特許第5982243号(P5982243)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5982243
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】酸化チタンペースト
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/04 20060101AFI20160818BHJP
   C09C 1/36 20060101ALI20160818BHJP
   H01M 14/00 20060101ALI20160818BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20160818BHJP
   H01G 9/20 20060101ALI20160818BHJP
   C09D 11/00 20140101ALN20160818BHJP
【FI】
   C01G23/04 Z
   C09C1/36
   H01M14/00 P
   C09D17/00
   H01G9/20 111C
   !C09D11/00
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-212963(P2012-212963)
(22)【出願日】2012年9月26日
(65)【公開番号】特開2014-40557(P2014-40557A)
(43)【公開日】2014年3月6日
【審査請求日】2015年5月7日
(31)【優先権主張番号】特願2012-82653(P2012-82653)
(32)【優先日】2012年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-167534(P2012-167534)
(32)【優先日】2012年7月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 拓
(72)【発明者】
【氏名】羽根田 聡
(72)【発明者】
【氏名】堀木 麻由美
【審査官】 磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/055845(WO,A1)
【文献】 特開2011−181281(JP,A)
【文献】 特開2011−210553(JP,A)
【文献】 特開2011−181282(JP,A)
【文献】 特開2011−086869(JP,A)
【文献】 特開2010−118158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/04
C09C 1/36
C09D 17/00
H01G 9/20
H01M 14/00
C09D 11/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタン微粒子と、(メタ)アクリル樹脂と、有機溶媒とを含有する酸化チタンペーストであって、粘度が15〜50Pa・s、チキソ比が2以上であり、かつ、大気雰囲気下において25℃から300℃まで10℃/分の昇温速度で加熱した後の(メタ)アクリル樹脂及び有機溶媒の含有量が1重量%以下であり、
(メタ)アクリル樹脂は、ポリイソブチルメタクリレートであり、
有機溶媒は、テルペン系溶剤を含有する
ことを特徴とする色素増感太陽電池用酸化チタンペースト。
【請求項2】
有機溶媒は、沸点が100〜300℃であることを特徴とする請求項1記載の色素増感太陽電池用酸化チタンペースト。
【請求項3】
請求項1又は2記載の色素増感太陽電池用酸化チタンペーストを基材上に印刷し、該基材上に酸化チタンペースト層を形成する工程と、前記酸化チタンペースト層を焼成処理することにより、前記酸化チタン微粒子を焼結させて、前記基材上に多孔質酸化チタン層を形成して多孔質酸化チタン積層体を作製する工程と、前記多孔質酸化チタン積層体に増感色素を吸着させる工程と、前記多孔質酸化チタン積層体と対向電極とを対向させて設置する工程と、前記多孔質酸化チタン積層体と前記対向電極との間に電解質層を形成する工程とを有することを特徴とする色素増感太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷性に優れ、低温焼成でも空孔率が高く表面の不純物が少ない多孔質酸化チタン層を製造することが可能な酸化チタンペースト、及び、該酸化チタンペーストを用いた多孔質酸化チタン積層体の製造方法、及び、色素増感太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の枯渇問題や地球温暖化問題を背景に、クリーンエネルギー源としての太陽電池が、近年大変注目されてきており、研究開発が盛んに行なわれるようになってきている。
