特許第5982024号(P5982024)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5982024グリコシル化された免疫グロブリンの調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5982024
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】グリコシル化された免疫グロブリンの調製方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/02 20060101AFI20160818BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20160818BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   C12P21/02 C
   C12P21/08
   C12N15/00 A
【請求項の数】11
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-36676(P2015-36676)
(22)【出願日】2015年2月26日
(62)【分割の表示】特願2012-535769(P2012-535769)の分割
【原出願日】2010年10月25日
(65)【公開番号】特開2015-128436(P2015-128436A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2015年3月10日
(31)【優先権主張番号】09013455.2
(32)【優先日】2009年10月26日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(73)【特許権者】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(72)【発明者】
【氏名】フランツェ,ラインハルト
(72)【発明者】
【氏名】平島 親
(72)【発明者】
【氏名】リンク,トマス
(72)【発明者】
【氏名】高木 良智
(72)【発明者】
【氏名】田熊 晋也
(72)【発明者】
【氏名】津田 祐理子
【審査官】 戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−507821(JP,A)
【文献】 特開平06−292592(JP,A)
【文献】 国際公開第02/002793(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/104186(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12P 21/00−21/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/
WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)免疫グロブリンをコードする核酸を含む真核細胞を、培地中の単位時間当たり利用できるグルコースの量が一定に維持され、かつ単位時間当たりその培地中でその細胞が最大限に利用できる量の80%未満であって20%を超える一定値に制限された培地中で培養し、そして
b)培養物から免疫グロブリンを回収する
ことを含む、免疫グロブリンの調製方法。
【請求項2】
培養がフェドバッチ培養であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
培養がフェドバッチ培養であり、その際、流加を培養2日目または3日目に開始することを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項4】
培養をpH6.5から7.5までのpH値で行なうことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
培養をpH6.9から7.3までのpH値で行なうことを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項6】
培養をpH6.95からpH7.05までのpH値、またはpH7.15からpH7.25までのpH値で行なうことを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項7】
免疫グロブリンがクラスGまたはクラスEの免疫グロブリンであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
真核宿主細胞がCHO細胞、NS0細胞、HEK細胞、BHK細胞、ハイブリドーマ細胞、PER.C6(登録商標)細胞、昆虫細胞、およびSp2/0細胞を含む群から選択されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
真核細胞がチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞であることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項10】
宿主細胞の培養を6〜20日間実施することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
免疫グロブリンが抗IL−6R抗体であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書には、細胞における免疫グロブリン調製の分野の方法であって、調製される免
疫グロブリンのグリコシル化パターンを培養条件に基づいて改変できる方法を記述する。
【背景技術】
【0002】
近年、免疫グロブリンの生産は常に増加しており、近い将来に免疫グロブリンは各種疾
患の処置に利用できる最大グループの療法薬となるであろうと思われる。免疫グロブリン
の影響はそれらの特異性から生じる;それには、それらの特異的な標的認識および結合の
機能、ならびに抗原/Fc受容体の結合と同時または結合後の特異的作用の活性化が含ま
れる。
【0003】
特異的な標的認識および結合は、免疫グロブリンの可変部により仲介される。作用が生
じる他の免疫グロブリン分子部分は、翻訳後修飾、たとえばグリコシル化パターンである
。翻訳後修飾は実際に、免疫グロブリンの有効性、安定性、免疫原力潜在性、結合などに
対して影響をもつ。それに関連して、補体依存性細胞傷害性(complement-dependent cyt
otoxicity)(CDC)、抗体依存性細胞性細胞傷害性(antibody-dependent cellular c
ytotoxicity)(ADCC)、およびアポトーシス誘導に対処しなければならない。
【0004】
免疫グロブリンのグリコシル化パターン、すなわち結合した糖構造体の糖の組成および
数が生物学的特性に強い影響をもつことが報告された(たとえば、Jefferis, R., Biotech
nol. Prog. 21 (2005) 11-16を参照)。哺乳動物細胞により産生される免疫グロブリンは
2〜3質量%の炭水化物を含有する(Taniguchi, T., et al., Biochem. 24 (1985) 5551-
5557)。これは、たとえばクラスGの免疫グロブリン(IgG)において、マウス由来の
IgGにおける2.3個のオリゴ糖残基(Mizuochi, T., et al., Arch. Biochem. Biophy
s. 257 (1987) 387-394)、およびヒト由来のIgGにおける2.8個のオリゴ糖残基と同
等であり(Parekh, R.B., et al., Nature 316 (1985) 452-457)、これらのうち一般に2
個はFc領域、残りは可変部に位置する(Saba, J.A., et al., Anal. Biochem. 305 (200
2) 16-31)。
【0005】
クラスGの免疫グロブリンのFc領域において、オリゴ糖残基はアミノ酸残基297、
すなわちアスパラギン残基(Asn297と表記される)にN−グリコシル化により導入
される可能性がある。Youingsらは、ポリクローナルIgG分子の15%〜20%でFc
領域にさらに他のN−グリコシル化部位が存在することを示した(Youings, A., et al.,
Biochem. J., 314 (1996) 621-630;たとえば、Endo, T., et al., Mol. Immunol. 32 (19
95) 931-940も参照)。不均一な、すなわち非対称的なオリゴ糖プロセシングのため、異な
るグリコシル化パターンをもつ多数のイソ形免疫グロブリンが存在する(Patel, T.P., et
al., Biochem. J. 285 (1992) 839-845; Ip, C.C., et al., Arch. Biochem. Biophys.
308 (1994) 387-399; Lund, J., et al., Mol. Immunol. 30 (1993) 741-748)。同時に、
オリゴ糖の構造および分布は高度に再現性があり(すなわち、非ランダム)、かつ部位特
異的である(Dwek, R.A., et al., J. Anat. 187 (1995) 279-292)。
【0006】
免疫グロブリンの幾つかの特性はFc領域のグリコシル化に直接関連する(たとえば、D
wek, R.A., et al., J. Anat. 187 (1995) 279-292; Lund, J., et al., J. Immunol. 15
7 (1996) 4963-4969; Lund, J., FASEB J. 9 (1995) 115-119; Wright, A. and Morrison
, S.L., J. Immunol. 160 (1998) 3393-3402を参照);たとえば、熱安定性および溶解性(
West, C.M., Mol. Cell. Biochem. 72 (1986) 3-20)、抗原性(Turco, S.J., Arch. Bioch
em. Biophys. 205 (1980) 330-339)、免疫原性(Bradshaw, J.P., et al., Biochim. Biop
hys. Acta 847 (1985) 344-351; Feizi, T. and Childs, R.A., Biochem. J. 245 (1987)
1-11; Schauer, R., Adv. Exp. Med. Biol. 228 (1988) 47-72)、クリアランス速度/循
環半減期(Ashwell, G. and Harford, J., Ann. Rev. Biochem. 51 (1982) 531-554; McFa
rlane, I.G., Clin. Sci. 64 (1983) 127-135; Baenziger, J.U., Am. J. Path. 121 (19
85) 382-391; Chan, V.T. and Wolf, G., Biochem. J. 247 (1987) 53-62; Wright, A.,
et al., Glycobiology 10 (2000) 1347-1355; Rifai, A., et al., J. Exp. Med. 191 (2
000) 2171-2182; Zukier, L.S., et al., Cancer Res. 58 (1998) 3905-3908)、ならびに
特異的生物活性(Jefferis, R. and Lund, J., Antibody Engineering, ed. by Capra, J.
D., Chem. Immunol. Basel, Karger, 65 (1997) 111-128)。
【0007】
グリコシル化パターンに影響を及ぼす要因が調べられた:たとえば、発酵培地中のウシ
胎仔血清の存在(Gawlitzek, M., et al., J. Biotechnol. 42(2) (1995) 117-131)、緩衝
作用条件(Muething, J., et al., Biotechnol. Bioeng. 83 (2003) 321-334)、溶存酸素
濃度(Saba, J.A., et al., Anal. Biochem. 305 (2002) 16-31; Kunkel, J.P., et al.,
J. Biotechnol. 62 (1998) 55-71; Lin, A.A., et al., Biotechnol. Bioeng. 42 (1993)
339-350)、オリゴ糖の位置およびコンホメーション、ならびに宿主細胞タイプおよび細
胞増殖状態(Hahn, T.J. and Goochee, C.F., J. Biol. Chem. 267 (1992) 23982-23987;
Jenkins, N., et al., Nat. Biotechnol. 14 (1996) 975-981)、細胞のヌクレオチド−糖
代謝(Hills, A.E., et al., Biotechnol. Bioeng. 75 (2001) 239-251)、栄養素制限(Gaw
litzek, M., et al., Biotechnol. Bioeng. 46 (1995) 536-544; Hayter, P.M., et al.,
Biotechnol. Bioeng. 39 (1992) 327-335)、特にグルコース制限(Tachibana, H., et al
., Cytotechnology 16 (1994) 151-157)、ならびに細胞外pH(Borys, M.C., et al., Bi
o/Technology 11 (1993) 720-724)。
【0008】
たとえばNS0骨髄腫細胞における免疫グロブリンの組換え発現により、オリゴマンノ
ース構造体およびトランケート型オリゴ糖構造体の増加が観察された(Ip, C.C., et al.,
Arch. Biochem. Biophys. 308 (1994) 387-399; Robinson, D.K., et al., Biotechnol.
