【文献】
田中亮、他,(001)3C−SiC自立結晶上への溶液成長における多形変化, 第69回応用物理学会学術講演会講演予稿集,日本,2008年 9月 2日
【文献】
田中亮、他,3C−SiC種結晶上への溶液成長と成長面による結晶多形変化,日本金属学会講演概要,日本,2007年 3月27日,第140回
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の成長工程における3C−SiC結晶の{111}面に垂直な方向への3C−SiC単結晶の成長速度は、前記第1の成長工程における3C−SiC結晶の{100}面に垂直な方向への3C−SiC単結晶の成長速度よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の液相成長方法。
前記第2の成長工程における3C−SiC結晶の{100}面に垂直な方向への3C−SiC単結晶の成長速度は、前記第2の成長工程における3C−SiC結晶の{111}面に垂直な方向への3C−SiC単結晶の成長速度よりも大きいことを特徴とする請求項1または2に記載の液相成長方法。
前記第2の成長工程における3C−SiC結晶の{100}面に垂直な方向への3C−SiC単結晶の成長速度は、前記第1の成長工程における3C−SiC結晶の{100}面に垂直な方向への3C−SiC単結晶の成長速度よりも大きいことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の液相成長方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に説明する実施例の主要な特徴を列記しておく。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【0009】
(特徴1)不活性ガス中の窒素の含有率が、体積比率において0.2%以上であってもよい。上記の構成によると、結晶成長した3C−SiC結晶の表面粗さが大きくなることを抑制することができる。これにより、結晶成長した3C−SiC結晶の表面粗さを、種結晶の表面粗さに近づけることが可能となる。
【0010】
(特徴2)液相成長方法は、窒素を含有しない不活性ガスの雰囲気中で種結晶をSiC溶液に接触させる第2の成長工程を備えていてもよい。第1の成長工程の前に前記第2の成長工程を実施してもよい。上記の構成によると、第2の成長工程後に第1の成長工程を実施することで、3C−SiC結晶の表面粗さが大きくなることを抑制することができる。これにより、第2の成長工程で結晶成長した3C−SiC結晶の表面粗さを、種結晶の表面粗さに近づけることが可能となる。
【0011】
(特徴3)第1の成長工程における3C−SiCの{111}面に垂直な方向への3C−SiC単結晶の成長速度は、第1の成長工程における3C−SiCの{100}面に垂直な方向への3C−SiC単結晶の成長速度よりも大きくてもよい。上記の構成によると、結晶成長した3C−SiC結晶の表面粗さが大きくなることを抑制することができる。これにより、結晶成長した3C−SiC結晶の表面粗さを、種結晶の表面粗さに近づけることが可能となる。
【0012】
(特徴4)第2の成長工程における3C−SiCの{100}面に垂直な方向への3C−SiC単結晶の成長速度は、第2の成長工程における3C−SiCの{111}面に垂直な方向への3C−SiC単結晶の成長速度よりも大きくてもよい。上記の構成によると、3C−SiC結晶の{100}面の成長を阻害することが無い。
【0013】
(特徴5)第2の成長工程における3C−SiCの{100}面に垂直な方向への3C−SiC単結晶の成長速度は、第1の成長工程における3C−SiCの{100}面に垂直な方向への3C−SiC単結晶の成長速度よりも大きくてもよい。上記の構成によると、結晶成長した3C−SiC結晶の表面粗さが大きくなることを抑制することができる。これにより、結晶成長した3C−SiC結晶の表面粗さを、種結晶の表面粗さに近づけることが可能となる。
【0014】
(特徴6)第2の成長工程では、種結晶の表面に、3C−SiCの{100}面を頂面として備え、3C−SiCの{111}面を側面として備える島状の3C−SiC単結晶が複数成長してもよい。第1の成長工程では、複数の島状の3C−SiC単結晶の間に形成されている空間の少なくとも一部が消失するように、島状の3C−SiC単結晶が成長してもよい。上記に構成によると、3C−SiC単結晶の間に形成される空間の一部が消失することで、結晶成長した3C−SiC結晶の表面粗さが大きくなることを抑制することができる。これにより、結晶成長した3C−SiC結晶の表面粗さを、種結晶の表面粗さに近づけることが可能となる。
