特許第5982220号(P5982220)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5982220
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】電動リニアアクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/24 20060101AFI20160818BHJP
【FI】
   F16H25/24 D
   F16H25/24 A
   F16H25/24 H
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-179753(P2012-179753)
(22)【出願日】2012年8月14日
(65)【公開番号】特開2014-37854(P2014-37854A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2015年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】立石 康司
(72)【発明者】
【氏名】大西 孝明
【審査官】 高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−007684(JP,A)
【文献】 特開2010−031965(JP,A)
【文献】 特開平08−049782(JP,A)
【文献】 特開2009−008162(JP,A)
【文献】 特開平11−025554(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/24
H02K 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のハウジングと、
このハウジングに取り付けられた電動モータと、
この電動モータの回転力をモータ軸を介して伝達する減速機構と、
この減速機構を介して前記電動モータの回転運動を駆動軸の軸方向の直線運動に変換するボールねじ機構とを備え、
このボールねじ機構が、前記ハウジングに装着された支持軸受を介して回転可能に、かつ軸方向移動不可に支持され、内周に螺旋状のねじ溝が形成されたナットと、
このナットに多数のボールを介して内挿され、前記駆動軸と同軸状に一体化され、外周に前記ナットのねじ溝に対応する螺旋状のねじ溝が形成され、前記ハウジングに対して回転不可に、かつ軸方向移動可能に支持されたねじ軸とで構成されると共に、
前記ハウジングに前記ねじ軸を収容する袋孔が形成された電動リニアアクチュエータにおいて、
前記ハウジングの袋孔にスリーブが嵌着され、このスリーブに軸方向に延びるガイド溝が形成されると共に、前記ねじ軸の端部に径方向に貫通する貫通孔が形成され、この貫通孔にガイドピンが僅かな径方向すきまを介して嵌挿され、前記スリーブのガイド溝に係合されていることを特徴とする電動リニアアクチュエータ。
【請求項2】
前記ガイドピンが軸受のころからなり、外周面にクラウニングが形成されている請求項1に記載の電動リニアアクチュエータ。
【請求項3】
前記ガイド溝が周方向に2箇所対向して形成されている請求項1に記載の電動リニアアクチュエータ。
【請求項4】
前記貫通孔に硬化層が形成されている請求項1に記載の電動リニアアクチュエータ。
【請求項5】
前記ガイドピンが前記ねじ軸の貫通孔にブッシュを介して回転自在に支承されている請求項1または2に記載の電動リニアアクチュエータ。
【請求項6】
前記ブッシュが、その金属粉として浸炭焼入が可能な材質からなる焼結合金で形成されている請求項5に記載の電動リニアアクチュエータ。
【請求項7】
前記ブッシュが、繊維状強化材が充填された合成樹脂で形成されている請求項5に記載の電動リニアアクチュエータ。
【請求項8】
前記ガイドピンが前記ねじ軸の貫通孔にシェル型の針状ころ軸受からなる転がり軸受を介して回転自在に支承されている請求項1または2に記載の電動リニアアクチュエータ。
【請求項9】
