【実施例】
【0040】
(実施例1)
上記ガスセンサ素子、上記ガスセンサ及び上記排ガス浄化装置にかかる実施例について、図を用いて説明する。
【0041】
まず、本例のガスセンサ素子について説明する。
図1〜
図3に示すように、本例のガスセンサ素子1は、酸化物イオン伝導性の固体電解質体2と、固体電解質体2の一方の面に設けられ、被測定ガスを接触させるための被測定ガス側電極3と、固体電解質体2の他方の面に設けられ、基準ガスを接触させるための基準ガス側電極4とを有する。
【0042】
同図に示すように、被測定ガス側電極3の表面300上には、Ba、Sr、Cs、Rb、K、Na及びLaから選択される少なくとも一種以上の元素を含有する化合物からなる電極被覆部5が被測定ガス側電極3の表面300全体にわたって間欠的に設けられている。電極被覆部5を構成する化合物は、被測定ガス側電極3を構成する電極材料と化学的に結合することなく存在している。
以下、これを詳説する。
【0043】
図1〜
図3に示すように、ガスセンサ素子1は、後述する
図4に示すガスセンサ7に内蔵され、後述する
図5に示す自動車エンジンの排気系に設けられる排ガス浄化装置8に用いられる。
図1、
図2に示すように、ガスセンサ素子1において、固体電解質体2は、一方が閉塞されており、内部に大気を導入して基準ガス室100となる有底円筒状に形成されている(いわゆるコップ型)。固体電解質体2の外側面のうち、固体電解質体2の最先端から基端部側に向かって長さLの範囲が、被測定ガスの接触面とされる。本例の固体電解質体2は、ZrO
2セラミックスからなる。
【0044】
同図に示すごとく、被測定ガス側電極3は、固体電解質体2の外側面に設けられており、基準ガス側電極4は、基準ガス室100と対面する内側面に設けられている。本例の被測定ガス側電極3及び基準ガス側電極4は、Ptからなる。また、被測定ガス側電極3、基準ガス側電極4には、ガスセンサ素子1に電圧を印加するため、電気的に導通したリード電極101、端子電極102がそれぞれ接続されている。
図1には、固体電解質体2の外側面において、被測定ガス側電極3に一端が接続するリード電極101と、リード電極101の他端に接続する端子電極102とが記載されている。
図2に示すように、被測定ガス側電極3は、多孔質の保護層6で覆われている。この保護層6はスピネル型酸化物であるMgAl
2O
4を主成分としており、被測定ガスである排ガス中の有害成分のトラップ効果を向上させる等の役割がある。
【0045】
図3に示すように、被測定ガス側電極3の表面300上には、電極被覆部5が設けられている。すなわち、電極被覆部5は、被測定ガス側電極3と保護層6との間に設けられている。なお、
図3は、
図2において点線で囲んだ部分を拡大して示したものである。
また、電極被覆部5は、被測定ガス側電極3の表面300全体にわたって万遍なく、つまり偏在することなく均一に設けられている。また、電極被覆部5は、被測定ガス側電極3の表面300全体を覆うことなく、間欠的に設けられている。本例では、複数の電極被覆部5が被測定ガス側電極3の表面300全体に均一に分散された状態で存在している。被測定ガス側電極3の表面300のうち電極被覆部5によって被覆されている部分の割合である電極被覆率は、10〜90%とすることができる。
【0046】
また、電極被覆部5は、Ba、Sr、Cs、Rb、K、Na及びLaから選択される少なくとも一種以上の元素を含有する化合物からなる。この化合物は、上記元素(Ba、Sr、Cs、Rb、K、Na及びLa)の炭酸塩、酸化物及び複合酸化物から選択される少なくとも一種以上を含有する。また、電極被覆部5を構成する化合物は、被測定ガス側電極3を構成する電極材料(Pt)と化学的に結合することなく存在している。具体的には、電極被覆部5を構成する化合物が被測定ガス側電極3を構成する電極材料(Pt)と接触するような状態にあり、電極材料であるPtの化学的状態がPt単独で存在している場合と同じ状態である。
【0047】
次に、本例のガスセンサ7について説明する。
図4に示すように、ガスセンサ7は、ハウジング103と、ハウジング103に挿入されたガスセンサ素子1とを有する。ハウジング103の先端側には、ガスセンサ素子1の先端部を保護するための二重の被測定ガス側カバー104が設けられており、その内部は被測定ガス室105とされている。一方、ハウジング103の基端側には、二重の大気側カバー106、107が設けられている。
