(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の第1実施形態に係る締結方法およびこれが適用されたシリンダ装置としての緩衝器について、
図1〜
図10を参照しつつ以下に説明する。
【0011】
図1に示すように、本実施形態に係る緩衝器は、自動車用サスペンションストラットとして用いられるもので、液体あるいは気体等の流体が封入されるシリンダ11を有している。このシリンダ11は、円筒状の内筒12と、内筒12よりも大径で内筒12を覆うように同心状に設けられる有底円筒状の外筒13とを有しており、これら内筒12と外筒13との間にリザーバ室14が形成された二重筒構造をなしている。外筒には、車両を懸架するスプリング(図示せず)の下端を支持するスプリングシート13Aが設けられている。
【0012】
シリンダ11の内筒12内には、ピストン17が摺動可能に嵌装されている。このピストン17は、シリンダ11の内筒12内に嵌装されて内筒12内を上室18および下室19の2室に仕切っている。シリンダ11内には、図示は略すが、上室18および下室19内に流体としての作動液が封入され、リザーバ室14内に流体としての作動液およびガスが封入されている。なお、本発明が適用されるシリンダ装置は、単筒式のシリンダであってもよく、シリンダの形式にとらわれず、緩衝器以外の油圧、空圧シリンダに用いてもよい。
【0013】
シリンダ11の内筒12内には、ロッド(ボルト)21が挿入されており、ロッド21は一端側が内筒12内に配置され、他端側がシリンダ11から外部に延出され、車両に取り付けられる。ピストン17は、このロッド21の内筒12内に配置される一端側にナット22によって締結されている。ロッド21の他端側は、内筒12および外筒13の一端部に装着されたロッドガイド23およびオイルシール24に挿通されて外部へと延出されている。ロッドガイド23は段差状をなしており、小径部分が内筒12に大径部分が外筒13に嵌合されている。
【0014】
ロッド21は、主軸部26と、ロッド21におけるシリンダ内側の端部にあって主軸部26よりも小径の取付軸部27とを有している。主軸部26には、取付軸部27側の端部に軸直交方向に沿う段面28が形成されている。取付軸部27には、主軸部26とは反対側の所定範囲に上記したナット22が螺合される雄のネジ部29が形成されている。
【0015】
ピストン17は、ロッド21に連結される略円板状のピストン本体31と、ピストン本体31の外周面に装着されて内筒12内に摺接する摺接部材32とを有している。ピストン本体31には、径方向の中央にロッド挿通孔35が軸方向に貫通するように形成されており、このロッド挿通孔35においてロッド21の取付軸部27を挿通させている。
【0016】
図2に示すように、ピストン本体31には、その軸方向の主軸部26とは反対側に、径方向のロッド挿通孔35の外側にて軸方向に突出する環状の取付ボス部36と、径方向の取付ボス部36よりも外側にて軸方向に突出する環状のシート部37とが形成されている。また、ピストン本体31には、その軸方向の主軸部26側に、径方向のロッド挿通孔35の外側にて軸方向に突出する環状の取付ボス部38と、径方向の取付ボス部38よりも外側にて軸方向に突出する環状のシート部39とが形成されている。
【0017】
ピストン本体31には、軸方向の一端が取付ボス部36とシート部37との間に開口し、軸方向の他端がシート部39よりも径方向外側に開口して軸方向に貫通する流路43が、周方向に間隔をあけて複数カ所(
図2では断面とした関係上1カ所のみ図示)形成されている。また、ピストン本体31には、軸方向の一端がシート部37よりも径方向外側に開口し、軸方向の他端が取付ボス部38とシート部39との間に開口して軸方向に貫通する流路44が周方向に間隔をあけて複数カ所(
図2では断面とした関係上1カ所のみ図示)形成されている。
【0018】
ピストン本体31の軸方向の主軸部26とは反対側には、ピストン本体31側から順に、ディスクバルブ50およびバルブ規制部材52が設けられている。ディスクバルブ50およびバルブ規制部材52は、環状をなしており、それぞれの内周側にロッド21の取付軸部27が挿通され、この状態で、ナット22の座面53とピストン本体31の取付ボス部36とによって内周側がクランプされる。
【0019】
また、ピストン本体31の軸方向の主軸部26側には、ピストン本体31側から順に、ディスクバルブ55およびバルブ規制部材57が設けられている。ディスクバルブ55およびバルブ規制部材57は、環状をなしており、それぞれの内周側にロッド21の取付軸部27が挿通され、この状態で、ピストン本体31の取付ボス部38とロッド21の主軸部26の段面28とによって内周側がクランプされる。
【0020】
ピストン17の主軸部26とは反対側に設けられたディスクバルブ50は、複数枚の単板ディスクが積層されてなるもので、ピストン本体31のシート部37に当接して流路43を閉じる。そして、ディスクバルブ50は、ロッド21が
図1に示すシリンダ11内から突出する突出量を増やす伸び側に移動したときに外周側がピストン本体31から離れるように撓んで流路43を開く。これにより、ピストン17に設けられた流路43は、ロッド21が伸び側に移動したときに上室18の圧力上昇によって作動液が上室18から下室19に向け流通することになり、ディスクバルブ50は、この流路43の開閉量を調整して減衰力を発生させる伸び側の減衰バルブとなっている。
図2に示すバルブ規制部材52は、ディスクバルブ50のシート部37から離れる方向への所定量以上の変形を規制するものである。
【0021】
ピストン17の主軸部26側に設けられたディスクバルブ55も、複数枚の単板ディスクが積層されてなるもので、ピストン本体31のシート部39に当接して流路44を閉じる。そして、ディスクバルブ55は、ロッド21が
