(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5982479
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】熱かしめ接合
(51)【国際特許分類】
B21D 39/00 20060101AFI20160818BHJP
C22C 45/02 20060101ALI20160818BHJP
C22C 45/10 20060101ALI20160818BHJP
C22C 45/06 20060101ALI20160818BHJP
C22C 45/04 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
B21D39/00 B
C22C45/02 Z
C22C45/10
C22C45/06
C22C45/04 Z
【請求項の数】17
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-518524(P2014-518524)
(86)(22)【出願日】2011年7月1日
(65)【公表番号】特表2014-525837(P2014-525837A)
(43)【公表日】2014年10月2日
(86)【国際出願番号】US2011042852
(87)【国際公開番号】WO2013006162
(87)【国際公開日】20130110
【審査請求日】2014年4月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】503260918
【氏名又は名称】アップル インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(72)【発明者】
【氏名】プレスト,クリストファー,ディー.
(72)【発明者】
【氏名】スコット,マシュー,エス.
(72)【発明者】
【氏名】ザデスキー,ステファン,ピー.
(72)【発明者】
【氏名】ヘイリー,リチャード,ダブリュー.
(72)【発明者】
【氏名】ストラットン,ダーモット,アイ.
(72)【発明者】
【氏名】プール,ジョセフ,シー.
【審査官】
塩治 雅也
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−075344(JP,A)
【文献】
特開平04−240407(JP,A)
【文献】
特表2006−507128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 39/00
C22C 45/02
C22C 45/04
C22C 45/06
C22C 45/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
突出部であって、少なくとも部分的にアモルファスである合金を含む突出部と、前記突出部から離れるように延びるベース部とを含む、ベゼルを定める第1のパーツを供給する工程を備え、
前記突出部が第2のパーツの外端に隣接し、前記第2のパーツの上面より上に延びるように、前記第2のパーツを、前記ベース部の上に、かつ前記第1のパーツに近接して配置する工程と、
インターロックを成形するために、前記突出部に、ほぼガラス転移温度Tgと、ほぼ結晶化温度Txの間の温度に加熱された工具で接触する工程であって、前記インターロックにおいて、前記第2のパーツは、前記突出部と前記ベース部によって形成されるアンダーカットに保持される工程と、
を備える方法。
【請求項2】
前記合金は、バルクアモルファス合金である請求項1の方法。
【請求項3】
前記合金は、Zr, Hf, Ti, Cu, Ni, Pt, Pd, Fe, Mg, Au, La, Ag, Al, Mo, Nbまたはこれらの組み合わせを含む請求項1の方法。
【請求項4】
前記突出部は、前記第1のパーツの残部とは異なる材料を含む請求項1の方法。
【請求項5】
前記第2のパーツは、鉄、チタン、銅、ジルコニウム、アルミニウム、タングステン、これらの合金、またはこれらの組み合わせを含む請求項1の方法。
【請求項6】
前記第2のパーツと前記第1のパーツとは、異なる材料を含む請求項1の方法。
【請求項7】
前記突出部に接触する操作は、前記突出部を前記第2のパーツに向けて押し付けることを含む請求項1の方法。
【請求項8】
前記突出部、前記第2のパーツ、及び前記加熱された工具の間に実質的な元素の相互拡散が起こらない請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記工具は鉄を含む請求項1の方法。
【請求項10】
前記突出部に接触する操作は、少なくとも部分的に真空の状態で、不活性雰囲気中で、またはこれらの両方の下で行われる請求項1の方法。
【請求項11】
前記合金は、少なくとも実質的にアモルファス、アモルファス合金を含む組成物、またはこれらの組み合わせである合金を含む請求項1の方法。
【請求項12】
前記温度は約500℃以下である請求項1の方法。
【請求項13】
前記突出部に接触する操作は、突出部に工具で約10秒間以下接触することを含む請求項1の方法。
【請求項14】
アンダーカットの下面を定めるベース部と、
少なくとも部分的にアモルファスである合金を備える突出部とを有するベゼルを定める第1のパーツと、
前記アンダーカットの上面と下面の間に保持され、前記突出部が前記第2のパーツの外端に隣接するように、前記第1のパーツに近接して配置される前記第2のパーツと、
を備え、
前記突出部は前記ベース部から離れるように延び、前記アンダーカットの上面を定めるデバイス。
【請求項15】
前記合金は、バルクアモルファス合金である請求項14のデバイス。
【請求項16】
前記合金は、Zr, Hf, Ti, Cu, Ni, Pt, Pd, Fe, Mg, Au, La, Ag, Al, Mo, Nbまたはこれらの組み合わせを含む請求項14のデバイス。
【請求項17】
前記第2のパーツは、鉄、チタン、銅、ジルコニウム、アルミニウム、タングステン、これらの合金、またはこれらの組み合わせを含む請求項14のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本明細書において引用されたすべての出願、特許、及び公開特許は、参照により全体として本明細書に組み込まれる。
【0002】
バルク凝固アモルファス合金は様々な金属系において用いられている。バルク凝固アモルファス合金は、一般に、溶融温度以上の温度から室温に急冷することにより準備される。一般に、アモルファス構造を得るためには、10
5℃/秒のオーダーの速い冷却速度が必要とされる。結晶化を起こさずに得られたアモルファス構造を維持したままバルク凝固合金を冷却することができる最も小さな冷却速度は、「臨界冷却速度」と呼ばれる。臨界冷却速度よりも速い冷却速度を実現するためには、試料から熱を取り出す必要がある。このように、アモルファス合金から作成される物体の厚みは、「臨界(成形)厚さ」と一般に呼ばれる限界寸法になることが多い。アモルファス合金の臨界厚さは臨界冷却速度を考慮した熱流計算によって得られる。
【0003】
様々な構造成分を接合する従来の方法には、はんだ付け、溶接、またはファスナーでの機械的締結が含まれる。しかしながら、はんだ付けや溶接は、一般に、非常に高温で行う必要があり、しばしば接合されるパーツを損傷させる結果となる。さらに、化学的性質が近似しない成分の接合に使用する場合、はんだ付けは有効ではなくなる。これらの課題は、低軟化温度を有する成分が接合されるとき、特に悪化する。
【0004】
よって、はんだ付けや溶接のような従来の接合方法における問題点を解決して、異なる構造成分を接合する方法を開発する必要がある。
【発明の概要】
【0005】
一実施の形態は、突出部を有する第1のパーツを供給する工程であって、突出部は少なくとも部分的にアモルファスである合金を含むものである工程と、開口部を有する第2のパーツを供給する工程と、突出部が開口部を通過するように第1のパーツに近接して第2のパーツを配置する工程と、第1のパーツ及び第2のパーツを第1の温度で結合して、突出部と開口部とを接合するインターロックに突出部を成形する工程と、を備える方法を提供する。
【0006】
他の実施形態は、アセンブリを供給する工程であって、アセンブリは、突出部を有し、突出部は少なくとも部分的にアモルファスである合金を含む第1のパーツと、開口部を有し、突出部が開口部を通過するように第1のパーツに近接して配置される第2のパーツとを備え、第1のパーツ及び第2のパーツを接合するインターロックに突出部を成形するように、合金のほぼガラス転移温度Tgとほぼ結晶化温度Txの間の温度で加熱したチップで突出部と開口部とを結合させる工程と、を備える方法を提供する。
【0007】
他の実施形態は、突出部を有し、突出部は少なくとも部分的にアモルファスである合金を備える第1のパーツと、開口部を有し、突出部が開口部を通過するように第1のパーツに近接して配置される第2のパーツと、第1のパーツ及び第2のパーツを接合するインターロックとを備えるデバイスを提供する。ここで、突出部と開口部とを相互に連結することで、突出部がインターロックに成形される。
【0008】
