特許第5982065号(P5982065)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5982065
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】AAS送信機歪みの改善
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/04 20060101AFI20160818BHJP
   H04B 7/10 20060101ALI20160818BHJP
   H04B 7/06 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   H04B1/04 R
   H04B7/10 A
   H04B7/06
【請求項の数】19
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-534994(P2015-534994)
(86)(22)【出願日】2013年10月1日
(65)【公表番号】特表2015-532550(P2015-532550A)
(43)【公表日】2015年11月9日
(86)【国際出願番号】EP2013070478
(87)【国際公開番号】WO2014053508
(87)【国際公開日】20140410
【審査請求日】2015年5月13日
(31)【優先権主張番号】61/708,312
(32)【優先日】2012年10月1日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】598036300
【氏名又は名称】テレフオンアクチーボラゲット エルエム エリクソン(パブル)
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(72)【発明者】
【氏名】チャップマン, トーマス
(72)【発明者】
【氏名】エルフストレム, トルビョーン
(72)【発明者】
【氏名】ガセムザデ, ファルシド
(72)【発明者】
【氏名】レックスベリ, レオナルド
【審査官】 野元 久道
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−166725(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/107654(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/107176(WO,A1)
【文献】 特開2009−055382(JP,A)
【文献】 特開2004−320620(JP,A)
【文献】 特開2010−154044(JP,A)
【文献】 特開2002−044054(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/051900(WO,A1)
【文献】 特開2005−191878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/04
H04B 7/06
H04B 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の無線送信機(TXU/RXU 1,...,TXU/RXU K,61,62)を備える無線送信装置(10,60)において信号を処理するための方法であって、前記複数の無線送信機の少なくとも1つにおいてクリッピングが信号に適用され、前記クリッピングの量またはクリッピング閾値またはその両方が前記複数の無線送信機(TXU/RXU 1,...,TXU/RXU K,61,62)のそれぞれについて個々に調整され(S730)、望ましい信号に対するクリッピングによって生成された雑音信号の比率が前記複数の無線送信機(TXU/RXU1,...,TXU/RXUK,61,62)のすべてについて同じとなるように前記クリッピングの量または前記クリッピング閾値またはその両方が調整される(S730)ことを特徴とする方法。
【請求項2】
受信機の1または複数の所定位置における、望ましい信号に対するクリッピングによって生成された雑音信号の比率が、所定の閾値又は動的に調整された閾値より小さく保たれるように前記クリッピングが調整される(S730)ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
受信機の1または複数の所定位置におけるエラーベクトル振幅が所定の閾値又は動的に調整された閾値より小さく保たれるように前記クリッピングが調整される(S730)ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
クリッピングによって生成された雑音信号の空間的分布が、望ましい信号の空間的分布と実質的に等しいように前記クリッピングが調整されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
