特許第5981978号(P5981978)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5981978
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】音楽対応腕時計用の音響放射膜
(51)【国際特許分類】
   G04B 21/08 20060101AFI20160818BHJP
【FI】
   G04B21/08 D
【請求項の数】20
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-236219(P2014-236219)
(22)【出願日】2014年11月21日
(65)【公開番号】特開2015-114320(P2015-114320A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2014年11月21日
(31)【優先権主張番号】13196237.5
(32)【優先日】2013年12月9日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504341564
【氏名又は名称】モントレー ブレゲ・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ポリクロニス・ナキス・カラパティス
(72)【発明者】
【氏名】ヨウネス・カドミリ
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィデ・サルチ
【審査官】 櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0140603(US,A1)
【文献】 米国特許第08770833(US,B1)
【文献】 特開2001−169386(JP,A)
【文献】 米国特許第06792127(US,B1)
【文献】 特開平06−165290(JP,A)
【文献】 特開2011−029800(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0106773(US,A1)
【文献】 特開2012−138887(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0148085(US,A1)
【文献】 特開2000−134696(JP,A)
【文献】 特開2012−118068(JP,A)
【文献】 特開2012−198211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 21/08
21/00
H04R 7/02
1/02
7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音楽対応腕時計又は打撃機構付き腕時計用の音響放射膜(1)であって、
当該膜は、アクティブな中央部分(2、12)と、腕時計用ケース内で当該膜を保持する縁部分(4)を有し、
前記中央部分(2、12)は、部分球面状のキャップとして凸状に構成されており、500Hz〜3.5kHzの範囲内の一又は複数の周波数によって当該膜がアクティブ化される
ことを特徴とする音響放射膜(1)。
【請求項2】
当該膜は、略円形であり、
前記部分球面状のキャップは、前記中央部分(2)の直径よりも大きい半径の球の面の一部である
ことを特徴とする請求項1に記載の音響放射膜(1)。
【請求項3】
前記部分球面状のキャップの半径は、前記中央部分(2)の直径よりも6〜8倍大きいことを特徴とする請求項2に記載の音響放射膜(1)。
【請求項4】
当該膜は、略ドーム形を有し、ベース部分を定め側壁(3)に取り付けられた中央部分(2)と、及び前記側壁(3)からの周辺部の縁部分(4)とを有し、
前記中央部分(2)は前記略ドーム形の外側の方向に突出する凸状である
ことを特徴とする請求項1に記載の音響放射膜(1)。
【請求項5】
前記中央部分(2)は、前記中央部分又は前記中央部分の厚くなった部分に固定される部品である付加質量体(2’)を有する
ことを特徴とする請求項4に記載の音響放射膜(1)。
【請求項6】
前記付加質量体(2’)を有する前記中央部分(2)、前記側壁(3)及び前記周辺部の縁部分(4)は、同じ金属性材料で作られた単一材で形成している
ことを特徴とする請求項5に記載の音響放射膜(1)。
【請求項7】
