(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施例1]
実施例1のパワーステアリング装置1について説明する。実施例1のパワーステアリング装置1は、電動モータ40の駆動力をねじ機構26を介して転舵軸10に伝達することで運転者の操舵力に対するアシスト力を付与するものである。
〔パワーステアリング装置の構成〕
図1はパワーステアリング装置1の斜視図である。
図2はパワーステアリング装置1の正面図である。
図3はパワーステアリング装置1の転舵軸10の軸方向に切断した断面図である。
パワーステアリング装置1は、運転者が操舵したステアリングホイールの回転を、転舵輪を転舵させる転舵軸10に伝達する操舵機構2と、転舵軸10にアシスト力を付与するアシスト機構3とを有している。操舵機構2は、ステアリングホイールに連結する操舵入力軸80と、操舵入力軸80と一体に回転するピニオン81を有している。ピニオン81は、転舵軸10の外周に形成されたラック13と噛み合っている。
【0009】
パワーステアリング装置1の各構成要素は、第一ハウジング30、第二ハウジング31、第三ハウジング32を組み合わせたハウジング内に収容されている。第一ハウジング30は、主に操舵機構2、転舵軸10の一部、アシスト機構3のねじ機構26の一部を収容している。第二ハウジング31は、主にねじ機構26の一部、転舵軸10の一部を収容している。第三ハウジング32は主に電動モータ40を収容している。
アシスト機構3は、電動モータ40と、電動モータ40の出力を転舵軸10に伝達するねじ機構26とを有している。電動モータ40は、運転者によりステアリングホイールに入力された操舵トルクおよび操舵量に応じてモータコントローラにより出力が制御されている。
ねじ機構26は、ナット20とプーリ27とを有している。プーリ27はナット20に一体回転可能に固定されている。プーリ27と電動モータ40の出力軸との間にはベルト28が巻回されている。
ナット20は、転舵軸10を包囲するように環状に形成され、転舵軸10に対し回転自在に設けられている。ナット20の内周には、螺旋状に溝が形成されており、この溝がナット側ボールねじ溝21を構成している。転舵軸10の外周には前述のラック13が形成されている部分とは軸方向に離れた位置に螺旋状の溝が形成されており、この溝が転舵軸側ボールねじ溝11を構成している。転舵軸10にナット20を挿入した状態で、ナット側ボールねじ溝21と転舵軸側ボールねじ溝11とによってボール循環溝12を形成している。ボール循環溝12内には金属製の複数のボール22が充填されており、ナット20が回転するとボール循環溝12内をボール22が移動することにより、ナット21に対して転舵軸10が長手方向に移動する。
【0010】
〔ナットの構成〕
図4はパワーステアリング装置1のアシスト機構3付近の拡大断面図である。
図5はナット20の斜視図である。
図6はナット20を軸方向から見た正面図である。
図7はナット20を径方向から見た側面図である。
ナット20の軸方向一端側には、軸受24のインナレース24cが一体に形成されている。軸受24は、分割された二つのアウタレース24a,24bを有し、アウタレース24a,24bとインナレース24cとの間にボール24dが設けられたボールベアリングである。軸受24はナット20を第一ハウジング30に組み付けた状態で、第一ハウジング30に対してナット20を回転自在に軸支する。
ナット20の軸方向他端側には、プーリ27が固定されるフランジ部20aが形成されている。ナット20の外周には、略円筒形状のナット20に対して、インナレース24の部分を除いて周方向一部を切欠いて平面上に形成した循環部材取付部20bが設けられている。
循環部材取付部20bには、ナット側ボールねじ溝21の一方の端部と他方の端部とにそれぞれ連通する連通孔が形成されており、二つの連通孔を連結するチューブ状の循環部材23が挿入されている。循環部材23は、ボール循環溝12の端まで移動したボール22を他方の端に送るための通路であり、これにより閉循環通路をボール22が循環可能としている。循環部材23は、固定金具83によってナット20に固定されている。固定金属83はねじ82によってナット20に固定されている。
ナット20は、第一ハウジング30と第二ハウジング31との締結部分に形成されたボールねじ機構収容部33に収容されており、ナット20の軸方向において、軸受24が設けられる部分全体と循環部材23が設けられる部分の一部が第一ハウジング30に収容され、他の部分が第二ハウジング31に収容されている。ナット20は、軸受24のアウタレース24a,24bを、ボールねじ機構収容部33の第一ハウジング30側側面である側面30bとロックリング25とによって挟持することで、第一ハウジング30に対してナット20の軸方向移動を規制している。
