrine, 1998, 9(1): p. 39-43; Rittmaster, R. S., et al., The Effects of N,N-diethyl-4-methyl-3-oxo-4-aza-5 alpha-androstane-17 beta-carboxamide, a 5 alpha-reductase Inhibitor and Antiandrogen, on the Development of Baldness in the Stumptail Macaque, J. Clin Endocrinol Metab, 1987, 65(1): p. 188-93(各々が引用によって全文が援用される)を参照されたい。さらなるモデルとしては、毛髪のない領域および毛で覆われた領域から培養された毛包からの毛包増殖の差の測定、新生児ラットモデルならびに円形脱毛症のラットモデルがある。Neste, D. V., The Growth of Human hair in Nude Mice, Dermatol Clin., 1996, 14(4): p. 609-17; McElwee, K. J., E. M. Spiers, and R. F. Oliver, In Vivo Depletion of CD8+T Cells Restores Hair Growth in the DEBR Model for Alopecia Areata, Br J Dermatol, 1996, 135(2): p. 211-7; Hussein, A. M., Protection Against Cytosine Arabinowide-Induced Alopecia by Minoxidil in a Rat Animal Model, Int J Dermatol, 1995, 34(7): p. 470-3; Oliver, R. F., et al., The DEBR Rat Model for Alopecia Areata, J Invest Dermatol, 1991, 96(5): p. 978; Michie, H. J., et al., Immunobiological Studies on the Alopecic (DEBER) Rat, Br J Dermatol, 1990, 123(5): p. 557-67(各々が引用によって全文が援用される)を参照されたい。
【0101】
他の活性薬剤
また、添加され得る生成物としては、抗生剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、ステロイド、鎮痛剤、抗がん剤、試験研究中の薬、または馴化培地内の因子との補完的もしくは相乗的組合せをもたらすであろう任意の化合物があるが、それらに限定されない。
【0102】
薬理作用のある物質も馴化培地製剤の好ましい実施の形態に組み入れられてもよく、例えばビタミンまたはミネラルの添加を含む。例えば、それらは、アミノ酸、核酸(DNA、RNA)、タンパク質もしくはペプチド(例えばRGDペプチド)、炭水化物部分、多糖類、リポソーム、または例えば受容体およびリガンドといった他の細胞成分もしくはオルガネラを伴う相互作用またはメカニズムにより直接的または間接的に機能する。
【0103】
以下の薬剤は、細胞外でまたは特定の膜受容体部位においてそれらの作用を発揮させると考えられている。これらの薬剤としては、コルチコイドおよび他のイオンチャネル遮断剤、成長因子、抗体、受容体遮断剤、融合毒素、細胞外マトリックスタンパク質、ペプチド、または他の生体分子(例えば、ホルモン、脂質、マトリックスメタロプロテイナーゼなど)、放射線、抗炎症剤があり、抗炎症剤は、炎症反応を調節するインターロイキン‐1(IL‐1)、腫瘍壊死因子アルファ(TNF‐α)、ガンマインターフェロン(インターフェロン‐y)およびトラニラストなどのサイトカインを含む。成長因子受容体作用薬も、馴化培地製剤と混合されてもよい可能な活性薬剤の範囲内に含まれる。
【0104】
他の薬剤グループは、原形質膜においてそれらの効果を発揮する。これらの薬剤としては、共役タンパク質、膜結合および細胞質タンパク質キナーゼおよびエフェクタ、チロシンキナーゼ、成長因子受容体および接着分子(セレクチンおよびインテグリン)などのシグナル伝達カスケードに関与するものがある。
【0105】
いくつかの化合物は、例えばヘパリン、リボザイム、サイトキシン、アンチセンスオリゴヌクレオチドおよび発現ベクターを含む細胞質内で活性である。他の治療アプローチは核に向けられる。これらのアプローチとしては、遺伝子組込み、プロトオンコジーンがあり、特に細胞分裂、核タンパク質、細胞周期遺伝子および転写因子にとって重要なものがある。
【0106】
本発明の実施の形態に従って用いられてもよい特定の成長因子、インターロイキンおよびインターフェロンとしては、以下のものがあるが、それらに限定されない:
・上皮成長因子(EGF):間葉細胞、グリア細胞および上皮細胞の増殖を促進させる
・血小板由来成長因子(PDGF):結合組織、グリア細胞および平滑筋細胞の増殖を促進させる
・線維芽細胞成長因子(FGF):多くの細胞の増殖を促進させ、いくつかの幹細胞を抑制し、初期胚の中に生じるように中胚葉を誘導する
・形質転換成長因子‐β(TGF‐β):
・形質転換成長因子‐α‐(TGF‐α):正常な創傷治癒にとって重要であり得る
・神経成長因子(NGF):神経突起の伸長および神経細胞の生存を促進させる
・エリスロポエチン(Epo):赤血球の増殖および分化を促進させる
