特許第5982290号(P5982290)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5982290
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】二元冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
   F25B 7/00 20060101AFI20160818BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   F25B7/00 DZAB
   F25B1/00 351U
   F25B1/00 321H
   F25B1/00 396Z
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-13129(P2013-13129)
(22)【出願日】2013年1月28日
(65)【公開番号】特開2014-145500(P2014-145500A)
(43)【公開日】2014年8月14日
【審査請求日】2015年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】東芝キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100109830
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 淑弘
(74)【代理人】
【識別番号】100088683
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100095441
【弁理士】
【氏名又は名称】白根 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100119976
【弁理士】
【氏名又は名称】幸長 保次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(74)【代理人】
【識別番号】100158805
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 守三
(74)【代理人】
【識別番号】100172580
【弁理士】
【氏名又は名称】赤穂 隆雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100124394
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 立志
(74)【代理人】
【識別番号】100112807
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100111073
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 美保子
(74)【代理人】
【識別番号】100134290
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 将訓
(72)【発明者】
【氏名】平山 卓也
(72)【発明者】
【氏名】図司 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】池田 明貴範
【審査官】 横溝 顕範
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−032662(JP,A)
【文献】 実開昭53−132015(JP,U)
【文献】 特開2012−215353(JP,A)
【文献】 特開2012−220111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00
