特許第5982309号(P5982309)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5982309
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】化学蓄熱空調システム
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/20 20060101AFI20160818BHJP
   F28D 20/00 20060101ALI20160818BHJP
   B60H 1/32 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   B60H1/20 B
   F28D20/00 G
   B60H1/32 613C
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-57970(P2013-57970)
(22)【出願日】2013年3月21日
(65)【公開番号】特開2014-180981(P2014-180981A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2015年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋田 賢二
(72)【発明者】
【氏名】桑山 和利
(72)【発明者】
【氏名】小牧 克哉
(72)【発明者】
【氏名】後藤 洋亮
(72)【発明者】
【氏名】若杉 知寿
(72)【発明者】
【氏名】志満津 孝
(72)【発明者】
【氏名】三井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】望月 美代
【審査官】 岡澤 洋
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4388596(JP,B2)
【文献】 特開2009−257254(JP,A)
【文献】 特開2011−237106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/20
B60H 1/32
F28D 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学蓄熱材(21)が内蔵された反応器(2)と、
該反応器(2)と熱交換可能な熱交換器(25)と、
上記反応器(2)と接続され、上記化学蓄熱材(21)の水和反応に用いられる水(W)を蒸発させるとともに上記化学蓄熱材(21)の脱水反応によって生じる水(W)を凝縮させるための蒸発・凝縮手段(31,32)と、
該蒸発・凝縮手段(31,32)と上記熱交換器(25)とに別々に接続され、上記水和反応に用いられる水(W)及び上記脱水反応によって生じる水(W)を貯めることができ、かつ上記熱交換器(25)と熱交換可能な熱交換型水タンク(4)と、
上記反応器(2)及び上記熱交換器(25)に接触させる空気(A)を通過させるよう構成された空調配管(6)と、を備え、
上記化学蓄熱材(21)の脱水反応時には、凝縮器(32)として機能する上記蒸発・凝縮手段(31,32)を経由して上記熱交換型水タンク(4)に水(W)を回収し、
上記化学蓄熱材(21)の脱水反応完了後には、上記反応器(2)に残存する熱を上記熱交換器(25)を経由して上記熱交換型水タンク(4)に蓄熱し、
上記化学蓄熱材(21)の水和反応時には、上記熱交換型水タンク(4)に回収した水(W)を蒸発器(31)として機能する上記蒸発・凝縮手段(31,32)を経由して上記反応器(2)へ供給する際に、該熱交換型水タンク(4)に蓄熱した熱を上記蒸発器(31)の熱源として用い、かつ、上記化学蓄熱材(21)の水和反応によって生じる熱を用いて、上記空調配管(6)を通過して上記反応器(2)及び上記熱交換器(25)に接触する空気(A)の温度調整を行うよう構成されていることを特徴とする化学蓄熱空調システム(1)。
【請求項2】
請求項1に記載の化学蓄熱空調システム(1)において、上記熱交換器(25)と上記熱交換型水タンク(4)とは、該熱交換型水タンク(4)内の水(W)を該熱交換器(25)との間で循環させるための循環経路(51)によって接続されており、