・インスリン様成長因子‐I(IGF‐I):多くの細胞型の増殖を促進させる、および
・インスリン様成長因子‐II(IGF‐II):主に胎児由来の多くの細胞型の増殖を促進させる。
【0107】
いくつかの実施の形態においては、局所免疫機能を強化しおよび/または炎症反応を調整するためにインターロイキンが用いられてもよい。インターロイキンおよびそれらの主な作用のうちのいくつかとしては、以下のものがあるが、それらに限定されない:
・IL1‐αおよびβ:APCおよびT細胞の副刺激、炎症
・IL‐2:B細胞および活性化T細胞の増殖、NK機能
・IL‐3:造血前駆細胞の成長
・IL‐4:B細胞の増殖、好酸球および肥満細胞の成長および機能、B細胞でのIgEおよびクラスII MHCの発現、モノカイン生成の抑制
・IL‐5:好酸球の成長および機能
・IL‐6:急性期反応、B細胞の増殖、血小板産生、T細胞でのM‐1およびTNFとの相乗作用
・IL‐7:TおよびBリンパ球産生
・IL‐8:好中球およびT細胞のための化学誘導性物質
・IL‐9:造血効果および胸腺細胞増殖効果
・IL‐10:サイトカイン生成の抑制、B細胞の増殖および抗体の生成の促進、細胞性免疫の抑制、肥満細胞の成長
・IL‐11:相乗的な造血効果および血小板産生効果
・IL‐12:NK細胞の増殖、INF‐γの生成、細胞媒介免疫機能の促進、および
・IL‐13:IL‐4様作用。
【0108】
いくつかの実施の形態においては、局所免疫機能を強化しおよび/または炎症反応を調整するためにインターフェロンが用いられてもよい。インターフェロンおよびそれらの主な作用のうちのいくつかとしては、以下のものがあるが、それらに限定されない:
・INF‐αおよびINF‐β:抗ウイルス効果、すべての体細胞でのクラスI MHCの誘導、NK細胞およびマクロファージの活性化
・INF‐γ:すべての体細胞でのクラスI MHCの誘導、APCおよび体細胞でのクラスII MHCの誘導、マクロファージ、好中球、NK細胞の活性化、細胞媒介免疫の促進、抗ウイルス効果
・腫瘍壊死因子‐α(TNF‐α):他の自己分泌成長因子の発現の誘導、成長因子に対する細胞反応性の増大、増殖につながるシグナル伝達経路の誘導
・腫瘍壊死因子‐β(TNF‐β):(リンホトキシンとも呼ばれる)いくつかの異なる細胞型を殺すことができる能力および他の細胞型において末端分化を誘導することができる能力。TNF‐βに対する1つの重要な非増殖反応は、血管内皮細胞の表面に存在するリポタンパク質リパーゼの抑制である
・コロニー刺激因子(CSF):成人の骨髄の特定の多能性幹細胞の増殖の刺激。顆粒球マクロファージ‐CSF、EpoおよびIL‐3もCSFであると考えられる。
【0109】
皮膚の老化の治療剤として販売される最新のペプチドのうちの1つは、KTTKS(配列番号:1)とも呼ばれるプロコラーゲン断片Lys-Thr-Thr-Lys-Ser(配列番号:1)である。国立衛生研究所の後援の下でテネシー大学で行われた調査によって、このペンタペプチドが、培養された線維芽細胞によるI型コラーゲンおよびIII型コラーゲンならびにフィブロネクチンの合成を促進させることができることが立証された(J. Biol. Chem. 268[14]:9941-44, 1993)。この親水性ペプチドの浸透を促すために、パルミトイル、すなわち16炭素脂肪酸部分を添加した。
【0110】
現在のところ、REGENERIST、STRIVECTIN‐SDおよびSTRIXADERM‐MDを含むPal‐KTTKS(配列番号:2)を含有するいくつかの製品が特許を受け、製造され、商業目的で販売されている。
【0111】
MATRIXYLとして商業的に知られているPal‐KTTKS(配列番号:2)は、非公開の報告書によれば、ヒトの皮膚に浸透して真皮にとどまることが分かった。
【0112】
セダーマ社の後援の下で行われ、パリでの2002年世界皮膚科学会においてポスターに提示された49人の女性の二重盲検媒体対照調査では、Pal‐KTTKS(配列番号:2)(3ppm)は、1日2回、4ヶ月にわたって顔および首に塗布した後、皮膚の粗さが13%減少し、しわの量が36%減少し、しわの深さが27%減少した。2ヶ月後および4ヶ月後に6人の女性に対して行われた皮膚生検によって、エラスチン繊維細胞の密度および太さが増大し、真皮と表皮との接合部においてはIV型コラーゲンが向上したことが実証された。
【0113】
プロクター・アンド・ギャンブル社の後援の下で行われた臨床研究が、紫外線による皮膚の老化に対するPal‐KTTKS(配列番号:2)の効果を裏付けた。
【0114】
サンフランシスコでの2003年米国皮膚科学会総会においてポスターに提示された調査では、中程度から重度の紫外線による損傷を患う92人の女性が、顔分割無作為化二重盲検媒体対照調査に参加した。被験者は、12週間にわたって、3ppmのPal‐KTTKS(配列番号:2)を含む顔用保湿剤を1日に2回塗布されることにより治療を受けた。Pal‐KTTKS(配列番号:2)は、デジタル写真の画像分析および専門家による等級付けによって測定した時に顔のしわの線およびしわが大幅に改善し、経表皮水分喪失量によって測定した時に皮膚保護膜に悪影響を及ぼさなかった。
【0115】
同一の媒体においてPal‐KTTKS(配列番号:2)(3ppm)の効果とレチノール(700ppm)の効果とを比較するために、さらなる調査が行われた。パリでの2002年世界皮膚科学会において提示された調査では、16人の女性が、4ヶ月間にわたって、顔の一方の側の目尻のしわにPal‐KTTKS(配列番号:2)を塗布され、他方の側の目尻のしわにレチノールを塗布された。
