特許第5982496号(P5982496)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5982496-不動態化/捕捉方法 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5982496
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】不動態化/捕捉方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 11/02 20060101AFI20160818BHJP
   B01J 23/84 20060101ALI20160818BHJP
   B01J 21/16 20060101ALI20160818BHJP
   B01J 23/843 20060101ALI20160818BHJP
   B01J 29/076 20060101ALI20160818BHJP
   C10G 11/18 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   C10G11/02
   B01J23/84 M
   B01J21/16 M
   B01J23/843 M
   B01J29/076 M
   C10G11/18
【請求項の数】21
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-543459(P2014-543459)
(86)(22)【出願日】2011年11月21日
(65)【公表番号】特表2015-504473(P2015-504473A)
(43)【公表日】2015年2月12日
(86)【国際出願番号】US2011061648
(87)【国際公開番号】WO2013077836
(87)【国際公開日】20130530
【審査請求日】2014年11月17日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505470786
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】ホッファー,ブラム,ダブリュー.
(72)【発明者】
【氏名】ストックウェル,デイビッド,エム.
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−106093(JP,A)
【文献】 特開平08−176174(JP,A)
【文献】 特開昭57−202381(JP,A)
【文献】 特表2009−517202(JP,A)
【文献】 特開2000−212575(JP,A)
【文献】 特表平02−500110(JP,A)
【文献】 特開昭62−232485(JP,A)
【文献】 特開昭60−258288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FCCユニット層内の炭化水素油供給原料から少なくとも1種の金属汚染物質を不動態化及び/又は捕捉する方法であって、
前記1種以上の金属汚染物質を含む前記炭化水素油供給原料を、
1)FCC触媒粒子と、
2)当該FCC触媒粒子とは別の金属不動態化剤/捕捉剤であって、R、Sb及び任意にMを含む混合金属酸化物合金(但し、Rは酸化還元元素であり、Mは任意のプロモーターである)を含有する金属不動態化剤/捕捉剤と、
を含む触媒混合物に接触させる工程を有し、
前記酸化還元元素Rは、Fe2+/3+、Ce3+/4+、Cr2+/3+又は5+/6ら選択され、
金属不動態化剤/捕捉剤を備えたFCCユニット層内で形成される水素及びコークス量が、金属不動態化剤/捕捉剤を具備しないFCCユニット層内で形成される水素及びコークス量よりも減少することを特徴とする不動態化/捕捉方法。
【請求項2】
前記炭化水素油供給原料は、軽油、抜頭油、残留油、残留原油及びこれらの混合物から選択される請求項1に記載の不動態化/捕捉方法。
【請求項3】
前記プロモーターMは、Na、Zn、W、Te、Mo、Ca、Ba、Mg、Mn、Sn又はCuの酸化物から選択される請求項1に記載の不動態化/捕捉方法。
【請求項4】
前記少なくとも1種の金属汚染物質は、ニッケル、バナジウム又はそれらの混合物から選択される請求項1に記載の不動態化/捕捉方法。
【請求項5】
前記炭化水素油供給原料は、残留油を含む請求項1に記載の不動態化/捕捉方法。
【請求項6】
前記金属汚染物質は、前記炭化水素油供給原料中に、少なくとも約0.1ppmの量で存在する請求項1に記載の不動態化/捕捉方法。
【請求項7】
前記金属汚染物質は、前記炭化水素油供給原料中に、200ppm迄の量で存在する請求項1記載の不動態化/捕捉方法。
【請求項8】
前記炭化水素油供給原料を前記触媒混合物に接触させた後、前記FCC触媒が、少なくとも300ppmの前記金属汚染物質を蓄積している請求項1に記載の不動態化/捕捉方法。
【請求項9】
前記炭化水素油供給原料を前記触媒混合物に接触させた後、前記FCC触媒が、40000ppm迄の前記金属汚染物質を蓄積している請求項1に記載の不動態化/捕捉方法。
【請求項10】
前記RはFe2+/3+である請求項1に記載の不動態化/捕捉方法。
【請求項11】
前記Mは、Zn、W、Mo、Mn又はSnの酸化物である請求項3に記載の不動態化/捕捉方法。
【請求項12】
前記R:Sb:Mの原子比率は0.1〜10:0.1〜10:0〜10である請求項1に記載の不動態化/捕捉方法。
【請求項13】
前記R:Sb:Mの原子比率は0.1〜3:0.1〜3:0〜5である請求項に記載の不動態化/捕捉方法。
【請求項14】
前記金属不動態化剤/捕捉剤に、i)インサイチュゼオライト、ii)焼成カオリン、iii)アルミナ及びiv)SiOから選択される1種以上の支持担体を含有させることが可能な請求項1に記載の不動態化/捕捉方法。
【請求項15】
前記支持担体は、焼成カオリンである請求項14に記載の不動態化/捕捉方法。
【請求項16】
前記支持担体は、前記不動態化剤/捕捉剤の約5質量%〜70質量%の量で存在する請求項14に記載の不動態化/捕捉方法。
【請求項17】
前記不動態化剤/捕捉剤は、前記触媒混合物の約1質量%〜25質量%の量で存在する請求項1に記載の不動態化/捕捉方法。
【請求項18】