【0048】
同図に示すように、ガスセンサ素子1の基準ガス室100には、棒状のセラミック製のヒータ108が挿入配置されている。ヒータ108は、固体電解質体2の内側面と先端部で接触しており、さらに所望のクリアランスを確保した状態で挿入配置されている。大気側カバー106、107の基端側には、リード線109、110、111を挿入した弾性絶縁部材112が設けられている。リード線109、110によってガスセンサ素子1に電圧が印加され、ガスセンサ素子1のセンサ出力が外部へ取り出される。また、リード線111は、ヒータ108に対し通電し、これを発熱させるためのものである。
【0049】
同図に示すように、リード線109、110の先端側には、接続端子113、114が設けられている。接続端子113、114により、ガスセンサ素子1に固定したターミナル115、116との電気的導通が確保される。なお、ターミナル115は、ガスセンサ素子1における端子電極102に対して接触固定されている。また、ターミナル116は、ガスセンサ素子1における端子電極(固体電解質体の内側面、図示略)に対して接触固定されている。
【0050】
次に、本例の排ガス浄化装置8について説明する。
図5に示すように、排ガス浄化装置8は、排ガスを浄化するための触媒81と、ガスセンサ素子1を有するガスセンサ7とを備えている。そして、触媒81に使用される車両一台当たりの貴金属の総量は、5.0g以下である。なお、触媒81は三元触媒であり、ハニカム構造を有するセラミックス製の担体に担持された状態で排気経路に配置されている。
【0051】
同図に示すように、排ガス浄化装置8は、具体的には、自動車エンジンEの排気系に設けられている。排ガス浄化装置8は、排ガスを浄化するための触媒81と、触媒81の上流側の排気管82に設けられた上流側の酸素センサ83と、触媒81の下流側の排気管84に設けられた下流側のガスセンサ7とを有する。なお、酸素センサ83は、A/Fセンサであり、自動車エンジンEから排出された排気濃度を触媒81の上流側にて測定するために配設されたものである。また、ガスセンサ7は、上述した構成を有する。
【0052】
また、排ガス浄化装置8は、センサ出力値がある規定値を超えた場合又は下回った場合に、センサ出力値が規定値に近づくようにその検出結果を自動車エンジンEの制御部85にフィードバックするよう構成されている。
以下、具体的な実験例を用いて、さらに詳細に説明する。
【0053】
(試料の作製)
まず、
図1に示す形状を有するZrO
2系セラミックスからなるコップ型の固体電解質体を製作した。固体電解質体の厚みは0.1〜3mmである。そして、固体電解質体の外側面に、ジベンジリデンPtをPt含有量で0.0002質量%含むペーストをパッド印刷により塗布し、印刷部を形成した。なお、印刷部の形状は、
図1に示した被測定ガス側電極、リード電極、端子電極と同形状である。
【0054】
次いで、この印刷部に対して40℃で熱処理した後、Pt錯体を含むメッキ液を用いて50℃で無電解メッキを施した。これにより、固体電解質体の外側面に、被測定ガス側電極、リード電極、端子電極を形成した。また、上記パッド印刷に代えてディスペンサーを用いた以外は同様にして、固体電解質体の内側面に、基準ガス側電極、リード電極、端子電極を形成した。なお、形成した被測定ガス側電極、基準ガス側電極、リード電極、端子電極はいずれもPtからなり、厚みは1.0μm程度である。
【0055】
次いで、固体電解質体の外側面における被測定ガス側電極を1.5質量%の硝酸バリウム水溶液中に浸漬し、真空ポンプで減圧しながら10分間保持した。そして、合成空気雰囲気中、1000℃で1時間熱処理し、Baの酸化物(BaO、BaO
2)を被測定ガス側電極の表面に析出させた。
【0056】
次いで、CO
2:10%、O
2:5%、N
2:85%の気流中、600℃にて1時間熱処理し、被測定ガス側電極上のBaの酸化物(BaO、BaO
2)を炭酸塩化し、Baの炭酸塩(BaCO
3)とした。これにより、Baの炭酸塩(BaCO
3)からなり、厚みが0.5μm程度である電極被覆部を被測定ガス側電極の表面に形成した。電極被覆率は、約10%である(後述の試料2〜7も同様)。以上により、試料1のガスセンサ素子を得た。
【0057】