図1に示すシリンダ11への進入量を増やす縮み側に移動したときに外周側がピストン本体31から離れるように撓んで流路44を開く。これにより、ピストン17に設けられた流路44は、ロッド21が縮み側に移動したときに下室19の圧力上昇によって作動液が下室19から上室18に向け流通することになり、ディスクバルブ55は、この流路44の開閉量を調整して減衰力を発生させる縮み側の減衰バルブとなっている。
図2に示すバルブ規制部材57は、ディスクバルブ55のシート部39から離れる方向への所定量以上の変形を規制するものである。
なお、このディスクバルブ等はなくてもよく、また、内周をクランプせずにリフトするリフト弁であったり、ピストン17内部に設けるポペット弁であってもよい。
【0022】
図1に示すように、外筒13は円筒状の胴部58と胴部58の一端を閉塞する底部59とを有している。外筒13の底部59と内筒12との間には、シリンダ11内に下室19と上記したリザーバ室14とを画成するベースバルブ61が設けられている。ベースバルブ61は、シリンダ11内に嵌装されてシリンダ11内を下室19およびリザーバ室14の2室に仕切る略円板状のバルブ本体62を有している。バルブ本体62は、段差状をなしており、小径部分が内筒12に嵌合している。
【0023】
バルブ本体62には、径方向の中央にピン挿通孔63が軸方向に貫通するように形成されている。また、バルブ本体62のピン挿通孔63よりも径方向の外側には、軸方向に貫通する流路64が、周方向に間隔をあけて複数カ所形成されており、流路64よりも径方向の外側には、軸方向に貫通する流路65が周方向に間隔をあけて複数カ所形成されている。径方向内側の流路64は、一方で、下室19とリザーバ室14との間の作動液の流通を可能とし、径方向外側の流路65は、他方で、下室19とリザーバ室14との間の作動液の流通を可能とする。
【0024】
ベースバルブ61は、バルブ本体62の軸方向のリザーバ室14側に、減衰バルブとして作用するディスクバルブ68を有している。また、ベースバルブ61は、バルブ本体62の軸方向の下室19側に、サクションバルブとして作用するディスクバルブ69を有している。これらディスクバルブ68およびディスクバルブ69は、環状をなしており、それぞれの内側に挿通されバルブ本体62のピン挿通孔63に挿通される取付ピン70とバルブ本体62とによって内周側がクランプされる。
【0025】
ディスクバルブ68は、内側の流路64を開閉するものであり、ロッド21が縮み側に移動しピストン17が下室19側に移動して下室19の圧力が上昇すると、バルブ本体62から離座して内側の流路64を開く。これにより、バルブ本体62に設けられた内側の流路64は、ロッド21が縮み側に移動したときに流体が下室19からリザーバ室14に向け流通することになり、ディスクバルブ68は、この流路64を開閉し減衰力を発生する縮み側のディスクバルブとなっている。なお、ディスクバルブ68は、ピストン17に設けられた縮み側のディスクバルブ55との関係から、主としてロッド21のシリンダ11への進入により生じる液の余剰分を排出するように下室19からリザーバ室14に液を流す機能を果たす。なお、縮み側のディスクバルブをシリンダ内圧が高くなったときに圧力をリリーフするリリーフ弁としてもよい。
【0026】
下室19側のディスクバルブ69は、外側の流路65を開閉するものであり、ロッド21が伸び側に移動しピストン17が上室18側に移動して下室19の圧力が下降するとバルブ本体62から離座して流路65を開く。これにより、バルブ本体62に設けられた外側の流路65は、ロッド21が伸び側に移動したときに流体がリザーバ室14から下室19に向け流通することになり、ディスクバルブ69は、この流路65を開閉する伸び側のディスクバルブとなっている。なお、ディスクバルブ69は、ピストン17に設けられた伸び側のディスクバルブ50との関係から、主としてロッド21のシリンダ11からの突出に伴う液の不足分を補うようにリザーバ室14から下室19に液を実質的に抵抗なく(減衰力が出ない程度)流す機能を果たす。
なお、バルブ本体62をなくし、単なるオリフィスとしてもよい。
【0027】
図2に示すように、ロッド21の一端側の取付軸部27は、バルブ規制部材57、流路44を開閉するディスクバルブ55、ピストン17、流路43を開閉するディスクバルブ50およびバルブ規制部材52に挿通される。そして、この状態で、ロッド21の取付軸部27の主軸部26とは反対側に形成されたネジ部29にナット22が螺合される。これにより、ロッド21の段面28がバルブ規制部材57に、ナット22の座面53がバルブ規制部材52にそれぞれ当接しつつ、段面28を含むロッド21の主軸部26と座面53を含むナット22とが、バルブ規制部材57、ディスクバルブ55、ピストン17、ディスクバルブ50およびバルブ規制部材52の内周側を挟持する。これにより、これらバルブ規制部材57、ディスクバルブ55、ピストン17、ディスクバルブ50およびバルブ規制部材52がロッド21に締結される。言い換えれば、ナット22は、ロッド21の一端側に形成されたネジ部29に螺合され、バルブ規制部材57、ディスクバルブ55、ピストン17、ディスクバルブ50およびバルブ規制部材52に、ロッド21とで軸力を付与する。よって、ロッド21は、ナット22に螺合されてバルブ規制部材57、ディスクバルブ55、ピストン17、ディスクバルブ50およびバルブ規制部材52を挟持するボルトとして機能する。
【0028】
ナット22およびロッド21には、後述する加締め工程が実行されることになり、これにより、ナット22のロッド21に対する回り止めつまり緩み止めが施されることになる。
【0029】