前記触媒混合物は、さらに不活性担体を含有する請求項1に記載の不動態化/捕捉方法。
【請求項19】
前記不活性担体は、i)インサイチュゼオライト、ii)焼成カオリン、iii)アルミナ及びiv)SiOの1種以上から選択される請求項18に記載の不動態化/捕捉方法。
【請求項20】
前記不活性担体は焼成カオリンである請求項19に記載の不動態化/捕捉方法。
【請求項21】
前記触媒混合物は、前記FCCユニット層で前記炭化水素油供給原料を処理する間、少なくとも55%変性率が維持されている請求項1に記載の不動態化/捕捉方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属不動態化剤(metal passivator)/捕捉剤(trap)、並びに、炭化水素系原料の接触分解における金属の有害作用を軽減する方法に関する。この目的は、金属汚染物質のためのトラップ及び金属不動態化剤としての混合金属添加物の使用を通じて達成される。
【背景技術】
【0002】
接触分解(catalytic cracking)は、商業上大規模に行われる石油精製プロセスである。米国における精油所ガソリン配合貯蔵(blending pool)の約50%がこの方法により製造され、そのほぼ全てが流動接触分解(FCC)方法を用いて製造されるものである。FCC方法では、重質炭化水素分画が、触媒の存在下で高温で行われる反応によって、より軽質の製品に変性され、その変性又は分解の殆どがガス相で起こる。FCC炭化水素原料(原料、feedstock)は、ガソリンと他の液状分解生成物、また、1分子当たりの炭素原子数が4以下の軽質ガス状分解物にも変性される。これらの生成物は、飽和及び不飽和炭化水素からなる液又はガスである。
【0003】
FCC方法においては、原料は、FCC反応器のライザー部(riser section)に注入され、触媒再生機からライザー反応器へ循環する高温触媒と接触し、原料がより軽質で、より価値の高い製品に分解される。吸熱分解反応が起こる際に、炭素が触媒上に付着する。この炭素は、コークス(骸炭、coke)として知られ、触媒活性を低減させ、その活性を回復させるために触媒は再生されなければならない。触媒及び炭化水素蒸気は、ライザーからFCC反応器の開放部まで持ち上げられ、そこで分離される。次に、触媒が抽出部(stripping section)に流れ込み、そこで触媒に同伴された炭化水素蒸気が蒸気の注入により抽出(逆抽出、stripping)される。使用済み分解触媒から、吸蔵された炭化水素を除去する工程に続き、抽出された触媒は、使用済触媒スタンドパイプを通って触媒再生機に向かって流れる。
【0004】
通常、触媒活性を取り戻すために、触媒は再生機に空気を導入し、コークスを燃焼させて再生される。それらのコークス燃焼反応は発熱性が高く、その結果、触媒を加熱する。高温で、再活性化された触媒は、触媒サイクルを完結させるために、再生触媒スタンドパイプを通って、ライザーに戻る。コークス焼成排出ガス流は再生機の頂部迄到達し、再生機の炉筒(flue)を通って再生機から放出される。排出ガスは、通常、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)、一酸化炭素(CO)、酸素(O)、HCN又はアンモニア、窒素及び二酸化炭素(CO)を含む。
【0005】
接触分解が起こるFCC方法の3つの特徴的な工程は、下記のように区別される。1)原料が軽質製品に変性される分解工程、2)触媒に吸収された炭化水素を除去する抽出工程、3)触媒に付着したコークスを燃焼させる再生工程。再生された触媒は、分解工程で再利用される。
【0006】
分子ふるい又はゼオライトの導入に伴い、FCC触媒における大いなる進歩が1960年代初頭に起こった。これらの材料は、その当時のFCC材料を構成する、非晶質/カオリン材料及び/又は非晶質のマトリックスに組み入れられた。これらの新規ゼオライト触媒は、シリカ、アルミナ、シリカ‐アルミナ、カオリン、粘土等の非晶質又は非晶質/カオリンマトリックス中の結晶性アルミノケイ酸塩ゼオライトを含み、少なくとも1000〜10000倍は、初期の非晶質又は非晶質/カオリン含有シリカ−アルミナ触媒よりも、炭化水素分解の活性が高かった。ゼオライト分解触媒の導入は、流動接触分解方法に革命をもたらした。ライザー分解(噴流層分解、riser cracking)、接触時間短縮化、新規再生方法、新規改良ゼオライト触媒の発展等、新規の方法がこれら高活性を取り扱うために開発された。
【0007】
新規の触媒開発は、合成型X及びY、並びに天然由来のフォージャサイト(faujasites)等の多様なゼオライトの開発を中心に起こり、イオン交換技術により希土類イオン又はアンモニウムイオンを含有させることで、ゼオライトの蒸気加熱(水熱)安定性を増加させ、耐摩耗性に優れたゼオライトを支持するマトリックスが開発された。ゼオライト触媒の開発は、拡張や新規ユニット建設の必要なしに同じユニットを使用しながらも、転化率及び選択性が増加し、原料処理量を大いに増加させる能力を石油産業にもたらした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6716338号明細書
【特許文献2】米国特許第6673235号明細書
【特許文献3】米国特許出願12/572777号明細書
【特許文献4】米国特許第4465779号明細書
【特許文献5】米国特許第4549548号明細書
【特許文献6】米国特許第5300496号明細書
【特許文献7】米国特許第7361264号明細書
【特許文献8】国際公開第82/00105号明細書
【特許文献9】英国特許218314号明細書
【特許文献10】欧州公開020151号明細書
【特許文献11】欧州公開0189267号明細書
【特許文献12】米国特許第3711422号明細書
【特許文献13】米国特許第4025458号明細書
【特許文献14】米国特許第4031002号明細書
【特許文献15】米国特許第4111845号明細書
【特許文献16】米国特許第4148714号明細書
【特許文献17】米国特許第4153536号明細書
【特許文献18】米国特許第4166806号明細書
【特許文献19】米国特許第4190552号明細書
【特許文献20】米国特許第4198317号明細書
【特許文献21】米国特許第4238362号明細書
【特許文献22】米国特許第4255287号明細書