【0011】
〔ロックリングの構成〕
図8はロックリング25の斜視図である。
図9はロックリング25の軸受24と当接する側の正面図である。
図10はロックリング25の反対側の正面図である。
図11はロックリング25の側面図である。
ロックリング25は、転舵軸10を包囲するように円環状に形成されている。ロックリング25の軸受24側には、軸受24のアウタレース24aの側面と当接する当接面25aが形成されている。当接面25aは、ロックリング25の最外径よりも内周側に形成されている。またロックリング25の軸受24側を径方向に切欠いた肉抜き部25fが複数形成されている。肉抜き部25fは、周方向にほぼ等間隔に配置されている。この肉抜き部25fにより軽量化を図っている。
【0012】
ロックリング25の軸受24と反対側には、内周側に開口するように一部を切欠いた係合溝25dが形成されている。係合溝25dは、ロックリング25を第一ハウジング30に固定する際に使用する工具が係合する溝であり、周方向にほぼ等間隔に配置されている。ロックリング25を軸方向から見ると、肉抜き部25fと係合溝25dとは周方向に交互に配置されている。これにより、ロックリング25の軸方向の肉厚を確保し、強度を担保している。
ロックリング25の外周には、ねじが切られた雄ねじ部25cが形成されている。第一ハウジング30の軸受24が設けられる位置に隣接する内周面にはねじが切られた雌ねじ部30aが形成されており、雌ねじ部30aに雄ねじ部25cが螺合することでロックリング25を第一ハウジング30に固定している。
ロックリング25の内周には周方向の一部を切欠いた切欠き部25bが形成されている。ナット20の軸受24と反対側開口部から軸受24側に向かって徐々に内周径が小さくなるテーパ部25eが形成されている。テーパ部25eの最大径は切欠き部25bの径と同じ大きさに形成さている。テーパ部25eの最小径はナット20の最小径となっている。
【0013】
ナット20の回転軸Oから切欠き部25bの径方向内側端部までの距離R2は、回転軸Oから当接面25aの径方向内側端部までの距離R1よりも大きくなるように形成されている。また切欠き部25bの周方向の幅L3(
図9参照)は、循環部材23の長手方向と直角の方向の幅L1(
図7参照)よりも大きく形成されている。言い換えると、循環部材23の長手方向と直角の方向の幅L1(
図7参照)は、切欠き部25bの周方向の幅L3(
図9参照)よりも小さく形成されている。また、切欠き部25bの周方向の幅L3は、循環部材23がナット20に設けられたときの周方向の幅L2(
図6参照)よりも小さく形成されている。
また、回転軸Oからロックリング25の最も内周側の面(切欠き部25bを除く)の距離R3(ロックリング25の軸方向一端側の内径:
図9参照)は、回転軸Oからナット20の循環部材23のうち最も遠い位置との距離R5(最大外径:
図6参照)よりも小さくなるように形成されている。また、ロックリング25の軸受24側開口端面の回転軸Oからの距離R4(ロックリング25の軸方向他端側の内径:
図10参照)は、回転軸Oからナット20の循環部材23のうち最も遠い位置との距離R5(ナット20の最大外径:
図6参照)よりも小さくなるように形成されている。
ここでナット20がハウジング内で回転する回転軸Oは、転舵軸10の軸と同じであって、またロックリング25が第一ハウジング30に螺合させる際の回転軸とも同じである。
【0014】
〔ナットのアセンブリ工程〕
図12は、第一ハウジング30にナット20を組み付ける様子を示す図である。軸受24の一方のアウタレース24aは、ナット20より先に第一ハウジング30内に圧入されている。
ナット20には、軸受24のボール24d、他方のアウタレース24bが組みつけられた状態で、転舵軸10に挿入される。そしてボール循環溝12内にボール22が充填され、循環部材23が組みつけられた状態で第一ハウジング30に挿入される。その後、ナット20にロックリング25が挿入され、ロックリング25の当接面25aがアウタレース24bの側面に当接した状態で、ロックリング25を第一ハウジング30に螺合させていく。第一ハウジング30に対してロックリング25の締結が完了すると、ロックリング25の当接面25aと第一ハウジング30の側面30bとの間に、軸受24のアウタレース24a,24bが挟持されることで、第一ハウジング30に対するナット20の軸方向の位置決めがなされる。