従来、実用化されてきたのは、単結晶Si、多結晶Si、アモルファスSi等に代表されるシリコン系太陽電池であるが、高価であることや原料Siの不足問題等が表面化するにつれて、次世代太陽電池への要求が高まりつつある。
【0003】
これに対応する太陽電池として有機系太陽電池が近年注目を浴びており、その中でも特に色素増感太陽電池が注目されている。色素増感太陽電池は、比較的容易に製造でき、原材料が安く、かつ高い光電変換効率を得られるため、次世代太陽電池の有力候補と考えられている。色素増感太陽電池においては、従来、電極材料として酸化チタンを層状に形成したものが用いられている。この酸化チタン層は、1)増感色素の吸着、2)励起した増感色素からの電子注入受け入れ、3)導電層への電子輸送、4)ヨウ化物イオンから色素への電子移動(還元)反応場の提供、並びに、5)光散乱及び光閉じこめ等の役割を持っており、太陽電池の性能を決めるもっとも重要な因子の一つである。
【0004】
このうち、「1)増感色素の吸着」については、光電変換効率を向上させるため、より多くの増感色素を吸着させることが必要となる。従って、酸化チタン層は多孔質状であることが求められ、その表面積をできるだけ大きくし、表面の不純物をなるべく少なくすることが求められる。通常、このような多孔質の酸化チタン層を形成する方法としては、酸化チタン粒子と有機バインダとを含有するペーストを基材上に印刷し、溶剤を揮発させた後、更に高温焼成処理にて有機バインダを消失させる方法が用いられている。これにより、酸化チタン粒子同士が焼結しつつ、多数の微細な空隙が層中に存在する多孔質膜を得ることが出来る。
【0005】
このような酸化チタン粒子を含有するペーストに使用される有機バインダとしては、酸化チタン粒子の分散保持性やペーストの粘度等の印刷性の観点からエチルセルロースが一般的に使用されている。しかしながら、エチルセルロースを完全に消失させるためには、500℃を超えるような高温焼成処理が必要であり、近年更なるコストダウンのためにニーズが高まっている樹脂基材を用いることができないという問題があった。また、低温焼成処理を行った場合は、酸化チタン粒子表面に有機バインダの残渣が残ってしまうため増感色素を吸着することが出来ず、光電変換効率が著しく低下するという問題もあった。
【0006】
これに対して、例えば、特許文献1には、有機バインダの含有量を低減させたペーストを用いて低温での焼成処理を行うことが開示されている。しかしながら、特許文献1に記載のペーストは粘度が低く、印刷時の形状保持が困難であり、膜厚の不均一化や端部形状の崩壊、また、微細配線状に印刷した際には配線同士の合着が起こるという問題があった。
【0007】
更に、有機バインダとしてエチルセルロースを使用する場合、溶媒としては低級アルコールや、低級アルコールとテルピネオール等の高粘度溶媒との混合溶媒が用いられるが、ペースト印刷時には、長い間外気に曝されたり、版やスキージといった装置から強いせん断等の外力を受けたりするため、印刷前に分散媒が揮発して粘度が高くなることで印刷性が変化してしまうことがあり、安定した生産が難しいという問題も新たに生じていた。
一方、色素増感太陽電池では、光電変換効率の向上のため、可能な限り多くの増感色素を担持させることが好ましいが、従来の有機バインダを含有するペーストを用いた場合、充分な量の増感色素を担持できなかったり、増感色素の担持に長期間を要したりするという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4801899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、印刷性に優れ、低温焼成でも空孔率が高く表面の不純物が少ない多孔質酸化チタン層を製造することが可能な酸化チタンペースト、及び、該酸化チタンペーストを用いた多孔質酸化チタン積層体の製造方法、及び、色素増感太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、酸化チタン微粒子と、(メタ)アクリル樹脂と、有機溶媒とを含有する酸化チタンペーストであって、粘度が15〜50Pa・s、チキソ比が2以上であり、かつ、大気雰囲気下において25℃から300℃まで10℃/分の昇温速度で加熱した後の(メタ)アクリル樹脂及び有機溶媒の含有量が1重量%以下であり、(メタ)アクリル樹脂は、ポリイソブチルメタクリレートであり、有機溶媒は、テルペン系溶剤を含有する酸化チタンペーストである。