ナット22には、中央に軸方向に貫通するネジ穴75が形成されており、ネジ穴75には、ロッド21の雄のネジ部29に螺合する雌のネジ部76が形成されている。ネジ部76は、加締め工程の前は一様な螺旋状をなしている。つまり、ネジ部76は、加締め工程の前は、切削または転造でネジ加工された状態のままである。言い換えれば、加締め工程の前、ネジ部76の両端を除く有効範囲は、外径および谷の径がいずれも一定でありピッチ寸法(一巻き当たりの軸方向移動距離)も一定となっている。
【0030】
ナット22には、軸方向の一端に上記した座面53が軸直交方向に沿って形成されている。ナット22の外周側には、軸方向の座面53側に、締結トルクを入力するための図示略の工具が装着される工具装着部78が形成されており、工具装着部78の座面53とは反対側に、工具装着部78よりも径方向に薄肉で環状をなす薄肉部79が隣り合って形成されている。
【0031】
工具装着部78は、ネジ穴75の中心軸と中心を一致させた正六角柱形状をなしており、その外周面81に図示は略すがインパクトレンチ等の工具が装着されることになる。薄肉部79は、加締め工程の前において、その外周面83がネジ穴75の中心軸と中心を一致させた円筒状をなしており、外周面83の半径が工具装着部78の外周面81の最小半径よりも小径となっている。なお、外周面83によって、工具装着部78の薄肉部79側の端部には、薄肉部79の外周面83よりも径方向外側に広がる段面84が軸直交方向に沿って形成されている。加締め工程前の薄肉部79には、外周面83の工具装着部78とは反対側に、工具装着部78から離れるほど小径となるテーパ状の面取り85が形成されており、薄肉部79の工具装着部78とは反対端の端面部86は座面53と平行に形成されている。なお、外周面83は、加締め箇所に対応した平面部となる多角形としてもよい。
【0032】
上記のナット22が、加締め工程の前の螺合工程において、バルブ規制部材57、ディスクバルブ55、ピストン17、ディスクバルブ50およびバルブ規制部材52に軸力を付与するようにロッド21の取付軸部27の雄のネジ部29に螺合され、所定の締め付けトルクで締め付けられることになる。なお、ナット22が螺合される取付軸部27の雄のネジ部29も、加締め工程の前は一様な螺旋状をなしている。つまり、加締め工程の前のネジ部29は、切削または転造でネジ加工された状態のままである。言い換えれば、ネジ部29の両端を除く有効範囲は、外径および谷の径がいずれも一定で、ピッチ寸法も一定となっている。
【0033】
上記の螺合工程によってナット22が、バルブ規制部材57、ディスクバルブ55、ピストン17、ディスクバルブ50およびバルブ規制部材52に所定の軸力を付与した状態では、取付軸部27の主軸部26とは反対の先端部88がナット22よりも主軸部26とは反対側に突出する状態となる。なお、この取付軸部27のナット22からの突出部分はネジ部29を有している。
【0034】
次に、上記した螺合工程後の加締め工程において行われる、ナット22をロッド21に螺合状態で締結する締結方法について説明する。
【0035】
上記した螺合工程の後、ナット22が螺合され、バルブ規制部材57、ディスクバルブ55、ピストン17、ディスクバルブ50およびバルブ規制部材52が取り付けられた状態のロッド21が、
図3に示す加締め装置91の所定のセット位置にセットされる。この加締め装置91は、ロッド21のナット22とは反対側を支持することでロッド21およびナット22を所定のセット位置に鉛直状に保持するワーク支持台100と、ワーク支持台100の上方に設けられた装置台101と、装置台101の下面に取り付けられた駆動源としての複数のシリンダ102と、各シリンダ102に取り付けられ各シリンダ102によって往復移動させられる複数のポンチ103とを有している。ワーク支持台100は、ガイド99によって鉛直方向にのみ移動可能となっている。
【0036】
図4に示すように、シリンダ102およびポンチ103は、具体的には六つずつ設けられている。六つのシリンダ102は、例えば油圧で駆動されるもので、シリンダ本体106と、シリンダ本体106に対し直線運動で往復動する往復動ロッド107とを有している。これらシリンダ102は、いずれも、往復動ロッド107をロッド21およびナット22のセット位置側に向けた姿勢で、装置台101にシリンダ本体106において取り付けられる。これらシリンダ102は、ロッド21およびナット22のセット位置から等距離の位置に、このセット位置を囲むように周方向に均等位置に配置されており、このセット位置を中心として放射状に配置されている。
【0037】
ポンチ103は、
図5に示すように、平面視が略二等辺三角形状となる略三角柱形状をなしており、平面視鋭角となる頂部110の先端面(当接面)111が高さ方向位置によらず一定の円弧状をなすように湾曲する凹面形状をなしている。先端面111は、
図3に示すポンチ103の上面112および下面113の両方に直交するように延在している。このようなポンチ103が、いずれも頂部110とは反対側において対応するシリンダ102の往復動ロッド107に固定されている。このようにそれぞれ対応するシリンダ102に取り付けられた状態で、ポンチ103は、いずれも頂部110の先端面111をロッド21およびナット22のセット位置に向けている。これらポンチ103も、ロッド21およびナット22の軸方向における位置を合わせて、ロッド21およびナット22のセット位置を囲むように周方向に均等位置に配置されている。
【0038】
以上により、加締め装置91は、六つのポンチ103の先端面111が、ワーク支持台100に支持されたロッド21およびナット22の周方向の均等位置であって、ロッド21およびナット22の軸方向の同位置にそれぞれ配置され、ロッド21およびナット22の中心軸に対しそれぞれ平行をなす。この状態を維持したまま、すべてのポンチ103の先端面111が、ロッド21およびナット22の中心軸に対し直交する半径方向に直線移動する。
【0039】
