特許第5982163号(P5982163)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5982163
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/00 20060101AFI20160818BHJP
【FI】
   B60C11/00 C
   B60C11/00 D
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-93059(P2012-93059)
(22)【出願日】2012年4月16日
(65)【公開番号】特開2013-220717(P2013-220717A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2015年4月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 嘉孝
【審査官】 森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−024222(JP,A)
【文献】 特開平11−048708(JP,A)
【文献】 特表2007−518612(JP,A)
【文献】 特開昭59−070205(JP,A)
【文献】 米国特許第01664352(US,A)
【文献】 特開2001−047814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00−19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッドゴムが、接地面を構成するキャップ部と、前記キャップ部のタイヤ径方向内側に配されたベース部とを備える空気入りタイヤにおいて、
前記トレッドゴムのショルダー領域に、前記キャップ部の主体をなす本体ゴムよりもゴム硬度の高い櫛形ゴムが埋設され、
前記櫛形ゴムは、タイヤ径方向に延びて接地面に外端が露出し且つタイヤ幅方向に間隔を設けて配置された複数の縦板部と、前記ベース部のタイヤ径方向外側でタイヤ幅方向に延びて前記複数の縦板部の内端を互いに連結する横板部とを有し、
前記縦板部が接地面に向かってタイヤ幅方向外側に厚みを増加させるとともに、前記縦板部の位置がタイヤ幅方向外側になるにつれて前記外端の厚みが大きくなり、
前記櫛形ゴムはタイヤ幅方向の両側に設けられており、
タイヤ赤道からタイヤ幅方向の両側にそれぞれ接地半幅の30%となる前記トレッドゴムのセンター領域では、前記キャップ部が前記本体ゴムのみで形成されていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
タイヤ幅方向外側に面する前記縦板部の外壁面が、少なくとも接地面の近くで曲面またはジグザグ面により形成されている請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
−5℃における前記本体ゴムのショアA硬度をHs1、−5℃における前記櫛形ゴムのショアA硬度をHs2とするとき、(Hs2−Hs1)/Hs1が15〜25%である請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
タイヤ幅方向内側に面する前記縦板部の内壁面が、接地面に対して略垂直に延びている請求項1〜3いずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記櫛形ゴムが有する縦板部の本数が3〜5である請求項1〜4いずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雪上操縦安定性能及び耐摩耗性能に優れた空気入りタイヤに関し、特にスタッドレスタイヤとして有用である。
【背景技術】
【0002】
通常、トレッド部に埋設されるベルトやベルト補強材の端部は、トレッドゴムのショルダー領域の近くに配される。このため、走行時にはショルダー領域が路面に強く押し付けられ、それに伴って接地面内でタイヤ幅方向内側に向かう力、いわゆる面内収縮力が作用する。この面内収縮力に起因してトレッドゴムがワイピングを生じると、ショルダー領域における接地が不安定になり、延いては雪上操縦安定性能の低下を招来する。
【0003】
