(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5982387
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】薬剤送達デバイスのための駆動機構および薬剤送達デバイス
(51)【国際特許分類】
A61M 5/315 20060101AFI20160818BHJP
【FI】
A61M5/315 550A
A61M5/315 550P
【請求項の数】15
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-538211(P2013-538211)
(86)(22)【出願日】2011年11月11日
(65)【公表番号】特表2013-543752(P2013-543752A)
(43)【公表日】2013年12月9日
(86)【国際出願番号】EP2011069963
(87)【国際公開番号】WO2012062912
(87)【国際公開日】20120518
【審査請求日】2014年10月28日
(31)【優先権主張番号】10190942.2
(32)【優先日】2010年11月12日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】397056695
【氏名又は名称】サノフィ−アベンティス・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】フィリッペ・ヌツィーケ
(72)【発明者】
【氏名】シュテフェン・ラープ
【審査官】
安田 昌司
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−500095(JP,A)
【文献】
特表2008−529625(JP,A)
【文献】
特表2008−515471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近位端(2)および遠位端(3)を有するボディ(1)、
ねじ山(15)を有する投与部材(12)、
ボディ内に配置され、ボディに対して回転可能であり、投与部材のねじ山(15)と係合するねじ山(16)を有する駆動スリーブ(11)、
ボディに対して近位方向および遠位方向への駆動スリーブの動きを制限または阻止するように設けられた止め手段(13、14)、および
遠位方向への力が投与部材に加えられたとき投与部材をボディに解放自在に回転錠止するように設けられボディに対して遠位方向への投与部材の動きを可能にするクラッチ(19)、
を含んでなり、
ねじ山(15、16)によって、投与部材(12)は、駆動スリーブ(11)に対して螺旋状に動くことができる、
薬剤送達デバイスのための駆動機構。
【請求項2】
投与部材(12)は、円筒形を有し、駆動スリーブ(11)を部分的に取り囲む、
請求項1に記載の駆動機構。
【請求項3】
止め手段(13、14)は、ボディ(1)のウェブまたはインタフェースによって提供される、
請求項1または2に記載の駆動機構。
【請求項4】
さらに、ボディ(1)に回転錠止されるクラッチ部材(18)、
クラッチ部材および投与部材(12)のところの軸方向連結手段(A)(軸方向連結手段は、投与部材が近位方向に移動したときクラッチ部材を近位方向へ動かすように設けられる)、および
クラッチ部材および投与部材のところのクラッチ(19)を形成する回転連結手段(B)、
を含んでなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の駆動機構。
【請求項5】
回転連結手段(B)は、クラッチ部材(18)の表面および投与部材(12)の表面を含んでなり、これらの表面が、摩擦によって連結される、
請求項4に記載の駆動機構。
【請求項6】
回転連結手段(B)は、クラッチ部材(18)の構造化表面および投与部材(12)の構造化表面を含んでなり、これらの構造化表面が互いに機械的に係合する、
請求項4に記載の駆動機構。
【請求項7】
さらに、ボディ(1)内に配置され、遠位方向および近位方向に可動であるピストンロッド(7)を含んでなり、駆動スリーブ(11)がピストンロッドに回転連結される、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の駆動機構。