ワーク支持台100は、バネ115で付勢されて、ロッド21およびナット22を装置台101側の基準高さの上記セット位置に保持することになる。そして、ワーク支持台100は、ガイド99によって、ロッド21およびナット22を回転不可且つ径方向移動不可としたまま基準高さのセット位置からバネ115の付勢力に抗して装置台101とは反対側に軸方向に沿って移動させることが可能となっている。なお、バネ115に代えて、ウレタンやゴムを用い付勢してもよい。
【0040】
なお、ロッド21およびナット22が基準高さのセット位置に保持された状態で、すべてのポンチ103の先端面111は、
図2に示すように、下端部がナット22の薄肉部79の段面84側の中間所定位置にロッド21およびナット22の軸方向における位置を合わせることになり、上端部がナット22の薄肉部79の工具装着部78とは反対側の端部よりも上側に位置することになる。言い換えれば、ロッド21およびナット22が基準高さのセット位置に保持された状態では、すべてのポンチ103の先端面111が、薄肉部79の段面84側と工具装着部78とは反対側の端部との間にロッド21およびナット22の軸方向における位置を重ね合わせることになる。
【0041】
加締め工程は、上記の加締め装置91を用いて行われる。つまり、加締め工程では、すべてのポンチ103が後退端に位置する待機状態で、
図3に示すワーク支持台100にロッド21が取り付けられることになり、これにより、ロッド21およびナット22が基準高さのセット位置にセットされる。この状態で、図示略の駆動制御部がすべてのシリンダ102を同時に等速度で駆動することになり、これにより、周方向の均等位置に配置されたすべての同形状のポンチ103が、同時にナット22の薄肉部79の外周面83に径方向外側から同等の押圧力で押し当てられ、薄肉部79を外周方向から均等にロッド21の中心に向け加締める。
【0042】
この加締め工程によって、ナット22の薄肉部79が各ポンチ103の頂部110の形状に倣うように塑性変形する。その結果、
図6および
図7(a)に示すように、薄肉部79には、外周面83側に、周方向に部分的に、ロッド21およびナット22の中心に向けて径方向内側に凹む凹状部120が、周方向の均等位置に複数、具体的には六カ所形成されることになる。また、すべての凹状部120の位置で凹状部120が形成された分の肉が、ロッド21およびナット22の軸方向において、薄肉部79から工具装着部78とは反対側に流動(変形)してロッド21の先端側に延びて、薄肉部79の加締め工程の前からほぼ変形していない端面部86から延出する延長部121となる。延長部121も凹状部120と連続するように、ロッド21およびナット22の中心に向けて径方向内側に凹む形状をなす。つまり、ナット22の薄肉部79がロッド21およびナット22の周方向に部分的にポンチ103で加締められて形成される加締め部123は、上記した凹状部120と延長部121とを有しており、このような加締め部123が、ロッド21およびナット22の周方向の均等位置に複数、具体的にはポンチ103と同数の六カ所形成されることになる。なお、加締め部123の数及び配置は、製品のサイズ、必要な緩み出しトルクなどで、設計事項として設定される。
【0043】
なお、加締め工程の進行にともなって、
図3に示すワーク支持台100がバネ115の付勢力に抗して下方に逃げることになり、その結果、ポンチ103が凹状部120の工具装着部78側に径方向内側ほど工具装着部78から軸方向に離間するように傾斜する傾斜面124が形成されることになる。このようにワーク支持台100が逃げることにより、
図6および
図7(a)に示す延長部121がロッド21およびナット22の軸方向に沿って工具装着部78とは反対側に円滑に延びることになる。
【0044】
図7(a)に示すように、加締め部123は、その底面125が、凹状部120から延長部121にわたって形成されることになり、底面125のナット22の周方向における両端縁部からナット22の径方向外側に延出する一対の側面126が、凹状部120から延長部121にわたって形成されている。
【0045】
なお、
図3に示すポンチ103は、薄肉部79への当接面である先端面111が
図5に示すように凹面形状をなしているため、
図6に示すように、加締め部123の底面125は、ロッド21およびナット22の周方向および軸方向に沿い、ロッド21およびナット22の径方向の外側に円筒面状に膨らむ凸面形状をなす。言い換えれば、凹状部120の底面125は、薄肉部79の凹状部120間に残存する外周面83に沿う円筒面状をなす。また、加締め部123の一対の側面126は、ロッド21およびナット22の径方向および軸方向に沿う。
【0046】
すべての加締め部123は、上記したように薄肉部79から半径方向内方に押し出される。つまり、加締め部123は、薄肉部79の加締め部123以外の部分の内径よりもロッド21およびナット22の中心軸に向け突出する。これにより、各加締め部123は、ロッド21のネジ部29に強く押し付けられ密着する。そして、特にネジ部29の先端部88側は、その周方向に部分的に軸方向及び径方向内方に変形させて変形部130を形成しながら、変形させた変形部130に密着する。
【0047】
図7(b)に示すように、ネジ部29に周方向に部分的に形成された変形部130は、ネジ外径が変形部130以外の部分よりも小さくなるように変形しており、主にロッド21の軸方向の先端部88側に向けて倒れるように変形する。つまり、ロッド21のネジ部29においては、加締め工程によって径方向内方に変形する変形部130が周方向に部分的に形成され、このような変形部130が、周方向の均等位置に複数、具体的には加締め部123と同数の六カ所、ポンチ103で加締め部123と同時に形成されることになる。その際に、加締め部123は、ロッド21のネジ部29を、ロッド21の先端側に延びる延長部121によっても、周方向に部分的に変形させる。
これにより、ロッド21のネジ部29は変形部130によって波状に変形し、この波状のネジ部29とナット22のネジ部76が干渉して、ナット22の回転を阻止する。