【特許文献23】米国特許第7678735号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】M.Xu等ジャーナルオブカタリスト、207(2)巻、237〜246頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
触媒を含むゼオライトの導入後、石油産業は、オクタン価の増加を伴うガソリンの要求が高まるのに伴い、量及び質に関する原油利用可能性の欠如に悩み始めた。世界の原油供給情勢は、1960年代後半と1970年代初めに劇的に変化した。イオン含有量がより高い石油残留物等の重質原油の量の絶え間ない増大に伴い、供給状況は、軽質低硫黄原油(light−sweet crudes)が余剰する状況から、供給が抑えられるように変化した。
【0011】
石油残留物は、大気圧又は減圧での原油の蒸留後に残る重質分画(常圧残油、atmospheric resid、又は減圧残油、vacuum resid)である。残留物は、高分子量を有し、しばしば、多環芳香族炭化水素(PAH‘s)を含む。これらの分子は、3〜4以上の芳香環を有し、残留物を所望の製品に変性する際に大きな制限をもたらす。これは、それらの高い安定性と、より小さく利用可能性が高い分子への変性に十分な水素が環構造中で欠乏していることに起因する。しかも、輸送燃料等の所望の製品は、アルキル化された単芳香環に限定される。どの種類の残留物変性方法が適用されるかに係わらず、残留物分子の実質的分画は、燃料油中で分解されて液体(又はガス)になる部分と、減圧油沸点(vacuum oil boiling range)を有する。芳香核は、FCC分解状態では分解されない(これらの種類を排除するため、水素化分解を考慮しなければならない)。過度に残留物を変性しようとする者はなく、それゆえに、熱力学的には好まれるが低価値の製品(コークスやガス状炭化水素等)に選択性が移行する。その結果、残留物FCC処理におけるガソリン収率は低い。それらのより重質で高硫黄の原油及び残留物は、原油精製業者に対し、重質な原油は常に著しく増加したアスファルト量を伴う非常に多くの金属を含有するという点で、処理の問題を提示する。通常、汚染金属は、ニッケル、バナジウム及び鉄である。
【0012】
汚染金属レベルが高い抜頭油(topped crudes)、残留油及び残留原油は、高価な輸送燃料への選択性が減少し、例えば、5000〜10000ppmのような比較的高い金属濃度と、上昇した再生機温度との組み合わせでは、FCC触媒が不活性化するという深刻な問題を起こすことが知られていた。低原油含量で、高バナジウム、ニッケルレベルの原料を、触媒を含有する結晶性ゼオライト、特に高バナジウムレベルの触媒で処理した場合、ゼオライトの急激な失活化が起こることも、特に認識されていた。この失活化は、それ自身が、実質的な尺度で、結晶性ゼオライト構造の消失を証明する。この消失は、バナジウムレベルが1000ppm以下で観察される。結晶性ゼオライト構造での消失は、バナジウムレベルの増加により、より急激で深刻になり、約5000ppmのバナジウムレベル、特に、10000ppmに近づくと、ゼオライト構造の完全な破壊が起こる。10000ppm未満のバナジウムレベルでのバナジウム失活化の影響は、未使用触媒の添加率の増加により減少させることができる。しかし、それをするためには、財政上コストがかかる。既に述べたように、バナジウムは分解触媒を汚染し、その活性を失わせる。この分野の文献は、原料中に存在するバナジウム化合物が、分解触媒上に付着したコークスに取り入られ、そしてコークスが燃焼する際に再生機中で五酸化バナジウムに酸化することを報告している(M.Xu等、ジャーナルオブカタリスト、207(2)巻、237〜246頁)。空気と水の存在下、700〜830℃の温度では、V(バナジウム)は、酸性の態様で、表面流動状態(surface mobile state)になる。このV種はカチオン性ナトリウムと反応し、そのY交換サイトからの離脱を促進させる。このように形成されたメタバナジン酸ナトリウムが蒸気中で加水分解し、再びNa+カチオンと反応するであろうNaOH及びメタバナジウム酸を生成する。Vは、このように、破壊的なNaOH生成への触媒作用をもたらす。
【0013】
鉄及びニッケルは一方で流動的ではない(not mobile)。ニッケル含有炭化水素は触媒に付着し、再生機中で酸化ニッケルを生成する。ライザー部では、それは金属性ニッケルに還元され、金属性鉄のように、炭化水素の脱水素の触媒作用し、望ましくない水素とコークスを生成する。FCC下流作業における制限の原因となるので、高水素収率は望ましくない(湿ガス圧縮機の容量には制限がある)。これとは別に、高コークス量は、再生機送風機(air blower)に制約を与え、その結果、供給スループットを減少させてしまう。
【0014】
バナジウム及び他の金属を含む化合物は、通常、分解ユニットから揮発性化合物として容易に取り除くことができないので、通常の対処法では、分解プロセスの間に遭遇した条件下でそれら化合物を捕捉及び/又は不動態化していた。捕捉又は不動態化は、分解触媒への添加剤の添加、又は、別の添加剤粒子を分解触媒と一緒に添加することを必要とする。これらの添加物は、金属と結合し、分解触媒の活性成分が保護されるように、流動的V種の「捕捉剤(traps)」又は「吸収源(sinks)」として機能するか、非流動的Ni及びFeの不動態化剤として機能する。金属汚染物質は、通常の作業中に、システムから回収される触媒と共に除去され、新しい金属捕捉剤が補充触媒と共に添加され、作業中の有害金属汚染物質の連続回収を実現する。原料中の有害金属のレベルにより、所望の金属捕捉/不動態化程度を達成するために、添加剤の量は補充触媒に対し相対的に変化させる。
【0015】
バナジウム及びニッケルを捕捉するためのFCC触媒粒子に、多様な種類のアルミナを取り入れることが知られている。この例は、一般に、米国特許第6716338号及び第6673235号により知られており、そこでは、分散性ベーマイトが分解触媒に添加されている。焼成においては、ベーマイトは遷移アルミナ相に変性され、その遷移アルミナ相は、炭化水素原料中のニッケル及びバナジウム汚染物質の不動態化に有効なことが分かっている。一方、高表面積アルミナは、バナジウムも捕捉してゼオライトを保護するが、バナジウムを不動態化せず、水素及びコークスの汚染物質レベルは依然として高いままである。