【0015】
(第1実施例)
本願の実施例について図面を参照しながら説明する。
図1に、本実施例に係る3C−SiC結晶製造装置(以下では結晶製造装置と略称する)1を示す。結晶製造装置1は、坩堝10を備える。坩堝10は、炭素を含有する材質によって形成されている。坩堝10の材質としては、黒鉛やSiCが挙げられる。坩堝10は坩堝台11の上に配置されている。坩堝台11は回転させることが可能である。坩堝10は、坩堝蓋14により密閉することができる。坩堝10の外周は、保温のために断熱材12で覆われている。断熱材12の外周には、多重螺旋構造を有する常伝導コイル13が配置されている。常伝導コイル13は、坩堝10を誘導加熱するための装置である。常伝導コイル13には、不図示の高周波電源が接続されている。坩堝10、断熱材12、常伝導コイル13は、チャンバ15の内部に配置される。チャンバ15は、吸気口16と排気口17とを備える。
【0016】
坩堝10内にはシリコン溶液22が保持されている。シリコン溶液22は、シリコンを融解して得られた融液を主成分とする溶液である。坩堝10の上方には、保持治具18が備えられている。保持治具18の先端部には、坩堝10と対向するように、3C−SiC種結晶25が取付けられている。保持治具18は、昇降させることが可能である。また保持治具18は、黒鉛によって形成されている。
【0017】
本実施例に係る3C−SiC結晶の成長方法を説明する。本実施例では、3C−SiC結晶の(100)面が表出している3C−SiC結晶を、3C−SiC種結晶25として用いる。まず、ステップS2において、3C−SiC結晶の(100)面が坩堝10と対向するように、3C−SiC種結晶25を保持治具18の先端部に固定する。
【0018】
次いで、ステップS4において、窒素を含有する不活性ガスを、吸気口16からチャンバ15内に供給する。不活性ガスの一例としては、ヘリウムが挙げられる。不活性ガス中の窒素の含有率は、体積比率において0.2%以上であることが好ましい。さらに好ましくは、窒素の含有率は、1%程度がよい。なお、窒素の含有率が0.1%の場合には、本明細書で説明している技術の効果を得ることができなかった。
【0019】
次いで、ステップS6において、シリコン溶液22を生成する。具体的には、内部にシリコンを含む原料がセットされた坩堝10を、結晶製造装置1の坩堝台11に載置する。そして常伝導コイル13へ所定周波数の交流電流を流すことにより、坩堝10を誘導加熱する。また、坩堝台11を所定回転数で回転させる。加熱温度は、融液となる材料が融解する温度以上とされる。これにより、シリコン原料が溶解し、シリコン溶液22が生成される。また、坩堝10の溶解によって、シリコン溶液22中にカーボンを供給することができる。
【0020】
次いで、ステップS8において、3C−SiC結晶を3C−SiC種結晶25の表面上に成長させる。ステップS8では、窒素を含有する不活性ガス雰囲気中で、保持治具18を坩堝10の上方から坩堝10内部へ降下させ、3C−SiC種結晶25の(100)面が表出している面をシリコン溶液22に浸漬させる。このとき、常伝導コイル13を制御することで、坩堝10内に温度差を作る。具体的には、3C−SiC種結晶25近傍の温度を、他の空間よりも低温にする。これにより、シリコン溶液22内の3C−SiC種結晶25近傍のSiC濃度が上がり、SiCが過飽和状態になる。この結果、3C−SiC種結晶25の表面に3C−SiC結晶26が成長する。なお、窒素を含有する不活性ガス雰囲気中での成長工程を、「第1の成長工程」と呼ぶ場合がある。
【0021】
3C−SiC結晶の晶相について、
図3〜6を用いて説明する。晶相とは、結晶の外観の形状のことである。同じ結晶構造・結晶面数を持つ結晶であっても、それぞれの結晶面の成長速度の違い(異方性)によって、晶相の異なった結晶が形成される。
図3に示すように、窒素を含有しない不活性ガス雰囲気中では、3C−SiC結晶の晶相は、多面体になる。なお、
図3では、3C−SiC結晶の{100}面をA、3C−SiC{111}面をBとして表している。
【0022】
図4に、3C−SiC結晶26を成長させた後の3C−SiC種結晶25の、一部断面図を示す。