【請求項8】
さらに、ピストンロッド(7)に回転錠止され、駆動スリーブ(11)に接触して保持される駆動部材(10)を含んでなり、駆動部材は、ピストンロッドに対する一方向の駆動スリーブの回転を可能にし、そしてピストンロッドに対する反対方向の駆動スリーブの回転を阻止する、
請求項7に記載の駆動機構。
【請求項9】
さらに、ボディ(1)に回転錠止され、駆動部材(10)に接触して保持される止め部材(9)を含んでなり、止め部材は、ボディに対する一方向の駆動スリーブの回転を可能にし、そしてボディに対する反対方向の駆動部材の回転を阻止する、
請求項8に記載の駆動機構。
【請求項10】
さらに、ピストンロッド(7)に連結されたガイド手段(17)を含んでなり、ガイド手段は、ボディ(1)に対するピストンロッドの相対運動を螺旋運動に制限する、
請求項8または9に記載の駆動機構。
【請求項11】
設定操作は、ボディ(1)に対して近位方向への投与部材(12)の螺旋運動によって行われ、この螺旋運動が、投与部材のねじ山(15)および駆動スリーブ(11)のねじ山(16)により案内され、そして駆動スリーブがボディに対して静止している、
請求項1〜10のいずれか1項に記載の駆動機構。
【請求項12】
投薬操作が、ボディ(1)に対して遠位方向への投与部材(12)の動きにより行われ、ボディに対する投与部材(12)の回転がクラッチ(19)により阻止され、ボディに対する駆動スリーブ(11)の回転が投与部材のねじ山(15)および駆動スリーブのねじ山(16)によって発生する、
請求項1〜11のいずれか1項に記載の駆動機構。
【請求項13】
設定修正操作が、ボディ(1)に対して遠位方向への投与部材(12)の螺旋運動により行われ、この螺旋運動が、投与部材のねじ山(15)および駆動スリーブ(11)のねじ山(16)により案内され、そして駆動スリーブがボディに対して静止している、
請求項1〜12のいずれか1項に記載の駆動機構。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の駆動機構を含んでなる薬剤送達デバイス。
【請求項15】
ボディ(1)が注射ペンの形状を有する、請求項14に記載の薬剤送達デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤送達デバイスのための駆動機構およびこのような駆動機構を組み込んでいる薬剤送達デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
患者による自己投与に適している薬剤の投与のために携帯型薬剤送達デバイスが使われる。薬剤送達デバイスは、特に、取り扱い容易で、どこでも利用できるペンの形状であると有用である。或るタイプの薬剤送達デバイスは、再補充可能で何回も再使用可能であるように構成される。薬剤は、駆動機構により送達され、この駆動機構は、送達されるべき投与量を設定するのにも役立ち得る。
【0003】
特許文献1が、複数回分の異なった処方の投与量を送達できる駆動機構を有する注射ペンの形をした薬剤送達デバイスを記載している。この駆動機構は、共通軸のまわりに互いに対して回転させられるエレメントを含んでなる。これらのエレメントは、一方向性ギアにより連結される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】DE10237258B4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
投与量を設定するのを可能にする薬剤送達デバイスのための新しい駆動機構を開示することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、請求項1に記載の駆動機構によって達成される。さらなる目的は、従属請求項に記載の変形例および実施形態によって達成される。
【0007】
薬剤送達デバイスのための駆動機構は、近位端および遠位端を有するボディ、ねじ山を有する投与量部材および駆動スリーブを含んでなる。駆動スリーブは、ボディに対して回転可能であり、投与部材のねじ山と係合するねじ山を有する。止め手段は、ボディに対する近位方向および遠位方向への駆動スリーブの動きを制限または阻止する。遠位方向への力が投与量部材に加えられるときに投与部材を解放自在に回転錠止するためにクラッチが提供される。このクラッチは、ボディに対する遠位方向への投与部材の動きを可能にする。