【0016】
付与特許及び継続中出願である米国特許出願12/572777、米国特許第4465779号、4549548号、5300496号、第7361264、国際公開第82/00105、英国特許218314号、欧州公開020151及び欧州公開0189267号によれば、アルカリ土類金属含有捕捉剤(Ca、Mg、Ba)及び/又は希土類ベースの捕捉剤の使用により、バナジウムもまた捕捉され、効果的に不動態化させることができる。しかし、これらの捕捉剤は、硫黄に対し敏感で、硫黄はバナジウム捕捉の活性サイトをブロック可能なので、その効果が落ちるという問題があった。
【0017】
米国特許第3711422号、4025458号、4031002号、4111845号、4148714号、4153536号、4166806号、4190552号、4198317号、4238362号並びに4255287号を含む特許文献によれば、アンチモン及びアンチモン化合物の不動態化剤としての利用もまたよく知られている。それによれば、アンチモンはニッケルと反応し、ライザー条件下(riser conditions)で減少しにくいNiSb合金を生成し、水素及びコークスの生成の触媒として作用するニッケルを失活化させる。このプロセスは、一般に不動態化と言われる。
【0018】
米国特許第7,678,735では、FCC再生機へのアンモ酸化触媒の添加が、FCC触媒再生の間のNO及びNO前駆体の放出を減少させることが開示されている。特に、利用価値の高いアンモ酸化触媒は、鉄アンチモンと、Mg、Mn、Mo、Ni、Sn、V又はCuなどの添加金属との混合酸化物である。残留物の分解、特に、ゼオライト分解触媒を失活化させ、有毒なニッケル及びバナジウム汚染物質の不動態化及び/又は捕捉について、アンモ酸化触媒の特定の利用については、その特許では言及されていない。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、改良された金属不動態化剤/捕捉剤を導き出すものであって、金属不動態化剤/捕捉剤は、アンチモンと、少なくとも1種の酸化還元元素(redox element)と、任意の促進剤(プロモーター)とを含有し、炭化水素原料の接触分解の間の金属汚染物質を捕捉に使用することができる。
【0020】
本発明の効果と本質をより良く理解するために、図面を伴う下記詳細な説明が参照されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】様々な変性率における、鉄/アンチモン添加剤と3000ppmのNiで金属化されたFlex−Tec(登録商標)を含むFCC触媒からのH収率(質量%)の減少を示す図である。
図2】様々な変性率における、鉄/アンチモン添加剤と3000ppmのVで金属化されたFlex−Tec(登録商標)を含むFCC触媒からのH収率(質量%)の減少を示す図である。
図3】3000ppmのNiと3000ppmのVで汚染されたFCC触媒と共に使用される、 金属不動態化剤/捕捉剤として使用される鉄/アンチモン添加剤の量を増加させたときのH収率(質量%)の減少を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、改良された金属不動態化剤/捕捉剤と、顕著なレベルの金属汚染物質(例えばNi及び/又はV)を含有する原油原料に触媒作用をおこなうFCC触媒と連携したその使用を導き出すものである。特に、金属不動態化剤/捕捉剤は、バナジウムとニッケルを固定する金属酸化物の混合物を含有し、炭化水素油の金属汚染物質によるFCC触媒の失活影響を減少させ、及び/又は輸送燃料への選択(可能)性を増加させる(FCC作業で使用されるどの種でも)ものである。本発明は、特に、現代的な流動接触分解ユニットにおける、全原油、抜頭油、残留油、原油減少材料中で発見されるカルボ‐金属油(carbo−metallic oil)成分の処理において有効である。
【0023】
本発明の方法は、好ましくはマトリックス材料内に含まれた分解触媒である第1成分と、上述したように、金属不動態化と金属捕捉に有効な混合金属酸化物合金を含む第2成分とを含む触媒混合物を利用した炭化水素系原料の接触分解工程を有する。本発明の進歩は、原料が高レベルの金属を含む場合であっても、触媒システムの能力において十分な機能が残ることである。
【0024】
ここで、「不動態化剤(passivator)」と「捕捉剤(trap)」は、交換可能な方法では使用されず、本発明の金属酸化物の混合物は、金属汚染物質を不動態化させる成分と、捕捉させる成分のどちらを含んでもよい。「不動態化剤」は、FCCプロセスの間に汚染物質H及びコークスを生成するニッケルやバナジウムのような不要金属の活性を減少させる成分として定義される。一方、「捕捉剤」は、それがなければFCC触媒混合物中の微粒子(microsphere)内又は間を自由に移動する汚染物質金属、例えばVとNaを固定する成分である。不動態化剤は、Vを固定する必要はなく、捕捉剤はVを不動態化する必要もない。
【0025】
<分解触媒>
本発明の方法で使用される分解触媒成分は、顕著な活性を備えた所望の種類のどのような触媒でもよい。好ましくは、ここで使用される触媒は、結晶性アルミノケイ酸塩を含む触媒であり、好ましくは、アンモニア交換され、少なくとも部分的に希土類金属カチオンと交換されたものであり、しばしば、「希土類−交換結晶性ケイ酸アルミニウム」、例えば、REY、CREY又はREUSY、又は、安定化アンモニウム又は水素ゼオライトの1種とされるものである。
【0026】
分解活性を備えた通常のゼオライト又は分子ふるいは、ここでは、この分野で広く知られた触媒性の分解触媒として使用される。合成的に製造されたゼオライトは、当初は、アルカリ金属アルミノケイ酸塩の形態である。アルカリ金属イオンは、ゼオライトに触媒特性を付与するために、通常、希土類金属及び/又はアンモニウムイオンと交換される。ゼオライトは結晶質で、三次元的で、より小さいものが接続された均一な開口又は空洞、比較的均一な孔と通路を多数含む安定した構造である。効果的な細孔サイズは特に限定されないが、適宜、0.6nm以上1.5nm以下(6Å以上15Å以下)の直径の間にある。
【0027】