また、一般に、スタッドレスタイヤでは、トレッドゴムが比較的軟らかいゴムによって形成されている。それでいて、トレッドゴムのショルダー領域は、上述のように路面に強く押し付けられるとともに、コーナリング時には大きな負荷が作用する。そのため、ショルダー領域では摩耗の進行が比較的に早く、この点に関して耐摩耗性能を改善しうる手法が望まれる。
【0004】
特許文献1〜3には、トレッドゴムに物性の異なるゴムを埋設した空気入りタイヤが記載されているものの、上述した雪上操縦安定性能の低下やショルダー領域の早期摩耗に関して、その解決手段を示唆するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−278804号公報
【特許文献2】特開2003−104009号公報
【特許文献3】特開2009−1081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ショルダー領域でのワイピングと早期摩耗を抑制することにより、優れた雪上操縦安定性能と耐摩耗性能を発揮することができる空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、下記の如き本発明により達成することができる。即ち、本発明に係る空気入りタイヤは、トレッドゴムが、接地面を構成するキャップ部と、前記キャップ部のタイヤ径方向内側に配されたベース部とを備える空気入りタイヤにおいて、前記トレッドゴムのショルダー領域に、前記キャップ部の主体をなす本体ゴムよりもゴム硬度の高い櫛形ゴムが埋設され、前記櫛形ゴムは、タイヤ径方向に延びて接地面に外端が露出し且つタイヤ幅方向に間隔を設けて配置された複数の縦板部と、前記ベース部のタイヤ径方向外側でタイヤ幅方向に延びて前記複数の縦板部の内端を互いに連結する横板部とを有し、前記縦板部が接地面に向かってタイヤ幅方向外側に厚みを増加させるとともに、前記縦板部の位置がタイヤ幅方向外側になるにつれて前記外端の厚みが大きくなり、前記櫛形ゴムはタイヤ幅方向の両側に設けられており、タイヤ赤道からタイヤ幅方向の両側にそれぞれ接地半幅の30%となる前記トレッドゴムのセンター領域では、前記キャップ部が前記本体ゴムのみで形成されているものである。
【0008】
この空気入りタイヤでは、上記の如き櫛形ゴムがショルダー領域に埋設されていることにより、面内収縮力が作用した際に、横板部で連結された複数の縦板部がショルダー領域の本体ゴムを受け止める。このとき、縦板部が接地面に向かってタイヤ幅方向外側に厚みを増加させているため、隣接した本体ゴムがタイヤ径方向内側へ潜り込むように作用し、縦板部により堅固に受け止められる。面内収縮力はタイヤ幅方向外側にいくほど大きくなるが、縦板部の位置がタイヤ幅方向外側になるにつれて外端の厚みを大きくしていることで、より肉厚の縦板部が本体ゴムを受け止める。その結果、ショルダー領域での接地が安定化し、ワイピングが抑制されて雪上操縦安定性能が向上する。
【0009】
また、この空気入りタイヤでは、本体ゴムよりもゴム硬度の高い櫛形ゴムの縦板部が接地面で露出し、コーナリング時には、ショルダー領域に大きな負荷が作用するものの、接地長の伸張に伴って縦板部の露出する割合が増える。このため、ショルダー領域の早期摩耗を抑えて耐摩耗性能を改善することができる。しかも、縦板部が接地面に向かってタイヤ幅方向外側に厚みを増加させており、摩耗に伴って接地面に露出する縦板部の厚みが小さくなることから、本体ゴムと櫛形ゴムとの摩耗量のバランスを調整して、均一な摩耗に近付けられる。
【0010】
本発明の空気入りタイヤでは、タイヤ幅方向外側に面する前記縦板部の外壁面が、少なくとも接地面の近くで曲面またはジグザグ面により形成されているものでもよい。接地面付近の縦板部の外壁面が曲面で形成されていることで、隣接した本体ゴムがタイヤ径方向内側へ潜り込むように作用しやすく、縦板部で適切に受け止めることができる。また、接地面付近の縦板部の外壁面がジグザグ面で形成されていることで、タイヤ幅方向外側から内側へ向かって作用する接地時の歪みが吸収されると考えられ、ワイピングを抑制して雪上操縦安定性能を良好に向上できる。
【0011】
本発明の空気入りタイヤでは、−5℃における前記本体ゴムのショアA硬度をHs1、−5℃における前記櫛形ゴムのショアA硬度をHs2とするとき、(Hs2−Hs1)/Hs1が15〜25%であるものが好ましい。この割合を15%以上とすることで、上述した雪上操縦安定性能の向上効果及び耐摩耗性能の改善効果を良好に確保できる。また、この割合を25%以下とすることで、本体ゴムと櫛形ゴムとの摩耗量のバランスを調整して、均一な摩耗に近付けられる。ショアA硬度は、標準規格ASTM D2240に基づいて測定される。