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明者らは、鋭意検討の結果、酸化チタン微粒子と(メタ)アクリル樹脂と有機溶媒とを含有し、かつ、粘度、チキソ比及び加熱後の有機成分の含有量を所定の範囲内とすることで、印刷性を保持しつつ、低温焼成でも空孔率が高く表面の不純物が少ない多孔質酸化チタン層を製造することが可能となることから、例えば、色素増感太陽電池の材料として用いた場合に、高い光電変換効率を実現できることを見出した。
また、このような酸化チタンペーストを用いて得られる色素増感太陽電池は、短時間で増感色素を充分に吸着させることが可能となることも見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明の酸化チタンペーストは、酸化チタン微粒子を含有する。酸化チタンは、バンドギャップが広く、資源も比較的に豊富にあるという理由から、好適に使用することができる。
【0013】
上記酸化チタン微粒子としては、例えば、通常ルチル型の酸化チタン微粒子、アナターゼ型の酸化チタン微粒子、ブルッカイト型の酸化チタン微粒子及びこれら結晶性酸化チタンを修飾した酸化チタン微粒子等を用いることができる。
【0014】
上記酸化チタン微粒子の平均粒子径は、好ましい下限が1nm、好ましい上限が50nmであり、より好ましい下限は5nm、より好ましい上限は25nmである。上記範囲内とすることで、得られる多孔質酸化チタン層が充分な比表面積を有するものとなる。また、電子と正孔の再結合を防ぐことができる。また、粒子径分布の異なる2種類以上の微粒子を混合してもよい。
【0015】
上記酸化チタン微粒子の添加量の好ましい下限は酸化チタンペーストに対して5重量%、好ましい上限は75重量%である。上記添加量が5重量%未満であると、十分な厚みの多孔質酸化チタン層を得ることができないことがあり、75重量%を超えると、ペーストの粘度が上昇して平滑に印刷できないことがある。より好ましい下限は10重量%、より好ましい上限は50重量%である。更に好ましい下限は20重量%、更に好ましい上限は35重量%である。
【0016】
本発明の酸化チタンペーストは、(メタ)アクリル樹脂を含有する。上記(メタ)アクリル樹脂は、低温分解性に優れることから、低温焼成を行う場合でも有機残渣量が少ない酸化チタンペーストとすることができる。また、(メタ)アクリル樹脂は低粘度特性であることから、作業環境において溶媒揮発が起きても粘度特性の変化を大幅に抑えることができるため、安定した印刷を行うことができる。
【0017】
上記(メタ)アクリル樹脂としては300℃程度の低温で分解するものであれば特に限定されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート及びポリオキシアルキレン構造を有する(メタ)アクリルモノマーからなる群より選択される少なくとも1種からなる重合体が好適に用いられる。ここで、例えば(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。なかでも、少ない樹脂の量で高い粘度を得ることができることから、ガラス転移温度(Tg)が高く、かつ、低温脱脂性に優れるメチルメタクリレートの重合体であるポリイソブチルメタクリレート(イソブチルメタクリレート重合体)が好適である。
【0018】
上記(メタ)アクリル樹脂のポリスチレン換算による重量平均分子量の下限は5000、上限は500000である。上記重量平均分子量が5000未満であると、充分な粘度を発現することができないために印刷用途に適さず、500000を超えると、本発明の酸化チタンペーストの粘着力が高くなり、延糸が発生したりし、印刷性が低下する。上記重量平均分子量の好ましい上限は100000であり、より好ましい上限は50000である。なお、ポリスチレン換算による重量平均分子量の測定は、カラムとして例えばカラムLF−804(SHOKO社製)を用いてGPC測定を行うことで得ることができる。