【0008】
ボディは、たとえば、ハウジングの一部をなす任意のハウジングまたは任意のコンポーネントであり得る。ボディは、また、外部ハウジングと連結される任意種類のインサートであり得る。ボディは、デバイスの安全、正確および/または容易な取り扱いを可能するようにおよび/またはボディを有害な液体、ダストまたは土砂から保護するように設計され得る。ボディは、一体でも、管状または非管状の形状の複数パート・コンポーネントであってもよい。ボディは、そこから薬剤の投与量を計量分配できるカートリッジを収納していてもよい。ボディは、特に注射ペンの形状を有し得る。「遠位端」という用語は、そこから薬剤が計量分配される薬剤送達デバイス一部に配置されることを意図されるボディまたはハウジングの一部を謂う。「近位端」という用語は、遠位端から遠い方にある、ボディまたはハウジングの一部を謂う。
【0009】
駆動機構の一実施形態において、投与部材は、円筒形を有し、駆動スリーブを部分的に取り囲む。
【0010】
駆動機構の一実施形態において、止め手段は、ボディのウェブまたはインタフェースによって提供される。
【0011】
さらなる実施形態は、ボディに回転錠止されるクラッチ部材を含んでなる。クラッチ部材および投与部材のところには、軸方向連結手段および回転連結手段が提供される。軸方向連結手段は、投与部材が近位方向へ動かされるときにクラッチ部材を近位方向へ動かすために提供され、そして、回転連結手段はクラッチを形成する。
【0012】
さらなる実施形態において、回転連結手段は、クラッチ部材の表面および投与部材の表面を含んでなり、これらの表面が摩擦によって連結される。
【0013】
さらなる実施形態において、回転連結手段は、クラッチ部材の構造化表面および投与部材の構造化表面を含んでなり、これらの構造化表面が機械的に互い係合する。
【0014】
さらなる実施形態は、ボディ内に配置されたピストンロッドを含んでなる。このピストンロッドは、遠位方向および近位方向に可動である。駆動スリーブは、ピストンロッドに一緒に回転できるように連結される。「ピストンロッド」という用語は、特に薬剤を計量分配するためにピストンへ動きを伝えるために提供される任意のエレメントを含む。ピストンロッドは、可撓性であっても可撓性でなくてもよい。ピストンロッドは、一体構造でも複数パート構造でもよく、特に単純なロッド、親ねじ、ラック・ピニオン、ウォーム歯車システム等であってもよい。
【0015】
さらなる実施形態は、ピストンロッドに回転錠止され、駆動スリーブに接触して保持される駆動部材を含んでなる。駆動部材は、駆動スリーブがピストンロッドに対して一方向に回転することを可能にすると共に、駆動スリーブがピストンロッドに対して反対方向に回転するのを阻止する。
【0016】
さらなる実施形態は、ボディに回転錠止され、駆動部材に接触して保持される止め部材を含んでなる。止め部材は、駆動部材がボディに対して一方向に回転するのを可能にすると共に、駆動部材がボディに対して反対方向に回転するのを阻止する。
【0017】
さらなる実施形態は、ピストンロッドに結合され、ボディに対するピストンロッドの相対運動を螺旋運動に制限するガイド手段を含んでなる。
【0018】
駆動機構のさらなる実施形態において、近位方向におけるボディに対する投与部材の螺旋運動によって設定操作が実施される。この螺旋運動は、投与部材のねじ山および駆動スリーブのねじ山により案内され、その間、駆動スリーブはボディに対して静止している。
【0019】
駆動機構のさらなる実施形態において、遠位方向におけるボディに対する投与部材の動きによって投薬操作が実施される。ボディに対する投与部材の回転が、クラッチにより阻止され、そして、ボディに対する駆動スリーブの回転が、投与部材のねじ山および駆動スリーブのねじ山によって、発生させられる。
【0020】
駆動機構のさらなる実施形態において、遠位方向におけるボディに対する投与部材の螺旋運動によって設定修正操作が実施される。この螺旋運動は、投与部材のねじ山および駆動スリーブのねじ山により案内され、その間、駆動スリーブはボディに対して静止している。
