【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、酸化チタン微粒子と、(メタ)アクリル樹脂と、有機溶媒とを含有する酸化チタンペーストであって、粘度が15〜50Pa・s、チキソ比が2以上であり、かつ、大気雰囲気下において25℃から300℃まで10℃/分の昇温速度で加熱した後の(メタ)アクリル樹脂及び有機溶媒の含有量が1重量%以下であ
り、(メタ)アクリル樹脂は、ポリイソブチルメタクリレートであり、有機溶媒は、テルペン系溶剤を含有する酸化チタンペーストである。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明者らは、鋭意検討の結果、酸化チタン微粒子と(メタ)アクリル樹脂と有機溶媒とを含有し、かつ、粘度、チキソ比及び加熱後の有機成分の含有量を所定の範囲内とすることで、印刷性を保持しつつ、低温焼成でも空孔率が高く表面の不純物が少ない多孔質酸化チタン層を製造することが可能となることから、例えば、色素増感太陽電池の材料として用いた場合に、高い光電変換効率を実現できることを見出した。
また、このような酸化チタンペーストを用いて得られる色素増感太陽電池は、短時間で増感色素を充分に吸着させることが可能となることも見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明の酸化チタンペーストは、酸化チタン微粒子を含有する。酸化チタンは、バンドギャップが広く、資源も比較的に豊富にあるという理由から、好適に使用することができる。
【0013】
上記酸化チタン微粒子としては、例えば、通常ルチル型の酸化チタン微粒子、アナターゼ型の酸化チタン微粒子、ブルッカイト型の酸化チタン微粒子及びこれら結晶性酸化チタンを修飾した酸化チタン微粒子等を用いることができる。
【0014】
上記酸化チタン微粒子の平均粒子径は、好ましい下限が1nm、好ましい上限が50nmであり、より好ましい下限は5nm、より好ましい上限は25nmである。上記範囲内とすることで、得られる多孔質酸化チタン層が充分な比表面積を有するものとなる。また、電子と正孔の再結合を防ぐことができる。また、粒子径分布の異なる2種類以上の微粒子を混合してもよい。
【0015】
上記酸化チタン微粒子の添加量の好ましい下限は酸化チタンペーストに対して5重量%、好ましい上限は75重量%である。上記添加量が5重量%未満であると、十分な厚みの多孔質酸化チタン層を得ることができないことがあり、75重量%を超えると、ペーストの粘度が上昇して平滑に印刷できないことがある。より好ましい下限は10重量%、より好ましい上限は50重量%である。更に好ましい下限は20重量%、更に好ましい上限は35重量%である。
【0016】
本発明の酸化チタンペーストは、(メタ)アクリル樹脂を含有する。上記(メタ)アクリル樹脂は、低温分解性に優れることから、低温焼成を行う場合でも有機残渣量が少ない酸化チタンペーストとすることができる。また、(メタ)アクリル樹脂は低粘度特性であることから、作業環境において溶媒揮発が起きても粘度特性の変化を大幅に抑えることができるため、安定した印刷を行うことができる。
【0017】
上記(メタ)アクリル樹脂としては300℃程度の低温で分解するものであれば特に限定されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート及びポリオキシアルキレン構造を有する(メタ)アクリルモノマーからなる群より選択される少なくとも1種からなる重合体が好適に用いられる。ここで、例えば(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。なかでも、少ない樹脂の量で高い粘度を得ることができることから、ガラス転移温度(Tg)が高く、かつ、低温脱脂性に優れるメチルメタクリレートの重合体であるポリイソブチルメタクリレート(イソブチルメタクリレート重合体)が好適である。
【0018】
上記(メタ)アクリル樹脂のポリスチレン換算による重量平均分子量の下限は5000、上限は500000である。上記重量平均分子量が5000未満であると、充分な粘度を発現することができないために印刷用途に適さず、500000を超えると、本発明の酸化チタンペーストの粘着力が高くなり、延糸が発生したりし、印刷性が低下する。上記重量平均分子量の好ましい上限は100000であり、より好ましい上限は50000である。なお、ポリスチレン換算による重量平均分子量の測定は、カラムとして例えばカラムLF−804(SHOKO社製)を用いてGPC測定を行うことで得ることができる。
【0019】