Bioeng. 44 (1994) 727-735)。グルコース飢餓条件下で、グリコシル化の変動、たとえ
ばより小さな前駆オリゴ糖の結合またはオリゴ糖部分の完全な不存在が、CHO細胞、ネ
ズミ3T3細胞、ラット肝癌細胞、ラット腎細胞およびネズミ骨髄腫細胞において観察さ
れた(Rearick, J.I., et al., J. Biol. Chem. 256 (1981) 6255-6261; Davidson, S.K.
and Hunt, L.A., J. Gen. Virol. 66 (1985) 1457-1468; Gershman, H. and Robbins, P.
W., J. Biol. Chem. 256 (1981) 7774-7780; Baumann, H. and Jahreis, G.P., J. Biol.
Chem. 258 (1983) 3942-3949; Strube, K.-H., et al., J. Biol. Chem. 263 (1988) 37
62-3771; Stark, N.J. and Heath, E.C., Arch. Biochem. Biophys. 192 (1979) 599-609
)。低グルタミン/グルコース濃度に基づく方法がWong, D.C.F., et al., Biotechnol. B
ioeng. 89 (2005) 164-177により報告された。
【0009】
日本国特許出願JP 62-258252には哺乳動物細胞の潅流培養が記述され、一方、US 5,443
,968にはタンパク質分泌細胞のフェドバッチ(fed-batch)培養法(流加培養法)が報告
されている。WO 98/41611には、低い乳酸産生を特徴とする代謝状態に細胞を適応させる
のに有効な細胞培養法が報告されている。物質を産生させるために細胞を培養する方法が
WO 2004/048556に報告されている。Elbein, A.D., Ann. Rev. Biochem. 56 (1987) 497-5
34には、グルコースの不存在下でインキュベートした哺乳動物細胞はマンノース−9含有
構造体の代わりにマンノース−5含有構造体をタンパク質へ伝達することが報告されてい
る。pCO2の依存性は、グルコース制限に際してCHO細胞の増殖、代謝およびIgG
産生に影響を及ぼすことがTakuma, S., et al. in Biotechnol. Bioeng. 97 (2007) 1479
-1488により報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】JP 62-258252
【特許文献2】US 5,443,968
【特許文献3】WO 98/41611
【特許文献4】WO 2004/048556
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Jefferis, R., Biotechnol. Prog. 21 (2005) 11-16
【非特許文献2】Taniguchi, T., et al., Biochem. 24 (1985) 5551-5557
【非特許文献3】Mizuochi, T., et al., Arch. Biochem. Biophys. 257 (1987) 387-394
【非特許文献4】Parekh, R.B., et al., Nature 316 (1985) 452-457
【非特許文献5】Saba, J.A., et al., Anal. Biochem. 305 (2002) 16-31
【非特許文献6】Youings, A., et al., Biochem. J., 314 (1996) 621-630
【非特許文献7】Endo, T., et al., Mol. Immunol. 32 (1995) 931-940
【非特許文献8】Patel, T.P., et al., Biochem. J. 285 (1992) 839-845
【非特許文献9】Ip, C.C., et al., Arch. Biochem. Biophys. 308 (1994) 387-399
【非特許文献10】Lund, J., et al., Mol. Immunol. 30 (1993) 741-748
【非特許文献11】Dwek, R.A., et al., J. Anat. 187 (1995) 279-292
【非特許文献12】Lund, J., et al., J. Immunol. 157 (1996) 4963-4969
【非特許文献13】Lund, J., FASEB J. 9 (1995) 115-119
【非特許文献14】Wright, A. and Morrison, S.L., J. Immunol. 160 (1998) 3393-3402
【非特許文献15】West, C.M., Mol. Cell. Biochem. 72 (1986) 3-20
【非特許文献16】Turco, S.J., Arch. Biochem. Biophys. 205 (1980) 330-339
【非特許文献17】Bradshaw, J.P., et al., Biochim. Biophys. Acta 847 (1985) 344-351
【非特許文献18】Feizi, T. and Childs, R.A., Biochem. J. 245 (1987) 1-11
【非特許文献19】Schauer, R., Adv. Exp. Med. Biol. 228 (1988) 47-72
【非特許文献20】Ashwell, G. and Harford, J., Ann. Rev. Biochem. 51 (1982) 531-554
【非特許文献21】McFarlane, I.G., Clin. Sci. 64 (1983) 127-135
【非特許文献22】Baenziger, J.U., Am. J. Path. 121 (1985) 382-391
【非特許文献23】Chan, V.T. and Wolf, G., Biochem. J. 247 (1987) 53-62
【非特許文献24】Wright, A., et al., Glycobiology 10 (2000) 1347-1355
【非特許文献25】Rifai, A., et al., J. Exp. Med. 191 (2000) 2171-2182
【非特許文献26】Zukier, L.S., et al., Cancer Res. 58 (1998) 3905-3908
【非特許文献27】Jefferis, R. and Lund, J., Antibody Engineering, ed. by Capra, J.D., Chem. Immunol. Basel, Karger, 65 (1997) 111-128
【非特許文献28】Gawlitzek, M., et al., J. Biotechnol. 42(2) (1995) 117-131
【非特許文献29】Muething, J., et al., Biotechnol. Bioeng. 83 (2003) 321-334
【非特許文献30】Kunkel, J.P., et al., J. Biotechnol. 62 (1998) 55-71
【非特許文献31】Lin, A.A., et al., Biotechnol. Bioeng. 42 (1993) 339-350
【非特許文献32】Hahn, T.J. and Goochee, C.F., J. Biol. Chem. 267 (1992) 23982-23987
【非特許文献33】Jenkins, N., et al., Nat. Biotechnol. 14 (1996) 975-981
【非特許文献34】Hills, A.E., et al., Biotechnol. Bioeng. 75 (2001) 239-251
【非特許文献35】Gawlitzek, M., et al., Biotechnol. Bioeng. 46 (1995) 536-544
【非特許文献36】Hayter, P.M., et al., Biotechnol. Bioeng. 39 (1992) 327-335
【非特許文献37】Tachibana, H., et al., Cytotechnology 16 (1994) 151-157
【非特許文献38】Borys, M.C., et al., Bio/Technology 11 (1993) 720-724
【非特許文献39】Robinson, D.K., et al., Biotechnol. Bioeng. 44 (1994) 727-735
【非特許文献40】Rearick, J.I., et al., J. Biol. Chem. 256 (1981) 6255-6261
【非特許文献41】Davidson, S.K. and Hunt, L.A., J. Gen. Virol. 66 (1985) 1457-1468
【非特許文献42】Gershman, H. and Robbins, P.W., J. Biol. Chem. 256 (1981) 7774-7780
【非特許文献43】Baumann, H. and Jahreis, G.P., J. Biol. Chem. 258 (1983) 3942-3949
【非特許文献44】Strube, K.-H., et al., J. Biol. Chem. 263 (1988) 3762-3771
【非特許文献45】Stark, N.J. and Heath, E.C., Arch. Biochem. Biophys. 192 (1979) 599-609
【非特許文献46】Wong, D.C.F., et al., Biotechnol. Bioeng. 89 (2005) 164-177
【非特許文献47】Elbein, A.D., Ann. Rev. Biochem. 56 (1987) 497-534
【非特許文献48】Takuma, S., et al. in Biotechnol. Bioeng. 97 (2007) 1479-1488
【発明の概要】
【0012】
真核細胞が産生するポリペプチドのグリコシル化パターンにおけるマンノース−5糖構
造体の量を、培養プロセスで細胞に流加するグルコースの量に基づいて改変できることが
見出された。利用できるグルコースの量を減らすことによって、たとえばDGL値を1.
