(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ステータコアのスロットに整列配置されるコイルであって、平角線からなるものにおいて、前記スロットの外部に突出するコイルエンド部のうち、少なくとも異相のコイルどうしが近接する箇所において、ベース絶縁層の上に付加絶縁層が設けられ、
前記コイルエンド部の形状は、前記ステータコアの軸方向における先端に向けてコイルの厚みが薄肉となる扁平形状であることを特徴とするコイル。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1は、回転電機のコイルおよびその製造方法に関する発明で、体格増大を招くことなく信頼性及び冷却性の向上を実現できる回転電機のコイルおよびその製造方法を提供することができるメリットがある。
しかし上記特許文献1は、絶縁被膜を備える導線を屈曲させてセグメントコイルを形成する構成であることから、曲げ加工時に絶縁被膜に加工ストレスが負荷されることで絶縁被膜に劣化が生じる可能性があるという問題があった。
【0005】
そこで本発明は上記従来における問題点を解決し、ステータコアのスロットに整列配置されるコイルにおいて、良好な放熱性と高占積率とを実現することができると共に、絶縁被膜に劣化が生じることを効果的に防止することができるコイル、該コイルを用いてなるステータ及び前記コイルの製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のコイルは、ステータコアのスロットに整列配置されるコイルであって、平角線からなるものにおいて、前記スロットの外部に突出するコイルエンド部
のうち、少なくとも異相のコイルどうしが近接する箇所において、ベース絶縁層の上に付加絶縁層が設けられたことを第1の特徴としている。
【0007】
上記本発明の第1の特徴によれば、コイルは、ステータコアのスロットに整列配置されるコイルであって、平角線からなるものにおいて、前記スロットの外部に突出するコイルエンド部は、前記ステータコアの径方向におけるコイルの厚みに、前記ステータコアの軸方向に沿って厚薄を設けたことから、コイルをステータコアのスロットに整列配置させた際に、相内及び相間において隣接するコイル間に効果的に隙間を設けることができる。
よって相内及び相間において隣接するコイル間に冷媒の流路を効果的に形成することができ、放熱性の良好なステータを形成することができるコイルとすることができる。
また平角線でコイルを形成することで、ステータコアのスロット内における占積率を効果的に向上させることができ、高効率なステータを形成することができるコイルとすることができる。
【0008】
また本発明のコイルは、上記本発明の第1の特徴に加えて、前記コイルエンド部の形状は、前記ステータコアの軸方向における先端に向けてコイルの厚みが薄肉となる扁平形状であることを第2の特徴としている。
【0009】
上記本発明の第2の特徴によれば、上記本発明の第1の特徴による作用効果に加えて、前記コイルエンド部の形状は、前記ステータコアの軸方向における先端に向けてコイルの厚みが薄肉となる扁平形状であることから、コイルをスタータコアのスロットに整列配置させた際に、相内及び相間における隣接するコイル間でステータコアの軸方向における先端ほど広い隙間を設けることができる。よって相内及び相間における隣接するコイル間で冷媒の流路を一段と効果的に形成することができる。またコイルエンド部を形成するコイルの表面積を効果的に増大させることができる。
よって一段と放熱性の良好なステータを形成することができるコイルとすることができる。
【0010】
また本発明のコイルは、上記本発明の第1
及び第2の特徴に加えて、前記コイルは、セグメントコイルであることを第3の特徴としている。
【0011】
上記本発明の第3の特徴によれば、上記本発明の第1
及び第2の特徴による作用効果に加えて、前記コイルは、セグメントコイルであることから、ステータコアのスロット内に容易に整列配置させることができるコイルとすることができる。よってステータの組み立て作業の効率化を実現可能なコイルとすることができる。
【0012】
また本発明のステータは
、第3の特徴を備えたコイルをステータコアのスロットに複数整列配置させてなることを第4の特徴としている。
【0013】
上記本発明の第4の特徴によれば、ステータは