他の実施形態は、アセンブリを供給する工程であって、アセンブリは、突出部を有し、突出部は少なくとも部分的にアモルファスである合金を備える第1のパーツと、開口部を有し、突出部のベース部に接触する第2のパーツとを備え、当該突出部を第1のパーツ及び第2のパーツを接合するインターロックに成形するように、突出部と開口部とを合金のほぼガラス転移温度Tgとほぼ結晶化温度Txの間の温度で第2のパーツに向けて突出部を押し付ける工程と、を備える方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1(a)ないし
図1(d)は、一実施形態におけるアモルファス合金を含む突起部を使用して、一実施形態において2つのパーツを接合する一連の処理を示す図である。
【0010】
【
図2】
図2(a)ないし
図2(b)はそれぞれ、一実施形態におけるパーツのアセンブリの断面図及び鳥瞰図並びにインターロックを有するアセンブリの写真を概略的に描いたものである。(a)に示す概略図は、(b)に示す構造体の接合要素及びパーツの拡大図である。
【0011】
【
図3】
図3(a)ないし
図3(b)はそれぞれ、一実施形態において基板の突出部を押し付けてインターロック(又はインターロック形状)に成形するために用いられるチップの概略図である。(b)は押し付け(プレス)工程中の構成部品の他のパーツと関連付けてチップの概略図を示す。
【0012】
【
図4】
図4(a)ないし
図4(c)は、チップに押し付けられてプランジャー形状に成形された第1のパーツの突出部(ノンスケール)を結合する工程を示す図である。当該突出部と当該第1のパーツとが同じものである必要がないことを示すために、当該突出部は当該第1のパーツから分離するように強調して示されている。また、突起部の形状が徐々に変化していく様子が示されている。
【0013】
【
図5】
図5(a)ないし
図5(c)は、本明細書に記載の一実施形態の接合により接合されたステンレス鋼パーツ(SUS)とアモルファス合金パーツ(VIT)を有するアセンブリの概略図を示す。
図5(b)及び
図5(c)は、
図5(a)に示すアセンブリを異なる機械的性質の測定試験用の試料にした実施形態を示す。すなわち、
図5(b)は引張試験用の試料を示し、
図5(c)は剪断試験である。
【0014】
【
図6】
図6(a)及び
図6(b)は一実施形態で形成された接合要素の概略図である。
【0015】
【
図7】
図7(a)及び
図7(b)はそれぞれ、一実施形態の引張試験の試験片及び剪断試験の試験片の写真を示す。各試験片は、少なくとも2つの異なるパーツを有し、アモルファス合金を含む接合要素を含む。一実施形態において、当該試験片の寸法は、
図5(b)及び
図5(c)に示したものとされる。
【0016】
【
図8】本明細書に記載の一実施形態の熱カシメ方法で形成したアセンブリの引張強度測定(
図7(a))の結果及び従来の種々のステンレス−ステンレス接合の比較を示す図。
【0017】
【
図9】本明細書に記載の一実施形態の熱カシメ方法で形成したアセンブリの剪断強度測定の結果及び従来の種々のステンレス−ステンレス接合の比較を示す図。
【0018】
【
図10】
図10(a)ないし
図10(d)は、一実施形態におけるアモルファス合金を含む突起部を使用する一実施形態において2つのパーツを接合する一連の処理を示す。
【0019】
相
本明細書において用語「相」は、熱力学的相図に見られるものを指す。相は、材料の物理的特徴が本質的に一様な空間(例えば熱力学系)領域である。物理的特徴の例は、密度、屈折率、化学組成、及び格子周期性を含む。相の単純な説明は、化学的に一様で、物理的に区別可能で、及び/または、機械的に分離可能な材料の領域であるというものである。例えば、ガラス瓶の中の氷及び水から成る系においては、氷の塊が1つの相であり、水が第2の相であり、当該水の上にある湿度を有する空気が第3の相である。瓶のガラスは、他の別個の相である。相は、二元系、三元系、四元系またはそれ以上の系の溶液とすることができる固溶体、または金属間化合物のような化合物を指すことができる。別の例として、アモルファス相は結晶相とは異なる。
【0020】
金属、遷移金属及び非金属
用語「金属」は、陽性化学元素を指す。本明細書において、用語「元素」は、周期表に記載されている元素を一般的に指す。物理的には、基底状態の金属原子は、占有状態の近くに空状態を有する部分的に充満されたバンドを含む。用語「遷移金属」は、周期表第3族ないし第12族の金属元素のいずれかであり、不完全な内部電子殻を有しており、一連の元素の中で最も高い電気的陽性と最も低い電気的陽性との間の遷移リンクとして機能するものを指す。遷移金属は、複数の原子価、着色化合物、安定した錯イオンを形成能力によって特徴付けられる。「非金属」という用語は、電子を失って正イオンを形成する能力を有していない化学元素を指す。
【0021】
用途に応じて、任意の適切な非金属元素、またはその組合せを使用することができる。合金組成は、例えば少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、またはそれ以上の非金属元素のような複数の非金属元素を含むことができる。非金属元素は、周期表において13〜17族に見られる任意の元素とすることができる。例えば、非金属元素は、F, CI, Br, I, At, 0, S, Se, Te, Po, N, P, As, Sb, Bi, C, Si, Ge, Sn, Pb,及びBのいずれかとすることができる。時折、非金属元素は、13〜17族内の特定の半金属(例えば、B, Si, Ge, As, Sb, Te,及びPo)を指すものとすることができる。一実施形態では、非金属元素は、B, Si, C, P,またはこれらの組み合わせを含むことができる。従って、例えば、合金組成は、ホウ化物、炭化物、またはその両方を含むことができる。
【0022】
遷移金属元素は、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀、ラザホージウム、ドブニウム、シーボーギウム、ボーリウム、ハッシウム、マイトネリウム、ウンウンニリウム、ウンウンウニウム及びウンウンビウムのいずれかとすることができる。一実施形態では、遷移金属元素を含むBMGは、Sc, Y, La, Ac, Ti, Zr, Hf, V, Nb, Ta, Cr, Mo, W, Mn, Tc, Re, Fe, Ru, Os, Co, Rh, Ir, Ni, Pd, Pt, Cu, Ag, Au, Zn, Cd及びHgの少なくとも一つを有することができる。用途に応じて、任意の適切な遷移金属元素、またはこれらの組合せを使用することができる。合金組成は、例えば少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、またはそれ以上の遷移金属元素のような複数の遷移金属元素を含むことができる。
【0023】
本明細書に記載の合金または合金「試料」または「試験体」合金は、任意の形状や大きさを有することができる。例えば、合金は、球状、楕円、線状、棒状、シート状、フレーク状、又は不規則な形状のような形状を有することができる粒子状の形状を有することができる。微粒子は、任意の適切な大きさを有することができる。例えば、微粒子は、約5ミクロン〜約80ミクロンの間のような、約10ミクロン〜約60ミクロンの間のような、約15ミクロン〜約50ミクロンの間のような、約15ミクロン〜約45ミクロンの間のような、約20ミクロン〜約40ミクロンの間のような、約25ミクロン〜約35ミクロンの間のような、約1ミクロン〜約100ミクロンの間の平均直径を有することができる。例えば、一実施形態では、微粒子の平均直径は約25ミクロン〜約44ミクロンである。いくつかの実施形態では、ナノメートル範囲のようなより小さな微粒子、または例えば100ミクロンより大きいより大きな微粒子を使用することができる。
【0024】
合金試料または試験片もまたより大きな寸法とすることができる。例えば、インゴット、電子デバイスのハウジング/ケーシング、またはミリメートル、センチメートル、またはメートル範囲の寸法を有する構造成分の部分としてバルク構造成分を使用することができる。
【0025】
固溶体
用語「固溶体」は、溶液の固体形態を指す。用語「溶液」は、固体、液体、気体、またはこれらの組み合わせであり得る2つ以上の物質の混合物を指す。混合物は均質または不均質であることができる。「混合物」という用語は、互いに組み合わせることができるとともに、分離可能な2以上の物質の組成物である。一般に、2つ以上の物質は、化学的に互いに結合されない。
【0026】
合金
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の合金粉末の組成物は、完全に合金化することができる。一実施形態では、「合金」は、均質な混合物又は2種以上の金属の固溶体を指し、一方の原子が他の原子との間の格子間の位置に置き換わるか、または占有するものであり、例えば、黄銅は、亜鉛と銅の合金である。合金は、複合体とは対照的に、金属マトリクスの1以上の化合物のような、金属マトリクスの1以上の元素の部分的または完全な固溶体を指す。本明細書において「合金」という用語は、単一の固相微細構造を与える完全な固溶体合金及び2以上の相を与える部分溶液の両方を指す。
【0027】