前記中央部分(2、12)の厚みは、前記中央部分の中心から周囲まで均一である
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の音響放射膜(1)。
【請求項8】
前記中央部分(2、12)の厚みは、前記中央部分の中心から周囲になるにしたがって実質的に線形的に減少している
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の音響放射膜(1)。
【請求項9】
音楽対応腕時計又は打撃機構付き腕時計用の音響放射膜(1)であって、
当該膜は、アクティブな中央部分(12、12’)と、腕時計用ケース内で当該膜を保持する縁部分(4)を有し、
当該膜の前記中央部分(12、12’)は、当該膜(1)の前記縁部分(4)と中心の間で略円錐形であり、500Hz〜3.5kHzの範囲内の一又は複数の周波数によって当該膜がアクティブ化される
ことを特徴とする音響放射膜(1)。
【請求項10】
前記中央部分は、当該膜の中心を始点として当該膜の中心軸に対して第1の開き角度を有するように構成する第1の円錐形部分(12)と、前記第1の円錐形部分(12)の周囲から始まって前記第1の開き角度とは異なる第2の開き角度を有するように構成する第2の円錐形部分(12’)との2つの同心の円錐形部分(12、12’)を有する
ことを特徴とする請求項9に記載の音響放射膜(1)。
【請求項11】
当該膜は、略ドーム形を有し、ベース部分を定め側壁(3)に接続される中央部分(2)と、
前記側壁からの周辺部の縁部分(4)とを有し、
前記第2の円錐形部分(12’)は、前記第1の円錐形部分(12)及び前記側壁(3)に接続されている
ことを特徴とする請求項10に記載の音響放射膜(1)。
【請求項12】
前記第1及び第2の円錐形部分(12、12’)は、略ドーム形の当該膜の外側の方向に張り出している
ことを特徴とする請求項11に記載の音響放射膜(1)。
【請求項13】
前記第1の円錐形部分(12)の前記第1の開き角度は、前記第2の円錐形部分(12’)の前記第2の開き角度よりも大きい
ことを特徴とする請求項10に記載の音響放射膜(1)。
【請求項14】
前記第1の円錐形部分(12)の直径は、前記中央部分全体の直径の80%〜90%の範囲にある
ことを特徴とする請求項10に記載の音響放射膜(1)。
【請求項15】
前記第1の円錐形部分(12)の厚みは一定である
ことを特徴とする請求項9に記載の音響放射膜(1)。
【請求項16】
前記円錐形部分(12)の厚みは、当該膜の中心から周囲まで線形的に減少している
ことを特徴とする請求項9に記載の音響放射膜(1)。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか一項に記載の音響放射膜(1)を製造する方法であって、
当該膜は、2つの異なる材料を組み合わせて製造されている
ことを特徴とする音響放射膜(1)の製造方法
【請求項18】
請求項5に記載の音響放射膜(1)を製造する方法であって、
前記付加質量体は、当該膜(1)の他の部分を形成する材料M1とは異なる材料M2で形成されている
ことを特徴とする音響放射膜(1)の製造方法
【請求項19】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の音響放射膜(1)を製造する方法であって、
前記膜の中央部分は、当該膜の中央部分に、該膜(1)を形成する材料M1とは異なる材料M2を堆積することによって得られている
ことを特徴とする音響放射膜(1)の製造方法
【請求項20】
請求項9に記載の音響放射膜(1)を製造する方法であって、
円錐形である前記中央部分は、当該膜の中央部分に、該膜(1)を形成する材料M1とは異なる材料M2を堆積することによって得られている
ことを特徴とする音響放射膜(1)の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音楽対応腕時計又は打撃機構付き腕時計用の音響放射膜に関する。
【背景技術】
【0002】
腕時計製造の分野において、音を発生させたり音楽を再生させるために、計時器用ムーブメントに打撃機構を設けることがある。打撃機構付き腕時計の鐘又は音楽対応腕時計の振動板は、一般に、腕時計用ケース内に配置される。したがって、鐘又は振動板の舌部の振動は、腕時計の様々な外側部品に伝達される。このような外側部品としては、例えば、中央部分、ベゼル、腕時計用ケースの表蓋及び裏蓋がある。これらの大きな外側部品は、伝達される振動の影響の下で、大気中に音を放射し始める。ハンマーによって鐘を打つことによって又は振動板の一又は複数の振動舌部によって音が発生すると、これらの外側部品は発生音を大気中に放射することができる。