0からより小さな、たとえば0.8、0.6、0.5、0.4または0.2の値に変化さ
せることによって、グリコシル化パターンにおけるマンノース−5糖構造体の量の改変を
達成できる。DGL値またはそれぞれ単位時間当たり利用できるグルコースの量を、一定
にかつ単位時間当たり規定した低い値に維持しなければならない。
【0013】
本明細書に記述する第一観点は、真核細胞においてポリペプチド(一態様においては免
疫グロブリン)を調製するための下記の工程を含む方法である:
a)ポリペプチドをコードする核酸を含む真核細胞を用意し、
b)グルコース制限度(degree of glucose limitation)(DGL)が一定に維持され
、かつDGLが0.8未満である条件下で、その細胞を培養し、そして
c)培養物からポリペプチドを回収する;
その際、マンノース−5糖構造体を含むポリペプチドの画分は、マンノース−5糖構造体
を含むポリペプチドの量、ポリペプチドG(0)イソ型の量、ポリペプチドG(1)イソ
型の量、およびポリペプチドG(2)イソ型の量を含めた合計の10%以下である。
【0014】
一態様において、DGLを0.8から0.2までの範囲で一定に維持する。さらに他の
態様において、DGLを0.6から0.4までの範囲で一定に維持する。他の態様におい
て、マンノース−5糖構造体を含むポリペプチドの画分は、マンノース−5糖構造体を含
むポリペプチド、ポリペプチドG(0)イソ型、ポリペプチドG(1)イソ型、およびポ
リペプチドG(2)イソ型を含めた合計の8%以下である。さらに他の態様においてポリ
ペプチドは免疫グロブリンであり、一態様においてクラスGまたはEの免疫グロブリンで
ある。
【0015】
本明細書に記述する他の観点は、免疫グロブリンを調製するための下記の工程を含む方
法である:
a)免疫グロブリンをコードする核酸を含む哺乳動物細胞を用意し、
b)培地中の単位時間当たり利用できるグルコースの量が一定に維持され、かつ単位時
間当たりその培地中でその細胞が最大限に利用できる量の80%未満に制限された培地中
で、前記の真核細胞を培養し、そして
c)細胞または培地から免疫グロブリンを回収する。
【0016】
一態様において、培地中の単位時間当たり利用できるグルコースの量は一定に維持され
、かつ80%から20%までの範囲の値に制限される。さらに他の態様において、この範
囲は60%から40%までである。他の態様において、培地中の細胞はその培地中で生存
可能な細胞である。
【0017】
本明細書に記述する観点の一態様において、真核細胞はCHO細胞、NS0細胞、HE
K細胞、BHK細胞、ハイブリドーマ細胞、PER.C6(登録商標)細胞、昆虫細胞、
またはSp2/0細胞から選択される。一態様において、真核細胞はチャイニーズハムス
ター卵巣(CHO)細胞である。本明細書に記述する観点の他の態様において、培養は約
pH7.0から約pH7.2までの範囲のpH値で行なわれる。
【0018】
本明細書に記述する観点のさらに他の態様において、培養は連続培養またはフェドバッ
チ培養である。本方法は、他の態様において、ポリペプチドを精製する最終工程を含むこ
とができる。さらに他の態様において、細胞を6〜20日間、または6〜15日間、培養
する。さらに他の態様において、細胞を6〜8日間培養する。
【0019】
本明細書に記述する他の観点は免疫グロブリンを含む組成物であり、その際、組成物は
本明細書に記述する方法で調製されたものである。
一態様において、免疫グロブリンは抗IL−6R抗体である。さらに他の態様において
、抗IL−6R抗体はトシリズマブ(Tocilizumab)を含む。他の態様において、抗IL
−6R抗体に結合したマンノース−5糖構造体は8%以下である。さらに他の態様におい
て、マンノース−5糖構造体は6%以下である。他の態様において、マンノース−5糖構
造体は4%以下である。さらに他の態様において、抗IL−6R抗体に結合したG(0)
糖構造体は40%から46%までの範囲であり、抗IL−6R抗体に結合したG(2)糖
構造体は9%から11%までの範囲である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、DGL制御を用いたフェドバッチ方式における生細胞密度(a)および細胞生存率プロフィール(b)である;中空丸:初発細胞密度8×10細胞/ml;中実三角:初発細胞密度10×10細胞/ml;中空四角:初発細胞密度12×10細胞/ml。
図2図2は、免疫グロブリン産生におけるフェドバッチ方式でのDGLの経時的変化である;丸:初発細胞密度8×10細胞/ml;三角:初発細胞密度10×10細胞/ml;四角:初発細胞密度12×10細胞/ml。
図3図3は、免疫グロブリン産生におけるフェドバッチ方式によるDGLに基づく流加培地の流加プロフィールである;丸:初発細胞密度8×10細胞/ml;三角:初発細胞密度10×10細胞/ml;四角:初発細胞密度12×10細胞/ml
図4図4は、DGL制御でのフェドバッチ方式による免疫グロブリン産生プロフィールである;中空丸:初発細胞密度8×10細胞/ml;中実三角:初発細胞密度10×10細胞/ml;中空四角:初発細胞密度12×10細胞/ml;中実小丸:一定流加法:FR=0.02gグルコース/時間(対照)。
図5図5は、細胞のフェドバッチ培養に際してのDGLの時間経過である:菱形:単一流加培地流加で毎日流加,四角:二種流加培地流加で毎日流加;三角:単一流加培地流加でプロフィール流加;X:二種流加培地流加でプロフィール流加。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書には下記の工程を含む、免疫グロブリンの調製方法を記述する:
a)免疫グロブリンをコードする核酸を含む哺乳動物細胞を、0.8未満の一定のDG
L(すなわち、単位時間当たり利用できるグルコースの量が一定であり、かつ単位時間当
たりその細胞が最大限に利用できるグルコースの量の80%以下である)の培地中で培養
し、そして
b)細胞または培地から免疫グロブリンを回収する。
【0022】
本明細書に記述する方法で免疫グロブリンを得ることができ、その際、マンノース−5
糖構造体を含む免疫グロブリンの量は調整したDGL値に依存し、その量はマンノース−
5糖構造体を含む免疫グロブリンの量、および免疫グロブリンG(0)イソ型の量、およ
び免疫グロブリンG(1)イソ型の量、および免疫グロブリンG(2)イソ型の量の合計
のうちの画分である。一態様において、DGLは0.8から0.2までである。この態様
において、画分は10%以下である。他の態様において、DGLは0.6から0.4まで
である。この態様において、画分は6%以下である。本明細書に記述する方法で、マンノ
ース−5糖構造体をもつ免疫グロブリンの画分が、マンノース−5糖構造体を含む免疫グ
ロブリンの量、免疫グロブリンG(0)イソ型の量、免疫グロブリンG(1)イソ型の量
、および免疫グロブリンG(2)イソ型の量を含む合計の10%以下である免疫グロブリ
ンを得ることができる。他の態様において、画分は液体クロマトグラフィー法で測定した
面積%画分である。一態様において、DGLは0.8から0.2までの範囲に維持される
。他の態様において、DGLは0.6から0.2までの範囲に維持される。さらに他の態
様において、DGLは0.6から0.4までの範囲に維持される。一態様において、単位
時間当たり細胞が最大限に利用できるグルコースの量は、すべての化合物が過剰にある(
すなわち、細胞の増殖を制限する化合物がない)培養に際して利用されるグルコースの平
均量であり、少なくとも5回の培養に基づいて決定される。一態様において、この画分は
培養7日目に測定される。
【0023】
本発明を実施するのに有用な、当業者に既知の方法および技術は、たとえば下記に記載
されている:Ausubel, F.M. (ed.), Current Protocols in Molecular Biology, Volumes
I to III (1997), Wiley and Sons; Sambrook, J., et al., Molecular Cloning: A Lab
oratory Manual, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring
Harbor, N.Y. (2001); Glover, N.D. (ed.), DNA Cloning: A Practical Approach, Volu
mes I and II (1985); Freshney, R.I. (ed.), Animal Cell Culture (1986); Miller, J
.H. and Calos, M.P. (eds.), Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells, Cold Spri
ng Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1987); Watson, J.D., et al
., Recombinant DNA, Second Edition, N.Y., W.H. Freeman and Co (1992); Winnacker,
E.L., From Genes to Clones, N.Y., VCH Publishers (1987); Celis, J. (ed.), Cell
Biology, Second Edition, Academic Press (1998); Freshney, R.I., Culture of Anima
l Cells: A Manual of Basic Techniques, Second Edition, Alan R. Liss, Inc., N.Y.