図13は、ロックリング25にナット20を挿入するときの様子を示す図である。
図13では、ナット20と挿入する様子を下から上に向かって示している。また、図を見やすくするため、符号は一番下の図のみに付している。
ロックリング25の切欠き部25bの周方向の幅L3(
図9参照)は、循環部材23がナット20に設けられたときの周方向の幅L2(
図6参照)よりも小さく形成されている。そのため
図13に示すように、ナット20の軸方向に対して傾斜して設けた循環部材23の位置に応じて、ナット20を回転させながら挿入するようにしている。
【0015】
〔作用〕
軸受24のアウタレース24bがロックリング25の当接面25aと当接するため、軸受24の大きさは当接面25aの径の大きさに合わせて選択される。しかし、ナット20の最大外径(距離R5:
図6参照)に合わせてロックリング25の内径を決定してしまうと、当接面25aの径が大きくなり、軸受24の径も大きくなることとなる。
また、ロックリング25の径方向の肉厚は十分に強度を確保できる程度に設ける必要がある。しかし、ナット20の最大外径(距離R5)に合わせてロックリング25の内径を決定してしまうと、外径が大型化してしまう。
そこで実施例1では、ロックリング25の内周に、循環部材23と干渉しないように切欠き部25bを形成し、切欠き部25bは、ナット20の回転軸から切欠き部25bの径方向内側端部までの距離R2を、ナット20の回転軸から当接面25aの径方向内側端部までの距離R1(
図9参照)より大きくなるように形成した。
切欠き部25aを形成したことにより、ロックリング25を循環部材23に干渉しないように挿入することが可能としつつ、内径を小さくすることができる。すなわち、当接面25aのうち、切欠き部25bが形成される部分の内径は大きくなるものの、他の部分では内径を小さくすることができ、当接面25aの面積を確保することができる。よって、軸受24の径も小さくすることができる。また、ロックリング25の切欠き部25b以外の部分では内径を小さくすることができるため、径方向肉厚を確保したとしてもロックリング25の外径の大型化を避けることができる。
【0016】
ロックリング25の軸方向の大きさは、第一ハウジング30に対して締結力を確保するために、雄ねじ部25cを十分に形成できるだけの幅を確保する必要がある。しかし、ナット20にロックリング25の軸方向全長分のスペースを確保しようとするとナット20が大型化してしまう。
そこで、実施例1では、ロックリング25の軸受24側の内径(距離R3:
図9参照)を、循環部材23の最外径(距離R5:
図6参照)よりも小さくなるように形成し、ロックリング25の軸受24と反対側の内径(距離R4:
図9)を、循環部材23の最外径(距離R5)よりも大きくなるように形成した。
そのため、当接面25aの内径を小さくすることができ、軸受24の径も小さくすることができる。さらに、ロックリング25の軸受24と反対側の内径(距離R4)は、循環部材23の最外径(距離R5)よりも大きいため、ロックリング25と循環部材23の一部とが軸方向にオーバラップしていたとしても、ナット20が回転したときに循環部材23がロックリング25に干渉することがないため、ナット20の軸長を短くすることができ、大型化を抑制することができる。
【0017】
ねじ機構26の耐久性を確保するためには、ボール22に作用する力を分散させるために、ボール循環溝12内に十分な数のボール22が充填されている必要がある。そのためには、ボール22を十分な数充填できるだけのボール循環溝12の長さが必要である。ボール循環溝12の長さは、循環部材23が挿入される位置によって決まる。ボール循環溝12の長さを確保しつつナット20の軸方向をできるだけ短くするためには、循環部材23の長手方向をナット20の回転軸に対して傾斜して配置させることが望ましい。しかし、このように循環部材23を配置した場合、ナット20を軸方向から見ると循環部材23が占める周方向幅(幅L2:
図6参照)が大きくなり、ロックリング25の切欠き部25bの周方向幅も大きく形成する必要があった。切欠き部25bの周方向幅が大きくなると、当接面25aと軸受24のアウタレース24aとの当接面積を確保するために、当接面25aの外径を大きくする必要があり、軸受24も大径なものを選択する必要がある。また、大型化した切欠き部25bによる強度低下を見越して、ロックリング25の径方向の肉厚を確保するため、ロックリング25が大型化する。