クリッピングによって生成された雑音信号のメインローブの方向が、望ましい信号のメインローブの方向と異なるように前記クリッピングが調整されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記信号の増幅に先行して前記クリッピングが適用される(S750)ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
クリッピングによって生成された雑音信号の空間パターンを調整するために追加のクリッピングがベースバンド回路において適用されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
クリッピングに加えて、前記複数の無線送信機(TXU/RXU1,...,TXU/RXUK,61,62)のそれぞれについて個々に重みテーパリングが調整される(S740)ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記無線送信装置(10、60)が、アクティブアンテナシステムを備えることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記複数の無線送信機(TXU/RXU1,...,TXU/RXUK,61,62)の一致した制御によりビームフォーミングが適用される(S720)ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
送信する入力信号にクリッピングを適用するよう構成された複数の無線送信機(TXU/RXU 1,...,TXU/RXU K,61,62)を備える無線送信装置(10,60)であって、前記クリッピングの量またはクリッピング閾値またはその両方が前記複数の無線送信機(TXU/RXU 1,...,TXU/RXU K,61,62)のそれぞれについて個々に調整され、望ましい信号に対するクリッピングによって生成された雑音信号の比率が前記複数の無線送信機(TXU/RXU1,...,TXU/RXUK,61,62)のすべてについて同じとなるように前記クリッピングの量または前記クリッピング閾値またはその両方が調整される(S730)ことを特徴とする無線送信装置(10,60)。
【請求項12】
前記無線送信機(TXU/RXU 1,...,TXU/RXU K,61,62)に接続されているか又は含まれており、送信前に入力信号を増幅するよう構成された複数の電力増幅器(22)を備えることを特徴とする請求項11に記載の無線送信装置(10,60)。
【請求項13】
前記無線送信機(TXU/RXU 1,...,TXU/RXU K,61,62)又は電力増幅器(22)又はその両方に接続された複数のアンテナを備えることを特徴とする請求項11又は12に記載の無線送信装置(10,60)。
【請求項14】
アクティブアンテナシステム(10)を備えることを特徴とする請求項11乃至13のいずれか一項に記載の無線送信装置(10,60)。
【請求項15】
各無線送信機(TXU/RXU 1,...,TXU/RXU K,61,62)で適用されるクリッピングの量を決定するよう構成されている少なくとも1つのプロセッサ(23,63)を備えることを特徴とする請求項11乃至14のいずれか一項に記載の無線送信装置(10,60)。
【請求項16】
無線通信ネットワークの無線基地局であることを特徴とする請求項11乃至15のいずれか一項に記載の無線送信装置(10,60)。
【請求項17】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の方法を実行するよう構成されていることを特徴とする請求項11乃至16のいずれか一項に記載の無線送信装置(10,60)。
【請求項18】
少なくとも1つのプロセッサにより実行又は解釈された場合に、前記少なくとも1つのプロセッサに請求項1乃至10のいずれか一項に記載の方法を実行させる命令を含むコンピュータプログラム。
【請求項19】
請求項18に記載のコンピュータプログラムを記録した媒体
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信される入力信号にクリッピングを適用することに適合した複数の無線送信機を含む無線伝送システムおよびそのような無線伝送システムにおける信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基地局のアンテナアレイは、各々が1つの無線送信/受信のユニットから駆動される受動的固定ビームアンテナによって構成されていた。しかし近年、技術進歩により、高度な基地局は、個々のアンテナまたはアンテナのサブグループがそれら自身の無線送信/受信ユニットによってそれぞれ駆動されるアンテナの配列を装備できる。そのような配置は「アクティブアンテナシステム」またはAASと称される。