【0021】
本発明は、さらに、実施形態の1つによる駆動機構を備えた薬剤送達デバイスに関する。薬剤送達デバイスは、特に注射ペンの形をしたボディを有することができる。
【0022】
薬剤送達デバイスは、薬剤、特に液体(たとえば、インスリン、成長ホルモン、ヘパリン、またはその類似化合物および/またはその派生物であってよい)の投与量を計量分配するように設計された使い捨て可能または再使用可能なデバイスであり得る。デバイスは、薬剤の一定投与量または可変投与量を計量分配するように構成され得る。薬剤は、ニードルによって投与されてもよく、または、デバイスがニードルなしであってもよい。デバイスは、さらに、たとえば血糖値のような生理的特性をモニタするように設計されていてもよい。
【0023】
本発明のこれらおよび他の特徴は、以下の図面の簡単な説明、詳細な説明および添付した特許請求の範囲および図面から明らかになろう。が、そこにおいては、同様のまたは対応するエレメントは同じ参照番号を持っている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】駆動機構の一実施形態を含んでなる注射ペンの横断面を示す。
【
図3】何回かの投与量送達後の
図1に記載の横断面を示す。
【0025】
図1は、注射ペンの形をした薬剤送達デバイスの横断面を示す。その代わりに、この薬剤送達デバイスは、ボディまたはハウジングの形状に従って別の適当な形を有し得る。「ボディ」という用語は、主ハウジングまたはシェルのような任意の外部ハウジングならびに外部ハウジング内に配置されたインサートまたは内側ボディのような内部ハウジングを含む。
図1に図示した実施形態において、ボディ1は、細長い形である。ボディ1は、近位端2および遠位端3を有する。ボディ1は、デバイスの再充填を可能にする少なくとも2つの取り付け可能で分離可能な部分からなり得る。
【0026】
ボディ1は、薬剤のための受け部4を含んでなる。受け部4は、薬剤を収容し、受け部4に挿入されるカートリッジ5により充填されるように設計されていてもよい。いっぱいのカートリッジ5は、好ましくは、薬剤の複数回分の投与量を収容する。カートリッジ5が空になると、それを取り外し、新しいカートリッジと交換できる。
【0027】
薬剤は、ピストンロッド7によって受け部4、特にカートリッジ5内で遠位端3に向かって前進させられるピストン6によって受け部4の開口を通して計量分配される。遠位端3は、
図1に示していないニードル、または、たとえば、ニードル・ユニットを備え得る。
【0028】
ピストンロッド7がピストン6に対して動かされる場合、
図1に概略的に示すベアリングが、ピストン6とピストンロッド7の連結部のところに配置され、摩擦によって生じ得る損害を軽減できる。
図1に示す駆動機構は、近位端2のところにある投与ボタン20によって作動させられ得る。投与ボタン20は、ボディ1の外側に設けてあり、ユーザによって把持され得る。
【0029】
駆動機構は、投与ボタン20を備える円筒形の投与部材12によって部分的に取り囲まれる駆動スリーブ11を含んでなる。駆動スリーブ11および投与部材12は、駆動スリーブ11の対応するねじ山16と係合する投与部材12のねじ山15によって連結される。これらのねじ山のために、投与部材12は、駆動スリーブ11に対して螺旋状に動かされ得る。駆動スリーブ11は、ボディ1に対して回転させられ得るが、遠位方向または近位方向における駆動スリーブ11の動きは阻止されるかまたは少なくとも制限される。このために、ボディ1は、止め手段を備えることができる。この留め手段は、たとえば、遠位方向および近位方向における駆動スリーブ11のシフトを止めるインタフェースまたはウェブ13、14であり得る。
【0030】
ボディ1に対するピストンロッド7の動きは、適当なガイド手段17によって案内される。ガイド手段17は、ボディ1の一体部分であってもよいし、たとえば、ナットのようなボディ1に恒久的または一時的に留められるエレメントであってもよい。ピストンロッド7は、そのねじ山と係合してボディ1に対するピストンロッド7の動きを螺旋運動に制限するガイド手段17の開口を通過する。したがって、ボディ1に対するピストンロッド7の回転は、ボディ1に対するピストンロッド7の同時シフトを含んでなる。
【0031】