【0116】
2ヶ月後、Pal‐KTTKS(配列番号:2)はレチノールよりも優れた効果をもたらした。4ヶ月後、両方の薬剤は、同様に機能し、しわが50%ほど減少した。研究者等は、Pal‐KTTKS(配列番号:2)が、レチノールの使用に関連して多くの場合起こる刺激を伴うことなくこれらの効果をもたらすことに気付いた。
【0117】
したがって、本発明の一実施の形態においては、スキンクリームは、成長因子強化馴化培地と、Pal‐KTTKS(配列番号:2)を含む任意の形態のKTTKS(配列番号:1)の使用とをともに含む。
【0118】
アルジルリンまたはアセチルヘキサペプチド‐3は、ボツリヌス毒素(ボトックス(登録商標))注射剤に代わる局所用代替物として勧められる合成ペプチドである。
【0119】
このペプチドは、リポテックS.A.社(バルセロナ、スペイン)によって開発され、合成され、センターケム社によって米国で販売されている。アルジルリンは、AVOTOX、DDF’s Wrinkle Relax(HDSコスメティクス社)およびINHIBIT(ナチュラビセ社)を含むいくつかの薬用化粧品に見られる。大半の製品は、5%〜10%のアルジルリンを含んでおり、INHIBITが20%で最も高濃度であり得て、0.5オンスにつき135ドルである。
【0120】
アルジルリンの作用メカニズムを解明するために広範なインビトロ調査が行われた(J. Biol. Chem. 272[5]:2634-39, 1997)。1つのこのような調査は、可溶性N‐エチルマレイミド感受性融合接着タンパク質(SNAP)受容体複合体の形成を防止し、そのためベシクルドッキングを抑制することによってペプチドが作用することを実証した。エピネフリンおよびノルエピネフリンを含むカテコールアミン放出は、インビトロではアルジルリンによって抑制された。研究者等は、この合成ペプチドがインビトロでのクロストリジウム性神経毒の作用とよく似ているので実際の医療用途に適用可能である、ということを示唆した。
【0121】
局所塗布されたアルジルリンの効能に関する臨床試験は制限される。5%アルジルリンおよび油と水とのエマルジョンを1日に2回塗布する非盲検試験が10人の女性に対して行われた。
【0122】
共焦点レーザ走査顕微鏡法を用いて眼窩周囲のしわのシリコーンレプリカを分析し、15日間の治療後には17%の改善を示し、30日間の治療後には27%の改善を示した。
【0123】
アルジルリンは明らかに興味深いインビトロ作用を示すが、その効能を立証するにはより大規模な客観的な臨床研究が必要である。このペプチドは筋肉に浸透して提案されているその作用メカニズムを発揮させなければならないので、ヒトの皮膚に対して行われる透過性調査も必要であろう。
【0124】
治療製剤
馴化培地は、手術、注射剤、シリコーンまたは他の製品に加えてまたはそれらの代替物として、老化に関連するしわ、眉間のしわ、瘢痕および他の皮膚状態を予防、低減および/または無くすように構築されてもよい。皮膚の老化は、コラーゲン合成の減少およびコラーゲン分解の増加を特徴とする。いくつかの成長因子はコラーゲンの生成を刺激する。馴化培地は、例えばPDGF、IGF、FGF、TGF、EGF、VEGF、HGF、IL‐6、G‐SCFおよびKGFなどの成長因子および炎症メディエータ、ならびに、I型コラーゲンおよびIII型コラーゲン、フィブロネクチン、テラシン、グリコサミノグリカン、ベルシカン、デコリンおよびさまざまな他の分泌されたヒト皮膚マトリックスタンパク質などの細胞外マトリックスタンパク質を含み、これらは身体的異常および表面的な欠損の修復に有用であり得る。馴化培地に加えて、コラーゲン合成を促進させるKTTKS(配列番号:1)およびPal‐KTTKS(配列番号:2)、アルジルリン、筋肉によって引起される皮膚のしわを抑制する合成ペプチドなどのペプチドも、局所製剤における他の活性薬剤として含まれていてもよい。
【0125】
一実施の形態においては、馴化細胞培地は、さらなる成長因子、ペプチド、および/または本明細書に記載されているものを含むがそれらに限定されない他のタンパク質および生物活性物質と、またはそれらなしに、局所塗布用の薬用化粧フェイシャルクリーム、ローションおよび/またはセラムとして調合される。
【0126】
上述の他の活性薬剤に加えて、一般的なスキンクリーム製剤は、以下の一般的な種類の成分のうちの1つ以上を含んでいてもよい:
・植物油、鉱油、シアバター、ココアバター、ワセリン、コレステロール、シリコーンまたは動物油(エミュー、ミンクおよびラノリンを含む)の形態の皮膚軟化剤。これらの潤滑成分は、水分の保持を助けながら皮膚を軟化させて滑らかにする。いくつかの実施の形態においては、ホホバ、スクアレンおよびラノリンが、記載の皮膚軟化剤の代表例である。なぜなら、それらは、皮脂(皮膚の天然の保湿剤)と最大の類似性を有しており、最も毛穴を詰まらせず(毛穴詰まり)、皮膚の生化学と最も適合するためである。トリグリセリド、パルミチン酸塩、ミリスチン酸塩およびステアリン酸塩のような増粘剤は、ろう状であるが、保湿製剤の基本ベースおよび質感にとって必要である。
【0127】
・水分結合剤は、皮膚に水分を保持する成分である。日焼けおよび脱水によって損傷を受けた皮膚を治療/予防するように設計された製剤では、水分を皮膚に引き寄せる(ソルビトール、グリコール、グリセリンおよびPCAナトリウムを含む)保湿剤が望ましいであろうが、これらの保湿剤は皮膚による水分保持を促進させることにはそれほど有用ではない。
【0128】