本発明の酸化チタンペーストにおける(メタ)アクリル樹脂の含有量としては特に限定されないが、好ましい下限は10重量%、好ましい上限は50重量%である。上記(メタ)アクリル樹脂の含有量が10重量%未満であると、酸化チタンペーストに充分な粘度が得られず、印刷性が低下することがあり、50重量%を超えると、酸化チタンペーストの粘度、粘着力が高くなりすぎて印刷性が悪くなることがある。
なお、上記(メタ)アクリル樹脂は、上記酸化チタン微粒子よりも少ない含有量であることが好ましい。上記(メタ)アクリル樹脂が、上記酸化チタン微粒子よりも多くなると、加熱後の(メタ)アクリル樹脂残留量が多くなることがある。
【0020】
本発明の酸化チタンペーストは、上記(メタ)アクリル樹脂に加えて、低温焼成でも表面の不純物が残らない程度の範囲内において他の少量のバインダ樹脂を添加してもよい。上記バインダ樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリエチレングリコール、ポリスチレン、ポリ乳酸等が挙げられる。
【0021】
本発明の酸化チタンペーストは、有機溶媒を含有する。上記有機溶媒としては、(メタ)アクリル樹脂の溶解性に優れ、極性が高いものが好ましく、例えば、α−テレピネオール、γ−テレピネオール等のテルペン系溶剤、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤、ジオール、トリオール等の多価アルコール系溶剤、上記アルコール系溶媒/炭化水素等の混合溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン等のへテロ化合物等が挙げられる。なかでも、テルペン系溶剤が好ましい。
【0022】
上記有機溶媒は、沸点が100〜300℃であることが好ましい。上記有機溶媒の沸点が100℃未満であると、得られる酸化チタンペーストは、印刷中に乾燥しやすく、長時間の連続印刷に用いる場合には不具合が生じることがある。上記沸点が300℃を超えると、得られる酸化チタンペーストは、印刷後の乾燥工程における乾燥性が低下する。なお、上記沸点は、常圧における沸点を意味する。
【0023】
上記有機溶媒の含有量の好ましい下限は55重量%、好ましい上限は74重量%である。上記有機溶媒の含有量が55重量%未満であると、得られる酸化チタンペーストは、粘度が高くなり、印刷性が悪くなることがある。上記有機溶媒の含有量が74重量%を超えると、得られる酸化チタンペーストの粘度が低くなりすぎて印刷性が悪くなることがある。より好ましい下限は60重量%、より好ましい上限は70重量%である。
【0024】
本発明の酸化チタンペーストは、粘度の下限が15Pa・s、上限が50Pa・sである。上記粘度が15Pa・s未満であると、印刷時の形状保持が困難となる。上記粘度が50Pa・sを超えると、得られる酸化チタンペーストが塗工性に劣るものとなる。上記粘度の好ましい下限は17.5Pa・s、好ましい上限は45Pa・sである。
なお、上記粘度は、E型粘度計を用いて25℃、10rpmせん断時における動粘度を測定したものである。
【0025】
本発明の酸化チタンペーストは、チキソ比の下限が2である。上記チキソ比が2未満であると、印刷後の形状保持が難しく、膜厚の不均一化や端部形状の崩壊、また、微細配線状に印刷した際には配線同士の合着が起こる。上記チキソ比の好ましい下限は2.25、好ましい上限は5である。なお、上記チキソ比は、E型粘度計を用いて25℃、0.5rpmせん断時の動粘度を5rpmせん断時の動粘度で割ることによって求めることができる。
【0026】
本発明の酸化チタンペーストは、常温、大気雰囲気下において、スキージ操作を25回繰り返した場合の粘度変化率が105%以下であることが好ましい。上記粘度変化率が105%を超えると、印刷性が変化してしまうことがあり、安定した生産が難しくなる。
なお、上記粘度変化率は、酸化チタンペーストをガラス上に乗せ、ゴム製スキージを用いてガラス表面に酸化チタンペーストを薄く延ばし、また擦り取るという操作を25回繰り返した前後の粘度の比率であり、粘度は、E型粘度計を用いて25℃、10rpmせん断時における動粘度を測定したものである。
【0027】
本発明の酸化チタンペーストは、大気雰囲気下において25℃から300℃まで10℃/分の昇温速度で加熱した後の(メタ)アクリル樹脂及び有機溶媒の含有量が1重量%以下である。
本発明の酸化チタンペーストは、加熱後の表面不純物が少ないことから、微粒子間の結合(ネッキング)が起こりやすく、その結果、粒子間抵抗を低減することが可能となることから、色素増感太陽電池の材料として用いた場合に、高い光電変換効率を実現することができる。