【0003】
通常、この種の打撃機能付き又は音楽対応腕時計では、音響効率は、外側部品の複雑な振動音響的な変換に基づいており、低い。打撃機能付き又は音楽対応腕時計のユーザーによって知覚される音響レベルを改善し増加させるためには、外側部品の材料、幾何学的構成及び境界条件を考慮に入れなければならない。また、これらの外側部品の構成は、腕時計の美的外観及び動作時の応力にも依存しており、これによって、順応可能性が制限されることがある。
【0004】
打撃機構の振動音響効率を改善するために、腕時計用ケース内に膜を配置することができる。この膜は、一又は複数の鐘又は振動板の舌部の振動によって発生する音がすべて効率的に放射するような幾何学的構成を有する。したがって、これらの音の周波数が膜の固有モードに近いことが、膜が共振となることを可能にするために重要である。
【0005】
この点に関して、例えば、500Hz〜3.5kHzの限定された周波数帯にわたって高いモード密度を得ることは困難である。なぜなら、この特性は、非常に低い剛性又は非常に大きな質量を有する膜のみが対応できるからである。これらの2つの特性は有益ではない。なぜなら、このようにして約1000Hzまで1次共振モードの周波数を減らすことが、音響的な性能が非常に制限されていて4000Hz未満であるような励起モードの周波数も減らすからである。したがって、力学的エネルギーが貧弱な音響効率を有する膜の振動モードにおいて消散する。放射効率は、放射される音響エネルギーを膜に転送される全エネルギーで割った比として論理的に定義されるものであり、したがって、放射効率が関心事の周波数範囲全体にわたって低下する。したがって、打撃機構が発生させるすべての音に対して共振を得るのは難しく、これは、最先端技術の膜の課題である。
【0006】
この点について、欧州特許出願EP 2461219 A1は、音楽対応又は打撃機構付き腕時計用の音響放射膜を開示しており、これを引用する。この音響膜は、周辺部の縁が中央部分の一部と腕時計用ケースの裏蓋の間に挟まれた略ドーム形を有する。この膜は、膜の材料内に形成される1つ又は2つの非対称的な形の領域を有するように設計される。膜全体の厚み内でくり抜かれたこれら2つの領域は、異なる幾何学的構成を有する。これら2つの領域は、楕円を形成する。これらの楕円は、膜の中心から互いにずれており、部分的に重なっている。膜におけるこれらの楕円によって、円形の場合と比較して、各楕円の振動の固有モードの数を2倍有することができる。しかし、これは、膜の振動モードの範囲を増加させて、より大きな周波数帯にわたって増幅される振動性の応答を得ることを可能にするわけではない。これは、課題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、より広い周波数帯にわたって音響放射膜の増幅された応答を得るように作られた音楽対応腕時計又は打撃機構付き腕時計用の音響放射膜を提供することによって、前記最先端技術の課題を克服することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本発明は、独立請求項1において定められた特徴を有する音響放射膜に関する。
【0009】
音響放射膜の特定の実施形態は、従属請求項2〜22において定められている。
【0010】
音響放射膜の長所は、凸状ないし円錐形を有する中央部分を備えることで、振動の振幅を、特に500Hz〜3.5kHzの周波数帯にわたって大きくすることができるという点にある。このような音響膜の複雑な幾何学的形状が、所定の材料で形成され、全体の厚みが腕時計用ケース又は表蓋の面内寸法に匹敵する面内寸法によって定められるので、膜の音響応答は、関心事の周波数の全区間の至る周波数において、従来の解決手法と比べて相当に改善される。
【0011】
好ましいことに、音楽対応又は打撃機構付き腕時計において生成される1セットの音の増幅を確実にすることができる。このようにして、発生される各音の1次振動モードは、少なくとも500Hz〜3.5kHzの周波数範囲内にある。また、1次振動モードのピーク幅は最先端技術の平坦な底の膜のピーク幅よりも大きい。
【0012】