【0003】
AAS基地局の機能の概要は図1で提供される。基地局は、図1にトランシーバ配列11として描かれた多くのトランシーバユニットTXU/RXU1、TXU/RXU2、...、TXU/RXU Kを含む。各トランシーバユニットは、無線信号分配ネットワーク(RDN)12により1つ以上の物理的なアンテナA11...Amn上にマッピングされる。
【0004】
AASは、さまざまな潜在的アプリケーションによって無線ネットワークの性能を最適化する柔軟性を提供する。これらは、可変電子的ダウンチルト、セル分割、ユーザ固有ビームフォーミング、および空間多重化を含むが、それらに制限されない。アプリケーションはそれぞれ「ビームフォーミング」に関係してもよい。ビームフォーミングは空間フィルタリングともいい、指向性のある信号受信または送信のためのセンサまたは送信機の配列またはその両方において使われる信号処理技術である。これは例えば、特定の角度の信号が建設的干渉を被る一方、他が相殺的干渉を被り、それによって空間的な選択性を達成するような方法でフェーズドアレイの中のエレメントを結合することによって達成される。全方向の受信/送信と比較した改善は受信/送信の利得(または損失)として分かる。ビームフォーミングは、異なるトランシーバのそれぞれから送信される信号の位相と振幅とを個々に修正することによって達成される。
【0005】
どのようなセルラシステムにおいても、送信機システムと関連している重要なパラメータは送信信号の品質である。送信信号の品質が不完全ならば、望ましい帯域内信号に加えて、帯域成分の中の或る程度の歪みが送信されるであろう。受信機では、望ましい信号と歪み成分の相対的な受信電力レベルが、望ましい信号の受信電力レベルに従って変わらないであろう。従って、受信機における信号対干渉及び雑音レベル(SINR)が大きい場合、歪み成分は復調性能における制限要因になることがあり得る。
【0006】
送信機誘発歪みは、フェーズエラー、PA(電力増幅器)の非線形性、送信機雑音などなどの多くのソースから生じることがある。歪みの非常に重要なソースはいわゆるクリッピングによるもので、クリッピングにおいては、送信機信号のピーク電力は、電力増幅器におけるピーク対平均電力比を制限するために制限される。大きなピーク対平均電力比を避けることは、低歪みの経済的電力増幅器設計を達成するために必須である。しかし、このように送信信号を制限することは送信機誘発歪みを引き起こす。
【0007】
ピーク電力縮小方法による送信機の誘発歪みは、AAS(アクティブアンテナシステム)において大きな空間のゆらぎを示すことがあり、それによりセルのいくつかのエリアでかなり性能を低下するであろうし、相当の実装コストが増大する。
【0008】
AASシステムはまた、送信信号の品質の上の要件を満たさなければならない。この要件は、スケジューリングされたUEが基地局から信号を受信する空間の各ポイントで満たされていなければならない。
【0009】
1つの既存の解決策は、アンテナコネクタの最大EVM(エラーベクトル振幅)に要件を設定することである。AASシステムは複数のアンテナコネクタを含む可能性がある。既存の解決策についての第1の問題は、アンテナコネクタがAASシステムの中で使用可能でないことがあることである。しかしながら、AASがアンテナコネクタでコントロールでき、要件を満たすことができるとしても、ビームフォーミングによるさらなる問題がある。ビームフォーミングは、各無線送信機を通して送信される信号の位相と振幅とを修正することを伴っている。
【0010】
上述され、下にさらに説明されるように、クリッピングは、AASの各無線送信機で適用されなければならない。クリッピング雑音は信号と同調しており、それ故、ビームフォーミングの位相エレメントは送信信号に加えてクリッピング雑音に適用されるであろう。
【0011】
しかし、望ましい信号と比較したクリッピングの相対レベルは信号の振幅に依存するであろう。従って、振幅の重み付けが、各送信機で異なる信号に適用される場合に、望ましい信号に相対的なクリッピング信号の電力は、一様なクリッピング閾値を与えられた送信機のそれぞれで異なるであろう。これは、放射されたクリッピング信号の空間的特徴を、望ましい信号のそれへと異ならせる効果があるであろう。
【0012】
望ましい信号の主要なビームの中にあるUEは、クリッピングから低減した歪みレベルを経験することがあり、それゆえ必要とされるよりも低いEVMを経験するかもしれない。しかし、サイドローブの中にあるUE、あるいは、サイドローブに対応していない、望ましい信号の空白またはクリッピング信号の空白の中に在るUEは、非常に低いEVMを経験する可能性がある。
【0013】