また、上記試料1の作製において、硝酸バリウムを硝酸ストロンチウムに変更したこと以外は同様にして、Srの炭酸塩(SrCO
3)を被測定ガス側電極の表面に析出させた。これにより、Srの炭酸塩(SrCO
3)からなり、厚みが0.5μm程度である電極被覆部を被測定ガス側電極の表面に形成した。以上により、試料2のガスセンサ素子を得た。
【0058】
また、上記試料1の作製において、硝酸バリウムを硝酸ナトリウムに変更したこと以外は同様にして、Naの炭酸塩(Na
2CO
3)を被測定ガス側電極の表面に析出させた。これにより、Naの炭酸塩(Na
2CO
3)からなり、厚みが0.5μm程度である電極被覆部を被測定ガス側電極の表面に形成した。以上により、試料3のガスセンサ素子を得た。
【0059】
また、上記試料1の作製において、硝酸バリウムを硝酸カリウムに変更したこと以外は同様にして、Kの炭酸塩(K
2CO
3)を被測定ガス側電極の表面に析出させた。これにより、Kの炭酸塩(K
2CO
3)からなり、厚みが0.5μm程度である電極被覆部を被測定ガス側電極の表面に形成した。以上により、試料4のガスセンサ素子を得た。
【0060】
また、上記試料1の作製において、硝酸バリウムを硝酸ルビジウムに変更したこと以外は同様にして、Rbの炭酸塩(Rb
2CO
3)を被測定ガス側電極の表面に析出させた。これにより、Rbの炭酸塩(Rb
2CO
3)からなり、厚みが0.5μm程度である電極被覆部を被測定ガス側電極の表面に形成した。以上により、試料5のガスセンサ素子を得た。
【0061】
また、上記試料1の作製において、硝酸バリウムを硝酸セシウムに変更したこと以外は同様にして、Csの炭酸塩(Cs
2CO
3)を被測定ガス側電極の表面に析出させた。これにより、Csの炭酸塩(Cs
2CO
3)からなり、厚みが0.5μm程度である電極被覆部を被測定ガス側電極の表面に形成した。以上により、試料6のガスセンサ素子を得た。
【0062】
また、上記試料1の作製において、固体電解質体の外側面における被測定ガス側電極を1.5質量%の硝酸ランタン水溶液中に浸漬し、真空ポンプで減圧しながら10分間保持した。そして、合成空気雰囲気中、1000℃で1時間熱処理し、Laの酸化物(La
2O
3)を被測定ガス側電極の表面に析出させた。これにより、Laの酸化物(La
2O
3)からなり、厚みが0.5μm程度である電極被覆部を被測定ガス側電極の表面に形成した。以上により、試料7のガスセンサ素子を得た。
【0063】
また、上記試料1の作製において、被測定ガス側電極の表面に電極被覆部を形成しなかったこと以外は同様にして、比較試料のガスセンサ素子を得た。
【0064】
(空気過剰率λ対センサ出力の特性)
まず、各試料のガスセンサ素子における固体電解質体の内部に加熱用のヒータを取り付け、各評価用ガスセンサを構成した。
次いで、各評価用ガスセンサにおけるヒータをガスセンサ素子の表面温度が600℃となるように加熱した。この加熱したガスセンサ素子の被測定ガス側電極に対し、N
2とC
3H
8とをN
2:3000cc/分、C
3H
8:12cc/分という条件で共に流量を固定して供給した。なお、各評価用ガスセンサ素子の基準ガス側電極は、大気解放し、空気を供給した。
【0065】
次いで、各評価用ガスセンサ素子に対し、N
2、C
3H
8及びO
2からなる混合ガスの空燃比A/Fがリッチ領域からリーン領域に変化するよう制御してO
2を供給した。そして、その際の基準ガス側電極と被測定ガス側電極の起電力(V)を連続的に測定した。
その測定結果を
図6に示す。同図において、横軸は空燃比A/F、縦軸はセンサ出力(V)である。ここで、空燃比A/F=空気過剰率λ×理論空燃比であることから、同図の空燃比A/F対センサ出力の特性における曲線は、空気過剰率λ対センサ出力の特性における曲線(上述のλ曲線)とみなすことができる。
【0066】
試料1〜7のガスセンサ素子における被測定ガス側電極の表面上には、
図3に示すように、各化合物(BaCO
3、SrCO
3、Cs
2CO
3、Rb
2CO
3、K
2CO
3、Na
2CO
3、La
2O
3)により構成された電極被覆部が被測定ガス側電極の表面全体にわたって間欠的に設けられている。そのため、
図6に示すように、各ガスセンサ素子のλ曲線は、リッチ領域のセンサ出力が大きく低下することなく、かつ、リッチ領域にてセンサ出力が急峻に変化する形状を呈する。これは以下の原理によるものと推察される。