ここで使用可能なゼオライトは、天然及び合成の両方のゼオライトを含む。これらのゼオライトは、グメリン沸石(gmelinite)、菱沸石(チャバサイト、chabazite)、ダキアルディ沸石(dachiardite)、クリノプチロライト(clinoptilolite)、フォージャサイト(faujasite)、ヒューランダイト(heulandite)、方沸石(analcite)、レビナイト(levynite)、エリオナイト(erionite)、ソーダライト(sodalite), カンクリナイト(cancrinite)、ネフェリン(nepheline)、ラズライト(lazurite)、スコレス沸石(scolecite)、ナトロライト(natrolite)、オフレタイト(offretite)、中沸石(mesolite)、モルデナイト(mordenite)、ブリューステライト(brewsterite)、フェリエライト(ferrierite)などを含む。フォージャサイトが好ましい。本発明の元で処理されるのに適した合成ゼオライトは、化学的又は水熱的に脱アルミされた高シリカ−アルミナY、A、K、ZK−4、ベータ、ZSM型又は、ペンタシル、ボラライト及びオメガを含むゼオライトX、Yを含む。ここで使用される用語「ゼオライト」は、アルミノケイ酸塩だけではなく、アルミニウムがガリウム又はホウ素により置き換えられた物質と、シリコンがゲルマニウムにより置き換えられた物質をも意味する。本発明に好ましいゼオライトは、Y及びX型またはそれらが混合された合成フォージャサイトである。または、BASF社のFlex−Tec(登録商標)として知られる触媒性触媒もまた有用である。本発明で使用される触媒性触媒の量は、触媒混合物の約30〜95質量%である。約50〜90%の量もまた有用である。
【0028】
良好な分解活性を得るため、ゼオライトは適切な形態でなければならず、ほとんどの場合で、ゼオライトのアルカリ金属含量を可能な限り低く減少させる。更に、高アルカリ金属含量は、熱的構造安定性を減少させ、その結果として、触媒の有効寿命が損なわれる。アルカリ金属を除去し、ゼオライトを適切な形態にする方法は、例えば、米国特許第3537816号明細書に記載されているように、本技術分野で公知である。
【0029】
ゼオライトはマトリックスに取り込むことができる。好ましいマトリック材料は、カオリン、ハロイサイト、モンモリロナイトのような天然由来の粘土、シリカ、シリカ‐アルミナ、シリカ‐ジルコニア、シリカ−マグネシア、アルミナ‐ボリア、アルミナ‐チタニア等非晶質触媒性無機酸化物を含む無機酸化物ゲル、並びにそれらの混合物を含む。好ましい無機酸化物ゲルは、シリカ含有ゲルであり、より好ましくは、無機酸化物ゲルは、従来のシリカ‐アルミナ分解触媒、商業上利用可能な複数の種類及び組成物のような、非晶質シリカ‐アルミナ成分である。これらの材料は、通常、シリカとアンモニアのコ‐ゲル(co−gel)、共‐沈殿(co−precipitated)シリカ‐アルミナ、又は、前形成(pre−formed)、前熟成(pre−aged)されたハイドロゲル上に沈殿したアルミナとして作製される。通常、シリカは、それらのゲルに存在する触媒固形分の主要成分として、約55質量%以上100質量%の間の量で存在する。しかしながら、しばしば、活性な業務用FCC触媒マトリックは、バイヤライト(bayerite)、ギブサイト(gibbsite)及び急速焼成された(flash calcined)ギブサイトのような粒状の水和又は再水和可能なアルミナ、擬ベーマイト、ベーマイトから得られ、分散可能な擬ベーマイト及び/又はコロイダルシリカ、又は、アルミニウムクロロヒドロール(aluminum chlorohydrol)と結合する。マトリックス成分は、FCC触媒の約25質量%以上約92質量%以下の量、好ましくは約30質量%以上約80質量%以下の量で本発明の触媒中に存在する。
【0030】
その教示がクロスリファレンスにより組み込まれた米国特許第4493902号明細書は、新規の流動分解触媒と、そのような触媒を製造する方法とを開示しており、その触媒は、摩耗耐性、高ゼオライト含量を具備し、更に、約40質量%を超え、好ましくは50質量%以上70質量%以下のYフォージャサイトを含む触媒活性微粒子を含有し、その方法は、化学的反応性焼成粘土の2種の異なる型の混合物からなる多孔質微粒子で、約40%を超えるナトリウムYゼオライトを結晶化して触媒を製造するものであり、化学的反応性焼成粘土は、例えば、メタカオリン(脱水酸基化を伴う強吸熱反応処理のために焼成されたカオリン)と、カオリンをメタカオリン等に変性するための条件よりもより厳しい条件で焼成したカオリン粘土、しばしば焼成カオリンのスピネル型と称される、特徴的なカオリン発熱反応で処理されたカオリン粘土がある。好ましい実施形態では、2つの型の焼成カオリンを含む微粒子をアルカリ性ケイ酸ナトリウム溶液に浸漬し、その溶液を、好ましくは微粒子中で最大取得可能な量のYフォージャサイトが結晶化するまで加熱することである。
【0031】
上記’902号(米国特許第4493902号)技術の実施では、ゼオライトがその内部で結晶化する多孔質微粒子は、好ましくは、粉状生(水和物)カオリン粘土(Al:2SiO:2HO)の水性スラリーと、粉状焼成カオリン粘土により形成される。粉状焼成カオリン粘土は、微粒子形成のためにスプレードライされるスラリーの流動化剤として機能する少量のケイ酸ナトリウムと一緒に発熱を受け、スプレー乾燥微粒子の構成成分に物理的一体性を付与するよう機能する。微粒子の水和カオリン粘土部分を脱水し、それをメタカオリンに変性するために、水和カオリン粘土及び発熱を受けるよう焼成されたカオリンの混合物を含むスプレー乾燥微粒子を、カオリンが発熱を受けるのに必要な条件よりも過酷ではない制御条件で焼成し、その結果、微粒子が、メタカオリン、発熱を受けるよう焼成されたカオリン、ケイ酸ナトリウムバインダーの所望の混合物を含有する。’902号特許に示された実施例では、水和粘土とスピネルがおおよそ等重量でスプレー乾燥原料中に存在し、その結果の焼成微粒子は、メタカオリンよりも発熱を受けた粘土をやや多く含む。’902号特許は、焼成微粒子が、メタカオリン約30〜60質量%と、その特徴的な発熱を介して特徴付けられたカオリン約40〜70質量%を含有することを教示している。その特許でより好ましくはないと記載された方法は、メタカオリン状態へ前もって焼成されたカオリン粘土と、発熱を受けるよう焼成されたカオリンとの混合物を含むスラリーのスプレー乾燥を含むが、いかなる水和カオリンもスラリー中に含まず、水和カオリンをメタカオリンへ変性するための焼成をせずに、メタカオリンと発熱を受けるために焼成されたカオリンを含む微粒子を直接製造することである。
