(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1に記載のポリエステル系繊維用難燃加工剤を用いて、染色と同時にポリエステル系繊維に難燃加工処理を施すことを特徴とする難燃性ポリエステル系繊維製品の製造方法。
請求項2に記載のポリエステル系繊維用難燃・染色加工処理液を用いて、染色と同時にポリエステル系繊維に難燃加工処理を施すことを特徴とする難燃性ポリエステル系繊維製品の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0020】
<ポリエステル系繊維用難燃加工剤>
先ず、本発明のポリエステル系繊維用難燃加工剤について説明する。本発明のポリエステル系繊維用難燃加工剤(以下、単に「難燃加工剤」という)は、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート、および後述するアニオン界面活性剤(A)を含有する水分散物からなるものである。
【0021】
(トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート)
本発明においては、難燃加工成分として、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(以下、「TBC」と略す)を使用する。本発明の難燃加工剤は、このTBCがポリエステル系繊維の内部に浸透することによって、ポリエステル系繊維に耐久性に優れた難燃性を付与することが可能となる。本発明の難燃加工剤においては、このようなTBCを、後述する界面活性剤(A)を使用して、水に分散させたものである。また、本発明の難燃加工剤においては、TBCが経時的に沈降したり分離したりしても、攪拌によって容易に再分散させることができる。
【0022】
(アニオン界面活性剤(A))
本発明に用いられるアニオン界面活性剤(A)は、下記式(1):
【0024】
で表される、少なくとも2種のフェノール系化合物とホルムアルデヒドとの縮合物(以下、「フェノール−ホルムアルデヒド系縮合物」という。)である。前記式(1)において、R
1およびR
2は、それぞれ独立に下記式(1a)または(1b):
【0026】
で表される基を表し、mおよびnは、それぞれ独立に0以上の整数である。前記式(1)、(1a)および(1b)中のR
3およびR
4は、それぞれ独立に−Hまたは−CH
3を表し、Xは、−SO
3H、−CH
2SO
3H、およびこれらの塩で表される基のうちのいずれかの置換基を表す。また、本発明に用いられるアニオン界面活性剤(A)において、置換基Xを含有していないフェノール骨格と置換基Xを含有するフェノール骨格とのモル比は、1:0.2〜1:2.0であり、重合度m+n+2の平均値は2〜30である。
【0027】
このようなアニオン界面活性剤(A)を用いることにより、TBCによる染料の染着速度の変化を抑制することができ、TBCを含有する難燃加工剤を用いて染色と同時に難燃加工処理を施しても、染色加工処理のみを施したポリエステル系繊維製品との色差が小さい難燃性ポリエステル系繊維製品を得ることが可能となる。また、TBCによる染料の染着速度の変化を抑制するという効果により、バッチ間での色差が小さい難燃性ポリエステル系繊維製品を得ることも可能となる。このようなアニオン界面活性剤(A)は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0028】
前記式(1)および(1b)中の置換基Xを構成する塩としては、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩などが挙げられる。アルカリ金属塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどの塩が挙げられる。また、アミン塩としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、アリルアミンなどの1級アミンの塩;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジアリルアミンなどの2級アミンの塩;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミンなどの3級アミンの塩;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミンの塩などが挙げられる。これらの塩の中でも、TBCによる難燃効果を阻害しにくいという観点から、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩が好ましく、ナトリウム塩が特に好ましい。
【0029】
本発明にかかるアニオン界面活性剤(A)は、置換基Xを含有していないフェノール骨格と置換基Xを含有するフェノール骨格とを備える、フェノール−ホルムアルデヒド系縮合物である。このようなアニオン界面活性剤(A)において、「置換基Xを含有していないフェノール骨格」とは、前記式(1a)で表される末端基および下記式(1c):