そこで実施例1では、ボール循環溝12の長手方向と直角方向の幅(幅L1:
図7参照)を切欠き部25bの周方向幅(幅L3:
図9参照)よりも小さく形成し、切欠き部25bの周方向幅(幅L3)を、循環部材23がナット20に設けられたときの周方向幅(幅L2:
図6参照)よりも小さく形成した。
そのため、ロックリング25を傾斜して配置した循環部材23に合わせて回転させながら挿入することで、ロックリング25は循環部材23に干渉することなく挿入することができる。
さらに実施例1では、ロックリング25の軸受24と反対側側面に、工具が係合する係合溝25dを形成し、係合溝25dの内周側が開口するようにした。
そのため、工具の係合部を孔形状とする場合に比べて、内周側に開口する溝形状とすることで、係合溝25dの径方向寸法を小型化することができ、ロックリング25の外径の小型化を図ることができる。
さらに実施例1では、ロックリング25の係合溝25dを、ロックリング25の周方向においてほぼ等間隔に複数個設けた。
そのため、係合溝25dにかかるトルクの均一化を図ることができる。
【0018】
〔効果〕
実施例1の効果を以下に記載する。
(1) ステアリングホイールの回転に伴い軸方向移動することにより転舵輪を転舵させる転舵軸10と、転舵軸10の外周側に設けられ、螺旋状の溝形状を有する転舵軸側ボールねじ溝11と、転舵軸10を包囲するように環状に設けられ、転舵軸10に対し回転自在に設けられたナット20と、ナット20の内周側に設けられ、螺旋状の溝形状を有し、転舵軸側ボールねじ溝11と共にボール循環溝12を構成するナット側ボールねじ溝21と、ボール循環溝12内に設けられた複数のボール22と、ナット20の回転軸の放射方向を径方向としたとき、ナット20の径方向外側に設けられ、複数のボール22がボール循環溝12の一端側から他端側へ循環可能にボール循環溝12の一端側と他端側とを接続する循環部材23と、ナット20の回転軸の方向を軸方向としたとき、ナット20の少なくとも循環部材23よりも軸方向一端側を収容するように形成された第一ハウジング30(ハウジング)と、ナット20と第一ハウジング30との間であって循環部材23よりも軸方向一端側に設けられ、ナット20を包囲するように環状に形成され、第一ハウジング30内でナット20を回転自在に軸支する軸受24と、転舵軸10を包囲するように円環状に形成され、軸受24の軸方向の一方側端面と当接する当接面25aを備え、当接面25aと当接した状態で第一ハウジング30内に固定されることで軸受24を第一ハウジング30に対し固定すると共に、組み付けの際、ナット20の軸方向他端側から一端側に向かって挿入されるロックリング25(固定部材)と、から構成された、転舵軸10に対するナット20の回転に伴いボール循環溝12内を複数のボール22が移動し、ナット20に対して転舵軸10を転舵軸10の長手方向に移動させるボールねじ機構26と、転舵軸10に対してナット20が相対回転するようにナット20に回転力を付与する電動モータ40と、を有し、ロックリング25の当接面25aは、ロックリング25の少なくとも径方向の内側に設けられ、ロックリング25は、ロックリング25の径方向の内側に設けられ、ロックリング25が第一ハウジング30に挿入される際、循環部材23と干渉しないように形成された切欠き部25bを備え、切欠き部25bは、ナット20の回転軸から切欠き部25bの径方向内側端部までの距離R2が、ナット20の回転軸から当接面25aの径方向内側端部までの距離R1より大きくなるように形成されるようにした。
よって、軸受24の径も小さくすることができる。また、ロックリング25の切欠き部25b以外の部分では内径を小さくすることができるため、径方向肉厚を確保したとしてもロックリング25の外径の大型化を避けることができる。
【0019】
(2) 第一ハウジング30は、内周側に雌ねじ部30aを有し、ロックリング25は、外周側に設けられ第一ハウジング30の雌ねじ部30aと螺合する雄ねじ部25cを備え、ナット20の回転軸とロックリング25の内周面までの距離をロックリング25の内径とし、循環部材23のうちナット20の回転軸から最も遠い位置とナット20の回転軸との間の距離を循環部材23の最大外径(距離R5)としたとき、ロックリング25の軸方向一端側の内径(距離R3)は循環部材23の最大外径(距離R5)よりも小さく形成され、ロックリング25の軸方向他端側の内径(距離R4)は循環部材23と干渉しないように循環部材23の最大外径(距離R5)よりも大きく形成されるようにした。