【0019】
本発明の酸化チタンペーストにおける(メタ)アクリル樹脂の含有量としては特に限定されないが、好ましい下限は10重量%、好ましい上限は50重量%である。上記(メタ)アクリル樹脂の含有量が10重量%未満であると、酸化チタンペーストに充分な粘度が得られず、印刷性が低下することがあり、50重量%を超えると、酸化チタンペーストの粘度、粘着力が高くなりすぎて印刷性が悪くなることがある。
なお、上記(メタ)アクリル樹脂は、上記酸化チタン微粒子よりも少ない含有量であることが好ましい。上記(メタ)アクリル樹脂が、上記酸化チタン微粒子よりも多くなると、加熱後の(メタ)アクリル樹脂残留量が多くなることがある。
【0020】
本発明の酸化チタンペーストは、上記(メタ)アクリル樹脂に加えて、低温焼成でも表面の不純物が残らない程度の範囲内において他の少量のバインダ樹脂を添加してもよい。上記バインダ樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリエチレングリコール、ポリスチレン、ポリ乳酸等が挙げられる。
【0021】
本発明の酸化チタンペーストは、有機溶媒を含有する。上記有機溶媒としては、(メタ)アクリル樹脂の溶解性に優れ、極性が高いものが好ましく、例えば、α−テレピネオール、γ−テレピネオール等のテルペン系溶剤、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤、ジオール、トリオール等の多価アルコール系溶剤、上記アルコール系溶媒/炭化水素等の混合溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン等のへテロ化合物等が挙げられる。なかでも、テルペン系溶剤が好ましい。
【0022】
上記有機溶媒は、沸点が100〜300℃であることが好ましい。上記有機溶媒の沸点が100℃未満であると、得られる酸化チタンペーストは、印刷中に乾燥しやすく、長時間の連続印刷に用いる場合には不具合が生じることがある。上記沸点が300℃を超えると、得られる酸化チタンペーストは、印刷後の乾燥工程における乾燥性が低下する。なお、上記沸点は、常圧における沸点を意味する。
【0023】
上記有機溶媒の含有量の好ましい下限は55重量%、好ましい上限は74重量%である。上記有機溶媒の含有量が55重量%未満であると、得られる酸化チタンペーストは、粘度が高くなり、印刷性が悪くなることがある。上記有機溶媒の含有量が74重量%を超えると、得られる酸化チタンペーストの粘度が低くなりすぎて印刷性が悪くなることがある。より好ましい下限は60重量%、より好ましい上限は70重量%である。
【0024】
本発明の酸化チタンペーストは、粘度の下限が15Pa・s、上限が50Pa・sである。上記粘度が15Pa・s未満であると、印刷時の形状保持が困難となる。上記粘度が50Pa・sを超えると、得られる酸化チタンペーストが塗工性に劣るものとなる。上記粘度の好ましい下限は17.5Pa・s、好ましい上限は45Pa・sである。
なお、上記粘度は、E型粘度計を用いて25℃、10rpmせん断時における動粘度を測定したものである。
【0025】
本発明の酸化チタンペーストは、チキソ比の下限が2である。上記チキソ比が2未満であると、印刷後の形状保持が難しく、膜厚の不均一化や端部形状の崩壊、また、微細配線状に印刷した際には配線同士の合着が起こる。上記チキソ比の好ましい下限は2.25、好ましい上限は5である。なお、上記チキソ比は、E型粘度計を用いて25℃、0.5rpmせん断時の動粘度を5rpmせん断時の動粘度で割ることによって求めることができる。
【0026】
本発明の酸化チタンペーストは、常温、大気雰囲気下において、スキージ操作を25回繰り返した場合の粘度変化率が105%以下であることが好ましい。上記粘度変化率が105%を超えると、印刷性が変化してしまうことがあり、安定した生産が難しくなる。
なお、上記粘度変化率は、酸化チタンペーストをガラス上に乗せ、ゴム製スキージを用いてガラス表面に酸化チタンペーストを薄く延ばし、また擦り取るという操作を25回繰り返した前後の粘度の比率であり、粘度は、E型粘度計を用いて25℃、10rpmせん断時における動粘度を測定したものである。
【0027】
本発明の酸化チタンペーストは、大気雰囲気下において25℃から300℃まで10℃/分の昇温速度で加熱した後の(メタ)アクリル樹脂及び有機溶媒の含有量が1重量%以下である。