好ましいことに、膜は、アモルファス金属又は金属性ガラスで作ることができ、あるいは、さらに、金又は白金、又は黄銅、チタン、アルミニウム又は同様の密度、ヤング率及び弾性限界を有する別の材料でも作ることができる。このような膜によって、帯域幅の拡張を非常に低い内部減衰と組み合わせることができる。これによって、非常に良好な音響性能が可能になる。
【0013】
音楽対応腕時計又は打撃機構付き腕時計用の音響放射膜の目的、利点及び特徴が、図面に描かれた実施形態(これらに限定されない)に基づいて与えられる以下の説明において、より明確に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1a図1aは、本発明に係る音響放射膜の第1の実施形態の単純化された三次元図である。
図1b図1bは、本発明に係る音響放射膜の第1の実施形態の図1aの線I−Iに沿った直径での断面図である。
図2a図2aは、本発明に係る音響放射膜の第2の実施形態の単純化された三次元図である。
図2b図2bは、本発明に係る音響放射膜の第2の実施形態の図2aの線II−IIに沿った直径での断面図である。
図3図3は、金属性ガラスにおける標準膜、本発明の第1の実施形態に係る金属性ガラス膜、及び第2の実施形態に係る金属性ガラス膜における膜に垂直な方向の速度の振幅の、膜の全量にわたる累積周波数応答のグラフを示す。
図4図4は、本発明に係る第1及び第2の実施形態の膜の周波数応答と、標準膜の周波数応答との比率のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下においては、特に、音楽対応腕時計又は打撃機構付き腕時計を装備する音響放射膜の構成を参照して説明する。この音響放射膜は、腕時計用ケースで発生する複数の異なる音の振幅を大きくするために、複雑な形態で作られる。この音響放射膜は、特に、500Hz〜3.5kHzの周波数帯の1次振動モードを増幅するように、幾何学的構成を有する。
【0016】
図1a及び1bは、音響放射膜1の第1の実施形態を示す。これは、音楽対応腕時計又は打撃機構付き腕時計に備えることができる。図1aに示すように、音響放射膜1は、上から見たときに、腕時計用ケースの形状に対応させ、略長方形又は略多角形であり、好ましくは円形である。
【0017】
膜1は、例えば、アクティブな中央部分2及び円筒状の側壁3を備えたドーム形に形成されている。この中央部分2は、略凸状であり、円筒状の側壁3は、周辺部の縁部分4を端とする。アクティブな中央部分2は、好ましくは、ドームの外側の方に突き出るように凸状であるが、ドームの内側の方に凸状であってもよい。この場合、アクティブな中央部分2は、膜の底を形成する。アクティブな中央部分2、周辺部の縁部分4を備えた側壁3は、一般に、同じ材料で1つの部品のみで形成している。この材料は、金属とすることができる。
【0018】
なお、周辺部の縁部分の代わりに、側壁3の周辺部にわたって分布するいくつかの周辺区画の形態である縁部分を設けて、腕時計用ケース内に膜を保持することができる。
【0019】
音響放射膜1は、1つの材料によって1つの部品として形成することができる。この材料は、以下に説明する図3及び4を参照して説明する例においては、アモルファス金属又は金属性ガラスである。しかし、この膜は、別の材料で作ることができ、例えば、同様の密度、ヤング率及び弾性限界を有する金又は白金であってもよく、又は黄銅、チタン、アルミニウムであってもよい。
【0020】
好ましくは、凸状の中央部分2は、さらに、凸状の中央部分の中心に加えられた質量体2’を有する。この質量体2’は、アクティブな中央部分に固定された付加的な部品であってもよく、好ましくは、アクティブな中央部分2と一体であって、膜1の中心の近くに厚くなった材料区画を単に定めるものであってもよい。中央部分2に付加されたこの質量体2’によって、放射音の第1の固有周波数を減少させ、これによって、膜の剛性を低下させることが可能になる。
【0021】
別の一実施形態において、膜は、異なる機械的性質を有する2つの材料M1及びM2で作ることができる。付加された質量体は、具体的には、材料M2で作ることができ、一方で、膜の残りを材料M1で作ることができる。また、凸状ないし円錐形の中央部分を、異なる材料M1で作られた膜に材料M2を堆積させることによって作ることも想起することができる。
【0022】