F25B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温側圧縮機、高温側凝縮器、高温側膨張装置、カスケード熱交換器を、冷媒配管を介して連通する高温側冷凍サイクルと、低温側圧縮機、カスケード熱交換器、低温側膨張装置、低温側蒸発器を、冷媒配管を介して連通する低温側冷凍サイクルとを、同一筐体内に搭載するとともに、前記高温側冷凍サイクルに導かれる高温側冷媒と、前記低温側冷凍サイクルに導かれる低温側冷媒とを、前記カスケード熱交換器で熱交換させる二元冷凍サイクル装置であって、
前記低温側冷凍サイクルの前記低温側圧縮機から前記カスケード熱交換器を介して前記低温側膨張装置に至る前記冷媒配管を低温側高圧部とし、
前記低温側高圧部に、前記高温側冷凍サイクルを構成する前記高温側圧縮機へ延長して、低温側高圧部の冷媒と高温側圧縮機を熱交換させる熱交換手段を設けた
ことを特徴とする二元冷凍サイクル装置。
【請求項2】
前記高温側冷凍サイクルの前記高温側圧縮機は、前記低温側冷凍サイクルの前記低温側圧縮機が起動した後、起動するよう制御される
ことを特徴とする請求項1記載の二元冷凍サイクル装置。
【請求項3】
前記低温側高圧部の前記熱交換手段は、前記低温側圧縮機と前記カスケード熱交換器とを連通する前記冷媒配管に設けられる
ことを特徴とする請求項1記載の二元冷凍サイクル装置。
【請求項4】
前記低温側高圧部は、前記高温側圧縮機へ延長して前記熱交換手段となる第1の配管路と、前記高温側圧縮機へ延長せず前記低温側圧縮機から前記カスケード熱交換器に直接連通する第2の配管路とを有する
ことを特徴とする請求項1記載の二元冷凍サイクル装置。
【請求項5】
前記高温側冷凍サイクルを構成する前記高温側凝縮器の温度t1を検知する第1の温度検知手段および、前記高温側圧縮機内部に集溜する潤滑油の温度t2を検知する第2の温度検知手段とを備え、前記第1の温度検知手段による検知温度および前記第2の温度検知手段による検知温度に基づいて、前記低温側冷凍サイクルに循環する冷媒を前記第1の配管路または前記第2の配管路に導くよう切換える切換え手段を備えた
ことを特徴とする請求項4記載の二元冷凍サイクル装置。
【請求項6】
前記高温側冷凍サイクルに用いられる冷媒は、C(ただし、mおよびnは、1以下5の整数で、m+n=6の関係が成立する)で示され、かつ分子構造中に二重結合を1個有する冷媒からなる単一冷媒または混合冷媒であることを
ことを特徴とする請求項1ないし請求項5記載の二元冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、同一筐体内に、高温側冷凍サイクルと低温側冷凍サイクルを備えた二元冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
同一筐体内に、高温側冷凍サイクルと低温側冷凍サイクルを備え、高温側冷凍サイクルに循環する高温側冷媒と、低温側冷凍サイクルに循環する低温側冷媒とを、カスケード熱交換器で熱交換させることによって、高圧縮比を得る二元冷凍サイクル装置が多用される傾向にある。
【0003】
この二元冷凍サイクル装置を給湯システムとして用いる場合は、高温側冷凍サイクルを構成する高温側凝縮器を水・冷媒熱交換器として、ここに導かれる高温側冷媒と、温水配管から導かれる水もしくは温水とを熱交換して、温水配管に導かれる水または温水を高温化して供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−196952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、高温側冷凍サイクルを構成する高温側圧縮機および低温側冷凍サイクルを構成する低温側圧縮機には、それぞれ潤滑油が集溜され圧縮機内部の各摺動部へ給油する。各圧縮機の停止中は低温となっており、潤滑油に冷媒が溶け込んだ状態でいる。そのため、潤滑油は冷媒によって希釈され、粘度が低くて潤滑性が悪い。
【0006】
給湯システムを構成する関係上、特に高温側冷凍サイクルは温水配管に導かれる水または温水の温度を早急に上昇させる必要がある。それには高温側圧縮機の起動時に、集溜する潤滑油の温度を速やかに上昇させ、ここに溶け込んでいる冷媒を分離して潤滑油の希釈を抑制し、粘度を高くして安定運転に移行することが望ましい。
【0007】