【0032】
’902号特許に記載の発明の実行において、発熱を受けるために焼成されたカオリンとメタカオリンとからなる微粒子は、微粒子中のシリカ及びアルミナを合成ナトリウムフォージャサイト(ゼオライトY)に変性するために、結晶開始剤(種)の存在下で、苛性強化ケイ酸ナトリウム(caustic enriched sodium silicate)溶液と反応する。微粒子は、ケイ酸ナトリウム母液から分離され、希土類又は多様な公知の触媒の安定した型を形成するために、希土類、アンモニウムイオン、又はその両方とイオン交換される。’902号特許の技術は、耐摩耗性と同様に、高活性、良好な選択性及び熱的安定性に関係する高ゼオライト含量の望ましく、特有な組合せを達成する手段を提供する。
【0033】
<金属不動態化剤/捕捉剤>
本発明の金属不動態化剤/捕捉剤は、軽油及び残留物のFCC分解の間、分解触媒のニッケル脱水及びバナジウムアタックを低減させる。
【0034】
本発明における、不動態化/捕捉のために好結果の混合金属酸化物触媒は、RSbMとして知られる混合物である。ここで、Rは、Fe2+/3+、Ce3+/4+、Cr2+/3+、U5+/5+、Sn又はMnから選択される少なくとも1種の酸化還元元素(redox element)であり、その役割はOから格子酸素を形成し、Sb3+/5+活性サイトに格子酸素を補充することであり、その其々は少なくとも1種の任意のプロモーターの添加により更に改良され、Mは、Na、Zn、W,Te、Ca、Ba、Mo、Mg、Mn、Sn又はCuの酸化物から選択される。
【0035】
特に、現状の発明は、Ni及びVを不動態化及び/又は捕捉するために、担体上の鉄アンチモン(FeSb)の使用を導き出し、ニッケルとの反応はライザーの還元雰囲気で行われ、一方、バナジウムの拾いあげ(pick−up)は、再生機の酸化雰囲気で起こる。この反応を下記式で示す。
【0036】
FeSb+NiO+V→2FeVO+NiSb
【0037】
鉄は触媒毒として知られ、水素とコークスの生成を促すが、驚くべきことに、FeとSbの組合せが水素とコークスの収量を減少させることが分かった。
【0038】
FeSbは、H生成を制限するため、低表面積で形成される。SbがNiに達し、Niを触媒上で不動態化可能なほど、Sbは移動性がある。SbとVは化学的に類似するので(Vもまた移動性)、FeOをVと反応させてFeVOを生成させることができる。FeVOは、非硫酸塩化バナジン酸塩と同様に、SO含有再生ガス中で安定である。作業のいかなる理論に縛られることなく、FeSb構造は、Vを酸化鉄構造中に侵入させ、又は交換させると推測される。
【0039】
R:Sb:Mの比もまた、触媒結果物にとって重要である。R:Sb:Mの原子比率は、0.1〜10対0.1〜10対0〜10の範囲であり、好ましくは、0.5〜3対0.5〜3対0〜5の範囲である。
【0040】
金属不動態化剤/捕捉剤は、FCCユニットに導入される前に、別のゼオライト触媒粒子と混合することができる。または、金属不動態化剤/捕捉剤は、分解ユニット中の循環触媒品(inventory)に、別に供給することもできる。通常、金属不動態化剤粒子は、触媒混合物中に、1質量%以上50質量%以下、好ましくは2質量%以上30質量%以下、最も好ましくは5質量%以上25質量%以下の範囲内の量で存在する。十分な量が使用されない場合、バナジウム及びニッケル不動態化剤における改良は十分ではない。過剰量が使用された場合、分解活性及び/又は選択性が損なわれ、作業にコストがかかるようになる。最適比は、油供給原料中の金属汚染の程度により変化する。従って、金属捕捉成分を移動性金属汚染物質のスカベンジャーとして機能させることで、そのような汚染物質が触媒的活性成分の分解中心に届くことを防止し、触媒混合物中の不動態化剤/捕捉剤の濃度が所望の触媒活性と変性率、好ましくは少なくとも55%の変性率を維持するように調整される本発明の不動態化剤/捕捉剤は、特にあるレベルの金属汚染物質(例えばNi及び/又はV)を含む油供給原料を分解するために有効である。その油原料は、約0.1ppmのニッケル及び/又は0.1ppmのバナジウムから約200ppmの金属汚染物質(ニッケル、バナジウム及び/又はそれら混合物)の範囲の濃度を持つものである。しかし、FCC分解の間、FCC触媒に蓄積する金属汚染物質の量が、ニッケル、バナジウム及び/又はそれら混合物を含む金属汚染物質として最少300ppmから高くても40000ppmになることに注意すべきである。
【0041】
<担体>
不活性担体支持材料は、金属不動態化剤/捕捉剤を保持するために使用される。担体支持材料は、特に限定はされないが、(i)インサイチュFCC含有ゼオライト、(ii)焼成カオリン、(iii)アルミナ又は(iv)シリカから選択される。シリカを使用した場合、熱安定性付与のためジルコニウムを添加することができる。Sasol社製のPuralox(登録商標)のようなアルミナも有効である。微粒子の態様の焼成カオリンが好ましい。現状の発明で使用されうる担体の製造方法は、ここで参照された米国特許第7678735号に共通して選定される。使用される担体の量は、触媒混合物の約1質量%以上99質量%以下、好ましくは5質量%以上95質量%以下である。担体は、好ましくは、約5m/g以上200m/g以下の表面積を有する。
【0042】
<本発明の組成物の調整(含浸)>
RSbM金属不動態化剤/捕捉剤は、通常、1)担体をアンチモン溶液に含浸させ、2)担体微粒子の細孔容積の一部だけが充填されるように、前記1)の処理済担体を酸化還元元素溶液に含浸させ、そして、3)細孔容積の残りの部分を濃水酸化アンモニウム溶液で充填させることで作製される。塩化アンチモン又は三酸化アンチモンがアンチモン溶液の作製に使用することができる
【0043】