よって、当接面25aの内径を小さくすることができ、当接面25aの面積を確保することができる。したがって、軸受24の径も小さくすることができる。さらに、ロックリング25の軸受24と反対側の内径(距離R4)は、循環部材23の最外径(距離R5)よりも大きいため、ロックリング25と循環部材23の一部とが軸方向にオーバラップさせて配置しても、ナット20が回転したときに循環部材23がロックリング25に干渉することがないため、ナット20の軸長を短くすることができ、大型化を抑制することができる。
【0020】
(3) ナット20の回転軸を中心軸としたとき、循環部材23は、この循環部材23の長手方向が中心軸に対し傾斜するように配置され、長手方向と直角方向の幅(幅L1)が切欠き部25bの周方向幅(幅L3)よりも小さく形成され、切欠き部25bの周方向幅(幅L3)は、循環部材23がナット20に設けられたときの周方向幅(幅L2)よりも小さく形成されるようにした。
よって、ロックリング25を傾斜して配置した循環部材23に合わせて回転させながら挿入することで、ロックリング25を循環部材23に干渉することなく挿入することができる。
(4) 第一ハウジング30は、内周面に雌ねじ部30aを有し、ロックリング25は、外周側に設けられ第一ハウジング30の雌ねじ部25cと螺合する雄ねじ部25cと、内周側に開口するように設けられ、ロックリング25を第一ハウジング30に螺合する際の工具が係合する係合溝25dと、を有するようにした。
よって、係合溝25dを孔形状とする場合に比べて、内周側に開口する溝形状とすることで、係合溝25dの径方向寸法を小型化することができ、ロックリング25の外径の小型化を図ることができる。
(5) ナット20の回転軸を中心軸としたとき、係合溝25dは、ロックリング25の周方向においてほぼ等間隔に複数設けられるようにした。
よって、係合溝25dにかかるトルクの均一化を図ることができる。
【0021】
(6) 電動モータ40と転舵軸10との間に設けられ、電動モータ40の回転力を転舵軸10に伝達することにより操舵アシスト力を発生させるパワーステアリング装置用減速機であって、転舵軸10の外周側に設けられ、螺旋上の溝形状を有する転舵軸側ボールねじ溝11と、転舵軸10を包囲するように環状に設けられ、転舵軸10に対し回転自在に設けられたナット20と、ナット20の内周側に設けられ、螺旋状の溝形状を有し、転舵軸側ボールねじ溝11と共にボール循環溝12を構成するナット側ボールねじ溝21と、ボール循環溝12内に設けられた複数のボール22と、ナット20の回転軸の放射方向を径方向としたとき、ナット20の径方向外側に設けられ、複数のボール22がボール循環溝12の一端側から他端側へ循環可能にボール循環溝12の一端側と他端側とを接続する循環部材23と、ナット20の回転軸の方向を軸方向としたとき、ナット20の少なくとも循環部材23よりも軸方向一端側を収容するように形成された第一ハウジング30と、ナット20と第一ハウジング30の間であって循環部材23よりも軸方向一端側に設けられ、ナット20を包囲するように環状に形成され、第一ハウジング30内でナット20を回転自在に軸支する軸受24と、転舵軸10を包囲するように円環状に形成され、軸受24の軸方向の一方側端面と当接する当接面25aを備え、当接面25aと当接した状態で第一ハウジング30内に固定されることで軸受24を第一ハウジング30に対し固定すると共に、組み付けの際、ナット20の軸方向他端側から一端側に向かって挿入されるロックリング25と、から構成され、転舵軸10に対するナット20の回転に伴いボール循環溝12内を複数のボール22が移動し、ナット20に対して転舵軸10を転舵軸10の長手方向に移動させると共に、ロックリング25の当接面25aは、ロックリング25の少なくとも径方向の内側に設けられ、ロックリング25は、ロックリング25の径方向の内側に設けられ、ロックリング25が第一ハウジング30に挿入される際、循環部材23と干渉しないように形成された切欠き部25bを備え、切欠き部25bは、ナット20の回転軸から切欠き部25bの径方向内側端部までの距離R2が、ナット20の回転軸から当接面25aの径方向内側端部までの距離R1より大きくなるように形成されるようにした。
よって、当接面25aの内径を小さくすることができ、当接面25aの面積を確保することができる。したがって、軸受24の径も小さくすることができる。さらに、ロックリング25の軸受24と反対側の内径(距離R4)は、循環部材23の最外径(距離R5)よりも大きいため、ロックリング25と循環部材23の一部とが軸方向にオーバラップさせて配置しても、ナット20が回転したときに循環部材23がロックリング25に干渉することがないため、ナット20の軸長を短くすることができ、大型化を抑制することができる。