また、長時間、安定運転状態を継続すると、高温側圧縮機の温度が必要以上に上昇して、摺動部が過熱し、モータ効率が低下する傾向にある。そこで、今度は高温側圧縮機を冷却して、モータ効率および信頼性の向上を図る必要がある。
【0008】
このような事情から、起動時は、高温側圧縮機に集溜する潤滑油の温度を速やかに上昇させて、冷媒による希釈を抑制し粘度を高くして信頼性の向上を図り、短時間で安定運転に移行でき、長時間安定運転が継続したら、高温側圧縮機を冷却して摺動部の過熱を抑制し、モータ効率の向上を図れる二元冷凍サイクル装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態によれば、高温側圧縮機、高温側凝縮器、高温側膨張装置、カスケード熱交換器を、冷媒配管を介して連通する高温側冷凍サイクルと、低温側圧縮機、カスケード熱交換器、低温側膨張装置、低温側蒸発器を、冷媒配管を介して連通する低温側冷凍サイクルとを、同一筐体内に搭載するとともに、前記高温側冷凍サイクルに導かれる高温側冷媒と、前記低温側冷凍サイクルに導かれる低温側冷媒とを、前記カスケード熱交換器で熱交換させる二元冷凍サイクル装置であって、前記低温側冷凍サイクルの前記低温側圧縮機から前記カスケード熱交換器を介して前記低温側膨張装置に至る前記冷媒配管を低温側高圧部とし、前記低温側高圧部に、前記高温側冷凍サイクルを構成する前記高温側圧縮機へ延長して、低温側冷媒の熱と高温側圧縮機を熱交換させる熱交換手段を設けた。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態に係る、二元冷凍サイクル装置の冷凍サイクル構成図。
図2】同実施形態に係る、高温側圧縮機の正面図。
図3】同実施形態に係る、変形例の高温側圧縮機の縦断面図。
図4】第2の実施形態に係る、二元冷凍サイクル装置の冷凍サイクル構成図。
図5】第3の実施形態に係る、二元冷凍サイクル装置の冷凍サイクル構成図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施の形態を図面にもとづいて説明する。
図1は、第1の実施形態における、たとえば給湯システムとして用いられる二元冷凍サイクル装置Nの冷凍サイクル構成図である。
【0012】
二元冷凍サイクル装置Nは、同一の筐体Kに搭載される高温側冷凍サイクルRaと、低温側冷凍サイクルRbと、温水配管Hおよび制御部Sとから構成される。
前記高温側冷凍サイクルRaにおいて、高温側圧縮機1の吐出部aと高温側凝縮器である水・冷媒熱交換器2の1次側流路2aが高温側冷媒配管Paを介して接続され、水・冷媒熱交換器2の1次側流路2aと高温側膨張装置3が高温側冷媒配管Paを介して接続される。
【0013】
高温側膨張装置3とカスケード熱交換器4の1次側流路4aが高温側冷媒配管Paを介して接続され、カスケード熱交換器4の1次側流路4aと高温側圧縮機1の吸込み部bとが高温側冷媒配管Paを介して接続されてなる。
【0014】
低温側冷凍サイクルRbは、低温側圧縮機5の吐出部aとカスケード熱交換器4の2次側流路4bが、後述するように構成される低温側冷媒配管Pbを介して接続され、カスケード熱交換器4の2次側流路4bと低温側膨張装置6が低温側冷媒配管Pbを介して接続される。
【0015】
低温側膨張装置6と低温側蒸発器である空気熱交換器7が低温側冷媒配管Pbを介して接続され、空気熱交換器7と低温側圧縮機5の吸込み部bとが低温側冷媒配管Pbを介して接続されてなる。なお、空気熱交換器7と対向して送風機が配置され、熱交換用の空気を送風できるようになっている。
【0016】
ここで、低温側冷凍サイクルRbの低温側圧縮機5の吐出部aからカスケード熱交換器4の2次側流路4bを介して低温側膨張装置6に至る低温側冷媒配管Pbの系路(図に太線で示す)を、低温側高圧部8と呼ぶ。
【0017】
さらに、低温側高圧部8のうちの、特に、低温側圧縮機5の吐出部aからカスケード熱交換器4に至る低温側冷媒配管Pbの一部は、高温側冷凍サイクルRaを構成する高温側圧縮機1へ延長され、低温側高圧部8の冷媒と高温側圧縮機1を熱交換させる熱交換部(熱交換手段)8aを構成する。