該循環経路(51)には、水(W)の圧力を高めて、上記熱交換型水タンク(4)における飽和蒸気温度を高めるためのポンプ(52)が設けられていることを特徴とする化学蓄熱空調システム(1)。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の化学蓄熱空調システム(1)において、上記熱交換型水タンク(4)における圧力が、蒸発器(31)として機能する上記蒸発・凝縮手段(31,32)における圧力よりも高いことを利用して、上記熱交換型水タンク(4)から上記蒸発器(31)へ水(W)を供給するよう構成されていることを特徴とする化学蓄熱空調システム(1)。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の化学蓄熱空調システム(1)において、該化学蓄熱空調システム(1)は、エンジンと走行モータとの少なくとも一方と、バッテリーとを有する自動車に搭載されており、
上記化学蓄熱材(21)の脱水反応は、上記エンジン又は上記走行モータの稼動時に、上記エンジンから排気される排気エネルギー、上記バッテリーに蓄電されずに捨てられる余剰エネルギーを用いて行い、
上記化学蓄熱材(21)の水和反応は、上記エンジン及び上記走行モータの非稼動時に、上記熱交換型水タンク(4)に回収した水(W)を用いて行うよう構成されていることを特徴とする化学蓄熱空調システム(1)。
【請求項5】
請求項4に記載の化学蓄熱空調システム(1)において、上記空調配管(6)において上記反応器(2)及び上記熱交換器(25)が配置された位置よりも上流側には、空気(A)を送風するブロワ(63)が配置されており、
上記空調配管(6)は、上記ブロワ(63)から上記自動車の車室内(60)へ空気(A)を導く第1配管部(61)と、上記反応器(2)及び上記熱交換器(25)が内部に配置され、上記第1配管部(61)から分岐して、上記反応器(2)及び上記熱交換器(25)に接触した空気(A)を、上記第1配管部(61)に再び合流させることが可能な第2配管部(62)とを有しており、
上記第1配管部(61)に対して上記第2配管部(62)が分岐する位置には、上記ブロワ(63)によって送風される空気(A)の流量を、上記第1配管部(61)と上記第2配管部(62)とに適宜割合で分配するよう構成された分配手段(64)が配設されていることを特徴とする化学蓄熱空調システム(1)。
【請求項6】
請求項5に記載の化学蓄熱空調システム(1)において、上記蒸発・凝縮手段(31,32)は、蒸発器(31)の部分と凝縮器(32)の部分とに分かれて配置されており、
上記第1配管部(61)内には、上記蒸発器(31)の部分に接続された冷却用熱交換器(311)が配置されていることを特徴とする化学蓄熱空調システム(1)。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の化学蓄熱空調システム(1)において、上記熱交換器(25)は、上記反応器(2)と一体的に形成されていることを特徴とする化学蓄熱空調システム(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学蓄熱材が内蔵された反応器を利用して空調を行う化学蓄熱空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両等における空調システムを構成する際には、エアコンディショナを用いる以外にも、化学蓄熱材が充填された反応器を用い、化学蓄熱材に蓄熱した潜熱を利用することが行われている。
例えば、特許文献1の車両用化学蓄熱システムにおいては、化学蓄熱材が内蔵された反応器を用いて、加熱対象を加熱することが開示されている。この車両用化学蓄熱システムにおいては、車両の走行時に、車両に搭載された内燃機関の排気熱により、反応器における化学蓄熱材の脱水反応を行って蓄熱しておく。そして、車両始動時に、化学蓄熱材に水蒸気を供給して、この化学蓄熱材の水和反応を行い、このときに生じる熱によって加熱対象を加熱している。この車両用化学蓄熱システムによれば、長期間に亘って安定的に蓄熱でき、かつ高温が要求される加熱対象の加熱を可能としている。また、車両用化学蓄熱システムとしては、特許文献1以外にも、例えば特許文献2に開示されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−257254号公報