【0022】
[実施例2]
実施例2では、ロックリング25の切欠き部25bを形成する位置を工夫した。実施例1と同じ構成については説明を省略する。
〔ロックリングの構成〕
図14はロックリング25の軸受24と当接する側と反対側の正面図である。切欠き部25bの周方向両端側面のうち、ロックリング25を第一ハウジング30に固定する際に工具が回転する方向の側面と、係合溝25dのロックリング25を第一ハウジング30に固定する際に工具が当接する側面とが共有されるように形成した。
【0023】
〔作用〕
係合溝25dの周方向側側面は、工具からのトルクを受けるのに十分な面積を確保する必要がある。しかし、工具と係合溝25dとが当接する側面は、ロックリング25を第一ハウジング30に固定する回転方向(通常は右回り)の側面だけであり、他方の側面の面積はさほど必要ない。
図10のように、切欠き部25bの右側側面を係合溝25dの右側側面と一致させることにより、切欠き部25bを係合溝25dの左側側面に干渉しないように配置することができる。
したがって、一部の係合溝25dにトルクが集中して作用することがなく、ロックリング25にトルクを十分に伝達することができる。
〔効果〕
実施例2の効果について以下に記載する。
(7) 切欠き部25bの周方向両端部のうち、一方側が工具と当接し工具の回転トルクをロックリング25に伝達するように形成するようにした。
よって、一部の係合溝25dにトルクが集中して作用することがなく、ロックリング25にトルクを十分に伝達することができる。
【0024】
[実施例3]
実施例3では、ロックリング25に代えてスナップリング29を用いるようにした。実施例1と同じ構成については説明を省略する。
〔スナップリングの構成〕
図15はスナップリング29の正面図である。スナップリング29は、弾性材料によって形成されたC形状の部材である。周方向に変形可能であるため、自然状態では切欠き部29aの周方向幅は、循環部材23の長手方向と直角の方向の幅L1(
図7参照)よりも小さく形成されていても良い。
スナップリング29は周方向に縮径させた状態で第一ハウジング30内に挿入され、軸受24に隣接した位置で、拡径させて第一ハウジング30の内周に形成された全周に渡って凹状に形成した係合溝に係合する。これにより、スナップリング29の切欠き部29aを除く側面(当接面29b)が軸受24のアウタレース24aと当接し、軸受24の軸方向移動を規制している。
【0025】
〔作用〕
スナップリング29は、弾性力により第一ハウジング30内の係合溝に係合するため、軸受24の固定作業を容易にすることができる。
またスナップリング29は、係合溝と係合して第一ハウジング30に固定されるため、ロックリング25のように螺合させるものに比べて軸方向長さを短く形成することができる。
【0026】
〔効果〕
実施例3の効果について以下に記載する。
(8) ステアリングホイールの回転に伴い軸方向移動することにより転舵輪を転舵させる転舵軸10と、転舵軸10の外周側に設けられ、螺旋状の溝形状を有する転舵軸側ボールねじ溝11と、転舵軸11を包囲するように環状に設けられ、転舵軸10に対し回転自在に設けられたナット20と、ナット20の内周側に設けられ、螺旋状の溝形状を有し、転舵軸側ボールねじ溝11と共にボール循環溝12を構成するナット側ボールねじ溝21と、ボール循環溝12内に設けられた複数のボール22と、ナット20の回転軸の放射方向を径方向としたとき、ナット20の径方向外側に設けられ、複数のボール22がボール循環溝12の一端側から他端側へ循環可能にボール循環溝12の一端側と他端側とを接続する循環部材23と、ナット20の回転軸の方向を軸方向としたとき、ナット20の少なくとも循環部材23よりも軸方向一端側を収容するように形成された第一ハウジング30(ハウジング)と、ナット20と第一ハウジング30の間であって循環部材23よりも軸方向一端側に設けられ、ナット20を包囲するように環状に形成され、第一ハウジング30内でナット20を回転自在に軸支する軸受24と、転舵軸10を包囲するように形成され、軸受24の軸方向の一方側端面と当接する当接面25aを備え、当接面25aと当接した状態で第一ハウジング30内に固定されることで軸受24を第一ハウジング30に対し固定すると共に、組み付けの際、ナット20の軸方向他端側から一端側に向かって挿入されるスナップリング29(固定部材)と、から構成され、転舵軸10に対するナット20の回転に伴いボール循環溝12内を複数のボール22が移動し、ナット20に対して転舵軸10を転舵軸10の長手方向に移動させるボールねじ機構26と、転舵軸10に対してナット20が相対回転するようにナット20に回転力を付与する電動モータ40と、を有し、ナット20の回転軸を中心軸としたとき、スナップリング29固は、周方向所定範囲が開いた切欠き部29aを有するように円弧状に形成され、切欠き部29aは、スナップリング29材がハウジングに挿入される際、循環部材23との干渉を避けるように形成され、当接部29bは、切欠き部29a以外の周方向範囲に形成されるようにした。