【0067】
すなわち、電極被覆部を構成する化合物(BaCO
3、SrCO
3、Cs
2CO
3、Rb
2CO
3、K
2CO
3、Na
2CO
3、La
2O
3)は、被測定ガス側電極を構成する電極材料であるPtと化学的に結合することなく、接触するような状態であることにより、PtとO
2との結合性を高め、弱リッチ領域〜リーン領域においてPtを酸化させる作用を有する。酸化された状態のPtは、酸化されていない状態と比較して触媒性能が適度に抑制される。特に、パラフィン系炭化水素であるC
3H
8に対する酸化性能(浄化性能)が適度に低下する。そのため、弱リッチ領域において(リッチ領域にもかかわらず)、被測定ガス側電極上において本来消費されるはずであったO
2が余り、この余ったO
2を検出することによってセンサ出力が低下する。つまり、センサ出力が急激に変化するλ点が比較試料のガスセンサ素子に比べてリッチ側にシフトする。
【0068】
一方、リッチ領域では、酸化された状態のPtが元の状態(酸化されていない状態)に戻る還元反応が進行する。そのため、Ptは、本来有する触媒性能(特にパラフィン系炭化水素であるC
3H
8に対する酸化性能(浄化性能))を発揮するようになり、通常のセンサ出力を示す。
以上により、試料1〜7のガスセンサ素子のλ曲線は、リッチ領域のセンサ出力が大きく低下することなく、かつ、リッチ領域にてセンサ出力が急峻に変化する形状を呈するものと推察される。
【0069】
このように、試料1〜7のガスセンサ素子は、リッチ領域のセンサ出力を比較試料のガスセンサ素子とほぼ同等に維持したまま、λ点をリッチ側にシフトさせることができるといえる。
また、
図6に示すように、各試料によって、つまり電極被覆部を構成する化合物の種類によってλ点のリッチ側へのシフト量が異なる。よって、電極被覆部を構成する化合物の選択により、λ点のリッチ側へのシフト量を制御することができるといえる。
【0070】
次に、試料1のガスセンサ素子(電極被覆部を構成する化合物:BaCO
3)を用いて、電極被覆率(被測定ガス側電極の表面のうち電極被覆部によって被覆されている部分の割合)を変化させた場合のセンサ出力0.6Vにおけるλ点リッチ側シフト量及びガス応答性を調べた。
【0071】
なお、電極被覆率は、XPS(X線光電子分光法)による分析装置(ESCALAB250、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製)を用いて、被測定ガス側電極の表面を分析することにより求めた。具体的には、XPS分析により算出した表面組成比からPtとBaとの比率を求め、電極被覆率(%)=Baの組成比/(Baの組成比+Ptの組成比)の式から求めた。なお、XPS分析では、X線源としてMgのKα線を使用した。
【0072】
また、λ点リッチ側シフト量は、センサ出力0.6Vにおいてλ点が基準点からリッチ側にシフトした量(λ点における空燃比A/Fの値の差)をλ点リッチ側シフト量として求めた。なお、基準点は、比較試料1のガスセンサ素子のλ点(空燃比A/F=14.594)とした。
【0073】
また、ガス応答性は、以下に示す方法により評価した。すなわち、まず、ガスセンサ(ガスセンサ素子)に対して、N
2及びCOをN
2:3000cc/分、CO:0.6cc/分の条件で共に流量を固定して供給し、センサ出力が安定するまで(100秒間)保持した。次いで、O
2を1.2cc/分の条件で流量を固定して供給した。そして、O
2供給開始時点を計測開始点(0秒)とし、O
2供給開始後、センサ出力が低下して0.6Vに達するまでの時間をガス応答時間として測定した。ここで、ガスセンサ素子の素子表面温度は、600℃に制御した。
【0074】
その結果を
図7に示す。同図において、横軸は電極被覆率(%)、縦軸はλ点リッチ側シフト量及び応答時間(秒)である。
同図によれば、電極被覆率が10%以上になると、λ点をリッチ側にシフトさせる効果が発現しはじめ、電極被覆率が高くなると共にλ点リッチ側シフト量も大きくなることがわかる。また、電極被覆率が30%以上になると、λ点リッチ側シフト量の増加は緩やかになることがわかる。
一方、電極被覆率が80%を超えると、電極被覆率が高くなると共に応答時間が長くなり、ガス応答性の低下が見られるようになることがわかる。また、電極被覆率が90%を超えると、応答時間が急激に長くなり、ガス応答性の低下が顕著となることがわかる。