、第3の特徴を備えたコイルをステータコアのスロットに複数整列配置させてなることから、良好な放熱性とステータコアのスロット内における高占積率とを実現することができると共に、製造効率の良いステータとすることができる。
【0014】
また本発明のステータは、上記本発明の第4の特徴に加えて、前記複数のコイルにおける隣接するコイルエンド部間には、無機材料を含む高放熱性固形物を充填してあることを第5の特徴としている。
【0015】
上記本発明の第5の特徴によれば、上記本発明の第4の特徴による作用効果に加えて、前記複数のコイルにおける隣接するコイルエンド部間には、無機材料を含む高放熱性固形物を充填してあることから、一段と良好な放熱性を実現可能なステータとすることができる。
【0016】
また本発明のコイルの製造方法は、
ステータコアのスロットに整列配置されるコイルの製造方法であって、少なくとも平角線からなる素線を屈曲させてコイル体を形成するコイル体形成工程と、該コイル体形成工程の後に前記コイル体のコイルエンド部
を前記ステータコアの軸方向における先端に向けてコイルの厚みが薄肉となる扁平形状になるように加工するコイルエンド部加工工程と、該コイルエンド部加工工程の後に前記コイル体の表面に絶縁物を被覆させて絶縁層を形成する絶縁層形成工程とからなることを第6の特徴としている。
【0017】
上記本発明の第6の特徴によれば、コイルの製造方法は、請求項1に記載のコイルの製造方法であって、少なくとも平角線からなる素線を屈曲させてコイル体を形成するコイル体形成工程と、該コイル体形成工程の後に前記コイル体のコイルエンド部を、ステータコアの径方向におけるコイル体の厚みにおいて、ステータコアの軸方向に沿って厚薄を設けるように加工するコイルエンド部加工工程と、該コイルエンド部加工工程の後に前記コイル体の表面に絶縁物を被覆させて絶縁層を形成する絶縁層形成工程とからなることから、コイルエンド部加工工程を備えることで、コイルをステータコアのスロットに整列配置させた際に、相内及び相間において隣接するコイル間に効果的に隙間を設けることができる。
よって相内及び相間において隣接するコイル間に冷媒の流路を効果的に形成することができ、放熱性の良好なステータを形成することができるコイルの製造方法とすることができる。
また平角線でコイルを形成することで、ステータコアのスロット内における占積率を効果的に向上させることができるコイルとすることができる。
またコイル体形成工程と、コイルエンド部加工工程とを行った後に絶縁層形成工程を設ける構成とすることで、絶縁層に曲げ加工等の加工ストレスが負荷されることがない。よって特にコイルの製造段階において絶縁層に劣化が生じることを効果的に防止することができる。よって良好な絶縁性を維持することができると共に、歩留まりが良好なコイルの製造方法とすることができる。
【0018】
また本発明のコイルの製造方法は、上記本発明の第6の特徴に加えて、前記絶縁層形成工程は、前記コイル体に絶縁物を一体的に被覆させてベース絶縁層を形成するベース絶縁層形成工程と、該ベース絶縁層形成工程の後に前記コイルエンド部のうち、少なくとも異相のコイルどうしが近接する箇所
において前記ベース絶縁層の上に絶縁物を付加的に被覆させて付加絶縁層を形成する付加絶縁層形成工程とからなることを第7の特徴としている。
【0019】
上記本発明の第7の特徴によれば、上記本発明の第6の特徴による作用効果に加えて、前記絶縁層形成工程は、前記コイル体に絶縁物を一体的に被覆させてベース絶縁層を形成するベース絶縁層形成工程と、該ベース絶縁層形成工程の後に前記コイルエンド部の所定領域に絶縁物を付加的に被覆させて付加絶縁層を形成する付加絶縁層形成工程とからなることから、絶縁層の厚みにバリエーションを持たせることができると共に、製造コストを効果的に抑えることができるコイルの製造方法とすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のコイルによれば、ステータコアのスロットに整列配置されるコイルにおいて、良好な放熱性と高占積率とを実現することができる。
また本発明のステータによれば、良好な放熱性と高占積率とを実現することができると共に、製造効率の良いステータとすることができる。
また本発明のコイルの製造方法によれば、良好な放熱性と高占積率とを実現することができるコイルの製造方法とすることができる。