・刺激を引起す恐れがある成分に皮膚が対処することを助けるように、ビサボロール、アラントイン、ゴボウ、アロエ、甘草の根、グリシルレチン酸、緑茶およびカモミール抽出物などの鎮静剤および抗刺激剤が添加されてもよい。
【0129】
・細胞のターンオーバ、治癒および脱水を促進させるために、ビタミンA、CおよびEを含むビタミンおよび酸化防止剤が用いられてもよい。
【0130】
・αヒドロキシ酸(AHA)およびβヒドロキシ酸(BHA)は、毛穴をきれいにして、壊死した皮膚を除去し、より滑らかなしっとりとした皮膚をもたらすことが分かった。AHA製剤はグリコール酸および乳酸を含むが、フルーツ酸またはシトラス酸、サトウキビまたはさらには酸乳の使用で代用されてもよい。1つのBHA成分はサリチル酸である。しかし、高レベルのAHAは、特定の皮膚型ではチクチクする感じがする恐れがある。また、AHAは太陽に対する感度を増大させるので、AHAを組み入れる製剤では太陽光線保護(例えば物理的および/または化学的日焼け防止剤の添加)が望ましいであろう。
【0131】
一実施の形態においては、調合されたスキンクリームは、治療効果のある量の馴化培地(またはその濃縮物もしくは抽出物)を増粘剤、保湿剤、アラントイン、精製水および少なくとも1つの防腐剤と組合わせる。
【0132】
別の実施の形態においては、増粘剤は、ポリエチレングリコール(PEG)、植物ベースの脂肪アルコールおよび共重合体の組合せを含む。
【0133】
いくつかの好ましい植物ベースの脂肪アルコールは、デシルアルコール、オクチル‐デシルアルコール、ラウリルアルコール、ラウリル‐ミリスチルアルコール、ミリスチルアルコール、セトステアリルアルコールおよびそのさまざまな混合物、セチルアルコールならびにステアリルアルコールを含むが、それらに限定されない。
【0134】
共重合体は、当業者によって公知の、従来から薬用化粧品において用いられているものを含み得る。
【0135】
別の実施の形態においては、増粘剤は、PEG‐150、デシルアルコールおよびSMDI共重合体を含む。
【0136】
いくつかの保湿剤は、PCAナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、ヒアルロン酸、尿素および乳酸を含むが、それらに限定されない。
【0137】
いくつかの防腐剤は、複素環化合物、メチルパラベン、プロピルパラベン、ジアゾリジニル尿素、フェノキシエタノール、DMDMヒダントイン、ソルビン酸、ベンジルアルコール、ホルムアルデヒド、トリクロサンおよびEDTAを含むが、それらに限定されない。
【0138】
いくつかの複素環化合物は、メチルイソチアゾリノン、メチルクロロイソチアゾリノンおよびカフェインを含むが、それらに限定されない。
【0139】
一実施の形態においては、調合されたクリームは、馴化培地(またはその濃縮物もしくは抽出物)をPEG‐150/デシルアルコール/SMDI共重合体、PCAナトリウム、アラントイン、精製水、メチルイソチアゾリノンおよびメチルパラベンと組合わせる。
【0140】
他の実施の形態においては、馴化培地は、皮膚用パッチ剤、注射剤、ヒドロゲルの形態の薬剤および当業者に公知のその他の適切な製剤に調合されてもよい。
【0141】
薬剤製剤は、当業者に周知の標準的な手順を用いてさまざまなルートを経由して被験者に送達されてもよい。例えば、このような送達は、経皮スタンプの使用を含む部位特異的なまたは一般的な局所投与であってもよい。また、それらは、制御された徐放媒体として機能するように調合されてもよい。
【0142】
馴化培地に含まれる治療用生成物としては、ペプチド、成長因子、酵素、ホルモン、サイトカイン、抗原、抗体、凝固因子および調節タンパク質があるが、それらに限定されない。治療用タンパク質としては、炎症メディエータ、血管新生(argiogenic)因子、第VIII因子、第IX因子、エリスロポエチン、α‐1アンチトリプシン、カルシトニン、グルコセレブロシダーゼ、ヒト成長ホルモンおよび誘導体、低密度リポタンパク質(LDL)、エリスロポエチン(EPO)、アポリポタンパク質E、IL‐2受容体およびその拮抗薬、インスリン、グロビン、免疫グロブリン、触媒抗体、インターロイキン、インスリン様成長因子、スーパーオキシドジスムターゼ、免疫反応修飾因子、BMP(骨形態形成タンパク質)、副甲状腺ホルモンおよびインターフェロン、神経成長因子、組織プラスミノゲン活性化因子ならびにコロニー刺激因子があるが、それらに限定されない。当然のことながら、培地は、培地内に含まれる1つ以上の因子または成分を濃縮または還元するようにさらに処理されてもよく、例えば本明細書に記載される任意の所与の出願では、免疫親和性クロマトグラフィを用いた成長因子の強化、または逆に、それほど望ましくない成分の除去が行われる。
【0143】
特定の因子の活性を試験するために、当業者によって一般に利用される分析が利用されてもよく、それによって、許容可能なレベルの生物活性(例えば治療効果のある活性)が採取後処理によって保持および/または生成されることを確実にする。このような治療因子の投与量は、当業者に周知であり、PHYSICIANS DESK REFERENCE, Medical Economics Data Publishers; REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES, Mack Publishing Co.; GOODMAN & GILMAN, THE PHARMACOLOGICAL BASIS OF THERAPEUTICS, McGraw Hill Publ., THE CHEMOTHERAPY SOURCE BOOK, Williams and Wilkens Publishersなどの薬学コンペディアに見ることができる。