【0018】
熱交換部8aの具体的な形状は、図2もしくは図3に示すようになる。
図2に示すように、高温側圧縮機1を構成する密閉ケース10の外面下部に低温側冷媒配管が巻装され、熱交換部8aとする。
【0019】
したがって、低温側圧縮機5の吐出部aから導かれる高圧高温の低温側冷媒が低温側高圧部8の熱交換部8aにおいて高温側圧縮機1と熱交換して放熱し、低温側冷媒の熱を密閉ケース10へ伝達するようになっている。
結果的には、低温側冷媒の熱を高温側圧縮機1の密閉ケース10を介して、内部に集溜する潤滑油へ伝達することができる。
【0020】
図3に示すように、高温側圧縮機1を構成する密閉ケース10底部から内部に挿入される環状の低温側冷媒配管を、熱交換部8aとする。密閉ケース10内部には、電動機部11と圧縮機構部12からなる電動圧縮機本体13が収容されるとともに、圧縮機構部12は密閉ケース10内底部に集溜する潤滑油に浸漬状態にある。
【0021】
この場合、熱交換部8aは圧縮機構部12には接触することなく、潤滑油に浸漬される。したがって、低温側冷媒の熱と高温側圧縮機1に集溜する潤滑油とを熱交換して、低温側冷媒の熱を潤滑油へ直接、伝達するようになっている。
【0022】
再び図1に示すように、前記温水配管Hは、一端部が給水源、貯湯タンクまたは復水側(戻り側)バッファタンクの吸込み部に接続され、他端部が貯湯タンク、給湯栓または往水側(利用側)バッファタンク(以上、いずれも図示しない)に接続される。
【0023】
温水配管Hの中途部には、水搬送用のポンプ15と、前記水・冷媒熱交換器2内に配管される2次側流路2bが設けられる。したがって、前記温水配管Hに導かれる水もしくは温水は、水・冷媒熱交換器の2次側流路2bにおいて1次側流路2aに導かれる冷媒と熱交換することとなる。
【0024】
前記制御部Sは、高温側圧縮機1および低温側圧縮機5の吐出部a側に設けられる温度センサおよび圧力センサ(図示しない。以下、同)と、吸込み部b側に設けられる温度センサおよび圧力センサからの検知信号を所定時間毎に受ける。
【0025】
さらに、温水配管Hにおける水・冷媒熱交換器2の2次側流路2b入口側および出口側に設けられる水温センサおよび流量センサからの検知信号を所定時間毎に受ける。カスケード熱交換器4に設けられる温度センサと、空気熱交換器7に設けられる温度センサからも検知信号を受ける。
【0026】
さらに、リモートコントローラ(リモコン)からの運転/停止の指示信号を受け、高温側圧縮機1および低温側圧縮機5の運転周波数を設定制御する。前記センサ類とリモコンから受けた検知信号を演算し、記憶する基準値と比較するとともに、高温側膨張装置3および低温側膨張装置6の開閉と絞り量を制御する。そして、後述する制御をなす。
【0027】
このようにして構成される二元冷凍サイクル装置Rであり、冷凍サイクル運転(加熱運転モード)開始の指示を受けた制御部Sは、高温側冷凍サイクルRaの高温側圧縮機1と、低温側冷凍サイクルRbの低温側圧縮機5を駆動制御して、後述するように冷媒を循環させる。
【0028】
前記高温側冷凍サイクルRaにおいては、高温側圧縮機1で圧縮され吐出される冷媒を、 −水・冷媒熱交換器2の1次側流路2a−高温側膨張装置3−カスケード熱交換器4の1次側流路4a−高温側圧縮機1− の順に導き、循環させる。
したがって、水・冷媒熱交換器2の1次側流路2aが高温側凝縮器として作用し、カスケード熱交換器4の1次側流路4aが高温側蒸発器として作用する。
【0029】
前記低温側冷凍サイクルRbにおいては、低温側圧縮機5で圧縮され吐出される冷媒を、 −カスケード熱交換器4の2次側流路4b−低温側膨張装置6−空気熱交換器7−低温側圧縮機5− の順に導き循環させる。
【0030】
したがって、カスケード熱交換器4の2次側流路4bが低温側凝縮器として作用し、空気熱交換器7が低温側蒸発器として作用する。前記カスケード熱交換器4では、低温側冷凍サイクルRb側の2次側流路4bで冷媒が凝縮して凝縮熱を放出し、高温側冷凍サイクルRa側の1次側流路4aで冷媒が凝縮熱を吸熱しながら蒸発する。
【0031】