このように、完全に合金化された合金は、固溶体相、化合物相、あるいはその両方で、均一な成分分布を持つことができる。本明細書において使用する「完全に合金化された」という用語は、誤差の許容範囲内でわずかな変動を考慮するものである。例えば、そのような合金化は、少なくとも95%の合金化のような、少なくとも99%の合金化のような、少なくとも99.5%の合金化のような、少なくとも99%の合金化のような、少なくとも90%の合金化を指すことができる。本明細書においてパーセンテージは、文脈に応じて、容積パーセント又は重量パーセントのいずれかを指すことができる。これらのパーセントは、合金の一部ではない組成物または相の点に関して不純物でバランスさが保たれている。
【0028】
非晶質または非結晶性固体
「アモルファス」又は「非結晶固体」は、結晶の特徴である格子周期性を持たない個体である。本明細書で使用するように、「アモルファス固体」は、加熱すると軟化し、ガラス転移相を介して液体状に変換するアモルファス固体である「ガラス」を含む。一般に、アモルファス材料は、結晶の長距離秩序はないが、化学結合の性質により、原子長のオーダーの短距離秩序を有することができる。アモルファス固体と結晶固体とは、X線回折や透過電子顕微鏡等の構造解析技術によって決定される格子周期性に基づいて区別され得る。
【0029】
「規則」及び「不規則」という用語は、多粒子系における対称性や相関関係の存在又は不存在を示す。「長範囲規則」及び「短範囲規則」という用語は、材料中における規則を長さスケールで区別する。
【0030】
固体における規則の厳密な形態は格子周期性である。格子周期性があるときには、所定のパターンが何度も繰り返され、並進的に不変の空間タイル(translationally invariant tiling of space)を形成する。この点が、結晶の定義的な特徴である。取りえる対象性は、14のブラベー格子と230の空間群に分類される。
【0031】
格子周期性は、長範囲規則を暗示する。1つのセルについてのみ既知な場合にも、並進対称性により、任意の距離におけるすべての原子の位置を正確に予測することができる。例えば完全に決定論的なタイリングを有するが格子周期性は持たない準結晶におけるような例外を除けば、逆も成り立つ。
【0032】
長範囲規則によって、同じ試料の遠隔にある部分が相関性のある振る舞いをする物理系が特徴づけられる。このことは、相関関数、すなわち次のスピン−スピン相関関数として表される。G(x,x')=<s(x),s(x')>
【0033】
上述の関数において、sはスピン量子数であり、xは特定の系における距離関数である。この関数は、x = x'のときに単位元となり、距離| x - x'| が増加するにつれて減少する。典型的には、この関数は、距離が遠く離れている場合にはゼロまで減衰し、その系は不規則と考えられるようになる。しかしながら、距離|x - x'|が大きな場合に相関関数が一定値に減衰する場合には、その系は長範囲規則を有しているということができる。当該関数が距離のべき乗でゼロに減衰する場合には、準長範囲規則と呼ぶことができる。| x - x' |の大きな値を構成するものは相対的なものであることに留意されたい。
【0034】
挙動を決定する一部のパラメータが時間とともに変化しないランダム変数である場合(すなわち、凍結している場合)、系は凍結不規則性を示すといわれる。スピングラスがこのような凍結しているものの例である。これは、ランダム関数が自ら変化できる焼きなましによる不規則性とは反対である。本明細書における実施形態は、凍結不規則性を有する系を含む。
【0035】
本明細書中に記載の合金は、結晶質、部分的に結晶質、アモルファス、または実質的にアモルファスであることができる。例えば、合金試料/試験体は、ナノメートル及び/またはマイクロメートル範囲の大きさを有する粒子/結晶とともに、少なくともある程度の結晶性を含むことができる。または、合金は、実質的にアモルファスであり、例えば完全にアモルファスである。一実施形態において、合金粉末の組成物は、少なくとも実質的にアモルファスではなく、例えば、実質的に結晶性であり、または、完全に結晶性である。
【0036】
一実施形態では、他のアモルファス合金中の結晶または複数の結晶の存在は、その中の「結晶相」と解釈することができる。合金の結晶化度(または、いくつかの実施形態では略して「結晶化度」)は、合金中に存在する結晶相の量を指すことができる。この結晶化度は、例えば、合金中に存在する結晶の割合を指すことができる。割合は、文脈に応じて、体積分率又は重量分率のいずれかを指すことができる。アモルファス合金がどの程度「アモルファス」であるかの指標は、非晶質性(amorphicity)とすることができる。この非晶質性は、結晶化度の観点から測定することができる。例えば、一実施形態では、低い結晶化度の合金は、非晶質性度が高いといえる。一実施形態では、例えば、60体積%の結晶相を有する合金は、40体積%の非晶質相を有することができる。
【0037】
アモルファス合金またはアモルファス金属
「アモルファス合金」は、50体積%より多いアモルファス含有量、好ましくは90重量%より多いアモルファス含有量、より好ましくは95重量%より多いアモルファス含有量、最も好ましくは99重量%よい多くほとんど100重量%のアモルファス含有量を有する合金である。上述したように、非晶質性の高い合金は、結晶化度が低いことと同等であることに留意されたい。アモルファス金属は、不規則な原子スケール構造を有するアモルファス金属材料である。結晶性であり高度に規則化された原子配列を有する大部分の金属とは対照的に、アモルファス合金は非結晶性である。このような無秩序な構造が冷却中に液体状態から直接製造された材料は、「ガラス」と呼ばれることがある。従って、アモルファス金属は、一般に「金属ガラス」または「ガラス金属」と呼ばれる。一実施形態において、「バルク金属ガラス」(「BMG」)は、微細構造が少なくとも部分的にアモルファスである合金を指すことができる。しかしながら、急速冷却以外にも、アモルファス金属を生成するための方法が複数ある。例えば、物理蒸着、固相反応、イオン照射、メルトスピンニング、及び機械的合金化がその例である。アモルファス合金は、作成方法によらず、一つの種類とすることができる。
【0038】
アモルファス金属は、様々な急速冷却法により作成され得る。例えば、アモルファス金属は、回転する金属ディスクに溶融金属をスパッタすることにより作成されえる。1秒間に数100万度のオーダーの急速冷却は、結晶が形成されるには速すぎるので、材料がガラス状態に「閉じ込められる」。また、アモルファス金属/合金は、厚膜のアモルファス構造、例えばバルク金属ガラスを形成するために十分に低い臨界冷却速度においても作成され得る。
【0039】
「バルク金属ガラス」(「BMG」)、バルクアモルファス合金及びバルク凝固アモルファス合金という用語は、本明細書において相互に交換可能に用いられている。これらは、少なくともミリメートル範囲内の最小寸法を有するアモルファス合金を指す。この寸法は、少なくとも約0.5mmであってもよく、例えば、少なくとも約1mm、少なくとも約2mm、少なくとも約4mm、少なくとも約5mm、少なくとも約6mm、少なくとも約8mm、少なくとも約10mm、又は少なくとも約12mmとすることができる。形状に応じて、この寸法は、直径、半径、厚さ、幅、長さ等を指すことができる。BMGはまた、センチメートル範囲の少なくとも一つの寸法を有する金属ガラスとすることができ、この寸法は、例えば、少なくとも約1.0cm、少なくとも約2.0cm、少なくとも約5.0cm、又は少なくとも約10.0cmとすることができる、。一部の実施形態では、BMGは、少なくとも一つのメートルの範囲の寸法を有することができる。BMGは、金属ガラスとの関連として、上述した任意の形状または形態とすることができる。従って、本明細書に記載のBMGはいくつかの実施形態において、一つの重要な態様において、従来の堆積技術によって作られた薄膜とは異なっていてもよい。前者は後者よりもはるかに大きい寸法とすることができる。
【0040】
アモルファス金属は、純粋な金属ではなく合金であってもよい。合金は、大きく異なる寸法の原子を含むことができ、溶融状態において低自由体積(それゆえに大きさ次第で他の金属及び合金より高い粘度)になる。粘度は、原子が規則的な格子を形成する程度に動くことを妨げる。材料構造は、冷却時の低収縮及び塑性変形のしにくさに繋がり得る。いくつかの場合における結晶材料の弱点である粒界が存在しないため、例えば、磨耗及び腐食に強い。一実施形態では、アモルファス金属は、理論的にはガラスであるが、ガラス酸化物やセラミックスよりも強固で壊れにくい。
【0041】
アモルファス材料の熱伝導性は、対応する結晶の熱伝導性よりも低いことがある。より緩慢な冷却によってアモルファス構造を形成するために、合金は、3つ以上の構成元素から成るものであってもよい。これにより、結晶ユニットが複雑になってポテンシャルエネルギーが高くなり、結晶が形成されにくくなる。アモルファス合金の形成は、合金の構成元素の組成等の複数の要因によって変わり得る。この複数の要因には、構成元素の原子半径(高充填密度及び低自由体積を実現するために原子半径が12%以上異なっていることが好ましい)、並びに、構成元素の組み合わせの混合、結晶核形成の阻害、及び溶融金属が過冷却状態にある時間の延長による負の熱がある。しかしながら、アモルファス合金の形成は、多くの異なる変数に基づくものであり、合金組成がアモルファス合金を形成するか否かを事前に決定することは難しい。