【0144】
上述の成長因子、薬または他の活性薬剤のいずれかの治療効果のある投与量は、当業者に周知の技術を用いて慣例的に決定されてもよい。「治療効果のある」投与量とは、治療を受ける過程および/または疾患の少なくとも1つの症状の改善をもたらすのに十分な化合物の量を指す。
【0145】
薬の毒性および治療効果は、例えばLD
50(母集団の50%を死に至らせる投与量)およびED
50(母集団の50%に治療効果のある投与量)を決定するための細胞培養物または実験動物における標準的な薬学的手順によって決定できる。毒性と治療効果との用量比が治療指数であり、比率LD
50/ED
50として表わすことができる。大きな治療指数を示す化合物が好ましい。有毒な副作用を示す化合物が用いられてもよいが、罹患していない細胞に対する起こり得る損傷を最小限に抑えることによって副作用を減らす目的で罹患組織の部位をこのような化合物の標的にする送達システムを設計するように注意を払うべきである。
【0146】
細胞培養物分析および動物実験から得られたデータは、ヒトで使用できるように投与量範囲を構築することに用いることができる。このような化合物の投与量は、好ましくは、毒性がほとんどないまたは全くないED
50を含む濃度の範囲内である。当該投与量は、利用される投与形態および利用される投与ルートに応じて、この範囲内で変動し得る。本発明の方法において用いられる任意の化合物では、治療効果のある投与量は、最初に細胞培養物分析から推定可能である。IC
50(すなわち、症状の最大半量抑制を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲が、細胞培養物において決定される。このような情報は、ヒトにおける有用な投与量をより正確に決定するために用いることができる。血漿のレベルは、例えば高性能の液体クロマトグラフィによって測定されてもよい。
【0147】
いくつかの実施の形態においては、培地に分泌される成長因子のうちのいくつかは、以下の濃度を有する:
・約0.01〜100ng/mL、約0.1〜10ng/mLまたは約1〜3ng/mLのTGF β‐1
・約0.1〜1000pg/mL、約1〜1000pg/mLまたは約100〜160pg/mLのTGF β‐2
・約0.1〜1000pg/mL、約1〜1000pg/mLまたは約50〜100pg/mLのTGF β‐3
・約0.1〜1000pg/mL、約1〜1000pg/mLまたは約60pg/mLのIL‐3
・約0.1〜1000ng/mL、約1〜100ng/mLまたは約11ng/mLのIL‐6
・約0.1〜1000pg/mL、約1〜100pg/mLまたは約〜50pg/mLのIL‐7
・約0.1〜1000ng/mL、約1〜100ng/mLまたは約4〜10ng/mLのIL‐8。
【0148】
別の実施の形態においては、メラニン細胞および/または他の細胞型からの成長因子強化馴化培地は、線維芽細胞からの馴化培地と組合わせられてもよい。メラニン細胞によって分泌されるFGF‐2の濃度は、一般に、約10〜10,000pg/mL、約100〜1000pg/mLまたは約400〜450pg/mLの範囲である。
【0149】
一実施の形態においては、培養された実質的に均質な包皮由来の線維芽細胞からの馴化培地またはその抽出物もしくは濃縮物を含むスキンクリームを含むキットであって、当該馴化培地は、栄養培地への少なくとも1つの成長因子の分泌を促進させるように適合された条件下で二次元培養において細胞を有する栄養培地を培養することによって生成され、当該少なくとも1つの成長因子は、皮膚欠損を治療または予防するのに十分な量で馴化培地またはその抽出物もしくは濃縮物に存在しており、当該キットはさらに、容器と、ラベルと、スキンクリームの塗布方法を提供する取扱説明書とを含む、キットが開示される。取扱説明書は、パンフレット、CDまたは他のコンピュータ読取可能媒体であってもよい。さらに、取扱説明書は、ダウンロード可能な内容を含み得るウェブサイトについての情報を提供してもよい。
【0150】
以下の実施例は、本発明を例示することを意図したものであり、本発明を限定することを意図したものではない。
【0151】
実施例
1.
ヒト包皮線維芽細胞の単離
I.材料
・100mm滅菌組織培養皿
・150mm滅菌組織培養皿
・滅菌した手術用メス刃
・滅菌したフルカーブ鉗子
・滅菌したハーフカーブはさみ
・50ml遠心分離管
・1ml、5mlおよび10mlピペット先端部
・ピペット
・ダルベッコ変法イーグル培地(DME/高修飾)
・ウシ胎仔血清(FBS)
・抗生物質‐抗真菌剤(ABAM)
・L‐グルタミン(L‐GLU)
・リン酸緩衝食塩水(PBS)
・トリプシン‐EDTA 1X(0.25%トリプシン 1mM EDTA‐4Na。CaおよびMg++を持たない1リットルのHBSSにおいて2.5gのトリプシン(250)および0.38gのEDTA‐4Naと調製する)
輸送培地:
DMEMの500mlボトルに添加
FBS 50ml
ABAM 5ml
成長培地(GM):
DMEMの500mlボトルに添加:最終濃度
FBS 50ml 10%
ABAM 5ml 1%
L‐glu 5ml 292μg/ml
II.単離技術
陰核切除後の新生児から包皮を得たが、これは新生児の親が提供したものである。5ml輸送培地を用いて室温で滅菌遠心分離管に試料を輸送した。滅菌ピペットを用いて当該試料を管から取出し、100mm組織培養皿に配置した。PBS‐CMF/1%ABAMを用いて細胞を3回洗浄した。湾曲したはさみおよび鉗子を用いて皮下脂肪組織をトリミングした。