図4に示すように、窒素を含有しない不活性ガス雰囲気中で3C−SiC結晶を成長させた場合、3C−SiC種結晶25上には、3C−SiC結晶の(100)面を頂面26aとして備え、3C−SiC結晶の{111}面を側面26bとして備える島状の3C−SiC結晶26が、複数成長する。これは、3C−SiC結晶の晶相が、
図3に示す多面体の形状を有するためである。このため、3C−SiC結晶の{111}面を側壁として有する溝部27が、複数形成されてしまう。その結果、3C−SiC結晶26の表面粗さは、3C−SiC種結晶25の表面粗さよりも大きくなる。
【0023】
一方、
図5に示すように、所定量の窒素を含有する不活性ガス雰囲気中では、3C−SiC結晶の晶相は、立方体になる。なお、
図5では、3C−SiC結晶の{100}面をAとして表している。即ち、3C−SiC結晶は、3C−SiC結晶の{100}面のみで構成される。
【0024】
図6に、3C−SiC結晶26を成長させた後の3C−SiC種結晶25の、一部断面図を示す。
図6は、所定量の窒素を含有する不活性ガス雰囲気中で、3C−SiC結晶を成長(ステップS8)させた場合の断面図である。3C−SiC種結晶25上には、3C−SiC結晶の(100)面を表面26cとして備える3C−SiC結晶26が成長する。これは、3C−SiC結晶の晶相が、
図5に示す立方体の形状を有するためである。このため、
図4に示すような溝部27が形成されてしまうことがない。その結果、3C−SiC結晶26の表面粗さを、3C−SiC種結晶25の表面粗さと同程度にすることができる。
【0025】
不活性ガス中の窒素の有無による3C−SiC結晶の晶相の変化について説明する。不活性ガス中の窒素は、シリコン溶液22に溶け込む。シリコン溶液22に溶け込んだ窒素は、3C−SiC結晶26の炭素原子の位置に入り込む(ドープする)場合がある。これにより、3C−SiC結晶の{100}面の成長速度と{111}面の成長速度との比率が変化すると考えられる。この結果、3C−SiC結晶の晶相が変化すると考えられる。
【0026】
(第1実施例の効果)
本実施例の液相成長法では、窒素を含有する不活性ガス雰囲気中で、3C−SiC結晶の結晶成長を実施している。上述のように、不活性ガス中の窒素は、SiC結晶の炭素原子の位置にドープする場合がある。窒素原子は炭素原子に比べて原子半径が小さい。このため、SiC結晶に窒素をドープさせると格子定数が縮むことになる。これにより、種結晶の格子定数と成長結晶の格子定数との間に差異が生じる。この結果、結晶の歪みが生じるため、成長結晶に貫通転位が発生してしまう場合がある。このため、通常は、窒素を含有する不活性ガスを、液相成長法での雰囲気ガスとしては使用しない。しかしながら本願発明者らは、不活性ガスに所定量の窒素を含有することで、3C−SiC結晶の晶相が、3C−SiC{100}面のみで形成される立方体になることを発見した。このため、所定量の窒素を含有する不活性ガス雰囲気中で3C−SiC結晶成長を実施すると、成長した3C−SiC結晶の表面は、3C−SiC結晶の{100}面で形成される。この結果、成長させた3C−SiC結晶の表面粗さが種結晶の表面粗さよりも大きくなってしまうことを抑制することができる。
【0027】
(第2実施例)
第2実施例の3C−SiC結晶の結晶成長方法を説明する。なお、結晶製造装置1は、第1実施例と共通するため、説明を省略する。第2実施例では、窒素を含有していない不活性ガス雰囲気中で3C−SiC結晶を成長させる工程が、追加されている。窒素を含有しない不活性ガス雰囲気中での成長工程を、「第2の成長工程」と呼ぶ場合がある。
【0028】
図7に示すように、まずステップS22において、坩堝10と対向するように、3C−SiC種結晶25を保持治具18の先端部に固定する。
図8に、3C−SiC種結晶25の表面近傍の一部断面図を示す。3C−SiC種結晶25の表面は、(100)面である。3C−SiC種結晶25の表面には、結晶欠陥D1〜D3が表出している。
【0029】
次いでステップS24において、窒素を含有しない不活性ガスを、吸気口16からチャンバ15内に供給する。
【0030】
ステップS26において、シリコン溶液22を作成する。ステップS26では、第1実施例のステップS6と同一の処理を実施する。次いで、ステップS28において、窒素を含有しない不活性ガス雰囲気中で、3C−SiC結晶を3C−SiC種結晶25の表面上に成長させる(第2の成長工程)。ステップS28での処理内容は、窒素を含有しない不活性ガスを用いる点を除いて、第1実施例のステップS8の処理内容と同様である。よって、ここでは説明を省略する。