【0042】
例えばホウ素、ケイ素、リン及びこれら以外のガラスの構成材料と磁性金属(鉄、コバルト、ニッケル)のアモルファス合金は、低飽和保磁力及び高電気抵抗を有する磁性体になることがある。高抵抗のせいで、交番磁界にさらされたときに、渦電流による損失が小さくなる。この性質は、例えば、変圧器の磁心に適している。
【0043】
アモルファス合金は、様々な潜在的に有用な特徴を有している。具体的には、アモルファス合金は、同様の化学組成の結晶合金よりも強固であり、結晶合金よりも大きな可逆(「弾性」)変形を維持することができる。アモルファス金属の強さは、その非結晶構造に直接由来する。非結晶構造は、結晶合金の強さを制限する欠陥(転位等)を有しない。例えば、Vitreloy(商標)として知られている新しいアモルファス金属は、高品位チタンの2倍近くの引っ張り強さを有する。いくつかの実施形態では、常温金属ガラスは、延性がなく、張力がかかると突然機能しなくなる傾向があり、差し迫った障害が明らかでないとして、信頼性が重大な用途への材料適用性を制限する。そこで、この課題を解決するために、延性結晶性金属の樹枝状粒子又は繊維を含む金属ガラスマトリックスを有する金属マトリックス複合材料を使用することができる。あるいは、脆化を引き起こす傾向がある元素(例えば、Ni)における低BMGを使用することができる。例えば、NiフリーBMGは、BMGの延性の改善に使用することができる。
【0044】
バルクアモルファス合金の他の有益な特徴は、合金がまさにガラスであることであり、言い換えると、加熱により柔らかくなり流動することである。これにより、ポリマーとほぼ同じ方法で、例えば射出成形などによって、容易に加工することができる。その結果、アモルファス合金は、スポーツ用品、医療機器、電子部品及び電子機器、並びに薄膜の作成に用いられえる。アモルファス金属の薄膜は、高速酸素燃料技術によって保護コーティングとして堆積させることができる。
【0045】
材料は、アモルファス相、結晶相、又はその両方を有することができる。アモルファス相及び結晶相は、同じ化学組成を有するが、微細構造のみが異なる。すなわち、一方がアモルファスで他方が結晶である。一実施形態の微細構造とは、25Xの倍率以上で顕微鏡によって明らかにされる材料の構造を指す。または、2つの相は、異なる化学組成及び微細構造を有することもできる。例えば、組成は、部分的にアモルファスであってもよく、実質的にアモルファスであってもよく、または完全にアモルファスであってもよい。
【0046】
上述のように、非晶質性の程度(結晶性の程度の逆)は、合金中に存在する結晶の割合で測定することができる。程度は、合金中に存在する結晶相重量分率の体積分率を指すことができる。部分的にアモルファスな組成は、少なくとも約5vol%、例えば少なくとも約10vol%、少なくとも20vol%、少なくとも約40vol%、少なくとも約60vol%、少なくとも約80vol%、少なくとも約90vol%がアモルファス相である組成を指すことができる。「実質的に」及び「約」という用語は、本明細書の別の部分で定義される。したがって、実質的にアモルファスな組成は、少なくとも約90vol%、少なくとも約95 vol %、少なくとも98vol%、少なくとも約99vol%、少なくとも約99.5vol%、少なくとも約99.8vol%、少なくとも約99.9vol%のうち一つを指すことができる。一実施形態において、実質的にアモルファスな組成は、不可避な微量の結晶層を有していてもよい。
【0047】
一実施形態において、アモルファス合金組成物は、アモルファス相に関して均質な(homogeneous)ものであってもよい。組成物において均一な(uniform)物質は、均質(homogeneous)であり、不均一な(heterogeneous)物質とは対照的である。組成物という用語は、化学組成物及び/又は物質中の微細構造を意味する。物質の体積を半分にしたときに半分にされた両方の部分が実質的に同じ組成を有しているときに、当該物質は均質であるという。例えば、粒子懸濁液は、当該粒子懸濁液の体積を半分にしたときに半分にされた両方の部分が実質的に同じ粒子の体積を有しているときに、均質である。しかしながら、顕微鏡で個別の粒子を観察することが可能な場合もある。当該空気中の粒子、気体、液体は、個別に分析可能であり、空気から分離することもできるが、様々な成分が均等に分散している空気も他の均質な物質の例である。
【0048】
アモルファス合金に関して均質な組成は、微細構造全体に実質的に均一に分散したアモルファス相を有する組成を指す。当該組成は、換言すれば、巨視的には、組成全体に実質的に均一に分散したアモルファス合金を有する。他の実施形態において、当該組成は、非アモルファス相を内部に有するアモルファス相を有する組成物であってもよい。非アモルファス相は、結晶又は複数の結晶であってもよい。結晶は、任意の形状、例えば、球形、楕円形、ワイヤ状、棒状、シート状、フレーク状、又は不整形の粒子の形態をとることができる。一実施形態において、結晶は、樹枝状の形態を有していてもよい。例えば、少なくとも部分的にアモルファスである複合組成物は、アモルファス相マトリクス中に分散した樹状突起状の結晶相を有することができる。分散は、均一または不均一とすすることができる。アモルファス相と結晶相は、同一または異なる化学組成物を有することができる。一実施形態において、アモルファス相と結晶相とは、同じ化学組成を有する。他の実施形態では、結晶相は、BMGの相よりも高い延性を有していてもよい。
【0049】
本明細書において説明される方法は、任意の種類のアモルファス合金に適用可能である。同様に、本明細書において組成物又は物品の構成物質として説明されるアモルファス合金は、任意の種類のものである。アモルファス合金は、Zr, Hf, Ti, Cu, Ni, Pt, Pd, Fe, Mg, Au, La, Ag, Al, Mo, Nbの元素又はこれらの組み合わせを含むことができる。すなわち、合金は、その化学式又は化学組成内に、これらの元素の組み合わせを含むことができる。これらの元素は、様々な重量百分率又は体積百分率で存在し得る。例えば、鉄「系」合金は、わずかではない重量%の鉄の存在を有する合金を指すことができ、重量%は、例えば、少なくとも約40重量%のような、少なくとも約50重量%のような、少なくとも約60重量%のような、少なくとも約80重量%のような、少なくとも約20重量%とすることができる。また、一実施形態において、上述した百分率は、重量百分率ではなく体積百分率であってもよい。したがって、アモルファス合金は、ジルコニウム系、チタン系、プラチナ系、パラジウム系、金系、銀系、銅系、鉄系、ニッケル系、アルミニウム系、モリブデン系等であってもよい。一部の実施形態において、合金又は合金を含む組成物は、実質的にニッケルフリー、アルミニウムフリー、ベリリウムフリー、又はこれらの組み合わせであってもよい。一部の実施形態において、合金又は合金を含む組成物は、完全にニッケルフリー、アルミニウムフリー、ベリリウムフリー、又はこれらの組み合わせであってもよい。
【0050】
例えば、アモルファス合金は、(Zr, Ti)
a(Ni, Cu, Fe)
b(Be, A1, Si, B)
cという化学式で表され得る。ここで、a、b、cは、重量百分率又は原子百分率を表す。一実施形態において、原子百分率で、“a”は30〜75、“b”は5〜60、“c”は0〜50の範囲にある。また、アモルファス合金は、(Zr, Ti)
a(Ni, Cu)
b(Be)
cという化学式で表され得る。ここで、a、b、cは、重量百分率又は原子百分率を表す。一実施形態において、原子百分率で、“a”は40〜75、“b”は5〜50、“c”は5〜50の範囲にある。また、アモルファス合金は、(Zr, Ti)
a(Ni, Cu)
b(Be)
cという化学式で表され得る。ここで、a、b、cは、重量百分率又は原子百分率を表す。一実施形態において、原子百分率で、“a”は45〜65、“b”は7.5〜35、“c”は10〜37.5の範囲にある。また、アモルファス合金は、(Zr)
a(Nb, Ti)
b(Ni, Cu)
c(A1)
dという化学式で表され得る。ここで、a、b、c、dは、重量百分率又は原子百分率を表す。一実施形態において、原子百分率で、“a”は45〜65、“b”は0〜10、“c”は20〜40、“d”は7.5〜15の範囲にある。上述した合金系の一例示実施形態は、米国カリフォルニア州のLiquidmetal Technologies社によって製造されているVitreloy-1及びVitreloy-101等の商品名Vitreloy(商標)で知られる、Zr-Ti-Ni-Cu-Be系アモルファス合金である。アモルファス合金の一部の例が表1に示されている。
【0051】
アモルファス合金は、(Fe, Ni, Co)系合金等の鉄合金であってもよい。そのような組成の例は、米国特許第6,325,868号、第5,288,344号、第5,368,659号、第5,618,359号、及び第5,735,975、Inoue et. al., Appl. Phys. Lett., Volume 71,p 464(1997)、Shen et.al., Mater. Trans., JIM, Volume 42, p 2136(2001))などの刊行物、並びに日本特許出願2001-26277(特開2001-303218として公開)に開示されている。組成物の一例は、Fe