前記ハウジングがアルミ合金から形成されると共に、前記スリーブが当該ハウジングよりも材料強度と耐摩耗性が高い材質で形成されている請求項1に記載の電動リニアアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般産業用の電動機、自動車等の駆動部に使用されるボールねじ機構を備えた電動リニアアクチュエータ、詳しくは、自動車のトランスミッションやパーキングブレーキ等で、電動モータからの回転入力をボールねじ機構を介して駆動軸の直線運動に変換する電動リニアアクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種駆動部に使用される電動リニアアクチュエータにおいて、電動モータの回転運動を軸方向の直線運動に変換する機構として、台形ねじあるいはラックアンドピニオン等の歯車機構が一般的に使用されている。これらの変換機構は、滑り接触部を伴うため動力損失が大きく、電動モータの大型化や消費電力の増大を余儀なくされている。そのため、より効率的なアクチュエータとしてボールねじ機構が採用されるようになってきた。
【0003】
従来の電動リニアアクチュエータとしては、例えば、ハウジングに支持された電動モータにより、ボールねじを構成するボールねじ軸を回転駆動自在とし、このボールねじ軸を回転駆動することによってナットに結合された出力部材を軸方向に変位可能としている。ボールねじ機構は、摩擦が非常に低く、出力部材側に作用するスラスト荷重によって簡単にボールねじ軸が回転してしまうので、電動モータが停止時に出力部材を位置保持する必要がある。
【0004】
そこで、例えば、電動モータにブレーキ手段を設けたり、あるいは伝達手段としてウオームギアのような低効率なものを設けることがなされているが、その代表的なものとして、図5に示すような電動リニアアクチュエータが知られている。この電動リニアアクチュエータ50は、電動モータ(図示せず)により回転駆動されるボールねじ軸51と、このボールねじ軸51にボール(図示せず)を介して螺合されたボールねじナット52とを備えるボールねじ機構53を採用している。電動モータのモータ軸(図示せず)が回転すると、このモータ軸に連結されたボールねじ軸51が回転し、ボールねじナット52を直線運動(図の左右方向)に移動させる。
【0005】
ボールねじ軸51は、円筒状のハウジング54、55に2つの転がり軸受56、57によって回転自在に支承されている。これらの転がり軸受56、57は、固定用の蓋58を介して緩み止め用の回り止め部材59によって固定されている。
【0006】
ボールねじ軸51の外周には螺旋状のねじ溝51aが形成され、ボールを介して円筒状のボールねじナット52が螺合されている。ボールねじナット52の内周には螺旋状のねじ溝52aが形成され、端部に大径部60が形成されている。
【0007】
大径部60の側面には、端面がフラットになるようにカットされたフラット部61が形成されている。このフラット部61の略中央部には、カムフォロア(回転止め手段)62が径方向の外側に向けて突設されている。
【0008】
このように、カムフォロア62が切欠き部に嵌合されているので、ボールねじナット52は、ボールねじ軸51の回転に伴って連れ回りすることがなく、かつ、カムフォロア62が切欠き部に回転摺動するので、摺動摩擦や摩耗の問題を低減することができる(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−333046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
こうした従来の電動リニアアクチュエータ50では、ボールねじナット52のとして回転止め手段としてカムフォロア62が使用されているため、摺動摩擦や摩耗の問題を低減すると共に、低トルク化を図ることができるが、カムフォロア62自体が転がり軸受を使用しているためコストが高騰する恐れがある。
【0011】
本発明は、こうした従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、摺動摩擦や摩耗の低減を図ると共に、簡便な構造で低コストなナットの回り止め機構を備えた電動リニアアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
係る目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、円筒状のハウジングと、このハウジングに取り付けられた電動モータと、この電動モータの回転力をモータ軸を介して伝達する減速機構と、この減速機構を介して前記電動モータの回転運動を駆動軸の軸方向の直線運動に変換するボールねじ機構とを備え、このボールねじ機構が、前記ハウジングに装着された支持軸受を介して回転可能に、かつ軸方向移動不可に支持され、内周に螺旋状のねじ溝が形成されたナットと、このナットに多数のボールを介して内挿され、前記駆動軸と同軸状に一体化され、外周に前記ナットのねじ溝に対応する螺旋状のねじ溝が形成され、前記ハウジングに対して回転不可に、かつ軸方向移動可能に支持されたねじ軸とで構成されると共に、前記ハウジングに前記ねじ軸を収容する袋孔が形成された電動リニアアクチュエータにおいて、前記ハウジングの袋孔にスリーブが嵌着され、このスリーブに軸方向に延びるガイド溝が形成されると共に、前記ねじ軸の端部に径方向に貫通する貫通孔が形成され、この貫通孔にガイドピンが僅かな径方向すきまを介して嵌挿され、前記スリーブのガイド溝に係合されている。
