(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記抗菌性コーティング(6)の作用によって、単位領域当たりの大腸菌の数を、24時間で少なくとも100の減少率で減少させること、を特徴とする請求項1に記載の抗菌性コミュニケーションボードの製造方法。
【技術分野】
【0001】
本発明は、エナメルで被覆した双方向性(又はそれ以外)の光学的コミュニケーションボード、すなわち、消去性のフェルトペンを用いて書くことが出来るホワイトボード、又はチョークを用いて書くことが出来る色付きの黒板等に関するものである。
【0002】
オフィス又は教室に備えられたコミュニケーションボードは毎日多くの人々によって用いられるため、例えば接触又は咳による汚染の結果として、前記コミュニケーションボードが微生物を伝播させる潜在的リスクを負い、微生物の感染媒体として働くことになる。
【0003】
そのようなボードの使用者は、教室又はオフィスで使用する抗菌製品の数を制限するための、抗菌作用のあるボードに関心がある。
【0004】
一般的に、抗菌剤又は抗菌被覆は抗菌作用のある特定の作用物質を加えることによって得られる。
【0005】
(Ag,Cu,Au,Znのような)金属、又はZnO,CaO若しくはMgOのような金属酸化物、又はAgNO
3のような塩などの、抗菌性を備えた無機物質は、抗菌性を備えた有機物質とは違って、温度に対する抵抗力があるので望ましいといえる。
【0006】
いくつかの金属の場合、その活動的な構成要素は実際に金属イオン(Ag
+,Cu
2+,Zn
2+等)である。このことは、金属がイオンを形成するためにはその環境に水分がなければならないことを意味する。
【0007】
ZnO等の金属酸化物の抗菌作用は、細胞の壁を突き抜けて細菌を殺すことが出来るH
2O
2,O
・(酸素ラジカル)及びOH
−の形成に起因する。
【0008】
最も普及している金属はAgとCuであり、それらは、ナノ粒子として、酸化金属の粒子として、金属塩又はより一層複雑な形で添加することが出来、また、沸石等のイオン交換媒体にイオンとして直接、様々な形で添加することも出来る。
【0009】
エナメル被覆による鋼鉄製のコミュニケーションボードには、乾いたまま消去可能であること、耐酸性、耐変色性、さらには耐摩耗性などの特定の利点がある。
【0010】
前記抗菌剤が前記エナメルそれ自身の中に一体的に組み込まれた抗菌性エナメルについては、下記のようにすでに開示されている。
【0011】
米国特許第6303183号(2001年設定登録)は、金属銀が0.1%〜3%の濃度で用いられるのが望ましいが、亜鉛又は銅も用いられる抗菌性の琺瑯について記載している。
【0012】
銀を含有したエナメルの抗菌効果はVoss氏らによって明確に実証された(2005年5月15日〜19日にイスタンブールで行われた会合「20
th International Enamellers Congress」で発表された論文「Evaluation of bacterial growth on various materials」)。
【0013】
WO 2006/133075公報には、鋼鉄の基板のための抗菌特性を備えた、対費用効果が高くて実用的な耐酸性の琺瑯について記載している。該琺瑯は、耐酸性などの他の重要な特性を失うことなく、十分な抗菌特性を有する亜鉛その他の組成物の最適量を含有している。
【0014】
さらに最近では、Luca Pignatti氏らの研究論文において、別のタイプのエナメル組成物にAg
2O、CuO及びZnOを加えることが記載されている(2008年5月18日〜22日に上海で行われた会合「21
st International enamellers Congress」で発表された論文「Definition of a new range of porcelain enamels with antibacterial characteristics and the method of the antibacterial power control」)。
【0015】
しかしながら、エナメル被覆によるコミュニケーションボードは、該エナメル被覆上に単に抗菌作用を有するだけでなく、その抗菌作用を維持するための耐久性をも備えた抗菌性のコーティングである必要がある。
【0016】
このことは、確かに、位置コーディングパターンが長期の使用後においても光学的に読み取り可能な状態で持ちこたえて読み取り機器が該コミュニケーションパネルに書かれた情報を所定の位置で電子的に再生できなければならないエナメル被覆による双方向型のコミュニケーションボードに適用されている。
【0017】
そのような双方型コミュニケーションボードとそれに伴う読み取り機器についてはWO01/16872に記載されていて、その内容はこの明細書においてそれを参照しながら取り入れて記載している。
【0018】
WO2009/000053は、エナメル被覆による鋼鉄製の双方向型コミュニケーションボードについて記載していて、そのボードの面に500℃を超える温度で該エナメルコート面に焼きなましされたセラミック材料に印刷を施すことによって位置コーディングパターンを付すものである。
【0019】