【特許文献2】特開2011−237106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の化学蓄熱システムにおいては、反応器における化学蓄熱材の脱水反応時に残存する熱を有効に活用することができていない。すなわち、特許文献1,2等においては、反応器から脱水される水(水蒸気)は水タンクに回収されるだけであり、脱水反応後に反応器に残る顕熱を回収する工夫はなされていない。
【0005】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたもので、化学蓄熱材の脱水反応後に、反応器に残存する顕熱を有効に蓄熱することができ、化学蓄熱材の水和反応時に、空気の温度調整を適切に行うことができる化学蓄熱空調システムを提供しようとして得られたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、化学蓄熱材が内蔵された反応器と、
該反応器と熱交換可能な熱交換器と、
上記反応器と接続され、上記化学蓄熱材の水和反応に用いられる水を蒸発させるとともに上記化学蓄熱材の脱水反応によって生じる水を凝縮させるための蒸発・凝縮手段と、
該蒸発・凝縮手段と上記熱交換器とに別々に接続され、上記水和反応に用いられる水及び上記脱水反応によって生じる水を貯めることができ、かつ上記熱交換器と熱交換可能な熱交換型水タンクと、
上記反応器及び上記熱交換器に接触させる空気を通過させるよう構成された空調配管と、を備え、
上記化学蓄熱材の脱水反応時には、凝縮器として機能する上記蒸発・凝縮手段を経由して上記熱交換型水タンクに水を回収し、
上記化学蓄熱材の脱水反応完了後には、上記反応器に残存する熱を上記熱交換器を経由して上記熱交換型水タンクに蓄熱し、
上記化学蓄熱材の水和反応時には、上記熱交換型水タンクに回収した水を蒸発器として機能する上記蒸発・凝縮手段を経由して上記反応器へ供給する際に、該熱交換型水タンクに蓄熱した熱を上記蒸発器の熱源として用い、かつ、上記化学蓄熱材の水和反応によって生じる熱を用いて、上記空調配管を通過して上記反応器及び上記熱交換器に接触する空気の温度調整を行うよう構成されていることを特徴とする化学蓄熱空調システムにある(請求項1)。
【発明の効果】
【0007】
上記化学蓄熱空調システムにおいては、化学蓄熱材の脱水反応完了直後に反応器に残された顕熱を有効に利用する工夫をしている。
具体的には、化学蓄熱空調システムにおいては、反応器と熱交換可能な熱交換器と、熱交換器及び蒸発・凝縮手段と熱交換可能な熱交換型水タンクとを用いる。
そして、化学蓄熱材の脱水反応完了後には、化学蓄熱材の脱水反応時に反応器に残存する熱を熱交換器を経由して熱交換型水タンクに蓄熱する。これにより、反応器に残存する顕熱を有効に蓄熱することができる。また、水和反応時の反応温度よりも高温に、脱水反応によって加熱された反応器を、迅速に適切な温度まで低下させることができる。
【0008】
また、化学蓄熱材の水和反応時には、熱交換型水タンクに蓄熱した熱を、蒸発器として機能する蒸発・凝縮手段の熱源として用いる。これにより、蒸発器に必要となる熱源を容易に確保することができる。また、水和反応時には、熱交換型水タンクへの蓄熱によって反応器の温度が適切な温度まで低下している。そのため、化学蓄熱材の水和反応によって生じる熱を用いて空調配管を通過する空気の温度調整を行う際に、反応器に接触する空気が過剰に加熱されてしまうことを防止することができる。これにより、空気の温度調整を大きな温度変動を伴うことなく適切に行うことができる。
【0009】
それ故、上記化学蓄熱空調システムによれば、化学蓄熱材の脱水反応後に、反応器に残存する顕熱を有効に蓄熱することができ、化学蓄熱材の水和反応時に、空気の温度調整を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例にかかる、化学蓄熱材の脱水反応を行う状態の化学蓄熱空調システムを示す説明図。
図2】実施例にかかる、化学蓄熱材の脱水反応直後において熱交換型水タンクに蓄熱を行う状態の化学蓄熱空調システムを示す説明図。
図3】実施例にかかる、化学蓄熱材の水和反応を行う状態の化学蓄熱空調システムを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上述した化学蓄熱空調システムにおける好ましい実施の形態につき説明する。