本発明の酸化チタンペーストは、加熱後の表面不純物が少ないことから、微粒子間の結合(ネッキング)が起こりやすく、その結果、粒子間抵抗を低減することが可能となることから、色素増感太陽電池の材料として用いた場合に、高い光電変換効率を実現することができる。
上記含有量が1重量%を超えると、酸化チタン微粒子表面に不純物が残ってしまうため増感色素を吸着することが出来ない。なお、上記含有量は、酸化チタン微粒子に対する含有量である。
【0028】
本発明の酸化チタンペーストは、印刷性に優れるだけでなく、低温焼成でも空孔率が高く表面の不純物が少ない多孔質酸化チタン層を好適に製造することが可能となる。
また、本発明の酸化チタンペーストは、スクリーン版の洗浄に一般的に使用される有機溶剤との相溶性に優れ、使用後に充分に洗浄除去することができることから、スクリーン版の目詰まりを低減することができ、スクリーン印刷を安定して長期間行うことが可能となる。
更に、本発明の酸化チタンペーストは、色素増感太陽電池の材料として用いた場合、短時間で増感色素を充分に吸着させることが可能となり、得られる色素増感太陽電池は、高い光電変換効率を実現することができる。
【0029】
本発明の酸化チタンペーストを製造する方法としては、酸化チタン微粒子と、(メタ)アクリル樹脂と、有機溶媒とを混合する混合工程を有する方法を用いることができる。上記混合の手段としては、例えば、2本ロールミル、3本ロールミル、ビーズミル、ボールミル、ディスパー、プラネタリーミキサー、自転公転式攪拌装置、ニーダー、押し出し機、ミックスローター、スターラー等を用いて混合する方法等が挙げられる。
【0030】
本発明の酸化チタンペーストを基材上に印刷し、該基材上に酸化チタンペースト層を形成する工程と、前記酸化チタンペースト層を焼成処理することにより、前記酸化チタン微粒子を焼結させて、前記基材上に多孔質酸化チタン層を形成する工程とを有することを特徴とする多孔質酸化チタン積層体の製造方法もまた本発明の1つである。
【0031】
本発明の多孔質酸化チタン積層体の製造方法は、本発明の酸化チタンペーストを基材上に印刷し、該基材上に酸化チタンペースト層を形成する工程を有する。
上記酸化チタンペーストを基材上に印刷する方法としては特に限定されないが、スクリーン印刷法を用いることが好ましい。
【0032】
上記スクリーン印刷法による工程におけるスクリーン版の目開きの大きさ、スキージアタック角、スキージ速度、スキージ押圧力等については、適宜設定することが好ましい。
【0033】
上記酸化チタンペーストを基材上に印刷する工程において、上記基材としては、例えば、色素増感太陽電池用途に使用する場合は、透明導電層を形成した透明基板の該透明導電層上に塗工することによって行う。
【0034】
上記透明基板としては、透明な基板であれば特に限定されないが、珪酸塩ガラス等のガラス基板等が挙げられる。また、上記ガラス基板は、化学的、熱的に強化させたものを用いてもよい。更に、光透過性を確保できれば、種々のプラスチック基板等を使用してもよい。
上記透明基板の厚さは、0.1〜10mmが好ましく、0.3〜5mmがより好ましい。
【0035】
上記透明導電層としては、InやSnOの導電性金属酸化物からなる層や金属等の導電性材料からなる層が挙げられる。上記導電性金属酸化物としては、例えば、In:Sn(ITO)、SnO:Sb、SnO:F、ZnO:Al、ZnO:F、CdSnO等が挙げられる。
【0036】
本発明の多孔質酸化チタン積層体の製造方法は、前記酸化チタン微粒子を焼結させて、前記基材上に多孔質酸化チタン層を形成する工程を有する。
【0037】
上記酸化チタン微粒子の焼結は、塗工する基板の種類等により、温度、時間、雰囲気等を適宜調整することができる。例えば、大気下又は不活性ガス雰囲気下、50〜800℃程度の範囲内で、10秒〜12時間程度行うことが好ましい。また、乾燥及び焼成は、単一の温度で1回又は温度を変化させて2回以上行ってもよい。
【0038】
このようにして得られた多孔質酸化チタン積層体に増感色素を吸着させる工程を行い、対向電極と対向させて設置し、これらの電極の間に電解質層を形成することで、色素増感太陽電池セルを製造することができる。このようにして得られた色素増感太陽電池は、高い光電変換効率を達成することができる。上記増感色素を吸着する方法としては、例えば、増感色素を含むアルコール溶液に、上記多孔質酸化チタン積層体を浸漬した後、アルコールを乾燥除去する方法等が挙げられる。