【0031】
(式(1c)中のR
3は、−Hまたは−CH
3を表す。)
で表される繰り返し単位を意味する。前記式(1a)で表される末端基は、フェノール末端基またはクレゾール末端基であり、前記式(1c)で表される繰り返し単位は、フェノールまたはクレゾールとホルムアルデヒドとを縮合させることによって形成される繰り返し単位である。
【0032】
また、「置換基Xを含有するフェノール骨格」とは、前記式(1b)で表される末端基および下記式(1d):
【0034】
(式(1d)中、R
4は、−Hまたは−CH
3を表し、Xは、−SO
3H、−CH
2SO
3H、およびこれらの塩で表される基のうちのいずれかの置換基を表す。)
で表される繰り返し単位を意味する。前記式(1b)で表される末端基は、スルホン酸基、スルホン酸塩基、メチルスルホン酸基およびメチルスルホン酸塩基のうちのいずれかのアニオン性基を有するフェノール末端基またはクレゾール末端基であり、前記式(1d)で表される繰り返し単位は、スルホン酸基、スルホン酸塩基、メチルスルホン酸基およびメチルスルホン酸塩基のうちのいずれかのアニオン性基を有するフェノールまたはクレゾールとホルムアルデヒドとを縮合させることによって形成される繰り返し単位である。
【0035】
このようなアニオン界面活性剤(A)(すなわち、フェノール−ホルムアルデヒド系縮合物)は、フェノールおよびクレゾールのうちの少なくとも1種の置換基Xを含有しないフェノール系化合物と、フェノールスルホン酸、クレゾールスルホン酸、ヒドロキシフェニルメタンスルホン酸、ヒドロキシトリルメタンスルホン酸およびこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種の置換基Xを含有するフェノール系化合物と、ホルムアルデヒドとを、公知の方法により縮合反応させることによって得られるものである。前記縮合反応においては、ランダム付加縮合であってもブロック付加縮合であってもよい。
【0036】
本発明にかかるアニオン界面活性剤(A)において、置換基Xを含有していないフェノール骨格(すなわち、前記式(1a)で表される末端基および前記式(1c)で表される繰り返し単位)と置換基Xを含有するフェノール骨格(すなわち、前記式(1b)で表される末端基および前記式(1d)で表される繰り返し単位)とのモル比は、〔(1a)+(1c)〕:〔(1b)+(1d)〕=1:0.2〜1:2.0である。置換基Xを含有するフェノール骨格の割合が前記範囲外になると、TBCによる染着速度の変化を十分に抑制することが困難となり、染色加工処理のみを施した場合との間でポリエステル系繊維製品の色差が大きくなる。また、バッチ間でのポリエステル系繊維製品の色差も大きくなる。本発明にかかるアニオン界面活性剤(A)においては、TBCによる染着速度の変化がさらに抑制され、染色加工処理のみを施した場合との間でポリエステル系繊維製品の色差がさらに小さくなり、また、バッチ間でのポリエステル系繊維製品の色差も小さくなるという観点から、〔(1a)+(1c)〕:〔(1b)+(1d)〕=1:1.0〜1:1.5であることが好ましい。なお、Xを含有していないフェノール骨格とXを含有するフェノール骨格とのモル比は、アニオン界面活性剤(A)を調製する際に用いられる原料フェノール類の混合モル比から求めることができる。
【0037】
前記式(1)において、mおよびnは、それぞれ独立に0以上の整数である。なお、mおよびnの上限は、前記置換基Xを含有していないフェノール骨格と置換基Xを含有するフェノール骨格とのモル比ならびに前記重合度m+n+2の平均値が所定の範囲となるような値である。本発明にかかるアニオン界面活性剤(A)において、フェノール−ホルムアルデヒド系縮合物の重合度(m+n+2)の平均値(以下、「平均重合度」という。)は、2〜30である。平均重合度が前記下限未満になると、フェノール−ホルムアルデヒド系縮合物が形成されず、TBCによる染着速度の変化を十分に抑制することが困難となり、染色加工処理のみを施した場合との間でポリエステル系繊維製品の色差が大きくなる。また、バッチ間でのポリエステル系繊維製品の色差も大きくなる。他方、平均重合度が前記上限を超えると、ゲル化物が形成される。本発明にかかるアニオン界面活性剤(A)においては、TBCによる染着速度の変化がさらに抑制され、染色加工処理のみを施した場合との間でポリエステル系繊維製品の色差がさらに小さくなり、また、バッチ間でのポリエステル系繊維製品の色差も小さくなるという観点から、前記フェノール−ホルムアルデヒド系縮合物の平均重合度は、3〜15であることが好ましく、3〜10であることがより好ましい。なお、このようなフェノール−ホルムアルデヒド系縮合物の平均重合度は、前記縮合反応の際に、フェノール系化合物全体に対するホルムアルデヒドの混合モル比を調整することによって制御することができる。例えば、ホルムアルデヒドの混合量をフェノール系化合物全体にして、0.5〜0.97モル倍とすることによって、所定の平均重合度のフェノール−ホルムアルデヒド系縮合物を得ることができる。前記フェノール−ホルムアルデヒド系縮合物の平均重合度は、フェノール系化合物とホルムアルデヒドとの原料モル比から求めることができる。すなわち、フェノール系化合物の仕込みモル数をa、ホルムアルデヒドの仕込みモル数をbとし、これらのうちの過剰成分を分母として、r=a/bまたはb/aとし、反応率をpとすると、平均重合度(P