また特にコイルの製造段階において絶縁層に劣化が生じることを効果的に防止することができるコイルの製造方法とすることができる。よって良好な絶縁性を維持することができると共に、歩留まりが良好なコイルの製造方法とすることができる。
また絶縁層の厚みにバリエーションを持たせることができると共に、製造コストを効果的に抑えることができるコイルの製造方法とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下の図面を参照して、本発明の実施形態に係るコイル12、該コイル12を用いてなるステータ10、該ステータ10を用いてなるモータ1及び前記コイル12の製造方法を説明し、本発明の理解に供する。しかし、以下の説明は本発明の実施形態であって、特許請求の範囲に記載の内容を限定するものではない。
【0023】
まず
図1、
図2を参照して、本発明の実施形態に係るモータ1を説明する。
【0024】
本発明の実施形態に係るモータ1は、後述するステータ10と、図示しないロータとから構成される。
また
図1、
図2に示すように、このモータ1は、インバータ制御によりスイッチングされた電力が供給されるPWM駆動(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)の3相式モータである。具体的には
図2に示すように、バッテリー2からの電力が、その電圧をリレー3及び昇圧コンバータ4により上げられ、スイッチング素子を備えるインバータ制御部5を経て、高圧ケーブル6と接続された図示しないU相、V相、W相の入力端子を経てモータ1に供給される。また
図1に示すように、U相、V相、W相は、直列接続された4本の巻回コイルを1対並列接続させた構成である。
【0025】
なおスイッチング素子としては、縦型MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、横型デバイス、サイリスタ、GTO(Gate Turn−Off Thyristor)、バイポーラトランジスタ、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等、任意のスイッチング素子を用いることができる。
【0026】
次に
図3〜
図6も参照して、本発明の実施形態に係るステータ10を更に詳細に説明する。
【0027】
前記ステータ10は、モータ1の固定子であり、
図3、
図4(b)に示すように、ステータコア11と、コイル12とから構成される。
【0028】
前記ステータコア11は
図3に示すように、環状のステータコア本体11aと、
図4(b)に一部を示すように、環状に複数配置されたティース部11bとから構成されている。またティース部11bの両側には複数のスロット部11cが形成され、このスロット部11cにコイル12が収容されることでステータコア11にコイル12が組み付けられる。
【0029】
前記コイル12は、スタータコア11に組み付けられる平角線からなる、いわゆる被覆電線である。より具体的には
図6に示すように、コイル12は導体からなる素線Rと、素線Rを被覆する絶縁物からなる絶縁層Zとから構成される。
また本実施形態においては
図4(a)に示すように、コイル12として、平角線からなる被覆電線の形状を略U字状とする、いわゆるセグメントコイルを用いる構成としてある。
また
図4(b)に示すように、コイル12は、主としてスロット部11c内に収容される直線状の1対のスロット収容部Sと、スロット部11cの外部に突出されてコイル12の端部を形成する1対のコイルエンド部Eとを備える。
更に
図4に示すように、1対のコイルエンド部Eの一方(本実施形態においては下側)には同一相内のコイル12間を接続するための端子部Tを形成してある。また図示していないが、端子部Tと反対側のコイルエンド部Eには、隣接するスロット部11cに収容されるコイル12間の接触を回避するために、コイル12を屈曲してなるクランク部を形成してある。
なお
図6(a)に示す素線Rの短手方向の長さCは、1.0mm〜2.0mm程度、より好ましくは1.5mm〜2.0mm程度とすることが望ましい。また
図6(a)に示す素線Rの長手方向の長さDは、2.5mm〜5.0mm程度、より好ましくは3.0mm〜4.0mm程度とすることが望ましい。
【0030】
本実施形態においては、このような構成からなるコイル12が以下に述べる構成でステータコア11に組み付けられている。
つまり