上記化学蓄熱材の脱水反応完了直後とは、化学蓄熱材の脱水反応が完了した後、水和反応を行うまでの間の時間のことをいう。
上記化学蓄熱空調システムにおいては、上記熱交換器と上記熱交換型水タンクとは、該熱交換型水タンク内の水を該熱交換器との間で循環させるための循環経路によって接続されており、該循環経路には、水の圧力を高めて、上記熱交換型水タンクにおける飽和蒸気温度を高めるためのポンプが設けられていてもよい(請求項2)。
この場合には、熱交換型水タンクにおける飽和蒸気温度を高めることによって、熱交換器から熱交換型水タンクへの熱移動効率と、熱交換型水タンクにおける蓄熱効率とを高めることができる。
【0012】
また、上記熱交換型水タンクにおける圧力が、蒸発器として機能する上記蒸発・凝縮手段における圧力よりも高いことを利用して、上記熱交換型水タンクから上記蒸発器へ水を供給するよう構成されていてもよい(請求項3)。
この場合には、熱交換型水タンクから蒸発器への水の供給を、ポンプ等の動力源を用いることなく行うことができる。また、熱交換型水タンクに蓄熱した熱をさらに有効に活用することができる。
【0013】
また、上記化学蓄熱空調システムは、エンジンと走行モータとの少なくとも一方と、バッテリーとを有する自動車に搭載されており、上記化学蓄熱材の脱水反応は、上記エンジン又は上記走行モータの稼動時に、上記エンジンから排気される排気エネルギー、上記バッテリーに蓄電されずに捨てられる余剰エネルギーを用いて行い、上記化学蓄熱材の水和反応は、上記エンジン及び上記走行モータの非稼動時に、上記熱交換型水タンクに回収した水を用いて行うよう構成されていてもよい(請求項4)。
この場合には、化学蓄熱材の脱水反応時に、自動車において廃棄される排気エネルギー又は余剰エネルギーを有効に活用することができる。
また、化学蓄熱空調システムを、エンジン及び走行モータの非稼動時における空調システムとして有効に活用することができる。
【0014】
また、上記空調配管において上記反応器及び上記熱交換器が配置された位置よりも上流側には、空気を送風するブロワが配置されており、上記空調配管は、上記ブロワから上記自動車の車室内へ空気を導く第1配管部と、上記反応器及び上記熱交換器が内部に配置され、上記第1配管部から分岐して、上記反応器及び上記熱交換器に接触した空気を、上記第1配管部に再び合流させることが可能な第2配管部とを有しており、上記第1配管部に対して上記第2配管部が分岐する位置には、上記ブロワによって送風される空気の流量を、上記第1配管部と上記第2配管部とに適宜割合で分配するよう構成された分配手段が配設されていてもよい(請求項5)。
この場合には、分配手段によって空気の流量を第1配管部と第2配管部とに適宜割合で分配し、第1配管部から自動車の車室内へ導く空気の温度をより適切に調整することができる。
【0015】
また、上記蒸発・凝縮手段は、蒸発器の部分と凝縮器の部分とに分かれて配置されており、上記第1配管部内には、上記蒸発器の部分に接続された冷却用熱交換器が配置されていてもよい(請求項6)。
この場合には、化学蓄熱材の水和反応を行う際に、第1配管部内を流れる空気を冷却用熱交換器に接触させることにより、この空気を冷却することができる。そして、化学蓄熱空調システムによって、自動車の車室内の冷房運転を行うことができる。
【0016】
また、上記熱交換器は、上記反応器と一体的に形成されていてもよい(請求項7)。
この場合には、熱交換器を小さく形成し、脱水反応完了直後において、反応器内の化学蓄熱材に残存する熱をより効果的に回収することができる。
【実施例】
【0017】
以下に、化学蓄熱空調システムにかかる実施例につき、図面を参照して説明する。
本例の化学蓄熱空調システム1は、図1図3に示すごとく、以下の反応器2、熱交換器25、蒸発・凝縮手段31,32、熱交換型水タンク4及び空調配管6を備えている。
反応器2は、容器本体内に化学蓄熱材21を内蔵して構成されている。熱交換器25は、反応器2と熱交換可能に構成されている。蒸発・凝縮手段31,32は、反応器2と接続され、化学蓄熱材21の水和反応に用いられる水Wを蒸発させるとともに化学蓄熱材21の脱水反応によって生じる水Wを凝縮させるよう構成されている。熱交換型水タンク4は、蒸発・凝縮手段31,32と熱交換器25とに別々に接続され、水和反応に用いられる水W及び脱水反応によって生じる水Wを貯めることができ、かつ熱交換器25と熱交換可能に構成されている。空調配管6は、反応器2及び熱交換器25に接触させる空気Aを通過させるよう構成されている。