前記エナメル面に抗菌性の面を得るためには、WO2005/115151に記載されているように、銀ナノ粒子のような金属の形態の殺生物剤を、ゾルゲルコーティング法によって基板の表面に鋳造された幾つかの層の中に組み込んでもよい。
【0020】
そのようなゾルゲルコーティングの不利な点は、双方向型コミュニケーションボードの位置コーディングパターンに適用するのが困難なことにある。
【0021】
もう一つの不利な点は、ゾルゲルコーティング法によってそのような幾つかの層を施すのに時間が掛かることである。なぜならば、それは、例えばコーティング工程そのものとは別個に金属のナノ粒子を作ること等の、幾つかのステップを含み、その結果、製造工程内の速い通過速度で低価格を実現する連続工業生産工程には、より適しないものだからである。
【0022】
製造工程内の速い通過速度で、金属基板に金属ナノ粒子や金属酸化物の抗菌性の層を施すこと、を可能にする技術は化学蒸着法である。
【0023】
常圧での化学蒸着は、特にこの目的に合っている。なぜならば、それは、製造工程内の通過速度が速い連続又は半連続生産工程に適しているからである。
【0024】
この技術は、錆止め層又は耐傷性の層などの薄い金属層を施すのに用いられている。
【0025】
常圧での熱化学蒸着によると、500℃を超える温度に達し、これにより所望の硬度、耐久性及び構造体が得られる。
【0026】
しかしながら、そのような高温においては、蒸着した化学品の酸化作用によって熱くなった金属表面が損傷を受け、表面の望ましくない特性が高まることになり、この技術は金属そのものをコーティングするには、より不適当なものということになる。
【0027】
英国特許GB2466805には、常圧で化学蒸着によって鉄又は鋼鉄のコーティングを可能にする技術が記載されている。
【0028】
この目的のため、常圧での火炎補助による化学蒸着法(Flame-assisted chemical vapor deposition)が用いられていて、その火炎は蒸気の工程を作動させるために必要なエネルギーの全て又は一部を提供する。
【0029】
化学蒸着法には2つのバリエーションがある。1つは燃焼化学蒸着法であって、その前駆体又はその溶材は可燃性であり、それ故、燃焼のエネルギーに資するものである。もう1つは火炎補助による化学蒸着(Flame-assisted chemical vapor deposition)であって、その前駆体又はその溶材からはほとんど或いは全くエネルギーが得られないものである。
【0030】
英国特許GB2466805においては、この技術を、より高い(例えば300℃という)温度で基板に抗菌性の層を施すために用いている。
【0031】
この目的のために、低価格で毒性の少ない前駆体及び溶材が用いられる。
【0032】
例えば、銀塩の水溶性の溶剤は、プロパンのような燃焼キャリヤガスの中で霧状にされ、それによって、300℃で金属基板に気化した銀を生み出し、そこでは、該銀の層が、数十ナノメートル若しくは数百ナノメートルの距離だけ互いに離れた、数十ナノメートルの大きさの金属銀が幾つも孤立した島状のものから成っているので、良好な透明性と耐久性が得られた。
【0033】
この上に第2の層が施され、それは、所望の特性に応じて約20nm乃至1μmの厚さの二酸化珪素から成る。
【0034】
この珪素の層の中に拡散する銀の量は温度によって制御することが出来る。
【0035】
別のやり方として、単一の蒸着工程において1つの層に銀を珪素と同時に施すことも可能である。
【0036】
最終仕上げ段階としての火炎補助による化学蒸着において再び銀でコーティングすることによって、さらに抗菌作用を強化することが出来る。
【0037】
この技術は高温(500℃)での連続工程において抗菌性の層を施すのに適しているため、私共はこれを、筆記面と背面にエナメル被覆を備えた金属製コミュニケーションボードでもテストした。
【0038】
そのようなコミュニケーションボードは、勿論500℃を超える温度で鋼鉄ベースをエナメル被覆し、その後、そのエナメル被覆された鋼鉄を直ちに且つ常圧で継続的に化学蒸着による抗菌性のコーティングを施すことによって製造する。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明の特徴をより良く示すために、本発明による、エナメル被覆された双方向式の光学的コミュニケーションボードの望ましい実施例を、添付図面に言及しながら、いかなる限定をすることもなく、一例として、これ以降に説明する。
【0047】
図1に示した抗菌性のエナメル被覆コミュニケーションボード1は、第1に、この例においては0.35mmの厚さの鋼鉄プレートから成り、その正面3と背面4にはこの例では0.035mmの厚さのエナメルによる下塗り5が施され、それらの一方の面3にはさらに第2の、主として白のエナメルによる上塗り6が施されている。さらにこの上に10乃至200nmの厚さの抗菌性ゾルゲルコーティング7が施されている。
【0048】
図2は、本発明による抗菌性コミュニケーションボード1の連続生産工程を示し、その第1段階では鋼鉄2の両側面を820℃の温度でエナメルを施し、第2段階ではそれらの面のうち目に触れる側の面に主として白のエナメルによる上塗りを施し、約800℃の温度で焼きなます。第3段階では、該エナメルによる上塗りに、熱化学蒸着法によって、抗菌性の金属及び金属酸化物を備えた抗菌性のコーティング7が1つの層としてコーティングされるか、又は、常圧で化学蒸着法によって2つの層としてコーティングされ、そのコーティングされたコミュニケーションボードを所望のフォーマットに切断したり、或いは、次の工程のためにそれを丸めたりすることは全て、生産全体を通して一つの流れで行われる。