図1に簡略化して示すように、同一のスロット部11cに収容される所定数(本実施形態においては4本)のコイル12が、それぞれの端子部Tで溶接等を用いて接続されることで、4本のコイル12からなる第1巻回コイル12aが形成される。更に
図1に示すように、4本のコイル12からなる第1巻回コイル12a〜第4巻回コイル12dが、それぞれの端子部Tで直列接続されると共に、直列接続される第1巻回コイル12a〜第4巻回コイル12dが1対並列接続されることで、U相が形成される。また詳しくは図示していないが、U相の構成と同様の構成でV相、W相が形成される。
このような構成からなるU相、V相、W相を形成するコイル12が仮組みされた状態で所定のスロット部11cに収容されることで、コイル12が整列配置された状態でステータコア11に組み付けられる。
以上の構成により
図3と、
図4に一部を示すステータ10が形成されている。またこのステータ10と図示しないロータとを組み合わせることでモータ1が形成されている。
また
図1に示すように、U相、V相、W相の各相を構成するコイル12の一端(本実施形態においては第1巻回コイル12a)は、高圧ケーブル6と接続される入力端子12U、12V、12Wとなり、他端(本実施形態においては第4巻回コイル12d)は、中性点12UN、12VN、12WNとなっている。
【0031】
また本実施形態においては、
図5に一部を示すように、コイル12における1対のコイルエンド部Eは、ステータコア11の径方向におけるコイル12の厚みAに、ステータコア11の軸方向で厚薄がある構成としてある。
より具体的には、1対のコイルエンド部Eの形状を、ステータコア11の軸方向における先端に向けてコイル12の厚みAが薄肉となる扁平形状としてある。
なお
図5(a)は1本のコイルにおけるコイルエンド部Eを示す側面図であり、
図5(b)は
図3のA−A線方向における断面図のうち、コイルエンド部Eを拡大して示す図である。
【0032】
また本実施形態においては
図6に示すように、コイル12を形成する絶縁層Zの構成を、スロット収容部Sと、コイルエンド部Eとで異なる構成としてある。
より具体的には、スロット収容部Sにおいては、
図6(a)に示すように、素線Rの表面にベース絶縁層Z1だけを被覆させることで絶縁層Zを形成する構成としてある。これに対してコイルエンド部Eの所定領域においては、
図6(b)に示すように、素線Rの表面にベース絶縁層Z1を被覆させると共に、ベース絶縁層Z1の表面に更に付加絶縁層Z2を被覆させることで絶縁層Zを形成する構成としてある。
つまりコイルエンド部Eの所定領域を構成する絶縁層Zの厚みを、スロット収容部Sを構成する絶縁層Zの厚みよりも厚肉とする構成としてある。
なおここで「コイルエンド部Eの所定領域」とは、「コイルエンド部Eにおいて、隣接するコイル12が近接する領域、より具体的には素線Rの状態で隣接する素線R間の距離が数μm〜数百μm程度となる領域」のことを意味するものとする。
【0033】
なお素線Rは、銅等、コイルを形成する素線として通常用いられるものであれば、如何なるものを用いてもよい。
【0034】
またベース絶縁層Z1の材質としては、ポリアミドイミド、ポリイミド等を用いることができる。またベース絶縁層Z1の厚みはコイルターン間の設計電圧に対応した厚みがあればよく、例えば設計電圧が500Vの場合は、15μm〜30μm程度とすることが望ましく、より好適には15μm〜25μm程度とすることが望ましい。15μm未満では部分放電の発生による皮膜劣化や製造時のピンホール発生確率が増加し、25μmを超えるとスロット内の占積率の低下による発熱増加や外径増大による組み付け性の低下が生じるからである。またその形成方法は、ダイス引き、電着等を用いることができる。なおスロット収容部S及びコイルエンド部Eのベース絶縁層Z1は、同一工程で一体的に形成することができる。
また付加絶縁層Z2の材質としては、ポリアミドイミドやポリイミドを代表とするスーパーエンジニアリングプラスチック材料、或いはエンジニアリングプラスチックに無機フィラーを混合した材料等を用いることができる。またその形成方法としては、粉体塗装、テープの貼り付け、ディップ、スプレー塗装、インサート式射出成形、押し出し成形、熱収縮チューブ等を用いることができる。