【0152】
当該試料を水平に0.5×1.0cm
2片に分割し、表皮側を下にして100mm組織培養皿に配置した。次いで、10mlのトリプシン‐EDTA0.25%を添加し、一晩(16〜18時間)にわたって冷蔵した(4℃)。
【0153】
冷蔵庫から試料を取出し、2つの鉗子を用いて表皮を真皮から分離した。これらの条件下では、表皮は真皮から容易に剥離するはずである。トリプシンにさらされた単一細胞を取出し、遠心分離管に配置し、トリプシンの作用を止めるために15mlのGMを添加した。次いで、結果として生じた溶液をソーバルハイコニック固定角ロータ内で800×gで10分間にわたって遠心分離した。
【0154】
真皮外植片を採取して細片に切り刻むことによって線維芽細胞を単離し、それらを100mmペトリ皿に配置した。包皮を洗浄し、はさみで切り刻み、トリプシン処理によって単一細胞に解離した。20%ウシ胎仔血清(FBS、ハイクローン社(ユタ州ローガン))、20%SRまたは20%ヒト血清(ケミコン・インターナショナル社(カリフォルニア州テメキュラ))のいずれか、2mM L‐グルタミン、0.1mM β‐メルカプトエタノールおよび1%非必須アミノ酸ストック(ギブコ・インビトロジェン・コーポレーション(カリフォルニア州カールズバッド))を補充された80%ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、ピルビン酸高グルコース製剤なし)からなる培地内で、結果として生じた細胞を成長させた。5〜7日ごとに、トリプシン‐EDTA(0.5%トリプシンおよび0.25%EDTA、ギブコ・インビトロジェン)を用いて包皮細胞を分割した。10mlの線維芽細胞培地を細胞に添加し、次いで妨害なしに48時間にわたって培養器に配置した。細胞を1回移動させて拡張し、皿は約50〜60%の密集度であった。不死化細胞では、製造業者の指示(すなわちアドジーン社(マサチューセッツ州ケンブリッジ))により、拡張培養物をpBsSVD2005で核酸導入した。
【0155】
使用済みの培地を除去することによってトリプシン処理を達成した。5mlのトリプシン0.25%を添加し、37℃/5%CO
2で10分間にわたって細胞を培養した。細胞が剥離していることを確実にするために、顕微鏡下で培養物をしばしばチェックした。必要であれば、細胞の除去を助けるために、皿の側面に穴を開けた。
【0156】
細胞剥離を確認した時に、トリプシンの作用を止めるために5mlのGMを添加した。単一細胞を遠心分離管に配置し、ソーバルハイコニック固定角ロータ内で800×gで8分間にわたって遠心分離した。上澄みを除去し、結果として生じた細胞を5%〜20%FBSによりDMEMに再懸濁させた。
【0157】
2.
細胞培養方法
このプロトコルは、Nunc MicroHexマイクロキャリア(ナルジェ・ヌンク・インターナショナル社(デンマーク))を有するウェーブバイオリアクタを使用するためのものである。Nunc MicroHexは、辺長が125ミクロンの二次元の平坦な六角形ポリスチレンキャリアである。
【0158】
I.
接種
空気および10%CO
2を用いて堅くなるまでセルバッグ(Cellbag)(ウェーブ・バイオテック社)を膨らませた。培地を添加し、吸込および排出フィルタを固定した。次いで、1分当たりの揺動(rpm)が約15回かつ約7°の角度でセルバッグを揺動させた。温度およびpHは平衡を保っていた。当初の体積は最終培養物体積の約50%であった。次いで、マイクロキャリアおよび細胞懸濁液を添加した。一般に、当初の細胞密度が1mL当たり約0.1〜0.5×10
6の細胞を添加した。吸込および排出フィルタを固定したままにして、約20rpmの速度かつ約7°の角度で揺動を続けた。数時間または一晩にわたって接着プロセスを続けた。
【0159】
II.
動作
一旦細胞を接着させると、培地の残量を添加して培養物を最終体積にした。細胞を成長させながら、細胞密度、生存率および代謝をモニタリングした。酸素レベルをモニタリングし、培養物の酸素要求に応答してrpmおよび角度を調整した。十分な酸素を維持してマイクロキャリア/細胞を懸濁させたままにしながら低rpmおよび角度を維持することが最も良い。細胞が成長し続けると、培地は最終的に使用済みになった。揺動を停止させることによって培地交換が達成された。台を前方に傾けると、数分以内にマイクロキャリア/細胞複合体がセルバッグの底縁に沈殿した。次いで、マイクロキャリアをいずれも除去することなく培地を汲み出した。この態様で培養物体積の90%までを除去した。予め温めた未使用の培地を添加し、以前の設定でセルバッグの揺動を再開した。
【0160】
III.
揺動速度
揺動速度は、培養物体積、細胞密度、およびセルバッグサイズ細胞または培養フラスコまたはペトリ皿に左右された。2Lおよび10Lのセルバッグでは、速度は最初は約15〜20rpmに設定した。細胞密度が大きくなるにつれて、速度を約20〜25rpmに上げた。
【0161】
IV.
揺動角度
2Lおよび10Lのセルバッグでは、6°の初期角度で十分であった。最大細胞密度が達成されると、約7〜8°の角度が好ましかった。
【0162】
V.
エアレーション速度
セルバッグを堅く膨らんだ状態に保った。セルバッグが膨らんでいる間は、1分当たり約0.5L(lpm)までの流量を用いた。一旦力強い成長を観察すると、2Lのバッグでは流量を約0.1lpmに設定し、10Lのセルバッグでは流量を約0.2lpmに設定した。
【0163】
VI.