72Al
5Ga
2P
11C
6B
4である。他の例は、Fe
72Al
7Zr
10Mo
5W
2B
15である。本明細書においてコーティングに使用できる他の鉄系合金系は、米国特許出願公開第2010/0084052号に記載されており、このアモルファス合金は例えば、マグネシウム(1ないし3原子%)、イットリウム (0.1ないし10 原子%)及びシリコン(0.3ないし3.1 原子%) を括弧内に与えられた組成の範囲で含み、さらに、以下の元素を括弧内に与えられた組成の特定された範囲で含む。クロム (15ないし20原子%)、モリブデン(2ないし15原子%)、タングステン(1ないし3原子%)、ホウ素 (5 ないし16原子%)、炭素(3ないし16原子%)及び残部鉄。
【0052】
前述のアモルファス合金系はさらに、Nb、Cr、V、及びCoを含む追加的な遷移金属元素等追加的な元素を含むことができる。これらの追加的な元素は、約30wt%以下、例えば、約20wt%以下、約10wt%以下、約5wt%以下だけ存在することができる。一実施形態では、追加的な、任意の元素は、少なくともコバルト、マンガン、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、タングステン、イットリウム、チタン、バナジウムおよびハフニウムの少なくとも1つであり、炭化物を形成するとともに、耐摩耗性および耐食性を向上させる。更なる追加的な元素は、融点を低下させるために、リン、ゲルマニウム及びヒ素を、合計で約2%を限度とし、好ましくは1%未満を含んでもよい。他の場合には、付随的な不純物は、約2%、好ましくは0.5%未満であるべきである。
【0053】
一部の実施形態において、アモルファス合金を有する組成物は、少量の不純物を含むことができる。不純物元素は、機械的性質(例えば、硬度、強度、破壊機構等)の改善及び/又は耐食性の改善等の組成物の性質の変更のために意図的に追加されてもよい。また、不純物は、処理及び製造における副生成物等の不可避な不純物であってもよい。これらの不純物は、約10wt%以下、例えば、約5wt%以下、約2wt%以下、約1wt%以下、約0.5wt%以下、約0.1wt%以下だけ存在してもよい。一実施形態において、上述した百分率は、重量百分率ではなく体積百分率であってもよい。一実施形態において、合金標本/組成物は、本質的にアモルファス合金から成る(少量の不可避不純物のみを含む)。一実施形態において、組成物は、アモルファス合金から成る(観測可能な不純物は含まない)。
【0054】
アモルファス合金系は、複数の望ましい性質を示す。例えば、これらは高硬度及び/または硬度を有することができ、鉄系アモルファス合金は、特に高い降伏強度及び硬度を有することができる。一実施形態において、アモルファス合金は、約200ksi以上、例えば、250ksi以上、400ksi以上、500ksi以上、600ksi以上の降伏強さを有し得る。硬度に関して、一実施形態において、アモルファス合金は、測定荷重100mgで約400ビッカースよりも大きい硬度、例えば、測定荷重100mgで約450ビッカースよりも大きい硬度、測定荷重100mgで約600ビッカースよりも大きい硬度、測定荷重100mgで約800ビッカースよりも大きい硬度、測定荷重100mgで約1000ビッカースよりも大きい硬度、測定荷重100mgで約1100ビッカースよりも大きい硬度、測定荷重100mgで約1200ビッカースよりも大きい硬度を有することができる。アモルファス合金は、非常に高い弾性歪限界、例えば、少なくとも約1.2%、少なくとも約1.5%、少なくとも約1.6%、少なくとも約1.8%、少なくとも約2.0%等、を備え得る。アモルファス合金は、特に、例えば、Ti系合金及びFe系合金の場合には、高い比強度を示し得る。アモルファス合金は、特に、例えば、Zr系合金及びTi系合金の場合には、高い耐食性及び耐候性を有する。
【表1】
【0055】
特性温度
アモルファス合金は、ガラス転移温度Tg、結晶化温度Tx、及び溶融温度Tmを含む複数の特性温度を有する。一実施形態では、Tg、Tx、及びTmは、計数値の代わりに温度範囲を指すことができる。 よって、いくつかの実施形態では、ガラス転移温度、結晶化温度、及び溶融温度という用語は、それぞれ、ガラス転移温度範囲、結晶化温度範囲、及び溶融温度範囲と交換可能に使用される。これらの温度は、様々な技術で測定可能なことが広く知られている。その一つは、示差走査熱量測定法(DSC)である。示差走査熱量測定法は、例えば、20℃/minの加熱速度で実行され得る。
【0056】
一実施形態においては、温度が上昇するにつれて、アモルファス合金のガラス転移温度Tgが、アモルファス合金が柔らかくなり原子が移動可能となる温度(又は一部の実施形態においては温度範囲)を示すようになる。アモルファス合金は、ガラス転移温度以上で、当該温度以下の場合よりも高い熱容量を有するので、これにより転移によってTgを特定することができる。温度が上昇すると、アモルファス合金は、結晶が形成され始める結晶化温度Txに到達し得る。一部の実施形態における結晶化は、一般に、発熱反応であるため、結晶化はDSC曲線における窪みとして観測され、Txは当該窪みの最小温度として決定され得る。VitreloyについてのTxの一例は、例えば、約500℃であり、プラチナ系アモルファス合金のTxは、例えば、約300℃である。他の金属系については、Txはこれより高い場合もあるし低い場合もある。Txは一般にTmよりも低いので、Txにおいては一般に、アモルファス合金は溶融中か既に溶融している。
【0057】
最後に、温度が上昇し続けると、溶融温度Tmにおいて、結晶の溶融が始まる。溶融は吸熱反応であり、結晶の溶融のために熱が使用され、結晶が溶融して液相になるまでごく僅かな温度の変化しか起こらない。したがって、溶融転移は、DSC曲線のピークに相当し、Tmは、当該ピークの最大温度として観測され得る。非晶質合金については、TxとTgの間の温度差ATが、超臨界領域(すなわち、「超臨界液体領域」、または「超臨界領域」)を示すために使用され、アモルファス合金の少なくとも一部は、結晶質合金とは対照的に、アモルファス合金の特性を保するとともに示す。アモルファス合金の性質を示す部分の割合は様々であり、例えば、少なくとも40wt%、少なくとも50wt%、少なくとも60wt%、少なくとも70 wt%、少なくとも80 wt%、少なくとも90wt%、少なくとも99wt%であってもよい。またこれらの割合は、重量%の代わりに体積%とすることができる。
【0058】
アモルファス合金の形成
合金組成物内のアモルファス相(すなわち、アモルファス合金)は、任意の好適な公知の方法により形成され得る。一実施形態において、成形される合金組成物を原料として作成する方法は、合金チャージ(例えば合金元素の混合物)を加熱して当該チャージを溶融させ、次に当該合金が少なくとも部分的にアモルファスとなるように当該加熱されたチャージを当該合金の過冷却液体域に急冷する工程を含むことができる。追加的な工程は、(1)合金チャージを提供する工程、(2)当該チャージの溶融温度Tmより高い第1の温度まで当該チャージを加熱する工程と、(3)当該チャージのガラス転移温度Tgよりも低い第2の温度に当該加熱されたチャージを急冷し、少なくとも部分的にアモルファス状の合金組成物を形成する工程と、を含むことができる。形成された組成物は、次に本明細書に記載の接合方法を受ける。最終成形品は、アモルファス合金組成物の臨界成形厚さよりも大きい寸法を少なくとも1つ有することができる。
【0059】
原料中の合金は、任意のものを用いることができ、当該合金は、アモルファスもしくは結晶又はその両方であってもよい。一実施形態において、当該原料は、少なくとも部分的にアモルファスであってもよく、例えば、少なくとも実質的にアモルファスであってもよく、完全にアモルファスであってもよい。他の実施態様においては、原料は、実質的に非アモルファスであり、例えば、少なくとも部分的に結晶性であり、少なくとも実質的に結晶性であり、又は完全に結晶性である。
【0060】
合金チャージの代わりに、合金原料を使用することができる。原料は、少なくとも部分的にアモルファスである合金を有することができる。原料は、任意の寸法及び形状を取りえる。例えば、原料は、シート状、フレーク状、棒状、ワイヤー状、粒子状、又はこれらの間の任意の形状を取ることができる。アモルファス合金を結晶合金から形成する技術は公知であり、本明細書では公知の任意の方法を用いて組成物を成形することができる。様々な形成方法を本明細書において説明したが、他の類似の形成方法又はそれらの組み合わせを用いることもできる。一実施形態において、原料は、原料中の合金の溶融温度Tmよりも高い第1の温度に加熱され、当該合金中の結晶が溶融される。加熱及び溶融された原料は、次に、当該合金のTgよりも低い第2の温度に急激に冷却(又は「急冷(quench)」)され、上記の組成物が形成される。当該組成物は、その後、配置及び/又は成形のために加熱される。冷却速度や加熱される温度は、時間‐温度‐変態(TTT)線図を用いた方法等の公知の手法により決定され得る。提供されたシート状、弾丸状、又は任意の形状の原料は、小さな臨界成形厚さを有するが、最終パーツは、当該臨界成形厚さよりも厚い又は薄い厚さを有することができる。