【0075】
以上の結果から、電極被覆率は、ガスセンサ素子のガス応答性を十分に確保しながら、λ点をリッチ側にシフトさせるという効果を十分に得るために、10〜90%であることが好ましく、30〜80%であることがより好ましいといえる。
【0076】
次に、試料1のガスセンサ素子(電極被覆部を構成する化合物:BaCO
3)を用いて、電極被覆部を構成する化合物(BaCO
3)が被測定ガス側電極を構成する電極材料(Pt)と化学的に結合することなく存在していることを調べた。
具体的には、被測定ガス側電極の表面をXPSによる分析装置(ESCALAB250、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製)を用いて分析し、Ptの4f軌道の結合エネルギーを測定した。なお、XPS分析では、X線源としてMgのKα線を使用した。また、比較として、電極被覆部を設けていない比較試料のガスセンサ素子についても同様の測定を行った。
【0077】
その結果を
図8に示す。同図は、試料1及び比較試料の被測定ガス側電極の表面におけるPtの4f軌道の結合エネルギーのスペクトルを示したものである。
同図によれば、試料1は、被測定ガス側電極の表面上に電極被覆部を設けているが、電極被覆部を設けていない(被測定ガス側電極を構成する電極材料Ptが他の化合物等と結合しておらず0価である)比較試料とスペクトルのピーク位置が一致していることがわかる。
以上の結果から、試料1は、電極被覆部を構成する化合物(BaCO
3)が被測定ガス側電極を構成する電極材料(Pt)と化学的に結合していないことがいえる。
【0078】
次に、上記と同様に、試料1のガスセンサ素子(電極被覆部を構成する化合物:BaCO
3)を用いて、電極被覆部を構成する化合物(BaCO
3)が被測定ガス側電極を構成する電極材料(Pt)と化学的に結合することなく存在していることを調べた。
具体的には、被測定ガス側電極の表面について、X線回折装置(XRD−6100、株式会社島津製作所製)を用いてX線回折パターンを測定した。なお、X線源としてCuのKα線を使用し、薄膜法(入射角1°)、2θ:20〜70°の条件で測定した。また、比較として、電極被覆部を設けていない比較試料のガスセンサ素子についても同様の測定を行った。
【0079】
その結果を
図9に示す。
図9(a)は、試料1及び比較試料の被測定ガス側電極の表面におけるX線回折パターンを示したものである。
図9(b)は、回折ピーク位置(
図9(a)において点線で囲んだ部分)を拡大して示したものである。
同図によれば、試料1は、被測定ガス側電極の表面上に電極被覆部を設けているが、電極被覆部を設けていない(被測定ガス側電極を構成する電極材料がPt単独である)比較試料と回折ピーク位置が一致していることがわかる。これは、被測定ガス側電極を構成する電極材料Ptの結晶が全く変化していないことを示している。
以上の結果から、試料1は、電極被覆部を構成する化合物(BaCO
3)が被測定ガス側電極を構成する電極材料(Pt)と化学的に結合していないことがいえる。
【0080】
(実施例2)
上述の実施例1では、
図1〜
図4等に示すように、コップ型のガスセンサ素子1、このガスセンサ素子1を有するガスセンサ7について説明した。これらに対し、
図10に示すように、積層型のガスセンサ素子1であっても、少なくとも被測定ガス側電極3及び電極被覆部(図示略)の構成を実施例1と同様の構成とすることによって、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【0081】
なお、本例のガスセンサ素子1は、同図に示すごとく、平板状の固体電解質体2の一方の面に設けられた被測定ガス側電極3と、他方の面に設けられた基準ガス側電極4とを有している。また、基準ガス室117を構成するスペーサ118の背面に一体的に発熱体119を内蔵したヒータ120が設けられている。また、被測定ガス側電極3は、二層構造の第1保護層121及び第2保護層122によって覆われている。そして、被測定ガス側電極3の表面300上には、電極被覆部(図示略)が設けられている。
【0082】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。