【0049】
図3は、エナメル被覆されたコミュニケーションボード1に抗菌性のゾルゲル12のコーティングを施す生産工程を示していて、その工程は連続的には進行せず数回に分けてなされ、前記鋼鉄2が先ず高温で両面にエナメルの下塗りを施し、そして高温でエナメルの上塗りを施し、それから、冷却して切断する。該エナメル被覆コミュニケーションボード1は、それから溶液槽13内においてバッチ式で所望の、ディップコーティング法が適用されるゾルゲル12によるコーティングによって処理される。
【0050】
実験データ
エナメル被覆されたコミュニケーションボード1は、銀含有ゾルゲル12層のディップコーティング又は下記の実験における常圧での化学蒸着による、銀含有仕上げ層を備えていた。
【0051】
鋳造したゾルゲル12の層及び蒸着による層の抗菌作用は、その都度、ISO 22196(JIS Z2801)による抗菌性のテストによって測定され、一定の菌株についての前記抗菌層の作用による菌減少率が測定された。該菌減少率は、該抗菌層を用いない場合の単位cm
2当たりの細菌の数と、該抗菌層を用いた場合の単位cm
2当たりの細菌の数との差として、対数目盛上に表される。
【0052】
もし、例えば、細菌の数が1cm
2あたり100万個(Log 6)乃至1cm
2あたり100個(Log 2)である場合は、その差はLog 4となり、対数による菌減少率は4となる。
【0053】
実験1
下記の混合物の溶液が作られた。
2−プロパノール 94%
TEOS(オルトケイ酸テトラエチル) 4%
1モルのAgNO
3溶液 1%
HNO
3 0.8%
【0054】
この目的のために、17.71gのTEOSが22.7gの2−プロパノールに加えられた。この混合物は、3.41gのAgNO
31モル溶液と混合され、3.41gのHNO
31モルで酸化された。この混合物はそれから20分間混ぜ合わせられた。混ぜ合わせた後、さらに360.40gの2−プロパノールが加えられた。
【0055】
前記溶液はディップコーティングによって塗布され、40〜60nmの層の厚さが得られ、その後、400℃の加熱硬化段階が10分間続けられた。
【0056】
抗菌性のテストを行うために次のものを用いた。
懸濁培地:NB培地 1/500 NB
接種テスト:1/500 NBにおける細菌の懸濁は、6x10
5cells/mlを目標濃度とし、2.5x10
5cells/mlと10x10
5 cells/mlの間の細菌濃度を得るために、薄められた。
下記の菌株:
−黄色ブドウ球菌
−大腸菌
培養:前記の細菌懸濁を接種した幾つものサンプルが、35+/−1℃で、24+/−1時間、90%以上の相対湿度で、培養された。
【0057】
大腸菌の細菌に対しては次のような抗菌作用が測定された。
抗菌層がない場合:13,666,667KVE/ml、又は854,167KVE/cm
2(Log 7.13、又はLog 5.88)。
抗菌層がある場合:17KVE/ml、又は1KVE/cm
2(Log 1.23又はLog 0)。
【0058】
抗菌層による菌減少率は、結局、Log 5.9、即ち約100万の減少率といういことになる。
【0059】
下記の組成による溶液が作られた。
2−プロパノール 94%
TEOS(オルトケイ酸テトラエチル) 4%
1モルのAgNO
3溶液 1%
HNO
3 0.8%
【0060】
この目的のために、17.71gのTEOSが22.7gの2−プロパノールに加えられた。この混合物は、3.41gのAgNO
31モル溶液と混合され、3.41gのHNO
31モルで酸化された。この混合物はそれから20分間混ぜ合わせられた。混ぜ合わせた後、さらに360.40gの2−プロパノールが加えられた。
【0061】
この溶液は、プロパンへの噴霧による燃焼を伴う化学蒸着によって塗布され、その火炎のエネルギーはそのコーティングを熱硬化するために用いられる。40〜60nmのコーティングの厚さが得られた。
【0062】
抗菌性テストは大腸菌について上記のように行われ、次のような結果を得た。
抗菌層がない場合:12,100,000KVE/ml、又は756,250KVE/cm
2(Log 7.08、又はLog 5.88)。
抗菌層がある場合:99,017KVE/ml、又は6,245KVE/cm
2(Log 5.0又はLog 3.8)。
【0063】
前記抗菌コートによる菌減少率は、結局、Log 2.1又は24時間に100を超える率の減少となる。
【0064】
抗菌剤の前記化学蒸着法を用いた連続生産工程は、抗菌性のゾルゲル液コーティング溶液を用いた非連続生産工程よりもずっと効率的であり、また対費用効果も高い。
【0065】
本発明は、この明細書及び図面に一例として記載された実施例に決して限定されるものではなく、抗菌性の金属又は金属酸化物を備えたコミュニケーションボードは、抗菌性のゾルゲルをコートしたり、或いは蒸気によって抗菌組成物を化学的に蒸着させる他の実施方法によっても、本発明の範囲から逸脱することなく、実現できる。