【0061】
インターロックの成形
アモルファス合金は、その望ましい特性のために、様々な用途で使用することができる。例えば、アモルファス合金を含有する組成物を用いて少なくとも2つの構成要素間の(機械的な)インターロックを成形するために使用することができる。本明細書では「成形」は、組成物を所望のまたは所定の形状とし、例えばロック機構を提供することを含む。後述するように、成形することには、熱塑性成形、熱塑性押出、キャスティング、はんだ付け、オーバーモールド、及びオーバーキャスティングを含むがこれらには限られない。
【0062】
パーツ
一実施形態では、アモルファス合金を有する組成物は、少なくとも2つの分離したパーツを結合する接合機構を成形するために使用することができる。この接合機構は、例えば機械的インターロックである。本明細書に記載の方法を使用して2以上のパーツを結合することができる。
図1(a)ないし
図1(d)は、一実施形態におけるこのような処理のフローチャートの図を示している。
図1(a)ないし
図1(d)に示すように、この例示的な結合方法は、突出部を有する第1のパーツを供給する工程であって、突出部は少なくとも部分的にアモルファスである合金を含むものである工程と、開口部を有する第2のパーツを供給する工程と、突出部が開口部を通過するように第1のパーツに近接して第2のパーツを配置する工程と、突出部と開口部とを第1の温度で結合して、当該突出部を第1のパーツ及び第2のパーツを接合するインターロックに成形する工程と、により特徴付けることができる。
図1(a)ないし
図1(d)は、単に例示を目的とするものであり、これとは異なる実施形態が存在することに留意すべきである。例えば、第1のパーツは、第2のパーツの上に配置することができ、これにより
図1(d)に示す図を180°反転することができる。
【0063】
以下に説明するように結合されるパーツは、用途に応じて、任意の適切な材料から構成することができる。例えば、パーツの各々又は少なくとも1つは、結晶の、部分的にアモルファスの、実質的にアモルファスの、又は完全にアモルファスの材料を含むことができる。パーツは、接合要素(例えば機械的インターロック)と同じ微細構造または異なる微細構造を有することができる。例えば、これらのパーツはいずれも、アモルファス、実質的にアモルファス、部分的にアモルファス、又は結晶であってもよく、互いに異なる微細構造を有するものであってもよい。上述のように、パーツのアモルファス組成物は、均質なアモルファス合金又はアモルファス合金を有する組成物であってもよい。一実施形態において、当該組成物には、複数の結晶等の結晶相を囲むアモルファスマトリックス相が含まれる。結晶は、樹枝状形状を含む任意の形状をとることができる。
【0064】
複数のパーツの材料は、同じでもよく異なっていてもよい。例えば複数のパーツは、同じ化学組成を有しているが異なる結晶性の程度を有するものであってもよい。または、複数のパーツは、異なる化学的性質を有していてもよい。他の実施形態においては、複数のパーツは、異なる特性温度(上述のような)を有していてもよい。パーツは、用途に応じて、電子機器のパーツ、又は、本明細書に記載の接合機構を有する利点を利用可能な任意の種類のパーツでありえる。電子デバイスについては、以下でさらに詳細に説明する。
【0065】
第1のパーツは、
図1(a)に示すように、突出部を有するものとすることができる。突出部(または凸部)は、少なくとも部分的にアモルファスである合金を有する組成物を含むことができる。いくつかの実施形態では、第一の部分は「雄構造」とも呼ばれる。この合金は、例えば少なくとも実質的に非晶質なものとすることができ、例えば完全にアモルファスとすることができる。一実施形態における合金は、少なくとも実質的にアモルファスな合金、アモルファス合金を含む複合体、又はこれらの組み合わせを含む。突出部は、任意の形状または大きさを有することができる。例えば、突出部は、弾丸形状、シート形状、プレート形状、円筒形状、立方体形状、長方形の箱形状、球形状、楕円形状、多面体形状、もしくは不製形形状、又はこれらの中間の形状であってもよい。
【0066】
一実施形態では、合金はBMGでありうる。合金は、上述した合金のうち任意のものとすることができる。例えば、合金は、Zr, Hf, Ti, Cu, Ni, Pt, Pd, Fe, Mg, Au, La, Ag, Al, Mo, Nb又はこれらの組み合わせを含むことができる。いくつかの実施形態では、第1のパーツは、基材として作用することができる。突出部と第一のパーツの残部は、同じ材料又は異なる材料を含むことができる。例えば、一実施形態では、突起部のみが少なくとも一部がアモルファスである合金を含み、第1のパーツの残部分は結晶質合金を含む。あるいは、突出部及び第1のパーツの残部の両方は、少なくとも一部がアモルファスである合金を含む。同様に、突出部と第一のパーツの残部は、同じ元素又は異なる元素を含むことができる。例えば、突出部は亜鉛系合金であり、残部は鉄系合金とすることができる。突出部は、任意の取り付け機構(例えば、はんだ付け)によって第1のパーツの残部に導入されることができ、または突出部は、第1のパーツの作成時にすでに第1のパーツの一部に形成されていてもよい。
【0067】
第2のパーツは、
図1(B)に示すように、開口部を有することができる。したがって、一部の実施形態では、第2のパーツは「雌構造」と呼ばれることがある。第2のパーツは、任意の適切な材料を含むことができる。第2のパーツは、金属、合金または化合物を含むことができる。一実施形態では、第2のパーツは、鉄、チタン、銅、ジルコニウム、アルミニウム、タングステン、これらの合金、またはこれらの組み合わせを含むことができる。第2のパーツとして使用することができる鉄合金は、例えば、ステンレス鋼、工具鋼等である。一般的に、第2のパーツは、少なくとも突出部の成形(例えば、熱可塑性形成)に使用される温度に耐えることができる任意の材料を含むことができる。一実施形態において、第2のパーツは、突出部の合金の結晶化温度よりも高い結晶化温度または溶融温度を有することができる。
【0068】
第2のパーツは、任意の寸法または形状のプレートとすることができる。あるいは、第2のパーツ(及び/又は第1のパーツ)は、プレート形状を有する必要はなく、平坦である必要すらない。例えば、第1のパーツの突出部と第2のパーツの開口部とを結合することができる限り、取り囲むための配置は、例えば、平面状(例えばプレート状)、ドーム状、スプライン状、不連続状(discontinuity)(すなわち隅)等のよう任意の形状とすることができる。一実施形態では、第1および第2のパーツは、「同心」であってもよく、互いから(例えば一定間隔で)オフセットされていてもよい。しかしながら、このことは常に成り立つものでなくともよく、例えば、接触/インターロックは、パーツのより大きな突出部に形成されてもよい。一部の実施形態では、第2のパーツは、第1のパーツに接合されるデバイスの構成要素、又はその逆である。開口部は、第2のパーツのどこにあってもよい。
【0069】
第2のパーツの開口部は、第2のパーツのどこにあってもよい。開口部は、第2のパーツのどこにあってもよい。開口部は、任意の形状または寸法を有することができる。例えば、開口部は、円形、楕円形、正方形、長方形、又は不規則形状を有することができる。好ましくは、開口部は、二つのパーツの合わせを容易にするために、第1のパーツの突出部と同様の形状を有している。開口部の大きさは、第1のパーツの突出部の大きさと同様の大きさであることが好ましいが、これには限定されない。一実施形態おける開口部の大きさは、突出部の大きさとほぼ同じである。他の実施形態では、開口部の大きさは、突出部の少なくとも一つの寸法よりも大きい。第2のパーツの材料は、第1のパーツの材料と同じでもよく異なっていてもよい。一実施形態では、本明細書に記載の方法は化学的に異種の金属を接合できるのに対し既存の半田づけは異種の金属を接合することができないという点で、本明細書に記載の方法は既存の半田づけよりも優れた接合機構を予想外に提供することができる。
【0070】
第2のパーツは、開口部を有する必要はない。換言すれば、アセンブリは、前述のものとは異なるものとすることができる。例えば、第1のパーツは、アンダーカットのような構造を有することができる。
図10(a)に示すような構造では、突出部及びベースを含むことができる。このように、アンダーカットは、エッジに類似するものである。当該エッジは、任意の形状および寸法を有していてもよい。第2のパーツの一部は、
図10(b)に示すように、突出部の一部、特にその基部に接触することができる。一実施形態において、第2のパーツの一端は、第1のパーツのアンダーカット部分内に位置することができる。第1のパーツ及び第2のパーツは、配置により一体化されてもよく、または一つのアセンブリとして一体化されていてもよい。
【0071】
この配置工程は、