受信したEVMが最悪である空間のポイントにおいてさえ既存の要件が満たされているように、この問題の可能であるけれども劣った解決策は、各送信機のアンテナコネクタでEVM要件を厳しくすることである。これはしかし各送信機の上の非常に厳しい要件を意味するであろう(それは、満たすことが困難または不可能であるか、または非常に高いコストか、またはその両方を意味する可能性がある)。
【発明の概要】
【0014】
従って、AASにおける、特にビームフォーミングを考慮したクリッピングの上記影響を軽減するための方法と装置とを提供することが本発明の目的である。ここに、用語クリッピングは信号のピーク電力を意図的に限定しているピーク電力低減方法を指す。
【0015】
本発明によると、複数の無線送信機を含む無線送信装置における信号処理方法が提供され、この方法においてクリッピングは前記複数の送信機の少なくとも1つにおける信号に適用され、クリッピングの量またはクリッピングの閾値またはその両方は、前記複数の無線送信機の各々について個別に調整される。
【0016】
さらに、送信される入力信号にクリッピングを適用するよう構成された複数の無線送信機を含む無線送信装置が提供され、この装置においてクリッピングの量またはクリッピングの閾値またはその両方は、前記複数の無線送信機の各々について個別に調整される。
【0017】
さらに、少なくとも1つのプロセッサによって実行又は解釈される場合に前記少なくとも1つのプロセッサに上記方法を実行させる命令を含むコンピュータプログラム、前記コンピュータプログラムを含むコンピュータプログラム製品、および前記コンピュータプログラムまたは前記コンピュータプログラム製品を含む担体が提供される。前記担体は、いかなる有形または無形の適当な担体であってよく、特に電気信号、光信号、無線信号、音響信号、磁気テープまたはディスク、光ディスク、半導体メモリ又は用紙であるか、又はそれらに含まれてよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本発明のさらなる特徴と利点は、特定であるけれども排他的でない、添付図面において非制限的な例の目的で説明される実施形態の詳細な説明からより明白になるであろう。
図1】アクティブアンテナシステム(AAS)の全体的なアーキテクチャを示す図である。
図2】一般的なトランシーバを示す図である。
図3】入力信号と、クリッピングされた信号と、雑音信号との間の関係を示す図である。
図4】ビームフォーミングした信号を送信するAAS基地局を示す図である。
図5】ビームフォーミングした望ましい信号と雑音信号とを送信する例におけるAAS基地局を示す図である。
図6】本発明による伝送システムを示す図である。
図7】生成されたAAS信号のEVM特性を示す図である。
図8】本発明による、生成されたAAS信号のEVM特性を示す図である。
図9
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態は下でより多くの詳細な記述の中で説明されるであろう。この説明および/または図面において、以下の省略形が使われることがある。
AAS アクティブアンテナシステム
EVM エラーベクトル振幅
PA 電力増幅器
RDN 無線(信号)分配ネットワーク
RF 無線周波数
RX 受信
UE ユーザ機器
本発明による上記の方法と装置とは以下の考察に基づく。
【0020】
送信機に適用されたクリッピングの量は、受入れ可能なPA動作のために厳密に必要とされているレベルを超えて増大させることができる。本発明によると、各送信機で適用されるクリッピングおよび考えられるクリッピング閾値は調整される。
【0021】
例えば、望ましい信号に対するクリッピングの比率が各送信機で同じになるように、この調整をすることができる。この場合に、クリッピング雑音の空間的パターンは望ましい信号のそれと同じになるであろうし、そのため、非常にEVMの小さいエリアは出現しないであろう。
【0022】
クリッピング信号の空間的パターンは望ましい信号と同じではないけれどもクリッピング雑音のレベルがスケジューリングされたUEの位置で低減されるように、いくつかの送信機でのクリッピングのレベルを調整することも考えられる。
【0023】
追加のクリッピングはRFサブシステムの中のPAの直前に実行されてよい。代わりに、クリッピング段をRFサブシステムの中のクリッピングに加えてベースバンドに含めることができ、その目的は、クリッピング雑音の空間的パターンを調整するために追加のクリッピングを適用することである。
【0024】
さらなる代替方法は、望ましい信号に相対的な、UEによって受信されたクリッピング雑音が許容レベルにあると同時に、各PAに示された信号がピーク対平均要件を満たすように、AASシステムの中の送信機アレイのそれぞれにおける重みのテーパリングとクリッピング量との両方を調整することである。用語テーパリングは、アンテナアパーチャ上の振幅分布に関するアレイアンテナの励起を指す。従って、スケジューリングされたUEのためのSINR(信号対干渉および雑音比)を最大化することができる。クリッピングとテーパリングとを調整することは、望ましい信号およびクリッピング歪みの空間的パターンの両方を修正することのインパクトを持つであろう。