【0018】
化学蓄熱空調システム1は、図1に示すごとく、化学蓄熱材21の脱水反応時には、蒸発・凝縮手段31,32における凝縮器32を経由して熱交換型水タンク4に水Wを回収するよう構成されている。化学蓄熱空調システム1は、図2に示すごとく、化学蓄熱材21の脱水反応完了直後又は化学蓄熱材21の水和反応時には、化学蓄熱材21の脱水反応によって生じた熱を熱交換器25を経由して熱交換型水タンク4に蓄熱するよう構成されている。化学蓄熱空調システム1は、図3に示すごとく、化学蓄熱材21の水和反応時には、熱交換型水タンク4に回収した水Wを、蒸発・凝縮手段31,32における蒸発器31を経由して反応器2へ供給する際に、熱交換型水タンク4に蓄熱した熱を、蒸発器31の熱源として用い、かつ、化学蓄熱材21の水和反応によって生じる熱を用いて、空調配管6を通過して反応器2及び熱交換器25に接触する空気Aの温度調整を行うよう構成されている。
【0019】
以下に、本例の化学蓄熱空調システム1につき、図1図3を参照して詳説する。
本例の化学蓄熱空調システム1は、エンジン及び走行モータと、バッテリーとを有するハイブリッド自動車に搭載されている。この自動車には、車室内60を空調するエアコンディショナ等の空調装置が設けられている。また、この自動車は、エンジンを稼動させた走行時には、空調装置によって暖房及び冷房の空調を行い、エンジンを停止させた停車時には、化学蓄熱空調システム1によって暖房及び冷房の空調を行うよう構成されている。
【0020】
本例の反応器2において、化学蓄熱材21の脱水反応は、エンジン及び走行モータの稼動時に、走行モータが発電機として動作する際に、バッテリーに蓄電されずに捨てられる余剰エネルギーとしての電力を用いて行う。反応器2には、この余剰エネルギーとしての電力によって発熱するヒータ22が設けられている。なお、化学蓄熱材21の脱水反応は、エンジンから排気される排気エネルギーとしての排ガス、オルタネータによって発電されバッテリーに蓄電されずに捨てられる余剰エネルギーとしての電力を用いて行うこともできる。
【0021】
図1図3に示すごとく、本例の蒸発・凝縮手段31,32は、化学蓄熱材21の脱水反応によって生じる水Wを凝縮させて、熱交換型水タンク4へ回収させるための凝縮器32と、熱交換型水タンク4における水Wを蒸発させて化学蓄熱材21に供給する蒸発器31とによって構成されている。反応器2は、蒸発器31を介して熱交換型水タンク4と接続されているとともに、凝縮器32を介して熱交換型水タンク4と接続されている。
熱交換器25と熱交換型水タンク4とは、熱交換型水タンク4内の水Wを熱交換器25との間で循環させるための循環経路51によって接続されている。循環経路51には、水Wの圧力を高めて、熱交換型水タンク4における飽和蒸気温度を高めるためのポンプ52と、ポンプ52によって高められる水Wの圧力を目標とする圧力に調整するための調圧バルブ53とが設けられている。
【0022】
本例の熱交換器25は、反応器2と一体的に形成されている。反応器2には、化学蓄熱材21に接触する水(水蒸気)Wが流れる水蒸気配管54と、熱交換器25に接触する水(液体)Wが流れる水配管としての循環経路51とが接続されている。反応器2と熱交換型水タンク4とは、蒸発器31又は凝縮器32を介して水蒸気配管54によって接続されており、ポンプ52及び調圧バルブ53を介して循環経路51によって接続されている。
【0023】
自動車においては、外気を車室内60に取り込むための外気用の空調配管と、車室内60の内気を循環させるための内気用の空調配管とが形成されている。本例の化学蓄熱空調システム1を構成する空調配管6は、内気用の空調配管を用いて形成されている。空調配管6において、反応器2及び熱交換器25が配置された位置よりも上流側には、空気Aを送風するブロワ63が配置されている。
エンジンの稼動時に空調装置によって車室内60の空調を行う場合、及びエンジンの停止時に化学蓄熱空調システム1によって車室内60の空調を行う場合のいずれにおいても、ブロワ63を作動させて車室内60の空気Aを循環させることができる。
【0024】