(1987)。
【0024】
組換えDNA技術を用いてポリペプチドの多数の誘導体を製造することができる。その
ような誘導体は、たとえば個々のまたは数個のアミノ酸位置において、置換、変更または
交換により修飾されたものであってもよい。誘導体化は、たとえば部位特異的変異誘発に
より実施できる。そのようなバリエーションは当業者が容易に実施できる(Sambrook, J.,
et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition, Cold Spring Harb
or Laboratory Press, New York, USA (2001); Hames, B.D. and Higgins, S.G., Nuclei
c acid hybridization - a practical approach (1985) IRL Press, Oxford, England)。
【0025】
用語“核酸”は、天然に存在するか、または一部もしくは全体が天然に存在しない核酸
分子であって、ポリペプチドをコードするものを表わす。核酸は、単離されるかあるいは
化学的手段で合成できるDNAフラグメントの構築体(build up)であってもよい。核酸
は、たとえば発現プラスミドにおいて、または真核細胞のゲノム/染色体において、他の
核酸に組み込むことができる。用語“プラスミド”には、シャトルプラスミドおよび発現
プラスミドが含まれる。一般にプラスミドは、それぞれ原核細胞におけるプラスミドの複
製および選択のための複製起点(たとえば、ColE1複製起点)および選択マーカー(
たとえば、アンピシリンまたはテトラサイクリン耐性遺伝子)を含めた、原核細胞増殖ユ
ニットをも含むであろう。当業者には、たとえばポリペプチドのアミノ酸配列を、各アミ
ノ酸配列をコードする対応する核酸に変換するための手順および方法が周知である。した
がって核酸は、個々のヌクレオチドからなるその核酸配列によっても、またそれによりコ
ードされるポリペプチドのアミノ酸配列によっても特徴付けられる。
【0026】
用語“発現カセット”は、少なくとも含まれる構造遺伝子が細胞において発現し、場合
により細胞から分泌されるのに必要なエレメント、たとえばプロモーター、ポリアデニル
化部位、ならびに3’側および5’側−非翻訳領域を含む核酸を表わす。
【0027】
用語“遺伝子”は、たとえば染色体上またはプラスミド上のセグメントであって、ポリ
ペプチドの発現に必要なものを表わす。遺伝子は、コード領域のほかに、プロモーター、
イントロン、および1以上の転写ターミネーターを含めた、他の機能性エレメントを含む
。“構造遺伝子”は、遺伝子のシグナル配列を含まないコード領域を表わす。
【0028】
用語“発現”は、細胞内での構造遺伝子の転写および翻訳を表わす。細胞内での構造遺
伝子の転写のレベルは、細胞内に存在する対応するmRNAの量に基づいて測定できる。
たとえば、選択した核酸から転写されるmRNAは、PCRにより、またはノーザンハイ
ブリダイゼーションにより定量できる(たとえば、Sambrook et al. (前掲)を参照)。核酸
によりコードされるポリペプチドは、種々の方法により定量できる;たとえば、ELIS
Aによるか、そのポリペプチドの生物活性の測定によるか、またはそのような活性とは無
関係な方法、たとえばウェスタンブロット法もしくはラジオイムノアッセイの使用、その
ポリペプチドを認識してそれに結合する抗体の使用による(たとえば、Sambrook et al. (
前掲)を参照)。
【0029】
用語“細胞”は、ポリペプチドをコードする核酸(一態様においては異種ポリペプチド
)が導入された細胞を表わす。用語“細胞”は、プラスミド/ベクターの増殖のために用
いる原核細胞と、構造遺伝子の発現のために用いる真核細胞の両方を含む。一態様におい
て、免疫グロブリンの発現のための真核細胞は哺乳動物細胞である。他の態様において、
哺乳動物細胞はCHO細胞、NS0細胞、Sp2/0細胞、COS細胞、HEK細胞、B
HK細胞、PER.C6(登録商標)細胞、およびハイブリドーマ細胞から選択される。
真核細胞はさらに昆虫細胞、たとえば毛虫の細胞(ヨトウガ(Spodoptera frugiperda)
、sf細胞)、ショウジョウバエの細胞(キイロショウジョウバエ(Drosophila melanog
aster))、蚊の細胞(ネッタイシマカ(Aedes aegypti)、セスジヤブカ(ヒトスジシマ
カ)(Aedes albopictus))、およびカイコの細胞(カイコガ(Bombyx Mori))などか
ら選択できる。
【0030】
用語“ポリペプチド”は、自然界または合成のいずれで生成したかにかかわらず、ペプ
チド結合により連結したアミノ酸残基のポリマーを表わす。約20アミノ酸残基未満のポ
リペプチドを“ペプチド”と呼ぶことができる。100アミノ酸残基を超えるポリペプチ
ド、または1より多いポリペプチドを含む共有結合および非共有結合した凝集物を“タン
パク質”と呼ぶことができる。ポリペプチドは非アミノ酸成分、たとえば炭水化物基を含
む場合がある。非アミノ酸成分はそのポリペプチドを産生する細胞によってポリペプチド
に付加される可能性があり、細胞のタイプに応じて異なる可能性がある。本明細書中でポ
リペプチドはそれらのアミノ酸配列によりN末端からC末端方向に規定される。それらへ
の炭水化物基などの付加物は一般に明記されないが、それにもかかわらず存在する可能性
がある。
【0031】
用語“異種DNA”または“異種ポリペプチド”は、その細胞内に自然界では存在しな
いDNA分子もしくはポリペプチドまたはDNA分子の集団もしくはポリペプチドの集団
を表わす。細胞種に由来するDNA(すなわち内在性DNA)が宿主のものではないDN
A(すなわち外来DNA)と結合するならば、特定の細胞にとって異種であるDNA分子
はその細胞種に由来するDNAを含む可能性がある。たとえば、細胞のものではないDN
Aセグメント(たとえば、ポリペプチドをコードするもの)が細胞のDNAセグメント(
たとえば、プロモーターを含む)に作動可能な状態で連結したものを含むDNA分子は、
異種DNA分子とみなすことができる。同様に、異種DNA分子は外来プロモーターに作
動可能な状態で連結した内在性構造遺伝子を含むことができる。異種DNA分子によりコ
ードされるポリペプチドは“異種”ポリペプチドである。
【0032】
用語“発現プラスミド”は、発現させるべきポリペプチドをコードする少なくとも1つ
の構造遺伝子を含む核酸を表わす。一般に、発現プラスミドは下記のものを含む;原核細
胞プラスミド増殖ユニット:これには、複製起点、および選択マーカー、たとえば大腸菌
(E. coli)については真核細胞選択マーカーが含まれる;ならびに目的とする構造遺伝
子(単数または複数)の発現のための1以上の発現カセット:これらはそれぞれ、プロモ
ーター、少なくとも1つの構造遺伝子、および転写ターミネーター(ポリアデニル化シグ
ナルを含む)を含む。遺伝子発現は通常はプロモーターの制御下に置かれ、そのような構
造遺伝子はプロモーターに“作動可能な状態で連結”しているべきである。同様に、調節
エレメントとコアプロモーターは、その調節エレメントがそのコアプロモーターの活性を
調節するならば、作動可能な状態で連結している。
【0033】
用語“単離されたポリペプチド”は、付随する細胞成分、たとえばそのポリペプチドと
共有結合していない炭水化物、脂質、または他のタンパク性もしくは非タンパク性の不純
物を本質的に含まないポリペプチドを表わす。一般に、単離されたポリペプチドの調製物
は、ある態様においてはそのポリペプチドを高純度形態で、すなわち少なくとも約80%
の純度、少なくとも約90%の純度、少なくとも約95%の純度、95%を超える純度、
または99%を超える純度で含有する。特定のタンパク質調製物が単離されたポリペプチ
ドを含有することを示すための1方法は、調製物のドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリ
ルアミドゲル電気泳動(SDS−page)およびそのゲルのクーマシーブリリアントブ
ルー染色の後に単一バンドが出現することによる。しかし、用語“単離された”は、同じ
ポリペプチドが別の物理的形態、たとえば二量体で、または別のグリコシル化もしくは誘
導体化形態で存在するのを除外しない。
【0034】
免疫グロブリンは一般に5つの異なるクラスに配属される:IgA(クラスAの免疫グ
ロブリン)、IgD、IgE、IgGおよびIgM。これらのクラス間で、免疫グロブリ