【0048】
なお、
図3に示すポンチ103の先端面111を含む頂部110は、ロッド21およびナット22の軸方向の長さLが、
図6に示す薄肉部79の加締め工程後の凹状部120の長さHと延長部121の長さH’とを合わせた加締め部123の長さH+H’と同等以上の長さLとされている(つまり、L≧H+H’)。言い換えれば、加締め部123の工具装着部78とは反対側に底面125よりも径方向外側に位置する部分が生じないように、ポンチの頂部110の長さLが設定されている。これにより、加締め部123の延長部121およびネジ部29の変形部130を確実に形成できるようになっている。また、ナット22のロッド21の先端側に延びる延長部121の長さH’が、ロッド21のネジ部29のピッチ寸法(一巻き当たりの軸方向移動距離)よりも長くなるように、ポンチ103の加締め量および薄肉部79の径方向厚さ等が設定されており、延長部121が必ずネジ部29の少なくとも一巻き部分に当接してこの一巻き部分に変形部130を形成するようになっている。なお、
図6のWは、加締め部123の底面125の周方向の幅である。
上記実施の形態では、延長部121の長さH’が、ロッド21のネジ部29のピッチ寸法(一巻き当たりの軸方向移動距離)よりも長くなるようにした例を示したが、延長部121の長さH’を「ピッチ寸法」を「加締め部123の数」で割った長さより長くすることで、延長部121の少なくとも一箇所が変形部130を形成できるので、最低限の効果を得ることができる。
【0049】
このようにして加締め工程が行われたナット22は、薄肉部79の周方向の複数カ所に加締め部123が形成されることになり、各加締め部123には、薄肉部79の肉が周方向に部分的にロッド21の先端側に流動して延びる延長部121が形成され、各加締め部123は、
図8に示すようにネジ部76を変形させながらロッド21のネジ部29に密着する。このとき、
図6に示すように、延長部121は、ナット22の周方向の中間部が両側よりも軸方向に突出するようになだらかに湾曲して膨出する形状をなす。また、加締め工程が行われたロッド21は、
図8に示すように、ネジ部29の加締め部123に密着する部分に変形部130が形成される。
【0050】
このようにロッド21のネジ部29とナット22のネジ部76とが周方向に部分的に変形することにより、密着面積が増大するとともに、ネジ部29,76の螺旋が変形して、ネジ部29,76同士の相対回転が規制されることになり、ナット22がロッド21に対し緩み止めされた状態となる。但し、この状態でも、ナット22の工具装着部78に工具を装着して大きなトルクで回転させれば、変形部130の変形等を戻しながらナット22を緩めることは可能である。このようにナット22が緩み出す緩み出しトルクは、加締め工程を行わない場合と比較して格段に大きくなり、よって、十分な緩み止め効果がある。
【0051】
なお、加締め工程前には、通常のネジと同様に、ロッド21のネジ部29の螺旋状の
図8に示す下面部131と、ナット22のネジ部76の螺旋状の上面部132とが接触して残留軸力を発生させることになる。そして、加締め工程を行うと、ナット22の加締め部123の位置のネジ部76は、
図8に示すようにロッド21のネジ部29に変形部130を形成しながら略全域でネジ部29に接触することになる。このとき、加締められていない部分は、加締め前の状態を保持することになるため、加締め前後で生じる残留軸力の変動は小さく抑えられる。
【0052】
上記した特許文献1に記載の緩衝器は、ナットの外周部を変形させて、ロッドの先端部における螺条を塑性変形させることにより、ナットの緩み止めを図るようになっている。このようにすれば、緩み出しトルクを大きくすることができる。しかしながら、さらなる緩み出しトルクの増大を図ることが要望されている。また、ナットのネジ部に接着剤を塗布したプリコートナットを用いることで緩み止めを図るものもある。このプリコートナットを用いる場合、ロッドのネジ部に油脂等のコンタミネーションが残留していると接着剤の接着力が不十分となる場合があり、緩み出しトルクを大きくすることができない。またプリコートナット自体が高コストである。
【0053】
これに対して、本実施形態に係る締結方法およびこれが適用された緩衝器によれば、ナット22の工具装着部78の座面53とは反対側に形成された環状の薄肉部79を、外周方向から複数カ所ポンチ103で加締めて加締め部123を形成する加締め工程を行うことで、薄肉部79の肉を周方向に部分的にロッド21の先端側に延びるように流動させてロッド21のネジ部29に密着させるため、コスト増を抑制しつつ、緩み出しトルクの増大を図ることができる。このように、緩み出しトルクを大きくすることでピストン17やディスクバルブ50,55に付与する残留軸力を安定させることができ、減衰力のばらつきを抑制することができる。
【0054】
また、加締め工程は、周方向に均等に複数のポンチ103を配置し、同時にこれらポンチ103を薄肉部79に押し当てるため、ナット22の内部状態を圧縮残留応力場に変化させ、ロッド21とナット22との間に緊迫力を発生させることができ、強固な接合状態にできる。加えて、複数の加締め部123を、周方向位置による偏りなく安定した形状および大きさに形成することができる。
【0055】
また、ポンチ103が、ナット22およびロッド21の軸方向に関して、薄肉部79の加締め工程後の加締め部123の長さと同等以上の長さであるため、加締め部123を全体的にロッド21に密着させることができる。
【0056】
また、ロッド21のネジ部29を、ナット22のロッド21の先端側に延びる延長部121を含む加締め部123によって、周方向に部分的に波状に変形させるため、緩み出しトルクの一層の増大を図ることができる。
【0057】