よって、軸受24、ロックリング25の小型化を図ることができる。
(9) 第一ハウジング30は、内周側に設けられ周方向に延びるように形成された係合溝を備え、スナップリング29は弾性材料で形成され、縮径した状態で第一ハウジング30に挿入され、縮径した状態よりも拡径した状態で係合溝と係合することにより軸受24を第一ハウジング30に固定するようにした。
よって、軸受24の固定作業を容易にすることができる。
【0027】
[実施例4]
実施例4では、ロックリング25に代えてロックプレート34を用いるようにした。実施例1と同じ構成については説明を省略する。
〔ロックプレートの構成〕
ロックプレート34の内周には周方向の一部を切欠いた切欠き部34aが形成されている。ロックプレート34の外周には径方向に突出したフランジ部34cが複数形成されており、フランジ部34cにねじ孔34bが形成されている。ねじ孔34bにねじを挿入し、第一ハウジング30に締結されている。これにより、ロックプレート34の側面(当接面34d)が軸受24のアウタレース24aと当接し、軸受24の軸方向移動を規制している。
切欠き部34aの周方向の幅L3(
図16参照)は、循環部材23の長手方向と直角の方向の幅L1(
図7参照)よりも大きく形成されている。言い換えると、循環部材23の長手方向と直角の方向の幅L1(
図7参照)は、切欠き部34aの周方向の幅L3(
図9参照)よりも小さく形成されている。また、切欠き部34aの周方向の幅L3は、循環部材23がナット20に設けられたときの周方向の幅L2(
図6参照)よりも小さく形成されている。
また、回転軸Oからロックプレート34の最も内周側の面(切欠き部34aを除く)の距離R3(
図16参照)は、回転軸Oからナット20の循環部材23のうち最も遠い位置との距離R5(最大外径:
図6参照)よりも小さくなるように形成されている。
ロックプレート34をナット20に挿入するときには、傾斜して配置した循環部材23に合わせて回転させながら挿入することで、ロックプレート34は循環部材23に干渉することなく挿入することができる。
【0028】
〔作用〕
ロックプレート34は、第一ハウジング30とねじによって締結されるため、ロックリング25のように螺合させるものに比べて軸方向長さを短く形成することができる。
〔効果〕
実施例4の効果を以下に記載する。
(10) 軸受24を第一ハウジング30に固定する固定部材として、ねじにより第一ハウジング30に締結されるロックプレート34を用いた。
よって、ロックプレート34の軸方向長さを短く形成することができ、第一ハウジング30に締結後、循環部材23との干渉を防ぐことができる。
【0029】
〔他の実施例〕
以上、本発明を実施例1ないし実施例4に基づいて説明してきたが、各発明の具体的な構成は実施例1ないし実施例4に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
【0030】
〔請求項以外の技術的思想〕
更に、上記実施例から把握しうる請求項以外の技術的思想について、以下にその効果と共に記載する。
(A) 請求項1に記載のパワーステアリング装置において、
前記ハウジングは、内周面に雌ねじ部を有し、
前記固定部材は、外周側に設けられ前記ハウジングの雌ねじ部と螺合する雄ねじ部と、内周側に開口するように設けられ、前記固定部材を前記ハウジングに螺合する際の工具が係合する係合溝と、を有することを特徴とするパワーステアリング装置。
よって、工具の係合部を孔形状とする場合に比べて、内周側に開口する溝形状とすることで、係合溝の径方向寸法を小型化することができ、固定部材の外径の小型化を図ることができる。
【0031】
(B) 上記(A)に記載のパワーステアリング装置において、
前記ナットの回転軸を中心軸としたとき、前記係合溝は、前記固定部材の周方向においてほぼ等間隔に複数個も受けられることを特徴とするパワーステアリング装置。