動作温度
哺乳類細胞の一般的な動作温度は、36〜37℃である。
【0164】
VII.
pH制御
pH制御は極めて重要である。ウェーブバイオリアクタの気体輸送容量が高いために、pHは急速にドリフトする(drift)可能性がある。以下の手順が用いられた。
【0165】
a.最初に、10%CO
2/空気でセルバッグを膨らませた。膨らませた後、培地およびマイクロキャリアをバイオリアクタに添加し、吸込および排出空気フィルタを閉じた。pHおよび温度が完全に平衡を保つようにするために、約15rpmで1〜2時間にわたってセルバッグを揺動させた。接種の前に、試料を採取することによってpHをチェックし、必要であれば調整した。
【0166】
b.吸込および排出フィルタを閉じたまま、マイクロキャリアに細胞を接種した。
c.pH、グルコース濃度および細胞密度をモニタリングした。一旦pHおよびグルコースレベルが降下し始めると、ヘッドスペースを通る連続空気流を5%CO
2/空気に切替えた。これは24〜60時間以内に行われた。一旦力強い細胞成長が起こると、培地pHは上方にドリフトせず、スイープガス内のCO
2濃度がpHを制御するように機能した。
【0167】
d.酸素濃度を維持するために揺動速度および角度を上げた。
e.使用済みの培地を交換する際には注意を払った。pHをモニタリングし、細胞が未使用の培地に順応するにつれてCO
2濃度を調整した。
【0168】
VIII.
スケールアップ
Nuncマイクロキャリア上での細胞株の一般的なスケールアップは、以下の通り行われる。
【0169】
a.500mL培地を用いて2Lのセルバッグを充填した。13gのMicroHexキャリアを添加し、pHが平衡を保つようにした。少なくとも0.3×10
6細胞/mLの開始細胞数(1.5×10
8細胞総数)となるように、十分な細胞接種材料を添加した。一晩にわたって、揺動速度を約15rpmに設定し、角度を約6°に設定した。当該システムを動作温度に保った。
【0170】
b.翌日、500mLの培地を添加し、rpmを約18に調整し、角度を約6°に調整した。
【0171】
c.pHが降下し始めるまで、もう1日培養を続けた。吸込および排出フィルタを外し、連続空気/CO
2流を開始させた。培養物内の酸素レベルを注意深くモニタリングした。rpmを約20に調整した。
【0172】
d.培地が使用済みであることをグルコースレベルおよび低pHが示すまで、さらに数日間にわたって培養を続けた。pHを注意深くモニタリングしながら、50%の培地を交換した。rpmを約22に調整し、角度を約7°に調整した。
【0173】
e.1日おきに50%培地交換を続けた。
製剤
細胞が約80〜95%の密集度に達した時に、以下に記載されているように馴化培地をさまざまな組成物に添加した。
【実施例1】
【0177】
実施例1.比較調査
スキンコンディショニング剤(すなわち馴化培地)濃度を変化させる(すなわち、42%、30%および20%(wt%))という条件で、上述のようにスキンクリーム組成物(AQスキンソリューションアクティブセラム)を調合した。人間の被験者の肌に当該組成物を局所投与し、スタッフRNまたはスタッフ医師によって物理的評価が行われた。
【0178】
被験者
25歳〜72歳の20人の被験者(女性13人、男性7人)を用いて調査を行なった。有志が包括的インフォームドコンセント文書にサインした。
【0179】
94%の女性の肌の全体的概観、肌の質感/滑らかさの改善、肌の堅さおよび弾力性の増加、ならびに小じわおよびしわの出現の減少を含む10個の質問に基づいて、標準的なスコアリングシステムが用いられた。
【0180】
被験者は、プラシーボを含む4つの製品の、ラベルが貼られていない容器を与えられた。調査期間は75日間であった。AQ製品をTNS RECOVERY COMPLEX(登録商標)(スキンメディカ社)、BIO‐GEL生物回復バイオゲル(ネオキューティス社)およびRevive Moisture再生クリーム(リバイブ社)と比較した。調査結果を
図2に示す(スキンコンディショニング剤は42%)。
【0181】
結果
図2に示されるように、AQ製品は、TNS、BIO‐GELおよびReVive製品と比較して、各々の時点で少なくとも2倍優れた結果をもたらすことが分かった。
図3は、肌の質感、しわ、小じわ、堅さおよび全体的な改善の平均改善率スコアを示す。
【0182】
効能に必要なスキンコンディショニング剤の最小量を決定するために、スキンコンディショニング剤の濃度が異なるAQ製品を調査した。調査結果は
図3〜
図5に示され、時点分析(すなわち
図6〜
図8)を含む。
【0183】
これらのデータから分かるように、5%が効能に必要な最小濃度であるようである。
【実施例2】
【0184】
実施例2.座瘡瘢痕
スキンクリーム組成物(AQスキンソリューションアクティブセラム)を上述のように調合した。人間の被験者の肌に当該組成物を局所投与し、スタッフRNまたはスタッフ医師によって物理的評価が行われた。
【0185】
被験者
25歳〜72歳の20人の被験者(女性13人、男性7人)を用いて調査を行なった。有志が包括的インフォームドコンセント文書にサインした。
【0186】
経皮皮膚スタンプを用いた投与によって、被験者にAQスキンソリューションアクティブセラムを与えた。調査結果を
図9および
図10に示す。
【0187】
結果
治療前および治療後の図(すなわち
図9および
図10)に示されるように、AQ製品は被験者の肌から座瘡瘢痕を減らすか、または完全に取除いた。
【実施例3】
【0188】
実施例3.男性型脱毛症
この調査の目標は、アンドロゲン性脱毛症(AGA)の治療において自然発生的な成長因子、特にAQアクティブヘアセラムの成分を試験することであった。
【0189】
被験者
25歳〜65歳の健康な、軽度から中程度のAGAを患う72人の被験者(男性および女性)がこの調査に含まれていた。有志が包括的インフォームドコンセント文書にサインした。被験者は、15週間にわたってAQアクティブヘアセラムによる治療を受けた。