また、ナット22のロッド21の先端側に延びる延長部121の長さは、ロッド21のネジ部29のピッチ寸法よりも長いため、ロッド21のネジ部29と延長部121との軸方向の位置関係によらず、延長部121をネジ部29に密着させることができる。したがって、緩み出しトルクの増大を安定的に図ることができる。
【0058】
また、ポンチ103は、薄肉部79への当接面である先端面111が凹面形状であるため、加締め部123の底面125を薄肉部79の外周面83に沿わせることができ、ポンチ103の荷重を先端面111の全面を使って薄肉部79に伝えることができる。よって、ポンチ103の面圧が先端面111の全体に加わることになり、ポンチ103の耐久性を向上させることができる。また、ポンチ103に加える荷重も、例えば先端が湾曲する凸面形状のものと比べ下げることができる。なお、
図9に示すように、ポンチ103の当接面である先端面111を平面形状とすることも可能であり、
図10に示すように、ポンチの当接面である先端面111をR面形状または凸面形状とすることも可能である。
【0059】
また、ワーク支持台100により、加締め工程においてナット22を軸方向の工具装着部78側に逃がすため、ポンチ103による延長部121の形成を促すことができる。
【0060】
「第2実施形態」
次に、本発明の第2実施形態に係る締結方法およびこれが適用されたシリンダ装置としての緩衝器について、
図11〜
図18に基づいて第1実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
【0061】
第2実施形態では、第1実施形態に加えて、ネジ部29のナット22の薄肉部79に覆われていない露出部分のネジ山を変形させるようになっている。第2実施形態では、螺合工程でナット22が螺合され、バルブ規制部材57、ディスクバルブ55、ピストン17、ディスクバルブ50およびバルブ規制部材52が取り付けられた状態のロッド21が、
図11〜
図13に示す加締め装置91’の所定のセット位置にセットされる。
【0062】
この加締め装置91’には、上記した加締め装置91に対し、
図12に示すようにナット22の薄肉部79を加締めるシリンダ102およびポンチ103に加えて、ロッド21のナット22で覆われていない露出部分を加締めるシリンダ152およびポンチ153が設けられている。シリンダ152およびポンチ153は、
図13に示すように、ロッド21およびナット22の周方向における位置を、シリンダ102およびポンチ103に対してずらして配置されている。具体的に、シリンダ152およびポンチ153は、ロッド21およびナット22の周方向に隣り合うシリンダ102およびポンチ103と、シリンダ102およびポンチ103との間の中央に、それぞれ配置されており、よって、具体的には六つずつ設けられている。
【0063】
六つのシリンダ152は、例えば油圧で駆動されるもので、シリンダ本体156と、シリンダ本体156に対し直線運動で往復動する往復動ロッド157とを有している。これらシリンダ152は、いずれも、往復動ロッド157をロッド21のセット位置側に向けた姿勢で、装置台101にシリンダ本体156において取り付けられる。これらシリンダ152は、ロッド21のセット位置から等距離の位置に、このセット位置を囲むように周方向に均等位置に配置されており、このセット位置を中心として放射状に配置されている。
【0064】
ポンチ153は、直方体形状をなしており、
図11に示すように、先端面(当接面)161が長手方向を上下方向に配置した平面形状をなしている。先端面161は、ポンチ153の上面162および下面163の両方に直交するように延在している。このようなポンチ153が、
図12に示すように、いずれも先端面161とは反対側において対応するシリンダ152の往復動ロッド157に固定されている。このようにそれぞれ対応するシリンダ152に取り付けられた状態で、ポンチ153は、いずれも先端面161をロッド21のセット位置に向けている。これらポンチ153も、ロッド21の軸方向における位置を合わせて、ロッド21のセット位置を囲むように周方向に均等位置に配置されている。
【0065】
以上により、加締め装置91’は、六つのポンチ153の先端面161が、ワーク支持台100に支持されたロッド21の周方向の均等位置であって、ロッド21の軸方向の同位置にそれぞれ配置され、ロッド21の中心軸に対しそれぞれ平行をなす。この状態を維持したまま、すべてのポンチ153の先端面161が、ロッド21の中心軸に対し直交する半径方向に直線移動する。
【0066】
なお、
図11に示すように、ロッド21およびナット22が基準高さのセット位置に保持された状態で、すべてのポンチ153の先端面161は、下端部がナット22の薄肉部79の端面部86とロッド21の先端部88の先端面88aとの間の所定位置にロッド21の軸方向における位置を合わせることになり、上端部がロッド21の先端面88aよりも上側に位置することになる。
【0067】
上記の加締め装置91’を用いて行われる加締め工程では、すべてのポンチ103およびすべてのポンチ153が後退端に位置する待機状態で、
図12に示すワーク支持台100にロッド21が取り付けられることになり、これにより、ロッド21およびナット22が基準高さのセット位置にセットされる。この状態で、図示略の駆動制御部がすべてのシリンダ102を同時に等速度で駆動することになり、並行して、すべてのシリンダ152を同時に等速度で駆動することになる。これにより、第1実施形態と同様、すべての同形状のポンチ103が、同時にナット22の薄肉部79に径方向外側から同等の押圧力で押し当てられ、薄肉部79に径方向外側から力を加えてこれを均等にロッド21の中心に向け加締めることになり、それと並行して、すべての同形状のポンチ153が、同時にロッド21のネジ部29の露出部分に径方向外側から径方向に沿って同等の押圧力で押し当てられ、ネジ部29に径方向外側から力を加えてこれを均等にロッド21の中心に向け加締める。