またモータ相間の電圧は、インバータサージ等の影響により、入力電圧の約2倍のピーク電圧が印加されることから、付加絶縁層Z2の厚みは、例えば設計電圧が1000Vの場合は、40μm〜200μm程度とすることが望ましく、より好ましくは80μm〜120μm程度とすることが望ましい。40μm未満では部分放電による皮膜劣化が発生し、200μmを超えるとコイルエンドの線間距離増加による寸法増大を招くからである。
【0035】
このような構成からなる本発明の実施形態に係るコイル12、コイル12を用いてなるステータ10、ステータ10を用いてなるモータ1は以下の効果を奏する。
コイル12として平角線を用いる構成とすることで、コイル12をステータコア11のスロット部11cに整列配置させた際に、スロット部11c内の占積率を効果的に高めることができるコイル12とすることができる。よって高効率なステータ10及びモータ1とすることができる。
またコイル12としてセグメントコイルを用いる構成とすることで、ステータコア11のスロット部11c内に容易に整列配置させることができるコイル12とすることができる。よってステータ10の組立て作業の効率化を実現することができる。従って製造効率の良いステータ10及びモータ1とすることができる。
また1対のコイルエンド部Eにおいて、ステータコア11の径方向におけるコイル12の厚みに、ステータコア11の軸方向で厚薄がある構成とすることで、
図5(b)に一部を示すように、コイル12をステータコア11のスロット部11cに整列配置させた際に、相内及び相間において隣接するコイル12間に効果的に隙間Gを設けることができる。
よって相内及び相間において隣接するコイル12間に空気等の冷媒の流路を効果的に形成することができ、放熱性の良好なステータ10及びモータ1を形成することができるコイル12とすることができる。従って良好な放熱性を実現することができるステータ10及びモータ1とすることができる。
またコイルエンド部Eにおける隣接するコイル12間の間隔を効果的に広げることができることで、導体間距離が増大し、或いは電解集中し易い微小ギャップ部が減少してギャップ部での電界強度を効果的に低下させることができ、コイルエンド部Eにおけるコロナ放電の発生を効果的に抑制することができる。よってコロナ放電が発生することでコイルエンド部Eの絶縁層Zが劣化することを効果的に防止することができる。従って良好な絶縁性を維持することができ、高効率なステータ10及びモータ1とすることができる。
更に1対のコイルエンド部Eの形状を、ステータコア11の軸方向における先端に向けてコイル12の厚みAが薄肉となる扁平形状に形成することで、
図5(b)に一部を示すように、コイル12をステータコア11のスロット部11cに整列配置させた際に、相内及び相間において隣接するコイル12間において、ステータコア11の軸方向における先端ほど広い隙間Gを設けることができる。よって相内及び相間において隣接するコイル12間に冷媒が入り込み易い構成とすることができ、冷媒の流路を一段と効果的に形成することができる。またコイルエンド部Eを形成するコイル12の表面積を効果的に増大させることができることで、コイルエンド部Eにおける放熱面積を効果的に増大させることができる。よって一段と放熱性の良好なステータ10を形成することができるコイル12とすることができる。従って一段と良好な放熱性を実現することができるステータ10及びモータ1とすることができる。
またスロット収容部Sにおいては、素線Rの表面にベース絶縁層Z1だけを形成すると共に、絶縁層Z1の厚みを設計電圧が500Vの場合には、15μm〜30μm程度とすることで、スロット部11c内における占積率を効果的に向上させることができるコイル12とすることができる。よって高効率なステータ10及びモータ1とすることができる。
またコイルエンド部Eの所定領域においては、設計電圧が1000Vの場合には、素線Rの表面に厚みが15μm〜30μm程度のベース絶縁層Z1を形成すると共に、ベース絶縁層Z1の表面に更に厚みが40μm〜200μm程度の付加絶縁層Z2を形成することで、隣接するコイル12が近接する領域、より具体的には隣接する素線R間の距離が数μm〜数百μm程度となることでコロナ放電が発生し易く、絶縁層Zの劣化が生じ易い領域において、絶縁層Zに劣化が生じることを効果的に防止することができるコイル12とすることができる。よって良好な絶縁性を維持することができるステータ10及びモータ1とすることができる。