音響放射膜1は、その周辺部の縁部分4によって、腕時計用ケース(図示せず)内に取り付けることができる。この周辺部の縁部分4は、腕時計用ケースの裏蓋と中央部分との間で従来の手法で、シーリングガスケットとともにクランプされる。この膜1を腕時計用ケースに取り付けた後では、凸状の中央部分は、腕時計の他の部品とは接触しておらず、したがって、その基本振動モードで自由に振動する。膜1は、単極の三次元的形状を有し、したがって、大きな音響効率を有する。中央部分2は、腕時計用ケースの裏蓋の近くに配置されるが、これと接触はしていない。図1a及び1bは、膜1の底の図を示しており、ここにおいて、腕時計用ケースの裏蓋側で中央部分2が略凸状となっている。
【0023】
側壁3との接続箇所からの凸状の中央部分2の直径は、15mmより大きくすることができ、好ましくは、20〜40mmである。この直径は、腕時計用ケースの裏蓋上の周辺の支持メンバーと中央部分上の円形の内部リムとの間で周辺部の縁部分4をクランプすることを前提に、計時器表蓋(図示せず)の直径と実質的に同じである。中央部分2の厚みは、付加質量体2’の位置を例外として、どの位置においても同一である。この厚みは、50μmよりも大きくすることができ、好ましくは、1mm未満である。一方、中央部分の厚くなった部分2’の厚みは、例えば、周囲の中央部分の厚みの2倍である。厚くなった部分2’は、上から見たときに、1.5mmよりも大きい直径を有し、好ましくは2〜4mmの直径を有し、ドームの中心の方へと延在するような円形である。
【0024】
したがって、凸状の中央部分2は、500Hz〜3.5kHzまでの周波数帯にわたって振動を増幅するように、自身の材料に応じた幾何学的構成を有する。このようにして、膜の音響応答がこの周波数帯において相当に改善される。したがって、このような膜が打撃機能付き又は音楽対応腕時計に取り付けられるので、各発生音の1次振動モードは、500Hz〜3.5kHzの周波数範囲内に少なくともある。
【0025】
なお、膜1の中央部分2の厚みは変化するものであってもよい。例えば、この厚みは、付加質量体2’とは無関係に、中央部分の中心において、より大きく、ここから中央部分2の周囲まで、例えば、線形的に、次第に減少するようにしてもよい。また、この厚みを、中央部分2の中心から周囲まで段階的に変化させてもよい。500Hz〜3.5kHzの周波数範囲内で発生する音の1次振動モードの増幅を確実にするようなこの中央部分の厚みにおける他の変化も想起することができる。
【0026】
図1a及び1bに示すように、凸状の中央部分2は部分球面状のキャップであることができる。この部分球面状のキャップを次の式によって定めることができる。
r/h = sin(α)/(1−cos(α))
ここで、rは、中央部分の直径の半分を表し、hは、側壁と中央部分の間の接続から中央部分の中心まで高さを表し、αは、中央部分の中心から側壁と中央部分の間の接続までの部分球面状のキャップの球体の中心からの角度を表す。
【0027】
図1a及び1bに示す膜1の第1の実施形態において、角度αは、3°〜8°の範囲とすることができ、好ましくは、4°〜5°の範囲である。直径15mmの場合、部分球面状のキャップの高さhは約0.3mmであることができ、一方、直径40mmの場合、部分球面状のキャップの高さhは約0.8mmである。部分球面状のキャップの半径は、中央部分の直径のN倍大きいものとして定め、特に、6〜8倍大きいものと定めることができる。
【0028】
また、凸状の中央部分2は、長円形(オーバル形状)であってもよく、あるいは互いに重なり合っていたり離れているようないくつかの凸状部分でできていてもよい。
【0029】
図2a及び2bは、音響放射膜1の第2の実施形態を示しており、これは、音楽対応腕時計又は打撃機構付き腕時計に備えることができる。腕時計用ケースの形状に対応させて、音響放射膜1は、第1の実施形態のために描かれた図2aに示すように、上から見たときに、略長方形や略多角形とすることができ、好ましくは円形である。第2の実施形態の膜1を作るために使用される寸法や材料は、第1の実施形態のものと同様である。説明の単純化のために、寸法と材料の説明は繰り返さない。
【0030】
この第2の実施形態の本質的な違いは、音響放射膜1の中央部分12が略円錐形であるということである。この円錐形は、好ましくは、ドーム型の膜の外側に向かって延在し、この膜は、腕時計用ケース内に当該膜を保持するために、さらに、側壁3及び周辺部の縁部分4を有する。
【0031】