二元冷凍サイクル装置R全体として空気熱交換器7での冷媒蒸発温度と、水・冷媒熱交換器2での冷媒凝縮温度との差が大となり、高圧縮比を得る。温水配管Hに導かれる水もしくは温水は、水・冷媒熱交換器2の2次側流路2bにおいて高温側冷凍サイクルRaで凝縮作用をなす水・冷媒熱交換器2の1次側流路2aから高温の凝縮熱を吸熱し、効率良く温度上昇する。
【0032】
水・冷媒熱交換器2の2次側流路2bにおいて、給水源、貯湯タンクまたは復水側(戻り側)バッファタンクから導かれた水もしくは温水は高温化した温水に変り、水・冷媒熱交換器2から貯湯タンクまたは往水側(利用側)のバッファタンクに導かれ循環する。もしくは、水・冷媒熱交換器2から給湯栓に直接給湯される。
【0033】
つぎに、起動時の状態を、さらに詳細に説明する。
起動時において、低温側圧縮機5が駆動制御され、ここで圧縮され加熱された低温側冷媒が低温側高圧部8へ吐出されて、高温側圧縮機1に延長される熱交換部8aに導かれる。
【0034】
図2に示す熱交換部8aでは、高温側圧縮機1を構成する密閉ケース10の外面下部に巻装されるところから、低温側冷媒の熱を密閉ケース10に伝達する。この熱は密閉ケース10内底部に集溜される潤滑油に伝わり、潤滑油温度を上昇させる。
【0035】
図3に示す熱交換部8aは、高温側圧縮機1の密閉ケース10内底部に置かれ、ここに集溜する潤滑油中に浸漬されるところから、低温側冷媒の熱が潤滑油に直接伝達され、潤滑油温度を上昇させる。
【0036】
図2および図3のいずれの構成にしても、熱交換部8aに導かれる低温側冷媒の熱によって、高温側圧縮機1の密閉ケース10内底部に集溜する潤滑油の温度が速やかに上昇する。
【0037】
高温側圧縮機1の起動前の潤滑油温度が低い状態では、潤滑油に高温側冷媒が溶け込んで、潤滑油が希釈状態となり、粘度が低い。そのままでは、高温側圧縮機1の回転数を上げることができず、モータ効率の悪い状態が長く続く。水・冷媒熱交換器2で温水配管Hを導かれる水または温水の温度を、早急に所定温度まで上昇させることができず、効率の悪い状態となる。
【0038】
ところが、上述のように低温側圧縮機5から低温側高圧部8に導かれた低温側冷媒を、熱交換部8aに導く構成を採用することによって、起動時において圧縮・加熱された低温側冷媒の熱が熱交換部8aを介して高温側圧縮機1の潤滑油に伝達され、潤滑油温度を速やかに上昇させる。
【0039】
潤滑油は、高温側冷媒による希釈が早く解消して、粘度が高くなる。十分な粘度になった潤滑油が高温側圧縮機1の各摺動部に供給され、速やかに回転数を上昇させることができ、信頼性を確保しながら短時間で安定運転に移行できる。
【0040】
特に、高温側圧縮機1を加熱するための専用部品を備えることなく、低温側高圧部8の一部を高温側圧縮機1まで延長しただけの簡素な構成の熱交換部8aを採用することで、所期の効果が得られ、コストに与える影響も極く僅かですむ。
【0041】
また、安定運転状態を長時間継続すると、高温側圧縮機1の圧縮機構部12を構成する各摺動部品が過熱状態となり、モータ効率および信頼性が低下する傾向にある。一般に、安定運転時は、低温側高圧部8に導かれる低温側冷媒の温度が、高温側圧縮機1の潤滑油温度よりも低いことが知られている。
【0042】
そこで、上述のように構成することにより、熱交換部8aは高温側圧縮機1を冷却することとなり、モータ効率の向上を図り、摺動部の過熱を抑制して、モータ効率および信頼性の向上を図れる。
【0043】
なお、上述のように構成する二元冷凍サイクル装置Nにおいて、高温側圧縮機1と低温側圧縮機5を同時に起動しても良いが、ここでは、はじめに低温側圧縮機5を起動したあと、条件に応じて高温側圧縮機1の起動をするよう制御される。
【0044】
実際には、低温側圧縮機5を起動し、この内部温度を計測する。高温側圧縮機1は、停止したまま内部温度を計測する。低温側高圧部8の熱交換部8aを備えたことで、所定時間が経過すれば高温側圧縮機1の内部温度が所定温度を越える。このことを検知したら、始めて高温側圧縮機1を起動するよう、制御部Sは制御する。
【0045】
