(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
1次側と2次側とを隔てるポート部を開閉する弁体と、
前記弁体を前記ポート部に押し付けるように背圧力を作用させる背圧室と、
前記背圧室よりも上流側の1次圧を前記背圧室へ伝達するブリード孔と、
前記弁体に設けられ、前記背圧室と二次側とを連通させるパイロット孔と、
前記パイロット孔を開閉するパイロット弁体を有するプランジャと、
前記プランジャを前記パイロット孔に向けて付勢する付勢手段と、
前記付勢手段の付勢力に抗して前記プランジャを前記パイロット孔から引き離すコイルとを備え、
弁閉時に前記パイロット弁体が前記パイロット孔を閉塞してから前記背圧室の背圧力が1次圧に達するまでに要する時間tが次式で表され、t≧0.5秒となるように設定されることを特徴とする電磁弁。
1次側と2次側とを隔てるポート部を開閉する弁体と、
前記弁体を前記ポート部に押し付けるように背圧力を作用させる背圧室と、
前記背圧室よりも上流側の1次圧を前記背圧室へ伝達するブリード孔と、
前記弁体に設けられ、前記背圧室と二次側とを連通させるパイロット孔と、
前記パイロット孔を開閉するパイロット弁体を有するプランジャと、
前記プランジャを前記パイロット孔に向けて付勢する付勢手段と、
前記付勢手段の付勢力に抗して前記プランジャを前記パイロット孔から引き離すコイルとを備え、
弁閉時に前記弁体が移動を開始してから前記パイロット弁体が前記パイロット孔を閉塞するまでに要する時間T、又は、弁開時に前記パイロット弁体が前記パイロット孔を開放してから前記弁体の移動が完了するまでに要する時間Tが次式で表され、T≧0.5秒となるように設定されることを特徴とする電磁弁。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、説明する。
【0015】
図1に示すように、給湯機10内には、湯を貯蔵する貯湯タンク11と湯を生成するための熱源であるヒートポンプユニット12を備える。
【0016】
貯湯タンク11の上部からは湯を取り出す出湯回路13が設けられ、出湯回路13は、蛇口やシャワー等への一般給湯端末に給湯する給湯回路14と、浴槽に設けられる浴槽端末を用いて浴槽に注湯する風呂注湯回路15に分岐している。給湯回路14は分岐点から一般給湯端末16までの回路となっており、風呂注湯回路15は分岐点からと浴槽端末17までの回路となっている。給湯回路14は給水回路18と接続しており接続部に設けられた給湯混合弁19により湯と水を適当な温度に混合し、給湯口16へ給湯する。給湯回路14の開閉は給湯口16で行う。風呂注湯回路15は給水回路18と接続しており接続部に設けられた風呂混合弁20により湯と水を適当な温度に混合し、浴槽17へ注湯している。風呂注湯回路15の開閉は、風呂混合弁20の下流側に設けられた電磁弁21で行う。
【0017】
電磁弁21が開状態となっているとき、浴槽17へ注湯が行われる。注湯が終了し電磁弁21が閉状態となるとき、風呂注湯回路15内の湯水が浴槽へ向かう方向へ所持している運動エネルギーは、水撃となって電磁弁21に加わる。一般的に、水撃発生時は「ドン」という衝撃音が発生する。
【0018】
水撃は、それまで流れていた流体の流路を瞬間的に切断すると起こるもので、例えば手動のバルブなどのように流路をゆるやかに減少させながら切断する機構のものにおいては通常発生しない。水撃を防止するには、時間あたりの流路減少の傾きは小さいほど望ましい。
【0019】