n)は、下記式:
P
n=(1+r)/[2r(1−p)+(1−r)]
で表され、反応率を100%(p=1)とすると、
P
n=(1+r)/(1−r)
となり、フェノール−ホルムアルデヒド系縮合物の数平均重合度を求めることができる。ただし、本発明においては、前記式(1)に示すように、フェノール骨格数の平均を平均重合度としているため、本発明にかかるフェノール−ホルムアルデヒド系縮合物の平均重合度は、(P
n+1)/2となる。
【0038】
また、平均重合度は、フェノール−ホルムアルデヒド系縮合物の結合硫酸値から、置換基Xを含有しないフェノール骨格と置換基Xを含有するフェノール骨格の比率Z
m:Z
nを求め、置換基Xを含有しないフェノール骨格の分子量と前記比率Z
m、置換基Xを含有するフェノール骨格の分子量と前記比率Z
n、前記比率のフェノール骨格の結合に要するCH
2の量、ならびにゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した数平均分子量に基づいて算出することも可能である。
【0043】
(難燃加工剤およびその製造方法)
本発明の難燃加工剤は、TBCおよび前記アニオン界面活性剤(A)を含有する水分散物からなるものである。このような難燃加工剤は、TBC、前記アニオン界面活性剤(A)および水を混合し、TBCを水中に分散させることによって製造することができ、TBCの水分散物に前記アニオン界面活性剤(A)を混合することによって製造することもできる。
【0044】
本発明の難燃加工剤において、TBCの含有量としては、難燃加工剤全体に対して15〜50質量%が好ましく、30〜40質量%がより好ましい。TBCの含有量が前記下限未満になると、難燃加工剤の使用量を多くしないと、ポリエステル系繊維に十分な難燃性を付与することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、TBCの分散安定性が低下する傾向にある。
【0045】
また、本発明の難燃加工剤において、前記アニオン界面活性剤(A)の含有量は、TBC100質量部に対して5〜40質量部である。アニオン界面活性剤(A)の含有量が前記下限未満になると、TBCの分散性が低下し、ポリエステル系繊維製品に難燃性を付与することが困難となり、他方、前記上限を超えると、TBCの吸尽量が低下し、ドライクリーニングに対する耐久難燃性が低下する。本発明の難燃加工剤においては、TBCによる染着速度の変化がさらに抑制され、染色加工処理のみを施した場合との間でポリエステル系繊維製品の色差がさらに小さくなり、また、バッチ間でのポリエステル系繊維製品の色差も小さくなるという観点から、アニオン界面活性剤(A)の含有量としては、TBC100質量部に対して5〜30質量部が好ましく、5〜20質量部がより好ましい。
【0046】
また、本発明の難燃加工剤においては、分散状態にあるTBCの平均粒径(メジアン径)が、1.0μm以下であることが好ましく、0.6μm以下であることがより好ましい。分散状態にあるTBCの平均粒径が前記上限を超えると、TBCの分散安定性が低下する傾向にある。このような平均粒径でTBCを分散させる方法としてはビーズミルやホモジナイザーなどを用いて湿式分散させる方法などが挙げられる。また、TBCの平均粒径(メジアン径)に加え、90%粒径が1.0μm以下(好ましくは0.8μm以下)になると、さらに安定な分散状態の難燃加工剤を得ることができる。なお、平均粒径(メジアン径)とは、積算体積粒度分布において積層体積が小径側から50%となる粒径をいい、90%粒径とは、積算体積粒度分布において積層体積が小径側から90%となる粒径をいう。
【0047】
本発明の難燃加工剤においては、本発明の効果を損なわない範囲において、保護コロイド剤、有機溶媒を添加することができる。これにより、難燃加工剤中の各成分の分離、沈降を抑制し、難燃加工剤の分散状態の経時的な変化を抑制することが可能となる。保護コロイド剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム、澱粉などの水溶性高分子化合物が挙げられ、有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどの水溶性有機溶剤が挙げられる。
【0048】
本発明の難燃加工剤は、ポリエステル系繊維に難燃性を付与できるという観点から、その使用態様は、染色と同時に難燃処理を施す場合に限られるものではないが、後述するように、TBCによる染料の染着速度の変化を抑制して、得られるポリエステル系繊維製品と染色加工処理のみを施したポリエステル系繊維製品との色差を小さくしたり、バッチ間でのポリエステル系繊維製品の色差を小さくしたりすることができるという観点から、ポリエステル系繊維に染色と同時に難燃処理を施す場合に使用することが好ましい。
【0049】