【0012】
本発明の空気入りタイヤでは、前記トレッドゴムのセンター領域では、前記キャップ部が前記本体ゴムのみで形成されている。かかる構成によれば、単一配合にされたセンター領域が路面と密着しやすくなり、櫛形ゴムによってショルダー領域での接地が安定化する上記の作用と相俟って、雪上操縦安定性能を良好に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る空気入りタイヤの一例を概略的に示すタイヤ子午線半断面図
図2図1のタイヤの要部を示す断面図
図3】櫛形ゴムを拡大して示す断面図
図4】本発明の他の実施形態における櫛形ゴムを示す断面図
図5】本発明の他の実施形態における櫛形ゴムを示す断面図
図6】比較例におけるショルダー領域の構造を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1に示した空気入りタイヤは、一対のビード部1と、ビード部1からタイヤ径方向外側へ延びるサイドウォール部2と、そのサイドウォール部2の各々のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部3とを備える。カーカス4は、トロイダル形状をなすカーカスプライからなり、ビード部1に設けられたビードコア1aを挟み込むようにして端部が巻き上げられている。カーカスプライは、タイヤ周方向に対して略90°の角度で延びるカーカスコードをトッピングゴムで被覆して形成されている。
【0016】
トレッド部3では、たが効果によってカーカス4を補強するベルト5がカーカス4の外周に設けられ、そのベルト5の外周にベルト補強材6が積層されている。ベルト5は、ベルトコードをトッピングゴムで被覆して形成された2枚のベルトプライ5a,5bを有する。ベルトコードはタイヤ周方向に対して傾斜しており、そのコードが互いに逆向きに交差するようにベルトプライ5a,5bが積層されている。ベルト補強材6は、実質的にタイヤ周方向に延びた補強コードをトッピングゴムで被覆して形成されている。
【0017】
トレッドゴム10は、トレッド部3におけるタイヤ外面を構成する。図2に示すように、トレッドゴム10は、接地面を構成するキャップ部20と、キャップ部20のタイヤ径方向内側に配されたベース部30とを備える。本実施形態のトレッドゴム10は、更にウイング部40を側方に備え、その端部をサイドウォールゴム7に載せている。本発明は、このようなトレッドオンサイド構造に限られず、サイドウォールゴムの端部をトレッドゴムの端部に載せてなるサイドオントレッド構造を採用しても構わない。
【0018】
トレッドゴム10のショルダー領域には、キャップ部20の主体をなす本体ゴム21よりもゴム硬度の高い櫛形ゴム22が埋設されている。櫛形ゴム22は、タイヤ径方向に延びて接地面に外端が露出し且つタイヤ幅方向に間隔を設けて配置された複数の縦板部23と、ベース部30のタイヤ径方向外側でタイヤ幅方向に延びて複数の縦板部23の内端を互いに連結する横板部24とを有する。櫛形ゴム22は、かかる断面形状を以てタイヤ周方向に延在し、縦板部23の各々に隣接して本体ゴム21が配されている。
【0019】
図3に拡大して示すように、縦板部23は、接地面に向かってタイヤ幅方向外側に厚みを増加させている。この厚みの増加は、全ての縦板部に適用する必要はないが、タイヤ幅方向外側に配された複数本を含む縦板部に適用することが好ましい。本実施形態では、櫛形ゴム22が有する4本の縦板部23a,23b,23c,23dのうち、最もタイヤ幅方向内側に位置する縦板部23aが厚みを一定とし、残りの縦板部23b,23c,23dが接地面に向かって厚みを増加させている。
【0020】
更に、櫛形ゴム22は、縦板部23の位置がタイヤ幅方向外側になるにつれて外端の厚みが大きくなるように形成されている。即ち、縦板部23a,23b,23c,23dの外端の厚みは、Ta<Tb<Tc<Tdの関係を満たす。櫛形ゴム22において、隣り合う縦板部23の外端の厚みが同等となる(例えば、Tb=Tcとなる)箇所があっても構わないが、かかる外端の厚みの変化は、少なくとも3段階以上であることが好ましい。耐摩耗性能を高めるうえで、縦板部23の外端の厚みは少なくとも4mm以上であることが好ましい。
【0021】