【0013】
このように、電動モータの回転力を伝達する減速機構と、この減速機構を介して電動モータの回転運動を駆動軸の軸方向の直線運動に変換するボールねじ機構とを備え、ボールねじ機構が、ハウジングに装着された一対の支持軸受を介して回転可能に、かつ軸方向移動不可に支持され、内周に螺旋状のねじ溝が形成されたナットと、このナットに多数のボールを介して内挿され、駆動軸と同軸状に一体化され、外周にナットのねじ溝に対応する螺旋状のねじ溝が形成され、ハウジングに対して回転不可に、かつ軸方向移動可能に支持されたねじ軸とで構成されると共に、ハウジングにねじ軸を収容する袋孔が形成された電動リニアアクチュエータにおいて、ハウジングの袋孔にスリーブが嵌着され、このスリーブに軸方向に延びるガイド溝が形成されると共に、ねじ軸の端部に径方向に貫通する貫通孔が形成され、この貫通孔にガイドピンが僅かな径方向すきまを介して嵌挿され、スリーブのガイド溝に係合されているので、ガイドピンが貫通孔の中で回転自在となり、摺動摩擦や摩耗の低減を図ると共に、簡便な構造で低コストなナットの回り止め機構を備えた電動リニアアクチュエータを提供することができる。
【0014】
好ましくは、請求項2に記載の発明のように、前記ガイドピンが軸受のころからなり、外周面にクラウニングが形成されていれば、耐摩耗性とせん断強度に富み、入手性が良く低コスト化を図ることができる。
【0015】
また、請求項3に記載の発明のように、前記ガイド溝が周方向に2箇所対向して形成されていれば、安定してガイドピンを案内することができる。
【0016】
また、請求項4に記載の発明のように、前記貫通孔に硬化層が形成されていれば、貫通孔の耐摩耗性を向上させ、長期間に亘ってガイドピンの安定した支持を行うことができる。
【0017】
また、請求項5に記載の発明のように、前記ガイドピンが前記ねじ軸の貫通孔にブッシュを介して回転自在に支承されていても良い。
【0018】
また、請求項6に記載の発明のように、前記ブッシュが、その金属粉として浸炭焼入が可能な材質からなる焼結合金で形成されていても良いし、また、請求項7に記載の発明のように、前記ブッシュが、繊維状強化材が充填された合成樹脂で形成されていても良い。これにより、ブッシュの耐摩耗性を向上させ、長期間に亘ってガイドピンの安定した支持を行うことができる
【0019】
また、請求項8に記載の発明のように、前記ガイドピンが前記ねじ軸の貫通孔にシェル型の針状ころ軸受からなる転がり軸受を介して回転自在に支承されていても良い。これにより、摺動トルクおよび摺動摩擦や摩耗の低減を一層図ることができる。
【0020】
また、請求項9に記載の発明のように、前記ハウジングがアルミ合金から形成されると共に、前記スリーブが当該ハウジングよりも材料強度と耐摩耗性が高い材質で形成されていれば、耐久性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る電動リニアアクチュエータは、円筒状のハウジングと、このハウジングに取り付けられた電動モータと、この電動モータの回転力をモータ軸を介して伝達する減速機構と、この減速機構を介して前記電動モータの回転運動を駆動軸の軸方向の直線運動に変換するボールねじ機構とを備え、このボールねじ機構が、前記ハウジングに装着された支持軸受を介して回転可能に、かつ軸方向移動不可に支持され、内周に螺旋状のねじ溝が形成されたナットと、このナットに多数のボールを介して内挿され、前記駆動軸と同軸状に一体化され、外周に前記ナットのねじ溝に対応する螺旋状のねじ溝が形成され、前記ハウジングに対して回転不可に、かつ軸方向移動可能に支持されたねじ軸とで構成されると共に、前記ハウジングに前記ねじ軸を収容する袋孔が形成された電動リニアアクチュエータにおいて、前記ハウジングの袋孔にスリーブが嵌着され、このスリーブに軸方向に延びるガイド溝が形成されると共に、前記ねじ軸の端部に径方向に貫通する貫通孔が形成され、この貫通孔にガイドピンが僅かな径方向すきまを介して嵌挿され、前記スリーブのガイド溝に係合されているので、ガイドピンが貫通孔の中で回転自在となり、摺動摩擦や摩耗の低減を図ると共に、簡便な構造で低コストなナットの回り止め機構を備えた電動リニアアクチュエータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】(a)は、本発明に係る電動リニアアクチュエータの一実施形態を示す縦断面図、(b)は、(a)のI−I線に沿った横断面図である。