次に、本実施形態に係る電磁弁21について説明する。電磁弁21は、1次側と2次側とを隔てるポート部32を開閉する弁体41と、弁体41をポート部32に押し付けるように背圧力を作用させる背圧室36と、背圧室36よりも上流側の1次圧を背圧室36へ伝達するブリード孔35と、弁体41に設けられ、背圧室36と二次側とを連通させるパイロット孔37と、パイロット孔37を開閉するパイロット弁体42を有するプランジャ38と、プランジャ38をパイロット孔37に向けて付勢する付勢手段43と、付勢手段43の付勢力に抗してプランジャ38をパイロット孔37から引き離すコイル39とを備える。弁体41は、ダイヤフラム33とダイヤフラム受け34とで構成される。
【0020】
図2に示すように、電磁弁21は大きくは1次側流路30と2次側流路31に分かれ、1次側流路30と2次側流路31の境界であるポート部32にダイヤフラム33が当接するか否かにより流路の開閉を可能としている。ダイヤフラム受け34は、1次側の水圧を背圧室へ伝達するブリード孔35と背圧室36の水圧を2次側へ排出するパイロット孔37が設けられており、ダイヤフラム33とともに上下にストローク移動ができる。プランジャ38はコイル39の起磁力によりプランジャケース40内を上下にストローク移動できようになっており、通電がOFFの状態ではパイロット孔37を閉状態とし、通電がON状態ではパイロット孔37を開状態とすることができる。
【0021】
通電をONとし、電磁弁21が開状態の時、1次圧がダイヤフラム33をポート部32から押し上げようとする力と背圧がダイヤフラム33をポート部32へ押し付けようとする力の関係は、以下の関係式となり電磁弁開状態がつりあっている。
F1≧F2
F1=P1×(A−B)+P3×B
F2=P2×A
F1:1次圧が弁体を押し上げる力
F2:背圧が弁体を押し付ける力
P1:背圧室よりも上流側の1次圧
P2:背圧力
P3:2次圧
A:弁体が背圧室から背圧力を受ける面積
B:弁体が2次側から2次圧を受ける面積
ここで通電をOFFにすると、プランジャ38がコイル39から受けていた起磁力がなくなりパイロット孔38を塞ぐ、すると背圧室36の背圧力がパイロット孔37を通って2次側流路31へ排出できなくなるので、背圧室36の背圧力が上昇する。F1=F2となった地点からダイヤフラム33はポート部32を塞ぐ方向へ移動を始める。ダイヤフラム33が移動を開始するところから流路の減少が始まりダイヤフラム33がポート部32に当接した時点で流路がなくなり電磁弁21が閉状態となる。一般的にはダイヤフラム33は急激に移動し水撃を伴う。しかしダイヤフラム33の移動をおだやかにすることで水撃を防止することができる。
【0022】
ダイヤフラム33移動前の背圧室36の容積をV1とし、ダイヤフラ33ム移動後の背圧室36の容積をV2とする。ダイヤフラム33の移動が完了するためには移動前後での容積差ΔV(=V2−V1)分の水をブリード孔35から背圧室36へ送る必要がある。ブリード孔37を通る水の流速f(P)はベルヌーイの定理を用いることにより式(3)で表せる。
【0024】
ここで、ブリード孔35の断面積により、ブリード孔35から背圧室へ流入する流量を定めることができ、背圧室36の容積差ΔVを充填するための時間すなわちダイヤフラム33が閉止するために移動する時間tは式(4)で表すことができる。なお、この時間tは、弁閉時にパイロット弁体42がパイロット孔37を閉塞してから背圧室36の背圧力が1次圧に達するまでに要する時間となる。
【0026】
ここで、通電OFF後、ダイヤフラムが移動を開始する時は、F1=F2が成立した時であり、P2は上述したF1=P1×(A−B)+P3×B、F2=P2×Aの関係より式(5)で表せる。
P2=(P1×(A−B)+P3×B)/A・・・(5)
よって、式(3)と式(5)を式(4)に代入すると、式(1)が得られる。
【0028】
上式により、tはΔVとCとAとBに依存した値となるのがわかる。
【0029】
ところで、給湯機など水道に接続する給水用具の水撃に関する基準は、厚生省令14号により、動水圧0.15MPaの条件において、0.5秒を標準として給水用具の止水機構を閉止したときの水撃による上昇圧力が1.5MPa以下であることと定められている。