使用されるアンモニアの量は、通常、窒素と塩素の合算と等しい。これは、初期の湿潤容積(incipient wetness volume)で、微粒子内部の溶解金属の沈殿と中性のpHとをもたらす。混入した硝酸アンモニウム塩は、乾燥させると爆発性となりうる。従って、含浸された微粒子を、約30分間反応させ、脱イオン水と懸濁させ、ろ過、洗浄して塩を除去して、RSbMハイドロゲルを微粒子中に残すべきである。水酸化物混合物を次いで焼成することができる。プロモータ(M)を使用する場合、プロモーターを、第2の含浸中、又は第3の含浸のアンモニア溶液中で、酸化還元元素と結合させることで、各溶液が完全に溶解(fully dissolved)して残り、酸及び塩基性の両方の溶液に浸漬後は、中性となるように相対的に等価になる。
【0044】
或いは、酸化還元元素は、不活性担体に含浸させる前に、直接アンチモンに添加してもよい。特に、アンチモン構造中への金属カチオンの取り込みは、酸化還元元素の1種以上の金属塩(例えば、硝酸塩、塩化物、酢酸塩)の添加による第2合成工程で実行される。
【0045】
Fe(OAc)2+2Sb+5(OH)O+2HO→Fe+2[Sb+5(OH)O]+2HOAc
【0046】
不動態化剤/捕捉剤は、金属塩の製造工程(カオリン粘土のスプレー乾燥、それに続く焼成)での導入、又は、担体なしのFeとSb塩の共沈殿により作製することもできる。これは、アレン等、アプライドカタリシス Aジェネラル(Appl. Catal. A. Gen.)、217巻、2001年、第31頁を参照のこと。
【0047】
<適用>
上述した方法に従い、反応温度は少なくとも約900°F(482℃)とする。上限は約1100°F(593.3℃)以上である。好ましい温度範囲は、約950°F以上1050°F以下(510℃以上565.6℃以下)である。反応全圧は、幅広く変化させることが可能であり、例えば、約5psig以上50psig以下(0.34気圧以上3.4気圧以下、34.45kPa以上344.51kPa以下)又は、好ましくは約20psig以上約30psig以下(1.36気圧以上 2.04気圧以下、137.80kPa以上206.70kPa以下)である。最大ライザー滞在時間は約5秒であり、ほとんどの原料油用には、滞在時間は約1秒から約2.5秒、又はそれ以下である。芳香族量が多い高分子量原料油用には、約0.5秒から約1.5秒の滞在時間が適しており、これにより、容易に分解され、高いガソリン収量をもたらす芳香族であるモノ‐及びジ‐芳香族及びナフタレンは分解されるものの、高収量のコークスとCと軽質ガス(lighter gase)を生成するポリ芳香族の分解が明らかに起こる前に作業を終了させることができる。反応器の長さ対直径の比は広く変えることができるが、反応器は高線速度(例えば25フィート/秒以上75フィート/秒、即ち、7.6201m/秒以上22.8603m/秒以下)を付与するために十分延伸される必要があり、このため、長さ対直径の比は、約20以上約25以下が好ましい。反応器は均一な直径を持つことができるし、流路に沿って略一定の速度を維持するために、反応経路に沿って連続したテーパー又は段階的に直径を増加させてもよい。
【0048】
原料中の触媒対炭化水素の重量比は、反応器温度の変化に影響を与えるために変化する。更に、再生触媒の温度が高い程、与えられた反応温度を得るために必要な触媒が少なくなる。従って、高再生触媒温度は、以下のような非常に低い反応器密度レベルを可能にし、それにより、反応器での逆混合(back mixing)の防止に寄与する。通常、触媒再生は、約1250°F(676.6℃)以上に昇温した温度で起こる。再生触媒の触媒上炭素(Carbon−on−catalyst)は、約0.6質量%以上約1.5質量%以下から、約0.3質量%程度まで減少する。 通常の触媒対オイル比率では、触媒の量は、所望の触媒作用を達成するのに十分な量よりも多く、そのため、触媒温度が高いと、その比率は、変性を阻害することなく安全に減少させることができる。ゼオライト触媒は、例えば、触媒上の炭素レベルに対し特に敏感なので、触媒上の炭素レベルを所定範囲以下にまで低下させるために昇温した温度で、再生が有利に起こる。更に、触媒の主要機能は、反応器への熱に寄与することなので、いかなる所望の付与反応器温度についても、触媒投入の温度が高い程、触媒の必要量がより少なくなる。触媒投入速度が低い程、反応器中の材料密度が低くなる。上述したように、低反応器密度は逆混合の防止に寄与する。
【0049】
上記触媒混合物は、金属を含有するどの炭化水素原料(油)の接触分解においても使用可能ではあるが、特に、高金属含量原料の処理に有効であることを認識すべきである。通常の原料は、重質軽油又はより重質の原油分画であり、そこでは金属汚染物質が濃縮されている。本発明の触媒混合物を用いた処理に特に適した原料は、大気圧下900°F(484℃)を超える温度で沸騰する脱アスファルト化油(deasphalted oils)、大気圧下約600°F以上約1100°F以下(343℃以上593℃以下)で沸騰する重質軽油(heavy gas oils)、650°Fを超える温度で沸騰する大気圧又は減圧塔底部分(tower bottoms)を含む。
【0050】
金属不動態化剤/捕捉剤は、FCCユニットに添加剤投与機を介してCOプロモーターや他の添加剤と同じ方法で添加することができる。或いは、金属不動態化剤/捕捉剤は、FCCユニットに供給される未使用のFCC触媒と予め混合することもできる。
【0051】
<実施例1>
Fe/Sb混合物を含む不動態化剤/捕捉剤を作製した。
1)アンチモン溶液
50mlビーカー内でSbを適切量計量し、そのビーカーに30mlまで水を入れ、70℃迄加熱した。Hを加え、混合物を70℃で1時間保持した。下記反応が起こった。
【0052】
Sb+2H+HO→2Sb(OH)
【0053】
混合と加熱の結果、乳白コロイダル液が得られた。
【0054】
2)不活性支持体に対するSb水酸化物の取り込み
焼成カオリン支持体をボールに入れ、工程1の溶液の約1/3で湿らせた。支持体を纏め、残り2/3の工程1の溶液で上記工程を繰り返した。湿った支持体をパイレックス(登録商標)製のボールに入れ、支持体を100℃通気オーブンで一晩乾燥させた。
【0055】
3)鉄溶液
50mlビーカーでFe(NO・9HOを計量し、22mlまでビーカーを水で充填し、それらの成分をFe(NO・9HOが溶解するまで混合した。
【0056】