図2図1のボールねじ機構を示す縦断面図である。
図3図1の回転止め部を示す要部拡大図である。
図4】(a)は、図3の変形例を示す要部拡大図、(b)は、図3の他の変形例を示す要部拡大図である。
図5】従来の電動リニアアクチュエータを示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
円筒状のハウジングと、このハウジングに取り付けられた電動モータと、この電動モータの回転力をモータ軸を介して伝達する減速機構と、この減速機構を介して前記電動モータの回転運動を駆動軸の軸方向の直線運動に変換するボールねじ機構とを備え、このボールねじ機構が、前記ハウジングに装着された支持軸受を介して回転可能に、かつ軸方向移動不可に支持され、内周に螺旋状のねじ溝が形成されたナットと、このナットに多数のボールを介して内挿され、前記駆動軸と同軸状に一体化され、外周に前記ナットのねじ溝に対応する螺旋状のねじ溝が形成され、前記ハウジングに対して回転不可に、かつ軸方向移動可能に支持されたねじ軸とで構成されると共に、前記ハウジングに前記ねじ軸を収容する袋孔が形成された電動リニアアクチュエータにおいて、前記ハウジングの袋孔にスリーブが嵌着され、このスリーブに軸方向に延びるガイド溝が周方向に2箇所対向して形成されると共に、前記ねじ軸の端部に径方向に貫通し、所定の硬化層が形成された貫通孔が形成され、この貫通孔にころ軸受のころからなり、外周面にクラウニングが形成されたガイドピンが僅かな径方向すきまを介して嵌挿され、前記スリーブのガイド溝に係合されている。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1(a)は、本発明に係る電動リニアアクチュエータの一実施形態を示す縦断面図、(b)は、(a)のI−I線に沿った横断面図、図2は、図1のアクチュエータ本体を示す縦断面図、図3は、図1の回り止め機構を示す要部拡大図、図4(a)は、図3の変形例を示す要部拡大図、(b)は、図3の他の変形例を示す要部拡大図である。
【0025】
この電動リニアアクチュエータ1は、図1(a)に示すように、円筒状のハウジング2と、このハウジング2に取り付けられた電動モータ3と、この電動モータ3の回転力をモータ軸3aを介して伝達する一対の平歯車4、5からなる減速機構6と、この減速機構6を介して電動モータ3の回転運動を駆動軸7の軸方向の直線運動に変換するボールねじ機構8とを備えている。
【0026】
ハウジング2は、A6063TEやADC12等のアルミ合金からなり、第1のハウジング2aと、その端面に衝合された第2のハウジング2bとを備え、固定ボルト(図示せず)によって一体に固定されている。第1のハウジング2aには電動モータ3が取り付けられると共に、第1のハウジング2aと第2のハウジング2bには、ねじ軸12を収容するための袋孔9、10が形成されている。
【0027】
電動モータ3のモータ軸3aの端部には小平歯車4が圧入により相対回転不能に取り付けられ、第2のハウジング2bに装着された転がり軸受11によって回転自在に支持されている。大平歯車5は、後述するボールねじ機構8を構成するナット14に一体形成され、小平歯車4に噛合している。駆動軸7は、ボールねじ機構8を構成するねじ軸12と一体に構成されている。
【0028】
ねじ軸12は、(b)に示すように、その端部にガイドピン20が嵌挿されると共に、第1のハウジング2aの袋孔9にスリーブ18が装着され、このスリーブ18に形成されたガイド溝18aにガイドピン20を係合させることにより、ねじ軸12の回り止めを行う。
【0029】
ボールねじ機構8は、図2に拡大して示すように、ねじ軸12と、このねじ軸12にボール13を介して外挿されたナット14とを備えている。ねじ軸12は、外周に螺旋状のねじ溝12aが形成され、軸方向移動自在に、かつ回転不可に支承されている。一方、ナット14は、ねじ軸12に外装されると共に、内周にねじ軸12のねじ溝12aに対応する螺旋状のねじ溝14aが形成され、これらねじ溝12a、14aとの間に多数のボール13が転動自在に収容されている。そして、ナット14は、ハウジング(図示せず)に対して、2つの支持軸受15、16を介して回転自在に、かつ軸方向移動不可に支承されている。17は、ナット14のねじ溝14aを連結して循環部材を構成する駒部材で、この駒部材17によって多数のボール13が無限循環することができる。