図1(b)に示すように、第1のパーツの突出部が第2のパーツの開口部の外側に延びる(又は開口部を通過する)ように行うことができる。例えば、一実施形態では、第2のパーツは開口部を備えており、突出部が開口部を通過するように第1のパーツの近傍に配置される。前述のように、突出部及び第2のパーツの開口部の相対的な寸法に応じて、例えば
図4(a)に示すように、突出部と開口部の壁部との間にいくらかの間隔(またはギャップ)が存在していてもよい。
図2(a)はこのようなアセンブリの側面および平面の概略図である。配置工程は、製造プロセスの一部として常に必要なものではない。例えば、第1のパーツと第2のパーツは、アセンブリとして用意され、結合方法は、以下で説明するように、このアセンブリに直接適用され得る。
図2(a)ないし
図2(b)は、一の実施形態におけるアセンブリを示している。
【0072】
結合処理(mating)
第2のパーツが第2のパーツの上に配置されると(またはこれらがアセンブリとして準備されると)、結合処理が行われて接合(joint)が形成される。接合機構は、上述した成形機構のうちの任意のものを含むことができる。例えば接合機構は熱可塑性成形を含むことができる。一実施形態では、第1の温度で突出部と開口部とを結合して、突出部を第1のパーツ及び第2のパーツを接合するインターロックに成形する。結合処理は、配置工程が行われる温度に比べて高い温度である第1の温度で行われる。
【0073】
第1の温度又は当該昇温された温度は、合金の組成に応じて異なるが、大部分の実施形態において当該合金のTxよりも低い温度となる。上述のように、合金は、加熱工程を省略するために、予熱されてもよい。いくつかの実施形態において、当該温度は、合金のほぼ結晶化温度Txとほぼガラス転移温度Tgとの間であることが好ましい。「約」という語の定義は、本明細書の他の部分において定義されているように、わずかな変動を含むものである。例えば、温度範囲の下端が約Tgであるときには、この下端は、Tgより僅かに低い温度、Tg、及びTgより僅かに高い温度を示す。同様に、温度範囲の上端が約Txであるときには、この上端は、Txより僅かに低い温度、Tx、及びTxより僅かに高い温度を示す。この温度の値は、突出部の合金の化学的性質に依存する。この温度は、約750℃以下であってもよく、例えば、約700℃以下、約650℃以下、約600℃以下、約500℃以下、約450℃以下、約400℃以下、約350℃以下、約300℃以下、約250℃以下であってもよい。一実施形態では、この温度は、合金の溶融温度に比べて低くすることができる。
【0074】
いくつかの実施形態では、当該温度が前述の温度範囲の上限であることが好ましい。一実施形態では、温度は、Txに近接するが超えないことが好ましい。この高温によって、粘度を低減させることができ、これにより成形工程が容易になる。一実施形態において、過冷却液体域におけるアモルファス合金の粘度は、Tgにおける10
12Pa?sからTxにおける10
5Pa?sまで変化する。Txは、過冷却液体域の高温側限界と一般に考えられている。いくつかの場合には、合金の温度が(Txまで)増大するにつれて粘度が次第に低くなって、合金結晶化の速度が上がり、合金形成に利用可能な時間を減少させることができる。しかしながら、過冷却液体域におけるアモルファス合金は、結晶に比べて高い安定性を有しており、高粘度流体として存在し得る。そのような粘度を有する流体は、印加された圧力において実質的に塑性変形を受けることができる。固体とは対照的に、流体アモルファス合金は、局所的に変形し得るので、切除及び成形に必要なエネルギーを飛躍的に減少させることができる。
【0075】
本明細書において結合処理は、突出部を開口部に向けて押し付けることまたは開口部を突出部に押し付けることのいずれかを含むことができる。押しつけは、
図1(a)ないし
図1(d)に示すように、第1のパーツの突出部と第2のパーツの開口部とを近接させて実行される。または、押しつけは、
図10(a)ないし
図10(c)に示すように、第1のパーツの突出部を第2のパーツに向けて、従って当該突出部の基部に向けて押し付けることのより実行される。後者の実施形態は、宝飾品の用途において特に有用であり得る。例えば、第1のパーツ(及び/又は第2のパーツ)は、時計、または指輪における連続ベゼルのようなベゼルの一部とすることができる。パーツはまた、ジャム石が設けられる指輪のプロングの一部とすることができる。例えば、プロングの各々は、押し付けられることによりジャム石を固定するインターロックに成形される突起部であってもよい。
【0076】
押しつけは、チップのような分離した構造で実行することができる。一実施形態におけるこのようなチップの概略が
図3(a)ないし
図3(b)に示されている。チップは、用途や第1のパーツの突出部の形状及び大きさに応じて任意の形状または大きさを有することができる。例えば、チップは、
図3(a)ないし
図3(b)に概略的に示すように、平坦な端部を有するプランジャの形態を有することができる。または、チップは、半球状の端部、ピラミッド状の端部、または不規則形状の端部を有していてもよい。一実施形態では、チップの表面積は、突出部の表面積よりも大きい。他の実施形態では、2つの表面積は同程度である。チップは、結合(成形及び押し付けを含む)処理を容易にするために少なくとも前述の高温(または第1の温度)に加熱されることが好ましい。一実施形態では、チップは、十分な温度を確保するために前述の高温よりも高い温度に加熱することができる。チップは、任意の従来の加熱機構によって加熱することができる。例えば、誘導的に、導電的に、放射的に、対流的に(例えば、熱ガス又は液体の流れで)、加熱することができる。
【0077】
チップは、任意の適切な材料を含むことができる。例えば、チップは、鉄およびその合金を含むことができる。例えば、チップは、タングステン、ステンレス鋼、工具鋼、又はそれらの組み合わせ等の金属または合金を含むことができる。あるいは、チップは、セラミックを含むことができる。本明細書のいくつかの実施形態では、当該チップは、「熱かしめチップ」を意味する。押し付けは、突出部の形状および化学的性質に応じて、任意の適切な時間間隔にわたって実施することができる。例えば、期間は、約20秒以下とすることができ、例えば、約15秒以下、約10秒以下、約5秒以下、約1秒以下、約500ミリ秒以下、約200ミリ秒以下、約100ミリ秒以下とすることができる。一実施形態では、期間は、少なくとも50ミリ秒であることが好ましく、例えば、少なくとも500ミリ秒、少なくとも100ミリ秒であることが好ましい。さらに、結合工程の間に(例えばチップにより)加えられる応力は、含まれる材料に応じて任意の値となる。例えば、応力は、室温における突起部のアモルファス合金の降伏強度程度であってもよく、又は応力は降伏強度よりも低くても又は高くてもよい。応力は一定でもよいが、一定である必要はない。例えば応力は、突出部に加えられたひずみの変化とともに増加または減少するように変化することができる。一実施形態では、特定の粘度でアモルファス合金がより高速にひずむと、系の当該部分が受ける力(すなわち応力)はより高くなる。
【0078】
突出部が押し付けられると、少なくとも合金部分は、
図4(a)ないし
図4(c)に模式的に示すように、熱可塑的に変形する。例えば、図示のように、突出部の上部は、垂直方向の力によって水平方向に広がるように変形する。具体的には、図示のように、0.5mm×0.75mmの部分は押し付けられて0.94mm×0.4mmの大きさを有する部分となり、さらに2.5mm×0.15mmの大きさを有する部分にすることができる。
図6(a)ないし
図6(b)は、他の実施形態における押し付け/成形プロセスを示す図である。具体的には、
図6(a)は、第2の部分の開口部の外方に延びる突出部を有するアッセンブリの断面図である。
図6(b)に示すように、突起が熱かしめチップによって押し付けられると、突起部の形状及び寸法が変化する。
【0079】
結合工程における成形の後に、「成形」された突出部(ここで
図6(b)に示すように一実施形態におけるインターロックの形状への成形)は、合金のTg以下の温度に冷却されて硬化または固化される。冷却時間は、合金の化学組成に応じて定められる。形成工程中に加えられた押しつけ圧力は、冷却工程中においても維持することができる。圧力は、配置工程において用いられた圧力と同じでもよいし、それより小さくても大きくてもよい。したがって、一実施形態においては、インターロックは印加された圧力により冷却工程中にも成形され続ける。
【0080】
結合処理の次に、アセンブリ、具体的には突出部における合金組成物が冷却される。この合金組成物は、当該組成物のTgよりも低い温度で冷却され、最終的には周囲温度になる。冷却により得られた組成物は、少なくとも部分的にアモルファスであってもよく、例えば、少なくとも実質的にアモルファスであってもよく、完全にアモルファスであってもよい。2つの金属パーツが存在する一実施形態において、アモルファス合金成形品は、当該パーツから成形品への金属種の相互拡散をほとんど起こすことなく、当該金属パーツ間に機械的なインターロックを形成することができる。押しつけ、加熱及び冷却を含む結合工程の間に使用されるパラメータは、評価され、最適化される。
【0081】