ンはそれらの全体的構造および/またはアミノ酸配列が異なるが、同じ構築ブロックをも
つ。完全な免疫グロブリンは2対のポリペプチド鎖から構成される:それぞれ、免疫グロ
ブリン軽ポリペプチド鎖(短い:軽鎖)および免疫グロブリン重ポリペプチド鎖(短い:
重鎖)を含む。これらの鎖は可変部と定常部を含む。軽鎖においては両領域とも1ドメイ
ンからなり、これに対し重鎖においては可変部は1ドメインからなり、定常部は最高5つ
のドメインからなる(N末端からC末端方向へ):C1ドメイン、場合によりヒンジ部
ドメイン、C2ドメイン、C3ドメイン、および場合によりC4ドメイン。免疫グ
ロブリンはFab領域とFc領域に分けることができる。軽鎖全体、重鎖可変ドメイン、
およびC1ドメインをFab領域(フラグメント抗原結合領域)と呼ぶ。Fc領域は、
2ドメイン、C3ドメイン、および場合によりC4ドメインを含む。
【0035】
本明細書中で用いる用語“免疫グロブリン”は、1以上のポリペプチドからなるタンパ
ク質を表わす。エンコーディング免疫グロブリン遺伝子は、種々の定常部遺伝子および無
数の免疫グロブリン可変部遺伝子を含む。“免疫グロブリン”には、一態様において、モ
ノクローナル抗体、およびそのフラグメント、たとえば単離された重鎖、または重鎖定常
部、ならびに融合ポリペプチドであって少なくとも免疫グロブリン重鎖C2ドメインを
含むものが含まれる。本明細書に記述する方法の一態様において免疫グロブリンは完全な
免疫グロブリンであり、他の態様において免疫グロブリンは完全な免疫グロブリンのFc
領域である。他の態様において、免疫グロブリンは免疫グロブリン、または免疫グロブリ
ンフラグメント、または免疫グロブリンコンジュゲートである。
【0036】
用語“免疫グロブリンフラグメント”は、少なくとも免疫グロブリン デルタ、イプシ
ロンもしくはアルファ重鎖のC2ドメイン、および/または免疫グロブリン イプシロ
ンもしくはデルタ重鎖のC3ドメインを含む、ポリペプチドを表わす。その誘導体およ
びバリアントであって、C2ドメインまたはC3ドメイン中のN−グリコシル化モチ
ーフAsn−Xaa−Ser/Thrが変化していないものも包含される。
【0037】
用語“免疫グロブリンコンジュゲート”は、少なくとも免疫グロブリン デルタ、イプ
シロンもしくはアルファ重鎖のC2ドメインおよび/または免疫グロブリン イプシロ
ンもしくはデルタ重鎖のC3ドメインが、非免疫グロブリンポリペプチドに融合したも
のを含むポリペプチドを表わす。それらにおいて、C2ドメインまたはC3ドメイン
中のN−グリコシル化モチーフAsn−Xaa−Ser/Thrは変化していない。
【0038】
免疫グロブリン重鎖のC2ドメインのAsn297(IgG、IgE)もしくはAs
263(IgA)に、および/またはC3ドメインのAsn394、Asn445
またはAsn496(IgE、IgD)に結合したオリゴ糖は、二分岐(biantennary)
構造をもつ(Mizuochi, T., et al., Arch. Biochem. Biophys. 257 (1987) 387-394)、す
なわちそれらはコア構造
Man(α1-4)GlcNAc(β1-4)GlcNAc→Asn
からなり、末端GlcNAc残基に任意選択的Fuc(α1−6)結合をもつ。このコア
構造の末端マンノースに次式をもつ2つの外側アームが結合している:
Gal(β1-4)GlcNAc(β1-2)Man(α1-6)→Man、および
Gal(β1-4)GlcNAc(β1-2)Man(α1-3)→Man
これらにおいて末端ガラクトース残基は任意選択的である(Man=マンノース、Glc
NAc=N−アセチルグルコース、Gal=ガラクトース;Fuc=フコース)。
【0039】
【表1】
【0040】
用語“免疫グロブリンG(0)イソ型の量、免疫グロブリンG(1)イソ型の量、およ
び免疫グロブリンG(2)イソ型の量”は、免疫グロブリンのアスパラギン(Asn)に
N−結合した種々の異種二分岐オリゴ糖の量の合計を表わす。G(2)イソ型はオリゴ糖
構造体の外側アームそれぞれに末端ガラクトース残基をもち、G(1)イソ型は(α1−
6)または(α1−3)結合した外側アームのいずれかのみにガラクトース残基を保有し
、G(0)イソ型は両方の外側アームにガラクトース残基を保有しない。
【0041】
用語“マンノース−5糖構造体”は、ポリペプチドのAsn残基に連結して、5つのマ
ンノース残基および2つのN−アセチルグルコースコア残基を含むかあるいはそれらから
なる三分岐(triantennary)構造を形成した、オリゴマンノース構造体を表わす。
【0042】
本明細書に記述する1観点は、下記の工程を含む免疫グロブリンの調製方法である:
a)免疫グロブリンをコードする1以上の核酸を含む真核細胞、好ましくは哺乳動物細
胞を、培地中の単位時間当たり利用できるグルコースの量が一定に維持され、かつ単位時
間当たりその培地中でその細胞が最大限に利用できる量の80%未満の値に制限された培
地中で培養し、そして
b)細胞または培地から免疫グロブリンを回収し、これにより免疫グロブリンを調製す
る。
【0043】
この方法で、マンノース−糖5構造体を含む免疫グロブリンを最大で10%含む免疫グ
ロブリンが得られる。この10%は、マンノース−5糖構造体を含む免疫グロブリンの量
、免疫グロブリンG(0)イソ型の量、免疫グロブリンG(1)イソ型の量、および免疫
グロブリンG(2)イソ型の量の合計に基づいて計算される。
【0044】
用語“グルコース制限度”とそれの略号“DGL”は、本明細書中で互換性をもって使
用でき、培養物中の単一細胞の現時点のグルコース比消費速度−対−その単一細胞または
同じ種類の単一細胞の既知の最大グルコース比消費速度の比を表わす。グルコース制限度
は下記のとおり定義される:
【0045】
【数1】
【0046】
ここで、
qGlc=単一細胞の現時点のグルコース比消費速度;
qGlcmax=その単一細胞または同じ種類の単一細胞について既知の最大グルコー
ス比消費速度。
【0047】
DGLはDGLmaintenanceと1の間で変動させることができ、ここでDG
maintenance(<1および>0)は完全な増殖制限を表わし、1は無制限ま
たは完全なグルコース過剰を表わす。
【0048】
ポリペプチド、たとえば免疫グロブリンへの糖構造体の導入は翻訳後修飾である。各細
胞のグリコシル化操作は不完全であるため、発現した各ポリペプチドは、種々の糖構造体
を含むグリコシル化パターンで得られる。したがって、ポリペプチドはそれを発現する細
胞から、同一ポリペプチド、すなわち同一アミノ酸配列をもつものの、異なるグリコシル
化形態を含む組成物の形態で得られる。個々の糖構造体の合計はグリコシル化パターンと
して表わされ、これには糖構造体を全く含まないポリペプチド、異なるプロセシングを受
けた糖構造体および/または異なる組成の糖構造体を含むポリペプチドが含まれる。
【0049】
糖構造体のひとつはマンノース−5糖構造体(高マンノース、Man5、M5、または
オリゴ−マンノースとも表記される)である。培養時間の長期化に伴って、またはグルコ
ース飢餓状態で、マンノース−5糖構造体を含む組換え産生されたポリペプチドの画分が
増加すると報告されている(Robinson, D.K., et al., Biotechnol. Bioeng. 44 (1994) 7
27-735; Elbein, A.D., Ann. Rev. Biochem. 56 (1987) 497-534)。
【0050】
真核細胞が産生するポリペプチドのグリコシル化パターンにおけるマンノース−5糖構
造体の量を、培養プロセスで細胞に流加するグルコースの量に基づいて改変できることが
見出された。グルコースの量を減らすことによって、すなわちDGL値を1.0からより
小さな、たとえば0.8、0.6、0.5、0.4または0.2の値に変化させることに
よって、グリコシル化パターンにおけるマンノース−5糖構造体の量の改変を達成できる
ことが見出された。一態様において、DGL値は0.8から0.2まで、または0.6か
ら0.4までの範囲内の値で一定に維持される。すなわち、ポリペプチド、一態様におい
て免疫グロブリンの調製は、グリコシル化パターンにおいて規定量のマンノース−5糖構
造体を含むポリペプチドを得るために、培養細胞が利用できるグルコースの量を制限した
条件下で実施できる。細胞が(一態様においては、対数増殖している細胞が)単位時間当
たり最大限に利用できるグルコースの量の80%以下の量のグルコースを単位時間当たり