中央部分は、好ましくは、同心であって互いに接続される2つの円錐形部分12、12’で形成する。第1の円錐形部分12は、膜1の中心から始まり、膜の中心軸に対して第1の開き角度を成すように形成する。第2の円錐形部分12’は、第1の開き角度とは異なる第2の開き角度を形成するように、第1の部分12の周囲から始まり、側壁3を端とする。好ましくは、第2の開き角度は、第1の開き角度よりも小さい。例として(これには限定されない)、第1の開き角度を約86°とし、一方、第2の開き角度を約79°とすることができる。
【0032】
側壁3を備えた縁部分4は、単一材を形成するように、2つの円錐形部分12、12’と一体である。各円錐形部分12、12’の厚みは、すべての位置において同一である。しかし、この厚みは、膜の中心から周囲まで線形的に減少させることもできる。この厚みは50μmよりも大きいものであり、好ましくは、1mm未満である。第1の円錐形部分12の直径は、全体の中央部分の直径の80%〜90%であり、好ましくは、85%近くである。中央部分が直径15mmの場合、第1の円錐形部分12の直径は、約12.5mmであり、一方、中央部分が直径40mmの場合、第1の円錐形部分12の直径は、約33mmである。しかし、第1及び第2の円錐形部分12、12’の幾何学的構成は、上記のものと異なっていてもよく、第2の開き角度を有し、この第2の開き角度は、第1の開き角度よりも大きいことができる。
【0033】
凸状ないし円錐形の中央部分を備えた音響放射膜を作ることによって、音響的に効率的な単極の基本振動モードが、他のすべての励起振動モードの2倍を超えて大きく異なるようにすることが可能になる。これらの他の振動モードは多極変形を有しており、音響的に非効率的である。しかし、その利点は、この構造によれば、アクティブ化周波数と基本モードの共振周波数の間で相当な周波数偏移がある状態でさえも、膜が単極変形にしたがって振動することである。
【0034】
この利点を明確に示している図3及び4を参照する。図3は、膜に垂直な方向の速度の振幅の、膜の全体積にわたっての、累積周波数応答のグラフを示す。この量は、標準的な金属性ガラス膜、本発明の第1の実施形態に係る金属性ガラス膜、第2の実施形態に係る金属性ガラス膜に対して、数学的に次のように定められる。
R(f) = ∫Vol|vz(x, y, z, f)|dx dy dz
図4は、本発明の第1及び第2の実施形態の膜の周波数応答と、標準膜の周波数応答との間の比率のグラフを示す。
【0035】
図3及び4に示すグラフに関して、1.5kHzと2kHzの間の例えば1.75kHzにおける1次振動モードのピークが、標準膜の1次振動モードのピークよりも幅も振幅も大きいことに注目すべきである。また、振動の応答が、共振周波数の下及び上において増加している。一方では、本発明に係る膜の1次励起振動モードは、標準膜の1次励起モードの周波数よりも相当に高い周波数にある。このような反共振現象は、膜の基本モードと1次励起モードの間にあるアクティブ化周波数において発生し、これが大幅に減少する。他方では、準均等モードの変形に起因して、基本モードは、慣性アクティブ化の状況においてさえも、低周波において、より容易にアクティブ化される。これによって、共振周波数より下の応答を改善することが可能になる。このようにして、比較的大きな周波数偏移があっても、膜は、その基本モードの三次元的な変形に従う振動を行うようにされる。
【0036】
このような音響放射膜は、複雑な形、特に、凸状ないし円錐形であるアクティブな中央部分を有するように作られ、これによって、500Hz〜3.5kHzの周波数範囲における振動の振幅を大きくすることが可能になる。これは、中央部分が平坦である標準膜とは異なり、標準膜と比べて有利である。
【0037】
上記説明から、当業者であれば、音楽対応腕時計又は打撃機構付き腕時計用の音響放射膜のいくつかの変種を、特許請求の範囲によって定められる本発明の範囲から逸脱せずに、思い至ることができる。膜の中央部分に加えられる質量体を、膜の中心とは異なる領域に置くこともでき、いくつかの質量体を加えることもできる。中央部分に加えられる質量体を、膜の他の部分を形成する材料M1とは異なる材料M2で作ることも想起することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 音響放射膜
2、12 中央部分
2’ 質量体
3 側壁
4 縁部分
12 第1の円錐形部分
12’ 第2の円錐形部分
図1a
図1b
図2a
図2b
図3
図4