上記含有量が1重量%を超えると、酸化チタン微粒子表面に不純物が残ってしまうため増感色素を吸着することが出来ない。なお、上記含有量は、酸化チタン微粒子に対する含有量である。
【0028】
本発明の酸化チタンペーストは、印刷性に優れるだけでなく、低温焼成でも空孔率が高く表面の不純物が少ない多孔質酸化チタン層を好適に製造することが可能となる。
また、本発明の酸化チタンペーストは、スクリーン版の洗浄に一般的に使用される有機溶剤との相溶性に優れ、使用後に充分に洗浄除去することができることから、スクリーン版の目詰まりを低減することができ、スクリーン印刷を安定して長期間行うことが可能となる。
更に、本発明の酸化チタンペーストは、色素増感太陽電池の材料として用いた場合、短時間で増感色素を充分に吸着させることが可能となり、得られる色素増感太陽電池は、高い光電変換効率を実現することができる。
【0029】
本発明の酸化チタンペーストを製造する方法としては、酸化チタン微粒子と、(メタ)アクリル樹脂と、有機溶媒とを混合する混合工程を有する方法を用いることができる。上記混合の手段としては、例えば、2本ロールミル、3本ロールミル、ビーズミル、ボールミル、ディスパー、プラネタリーミキサー、自転公転式攪拌装置、ニーダー、押し出し機、ミックスローター、スターラー等を用いて混合する方法等が挙げられる。
【0030】
本発明の酸化チタンペーストを基材上に印刷し、該基材上に酸化チタンペースト層を形成する工程と、前記酸化チタンペースト層を焼成処理することにより、前記酸化チタン微粒子を焼結させて、前記基材上に多孔質酸化チタン層を形成する工程とを有することを特徴とする多孔質酸化チタン積層体の製造方法もまた本発明の1つである。
【0031】
本発明の多孔質酸化チタン積層体の製造方法は、本発明の酸化チタンペーストを基材上に印刷し、該基材上に酸化チタンペースト層を形成する工程を有する。
上記酸化チタンペーストを基材上に印刷する方法としては特に限定されないが、スクリーン印刷法を用いることが好ましい。
【0032】
上記スクリーン印刷法による工程におけるスクリーン版の目開きの大きさ、スキージアタック角、スキージ速度、スキージ押圧力等については、適宜設定することが好ましい。
【0033】
上記酸化チタンペーストを基材上に印刷する工程において、上記基材としては、例えば、色素増感太陽電池用途に使用する場合は、透明導電層を形成した透明基板の該透明導電層上に塗工することによって行う。
【0034】
上記透明基板としては、透明な基板であれば特に限定されないが、珪酸塩ガラス等のガラス基板等が挙げられる。また、上記ガラス基板は、化学的、熱的に強化させたものを用いてもよい。更に、光透過性を確保できれば、種々のプラスチック基板等を使用してもよい。
上記透明基板の厚さは、0.1〜10mmが好ましく、0.3〜5mmがより好ましい。
【0035】
上記透明導電層としては、In
2O
3やSnO
2の導電性金属酸化物からなる層や金属等の導電性材料からなる層が挙げられる。上記導電性金属酸化物としては、例えば、In
2O
3:Sn(ITO)、SnO
2:Sb、SnO
2:F、ZnO:Al、ZnO:F、CdSnO
4等が挙げられる。
【0036】
本発明の多孔質酸化チタン積層体の製造方法は、前記酸化チタン微粒子を焼結させて、前記基材上に多孔質酸化チタン層を形成する工程を有する。
【0037】
上記酸化チタン微粒子の焼結は、塗工する基板の種類等により、温度、時間、雰囲気等を適宜調整することができる。例えば、大気下又は不活性ガス雰囲気下、50〜800℃程度の範囲内で、10秒〜12時間程度行うことが好ましい。また、乾燥及び焼成は、単一の温度で1回又は温度を変化させて2回以上行ってもよい。
【0038】
このようにして得られた多孔質酸化チタン積層体に増感色素を吸着させる工程を行い、対向電極と対向させて設置し、これらの電極の間に電解質層を形成することで、色素増感太陽電池セルを製造することができる。このようにして得られた色素増感太陽電池は、高い光電変換効率を達成することができる。上記増感色素を吸着する方法としては、例えば、増感色素を含むアルコール溶液に、上記多孔質酸化チタン積層体を浸漬した後、アルコールを乾燥除去する方法等が挙げられる。
【0039】
上記増感色素としては、ルテニウム−トリス、ルテニウム−ビス型のルテニウム色素、フタロシアニンやポルフィリン、シアニジン色素、メロシアニン色素、ローダミン色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン色素等の有機色素が挙げられる。