利用できる(すなわち、0.8以下のDGLをもつ)培養により、1.0のDGLをもつ
培養と比較してマンノース−5糖構造体の量が変化したグリコシル化パターンをもつポリ
ペプチドが得られることが見出された。一態様において、細胞密度は生細胞密度である。
さらに、得られるポリペプチド収率が増大する。
【0051】
用語“細胞が単位時間当たり最大限に利用できるグルコースの量”は、単一細胞が最適
増殖条件下で対数増殖期に何ら栄養素制限のない培養において単位時間当たり最大限に消
費または利用または代謝できるグルコースの量を表わす。したがって、細胞が単位時間当
たり最大限に利用できるグルコースの量は、何ら栄養素制限のない培養において細胞が最
適増殖条件下で対数増殖期に単位時間当たり代謝するグルコースの量を測定することによ
り決定できる。利用できるグルコースの量をそれ以上増加させても、細胞が単位時間当た
り最大限に利用できるグルコースの量はそれ以上は増加しない、すなわち変化しないであ
ろう。この量が単一細胞の最大グルコース消費レベルを規定する。これは、遺伝子修飾し
た形の細胞がよりいっそう高い最大グルコース消費レベルをもつ可能性がないことを意味
するものではない。あるいは、細胞が単位時間当たり最大限に利用できるグルコースの量
は、これまでの培養およびモニターされたデータに基づいて決定できる。
【0052】
本明細書に記述する方法は、測定および制御のための努力が最小限に抑えられることに
関連して特に実施するのが簡単であり、特に経済的である。
限定ではないが、たとえば栄養素供給が不十分であると、培養細胞は不経済な状態で増
殖して栄養素を最大速度で消費する。消費される培地栄養素のひとつはグルコースであり
、これは培養細胞が細胞の代謝のためのエネルギーおよび構築ブロックを産生するために
代謝する。過剰のグルコースの存在下では、細胞の代謝はグルコースについて最大の代謝
回転速度で進行している。細胞が単位時間当たり最大限に利用できるグルコースの量は、
たとえば、制限されたグルコースでの、すなわちその細胞が単位時間当たり利用できる量
より少ないグルコース量での培養にも用いられる同じ培養条件を用いてまたは同じ培養条
件下で培養された、過剰のグルコースの存在下で対数増殖している細胞のグルコース消費
量から決定できる。この最大量は、固定した時間範囲の最初と最後の細胞密度およびグル
コース濃度を測定することによって、容易に計算できる。この値は、普通は0.006か
ら190mmol/時間/10細胞までの範囲にある(Baker, K.N., et al., Biotechn
ol. Bioeng. 73 (2001) 188-202; WO 98/41611; Muething, J., et al., Biotechnol. Bi
oeng. 83 (2003) 321-334; WO 2004/048556)。一態様において、標準的なプロセス条件下
にpH7.0で、qGlcmaxは約0.142mmol/時間/10細胞である。
【0053】
本明細書に記述する方法は、一態様において、単位時間当たり利用できるグルコースの
量が一定に、かつ単位時間当たりその細胞が最大限に利用できるグルコースの量の80%
以下(0.8≧DGL>0)に維持される条件下で実施され、一態様においては利用でき
るグルコースの量は一定に、かつ60%以下(0.6≧DGL>0)に、他の態様におい
ては50%以下(0.5≧DGL>0)に、さらに他の態様においては約40%に維持さ
れる。本出願で用いる用語“約”は、その数値が厳密な数値ではなく、それはある範囲の
中央点にすぎないことを表わし、その際、その数値は最大10%変動できる;すなわち、
用語“約40%”は44%から36%までの範囲(DGL=0.44〜0.36)を表わ
す。
【0054】
一態様において、培養は、単位時間当たりその細胞が最大限に利用できるグルコースの
量の80%〜10%の範囲で一定に維持される量のグルコースを単位時間当たり利用でき
る状態で行なわれる(0.8≧DGL≧0.1)。他の態様において、利用できるグルコ
ースの量は60%〜10%の範囲で一定に維持される(0.6≧DGL≧0.1)。さら
に他の態様において、利用できるグルコースの量は50%〜10%の範囲で一定に維持さ
れる(0.5≧DGL≧0.1)。他の態様において、利用できるグルコースの量は45
%〜20%の範囲で一定に維持される(0.45≧DGL≧0.2)。同様に、ある態様
において、利用できるグルコースの量は80%〜60%の範囲で一定に維持される(0.
8≧DGL≧0.6)。
【0055】
一態様において本方法は、DGLが一定に約0.4の値に維持される条件下で細胞を培
養する工程を含み、これによれば培養は1.0〜0.5のDGLで開始され、DGLを約
0.4の値に低下させ、その後はこのDGLを一定に維持することを含む。一態様におい
て、DGLの低下は100時間以内の期間である。用語“DGLを一定に維持する”およ
び文法的にそれの均等物は、そのDGL値がある期間維持されること、すなわちDGL値
の変動がその数値の10%以内であることを表わす(たとえば、図2を参照)。
【0056】
免疫グロブリンは、産生後に、直接または細胞を破壊した後に回収される。回収された
免疫グロブリンは、一態様において、当業者に既知の方法で精製される。タンパク質精製
のために種々の方法が十分に確立され、広く使用されている;たとえば、微生物タンパク
質によるアフィニティークロマトグラフィー(たとえば、プロテインAまたはプロテイン
Gアフィニティークロマトグラフィー)、イオン交換クロマトグラフィー(たとえば、陽
イオン交換(カルボキシメチル樹脂)、陰イオン交換(アミノエチル樹脂)および混合型
交換)、チオ親和性(thiophilic)吸着(たとえば、ベータ−メルカプトエタノールその
他のSHリガンドによる)、疎水性相互作用または芳香族吸着クロマトグラフィー(たと
えば、フェニル−セファロース、アザ−アレン親和性(aza-arenophilic)樹脂、または
m−アミノフェニルボロン酸による)、金属キレートアフィニティークロマトグラフィー
(たとえば、Ni(II)−およびCu(II)−アフィニティー材料による)、サイズ
排除クロマトグラフィー、および電気泳動法(たとえば、ゲル電気泳動、毛細管電気泳動
)(Vijayalakshmi, M.A., Appl. Biochem. Biotech. 75 (1998) 93-102)。
【0057】
たとえば、免疫グロブリンの精製法は一般に多工程クロマトグラフィー部分を含む。第
1工程で、たとえば、プロテインAまたはプロテインGによるアフィニティークロマトグ
ラフィーにより、免疫グロブリンではないポリペプチドを免疫グロブリン画分から分離す
る。その後、たとえばイオン交換クロマトグラフィーを実施して、個々のクラスの免疫グ
ロブリンを分離し、かつ第1カラムから共溶出した痕跡量のプロテインAを除去する。最
後に、クロマトグラフィー工程を用いて免疫グロブリン単量体を同じクラスの多量体およ
びフラグメントから分離する。
【0058】
一般的なクロマトグラフィー法およびそれらの使用は当業者に既知である。たとえば下
記を参照:Heftmann, E. (ed.), Chromatography, 5th edition, Part A: Fundamentals
and Techniques, Elsevier Science Publishing Company, New York, (1992); Deyl, Z.
(ed.), Advanced Chromatographic and Electromigration Methods in Biosciences, Els
evier Science BV, Amsterdam, The Netherlands, (1998); Poole, C. F. and Poole, S.
K., Chromatography Today, Elsevier Science Publishing Company, New York (1991);
Scopes, R.K., Protein Purification: Principles and Practice (1982); Sambrook, J
., et al. (eds.), Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition, Cold Sp
ring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (2001);またはAusubel, F.