面内収縮力が作用した際には、タイヤ幅方向内側に変位しようとするショルダー領域の本体ゴム21を複数の縦板部23が受け止める。このとき、縦板部23が上記の如き形状を有していることで、隣接した本体ゴム21がタイヤ径方向内側へ潜り込むように作用し、縦板部23により堅固に受け止められる。しかも、タイヤ幅方向外側にいくほど縦板部23の外端の厚みが大きくなるため、面内収縮力が大きく作用する本体ゴム21は、より肉厚の縦板部23で受け止められる。これによりショルダー領域での接地が安定化し、ワイピングを抑制して雪上操縦安定性能を向上できる。
【0022】
それでいて、本体ゴム21よりもゴム硬度の高い縦板部23が接地面で露出するとともに、コーナリング時には縦板部23の露出する割合が増えることから、ショルダー領域の早期摩耗を抑えて耐摩耗性能を改善できる。また、摩耗の進行に伴って接地面に露出する縦板部23の厚みが小さくなるため、本体ゴム21と櫛形ゴム22との摩耗量のバランスを調整して、均一な摩耗に近付けられる。
【0023】
櫛形ゴム22が設けられるショルダー領域は、ショルダー主溝8sから接地端Eに至る領域であり、このショルダー領域の接地面に複数の縦板部23が露出する。ショルダー主溝8sは、加硫成形時に形成される複数の周方向主溝のうち、タイヤ幅方向の最外側に位置する周方向主溝を指す。櫛形ゴム22は、ショルダー主溝8sからタイヤ幅方向内側にはみ出していても構わない。本実施形態では、接地端Eから接地半幅HWの50%となる範囲を含んだ領域Aに櫛形ゴム22を設けている。
【0024】
接地端Eは、正規リムにリム組みし、正規内圧を充填した状態でタイヤを平坦な路面に垂直に置き、正規荷重を加えたときの路面に接地するタイヤ軸方向の最外位置を指す。正規荷重及び正規内圧は、JISD4202(自動車タイヤの諸元)等に規定されている最大荷重(乗用車用タイヤの場合は設計常用荷重)及びこれに見合った空気圧とし、正規リムは、原則としてJISD4202等に定められている標準リムとする。
【0025】
本実施形態では、タイヤ幅方向外側に面する縦板部23の外壁面が、接地面の近くで曲面により形成されている。具体的には、縦板部23b,23c,23dの外壁面に曲面が形成され、これを以て接地面に向かってタイヤ幅方向外側に厚みを増加させている。この曲面は、縦板部の位置がタイヤ幅方向外側になるにつれて曲率半径が大きく、即ちRb<Rc<Rdの関係を満たし、それによって縦板部23の外端の厚みがTa<Tb<Tc<Tdとなっている。
【0026】
外壁面の曲面は、少なくとも接地面の近くに形成され、例えば各縦板部の外端の厚みの0.3〜1.5倍となる深さまで形成されるが、横板部24にまで達しても構わない。縦板部23b,23c,23dは、それぞれ内端からタイヤ径方向外側に一定の厚みで延び、途中から外壁面を湾曲させている。縦板部23aの外壁面、及び、タイヤ幅方向内側に面する縦板部23の各々の内壁面は、何れも接地面に対して略垂直に延びている。
【0027】
図4には、縦板部23の外壁面が、接地面の近くでジグザグ面により形成されている例を示す。接地面付近の縦板部23b,23c,23dの外壁面の形状以外は、図3と略同じ構造である。この例では、縦板部の位置がタイヤ幅方向外側になるにつれてジグザグの段数が多くなり、それによって縦板部23の外端の厚みがTa<Tb<Tc<Tdとなっている。
【0028】
図5には、縦板部23の外壁面が、接地面の近くで傾斜面により形成されている例を示す。接地面付近の縦板部23b,23c,23dの外壁面の形状以外は、図3と略同じ構造である。この例では、縦板部の位置がタイヤ幅方向外側になるにつれて傾斜面の傾斜角度が大きくなり、それによって縦板部23の外端の厚みがTa<Tb<Tc<Tdとなっている。櫛形ゴム22には、上述のような曲面やジグザグ面、傾斜面などが混在していても構わない。
【0029】
複数の縦板部23を適度な厚みや間隔で配置するうえで、櫛形ゴム22が有する縦板部の本数は3〜5が好ましい。また、複数の縦板部23は、等間隔で配置されることが好ましい。タイヤ幅方向の最内側に位置する縦板部23aにおいて、内壁面から隣り合う内壁面までの距離に対する外端の厚みの比Ta/Daは、例えば0.2〜0.3に設定される。タイヤ幅方向の最外側に位置する縦板部23dにおいて、内壁面から接地端Eまでの距離に対する外端の厚みの比Td/Ddは、例えば0.6〜0.9に設定される。
【0030】