【0068】
この加締め工程によって、第1実施形態と同様にシリンダ102およびポンチ103が、ナット22の薄肉部79に加締め部123を、周方向の均等位置に複数、具体的には六カ所形成するとともに、シリンダ152およびポンチ153が、
図14に示すように、ロッド21のネジ部29の薄肉部79に覆われていない露出部分に、ネジ山を塑性変形させた変形部170を複数、具体的には六カ所形成する。シリンダ152およびポンチ153は、シリンダ102およびポンチ103に対しロッド21の周方向における位相をずらして配置されている。このため、変形部170を、ナット22の薄肉部79のシリンダ102およびポンチ103による加締めを行っていない部分に対応するネジ部29の周方向位置に形成する。言い換えれば、変形部170を、ナット22の薄肉部79の加締め部123とはロッド21の周方向における位置を異ならせて形成する。その結果、ロッド21のネジ部29には、外径側に、周方向に部分的に、ロッド21の中心に向けて径方向内側に凹みつつロッド21の軸方向にも変形する変形部170が、周方向の均等位置に複数、具体的には六カ所形成されることになる。これら変形部170は、いずれもロッド21の軸方向に平行をなすように延在している。
【0069】
以上に述べた第2実施形態によれば、ネジ部29の薄肉部79に覆われていない露出部分にネジ山を変形させた変形部170を形成するため、第1実施形態と同様に緩み出しトルクの増大を図った上で、仮に緩み出したとしても、変形部170がナット22のネジ部76の摩擦抵抗となって緩みトルクを高く維持することができる。このとき、変形部170は特にネジ部76の加締め部123が形成された変形部分に対する摩擦抵抗が大きくなる。
【0070】
また、ネジ部29に軸方向ではなく径方向から力を加えることで変形部170を形成するため、緩みトルクを高く維持することが良好にできる。
【0071】
また、変形部170を、ナット22の薄肉部79の加締め工程を行っていない部分に対応するネジ部29の周方向位置(加締め部123が形成される位置以外の周方向位置)に形成するため、加締め部123との干渉がなく、変形部170のロッド21の軸方向長さを長くできる。しかも、変形部170の加締めを、加締め部123の加締めと並行して行うことができ、生産効率を向上させることができる。なお、変形部170の加締めを、加締め部123の加締めと並行して行わずに、加締め部123の加締めの後に行うことも可能であるが、この場合でも、別の装置で加締めると加締め部123および変形部170の位相合わせが困難になるため、上記加締め装置91’のように同一の装置で行うのが好ましい。
【0072】
ここで、ロッド21にナット22を所定のトルクで締結したのみの加締め無しの場合と、第1実施形態と、第2実施形態とについて、ナットを緩めた時の回転角度と緩みトルクとの関係を実験的に求めた。
【0073】
加締め無しの場合は、
図15に破線X1で示すように、緩みトルクが、残留軸力によるオネジ−メネジ間の摩擦力とナット座面−被締結物間の摩擦力とから発生する最大緩み側トルク(緩み出しトルク)を超えるまでナットが回転すると(角度θ1)、緩みが発生し、緩みトルクつまり残留軸力が急激に低下する。つまり、加締め無しの場合は、緩みトルクが残留軸力による摩擦力に依存しているため、軸力の低下にしたがって緩みトルクも急激に低下する。
【0074】
第1実施形態の場合は、上記摩擦力に加えて、塑性変形により加締め部123と変形部130とが形成されているため、
図15に実線X2で示すように、ナット22の最大緩み側トルクは、上記した角度θ1よりも大きい角度θ2で発生し、その値も、加締め無しの場合の値より高くなる。また、緩みが発生しても、加締め部123と変形部130とが互いに抵抗力を発生するため、加締め無しの場合のように急激に緩みトルクは低下せず、緩やかに低下して初期脱落防止トルクとなる(角度θ3)。さらに、ナット22が緩み回転を続けると、加締め部123が変形部130以外の変形していないネジ部29を変形させ、このように変形させられたネジ部29がナット22の加締め部123以外の変形していない部分によって元に戻される、という抵抗力が連続的に発生するため、緩みトルク(脱落防止トルク)は徐々に上がって行き、やがて加締め部123が降伏・摩耗して(角度θ4)、緩みトルクは、その後、低下し、消失する。
【0075】
第2実施形態の場合は、第1実施形態に加えて、塑性変形により変形部170が形成されているため、変形部170がナット22の回転の抵抗になって、ナット22に緩みが発生した後の初期脱落防止トルクを含む緩みトルクを、
図15に二点鎖線X3で示すように第1実施形態よりも高めることができる。
【0076】
なお、図示は略すが、第2実施形態において、複数のポンチ153を、その先端面(当接面)161が長手方向をネジ部29のリード方向に対し直交させるようにロッド21の中心線に対し傾斜させて配置しても良い。これにより、
図16に示すように、変形部170がロッド21の軸方向に対し傾斜し、ネジ部29のリード方向に対し直交する方向に延在形成されることになる。
【0077】
また、第2実施形態において、
図17に示すように、先端面161が円弧状の複数のポンチ153を用意し、これらがロッド21の中心に向けて移動すると、円環状に繋がるようにしても良い。これにより、ネジ部29の全周に連続して変形部170を形成することができ、ネジ部29のネジ山をなくすことができる。
【0078】
また、第2実施形態において、
図18に示すように、ロッド21の先端部88の径方向中央に穴部175を形成し、この穴部175をテーパ状の工具176で拡大するように加締めて、穴部175にテーパ面177を形成しつつネジ部29に径方向内方から力を加えてこれを塑性変形させるようにしても良い。