よって、係合溝にかかるトルクの均一化を図ることができる。
(C) 上記(A)に記載のパワーステアリング装置において、
前記切欠き部の周方向両端部のうち、一方側が前記工具と当接し前記工具の回転トルクを前記固定部材に伝達するように形成されることを特徴とするパワーステアリング装置。
よって、一部の係合溝にトルクが集中して作用することがなく、固定部材にトルクを十分に伝達することができる。
【0032】
(D) 請求項4に記載のパワーステアリング装置において、
前記循環部材は、この循環部材の長手方向が前記中心軸に対し傾斜するように配置され、前記長手方向と直角方向の幅が前記切欠き部の周方向幅よりも小さく形成され、前記切欠き部の周方向幅は、前記循環部材が前記ナットに設けられたときの周方向幅よりも小さく形成されることを特徴とするパワーステアリング装置。
よって、当接面の内径を小さくすることができ、当接面の面積を確保することができる。したがって、軸受の径も小さくすることができる。さらに、これい部材の軸受と反対側の内径は、循環部材の最外径よりも大きいため、ロックリングと循環部材の一部とが軸方向にオーバラップさせて配置しても、ナットが回転したときに循環部材がロックリングに干渉することがないため、ナットの軸長を短くすることができ、大型化を抑制することができる。
(E) 請求項4に記載のパワーステアリング装置において、
前記ハウジングは、内周側に設けられ周方向に延びるように形成された係合溝を備え、
前記固定部材は弾性材料で形成され、縮径した状態で前記ハウジングに挿入され、前記縮径した状態よりも拡径した状態で前記係合溝と係合することにより前記軸受を前記ハウジングに固定することを特徴とするパワーステアリング装置。
よって、軸受の固定作業を容易にすることができる。
【0033】
(F) 請求項5に記載のパワーステアリング装置用減速機において、
前記ハウジングは、内周側に雌ねじ部を有し、
前記固定部材は、外周側に設けられ前記ハウジングの雌ねじ部と螺合する雄ねじ部を備え、前記ナットの回転軸と前記固定部材の内周面までの距離を固定部材の内径とし、前記循環部材のうち前記ナットの回転軸から最も遠い位置と前記ナットの回転軸との間の距離を前記循環部材の最大外径としたとき、前記固定部材の前記軸方向一端側の内径は前記循環部材の最大外径よりも小さく形成され、前記固定部材の前記軸方向他端側の内径は前記循環部材と干渉しないように前記循環部材の最大外径よりも大きく形成されることを特徴とするパワーステアリング装置用減速機。
よって、当接面の内径を小さくすることができ、当接面の面積を確保することができる。したがって、軸受の径も小さくすることができる。さらに、これい部材の軸受と反対側の内径は、循環部材の最外径よりも大きいため、ロックリングと循環部材の一部とが軸方向にオーバラップさせて配置しても、ナットが回転したときに循環部材がロックリングに干渉することがないため、ナットの軸長を短くすることができ、大型化を抑制することができる。
【0034】
(G) 請求項5に記載のパワーステアリング装置用減速機において、
前記ナットの回転軸を中心軸としたとき、前記循環部材は、この循環部材の長手方向が前記中心軸に対し傾斜するように配置され、前記長手方向と直角方向の幅が前記切欠き部の周方向幅よりも小さく形成され、前記切欠き部の周方向幅は、前記循環部材が前記ナットに設けられたときの周方向幅よりも小さく形成されることを特徴とするパワーステアリング装置用減速機。
よって、固定部材を傾斜して配置した循環部材に合わせて回転させながら挿入することで、固定部材を循環部材に干渉することなく挿入することができる。
【0035】
(H) 請求項5に記載のパワーステアリング装置用減速機において、
前記ハウジングは、内周面に雌ねじ部を有し、
前記固定部材は、外周側に設けられ前記ハウジングの雌ねじ部と螺合する雄ねじ部と、内周側に開口するように設けられ、前記固定部材を前記ハウジングに螺合する際の工具が係合する係合溝と、を有することを特徴とするパワーステアリング装置用減速機。
よって、工具の係合部を孔形状とする場合に比べて、内周側に開口する溝形状とすることで、係合溝の径方向寸法を小型化することができ、固定部材の外径の小型化を図ることができる。
(I) 上記(H)に記載のパワーステアリング装置用減速機において、前記ナットの回転軸を中心軸としたとき、前記係合溝は、前記固定部材の周方向においてほぼ等間隔に複数個も受けられることを特徴とするパワーステアリング装置用減速機。
よって、係合溝にかかるトルクの均一化を図ることができる。