【0030】
各ねじ溝12a、14aの断面形状は、サーキュラアーク形状であってもゴシックアーク形状であっても良いが、ここではボール13との接触角が大きくとれ、アキシアルすきまが小さく設定できるゴシックアーク形状に形成されている。これにより、軸方向荷重に対する剛性が高くなり、かつ振動の発生を抑制することができる。
【0031】
ナット14はSCM415やSCM420等の肌焼き鋼からなり、真空浸炭焼入れによってその表面に55〜62HRCの範囲に硬化処理が施されている。これにより、熱処理後のスケール除去のためのバフ加工等を省略することができ、低コスト化を図ることができる。一方、ねじ軸12はS55C等の中炭素鋼あるいはSCM415やSCM420等の肌焼き鋼からなり、高周波焼入れ、あるいは浸炭焼入れによってその表面に55〜62HRCの範囲に硬化処理が施されている。
【0032】
ナット14の外周には減速機構6を構成する大平歯車5が一体に形成されると共に、この大平歯車5の両側に2つの支持軸受15、16が所定のシメシロを介して圧入されている。これにより、駆動軸7からスラスト荷重が負荷されても支持軸受15、16と大平歯車5の軸方向の位置ズレを防止することができる。また、2つの支持軸受15、16は、両端部にシールド板が装着された密封型の深溝玉軸受で構成され、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から摩耗粉等が軸受内部に侵入するのを防止している。
【0033】
ここで、本実施形態では、図3に示すように、第1のハウジング2aの袋孔9に筒状のスリーブ18が圧入されている。このスリーブ18は、硬化処理されたSUJ2等の高炭素クロム軸受鋼、あるいはS45C等の炭素鋼からなり、後述する回り止め機構21を構成する軸方向に延びるガイド溝18a、18aが周方向に2箇所対向して形成されている。これにより、少なくともアルミ合金からなる第1のハウジング2aよりも材料強度と耐摩耗性が高くなり、耐久性を向上させることができる。
【0034】
一方、ねじ軸12の端部には径方向に貫通する貫通孔19が形成され、この貫通孔19にガイドピン20が僅かな径方向すきまを介して嵌挿されている。この貫通孔19は、高周波焼入れによって表面硬さを60〜64HRCの範囲に所定の硬化層が形成されている。
【0035】
また、ガイドピン20は、耐摩耗性とせん断強度に富み、入手性が良く低コストな、ころ軸受のころが使用されている。特に、ころ軸受のころを使用することにより、外周面にクラウニングが形成されているので、貫通孔19との接触においてエッジロードを防止して接触面圧を低下させて耐久性を向上させることができる。なお、ころ軸受とは、針状ころ、円筒ころを含むものとする。そして、このガイドピン20がスリーブ18のガイド溝18aに係合し、ねじ軸12の軸方向の案内と共に回り止めを行う。このガイドピン20と、このガイドピン20に係合するガイド溝18aを有するスリーブ18とで回り止め機構21を構成している。
【0036】
このように、ガイド溝18aに係合するガイドピン20がねじ軸12の貫通孔19に僅かなすきまを介して嵌挿されているので、ガイドピン20が貫通孔19の中で回転自在となり、摺動摩擦や摩耗の低減を図ると共に、簡便な構造で低コストなナットの回り止め機構を備えた電動リニアアクチュエータを提供することができる。また、貫通孔19が高周波焼入れによって表面硬さを60〜64HRCの範囲に所定の硬化層が形成されているので、ガイドピン20として針状ころを使用しても、貫通孔19の耐摩耗性を向上させ、長期間に亘ってガイドピン20の安定した支持を行うことができる。
【0037】
図4(a)に、図3の変形例を示す。なお、この実施形態は前述したものと基本的にはガイドピン20の支持構造が異なるだけで、その他前述した実施形態と同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符合を付して詳細な説明を省略する。
【0038】
この回り止め機構22は、ガイドピン20と、このガイドピン20を回転自在に支承するブッシュ23を備えている。すなわち、ねじ軸12の端部には径方向に貫通する貫通孔24と、この貫通孔24の両端部に、貫通孔24よりも大径の装着部24a、24aが形成されている。そして、装着部24aにリング状のブッシュ23が嵌合されると共に、ガイドピン20がこれらブッシュ23、23と貫通孔24に僅かな径方向すきまを介して嵌挿されている。