【0025】
本発明の1つの概念は、従って、UEにより受信された、望ましい信号に対して相対的なクリッピング雑音が許容レベルにあると同時に、各PAに示された信号がピーク対平均要件を満たすように、AASシステムの中の送信機アレイのそれぞれの中で実行されるクリッピングの量または重みのテーパリングまたはその両方を調整することである。
【0026】
従って本発明は、複数の無線送信機を含む無線送信ユニットにおける信号を処理するための方法を提供し、その方法においては、クリッピングは少なくとも1つの送信機における信号に適用され、そこにおいて、受信機の所定の位置、あるいは動的な位置で、望ましい信号に対するクリッピングにより生成された雑音信号の比率が、所定の閾値あるいは動的に調整された閾値の下に保持されるようにクリッピングは適用される。
【0027】
この方法は特にアクティブアンテナシステムに、そしてより具体的にはビームフォーミングが適用されるアクティブアンテナシステムに、複数の無線送信機の制御を調和させることによって適用できる。
【0028】
この方法によって、例えばユーザ機器であってもよい受信機の位置で、クリッピング雑音の影響が、耐えられるレベルに保持されることが保証される。
【0029】
クリッピングを、複数の無線送信機の2つ以上あるいはすべてにさえも適用することが提供されてもよい。
【0030】
1つの実施形態においては、望ましい信号に対するクリッピング雑音信号の比率が、複数の無線送信機のすべてについて同じになるように、クリッピングは適用される。これによって、クリッピング雑音信号の空間的パターンは望ましい信号の空間的パターンと同じで、それにより、SNRは各位置で、すなわちその位置にかかわらずどの受信機についても同じである。
【0031】
代替の実施形態においては、クリッピング雑音のレベルと、特に望ましい信号に対するクリッピング雑音信号の比率が所定の位置では閾値よりも低くなるように、クリッピングは各無線送信機で個別に調整される。閾値は前もって決定するか、或いは動的に設定することができる。代わりに、SINRが最大化し、またはEVMが定められた位置で最小化され、またはその両方であるように、クリッピングを調整してもよい。
【0032】
定められた位置とは、例えばユーザ機器のような受信機の位置であってもよい。例えば無線セルまたはセクタのような一定の領域の中の受信機の数に依存して、1つ以上の位置が考慮されることも考えられる。それにより、SNRは少なくとも関係のある位置(すなわち受信機の位置)で耐えられるレベルに設定され得る。
【0033】
特に、クリッピングによって生成された雑音信号の空間分布が、望ましい信号の空間分布と実質的に同一であるように、クリッピングは調整されてもよい。すなわち、クリッピングによって作成された雑音信号のメインローブおよびサイドローブが、望ましい信号のメインローブおよびサイドローブと実質的に同一である。それにより、信号対雑音比またはEVMは、受信エリアの中のどの位置ででも同じであるか、或いは少なくとも同等である。
【0034】
ほかにとりうる方法として、クリッピングによって生成された雑音信号のメインローブの方向が望ましい信号のメインローブの方向と異なるようにクリッピングが調整されてもよい。すなわち雑音信号の主要な電力は、望ましい信号の主要な電力とは異なる方向、例えば望ましい信号の、より信号強度の低いエリアの方向(ローブの間の方向)に放射される。それにより、メインローブにおける(すなわち一般には望まれた方向への)望ましい信号の信号対雑音比あるいはEVMを改善できるが、他の方向への低減した信号対雑音比のコストは改善が期待できる。
【0035】
本発明はさらに、送信する入力信号へクリッピングを適用するよう構成される複数の送信機を含む無線伝送システムを提供し、そのシステムにおいては、受信機の所定の位置或いは動的な位置での、望ましい信号に対するクリッピングにより生成された雑音信号の比率が、所定の閾値あるいは動的に調整された閾値の下に保持されるように、クリッピングが各無線送信機に個別に適用される。
【0036】
無線伝送システムはさらに、無線送信機に接続されたか或いは無線送信機に含まれた、送信前に上述のようにクリッピングできる入力信号を増幅するよう構成された複数の電力増幅器を含んでもよい。
【0037】
無線伝送システムはさらに、無線送信機または電力増幅器またはその両方と接続された複数のアンテナ含んでもよい。
【0038】
特に、無線伝送システムは、上述した方法を実行するよう構成されてもよい。従って、無線伝送システムはまた、各無線送信機に適用されるクリッピングのそれぞれの量を決定するように構成されたプロセッサを含んでもよい。