クラッチ19を含んでなるクラッチスリーブ18が、ボディ1と投与部材12の間に配置される。クラッチ19は、クラッチスリーブ18の表面領域および投与部材12の対応する表面領域によって形成され得る。これらの表面領域は、投与部材12が遠位端3に向かって動かされるときにて互いに接触し、摩擦によってクラッチスリーブ18および投与部材12を一緒に回転できるように結合させる。その代わりに、クラッチ19は、クラッチスリーブ18の構造化表面領域および投与部材12の対応する構造化表面領域により形成されてもよい。表面構造は、たとえば、歯を含んでなるものであってもよい。投与部材12が遠位端3に向かって動かされるとき、構造化表面領域は、互いに係合し、クラッチスリーブ18および投与部材12を一緒に回転できるように結合させる。クラッチスリーブ18は、ボディ1に回転錠止される。これは、軸方向溝またはトラックと、たとえば、溝またはトラックにより案内されるトラック、ピン、ペグ、フック、スパイクまたは出張りのような対応するエレメント要素により達成され得る。
【0032】
図1に記載の実施形態は、さらに、ピストンロッド7を駆動スリーブ11に結合させるためにスプリング8、止め部材9および駆動部材10を含んでなり、あるいはその代わりに他の手段を用いてもよい。駆動部材10および駆動スリーブ11は、ラチェットによって一緒に回転できるように結合され、したがって、駆動部材10および止め部材9も一緒に回転できるように連結される。止め部材9は、ボディ1に回転錠止されるが、許された方向における回転中、ラチェットを係合、分離させるのを可能にする往復運動を行うことは可能となる。止め部材9、駆動部材10および駆動スリーブ11は、ボディ1のウェブ14によって支持されるスプリング8の作用によって接触状態に保持される。
【0033】
ラチェットは、止め部材9に対する、そして、駆動スリーブ11に対する駆動部材10の一方向回転を可能にする。これらの相対運動の両方において、駆動部材10は、近位方向に対する同じ回転方向に回転する。これは、ボディ1に対する駆動スリーブ11の回転方向に応じて、駆動スリーブ11が、ボディ1および止め部材9に対して駆動スリーブ11と共に回転する駆動部材10に回転錠止されたり、駆動スリーブ11が、ボディ1に対して、そして、止め部材9に回転錠止された駆動部材10に対して回転したりすることを意味する。
【0034】
駆動部材10が、ボディ1内のその位置に実質的に留まり、ピストンロッド7に回転錠止される一方で、ピストンロッド7は、遠位方向または近位方向においてボディ1に対して軸方向に動くことができる。ガイド手段17のために、駆動部材10によるピストンロッド7の回転は、ボディ1に対するピストンロッド7の螺旋運動を発生させる。ガイド手段17は、止め部材9によって許される駆動部材10の回転をピストンロッド7を遠位方向へシフトするピストンロッド7の螺旋運動に変換するために提供される。
【0035】
投与量を設定する操作は、近位方向におけるボディ1に対する投与部材12の螺旋運動により行われる。投与部材12は、投与ボタン20を回すことによって、回転させられ得る。螺旋運動は、駆動スリーブ11のねじ山と係合する投与部材12のねじ山によって案内される。駆動スリーブ11は、それがウェブ13またはボディ1の別の適当な止め手段と接触状態にあり、それが近位方向における駆動スリーブ11のシフトを阻止するため、ボディ1に対して静止している。投与部材12の回転による駆動スリーブ11の尚早の回転は、投与量精度の観点から、阻止されると好ましい。このことは、たとえば、互いに接触している駆動スリーブ11およびウェブ13の表面間の摩擦によって達成され得る。あるいは、これらの表面が、相対的な回転を阻止するために駆動スリーブ11をウェブ13と係合させる構造を備えてもよい。
【0036】
図2は、投与量設定後の駆動機構の横断面を示す。このとき、投与ボタン20に加えて、投与部材12の一部がボディ1から突出する。クラッチスリーブ18を近位方向へ投与部材12と同時にシフトし、クラッチ19をクラッチスリーブ18および投与部材12を結合させるための準備状態に保つために
図2において文字Aで強調される軸方向連結手段が提供される。したがって、クラッチ19は、