低温側高圧部8に熱交換部8aを持たない通常構成の二元冷凍サイクル装置においては、低温側冷凍サイクルを構成する低温側圧縮機を先に起動した場合、カスケード熱交換器の1次側流路を導かれる高温側冷媒は、2次側流路を導かれる低温側冷媒の凝縮熱を吸収して蒸発する。
【0046】
したがって、高温側冷凍サイクルを構成する高温側圧縮機を起動した状態で、液バック量は低減できる。ただし、高温側冷凍サイクルにおける起動時は、高温側冷媒の温度が上がらず、圧力のみ上昇することとなるので、高温側冷媒の潤滑油に溶け込む量が増加し、潤滑油粘度がより低下して希釈状態となる。
【0047】
これに対して上述のように構成する二元冷凍サイクル装置Nにおいては、低温側冷凍サイクルRbを構成する低温側圧縮機5を先に起動することで、低温側高圧部8に導かれる低温側冷媒が熱交換部8aで高温側圧縮機1の潤滑油に熱を伝達して、この温度を上昇させる。潤滑油の希釈が早く解消して粘度を高く保持できる一方で、液バック低減は支障なく行われる。
【0048】
なお、このときの高温側圧縮機1の起動タイミングとしては、内部に集溜する潤滑油の油面が、電動機部11より低下したことを、たとえばイメージセンサ等で確認してからとする。
すなわち、高温側圧縮機1に集溜する潤滑油に高温側冷媒が溶け込むので、潤滑油油面が、ステータとロータからなる電動機部11まで上昇することがある。
【0049】
上述のように低温側高圧部8の熱交換部8aが高温側圧縮機1を加熱し、潤滑油の冷媒溶け込み量を低減する。潤滑油油面が低下し、電動機部11下端部より低下して、これを浸漬しない状態を確認してから高温側圧縮機1を起動する。そのため、体積抵抗率が低い潤滑油を使用した場合においても、電動機部11の電機絶縁性を確保できる。
【0050】
なお、上述のように構成する二元冷凍サイクル装置Nにおいては、高温側冷凍サイクルRaを構成する高温側圧縮機1に封入される潤滑油を、高温側冷媒に対して非相溶性もしくは難相溶性のものを採用するとよい。そして、高温側圧縮機1内の高温側冷媒を熱交換部8aで蒸発させてから、高温側圧縮機1を起動する。
【0051】
すなわち、高温側冷凍サイクルRaでは、凝縮圧力が高いことに加え、凝縮温度と潤滑油温度との差が小さくなる傾向にある。高温側冷媒と相溶性のある潤滑油を用いた場合は、潤滑油の希釈による粘度低下が生じて信頼性を悪化させる。
【0052】
この対策として、非相溶性もしくは難相溶性の潤滑油を用いると良いが、この場合、寝込み起動時等においては液冷媒と潤滑油とが二相分離し、比重の重い液冷媒が密閉ケース10下部に溜まってしまう。この状態のまま高温側圧縮機1を起動すると、圧縮機構部12の下端部に設けられた給油ポンプによって摺動部に液冷媒が供給されてしまい、潤滑性が欠如して破損を招く虞れがある。
【0053】
上述のように構成する二元冷凍サイクル装置Nであれば、低温側高圧部8の熱交換部8aによって、高温側圧縮機1に溜まっている液冷媒を加熱し蒸発させていから、高温側圧縮機1を起動する。摺動部に液冷媒が供給されるのを防ぎ、潤滑油の粘度が高く保持されているので、信頼性の向上を図れる。
【0054】
なお、上述のように構成する二元冷凍サイクル装置Nにおいて熱交換部8aは、低温側圧縮機5とカスケード熱交換器4との間の、低温側冷媒配管Pbに設けられる。換言すれば、カスケード熱交換器4と低温側膨張装置6との間の低温側高圧部8を構成する低温側冷媒配管Pbには、熱交換部8aを設けない。
【0055】
すなわち、低温側圧縮機5で圧縮され吐出される高温の低温側冷媒を直接熱交換部8aに導いて、起動前の高温側圧縮機1に熱交換する。そのあと、低温側冷媒をカスケード熱交換器4に導いて熱交換する。カスケード熱交換器4で熱交換される前の、より高温の低温側冷媒で高温側圧縮機1の潤滑油を加熱するので、より加熱効果が高くなる。
【0056】
また、安定運転が長時間継続すれば、熱交換部8aにおいて低温側冷媒が高温側圧縮機1から熱を貰う。この状態でカスケード熱交換器4の2次側流路4bで熱交換するので、熱量が増大し能力の拡大を図れる。
【0057】
図4は、第2の実施形態に係る二元冷凍サイクル装置Naの冷凍サイクル構成図である。後述する低温側高圧部80を除いて、他の構成部品は先に図1で説明したものと同一であるので、同図を適用して新たな説明は省略する。