図1に示すごとく、空調配管6は、ブロワ63から自動車の車室内60へ空気Aを導く第1配管部61と、反応器2及び熱交換器25が内部に配置され、第1配管部61から分岐して、反応器2及び熱交換器25に接触した空気Aを、第1配管部61に再び合流させることが可能な第2配管部62とによって構成されている。第1配管部61内には、蒸発器31に接続された冷却用熱交換器311が配置されており、第2配管部62内には、反応器2及び熱交換器25が配置されている。図3に示すごとく、第1配管部61内を流れる空気Aは、冷却用熱交換器311に接触させることにより、冷却用熱交換器311における気化熱によって冷却することができる。
【0025】
図1図3に示すごとく、第1配管部61に対して第2配管部62が分岐する位置には、ブロワ63によって送風される空気Aの流量を、第1配管部61と第2配管部62とに適宜割合で分配するよう構成された分配手段64が配設されている。分配手段64は、ダンパによって形成されている。
第2配管部62は、第1配管部61から分流される空気Aを反応器2及び熱交換器25に接触させた後、外部へ排気するための排気経路65が形成されている。第2配管部62において排気経路65の入口部には、第1配管部61を、第1配管部61に合流させるか又は排気経路65に接続するかの切換弁66が配設されている。
【0026】
化学蓄熱空調システム1は、図1に示すごとく、エンジンの稼動時に、上記余剰エネルギーを利用して反応器2における化学蓄熱材21の脱水反応を行い、脱水された水Wを熱交換型水タンク4に回収して、蓄熱動作を行うよう構成されている。また、化学蓄熱空調システム1は、図3に示すごとく、エンジンの停止時に、熱交換型水タンク4内の水Wを蒸発器31によって蒸発させ、この水Wを用いて反応器2における化学蓄熱材21の水和反応を行い、暖房動作又は冷房動作を行うよう構成されている。また、化学蓄熱材21の水和反応を行う際には、熱交換型水タンク4における圧力が、蒸発器31における圧力よりも高いことにより、この圧力差を利用してポンプ等の動力源を用いずに、熱交換型水タンク4から蒸発器31へ水Wを供給するよう構成されている。
【0027】
本例の化学蓄熱空調システム1においては、化学蓄熱材21の脱水反応完了直後に反応器2に残された顕熱を有効に利用する工夫をしている。
化学蓄熱空調システム1においては、熱交換器25が一体化された反応器2と、熱交換器25、蒸発器31及び凝縮器32に対して熱交換可能な熱交換型水タンク4とを用いる。
そして、図2に示すごとく、化学蓄熱材21の脱水反応完了後には、化学蓄熱材21の脱水反応時に反応器2に残存する熱を熱交換器25を経由して熱交換型水タンク4に蓄熱する。これにより、反応器2に残存する顕熱を有効に蓄熱することができる。また、水和反応時の反応温度よりも高温に、脱水反応によって加熱された反応器2を、迅速に適切な温度まで低下させることができる。
【0028】
また、反応器2に残存する顕熱を熱交換型水タンク4に蓄熱する際には、ポンプ52及び調圧バルブ53によって、熱交換器25から熱交換型水タンク4に回収される水Wの圧力を高める。そして、水Wの圧力が高められることにより、熱交換型水タンク4における飽和蒸気圧力及び飽和蒸気温度が高められる。これにより、熱交換器25から熱交換型水タンク4への熱移動効率と、熱交換型水タンク4における蓄熱効率とを高めることができる。
【0029】
また、化学蓄熱材21の水和反応時には、熱交換型水タンク4に蓄熱した熱を、蒸発器31の熱源として用いる。これにより、蒸発器31に必要となる熱源を容易に確保することができる。また、水和反応時には、熱交換型水タンク4への蓄熱によって反応器2の温度が適切な温度まで低下している。そのため、化学蓄熱材21の水和反応によって生じる熱を用いて空調配管6を通過する空気Aの温度調整を行う際に、反応器2に接触する空気Aが過剰に加熱されてしまうことを防止することができる。これにより、車室内60へ供給する空気Aの温度調整を大きな温度変動を伴うことなく適切に行うことができる。
【0030】
それ故、本例の化学蓄熱空調システム1によれば、化学蓄熱材21の脱水反応後に、反応器2に残存する顕熱を有効に蓄熱することができ、化学蓄熱材21の水和反応時に、空気Aの温度調整を適切に行うことができる。
【符号の説明】
【0031】
1 化学蓄熱空調システム
2 反応器
21 化学蓄熱材
25 熱交換器
31,32 蒸発・凝縮手段
4 熱交換型水タンク
6 空調配管
A 空気
W 水
図1
図2
図3