一部の実施形態において、アモルファス合金の熱履歴は累積的である。このように、加熱工程、押しつけ工程、及び冷却工程は、熱履歴における総加熱時間が結晶形成を引き起こす時間よりも少ない限りは、多数回繰り返し行うことができる。これにより、界面層及びパーツを再成形、再モールド、及び/又は再接合できるという予測困難な効果が提供され得る。
【0082】
合金と空気との反応を回避するために、押しつけは、部分真空下、例えば低真空下で、または高真空下でも行うことができる。一実施形態における真空環境は、約10
-2torr以下、例えば、約10
-3torr以下、約10
-4torr以下とすることができる。または、加熱工程及び/又は配置工程は、アルゴン、窒素、ヘリウム、またはこれらの混合物のような不活性雰囲気中で実行することができる。周囲空気のような不活性でないガスは、用途に適していれば使用することができる。他の実施形態では、部分真空及び不活性雰囲気を組み合わせた雰囲気中で押しつけを実行することができる。これらの雰囲気中で押しつけ/成形処理を実行することにより、不純物で最終生成物(すなわち、インターロック)が汚染されることを防止することができる。
【0083】
また、本明細書に記載の方法によって、相互拡散による最終製品の汚染を防止することができる。成形機構として熱可塑性成形が使用される実施形態においては、当該成形処理によって、突出部(及び範囲として第1のパーツ)と、第2のパーツと、加熱されたチップとの間での化学元素の相互拡散を有効に防止することができる。この結果、一実施形態において得られるインターロックは、接合処理前に成形品内の合金組成物に共通の元素として既に存在していなければ、第2のパーツ及び/又はチップから拡散した元素を実質的に含まない。例えば、本明細書に記載の形成方法によって、パーツからの元素の拡散を最小限にすることができる。このように、成形品は、パーツから拡散した元素を実質的に含まず、一例においては、パーツから拡散した元素をまったく含まない。これにより、得られるインターロックの汚染及び/又はインターロックが接触したパーツの表面の浸食を回避するという効果が得られる。インターロック(または突出部)が任意のパーツと共通する元素を共有する場合、拡散の欠如とは、成形品中にすでに存在する共通の元素の存在ではなく、当該パーツからの元素の拡散のことを意味する。
【0084】
得られる構造体(例えば一実施形態ではインターロック)は、少なくとも実質的にアモルファスである合金、アモルファス合金を含む組成物、またはこれらの組み合わせを含むことができる。一実施形態では、結合工程の前後における突出部の結晶化度は同等である。他の実施形態では結合工程の間、相変態は実質的におこらない。
【0085】
本明細書に記載の方法によれば、アモルファス合金組成物からなる接合要素を、はんだ付け、溶接、またはろう付けなどの従来の方法よりも低い温度で、形成することを可能にする。すなわち本明細書に記載の方法で使用される温度(上記参照)に対し、従来の方法が1000℃周辺またはそれより高い温度で行われる。本明細書に記載の方法の一つの利点は、より低い温度とすることにより、従来の接合方法での高い動作温度によって接合部分へ加えられるダメージの量を少なくすることである。
【0086】
また、本明細書に記載の方法によれば、冷却工程の間における体積収縮を非常に小さくして接合部材の製造を行うことができる。この点は、ろう付けなどの従来の接合方法とは全く対照的である。一実施形態において、(部分の表面に配置された組成物との比較における形成された界面層/シールの)体積収縮は、1%未満、例えば、約0.8%未満、約0.6%未満、約0.5%未満、約0.3%未満、約0.2%未満、約0.1%未満、約0.09%未満とすることができる。このような小さい体積収縮により、界面層又はシール部と部分との間を密接に接触させることができ、その結果、上述のように、シールを流体に対して不浸透性にすることができる。
【0087】
その結果、インターロック/接合要素は、
図5(a)に示すように、第2のパーツの少なくとも一方の面に密接な接触を形成することができる。この密接な接触により、インターロックは、第1のパーツおよび第2のパーツの間に効果的なシールを形成することができる。例えば、この密接な接触により、インターロックは、流体ガスまたは液体に対して不透過性の気密シールを形成することができる。
【0088】
インターロックは優れた特性を持つことができる。インターロックは、化学的汚染に対して不活性である金属ガラスの性質を有する(既述)ことに加えて、優れた機械的特性を有することができる。例えば、インターロックは、(同じ材料の)従来の溶接接合部と同じ、またはそれよりも高い強度を有することができる。
図8に示すように、一実施形態のインターロックの引張強度(丸)は、10kgf(キログラム重)より大きくすることができ、例えば15kgfよりも大きく、18kgfよりも大きく、20kgfよりも大きくすることができる。さらに、
図9に示すように、本明細書に記載の一実施形態のインターロックは、発明者らがこれまでに試験した従来の全ての方法よりも高い剪断強度を有することができる。具体的には、その剪断強度は、約30kgfよりも大きくすることができ、例えば、約35kgfより大きく、約40kgfよりも大きくすることができる。本明細書に記載の接合方法を用いる1つの利点は、このように、ファスナー、溶接、はんだ等の従来の操作を用いる必要なく強く接合することである。
【0089】
用途
本明細書に記載の方法は、デバイスまたは宝飾品のような様々な構成成分の接合に適用することができる。デバイスは、電子デバイスであってもよい。宝飾品には、連続ベゼルのようなベゼル、またはジャム石が配置される指輪のプロングのような分離したプロングが含まれうる。
【0090】
本明細書における電子機器は、当業者に知られている任意の電子機器を意味する。電子機器は、例えば、携帯電話や固定電話等の電話、又は、iPhone(商標)等のスマートフォン及び電子メール送受信装置を含む通信装置であってもよい。電子機器は、デジタルディスプレイ、テレビモニター、電子書籍リーダー、携帯ウェブブラウザー(例えば、iPad(商標))、及びコンピュータモニター等のディスプレイの一部であってもよい。また、当該電子機器は、エンターテイメントデバイスであってもよい。このエンターテイメントデバイスは、携帯DVDプレイヤー、従来のDVDプレイヤー、ブルーレイディスクプレイヤー、ビデオゲームコンソール、携帯音楽プレイヤー(例えば、iPad(商標))のような音楽プレイヤーとすることができる。また、当該電子機器は、画像、映像、音響のストリーミングの制御等の制御を提供するデバイス(例えば、AppleTV(商標))の一部であってもよく、電子機器用のリモートコントローラであってもよい。また、電子機器は、コンピュータやその付属品の一部であってもよく、例えば、ハードドライブのタワー型ハウジング又はケーシング、ラップトップのハウジング、ラップトップのキーボード、ラップトップのトラックパッド、デスクトップのキーボード、マウス、及びスピーカであってもよい。この物品は、腕時計や置時計等のデバイスにも適用できる。
【0091】
非限定的な実施例
機械的インターロックを形成して2つのパーツを接合し、機械的特性の測定のための種々のサンプルを作成した。
図5(a)ないし
図5(c)は試料の形状の概略を示し、
図6(a)ないし
図6(b)はその断面図である。
図7(a)および
図7(b)はそれぞれ、実施された試験における引張試験の試料及びせん断試験の試料の写真である。
【0092】
突出部に使用されるアモルファス合金は、Vitreloy106と呼ばれるZr系合金である。化学組成は、Zr
67.5Cu
12.79Ni
9.79Nb
6.07A
l3.53(重量%)である。基材(第1のパーツ)は、ステンレス鋼とし、熱かしめ工具のチップは、高温はんだこてに設けられた工具鋼製とした。チップの温度は約450℃に維持した。突出部へのチップのプレス時間は約5-10秒とした。チップは手動でプレスした。
図8及び
図9にこの結果を示す。
【0093】
比較のために、他のステンレス溶接ステンレス鋼及びVitreloy 106溶接ステンレス鋼の結果を
図8に示す。
図8は引張試験結果を示す。インターロックによりステンレス鋼基材に接合されたZr系合金とは異なり、ステンレス鋼基材は比較陰性対照として、ステンレスパーツにはんだ付けされた。
図8からわかるように、熱カシメ(本発明の方法)(丸)は、最も強いステンレス溶接ステンレス鋼と同等の引張強さ(平均が約17kgfより大きい)を示す唯一の接合方法であった。
【0094】
図9は、せん断強度の結果を示す。
図9に示すように、熱かしめ(丸)は、試験したすべての接合方法の中で最も高い剪断強度(従来の接合の中で最も高い約20kgfよりも大きな平均約32.6kgf)を示した。
【0095】
冠詞「a」及び「an」は、本明細書において、当該冠詞の文法的な対象の1つ又は2つ以上(すなわち、少なくとも1つ)を指す。例えば、「a plymer resin」は、1つのポリマー樹脂又は2つ以上のポリマー樹脂を意味する。本明細書における範囲は包括的なものである。本明細書全体を通じて使用される「実質的」及び「約」の語は、小さな変動を示し及び説明するために用いられる。例えば、その「約」という用語は、例えば、±-5%以下、±-2%以下、±-1%以下、±0.5%以下、±0.2%以下、±0.1%以下、±0.05%以下等の±-10%以下の範囲を示すことができる。