【0039】
本発明の原理的な利点は、望ましい信号が低利得にさらされている間、送信信号の歪み成分が高利得で受信される空間中のポイントを避けることである。これは同様に、空間中で最悪のポイントで十分なEVMを提供するために各送信機で非常に厳格なEVMの要件を設定する必要を避け、それは無線送信機のコスト、サイズ、および電力消費量の著しい増加を防止するであろう。
【0040】
以下において、発明の実施形態は図に関連して説明される。
【0041】
図1はアクティブアンテナシステム(AAS)10の一般的なアーキテクチャを示し、それにより、そのようなAASを有するAAS基地局の機能の概要を提供する。このAAS10は多くのトランシーバユニットTXU/RXU1、TXU/RXU2、...、TXU/RXU K、すなわち図1においてトランシーバアレイ11として配置された無線送信機を含む。各トランシーバユニットは、1つ以上の物理的なアンテナA11、...、Amn(例えばアンテナアレイ13のエレメント)に、無線信号分配ネットワーク(RDN)12によりマッピングされる。従って、トランシーバユニットの数と一致しているK個の接続は、トランシーバアレイ11と無線信号分配ネットワーク12との間に配置される。無線信号分配ネットワーク(RDN)12は、例えばアンテナアレイ13に含まれたアンテナエレメントA11...Amnの総数と一致するL個のコネクタによりアンテナアレイ13に接続されている。もちろん、RDNのない実施形態も考えられ、そこでは、複数のトランシーバのそれぞれは、1つ以上のアンテナと直接接続されるか、或いは1つ以上のアンテナエレメントを含むアンテナモジュールと統合されさえする。従って、いくつかの実装においては、実際のコネクタは存在しなくともよい。
【0042】
アクティブアンテナシステム(AAS)基地局はさまざまな異なる方法で実装され得る。無線送信/受信ユニットはアンテナエレメントの直近に置かれてもよいし、他の場所に配置することもできる。ビームフォーミングについて重要な処理は、同様に、無線周波数電子回路、またはどこにでも統合できる。さらにベースバンド処理は、アンテナモジュールまたはどこにでも配置できる。
【0043】
AAS基地局はさまざまな異なるフォームファクタをとることができ、さまざまな異なるAAS構成が存在している。変化し得るパラメータは、垂直方向および水平の方向のアンテナエレメントの数、アンテナの間のスペーシング、各送信/受信のユニットから駆動されるアンテナの数、基地局の送信電力などを含む。
【0044】
3GPPシステムにおいて、送信信号の品質は、信号電力に対する歪み成分の比率を指す「エラーベクトル振幅」(EVM)を用いて測定される。既存の仕様では、基地局のアンテナコネクタで最大の許容EVMに要件が設定される。従って、EVMは、歪み成分の増加が信号対雑音/干渉を劣化させ、その結果ビットレートへの負の影響を与えるであろう信号対雑音干渉比になることに注意すること。非AASシステムでは、送信信号の望ましい成分と歪み成分の両方が同じアンテナ利得と経路損失を受けるので、空間の各ポイントでのEVMはアンテナコネクタで測定されたEVMと同じになるであろう。
【0045】
送信された歪み信号は多くの成分からなる。けれどの、主要な成分は、望ましい信号の「クリッピング」の結果である。「クリッピング」は、信号のピーク電力を意図的に限定しているピーク電力低減方法を指し、電力の著しいゆらぎに起因する電力増幅器における非線形性を避けるためにしばしば必要とされている。
【0046】
図2は、クリッピング機能を含めて、一般的な無線トランシーバ20(特にその送信機部分)を説明する。無線トランシーバ20は、上述した方法で入力信号にクリッピングを適用するクリッピングブロック21、クリッピングブロック21から受信したクリッピング済み入力信号を増幅するよう構成された電力増幅器22、および、クリッピングブロック21により適用されたクリッピングの量を決定するプロセッサ23を含む。フィルタ、デジタル−アナログコンバータなどを含むトランシーバの多くの構成要素は、明晰さのために図から省略されている。また、電力増幅器22の出力信号が渡されてもよい1つ以上のアンテナは図2中には描かれていない。
【0047】
入力信号と電力増幅器22の特徴とに基づいて、トランシーバは、どのくらいの量のクリッピングが適用されるべきであるかを決定する。この決定は例えばトランシーバに含まれるプロセッサ23によって、または一般に当業者に知られている他の手段によって行うことができる。それから、入力信号が電力増幅器22に印加される前に、入力信号に対してクリッピングが実施される。必要とされているクリッピングの量は、信号の電力レベル、電力増幅器(PA)の最大電力、および信号のピーク対平均比率に依存する可能性がある。
【0048】