【0031】
図9を用いて、ステップS28(第2の成長工程)における3C−SiC結晶の成長態様について説明する。窒素を含有しない不活性ガス雰囲気中では、3C−SiC結晶126の{111}面は、3C−SiC結晶126の(100)面よりも安定している。このため、3C−SiC結晶126の(100)面と垂直方向への3C−SiC結晶126の成長速度(以下、第1成長速度V1とする)は、3C−SiC結晶126の{111}面と垂直方向への3C−SiC結晶126の成長速度(以下、第2成長速度V2とする)よりも大きい。この結果、
図9に示すように、3C−SiC種結晶25には、3C−SiC結晶の(100)面を頂面126aとして備え、3C−SiC結晶の{111}面を側面126bとして備える島状の3C−SiC結晶126が、複数成長する。このため、3C−SiC結晶の{111}面を側壁として有する溝部127が、複数形成されてしまう。
その結果、3C−SiC結晶126の表面粗さは、3C−SiC種結晶25の表面粗さよりも大きくなる。
【0032】
また第2の成長工程では、3C−SiC種結晶25の表面に表出していた結晶欠陥D1〜D3を引き継ぐように、3C−SiC結晶126が成長する。よって、3C−SiC結晶126中にも結晶欠陥D1〜D3が形成される。
【0033】
ステップS30において、吸気口16から窒素を含有した不活性ガスをチャンバ15内に供給する。ステップS32において、窒素を含有した不活性ガス雰囲気中で、3C−SiC結晶を3C−SiC種結晶25の表面上に成長させる(第1の成長工程)。ステップS32での処理内容は、第1実施例のステップS8の処理内容と同様である。よって、ここでは説明を省略する。
【0034】
ステップS32(第1の成長工程)における、3C−SiC結晶126の成長態様について説明する。上述のように、窒素を含有する不活性ガス雰囲気中では、3C−SiC結晶126の炭素原子の位置に窒素がドープする。これにより、第1成長速度V1と第2成長速度V2に変化が生じる。ここでステップS30では、第1成長速度V1が第2成長速度V2よりも小さくなるように、不活性ガス中の窒素の含有率を調整している。このため、
図10に示すように、ステップS32では、溝部127が消失するように、3C−SiC結晶126が成長する。即ち、溝部127の側壁同士が互いに近づくように3C−SiC結晶126が成長し、最終的には側壁同士が結合する。この結果、
図11に示すように、最終的に平坦な表面126cを有する3C−SiC結晶126を成長させることができる。
【0035】
また第1の成長工程では、結晶欠陥D1は、3C−SiC結晶126の成長とともに伸びていく。そして
図10の領域R1に示すように、結晶欠陥D1の成長は、結晶欠陥D1に対向する側壁に結晶欠陥D1が到達することで、停止する。この結果、
図11の領域R2に示すように、結晶欠陥D1の先端部分を、3C−SiC結晶126の内部に留まらせることができる。3C−SiC結晶126の表面126cに、結晶欠陥D1が表出してしまうことを防止できる。また結晶欠陥D2およびD3についても、結晶欠陥D1と同様の原理によって、3C−SiC結晶126の表面126cに表出してしまうことを防止できる。
【0036】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0037】
上記の各実施例では、第1の成長工程中に不活性ガスに含まれる窒素の含有率は一定である。しかしながら、第1の成長工程中に不活性ガスに含まれる窒素の含有率を変化させてもよい。例えば、3C−SiC結晶が成長するにつれて、不活性ガス中の窒素の含有率を徐々に高く変化させる、または低く変化させてもよい。
【0038】
上記の各実施例では、3C−SiC結晶の(100)面が表出している3C−SiC結晶を、3C−SiC種結晶25として用いている。しかしながら、3C−SiC結晶の(100)面と等価な面方位が表出している3C−SiC結晶を3C−SiC種結晶25として用いてもよい。例えば、3C−SiC結晶の(010)面や(001)面などが表出している3C−SiC結晶である。即ち、3C−SiC結晶の{100}面が表出する3C−SiC結晶であってもよい。
【0039】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。