つまりコイル12における絶縁層Zの厚みにバリエーションを持たせることができる。より具体的には、占積率を向上させたいスロット収容部Sでは絶縁層Zの厚みを薄くすることができると共に、コイルエンド部Eにおいてコロナ放電に伴う絶縁劣化を防止したい領域においては絶縁層Zの厚みを厚くすることができる。このような構成とすることで、厚みを厚肉にする必要があるコイルエンド部Eの所定領域の厚みに合わせて素線Rの表面に絶縁層Zを一体的に形成する場合に比べて、製造コストを効果的に抑えることができる。
従ってスロット部11c内における占積率の向上と、絶縁層Zの劣化の防止とを同時に実現することができると共に、製造コストを効果的に抑えることができるコイル12、ステータ10、モータ1とすることができる。
【0036】
つまり
図8(a)に一部を示すように、ステータコア(図示しない)のスロット部(図示しない)に整列配置される従来のコイル7は、1対のコイルエンド部Eにおいて、ステータコアの径方向におけるコイル7の厚みに、ステータコアの軸方向で厚薄があるような構成とするものではなく、素線Rの表面全体に均一な厚みで絶縁層Zを形成することで、厚みに厚薄がないコイル7とする構成であった。
よってこのような構成においては
図8(a)に一部を示すように、コイル7をステータコアのスロット部に整列配置させた際に、相内及び相間において隣接するコイル7間に効果的に隙間Gを設けることができない。またコイルエンド部Eを形成するコイル7の表面積を効果的に増大させることができない。よってコイルエンド部Eにおいて、空気等の冷媒の流路を効果的に形成することができないと共に、放熱面積を増大させることができず、ステータの良好な放熱性を実現することができないという問題があった。
なお
図8(a)は、ステータコア(図示しない)のスロット部(図示しない)に整列配置される従来のコイル7におけるコイルエンド部の断面を示す図である。より具体的には、従来のコイル7が組み付けられてなるステータ(図示しない)を、
図3に示すA−A線と同一切断面で切断した断面図のうち、コイルエンド部の断面を示す図である。
また従来のコイル7においては
図8(b)に示すように、コイル7を形成する絶縁層Zの厚みを、スロット収容部S及びコイルエンド部Eで同一厚みとする構成であった。つまりコロナ放電に伴う絶縁層Zの劣化を防止するために、絶縁層Zの厚みを厚肉にする必要があるコイルエンド部Eの厚みに合わせて素線Rの表面に厚みが均一な絶縁層Zを一体的に形成する構成であった。
よって絶縁層Zの厚みを厚肉にする必要がないスロット収容部Sにおいても絶縁層Zの厚みが厚肉になることで、スロット部における占積率を向上させることができないと共に、製造コストを抑えることができないという問題があった。
【0037】
よって本発明の実施形態に係るコイル12の構成とすることで、良好な放熱性を実現することができる。またスロット部11c内における占積率の向上と、コイルエンド部Eにおける絶縁層Zの劣化防止とを同時に実現することができると共に、製造コストを効果的に抑えることができるコイル12、ステータ10、モータ1とすることができる。
【0038】
次に
図7を参照して、本発明の実施形態に係るコイル12、コイル12を用いてなるステータ10の製造方法を説明する。
【0039】
まず
図7(a)を参照して、絶縁層が形成されていない状態の平角線からなる素線Rを準備する。
次に
図7(b)を参照して、コイル体形成工程により、図示しない折り曲げ治具を用いて平角線からなる素線Rを略U字状に屈曲させることで、素線Rを、いわゆるセグメントコイルの形状をなすコイル体Bに加工する。
次に図示していないが、コイルエンド部加工工程により、ステータコア11の径方向におけるコイル体Bの厚みに、ステータコア11の軸方向で厚薄がつくように、1対のコイルエンド部E1を加工する。より具体的には、プレス加工を用いてコイル体Bの1対のコイルエンド部E1の形状を、ステータコア11の軸方向における先端に向けてコイル体Bの厚みが薄肉となる扁平形状に加工する。更にその後図示しない折り曲げ治具を用いて、コイル体Bにクランク部を形成する。
次に図示していないが、絶縁層形成工程におけるベース絶縁層形成工程により、コイル体Bにおいて、端子部Tとなる領域を除く表面全体に絶縁物を均一な厚みで被覆させることで、コイル体Bの表面に均一な厚みからなるベース絶縁層Z1を一体的に形成する。なおこの際、ベース絶縁層Z1の厚みは、設計電圧が500Vの場合には、15μm〜30μm程度、より好ましくは15μm〜25μm程度とすることが望ましい。