【0030】
この水道法上の基準を満足するために有効な手段は、動水圧を下げること、電磁弁までの配管を短くすること、電磁弁の開閉動作をゆるやかにすることがあるが、動水圧の値や配管の長さは現地の環境により仕様が左右されるため、コントロールすることが難しい。しかし、tはΔVとCとAとBを調節することによりコントロールすることが可能である。tの値を0.5秒以上とすることで、水撃を緩和することができる。
【0031】
tが0.5秒以上となるΔVとCとAとBの値の一例を、以下のとおり示す。ここで、給湯機に用いられるパイロット式電磁弁の標準的な条件として以下のとおり値を定める。
P1=150kPa
P3=130kPa
A=500mm
2
B=200mm
2
この時、P2は式(5)よりP2=142kPaとなる。
【0032】
P1=150kPa、P2=142kPa、g=9.8m/S2、γ=1g/cm
3とすれば、f(P)は式(3)よりf(P)=4.0m/sとなる。
【0033】
ここで、ダイヤフラム33のストロークをLとすれば、ΔV=(V2−V1)=(A×L)であることがわかる。ストロークL=3mmとすると、ΔV=1500mm
3となる。
式(4)より、C=ΔV/(t×f(P))と変換できるので、t=0.5とするためのCは、C=0.75mm
2となる。
【0034】
よって、本例では各値を以下のとおり定めることでt=0.5秒の設計となり、各値を調整することでtの値を調整することができる。
【0035】
tとΔV/Cの関係をグラフに表すと、
図3のとおりであり、t=0.5秒以上とすれば、背圧室がいわばショックアブソーバとして機能するため、ゆるやかな開閉動作を実現し、水撃を防ぐことができる。
【0036】
次に、給湯のみを行っていた状態から浴槽への注湯を開始した際に給湯温度が急激に低下するアンダーシュートを抑えることができる電磁弁について説明する。
【0037】
まず、給湯口16への給湯と浴槽17への注湯を同時に行うことを同時給湯という。給湯のみを行っている時、例えば、給湯設定温度が40℃、タンク上部の湯側温度が80℃、給水の水側温度が20℃の場合、給湯混合弁19は湯側対水側が約1対2割合で混合する位置に留まり40℃のお湯を給湯する。
【0038】
給湯中に浴槽17への注湯を開始すると、給湯と注湯を同時に行うことになるため、それまで給湯混合弁19側へのみ供給されていたタンク上部の高温の湯は、風呂混合弁20側へも供給されることになる。このとき、給湯混合弁19側へ供給する高温の湯の量が減り給湯温度が低下する。その直後、一般的には給湯混合弁19の下流側に設けてある温度センサが給湯温度の低下を検知し、設定温度である40℃となるように給湯混合弁19の開度を調節する。よって、
図4(a)に示すとおり、給湯温度は瞬間的に下がってしまう。
【0039】
このような給湯温度の瞬間的な低下は、電磁弁21が閉状態から開状態へ瞬間的に開いてしまうため瞬間的に下がった給湯温度の変化に対し、給湯混合弁19の調整が間に合わなかったために起こる現象である。
【0040】
この現象を防ぐための有効な手段は、電磁弁21が閉状態から開状態となる動作をゆっくり行い、給湯混合弁19の開度を調整する時間を確保することである。
【0041】
電磁弁が閉状態の時、1次圧がダイヤフラム33をポート部32から押し上げようとする力と背圧がダイヤフラム33をポート部22へ押し付けようとする力の関係は、以下の関係式となり電磁弁開状態がつりあっている。
F1≦F2
F1=P1×(A−B)+P3×B
F2=P2×A
P1=P2