なお、第2実施形態においては、第1実施形態に加えて変形部170を設けることを示したが、第1実施形態の加工を行わず、第2実施形態の加工のみを行っただけであったとしても、第2実施形態の効果よりも劣るものの、緩み止めを何もしないものより緩みトルクを高く維持することができる。
【0079】
なお、以上の実施形態では、自動車用サスペンションストラットとして用いられる緩衝器におけるナット22のロッド21への締結方法を例にとり説明したが、これは、フロントに設けられるサスペンションストラットは、操舵時にシリンダ11が回転するので、ピストン17を介しナット22に緩める力を加えられるので、特に利用価値が高いからで、本発明の締結方法は、他の種々の構造物におけるナットのボルトへの締結方法に適用可能である。
【0080】
以上に述べた実施形態は、ナットをボルトに螺合させて締結する締結方法であって、前記ナットには、座面側に工具装着部が形成され、該工具装着部の前記座面とは反対側に環状の薄肉部が形成されており、前記薄肉部を外周方向から複数カ所ポンチで加締める加締め工程を行うことで、前記薄肉部の肉を周方向に部分的に前記ボルトの先端側に延びるように流動させて前記ボルトのネジ部に密着させる。このように、ナットの工具装着部の座面とは反対側に形成された環状の薄肉部を、外周方向から複数カ所ポンチで加締める加締め工程を行うことで、薄肉部の肉を周方向に部分的にボルトの先端側に延びるように流動させてボルトのネジ部に密着させるため、コスト増を抑制しつつ、緩み出しトルクの増大を図ることができる。このように、緩み出しトルクを大きくすることでピストンやディスクバルブに付与する残留軸力を安定させることができ、減衰力のばらつきを抑制することができる。
【0081】
前記ボルトのネジ部を、前記ナットの前記ボルトの先端側に延びる延長部によって、周方向に部分的に変形させる。このため、緩み出しトルクの一層の増大を図ることができる。
【0082】
前記ナットの前記ボルトの先端側に延びる延長部の長さは、前記ボルトのネジ部のピッチ寸法を加締カ所の数で割った長さより長い。このため、緩み出しトルクの一層の増大を図ることができる。
【0083】
前記ナットの前記ボルトの先端側に延びる延長部の長さは、前記ボルトのネジ部のピッチ寸法よりも長い。このため、ロッドのネジ部と延長部との軸方向の位置関係によらず、延長部をネジ部に密着させることができる。したがって、緩み出しトルクの増大を安定的に図ることができる。
【0084】
前記ネジ部の前記薄肉部に覆われていない露出部分にネジ山を変形させた変形部を形成する。このため、緩み出しトルクの増大を図った上で、仮に緩み出したとしても、変形部がナットの加締め部分の抵抗となって緩みトルクを高く維持することができる。
【0085】
前記変形部を、前記ネジ部に径方向から力を加えることで形成する。このため、緩みトルクを高く維持することが良好にできる。
【0086】
前記変形部を、前記薄肉部の前記加締め工程を行っていない部分に対応する前記ネジ部の周方向位置に形成する。このため、薄肉部の加締め工程により形成される部分との干渉がなく、変形部のロッド軸方向の長さを長くできる。しかも、薄肉部の加締め工程と変形部の加工とを同時に行うことが可能となり、生産効率を向上させることができる。
【0087】
前記加締め工程は、周方向に均等に複数の前記ポンチを配置し、同時にこれらポンチを前記薄肉部に押し当てる。これにより、複数の加締め部を、周方向位置による偏りなく安定した形状および大きさに形成することができる。
【0088】
前記ポンチは、軸方向に関して、前記薄肉部の前記加締め工程後の加締め部の長さと同等以上の長さである。このため、加締め部を全体的にロッドに密着させることができる。
【0089】
前記ポンチは、前記薄肉部への当接面が凹面形状である。このため、加締め部の底面を薄肉部の外周面に沿わせることができ、ポンチの荷重を先端面の全面を使って薄肉部に伝えることができる。よって、ポンチの面圧が先端面全体に加わることになり、ポンチの耐久性を向上させることができる。
【0090】
以上に述べた実施形態は、流体が封入されたシリンダ内に摺動可能に設けられるピストンと、前記ピストンに設けられ、流体が流通する流路と、前記ピストンおよび前記流路を開閉する環状のディスクバルブに一端側が挿通され、他端側が前記シリンダから外部に延出されるロッドと、前記ロッドの一端側に形成されたネジ部に螺合され、前記ピストンおよび前記ディスクバルブに軸力を付与するナットと、を備えたシリンダ装置であって、前記ナットには、座面側に工具装着部が形成され、該工具装着部の前記座面とは反対側に環状の薄肉部が形成されており、前記薄肉部には、周方向の複数カ所に加締め部が形成され、該加締め部には、前記薄肉部の肉が周方向に部分的に前記ロッドの先端側に流動して延びる延長部が形成され、該延長部が前記ロッドのネジ部に密着されている。このように、ナットの工具装着部の座面とは反対側に形成された環状の薄肉部を、外周方向から複数カ所ポンチで加締める加締め工程を行うことで、薄肉部の肉を周方向に部分的にボルトの先端側に延びるように流動させてボルトのネジ部に密着させるため、コスト増を抑制しつつ、緩み出しトルクの増大を図ることができる。このように、緩み出しトルクを大きくすることでピストンやディスクバルブに付与する残留軸力を安定させることができ、減衰力のばらつきを抑制することができる。
【0091】
前記延長部に対向する前記ロッドのネジ部が波状の変形部となっている。このため、緩み出しトルクの一層の増大を図ることができる。
【0092】
前記ナットの前記ロッドの先端側に延びる延長部の長さは、前記ロッドのネジ部のピッチ寸法を加締カ所の数で割った長さより長い。このため、緩み出しトルクの一層の増大を図ることができる。
【0093】
前記ナットの前記ロッドの先端側に延びる延長部の長さは、前記ロッドのネジ部のピッチ寸法よりも長い。このため、緩み出しトルクの一層の増大を図ることができる。