次に図示していないが、絶縁層形成工程における付加絶縁層形成工程により、コイル体Bのコイルエンド部E1のうち、所定領域にベース絶縁層Z1と同一の絶縁物を均一な厚みで被覆させることで、付加絶縁層Z2を形成する。なおこの際、付加絶縁層Z2の厚みは設計電圧が1000Vの場合には、40μm〜200μm程度とすることが望ましく、より好ましくは80μm〜120μm程度とすることが望ましい。
以上の工程により、コイル体Bの表面に絶縁層Zが形成される。これによって本発明の実施形態に係るセグメントコイルたるコイル12が形成される。
次に
図7(c)に簡略化して示すように、U相、V相、W相を構成するコイル12の仮組みを行う。
次に
図7(d)に簡略化して示すように、仮組みされた状態のコイル12をステータコア11のスロット部11cに組み付ける。
次に図示していないが、同一のスロット部11c内に組み付けられているU相、V相、W相を構成する各コイル12の端子部Tを溶接により接合することで、各相における第1巻回コイル12a〜第4巻回コイル12dを形成する。
次に図示していないが、各相における第1巻回コイル12a〜第4巻回コイル12dを渡り線により直列接続させると共に、1対の第1巻回コイル12a〜第4巻回コイル12dを並列接続させる。
以上の工程により、本発明の実施形態に係るステータ10が形成される。
【0040】
このような構成からなる本発明の実施形態に係るコイル12及びコイル12を用いてなるステータ10の製造方法は、以下の効果を奏する。
平角線でコイル12を形成することで、ステータコア11のスロット部11c内における占積率を効果的に向上させることができるコイル12及びステータ10の製造方法とすることができる。
またステータコア11の径方向におけるコイル体Bの厚みに、ステータコア11の軸方向で厚薄がつくように加工するコイルエンド部加工工程を設ける構成とすることで、
図5(b)に示すように、コイル12をステータコア11のスロット部11cに整列配置させた際に、相内及び相間において隣接するコイル12間に効果的に隙間Gを設けることができる。
よって相内及び相間において隣接するコイル12間に空気等の冷媒の流路を効果的に形成することができ、放熱性の良好なステータ10を形成することができるコイル12の製造方法とすることができる。また良好な放熱性を実現可能なステータ10の製造方法とすることができる。
またコイルエンド部Eにおける隣接するコイル12間の間隔を効果的に広げることができることで、導体間距離が増大、或いは電解集中し易い微小ギャップ部が減少してギャップ部での電界強度を効果的に低下させることができ、コイルエンド部Eにおけるコロナ放電の発生を効果的に抑制することができる。よってコロナ放電によってコイルエンド部Eの絶縁層Zが劣化することを効果的に防止することができ、良好な絶縁性を維持することができるコイル12及びステータ10の製造方法とすることができる。
更にコイルエンド部Eの形状を、ステータコア11の軸方向における先端に向けてコイル12の厚みAが薄肉となる扁平形状に形成することで、
図5(b)に一部を示すように、コイル12をステータコア11のスロット部11cに整列配置させた際に、相内及び相間において隣接するコイル12間において、ステータコア11の軸方向における先端ほど広い隙間Gを設けることができる。よって相内及び相間において隣接するコイル12間に空気等の冷媒が入り込み易い構成とすることができ、冷媒の流路を一段と効果的に形成することができるコイル12の製造方法とすることができる。またコイルエンド部Eを形成するコイル12の表面積を効果的に増大させることができ、コイルエンド部Eにおける放熱面積を効果的に増大させることができるコイル12の製造方法とすることができる。よって一段と放熱性の良好なステータ10を形成することができるコイル12の製造方法とすることができる。また一段と良好な放熱性を実現することができるステータ10の製造方法とすることができる。
またコイル体形成工程と、コイルエンド部加工工程とを行った後に絶縁層形成工程を設ける構成とすることで、絶縁層Zに曲げ加工等の加工ストレスが負荷されることがない。よって特にコイル12の製造段階において絶縁層Zに劣化が生じることを効果的に防止することができる。従って良好な絶縁性を維持することができると共に、歩留まりが良好なコイル12の製造方法とすることができる。また良好な絶縁性を維持することができるステータ10の製造方法とすることができる。