ここで通電をONにすると、プランジャ38がコイル39から起磁力を受けパイロット孔37が開く、すると背圧室36の背圧力がパイロット孔37を通って2次側流路31へ排出され、背圧室36の背圧力が低下する。F1=F2となった地点からダイヤフラム33はポート部32から離れはじめ、徐々に流路を拡大する。ダイヤフラム33が移動を開始するところから流路の拡大が始まりダイヤフラム受け34がプランジャケース40に当接した時点で流路が最大となる。
【0042】
ダイヤフラム33移動前の背圧室36の容積をV2となり、ダイヤフラム33移動後の背圧室36の容積をV1となる。ダイヤフラム33の移動が完了するためには移動前後での容積差ΔV(=V2−V1)分の水をパイロット孔37から2次側へ排出する必要がある。このとき、同時に1次側の水がブリード孔35から背圧室36へ流入するので、パイロット孔37の流量はブリード孔35の流量より多くなければならない。パイロット孔37を通る水の流速h(P)はベルヌーイの定理を用いることにより式(6)で表せる。
【0044】
ここで、パイロット孔37の断面積により流量を定めることができ、容積差ΔVを排出するための時間Tは、式(7)で表すことができる。なお、この時間Tは、弁閉時に弁体41が移動を開始してからパイロット弁体42がパイロット孔37を閉塞するまでに要する時間となる。
【0046】
式(7)に、式(3)のf(P)、式(6)のh(P)を代入すると式(8)のとおりとなる。
【0048】
式(8)に式(5)のP2を代入すると式(2)のとおりとなる。
【0050】
上式により、TはΔVとDとCとAとBに依存した値となるのがわかる。
【0051】
ここで、給湯機に用いられるパイロット式電磁弁の標準的な条件として以下のとおり値を定める。
P1=150kPa
P3=130kPa
ΔV=1500mm
3
C=0.75mm
2
A=500mm
2
B=200mm
2
g=9.8m/S2
γ=1g/cm
3
この条件でh(P)を計算すると、h(P)=4.9m/sとなり、T=0.5秒となるときのDは、D=1.23mm
2となる。よって、T=0.5秒の設計となり、各値を調整することでTの値を調整することができる。なお、電磁弁21がパイロット式電磁弁として機能するためには、C<Dの関係が成立することが必要であり、上記条件ではこの関係が満たされている。
【0052】
また、この電磁弁21によれば、給湯と浴槽への注湯の同時給湯を行っていた状態から浴槽給湯を終了した際に給湯温度が上昇するオーバーシュートを抑えることができる。
【0053】
電磁弁21を開動作させた際に給湯温度が低下する現象とは反対に、電磁弁21を閉動作させた際は、それまで風呂混合弁20へ供給していたタンク上部の高温の湯が給湯混合弁19へ流れるので、給湯温度が上昇する。その直後、一般的には給湯混合弁19の下流側に設けてある温度センサが給湯温度の上昇を検知し、設定温度である40℃となるように給湯混合弁19の開度を調節する。よって、
図4(a)に示すように、給湯温度は瞬間的に上がってしまう。
【0054】
この現象を防ぐための手段は、電磁弁21をゆるやかに閉状態にし、給湯混合弁19の開度を調整する時間を確保することである。遅延機構を備えた電磁弁21を用いると、弁開時にパイロット弁体42がパイロット孔37を開放してから弁体41の移動が完了するまでに要する時間Tが長くなり、給湯混合弁19に供給されるタンク上部の高温の湯は瞬間的に増加せずゆっくり増加するため、給湯混合弁19が給湯温度を調整する時間を確保することができる。結果として、
図4(b)で示すとおりオーバーシュートを緩和することができる。
【0055】
このように、本実施形態に係る電磁弁によれば、同時給湯時のアンダーシュートやオーバーシュートといった給湯温度異常を良好に抑えることができる。
【0056】
なお、本発明は、
図1に示されるようないわゆる電気給湯機以外にも、浴槽注湯機能を有するガス給湯機などにも適用することができる。