4)工程2で処理済みの不活性支持体を、工程2で示した手順によって、工程3の鉄溶液を浸み込ませた。湿った支持体は、成分を反応させるために室温で約30分間放置し、次いで脱イオン水と懸濁し、ろ過洗浄して、取り込まれていない粒子や塩を除去した。取り込み後の支持体(FeとSbの両方を含むようになった)を、パイレックス(登録商標)製ボールに入れ、100℃通気オーブンで一晩乾燥させた。支持体を室温まで冷却後、支持体を400℃で3時間通気オーブン中で焼成した。
【0057】
<実施例2>
実施例1の工程に従い、多様なFb:Sb比の不動態化剤/捕捉剤を作製した。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
不動態化剤/捕捉剤を、次いで金属化前(pre−metallated)FCC触媒内に取り込んだ。その組合せを、試験の前に、90%蒸気/10%空気の流中で1450°F(787.8℃)で4時間蒸した。
【0062】
【表4】
【0063】
【表5】
【0064】
<実施例3>
プロモーターを含む金属不動態化剤/捕捉剤を作製した。
【0065】
1) 2.5%Sb:2.5%Fe:1%MnOの焼成カオリンへの取り込み
先ず、3.91gのSbClを、25mlの脱イオンHOと15mlのHCl(37%)に溶解させ、次いで、12.62gのFe(N0・9H0と3.53gのMn(N0・4HOを混合した。この混合物40mlを100gの焼成カオリンに加え、十分混合し、焼成カオリンを100℃で一晩(16時間)乾燥させた。取り込み後の担体を更に400℃3時間大気中で焼成した。収量%は、Fe,が3.0862%、MnOが1.0944%、Sbが2.2779%であった。
【0066】
2) 2.5%Sb:2.5%Fe:1%WOの焼成カオリンへの取り込み
先ず、3.91gのSbClを、10mlのHCl(37%)と20mlの脱イオンHOとに溶解させ、次いで、1.52gのメタタングステン酸アンモニウムと5mlのHClを添加し、更に、12.65gのFe(NO・9HOを添加した。この混合物30mlを100gの焼成カオリンに加え、十分混合し、焼成カオリンを100℃で一晩(16時間)乾燥させた。取り込み後の担体を更に400℃3時間大気中で焼成した。収量%は、Fe,が3.37%、WOが1.22%、Sbが2.68%であった。
【0067】
3) 2.5%Sb:2.5%Fe:1%ZnOの焼成カオリンへの取り込み
先ず、3.91gのSbClを、20mlのHCl(37%)と15mlの脱イオンHOとに溶解させ、次いで、12.62gのFe(NO・9HOと3.62gのZn(NOを添加した。この混合物35mlを100gの焼成カオリンに加え、十分混合し、焼成カオリンを100℃で一晩(16時間)乾燥させた。取り込み後の担体を更に400℃3時間大気中で焼成した。収量%は、Fe,が3.18%、ZnOが0.84%、Sbが2.63%であった。
【0068】
4) 2.5%Sb:2.5%Fe:1%SnOの焼成カオリンへの取り込み
先ず、3.91gのSbClを、10mlのHCl(37%)に溶解させ、次いで、12.65gのFe(NO・9HOと1.675gのSnCl・2HOを添加し、20mlの脱イオンHOを補充した。この混合物30mlを100gの焼成カオリンに加え、十分混合し、焼成カオリンを100℃で一晩(16時間)乾燥させた。取り込み後の担体を更に400℃3時間大気中で焼成した。収量%は、Fe,が2.78%、SnOが0.743%、Sbが2.65%であった。
【0069】
5) 2.5%Sb:2.5%Fe:1%MoOの焼成カオリンへの取り込み
先ず、3.91gのSbClを、20mlの脱イオンHOと10mlのHCl(37%)に溶解させ、次いで、12.65gのFe(NO・9HOと1.43gの(NHMoOを添加した。この混合物30mlを100gの焼成カオリンに加え、十分混合し、焼成カオリンを100℃で一晩(16時間)乾燥させた。取り込み後の担体を更に400℃3時間大気中で焼成した。収量%は、Fe,が3.03%、MoOが1.36%、Sbが2.59%であった。
【0070】
<実施例4>
適量のニッケル及びシクロヘキサンを添加し、混合し、空気乾燥のためコーディエライトトレイに注ぎ、315℃で燃焼させ、更に595℃で焼成することで、サンプルJ、K中のFlex−Tecを3000ppmのニッケルで金属化した。不動態化剤/捕捉剤は金属化前(pre−metallated)FCC触媒に取り込んだ。その組合せを、試験前に1450°F(787.8℃)で4時間、90%蒸気10%空気条件で蒸した。
【0071】
水素収量は、ACE流動層(fluid−bed)炭化水素分解ユニット上で、炭化水素油供給原料を用いて測定した。触媒の多様な変性率における、サンプルKの水素収量(質量%)は15%であって、サンプルJ、コントロールサンプルより低いことが、図1から分かる。
【0072】
サンプルL、MのFlex−Tecは、適量のバナジウム及びシクロヘキサンを添加し、混合し、空気乾燥のためコーディエライトトレイに注ぎ、315℃で燃焼させ、更に595℃で焼成して、3000ppmのバナジウムを含有するように金属化させた。不動態化剤/捕捉剤を金属化前FCC触媒に取り込んだ。その組合せを、試験前に1450°F(787.8℃)で4時間、90%蒸気10%空気条件で蒸した。
【0073】
水素収量を、ACE流動層炭化水素分解ユニット上で、炭化水素油供給原料を用いて測定した。触媒の多様な変性率における、サンプルMの水素収量(質量%)は20%であって、サンプルJ、コントロールサンプルより低いことが、図2から分かる。
【0074】
適量のバナジウム、ニッケル及びシクロヘキサンを添加し、混合し、空気乾燥のためコーディエライトトレイに注ぎ、315℃で燃焼させ、更に595℃で焼成することで、サンプルN、O、P、Q及びR中のFlex−Tecを3000ppmのニッケルと3000ppmのバナジウムで金属化した。抽出された炭化水素の比率と、炭化水素収量の量を、ACE流動層炭化水素分解ユニット上で、炭化水素油供給原料を用いて測定した。表6に、サンプルP及びTの75%変性率における炭化水素収量を示す。
【0075】
【表6】
【0076】
所望の製品(ガソリン、LPG)の収量が増加しながらも、H及びコークスが顕著に減少(>30%)することが分かる。図3は、サンプルR、Q、P、O、Nの70%変性率対H収量を基に作図したものである。図3では、Fe/Sb不動態化剤/捕捉剤量が増加するに従い(サンプルN,O、P、Q)、H収量が、ついにはコントロール(サンプルR)から約28%減少したことが分かる。
図1
図2
図3