図3に示されるように、「クリッピング」は歪み信号とみなすことができる。ここには、上段の図では、或る時間で閾値Sを超え、その時間では入力信号が制限すなわち閾値Sにクリッピングされ、中段の図に示すクリッピング済み信号となる入力信号が示されている。下段の図で示されたクリッピング済み信号と入力信号との差は、歪み信号またはクリッピング雑音と考えることができる。
【0049】
AASシステムにおいては、アンテナの各アンテナまたはサブグループは別個の無線ユニットによって、すなわちここに提供された例では図1図2に描かれているように別個のトランシーバによって駆動される。さらに、利得とフェーズの重み付けは各無線ユニットに別々に適用される。異なる利得の重み付けにより、各無線ユニットに適用される必要があるピーク電力減少量は異なる。そしてこれは、送信機誘発歪みの大きさが各アンテナで異なることを意味している。アンテナにおいて望ましい信号に対する相対的な歪みの大きさが異なることは、送信機誘発歪みの空間的パターンが、望ましい信号の空間的パターンと異なることを意味している。送信機誘発歪みの異なるパターンは、望ましい信号レベルより歪みレベルが大きい空間中の領域へと通じ、それにより、無線性能が低下し、データ転送速度が制限され得る。
【0050】
図4は、いかなる歪み成分または雑音成分も伴わない、または望ましい信号と同じ空間的特徴を有するそれら成分を伴うビームフォーミング済み信号を送信するAAS基地局40を示す。送信されたビームフォーミング済み信号は、一定の位置における信号強度を示す1つの中央のメインローブと数個のサイドローブとを持つ。ローブの間では、より信号強度の低いエリアが生じることがわかる。
【0051】
図5は、望ましい信号と同じ空間的特徴を持たないビームフォーミング済み信号と歪みまたは雑音信号とを送信する、図4のAAS基地局40と類似したAAS基地局50を示す。図5は、図4と同様の望ましい信号の空間的特徴(すなわちメインとサイドローブ)を、参照数字51で示された縁取りした白色により示し、歪みまたは雑音信号の空間的特徴(すなわちメインローブとサイドローブ)を、参照数字52で示された塗り潰した黒色により示す。この例において、歪みまたは雑音信号のメインローブは、望ましい信号の信号強度が低い(又は空白の)エリアにあり、従ってそのエリアにおいてはSNRが低くなるか、或いはEVMが非常に小さくなることは明白である。
【0052】
図5に概略が示され、図8により詳細に示された角度−信号強度パターンは、垂直面にだけでなく水平面にあてはめることができることは注目される。後者の場合には、基地局50からわかるように、受信品質は受信機、例えばユーザ機器の方向によって変わり得る。前者の場合には、受信品質は受信機、例えばユーザ機器の基地局50からの距離によって変わり得る。この効果(垂直下方傾斜とも示される)のため、基地局に近い受信機さえ低い受信品質または低い信号強度を経験することがある。
【0053】
上記で説明した本発明の方法および伝送システムによって、この空間的特徴は補正できるか、又は緩和できる。
【0054】
本発明の一実施形態が図6に示される。この図は、例えば無線基地局等の部分として2つの送信機61と62とを含む無線送信装置60を例示する。明らかに、示された例は任意の数の送信機に一般化することができる。図2について説明されたように、本例の送信機61と62は送信機20に類似しているので、上記の説明はここにもあてはまり、対応する構成要素は図2中と同じ参照数字によって示される。
【0055】
各送信機61、62に先がけて、放射信号上でビームフォーミングが成されるように、利得および位相シフトが入力信号に適用される。
【0056】
各送信機61、62の内部で、例えばプロセッサ23上にハードウェア、ソフトウェアまたはそれらの組み合わせで実装されたアルゴリズムは、入力信号レベルとピーク対平均比とを分析し、どのくらいのクリッピングを実行する必要があるか決定する。しかし、追加のステージはそれから、個々の送信機61、62のそれぞれで決められたクリッピングレベルを比較し、クリッピングレベルが必ずしもすべての送信機61、62で減らされるわけではないけれども望ましい信号に対するクリッピング比率がすべての送信機で同じとなるように、いくつかの送信機でクリッピングレベルを増大させるよう、送信機61、62のそれぞれのための新しい個々のクリッピングレベルを再選択する。この追加のステージは、例えば、処理装置63の形で実装されてもよく、それはしかるべきプログラムを実行している、当業者に知られているような任意のタイプのプロセッサでよく、ハードウェア、ソフトウェア、またはそれらの組み合わせで実装されてもよい。
【0057】
この方法で、クリッピング雑音の空間的パターンは、望ましい信号のそれと同じになり、かつ受信したクリッピング雑音に対する望ましい信号の比率が小さいような空間中の領域を避けるように調整され得る。
【0058】