【0058】
低温側冷凍サイクルRbにおいて、低温側高圧部80は、一部が前記高温側圧縮機1へ延長して前記熱交換部8aとなる第1の配管路8Paと、高温側圧縮機1へ延長せず低温側圧縮機5からカスケード熱交換器4の2次側流路4bに直接連通する第2の配管路8Pbとを有する。
【0059】
なお、第1の配管路8Paにおいて、熱交換部8aの入口側に切換え手段としての開閉弁20を備え、熱交換部8aの出口側に逆止弁21を備える。開閉弁20を閉成すれば、図に一点鎖線矢印に示すように、低温側圧縮機5から吐出される低温側冷媒は第1の配管路8Paには浸入せず、第2の配管路8Pbのみに導かれる。
【0060】
また、開閉弁20を開放すれば、低温側冷媒のほとんどが、図に点線矢印で示すように、第1の配管路8Paに導かれて熱交換部8aで高温側圧縮機1へ熱交換し、一部の低温側冷媒は第2の配管路8Pbに導かれる。
【0061】
制御部Sは、起動時に開閉弁20を開放制御して、第1の配管路8Paに低温側冷媒のほとんど大部分を導く。熱交換部8aにおいて高温側圧縮機1に熱伝達し、ここに集溜する潤滑油の粘度を上昇させ冷媒による希釈を防止する。このことから、早期に安定運転に移行できる。
【0062】
安定運転が継続した状態では、高温側冷凍サイクルRaの高温側圧縮機1の温度よりも低温側冷凍サイクルRbの低温側高圧部80の温度が低くなり、高温側圧縮機1は冷却される。
【0063】
また、安定運転時に、高温側圧縮機1に集溜する潤滑油の温度が、高温側凝縮器を構成する水・冷媒熱交換器2の温度と一致し、もしくは潤滑油温度が凝縮温度よりも低くなる場合がある。この状態では、高温側圧縮機1の密閉ケース10内の冷媒が凝縮液化して潤滑油に溶け込み、潤滑油が希釈されて粘度が低下し潤滑性が悪化してしまい、信頼性に欠ける。
【0064】
そこで、このことを検知した場合は、制御部Sは開閉弁20を閉成して第2の配管路8Pbに低温側冷媒を導く。低温側冷媒は熱交換部8aに導かれず、全て第2の配管路8Pbに導かれる。すなわち、低温側冷媒は低温側圧縮機5から第2の配管路8Pbを介して直接、カスケード熱交換器4に導かれる。
【0065】
低温側高圧部80と高温側圧縮機1との熱交換がなくなり、高温側圧縮機1における潤滑油の温度低下を回避できる。そのため、安定運転時の潤滑油の希釈を抑制することが可能となり、潤滑油粘度を高く保持して信頼性の向上に繋げられる。
さらに、低温側冷凍サイクルRbにおいても、熱交換部8aにおける熱損失がないから、冷凍サイクルの性能の向上が得られることとなる。
【0066】
図5は、第3の実施形態を説明する二元冷凍サイクル装置Nbの冷凍サイクル構成図である。ここで図4の二元冷凍サイクル装置Naと相違するのは、第1の配管路8Paと第2の配管路8Pbの分岐位置に切換え手段としての三方弁22を設けたことである。
【0067】
このような構成であれば、低温側高圧部80を流れる低温側冷媒は、三方弁22の切換えによって、完全に、図に破線矢印で示すように第1の配管路8Paに導かれ、もしくは図に一点鎖線矢印で示すように第2の配管路8Pbのいずれかに導かれる。
【0068】
そして、この二元冷凍サイクル装置Nbでは、高温側冷凍サイクルRaを構成する水・冷媒熱交換器(高温側凝縮器)2の温度t1を検知する第1の温度センサ(第1の温度検知手段)25を備えるとともに、高温側圧縮機1の内部に集溜する潤滑油の温度t2を検知する第2の温度センサ(第2の温度検知手段)26を備えている。
【0069】
運転中に、それぞれの温度センサ25,26の検知温度信号は制御部Sに送られ、検知温度として比較演算される。
第1の温度センサ25がt1を検知するとともに、第2の温度センサ26がt2を検知し、制御部Sで比較演算した状態で、 t1+α< t2 のとき、低温側冷凍サイクルRbに循環する低温側冷媒を第1の配管路8Paに導くよう三方弁22を切換え制御する。
【0070】
ここで、αは、高温側凝縮器2の温度t1に対し高温側圧縮機1内の冷媒が凝縮液化しない余裕度であり、0〜10℃から選択される。