【0039】
上記増感色素としては、ルテニウム−トリス、ルテニウム−ビス型のルテニウム色素、フタロシアニンやポルフィリン、シアニジン色素、メロシアニン色素、ローダミン色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン色素等の有機色素が挙げられる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、印刷性に優れ、低温焼成でも空孔率が高く表面の不純物が少ない多孔質酸化チタン層を製造することが可能な酸化チタンペースト、及び、該酸化チタンペーストを用いた多孔質酸化チタン積層体の製造方法、及び、色素増感太陽電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】実施例2で得られた多孔質酸化チタン層の形状を撮影した顕微鏡写真である。
図2】比較例3で得られた多孔質酸化チタン層の形状を撮影した顕微鏡写真である。
図3】比較例6で得られた多孔質酸化チタン層の形状を撮影した顕微鏡写真である。
図4】繰り返し印刷後の成膜性評価において、平滑な焼結膜のサンプルである。
図5】繰り返し印刷後の成膜性評価において、凹凸を有する焼結膜のサンプルである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
(酸化チタンペーストの作製)
平均粒子径が20nmの酸化チタン微粒子、有機バインダとしてイソブチルメタクリレート重合体(重量平均分子量50000)、有機溶媒としてα−テルピネオール(沸点219℃)を用い、表1の組成となるようにビーズミルを用いて均一に混合することにより酸化チタンペーストを作製した。
【0044】
(多孔質酸化チタン層の形成)
得られた酸化チタンペーストを、25mm角のFTO透明電極形成済みガラス基板上に、5mm角の正方形状に印刷し、300℃で1時間焼成することにより多孔質酸化チタン層を得た。なお、得られた多孔質酸化チタン層の厚みが10μmとなるよう、印刷条件の微調整を行った。
【0045】
(色素増感太陽電池の作製)
得られた多孔質酸化チタン層付き基板を、Ru錯体色素(N719)のアセトニトリル:t−ブタノール=1:1溶液(濃度0.3mM)中に1日浸漬することにより、多孔質酸化チタン層表面に増感色素を吸着させた。
次に、この基板上に、一方向を除いて多孔質酸化チタン層を取り囲むように厚さ30μmのハイミラン製フィルムを載せ、更にその上から白金電極を蒸着したガラス基板を乗せ、その隙間にヨウ化リチウム及びヨウ素のアセトニトリル溶液を注入、封止することで色素増感太陽電池を得た。
【0046】
(実施例2〜6)
実施例1の(酸化チタンペーストの作製)において、表1の組成となるように酸化チタン微粒子、有機バインダ、有機溶媒の量を変更した以外は、実施例1と同様にして酸化チタンペースト、多孔質酸化チタン層、色素増感太陽電池を得た。
なお、有機溶媒としては、α−テルピネオール(沸点219℃)のほか、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール(PD−9、沸点264℃)、エタノール(沸点78℃)を用いた。
【0047】
(比較例1、2)
実施例1の(酸化チタンペーストの作製)において、有機バインダとしてイソブチルメタクリレート重合体に代えて、エチルセルロース(和光純薬工業社製、45%エトキシ、10cP)を用い、表1の組成となるように各成分を変更した以外は、実施例1と同様にして酸化チタンペースト、多孔質酸化チタン層、色素増感太陽電池を得た。
【0048】
(比較例3〜9)
実施例1の(酸化チタンペーストの作製)において、表1の組成となるように酸化チタン微粒子、有機バインダ、有機溶媒の量を変更した以外は、実施例1と同様にして酸化チタンペースト、多孔質酸化チタン層、色素増感太陽電池を得た。
【0049】
<評価>
実施例及び比較例で得られた酸化チタンペースト、多孔質酸化チタン層、色素増感太陽電池について以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0050】
(1)粘度及びチキソ比の測定
得られた酸化チタンペーストを、E型粘度計(TVE25H、東機産業社製)を用いて25℃、10rpmせん断時における動粘度を測定することで粘度を測定した。