【0190】
結果
ベースライン時に効能測定を行ない、次いで最終来院時に効能測定を行なった。測定は、1)調査スタッフによる頭髪成長の評価ならびに2)治療効果および外観に対する満足感の患者による自己評価であった。
【0191】
患者による自己評価
この分析において調査被験者によって評価されたパラメータは、以下の質問であった。すなわち、a)脱毛箇所のサイズ、b)頭髪の外観、c)頭髪の成長、d)頭髪喪失の速度およびe)頭髪の外観に対する満足感であった。他の尺度としては、頭髪の太さ、長さ、強度(張力)、頭髪喪失対策、頭皮の若返りおよび全体的な成長があった。
【0192】
この調査の結果は、治療に対する反応が非常に肯定的であることを示した(
図11、
図12および
図13を参照)。盲検調査スタッフ評価報告書によれば、活性調査製剤を投与された調査被験者のうちの90%を超える調査被験者が最終来院時に改善していると評価されたことが分かった。
【0193】
結論
この調査は、頭髪喪失の治療における自然発生的な成長因子の有効性を確立し、ヘアセラムが正常な成体哺乳類において完全に新しい毛包を発生させることを実証している。
【0194】
研究者等は、因子の組合せを頭皮に塗布することによって新たな毛包の形成を含む再生反応を引起すことができた。当該調査によって、皮膚にこの原始的な状態を引起すことが、成人の皮膚の対応する細胞内に活性な経路とは異なった対応する胚分子経路をもたらし、正常な成人の皮膚において治療効果があると以前は考えられていなかった頭髪再成長のための新たな局所治療オプションが可能になることが実証された。
【実施例4】
【0195】
実施例4.肌の若返りおよびしわの減少
調査のために選ばれた被験者
30歳〜78歳の全体的に健康な、授乳中または妊娠中でない81人の男性および女性であって、両眼の周囲を含む顔に確認できる小じわおよび深いしわがあり、少なくとも辛うじて見える暗い領域があり、少なくともわずかに粗く滑らかでない下まぶたを持つ男性および女性であった。有志が包括的インフォームドコンセント文書にサインした。
【0196】
含まれなかった被験者
顔面領域または眼の下に影響を及ぼす皮膚疾患を患っている最中の被験者またはそのような皮膚疾患の履歴がある被験者は含まれなかった。また、被験者は、皮膚状態を向上させてしわの減少を助け得る製品を用いる現在使用中の療法を止めるよう求められた。化粧および日焼け止めは許可された。6ヶ月以内に顔面皮膚に影響を及ぼす美容整形を受けた被験者も調査から除外した。
【0197】
治療計画
6週間(42日間)にわたって、眼窩周囲皮膚領域を含む顔面皮膚にAQアクティブセラムを朝と夜塗布した。被験者は、AQアクティブセラムの毎回の塗布を記録に残すよう求められた。
【0198】
ベースライン時および6週間後の評価
被験者は以下によって評価された:
1.臨床的評価:
・標準的な条件下での臨床写真
・VISIA‐CR画像化(カンフィールド・サイエンティフィック社(ニュージャージー州フェアフィールド))
・表1に示される1ポイント〜10ポイント視覚スコアリングシステムを用いた、眼窩周囲皮膚を含む皮膚の質の臨床的評価
2.自己評価:
・与えられたアンケートを用いた、被験者による眼窩周囲皮膚を含む顔面皮膚の質。
【0199】
結果
登録した81人の被験者のうち、平均して52±9歳(30歳〜78歳)の79人の被験者が調査を完了した。製品とは無関係の理由で、2人の被験者が調査から脱落した。臨床的評価(表1)および被験者アンケートによって生成されたスコアを用いて結果を表にした。
【0200】
【表4】
【0201】
すべての結果がp=0.05の統計的有意差を示した。すべての被験者(100%)がスキンセラムに対する耐性を十分に有していることが報告された。すべての被験者(100%)がスキンセラムの感触を好み、98%が6週間の調査期間後もその定期的使用を続けた。改善は、平均ベースラインスコアのパーセンテージで表わされる治療前(ベースライン)の平均スコアと治療後の平均スコアとの差として示され、調査を完了した79人すべての被験者を含む(
図14および
図15)。この調査とともに、AQアクティブセラムと類似の特性または請求項に記載の類似の特性を有する他の製品とを比較する比較調査を行なった。この調査は、1)市場の他の製品と比較してAQアクティブセラムがいかに効果的であるかを示す目的、および2)プラシーボの使用に加えて負の調査対照として用いる目的の2つの目的があった(
図16)。また、被験者は、ボトル当たりの量、セラムの品質、香り、再注文および全体的満足感の点でAQアクティブセラムを評価するよう求められた(
図17)。
【0202】
この調査に含まれる使用前および使用後の図は、以下の基準に基づいて選択された:
1.肌タイプおよび皮膚損傷
2.年齢および性別
3.改善の程度。
【0203】
結論
当該調査によって、酸化防止剤因子と組合わせられた、ヒト成長因子とサイトカインとの独占所有権のある混合物を含むスキンセラム(AQアクティブセラム)が安全であり、軽度から中程度の皮膚損傷/老化の場合に顔面皮膚の若返りに有効であることが実証された。なぜ大多数(98%)がAQアクティブセラムの定期的使用を続けるかということは、セラムの効能、デリケートな眼窩周囲皮膚領域を含む優れた耐性、ならびに製品の使いやすさおよび心地よい感覚的特性によって説明される。
【0204】
本発明のいくつかの好ましい実施の形態およびそれらの変形例について詳細に説明したが、他の変更例および使用方法およびその適用例は当業者に明らかであろう。したがって、さまざまな適用例、変更例、材料および代替例が本発明の精神または特許請求の範囲から逸脱することなく等価物でできていてもよいということが理解されるべきである。本発明は、例示の目的で本明細書に記載された実施の形態に限定されるものではなく、その各々の要素が権利がある等価性の全範囲を含む添付の特許請求の範囲を公正に読むことによってのみ規定されるということが理解されるべきである。