【0039】
このように、ガイド溝18aに係合するガイドピン20がねじ軸12の貫通孔24とブッシュ23に僅かなすきまを介して嵌挿されているので、前述した実施形態と同様、ガイドピン20が貫通孔24の中で回転自在となり、摺動摩擦や摩耗の低減を図ることができる。
【0040】
ここで、ブッシュ23は焼結合金からなり、その金属粉として浸炭焼入が可能な材質、例えば、C(炭素)が0.13wt%、Ni(ニッケル)が0.21wt%、Cr(クロム)が1.1wt%、Cu(銅)が0.04wt%、Mn(マンガン)が0.76wt%、Mo(モリブデン)が0.19wt%、Si(シリコン)が0.20wt%、残りがFe(鉄)等からなるSCM415を例示することができる。これにより、耐摩耗性を向上させ、長期間に亘ってガイドピン20の安定した支持を行うことができる。
【0041】
なお、ブッシュ23の材質は、前述した材質以外にも、GF(グラス繊維)等の繊維状強化材が所定量充填されたPA(ポリアミド)66等の熱可塑性の合成樹脂で形成されていても良い。これにより、ねじ軸12に衝撃荷重が負荷されてもそれを緩和することができる。繊維状強化材としては、GFに限らず、これ以外に、CF(炭素繊維)やアラミド繊維、ホウ素繊維等を例示することができる。
【0042】
ブッシュ23の他の材質として、さらに、PPA(ポリフタルアミド)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)等の所謂エンジニアリングプラスチックと呼称される熱可塑性の合成樹脂やポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)等の所謂スーパーエンジニアリングプラスチックと呼称される熱可塑性の合成樹脂、あるいは、フェノール樹脂(PF)、エポキシ樹脂(EP)、ポリイミド樹脂(PI)等の熱硬化性の合成樹脂であっても良い。
【0043】
図4(b)に、図3の他の変形例を示す。この実施形態は前述したものと基本的にはガイドピン20の支持構造が異なるだけで、その他前述した実施形態と同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符合を付して詳細な説明を省略する。
【0044】
この回り止め機構25は、ガイドピン20と、このガイドピン20を回転自在に支承する転がり軸受26を備えている。すなわち、ねじ軸12の端部には径方向に貫通する貫通孔27が形成されている。そして、この貫通孔27に転がり軸受26が装着されている。この転がり軸受26は、貫通孔27に圧入される鋼板プレス製の外輪28と、保持器29を介して外輪28に転動自在に収容された複数の針状ころ30とを備えた、所謂シェル型の針状ころ軸受で構成されている。これにより、入手性が高く、低コスト化を図ることができる。
【0045】
このように、ガイド溝18aに係合するガイドピン20が、ねじ軸12の貫通孔27に装着された転がり軸受26により回転自在に支承されているので、前述した実施形態と同様、摺動トルクおよび摺動摩擦や摩耗の低減を一層図ることができる。
【0046】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る電動リニアアクチュエータは、一般産業用の電動機、自動車等の駆動部に使用され、電動モータからの回転入力をボールねじ機構を介して駆動軸の直線運動に変換するボールねじ機構を備えた電動リニアアクチュエータに適用できる。
【符号の説明】
【0048】
1 電動リニアアクチュエータ
2 ハウジング
2a 第1のハウジング
2b 第2のハウジング
3 電動モータ
3a モータ軸
4 小平歯車
5 大平歯車
6 減速機構
7 駆動軸
8 ボールねじ機構
9、10 袋孔
11、26 転がり軸受
12 ねじ軸
12a、14a ねじ溝
13 ボール
14 ナット
15、16 支持軸受
17 駒部材
18 スリーブ
18a ガイド溝
19、24、27 貫通孔
20 ガイドピン
21、22、25 回り止め機構
23 ブッシュ
24a 装着部
28 外輪
29 保持器
30 針状ころ
50 電動リニアアクチュエータ
51 ボールねじ軸
51a ねじ溝
52 ボールねじナット
53 ボールねじ機構
54、55 ハウジング
56、57 転がり軸受
58 蓋
59 回り止め部材
60 大径部
61 フラット部
62 カムフォロア(回転止め手段)
図1
図2
図3
図4
図5