図2において文字Bで強調される回転連結手段を形成する。クラッチスリーブ18がボディ1に回転錠止されるので、設定操作中、投与部材12はクラッチスリーブ18に対して回転する。これは、近位方向における投与部材12の動きの間、係合されることのないクラッチ19によって可能となる。
【0037】
設定投与量の修正は、遠位方向におけるボディ1に対する投与部材12の螺旋運動によって容易に可能となる。これは、投与部材12の所望の位置が得られるまで投与ボタン20を反対方向に回すことによって達成される。設定された投与量の正しい値は、投与部材12または投与ボタン20に適用されるスケールまたは番号付けによって示され得る。投与量を設定するときにユーザを案内するために可聴手段および/または触覚手段も提供され得る。投与部材12が遠位方向へ戻るように螺旋状に動かされるとき、ボディ1に対する投与部材12の螺旋運動が、再び、投与部材12および駆動スリーブ11のねじ山15、16によって案内される。投与部材12の回転による駆動スリーブ11の回転は、たとえば、ここに記載の実施形態では、駆動スリーブ11およびウェブ13の表面を結合することによって阻止され得る。設定された投与量の修正の間の投与部材12の回転による駆動スリーブ11の回転は、上述したようにスプリング8、止め部材9および駆動部材10の配置を含んでなる実施形態において、たとえ駆動スリーブ11が投与部材12と同じ方向に回転するとしても、修正操作の間、止め部材9が駆動部材10の望ましくない回転を阻止するので、許され得る。
【0038】
投与ボタン20が回されず、遠位方向にプレスされる場合、クラッチ19が係合し、投与部材12およびクラッチスリーブ18が回転錠止される。これは、クラッチスリーブ18がボディ1に回転錠止されているために、投与部材12は、ボディ1に対して回転することができないということを意味する。駆動スリーブ11は、ウェブ13または他の止め手段から分離され、ボディ1に対して自由に回転できる。駆動スリーブ11の遠位方向の動きは、さらに別の止め手段(たとえば、スプリング8の負荷の下にあるウェブ14または止め部材9であってもよい)によって阻止されるかまたは制限される。したがって、ボディ1に対する投与部材12のシフトは、駆動スリーブ11に対する投与部材12の対応する相対運動を必要とする。この動きは、投与部材12および駆動スリーブ11を結合させているねじ山15、16のために、螺旋状の相対運動のみであり得る。したがって、駆動スリーブ11は、ボディ1に対して回転させられる。デバイスが止め部材9および駆動部材10の配置を備える場合、駆動スリーブ11のこの回転は、駆動部材10を駆動スリーブ11に回転錠止し、そして、駆動部材10はこの回転方向に回転するのを可能とされる。したがって、駆動部材10は、駆動スリーブ11に従って回転し、ピストンロッド7を回転させ、ピストンロッド7はガイド手段17のために遠位方向へ前進する。
【0039】
図3は、何回かの投与量送達後の駆動機構の横断面を示す。回転は別として、投与部材12は、再び、デバイスが
図1に示される初期状態にあるときにそれが占有する位置にある。このとき、送達操作の過程でピストンロッド7が遠位方向に数回シフとされたので、ピストンロッド7の位置は変化している。駆動機構の他のコンポーネントは、
図1に示す状態に従って配置され、そして、上述したように投与ボタン20を回すことによって、さらなる設定操作が実施され得る。
【0040】
駆動機構は、容易かつ確実に作動させられ、したがって、投与量の反復設定、特に投与量を変えるために設計された薬剤送達デバイスに特に適している。駆動機構は、設定操作をまったく逆に行うことによって容易に投与量の修正を可能にする。投与量を設定する際の精度が設定された投与量の修正によって、悪影響を受けないことが本駆動機構の利点である。したがって、デバイスの正しい使用が保証され、ユーザが正しく薬剤を投与するのを助ける。
【0041】
参照数字
1 ボディ
2 近位端
3 遠位端
4 受け部
5 カートリッジ
6 ピストン
7 ピストンロッド
8 スプリング
9 止め部材
10 駆動部材
11 駆動スリーブ
12 投与部材
13 ウェブ
14 ウェブ
15 投与部材のねじ山
16 駆動スリーブのねじ山
17 ガイド手段
18 クラッチ部材
19 クラッチ
20 投与ボタン
A 軸方向連結手段
B 回転連結手段