したがって、高温側圧縮機1に集溜する潤滑油が冷却され、摺動部の過熱による信頼性低下、モータ効率の低下等を防ぐことができる。
【0071】
また、安定運転中に、 t1+α(α:0〜10℃)> t2 になったとき、低温側冷凍サイクルRbに循環する冷媒を第2の配管路8Pbに導くよう三方弁22を切換え制御する。したがって、高温側圧縮機1に集溜する潤滑油と、熱交換部8aとの熱交換がなくなって、潤滑油の冷媒による希釈が抑制される。
【0072】
いずれも、第1、第2の温度センサ16,17の温度検知によって、制御部Sは第1、第2の配管路8Pa,8Pbの切換えタイミングを制御するため、上述の効果を安定して得られることとなる。
【0073】
なお、先に述べた第2の温度センサ26は、図2に示すように、高温側圧縮機1を構成する密閉ケース10外面下部に巻装する熱交換部(冷媒配管)8aの出口部外面に取付けてもよい。
【0074】
たとえば、高温側圧縮機1の内部に第2の温度センサを取付けることと比較して、温度センサから信号線を取り出すための工数と、部品コストを削減できるとともに、リーク個所が減少して、安価で、信頼性の高い冷凍サイクルを提供できる。
【0075】
以上のように構成される二元冷凍サイクル装置N、Na、Nbにおいて、高温側冷凍サイクルRaに用いられる高温側冷媒は、C(ただし、mおよびnは1以上5以下の整数で、m+n=6の関係が成立する)で示され、かつ分子構造中に二重結合を1個有する冷媒からなる単一冷媒または該冷媒を含む混合冷媒を用いる。
【0076】
該冷媒は、GWP(地球温暖化係数)が低く、冷凍サイクルの冷媒として優れた特性を有するが、高温で分解し易い特性を有している。起動時から安定運転状態に移行し長時間継続しても、上述の構成を採用することにより高温側圧縮機1が冷却されるので、ここに用いられる高温側冷媒の高温分解を防止できる。
【0077】
単一冷媒の例としては、以下のものがある。
(1) HFO−1234yf冷媒 (化学式は、CF−CF=CH
(2) HFO−1234ze冷媒 (化学式は、CF−CH=CHF)
また、混合冷媒の例としては、以下のものがある。
上記(1)または(2)と、下記冷媒とのいずれかの混合冷媒。
HFC冷媒(たとえば、HFC−32、HFC−134a)、メタン、エタン、プロパン、プロペン、ブタン、イソブタン、ペンタン、2−メチルブタン、シクロペンタン、ジメチルエーテル、二酸化炭素、ヘリウム。
【0078】
また低温側冷媒の例としては、以下のものがある。
(1) 高温側冷媒と同一
(2) HFC系冷媒(HFC−410A等)
(3) CO
(4) HC系冷媒
なお、高温側冷媒は、上記Cで示される冷媒に限定されるものではなない。例えば高温側冷媒にHFC系冷媒であるHFC−134a等を用い、低温側冷媒として、HFC−410A等を用いても良い。
【0079】
なお、図1および図4図5の冷凍サイクル構成図は、必要最低限の部品しか示していないが、これに限る必要はなく、たとえば冷媒レシーバ、アキュームレータ、気液分離器、その他の配管等を追加しても良い。また除霜逆サイクルで運転する場合は、一次的に熱交換手段が低温側冷媒低圧部となるが、何らの支障も無い。
【0080】
以上、本実施形態を説明したが、上述の実施形態は、例として提示したものであり、実施形態の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0081】
1…高温側圧縮機、2…水・冷媒熱交換器(高温側凝縮器)、3…高温側膨張装置、4…カスケード熱交換器、Pa…高温側冷媒配管、Ra…高温側冷凍サイクル、5…低温側圧縮機、6…低温側膨張装置、7…空気熱交換器(低温側蒸発器)、Pb…低温側冷媒配管、Rb…低温側冷凍サイクル、K…筐体、N,Na,Nb…二元冷凍サイクル装置、8,80…低温側高圧部、8a…熱交換部(熱交換手段)、S…制御部、8Pa…第1の配管路、8Pb…第2の配管路、25…第1の温度センサ(第1の温度検知手段)、26…第2の温度検知センサ(第2の温度検知手段)、20…開閉弁(切換え手段)、22…三方弁(切換え手段)。
図1
図2
図3
図4
図5