またスロット収容部Sにおいては、設計電圧が500Vの場合には、厚みを15μm〜30μm程度とするベース絶縁層Z1だけで絶縁層Zを形成する構成とすることで、スロット部11c内における占積率を効果的に向上させることができるコイル12及びステータ10の製造方法とすることができる。
またコイルエンド部Eの所定領域においては、設計電圧が1000Vの場合には、厚みが15μm〜30μm程度のベース絶縁層Z1と、厚みが40μm〜200μm程度の付加絶縁層Z2とで絶縁層Zを形成する構成とすることで、隣接するコイル12が近接する領域、つまりコロナ放電が発生し易く、絶縁層Zの劣化が生じ易い領域においては、絶縁層Zに劣化が生じることを効果的に防止することができる。よって良好な絶縁性を維持することができるコイル12及びステータ10の製造方法とすることができる。
つまりコイル12における絶縁層Zの厚みにバリエーションを持たせることができる。より具体的には、占積率を向上させたいスロット収容部Sでは絶縁層Zの厚みを薄くすることができると共に、コイルエンド部Eにおいてコロナ放電に伴う絶縁劣化を防止したい領域においては絶縁層Zの厚みを厚くすることができる。このような構成とすることで、厚みを厚肉にする必要があるコイルエンド部Eの所定領域の厚みに合わせて絶縁層Zを一体的に形成する構成に比べて製造コストを効果的に抑えることができる。
従ってスロット部11c内における占積率の向上と、絶縁層Zの劣化の防止とを同時に実現することができると共に、製造コストを効果的に抑えることができるコイル12及びステータ10の製造方法とすることができる。
【0041】
なお本実施形態においては、スロット部11cの外部に突出する1対のコイルエンド部Eにおいて、ステータコア11の径方向におけるコイル12の厚みに、ステータコア11の軸方向で厚薄がある構成として、コイルエンド部Eの形状を、ステータコア11の軸方向における先端に向けてコイル12の厚みが薄肉となる扁平形状とする構成としたが、必ずしもこのような構成に限るものではない。例えばコイルエンド部Eの形状に凹凸をつけるような構成とすることができる。このような構成とすることで、一段とコイルエンド部Eの表面積を拡大させることができる。つまりスロット部11cの外部に突出する1対のコイルエンド部Eにおいて、ステータコア11の径方向におけるコイル12の厚みに、ステータコア11の軸方向で厚薄を設けることができるものであれば、コイルエンド部Eの形状は如何なる形状であってもよい。
また本実施形態においては、ベース絶縁層Z1と付加絶縁層Z2とを同一の絶縁物で形成する構成としたが、必ずしもこのような構成に限るものではなく、ベース絶縁層Z1と付加絶縁層Z2とを異なる絶縁物で形成する構成としてもよい。例えばベース絶縁層Z1を、付加絶縁層Z2よりも安価な絶縁物で形成する構成とすることができる。このような構成とすることで、一段と製造コストを抑えることができるコイル12とすることができる。
また本実施形態においては
図6(b)に示すように、コイル12の全周に付加絶縁層Z2を設ける構成としたが、必ずしもこのような構成に限るものではなく、1対のコイルエンド部Eにおいて、隣接するコイル12が近接する領域、より具体的には素線Rの状態で隣接する素線R間の距離が数μm〜数百μm程度となる部分に付加絶縁層Z2を設ける構成とするものであれば、コイル12の外周のうち、一部分のみに付加絶縁層Z2を設けるような構成としてもよい。
また本実施形態においてはコイル12として、いわゆるセグメントコイルを用いる構成としたが、必ずしもこのような構成に限るものではなく、平角線からなるコイルであれば如何なるものであってもよい。例えば平角線からなるエッジワイズ巻きコイルとすることができる。
またU相、V相、W相を構成するコイル12の数、コイル12の形状、ステータコア11の形状、モータ1の構成等も本実施形態のものに限るものではなく、適宜変更可能である。
またステータ10において、複数のコイル12における隣接するコイルエンド部E間に、無機材料を含む高放熱性固形物を充填するような構成としてもよい。このような構成とすることで、一段と放熱性の良好なステータ10とすることができる。
なお無機材料を含む高放熱性固形物としては、アルミナ、酸化チタン、シリカ、窒化ホウ素等のフィラーが入った樹脂(エポキシ、不飽和ポリエステル)モールド材料等を用いることができる。