<ポリエステル系繊維用難燃・染色加工処理液>
本発明のポリエステル系繊維用難燃・染色加工処理液(以下、単に「難燃・染色加工処理液」という)は、このような本発明の難燃加工剤と染料とを含有するものであり、ポリエステル系繊維に染色と同時に(好ましくは、同浴で)難燃加工処理を施す場合に使用することが好ましい。本発明の難燃・染色加工処理液に用いられる染料としては特に制限はなく、分散染料、分散型カチオン染料および蛍光染料など、従来公知のポリエステル系繊維用染料が挙げられる。
【0050】
<難燃性ポリエステル系繊維製品の製造方法>
本発明の難燃性ポリエステル系繊維製品の製造方法は、本発明の難燃加工剤(好ましくは、本発明の難燃・染色加工処理液)を用いて染色と同時に(好ましくは、同浴で)ポリエステル系繊維に難燃加工処理を施すことによって難燃性ポリエステル系繊維製品を製造する方法である。このように、本発明の難燃加工剤(好ましくは、本発明の難燃・染色加工処理液)を用いてポリエステル系繊維を染色と同時に(好ましくは、同浴で)難燃加工処理を施すことによって、ポリエステル系繊維にTBCが吸着および/または吸収され、耐久性に優れた難燃性が付与されるとともに、染色加工処理のみを施したポリエステル系繊維製品との色差を小さくすることが可能となる。
【0051】
本発明の難燃性ポリエステル系繊維製品の製造方法に用いられるポリエステル系繊維としては特に制限はなく、例えば、レギュラーポリエステル繊維、カチオン可染ポリエステル繊維、再生ポリエステル繊維、またはこれら2種以上からなるポリエステル系繊維との糸、トウ、トップ、カセ、織物、編み物、不織布、ロープが挙げられる。さらに、これらのポリエステル系繊維と綿、麻、絹、羊毛などの天然繊維;レーヨン、アセテートなどの半合成繊維;ナイロン、アクリル、ポリアミドなどの合成繊維;炭素、ガラス、セラミックス、アスベスト、金属などの無機繊維;またはこれらの混紡により得られる糸、トウ、トップ、カセ、織物、編み物、不織布、ロープなどが挙げられる。
【0052】
本発明の難燃性ポリエステル系繊維製品の製造方法において、TBCの吸尽量は特に制限されないが、ポリエステル系繊維に対して0.1〜30%o.w.f.(繊維質量に対する質量%)であることが好ましく、0.2〜15%o.w.f.であることがより好ましく、0.3〜10%o.w.f.であることが特に好ましい。TBCの吸尽量が前記下限未満になると、十分な難燃効果を得ることができないおそれがある。一方、TBCの吸尽量が多くなるにつれて難燃効果は強くなるが、前記上限を超えると、得られる難燃性ポリエステル系繊維製品の風合いが硬くなるおそれがある。
【0053】
本発明の難燃加工剤を用いてポリエステル系繊維に染色と同時に難燃加工処理を施す方法としては特に制限はないが、例えば、高圧吸尽法や、パディング法、スプレー法、コーティング法、プリント法などのサーモゾル法が挙げられる。
【0054】
高圧吸尽法により染色と同浴で難燃・染色加工処理を施す場合には、分散染料、分散型カチオン染料および蛍光染料といった少なくとも1種の染料、分散均染剤、およびpH調整剤(例えば、酢酸)などを含有する通常の染色浴に、TBC濃度が0.1〜30%o.w.f.となるように、本発明の難燃加工剤を添加し、この難燃・染色浴(本発明の難燃・染色加工処理液)にポリエステル系繊維を浸漬して、110〜150℃(より好ましくは120〜145℃)で10〜90分間(より好ましくは20〜60分間)熱処理を施すことによって、ポリエステル系繊維が染色されるとともに、TBCをポリエステル系繊維に吸着および/または吸収させることができる。難燃・染色加工処理の温度が前記下限未満になると、TBCが溶融しにくく、また、ポリエステル系繊維の非結晶領域が緩みにくいため、TBCが十分にポリエステル系繊維に吸着および/または吸収されず、ポリエステル系繊維に十分な難燃性を付与できない傾向にある。他方、前記上限を超えても、添加量に見合う効果が得られないばかりか、ポリエステル系繊維の変色や脆化が発生する傾向にある。高圧吸尽法に使用する設備としては、液流染色機、ビーム染色機、チーズ染色機などが挙げられる。
【0055】
パディング法により染色と同浴で難燃・染色加工処理を施す場合には、分散染料、分散型カチオン染料および蛍光染料といった少なくとも1種の染料、分散均染剤、およびpH調整剤(例えば、酢酸)などを含有する通常の染色浴に、ポリエステル系繊維をパディングすることによりポリエステル系繊維に付着するTBC濃度が0.1〜30%o.w.f.となるように、本発明の難燃加工剤を添加し、この難燃・染色浴(本発明の難燃・染色加工処理液)にポリエステル系繊維をパディングして、難燃・染色加工処理液を付着させる。
【0056】