M., et al. (eds.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, In
c., New York (1990)。
【0059】
一態様において、回収した免疫グロブリンを、集団の量、すなわちマンノース−5糖構
造体を含む免疫グロブリン、免疫グロブリンG(0)イソ型、免疫グロブリンG(1)イ
ソ型、および免疫グロブリンG(2)イソ型の量の合計に対する、マンノース−5糖構造
体を含む免疫グロブリンの量により特性分析する。本明細書に記述する方法によれば、マ
ンノース−5糖構造体を含む免疫グロブリンの量は集団の10%以下であり、他の態様に
おいては集団の8%以下であり、さらに他の態様においては集団の6%以下である。
【0060】
本明細書に記述する方法は、ある態様において、連続培養として、フェドバッチ培養と
して、またはその組合わせとして、たとえばフェドバッチ培養として開始した後に連続培
養に切り換えて、実施できる。さらに、本明細書に記述する方法は種々の様式で実施でき
る。たとえば一態様においては、DGL値が1.0未満の条件下で、すなわちたとえば利
用できるグルコースの量が単位時間当たりその細胞がその培養で最大限に利用できるグル
コースの量の80%以下である条件下で培養する前に、過剰のグルコース、すなわちDG
L値が1.0の状態で培養する。他の態様において、たとえば前規定した細胞密度(たと
えば、一態様において10細胞/ml)を得るために、標準培地に含有される量のグル
コース、たとえば1〜10g/l(培地)で培養を開始する。さらに他の態様において、
培養の開始を過剰量のグルコースの存在下で、すなわち1.0のDGLで行ない、そして
単位時間当たりある量のグルコースを添加する;これは単位時間当たりその細胞がその培
養で最大限に利用できるグルコースの量の80%以下である。他の態様においては、培地
中に存在するグルコースの量がその培養に際して前設定した値以下に低下した時点で流加
を開始する。最後の2例では、培養に際して利用できるグルコースの量は培養における細
胞の代謝によって減少する。
【0061】
一態様において、本明細書に記述する方法では単位時間当たり利用できるグルコースの
量または添加するグルコースの量(最大限に利用できるグルコースの量より少ない)を同
じ値に、すなわち一定に維持する。たとえば、単位時間当たり最大限に利用できるグルコ
ースの量の50%の量を利用できるように制御する場合、この制御量(DGL値に基づく
)はグルコース制限流加を実施しているすべての期間に適用される。ただし、この数値は
生細胞の絶対密度に依存した相対値であるので、生細胞密度が培養中に変化する(すなわ
ち、それは初期に増加し、最大に達し、その後、再び低下する)のに伴って、利用できる
グルコースの絶対量は変化する。相対値は一定に(すなわち、たとえば80%に)維持さ
れるけれども絶対基準値が変化する(すなわち、生細胞密度が増大する)ので、相対的な
絶対値も変化する(すなわち、増加する数値の80%も増加する)。
【0062】
用語“単位時間当たり”は、固定した時間範囲、たとえば1分、1時間、6時間、12
時間、または24時間を表わす。一態様において、単位時間は12時間または24時間で
ある。本出願で用いる用語“単位時間当たり利用できるグルコースの量”は、下記のもの
の合計を表わす:1)固定した時間範囲の開始時の培養の培地中に含有されるグルコース
の量、および2)その単位時間中に添加した、すなわち流加したグルコースの量。したが
って、ある量のグルコースを細胞培養培地に、たとえば培養容器に添加すると、これは固
定した時間範囲の開始時の培地中のグルコースの量を前決定量まで増加させる。この量の
グルコースは、固体として、水に溶解して、緩衝液に溶解して、または栄養培地に溶解し
て添加することができ、その際、水および緩衝液はグルコースを含有すべきではない。添
加されるグルコースの量は、利用できるグルコースの量から培養容器内の培地中に存在す
るグルコースの量を差し引いたものに相当する。この量のグルコースを添加するプロセス
は、前記の単位時間中に1回添加として、少量の等分の多数回添加として、または連続添
加として実施できる。
【0063】
本明細書に記述する方法はいかなる種類の培養にも、またいかなる培養規模にも適切で
ある。たとえば、一態様において、この方法は連続法またはフェドバッチ法に用いられる
;他の態様において培養容量は100mlから50,000lまでであり、他の態様にお
いては100lから10,000lまでである。本明細書に記述する方法は、マンノース
−5糖構造体をもつ免疫グロブリンが10%以下、または8%以下、または6%以下であ
る免疫グロブリンの調製に有用である。一態様において、免疫グロブリンは免疫グロブリ
ンGまたはEである。本明細書に記述する方法は真核細胞を含み、この細胞は免疫グロブ
リンの重鎖またはそのフラグメントをコードする核酸、および免疫グロブリンの軽鎖また
はそのフラグメントをコードする核酸を含む。真核細胞は、一態様においてCHO細胞、
NS0細胞、BHK細胞、ハイブリドーマ細胞、PER.C6(登録商標)細胞、Sp2
/0細胞、HEK細胞、および昆虫細胞から選択される。
【0064】
当業者はグルコースの量のほか、種々の細胞が最適増殖のために要求する培地の組成お
よび成分ならびに栄養素濃度を周知しており、その細胞の培養に適切な培地を選択するで
あろう(たとえば、Mather, J.P., et al., Encyclopedia of Bioprocess Technology: Fe
rmentation, Biocatalysis, and Bioseparation, Vol. 2 (1999) 777-785を参照)。
【0065】
一態様において、本明細書に記述する方法に従った培養に際して細胞が利用できるはず
のグルコースの量は、培養容器内において特定の培養時点でその容量の培養容器および最
大限に利用できるグルコースの量で普通に達成できる生細胞密度に、単位時間当たりの対
数増殖中の細胞数、および意図するDGLを掛けることにより計算される。より詳細には
、その実際の時点以前の培養中のグルコース濃度の経過および培養中の細胞密度の経過か
ら、将来のグルコース濃度および細胞密度の経過を推定する。この推定を用いて、意図す
るDGLを達成するために添加しなければならないグルコースの量を、次式により計算す
る:
(グルコース添加量[グルコースpg/ml/時間])=
(現時点の細胞密度[細胞/ml])×(細胞の最大グルコース消費速度[グルコースpg/細胞/時
間])×(DGL値)−培養容器内の培地中に存在するグルコースの量
一態様において、培養のpH値はpH6.5〜pH7.8である。他の態様において、
pH値はpH6.9〜pH7.3である。さらに態様において、pH値はpH7.0〜7
.2である。実施例1に概説するように、一定流加法で制限グルコース流加とpH値7.