櫛形ゴム22が4本の縦板部23を有する本実施形態において、タイヤ幅方向内側から2,3番目の縦板部23b,23cにおける上記の比Tb/Db,Tc/Dcは、それぞれ0.3〜0.5,0.4〜0.7が例示される。また、縦板部23が3本の場合、中央の縦板部における上記の比は、0.3〜0.6が例示される。縦板部23が5本の場合、タイヤ幅方向内側から2〜4番目の縦板部における上記の比は、例えば0.2〜0.5,0.3〜0.6,0.5〜0.8が例示される。
【0031】
横板部24の厚みは、櫛形ゴム22によるワイピングの抑制効果が得られる限り、特に限定されない。但し、横板部24の上面をプラットフォームよりも高い位置に設定することで、摩耗後のショルダー領域が一様に高硬度ゴム(横板部24)となるため、夏用タイヤへの転用を見込むことができる。プラットフォームは、スタッドレスタイヤとしての摩耗限界を知らせるために周方向主溝の溝底に設けられた突起である。横板部24は、最外側の縦板部23dよりも更にタイヤ幅方向外側に延びてウイング部40に達している。
【0032】
−5℃における本体ゴム21のショアA硬度をHs1、−5℃における櫛形ゴム22のショアA硬度をHs2とするとき、(Hs2−Hs1)/Hs1は15〜25%であることが好ましい。スタッドレスタイヤとして、トレッドゴム10の陸部が適度な倒れ込みを発現するように、Hs1は40〜60°が好ましく、43〜59°がより好ましい。これらの硬度の違いに起因して摩耗の進行度に差が生じた場合には、縦板部23にエッジが出現し、その引っ掻き効果によって雪上操縦安定性能の向上に寄与しうる。
【0033】
図1,2のように、トレッドゴム10のセンター領域では、キャップ部20が本体ゴム21のみで形成されている。それ故、センター領域は路面と密着しやすく、櫛形ゴム22による上記の作用と相俟って、雪上操縦安定性能を良好に向上できる。キャップ部20が本体ゴム21のみで形成されるセンター領域は、タイヤ赤道CEからタイヤ幅方向の両側に、それぞれ接地半幅HWの30%、より好ましくは40%の範囲で設定される。
【0034】
櫛形ゴム22は、タイヤ幅方向の片側のみに設けても構わないが、雪上操縦安定性能の向上効果及び耐摩耗性能の改善効果を高めるうえで、タイヤ幅方向の両側に設けることが好ましい。
【0035】
本発明の空気入りタイヤは、前述の如き作用効果を奏して、優れた雪上操縦安定性能を発揮しうることから、特にスタッドレスタイヤとして有用である。
【0036】
本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。例えば、トレッドゴムの表面に形成されるトレッドパターンは、使用する用途や条件に応じて適宜に変更できる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。尚、実施例等における評価項目は、下記のようにして測定を行った。
【0038】
(1)雪上操縦安定性能
テストタイヤを乗用車に装着して雪路面を走行し、直進や旋回などを実施してドライバーの官能試験により雪上操縦安定性能を評価した。テストタイヤは、サイズ245/40R18の乗用車用タイヤであり、リムサイズは18×8.5J、空気圧は200kPaである。比較例1の結果を100として指数で評価し、数値が大きいほど性能に優れていることを示す。
【0039】
(2)耐摩耗性能
乾燥路で所定の距離を走行した後、ショルダー領域におけるトレッドゴムの厚みの変化量を測定して耐摩耗性能を評価した。テストタイヤのサイズやリムサイズ、空気圧は上記と同じである。比較例1の結果を100として指数で評価し、数値が小さいほど性能に優れていることを示す。
【0040】
比較例及び実施例
図6(A)のように、キャップ部を本体ゴム51のみで形成したものを比較例1とした。また、図6(B)〜(F)のように、本体ゴム51よりもゴム硬度の高い高硬度ゴム52を設けたものを、それぞれ比較例2〜6とした。そして、図3,4の如き櫛形ゴムを高硬度ゴムとして設けたものを、それぞれ実施例1,2とした。本体ゴムや高硬度ゴムのゴム配合、その他のタイヤ構造については、各例において共通である。評価結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1に示すように、実施例1,2では、比較例1〜6に比べて、優れた雪上操縦安定性能及び耐摩耗性能を発揮できている。比較例4,6でも幾分か改善効果は見られるものの、その効果改善代は実施例1,2の方が大きい。
【符号の説明】
【0043】
3 トレッド部
10 トレッドゴム
20 キャップ部
21 本体ゴム
22 櫛形ゴム
23 縦板部
24 横板部
30 ベース部
40 ウイング部
図1
図2
図3
図4
図5
図6