スプレー法やコーティング法、プリント法により染色と同時に難燃加工処理を施す場合には、分散染料、分散型カチオン染料および蛍光染料といった少なくとも1種の染料、分散均染剤、およびpH調整剤(例えば、酢酸)などを含有する通常の染色液に、スプレー、コーティング、あるいはプリントによりポリエステル系繊維に付着するTBC濃度が0.1〜30%o.w.f.となるように、本発明の難燃加工剤を添加し、スプレーやコーティング、プリントによって、この難燃・染色加工処理液をポリエステル系繊維に付着させる。また、スプレー法においては、分散染料、分散型カチオン染料および蛍光染料といった少なくとも1種の染料、分散均染剤、およびpH調整剤(例えば、酢酸)などを含有する通常の染色液と本発明の難燃加工剤とを、ポリエステル系繊維に付着するTBC濃度が0.1〜30%o.w.f.となるように、それぞれ独立に同時にスプレーすることによって、染色液と難燃加工剤とをポリエステル系繊維に付着させてもよい。
【0057】
このようにパディング法、スプレー法、コーティング法、プリント法により難燃・染色加工処理液を付着させたポリエステル系繊維に、乾熱処理や、常圧スチーム処理、加熱スチーム処理、高圧スチーム処理などの蒸熱処理を施すことによって、ポリエステル系繊維が染色されるとともに、TBCをポリエステル系繊維に吸着および/または吸収させることができる。乾熱処理および蒸熱処理の温度としては特に制限はないが、通常110〜210℃であり、160℃〜210℃が好ましい。乾熱処理および蒸熱処理の温度が前記下限未満になると、TBCが溶融しにくく、また、ポリエステル系繊維の非結晶領域が緩みにくいため、TBCが十分にポリエステル系繊維に吸着および/または吸収されず、ポリエステル系繊維に十分な難燃性を付与できない傾向にある。他方、前記上限を超えると、ポリエステル系繊維の変色や脆化が発生する傾向にある。
【0058】
スプレー法において使用するスプレーとしては、例えば、圧搾空気により難燃・染色加工処理液を霧状にして吹き付けるエアースプレー、液圧霧化方式のエアースプレーが挙げられる。コーティング法において使用するコーターとしては、例えば、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースコーター、トランスファーコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、キャストコーター、カーテンコーター、カレンダーコーターが挙げられる。プリント法において使用する捺染機としては、例えば、ローラー捺染機、フラットスクリーン捺染機、ロータリースクリーン捺染機が挙げられる。
【0059】
また、コーティング法により難燃加工処理を施す場合には、本発明の難燃・染色加工処理液にアニオン界面活性剤または非イオン界面活性剤からなる起泡剤を添加して泡状の難燃・染色加工処理液を調製し、ポリエステル系繊維に付着させる泡加工コーティング法、本発明の難燃・染色加工処理液に粘度調整剤を添加して加工に適した粘度に調整した難燃・染色加工処理液を使用するコーティング法などを適用することができる。
【0060】
なお、泡加工コーティング法によれば、難燃加工剤の必要量をポリエステル系繊維に付着させることができ、難燃・染色加工処理液を全量無駄なく使用することができため、乾燥に要するエネルギーおよび時間を大幅に短縮できるが、起泡剤の作用により難燃加工剤の吸尽量が低下するおそれがあるため、起泡剤の使用量を必要最低限に抑えることが重要である。また、粘度調整剤としては特に制限はなく、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、プロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ザンタンガム、デンプン糊が挙げられる。
【0061】
このようにして得られる難燃性ポリエステル系繊維製品においては、難燃・染色加工処理を施した後に、通常の公知の方法によって難燃性ポリエステル系繊維製品のソーピング処理を行い、ポリエステル系繊維に浸透または固着せずに表面に残留した余剰のTBC、分散染料、分散型カチオン染料などを除去することが好ましい。繊維表面に単に付着しただけの余剰のTBC、分散染料、分散型カチオン染料、蛍光染料などは、ポリエステル系繊維の難燃性を阻害するおそれがある。このようなソーピング処理方法としては特に制限はなく、例えば、0.3〜5g/Lのソーピング剤、0.3〜5g/Lの再汚染防止剤、0.3〜5g/Lのソーダ灰、および水を含有するソーピング処理浴(浴比1:5〜1:30)に、難燃・染色加工処理が施された難燃性ポリエステル系繊維製品を浸漬し、50〜90℃で5〜30分間熱処理する方法が挙げられる。このようなソーピング処理に用いられるソーピング剤としては特に制限はなく、通常のアニオン系、非イオン系、両性系の界面活性剤およびこれらが配合された市販のソーピング剤が挙げられる。また、再汚染防止剤についても特に制限はなく、市販の再汚染防止剤を使用することができる。
【0062】
また、本発明の難燃性ポリエステル系繊維製品の製造方法においては、本発明の効果を損なわない範囲において、他の繊維用加工剤を本発明の難燃加工剤と併用することもできる。このような繊維用加工剤としては、例えば、浴中柔軟剤、帯電防止剤、撥水撥油剤、防汚剤、硬仕上げ剤、風合調整剤、柔軟剤、抗菌剤、吸水剤、スリップ防止剤、耐光堅牢度向上剤、キャリヤー剤などが挙げられる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
<アニオン界面活性剤(A)の調製>