クリッピングと重みテーパリングの両方を修正できることも考えられ、そのことは、望ましい信号の空間的パターンとクリッピング歪みの空間的パターンの両方を修正することに影響を及ぼすであろう。
【0059】
図7は、無線送信ユニットの中で信号を処理するための模範的な方法フローを示す。無線送信ユニットによって送信される信号をステップS710において生成した後に、ステップS720でビームフォーミングが適用される。これは、送信ユニットの複数の送信機それぞれのために利得またはフェーズまたはその両方を調整することによって遂行され、その送信機は例えば図1または図6について示されるトランシーバの一部である。そして、ステップS730において、クリッピングの量が複数の送信機のそれぞれにおいて調整される。これは、個々のクリッピング閾値または各送信機におけるクリッピング個々の量を設定することによって遂行できる。例えば、図3に示される、望ましい信号に対するクリッピング信号の比率が各送信機において同じとなるように、クリッピングを調整してよい。オプションで、個々の重みテーパリングをステップS740において各送信機で適用してもよい。重みテーパリングおよびクリッピングの調整を単一のステップに結合することも考えられ、特にクリッピングと重みテーパリングの調整は、送信信号の望ましい空間分布が送信機の個々の送信信号に基づいて生じるように遂行できる。これらの調整がされた後に、各送信機の中の信号はステップS750において増幅されて、無線送信のためにアンテナエレメントに出力される。
【0060】
上記の方法およびデバイスの原理的利点は、望ましい信号が低利得に見舞われる一方で送信信号の歪み成分が高利得で受信される空間中のポイントを避けることができることである。これにより、空間で最悪のポイントで十分なEVMを提供するために送信機のそれぞれでEVMに非常に厳格な要件を設定する必要が回避され、それはコスト、無線送信機のサイズ、および電力消費量の有意な増加を防止するであろう。さらに、上記の方法により、信号ビームのメインローブ中のEVMが更にもっと、具体的には受動システムにより可能なものを超えて増大できるように、歪みビームを信号ビームに対して異なる方向へと向けることが可能である。
【0061】
この利点は図8図9とにおいて説明される。
【0062】
図8は、テーパリングが重みに適用される場合に、AASアレイから作成した信号のEVM特性を示す。下方の曲線は望ましい信号の角度放射パターンを示す一方、上方の曲線はEVMの角度分布を示す。クリッピング雑音(この例においてはEVMの支配的成分である)と望ましいビームとの形状の相違により、大きなゆらぎがEVM特性の中に観察される。特に、望ましい信号の放射パターンにおける空白が生じる位置で、EVMは非常に高くなる。これは主に、EVMの寄与が、ここで考慮された状況の下ではアレイエレメントの間で相関性があるとみなされない可能性があり、その結果、コヒーレントアンテナアレイシステムなどで通常のビームフォーミング特性からの逸脱が生じるという事実のためである。
【0063】
図9は、テーパリングの適用されるAASで生成した信号について、本発明によりクリッピングを修正することの影響を説明する。下方の曲線は、望ましい信号の角度放射パターンを示し、連続した線が一様なアレイ励起についてのパターンを、破線がテーパリングされたアレイについてのパターンを示す。クリッピングおよびテーパリングまたはその両方が上述したように調整されるならば、上方の線は結果として生じているEVM分布を示し、ここで連続線および破線は再度それぞれ一様なパターンおよびテーパリングされたパターンに対応し、互いに重なり合っている。見ての通り、この場合、望ましい信号に対するクリッピング歪みすなわちEVMは一様になる。
【0064】
代わりに、クリッピング信号の空間的パターンは望ましい信号と同じでないけれども、クリッピング雑音のレベルがスケジューリングされた受信機、例えばUEの位置で減少するように、いくつかのまたはすべての発信機のクリッピングのレベルを調整することが考えられる。この場合に、SNRまたはEVMの小さいポイントはまだ存在する可能性があるが、受信機に影響しないとして受入れ可能である。
【0065】
従って上述したのと同じ利点があてはまる。ともかく、すべての実施形態の別の利点は、AASを持つシステムの中で、ビットレートに関してキー性能を維持できることだろう。
【0066】
明らかに、いくつかの変形例が、本発明の範囲を逸脱することなく当業者によりただちに成されることが明白であり、かつ成され得る。従って、特許請求の範囲は、例という形で説明において与えられた図示または好適な実施形態によって制限されないものとするけれども、むしろ、特許請求の範囲は、当業者によって均等物として扱われるであろうすべての特徴を含めて、本発明にある特許取得可能な新規の特徴のすべてを含むこととする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9