また、0.5rpmせん断時の動粘度を5rpmせん断時の動粘度で割ることによってチキソ比を求めた。なお、粘度については、得られた酸化チタンペーストをガラス上に乗せ、ゴム製スキージを用いてガラス表面に酸化チタンペーストを薄く延ばし、また擦り取るという操作を25回繰り返した後の粘度測定も行い、スキージ前後での粘度変化率を算出した。
【0051】
(2)焼成後の残渣量測定
得られた酸化チタンペーストを、TG:熱重量測定(TG/DTA6300、SII社製)を用いて大気雰囲気下、10℃/分の昇温速度で300℃まで加熱した際における、酸化チタンペースト中の酸化チタン微粒子の固形分量と得られたTGの残分量との差分から、酸化チタン重量に対する残渣成分量(焼成後の(メタ)アクリル樹脂及び有機溶媒の含有量)を求めた。
【0052】
(3)多孔質酸化チタン層の形状評価
得られた多孔質酸化チタン層の端部を、光学顕微鏡(ME600、ニコン社製)を用いて観察し、形状が保持されている場合は「○」、形状が崩れている場合は「×」として評価を行った。なお、実施例2で得られた多孔質酸化チタン層の形状を撮影した顕微鏡写真を図1、比較例3で得られた多孔質酸化チタン層の形状を撮影した顕微鏡写真を図2、比較例6で得られた多孔質酸化チタン層の形状を撮影した顕微鏡写真を図3に示す。
【0053】
(4)多孔質酸化チタン層の色素吸着量測定
実施例1の(色素増感太陽電池の作製)において、得られた増感色素を吸着させた多孔質酸化チタン層を、水酸化カリウム溶液中に浸漬することで増感色素を脱着させ、その脱着液の吸光スペクトルを分光光度計(U−3000、日立製作所社製)を用いて測定することで、色素吸着量を測定した。なお、表1には、比較例1の500nmにおける吸収スペクトルの大きさを1.00として規格化した数値を示した。
【0054】
(5)多孔質酸化チタン層の移動度測定
得られた多孔質酸化チタン層のホール移動度を、ホール効果測定機(ResiTest8300、東陽テクニカ社製)を用いて測定し、ネッキング状態の代替評価を行った。なお、酸化チタン結晶体のホール移動度は10cm/V・s以上であり、これに近い、すなわち値の大きいほどネッキングが進行しており、粒子間抵抗が低減していることを表す。
なお、表1には、比較例1におけるホール移動度を1.00として規格化した数値を示した。
【0055】
(6)色素増感太陽電池の性能評価
得られた色素増感太陽電池の電極間に、電源(236モデル、KEYTHLEY社製)を接続し、100mW/cmの強度のソーラーシミュレータ(山下電装社製)を用いて、色素増感太陽電池の光電変換効率を測定した。なお、表1には、比較例1の変換効率、短絡電流密度を1.00として規格化した数値を示した。なお、変換効率については、得られた酸化チタンペーストをガラス上に乗せ、ゴム製スキージを用いてガラス表面に酸化チタンペーストを薄く延ばし、また擦り取るという操作を25回繰り返した後の酸化チタンペーストを用いた場合についても測定を行い、変換効率の変化率を算出した。
【0056】
(7)色素吸着時間
実施例1の(色素増感太陽電池の作製)において、Ru錯体色素(N719)のアセトニトリル:t−ブタノール=1:1溶液(濃度0.3mM)中に1日(24時間)浸漬した後の色素吸着量を1.00とした場合における、6時間浸漬後、12時間浸漬後の色素吸着量を評価した。なお、色素吸着量は、「(4)多孔質酸化チタン層の色素吸着量測定」と同様の方法で測定した。
【0057】
(8)繰り返し印刷後の成膜性
得られた酸化チタンペーストを用いて100回連続でスクリーン印刷した後、イソプロピルアルコールで洗浄を行うサイクルを10回繰り返した。その後、焼成後の膜厚が10μmとなるように印刷及び焼成を行い、焼結膜の形状を光学顕微鏡にて観察した。
図4のように平滑な焼結膜が得られる場合を「○」、図5のように凹凸を有する焼結膜が得られる場合を「×」として評価を行った。なお、焼結膜に凹凸が形成されるのは、スクリーン版の目詰まりによって、スクリーンメッシュの跡が残ったことによるものと考えられる。
【0058】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、印刷性に優れ、低温焼成でも空孔率が高く表面の不純物が少ない多孔質酸化チタン層を製造することが可能な酸化チタンペースト、及び、該酸化チタンペーストを用いた多孔質酸化チタン積層体の製造方法、及び、色素増感太陽電池を提供できる。
図1
図2
図3
図4
図5