(調製例1)
反応容器に、クレゾール86g(0.8モル)、ヒドロキシトリルメタンスルホン酸ナトリウム269g(1.2モル)、37質量%ホルマリン溶液130g(ホルムアルデヒド1.6モル)、水酸化ナトリウム8gおよび水625gを仕込み、約100℃で5時間反応させて、アニオン界面活性剤(A−1)の水分散物を得た。
【0065】
(調製例2)
反応容器に、クレゾール130g(1.2モル)、ヒドロキシトリルメタンスルホン酸ナトリウム179g(0.8モル)、37質量%ホルマリン溶液130g(ホルムアルデヒド1.6モル)、水酸化ナトリウム8gおよび水602gを仕込み、約100℃で5時間反応させて、アニオン界面活性剤(A−2)の水分散物を得た。
【0066】
(調製例3)
反応容器に、クレゾール130g(1.2モル)、ヒドロキシトリルメタンスルホン酸ナトリウム179g(0.8モル)、37質量%ホルマリン溶液141.8g(ホルムアルデヒド1.75モル)、水酸化ナトリウム10gおよび水605gを仕込み、約100℃で5時間反応させて、アニオン界面活性剤(A−3)の水分散物を得た。
【0067】
(調製例4)
反応容器に、クレゾール86g(0.8モル)、クレゾールスルホン酸ナトリウム252g(1.2モル)、37質量%ホルマリン溶液108.1g(ホルムアルデヒド1.33モル)、水酸化ナトリウム8gおよび水607gを仕込み、約100℃で5時間反応させて、アニオン界面活性剤(A−4)の水分散物を得た。
【0068】
(調製例5)
反応容器に、フェノール74g(0.8モル)、フェノールスルホン酸ナトリウム235g(1.2モル)、37質量%ホルマリン溶液130g(ホルムアルデヒド1.6モル)、水酸化ナトリウム8gおよび水485gを仕込み、約100℃で5時間反応させて、アニオン界面活性剤(A−5)の水分散物を得た。
【0069】
(調製例6)
反応容器に、ヒドロキシトリルメタンスルホン酸ナトリウム448g(2.0モル)、37質量%ホルマリン溶液130g(ホルムアルデヒド1.6モル)、水酸化ナトリウム8gおよび水674gを仕込み、約100℃で5時間反応させて、アニオン界面活性剤(a−1)の水分散物を得た。
【0070】
(調製例7)
反応容器に、クレゾールスルホン酸ナトリウム420g(2.0モル)、37質量%ホルマリン溶液130g(ホルムアルデヒド1.6モル)、水酸化ナトリウム8gおよび水609gを仕込み、約100℃で5時間反応させて、アニオン界面活性剤(a−2)の水分散物を得た。
【0071】
得られたアニオン界面活性剤のフェノール骨格のモル比を原料仕込み比から求めた。また、アニオン界面活性剤の平均重合度は、残留ホルムアルデヒド濃度が0.1%未満であったことから、反応率を100%として、フェノール系化合物とホルムアルデヒドの原料モル比から求めた。これらの結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
(実施例1)
<難燃加工剤の調製>
トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート、アニオン界面活性剤(A)としてアニオン界面活性剤(A−1)、および水を、表2に示す配合量となるように混合し、マイルダーを用いて予備分散した後、ビーズミルを用いて分散処理を施し、分散物のメジアン径(d50)が0.4〜0.6μmの難燃加工剤を調製した。なお、表2に示したアニオン性界面活性剤(A)の配合量は不揮発分の配合量に換算した値である。得られた分散物のメジアン径(d50)は以下の方法により測定した。また、得られた難燃加工剤の安定性を以下の方法に従って評価した。その結果を表2に示す。
【0074】
(メジアン径(d50))
レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(HORIBA社製「LA−920」)を用い
て難燃加工剤の積算体積粒度分布を測定し、積算体積が小粒径側から50%となる粒子径をメジアン径(d50)とした。
【0075】
(難燃加工剤の安定性)
調製直後の難燃加工剤の外観を目視で観察し、下記基準で判定した。その後、この難燃加工剤を20℃で30日間静置した。静置後の難燃加工剤の外観を目視で観察し、下記基準で判定した。
A:沈降や分離がないもの。
B:分離しているが、簡単な撹拌操作で再分散可能なもの。
C:分離や沈降物が発生しており、簡単な撹拌操作では再分散できないもの。
【0076】
また、静置後の難燃加工剤を再分散し、分散物のメジアン径(d50)を前記方法に従って測定した。
【0077】
<難燃・染色加工処理(1)>
得られた難燃加工剤を12%o.w.f.の割合で、分散染料としてDianix Red AC−E01、Dianix Yellow AC−E NEWおよびDianix Blue AC−E(いずれも、ダイスタージャパン(株)製)を各々0.2%o.w.f.の割合で、分散均染剤(日華化学(株)製「ニッカサンソルトRM−3406」)を0.5g/Lで、80質量%酢酸を0.5g/Lで含有する難燃・染色加工処理液を調製した。
【0078】
次に、目付220g/m