0を組み合わせると、pH値7.2と比較してM5含量を規定値、すなわち8%未満に効
率的に調節できることが見出された。それぞれ7.0または7.2のpH値でフェドバッ
チ法での培養に際して、DGL制御法を用いるとM5含量を5.5%未満に調節できるこ
とが見出された。培養のpH値を低下させるとDGL値の低下によるM5量の増加に対抗
できることが見出された。
【0066】
培養は、一態様において27℃〜39℃で、他の態様において35℃〜37.5℃で実
施される。
本明細書に記述する方法では、糖構造体を含むいずれかのポリペプチド、たとえば免疫
グロブリン、インターフェロン、サイトカイン、増殖因子、ホルモン、プラスミノーゲン
アクチベーター、エリスロポエチンなどを調製できる。
【0067】
本明細書に記述する方法における培養は、哺乳動物細胞培養のためのいずれかの撹拌式
または振とう式装置、たとえば発酵槽タイプのタンク培養装置、エアリフト(air lift)
タイプの培養装置、培養フラスコタイプの培養装置、スピナーフラスコタイプの培養装置
、マイクロキャリヤータイプの培養装置、流動床タイプの培養装置、中空繊維タイプの培
養装置、ローラーボトルタイプの培養装置、または充填床タイプの培養装置を用いて実施
できる。
【0068】
本明細書に記述する方法は、一態様において最高15日間実施される。他の態様におい
て、培養は6〜15日間行なわれる。一態様において、免疫グロブリンは抗IL−6R抗
体である。
【0069】
本明細書に記述する方法を、たとえばEP 0 409 607、EP 0 628 639、US 5,670,373、ま
たはUS 5,795,965(本明細書にそれらの全体を援用する)に記述されたヒトインターロイ
キン−6受容体に対する抗体について例示する;この抗体およびそれを発現する細胞系は
本発明の時点で我々の実験室において十分な量で入手できたからである。これは本発明の
範囲を限定するものではない。
【0070】
以下の実施例および図面は本発明の理解を補助するために示すものであり、本発明の真
の範囲は特許請求の範囲に示される。ここに示す方法において本発明の精神から逸脱する
ことなく改変をなしうることを理解すべきである。
【実施例】
【0071】
材料および方法
細胞系:
組換え産生される免疫グロブリンのマンノース−5糖構造体の量を改変できるCHO細
胞系の例は、EP 0 409 607およびUS 5,795,965による抗IL−6R抗体をコードする核酸
を含むCHO細胞系である。この組換えCHO細胞の培養のためには、本発明の方法によ
るグルコース補給を実施できる限り、いかなる培地も使用できる。培地の例はIMDM、
DMEMもしくはHamのF12培地、またはその組合わせであり、それらを培地成分と
グルコースの質量比が受け継がれるように本明細書に記述する方法に適合させた。培地か
らグルコースを排除し、それを別個に培養に添加することもできる。
【0072】
培養:
抗IL−6R抗体を発現するCHO細胞を1lまたは2lの発酵容器で培養した。流加
培地は15〜40g/lのグルコースを含有していた。グルコースは、たとえば400g
/lのグルコースを含有する別個の濃厚溶液で流加することができた。pH7.0から7
.2までの範囲のpH値で培養を実施した。
【0073】
糖構造体の決定:
IgGグリコシル化パターンの分析のために、Kondoらによる方法(Kondo, A., et al.,
Agric. Biol. Chem. 54 (1990) 2169-2170)を用いた。IgGを、培地の遠心上清から小
規模プロテインAカラムを用いて精製した。精製IgGのオリゴ糖をN−グリコシダーゼ
F(Roche Diagnostics GmbH, Mannheim, Germany)により放出させ、還元末端を2−アミ
ノピリジンで標識した。標識したオリゴ糖を逆相クロマトグラフィー(HPLC)により
分析した。質量分析およびオリゴ糖の標準品の両方により、各ピークの帰属を判定した。
【0074】
グルコースの測定:
YSI 2700 SELECT(商標)分析計(YSI, Yellow Springs, OH, USA)を用い、製造業者の
マニュアルに従った方法でグルコース濃度を測定した。
【0075】
生細胞密度の測定:
自動イメージプロセシングおよび分析システム(CEDEX(登録商標); Innovatis, Germa
ny)、ならびにトリパンブルー色素排除法を用いて、生細胞密度を測定した。
【0076】
実施例1
DGL制御およびpHが抗体産生およびマンノース−5糖構造体(M5)含量に及ぼす
影響
ヒト化した抗IL−6受容体抗体(トシリズマブ(Tocilizumab), RoACTEMRA(登録商
標))を産生するCHO細胞株を用いて試験を実施した;これは、日本国公開特許公報第9
9902/1996の参考例2に記載された方法に従い、国際特許出願公開No. WO 92/19759 (US 5
,795,965、US 5,817,790、およびUS 7,479,543に対応する)の例10に記述されたヒト伸
長因子Iαプロモーターを用いて調製された。
【0077】
定速流加法で、pH制御が免疫グロブリン産生に及ぼす影響を観察した。表2は、定速
流加法でpH制御が抗体オリゴ糖産生およびM5含量に及ぼす影響を示す。
【0078】
【表2】
【0079】
pH7.0では、マンノース−5糖構造体(M5)の量は5.5%未満に調節された。
DGL値は細胞密度の変化のため0.80から0.21まで低下した。他方、pH7.2
ではM5の量は8.7%と25.2%の間で変動し、pH7.0の場合より高かった。p
H7.2におけるDGL値は0.73から0.25までの範囲であった。さらに、この場
合、pH7.2での免疫グロブリン産生は120%を超えた(pH7.0に比較した相対
値)。定速流加法で免疫グロブリン産生がより高いと、より高い8%を超えるM5含量が
誘導される。したがって、定速流加法でpH7.0に制御して、pH7.2に制御した方
法と比較してM5含量をより低い値、すなわち8%未満に効率的に調節できた。
【0080】
種々のpHでのフェドバッチ方式による免疫グロブリン産生のために、DGL制御法(
=一定相対量流加法)も採用し、M5含量を分析した。表3は、流加開始後2〜3日目の
DGL制御およびpHが免疫グロブリン産生およびM5含量に及ぼす影響を示す。
【0081】
【表3】
【0082】
pH7.0において、0.2から0.8までの範囲のDGLでDGL制御法を適用した
。その結果、M5含量は4.0%以下に調節された。他方、pH7.2ではDGL値を0
.4から0.6までの範囲で操作した。この場合、M5含量を5.5%未満に制御できた
【0083】
実施例2
種々のDGL値での培養
抗IL−6R抗体をコードする核酸を含むCHO細胞の培養を種々のDGL値で実施し
た。結果を下記の表4にまとめる。
【0084】
【表4】
【0085】
定速流加法と比較して、DGL値0.4〜0.6での制御DGL法はマンノース−5含
量の低下を示す。
実施例3
種々の流加法での培養
抗IL−6R抗体をコードする核酸を含むCHO細胞の培養を1種類のDGL値で、た
だし種々の流加法を用いて実施した。結果を下記の表5にまとめる。
【0086】
【表5】
【0087】
単一流加培地流加実験では、すべての栄養素およびグルコースを含有する単一の流加物
を用いた。二種培地流加実験では、すべての栄養素およびグルコースを含有する2種類の
流加物を用いた:第1流加物はすべての栄養素および15g/lの低濃度のグルコースを
含有し、第2流加物は高濃度のグルコースを含有する。これらの種々の流加実験を、一方
の設定では流加速度を毎日調整して実施し、他方の設定では以前の培養における生細胞密
度変化記録計に基づく前決定プロフィールに従って実施した。表5から分かるように、生
存率および生細胞密度は採用した流加法とは無関係に類似する。
【0088】
実施例4
フェドバッチ方式による免疫グロブリン調製のためのグルコース制限度(DGL)制御
CHO細胞(8.0〜12×10細胞/ml)を前記の無血清培地に接種した。細胞
を37℃、98%相対湿度、および10% COの雰囲気で増殖させた。フェドバッチ
培養で、主発酵槽へ培養開始から2日目または3日目に流加するように、グルコースを含
有する培地の流加を開始した。流加法はグルコース制限度(DGL)を制御するための米
国特許出願公開公報 US 2006/0127975 A1による方法に従った。DGLは、観察されたグ
ルコース比消費速度−対−これらの細胞が自由にグルコースを利用できる場合の既知の最
大グルコース比消費速度の比として定義できる(DGL=Q(glc)/Q(glc)
ax,ここで、Q(glc)=現時点で観察されたグルコース比消費速度;Q(glc)
max=これらの細胞についての既知の最大グルコース比消費速度)。
【0089】
図1は、この培養の生細胞密度および細胞生存率プロフィールを示す。図2に示すよう
に、種々の細胞密度でDGLを0.4〜0.5の値になるように制御した。その時点の細
胞密度に応じて流加速度を1日1回または2回変化させた。図3は、フェドバッチ方式に
よるDGLに基づく流加プロフィールを示す。細胞密度に応じて流加速度を0.8〜1.
6ml/時間で変化させた。この流加法を適用して、図4に示す免疫グロブリン産生プロ
フィールが得られた。表6に示すように10×10細胞/mlおよび12×10細胞
/mlの接種サイズを用いると、7日目に免疫グロブリン産生はほぼ同じであり、一定流
加法(グルコース0.02g/時間の流加速度)での免疫グロブリン産生の120%を超
えた。初期細胞密度の差20%にもかかわらず、DGL制御法ではほぼ同等の免疫グロブ
リン力価を得ることができた。さらに、接種サイズを8.0×10細胞/mlに設定し
た場合、流加開始点の20時間の遅れにもかかわらず、得られた免疫グロブリンは7日目
に110%(相対値)を超えた。これらの結果において、DGL制御法は種々の接種サイ
ズで安定な免疫グロブリン産生を達成できた。
【0090】
実施例5
DGL制御がオリゴ糖のマンノース−5糖構造体およびガラクトシル化に及ぼす影響
DGL制御を用いるフェドバッチ培養により産生された免疫グロブリンについて、グリ
コシル化パターンを分析した。表6は、DGL制御フェドバッチ培養から得られた免疫グ
ロブリンについてのオリゴ糖分析の結果を、一定流加法(流加速度:グルコース0.02
g/時間)と比較して示す。8.0×10細胞/mlの接種サイズでは、マンノース−
5糖構造体(M5)の含量は2.8%であった。10×10細胞/mlおよび12×1
細胞/mlの接種サイズでは、M5含量はそれぞれ4.1%および3.8%であった
。すべての培養条件で、DGL制御法はM5含量を5.0%未満に調節できた。
【0091】
一方、各条件で、免疫グロブリンG(0)イソ型および免疫グロブリンG(2)イソ型
は、それぞれ40%から46%まで、および9.0%から11%までの範囲で制御された
【0092】
【表6】
図1
図2
図3
図4
図5