2の横糸原着レギュラーポリエステル(100%)未染色布をミニカラー染色機((株)テクサム技研製「MINI−JET D−100」)にセットし、前記難燃・染色加工処理液を仕込んだ染色同浴中、浴比1:15の条件で、常温から昇温速度2℃/分で130℃まで昇温し、130℃で30分間保持して、ポリエステル布に難燃・染色加工処理を施した。
【0079】
次に、前記難燃・染色加工処理により得られたポリエステル繊維製品を、ソーピング剤(日華化学(株)製「リポトールTC−350」)2g/Lおよびソーダ灰2g/Lを含有する水溶液に浸漬し、80℃で20分間のソーピング処理を施した。このソーピング処理後のポリエステル繊維製品を水洗し、180℃で1分間乾燥して難燃性ポリエステル繊維製品を得た。得られた難燃性ポリエステル繊維製品の難燃成分吸尽量および難燃性を以下の方法により測定した。その結果を表2に示す。
【0080】
(難燃成分吸尽量)
難燃加工剤を用いなかった以外は前記難燃・染色加工処理(1)と同様にしてポリエステル(100%)未染色布に染色加工処理を施し、ポリエステル染色布を作製した。このポリエステル染色布および前記難燃性ポリエステル繊維製品の質量を測定して質量差を求め、ポリエステル未染色布の質量に対する前記質量差の割合を難燃成分吸尽量(%)とした。
【0081】
(難燃性)
水洗い洗濯前の加工上がりの試料として、得られた難燃性ポリエステル繊維製品をそのまま用いた。また、水洗い洗濯後の試料として、JIS L 1091(1999)に記載の方法に従って、得られた難燃性ポリエステル繊維製品を5回水洗い洗濯したもの用いた。さらに、ドライクリーニング後の試料として、JIS L 1018(1999)に記載の方法に従って、得られた難燃性ポリエステル繊維製品を5回ドライクリーニングしたものを用いた。これらの試料について、以下の方法により難燃性を評価した。
【0082】
(i)45゜ミクロバーナー法
JIS L 1091(1999)に記載のA−1法により、残炎時間と燃焼面積を測定した。なお、残炎時間が3秒以内且つ燃焼面積が30cm
2以下の場合を「A」、それ以外の場合を「B」と判定した。
【0083】
(ii)コイル法(接炎試験)
JIS L 1091(1999)に記載のD法により、接炎回数を測定した。なお、接炎回数が3回以上の場合を「A」、2回以下の場合を「B」と判定した。
【0084】
<難燃・染色加工処理(2)>
分散染料の濃度を各々0.1%o.w.f.に変更した以外は前記難燃・染色加工処理(1)と同様にして難燃性ポリエステル繊維製品を作製した。得られた難燃性ポリエステル繊維製品の色差を以下の方法により評価した。その結果を表2に示す。
【0085】
(色差)
難燃加工剤を用いなかった以外は前記難燃・染色加工処理(2)と同様にしてポリエステル(100%)未染色布に染色加工処理を施し、ポリエステル染色布を作製した。このポリエステル染色布と前記難燃性ポリエステル繊維製品との色差(ΔE)を測色計(ミノルタ(株)製「CM−3700d」)を用いて測定した。
【0086】
また、前記難燃性ポリエステル繊維製品の色相を知覚色度指数(a*値、b*値)で判定し、
図1に示すように、a*値に対してb*値をプロットした。a*値、b*値が、ポリエステル染色布の場合と同様に右下がりに推移したものを「A」、ポリエステル染色布の場合とは逆に右上がりに推移したものを「B」と判定した。
【0087】
<難燃・染色加工処理(3)>
得られた難燃加工剤を12%o.w.f.の割合で、分散染料(ダイスタージャパン(株)製「Dianix Red AC−E01」)を1%o.w.f.の割合で、分散型カチオン染料(日本化薬(株)製「Kayacryl Blue GSL−ED」)を1%o.w.f.の割合で、分散均染剤(日華化学(株)製「ニッカサンソルトRM−3406」)を0.5g/Lで、80質量%酢酸を0.5g/Lで、無水硫酸ナトリウムを2g/Lで含有する難燃・染色加工処理液を調製した。
【0088】
次に、目付200g/m
2のレギュラーポリエステル/カチオン可染ポリエステル混素材(CD混率50質量%)をミニカラー染色機((株)テクサム技研製「MINI−JET D−100」)にセットし、前記難燃・染色加工処理液を仕込んだ染色同浴中、浴比1:15の条件で、析出物の有無を観察しながら、常温から昇温速度2℃/分で130℃まで昇温し、130℃で30分間保持して、ポリエステル/カチオン可染ポリエステル混素材に難燃・染色加工処理を施した。難燃・染色加工処理後、排液中の析出物およびミニカラー染色機内部の汚れ付着の有無を観察し、難燃加工剤の高温分散性を下記基準で判定した。
【0089】
(高温分散性の判定基準)
A:処理中の析出物ならびに処理後の排液中の析出物および染色機内部の汚れ付着が、いずれも認められなかった場合。
B:処理中の析出物ならびに処理後の排液中の析出物および染色機内部の汚れ付着のうちのいずれか1つでも認められた場合。
【0090】
(実施例2〜8)
表2に示すように、アニオン界面活性剤(A)の種類と配合量、および水の配合量を変更した以外は実施例1と同様にして難燃加工剤を調製した。得られた難燃加工剤の安定性を実施例1と同様にして評価した。その結果を表2に示す。
【0091】
次に、得られた難燃加工剤を用い、実施例1と同様にして、ポリエステル(100%)未染色布またはポリエステル/カチオン可染ポリエステル混素材(CD混率50質量%)に難燃・染色加工処理を施し、各種特性を評価した。その結果を表2に示す。
【0092】
(比較例1〜6)
表3に示すように、アニオン界面活性剤の種類と配合量、および水の配合量を変更した以外は実施例1と同様にして難燃加工剤を調製した。なお、表3に示したアニオン性界面活性剤の配合量は不揮発分の配合量に換算した値である。得られた難燃加工剤の安定性を実施例1と同様にして評価した。その結果を表3に示す。
【0093】
次に、得られた難燃加工剤を用い、実施例1と同様にして、ポリエステル(100%)未染色布またはポリエステル/カチオン可染ポリエステル混素材(CD混率50質量%)に難燃・染色加工処理を施し、各種特性を評価した。その結果を表3に示す。
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【0096】
表2に示した結果から明らかなように、本発明の難燃加工剤は、30日間の静置により分離が発生したが、攪拌による再分散が可能なものであった。また、高温時の分散性に優れたものであった。このような難燃加工剤を用いて染色と同浴で難燃・染色加工処理を施した場合(実施例1〜8)には、ポリエステル繊維製品に耐久性に優れた難燃性を付与できるとともに、染色加工のみを施したポリエステル繊維製品との色差(ΔE)を小さくできることが確認された。
【0097】
一方、表3に示した結果から明らかなように、本発明にかかるアニオン界面活性剤(A)の含有量が少ない場合(比較例1)には、調製直後に分離が発生し、攪拌による分散も困難であった。このため、比較例1で調製した難燃加工剤を用いてポリエステル繊維製品に難燃・染色加工処理を施すことは困難であった。他方、比較例2〜6で調製した難燃加工剤においては、30日間の静置により分離が発生したが、攪拌による再分散が可能なものであった。
【0098】
また、本発明にかかるアニオン界面活性剤(A)の含有量が多い場合(比較例2〜3)には、高温時の分散性が良好であり、染色加工のみを施したポリエステル繊維製品との色差(ΔE)が小さい、難燃性ポリエステル繊維製品を得ることができた。しかしながら、これらの難燃性ポリエステル繊維製品においては、難燃成分の吸尽量が少なく、ドライクリーニング後の難燃性が低下した。また、実施例8に比べてアニオン界面活性剤(A)の濃度が高い難燃加工剤を用いた場合(比較例3)でも、耐久性に優れた難燃性を有するポリエステル繊維製品を得ることは困難であった。このように、ポリエステル繊維製品の耐久難燃性は、TBCに対するアニオン界面活性剤(A)の割合の影響を受けるものであった。
【0099】
また、本発明にかかるアニオン界面活性剤(A)に比べてスルホン酸塩基の割合が多いアニオン界面活性剤を用いた場合(比較例4〜5)には、高温時の分散性が高く、ポリエステル繊維製品に難燃性が付与されるものの、染色加工のみを施したポリエステル繊維製品との色差(ΔE)が大きく、また、難燃成分の吸尽量が少なく、ドライクリーニングに対する耐久性が低下した。
【0100】
さらに、本発明にかかるアニオン界面活性剤(A)の代わりにナフタレンスルホン酸ナトリウム塩のホルマリン縮合物を用いた場合(比較例6)には、耐久性に優れた難燃性ポリエステル繊維製品が得られたが、高温時の分散性が低く、染色加工のみを施したポリエステル繊維製品との色差(ΔE)が大きくなった。
【0101】
また、
図1に示した結果から明らかなように、本発明にかかるアニオン界面活性剤(A)に比べてスルホン酸塩基の割合が多いアニオン界面活性剤を用いた場合(比較例4)には、染色温度の上昇および染色時間の増加とともに、a*値とb*値がともに増加し、難燃加工剤を使用せず、染色加工のみを施した場合と異なる染色挙動を示した。これは、Red成分であるDianix Red AC−E01の染着速度の変化が、他の染料の染着速度の変化よりも大きいことに起因すると考えられる。
【0102】
これに対して、本発明にかかるアニオン界面活性剤(A)を用いた場合(実施例1)には、染色温度の上昇および染色時間の増加とともにa*値は増加し、b*値は減少した。この染色挙動は、染色加工のみを施した場合の染色挙動に近似するものであった。
【0103】
さらに、表2〜3に示したように、知覚色度指数の結果によれば、本発明にかかるアニオン界面活性剤(A)を併用した場合(実施例1〜8)には、染色加工のみを施した場合に近似した染色挙動を示した。一方、本発明にかかるアニオン界面活性剤(A)に比べてスルホン酸塩基の割合が多いアニオン界面活性剤を用いた場合(比較例4〜5)および本発明にかかるアニオン界面活性剤(A)の代わりにナフタレンスルホン酸ナトリウム塩のホルマリン縮合物を用いた場合(比較例6)には、染色加工のみを施した場合とは異なる挙動を示した。
【0104】
以上の結果から明らかなように、本発明にかかるアニオン界面活性剤(A)を用いることによって、TBCによる染料の染着速度の変化を抑制できることが確認された。